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1 東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2011 年度秋輪講書 多様な色素増感太陽電池の作成 水曜班 1.背景 現在,エネルギー変換効率の高さと長期の性能の安定性でシリコン型太陽電池が主流と なっている.その中で色素増感太陽電池は最も注目されている太陽電池の一つであるとい える.この電池は廃棄の際の環境負荷がほぼない 1) こと,比較的レアメタルや化石燃料を多 量に使用せず材料の資源的な制約が少ないこと,純度の低い材料の使用が可能であること, 作成工程が 5 つしかなく容易であり印刷方式などにより安価に大量に生産できる可能性が あることなどが主な特徴である.またプラスチックフィルムを基板とした軽量と色素の選 択によりカラフルな色素増感太陽電池も製造でき,その応用の多面性についても従来の太 陽電池とは一線を画している.色素や電解液,酸化物半導体の組み合わせにより性能が変 わり,強色増感などの効果も確認されることから研究の余地も大きい.光からエネルギー を取り出す原理は植物の光電変換の過程に似ている.実用化するための課題としては世界 最高の変換効率が 12.3 (2009.3.3 Grätzel ) 2) であり, 10~20 %程度の変換効率 3) をもつ シリコン太陽電池に比べ見劣りする点および色素の脱離やヨウ素電解液による腐食などに よる耐久性などの問題があげられる.このような背景から材料や作成法の相性などを検証 していきたいと考え,色素増感太陽電池の継続実験を行った. 2.原理 DSSC の作動原理 4) Fig.1 に示す. Fig.1 DSSC 動作原理

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1

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2011年度秋輪講書

多様な色素増感太陽電池の作成 水曜班

1.背景

現在,エネルギー変換効率の高さと長期の性能の安定性でシリコン型太陽電池が主流と

なっている.その中で色素増感太陽電池は最も注目されている太陽電池の一つであるとい

える.この電池は廃棄の際の環境負荷がほぼない1)こと,比較的レアメタルや化石燃料を多

量に使用せず材料の資源的な制約が少ないこと,純度の低い材料の使用が可能であること,

作成工程が 5 つしかなく容易であり印刷方式などにより安価に大量に生産できる可能性が

あることなどが主な特徴である.またプラスチックフィルムを基板とした軽量と色素の選

択によりカラフルな色素増感太陽電池も製造でき,その応用の多面性についても従来の太

陽電池とは一線を画している.色素や電解液,酸化物半導体の組み合わせにより性能が変

わり,強色増感などの効果も確認されることから研究の余地も大きい.光からエネルギー

を取り出す原理は植物の光電変換の過程に似ている.実用化するための課題としては世界

最高の変換効率が 12.3 %(2009.3.3 Grätzel研)2)であり,10~20 %程度の変換効率 3)をもつ

シリコン太陽電池に比べ見劣りする点および色素の脱離やヨウ素電解液による腐食などに

よる耐久性などの問題があげられる.このような背景から材料や作成法の相性などを検証

していきたいと考え,色素増感太陽電池の継続実験を行った.

2.原理

DSSCの作動原理 4)を Fig.1に示す.

Fig.1 DSSC動作原理

2

① TiO2に化学固定された増感色素が光を吸収し励起状態に遷移する.

② 励起色素のエネルギー準位が TiO2 のフェルミ準位より高い場合,色素から TiO2 へ電子

が供給される.電子を供給した色素は酸化状態になる(電子移動定数:1010

~1012

[s-1

]).

③ 電子が TiO2の導電帯・ガラス電極を流れ,仕事をしてから正極に移動する(102~10

0[s

-1]).

④ 電解液中の I-が酸化状態の色素に電子を供給し I3

-に変化する(108[s

-1]).

⑤ I3-が正極から電子を受け取り 3I

-になる.

3.部材

3.1半導体光電極

励起色素から電子を受け取る役目を持つ.TiO2,SnO2,ZnO,WO3等の n型半導体の単

結晶,多結晶,焼結体等が使われる 5).水曜班では TiO2,ZnO を使用.TiO2はアナターゼ

型,ルチル型の結晶構造を持ち,バンドギャップは 3.06 eV(298 K)6).ZnOは六方晶ウルツ

型構造の結晶構造を持ち,バンドギャップは 3.37eV(298 K) 7).伝導体準位が TiO2よりも高

いため TiO2を用いた場合よりも高い短絡電流値が得られることが期待できる.また eosinY

との相性がよく,eosinY を増感色素として用いた場合には入射光-電流変換効率が TiO2 よ

りも大きくなることが報告されている 8).

3.2導電性ガラス

耐熱ガラスに ITO(In2O3に数%のSnをドープしたもの)をコーティングした導電性を示す

透明電極.水曜班ではジオマテック社製高耐久性透明導電膜付きガラスを使用.高温で焼

成しても抵抗値の変化が無く高い透過率を維持する 9).

3.3色素

使用する色素には以下の条件を満たすことが求められる.

・ LUMOが半導体の LUMOよりある程度高い…低いと電流は全く流れなくなる

・ 半導体に強く吸着する…「―COOH」や「=(COOH)(CN)」などの官能基を持つと

半導体の表面に吸着し金属の d軌道を通して電子を伝えるため 10)電子移動の効率が飛

躍的にあがる

・ 太陽光の広い波長範囲の光を吸収できること…吸収波長,吸収波長領域,吸光度によ

る.一般的にメチレン基,チオフェン基等が多いと有利.

3

今回の研究では N719(ルテニウム系色素),eosinY(キサンテン系色素)を使用した.各色素

の色,最高電圧,変換効率を Table.1に,構造を Fig.2に示す.

3.4電解液

正極から電子を受け取り酸化状態の色素を還元する役割を持つ.電解質には電荷移動速

度が速いことや酸化還元電位が適当であることが望まれ,このような条件に合致するヨウ

素系が主流である.また溶媒には粘度が低く電解質をよく溶かすが色素を溶かさないこと

が求められる 11).

今年度の研究では溶媒に炭酸プロピレン,溶質にヨウ素,ヨウ化カリウムを使用した.

3.5分散剤

ペースト中の金属酸化物は酸性溶液中では正電荷を帯び,塩基性溶液では負電荷を帯び

る.また電荷が 0となる中間的な固有の pH を持ちその酸化物の等電点と呼ぶ.等電点では

金属酸化物が凝集体を作り分散性が悪くなるため分散剤により pH 調整を行い正電荷また

は負電荷を帯びさせ粒子同士を反発させ分散性を良くする必要がある.TiO2 の等電点は

pH6付近 12)であり,昨年度の水曜班は酢酸を,今年度は硝酸を分散剤として使用する.

Table.1 N719,eosinYの性能

色素 最高電圧/V 変換効率/% 色

N719 0.63 8.4 濃紫

eosinY 0.66 1.3 ピンク

Fig.2 N719,eosinY構造式

N

COOTBA

N

HOOC

Ru

N

COOTBA

N

HOOC

NCS

NCS

O

COOH

Br

O

BrBr

Br

OH

4

4.実験

4.1昨年度との比較用の DSSCの作製

[実験目的]

昨年度と今年度では評価方法が大きく違ってしまうため(昨年度は川村研の協力によりソ

ーラーシミュレーターを使用できた),昨年度のデータは使用せず新しい作成法のものと比

較用に昨年度と同じ方法で DSSCを作成することとした.

昨年度の DSSC 作成方法をはじめに明記する.また昨年度行っていたスピンコート法は行

わずにスキージ法で作成する.

[実験方法]

比較用 TiO2電極の焼成

(1) P-25 0.8 g,PEG2000 0.4 g,酢酸 1.0 ml,イオン交換水 2.0 mlを乳鉢で 30分す

り混ぜ TiO2ペーストを作製した.

(2) 高耐久 ITO をエタノール洗浄し,10×10 mm のスペースが空くようマスキングテープ

を貼り TiO2ペーストをスキージ法により塗布した.

(3) 電気炉に入れ 475 ℃で 30分間焼成を行った.

色素吸着

(1) 焼成が完了した TiO2電極を放冷し N719 エタノール溶液,eosinY エタノール溶液に 1

週間浸漬した.

※昨年度は N3を使用したが今年度は用意できないので N719を使用する

(2) 色素吸着が終了した TiO2電極をエタノールに浸し物理吸着している色素を取り除いた.

電解液の調製

(1) PEG200 30 ml,I2 0.25 g,NaI 1.50 gを混ぜ電解液を調製した.

組立

(1) 15×15×0.4 mmのプラスチックに 10×10 mmの穴を空け,スペーサーとした

(2) TiO2電極(負極)と正極の間にスペーサーを挟みクリップで留め,間から電解液を注入し

た.正極には ITOガラスに黒鉛を塗布した物を使用した.

5

測定

作成した DSSC をテスターに繋げ, 金属の筒を被せて上からハロゲンランプ(USIO JDR

110V65WLM/K 75W 型 IK1)を照射し, テスターの値から短絡電流(ISC)と開放電圧(VOC)

を読み取る.

[測定結果]

結果を Table.2 に示す.また参考に昨年ソーラーシュミレーターで測定した DSSC の

うち代表的なものを最下部に記す.この実験で得られた結果を基準に研究を行う.

4.2改良型 DSSCの作製

[実験目的]

昨年度の部材や作製法を一部改良し DSSCの作製を行う.改良点を以下に示す.

・ ペーストに用いる酢酸,イオン交換水を 1:20硝酸 2.5 mlに変更する

・ 電気炉での焼成時に 60℃から 475℃まで徐々に温度を上げる.また焼成が終了したら

200℃まで炉内で放冷させる

・ 電解液の溶媒を炭酸プロピレンに変更する

・ スペーサーに顕微鏡用のカバーガラスを割ったものを使用する

・ 正極に白金触媒付き導電性ガラスを用いる

[実験操作]

改良点に挙げた項目以外は比較用 TiO2電極の作成方法と同じである.なお比較用に正極

に黒鉛を用いたものも作製した.

[測定結果]

結果を Table.3に示す.全体的に比較用 DSSCよりも性能が上昇している.

Table.2 比較用 DSSC 測定結果 Table.3 改良型 DSSC測定結果

色素 VOC/V ISC 触媒 VOC /V ISC /mA

N719 0.64 0.35 mA Pt 0.57 2.12

N719 0.67 0.42 mA Pt 0.54 1.63

N719 0.61 0.34 mA Pt 0.57 1.83

eosinY 0.034 0.3 μA C 0.53 1.20

eosinY 0.032 0.4 μA

eosinY 0.035 0.3 μA

N3 0.596 0.588 mA

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4.3 ZnO電極の作製

[実験目的]

負極に塗布するペーストに昨年度までは TiO2を使用していたが,今年度はこれの代わり

に ZnOを使用したペーストを作製,ITOガラスに塗布し評価を行う.

[実験方法]

電池作成方法については P25 を ZnO 粉末に変更した以外は基本的に改良型 DSSC と同

じであるが,ペーストを塗布する回数を変化させ膜厚が及ぼす影響を調べた.また対極は

白金電極に固定し,吸着させる色素に eosinYを用いた.

[測定結果]

結果を Table.4に示す.塗布回数が多く膜厚が厚い電池は N719を用いた比較用 DSSCを

上回る性能を持つことが判明した.

4.4触媒が電池性能に及ぼす影響の測定

[実験目的]

今年度から正極に用いる触媒に黒鉛だけでなく,白金触媒も使用できるようになった.

色素と触媒が電池性能に与える影響を評価,比較する.

[実験方法]

負極に ZnO電極を使用.N719,eosinYを吸着させ正極に用いる触媒を変え測定を行う.

[測定結果]

結果を Table.5に示す.白金電極の方が性能は良いことがわかる.

4.5高温吸着

[実験目的]

色素溶液の温度を上昇させ吸着量の増加を狙い,高温吸着を行う.焼成した TiO2電極を

温めた色素溶液に入れ色素吸着を行い電池の性能を評価する.

7

[実験方法]

60~70℃に温めた eosinYエタノール溶液に TiO2電極を入れ,1時間ごとに常温の色素溶

液に移し 3時間後に測定を行った.

[実験結果]

Table.6のような結果となった.わずかな性能の上昇が認められる.

Table.4 ZnO電極測定結果 Table.5 触媒の影響測定結果

塗布回数 VOC/V ISC/mA 色素 負極 No 触媒 VOC /V ISC /mA

1 0.42 0.28

N719

1 Pt 0.59 1.8

3 0.42 0.34 C 0.55 1.1

4 0.40 0.40 2

Pt 0.57 1.6

※塗布回数 2回はひび割れのた

め測定断念

C 0.53 1.0

eosinY

3 Pt 0.40 0.48

C 0.36 0.29

4

Pt 0.39 0.31

C 0.35 0.16

※ここで負極 No が同じ物は同一の ZnO 電極を意味す

る.

Table.6 高温吸着測定結果

浸漬時間/h VOC /V ISC /μA

1 0.51 50

2 0.45 60

3 0.42 67

8

4.6光学顕微鏡による撮影

光学顕微鏡により色素吸着前の TiO2,ZnO電極の表面写真を撮影した.倍率は 540倍で

ある.

Fig.3 TiO2電極×540 Fig.4 ZnO電極×540

参考に昨年電子顕微鏡で撮影した TiO2電極の画像を掲載する.

Fig5. TiO2電極×100 Fig6. TiO2電極×5000

5.考察

5.1改良型 DSSCの性能上昇

Table.2と Table.3より改良型 DSSCは昨年の物よりも性能が良くなっていると判断でき

る.性能上昇の要因として以下に示すものが考えられる.

9

5.1.1分散剤の変更

今回は TiO2ペースト作成時に分散剤として硝酸を用いたがこれはペーストの pHが TiO2

の等電点 6.0以下になることにより TiO2粒子が見かけ上の正電荷を帯びて反発,分散する

ことを狙ったものである.実験の結果,ペーストの製作段階や負極の性能等で問題が見受

けられなかったことから硝酸でもペースト中の TiO2を十分,分散させることが可能である

と水曜班では判断した.

一方で硝酸の酸化チタンに対する分散能がアセチルアセトンや酢酸に劣るという文献も

ある 13)ことから,本来は対照実験を行う必要であったと思われるが気が付いたのが遅く,

実際に実験を行うことができなかった.

5.1.2電解液の組成

電解液溶媒として使用した炭酸プロピレンは昨年使用していた PEG200 と比較して非常

に高誘電率の非プロトン性溶媒であり,液中ではヨウ化物イオンがより安定化された状態

で存在していたと思われる.その結果,後述するヨウ素酸化還元系の I3⁻ +2e⁻ →3I-の反応

速度が向上し電解液中の電荷伝達が敏速に行われたのではないかと考えられる.

5.1.3正極触媒の変更

通常,正極表面で起こる還元反応 I3⁻ +2e⁻ →3I-は反応速度が非常に遅く,電子伝達にお

ける律速段階になっている 14).そのため去年度までは ITO ガラス表面に鉛筆で触媒となる

黒鉛を擦り付けていたが,この方法では黒鉛の正極表面への固定が十分でなく触媒として

作用した部分の表面積が小さくなっていた可能性が高い.一方,本実験で使用した白金蒸

着電極は ITO ガラス表面に白金が蒸着されており,一定の表面積で安定した触媒作用を示

すことができたのだと思われる.

5.1.4負極焼成の温度

今回の負極の焼成は昨年度と異なり 60℃から徐々に電気炉内の温度を上げ,さらに焼成

後は 200℃まで炉内で放冷させた.その結果は Fig.3,Fig.4に示した光学顕微鏡での負極表

面画像からも見て取れ,急激な温度変化によるクラックが減少していることが確認できる.

実際,クラックが生じると極板表面と電解液が接触して変換効率の低下をもたらす他,焼

結した半導体の耐久性が悪化する.よって今回の様なクラックの少ない表面構造は負極性

能向上の大きな要因であることは明白だと思われる.

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5.1.5スペーサーの変更

今回,スペーサーとして利用した理化学実験用カバーガラスは平均膜厚が 170μmであり

昨年度使用したプラスチック板の 400μmと比較して半分以下の値である.一般的に電荷の

拡散距離が増加するほど電荷輸送効率は低下するため,このようなスペーサー膜厚の減少

は直接的に電池性能の向上をもたらす.

5.2 ZnOの性能

Table.4,Table.5より ZnOを用いた DSSCが比較用 DSSCに劣らない性能を示すことが

わかる.これについての考察を以下に述べる.

5.2.1 ZnOペーストの組成

今回作成したペーストの組成は TiO2型と同様であるが,大きな違いは ZnOが硝酸に対し

て溶解することである.ペースト中の ZnOと硝酸のモル比は約 6:1であることから,ペー

スト中で ZnO粒子は一部が溶解した状態で存在していると予想できる.本実験ではこれを

スキージ法で ITOガラスに塗布,乾燥させたため ZnO粒子と ITOガラス表面に硝酸亜鉛が

付着した状態となっていたと考えられる.さらに,これを焼成すれば硝酸亜鉛が分解し ZnO

となることは容易に想像でき,このことが ZnO膜‐ITO間の接着面を増加させ,結果とし

て短絡電流を大きくしたのではないかと思われる.また,同様に硝酸亜鉛が ZnO粒子に付

着した状態で焼成が行われた結果,二次的に粒径が増大し粒子間の接触抵抗の低下が生じ

た可能性も考えられる.

実際にこのような現象が起こっているかは焼成後の ZnO 膜の表面構造を調べる必要があっ

たが,今回使用した光学顕微鏡では ZnO 粒子自体を観測することが出来ないため実現でき

なかった.

5.2.2 色素との相性

ZnO 電極は色素に高性能な N719 を用いた場合だけでなく,N719 に劣る性能の eosinY

でも比較用 DSSC より良い結果を出すことができた.eosinY と ZnO の相性が良いことは

以前から知られており,eosinYを TiO2に吸着させた場合の変換効率の倍近い値を示すこと

が報告されている 15).

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5.3高温吸着

色素吸着を高温(50℃程度)で行うと色素の吸着量が倍程度上昇しそれに伴い変換効率

が上がることが報告されている 16).今回の研究では 60~70℃程度で色素吸着を行ったが

Table.6が示すようにその性能上昇は微々たる物でしかない.これは水曜班で作製した負極

が十分に多孔質化されていないため色素の吸着に 3 時間程度ではなくもっと長い時間を必

要としているのではないかと思われる.さらに深く研究を進めるためには 10時間程度かけ

て高温吸着を行うことが望ましいが,普段の班活動で行うことが不可能であるのでこの研

究を進めるのは現実的ではないと判断した.

6.課題・展望

今年度の研究で得られた成果は TiO2 電極の改良,ZnO 電極の作製である.改良型 TiO2

電極は昨年度のものより大きく進歩したが,その要因として大きいのはペースト焼成時の

温度調整であると思われる.昨年度は電子顕微鏡,今年度は光学顕微鏡を負極の表面写真

撮影に使用しておりまた同一倍率でないため厳密な比較は行えないが,Fig.3~6から判断す

ると考察でも述べたように今年度の負極は明らかにクラックが少ない.またスペーサーに

カバーガラスを用いたことにより電荷移動が効率よく行われたこと,電解液の溶媒を炭酸

プロピレンに変換したことなどが今回の主な改善点と言える.一方,今年度から新たに作

製した ZnO 電極は TiO2電極には及ばないものの,比較用 DSSC よりも高い出力が計測さ

れた負極も存在し,また性能では及ばないがコスト面で N719(和光純薬工業 1 g 187,600

円 17))に勝る eosinY(和光純薬工業 25 g 5000円 18))でもある程度の出力を確保できたた

め,より少ない費用で研究を行うことが可能になったことは大きな進歩と言える.

しかし課題も多々存在する.まずソーラーシュミレーターや評価回路を使用せずに直接

テスターで測定を行ったため電池の特性がわからず,得られた数値から行った判断が妥当

であるか否か正確なところは不明である.次に考察 5.1.1でも述べたように分散剤として用

いた硝酸は分散能が劣る.さらに良い性能の DSSC を作製するためにはより良い分散能を

示す分散剤を調査することが不可欠である.またスペーサーも昨年度よりは薄くなったと

はいえ本来の研究で用いられているスペーサーフィルムは厚さ 25μm 程度なので 19)より薄

いスペーサーが必要である.またペーストの最適膜厚は 10μm 程度 20),21)とされているが,

今年度の研究では膜厚を測定することができなかったためこれを測定できるような器材及

び手法の確立が必要である.

12

上で述べたような課題を克服することができれば化研においての DSSC の研究はより高

度なものとなるだろう.特により薄いスペーサーフィルムや分散能の良い分散剤の調査は

簡単に行え,かつ効果的であることが予想される.また負極のクラックを少なくするよう

な焼成方法が考案されれば更なる性能の上昇を期待できる.

7.参考文献

1) 荒川祐則,色素増感太陽電池, CMC出版,2009 (2001年編) (以下 DSSC と記載) ,p.32

2) M. Graetzel, "The Advent of Mesoscopic Solar Cells ", International Symposium on

Innovative Solar Cells 2009, Tokyo, Japan (2009). 2009.3.3現在

3) Newton 2009年 9月号 (株)ニュートン・プレス p.48-49

4) DSSC,p.24

5) DSSC,p.18

6) 日本化学会,化学便覧 基礎編,丸善,1994,p.608

7) 八百隆文,ZnO系の最新技術と応用,シーエムシー出版,2007年 1月 31日,P.73-74

8) 荒川祐則,色素増感太陽電池, CMC出版,2009(2001年編),p.153

9) ジオマテック HP/製品情報 / 透明導電膜 ITO・ ZnO/高耐久透明導電膜,

http://www.geomatec.co.jp/product/ito/solar.html,2011/10/21取得

10) DSSC,p.104

11) DSSC,p.80

12) 清野学,酸化チタン-物性と応用技術,技報堂,2003,p.225

13) 村山正樹・庄山昌志・山崎栄次・増山和晃・橋本典嗣,色素増感太陽電池の光電極のた

めの TiO2 ペーストの調製,三重県科学技術振興センター工業研究部研究報告,2004

14) Science Portal China/注目記事/特集:材料科学,2011/3/4,

色素増感型太陽電池の研究現状及び展望,

http://www.spc.jst.go.jp/hottopics/1104materials_science/r1104_meng.html,2011/10/21

取得

15) DSSC,p.154

16) 岩本朋久・吉川昌司,色素増感太陽電池における色素吸着量と特性の関係,電子情報通

信学会技術研究報告,2007/9/14

17) siyaku.com/N719 ,

http://www.siyaku.com/cgi-bin/gx.cgi/AppLogic+ufg280disp_pr.ufg280disp_Main?now=1

319379734783&fromcart=0,2011/10/22取得

13

18) siyaku.com/eosin Y,

http://www.siyaku.com/cgi-bin/gx.cgi/AppLogic+ufg280disp_pr.ufg280disp_Main?code=

W01MER1.15935,2011/10/22取得

19) DSSC,p51.

20) 尾込裕平,高効率色素増感太陽電池に関する研究,九州工業大学学術機関リポジトリ,

2008/3/25

https://ds.lib.kyutech.ac.jp/dspace/bitstream/10228/1190/1/D-39_%E5%8D%9A%E5%A

3%AB%E8%AB%96%E6%96%87_ogomi.pdf,2011/10/22取得

21) DSSC,p20

謝辞

2008年金曜班員,2009年水曜班員,2010年水曜班員,物理学科川村研究室川村教授,

兒玉明典先輩,山下智史先輩,ジオマテック(株) 千葉広樹様

以上の方々に深く感謝致します.

水曜班メンバー

チーフ 2K 河原 諒 1K 市川 健司

サブチーフ 2K 島村 茉莉 1K 江原 洋

2K 東 克繁 1K 樺島 奨

2K 江黒 真琴 1K 中川 真徳

2K 神田 朗 1K 山口 真凛

2K 小山 恭章 1K 吉本 瑞希

2K 武田 龍介 1K 輪胡 宏学

2K 三柴 健太郎 1OK 廣中 裕也

2C 須藤 和樹 1B 磯谷 遼

2S 鈴木 雅也 1B 神原 永昌