光配線システム 光配線切替え・管理 遠隔自動化 r d 自動光配線 … ·...
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R&Dホットコーナー
NTT技術ジャーナル 2004.9 43
光配線切替えの自動化の重要性
インターネットを中心としたブロードバンドサービスの急速な進展とともに通信網の光化がオフィスや家庭にまで広がってきています.通信網の光化では高速・大容量サービスを高信頼で安価に提供するネットワーク,装置開発が必要ですが,設備導入後のランニングコストを低減することも重要なポイントとなっています.今回,NTTマイクロシステムインテグレーション研究所では,人手中心の光配線切替作業を自動化し,運用コストを低減できる自動光配線切替装置(光DF)を新たに開発しましたので紹介します.■従来の光配線切替方式と自動化の
有効性
光ファイバを用いたブロードバンドサービスを提供するためには,インテリジェントビル内やアクセス網の収容局内での光配線切替作業が必要です.こういった光配線切替作業は,現状では人手により光コネクタをパッチパネルや光配線盤に接続して行われています.この人手による作業では,光配線切替えと配線管理が別工程になるので配線ミスが起こるといった信頼性の問題や,遠隔地
での配線切替えや故障対応作業に必ず保守者を派遣するため,光配線切替えに莫大な時間を要し,保守運用コストが高いという欠点があります.これら人手作業の欠点の解消手段としては,光配線切替えの遠隔自動化が有効です.■適用領域
光アクセス網やメトロネットワークの高信頼化,経済化をねらいに開発した自動光配線切替装置の適用領域を図1に示します.本装置の導入により,光アクセス網では,お客さまのサービス開通・移転時のSO(Service Order)工事即時化や工事無派遣化が可能となり,またメトロネットワーク内のインテリジェントビルでは,フロア模様替え時のネットワーク再構築やフロア間のプライベートネットワークの柔軟な構築を行うことができます.
自動光配線切替装置の構成
次に光アクセス網やメトロネットワークに適用される自動光配線切替装置の仕様ならびに開発した装置について説明します.■主な仕様
インテリジェントビルやRT -BOX(Remote Terminal Box)などに設置される光配線切替装置に要求される仕
様を表1に示します.200心はRT-BOXなどで標準的に使用される接続規模です.また他装置・部品との実装を効率的にし,多様な使用形態に対応するため,19インチラックやRT-BOX装置架へ実装できることが要求されます.光学特性としては,単心光コネクタ並みの低損失・低反射性,低波長依存性が必要であり,さらに停電時に接続状態が保持される自己保持性が求められます.また切替時間としては,人手作業と同程度の1分が要求されます.耐環境性としては,温湿度条件,電磁環境両立性(EMC: Electromagnetic Compatibility),耐震性能などが必要となります.■開発装置構成
要求される接続規模,光学特性,自己保持機能等を実現するためには,光コネクタ接続方式が優れていると考え,光コネクタをロボットにより光アダプタに挿抜して光配線切替えを行うロボットハンドリング方式を採用しました.自動光配線切替装置は,光接続部と
ロボット機構部およびその制御用コントローラから構成される光配線切替モジュールと,光配線指示と管理を行う制御端末PC(保守運用ソフトウェア)から構成されます.自動光配線切替装置の構成を図2に示します.1装置架に複数
自動光配線切替装置の開発NTTマイクロシステムインテグレーション研究所
R&D
みずかみ ま さ と まきはら みつひろ いながき しゅういちろう ささくら く に ひ こ
水上 雅人 /牧原 光宏 /稲垣 秀一郎 /笹倉 久仁彦
光配線システム 光配線切替え・管理 遠隔自動化
光配線管理の自動化が可能な200×200心規模自動光配線切替装置を世界に先駆
けて開発しました.インテリジェントビル内ネットワークやアクセス系光ネットワー
クにおける光配線の切替え・管理を遠隔から行うことができ,光配線運用コストの
低減を実現できます.
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台の光配線切替モジュールを実装できます.1台のコントローラで最大4台のモジュールを制御可能とし,経済化を図りました.耐環境性を実現するため,温湿度対
策では,熱膨張に対する位置補正を行い,EMC対策では,筺体から電波が漏洩しない密閉構造とし,また耐震対策では,耐震用機構および後述の保守運用ソフトウェアと連動した耐震シーケンスを開発しました.次に光配線切替モジュール,保守運
用ソフトウェアの詳細を説明します.■光配線切替モジュール
ロボットハンドリング方式の光配線切替モジュールを図3に示します.本モジュールによる光配線切替えは,①ロボット機構により光アダプタから光コネクタプラグを抜去し,②光ジャンパコードをいったん余長収納カートリッジに巻き取って,光コネクタプラグを基準位置に位置
決めし,③ロボット機構により光コネクタプラグを把持し,目的の光アダプタに接続する,ことにより実現されます.本モジュールでは,小型・高密度化
を達成するため,光接続部,余長収納カートリッジおよびロボット機構を新規に開発しました.光接続部の高密度化を図るため,光
アダプタを2段千鳥配置で構成した25心ハウジングを縦2段に並べた4段構成
の接続盤構造としました.余長収納カートリッジは複数心を一括で収容可能な構造とし,小型・高密度化を実現しています.これらにより,接続規模200×200心の完全群を従来に比較して2倍の実装密度で実現し,19インチラック,NTT標準架,RT-BOX装置架への実装を可能にしました.さらに高密度実装した接続盤に対し
て,光配線切替えを行うためには,4段
図1 自動光配線切替装置の適用領域�
・フロア模様替え時のネットワーク再構築�・フロア間のプライベートネットワーク構築�・光ネットワークの高信頼化�
・SO工事(開通,移転等)の即時化�・無派遣工事による運用コスト削減�・人手なしによる接続の高信頼化�
光アクセス網�
マンション群�
大需要ビル�
保守�端末�
インテリジェント�ビル群�
メトロネットワーク� RT-BOX
Bフレッツ網�
光DF
光DF
小需要ビル�
自動光配線切替装置(光DF)�
中継用�IDMIDM
ルーラルエリア�
表1 主な要求仕様
接続規模
装置サイズ
光学特性
自己保持性
切替時間
耐環境性
温湿度条件
EMC性能
耐震性能
200×200心の完全群
19インチラック,NTT標準架,RT-BOX装置架に搭載可能
挿入損失:1dB以下 反射減衰量:40 dB以上,低波長依存性
有(装置給電停止状態)
約1分
動作温度:5~45 ℃ 湿度:20~70%RH
VCCI クラスA
震度7相当の地震で損傷なきことVCCI(Voluntary Control Council for Information Technology Equipment):情報処理装置等電波障害自主規制協議会
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構成の接続盤全域にアクセス可能なフィンガ*1が必要となります.そこで有限要素法*2による長尺フィンガの構造設計
を行い,光コネクタプラグの光アダプタへの接続,接続解除が可能なフィンガ構造を実現しました.
また本モジュールではコストを削減するため,ロボット機構などにおける異形複雑構成部品の一体成型化と複数心一括収容余長収納カートリッジの成型化を図りました.■保守運用ソフトウェア
保守運用ソフトウェアは制御端末PC上にインストールされ,光配線切替モジュールとは,LANもしくはRS-232C回線を用いて接続されます.1台の制御端末PCで複数の光切替モジュールを遠隔から制御できるので,配線管理業務の集中化によるコストダウンが図れます.図4に開発した保守運用ソフトウェアの機能構成を示します.保守運用ソフトウェアには大きく分けて,端末操作者が光配線の接続,切断,切替えなどの光配線切替えやデータベース管理を行うための運用モードと,保守者が装置をメンテナンスするためにロボット機構の各要素の試験を行う保守モードがあります.運用モードでは,制御端末PCとコン
トローラの通信回線を接続・切断するための通信回線制御機能,制御端末に接続される光配線切替モジュールの装置情報や光配線情報を登録する設備登録機能,指定した光配線の接続,切断,切替えなどを行う光配線切替機能,地震発生後に耐震復旧シーケンスを実行する耐震処理機能などがあります.保守モードでは,装置に設けたセンサの状態表示機能,ロボット機構や巻き取り機構などの各機構要素を初期化する機能,またそれら機構系の試験機能,複数の配線切替作業を設定した順番で連続実行できるバッチ処理機能を実現しています.これらの機能は,GUI(Graphical User Interface)ベース
*1 フィンガ:ロボット機構において光コネクタプラグを把持するための機構.光コネクタプラグの外形に合わせた指構造を持ち,2本指の開閉により光コネクタプラグの把持を行います.
*2 有限要素法:微分方程式を近似的に解くための数値解析の方法.複雑な形状・性質を持つ物体を単純な小部品に分割することで近似し,全体の挙動を予測しようとするもの.
図2 自動光配線切替装置の構成�
自動光配線�切替装置�
光配線切替�モジュール�
コントローラ�
制御端末PC
(a) NTT標準架実装例� (b) 保守運用ソフトウェア�
図3 光配線切替モジュール構成�
ロボット機構� 光接続部�
入出力光ファイバ� 余長収納カートリッジ� 入出力光ファイバ�
フィンガ部�
25心ハウジング�
光アダプタ�
光コネクタ�プラグ�
光ジャンパ�コード�
巻き取り�機構�
移動機構�
接続盤�
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の運用管理ソフトウェアとすることで,特別なスキルを持たない端末操作者が簡易に操作できるよう設計されており,光配線切替えから配線管理データベースの更新までの一元管理を可能としました.これにより,光配線切替えを簡単にしかも間違いなく行うことができるようになりました.
自動光配線切替装置の主な性能
最後に,自動光配線切替装置の主な性能について説明します.表2は装置の性能を評価した結果です.新規に開発した接続部品(光部品単体)は,MU(Miniature Unit-coupling)形光コネクタと同等の性能であり,テルコーディアGR-326で規定された長期信頼性試験をクリアすることを確認しました.装置としては,初期光学特性は挿入
損失1dB以下,反射減衰量40 dB以上を達成し,1対の光ジャンパコードの切替えを平均1分以下の時間で実現しました.耐環境性としては,使用温度範囲内
で動作可能であり,VCCI(VoluntaryControl Council for InformationTechnology Equipment)のクラスAを満足するEMC性能を確保し,建物下層階震度7相当(入力加速度10 m/s2)の地震後にも本装置の安定した動作が可能な耐震性能を実現しました.以上述べてきた評価試験の結果から,
光配線切替装置として十分実用に供せられる性能を持つことを確認しました.
(左から)水上 雅人/ 牧原 光宏
稲垣 秀一郎/ 笹倉 久仁彦
今後は市場規模の拡大,ユーザニーズ多様化に柔軟に対応していきます.
◆問い合わせ先NTTマイクロシステムインテグレーション研究所ネットワーク装置インテグレーション研究部TEL 046-240-2068FAX 046-270-2322E-mail [email protected]
図4 保守運用ソフトウェア機能構成�
通信回線制御�
設備登録�
光配線切替�
耐震処理�
センサ�
状態表示�
初期化�
機構系試験�
バッチ処理�
運用モード� 保守モード�
表2 性能評価結果
試験項目
光部品単体
装 置
光学特性
長期信頼性
光学特性
切替時間
温湿度特性
EMC性能
耐震性能
耐環境性
性 能
挿入損失:0.5 dB以下 反射減衰量:45 dB以上
テルコーディアGR-326をクリア
挿入損失:1dB以下 反射減衰量:40 dB以上
平均1分以下(1対ファイバ交換)
温度:5~45 ℃ 湿度:20~70%RHで動作
VCCI クラスA装置の規定をクリア
建物下層階震度7相当(通信装置の耐震試験方法)の地震波印加後に安定動作可能