遺伝的多様性から見えてくる日本の哺乳類相 :過去・現在・未来 ·...

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159 2013 AIRIES 遺伝的多様性から見えてくる日本の哺乳類相 :過去・現在・未来 Genetic diversity in the mammalian fauna of Japan: past, present and future 玉手 英利 Hidetoshi TAMATE 山形大学理学部 Faculty of Science, Yamagata University 摘  要 日本列島に生息する哺乳類の遺伝的多様性に関する知見をもとに,哺乳類相が形成 された過程を論じる。18 種の分子系統地理を比較すると,本州内で系統群が大きく 分かれる種,本土と島嶼で系統群が分かれる種,系統群が離散的に分布する種など多 様な遺伝的分化のパターンが見られる。ニホンジカ,ニホンザル,ツキノワグマ,ノ ウサギなどの種は本州中部で 2 系統群にわかれる共通のパターンを示すことから,こ れらの種は森林環境の変化とともに同調的に分布を変化させたと考えられる。集団レ ベルの遺伝的多様性の比較では,日本の哺乳類の地域集団が,乱獲,生息地の分断化 や保護など様々な人間活動の影響を強く受けていることが示された。さらに,外来種 の遺伝子浸透や新たな地域集団の形成が地域生態系に及ぼす影響が懸念される。 キーワード:遺伝的多様性,地域集団,比較系統地理,ヘテロ接合度-適応度相関, レフュジア Key words:genetic diversity, local population, comparative phylogeography, heterozygosity-fitness correlation, refugia 1.はじめに 日本の哺乳類相が形成された過程では,多様な起 源の哺乳類が異なる時期に日本列島に移入したこと が知られている 1。現在の日本列島には南北にかけ て変化する多様な森林環境があり,同緯度でも太平 洋側と日本海側では気象条件が異なるなど,動物に とって様々な生息環境が存在する。このような進化 的起源と生息環境の多様性を背景として,現在の日 本列島では 100 種以上の哺乳類が生息し,約 4 割が 固有種という豊かな動物相が形成されている。その うち陸上性の種については分子系統地理学的研究が 進んでおり,興味深い事実が明らかになってきた。 本稿ではその知見をもとに,日本列島の広域に分布 する哺乳類の遺伝的多様性を俯瞰して,日本の哺乳 類相の過去,現在,未来について論じる。 2.過去:種内変異の地理的分布と日本の哺乳類相 の成立過程 2.1 南と北に分かれる系統地理 日本の野生哺乳動物の遺伝的多様性に関する研究 では,タンパク質アロザイムをマーカーとしたニホ ンザルの集団遺伝学的調査が先駆けとなり 2,その 後の DNA マーカーを用いた分子系統地理学的研究 によって,様々な種の遺伝的変異が調べられてき た。その結果,種内変異の地理的分布に関して,複 数の種で共通するパターンがあることが明らかにな ってきた 3図1 は,日本の中・大型哺乳類の代表的な種で あるニホンジカ,ニホンザル,ツキノワグマのミト コンドリア DNA mtDNA)調節領域の分子系統樹で ある。mtDNA 調節領域はミトコンドリアゲノムの 複製に係る領域で,進化速度が比較的速いために種 内の遺伝的多様性を調べる研究でよく用いられてい る。mtDNA 調節領域の変異で見ると,3 種とも種 内で大きく分かれる 2 つの系統群が存在する。さら に,その地理的分布を見ると,いずれも本州の近 畿・中部地域を境にして南北(あるいは東西)で,系 統群が大きく分かれている(図 2A 2C4)- 7。この ように本州内で南北に分かれる mtDNA の系統地理 パターンは,ニホンノウサギ 8図 2D),ニホンジ ネズミ 9図 2E)などでも見られる。一方,イノシ シでは,地理的に明瞭に分かれる系統群はみられな 受付;2013 4 1 日,受理:2013 7 17 990-8560 山形市小白川町 1-4-12e-mail[email protected]

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Page 1: 遺伝的多様性から見えてくる日本の哺乳類相 :過去・現在・未来 · 2.過去:種内変異の地理的分布と日本の哺乳類相 の成立過程 2.1

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2013 AIRIES

遺伝的多様性から見えてくる日本の哺乳類相:過去・現在・未来

Genetic diversity in the mammalian fauna of Japan: past, present and future

玉手 英利*

Hidetoshi TAMATE *

山形大学理学部Faculty of Science, Yamagata University

摘  要 日本列島に生息する哺乳類の遺伝的多様性に関する知見をもとに,哺乳類相が形成された過程を論じる。18 種の分子系統地理を比較すると,本州内で系統群が大きく分かれる種,本土と島嶼で系統群が分かれる種,系統群が離散的に分布する種など多様な遺伝的分化のパターンが見られる。ニホンジカ,ニホンザル,ツキノワグマ,ノウサギなどの種は本州中部で 2 系統群にわかれる共通のパターンを示すことから,これらの種は森林環境の変化とともに同調的に分布を変化させたと考えられる。集団レベルの遺伝的多様性の比較では,日本の哺乳類の地域集団が,乱獲,生息地の分断化や保護など様々な人間活動の影響を強く受けていることが示された。さらに,外来種の遺伝子浸透や新たな地域集団の形成が地域生態系に及ぼす影響が懸念される。

キーワード:遺伝的多様性,地域集団,比較系統地理,ヘテロ接合度-適応度相関,レフュジア

Key words:genetic diversity, local population, comparative phylogeography, heterozygosity-fitness correlation, refugia

1.はじめに

 日本の哺乳類相が形成された過程では,多様な起源の哺乳類が異なる時期に日本列島に移入したことが知られている 1)。現在の日本列島には南北にかけて変化する多様な森林環境があり,同緯度でも太平洋側と日本海側では気象条件が異なるなど,動物にとって様々な生息環境が存在する。このような進化的起源と生息環境の多様性を背景として,現在の日本列島では 100 種以上の哺乳類が生息し,約 4 割が固有種という豊かな動物相が形成されている。そのうち陸上性の種については分子系統地理学的研究が進んでおり,興味深い事実が明らかになってきた。本稿ではその知見をもとに,日本列島の広域に分布する哺乳類の遺伝的多様性を俯瞰して,日本の哺乳類相の過去,現在,未来について論じる。

2. 過去:種内変異の地理的分布と日本の哺乳類相の成立過程

2.1 南と北に分かれる系統地理 日本の野生哺乳動物の遺伝的多様性に関する研究

では,タンパク質アロザイムをマーカーとしたニホンザルの集団遺伝学的調査が先駆けとなり 2),その後の DNA マーカーを用いた分子系統地理学的研究によって,様々な種の遺伝的変異が調べられてきた。その結果,種内変異の地理的分布に関して,複数の種で共通するパターンがあることが明らかになってきた 3)。 図 1 は,日本の中・大型哺乳類の代表的な種であるニホンジカ,ニホンザル,ツキノワグマのミトコンドリア DNA(mtDNA)調節領域の分子系統樹である。mtDNA 調節領域はミトコンドリアゲノムの複製に係る領域で,進化速度が比較的速いために種内の遺伝的多様性を調べる研究でよく用いられている。mtDNA 調節領域の変異で見ると,3 種とも種内で大きく分かれる 2 つの系統群が存在する。さらに,その地理的分布を見ると,いずれも本州の近畿・中部地域を境にして南北(あるいは東西)で,系統群が大きく分かれている(図 2A ~ 2C)4)- 7)。このように本州内で南北に分かれる mtDNA の系統地理パターンは,ニホンノウサギ 8)(図 2D),ニホンジネズミ 9)(図 2E)などでも見られる。一方,イノシシでは,地理的に明瞭に分かれる系統群はみられな

受付;2013 年 4 月 1 日,受理:2013 年 7 月 17 日* 〒 990-8560 山形市小白川町 1-4-12,e-mail:[email protected]

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玉手:日本の哺乳類の遺伝的多様性

いが,Nested clade analysis で示された系統群は東から西にかけて 4 地域に区分され,境界 I で隔てられる地域間の遺伝的違いが最も大きい 10)(図 2F)。 本州の中で南北に分かれる系統地理は,ヤチネズミとスミスネズミ,アズマモグラとコウベモグラのような近縁種の間でも見られる。ヤチネズミはおもに本州北部(図 2G),スミスネズミはおもに本州南部から四国,九州に分布する(図 2H)。リボソームRNA 遺伝子の変異(rDNA type)は両種で共通しており, お も に 本 州 東 部 で 見 ら れ る rDNA type

(Eothenomys-1)と,本州西部,四国および本州東部の一部で見られる rDNA type(Eothenomys-2)の 2つに分かれる 11)。アズマモグラとコウベモグラは,いずれも一部の同所的分布域を除き,アズマモグラは本州東部および四国に(図 2I),コウベモグラは本州西部,四国,九州に(図 2J)分布が分かれ,系統的にも分化している 12)。さらに,アズマモグラの種内では mtDNA のチトクローム b 遺伝子が a と bの 2 系統に分かれ,a 系統は東日本の静岡,神奈川から宮城までの太平洋沿い,b 系統(図 2I の b1・b2)は青森,新潟,京都,滋賀,四国の広範囲に分布している 12)。このような分布が生じた理由として,Iwasa and Abe13)は,b 系統が西日本から日本海沿いに分布を拡大して,東日本の a 系統と接するようになった可能性を示唆している。2.2 なぜ系統群は南北にわかれるのか 本州内で大きく分かれる南・北系統の境界付近では,動物の移動を妨げる大きな河川や高山帯などの地理的障壁はなく,森林環境の大きな変化も見られない。そのため,南北に分かれた系統地理は,現在

の生息環境よりも,過去に地域集団が形成された歴史的過程を反映していると考えられる。それでは,どのようなシナリオが考えられるのか。それに対して次のような「レフュジア仮説」が提起されている 5),6),14)。 更新世後期の最終氷期には針葉樹林が本州の大部分を占めた時期があり,限られた地域に残された広葉樹林のレフュジア(退避地)に哺乳類の多くの種が退避した。このようなレフュジアは複数あったと考えられる。「レフュジア仮説」では,それぞれでのレフュジアで系統的に異なる集団が生き残り,最終氷期以降の温帯林の拡大とともに分布を広げたために,現在のような地理的分化が生じたと考える。日本の温帯林の樹木でも南・北系統の分岐とレフュジアの関係が示されており 15)- 18),レフュジア仮説は,日本の森林に生息する動植物の系統地理パターンを説明する主要な考えの 1 つと言える。 南と北の系統はいつ,どこで分かれたのだろうか。mtDNA の分岐年代では,ニホンジカの 2 系統間は約 30 万年前 4),ツキノワグマの S,W,E 系統間では 43 ~ 48 万年前 6),ニホンノウサギの 2 系統間では 120 万年前 8)と推定された。また,イタチでは,本州と九州・四国で大きく分かれる mtDNA の2 系統(図 2K)の分岐年代が 83 ~ 117 万年前と推定された 19)。ニホンザルについては Kawamoto ら 5)では分岐年代推定は行われていないが,A・B 両系統間の進化距離からシカやクマとほぼ同程度の分岐年代と考えられる。いずれの種でも 2 系統が分かれた時期は最終氷期よりもはるかに古く,これらの動物が日本列島に移入した中期更新世あるいはそれ以前

W

E

B

A

S

N

ニホンジカ ニホンザル ツキノワグマ

S

0.01

0.01

0.005

図 1 日本に生息するニホンジカ,ニホンザル,ツキノワグマのミトコンドリア DNA の系統分化.ニホンジカ 4),ニホンザル 5),ツキノワグマ 6)の分子系統解析を行った原著論文で報告された,DNA Data Bank of Japan (DDBJ) 登録のミトコンドリア DNA 調節領域の塩基配列をもとに最小進化法で作成した分子系統樹.スケールバーは進化距離を示す.ニホンジカはNorthern (N)と Southern (S)の 2 系統,ニホンザルは A と B の 2 系統,ツキノワグマは S と,E および W の系統群に 2 分される.

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玉手:日本の哺乳類の遺伝的多様性 地球環境 Vol.18 No.2 159-167(2013)

S

N

D. ニホンノウサギ

E

W

E. ニホンジネズミ H. スミスネズミ

Eothenomys-2

Eothenomys-1

Kyushu-Shikoku

Honshu

K. イタチ

Hokkaido

Sado

N. トガリネズミ

Honshu-Shikoku

F. イノシシ

Ⅲ リュウキュウイノシシ

ニホンイノシシ

G.ヤチネズミ

Eothenomys-2

Eothenomys-1

a

b2

b1

I. アズマモグラ

d c

e

J. コウベモグラ

Ⅰa

Ⅰb

L. ヒメネズミ

Ⅱa/Ⅱb

Ⅱa

Ⅱb

Ⅱd

Ⅱc

M.アカネズミ O.カヤネズミ

B1

B2 EC

KK

KS

CG

P.カワネズミ

Ⅴ Ⅵ

Q.ヤマネ R.ムササビ

southern

southeastern

northern

central

southwestern

northern

southern

A. ニホンジカ

A1

B2 A2

B3

B. ニホンザル

B1 E

S

W

C. ツキノワグマ

図 2 日本の哺乳類の種別の系統地理.日本列島における各種の分布域(環境省自然環境局生物多様性センターの動物分布図集を使用)に,これまでの分子系統地理学的研究で明らかになった系統群の地理分布を重ねて表示した.色の違いは,原著論文で記載された各系統群を表し,英字とローマ数字はその名称を示す。図 2N の薄赤色(Honshu-Shikoku)と緑色(Sado)で示した部分はシントウトガリネズミの分布域,青色でしめした区域(Hokkaido)はバイカルトガリネズミの分布を示す.A,ニホンジカ 4);B,ニホンザル 5);C,ツキノワグマ 6);D,ニホンノウサギ 8);E,ニホンジネズミ 9);F,イノシシ 10);G,ヤチネズミ 11);H,スミスネズミ 11);I,アズマモグラ 12),13);J,コウベモグラ 12);K,イタチ 19);L,ヒメネズミ 20);M,アカネズミ 20);N,トガリネズミ 21);O,カヤネズミ 22);P,カワネズミ 14);Q,ヤマネ 23);R,ムササビ 24).種名は日本の哺乳類改訂版 25)に準拠した.なお,本図は,原著論文をもとに系統群の分布を連続した地域として概念的に表示したもので,今後,調査地点が増えれば修正される可能性も考えられる.

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玉手:日本の哺乳類の遺伝的多様性

台湾

北海道

本州東部

中国東北部

中国東北部

屋久島

中国西部

九州

本州西部

0.005

図 3 日本と大陸および台湾に生息するニホンジカの系統分化.

2012 年 12 月までに DDBJ に登録されたニホンジカの mtDNA 調節領域のうち反復配列を除く塩基配列(771bp)を基に,最小進化法により系統樹を作成した.ノード上の数字はブートストラップ確率,スケールバーは進化距離を示す.外群としてアカシカの配列(Cel1)を用いた.

と考えられる。 南・北の系統が大陸で分かれたとすると,それぞれの系統と姉妹群となる系統が大陸にも存在するのだろうか。筆者らがニホンジカを対象として,中国に生息する亜種の mtDNA 配列を加えた分子系統解析をした結果では,大陸でも 2 分岐パターンが見られた(図 3)。しかし,その分岐は日本のニホンジカが分かれた後に起こったもので,大陸産ニホンジカの系統群はすべて,南日本グループにより近縁となった。この結果は,ニホンジカの南北 2 系統のうち,まず北系統が大陸の祖先集団から分かれて日本に移入し,その後,大陸で新たに分かれた南系統が別な時期に日本に移入したことを示している。このような複数回にわたる移入の可能性は,他種でも示唆されている。コウベモグラは mtDNA のチトクローム b 遺伝子の系統が,本州,四国,九州(図 2Jの c,d,e)に分かれる。このうち九州の系統が大陸(韓国やロシア沿海州)の系統群とより近縁で,最も新しく分岐したことが示された 12)。このように 2分岐パターンを示す日本の哺乳類では,複数の祖先系統を起源として,現在のような遺伝的多様性と集団構造が形成されたと考えられる。2.3 多様な系統地理のパターン 本州内で南北に系統が分かれる種以外でも,様々な系統地理のパターンが見られる。 ヒメネズミとアカネズミは,どちらも mtDNA の

系統群が 2 分岐するが,興味深いことに,ヒメネズミは本州の中央部(図 2L の Ia・Ib)と辺縁部(図 2Lの IIa・IIb)の系統に分かれるのに対して,アカネズミは本土(図 2M の I)と島嶼(図 2M の IIa ~ IId)の系統に分かれた 20)。このように,同所的に分布し,ニッチも重複する部分が多いと考えられる近縁種間でも,系統地理には違いがみられる。 アカネズミでは,本州と北海道の間では系統群が分かれるが,本州から四国・九州までは単一系統となっている(図 2M)。同様のパターンは他種でも見られ,日本列島の中央部から北部に分布するシントウトガリネズミの mtDNA 系統は,佐渡を除き本州・四国で分かれない(図 2N)21)。また,日本列島の南部に分布するカヤネズミの mtDNA 系統でも,本 州・ 四 国・ 九 州 で 大 き な 分 岐 は み ら れ な い

(図 2O)22)。 より複雑な系統地理パターンがみられる種もある。カワネズミ 14)(図 2P),ヤマネ 23)(図 2Q),ムササビ 24)(図 2R)は,いずれも地域ごとに mtDNAの系統群が分かれており,いずれも複数のレフュジアへの退避と再拡大があったことが示唆されている。例えば,ムササビでは,北部系統は最終氷期以降に急速に北へと分布拡大し,本州中部から西日本にかけて分布する他の 4 系統は,分布拡大と縮小を経て,現在のような一部分断された分布になったと考えられている 24)。 興味深いことに,本州の広域に分布する多くの種では,東日本の集団が西日本に比べてより最近,急速に分布拡大したことが,種全体の地域間の遺伝的多様性の比較によって示されている。例えば,ニホンジカの mtDNA チトクローム b 遺伝子の地域変異を調べた研究では,北海道から兵庫までの広い範囲で遺伝的変異がほとんどみられない一方で,兵庫以西では多様な遺伝的変異が蓄積していた 26)。このことは mtDNA 調節領域を用いた分子系統解析の結果とともに,ニホンジカの東日本集団が急速に分布を拡大したことを示している。このような急速な分布拡大が起こった生物では,mtDNA ハプロタイプの系統ネットワークが,1 つの祖先的変異から放射状に多くの新たな変異が派生する星型のパターンを示すことが知られている。ツキノワグマやニホンザルでは,このような放射状のネットワーク構造が,東日本の系統群でみられる 5)- 7)(ツキノワグマのハプロタイプネットワークを図 4A に示す)。さらに,ツキノワグマでは,集団の急速な拡大を示す遺伝的多様性指標が有意な値となることも示されている。より複雑な系統地理を示す種でも,ハプロタイプネットワークで放射状に分岐するパターンがみられる種がある(図 4B ~ 4D)。 以上で述べてきたような,複数の種でみられる系統地理パターンの類似性と相違はなぜ生じたのだろうか。類似性については,日本の哺乳類が温帯林の

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玉手:日本の哺乳類の遺伝的多様性 地球環境 Vol.18 No.2 159-167(2013)

生物群集の一員として,他種の動植物と同調的に分布域を変化させた結果として説明できる。一方,相違をもたらした要因としては,種による生態学的性質の違いや種間相互作用などが考えられる。 生態学的性質の違いに関してまず考えられるのは移動能力である。中・大型哺乳類よりも移動能力が限られる小型哺乳類では,海峡や河川などの地理的障壁による分断の効果がより大きいと考えられる。また,地形や気象が生息環境に及ぼす影響も種によって異なる。ニホンジカ,ニホンザル,ツキノワグマ,イノシシについて好適な生息環境を比較した研究では,ツキノワグマでは急峻な地形が好適な生息環境として選択される一方,ニホンザルとイノシシでは冬期最低気温が低い地域が不適な生息環境となることが示された 27)。また,ヤマネやツキノワグマは冬眠するが,他のげっ歯類やニホンジカやニホンザルは冬期も活動的である。このような性質の違いによって,それぞれの種が生き残ったレフュジアの場所も局所スケールでは異なっていたかもしれない。 種間相互作用も,系統地理パターンの形成において重要な役割を果たす要因となりうる。アズマモグラとコウベモグラ,アカネズミとヒメネズミのよう

にニッチが重複する複数の種間では,資源をめぐる競争(排他的相互作用)がお互いの分布拡大に影響を及ぼした可能性が考えられる。一方,ニホンジカの採食による植生変化で,ニホンザルの好む植物が増加するような相互作用も知られている 28)。このように,ある種が他の種の好適生息環境をもたらすような場合には,複数の種が協調的に分布拡大したことも想定される。

3.現在:地域集団の遺伝的多様性

3.1 地域集団の遺伝的多様性の現状 集団(個体群)レベルの遺伝的多様性は,集団サイズの変動や他集団との遺伝的交流などによって変化する。そのため,島嶼や分断化した生息地の集団では,遺伝的多様性が低くなることが予想される。日本の哺乳類にもこのルールは当てはまり,生息個体数が約 100 頭と推定されるイリオモテヤマネコでは,マイクロサテライト DNA の変異が全くみられず,遺伝的多様性が極度に低下している 29)。また,生息地が分断された西日本のツキノワグマ集団は,連続した生息域をもつ中部日本の集団よりも遺伝的多様性が低い 30)。同様に,ニホンザルでも,生息域

図 4 ツキノワグマ(A),アカネズミ(B),カワネズミ(C),ムササビ(D)のミトコンドリア DNA のハプロタイプネットワーク.

ツキノワグマ 6),アカネズミ 4),カワネズミ 5),ムササビ 4)の原著論文で報告された DNA Data Bank of Japan (DDBJ) 登録のミトコンドリア DNA の塩基配列をもとに最小進化法で作成した統計的最節約系統ネットワーク.ツキノワグマでは調節領域,アカネズミ,カワネズミ,ムササビの 3 種ではチトクローム b 遺伝子の塩基配列を使用した.色つきの丸はデータベース登録ハプロタイプ,黒小丸はハプロタイプの分岐にともなって起こったと推定される 1 塩基置換を示す.色の違いは,原著論文で記載された各系統群を表し,英字とローマ数字はその名称を示す.図 2P で示したカワネズミの 4 系統(EC,KK,CG,KS)のうち,KS は他の 3 系統との遺伝距離が大きいために,ハプロタイプネットワークでは表示されない.図 2R で示したムササビの 5 系統(northern, central, southeastern, southwestern, southern)のうち,ネットワーク解析で分かれなかった southern と southwestern のハプロタイプを合わせて,southern & southwestern として表示した.

E

S W

図4A EC

KK CG

図4C

Ⅱc

Ⅱa Ⅱb

Ⅱd

図4B

central

northern

southern & southwestern

southeastern

図4D

A B

C D

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玉手:日本の哺乳類の遺伝的多様性

の最北端である下北半島と最南端の屋久島の集団は,他地域の集団と比べて遺伝的多様性が低いことが報告されている 31),32)。 北海道から屋久島まで 14 地域のニホンジカ集団の遺伝的多様性を比較した研究では,生息地面積と遺伝的多様性の間に有意な正の相関がみられた 33)。したがって,ニホンジカの場合は,現在の地域集団がもつ遺伝的多様性は,生息地の分断化の程度で決まっていると考えられる。しかし,例外的に,集団サイズと生息地面積が大きい北海道集団の遺伝的多様性は極めて低かった。北海道では明治期以降の乱獲と記録的な豪雪によって個体数が激減して遺伝的変異が失われ,その後,個体数は増加したが遺伝的多様性はまだ低い状態にあると考えられる。これを裏付けるものとして,北海道内の 17 ~ 19 世紀頃の遺跡から出土したニホンジカ骨からは,現生集団ではみられない mtDNA 遺伝子型(ハプロタイプ)が検出されている 34)。 一方,遺伝的多様性が低下した集団とは対象的に,金華山島や奈良のニホンジカのように長年にわたって宗教的理由で保護されてきた地域集団では,同規模の他集団よりも遺伝的多様性が高い傾向がみられた 3)。以上のように,地域集団の遺伝的多様性を比較することで,日本の哺乳類が地域スケールで,乱獲,生息地の分断化あるいは保護など様々な人間活動の影響を強く受けていると考えられる。3.2 地域集団の遺伝的多様性はなぜ重要か 地域集団がもつ遺伝的多様性にはどのような「価値」があるのだろうか。保全生物学の考え方によれば,遺伝的多様性は次の 2 点において重要とされる。まず,①遺伝的多様性の低下は,適応度要素

(fitness component)の減少をもたらし,種や集団の絶滅リスクを増加させる。②遺伝的多様性の低下は,種や集団が適応的に変化するための進化ポテンシャルを減少させる。①と②に関連して,日本の哺乳類を対象とした研究から,以下のようなことが明らかになってきた。 ①については,遺伝的多様性の尺度となるヘテロ接合度(standardized multilocus heterozygosity)と適応度要素の相関(heterozygosity-fitness correlation)が論じられているが,野生哺乳動物集団を対象とした実証的研究は少ない。そのため,筆者らは金華山島のニホンジカ集団を対象として,適応度要素である新生児体重に対する遺伝的多様性の影響を調査した。その結果,ヘテロ接合度が高い新生児ほど,出生時の体重が重くなることが示された(図 5)35)。したがって,少なくともニホンジカの場合には,地域集団の遺伝的多様性を評価することは,絶滅リスクを考えるうえで意味があると言える。 ②の進化ポテンシャルについては,2.1 で解説したニホンジカの南北 2 系統の間で,臼歯幅など下顎骨の形態が異なり,この形態的差異は現在の食性

(どのような植物を食べているか)の違いによって生じたのではないことが示されている 36)。したがって,ニホンジカでは,地域集団間で,下顎骨の適応的変化をもたらす遺伝的分化が起こっていると考えられる。また,アカネズミがクルミを利用する能力について飼育環境下で調べた研究では,mtDNA の系統群(本土系統と式根島・新島・三宅島系統)によってクルミを割る能力に違いがみられ,この違いは現在の生息環境によるものではなかった 37)。つまり,多様な採餌行動の基盤となる遺伝的多様性が種として維持されていると考えられる。以上のように,日本の哺乳類がもつ遺伝的多様性は,保全生物学や進化生物学の研究対象として注目されており,学術的な意味においても重要な遺伝子資源となっている。

4.未来:変容する日本の哺乳類の遺伝的多様性

4.1 外来種による遺伝子浸透 これまで見てきたように,日本の哺乳類は,日本列島の自然環境に適応しながら蓄積した固有の遺伝的多様性をもっている。しかし,外来種との交雑によって遺伝子浸透(gene introgression)が進行し,地域集団の遺伝的多様性に影響を及ぼすことが懸念されている。その代表例がイノブタである。日本で飼育されている家畜ブタ Sus scrofa domestica のほとんどはヨーロッパイノシシ S. scrofa scrofa を起源として家畜された品種で,ニホンイノシシ S. scrofa leucomystax とは遺伝的に大きく異なる。家畜ブタとニホンイノシシを交配して生まれるイノブタは各地で飼育されており,脱柵して野生のニホンイノシシと交雑する可能性が指摘されてきた 38)。加えて,

45

35

6

4

2

ヘテロ接合度

図 5 ニホンジカの新生児体重に対する遺伝的多様性の効果.

新生児体重に対する遺伝的多様性の尺度となるヘテロ接合度の効果を示す 3D グラフ.宮城県金華山島で,誕生後 48 時間以内のニホンジカ新生児 76 個体の体重を測定し,同時に組織サンプルを採取してマイクロサテライト遺伝子座位の標準化ヘテロ接合度

(standardized multilocus heterozygosity;sMLH と略す)を求めた 35).新生児体重を応答変数とする一般化線形混合モデルでは,影響を与える要因としてヘテロ接合度と母親体重が選択された.遺伝的多様性が新生児体重に及ぼす正の効果は,母親体重が増えるほど大きくなる.

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玉手:日本の哺乳類の遺伝的多様性 地球環境 Vol.18 No.2 159-167(2013)

2011 年 3 月に起こった東京電力福島第一原子力発電所の事故の被害地域では,野生化した家畜ブタとニホンイノシシの交雑が起こっている可能性が指摘されている。そのため,福島県は 2012 年度に DNAマーカーを用いて遺伝子浸透の実態調査を開始した。このような遺伝子浸透が進行すれば,日本の哺乳類が長い進化時間をかけて獲得した固有の形質が失われることが懸念される。4.2 分布拡大による新たな地域集団の形成 明治期以来,分布の空白域となっていた地域にニホンジカやイノシシをはじめとする様々な哺乳類が急速に進出している。一例をあげると,山形県では1919 年以降,シカの捕獲記録がなく,地域個体群は絶滅したと考えられていた。しかし,2009 年頃から再びシカが出没するようになり,目撃例は急増している。筆者らが山形県内で交通事故死したニホンジカの mtDNA を調べたところ,岩手県五葉山の系統と,尾瀬など北関東地域でみられる系統が混在していた 39)。つまり,山形県では現在,複数の地域集団由来の個体が繁殖することによって,新たな遺伝的多様性をもったニホンジカ集団が形成されつつあると言える。哺乳類は生態系ピラミッドの上位に位置するため,このような新たな地域集団の出現は,地域生態系や群集構造に大きな変化をもたらすことが予想される。

5.結語

 日本の哺乳類で起こっている様々な変化は,これから地域生態系に大きな影響を及ぼす可能性があり,推移を注視していく必要がある。生物多様性基本法のもと,各自治体では生物多様性地域戦略を策定して,地域における生物多様性の保全と持続的利用を進めることが求められている。地域における生物多様性の目標設定を行う際には,哺乳類の地域による遺伝的多様性と現在起こっている生息状況の変化を考慮することが特に重要だと考えている。

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玉手 英利Hidetoshi TAMATE

 1954 年宮城県出身。専門は生態遺伝学。東北大学大学院理学研究科博士課程修了。現職は山形大学理学部教授。ニホンジカ,ニホンザル,ツキノワグマなど日本の森林に生息する哺乳類の生態と集

団構造に興味をもち,主に遺伝学的な手法で研究を行っている。野生動物保護管理にも関心があり,環境省の平成 21~23 年度環境研究・技術開発推進費「クマ類の個体数推定法の開発に関する研究」(課題番号 S1)で,サブテーマ「個体数推定に関わる効果的な DNA 分析法の確立に関する研究」を担当した。