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自律と共生をめざし,主体的・協同的に学ぶ子どもの育成 ~ESDの視点を取り入れた授業づくりを通して~
広島県福山市立駅家西小学校 校長 我妻育子
教諭 鳥羽美紀 1 はじめに 本校は,広島県東部の瀬戸内海に面した福山市にある。今年市制100周年を迎えた福山市は,毎
年5月に「ばら祭り」が開催される「ばらと教育のまち福山」である。300年前には朝鮮通信史が
立ちより「日東第一形勝」と言わせた風光明媚で歴史ある「潮待ちの港 鞆」を擁し,箏曲「春の海」
を宮城道雄が生み出したところだ。その関係もあり,琴の生産量は日本一でもある。その福山市北部
に位置する駅家西小学校は,北に国の史跡に指定された「二子塚古墳」をはじめとする古墳群,南は
一級河川「芦田川」が流れる自然と文化に恵まれた場所にある。本校は,学校教育目標を「確かな学
力と豊かな感性に培い仲間とともにやりぬく子どもの育成」と掲げ,知・徳・体のバランスのとれた
児童の育成をめざしている。平成21年度から教育活動全体にESD(持続可能な発展のための教育)
の視点を取り入れた実践を行っている。ESDとは,「持続可能な社会作りのための担い手(主体)づ
くりをめざす教育」と捉え,ESDを通して他人・社会・自然環境との関係性を認識し,「かかわり」
や「つながり」を大切にしながら,立場や考え方の違う人々を理解・尊重し,協同的に課題を解決で
きる子どもの育成を目指している。また,平成23年1月には,ユネスコスクールの加盟校となった
り,今年も福山市の環境学習実践リーダー校にも指定されたりと,さらなるESD実践を推進してい
るところである。 2 本校のESD教育の取組み (1)駅西型ESDの捉え
①ESDとは,何をめざす教育なのかを明確にする。 ・ESDは,持続可能な社会づくりのための担い手(主体)づくりをめざす教育である。 ②ESDでどんな力を付けるのかを明確にする。 ・ESDは,人格の発達や「未来力」「考え力」「つながり力」など能力・態度を育むことである。 ③ESDを通して,どんな姿の子どもに育てるのかを明確にする。 ・ESDは,他人・社会・自然環境との関係性を認識し,「関わり」「つながり」を通して,立場
や考え方の違う人々を理解するとともに尊重しながら協同的に課題を解決することができる
子どもを育てることである。 (2)教育活動全体の系統性の整理と体系化(ESD関連カレンダーの作成)
今まで実施していた教育内容を「ESD(持続可能な開発のための教育)」の視点を取り入れ,
全学年の教育活動を見直し,教育活動全体の系統性の整理と体系化を図った。(資料① 3次元モ
デル)この3次元モデルを平面に表したものが,ESD関連カレンダーである。(資料② ESD
関連カレンダー)ESD関連カレンダーがあることで,ESD実践を,学級・学年・教科・領域・
学校全体の教育活動の中で展開することができる。学習と学習をつなげるESD関連カレンダーの
活用により,自分の学びと学びが子どもたちの内面で一つにつながり,学びよりその意味を深め,
価値観や自分の生き方を見つめられる場ができていくのである。
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(資料① 3次元モデル) 持続可能な社会づくりに関する課題には,多くの要素が複雑に絡み合っているものが多い。ESD
では,こうした課題に対して多面的・総合的に取り組みながら学習を展開していくことが求められる。
従って,ESDを推進する際には,特別の教科を設けて限定的に実施するのではなく,教育活動全体
を通してESDの視点に立った学習展開をすることが大切となる。そこで,本校では,各教科・領域
等の「つながり」を明確に表した「ESD関連カレンダー」と「つながりの理由」を作成した。この
作成により指導者は,単元や内容をどのようにつながっているのかを明確にしながら指導できるよう
になる。
(資料② ESD関連カレンダー)
3次元モデル
ESD関連カレンダー(5年生)
教科領域
総合スキー合宿へ行こう
特別活動 ④ 運動会に向けて ㉖
⑭⑲ 学習発表会に
向けて児童会全校討論会 スキー体験学習 ㉞ ㊱
⑧
道徳 いつも全力で 一ふみ十年いるかの海を
守ろうべートーベン
親から子へ,
そして孫へ心のレシーブ 星野君の二るい打 流行おくれ
もう一人のお友達
正月料理 ㉘
国語 春から夏へ竹取物語・平家
物語・枕草子夏の日 ⑨ ㉒ 冬から春へ
① ⑥千年の釘に
挑む
ゆるやかにつながるイ
ンターネット
社会さまざまな
土地のくらし
⑮ ⑯ 国土の開発と
自然自然を守る運動
算数 ② 割合とグラフ
理科 天気と気温の変化 植物の発芽と成長⑩
人のたんじょう⑪
㉟
音楽 ㉝
図工
家庭科⑫
体育バスケットボール
ハードル走
外国語活動世界の「こんにち
は」を知ろう
ジェスチャーを
しよう数で遊ぼう
自己紹介を
しよう外来語を知ろう
クイズ大会を
しよう時間割をつくろう
㉑
㉓
㉔
㉙
㉗
㉛
持久走
㉕
㊲
いろいろな衣装を
知ろう
ランチメニューを
つくろう
ソフトバレーボール
豊かな言葉の使い手
になるためには大造じいさんとガン
日本と世界の音楽に親しもう
かざりづくり
わたしと家族を見つめよう
魚のたんじょう
情報化社会を
生きる米づくりのさかんな地域
自動車と
わたしたちのくらし
これからの水産業 ㉚
㉜
⑦ ⑳
⑬
⑤
③
友だちのよさを見つける
百年後のふるさとを守る
⑰
論語
1月 2月 3月10月 11月 12月
⑱
いま,地球があぶない! 自分の夢に向かって世界を知ろう
~アジアの仲間たち~
ESD関連カレンダー 5年生
4月 5月 6月 7月 8月 9月
環境教育 多文化・国際理解教育 人権・平和教育
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(3)各教科・領域におけるESDの視点の明確化
①ESDの授業づくりの視点
・「衣食住」の暮らしの原点に立ち返る目的意識をもった自然体験・社会体験,生産活
動等による“自分と学びとのつながり”。
・ESD関連カレンダーを活用して単元と教科・領域等による“内容と内容のつながり”。
・学校と家庭・地域のつながりを意識した“自分と他者とのつながり”。
②ESD関連カレンダーを基にした関連図の作成と活用
ESDの視点の一つである「つながり」には「自分と学びとのつながり」「自分と他者
とのつながり」「内容のつながり」の3項目があり,その中の「内容のつながり」を「関
連図」として図式化した。指導案に書くだけでなく,教室に掲示し,授業で活用すること
で,児童が学習のつながりを実感したり,学習したことを思い出したりして,本題材の学
びに生かすことができるようにした。
③ESDの視点の指導案への明記
ESDの視点を入れた学習指導を行うために,「関連する持続可能な社会づくりの構成概念」
「重視する能力・態度」「つながり」の3点が明確となるESD学習指導案の作成を行い,それら
を反映させた本時の学習展開の工夫を入れながら評価規準が達成できたかどうかの検証を行うこ
とで,教師の指導力の向上や持続可能な社会を担う児童の育成をねらってきた。 3 環境教育の視点を入れた実際の取組み (1)4年生総合的な学習の時間
①単元名 「身近なごみや水について考えよう」 ②学習内容の概要 「ごみ問題」や「水」について学習し,ごみ処理の方法や水をきれいにする取り組みを調べ,
子どもたち自身が,どのように行動していけばよいのかを考えさせる。「ごみ問題」については,
社会科の「ごみのしょりと活用」で,ごみ処理の仕事に従事する人々の大変さ,福山市のごみ処
理の現状について知らせる。また,「水」については,社会科の「命とくらしささえる水」で,
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水を確保するための取り組みや人々の努力について学習し,自分たちが住んでいる地域の川へと
目を向けさせる。二つのことに関わって,児童には「働いている人が仕事をしやすいように,安
全にできるようにぼくたちにもできることはないか」,「自分達の水を守るためにできることはな
いか」という実践力,行動力を身に付けることができるようにする。 ③実際の取組み
~私たちの水を守ろう!プロジェクト~ <①身近な川のごみ拾い> <②水質調査・パックテスト>
③聞き取り調査:スーパー,飲食店,工場,ライオンズクラブ,地域の人,給食室の先生 ④自分達のプラン作り:「聞き取り調査をもとに,自分のプランを作って,地域の人へ発信してい こう」
~廃油石けんを作って水をきれいにしようプラン~ <廃油石けん作り> <廃油石けんの配布>
「ごみ問題」についての学習後,
自分達にできることとして,給食の
牛乳パックを回収し,リサイクルを
するという取組みを考案した。全校
に呼びかけ,4年生が中心となって
牛乳パックのリサイクル活動を行
った。
ごみがたくさん
あるぞ!これが川
に流れたら大変!
水は大切
だ!ぼく達が
守っていかな
いと!
水を守る取組みにはどんなものがあるのかな? 地域のお店や工場の人に聞いてみたいな!
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全校集会での発表だけでなく,実際に作った廃油石けんを聞き取り調査でお世話になった方々や
公民館にも置いて頂き,地域の方に配布して,水を大切にする取組みについて発信した。 (2)5年生総合的な学習の時間 ①単元名「いま,地球があぶない!」 ②学習内容の概要 「いま,地球があぶない!」をキーワードに,環境問題について考えを深めていく。近年,地
球温暖化,森林破壊,異常気象など,環境問題は悪化の一途をたどっている。特に「地球温暖化」
といわれる気温の上昇は,世界各地の異常気象や生態系の異変を招くなど,様々な情報が日々伝
えられている。平成17年度からは温暖化の防止に焦点を当て,TFP(トラベル・フィードバ
ック・プログラム)を取り上げてきた。TFPとは,バスや鉄道などの公共交通機関の利用を促
進することによって,車による渋滞緩和とCO2の排出削減を図るというもの。これは,福山市
都市交通課によって企画され,学校と連携しながら進めている。そのTFPの学習を発展させ,
福山市で開催される「バス祭り」において,CO2削減のため公共交通機関の利用促進や家庭で
できるエコ活動について発表し,市民に呼び掛ける活動も行っている。 ③実際の取組み <都市交通課の方達による出前授業> <CO2を使った温暖化検証実験> <各家庭で公共交通機関を使って通勤してもらう <バス祭りでの発表> ための手段や経路を調べ→各家庭で実践>
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(3)教科横断的な取組み(ESDの視点を入れた学習) 総合的な学習の時間を中心に学習した環境教育で身に付けた知識等を他教科の学びにも結び付 け,思考を深めたり,多面的なものの見方を育成したりしている。(ESDカレンダー,学習関連
図の活用) <実践例①:5年生家庭科「考えよう買い物とくらし」> この単元では,身近な生活における消費と環境問題の学習を通して,物や金銭の使い方への関
心を高め,環境に配慮することの大切さに気付くとともに,物の選択,購入及び活用に関する基
礎的・基本的な知識及び技能を身に付け,身近な消費生活や環境をよりよくしようと工夫する能
力と実践的な態度を育てることをねらいとしている。また,自分の生活が身近な環境に与える影
響に気付き,主体的に生活を工夫できる消費者を育てることを意図している。 <実践例②:6年生国語科「学級討論会をしよう」> 討論会のテーマを「マイカーは必要か」「エアコンは必要か」「ゴミの収集は有料化にすべきか」
という環境問題と関連するテーマを設定し,討論させた。
家庭から出る容器包装のごみの種類の割合
が高いことを捉えさせた。また,4年生の環
境学習で学んだ福山市のごみの埋立地問題と
関連させ,環境に配慮した買い方について考
えさせる授業の導入を工夫した場面。
循環型社会やグリーンコンシューマーなど
中学以降で学ぶ学習とのつながりをはかるた
めに,消費者側だけの工夫ではなく,販売者
や生産者の努力や工夫にも目を向けられるよ
うに,学校の近くのスーパーの店長さに依頼
し,「環境面に配慮したお店の努力」について
インタビューした映像を授業の中で活用し,
お店側の環境面への具体的な工夫点を捉えさ
せた。
5年生の総合的な学習の時間に学習
した環境問題やTFPで学んだCO2
削減の取組みに関する知識等を児童自
ら活用し,資料を作成しながら説得力の
ある討論を繰り広げた。