施設環境制御技術施設栽培の特徴 外部環境からの保護(protected cultivation)...

53
施設環境制御技術 農業技術研究機構 花き研究所 島地英夫

Upload: others

Post on 17-Oct-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

施設環境制御技術

農業技術研究機構

花き研究所

島地英夫

施設栽培の特徴

外部環境からの保護(Protected cultivation)低温 強風 雨 病害虫 鳥外 雹 強日射

雨を遮る土壌水分の制御(かん水施設の設置)降雨による病害や生理障害の抑制

温度を制御暖房装置を用いた秋季から春季の気温の上昇 (抑制栽培、

促成栽培、周年栽培)パット&ファンや細霧冷房装置による高温抑制地温の制御

光環境を制御遮光フィルムを用いて夏季の気温の上昇抑制弱光を好む植物の栽培補光を行うことで冬季などの光合成の活性化電照による日長処理

風環境を制御循環扇による風制御

CO2環境の制御CO2施与装置を用いて光合成を活性化させる

湿度を制御細霧(ミスト)を発生させ、湿度を高める換気、フィルム、除湿機を用いて湿度を低下

光調整フィルムハウス内に入射する太陽の放射(光)は、紫外線から、可視光、赤外線まで広くその波長が分布している。作物の生育(光合成)に必要なのは400~700nmの波長で、一般的には透過率は高いほうが好ましいとされているが、下記に示す機能を有する資材が開発されている。

紫外線カットフィルム:紫外線をカットするフィルムは,多くの昆虫が飛翔できないために、害虫忌避効果が高

い。また、ある種の病気に対しても抑制効果がある。ニラ等、生育促進効果も報告されている。

生育調整フィルム:赤色光(670nm)と遠赤色光(760nm)のスペクトルの光強度の比を変えると、植

物の伸長を変えることができる。このような波長の選択透過性フィルムを、生育調整フィルムといい、矮化剤を使用することなくコンパクトな生育をさせることができ、苗生産においての適用が期待されている。

赤外線カットフィルム:光合成とは関係ない赤外線部だけをカットして、遮熱資材として、夏季の高温回避を

狙いとする資材が開発されている。実際には、可視光の部分も透過率が落ちる、また、冬季にはハウスの温度が上昇しないために、生育が低下するなどの問題点もあるが、ハウス内の作業環境改善には有効である。

波長変換フィルム:植物が緑色に見えるのは緑色の多く反射させるためで、緑色光を赤色に変換

して光合成効率を高めようとする狙いのフィルムである。可視光の全体の透過率が落ちてしまうために、期待通りの結果は十分に得られていない。

散光性フィルム:作物が群落を形成しているときには、散乱光の割合が増加すれば群落光合成

が増加することが理論的にも実験的にも増加するといわれている。夏季において、直達強光からの軽い遮光効果による高温障害を回避と、光環境の均一化の効果がある。梨地フィルムなどポピュラーな製品として出回ってはいるが、散光性に関する試験研究は少なく、今後の検討が必要である。

クロミックフィルム:光の強度に応じて変色するものをフォトクロミックとよび、サングラス等で

商品化されている。また、高温になると着色する資材をサーマルクロミックとよぶ。農業資材として利用するには,コストを含め改良するところが多い。

紫外線調節フィルムの効果

生育調整フィルム

葉 数 :枚

葉 長 :cm

生 体 重 :g

対照ハウス

10.9 12.1 59.3

遮熱ハウス

11.6 14.0 78.4

葉 数 :枚

葉 長 :cm

生 体 重 :g

対照ハウス

10.9 12.1 59.3

遮熱ハウス

11.6 14.0 78.4

葉 数 :枚葉 数 :枚

葉 長 :cm葉 長 :cm

生 体 重 :g生 体 重 :g

対照ハウス対照ハウス

10.910.9 12.112.1 59.359.3

遮熱ハウス遮熱ハウス

11.611.6 14.014.0 78.478.4

調査:1997.9.30,葉数・葉長は10株平均,生体重は10株合計

表 遮熱フィルムを用いた夏播きホウレンソウの品質

赤外線カットフィルムによる高温抑制

図1 標準化仕様による温室環境制御装置とインターネットの接続

(ESDのホームページより引用)

モデム

プリンター

Windows 95対応パソコンR

MO UPS

自宅

外出先

センサ入力 制御出力

FA-M3メインユニット FA-M3サブユニット

FA-M3内蔵

プログラマブルコントローラFA-M3メインユニット (CPU付き)

FA-M3サブユニット (CPU無し)

外部気象センサ

制御盤センサ

制御機器

センサ信号は最寄りのFA-M3に接続

温室

1台のFA-M3メインユニットで 最大10棟制御

光ファイバー

それぞれのメインユニットにはサブユニット7台まで接続可能

1システム最大60棟管理

農場管理室

イー サネット

システム全体でメインユニットは10台接続可能

イー

サネ

ット

遠隔監視・制御

温室

のコン

トローラへ

アクセス

農場のパソコンにアクセス

連棟やダッチライト温室にも対応

携帯電話やポケベルにアラーム通知

温室環境制御装置の主な制御項目

制御項目 制御機器 目的・効果

換気 天窓,側窓,換気扇 上限温度維持

除湿

炭酸ガス補給

暖房 温風暖房機

温湯ボイラとポンプ 下限温度維持

相対湿度低減

保温 カーテン 放熱抑制

炭酸ガス 炭酸ガス発生器

炭酸ガスボンベ 炭酸ガス高濃度化

光調節 遮光カーテン 高温抑制,日長処理(短日)

補光ランプ 補光,日長処理(長日)

ミスト・細霧 細霧冷房 冷房,加湿

冷房 ヒートポンプ 夜間冷房,根圏冷房

撹拌 撹拌扇、温風暖房機の送風機

温度均一化、葉面結露防止

養液栽培 培養液調節 EC・pH調節

給液装置 給液量調節

かん水 かん水装置 土壌水分調節、頭上散水

養液土耕

外部気象センサ

日射計

温度計

湿度計

風速計

風向計

感雨計

その他

内部気象センサ

温度計

湿度計

CO2計

その他

養液栽培センサ

EC計

pH計

その他

土壌水分センサ

テンシオメータTDR

人工光を用いた閉鎖型苗生産システムの実用化

(千葉大学 園芸学部)

播種後28日目のパンジー苗

播種後64日目のパンジー苗左:閉鎖型システムで28日間育苗したのち温室で36日間育苗した。右:. 温室で播種し、そのまま64日間育苗した。

左側の苗の方が開花が早い。

多目的利用細霧システムによる細霧冷房

目的冷房加湿薬剤散布

0

500

1000 

日射

W/㎡ 2002/8/5

20.0

25.0

30.0

35.0

温度

 ℃

20

40

60

80

100

湿度

 %

6:00 12:00 18:00

外気温内気温

内湿度

外湿度

時間幅比例積分制御を用いた細霧冷房

流滴性資材と吸湿性資材を用いたハウス内の湿度調節(入江,1995)

二酸化炭素施用

バラのCO2施用(奈良県・渡辺199

7)

シクラメンのCO2施用 (奈良県・前田 1998)

トリ・ジェネレーションシステム

栽培中の園芸作物の吸水量に基づいて自動給液する設備

1 制御コンピュータ

2 給液ノズル

3 噴霧栽培ベッド

4 排液口

5 排液器具

6 電子天秤

0

20

40

60

80

100

120

140

6:00 9:00 12:00 15:00 18:00

時   刻

給液

量・排

液量

・吸

水量

(m

l/分

) 給液量

排液量

吸水量

0

1000

2000

3000

4000

6/30 7/3 7/6 7/9 7/12 7/15

月  日

給液

量(m

l/h/ベ

ッド

)

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

草丈

(cm)

給液量(吸水量法)

給液量(日射比例法)

草丈(吸水量法)

草丈(日射比例法)

P

45

67

9 h

循環式養液栽培システム

1.給液装置

2.排液パイプ (連通管式)

3.制御装置

4.養液タンク (1回かん水量の容量)

5.養液センサ

6.戻り養液センサ

7.養液補給システム

8.培地

9.栽培槽

h 排液パイプ内水位

ロードセルによる流量計測 養液タンクの水位変化から計測

0

2

4

6

8

10

給液

タン

ク水

量変

位 

(l) タンク補給

かん水

0

1

2

3

4

5

補給

・かん

水量

 (l

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

排液

流量

 (l/m

9:30 10:00 10:30

かん水量

補給水量

排液流量

矢印のところに、小さな孔があり漏出されるが、塩ビ管から出る排液流量が閾値を超えると水位が上昇して、ON信号が検出される。

簡易流量計と排液量制御

連通管の排液パイプに取り付けた流量センサ

排液流量が約40cc/min以上になったら、ON信号がシーケンサに送られる.流量センサの底には0.8mmの穴があけられ、流量が40cc/min以上でオーバーフローして、電極に接触する.ゴミよけが要である.

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

0.07

0.08

0.09

0.1

時刻

排液

流量

 (L

/m

in)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

2

かん

水量

 (L)

9:00 10:00 11:00 12:00

ヒマワリ養液栽培における排液量を指標としたかん水制御

かん水間隔30分流量センサのONとOFFの時間を1:10になるように制御

空気膜構造による太陽エネルギー利用省エネハウスの開発

屋根面の流水で太陽熱の集熱、夜間の放熱、16mmポリエチレンパイプ25cm間隔、2段の埋設パイプにより地中蓄熱.

地中伝熱

日射

放射

対流

伝熱

気温湿度

結露

蒸発

散蒸

発潜

凝結

潜熱

対流

伝熱

外気

天空

放射

換気 熱水蒸気

空気膜構造の太陽エネルギー利用のメカニズム

空気膜空気膜構造を用いて透明な3枚のプラスチックフィルムから構成され、その上層空間は加圧空気により構造的な強度を支える役割を果たし、下層の密着した隙間の流水によって太陽熱の集熱を行う。すなわち、屋根面が透明な集熱器となる。

集熱され温められた水は、地下埋設パイプを通して、地中を温め、蓄熱する。

夜間の暖房は、昼間集熱した20℃程度の水を再び空気膜の下層を循環させて、放熱・暖房する。低温の熱源ではあるが、温室内空間を囲うために、低温の熱源で暖房可能な方式となる。

-10

0

10

20

30温

度 

0

200

400

600

800

日射

 kc

al/

h・m

2

日射

外気温

室内気温

バッファタンク水温

屋根戻り水温

A

12

17

22

温度

 ℃

地温30cm

地温10cm

地温5cm

B

ハウス内温度の推移

地温が集熱すると20℃、放熱の終了した明け方には15℃に低下する。

補助暖房がない状態では、外気温より約10℃の暖房能力である。

-60

-30

0

30

60

90

120

0 100 200 300 400 500

日射強度 kcal/㎡h

取得

熱量

 kc

al/

㎡h

日射エネルギーが大きくなると集熱量が大きくなる。低日射でも集熱が行われるのは、流水温度が低いとき、膜面に結露するとその潜熱で集熱効率が上昇する。

-80

-40

0

40

80

120

160

-2 0 2 4 6 8 10 12

室内気温-水温 ℃

取得

熱量

 kc

al/

㎡ h

□ 流水の出入り口の温度差から求めた熱量◇ 熱収支式から求めた熱量

室内気温と流水温度差によって取得熱量が決まる.日射が多いと室内気温が上昇して集熱量が増加し、流水温度が低いときも集熱量が増加する。また、流水温度が低いと結露潜熱で集熱効率が上がる。

エネルギー集熱量

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

温度

 ℃

0

200

400

600

800

日射

 W

/㎡

18:00 0:00 6:0012:00

補助暖房機(2kW=1720kcal/h)運転

外気温

補助暖房を用いた冬季夜間のハウス内の温度変化

省エネルギー

現在の本システム単独の暖房能力は、外気温+10℃程度である。

補助暖房を追加する実験を行った結果、外気温に対して+18℃室内気温をあげるためには、通常の20%程度の暖房で上げることができた。この理由は、流水していない部分からの放熱を補うだけの暖房をすればよいことから、僅かの暖房能力で昇温可能となり、省エネ率は80%になる。

0

40

80

120

160

-4 -2 0 2 4 6

外気温 ℃

暖房

負荷

 kc

al/

h/

一般温室カーテン1層

   暖房温度=15℃

空気膜ハウス

暖房温度=15℃

蓄熱水温が14℃のとき

暖房温度=12℃

周年栽培における実用規模での栽培実証あるいは普及

1.普及可能なハウスの開発低コスト化

新たなハウス構造の開発 → 鉄骨量を減らした張弦梁構造フィルム展張等の施工性の改善 → パネル化

ハウス性能(換気や採光性)の改善 → 換気窓の大型化

2.太陽エネルギー利用効率改善集熱・暖房性能の改善

→ 空気膜内流水面積を拡大したハウス設計

蓄熱性能の改善→地下蓄熱水槽に設計変更→ 蓄熱量の増大と雨水貯水兼用

石油暖房 100~60%削減

プロジェクト研究「温暖化イニシャチブ」の研究内容

試作ハウス(240㎡)

張弦梁構造

地下蓄熱水槽、雨水貯水槽兼用深さ30cm(46t)

パネル式空気膜 大型換気窓

試作ハウスの特徴

間口16m×桁行き15m(240㎡)、軒高3m

実用規模としては最小限の大きさを確保

地下埋設の水槽(蓄熱と雨水貯留兼用)設置工事

内部構造(約2×3mの空気膜パネルで構成)

Ventilator Operating Mechanism

Damper

Wire

Motor-driven shaft

Prototype Greenhouse of New design

Beam string structure

4 m

3 m

3 m2.3 m

Panel for roof ventilator

Water tub

Air-inflated roof panel with fluorine film

-5

0

5

10

15

20

25

30

35

40

0:0

0

4:3

0

9:0

0

13:3

0

18:0

0

22:3

0

3:0

0

7:3

0

12:0

0

16:3

0

21:0

0

1:3

0

6:0

0

10:3

0

15:0

0

19:3

0

0:0

0

4:3

0

9:0

0

調査時刻(2003/2/6~2/8)

温度

(℃

対照ハウス

空気膜ハウス

外気温

図 2 空気膜二重構造と天井カーテンの違いがハウス内気温に及ぼす影響

(宮城県 岩崎、2004)