航空レーザ測深機(alb)による 河川横断測量代替 …防災関連...

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技術紹介 防災関連 河川横断測量とは、左岸の距離標を起点として、直接 水準方式により河川を 200m ~ 500m 間隔で、横断方向 に測量して、河道形状を概略的かつ精密に測量する方法 です。その精度は 3 級もしくは 4 級水準レベルであり、 数 cm の精度を確保していることから、河川管理全般で 広く利用されています。 しかし河川横断測量の課題として、多くの労力と時間 が必要となることから、作業の効率化や省力化が求めら れているところです。 一方、最近の河川管理では、シミュレーション技術の 進展に伴い、測線間隔よりも細かい計算が可能であるた め、測量分野でもより細かい間隔での河道形状の把握が 求められています。 そこで、本報告では、航空レーザ測深機(以降、「ALB」 とする)を用いた河川横断測量への代替の可能性や、浅 水域を含む面的なデータの取得状況について確認しまし たので、その結果を紹介します。 はじめに 対象河川は、VQ-820-G の測深性能を考慮して、水深 1m 未満の河道を有する浅川と、それよりも相対的に水 深が深い多摩川を選定しました。 ALB による測深成果のうち、標高段彩図を図 2 に示し ます。左図は浅川の例ですが、堤内地から水域まで連続 してデータが取得できていますが、右図に示す多摩川で は、白く抜けた欠測域が目立つ結果となりました。 次に図 3 に同時取得した航空写真図を示します。右図 に示す多摩川の水部では、水深が浅いと推定される茶色 の水域と、水深が深いと推定される黒い水域の 2 つの色 調が確認されました。このうち、ALB により連続的にデー タが取得できたのは、前者になります。 さらに測深性能を定量的に評価するために、ALB 計測 日と合わせて、横断測量を実施しました。横断測量の手 法は、水深 1m 未満の箇所では VRS-GNSS を、それよ り深い箇所では音響測深器(シングルビーム)による深 浅測量を実施し、比較検証用の横断図を作成しました。 図 4 に ALB による計測点と、前述の実測横断図との 重ね合わせ図を示します。この横断図から、浅川の例で は ALB により、RMSE が 0.06m と精度よく河床形状が 再現できました。 一方、多摩川の例では、水深が 0.9m 以浅の範囲で地 形の再現性が高いものの、それより深い場所では、デー タが欠測していることが確認されました。 河川横断測量への摘要の可能性に向けた実験 航空レーザ測深機(ALB)による 河川横断測量代替の可能性について 防災地質部 おかざき 崎 克 かつ とし ・戸 むら けん ろう 空間データ解析センター かね しんいち センサー技術部 おお とも 本検討で用いる ALB の機材は、運用のしやすさを重視 して、世界最小の機材であるリーグル社製の VQ-820-G を選定しました。この機材の特徴は小型であること、計測 密度が従来の陸上用レーザと同等の性能を有していること です。しかし小型であるため、レーザ出力が弱く測深性能 が低いことが課題です。そこで本機材が堤内地からどの程 度の浅水域まで対応できるのかを検証しました。 使用する機材 水部も含めた面的なデータ取得による河川管理の高度化に向けて For the Future 2016 図1 航空レーザ測深機器(ALB) 名称 VQ-820-G 測深頻度 (kHz) 149 重量 (kg) 30

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Page 1: 航空レーザ測深機(ALB)による 河川横断測量代替 …防災関連 今回の検証から、堤内地から水深1m程度の浅水域まで は、ALBにより高い計測性能が確認されるとともに、従

技術紹介 防災関連

河川横断測量とは、左岸の距離標を起点として、直接水準方式により河川を 200m~ 500m間隔で、横断方向に測量して、河道形状を概略的かつ精密に測量する方法です。その精度は 3級もしくは 4級水準レベルであり、数 cmの精度を確保していることから、河川管理全般で広く利用されています。しかし河川横断測量の課題として、多くの労力と時間が必要となることから、作業の効率化や省力化が求められているところです。

一方、最近の河川管理では、シミュレーション技術の進展に伴い、測線間隔よりも細かい計算が可能であるため、測量分野でもより細かい間隔での河道形状の把握が求められています。そこで、本報告では、航空レーザ測深機(以降、「ALB」とする)を用いた河川横断測量への代替の可能性や、浅水域を含む面的なデータの取得状況について確認しましたので、その結果を紹介します。

はじめに

対象河川は、VQ-820-G の測深性能を考慮して、水深1m未満の河道を有する浅川と、それよりも相対的に水深が深い多摩川を選定しました。ALBによる測深成果のうち、標高段彩図を図 2に示します。左図は浅川の例ですが、堤内地から水域まで連続してデータが取得できていますが、右図に示す多摩川では、白く抜けた欠測域が目立つ結果となりました。次に図 3に同時取得した航空写真図を示します。右図に示す多摩川の水部では、水深が浅いと推定される茶色の水域と、水深が深いと推定される黒い水域の 2つの色調が確認されました。このうち、ALBにより連続的にデータが取得できたのは、前者になります。

さらに測深性能を定量的に評価するために、ALB計測日と合わせて、横断測量を実施しました。横断測量の手法は、水深 1m未満の箇所ではVRS-GNSS を、それより深い箇所では音響測深器(シングルビーム)による深浅測量を実施し、比較検証用の横断図を作成しました。図 4に ALB による計測点と、前述の実測横断図との重ね合わせ図を示します。この横断図から、浅川の例ではALBにより、RMSE が 0.06mと精度よく河床形状が再現できました。一方、多摩川の例では、水深が 0.9m以浅の範囲で地形の再現性が高いものの、それより深い場所では、データが欠測していることが確認されました。

河川横断測量への摘要の可能性に向けた実験

航空レーザ測深機(ALB)による河川横断測量代替の可能性について

防災地質部 岡おかざき

崎 克かつ

俊とし

・戸と

村むら

 健けん

太た

郎ろう

空間データ解析センター 金かね

田た

 真しんいち

一センサー技術部 大

おお

鋸が

 朋とも

生お

本検討で用いるALBの機材は、運用のしやすさを重視して、世界最小の機材であるリーグル社製のVQ-820-Gを選定しました。この機材の特徴は小型であること、計測密度が従来の陸上用レーザと同等の性能を有していることです。しかし小型であるため、レーザ出力が弱く測深性能が低いことが課題です。そこで本機材が堤内地からどの程度の浅水域まで対応できるのかを検証しました。

使用する機材

水部も含めた面的なデータ取得による河川管理の高度化に向けて

For the Future 2016

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図1 航空レーザ測深機器(ALB)

名称 VQ-820-G

測深頻度(kHz) 149

重量(kg) 30

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Page 2: 航空レーザ測深機(ALB)による 河川横断測量代替 …防災関連 今回の検証から、堤内地から水深1m程度の浅水域まで は、ALBにより高い計測性能が確認されるとともに、従

防災関連

今回の検証から、堤内地から水深1m程度の浅水域までは、ALBにより高い計測性能が確認されるとともに、従来の河川横断測量に代替した成果としても問題ない結果が得られました。今後、ALBを活用した河道内の面的なデータを取得す

ることにより、河川横断測量の代替に限らず、河川管理において下記のような効果が期待されます。① 河道内のデータを面的に取得できるため、任意の箇所で横断図を作成できる。

② 三次元シミュレーションの基礎データとして、活用性が向上する。

③ 付帯効果として河川横断では把握できない樹高やその分布範囲が確認できる。(樹林管理などに有効)

④ 航空写真も同時取得するため、河道計画や様々な調査へも活用が可能となる。ALB測深の課題は、機材や天候、水質、水深などにより、

その性能が大きく左右されます。今後も継続的にALBの機材検証や、適切な計測条件などの研究を進めていきます。今回の検証を行うに当たり、フィールドを提供いただき

ました国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所の関係者の方々に、ここに記してお礼を申し上げます。

おわりに

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図2 標高段彩図(左:浅川、右:多摩川)

図3 航空写真図(左:浅川、右:多摩川)

図4 河川横断図(左:浅川、右:多摩川)

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