jr北海道 モータ・アシスト式ハイブリッド車両 · 2011-11-22 ·...

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2010- 3「車両技術 239 号」 89 JR 北海道 モータ・アシスト式ハイブリッド車両 ※佐 とう より みつ ※稲 いな ただし 写真 1 外観 要旨 北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)では、“鉄道車両用モータ・アシスト式(MA:Motor Assist)ハイブリ ッド駆動システム”を搭載した環境に優しいディーゼルハイブリッド車両(ITT:Innovative Technology Train) を開発した。MA ハイブリッド駆動システムは、機関動力を高効率で車輪に伝達するアクティブシフト変速機並 びに車両の駆動、バッテリへの充電及び変速機の制御用に使用する 1 台のモータを組み合わせて、機関動力にモ ータ動力を足し合わせることも可能な独自のパラレルハイブリッド方式である。従来のディーゼル動車(気動車) と比較して、燃料消費率を約15%改善できるため、二酸化炭素(CO 2 )、窒素酸化物(NOx)、及び粒子状物質(PM) の排出量を抑制し、省エネ・環境負荷低減に貢献できる。以下、MA ハイブリッド駆動システムを搭載した試験 車両 ITT の概要を紹介する。 1 はじめに 地球環境保全は、世界共通の課題であり、鉄道事業者に おいても省エネ、排気エミッションの低減に継続的に取り 組む必要がある。一方、列車の高速化は、利用者の利便性 ※ 北海道旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 技術創造部 写真 2 車体側面 写真 3 室内

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Page 1: JR北海道 モータ・アシスト式ハイブリッド車両 · 2011-11-22 · 2010-3「車両技術239号」 89 JR北海道 モータ・アシスト式ハイブリッド車両

2010- 3「車両技術 239 号」 89

JR 北海道 モータ・アシスト式ハイブリッド車両※佐

 藤とう

 頼より

 光みつ

  ※稲いな

 場ば

 匡ただし

 

写真 1 外観

要旨北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)では、“鉄道車両用モータ・アシスト式(MA:Motor Assist)ハイブリ

ッド駆動システム”を搭載した環境に優しいディーゼルハイブリッド車両(ITT:Innovative Technology Train)を開発した。MAハイブリッド駆動システムは、機関動力を高効率で車輪に伝達するアクティブシフト変速機並びに車両の駆動、バッテリへの充電及び変速機の制御用に使用する 1台のモータを組み合わせて、機関動力にモータ動力を足し合わせることも可能な独自のパラレルハイブリッド方式である。従来のディーゼル動車(気動車)と比較して、燃料消費率を約 15%改善できるため、二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物(NOx)、及び粒子状物質(PM)の排出量を抑制し、省エネ・環境負荷低減に貢献できる。以下、MAハイブリッド駆動システムを搭載した試験車両 ITTの概要を紹介する。

1 はじめに地球環境保全は、世界共通の課題であり、鉄道事業者に

おいても省エネ、排気エミッションの低減に継続的に取り組む必要がある。一方、列車の高速化は、利用者の利便性

※ 北海道旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 技術創造部

写真 2 車体側面 写真 3 室内

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JR 北海道 モータ・アシスト式ハイブリッド車両90

表 1 JR北海道 モータ・アシスト式ハイブリッド車両 車両諸元

会社・車両形式 北海道旅客鉄道㈱・キハ 160 形試験線区 函館本線・室蘭本線 軌間(㎜) 1 067基本編成 1両 許容軸重(kN)用途 一般形 電気方式 -車体・台車製作会社 1997 年 ㈱新潟鉄工所 改造初年 2007 年主回路装置製作会社 2007 年 ㈱日立製作所 改造両数 1両変速機製作会社 2007 年 ㈱日立ニコトランスミッション 車両技術の掲載号 239

車両性能

最高運転速度(㎞/h) 110加速度(m/s2) 0.29(0-95 ㎞/h平均加速度)減速度(m/s2)

常用非常

ユニット当りの定格(ユニットの構成)

出力(kW)速度(㎞/h)引張力(kN)

動力伝達方式 推進軸、減速機

ブレーキ制御方式

回生ブレーキ併用空気指令式自動ブレーキ、排気ブレーキ、留置ブレーキ、直通予備ブレーキ

制御回路電圧(V) 24試験線区の最急こう配 20 ‰抑速制御 なし運転保安装置 ATS-SN

列車無線乗務員無線、防護無線、電子閉塞

非常時運転条件 -モータアシストを行う運転動作の範囲

1速~ 4速

その他

機関駆動系主要設備

機関形式/質量(㎏) 6H13CRE/1 580出力(kW) 331(モータアシスト走行モード)台数/両 1

変速機

形式/質量(㎏) TAHN-44-2000

方式空気操作によるかみ合いクラッチ方式

減速比

1 速 3.0382 速 2.1243 速 1.4724 速 0.884

減速機減速比 2.671駆動軸数 2定速回転装置

形式/質量(㎏) -方式 油圧駆動

モータアシスト設備

主変換装置(インバータ)

制御方式2レベル変調三相電圧形PWMインバータ

形式/質量(㎏) VFI-HD1115 / 400

アシストモータ

形式/質量(㎏) EFZO-K60 / 720方式 三相かご型誘導電動機1時間定格(kW) 123回転数(min-1) 1 320連続定格(kW)発電出力(kVA) 150

蓄電池種類/質量(㎏) リチウムイオン蓄電池/ 550容量(kWh) 7.5主な用途 モータ走行、モータアシスト

その他MAハイブリッド駆動システム動作モニタ装置

補機設備

発電機

形式/質量(㎏) DM120N出力(kVA) 9台数 1励磁制御方式 界磁電流制御

油冷却方式 強制風冷燃料タンク容量(㍑) 600整流装置方式 三相全波整流

蓄電池種類/質量(㎏) アルカリ蓄電池/ 135容量(Ah) 120主な用途 制御

その他

●;駆動軸 ○;付随軸運;運転台 便;便所 

個別の車種形式 キハ 160車種記号(略号) -空車質量(t) 33.8定員(人) -うち座席定員(人) -

特記事項

試験車

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車体の構造・主要寸法

構体材料/構造 鋼板/溶接組立車両の前面形状 貫通形運転室 両運転台・左側配置

長さ(㎜)先頭車 18 000中間車 -

連結面間距離(㎜)

先頭車 18 500中間車 -

台車中心間距離(㎜) 13 000車体幅(㎜) 2 700

高さ(㎜)屋根高さ 3 620屋根取付品上面 4 000

床面高さ(㎜) 1 170

車体特性・構造及び主要設備

相当曲げ剛性(MNm2)相当ねじり剛性(MNm2/rad)曲げ固有振動数(㎐)ねじり固有振動数(㎐)内装材 アルミ化粧板側窓構造 上部内開き妻引戸 -

側出入口構造 片引戸片側数 2

戸閉め装置形式方式 電磁空気式

腰掛方式 2人掛け、リクライニング付車体連結装置

先頭車 密着式小型自動連結器中間車 -

空調換気システム

冷房方式 -暖房方式 温水温風ファン換気方式 自然換気配風方式 横流ファン

車内主要設備

照明方式 蛍光灯移動制約者設備 車いすスペース便所 あり汚物処理 循環式

その他

その他の主要設備

主幹制御器形式/質量(㎏)

方式2ハンドル(マスコン、ブレーキ弁)

速度計装置 電気式速度計車両情報制御システム

モニタ装置 -モニタ表示器 -

非常通報装置 あり(非常警報器)

行先表示器前面 字幕手動式側面 表示板方式

車内案内表示 -列車情報装置 あり

放送車内向け あり車外向け あり

車両間連結電気系 -空気管系 -

その他の主要設備

空調装置形式/質量(㎏) -方式 -容量(kW) -

暖房装置容量(kW) -形式/質量(㎏) 温水温風ファン

標識灯前灯 HID尾灯 LEDその他 -

その他

空気ブレーキ設備

電動空気圧縮機

形式/質量(㎏) C600圧縮機容量 600 ㍑圧縮機方式 ベルト駆動・往復形

空気タンク元空気タンク 120 ㍑供給空気タンク 100 ㍑

ブレーキ装置 形式/質量(㎏) DE1A(回生ブレーキ制御付)

台   

形式M台車 N-DT150T 台車 N-TR150

支持装置車体 ボルスタレス式軸箱 ロールゴム式

けん引装置 Zリンク方式ばね方式 空気ばね、ロールゴムばね軸距(㎜) 2 100

ばね定数

(N/㎜)

まくらばね 343(荷重 83.4 kN 時)

軸ばね

軸ばねゴム579(荷重 12.7~ 20.6 kN 時) 総

579(荷重 12.7~ 20.6 kN時)

防振ゴム -リンクばね -

台車最大長さ(㎜) 3 278車輪径(㎜) 860基礎ブレーキ

M台車 踏面ブレーキT台車 踏面ブレーキ

ブレーキ倍率 10.37

制輪子M台車 乙 32FT台車 乙 32F

ブレーキシリンダ・個数

M台車 2T台車 2

駆動方式 推進軸、減速機歯数比(減速比) 2.671継手軸受 110 密封複列円すいころ軸受

質量(㎏)M台車 5 240T 台車 3 960

その他

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図1 形式図

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を向上するという意味において、鉄道事業における輸送サービスの質的向上に貢献するとともに、ほかの交通機関に対する競争力を維持・増強できる有効な手段となる。しかし、気動車の列車速度の向上のためには、車両の動力性能の向上が必要となる場合が多く、動力性能の向上は燃料消費量の増加などにつながり、この点において環境保全とのトレードオフになりやすい。(編集部注:トレードオフとは、同事には成立しない二律背反の関係を表わす。)当社では、現在、約 1 000 両の車両を使用して輸送サー

ビスを提供しているが、その半数の約 500 両が気動車である。そこで、気動車のさらなる動力性能の向上と動力性能の向上に伴う環境保全とのトレードオフの解決を低コストで実現することを目的に、新たな鉄道車両用ハイブリッド駆動システムを開発した。

2 主要諸元MAハイブリッド駆動システムの開発に当たって、アク

ティブシフト変速機(㈱日立ニコトランスミッションとの協同開発)、インバータ装置、モータ、駆動用バッテリ装置などを新規に製作し、組合せ試験による動作確認を実施した。そして、現車での走行試験を行うために 1997 年新製のキハ 160 形気動車の従来の動力装置を改造し、このMAハイブリッド駆動システムを搭載した試験車両を製作した。この試験車両を“ITT”と名づけた。機関出力は、当社の代表的な一般形気動車であるキハ

150 形気動車(最大機関出力 331 kW)と同等の駆動性能となるように、モータ(定格出力 123 kW)によるアシスト力を考慮して、最大出力を 243 kWに設定した。ITT試験車の起動から 95 ㎞/h に達するまでの平均加速

度は 0.29 m/s2 である。加速性能は、出力 331 kWのキハ150 形気動車と同等であり、モータアシストによって動力性能の向上が図られている。(編集部注:キハ 150 形気動車は、本誌 201 号-1993 年 10 月参照)

3 従来の気動車の動力伝達システム従来の気動車の動力伝達システムを図 2に示す。機関動

力は、流体変速機(トルクコンバータ、湿式多板クラッチ、ギアなどで構成した変速機)を介して伝達し、走行に必要な駆動力を得ている。低速では、機関のストール防止及び滑らかな発進のため、

トルクコンバータを介して動力を伝達する。トルクコンバータは、流体(オイル)を介して動力を伝達するため、伝

達効率が低いことが欠点となる。高速域では、トルクコンバータを介さずにギアの組合せによって駆動力を得るが、ギアの切替を油圧と湿式多板クラッチを使用して行うため、ポンプ、遊休ギア用クラッチの摩擦などによって動力損失が生じこととなる。

4 MAハイブリッド駆動システム4.1 概要MAハイブリッド駆動システムを図 3に示す。機関動力とアクティブシフト変速機及びモータを組み合わせることで、機関動力以上の動力を車輪に伝達することができる。MAハイブリッド駆動システムは、モータを組み合わせたアクティブシフト変速機、インバータ、バッテリ及び制御装置で構成されている。アクティブシフト変速機を介した車輪への動力伝達は、次の 4つのモードがある。① 機関動力のみをアクティブシフト変速機を介して伝達し、走行するモード。

② モータ動力のみをアクティブシフト変速機を介して伝達するモータ走行モード。

③ ①と②を併用するモード、すなわち、機関動力にモータ動力を付加するモータアシスト走行モード。④ ブレーキ時には、モータを発電機としてバッテリを充電する回生ブレーキモード。

アクティブシフト変速機は、パワートレイン(動力伝達系)の切替をかみ合いクラッチで行い、動力伝達ロスを低減するとともに、変速機に接続したモータによって変速制御を行うことを特徴としている。モータ動力は、モータ単独で変速機を介して車輪に伝達することが可能で、さらに、機関動力とモータ動力を併用して推進軸に伝達することも可能である。すなわち、モータ単独での駆動、機関単独による駆動及び両者を併用して駆動することが可能である。機関動力を変速する時は、モータが駆動力を補い、逆にモータが動力を変速する時は、機関が駆動力を補うことによって、変速中のトルク抜けが少なく、従来の気動車よりも乗心地を向上できる。このモータは、変速機の“変速制御”を行うとともに、機関動力の“アシスト”、惰行運転時及びブレーキ時の“発電”という 3つの機能を 1台で担っていることが本システムの最大の特徴である。アクティブシフト変速機本体は、トルクコンバータがなく、湿式多板クラッチも使用しないため、熱損失が非常に少なく、高効率である。従来の流体変速機では、トルクコンバータなどで使用するオイルの冷却用にラジエータが必

図 2 従来の気動車の動力伝達システム 図 3 MAハイブリッド駆動システム

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図4 床下機器配置

写真4 機関・変速機・モータ

写真5 アクティブシフト変速機本体(エンジン側)

写真6 インバータ装置

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要であるが、この変速機ではギア、ベアリング潤滑用のオイルしか使用しないため、温度上昇が少なく、ラジエータも不要となる。さらに、従来の流体変速機では、ラジエータ及び湿式多板クラッチの動作に用いるオイルを供給するポンプの駆動に 4 kW程度の動力損失が発生するが、この変速機では各部潤滑用だけにオイルポンプを駆動するため、動力損失は 1 kW以下である。アクティブシフト変連機の駆動効率は、従来の流体変速

機では、トルクコンバータ使用時で 82%以下、非使用時で 96%であったものを、97%に向上することができる。4.2 システムの主な動作モード典型的なシステムの動作モード例を図 5に示す。停車時

間の長い駅では、駅周辺への騒音低減のため機関を停止している。この状態から発車するとき、運転台からの力行指令によって、システムはモードAの“モータ走行”となり、車両はモータのみで加速する。車両速度が約 45 ㎞/h に到達すると、モード Bに移行する。このモードでは、モータ動力を車輪に伝達した状態、すなわち加速を継続したまま、機関が始動するとともに、機関動力を車輪に伝達し、さらに加速を継続する。この状態は、機関動力にモータ動力を付加して車両を駆動する“モータアシスト走行”で、機関動力以上の駆動力を得ることができる。加速が終了し、惰行状態になると、モードA及び Bでモータによってエネルギーを消費したバッテリを充電するために、モードCの“惰行発電”モードとなる。このモードでは、機関動力は車輪ではなく、モータを発電機として駆動し、バッテリを充電する。力行と惰行を繰り返した後、車両は駅での停車のため、

ブレーキを動作させる。このとき、システムは機関動力を切離したモードDに移行し、車輪からの動力でモータを駆動し、発電機として動作させることでバッテリを充電する“回生ブレーキ”モードとなる。これまでの気動車では、熱などで放散していたブレーキエネルギーを電力として回収してバッテリに蓄え、次の加速エネルギーとして有効活用することができる。停車時間の短い駅からの発進では、機関をアイドル状態

のままとし、モータのみで加速することも可能である。この場合は、速度約 20 ㎞/h に到達した時点で、機関動力を伝達し、モードBの“モータアシスト走行”に移行する。

バッテリ

写真 7 室内(駆動用バッテリ) 写真 8 駆動システムの動作モニタ

図 5 システムの動作モード例

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JR 北海道 モータ・アシスト式ハイブリッド車両96

写真9 運転台

図6 運転室機器配置

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図7 動台車(N-DT150)

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図8 従台車(N-TR150)

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図9 主回路つなぎ

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図10 力行性能曲線

歯数比

図11 ブレーキ性能曲線

歯数比

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5 試験車両 ITT の概要5.1 床下機器従来の流体変速機(DW-20)、オイル用ラジエータ(ト

ルコン油冷却器)を撤去し、アクティブシフト変速機及びモータ(三相誘導電動機)、インバータ装置を新たに追加した。また、変速機の変更に伴い従来の制御装置(TCU)もMAシステム対応(H-TCU)に変更した。MAハイブリッド駆動システムの主たる駆動制御は、H-TCUが統括しており、機関制御のみならず、変速機への変速指令、変速制御、モータ(インバータ)への動作指令、バッテリの充電率に基づいた動作モードの制御を行っている。機関は、既存のDMF13HZF(243 kW)を排気エミッシ

ョン低減のため、燃料制御装置をアクチュエータ式からコモンレール式へ変更している。5.2 車内改造工事規模を抑制し、走行試験時の調整を容易にする

ために、駆動用バッテリ装置(リチウムイオン:7.5 kWh)、リアクトル、断流器を室内に配置するとともに座席を再配置した。また、室内には駆動システムの動力伝達動作の状況を表示するためのモニタ装置を設置している。5.3 運転室運転室機器は、力行、回生ブレーキなどのシステムの動

作状況を示す表示灯、MAハイブリッド駆動システムの動作状況を表示するモニタ装置を追加した。運転方法は、従来の気動車と全く同様としている。5.4 ブレーキ装置ブレーキ時にモータを発電機として利用し、発生した回

生電力をバッテリへ効率良く充電するため、ブレーキ装置を回生ブレーキ併用空気指令式自動ブレーキ装置に変更した。ブレーキ制御装置(BCU)によって回生ブレーキと空気ブレーキの協調制御を行っている。なお、運転台のブレーキ操作は、従来の気動車と同様にブレーキ弁の操作によってブレーキ管の減圧を行う方式であり、既存車両との併結を可能にしている。5.5 台車台車は、ボルスタレス台車である。台車形式は、動台車

がN-DT150、従台車がN-TR150、車輪径は 860 ㎜である。

減速機は、歯数比 2.671 である。軸箱支持構造は、ロールゴム式で各台車共通である。

6 エクステリアMAハイブリッド駆動システムの改造に伴い、車体側面に開発ロゴである ITT(Innovative Technology Train)及び当社が開発を進める次世代車両の 3つのサブシステムを示すロゴ“Cooperative Tilting”(複合車体傾斜システム)、“Hybrid Traction”(ハイブリッド駆動システム)、“Reduced Track Load”(軽量車体システム)を配置している。

7 おわりにMAハイブリッド駆動システムは、機関動力を直接的に駆動力として使用するため、モータ、バッテリをはじめとする電気機器容量を小形化できることから、今後の気動車の省エネ・環境負荷軽減策として極めて有効かつ早期の量産普及が期待できると考える。将来的には、MAハイブリッド駆動システムには 2つの使い方があると考える。ひとつは機関出力を抑制でき燃料消費量を低減できることから、省エネ性能を重視した一般気動車への適用。もうひとつは、これまでにない気動車での性能向上という観点から特急気動車への適用。いずれの場合も、これまでの気動車で実現できない高いレベルでの動力性能と環境性能の両立が可能になると考える。現在、早期実用化を目指し、走行試験を行っている。

写真 10 ロゴ配置