舶用大深度超音波ドップラー・...

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海洋科学技術センター試験研究報告 JA l.f STECTR 19 (1988) 舶用大深度超音波ドップラー・ プロファイラーの開発 甲斐源太郎 *1 黒 田 芳 史 料 松 津 誠二 *2 奥野清則 *3 外洋域の黒潮などの海流の流向・流速・音響散乱強度を深度 400m まで32 層にわ たり計測できる船舶搭載型の超音波ドップラー・プロファイラ ーの開発を行なった。 この装置の開発に際しては次の 3 点に重点が置かれた。 (1) 信号処理方法の改善:受信された水中散乱信号からドップラー偏移周波数を求 める際に,従来用いていたゼロ ・クロス法に代り,自己相関関数を用いた信号処理 法を導入することにより精度を高める。 (2) 大深度用水中音響変換器の開発:フェーズドアレイ型の変換器で鉛直軸に対し 30 0 方向にビーム幅 50 70KHz の超音波パルスを発射する。 (3) 実時間表示法の充実:得られたデータをCRT 上の種々の表示法で図化できる。 との装置を用いた基本性能試験を相模湾において行なった結果,散乱信号の受信 レベルは水中のノイズレベルに対して深度 500m 付近でも 10dB 以上の S/N 比で 検出可能であった。これにより 400m まで流速測定可能という基本機能を満たしう ることが確認された。 Development of a Shipboard Acoustic Doppler Current Profiler Gentaro KAI*4 Yoshifumi KURODA 料, Seiji MATSUZA W A Kiyonori OKUNO*6 A ship boardacousticDopplercurrentprofilerhasbeendeveloped which can reliably me ure vertic a1 profiles ofocean currents and acoustic backscattering strength 321ayersup to a depth of 400 meters and track the sea floor u p to a depth of 1000 meters. In the development of th ADCP we aimed to 1) in troduce an advanced sign a1 processingmethod (the au to- correlationfunction)toderivethemeanDoppler shiftfrequencyfrom the received acoustic signal 2) developanacoustictransducer modulefor themeasurement of deeper currents th bythe existing modules and *1 海洋開発研究部 *2 深海研究部 3 日本無線株式会社研究所 * 4 Marine Research and Technology Department * 5 Deep Sea Research Department * 6 Japan Radio Co. Ltd. La boratory 293

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Page 1: 舶用大深度超音波ドップラー・ プロファイラーの開発...海洋科学技術センター試験研究報告JAl.f STECTR19 (1988) 舶用大深度超音波ドップラー・

海洋科学技術センター試験研究報告 JAl.fSTECTR19 (1988)

舶用大深度超音波ドップラー・プロファイラーの開発

甲斐源太郎 *1 黒田芳史料松津誠二 *2

奥野清則 *3

外洋域の黒潮などの海流の流向・流速・音響散乱強度を深度 400mまで32層にわ

たり計測できる船舶搭載型の超音波ドップラー・プロファイラ ーの開発を行なった。

この装置の開発に際しては次の 3点に重点が置かれた。

(1) 信号処理方法の改善:受信された水中散乱信号からドップラー偏移周波数を求

める際に,従来用いていたゼロ ・クロス法に代り,自己相関関数を用いた信号処理

法を導入することにより精度を高める。

(2) 大深度用水中音響変換器の開発:フェーズドアレイ型の変換器で鉛直軸に対し

士300方向にビーム幅 50で 70KHzの超音波パルスを発射する。

(3) 実時間表示法の充実:得られたデータをCRT上の種々の表示法で図化できる。

との装置を用いた基本性能試験を相模湾において行なった結果,散乱信号の受信

レベルは水中のノイズレベルに対して深度 500m付近でも 10dB以上のS/N比で

検出可能であった。これにより 400mまで流速測定可能という基本機能を満たしう

ることが確認された。

Development of a Shipboard Acoustic Doppler Current Profiler

Gentaro KAI*4 , Yoshifumi KURODA料, Seiji MATSUZA W A村

Kiyonori OKUNO*6

A ship board acoustic Doppler current profiler has been developed

which can reliably meぉurevertica1 profiles of ocean currents and

acoustic backscattering strength泊 321ayersup to a depth of 400 meters,

and track the sea floor u p to a depth of 1000 meters.

In the development of thおADCP,we aimed to

1) in troduce an advanced signa1 processing method (the au to-

correlation function) to derive the mean Doppler shift frequency from

the received acoustic signal,

2) develop an acoustic transducer module for the measurement of

deeper currents th組 bythe existing modules, and

*1 海洋開発研究部

*2 深海研究部

本 3 日本無線株式会社研究所

* 4 Marine Research and Technology Department

* 5 Deep Sea Research Department

* 6 Japan Radio Co., Ltd. Laboratory

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3) develop real-time displaying methods.

We tested the transducer unit and transmitter-receiver unit in 1984,

and the tota1 system in 1985, in the Sagami Bay ne釘 Tokyo.τheresults

showed that the receiver output of -15 dB at water depths of 500 meters

is sufficient to derive the Doppler frequency shift, because it is much

greater than the background noise level of -25 dB. Thus, it was confirm-

ed that the system has the capabi1ity to measure the ocean current

velocity and the scattering strength up to a layer depth of 400 meters.

JAMSTECTR 19 (1988)

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1. はじめに

船舶搭載型超音波ドップラー・プロフィイラー

(以下ではADCPと略す)は,船舶から遠隔的に

海面下の流速を計測する機器としてここ数年の聞

に急速な進歩をみせ,また電磁流速計 (GEK)に

代わるものとして実際に活用され始めた。

この測器の原理は,水中にパノレス状の超音波信

号を発射し,水中からの散乱信号に生じるドップ

ラー効果による周波数の偏移を流速に換算するも

のである。 ADCPの原理は, Rowe and Y oung

(1979) 1)やJoyce, Bitterman and Prada

(1982)2)に示されている。また米国における

ADCPの進展については,簡単なレビューが

Woodward and Apell (1983) 3)によりなされて

いる。それにも紹介されているように米国では

RD instrumentとAmetek'-S trazaの2社が製品

を供給している。そして,西ドイツではKrupp

Atras Elec仕orucs社が製品を供給している。

日本においては,日本無線・古野電気・海上電

機の 3社が測定層数が数層で,測定深度が数

100mまでのADCPを航海・漁業・海洋観測用計

器として供給している。これらの計器を用いた例

としては,浅海域において,海洋科学技術センタ

ー (1983)4)が,日本無線社製のADCP5) を

用い,九州・針尾瀬戸の海峡部における強い潮流

域の海洋調査を実施している。この装置はその後,

浅海域における各種土木工事の際の事前調査等で

流速測定に用いられている。そして外洋域の海洋

観測に用いた例としては,古野電気社の製品 (3

ビーム方式)を利用して石井ら (1986)め は

WESTPACにおいて西太平洋の流速測定を,ま

た日本無線社の製品(4ビーム方式)を利用して黒

田ら (1987)7) は,日本東岸の黒潮の流速測定

を試みている。しかしながら外洋域の海流の流速

分布を得るためには測定深度,測定層数とも十分

でなく大深度用のADCPの開発が望まれた。

本文で報告するADCPの特徴は,黒潮等の流れ

の構造を大深度まで計測することを目的にし,深

度400mまでを鉛直方向に32層に分割し流向・流

速・音響散乱強度を実時間でモニターしながら計

測できることにある。なお,水深 1000m程度ま

ではADCPから直接対地船速を得ることを可能と

し,それ以深では,ロランC,GPS航法装置から

JAMSTECTR 19 (1988)

対地船速を入力する。

この装置の開発に際しては,

(1) 水中散乱信号から 平均のドップラー偏移周

波数を求めるために,自己相関関数を用いた高精

度の信号処理方式の導入,

(2) 大深度用水中音響変換器の開発,

(3) 測定結果の実時間表示法の充実,

をはかった。以下では,測定の原理について簡単

に述ベ,この装置の概要と共にこれらの技術開発

について記述し,さらに実海域で行なったいくつ

かの基本性能試験の結果について報告する。

2. 測定原理

送受波器から斜め下方に指向性をもつように海

中に発射された超音波パルスは,水中を伝搬しな

がら海水と共に流れている微小な浮遊物や海底で

散乱・反射をうけ,それらの信号が送受波器に戻

り受信される。これらの超音波ノミノレスの反射や散

乱の際にドップラー効果により送受波器と物体

との相対速度に比例した周波数偏移が生じる。

一般にこれらの散乱信号のスベクトルは周波数軸

上で広がりをもっているが,適当な信号処理を行

うことにより,平均の偏移周波数が決定できる。

図1 超音波ビームの模式図

Fig.l Four beams configuration of ADCP

295

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この平均偏移周波数は以下に述べるように直ちに

速度に換算することができる。

超音波パノレスは図 1に示されるように船の前・

後,左・右の 4方向に発射される。ここでは図 2

のように船の前・後方向に発射される超音波パル

スを例にとり流速測定の原理を説明する。送信周

波数をFo,前後方向ヘ発射されるパルスの鉛直軸

となす傾角を{},前方向のパノレスからもどる散乱

信号のドップラー偏移周波数をFDl,後方向から

のものをFD2,水中音速をCとする。前・後方向

のパルスを含む鉛直面内において前方向のパノレス

が到達するある深度での,船から見た海中の散乱

粒子との相対的な水平流速を U},鉛直流速をWl

とし,後方向のパルスにおける水平流速を U2,鉛

直流速をW2とする。

前方向のパルスのドップラー偏移周波数は

2Fo FDl =一τ(Ulsin{) +WICOS{})…(2-1)

←Jr, FD2

後方向のパルスのドップラー偏移周波数は,

2Fo FD2=-t(-U2SinO十W2COSθ)…(2-2)

で表される。ここでこの 2つのバノレスに狭まれた

空間内で流速が変化しない,つまり,

Ul=U2=U

W}二=W2=W

を仮定する。この仮定と (2-1)式, (2 -2)

式から鉛直流速wを消去すると水平流速 uは以下

のようになる。

C u = - ~ ( FD 1 -FD 2 )…… (2 -3)

4 Fo sin θ

そして左・右のパルスを含む鉛直面内において

も上と同様に考えられ,右方向のドップラー偏移

周波数をFD3,左方向のものをFD4とすると,そ

の鉛直面内の水平流速vは次のように表される。

v= C

(FD3 --FD4 )…… (2-4) 4Fo sin{}

UB

図2

Fig .2

ドップラー効果を利用した流速測定の原理

Velority measuring method based on Doppler effect

296 JAMSTECTR 19 (1988)

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以上の様にして船に対する相対的な流速(相対流

速)U(u.v)は得られる。

求めたいのは海底に対する流速(対地流速)u であり,そのためには相対流速uから対地船速に

相当する部分を除けばよく,船に対する海底の速

度を UB (単に対地船速の正負の符号を逆にしたも

の)とすれば次のように表される。

u= U -UB …………………… (2-5)

この UBは超音波パルスが海底で、反射した時に生じ

るドップラー偏移周波数から 相対流速と同様に

求めることができる。そして,船のジャイロ・コ

ンパスにより船の方位を計測し,船の座標系から

地球座標系に変換することにより最終的に流向,

流速を得る。以後はこの地球に対する流速や船速

を対地流速,対地船速と呼ぶ。

このように海底反射信号が明確に受信できる場

合はADCP自身で対地流速を求めることができる。

しかし,海底が深くなった場合には,海底反射信

号の減衰が大きくなり海底反射のドップラー偏移

周波数を得ることが不可能となり,対地船速が求

められなくなる。そのような場合には,対地船速

を他の装置から与える必要が生じ,このADCPで

はロランC,あるいは GPS航法装置から対地船

速を入力できるように設計されている。ただし,

その場合の対地流速の測定精度は,ロランCある

いは GPSの精度に依存することになる。

測定層の深度Zは,超音波ノ勺レスの発射から受

信までの時間を tとすれば,

z= C t cos 0

2 …・ (2-6 )

で表される。また受信信号を時間分割し,その分

割時間内で信号処理を行いドップラー偏移周波数

を算出することにより,各深度で区切られた測定

層毎に流速測定が可能となる。測定層厚ムZは時

間分割の幅をム tとすると

C ム tcos 0 ムz= 2 ・H ・H ・..……… (2-7)

のように表される。

3. 信号処理

3. 1 自己相関関数を利用した信号処理法

ここでは,微弱な受信散乱信号から,流速に換

算されるドップラー偏移平均周波数を決定する信

JAMSTECTR 19 (1988)

号処理法について述ベる。船の動揺,散乱体の性

質,流速シアーなど,種々の原因により受信信号

の周波数スベクトルは広がりをもっているが流速

を求めるためにはこの広がったスベクトルから 1

つの有意な平均周波数を決定しなければならない。

我々は従来用いられてきたゼロ・クロス法に代わ

り,自己相関関数を用いて受信信号がもっドップ

ラー偏移平均周波数およびその分散を求める方法

を導入した。以下にこの方法の原理式を示す。

受信した散乱信号の周波数をしパワースベク

トル密度関数をS(f)とすると,その平均周波数は

原点のまわりの 1次モーメントとして次式で表さ

れる。

7=f;閃伽

また,パワースベク トル密度の広がりを示す分

散は平均周波数 fの周りの 2次モーメントとして

次式で表される。

ポ=I ( f -f)2 S (f) df/ I S (f) df 三∞ど

=μ -f2....H・H・.....・H・H・H・..(3 -2 )

ここで,

戸0 0 ρ Cわ

μ= I f 2 S (f) df/ I s恒)ぼである。

次に散乱信号の自己相関関数をR(τ)で表すと自

己相関関数とパワ ースベクトル密度の聞には,

Wiener -Khintchineの公式から,

f∞ i2πfr R(τ)ニ , S (f) e 1 ",.. J. ・ df ……・・・ (3-:3)

ど∞

の関係がある。自己相関関数 (3-3)式の 1次

微分をR(τ),2次微分をR(けとすると

f∞ i2πft' dR/ dr =R(τ)ニ i2πI f S (f) e

…(3-4 )

d2R/dT2=1f(τ)

2 r∞ 2 n/l'¥, i2πfτ = - 41l'~1 f~S(f)el""' J. 'df 2こ α3

・・ (3 -5)

となる。それぞれの式をR(けで除し, τ=0とお

き,それぞれ (3-1)式, (3 -2)式を用いる

と,

291

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的川0)=i2イ二例= i2πf

ραコ

Rω)/Rω)= -4rr2 I f 2 S (f) df/

I: S(f)df

= -4rr2μ

となり ,f,μは次のように書ける,

子=( 1/ i 2π)Rω)/Rω) ....・H ・.( 3 -6 )

μ= 一(1/4π2) 日(O)/R(O) .…・・(3 -7 )

また,ここで扱う自己相関関数が,

iゆ(τ)R(τ)=A(τ) e …. . .・ H ・H ・H ・..… (3 -8)

のようにおけると仮定する。 A(τ)は偶関数である

からA(O)=0,また位相ゆ(0)=0であるから,

R(O)/R(O)= iゆ(0)………-……..( 3 -9 )

となり, (3-6)式により平均周波数fは,以下

の様になり,

f = (1/2π 〉ゆ(0)

~ (1/2π 〉仁ゆ(ムτ)-1'(O)J/ム τ

= (1/2πムτ)ゆ(ムτ〉

= (1/2πムτ)arg [R (ムτ)J

(ムτ<<1)

最終的には次式で表される。

f = (1/2πムr)arctan { Im[R (ムτ)J

/Re [R(ムτ)コ}. . ..・H ・-… (3-10)

すなわち, Eは受信信号から得られる自己相関関

数から計算できる。

上と同様に (3-8)式の 2次微分を行い,

τ=0のとき, A(O)=O, 1'(0)ニ Oであるから,

Rω)/Rω)= [ A(O)/ A(O) ] -it2 (0)

. (3-11)

となる。次に (3-2)式に, (3-6)式,

(3 -7)式を代入すると分散σ2は,

σ2_μ_f2 = -(1/4rr2) {仁 R(O)

/ R(O) ] -[R(O)/R(O)了)

となる。上式に (3-9)式 (3-11)式を代

入すると,

ポ =一(1/4π2)A(O)/ Aω) …(3-12)

となる。

ここでA(τ)をOのまわりで級数展開すると,

A(ムτ)~ A(O) + (ムr2/2)A(O)

(ムτ<<1)

であり,これから,

A(O)/ A(O)~ -( 2/.ムτ2)

{ l-[A (ムτ)/ A(O) J}

. (3-13)

となる。 (3-12)式, (3 -13)式より受信周

波数の分散は次式であらわされる。

σ2~ (1/2rr2ムr2){1-[A(ムτ)

/ A(O) J}

~ ( 1/2rr2ムτ2) { 1一日R(ムr)1

/ I R(O) Iコ)….. ..・H ・-…… (3-14)

(3 -10 )式, (3 -14)式により散乱信号の平

均周波数および周波数の広がりを示す分散は,受

信信号の時間軸方向での処理で得られる自己相関

関数を計算することで導き出される。図 3に上の

図3 自己相関関数を用いた信号処理法のプロック回路図

Fig.3 Signa] processir恵 flowdiagram

298 JAMSTECTR 19 (1988)

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信号処理法を実現するための回路のプロック図を

示した。

上記の原理を用いた方法とゼロクロス法による

ドップヲー偏移周波数の推定誤差を比較した。入

力信号はパノレス幅 30msec, ドップラ ー偏移周波

数200Hzで与え,散乱物体が平均間隔0.875え

(えは音波の波長)でランダムに存在している場

合の仮想、の散乱信号に,白色雑音を加えたものを

モデル信号とした。このモデル信号のS/Nを変

化させながら,自己相関関数を用いた方法とセ・ロ ・

クロス法からそれぞれ推定される平均ドップラー

偏移周波数を求めた。その結果を図4に示した。

ゼロ ・クロス法ではS/N=十 6dB以下で誤差

が増加しているのに較ベ,自己相関関数を用いた

方法では, S/N=一6dB まで誤差は無く,こ

のことから S/Nで約 12dB改善されたといえる。

250

~

出N 〉‘、、

¥ーノ

素系230

、、、、‘

、、 ゼロ・クロス

匪 220

~

、、、、、l翠 、

210 、、

II¥ 。ト

、、、、t、

A- 200 争圃竃

自己相関

190

-12 -6 0 6 ∞

S/N (dB)

図4 ゼロ・クロス法と自己相関関数を用いた信

号処理法によるドップラー偏移周波数の推

定の比較

Fig ・4 C omparison of the simulated DOPIおr

mean frequency by the auto -correlation

function method with that by the zero

zero -cross method

JAMSTECTR 19 (IQ88)

3. 2 ソーナ一方程式による測定限界の

検討

このADCPで設定された送信周波数 (70KHz),

ビーム幅 (50),送信パノレス幅(可変であるが

20 msecと仮定),電気出力(1.5kw),受信機

帯域幅 (900Hz) の諸バラメータから,流速測

定の深度限界および海底検出の深度限界をソーナ

一方程式を用いて評価する。以下の結果は,種々

の仮定を基にしているので,現実にどの海域でも

この様な数値を示すというものではなく,この装

置の能力を知る指標となるものである。

水中音響を用いて何らかの目標物を探知するた

めのアクティブソーナーの方程式は以下の様になるo

SL -2TL+TSミNL-DI +DT…(3 -15)

SL :送波レベル

2TL :往復の伝搬損失

TS :ターゲットストレングス

NL :雑音レベル

DI :送受波器の指向性利得

DT :検出関値

上式で左辺はエコーレベルであり右辺は雑音マ

スキングレベルである。簡便のため (3-15)式

を変形し

DT二五SL-2TL+TS -NL+DI …( 3 -16)

とする。この式で右辺の値が,測定深度と共にど

の程度減少するかを調べ,その値が検出閥値 DT

を上まわるか否かな ADCPの側定限界を評備する。

以下では, (3 -16 )式右辺の各項の値を見積

もる。右辺第 1項の送波レベル SL.は次式で表さ

れる。

SL= 171 + 10 logP+ 10 log η+DI.一(3-17)

(p:電気出力

η:電気・音響変換効率

ここで送受波器指向性利得 DIは,

( 2.3 , ~ 2

D 1 = 10 log I . ~ ~ -/ ~ " I…… (3 -18) l sin(O/2) j

で表され,ビーム幅ゅは 50を代入するとDl=

34.4 dBとなる。そして (3-17)式において,

守=0.25と仮定し,電気出力P=1500w(1ビ

ーム当り)の値を入れる とSL=231 dB となる。

第2項の伝搬損失TLは拡散損失と吸収損失の

和であり,次のように表される。

2 TL = 40 log r + 2αr ………・…・・ (3-19)

299

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ここでαは吸収係数であり,

44 f2 α= ぬ+0..0.0.0.3 f2

41o.o. +f~

で表され,発信周波数 f= 7o.KHzを代入すると,

α= 25.4 dB/km= 0..0.254 dB/mとなる。そこ

では-19)式は,

2TL = 40. logr + 0..0.50.8 r ……… (3 -20.)

となる。

次に,第 3項のターゲットストレングス TSに

ついて考える。 ADCPは海中の微小な浮遊物を対

象としていることから,体積散乱にともなうター

ゲットストレングスは次式で表される。

Cτ lJf ^

T S = S v + 10. log一一一-d…・ (3 -21 ) 2

S v :後方散乱強度

C :音速 (15o.o.m/sec)

τ :送信パノレス幅

lJf :等価ビーム幅

r :距離

上式でVは次のように表される。

10. log lJf= 20. logゆ1/2-31.6

= -23.7 dB

ここでこの水中音響変換器のビーム幅は 50であ

るからゆ/2= 2.50である。 Svの値を従来の観

測値から-80. dBと仮定し,送信パノレス幅の

20 n1secを代入すると TSは上式とく3-21)式

から次のようになる。

TSニー 91.9 + 20. log r ..…. . .・H ・(3-22)

さらに右辺第4項の雑音レベルNLは次のよう

に表される。

NL = S P L + 10. log B …………… (3 -23)

(SPL:同音のがクトルベ ル

B :受信機の帯域幅

ここで水中雑音のスベクトルレベルを60.dBと仮

定する,また受信機帯域幅は 9o.o.Hzであるので

NL= 89.5 dBとなる。

式(3-17),(3-18), (3-20.), (3-22),

及び (3-23)で評価した値および式を(3-16)

式に代入すると,

DT壬84.5-20. log r -0..0.50.8 r…( 3 -24)

となる。ここでこの関数を図5に示した。設計仕

様の流速測定限界深度 4o.o.mは鉛直軸に対するビ

ームの傾きを考えると水中の距離,r= 461mに対

300

40

30

へ昌三回忌翌一一一ぷ

海底反射信号

水中散乱i({号

10

-10

200 400 600 8∞ 1000 1200 14∞ 深度 ~m)

図5 ソーナ一方程式による信号検出閥値の評価

Fig.5 Detection threshold in the active sonor

equation

応し,その時右辺は 7.3dB程度となる。前節の図

4から 6dBもあれば従来のゼログロス法でさえド

ップラー偏移周波数が検出できると考えられ,こ

の 7~ 3 dBという値は,自己相関関数を用いた信号

処理を行うこのADCPが,深度4o.o.m までの測

流に十分な能力をもつものであることを示してい

る。

一方,海底の反射信号の場合は, (3-19)式

の伝搬損失は実音源が水深の 2倍の所にある鏡像

音源に置換できるため次式で表される。

2TLニ 20.log 2 r + 2αr……………( 3-25)

またターゲットストレングスとしての海底の反射

強度を従来の測定値から-40. dBと仮定すると

(3 -16)式は,

DT孟 135.9-20. log 2 r -0..0.50.8 r…(3 -26)

となる。この関係も図5に示した。設計仕様での

海底検出限界である水深 lo.o.o.m(r = 1154m)

においての反射損失は12dB程度であり十分海底

を検出できると推測される。

4. 装置の開発

4. 1 装置の概要

表 1に装置の基本仕様を示す。この装置は深度

4o.o.mまでを32層に分けて,流向・流速・音響散

乱強度を測定できる,また海底の深度検出は

lo.o.o.m程度まで可能である。そして設計上の流

JAMSTECTR 19 (1988)

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表 1 超音波ドップラー・プロファイラー基本仕様

測定項目

最大測定深度

測定層数

Table 1

海底検出最大深度

流速分解能

ビーム構成

Specifications of the ADCP

流向,流速, 音響散乱強度

400 m

32層

1,000 m

1. 0 cm/ sec

ビーム傾角(鉛直軸となす角)

4本(前後左右)

+30度

ビーム幅 (半減全角)

使用周波数

船位測定部

。GPS航法装置

。ロランC航法装置

oジャイロ・コンパス

静的誤差

動的誤差

表示制御部

。表示・制御装置

メモリ容量

ビデオメモリ容量

表示能力

フロッピィディスク

ブラウン管

解 像度

データ記録部

。磁気記録装置

記録磁気テープ

記録密度

記録容量

、ードコピー装置

記録方式

記録密度

プリント時間

コピーサイズ

JAMSTECTR 19 (1988)

5度

70KHz

JLR -4000 (日本無線)

JNA-760 (日本無線)

GM -10 (東京計器)

+ 20 (pニ O.750 )

+ 1. 50 (ロール 250,ピッチ 15

0)

PC -100

374 KB

512 KB

(日本電気)

720ドット x512ドット

5インチ両面倍密度 2台

14型

720ドット x512ライン

DMT -750 (アンリツ)

1/4イ ンチ ・カ ートリッジ型 (450フィ ート)

7700 BPI

36MB (ブロック長 8 KB)

VP-95 (SEIKO)

マルチヘッド型感熱記録

6ドット/mm

20秒

171X228mm

301

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速分解能は 1cm/ secである。また信号の S/N

は受.信散乱信号のスベク トルの周波数軸上の広

がり幅をあらわす標準偏差から判断できるように

実時間で表示される。

図6に装置の全体構成を,図7に装置のプロッ

ク図を示した。送受波器部は 2つの水中音響変換

器からなり,それぞれ船の前後方向,左右方向に

各2本,計 4本の超音波パルスを発射する。この

変換器の詳細については次節で説明を加える。本

機は実験機であるため船の舷側に臨時に装備する

機会が多く,そのためにフィッシュタイプのハウ

ジングを製作し,それに変換器を装備できるよう

にした。

このADCPの送信機の送信周波数は70KHz,

電気出力は6Kwで送信パルス幅は可変である。

また受信機の受信周波数は 70KHzで帯域幅は

+900Hzである。信号処理部は,送受信部の制

御を行 うとともに,受信された散乱信号からド ッ

プラー偏移周波数を, 3. 1節で述べた自己相関関

数を用いた信号処理により求め,船位測定部から

入力される船位,船速,方位情報とも合わせ,流

向・流速等を算出する。得られたデータは表示部

に送られリアルタイムで CRT上に表示されると

ともに,磁気記録装置にも直接記録される。さい

ごに,表示 ・制御部はマウスおよびキーボードか

ら諸測定パラメーターを入力し信号処理部の制御

を行うとともに, CRT表示の切り替えやデータ記

録部の制御を行う。

4. 2 大深度用水中音響変換器

本装置の送受波器部は船の前後・左右の 4方向

ヘ超音波ノミノレスを発射するため, 2個のフェーズ

ドアレイ型水中音響変換器で構成されている。 1

個の変換器で主ビームとグレーティングロープの

2本の超音波ビームが形成できる。フェーズドア

レイ型水中音響変換器の原理について,奥野ら5)

GPSアンテナ

、,,J

ス一

7

・へ一丹、u

J

一qo

ン一一×

コ一-'EA

・-qL

ロ一

3

イ一×

ヤ一

氏叫

;・:

;-l

色、..

,.,,. ,,E

了(J3);:~ (A) i

送受波器部

(500x 2000x 550)

本体処理器箆体

(570 x 630 x 1250)

表示記録部僅体

(570x 630x 1250)

図6 超音波ド ップラー ・プロファ イラー全体構成

Fig.6 Hardware arrangement of the ADCP

302 JA1,fSTECTR 19 (1988)

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船位測定部 表示・制御部

一「叶」一卜

-

一一

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一一い↑

二R

丁l上川ユ

-

-

ν-

一ーピ

-

「hhul」

二m

了一「

一「」己都

-

一「イイ」一↑信

一一パ一一一

一「

111し

一一一一一一一一一一一一」送受信部 データ記録部r-ーーーーーーーー・ーーーー・ーー一1-ーー「I i 目 I I I r→受信機ト→ l I I I I I I

n 1. I I I I . I I I I L 寸送信機卜J

し一一一一一一一一一」

一一一一一一・一一一一一一寸

磁気記録装置1

1

1

1

1

コピー装置送受波器部

L一一一一一一一一一一一」

図7 超音波ドップラー・プロファイラーの装置ブロック図

Fig ・7 Block diaεram of the ADCP system

に基づき簡単に記す。図8の様に音源強度が等し

いN個の音響変換素子が等間隔 dで直線状に配置

され,相隣り合う素子の駆動位相差を久音源の

波長を人素子単体の指向性関数をA(めとしたと

き,この水中音響変換器の指向性関数E(O)は,

口口口

6~司

S1I川r

E(伊例0め)α A(Oめ) 偽:- .….一.( 4 一1 )

sin(子ω -; )

で与えられる。

よってE(O)は,πCJ O 7mθ -E=mπ, (m=O,+1,+2,…)

のとき極大値をとる。ここでm=Oの場合が主ビ

ームであり, m=土1,+ 2,… がグレーティ

ングロープに対応する。たとえば,ここで素子間

隔 d=人駆動位相差。=πとすると, m= 0で

0= 300 の方向に主ビーム,m=-lで

0= -300 の方向にグレーティングロープが形成

され,2方向に音波を同時に放射することができ

る。また受波時には, m= 0の場合に

口口口口圧電素子

図8 グレーティングロープ方式の直線配列水中

音響変換器の原理

え ππFig・8 Principle of the phased -array dニτ,o =τまたは-7

transducer

にすることで,。ニ 300 または -300 方向から

JAMSTECTR 19 (1988) 303

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の信号がそれぞれ受信できることになる。

尖鋭な指向性を有するビームを発生させるため

には, (4-1)式のNを大きく とる, つまり小型

の圧電素子をできるだけ多数個配列した水中音響

変換器を製作する必要がある。一方,製作の容易

さとコスト面からは,変換素子が大きく,数が少

ない方が有利となる。このため,素子の大きさと

形状を定めるために,我々は 2種類の直線配列の

模型を試作し,水槽試験を行い配列を決定した。

ここでは,大きさが9.7 mm X 9. 7 mm X 18. 7 mm ,

9.7 mm X 52.5 mm X 20.8 mmの2種類の角形縦

振動圧電素子を試作し,一方は25個,他方は 5個

直線上に配列しシェーディングをほどこしそれら

の指向性を調べた。結果は,図9および図10に示

したが,明らかに 5素子の模型のサイドロープが

大きいことがわかり,この個数でベアビームを出

せばサイドロープの重なりでより大きなサイドロ

ープが形成されることが,予想される。一方, 25

素子の模型のサイドロープは主ビームに比べて

20dB程度におさえられており,サイ ドロープに

図9 圧電素子数お個の直線配列水中音響変換器

模型の指向特性

Fig.9 Acoustic beam pattern of the test-

module made of twenty five transducer

elements

304

よる測定誤差を小さくするためにも,製作上の複

雑さや,価格面の問題はあるものの,少なくとも

この程度の個数の素子を使うことが望まれた。

実際にここで製作した水中音響変換器は,主ビ

ームとグレーティングロープが形成される面では

圧電素子を32個並ベることとし,さらにこれと直

交する方向には25個並ベ計800個の素子を使用し

た(写真 l参照)。大きさは 403mm X 328 mm

x 140mmである。この変換器の受波時の指向性

を調べたものを図11,図12に示した。図からわか

るようにビーム傾角+30ヘビーム幅(半減全角〉

5o,サイドロープも主ビームに比ベて 15dB以

下におさえられ良好な指向特性が得られた。

4. 3 データ表示・記録ソフトウエア

船上で計測したデータをリアルタイムで表示し,

流速をモニタできることは海洋観測や海洋上での

種々の作業を行う上で重要な機能である。またそ

れらの大量の情報は確実に記録されなければなら

ない0. 以下ではこのADCPのデータ表示・記録ソ

図 10 圧電素子数 5個の直線配列水中音響

変換器模型の指向特性

Fig.10 Acoustic beam pattern of the test

-module made of five transducer

elements

JAMSTECTR 19 (1988)

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JW' CO'

tヲ0・10・

J5・胤翠誼.長建議謹怒詩史途蕊怒没齢、~'\'If!I/b係必初ZTEBみ笠珪税評!日己目立見|;p-

お.1;til-111JlJZ日2221111土目立C江主主三コピZZE211JiJ:I1.11CC11!:1171体榊持株HU.

;寄附京1E11昏豆諸結実虫記災対移ゑ訴初安y'j//111' ¥ ¥ ¥ ¥ ¥¥ "'~ど滋おヲ宗治迂款がぶI3RtZE社刊ia:

図 11 超音波ドップラー・プロファイラー水中音響交換器のビーム偏向面における指向特性

Fig.l1 Acoustic beam pattern of the transducer module in the pair -beam plane

同・

310・

明r京:10'

711"

m'

80' 280'

90" 210'

1ω・2師・

図 12 超音波ドップラー・プロファイラーの水中音響変換器の

ビーム偏向面と直交する面における指向特性

Fig ・12 Acoustic beam pattern of the transducer module in

a vertical plane to the pair -beam plane

-JAMSTECTR 19 (1988) 305

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フトウエアの機能について表 2に示した構成に沿

い簡単に説明する。

表示制御装置としてNEC社製PC100を用い,

ソフトウエアはMS-DOS上で働く。パラメータ

の設定や表示方法の切替えはメニュー画面により

マウスを用い簡便に入力される。

初期設定では,図13に示した画面上で船の吃水,

測定層厚,送信バルス幅,平均時間,対地速度基

準(ドップラー,ロランC,GPSから選ぶ〉等の

写真 1 水中 音 響 変 換 器 の 表 面

Photo 1 Square -shaped transducer

module of ADCP seen from

the surface

表 2 リアルタイム・オベレーティング・

ソフトウェアの機能

Table 2 Real time opぽ atingsoftware

306

初期設 定

測定パラメータの設定

園 田 園 圃 圃 圃 『

CRT表示

実時間表示

時系列表示

海図表示

数値データ表示

データ記録

CMTへの記録

CRT画面のハードコピー

測定バラメータを目的に応じ入力できる。

CRT表示はいくつかの種類のプログラムをもち,

ユーザーの目的にあわせて選択できる。そのなか

の実時間表示の例を図14,図15に示した。図14は

流速の南北成分,東西成分,受信信号のスベクト

ルの幅を示す標準偏差,散乱強度の各鉛直プロフ

ァイルを示す。この他に,流速の南北,東西成分

の代わりに流向・流速で描くこともできる。図15

は32層の各流向・流速をベクトルで,また散乱強

度の大きさを楕円の長軸で表したものである。時

系列表示の例を図16に示した。流速の東西,南北

成分の鉛直プロファイルを時間推移にともない横

方向に並べ表示できる。海図表示は図17に示すよ

うに任意の縮尺で緯・経線を描き船の移動ととも

に任意の 3層の速度ベクトルをプロットしていく

ものであるo 数値データ表示は測定値を数値で

CRT上に表示するプログラムである。

次にデータ記録の方法について述ベる。 CMT

には,信号処理部から GP-IB バス経由で送ら

れる測定パラメータ,航海データ,計測データが,

任意の時間間隔で記録できる。 CMTには30秒毎

に記録するとして約120時間記録できる。また

CRT画面 1画面は約20秒でハードコピー可能で

あり,測定時のモニターを長時間中断することも

なく記録ができる。

ヘ・ゥ情 1

次 頁

第一層水深吃水

| メインメーユー

測定層厚対水送信パルス幅速度平矧湘柿色

対水対地速度基準手動~qt色速度 F/A

P/S

送受渡器{噴き補正水平垂直

全初期値保存丁一

70.0 m

4.0 m

12.5 m

30.0鵬 ec

45 sec 45 sec

トつ・ラ

0.00 Kt

0.00 Kt 0.0。0.0 0

コピー

図 13 測定パラメータのメニュー画面表示例

Fig. 13 Menue display of the measuring

parameters

' J AY,S T E C T R 1 9 (1 98 8 )

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03-12、阪湾15:01: 14 〈位置:防γ〉'1 31:)・ O.~'EI39・12.7W<~~l出:的ì>4.37 Kn 89.8・ω501

的'R:汚.'1: 03・13・198610:44:45 〈位置:日'Ji)N ';h' 5.0:.狗'EI39'21.3iO'

-:0 <t~l~:防ì>4.26 kn 85.9・1213 111

.1員B網=35蹴 G'¥'R:鈎.0・lai雷傍 81事thIi=5/10 アロ,晴男ト ω蹴

ー一一-~l-S -……E-W

N-S. E-W成分時系列図

• • • -7LEE--』,、s

•• •• • • ; ; .

i

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15:00

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11

1i,Ili--

upe-‘BnE・I・---jib--;・1

制 LA-mmfs14::0 14:51

. . . . .

200

お0

ぉ。

50 (01)

120

散乱強度(dB)

50 -IQO

機港係差〈吋曹}

。E噌成分(cm/s)

100 。100・100

N-S成分 (cm/,,)

。∞同

寸品哨)m

,‘、

131

235

家冶

443

東西・南北の流速成分の時系列表示例図16鉛直プロファイルの実時間表示例図 14

of the N -S and E -W Example Fig.16 vertical profiles

in realtime

of Fig .14

20<ω伽〉71 仰向271.4・

senes

中心官 N35'I'.E1ぉ・13.5' 11お000 7'0,ト悶防長 120棺 c (J)'R:267.6' 03-13-1蛾I 04: 12:40 Hf百置:伊S>

....LN 35・O.お4'L EI39' 11.お4'I <対ltll:a司S)r 4.67伯、Iお9.7・t 22河m卜2¥7伽)~ 34 仰向lお6.1・

払込 Vヰヰ14JJi上J-.::l~ VO

や s

10即時5crn/s CMT諮豊中:鎖倒4,03:ぉ:35-,

time

30$舵毎

ln components velocity operation

03-13・198610:4$:44 <fi1置:07)>r1 31:)・ 5.040'Ela'・21.570'<t;fl臨・の:。4.48.Kn 85.9・1207 n

脈三室三三一一

φφ

2222

…E....~..... ..

"'-<E三三b…・ω

….<E三三b …-_.<!!;三~..-…

. …《三三P…・・

-_.....-<;!三三~...・­

M ・.~....・-…

市町・・・・E39>.'-・・一..・

1 (ωω

6 (105m)

10 (157m)

14 (20911)

15 (2包ゆ

16 (2お柿}

11 (170m)

12 (183m)

13 (1~治的

7 <11伽}

8 (131m)

9 (144m)

2 (5ゐ}

3 (6針。

4<7知}

5 (ねn)

海図の船の移動点上に描かれた

流速ベクトルの表示例

図 17-音響散乱強度の各層別の流向・流速

実時間表示例

図 15

three Current Fig ,17 m vectors

selected layers

velocity vectors

in 32 layers

and of Example Fig,15

stre暗 thscattering

307

every. ship at

positions operation realtime

¥、,ノ00

0O

Awu

s咽

EA

ft、

Example

displayed

m displayed

19 JAMSTECTR

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5. 海域実験の結果

送受信部の基本特性を調べるために 1985年3

月に,図18に示した相模湾内A,B, Cの海域に

おいて実験を行った。この結果について報告する。

はじめに B海域での受信々号の出力を図19に示し

た。横軸は超音波バルスを発射してから受信する

までの時間であり深度に対応する。図19中深度

1000m付近に海底反射と考えられる極めて強い

信号がみられ,この送受波器系が水深 1000mま

で海底を検出しうることを示している。また,水

中からの散乱信号の受信レベルをみると, -25dB

の水中ノイズレベルに対して,深度500m付近で

も10--15dBの余裕があることを示している。

この散乱信号から, ドップラー偏移周波数を求め

ることは十分可能であり深度 400mまでの流速測

定に対してもこの送受波器が十分能力をもつもの

と考えられる。

30

~ 20-1 ω

E l 〉t..n 10! . o 11

問'ぢ。 。、._./

干そ"'t¥lA 迫

140i L直下方向山ロー反射信号

¥ -20

-25dB

水中雑音 レベル

.. a,.n ..

201

101

350

001

50'

401

東京湾

相模湾B

139010' 20' 30' 401 501

図 18 実験海域図

Fig. 18 Test area of

the transdue cr

海域 B

送信周波数 70KHz

送信パルス幅 30 msec

11 ¥ 前,後方ビーム反射信号

-30 (883m) (1.013同

0.0 0.5

( 3お)1.0

(520) (650) 1.S ( 915)

2.0 (1300)

2.5 ( sec) 遅延時間

受信時間(深度)

図 19 送受波器系の海域試験における受信機出力, 1985年3月相模湾

Fig . 19 Received signal level versus depth in the Sagami Bay

(m) 深度

308 JAMSTECTR 19 (1988)

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A海域

B海域-ー-_-60

~・".,.-

/

-・圃圃ーー・4・

〆/

/ " 戸

、.ノ、〆、w〆

一70

-80

-100

-90

(凶匂

)

J

湘経

1. 0 sec (650) m

O. 9 (585)

0.8 (520)

O. 7 (455)

0.6 (390)

O. 5 (325)

o. 4 (260)

o. 3 (195)

O. 2 (130)

O. 1 (65)

受信時間 (深度)

Bay

S

月刊。年Fhlu

QU

AY

海域試険における散乱強度,

S cattering strer疋thversus depth in the

図 20

Fig.20

C海域

。o 0。。

• • ••

• •• ・・.

-20

一30

-40

(凶ガ

)

受信機利得• •

57dB 87dB 99dB

• • 0

-50

脳細部議凶蛍錫

-60

1200 1100 1000 900 800 700 600 500 400

深 (m)水

1985年 3月相模湾

309

Bay Sagami

海域試験における海底反射強度,

Bottom scattering strength in the

図 21

Fig .21

(1988) 19 JAMSTECTR

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書検時間=35 sec GYR: 174.5・03-12-198819:44:49 く{立置:ロラ))

N-S成分 (cmls) E-W成分 (cmls) 標準備差 (. H~ .) 散乱強度 (dB) N 34・59.8iO'El39・12.720'

-1000100 -10o 0 100 0 Eo -100 -50く対地:ド、アラ〉

40 (m)

180

340

500

660

0..50 Kn .1 223.2・

899 m

実時間4実時間一2時系ヲlト11時系列-21海図初期設定CMT I ファイルコピー

図22 測定データの鉛直プロファイル (CRT表示のハードコピー〉

Fig ・22 Measured vertical profiles of the water current

次にA,B海域で計測した散乱強度 (Sv) を

図~に示したo 散乱強度の値は - 67 dBから

-83 dBの間にあり平均で-77dBの値を示し第

3.2節で -80dBと与えた値が妥当である ことを

示す。また, C海域で計測した海底反射強度を図

21に示した。この図で水深900mまでは -40dB

程度であり,これからも 3.2節で与えた反射強度

の値は妥当であると考えられる。

1986年3月にはこのADCPシステム全体の性

能を確めるために同じく相模湾で海域試験を行っ

た。写真2に送受波器部,写真3および写真4に

船上装置を示した。

写真5に航走測定中の CRT表示の例を示した。

水深は 1217mであり 1000mを越えているので,

ロランC航法装置から対地船速を得ている。この

例では船の位置を2分毎に海図上に示すと ともに,

310

任意に選んだ3層の流速ベクトルそれぞ、れの位置

で描いている。図22に測定データの鉛直プロフ ァ

イル表示のノ、ードコピーを示した。その場の水深

は899mで対地船速はADCP自身から得られてい

る。図中の受信周波数の標準偏差をみると深度

500mの近くで急激に値が増加しており,この深

度で雑音信号に較ベて海水からの散乱信号が小さ

くな ったことが推定される。よってこの深度以深

の流速データは信頼性が低いと考えられ,逆にこ

の深度以浅のデータは信頼性が高いと考えられる。

この実験においては,実時間でデータ表示,

CMT記録が可能であること, また, ロランC,

GPS航法装置による船速基準の切り替え等の機

能が正常に働くことを確認した。

JAMSTECTR 19 (1988)

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写真2 フィッシュ形の送受波器部

Photo2 Fish -shaped housir芭

containing two transducer

modules

写真3 船位測定部, 信号処理部,送受信部

Photo3 Ship navigation, signal processing

and transducer units

JAMSTECTR 19 (1988)

= j.企‘ a

., "同

, , , 、

写真 4 表示・制御部, データ記録部

Photo4 D isplay, control and

recording units

写真5 実時間で、の海図上への流速ベグトル表示

Photo5 Current vectors in three selected

layers at moved ship positions

311

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6. おわりに

以上に記したように開発中の大深度用超音波ド

ップラー・プロファイラーは水槽試験および海域

試験により基本設計基準を満足することが確かめ

られた。 1987年 3月には,係留式の流速計との

流速比較実験を行ったがこの結果については,次

の機会に報告する予定であるo

最後に,このADCPの設計委員会の委員である

東海大学検井清教授 筑波大学高野健三教授,電

子技術総合研究所三浦甫音響研究室長,海上保安

庁水路部上野義三海洋調査官から,熱心な議論と

貴重な助言をいただいたことに対してここに感謝

の意を表します。また 超音波水槽を使った水中

音響変換器の試験では当センターの土屋利雄,網

谷泰孝氏のご協力 さらに装置の製作に際して

は日本無線研究所の権藤雅彦 朝田好幸氏のご協

力を得ました。ここに深く感謝の意を表します。

なお,本研究は科学技術庁の昭和58--60年度

科学技術振興調整費による「我が国周辺200海里

水域における新調査システムの開発に関する研究」

の一環として実施されたものである。

参芳文献

1) Rowe F . D . and J . W . Y 0山19,1979.

An ocean current profiler using Doppler

sonar, IEEE proceedings, Ocean 79 ,

312

292 -297.

2 ) J oyce T . M. ,D . S . B itterman . J r and

K . E . Prada, 1982. Shipboard

acoustic profiling of upper ocean

currents, Deep -sea Reserch, 29,

903 -913.

3) Woodward W ~E. and G . F . Appell ,

1986. Current veloci ty measurements

using acoustic Doppler backscatter : A

review, IEEE, J. Oceanic Eng . , OE-11, 3-6.

4)強い潮流域の海洋調査手法確立の研究報告書,

1983. 海料科学技術センター.

5)奥野清則,権藤雅彦,朝田好幸, 1984. 広

域流速分布測定システム,日本無線技報, 22,

32 -36.

6)石井春雄,西田英男,小杉瑛,上野義三,道

田豊, 1986. ドップラー・ログを利用した

流速測定,水路部研究報告,第21号, 135-

150.

7)黒田芳史,原俊明,辻義人,美澄篤信,甲斐

源太郎, 1987. 1985年9月三陸,常磐沖

の流速および水温構造の観測,

JAMSTECTR, 18, 1 -11.

(原稿受理 1987年12月25日)

JAMSTECTR 19 (1988)