防火設備(防火戸)の調査方法について 1.調査内...

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防火設備(防火戸)の調査方法について 1.調査内容 防火戸の作動状況の調査では、煙・熱感知器や温度ヒューズを作動させての「作動確認」と「危害 防止装置等の確認」を行います。「危害防止装置等の確認」では、平成17年7月の建築基準法施行令 第112条改正に伴い、防火戸を含む防火設備全体に対して、閉鎖作動時に周囲の人の生命または身 体に重大な危害が及ぶ恐れがないようにするため、以下の基準について確認します。 ①閉鎖作動時の運動エネルギー((1/2)MV2)が10J(ジュール)以下であること(※1) ②防火設備の質量が15㎏以下であること 質量が15㎏を超える場合には、水平方向に閉鎖するもので閉じ力が150N(ニュートン) 以下であること、または周囲の人と接触した場合に5cm以下で停止すること(※2) ※1)①は防火設備(防火戸)が閉鎖する際の“衝突”に対する衝撃強度の上限を規定したもの で、動いている物体の持っているエネルギー量を示し、防火戸の重量と閉鎖速度から計算 により求める。 ※2)②は防火設備(防火戸)が同じく閉鎖した際の“挟まれ”による押し付ける力の強さの上 限を規定したもので、計算で求めるか、もしくはプシュプルゲージで閉じ力を実測する。 (1N=0.1㎏f) 「5cm以下で停止」は防火設備(防火シャッター)の危害防止装置等の基準です。 2.閉鎖作動時の運動エネルギーの求め方 1)計算による調査方法・手順 閉鎖作動時の運動エネルギーは次式で定義されている。 <手順1>扉の質量を求める 扉の質量(M)の計測は実際には不可能であるため、DW及びDH寸法より扉の質量を算出する。 SDの場合、扉の面積1㎡につき40㎏で算出し、LSDの場合は20㎏で算出する。 質量(㎏)=DW(m)×DH(m)×扉単位重量(㎏/㎡) <手順2>扉の移動距離を求める 90度から全閉までの戸先の円周に沿った距離(m)をDW寸法より算出する。引き戸の場合 は移動距離で算出する。 距離(m)=DW(m)×2×円周率(3.14)/4 運動エネルギー=(1/2)MV Mは扉の質量(㎏)、Vは速度(m/秒)

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Page 1: 防火設備(防火戸)の調査方法について 1.調査内 …防火設備(防火戸)の調査方法について 1.調査内容 防火戸の作動状況の調査では、煙・熱感知器や温度ヒューズを作動させての「作動確認」と「危害

防火設備(防火戸)の調査方法について

1.調査内容

防火戸の作動状況の調査では、煙・熱感知器や温度ヒューズを作動させての「作動確認」と「危害

防止装置等の確認」を行います。「危害防止装置等の確認」では、平成17年7月の建築基準法施行令

第112条改正に伴い、防火戸を含む防火設備全体に対して、閉鎖作動時に周囲の人の生命または身

体に重大な危害が及ぶ恐れがないようにするため、以下の基準について確認します。

①閉鎖作動時の運動エネルギー((1/2)MV2)が10J(ジュール)以下であること(※1)

②防火設備の質量が15㎏以下であること

質量が15㎏を超える場合には、水平方向に閉鎖するもので閉じ力が150N(ニュートン)

以下であること、または周囲の人と接触した場合に5cm以下で停止すること(※2)

※1)①は防火設備(防火戸)が閉鎖する際の“衝突”に対する衝撃強度の上限を規定したもの

で、動いている物体の持っているエネルギー量を示し、防火戸の重量と閉鎖速度から計算

により求める。

※2)②は防火設備(防火戸)が同じく閉鎖した際の“挟まれ”による押し付ける力の強さの上

限を規定したもので、計算で求めるか、もしくはプシュプルゲージで閉じ力を実測する。

(1N=0.1㎏f)

「5cm以下で停止」は防火設備(防火シャッター)の危害防止装置等の基準です。

2.閉鎖作動時の運動エネルギーの求め方

1)計算による調査方法・手順

閉鎖作動時の運動エネルギーは次式で定義されている。

<手順1>扉の質量を求める

扉の質量(M)の計測は実際には不可能であるため、DW及びDH寸法より扉の質量を算出する。

SDの場合、扉の面積1㎡につき40㎏で算出し、LSDの場合は20㎏で算出する。

質量(㎏)=DW(m)×DH(m)×扉単位重量(㎏/㎡)

<手順2>扉の移動距離を求める

90度から全閉までの戸先の円周に沿った距離(m)をDW寸法より算出する。引き戸の場合

は移動距離で算出する。

距離(m)=DW(m)×2×円周率(3.14)/4

運動エネルギー=(1/2)MV2

Mは扉の質量(㎏)、Vは速度(m/秒)

Page 2: 防火設備(防火戸)の調査方法について 1.調査内 …防火設備(防火戸)の調査方法について 1.調査内容 防火戸の作動状況の調査では、煙・熱感知器や温度ヒューズを作動させての「作動確認」と「危害

<手順3>扉の閉鎖時間を計測する

90度から全閉まで、手を離して閉鎖するまでの閉鎖時間(秒)を計測し、180度開きの場合

は、90度通過時から全閉までの時間を計測する。引き戸の場合は全開から全閉までの時間とす

る。

<手順4>扉の閉鎖速度を求める

扉の移動距離を閉鎖時間で割って閉鎖速度を求める。

速度(m/秒)=距離(m)/閉鎖時間(秒)

<手順5>運動エネルギーを求める

運動エネルギー(J)=(1/2)MV2

<手順6>判定

10J以下で合格。

2)早見表を用いた調査方法・手順

閉鎖作動時の運動エネルギーについては、〔別表1〕又は〔別表2〕を用いて10Jを満足するた

めの閉鎖時間を求めることができる。

<手順1>扉の質量を求める

Mの計測は実際には不可能であるため、DW及びDH寸法より扉の質量を算出する。

SDの場合、扉の面積1㎡につき40kgで算出し、LDの場合は20㎏で算出する。

質量(㎏)=DW(m)×DH(m)×扉単位重量(㎏/㎡)

<手順2>推奨閉鎖時間を求める

DW寸法(m)と扉の質量(㎏)より、〔別表1〕又は〔別表2〕を用いて10Jを満足するた

めの閉鎖時間を求める。

〈計算例〉

a)W0.9m×H2.1mの防火戸(SD)

b)90度開いた状態から閉鎖する時間が3.5秒

運動エネルギー(1/2MV2)

=1/2×(0.9m×2.1m×40kg/m2)×(1.4m/3.5秒)2

=1/2×75.6×(0.4) 2 =6.05(J)

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<手順3>閉鎖時間を計測する

90度から全閉までの手を離して閉鎖するまでの閉鎖時間(秒)を計測し、〔別表1〕又は

〔別表2〕の推奨閉鎖時間に適合しているか確認する。

<手順4>判定

〔別表1〕又は〔別表2〕の推奨閉鎖時間以上で合格。

3.閉じ力の求め方

閉じ力の測定は閉鎖作動時に、扉と枠との間の閉じ力をプシュプルゲージ等の方法により計測

する。

<手順1>「作動確認」の実施

煙・熱感知器や温度ヒューズを作動させての「作動確認」を行った後に実施する。

(衝撃力の測定ではないため、必ず一旦閉鎖させて下記の「閉じ力」の測定を行う)

<手順2>「閉じ力」の測定

全閉状態から手で扉を開き、枠と戸先の間にプシュプルゲージを挟みこみ、「閉じ力N)」を

測定する。

<手順3>判定

150N以下で合格。

(250mm)

プシュプルゲージ

(250mm)

プシュプルゲージ

【 開き戸の場合 】

【 引き戸の場合 】

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〔別表1〕

開き戸における運動エネルギーが10J以下となる90°→0°までの閉鎖時間の下限値(表-1)

防火戸(開き戸)が90°から全閉するときの運動エネルギーが10Jを超えない為の閉鎖

時間を、ドア巾(DW)とドア重量を軸に示した表。ドア巾とドア重量の交差するマス目にあ

る数字は、必要な閉鎖時間(秒)を表し、閉鎖時間がそれ以上であれば10J以下であること

がわかる。

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〔別表2〕

引き戸における運動エネルギーが10J以下となる閉鎖時間の下限値(表-2)

防火戸(引き戸)が全開から全閉するまでの運動エネルギーが10Jを超えない為の閉鎖

時間を、ドア重量別に速度を計算し、対応する閉鎖時間を示した表。

ドア重量と閉鎖距離の交差するマス目にある数字は、必要な閉鎖時間(秒)を表し、閉鎖

時間がそれ以上であれば10J以下であることがわかる