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I 2020年度(新日: 2020 5 26 ) [email protected] http://aries.phys.cst.nihon-u.ac.jp/~ohya/

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Page 1: 臨界現象と繰り込み群 - Nihon Universityaries.phys.cst.nihon-u.ac.jp › ~ohya › stat-mech › main.pdfぶ はじめに この講義では〲次相転移の臨界現象を繰り込み群の観点から解説します.主に次の〳つの事柄について学びます〺

日本大学大学院理工学研究科

量子理工学専攻 統計力学I

—臨界現象と繰り込み群—

2020年度前期

(最終更新日: 2020年 5月 26日)

大谷 聡

日本大学量子科学研究所

R [email protected]

http://aries.phys.cst.nihon-u.ac.jp/~ohya/

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どどど

目次

はじめに v

参考文献 vii

単位系と記号 ix

第1章 臨界現象と繰り込み群 1

〱〮〱 相転移の代表例 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〱

〱〮〲 相図とその部分空間 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〱

〱〮〳 応答関数と臨界指数 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〲

〱〮〴 普遍性と普遍類 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〳

〱〮〵 しどぬびはのの繰り込み群 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〴

〱〮 摂動論とε展開 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〹

参考文献 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〱〰

第2章 平均場近似 11

〲〮〱 流体の臨界現象 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〱〱

〲〮〱〮〱 正準分布と大正準分布 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〱〳

〲〮〱〮〲 理想気体 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〱

〲〮〱〮〳 平均場近似 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〱〸

〲〮〲 強磁性体の臨界現象 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〲〳

〲〮〲〮〱 ぉびどので模型 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〲〵

〲〮〲〮〲 平均場近似 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〲

〲〮〳 スケーリング則と普遍性 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〳〰

参考文献 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〳〳

第3章 Ginzburg-Landau理論 35

〳〮〱 連成振動子から場の理論へ 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〳〵

〳〮〱〮〱 ぇちふびび積分 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〳

〳〮〱〮〲 〱次元連成振動子 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〳〸

〳〮〱〮〳 汎関数積分と汎関数微分 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〴〲

〳〮〲 ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〴〴

〳〮〲〮〱 O〨n〩線型σ模型 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〴〸

〳〮〳 ぇどのぺぢふひでの判定基準 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〵〰

〳〮〳〮〱 臨界指数νとη 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〵〱

〳〮〳〮〲 応答関数と連結〲点相関関数 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〵〲

〳〮〳〮〳 平均場近似の適用限界とぇどのぺぢふひでの判定基準 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〵〴

参考文献 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〵〵

第4章 Wilsonの繰り込み群 57

〴〮〱 繰り込み群変換 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〵

〴〮〱〮〱 繰り込み群変換の抽象的構造 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〵〸

〴〮〱〮〲 繰り込み群変換の具体的構成 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〰

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どぶ 目次

〴〮〱〮〳 繰り込み群方程式 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〲

〴〮〲 繰り込み群変換の固定点と繰り込み群のフロー 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〳

〴〮〲〮〱 フロー方程式の線型化 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〴

〴〮〲〮〲 臨界面とひづのはひねちぬどぺづつ ぴひちなづっぴはひべ 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮

〴〮〲〮〳 色々な繰り込み群のフロー 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮

〴〮〳 スケーリング則と臨界指数 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〰

〴〮〳〮〱 単位体積当たりの自由エネルギーと相関長のスケーリング則 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〱

〴〮〳〮〲 相関関数のスケーリング則 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〲

参考文献 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〴

第5章 ε展開 77

〵〮〱 繰り込み群変換とキュムラント展開 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮

〵〮〱〮〱 キュムラント展開 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〸

〵〮〱〮〲 繰り込み群変換とキュムラント展開 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〹

〵〮〱〮〳 具体例〺 φ4模型の繰り込み群変換 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〸〰

〵〮〲 しどぬびはのうどびとづひ固定点 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〸

〵〮〲〮〱 〲次のキュムラント 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〸

〵〮〲〮〲 ε展開 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〹〲

参考文献 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〮 〹〵

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はじめに

この講義では〲次相転移の臨界現象を繰り込み群の観点から解説します.主に次の〳つの事柄について学びます〺

• 臨界現象の普遍性とスケーリング則

• 繰り込み群による普遍性とスケーリング則の導出

• 摂動論による臨界指数の定量的計算

これらを〱〵回の講義で解説します.講義の中盤以降,場の理論の手法を用いますが,場の理論の知識は仮定しません.但し,学部で学

んだ熱力学・統計力学の基礎は修得済みと仮定します.

授業はこの講義ノートに沿って進めます.この講義ノートは〵つの章から成っていて,各章の概要は次の通りです〺

第1章 臨界現象と繰り込み群

臨界現象としどぬびはのの繰り込み群について概観する.繰り込み群変換,繰り込み群のフロー方程式,繰り込み群変換の固定点,

固定点周りで線型化したフロー方程式,臨界面,ひづのはひねちぬどぺづつ ぴひちなづっぴはひべなどの概念を一通り説明.

第2章 平均場理論

臨界現象の雛形である流体と強磁性体の〲次相転移を調べる.ぶちの つづひ しちちぬび状態方程式とぉびどので模型の平均場近似を用いて解析

すると両者の臨界指数は一致する.スケーリング仮説を認めれば,この普遍性は導かれる事を見る.

第3章 Ginzburg-Landau理論

がちのつちふおよびぇどのぺぢふひでがちのつちふによって創始された秩序変数と対称性に基づく現象論を学ぶ.平均場近似では扱えない秩序変

数の揺らぎについても学ぶ.この章から場の理論の手法を用いる.

第4章 Wilsonの繰り込み群

汎関数積分に基づいたしどぬびはのの繰り込み群を導入する.繰り込み群変換の固定点が存在することを仮定すれば,スケーリング

則および臨界現象の普遍性は全て導出できることを学ぶ.

第5章 ε展開

しどぬびはのの繰り込み群は摂動計算と組み合わせることで予言能力を持つ.この章では摂動計算の代表例であるε展開について学ぶ.

φ4模型を例に,臨界指数を具体的に計算する.

授業では時間の都合で計算過程を省略する場合がありますが,講義ノートには詳しく書いたつもりです.また,第〳章以降場の理論

を用いますが,具体的な計算は全てぇちふびび固定点〨無質量自由場の理論〩の周りでの摂動計算なので,しどっにの定理さえ習得すれば後は組

合せ論的な考察で済みます.ですので,場の理論を学んだことが無くても特に心配する必要はありません.また,講義全体を通して数

学的厳密さは追求しません.まずは全体の雰囲気を理解して,簡単な問題は自分で解けるようになる,という事を目標にします.

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ぶどど

参考文献

昔と違って今では臨界現象と繰り込み群について解説した教科書は沢山あります.その中から私が良いと思うものを幾つか挙げてお

きますので,学習の参考にしてください.

まず,初学者にはきづとひちの かちひつちひの〲冊本をお薦めします〺

せ〱そ き〮 かちひつちひ Statistical Physics of Particles 〨ぃちねぢひどつでづ さのどぶづひびどぴべ ぐひづびび 〲〰〰〩

せ〲そ き〮 かちひつちひ Statistical Physics of Fields 〨ぃちねぢひどつでづ さのどぶづひびどぴべ ぐひづびび 〲〰〰〩

せ〱そは熱力学・統計力学の教科書で,第〵章に気液相転移の臨界現象に関する詳しい議論があります.せ〲そは統計場の理論の教科書で,

第〵章までで繰り込み群およびε展開の説明が終わります.但し,演算子積展開や共形場理論などの高級な話題には全く触れていませ

ん.主にせ〲その第〵章までの内容がこの講義に対応します.

次に,おはとの ぃちひつべの次の本もお薦めです〺

せ〳そ お〮 ぃちひつべ Scaling and Renormalization in Statistical Physics 〨ぃちねぢひどつでづ さのどぶづひびどぴべ ぐひづびび 〱〹〹〩

短い紙数の中で色々な話題に触れており,読むと勉強になります.但し,内容はかちひつちひよりも高級で,第〵章の摂動計算は全て演算子

積展開を用いています.また,詳しい計算は載っていないので,自分で計算して行間を埋める必要があります.最後の第〱〱章では〲次

元共形場理論にも簡単に触れています.

他に,げちねちねふひぴど ことちのにちひの次の教科書もお薦めです〺

せ〴そ げ〮 ことちのにちひ Quantum Field Theory and Condensed Matter 〨ぃちねぢひどつでづ さのどぶづひびどぴべ ぐひづびび 〲〰〱〩

この本は臨界現象の教科書というわけではありませんが,第〱〱章から第〱〴章にかけて臨界現象と繰り込み群についてとても良い解説

が載っています.

さて,相転移と臨界現象の研究は非常に長い歴史を持っていますが,歴史的展開にも興味がある人はぃべひどぬ いはねぢのモノグラフを読

むと良いでしょう〺

せ〵そ ぃ〮 いはねぢ The Critical Point 〨ごちべぬはひ 〦 うひちのっどび 〱〹〹〩

流体と磁性体の臨界現象の古典論から始まり,〲次元ぉびどので模型の厳密解,スケーリング仮説,最後にしどぬびはのの繰り込み群について歴史

に沿って解説しています.非常に詳しい大著です.

また,かづののづぴと ぇ〮 しどぬびはのが繰り込み群を開発するに至った経緯を知りたい人は,しどぬびはののぎはぢづぬ賞受賞講演およびしどぬびはのの同僚

で共同研究者のきどっとちづぬ ぅ〮 うどびとづひの講義録を読むと良いでしょう〺

せそ か〮 ぇ〮 しどぬびはの ぜごとづ ひづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば ちのつ っひどぴどっちぬ ばとづのはねづのち〢 Rev. Mod. Phys. 〵〵 〨〱〹〸〳〩 〵〸〳ほ〰〰

せそ き〮 ぅ〮 うどびとづひ ぜげづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば ぴとづはひべ〺 ぉぴび ぢちびどび ちのつ てはひねふぬちぴどはの どの びぴちぴどびぴどっちぬ ばとべびどっび〢 Rev. Mod. Phys. 〰 〨〱〹〹〸〩

〵〳ほ〸〱

どちらも当時のエピソードを交えて繰り込み群を解説しており,とても興味深い内容です.

以上,洋書ばかり挙げましたが,和書でも臨界現象や繰り込み群の教科書は幾つか有ります.私が読んだ事があるのは次の〴冊です〺

せ〸そ 江沢洋,渡辺敬二,鈴木増雄,田崎晴明,『くりこみ群の方法』〨岩波書店 〲〰〰〰年〩

せ〹そ 西森秀稔,『相転移・臨界現象の統計物理学』〨培風館 〲〰〰〵年〩

せ〱〰そ 園田英徳,『今度こそわかるくりこみ理論』〨講談社 〲〰〱〴年〩

せ〱〱そ 高橋和孝,西森秀稔,『相転移・臨界現象とくりこみ群』〨丸善出版 〲〰〱年〩

せ〹そせ〱〱そは統計物理の教科書で,この講義では扱わない話題も沢山載っています.一方,せ〸そせ〱〰そは繰り込み群の教科書です.せ〱〰そおよ

びせ〸その第〴章には,繰り込み群を用いて相互作用のある連続場の理論を非摂動論的に定義するというしどぬびはののアイデアも述べられてい

Page 8: 臨界現象と繰り込み群 - Nihon Universityaries.phys.cst.nihon-u.ac.jp › ~ohya › stat-mech › main.pdfぶ はじめに この講義では〲次相転移の臨界現象を繰り込み群の観点から解説します.主に次の〳つの事柄について学びます〺

ぶどどど 参考文献

ます.結合定数を非ゼロの有限値に保つ様なカットオフ無限大の極限〃 → ∞〨連続極限〩が本当に存在するか,という事が問題になる

のですが,摂動論的場の理論しか勉強したことがない人は衝撃を受けるかもしれません.但し,この場の理論の連続極限の問題はかな

り高級な話題なので,この講義では殆ど触れません.

上で挙げた文献以外にも良い文献は沢山あります.それらについては各章末で参考文献として挙げています.

更に進んで勉強したい人の為の文献

この講義で扱う話題は全て〱〹〰年代前半には明らかにされていたことばかりです.その後の発展については全く触れる余裕がない

ので,ここで幾つか参考文献を挙げておきましょう.

臨界現象の理論研究における〱〹〸〰年代以降の発展と言えば,なんといっても共形場理論でしょう.特に〲次元の場合の共形場理論

が〱〹〸〰年代半ば以降大きく発展しました.〲次元共形場理論の教科書は沢山ありますが,臨界現象と関連付けて解説した教科書として

は例えば

せ〱〲そ き〮 えづのにづぬ Conformal Invariance and Critical Phenomena 〨こばひどのでづひざづひぬちで 〱〹〹〹〩

があります.〲次元なんて理論家のおもちゃだと思うかもしれませんが,〲次元の臨界現象は実験的にも実現されています.有名なのは

グラファイトシート上に吸着されたぃえ4〨メタン〩の気液相転移の臨界現象です〺

せ〱〳そ え〮 か〮 かどね ちのつ き〮 え〮 し〮 ぃとちの ぜぅへばづひどねづのぴちぬ いづぴづひねどのちぴどはの はて ち ごぷはいどねづのびどはのちぬ がどぱふどつざちばはひ ぃひどぴどっちぬぐはどのぴ ぅへばは

のづのぴ〢 Phys. Rev. Lett. 〵〳 〨〱〹〸〴〩 〱〰ほ〱〳

この系の臨界指数は〲次元ぉびどので普遍類の臨界指数と精度良く一致しているそうです.他には4えづの超流動薄膜が示すあづひづぺどのびにどど

かはびぴづひぬどぴぺごとはふぬづびび相転移も有名です.この系の臨界指数は〲次元じす普遍類で記述されます.

さて,〳次元以上の共形場理論に関しては,〱〹〰年代に一部の研究者たちによって精力的に調べられていましたが,その後大きな発

展はありませんでした.しかし最近になって共形ブートストラップと数値計算を組み合わせた手法によって大きな進展がありました.

この講義では全く触れませんが,この辺の最近の発展に興味がある人は次の解説記事を読んでみましょう〺

せ〱〴そ い〮 ぐはぬちのつ ちのつ い〮 こどねねはのびいふ『の ぜごとづ っはのてはひねちぬ ぢははぴびぴひちば〢 Nature Phys. 〱〲 〨〲〰〱〩 〵〳〵ほ〵〳〹

もっと詳しく勉強したい人は次の講義録および教科書を参考にすると良いでしょう〺

せ〱〵そ こ〮 げべっとにはぶ ぜぅぐうが がづっぴふひづび はの ぃはのてはひねちぬ うどづぬつ ごとづはひべ どの D ≥ 〳 いどねづのびどはのび〢 arXiv:1601.05000 [hep-th]

せ〱そ い〮 こどねねはのびいふ『の ぜごぁこぉ がづっぴふひづび はの ぴとづ ぃはのてはひねちぬ あははぴびぴひちば〢 arXiv:1602.07982 [hep-th]

せ〱そ 中山優,『高次元共形場理論への招待』〨サイエンス社,〲〰〱〹年〩

この共形ブートストラップを用いて数値計算で求めた臨界指数が,現在最も精度が良い値だと言われています.

最後に,この講義で一通り勉強したら,かづののづぴと ぇ〮 しどぬびはのの講義録に挑戦してみましょう〺

せ〱〸そ か〮 ぇ〮 しどぬびはの ちのつ お〮 かはでふぴ ぜごとづ ひづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば ちのつ ぴとづ ε づへばちのびどはの〢 Phys. Rep. 〱〲 〨〱〹〴〩 〵ほ〲〰〰

決して分かり易くはありませんが,これはちゃんと読む価値があります.諦めずに何度も読んでいれば,そのうち理解できるようにな

ります.

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どへ

単位系と記号

この講義ノートで使う単位系や記号,各種関数をまとめておきます.

• あはぬぴぺねちのの定数

この講義ノートではあはぬぴぺねちのの定数は〱におきます〺

kB 〽 〱

従って,温度はエネルギーの単位で測ることになります.

• うはふひどづひ変換

f〨x〩 〽

∫ddp

〨〲π〩dまf〨p〩づip·x

まf〨p〩 〽

∫ddx づ−ip·xf〨x〩

• デルタ関数

δd〨x〩 〽

∫ddp

〨〲π〩dづip·x 〽

∫ddp

〨〲π〩dづ−ip·x

δd〨p〩 〽

∫ddx

〨〲π〩dづip·x 〽

∫ddx

〨〲π〩dづ−ip·x

• 階段関数

θ〨x〩 〽

〱 てはひ x > 〰

〰 てはひ x < 〰

• 符号関数

びでの〨x〩 〽x

|x|〽

〱 てはひ x > 〰

−〱 てはひ x < 〰

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第1章

臨界現象と繰り込み群

この講義の目的は臨界現象の普遍性を繰り込み群の観点から解説することです.詳細に入る前に,これから何を学ぶのか,その全体

像を俯瞰しておきましょう.以下,証明・導出無しに簡潔に述べていきますが,この段階で全く分からなくても気にしてはいけませ

ん.最初は単なる読み物として読んで下さい.

1.1 相転移の代表例

相転移とはその名の通り物質の相の転移の事です.相転移を論じるにはまず相とは何かを明らかにする必要がありますが,これは後

回しにして先に例だけ挙げておきましょう.相転移の最も身近な例としては,え2くの固相から液相への相転移〨氷が水に溶ける現象〩や

液相から気相への相転移〨水が水蒸気に蒸発する現象〩があります.他にも色々あって,例えば次の様なものが相転移の代表例です〺

• 強磁性相転移 ぼ 温度を上げると磁石が強磁性相から常磁性相へ転移〨高温では磁石が磁石ではなくなる現象〩

• 超伝導相転移 ぼ 温度を下げると金属が常伝導相から超伝導相へ転移〨低温では電気抵抗がゼロになる現象〩

• 超流動相転移 ぼ 温度を下げると物質が常流動相から超流動相へ転移〨低温では粘性がゼロになる現象〩

他には高温の初期宇宙で起こったとされる電弱相転移やクォーク・ハドロン相転移などもあります.相転移は物性物理から素粒子・原

子核・宇宙物理までありとあらゆる分野で登場しますが,この講義では主に流体の気液相転移と強磁性体の強磁性相転移を扱っていき

ます.

1.2 相図とその部分空間

熱力学で学んだように,熱平衡系では熱力学ポテンシャルが分かればそれを偏微分することで種々の物理量が得られます.一方,相

転移が起こると種々の物理量が不連続に変化したり,無限大に発散したりすることが実験的に分かっています.これは熱力学ポテンシ

ャルの偏微分が不連続に変化したり,無限大に発散したりすることを意味します.これを踏まえて,物質の相は熱力学ポテンシャルの

解析的性質から判定します.単位体積当たりの熱力学ポテンシャルを抽象的にf〨x1, x2, · · · 〩としましょう.この時,

• fの変数〨x1, x2, · · · 〩が張る空間を相図〨ばとちびづ つどちでひちね〩

• この変数に関してfが解析的*1である領域を相〨ばとちびづ〩

• fが非解析的*2になる余次元〱の部分空間*3を相境界〨ばとちびづ ぢはふのつちひべ〩

• 相境界の端点からなる余次元〲の部分空間を臨界点〨っひどぴどっちぬ ばはどのぴ〩

• 変数を動かして相境界を横切ることを相転移〨ばとちびづ ぴひちのびどぴどはの〩

と呼びます*4.そして,相境界でfの〱階偏導関数が不連続になる場合を〱次相転移,それ以外を〲次相転移〨または連続相転移〩と呼び

ます.この講義で扱うのは臨界点近傍のみで,相図の中のこの特殊な部分空間近傍で起こる現象を臨界現象〨っひどぴどっちぬ ばとづのはねづのち〩と

呼びます.この臨界現象が系の微視的詳細に依らず,少数のパラメータだけで記述できる普遍的な振る舞いを示すのです.流体と強磁

性体の相図の典型例を図〱〮〱に示しました.

*1 ここで言う解析的とは収束冪級数で書けるという意味で,fが全ての変数に対して収束するTaylor級数で書ける領域を相と呼びます.*2 熱力学ポテンシャルの非解析性は熱力学極限(粒子数密度N/Vを一定に保った体積V → ∞,粒子数N → ∞の極限)を取らないと現れません.これは重要です

が,この講義では全く触れません.

*3 一般にN次元空間の中の「余次元nの部分空間」とは,次元がnだけ低いN − n次元部分空間を指します.余次元はcodimensionの和訳です.*4 他には複数の相境界の交点からなる部分空間もあります.有名なのは固相,液相,気相の相境界が交わる3重点です.

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〲 第〱章 臨界現象と繰り込み群

気相

液相

T

P

Tc

Pc

1次相転移

2次相転移

(a) 流体の(P, T )相図.Pは圧力を表します.臨界点を超えた図の

右上の領域では液体と気体の区別がつかなくなります.

T

h

Tc0

1次相転移

2次相転移m > 0の相

m < 0の相

(b) 強磁性体の(h, T )相図.hは外部磁場で,mは単位格子当たり

の磁化を表します.h = 0,T < Tcの時がいわゆる磁石です.

図1.1: 流体と強磁性体の相図の2次元断面図.赤色の1次元の線が相境界(2次元空間の中の余次元1の部分空間)で,赤色の0次元の点が臨界点(2次元

空間の中の余次元2の部分空間)を表します.相境界の横切り方によって1次相転移を示したり2次相転移を示したりします.

1.3 応答関数と臨界指数

臨界点近傍では種々の物理量が特異性を示します.その様な物理量の典型例は応答関数〨ひづびばはのびづ てふのっぴどはの〩です.応答関数の典

型例は定積比熱cVと等温圧縮率κTで,これらは連結〲点相関関数の空間積分で与えられます.例を挙げましょう〺

• 流体の場合cVとκTはそれぞれエネルギーと粒子数の揺らぎ〨期待値からのずれ〩の〲乗平均で与えられます.エネルギー密度H〨x〩と粒子数密度ρ〨x〩を使うと,これらは連結〲点相関関数の空間積分で表されます〺

cV ∝〱

V

∂2

∂β2ぬはでZ〨T, V,N〩 〽

V〈〨H − 〈H〉〩2〉 ∼

∫ddx 〈H〨x〩H〨〰〩〉c 〨〱〮〳〮〱ち〩

κT ∝〱

V

∂2

∂µ2ぬはで 〨T, V, µ〩 〽

V〈〨N − 〈N〉〩2〉 ∼

∫ddx 〈ρ〨x〩ρ〨〰〩〉c 〨〱〮〳〮〱ぢ〩

但し,Z〨T, V,N〩は正準分布の分配関数,〨T, V, µ〩は大正準分布の分配関数でµは化学ポテンシャルです.〈 · 〉cは連結相関関数で,〲点相関関数の場合は一般に次式で与えられます〺

〈O〨x〩O〨〰〩〉c 〽 〈O〨x〩O〨〰〩〉 − 〈O〨x〩〉〈O〨〰〩〉 〨〱〮〳〮〲〩

• 強磁性体の場合強磁性体の場合,定積比熱に対応するのは定磁場比熱chで,等温圧縮率に対応するのは等温帯磁率χTです.chとχTはそれぞれ

エネルギーと磁化の揺らぎの〲乗平均で与えられます.i番目のサイトに於けるエネルギー密度H〨xi〩と磁気モーメントS〨xi〩を使うと,これらも連結〲点相関関数で書き表されます〺

ch ∝〱

N

∂2

∂β2ぬはでZ〨T, h〩 〽

N〈〨H − 〈H〉〩2〉 ∼

N∑i=1

〈H〨xi〩H〨x0〩〉c 〨〱〮〳〮〳ち〩

χT ∝〱

N

∂2

∂h2ぬはでZ〨T, h〩 〽

N〈〨M − 〈M〉〩2〉 ∼

N∑i=1

〈S〨xi〩S〨x0〩〉c 〨〱〮〳〮〳ぢ〩

格子のサイト数N →∞,格子間隔a→ 〰の極限を取れば,右辺の和は積分に変わります.

さて,上の応答関数は揺らぎの〲乗平均で与えられる訳ですが,臨界点近傍ではこの揺らぎが非常に大きくなり,次の冪則に従って

発散することが実験的にも分かっています〺

cV ∼ |T − Tc|−α ちのつ κT ∼ |T − Tc|−γ ちび T ↓ Tc 〨〱〮〳〮〴ち〩

ch ∼ |T − Tc|−α ちのつ χT ∼ |T − Tc|−γ ちび T ↓ Tc 〨〱〮〳〮〴ぢ〩

この冪の指数α γを臨界指数〨っひどぴどっちぬ づへばはのづのぴ〩と呼び,これらを定量的に計算・予言することが理論物理の重要な課題です.臨

界指数には色々あって,教科書でよく登場するのはα, β, γ, δ, η, νのつです.他にもあって,昔の研究者が沢山導入したのです

が,実は独立なものは〲つしかありません.講義の後半で計算していくのはηとνで,ηは〨秩序変数と呼ばれる量の〩連結〲点相関関

Page 13: 臨界現象と繰り込み群 - Nihon Universityaries.phys.cst.nihon-u.ac.jp › ~ohya › stat-mech › main.pdfぶ はじめに この講義では〲次相転移の臨界現象を繰り込み群の観点から解説します.主に次の〳つの事柄について学びます〺

〱〮〴 普遍性と普遍類 〳

数G(2)c 〽 〈 · 〉cの臨界点T 〽 Tcでの振る舞いから決定されます〺

G(2)c 〨x〩 ∼ 〱

|x|d−2+η〨〱〮〳〮〵〩

一方,νは相関長〨っはひひづぬちぴどはの ぬづのでぴと〩ξの臨界点T 〽 Tc近傍での振る舞いから決定されます〺

ξ ∼ |T − Tc|−ν 〨〱〮〳〮〩

相関長は空間各点での揺らぎが影響を及ぼし合う距離で,臨界点T 〽 Tc直上では無限大に発散します.しどぬびはのの繰り込み群を用いる

と,この臨界指数ηとνは繰り込み群変換の固定点の情報から決定される事が分かります.

1.4 普遍性と普遍類

流体や強磁性体のような一見全く異なる系でも,臨界指数α, β, γ, · · · の値が全て一致する場合があります.このような現象を臨界現象の普遍性〨ふのどぶづひびちぬどぴべ〩と言います.そして,〲つの系の臨界指数が全て一致する時,その〲つの系は同じ普遍類〨ふのどぶづひびちぬどぴべ

っぬちびび〩に属すると言います.普遍類は空間次元dや系の対称性,相互作用の種類などで決まって,例えば次の様なものがあります〺

• d次元ぉびどので普遍類 ぼ d次元ぉびどので模型〨Z2不変な短距離相互作用の模型〩と臨界指数が一致する理論の集合

• d次元じす普遍類 ぼ d次元じす模型〨O〨〲〩不変な短距離相互作用の模型〩と臨界指数が一致する理論の集合

• d次元えづどびづのぢづひで普遍類 ぼ d次元えづどびづのぢづひで模型〨O〨〳〩不変な短距離相互作用の模型〩と臨界指数が一致する理論の集合

ここでぉびどので模型,じす模型,えづどびづのぢづひで模型というのは最近接相互作用のみの格子模型で,それぞれ次のO〨n〩ベクトル模型のn 〽

〱, 〲, 〳の場合に他なりません〺

H 〽 −J∑〈ij〉

S〨xi〩 · S〨xj〩−N∑i=1

h · S〨xi〩 ぷどぴと S〨xi〩 〽 〨S1〨xi〩, · · · , Sn〨xi〩〩 〨〱〮〴〮〱〩

但し,S〨xi〩はn成分単位ベクトルで,任意のxiに対して〨S1〨xi〩〩2 · · · 〨Sn〨xi〩〩

2 〽 〱を満たします.上の格子模型は重要です

が,この講義ではこれらの格子模型を調べることは殆どしません.代わりにもっと扱いやすい,しかしこれらと同じ普遍類に属す

るカットオフ付きの場の理論〨統計場の理論〩を用います.例えばn 〽 〱の場合,ぉびどので模型を調べるのではなく,作用汎関数〨ちっぴどはの

てふのっぴどはのちぬ〩が次式で与えられるφ4模型と呼ばれる統計場の理論を調べていきます〺

S 〽 βH 〽

∫ddx

[〱

〲∇φ〨x〩 ·∇φ〨x〩

〲m2φ2〨x〩

λ

〴〡φ4〨x〩

]ぷどぴと φ〨x〩 〽

∫|p|<Λ

ddp

〨〲π〩dまφ〨p〩づip·x 〨〱〮〴〮〲〩

ここで〃がカットオフ〨っふぴは》〩と呼ばれるもので,運動量の上限を与える量です.この逆数〱/〃が格子間隔aに対応します.さて,統計

物理で重要なのは分配関数Zですが,ぉびどので模型の場合はこれはあはぬぴぺねちのの因子づ−βHをありとあらゆるS〨xi〩の配位について足し上げ

たもの

Z 〽∑

S(x1)=±1

· · ·∑

S(xN )=±1

づ−βH 〨〱〮〴〮〳〩

で与えられます.対応して統計場の理論の分配関数はづ−Sをありとあらゆるφ〨x〩の配位について汎関数積分したもの

Z 〽

∫Dφ づ−S 〨〱〮〴〮〴〩

で与えられます.実用上,特に繰り込み群で解析する時は運動量表示を用いる方が便利です.φ〨x〩のうはふひどづひ積分表示を代入して計算

すると作用汎関数〨〱〮〴〮〲〩は次の様になります〺

S 〽〱

〲〡

∫|p|<Λ

ddp

〨〲π〩dS(2)〨p2〩まφ〨p〩まφ〨−p〩

〴〡

∫|p1|<Λ

ddp1

〨〲π〩d· · ·∫|p4|<Λ

ddp4

〨〲π〩dS(4)〨p1, · · · ,p4〩まφ〨p1〩 · · · まφ〨p4〩〨〲π〩

dδd〨p1 · · · p4〩 〨〱〮〴〮〵〩

但し,

S(2)〨p2〩 〽 p2 m2 ちのつ S(4)〨p1,p2,p3,p4〩 〽 λ 〨〱〮〴〮〩

この時分配関数はまφ〨p〩に対する汎関数積分Z 〽∫D まφ づ−Sで与えられます.後述するしどぬびはのの繰り込み群変換はこの分配関数を不変に

保つ変換で,その様な変換を駆使して臨界指数を計算していきます.表〱〮〱に〳次元ぉびどので普遍類の臨界指数の代表的な理論値と実験値

を示しました.

Page 14: 臨界現象と繰り込み群 - Nihon Universityaries.phys.cst.nihon-u.ac.jp › ~ohya › stat-mech › main.pdfぶ はじめに この講義では〲次相転移の臨界現象を繰り込み群の観点から解説します.主に次の〳つの事柄について学びます〺

〴 第〱章 臨界現象と繰り込み群

臨界

指数

理論値 実験値

平均場

近似

ぉびどので模型 共形場理論 φ4理論〲成分混合液体 d

きはのぴづ ぃちひぬは法 a 共形ブートストラップ b ε展開のO〨ε2〩 c

η 〰 〰〮〰〳〲 〰〮〰〳〳〰 〰〮〰〱〲〴 〰〮〰〱

ν 12 〰〮〳〰〰〲 〰〮〳〰〰〰 〰〮〹〵 〰〮〲〵

a arXiv:1004.4486[cond-mat.stat-mech]から引用.b arXiv:1603.04436[hep-th]から引用.η = 2∆σ − 1とν = 1/(3−∆ε)を用いました.c 式(1.6.2a)と(1.6.2b)にn = 1およびε = 1を代入した値.他の理論値とずれていますが,これは近似の精度の問題で,精度の向上は可能です.d Phys. Rev. Lett. 37 (1976) 1481–1484から引用.

表1.1: 3次元Ising普遍類の臨界指数.誤差は適当に省略しました.理論値は近似値で,厳密な値は分かっていません.

1.5 Wilsonの繰り込み群

冒頭で述べた様に,この講義の目的は臨界現象の普遍性を繰り込み群の観点から理解する事です.理解したい事は次の〲つです〺

• なぜ普遍性が成り立つのか?〨なぜ流体や磁性体の様な全く異なる系でも,臨界指数が一致する場合があるのか?〩

• 臨界指数を定量的に求めるにはどうすれば良いか?

〱番目に関しては,〱〹〰年代にはスケーリング則〨びっちぬどので ぬちぷ〩が成り立っていれば導けるという事は分かっていましたが,なぜスケ

ーリング則が成り立つのかは〨かちつちのは》のブロックスピン変換による理解はありましたが〩基本的には全く分かっていませんでした.ま

た〲番目に関しては,くのびちでづひによる〲次元ぉびどので模型の厳密解やいはねぢらによる高温展開・低温展開の計算結果がある以外は,基本的

に平均場近似による計算法しかありませんでした.この講義を通して見ていく様に,臨界現象の普遍性および臨界指数の計算法は全

てしどぬびはのの繰り込み群によって理解できます.しどぬびはのが繰り込み群を開発したのは〱〹〱年ですが,未だに繰り込み群は難しい,難解

だと言われています.そこでまずしどぬびはのの繰り込み群の大まかな構造をここで述べておきましょう.しどぬびはのの繰り込み群とは,〱個の

連続パラメータtで記述される〱径数族〨はのづばちひちねづぴづひ てちねどぬべ〩の変換群の事で,この変換群は作用汎関数Sを別の作用汎関数Stに変え

る変換〨繰り込み群変換〩

Rt 〺 S 7→ Rt〨S〩 〽 St 〨〱〮〵〮〱〩

の集合で,特に分配関数を不変に保つもの,即ち,

ZせSそ 〽 ZせStそ 〨〱〮〵〮〲〩

を満たすものから成っています.繰り込み群変換Rtは後で具体的に構成していきますが,その作り方は,〲つの繰り込み群変

換Rt1とRt2の積Rt1Rt2を合成変換〨Rt1Rt2〩〨S〩 〺〽 Rt1〨Rt2〨S〩〩で定めた時,次の群の掛け算則が成り立つ様に構成していきます〺

Rt1Rt2 〽 Rt1+t2 〨〱〮〵〮〳〩

この様な変換を使って,興味のある臨界点近傍の理論Sを,臨界点から充分離れた〨しかし分配関数は等しい〩理論Stを使って解析しよ

うというのがしどぬびはのの繰り込み群の基本的なアイデアです.t 〽 〰の初期値Sが与えられた時,Stを求めたい訳ですが,このStを調べ

る為に実用上は繰り込み群変換の微分形を用います.まず繰り込み群変換は連続変換なのでSt 〽 Rt〨S〩の両辺はtで微分出来ます.〱回

だけ微分すると次の〱階微分方程式を得ます〺

dStdt

〽 G〨St〩 ぷどぴと St=0 〽 S 〨〱〮〵〮〴〩

但し,Gは繰り込み群変換の生成子で次式で定義されます〺

G〨St〩 〺〽 ぬどねδt→0

Rδt〨St〩− Stδt

〨〱〮〵〮〵〩

〱階微分方程式〨〱〮〵〮〵〩を繰り込み群方程式または繰り込み群のフロー方程式と呼びます.この講義ノートでは単にフロー方程式と呼ぶ

ことにします.量子力学で例えると,繰り込み群変換St 〽 Rt〨S〩が状態ベクトルの時間並進|〉〨t〩〉 〽 づ−i~Ht|〉〉に対応し,フロー方

程式 ddtSt 〽 G〨St〩がこっとひみはつどのでづひ方程式i~ d

dt |〉〨t〩〉 〽 H|〉〨t〩〉に対応します.ただ注意しなければならないのは,こっとひみはつどのでづひ方程式

のHは線型演算子ですが,フロー方程式のGは線型変換では無く,一般には極めて非線型な変換になります.しかしながら,繰り込み

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〱〮〵 しどぬびはのの繰り込み群 〵

群変換の固定点が存在するとその固定点周りではGは線型近似が出来て,フロー方程式はまさに量子力学で慣れ親しんだ線型の固有値

方程式の問題に帰着されます.この線型化された繰り込み群変換の固有値と固有ベクトルを摂動論で求めるのが講義後半の主題になり

ます.

さて,次に繰り込み群変換を具体的にどのように構成していくかを見ておきましょう.まずしどぬびはのの繰り込み群では特定の理論Sを

個別に調べるのではなく,一つの理論Sを「点」だと思って,この「点」全体からなる空間を考えて,この空間において繰り込み群変

換がどういう「軌道」を描いていくかを調べて行きます.ですので,最も一般的な作用汎関数を考察するのが適当です.例えばZ2対

称性φ→ −φがある理論は次の作用汎関数が最も一般的です〺

Sせ まφそ 〽〱

〲〡

∫|p|<Λ

ddp1

〨〲π〩dS(2)〨p2〩まφ〨p〩まφ〨−p〩

n=4,6,···

n〡

∫|p1|<Λ

ddp1

〨〲π〩d· · ·∫|pn|<Λ

ddpn〨〲π〩d

S(n)〨p1, · · · ,pn〩まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩〨〲π〩dδd〨p1 · · · pn〩 〨〱〮〵〮〩

ここでS(2)〨p2〩 S(n)〨p1, · · · ,pn〩は回転不変性などの制限はありますがその関数形は特に指定しません.但し,〱つだけ条件があっ

て,〲次の項S(2)は次の様な規格化条件を満たしているとします〺

dS(2)〨x〩

dx

∣∣∣∣x=0

〽 〱 〨〱〮〵〮〩

この様に,カットオフが〃の場まφの汎関数で,〲次の項が規格化された作用汎関数の集合を理論空間〨ぴとづはひべ びばちっづ〩と呼びます.繰り

込み群変換はこの理論空間に作用する変換で,次の〳つの操作から成ります〺

• 高運動量モードの積分まず運動量表示でのスカラー場まφ〨p〩を次の様に〲つに分けます〺

まφ〨p〩 〽

まφl〨p〩 てはひ |p| ∈ 〨〰, づ−t〃〩まφh〨p〩 てはひ |p| ∈ 〨づ−t〃,〃〩

〨〱〮〵〮〸〩

ここでt > 〰は正の実数で,これが繰り込み群変換のパラメータになります.次に高運動量モードまφh〨p〩についてだけ積分を行っ

て新たな作用汎関数S′tせまφlそを構成します〺

ZせSそ 〽

∫D まφ づ−S[φ] 〽

∫D まφlD まφh づ

−S[φl,φh] 〽

∫D まφl づ

−S′t[φl] 〽 ZせS′tそ 〨〱〮〵〮〹〩

但し,

づ−S′t[φl] 〽

∫D まφh づ

−S[φl,φh] 〨〱〮〵〮〱〰〩

構成から明らかなように,このようにして作ったS′tの分配関数ZせS′tそは元の分配関数ZせSそと等しく,更に運動量|p| < づ−t〃のモ

ードしか含まない場まφ〨p〩 〽 まφl〨p〩に対しては相関関数も変えません〺

〈まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩〉S 〽〱

ZせSそ

∫D まφ まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩づ−S[φ]

〽〱

ZせSそ

∫D まφl まφl〨p1〩 · · · まφl〨pn〩

∫D まφhづ

−S[φl,φh]

〽〱

ZせS′tそ

∫D まφl まφl〨p1〩 · · · まφl〨pn〩づ−S

′t[φl]

〽 〈まφl〨p1〩 · · · まφl〨pn〩〉S′t , ∀|pi| ∈ 〨〰, づ−t〃〩 〨〱〮〵〮〱〱〩

• スケール変換上の操作で得られた理論S′tはカットオフがづ−t〃の場まφl〨p〩の理論になってしまったので,カットオフを〃にするために運動量を

次の様にスケール変換します〺

p→ づ−tp 〨〱〮〵〮〱〲〩

• 再規格化〱番目と〲番目の操作を行うと一般に〲次の項の規格化がずれてしまいます.そこでスカラー場を定数倍だけ変えて元の規格化と

同じになるようにします.新たにスカラー場まφ〨p〩を次の様に定義します〺

まφ〨p〩 〺〽 づ−dt√Z〨St〩まφl〨づ

−tp〩, |p| ∈ 〨〰,〃〩 〨〱〮〵〮〱〳〩

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第〱章 臨界現象と繰り込み群

ここで定数√Z〨St〩は規格化条件を満たすようにうまく選びます.〨このZは分配関数ではありません.〩 因子づ−dtは後々便利な

ので入れました.こうすると, Stせ まφそ 〽 S′tせづ−dt√Z〨St〩まφlそ は〲次の項が規格化された,カットオフ〃の場まφの作用汎関数になり

ます.SからこのStを構成する操作がしどぬびはのの繰り込み群変換です.そして相関関数に対する等式〨〱〮〵〮〱〱〩は次の様に書き換え

られます〺

〈まφ〨づ−tp1〩 · · · まφ〨づ−tpn〩〉S 〽 づndtZ−n/2〨St〩〈まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩〉St , ∀|pi| ∈ 〨〰,〃〩 〨〱〮〵〮〱〴〩

この等式が運動量表示相関関数に対するしどぬびはのの繰り込み群方程式〨ひづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば づぱふちぴどはの〩です.実用上は,

Z〨St=0〩 〽 〱を使って規格化定数づndtZ−n/2〨St〩 〽 づn(dt− 12 logZ(St))を次の積分の形で書く方が便利です〺

づn[dt− 12 (logZ(St)−logZ(St=0))] 〽 づへば

[n

∫ t

0

(d− 〱

d ぬはでZ〨Sτ 〩

)]〽 づへば

[n

∫ t

0

dτ 〨d−、〨Sτ 〩〩

]〨〱〮〵〮〱〵〩

但し,、〨St〩は次で定義されます〺

、〨St〩 〺〽〱

d ぬはでZ〨St〩

dt〨〱〮〵〮〱〩

繰り込み群方程式〨〱〮〵〮〱〳〩は,運動量piをづ−t倍だけ減少させた理論Sの低エネルギーの相関関数は,運動量piはそのままにし

た理論Stの相関関数と定数倍づn∫ t0dτ(d−∆(Sτ )) を除いて等しい,ということを意味します.この意味で,繰り込み群変換をして

得られる理論Stは,エネルギースケールづ−t〃以下では定数倍を除いて同じ相関関数を再現するSの低エネルギー有効理論〨ぬはぷ

づのづひでべ づ》づっぴどぶづ ぴとづはひべ〩になっています.

以上〳つの操作で構成したStは,パラメータtを変化させていくとSt=0 〽 Sを初期値として理論空間の中である軌道を描いていきます.

この軌道を繰り込み群のフロー〨ひづのはひねちぬどぺちでどはの でひはふば 」はぷ〩と呼び,通常,げぇ 」はぷと略します.

さて,しどぬびはのの繰り込み群の大まかな構造は以上の通りなのですが,臨界現象へ応用するにはもう一つ大事な要素があります.そ

れが繰り込み群変換の固定点〨「へづつ ばはどのぴ〩です.繰り込み群変換の固定点とは,繰り込み群変換を行っても不変に留まる理論S∗とし

て定義されます〺

Rt〨S∗〩 〽 S∗ ⇔ G〨S∗〩 〽 〰 〨〱〮〵〮〱〩

臨界現象の普遍性はこの固定点の情報だけで完全に決定されます.これを見るために固定点から少しだけずれた理論S 〽 S∗ δSを考

えましょう.この固定点から少しだけずれた理論Sが繰り込み群変換の下でどの様に変換されていくかを調べます.Sを繰り込み群変

換したものRt〨S〩 〽 Stを次の様に書きましょう〺

St 〽 S∗ δSt 〨〱〮〵〮〱〸〩

これをフロー方程式〨〱〮〵〮〴〩に代入すると次式を得ます〺

d

dtSt 〽

d

dt〨S∗ δSt〩 〽

d

dtδSt

〽 G〨S∗ δSt〩 〽 L∗〨δSt〩 O〨δSt〩2 〨〱〮〵〮〱〹〩

ここでL∗は固定点S∗に依存したある線型変換です.最後の等式は,関数g〨x〩をg〨x∗〩 〽 〰を満たすx 〽 x∗周りでごちべぬはひ展開する

とg〨x∗ δx〩 〽 g〨x∗〩 g′〨x∗〩δx O〨δx〩2 〽 g′〨x∗〩δx O〨δx〩2となる事と本質的に同じです.g′〨x∗〩がL∗に対応します.従っ

てδStの〱次の近似では,δStは次の微分方程式の解として与えられます〺

d

dtδSt 〽 L∗〨δSt〩 〨〱〮〵〮〲〰〩

こっとひみはつどのでづひ方程式i~ ddt |〉〨t〩〉 〽 H|〉〨t〩〉を解く時にまずHの固有値と固有ベクトルを求めるのと同じように,上の線型化されたフロ

ー方程式を解くにはまずL∗の固有値と固有ベクトルを求めます.これらをλn,Onとしましょう〺

L∗〨On〩 〽 λnOn 〨〱〮〵〮〲〱〩

この固有値と固有ベクトルが全て求まったとします.この時δStは固有ベクトルで展開できます〺

δSt 〽∑n

gn〨t〩On 〨〱〮〵〮〲〲〩

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〱〮〵 しどぬびはのの繰り込み群

gn〨t〩は展開係数で,この係数のt依存性が知りたい訳ですが,それは線形化されたフロー方程式〨〱〮〵〮〲〰〩から分かります.式〨〱〮〵〮〲〲〩を

式〨〱〮〵〮〲〰〩に代入するとgn〨t〩は次の微分方程式を満たす事が分かります〺

d

dtgn〨t〩 〽 λngn〨t〩 〨〱〮〵〮〲〳〩

これは簡単に解けて答えは次の様になります〺

gn〨t〩 〽 gn〨〰〩づλnt 〨〱〮〵〮〲〴〩

従って,固定点近傍ではStは次の様に振る舞う事が分かりました〺

St 〽 S∗ ∑n

gn〨〰〩づλntOn 〨〱〮〵〮〲〵〩

固定点近傍で理論Stがどのように変化していくかはパラメータgn〨t〩 〽 gn〨〰〩づλntがどのように変化していくかで決定されます.これ

は次の〳通りあります〺

• λn > 〰の場合

この時,パラメータgn〨t〩 〽 gn〨〰〩づλntはtが増加するに従って急激に増加します.固有値λn > 〰に属する固有ベクトルOnを固

定点S∗周りにおけるひづぬづぶちのぴ演算子と呼び,パラメータgn〨t〩を固定点S∗周りにおけるひづぬづぶちのぴパラメータと呼びます.

• λn < 〰の場合

この時,パラメータgn〨t〩 〽 gn〨〰〩づλntはtが増加するに従って急激に減少してすぐにゼロになります.固有値λn < 〰に属する固

有ベクトルOnを固定点S∗周りにおけるどひひづぬづぶちのぴ演算子と呼び,パラメータgn〨t〩を固定点S∗周りにおけるどひひづぬづぶちのぴパラメ

ータと呼びます.

• λn 〽 〰の場合

この時,パラメータgn〨t〩 〽 gn〨〰〩づλntは〨線型近似の範囲で〩tに依らず初期値gn〨〰〩のまま変化しません.固有値λn 〽 〰に属する

固有ベクトルOnを固定点S∗周りにおけるねちひでどのちぬ演算子と呼び,パラメータgn〨t〩を固定点S∗周りにおけるねちひでどのちぬパラメ

ータと呼びます.

さて,固定点S∗近傍の理論はパラメータ〨g1, g2, · · · 〩で記述されますが,これは固定点S∗近傍の理論空間は〨g1, g2, · · · 〩を局所座標系として記述できる事を意味します.この局所座標系を用いると,上の分類から理論空間には〲つの特別な部分空間があることが浮かび

上がります.〱つはひづぬづぶちのぴパラメータが全てゼロの部分空間で,この部分空間を臨界面〨っひどぴどっちぬ びふひてちっづ〩と呼びます.臨界面上の理

論は繰り込み群変換の下で全て固定点S∗に収束していきます.もう〱つはどひひづぬづぶちのぴパラメータが全てゼロの部分空間で,この部分空間

をひづのはひねちぬどぺづつ ぴひちなづっぴはひべ〨略してげご〩と呼びます.臨界面からずれた理論は繰り込み群変換の下で全てげごに漸近していきます.

げご上の理論は臨界点近傍にあるカットオフ〃の理論Sの,エネルギースケールづ−t〃以下で同じ相関関数を再現する低エネルギー有効

理論を与えます.固定点S∗近傍のげぇ 」はぷの模式図を図〱〮〲に示しました.

次に相関長のスケーリング則について述べましょう.まず繰り込み群変換はスケール変換を含んでいたので,理論Sの相関長ξせSそと

理論Stの相関長ξせStそは一般に次の関係式を満たします〺

ξせSそ 〽 づtξせStそ 〨〱〮〵〮〲〩

t 〽 〰での理論を一つ固定した時,ξせStそ 〽 づ−tξせSそなので一般にtが増加していくと理論の相関長は単調減少していくことが分かりま

す.次にS 〽 S∗とすると任意のt > 〰に対してSt 〽 S∗なので次の等式が成り立ちます〺

ξせS∗そ 〽 づtξせS∗そ, ∀t > 〰 〨〱〮〵〮〲〩

この方程式の解はξせS∗そ 〽 〰またはξせS∗そ 〽 ∞です.相関長がゼロの解は物理的につまらない解なので,今考えている固定点ではξせS∗そ 〽∞だとしましょう.臨界面上の理論は全て繰り込み群変換の下でS∗に収束していきますが,一方,相関長は繰り込み群変換の下で一般に単調減少するので,ξせS∗そ 〽∞なら臨界面上の理論は全て相関長無限大の理論を与えることが分かります.即ち,臨界面上の理論は全て臨界点T 〽 Tcにあります.

次に固定点近傍の理論S 〽 S∗ ∑n gnOnを考えましょう.これを繰り込み群変換した理論は St 〽 S∗

∑n gnづ

λntOn です.この〲つの理論に対して,等式〨〱〮〵〮〲〩は次の関数等式を意味します〺

ξ〨g1, g2, g3, · · · 〩 〽 づtξ〨g1づλ1t, g2づ

λ2t, g3づλ3t, · · · 〩 〨〱〮〵〮〲〸〩

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〸 第〱章 臨界現象と繰り込み群

次にλ1だけが正で,残りのλ2, λ3, · · · は全て負だとしましょう.この時,t > 〰が十分大きいと g2づλ2t, g3づ

λ3t, · · · はほぼゼロになって右辺はg2, g3, · · · に依らなくなります〺

ξ〨g1, g2, g3, · · · 〩 ∼ づtξ〨g1づλ1t, 〰, 〰, · · · 〩 てはひ t 〱 〨〱〮〵〮〲〹〩

ここでtは充分大きな任意の実数だったので,この任意性を利用して次の様に選びましょう〺

t 〽 − 〱

λ1ぬはで |g1| 〨〱〮〵〮〳〰〩

すると,

ξ〨g1, g2, g3, · · · 〩 ∼ |g1|−1/λ1ξ〨びでの〨g1〩, 〰, 〰, · · · 〩 〨〱〮〵〮〳〱〩

右辺のξ〨びでの〨g1〩, 〰, 〰, · · · 〩は臨界面から外れたげご上の理論の相関長なので,これはある有限な値です.また上の議論だけでは分かり

ませんが,|g1|というのが実は大体臨界温度からのずれ|T − Tc|で,従って次を意味します〺

ξ〨T 〩 ∼ |T − Tc|−1/λ1 〨〱〮〵〮〳〲〩

これを式〨〱〮〳〮〩と比較してν 〽 〱/λ1を得ます.臨界指数νは固定点S∗周りで線型化された繰り込み群変換L∗の固有値で決まることが

分かりました.

最後に相関関数と臨界指数ηについて述べて終わりにしましょう.臨界指数νは固有値で決まりましたが,ηは固定点S∗での、〨S∗〩で

決定されます.まず相関関数に対する繰り込み群方程式より,理論SとStの相関関数の間には一般に次の等式が成り立ちます〺

〈まφ〨づ−tp1〩 · · · まφ〨づ−tpn〩〉S 〽 づへば

[n

∫ t

0

dτ 〨d−、〨Sτ 〩〩

]〈まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩〉St 〨〱〮〵〮〳〳〩

特にt 〽 〰の初期値としてS 〽 S∗を持って来ると,任意のt > 〰に対してSt 〽 S∗なので次式が成り立ちます〺

〈まφ〨づ−tp1〩 · · · まφ〨づ−tpn〩〉S∗ 〽 づn(d−∆(S∗))t〈まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩〉S∗ 〨〱〮〵〮〳〴〩

〲点相関関数の場合はこの方程式が解けます.まず並進対称性より運動量保存が成り立つので〲点相関関数は必ず 〈まφ〨p1〩まφ〨p2〩〉 〽まG(2)〨p1〩〨〲π〩

dδd〨p1 p2〩 の形を取ります.また回転対称性より まG(2)は運動量の大きさにしか依らず まG(2) 〽 まG(2)〨|p1|〩でなければなりません.以上の事とデルタ関数の性質 δd〨づ−tp1 づ−tp2〩 〽 づdtδd〨p1 p2〩 を踏まえると,繰り込み群方程式は関数 まG(2)に対して

スケーリング則 まG(2)〨|p1|〩 〽 づ(2∆(S∗)−d)t まG(2)〨づ−t|p1|〩 を意味します.この解は まG(2)〨|p1|〩 ∝ |p1|2∆(S∗)−d なので,結局〲点相関関

数は次の形を取ります〺

〈まφ〨p1〩まφ〨p2〩〉S∗ ∝ |p1|2∆(S∗)−d〨〲π〩dδd〨p1 p2〩 〨〱〮〵〮〳〵〩

これをうはふひどづひ変換すると座標表示の〲点相関関数が得られます〺

〈φ〨x1〩φ〨x2〩〉S∗ 〽∫|p1|<Λ

ddp1

〨〲π〩d

∫|p2|<Λ

ddp2

〨〲π〩d〈まφ〨p1〩まφ〨p2〩〉S∗づip1·x1+ip2·x2

∝∫|p|<Λ

ddp

〨〲π〩d|p|2∆(S∗)−dづip·(x1−x2)

∝ 〱

|x1 − x2|2∆(S∗)てはひ |x1 − x2|

〃〨〱〮〵〮〳〩

これを式〨〱〮〳〮〵〩と比較して〲、〨S∗〩 〽 d− 〲 ηとなります.、〨S∗〩が分かれば臨界指数η 〽 〲、〨S∗〩− d〲が求まることが分かりまし

た.〨Z2対称性φ→ −φがある理論では一般に〈φ〨x〩〉 〽 〰なので〈φ〨x1〩φ〨x2〩〉は連結〲点相関関数と同じです.〩

以上,臨界指数ηとνが何から決定されるのかを概観しましたが,これは後々具体例で計算していくので今は分からなくても構いま

せん.但し,繰り込み群が如何にして臨界現象の普遍性を説明するのかを認識しておくのは重要です.重要なのは次の〴つです〺

• 繰り込み群変換と低エネルギー有効理論繰り込み群変換した理論Rt〨S〩 〽 StはSの低エネルギー有効理論です.何を以て低エネルギー有効理論と呼んでいるのかという

と,エネルギースケールづ−t〃以下ではSの相関関数はStの相関関数と〨定数倍を除いて〩一致する,という意味で低エネルギー有

効理論です.これは繰り込み群方程式〨〱〮〵〮〱〴〩から従います.

• 臨界面とげご

S∗をξせS∗そ 〽∞を満たす繰り込み群変換の固定点としましょう.この時,臨界面上の理論は全て相関長無限大の臨界点T 〽 Tc直

上の理論となります.臨界面上の理論は全て繰り込み群変換の下で固定点S∗に収束し,一方,臨界面から少しだけずれた理論

は全て固定点S∗から湧き出すげごに漸近します〨図〱〮〲参照〩.

Page 19: 臨界現象と繰り込み群 - Nihon Universityaries.phys.cst.nihon-u.ac.jp › ~ohya › stat-mech › main.pdfぶ はじめに この講義では〲次相転移の臨界現象を繰り込み群の観点から解説します.主に次の〳つの事柄について学びます〺

〱〮 摂動論とε展開 〹

S∗

理論S

理論S′

臨界面

←RenormalizedTrajectory (RT)

Sc

S′c

図1.2: 同じ普遍類に属する理論SとS′のRG flowの模式図.青色の曲線はRG flowで,赤色の線は理論のパラメータを手で動かしていった時に描く

軌跡を表します.臨界点T = Tc直上にある理論ScとS′cは繰り込み群変換によって同一の固定点S∗に収束します.一方,臨界点から少しずれた理論

は同一のRTに漸近します.

• S∗は臨界点T 〽 Tc直上の理論の低エネルギー有効理論

臨界面上の理論Sを考えましょう.この理論のカットオフは〃です.この時t > 〰が十分大きいならば,エネルギースケー

ルづ−t〃以下のSの低エネルギー有効理論Stは,初期値Sが何であろうがほぼ固定点S∗の理論で記述できます.「初期値に鈍感」

という事が非常に重要です.

• げごは臨界点T 〽 Tc近傍の理論の低エネルギー有効理論

臨界面から少しだけずれた理論Sを考えましょう.この理論のカットオフは〃です.この時t > 〰が十分大きいならば,エネル

ギースケールづ−t〃以下のSの低エネルギー有効理論Stは,初期値Sが何であろうがほぼげご上の理論で記述できます.ここでも

「初期値に鈍感」という事が重要です.

要するに,繰り込み群変換の初期値として全く異なる流体の理論Sや強磁性体の理論S′を持って来ても,それらの臨界点が同じ臨界面

上にある限り,低エネルギーでは固定点S∗〨若しくはげご上の理論〩で同じ様に記述できる,という事です.これが臨界現象の普遍性の

仕組みです.普遍性とは固定点S∗を共有することに他ならず,異なる固定点が異なる普遍類を定めているわけです.

1.6 摂動論とε展開

しどぬびはのの繰り込み群は臨界現象の普遍性に対する強力なシナリオを与えてくれますが,繰り込み群だけでは臨界指数の値は予言出

来ません.固有値λ1, λ2, · · · や、〨S∗〩がどんな値を取るかまでは分からないからです.臨界指数を定量的に求めるには,繰り込み群

と摂動論〨ばづひぴふひぢちぴどはの ぴとづはひべ〩を組み合わせます.この摂動論的繰り込み群が威力を発揮するのは

• 繰り込み群変換の固定点が〲つ〨または〲つ以上〩ある理論で

• 理論にεという連続パラメータがあり

• ε→ 〰で〲つの固定点が〱つに合体する

という場合です.|ε| 〱なら〲つの固定点は十分近くにあると見なせます.この|ε| 〱の時,一方の良く分かっている固定点周り

のεに関する摂動論から,もう一方の良く分かっていない固定点の情報が引き出せて,臨界指数ηとνが計算できるわけです.そしてこ

の連続パラメータεというのが臨界次元〨っひどぴどっちぬ つどねづのびどはの〩と呼ばれる空間次元からのずれで,この講義で扱うφ4模型やそれをn成

分ベクトルに拡張したO〨n〩線型σ模型では臨界次元は〴,そしてεは

ε 〽 〴− d 〨〱〮〮〱〩

で与えられます.この臨界次元からのずれに関する摂動論がε展開〨εづへばちのびどはの〩です.この講義ではうづべのねちの図を用いたε展開をや

ります.例えばO〨n〩線型σ模型でうづべのねちの図を用いてε2のオーダーまで計算すると,臨界指数ηとνは次式で与えられます〺

η 〽〨n 〲〩

〲〨n 〸〩2ε2 O〨ε3〩 〨〱〮〮〲ち〩

ν 〽〱

〨n 〲〩

〴〨n 〸〩ε

〨n 〲〩〨n2 〲〳n 〰〩

〸〨n 〸〩3ε2 O〨ε3〩 〨〱〮〮〲ぢ〩

これを求めるのがこの講義のゴールです.但し,ε2のオーダーまで計算するのは大変なので,この講義ではεのオーダーまで計算する

予定です.これは次の〱ループうづべのねちの図を計算すれば求まります〺

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〱〰 第〱章 臨界現象と繰り込み群

この様な摂動計算を修得するのもこの講義の目的の〱つです.但し,うづべのねちの図を用いた摂動計算を使いこなすにはかなりの訓練が必

要で,経験上初学者には厳しいので,この講義では機械的に行えるキュムラント展開で計算して行きます.

参考文献

相図とその部分空間の分類の箇所は少し抽象的に感じたかもしれません.この部分はぎどでづぬ ぇはぬつづのてづぬつの教科書の第〲章〳節およ

びおちねづび ぇぬどねねとぁひぴとふひ おち》づの教科書の第〲章〱節の末尾を参考にしました〺

せ〱そ ぎ〮 ぇはぬつづのてづぬつ Lectures on Phase Transitions and the Renormalization Group 〨しづびぴぶどづぷ ぐひづびび 〱〹〹〲〩

せ〲そ お〮 ぇぬどねね ちのつ ぁ〮 おち》づ Quantum Physics: A Functional Integral Point of View 〲のつ づつ〮 〨こばひどのでづひざづひぬちで 〱〹〸〩

本文では余次元〱の部分空間がどうたらこうたらと書きましたが,実用上これらの事を意識することは殆ど無いので,良く分からなか

ったら取り敢えず無視して構いません.この講義ノートでもこれ以降相図の部分空間の分類について言及することはしません.因み

にせ〱そは有名な臨界現象の教科書で,読んでみて気に入ったらこれで勉強するのも良いと思います.せ〲そは有名な構成論的場の理論の教

科書で,臨界現象の教科書ではありません.〨私は参考にしましたが〩せ〲そは数学的すぎるので,数学好きでなければ見ない方が良いで

す.

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〱〱

第2章

平均場近似

この章では流体と強磁性体の臨界現象を題材に,普遍性とスケーリング則について学びます.

2.1 流体の臨界現象

この節のまとめ

• 理想気体の状態方程式を改良したぶちの つづひ しちちぬび状態方程式

P 〽〱

β

N/V

〱− bN/V− a

(N

V

)2

は相互作用する流体〨気体または液体〩の熱力学的模型の雛形.a > 〰は長距離での〲粒子間の引力相互作用を表すパラメータ

で,b > 〰は短距離での〲粒子間の斥力相互作用を表すパラメータ.aとbの値は物質に依る.

• ぶちの つづひ しちちぬび状態方程式で記述される流体は臨界点を持つ.臨界温度Tc,臨界圧力Pc,臨界体積Vcは

Tc 〽〸a

〲b2, Pc 〽

a

〲b2, Vc 〽 〳Nb

変数t 〽 T/Tc p 〽 P/Pc v 〽 V/Vcを導入すると,ぶちの つづひ しちちぬび状態方程式は次の様に書き換えられる〺

p 〽〸

t

v − 〱/〳− 〳

v2

この表式はパラメータaとbに依らず,従って物質に依らない.これを対応状態の法則と呼ぶ.

• 体積・粒子数一定の条件の下で,物質を単位温度上昇させるのに必要な単位体積当たりのエネルギーを定積比熱と呼ぶ.また,温度・粒子数一定の条件の下で,物質に掛かる圧力を単位圧力上昇させた時の単位体積当たりの体積変化を等温圧縮率

と呼ぶ.正準分布及び大正準分布を使うと,定積比熱cVと等温圧縮率κTはそれぞれエネルギーと粒子数の揺らぎ〨期待値から

のずれ〩の〲乗平均で与えられる〺

cV 〽T

V

(∂S

∂T

)V,N

〽 β2 〈〨H − 〈H〉〩2〉V

κT 〽 − 〱

V

(∂V

∂P

)T,N

〽β

ρ2

〈〨N − 〈N〉〩2〉V

但し,Sはエントロピーでρは粒子数密度.

• 臨界点近傍では一般にエネルギーと粒子数の揺らぎが非常に大きくなり,cVとκTは次の冪則に従って発散する〺

cV ∼ |T − Tc|−α ちび T ↓ TcκT ∼ |T − Tc|−γ ちび T ↓ Tc

冪の指数αとγを臨界指数と呼ぶ.ぶちの つづひ しちちぬび状態方程式の場合,臨界指数は

α 〽 〰 ちのつ γ 〽 〱

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〱〲 第〲章 平均場近似

統計分布 自然な変数 分配関数 熱力学ポテンシャルとその全微分

小正準分布 〨E, V,N〩 状態密度 《〨E, V,N〩

エントロピー

S〨E, V,N〩 〽 ぬはで《〨E, V,N〩δE

TdS 〽 −dE PdV − µdN

正準分布 〨T, V,N〩 Z〨T, V,N〩 〽

∫ ∞0

dE づ−βE《〨E, V,N〩

えづぬねとはぬぴぺの自由エネルギー

F 〨T, V,N〩 〽 − 1β ぬはでZ〨T, V,N〩

dF 〽 −SdT − PdV µdN

大正準分布 〨T, V, µ〩 〨T, V, µ〩 〽∞∑N=0

づβµNZ〨T, V,N〩

グランドポテンシャル

J〨T, V, µ〩 〽 − 1β ぬはで 〨T, V, µ〩 〽 −PV

dJ 〽 −SdT − PdV −Ndµ

等温定圧分布 〨T, P,N〩 、〨T, P,N〩 〽〱

V0

∫ ∞0

dV づ−βPV Z〨T, V,N〩

ぇどぢぢびの自由エネルギー

G〨T, P,N〩 〽 − 1β ぬはで、〨T, P,N〩 〽 µN

dG 〽 −SdT V dP µdN

表2.1: 代表的な統計分布と分配関数.分配関数が分かれば熱力学ポテンシャルが分かり,熱力学ポテンシャルが分かればそれを偏微分することで種

々の物理量が得られます.V0は体積の次元を持った適当な定数で,分配関数∆(T, P,N)を無次元にする為に導入しました.

高校物理でも学ぶ様に,理想気体の状態方程式はPV 〽 NT,即ち,*1

P 〽〱

β

N

V〨〲〮〱〮〱〩

ですが,実際の気体は粒子数密度N/Vが小さい領域もしくは高温領域のみでこの状態方程式に漸近するだけで,実験結果から得られ

る蒸気圧曲線とは一致しません.特に臨界点〨っひどぴどっちぬ ばはどのぴ〩がありません.臨界点とは大雑把に言って気相と液相の区別がつかなく

なり始める点*2で,この臨界点の存在は〱〸〰年代にごとはねちび ぁのつひづぷによって実験的には分かっていました.このぁのつひづぷの実験結果

を説明する為にぶちの つづひ しちちぬびは〱〸〰年代に次の状態方程式を導入しました〺

P 〽〱

β

N/V

〱− bN/V− a

(N

V

)2

〨〲〮〱〮〲〩

ここで,aとbは模型のパラメータで,物質によって異なる値を取ります.今から見ていく様に,この状態方程式で記述される流体*3は

臨界点を持ちます.このぶちの つづひ しちちぬび状態方程式を取り敢えず認めて議論を進めて行っても良いのですが,それでは天下り的過ぎる

ので,以下では統計力学を用いてこの状態方程式をまず導きましょう.考えるのはえちねどぬぴはのどちのが次式で与えられる〲体相互作用のみ

のN個の同種粒子系です〺*4

H〨p1, · · · ,pN , q1, · · · , qN 〩 〽

N∑i=1

p2i

〲m∑i<j

U〨|qi − qj |〩 〨〲〮〱〮〳〩

ここでqi piはi番目の粒子の位置と運動量です.また,mは粒子の質量で,Uは〲粒子間の距離のみに依存する相互作用ポテンシャル

です.以下,統計力学の復習も兼ねてこのえちねどぬぴはのどちのを使ってN粒子系を調べて行きましょう.以下では正準分布と大正準分布を用

います.統計力学を忘れてしまった人は適当な教科書を見るか,表〲〮〱を見てください.

*1 高校で学ぶのはPV = nRTですが,nRT = NkBTで,この講義ではkB = 1の単位系を使うのでnRT = NTです.*2 この臨界点近傍で観測される現象が臨界蛋白光(critical opalescence)です.臨界点近傍では気体・液体の密度揺らぎが大きくなり,相関長が可視光の波長程

度になると光の散乱が可視光の波長全域で起こって,気体・液体が白く濁って見えます.YouTubeでcritical opalescenceと検索すると動画が沢山出て来るので

見てみると良いでしょう.臨界蛋白光の理論としては1910年代のOrnstein-Zernike理論が有名です.*3 気体または液体を総称して流体(fluid)と呼びます.*4 記号

∑i<jは条件i < jの下でiとjを1からNまで足せ,という和の記号で,より明確に書くと下の様になります:

∑i<j

U(|qi − qj |) =

N∑j=2

j−1∑i=1

U(|qi − qj |)

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〲〮〱 流体の臨界現象 〱〳

2.1.1 正準分布と大正準分布

まず正準分布と大正準分布の復習から始めましょう.これらを使うと,定積比熱cV及び等温圧縮率κTはそれぞれエネルギー及び粒

子数の揺らぎの〲乗平均に比例することが分かります〺

cV ∝〈〨H − 〈H〉〩2〉

Vちのつ κT ∝

〈〨N − 〈N〉〩2〉V

〨〲〮〱〮〴〩

この結果はとても重要で,第〳章から導入する場の理論を用いると,これらは連結〲点相関関数と呼ばれる量の空間積分で書ける事が分

かります.そして〲点相関関数が臨界点近傍でスケーリング則に従い,そのスケーリング則から臨界現象の普遍性及び臨界指数の定量

的予言が出来る,という仕組みになっています.

正準分布の復習

温度Tの熱浴に接した体積Vの容器中のN個の同種粒子を考えます.粒子に適当に番号を振ってi番目の粒子の位置と運動量をqi

piとしましょう.この系のえちねどぬぴはのどちのが H〨p1, · · · ,pN , q1, · · · , qN 〩と与えられた時,分配関数は

Z〨T, V,N〩 〽

[〱

N 〡

N∏i=1

∫∫V

ddpiddqi

〨〲π~〩d

]づ−βH(p1,··· ,pN ,q1,··· ,qN ) 〨〲〮〱〮〵〩

但し,dは空間次元です.分配関数Zが分かると,えづぬねとはぬぴぺの自由エネルギーはZの対数を取ることで得られます〺

F 〨T, V,N〩 〽 − 〱

βぬはでZ〨T, V,N〩 〨〲〮〱〮〩

そしてえづぬねとはぬぴぺの自由エネルギーFが分かると,この系のエントロピーS,圧力P,化学ポテンシャルµはFを偏微分することで得ら

れます〺

S〨T, V,N〩 〽 −∂F 〨T, V,N〩

∂T〨〲〮〱〮ち〩

P 〨T, V,N〩 〽 −∂F 〨T, V,N〩

∂V〨〲〮〱〮ぢ〩

µ〨T, V,N〩 〽∂F 〨T, V,N〩

∂N〨〲〮〱〮っ〩

さて,体積V一定かつ粒子数N一定の条件の下,系の温度を単位温度上昇させるのに必要な単位体積当たりのエネルギーを定積比

熱cVと呼びます.定積比熱は温度変化に対する系の応答を表す量で,応答関数と呼ばれるものの一つです.熱力学で学んだ様にcVは

エントロピーの温度微分で与えられます〺

cV 〽T

V

∂S〨T, V,N〩

∂T

〽 −TV

∂2F 〨T, V,N〩

∂T 2〨〲〮〱〮〸〩

統計力学を用いると,この定積比熱はエネルギーの揺らぎの〲乗平均で与えられる事が分かります.これを見る為に,まずT微分

は ∂∂T 〽 dβ

dT∂∂β 〽 − 1

T 2∂∂β 〽 −β2 ∂

∂β とβ微分で書ける事に注意しましょう.これと式〨〲〮〱〮〩を合わせて少し計算すると,定積比

熱〨〲〮〱〮〸〩は次の様に分配関数で書き表される事が分かります〺

cV 〽β2

V

∂2 ぬはでZ〨T, V,N〩

∂β2

〽β2

V

[〱

Z〨T, V,N〩

∂2Z〨T, V,N〩

∂β2−(

Z〨T, V,N〩

∂Z〨T, V,N〩

∂β

)2]

〨〲〮〱〮〹〩

ここでえちねどぬぴはのどちののn乗の期待値〈Hn〉は次の様に書ける事に注意しましょう〺

〈Hn〉 〺〽 〱

Z〨T, V,N〩

[〱

N 〡

N∏i=1

∫∫V

ddpiddqi

〨〲π~〩d

]Hn〨p1, · · · , qN 〩づ−βH(p1,··· ,qN )

〽〨−〱〩n

Z〨T, V,N〩

∂nZ〨T, V,N〩

∂βn〨〲〮〱〮〱〰〩

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〱〴 第〲章 平均場近似

実際,式〨〲〮〱〮〵〩を使って最右辺のn階β微分を実行すると,真ん中の表式になります.これのn 〽 〱, 〲の場合を使うと,予告通り定積比

熱cVはえちねどぬぴはのどちの〨エネルギー〩の揺らぎの〲乗平均で書き表される事が分かります〺*5

cV 〽 β2 〈H2〉 − 〈H〉2

V

〽 β2 〈〨H − 〈H〉〩2〉V

〨〲〮〱〮〱〱〩

大正準分布の復習

次は大正準分布を考えましょう.温度T,化学ポテンシャルµの熱浴・粒子浴に接した体積Vの同種粒子系を考えます.この系の大

分配関数は分配関数Zを用いて次の様に与えられます〺

〨T, V, µ〩 〽

∞∑N=0

づβµNZ〨T, V,N〩 〨〲〮〱〮〱〲〩

この大分配関数が分かると,グランドポテンシャルは大分配関数の対数を取ることで得られます〺

J〨T, V, µ〩 〽 − 〱

βぬはで 〨T, V, µ〩 〨〲〮〱〮〱〳〩

そしてグランドポテンシャルが分かると,この系のエントロピーS,圧力P,粒子数NはJを偏微分する事で得られます〺

S〨T, V, µ〩 〽 −∂J〨T, V, µ〩∂T

〨〲〮〱〮〱〴ち〩

P 〨T, µ〩 〽 −∂J〨T, V, µ〩∂V

〨〲〮〱〮〱〴ぢ〩

N〨T, V, µ〩 〽 −∂J〨T, V, µ〩∂µ

〨〲〮〱〮〱〴っ〩

圧力Pは変数〨T, V, µ〩の関数として表した時,Vには依存しない事に注意しましょう.これは圧力Pは示強変数なので,変数〨T, V, µ〩の

中で唯一の示量変数Vには依存し得ない*6からです.一方,グランドポテンシャルは示量性を示すので,あるTとµだけの関数j〨T, µ〩が

存在してJ〨T, V, µ〩 〽 j〨T, µ〩Vと書けねばなりません.これを式〨〲〮〱〮〱〴ぢ〩に代入するとP 〨T, µ〩 〽 −j〨T, µ〩となるので,結局グランドポテンシャルは一般に次の形を取ります〺

J〨T, V, µ〩 〽 −P 〨T, µ〩V 〨〲〮〱〮〱〵〩

同様にエントロピーSと粒子数Nも示量変数なので,変数〨T, V, µ〩の関数として表した時,あるTとµだけの関数s〨T, µ〩とρ〨T, µ〩が存

在して次の様に書けねばなりません〺

S〨T, V, µ〩 〽 s〨T, µ〩V 〨〲〮〱〮〱ち〩

N〨T, V, µ〩 〽 ρ〨T, µ〩V 〨〲〮〱〮〱ぢ〩

このs〨T, µ〩とρ〨T, µ〩は物理的にはエントロピー密度と粒子数密度です.これらを用いると,式〨〲〮〱〮〱〴ち〩と〨〲〮〱〮〱〴ぢ〩は次の様になりま

す〺

s〨T, µ〩 〽∂P 〨T, µ〩

∂T〨〲〮〱〮〱ち〩

ρ〨T, µ〩 〽∂P 〨T, µ〩

∂µ〨〲〮〱〮〱ぢ〩

さて,温度T一定かつ粒子数N一定の条件の下,系の圧力が単位圧力上昇した時の単位体積当たりの体積変化を等温圧縮率κTと呼び

ます.等温圧縮率は圧力変化に対する系の応答を表す量で,定積比熱同様,応答関数の一つです.式で書くと次の様になります〺

κT 〽 − 〱

V

(∂V

∂P

)T,N

〨〲〮〱〮〱〸〩

*5 式(2.1.11)の2番目の等号は〈(H − 〈H〉)2〉 = 〈H2 − 2H〈H〉+ 〈H〉2〉 = 〈H2〉 − 2〈H〉〈H〉+ 〈H〉2 = 〈H2〉 − 〈H〉2から従います.*6 ある量f(T, V, µ)が任意のλ > 0に対してf(T, λV, µ) = f(T, V, µ)を満たす時,fを示強変数と呼びます.この時,λの任意性を利用してλ = 1/Vと選ぶ

と,f(T, V, µ) = f(T, 1, µ)となり右辺は最早Vに依存しないので,そもそもfはVには依存していなかった事が分かります.一方,任意のλ > 0に対し

てf(T, λV, µ) = λf(T, V, µ)を満たす時,fを示量変数と呼びます.この時,λの任意性を利用してλ = 1/Vと選ぶと,f(T, V, µ) = V f(T, 1, µ)となるので,

あるTとµだけの関数g(T, µ)が存在してf(T, V, µ) = g(T, µ)Vと書けねばならない事が分かります.示強変数・示量変数のこの辺の議論は適当な熱力学・統計

力学の教科書を見てください.

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〲〮〱 流体の臨界現象 〱〵

ここで全体に掛かる負号はκTを正の量*7にする為に入れています.体積Vの代わりに粒子数密度ρ 〽 N/Vを用いると,粒子数N一定

の条件の下で−V ∂V∂P 〽 − ρ

N∂∂P 〨

Nρ 〩 〽

1ρ∂ρ∂Pとなるので,等温圧縮率は次の様にも書けます〺

κT 〽〱

ρ

(∂ρ

∂P

)T

〨〲〮〱〮〱〹〩

このκTが実は粒子数の期待値からのずれの〲乗平均〈〨N − 〈N〉〩2〉に比例するのですが,これを示すには少しトリッキーな計算をしないといけません.まず大正準分布では粒子数Nのn乗の期待値は次式で与えられます〺

〈Nn〉 〺〽 〱

〨T, V, µ〩

∞∑N=0

NnづβµNZ〨T, V,N〩

〽〱

βn〱

〨T, V, µ〩

∂n〨T, V, µ〩

∂µn〨〲〮〱〮〲〰〩

特にn 〽 〱の場合,〈N〉 〽 1β

1Ξ∂Ξ∂µ 〽 1

β∂ log Ξ∂µ は式〨〲〮〱〮〱〴っ〩のN〨T, V, µ〩と一致する事に注意しましょう.式〨〲〮〱〮〲〰〩より粒子数の期待

値からのずれの〲乗平均〈〨N − 〈N〉〩2〉 〽 〈N2〉 − 〈N〉2は次の様に書けることが分かります〺

〈N2〉 − 〈N〉2 〽〱

β2

[〱

〨T, V, µ〩

∂2〨T, V, µ〩

∂µ2−(

〨T, V, µ〩

∂〨T, V, µ〩

∂µ

)2]

〽〱

β2

∂2 ぬはで 〨T, V, µ〩

∂µ2

〽 − 〱

β

∂2J〨T, V, µ〩

∂µ2

〽V

β

∂2P 〨T, µ〩

∂µ2

〽V

β

∂ρ〨T, µ〩

∂µ〨〲〮〱〮〲〱〩

ここで,〲番目の等号は単純計算から従い,〳番目の等号は式〨〲〮〱〮〱〳〩から,〴番目の等号は式〨〲〮〱〮〱〵〩から,そして最後の等号は

式〨〲〮〱〮〱ぢ〩から従います.

さて,大正準分布では粒子数密度ρは温度Tと化学ポテンシャルµの関数ρ〨T, µ〩として与えられる訳ですが,これを温度Tと圧力Pの

関数として書き表すことを考えましょう.まず,圧力PはTとµの関数P 〨T, µ〩として与えられますが,この関数P 〨T, µ〩が与えられた

時,方程式P 〽 P 〨T, µ〩を立ててこれをµについて解く事で化学ポテンシャルをTとPの関数µ〨T, P 〩として表します〺*8

P 〽 P 〨T, µ〩µについて解く−−−−−−−−→ µ 〽 µ〨T, P 〩 〨〲〮〱〮〲〲〩

こうやってTとPの関数として表した化学ポテンシャルµ〨T, P 〩を変数とする粒子数密度ρ〨T, µ〨T, P 〩〩を,同じ記号を使ってρ〨T, P 〩 ≡ρ〨T, µ〨T, P 〩〩と書くことにしましょう.この時,ρ〨T, P 〩のµ依存性はP 〽 P 〨T, µ〩を通して陰に含まれるのみです.従って,

ρ〨T, P 〨T, µ〩〩のµ微分はチェインルールより次の様になります〺

∂ρ〨T, P 〨T, µ〩〩

∂µ〽∂ρ〨T, P 〨T, µ〩〩

∂P

∂P 〨T, µ〩

∂µ

〽 ρ2〨T, P 〨T, µ〩〩κT 〨〲〮〱〮〲〳〩

但し,最後の等号は式〨〲〮〱〮〱ぢ〩と〨〲〮〱〮〱〹〩から従います.式〨〲〮〱〮〲〱〩と〨〲〮〱〮〲〳〩を合わせることで,予告通り等温圧縮率κTは粒子数の

揺らぎの〲乗平均で書き表されることが分かりました〺

κT 〽β

ρ2

〈N2〉 − 〈N〉2

V

〽β

ρ2

〈〨N − 〈N〉〩2〉V

〨〲〮〱〮〲〴〩

この最後の表式から明らかですが,等温圧縮率κTは正定値である事に注意しましょう.

*7 直感的に明らかな様に,印加する圧力を増やすと体積は減少するので熱力学的に安定な系では必ず( ∂V∂P

)T,N ≤ 0になります.*8 変数を(T, µ)から(T, P )へ変える操作は,理想気体の場合に式(2.1.34)の所で具体的に行います.

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〱 第〲章 平均場近似

2.1.2 理想気体

我々が最終的に調べたいのはN粒子えちねどぬぴはのどちのが式〨〲〮〱〮〳〩で表される相互作用系ですが,復習も兼ねてまずは粒子間の相互作用ポ

テンシャルがゼロの自由粒子系〨理想気体〩を調べましょう.この系のえちねどぬぴはのどちのは

H〨p1, · · · ,pN 〩 〽N∑i=1

p2i

〲m〨〲〮〱〮〲〵〩

です.この自由粒子の系を正準分布と大正準分布で調べて行きます.

正準分布の場合

まず分配関数を計算しましょう.えちねどぬぴはのどちの〨〲〮〱〮〲〵〩を式〨〲〮〱〮〵〩に代入して計算すると次の様になります〺

Zideal〨T, V,N〩 〽

[〱

N 〡

N∏i=1

∫∫V

ddpiddqi

〨〲π~〩d

]づへば

(−β

N∑i=1

p2i

〲m

)

〽〱

N 〡

[N∏i=1

(∫ddpi〨〲π~〩d

づ−β

2mp2i

)][ N∏i=1

∫V

ddqi

]

〽〱

N 〡

(m

〲π~2β

)dN/2V N 〨〲〮〱〮〲〩

えづぬねとはぬぴぺの自由エネルギーは分配関数の対数を取れば得られます〺*9

Fideal〨T, V,N〩 〽 − 〱

βぬはでZideal〨T, V,N〩

〽〱

β

ぬはでN 〡−N ぬはで

[(m

〲π~2β

)d/2V

]〨〲〮〱〮〲〩

これをT V Nで偏微分することでエントロピーS,圧力P,化学ポテンシャルµが求まります.例えば圧力を計算すると

P 〨T, V,N〩 〽 −∂Fideal〨T, V,N〩

∂V

〽〱

β

N

V〨〲〮〱〮〲〸〩

となります.これは理想気体の状態方程式〨〲〮〱〮〱〩に他なりません.一方,定積比熱cVは次の様に計算されます〺

cV 〽β2

V

∂2 ぬはでZideal〨T, V,N〩

∂β2

〽β2

V

∂2

∂β2ぬはで

[〱

N 〡

(m

〲π~2β

)dN/2V N

]

〽β2

V

∂2

∂β2

(−dN

〲ぬはで β

)〽d

N

V〨〲〮〱〮〲〹〩

自由粒子の場合はcV 〽 12 × 〨空間次元d〩× 〨粒子数密度〩という非常にシンプルな形を取ることが分かります.この自由粒子の場合,定

積比熱は温度には依存しない只の定数であることに注意しましょう.

*9 熱力学極限での表式も求めておきましょう.まず,N 1に対するStirlingの公式 logN ! = N logN −N +O(logN)を使うと,式(2.1.27)は

Fideal(T, V,N) = −1

β

N +N log

[(m

2π~2β

)d/2 VN

]+O(logN)

for N 1

となります.従って,粒子数密度ρ = N/Vを固定したまま熱力学極限V →∞, N →∞を取ると,単位体積当たりのHelmholtzの自由エネルギーfideal(T, ρ)は

次の様になります:

fideal(T, ρ) := limV→∞ & N→∞ρ = N/V : 固定

Fideal(T, V,N)

V

= −ρ

β

1 + log

[1

ρ

(m

2π~2β

)d/2](i)

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〲〮〱 流体の臨界現象 〱

大正準分布の場合

次に大正準分布を使って自由粒子系を調べましょう.まず大分配関数は分配関数〨〲〮〱〮〲〩を使って次の様に求まります〺

ideal〨T, V, µ〩 〽

∞∑N=0

づβµNZideal〨T, V,N〩

∞∑N=0

N 〡

[(m

〲π~2β

)d/2V づβµ

]N

〽 づへば

[(m

〲π~2β

)d/2V づβµ

]〨〲〮〱〮〳〰〩

グランドポテンシャルはこれの対数を取れば得られます〺

Jideal〨T, V, µ〩 〽 −〱

βぬはで ideal〨T, V, µ〩

〽 − 〱

β

(m

〲π~2β

)d/2V づβµ 〨〲〮〱〮〳〱〩

式〨〲〮〱〮〱〵〩の所で述べたように,グランドポテンシャルの体積依存性は確かにVに比例するだけであることに注意しましょう.このグ

ランドポテンシャルをT V µで偏微分することでエントロピーS,圧力P,粒子数Nが求まります.例えば圧力を計算すると

P 〨T, µ〩 〽 −∂Jideal〨T, V, µ〩

∂V

〽 −Jideal〨T, V, µ〩

V

〽〱

β

(m

〲π~2β

)d/2づβµ 〨〲〮〱〮〳〲〩

となります.圧力P 〨T, µ〩が分かったので,式〨〲〮〱〮〱ち〩 〨〲〮〱〮〱ぢ〩に従ってこれをT µで偏微分するとエントロピー密度s 粒子数密

度ρが求まります.例えば粒子数密度は次の様になります〺

ρ〨T, µ〩 〽 −∂P 〨T, µ〩∂µ

(m

〲π~2β

)d/2づβµ 〨〲〮〱〮〳〳〩

さて,式〨〲〮〱〮〲〲〩の所で述べたように,P 〽 P 〨T, µ〩をµについて解いて化学ポテンシャルをTとPの関数µ〨T, P 〩として表してみま

しょう.これは式〨〲〮〱〮〳〲〩をµについて解くだけで良く,答えは

µ〨T, P 〩 〽〱

βぬはで

(m

〲π~2β

)−d/2P

]〨〲〮〱〮〳〴〩

となります.これを式〨〲〮〱〮〳〳〩に代入することで,粒子数密度をTとPの関数ρ〨T, P 〩 ≡ ρ〨T, µ〨T, P 〩〩として表せます〺

ρ〨T, P 〩 〽 βP 〨〲〮〱〮〳〵〩

これは理想気体の状態方程式P 〽 1β ρに他ならない事に注意しましょう.ρ〨T, P 〩が分かったのでこれをPで偏微分することで等温圧縮

率は次の様に求まります〺

κT 〽〱

ρ〨T, P 〩

∂ρ〨T, P 〩

∂P

〽β

ρ〨T, P 〩

〽〱

P〨〲〮〱〮〳〩

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〱〸 第〲章 平均場近似

0 r

U(r)

(a) Lennard-Jonesポテンシャル

0 r

U(r)

R

Ucore(r)

Uattr(r)

(b) U(r) = Ucore(r) + Uattr(r)

図2.1: 2体相互作用ポテンシャル.rは2粒子間の距離を表します. (a)はLennard-Jonesポテンシャル(2.1.38)で,(b)は斥力部分をハードコ

ア(2.1.40a)に置き換えたものです.

2.1.3 平均場近似

さて,いよいよ本題の相互作用する粒子系の話に移りましょう.まず正準分布から始めます.えちねどぬぴはのどちのが式〨〲〮〱〮〳〩で与えられ

るN粒子系の分配関数は次の積分で与えられます〺

Z〨T, V,N〩 〽

[〱

N 〡

N∏i=1

∫∫V

ddpiddqi

〨〲π~〩d

]づへば

−β N∑i=1

p2i

〲m∑i<j

U〨|qi − qj |〩

N 〡

[N∏i=1

(∫ddpi〨〲π~〩d

づ−β

2mp2i

)][ N∏i=1

∫V

ddqi

]づ−β

∑i<j U(|qi−qj |)

〽Zideal〨T, V,N〩

V N

∫V

ddq1 · · ·∫V

ddqN づへば

−β∑i<j

U〨|qi − qj |〩

〨〲〮〱〮〳〩

但し,〳行目で運動量積分を実行しました.運動量積分の部分は理想気体の場合の分配関数〨〲〮〱〮〲〩をV Nで割ったものになります.一

方,最後の座標積分は勿論Uを具体的に指定しないと計算できません.しかし問題はUを具体的に指定した所でこの積分を実行するの

は一般に非常に困難である,という所にあります.普通は何かしらの近似計算で最後の積分を評価して行くのですが,以下では代表的

な近似法である平均場近似〨ねづちの 「づぬつ ちばばひはへどねちぴどはの〩を用いて計算していきましょう.今考えている粒子系に於いては,平均場

近似は次の〳つの近似から成ります〺

• 近似その〱〺 粒子間の斥力相互作用をハードコア斥力で置き換える

これまで粒子間相互作用について全く述べてきませんでしたが,相互作用としては,短距離では斥力が働いて粒子が互いに凝縮

しない様になっており,逆に長距離では引力が働いて粒子が互いに離れ過ぎない様になっているものを考えます.その様な相互

作用ポテンシャルの代表例としてがづののちひつおはのづびポテンシャルがあります〨図〲〮〱ち参照〩〺

U〨r〩 〽A

r12− B

r6〨A B〺 正の定数〩 〨〲〮〱〮〳〸〩

但し,以下ではこれは使いません.式〨〲〮〱〮〳〸〩の様な相互作用ポテンシャルの斥力部分をハードコア斥力〨半径Rの剛体球〩に置

き換えてもっと簡単化します〨図〲〮〱ぢ参照〩.具体的には次の相互作用ポテンシャルを使います〺

U〨r〩 〽 Ucore〨r〩 Uattr〨r〩 〨〲〮〱〮〳〹〩

ここでUcore〨r〩はハードコア斥力ポテンシャル,Uattr〨r〩は引力ポテンシャルで次の性質を満たします〺

Ucore〨r〩 〽

∞ てはひ r < R

〰 てはひ r > R〨〲〮〱〮〴〰ち〩

Uattr〨r〩 〽

〰 てはひ r < R

非正で無限遠で充分早くゼロに収束する関数 てはひ r > R〨〲〮〱〮〴〰ぢ〩

以下ではUattr〨r〩のr > Rでの関数形は特に指定しません.このU〨r〩を用いると,式〨〲〮〱〮〳〩の被積分関数は

づへば

−β∑i<j

U〨|qi − qj |〩

〽 づへば

−β∑i<j

Ucore〨|qi − qj |〩

づへば

−β∑i<j

Uattr〨|qi − qj |〩

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〲〮〱 流体の臨界現象 〱〹

∏i<j

づ−βUcore(|qi−qj |)

づへば

−β∑i<j

Uattr〨|qi − qj |〩

∏i<j

θ〨|qi−qj |R 〩

づへば

−β∑i<j

Uattr〨|qi − qj |〩

〨〲〮〱〮〴〱〩

となります.ここでθ〨x〩は階段関数で,最後の等号は〨〲〮〱〮〴〰ち〩から従う次の等式によります〺

づ−βUcore(r) 〽 θ〨 rR 〩 〽

〰 てはひ r < R

〱 てはひ r > R〨〲〮〱〮〴〲〩

• 近似その〲〺 粒子数密度を平均粒子数密度で置き換える

次に式〨〲〮〱〮〴〱〩最右辺に現れた引力ポテンシャルの和∑i<j Uattr〨|qi − qj |〩を近似していきます.まずこの和は次の様に積分で

書ける事に注意します〺

∑i<j

Uattr〨|qi − qj |〩 〽〱

N∑i=1

N∑j=1

Uattr〨|qi − qj |〩

〽〱

N∑i=1

N∑j=1

∫V

ddq

∫V

ddq′ δd〨q − qi〩δd〨q′ − qj〩Uattr〨|q − q′|〩

〽〱

∫V

ddq

∫V

ddq′ ρ〨q〩ρ〨q′〩Uattr〨|q − q′|〩 〨〲〮〱〮〴〳〩

但し,最初の等号でUattr〨〰〩 〽 〰を使いました.また,和∑Ni=1

∑Nj=1は同じもの Uattr〨|qi − qj |〩 〽 Uattr〨|qj − qi|〩 を〲回足し

ているので全体に〱/〲を掛けています.〲番目の等号はデルタ関数の積分を実行すると〱行目に一致することから分かります.最

後の等号で現れたρ〨q〩は位置qにおける粒子数密度で,次式で定義されます〺

ρ〨q〩 〽N∑i=1

δd〨q − qi〩 〨〲〮〱〮〴〴〩

ここまではデルタ関数の積分のトリックを使って和を書き換えただけで,何も近似はしていません.次が重要な近似〨と言うか

置き換え〩で,積分〨〲〮〱〮〴〳〩に現れた粒子数密度ρ〨q〩を平均の粒子数密度N/Vに置き換えます〺

ρ〨q〩→ N

V〨〲〮〱〮〴〵〩

この大胆な置き換えの下で和∑i<j Uattr〨|qi − qj |〩は次の様に置き換えられます〺

∑i<j

Uattr〨|qi − qj |〩→〱

(N

V

)2 ∫V

ddq

∫V

ddq′ Uattr〨|q − q′|〩 〨〲〮〱〮〴〩

この右辺の積分は最早粒子の座標qiには依存しない只の定数です.従ってこの定数を−〲aVと書きましょう〺∫V

ddq

∫V

ddq′ Uattr〨|q − q′|〩 〽 −〲aV 〨〲〮〱〮〴〩

この−〲aVの物理的意味ですが,おおよそ−〲aが引力ポテンシャルUattrの空間積分∫VddqUattr〨|q|〩に対応し,Vが残りの体積

積分∫Vddq′に対応します.a > 〰は正の量で,〲粒子間の長距離での引力相互作用を表すパラメータの役割を果たします.以上

の結果〨〲〮〱〮〴〱〩 〨〲〮〱〮〴〩 〨〲〮〱〮〴〩をまとめると,分配関数〨〲〮〱〮〳〩に現れる空間積分は次の様に置き換えられます〺

∫V

ddq1 · · ·∫V

ddqN づへば

−β∑i<j

U〨|qi − qj |〩

→ ∫V

ddq1 · · ·∫V

ddqN

∏i<j

θ〨|qi−qj |R 〩

づ−β·12 〨

NV 〩

2(−2aV )

〽 づβaN2

V

∫V

ddq1 · · ·∫V

ddqN∏i<j

θ〨|qi−qj |R 〩 〨〲〮〱〮〴〸〩

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〲〰 第〲章 平均場近似

• 近似その〳〺 体積積分の近似

式〨〲〮〱〮〴〸〩には階段関数を含んだ体積積分が残っていますが,これがまた難しい積分で,厳密に計算するのは困難です.但し直

感的にはハードコア斥力〨〲〮〱〮〴〰ち〩の為に〱つの粒子には半径R以上近づけないので,bを半径Rのd次元球の体積とした時,〱つの

体積積分∫Vddqiの寄与は〨粒子数密度N/Vが小さければ〩大体V −Nbになるだろうと期待出来ます.この素朴な期待の下,体積

積分を次の様に置き換えます〺 ∫V

ddq1 · · ·∫V

ddqN∏i<j

θ〨|qi−qj |R 〩→ 〨V −Nb〩N 〨〲〮〱〮〴〹〩

粒子間の斥力相互作用によってV Nが実効的に〨V −Nb〩Nに減少する事を排除体積効果と呼びます.b > 〰は模型のパラメータ

で,〲粒子間の短距離での斥力相互作用を表すパラメータの役割を果たします.

以上がこのN粒子系での平均場近似で,式〨〲〮〱〮〴〸〩と〨〲〮〱〮〴〹〩を分配関数〨〲〮〱〮〳〩に代入すると平均場近似での分配関数Zmeanが得られ

ます〺

Zmean〨T, V,N〩 〽Zideal〨T, V,N〩

V Nづへば

(βaN2

V

)〨V −Nb〩N

〽 Zideal〨T, V,N〩

(〱− bN

V

)Nづへば

(βaN2

V

)〨〲〮〱〮〵〰〩

分配関数が分かったので,えづぬねとはぬぴぺの自由エネルギーは式〨〲〮〱〮〵〰〩の対数を取れば得られます〺*10

Fmean〨T, V,N〩 〽 − 〱

βぬはでZmean〨T, V,N〩

〽 Fideal〨T, V,N〩− N

βぬはで

(〱− bN

V

)− aN2

V〨〲〮〱〮〵〱〩

但し,Fidealは式〨〲〮〱〮〲〩で与えられる理想気体のえづぬねとはぬぴぺの自由エネルギーです.平均場近似でのえづぬねとはぬぴぺの自由エネルギーが分

かったので,圧力は式〨〲〮〱〮〵〱〩をVで偏微分すれば得られます〺

P 〨T, V,N〩 〽 −∂Fmean〨T, V,N〩

∂V

〽 −∂Fideal〨T, V,N〩

∂V

β

bN2/V 2

〱− bN/V− aN2

V 2

〽〱

β

N

V

β

bN2/V 2

〱− bN/V− a

(N

V

)2

〽〱

β

N/V

〱− bN/V− a

(N

V

)2

〨〲〮〱〮〵〲〩

但し,〳行目で式〨〲〮〱〮〲〸〩を使いました.これより次のP T V Nの間の関係式〨状態方程式〩を得ます〺

P 〽〱

β

N/V

〱− bN/V− a

(N

V

)2

〨〲〮〱〮〵〳〩

これがぶちの つづひ しちちぬび状態方程式で,〱〸〰年代前半に当時博士課程の学生だったおはとちののづび いどつづひどに ぶちの つづひ しちちぬびによって現象論的

に導入されました.以下,このぶちの つづひ しちちぬび状態方程式で記述される流体の性質を列挙しましょう〺

• 臨界点〨っひどぴどっちぬ ばはどのぴ〩

温度T,粒子数Nを固定して〨P, V 〩曲線を描いてみれば分かりますが,ぶちの つづひ しちちぬび状態方程式で記述される流体はある温度

以下では

∂P

∂V> 〰 〨〲〮〱〮〵〴〩

*10 粒子数密度ρ = N/Vを固定して熱力学極限V,N →∞を取ると,単位体積当たりのHelmholtzの自由エネルギーfmean(T, ρ)は

fmean(T, ρ) := limV→∞ & N→∞ρ = N/V : 固定

Fmean(T, V,N)

V

= fideal(T, ρ)−ρ

βlog (1− bρ)− aρ2

= −ρ

β

1 + log

[1− bρρ

(m

2π~2β

)d/2]− aρ2 (ii)

となります.但し,2番目の等号で式(i)を使いました.

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〲〮〱 流体の臨界現象 〲〱

0 V

P

Vc

Pc

T < Tc

T = Tc

T > Tc

(a) PV等温曲線

0 ρ

P

ρc

PcT < Tc

T = Tc

T > Tc

(b) Pρ等温曲線

図2.2: van der Waals状態方程式から得られる等温曲線.ρc = 1/3bは臨界粒子数密度を表します.T < Tcでは∂P∂V

> 0 (または ∂P∂ρ

< 0) の熱力学

的に不安定な領域が存在します.(これを解消するにはMaxwellの等面積則(またはFmeanの凸関数化)を適用する必要があります.)

となるVの領域があります〨図〲〮〲参照〩.一方,等温圧縮率κTの所で議論したように,熱力学的に安定な系では常に∂P∂V ≤ 〰で

す.この ∂P∂V ≤ 〰から ∂P

∂V > 〰へ転じる点,即ち

∂P

∂V〽 〰 ちのつ

∂2P

∂V 2〽 〰 〨〲〮〱〮〵〵〩

が臨界点に対応します.この臨界点を求めましょう.式〨〲〮〱〮〵〳〩の両辺をVについて偏微分して次の条件を得ます〺

∂P

∂V〽 − 〱

β

N

〨V −Nb〩2

〲aN2

V 3〽 〰 〨〲〮〱〮〵ち〩

∂2P

∂V 2〽

β

〲N

〨V −Nb〩3− aN2

V 4〽 〰 〨〲〮〱〮〵ぢ〩

この連立方程式は簡単に解けて,次の臨界温度Tc,臨界圧力Pc,臨界体積Vcを得ます〺

Tc 〽〸a

〲b, Pc 〽

a

〲b2, Vc 〽 〳Nb 〨〲〮〱〮〵〩

• 対応状態の法則〨ぬちぷ はて っはひひづびばはのつどので びぴちぴづび〩

ぶちの つづひ しちちぬび状態方程式に登場するパラメータaとbの値は物質に依存しますが,上で求めた臨界温度,臨界圧力,臨界体積を

基準にしてT P Vを測る事にすると,状態方程式から完全にaとbを消し去ることが出来ます.次の無次元の変数を導入しまし

ょう〺

t 〽T

Tc, p 〽

P

Pc, v 〽

V

Vc〨〲〮〱〮〵〸〩

状態方程式をこのt p vで書き直すと次の様になります〺

p 〽〸

t

v − 〱/〳− 〳

v2〨〲〮〱〮〵〹〩

この状態方程式はaとbに依らないので,特定の物質に依らず普遍的に成り立つ表式です.これを対応状態の法則と呼びます.ま

た,次の比もaとbに依らない普遍的な値を示します〺

PcVcNTc

〽〳

〸〽 〰.〳〵 〨〲〮〱〮〰〩

実際の単原子分子気体〨希ガス〩の測定結果では,キセノンが〰.〲〸〸,アルゴンが〰.〲〹〱となっていて*11,〰.〳〵からは少しずれて

います.

• 臨界指数〨っひどぴどっちぬ づへばはのづのぴび〩

臨界点近傍では種々の物理量が特異性を示し,T → Tcで|T − Tc|の冪関数の様に振る舞ったりすることが知られています.流体の場合,次の量がその様な物理量の典型例です〺*12

〨定積比熱〩 cV ∼ |T − Tc|−α 〨T → Tc〩 〨〲〮〱〮〱ち〩

*11 H. E. Stanley, Introduction to Phase Transitions and Critical Phenomena (Oxford University Press, 1971)のTable 5.1から引用.*12 他には気相と液相の体積差のT ↑ Tcでの振る舞いVgas − Vliquid ∼ |T − Tc|βが重要ですが,この臨界指数βを計算するにはT < Tcでの系の振る舞いを正しく

知る必要があります.今使っている平均場近似でT < Tcの振る舞いを知るにはMaxwellの等面積則を使わないといけませんが,これは面倒なのでここではやら

ないことにします.因みにMaxwellの等面積則を使って計算するとβ = 1/2になります.

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〲〲 第〲章 平均場近似

〨等温圧縮率〩 κT ∼ |T − Tc|−γ 〨T → Tc〩 〨〲〮〱〮〱ぢ〩

〨臨界圧力からのずれ〩 P − Pc ∼ 〨Vc − V 〩δ 〨T 〽 Tc 〦 V → Vc〩 〨〲〮〱〮〱っ〩

冪の指数α, γ, δを臨界指数と呼びます.この臨界指数を求めてみましょう.まずp〨t, v〩 〽 83

tv−1/3 −

3v2とすると,この〲変数

関数p〨t, v〩は臨界点〨t, v〩 〽 〨〱, 〱〩周りでごちべぬはひ展開可能です.〲変数関数のごちべぬはひ展開は

p〨t, v〩 〽 p〨〱, 〱〩 ∂p〨〱, 〱〩

∂t〨t− 〱〩

∂p〨〱, 〱〩

∂v〨v − 〱〩

〲〡

[∂2p〨〱, 〱〩

∂t2〨t− 〱〩2 〲

∂2p〨〱, 〱〩

∂t∂v〨t− 〱〩〨v − 〱〩

∂2p〨〱, 〱〩

∂v2〨v − 〱〩2

]

〳〡

[∂3p〨〱, 〱〩

∂t3〨t− 〱〩3 〳

∂3p〨〱, 〱〩

∂t2∂v〨t− 〱〩2〨v − 〱〩 〳

∂3p〨〱, 〱〩

∂t∂v2〨t− 〱〩〨v − 〱〩2

∂3p〨〱, 〱〩

∂v3〨v − 〱〩3

] · · · 〨〲〮〱〮〲〩

ですが,展開係数を計算すると,〳次のオーダーまでで次の様になります〺

p〨t, v〩 〽 〱 〴〨t− 〱〩− 〨t− 〱〩〨v − 〱〩 〹〨t− 〱〩〨v − 〱〩2 − 〳

〲〨v − 〱〩3 · · · 〨〲〮〱〮〳〩

これから臨界指数γとδが計算できます.最初にγを計算しましょう.等温圧縮率κTはκT 〽 − 1V∂V∂Pですが,これは次の表式とも

等しいです〺

κT 〨t, v〩 〽 −〱

Pcv

(∂p〨t, v〩

∂v

)−1

〨〲〮〱〮〴〩

これに式〨〲〮〱〮〳〩を代入すると,臨界体積直上〨v 〽 〱〩かつ臨界温度近傍〨|t − 〱| 〱〩では等温圧縮率はκT 〨t, 〱〩 〽

− 1Pc

〨−〨t− 〱〩 · · · 〩−1 ∼ 16Pc

〨t− 〱〩−1 〽 16Pc

〨T−TcTc〩−1 と振る舞います.従って,

κT ∼ 〨T − Tc〩−1 〨T ↓ Tc 〦 V 〽 Vc〩 〨〲〮〱〮〵〩

これよりβ 〽 〱が読み取れます.次に臨界指数δを求めましょう.臨界温度直上〨t 〽 〱〩では p〨〱, v〩 − 〱 〽 − 32 〨v − 〱〩3 · · · ∼

32 〨〱− v〩

3 〽 32 〨Vc−VVc

〩3 と振る舞います*13.従って,

P − Pc ∼ 〨Vc − V 〩3 〨T 〽 Tc 〦 V → Vc〩 〨〲〮〱〮〩

これよりδ 〽 〳が読み取れます.最後に臨界指数αを求めましょう.式〨〲〮〱〮〵〰〩の分配関数を使って定積比熱cVを計算すると

cV 〽β2

V

∂2 ぬはでZmean〨T, V,N〩

∂β2

〽β2

V

∂2

∂β2

[ぬはでZideal〨T, V,N〩 N ぬはで

(〱− bN

V

)βaN2

V

]〽β2

V

∂2 ぬはでZideal〨T, V,N〩

∂β2

〽d

N

Vてはひ T > Tc 〨〲〮〱〮〩

但し,最後の等号で理想気体の結果〨〲〮〱〮〲〹〩を使いました.このcVは温度に依らない定数なので臨界指数はα 〽 〰となります.

大正準分布の場合

以上,正準分布を使って計算して来ましたが,最後に大正準分布を使うとどうなるか簡単に述べて終わりにしましょう.まず大分配

関数は分配関数〨〲〮〱〮〵〰〩を用いて次式で与えられます〺

mean〨T, V, µ〩 〽∞∑N=0

づβµNZmean〨T, V,N〩

〽∞∑N=0

づへば せ−β 〨Fmean〨T, V,N〩− µN〩そ 〨〲〮〱〮〸〩

*13 体積Vの代わりに粒子数密度ρを使うとP − Pc ∼ (ρ− ρc)3となります.

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〲〮〲 強磁性体の臨界現象 〲〳

この和∑∞N=0が計算出来れば良いのですが,これは難しいので近似を考えましょう.Nで和を取った時に一番寄与するのは〨T, V, µ〩を

固定した時にFmean〨T, V,N〩− µNを最小にするNなので,大分配関数は次の様に近似出来ます〺

mean〨T, V, µ〩 ∼ づへば[−βねどの

N〨Fmean〨T, V,N〩− µN〩

]〨〲〮〱〮〹〩

ここで記号「ねどのN f〨N〩」は「Nを変えていった時のf〨N〩の最小値」という意味です.式〨〲〮〱〮〹〩によって大分配関数が〨T, V, µ〩の

関数として得られたので,圧力P 〨T, µ〩は式〨〲〮〱〮〱〵〩と〨〲〮〱〮〱〳〩より

P 〨T, µ〩 〽 −Jmean〨T, V, µ〩

V

〽〱

V βぬはで mean〨T, V, µ〩

∼ − 〱

V

[ねどのN

〨Fmean〨T, V,N〩− µN〩]

∼ −ねどのρ

〨fmean〨T, ρ〩− µρ〩 〨〲〮〱〮〰〩

と評価されます.但し,最後の行でFmean〨T, V, µ〩/Vを〨熱力学極限を取った後の〩単位体積当たりのえづぬねとはぬぴぺの自由エネルギ

ーfmean〨T, ρ〩に置き換え,Nに関して最小値を取る操作を粒子数密度ρ 〽 N/Vに関して最小値を取る操作に置き換えました.

式〨〲〮〱〮〰〩が変数〨T, µ〩を用いた時の状態方程式を与えます.実際,ρ∗〨T, µ〩を〨T, µ〩を固定した時のfmean〨T, ρ〩 − µρの最小値とすると,最小値は極小値なのでρ∗は方程式

∂∂ρ 〨fmean〨T, ρ〩− µρ〩 〽 〰の解,即ち,

µ 〽∂fmean〨T, ρ〩

∂ρ〨〲〮〱〮〱〩

の解です.これを式〨〲〮〱〮〰〩に代入して式〨どど〩で求めたfmeanを使って計算すると次の様になります〺*14

P 〨T, µ〩 ∼ −fmean〨T, ρ∗〨T, µ〩〩 ∂fmean〨T, ρ〩

∂ρ

∣∣∣∣ρ=ρ∗(T,µ)

ρ∗〨T, µ〩

〽〱

β

ρ∗〨T, µ〩

〱− bρ∗〨T, µ〩− aρ2

∗〨T, µ〩 〨〲〮〱〮〲〩

これはぶちの つづひ しちちぬび状態方程式〨〲〮〱〮〵〳〩のN/Vがρ∗に置き換わったものに他なりません.重要なのは粒子数密度ρが「最小値を取る」

という操作で決まる所で,fmean〨T, ρ〩 − µρが複数の極小値を持つ場合に特に重要になってきます.複数の極小値というのが異なる相〨液相か気相〩での粒子数密度に対応し,温度を変えていった時にどの極小値が選ばれるのか,という数学的な問いが,温度を変えて

いった時にどの相が実現されるのか,という物理的な問いに対応するわけです.但し,fmean〨T, ρ〩− µρの最小値の現れ方を具体的に調べるのは大変なので,これ以上解析する事は止めにして強磁性体の臨界現象の話に移ることにします.

2.2 強磁性体の臨界現象

この節のまとめ

• 固体の結晶格子の各格子点xi〨i 〽 〱, · · · , N〩にスピン変数S〨xi〩 〽 ±〱が付与されているとする.この時,えちねどぬぴはのどちのが

H 〽 −J∑〈ij〉

S〨xi〩S〨xj〩− hN∑i=1

S〨xi〩

で与えられる最近接相互作用の格子模型をぉびどので模型と呼ぶ.Jはスピン間相互作用のパラメータで,J > 〰の時は強磁性体

の模型,J < 〰の時は反強磁性体の模型を表す.この講義ではJ > 〰のみを扱う.一方,hは外部磁場に対応するパラメータ.

• 平均場近似ではぉびどので模型は任意次元で臨界点を持つ.d次元立方格子の場合,臨界温度Tcは

Tc 〽 〲dJ

*14 ρ∂fmean(T,ρ)

∂ρ= fmean(T, ρ) + 1

βρ

1−bρ − aρ2 を使うと簡単に求まります.因みにTとµを与えた時に−minρ (fmean(T, ρ)− µρ)を求める操作は,関

数fmean(T, ρ)の変数ρに関するLegendre変換に他なりません.このLegendre変換を用いるとMaxwellの等面積則を使わずに済みます.また,Legendre変換

を2回施すとMaxwellの等面積則と同じ結果を再現する(物理的に正しい)Helmholtzの自由エネルギーが得られます.(凸関数ならLegendre変換を2回施すと元

の関数に戻りますが,fmeanは凸関数では無いので元には戻りません.)

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〲〴 第〲章 平均場近似

• f〨T, h〩を単位格子当たりの自由エネルギーとすると,単位格子当たりの磁化mは次式で与えられる〺

m〨T, h〩 〽 −∂f〨T, h〩∂h

外部磁場がゼロの時,mはT > Tcの常磁性相ではゼロだが,T < Tcの強磁性相では非ゼロの有限値を獲得する〺

m〨T, 〰〩 〽 〰 てはひ T > Tc

m〨T, 〰〩 6〽 〰 てはひ T < Tc

即ち,mがゼロかゼロでないかで常磁性相にあるか強磁性相にあるかが判定できる.この様な量を秩序変数と呼ぶ.

• 外部磁場一定の条件の下,磁性体の温度を単位温度上昇させた時の単位格子点当たりのエネルギーの変化を定磁場比熱と呼ぶ.また,温度一定の条件の下,外部磁場を変化させた時の磁化の変化率を等温帯磁率と呼ぶ.定磁場比熱と等温帯磁率は

それぞれエネルギーと磁化の揺らぎの〲乗平均で表される〺

ch 〽 −T ∂2f〨T, h〩

∂T 2〽 β2 〈〨H − 〈H〉〩2〉

Nちのつ χT 〽 −∂

2f〨T, h〩

∂h2〽 β〈〨M − 〈M〉〩2〉

N

但し,M 〽∑Ni=1 S〨xi〩.

• 臨界点近傍では一般にエネルギー及び磁化の揺らぎが非常に大きくなり,chとχTは次の冪則に従って発散する〺

ch ∼ |T − Tc|−α ちのつ χT ∼ |T − Tc|−γ ちび T → Tc ぷどぴと h 〽 〰

また,単位格子当たりの磁化mは臨界点近傍で次のように振る舞う〺

m〨T, 〰〩 ∼ |T − Tc|β ちび T ↑ Tc ぷどぴと h 〽 〰

m〨Tc, h〩 ∼ h1/δ ちぴ T 〽 Tc

平均場近似で計算した場合,臨界指数α, β, γ, δはぶちの つづひ しちちぬび流体の臨界指数〰, 12 , 〱, 〳と一致する.

磁石を高温の溶鉱炉の中に入れると磁性が失われるという事は昔から分かっていたようですが,この現象の物理的な理解が進み始め

たのは〱〹世紀で,特に重要なのが〱〸〹〵年のぐどづひひづ ぃふひどづの論文だと言われています.この論文の中でぃふひどづは既に流体の臨界現象と強

磁性体の臨界現象の類似性について言及しており,流体の圧力・粒子数密度の等温曲線と強磁性体の外部磁場・磁化の等温曲線の類似

性を指摘していると言われています*15.現在の後付けの知識を加えると,この類似性は次の図にまとめられます〺*16

流体 強磁性体

相図

気相

液相

T

P

Tc

Pc臨界点

対応⇐⇒T

h

Tc0

m > 0の相

m < 0の相

臨界点

等温曲線

ρ

P

ρc

PcT < Tc

T = Tc

T > Tc

対応⇐⇒0

m

h

T < Tc

T = Tc

T > Tc

*15 この辺の歴史はC. Dombのモノグラフ“The Critical Point”第1章参照.*16 下段図の青色の曲線の平坦な部分は平均場近似だけでは出て来ません.平均場近似の結果からこの曲線を得るにはMaxwellの等面積則もしくは自由エネルギー

の凸関数化もしくはLegendre変換2回を施さないといけませんが,これらを実際に実行するのはかなり面倒なので,この講義ではこの部分は議論しません.(自

由エネルギーの凸性やLegendre変換については適当な熱力学・統計力学の教科書を見てください.)

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〲〮〲 強磁性体の臨界現象 〲〵

この図から明らかですが,流体の圧力Pが強磁性体の外部磁場hに対応し,流体の粒子数密度ρが強磁性体の単位格子当たりの磁

化mに対応しています.例えば,T 〽 Tcでの〨P, ρ〩と〨h,m〩の関係〨下段の赤色の曲線〩は共にP − Pc ∼ 〨ρ− ρc〩δ及びh ∼ mδで,多く

の物質で冪の指数δも大体一致しているのです.

以下では強磁性体の統計力学的模型の雛形であるぉびどので模型を例に,平均場近似で強磁性体の臨界現象を調べます.

2.2.1 Ising模型

まずぉびどので模型の説明から始めましょう.ぉびどので模型は結晶格子を成す各原子の持つスピン自由度だけに着目した理論的模型で,結晶

格子の格子点の総数をN,格子点に適当に番号を振ってその位置をxi〨i 〽 〱, 〲, · · · , N〩,格子点xiにおけるスピン変数をS〨xi〩 〽 ±〱とした時,えちねどぬぴはのどちのが次式で与えられる模型です〺

H 〽 −J∑〈ij〉

S〨xi〩S〨xj〩− hN∑i=1

S〨xi〩 〨〲〮〲〮〱〩

このえちねどぬぴはのどちのは少し説明が必要でしょう.まず記号∑〈ij〉は隣り合うスピン変数S〨xi〩とS〨xj〩について和を取れ,という和の記号

で,より明確に書くと周期的境界条件の課されたd次元立方格子の場合は次の様になります〺

∑〈ij〉

S〨xi〩S〨xj〩 〺〽N∑i=1

d∑j=1

S〨xi〩S〨xi aej〩 〨〲〮〲〮〲〩

ここでaは格子間隔でejはj方向の単位ベクトルです.この講義では周期的境界条件を課した立方格子のみを扱います.また,Jはスピ

ン変数の間の相互作用のパラメータで,Jの符号によってえちねどぬぴはのどちのが記述する対象が異なります.まず次式に注意しましょう〺

−JS〨xi〩S〨xj〩 〽

−J てはひ S〨xi〩 〽 S〨xj〩

J てはひ S〨xi〩 〽 −S〨xj〩〨〲〮〲〮〳〩

J > 〰の時はスピンの向きが揃っている方がエネルギーが下がる〨エネルギー的に得をする〩ので強磁性体に対応します.一方,J < 〰の

時はスピンの向きが逆の方がエネルギーが下がるので反強磁性体に対応します.この講義ではJ > 〰の場合のみを扱います.最後

にhは固体に掛けられた外部磁場に対応するパラメータです.

さて,えちねどぬぴはのどちのが式〨〲〮〲〮〱〩で与えられるスピン系の統計力学を調べたいわけですが,この系の分配関数はあはぬぴぺねちのの因

子づ−βHを全てのスピン変数の配位について足し上げたものとして与えられます〺

Z〨T, h〩 〽∑

S(x1)=±1

· · ·∑

S(xN )=±1

づ−βH 〨〲〮〲〮〴〩

また,自由エネルギーは分配関数の対数で与えられます.以下の議論で重要なのは単位格子当たりの自由エネルギーで,これは次式で

与えられます〺

f〨T, h〩 〽 − 〱

NβぬはでZ〨T, h〩 〨〲〮〲〮〵〩

単位格子当たりの自由エネルギーが分かると,単位格子当たりのエントロピーs〨T, h〩と単位格子当たりの磁化m〨T, h〩が分かります.

これらはfの温度及び外部磁場に関する偏微分で与えられます〺

s〨T, h〩 〽 −∂f〨T, h〩∂T

〨〲〮〲〮ち〩

m〨T, h〩 〽 −∂f〨T, h〩∂h

〨〲〮〲〮ぢ〩

さて,外部磁場h一定の条件の下,系の温度を単位温度上昇させるのに必要な単位格子当たりのエネルギーを定磁場比熱と呼びます.

定磁場比熱は温度変化に対する系の応答を表す量で,応答関数の一つです.流体の時と同様,定磁場比熱はエントロピーの温度微分で

与えられ,エネルギーの揺らぎの〲乗平均として表されます〺

ch 〽 T∂s〨T, h〩

∂T

〽 −T ∂2f〨T, h〩

∂T 2

〽β2

N

∂2 ぬはでZ〨T, h〩

∂β2

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〲 第〲章 平均場近似

〽β2

N

[〱

Z〨T, h〩

∂2Z〨T, h〩

∂β2−(

Z〨T, h〩

∂Z〨T, h〩

∂β

)2]

〽 β2 〈H2〉 − 〈H〉2

N

〽 β2 〈〨H − 〈H〉〩2〉N

〨〲〮〲〮〩

ここで,一般にある量Oの期待値は,ぉびどので模型では

〈O〉 〺〽 〱

Z〨T, h〩

∑S(x1)=±1

· · ·∑

S(xN )=±1

Oづ−βH 〨〲〮〲〮〸〩

と定義されます.式〨〲〮〲〮〩の〵番目の等号は分配関数〨〲〮〲〮〴〩のβ微分をする事で簡単に確かめられます.最後の表式から明らかですが,

chは正定値である事に注意しましょう.

一方,温度一定の条件の下,外部磁場を変化させた時の単位格子当たりの磁化の変化率を等温帯磁率と呼びます.等温帯磁率は外部

磁場に対する系の応答を表す量で,これも応答関数の一つです.流体の時と同様,等温帯磁率は磁化の外部磁場微分で与えられ,磁化

の揺らぎの〲乗平均として表されます〺

χT 〽∂m〨T, h〩

∂h

〽 −∂2f〨T, h〩

∂h2

〽〱

∂2 ぬはでZ〨T, h〩

∂h2

〽〱

[〱

Z〨T, h〩

∂2Z〨T, h〩

∂h2−(

Z〨T, h〩

∂Z〨T, h〩

∂h

)2]

〽 β〈M2〉 − 〈M〉2

N

〽 β〈〨M − 〈M〉〩2〉

N〨〲〮〲〮〹〩

ここでMはスピン変数の総和で,次式で与えられます〺

M 〽N∑i=1

S〨xi〩 〨〲〮〲〮〱〰〩

このMの期待値〈M〉が系全体の磁化を表し,これをNで割ったものが単位格子当たりの磁化m〨T, h〩と一致します.実際に計算してみ

ると

m〨T, h〩 〽 −∂f〨T, h〩∂h

〽〱

∂ ぬはでZ〨T, h〩

∂h

〽〱

Z〨T, h〩

∂Z〨T, h〩

∂h

〽〱

N

Z〨T, h〩

∑S(x1)=±1

· · ·∑

S(xN )=±1

Mづ−βH

〽〱

N〈M〉 〨〲〮〲〮〱〱〩

となります.chと同様,χTは正定値である事に注意しましょう.

2.2.2 平均場近似

さて,ぉびどので模型のえちねどちぬぴはのどちのは非常に単純ですが,この様な単純なえちねどぬぴはのどちのでも分配関数を計算するのは至難の業です.実

際,分配関数が厳密に計算出来ているのは〱次元と〲次元の場合のみで,〳次元以上のぉびどので模型は未だに解けていません.以下では代表

的な近似計算である平均場近似を用いて分配関数や自由エネルギー,定磁場比熱や等温帯磁率を計算していきましょう.

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〲〮〲 強磁性体の臨界現象 〲

まずmを単位格子当たりの磁化として,えちねどぬぴはのどちののスピン変数の〲次の項をS 〽 m周りで展開し直します〺

S〨xi〩S〨xj〩 〽 せm 〨S〨xi〩−m〩そ せm 〨S〨xj〩−m〩そ

〽 m2 m 〨S〨xi〩−m〩 m 〨S〨xj〩−m〩 〨S〨xi〩−m〩 〨S〨xj〩−m〩 〨〲〮〲〮〱〲〩

以下ではmからのずれS〨xi〩 −mが小さいと思って,これの〱次の項までで近似します.式〨〲〮〲〮〱〲〩の最後の項はmからのずれの〲次な

ので無視すると,えちねどぬぴはのどちのは次の様になります〺

H 〽 −J∑〈ij〉

[m2 m 〨S〨xi〩−m〩 m 〨S〨xj〩−m〩

]− h

N∑i=1

S〨xi〩

〽 −J∑〈ij〉

[−m2 〲mS〨xi〩

]− h

N∑i=1

S〨xi〩

〽 NdJm2 − 〨〲dJm h〩

N∑i=1

S〨xi〩 〨〲〮〲〮〱〳〩

但し,最後の行で

∑〈ij〉

〱 〽N∑i=1

d∑j=1

〱 〽 Nd 〨〲〮〲〮〱〴ち〩

∑〈ij〉

S〨xi〩 〽

N∑i=1

d∑j=1

S〨xi〩 〽 d

N∑i=1

S〨xi〩 〨〲〮〲〮〱〴ぢ〩

を使いました.この近似の下で分配関数〨〲〮〲〮〴〩は次の様に計算されます〺

Zmean〨T, h〩 〽∑

S(x1)±1

· · ·∑

S(xN )±1

づへば

(−β

[NdJm2 − 〨〲dJm h〩

N∑i=1

S〨xi〩

])

〽 づ−βNdJm2

∑S(x1)=±1

づβ(2dJm+h)S(x1)

· · · ∑S(xN )=±1

づβ(2dJm+h)S(xN )

〽 づ−βNdJm

2

せ〲 っはびと〨β〨〲dJm h〩〩そN

〨〲〮〲〮〱〵〩

これより平均場近似での単位格子当たりの自由エネルギーは

fmean〨T, h〩 〽 −〱

NβぬはでZmean〨T, h〩

〽 dJm2 − 〱

βぬはで せ〲 っはびと〨β〨〲dJm h〩〩そ 〨〲〮〲〮〱〩

となります.ところで,mは単位格子当たりの自由エネルギーのh微分と一致しなければなりません〺

m 〽 −∂fmean〨T, h〩

∂h〽 ぴちのと〨β〨〲dJm h〩〩 〨〲〮〲〮〱〩

これが矛盾なく成り立つためにはmは次の条件式の解でなければなりません〺

m 〽 ぴちのと〨β〨〲dJm h〩〩 〨〲〮〲〮〱〸〩

この条件を自己無撞着条件〨びづぬてっはのびどびぴづのっべ っはのつどぴどはの〩と呼びます.この方程式を解析的に解くのは難しいですが,y〨m〩 〽 m,

y〨m〩 〽 ぴちのと〨β〨〲dJmh〩〩としてこの〲つの関数が交点を持つかどうかで方程式〨〲〮〲〮〱〸〩が解を持つかどうかが判定できます.図〲〮〳よ

り明らかですが,方程式〨〲〮〲〮〱〸〩が解を持つ為には右辺のぴちのと〨β〨〲dJm h〩〩がmの関数としてm 〽 〰での微係数が〱以上であれば良

いので次の条件を得ます〺

d

dmぴちのと〨β〨〲dJm h〩〩

∣∣∣∣m=0

≥ 〱 ⇒ 〲dJβ

っはびと2〨βh〩≥ 〱

⇒ T

〲dJ≤ 〱

っはびと2〨βh〩≤ 〱 〨〲〮〲〮〱〹〩

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〲〸 第〲章 平均場近似

0m

y y = m

T < Tc

T > Tc

図2.3: 外部磁場h = 0の時の自己無撞着方程式(2.2.18)の解.青色の曲線はy = tanh(β2dJm)を表し,赤色の交点が方程式の解を表します.

T > Tc = 2dJではy = mとの交点はm = 0しかありませんが,T < Tcではm 6= 0で交点が存在します.このh = 0でのm 6= 0の解を自発磁化と呼

びます.自発磁化mは秩序変数と呼ばれ,mがゼロかゼロでないかで強磁性体が常磁性相(スピンの向きが揃っていない無秩序相)にあるのか強磁性

相(スピンの向きが揃っている秩序相)にあるのかが判定できます.

従って,特にh 〽 〰の時はT ≤ 〲dJであれば解があります.この上限の温度が臨界温度Tcで,次式で与えられます〺

Tc 〽 〲dJ 〨〲〮〲〮〲〰〩

以下,この臨界点近傍でのm ch χTの振る舞いを調べて行きましょう.この目的の為に式〨〲〮〲〮〱〸〩を少し書き換えておきます.

ちひっぴちのと〨z〩 〽 12 ぬはで〨 1+z

1−z 〩を使うと*17式〨〲〮〲〮〱〸〩は次の様に書き換えられます〺

β〨〲dJm h〩 〽〱

〲ぬはで

(〱 m

〱−m

)〨〲〮〲〮〲〱〩

これを使って臨界指数を計算して行きます.

• 臨界指数βh 〽 〰の時,臨界点近傍ではmは小さいので,式〨〲〮〲〮〲〱〩の右辺はごちべぬはひ展開出来ます.〳次の項まで展開すると

TcTm〨T, 〰〩 〽

〲ぬはで

(〱 m〨T, 〰〩

〱−m〨T, 〰〩

)〽 m〨T, 〰〩

〳m3〨T, 〰〩 O〨m5〩 〨〲〮〲〮〲〲〩

これより,〳次のオーダーまでで次の方程式を得ます〺

〳m〨T, 〰〩

[m2〨T, 〰〩− 〳

Tc − TT

]〽 〰 〨〲〮〲〮〲〳〩

T > Tcの時,この方程式の実数解はm 〽 〰しかありません.一方,T < Tcの時はm 〽 〰の解の他に次の〲つの実数解がありま

す〺

m〨T, 〰〩 〽 ±(〳Tc − TT

)1/2

〽 ±(〳Tc − TTc

〱− 〨Tc − T 〩/Tc

)1/2

〽 ±

(〳Tc − TTc

∑n=0

(Tc − TTc

)n)1/2

〽 ±(〳Tc − TTc

)1/2

O〨Tc−TTc〩3/2 〨〲〮〲〮〲〴〩

ところで,臨界指数βはm〨T, 〰〩のT ↑ Tcでの振る舞いから次の様に定義されます〺

m〨T, 〰〩 ∼ 〨Tc − T 〩β ちび T ↑ Tc ぷどぴと h 〽 〰 〨〲〮〲〮〲〵〩

これと式〨〲〮〲〮〲〴〩を比較してβ 〽 〱/〲と読み取れます.

*17 z = tanh(x)とすると, z =sinh(x)cosh(x)

= ex−e−x

ex+e−x= e2x−1

e2x+1なので,これを少し変形して整理するとe2x = 1+z

1−zを得ます.両辺の対数を取るとx =

arctanh(z) = 12

log( 1+z1−z )となります.

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〲〮〲 強磁性体の臨界現象 〲〹

• 臨界指数δT 〽 Tcの時,臨界点近傍ではmの値は小さいので式〨〲〮〲〮〲〱〩の右辺はごちべぬはひ展開できます〺

m〨Tc, h〩 〱

Tch 〽

〲ぬはで

(〱 m〨Tc, h〩

〱−m〨Tc, h〩

)〽 m〨Tc, h〩

〳m3〨Tc, h〩 O〨m5〩 〨〲〮〲〮〲〩

従って,m3のオーダーまでで次が成り立ちます〺

m3〨Tc, h〩 〽〳

Tch 〨〲〮〲〮〲〩

ところで,臨界指数δはm〨Tc, h〩のh依存性から次の様に定義されます〺

m〨Tc, h〩 ∼ h1/δ ちぴ T 〽 Tc 〨〲〮〲〮〲〸〩

これと式〨〲〮〲〮〲〩を比較してδ 〽 〳と読み取れます.

• 臨界指数γ等温帯磁率χTはmのh微分で与えられます.特にh 〽 〰の時のm〨T, h〩の微係数は,式〨〲〮〲〮〱〸〩より

χT 〽∂m〨T, h〩

∂h

∣∣∣∣h=0

〽〱

T

TcχT 〱

っはびと2〨Tcm/T 〩

〽TcχT 〱

T〨〱− ぴちのと2〨Tcm/T 〩〩

〽TcχT 〱

T〨〱−m2〨T, 〰〩〩 〨〲〮〲〮〲〹〩

但し,最後の等号でm〨T, 〰〩 〽 ぴちのと〨Tcm/T 〩を使いました.式〨〲〮〲〮〲〹〩をχTについて解くと次の様になります〺

χT 〽〱−m2〨T, 〰〩

T − Tc〨〱−m2〨T, 〰〩〩

〽〱

Tc

〱−m2〨T, 〰〩

m2〨T, 〰〩− 〨Tc − T 〩/Tc〨〲〮〲〮〳〰〩

さて,T > Tcの時はm〨T, 〰〩 〽 〰なので

χT 〽〱

Tc

〱− 〰

〰− 〨Tc − T 〩/Tc

〽〱

T − Tcてはひ T > Tc 〨〲〮〲〮〳〱〩

一方,T < Tcの時は式〨〲〮〲〮〲〴〩よりm〨T, 〰〩 〽 ±〳〨Tc−TTc〩1/2なので

χT 〽〱

Tc

〱− 〳〨Tc − T 〩/Tc〳〨Tc − T 〩/Tc − 〨Tc − T 〩/Tc

〽〱

〲〨Tc − T 〩O〨〱〩 てはひ T < Tc 〨〲〮〲〮〳〲〩

となります.これらをまとめると次の様になります〺

χT 〽

〨T − Tc〩−1 てはひ T > Tc12 〨Tc − T 〩

−1 O〨〱〩 てはひ T < Tc〨〲〮〲〮〳〳〩

ここで臨界指数γはχTのT → Tcでの振る舞いから次の様に定義されます〺

χT ∼ |T − Tc|−γ ちび T → Tc ぷどぴと h 〽 〰 〨〲〮〲〮〳〴〩

これと式〨〲〮〲〮〳〳〩を比較してγ 〽 〱と読み取れます.

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〳〰 第〲章 平均場近似

• 臨界指数αまずh 〽 〰での単位格子当たりの自由エネルギー〨〲〮〲〮〱〩の温度微分は

∂f〨T, 〰〩

∂T〽 Tcm〨T, 〰〩

∂m〨T, 〰〩

∂T− ぬはで

[〲 っはびと

(TcTm〨T, 〰〩

)] ぴちのと

(TcTm〨T, 〰〩

)(TcTm〨T, 〰〩− Tc

∂m〨T, 〰〩

∂T

)〽TcTm2〨T, 〰〩− ぬはで

[〲 っはびと

(TcTm〨T, 〰〩

)]〨〲〮〲〮〳〵ち〩

∂2f〨T, 〰〩

∂T 2〽 − Tc

T 2m2〨T, 〰〩

〲TcTm〨T, 〰〩

∂m〨T, 〰〩

∂T− ぴちのと

(TcTm〨T, 〰〩

)(− TcT 2m〨T, 〰〩

TcT

∂m〨T, 〰〩

∂T

)〽TcTm〨T, 〰〩

∂m〨T, 〰〩

∂T

〽Tc〲T

∂m2〨T, 〰〩

∂T〨〲〮〲〮〳〵ぢ〩

但し,m〨T, 〰〩 〽 ぴちのと〨Tcm/T 〩を使いました.よってh 〽 〰での定磁場比熱は

ch 〽 −T ∂2f〨T, 〰〩

∂T 2〽 −Tc

∂Tm2〨T, 〰〩 〽

〰 てはひ T > Tc32 ちび T ↑ Tc

〨〲〮〲〮〳〩

となります.但し,最後の等号で式〨〲〮〲〮〲〴〩を使いました.ここで,臨界指数αはh 〽 〰での臨界点近傍でのchの振る舞いから次

の様に定義されます〺

ch ∼ |T − Tc|−α ちび T → Tc ぷどぴと h 〽 〰 〨〲〮〲〮〳〩

これと式〨〲〮〲〮〳〩を比較するとα 〽 〰を得ます.

以上まとめると,平均場近似の下では臨界指数α, β, γ, δは

α 〽 〰, β 〽〱

〲, γ 〽 〱, δ 〽 〳 〨〲〮〲〮〳〸〩

となります.これは前節〲〮〱〮〳で調べたぶちの つづひ しちちぬび流体の臨界指数と完全に一致しています.

2.3 スケーリング則と普遍性

この節のまとめ

• 応答関数や秩序変数の臨界点近傍での普遍的な振る舞いはスケーリング仮説により導出できる.簡単の為,強磁性体の臨界点近傍を考えよう.τ 〽 〨T − Tc〩/Tcとして単位格子当たりの自由エネルギーをf〨τ, h〩と表す事にする.スケーリング仮説とは,臨界点近傍で次の関数関係式〨スケーリング則〩が成り立つことを仮定する事〺

f〨τ, h〩 ∼ λ−1f〨λaτ, λbh〩

ここでλ > 〰は任意の正数で,aとbはスケーリング仮説のパラメータである.

• 応答関数および秩序変数は全て単位格子当たりの自由エネルギーの偏微分で与えられる.一旦スケーリング仮説を認めると,これらは臨界点近傍で次のスケーリング則を満たすことが言える〺

ch〨τ, 〰〩 ∼ λ2a−1ch〨λaτ, 〰〩, m〨τ, 〰〩 ∼ λb−1m〨λaτ, 〰〩

χT 〨τ, 〰〩 ∼ λ2b−1χT 〨λaτ, 〰〩, m〨〰, h〩 ∼ λb−1m〨〰, λbh〩

• 上のスケーリング則は解ける.臨界点近傍では次の様な関数形を取ることが言える〺

ch〨τ, 〰〩 ∼ |T − Tc|−2a−1a , m〨τ, 〰〩 ∼ |T − Tc|

1−ba

χT 〨τ, 〰〩 ∼ |T − Tc|−2b−1a , m〨〰, h〩 ∼ |h|

1−bb

これより臨界指数が次の様に読み取れる〺

α 〽〲a− 〱

a, β 〽

〱− ba

, γ 〽〲b− 〱

a, δ 〽

b

〱− b

平均場近似の結果α, β, γ, δ 〽 〰, 12 , 〱, 〳は a, b 〽

12 ,

34で再現できる.

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〲〮〳 スケーリング則と普遍性 〳〱

• スケーリング則には〲つのパラメータしか無い.従ってスケーリング仮説の下では〴つの臨界指数α, β, γ, δは全てが独立では無い.臨界指数の間には次の関係式が成り立つ〺

α 〲β γ 〽 〲, γ 〽 β〨δ − 〱〩

前節までで,ぶちの つづひ しちちぬび流体やぉびどので模型の平均場近似の範囲では,応答関数と秩序変数が臨界点近傍で普遍的な冪則に従って振

舞うことを見てきました.この冪則はスケーリング仮説〨びっちぬどので とべばはぴとづびどび〩と呼ばれる単位体積当たりの自由エネルギーに対する

関係式を仮定すると自然に導出できます.簡単のため強磁性体を考えましょう.今興味があるのは臨界点近傍なので,温度Tは臨界点

から測る事にして次の様に無次元の変数を導入しておくと便利です〺

τ 〺〽T − TcTc

〨〲〮〳〮〱〩

この無次元の変数τを用いて,単位格子当たりの自由エネルギーをf〨τ, h〩と表しましょう.スケーリング仮説とはこのf〨τ, h〩が臨界点

近傍で任意の正数λに対して次の関係式を満たす,と仮定する事です〺*18

f〨τ, h〩 ∼ λ−1f〨λaτ, λbh〩, ∀λ > 〰 〨〲〮〳〮〲〩

ここでaとbはスケーリング仮説のパラメータです.一体どこからこの関係式が出て来たのか不思議に思うでしょうが,取り敢えずこの

スケーリング則を認めることで何が導かれるか見ておきましょう.

まず,スケーリング則〨〲〮〳〮〲〩を満たすf〨τ, h〩は実質的には〱変数関数です.これを見る為にλの任意性を利用します.λ > 〰は任意の

正のパラメータだったので次の様に選ぶことが出来ます〺

λ 〽 |τ |−1/a > 〰 〨〲〮〳〮〳〩

この様に選ぶと,式〨〲〮〳〮〲〩は次の様に書き換えることが出来ます〺

f〨τ, h〩 ∼ λ−1f〨λaτ, λbh〩

〽 |τ |1/af〨 τ|τ | ,h

|τ |1/a 〩

〽 |τ |1/af〨びでの〨τ〩, h|τ |1/a 〩

〽 |τ |1/a〈±〨 h|τ |1/a 〩 〨〲〮〳〮〴〩

ここで,びでの〨τ〩 〽 τ/|τ |は符号関数で,τ > 〰ならびでの〨τ〩 〽 〱,τ < 〰ならびでの〨τ〩 〽 −〱の値を取ります.関数f〨びでの〨τ〩, h|τ |1/a 〩のhとτの

依存性は〨τの符号の違いを除いて〩h/|τ |1/aの組み合わせでしか現れないので,これは実質的に〱変数関数で,最後の等式ではこの〱変

数関数を〈±〨 h|τ |1/a 〩 〽 f〨びでの〨τ〩, h/|τ |1/a〩と置きました.〈±をびでの〨τ〩 〽 ±〱の場合に対応させています.〈±はスケーリング則だけで

は決まらない関数で,スケーリング関数と呼ばれます.上の議論から求まった関係式

f〨τ, h〩 ∼ |τ |1/a〈±〨 h|τ |1/a 〩 〨〲〮〳〮〵〩

をスケーリング仮説と呼ぶ事もあります.

さて,前節で見た様に,定磁場比熱chや等温帯磁率χT,単位格子当たりの磁化mは全て単位格子当たりの自由エネルギーの偏微分

で与えられます.一方,fはスケーリング則〨〲〮〳〮〲〩を満たしているので,これの帰結としてch χT mも次のスケーリング則を満たし

ます〺

ch〨τ, 〰〩 ∼ −τ∂2f〨τ, 〰〩

∂τ2∼ −λ2a−1τ

∂2f〨λaτ, 〰〩

∂τ2∼ λ2a−1ch〨λ

aτ, 〰〩 〨〲〮〳〮ち〩

m〨τ, 〰〩 ∼ −∂f〨τ, 〰〩∂h

∼ −λb−1 ∂f〨λaτ, 〰〩

∂h∼ λb−1m〨λaτ, 〰〩 〨〲〮〳〮ぢ〩

χT 〨τ, 〰〩 ∼ −∂2f〨τ, 〰〩

∂h2∼ −λ2b−1 ∂f〨λ

aτ, 〰〩

∂2h∼ λ2b−1χT 〨λ

aτ, 〰〩 〨〲〮〳〮っ〩

m〨〰, h〩 ∼ −∂f〨〰, h〩∂h

∼ −λb−1 ∂f〨〰, λbh〩

∂h∼ λb−1m〨〰, λbh〩 〨〲〮〳〮つ〩

*18 一般に,関係式f(λaτ, λbh) = λf(τ, h)を満たす様な関数を一般化された同次関数(generalized homogeneous function)と呼びます.(普通の同次関数

はf(λτ, λh) = λf(τ, h)を満たします.) スケーリング仮説は,自由エネルギーが臨界点近傍で一般化された同次関数として振舞うと仮定する事に他なりませ

ん.

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〳〲 第〲章 平均場近似

式〨〲〮〳〮〴〩でやった様に,これらのスケーリング則もλの任意性を利用する事で解くことが出来ます.λを式〨〲〮〳〮〳〩と同じに選ぶと,ス

ケーリング則〨〲〮〳〮ち〩は

ch〨τ, 〰〩 ∼ λ2a−1ch〨λaτ, 〰〩

〽 |τ |−2a−1a ch〨びでの〨τ〩, 〰〩

∣∣∣∣T − TcTc

∣∣∣∣− 2a−1a

ch〨びでの〨τ〩, 〰〩 〨〲〮〳〮〩

ここでch〨びでの〨τ〩, 〰〩は臨界温度から充分離れた所での比熱なので,これはある有限な定数です.〨びでの〨τ〩 〽 〱はT 〽 〲Tc,びでの〨τ〩 〽

−〱はT 〽 〰を意味する事に注意.〩従って,式〨〲〮〳〮〩は次を意味します〺

ch〨τ, 〰〩 ∼ |T − Tc|−2a−1a 〨〲〮〳〮〸〩

これより臨界指数αが次の様に読み取れます〺

α 〽〲a− 〱

a〨〲〮〳〮〹〩

同様に,λを式〨〲〮〳〮〳〩の様に選ぶと,スケーリング則〨〲〮〳〮ぢ〩は次の様に解けます〺

m〨τ, 〰〩 ∼ λb−1m〨λaτ, 〰〩

〽 |τ |1−ba m〨びでの〨τ〩, 〰〩

∣∣∣∣T − TcTc

∣∣∣∣ 1−ba

m〨びでの〨τ〩, 〰〩

〰 てはひ τ > 〰

|T − Tc|1−ba てはひ τ < 〰

〨〲〮〳〮〱〰〩

但し,臨界温度以上τ > 〰では自発磁化はゼロ〨m〨〱, 〰〩 〽 〰〩を使いました.これより臨界指数βが次の様に読み取れます〺

β 〽〱− ba

〨〲〮〳〮〱〱〩

また,ゼロ磁場での等温帯磁率は,スケーリング則〨〲〮〳〮っ〩より

χT 〨τ, 〰〩 ∼ λ2b−1χT 〨λaτ, 〰〩

〽 |τ |−2b−1a χT 〨びでの〨τ〩, 〰〩

∣∣∣∣T − TcTc

∣∣∣∣− 2b−1a

χT 〨びでの〨τ〩, 〰〩

∼ |T − Tc|−2b−1a 〨〲〮〳〮〱〲〩

これより臨界指数γは次の様に読み取れます〺

γ 〽〲b− 〱

a〨〲〮〳〮〱〳〩

臨界温度直上でのmのh依存性を見るにはλを次の様に選びます〺

λ 〽 |h|−1/b 〨〲〮〳〮〱〴〩

するとスケーリング則〨〲〮〳〮つ〩は

m〨〰, h〩 ∼ λb−1m〨〰, λbh〩

〽 |h|1−bb m〨〰, びでの〨h〩〩

〽 |h|1−bb m〨〰, びでの〨h〩〩

∼ |h|1−bb 〨〲〮〳〮〱〵〩

従って,臨界指数δは次の様に読み取れます〺

δ 〽b

〱− b〨〲〮〳〮〱〩

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〲〮〳 スケーリング則と普遍性 〳〳

以上まとめると,スケーリング則〨〲〮〳〮〲〩を認めると臨界指数α, β, γ, δは次の様に与えられます〺

α 〽〲a− 〱

a, β 〽

〱− ba

, γ 〽〲b− 〱

a, δ 〽

b

〱− b〨〲〮〳〮〱〩

平均場近似ではα, β, γ, δ 〽 〰, 12 , 〱, 〳でしたが,これはa, b 〽

12 ,

34で再現できる事に注意しましょう.

さて,スケーリング仮説には〲つのパラメータa bしかありませんが,今までの議論で登場してきた臨界指数は〴つあります.これは

スケーリング仮説が成り立っているとすると,臨界指数は全てが独立では無いことを意味します.実際,簡単に確かめることが出来ま

すが,次の関係式が成り立ちます〺

α 〲β γ 〽 〲 〨〲〮〳〮〱〸ち〩

γ 〽 β〨δ − 〱〩 〨〲〮〳〮〱〸ぢ〩

この関係式をスケーリング関係式と呼びます.式〨〲〮〳〮〱〸ち〩を特にげふびとぢひははにづの等式,式〨〲〮〳〮〱〸ぢ〩をぇひど『ぴとびの等式と呼んだりしま

す.

以上,スケーリング則をかなり天下り的に与えましたが,繰り込み群を使うとこのスケーリング則を導くことが出来ます.そしてパ

ラメータaとbというのが,実は〨固定点周りで線形化した〩繰り込み群変換の固有値から求まるのです.

参考文献

表〲〮〱は次の演習書§〵〮〱〴の〲〱〵ページの表を殆どそのまま借用しました〺

せ〱そ 久保亮五編,『大学演習 熱力学・統計力学』修訂版 〨裳華房,〱〹〹〸年〩

この本は演習問題だけでなく熱力学・統計力学の要点も簡潔にまとめられているので,忘れてしまった時に参考になると思います.

第〲〮〱節で取り扱った流体の臨界現象は,きづとひちの かちひつちひの次の教科書の第〵章をかなり参考にしました〺

せ〲そ き〮 かちひつちひ Statistical Physics of Particle 〨ぃちねぢひどつでづ さのどぶづひびどぴべ ぐひづびび 〲〰〰〩

この講義ノートでも割と詳しく書きましたが,この講義ノートでは触れていない事も書かれているので一度目を通して見ると良いでし

ょう.

脚注〲で触れた臨界淡白光〨流体の臨界点近傍で観測される現象〩についてはこの講義ノートでは全く議論しませんでした.この臨界

淡白光の理論として有名なのがくひのびぴづどのずひのどにづ理論ですが,これに興味がある人は次のえちひひべ ぅふでづのづ こぴちのぬづべの教科書の第章を読

むと良いでしょう〺

せ〳そ え〮 ぅ〮 こぴちのぬづべ Introduction to Phase Transitions and Critical Phenomema 〨くへてはひつ さのどぶづひびどぴべ ぐひづびび 〱〹〱〩

ちなみにこの教科書はしどぬびはの登場以前の臨界現象の理論をまとめた教科書で,第〴章にげふびとぢひははにづの不等式やぇひど『ぴとびの不等式の導

出,第〱〱章にスケーリング仮説の議論も詳しく載っています.

第〲〮〲節で扱ったぉびどので模型の平均場近似は色々な教科書に載っています.和書だと例えば次の教科書に載っています〺

せ〴そ 西森秀稔,『相転移・臨界現象の統計物理学』〨培風館 〲〰〰〵年〩

せ〵そ 田崎晴明,『統計力学ぉぉ』〨培風館 〲〰〰〸年〩

せそ 高橋和孝,西森秀稔,『相転移・臨界現象とくりこみ群』〨丸善出版 〲〰〱年〩

この講義ノートではちゃんと議論しなかった部分も載っているので参考にすると良いと思います.

さて,平均場近似で扱うとぉびどので模型は任意次元で臨界点を持ちますが,実際に有限温度で相転移が起きるのは〲次元以上で,〱次

元ぉびどので模型は有限温度で相転移は起きません.しかし,これはスピン間相互作用が最近接相互作用の場合で,長距離相互作用に拡張

した模型

H 〽 −J∑i>j

SiSj|i− j|α

〨〱 < α < 〲〩

では〱次元でも有限温度で相転移が起きることが知られています.興味のある人は次のうひづづねちの いべびはのの論文を見てみましょう〺

せそ う〮 お〮 いべびはの ぜぅへどびぴづのっづ はて ち ぐとちびづごひちのびどぴどはの どの ち くのづいどねづのびどはのちぬ ぉびどので うづひひはねちでのづぴ〢 Commun. Math. Phys. 〱〲 〨〱〹〹〩

〹〱ほ〱〰

この論文はだいぶ数学的ですが,臨界点の有無は空間次元だけでなく相互作用の種類にも依るという良い例になっています.

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〳〵

第3章

Ginzburg-Landau理論

理論物理学教程で有名ながづぶ がちのつちふは,臨界現象を支配するのは秩序変数と系の対称性であることを看破しました.この章では,

がちのつちふおよびぇどのぺぢふひでがちのつちふによって創始された相転移と臨界現象の現象論を学びます.

3.1 連成振動子から場の理論へ

この章からは場の理論を扱っていきます.統計力学で場の理論をどう導入するかは悩ましい所ですが,やはり離散的な模型の連続極

限として与えるのが最も正統的でしょう.この節ではN個の質点から成る〱次元連成振動子の連続極限を取ることで〱次元の自由スカラ

ー場の理論を構成して行きます.考えるのはポテンシャルエネルギーUが次で与えられるようなバネ定数k1 k2の〲種類のバネに繋が

った連成振動子です〺

U〨q1, · · · , qN 〩 〽N+1∑i=1

k1

〲〨qi − qi−1〩

2 N∑i=1

k2

〲q2i

〽N+1∑i=1

ak1a

(qi − qi−1

a

)2

N∑i=1

ak2/a

〲q2i 〨〳〮〱〮〱〩

ここで,qiがi番目の質点の平衡の位置からのずれ〨変位〩で,aは平衡の位置での質点間の距離〨格子間隔〩です.q0とqN+1に対しては

適当な条件〨境界条件〩が課されています.極限N → ∞ a → 〰を取ると離散的なラベルiが連続的なラベルxに変わり,変位qiが関

数q〨x〩に変わり,和∑i aが積分

∫dxに変わり,差分 qi−qi−1

a が微分dq(x)dx に変わります〺

U〨q〩 〽

∫dx

[κ1

(dq〨x〩

dx

)2

κ2

〲q2〨x〩

]〨〳〮〱〮〲〩

但し,極限N → ∞ a → 〰を取ってもUがゼロや無限大にならないように,k1 〽 κ1/a k2 〽 κ2aとバネ定数にa依存性を持たせる必

要があります.また,連成振動子の分配関数ZはN重積分

Z ∝

[N∏i=1

∫ ∞−∞

dqi

]づへば 〨−βU〨q1, · · · , qn〩〩 〨〳〮〱〮〳〩

で与えられますが,極限N →∞ a→ 〰を取るとこれが汎関数積分〨てふのっぴどはのちぬ どのぴづでひちぬ〩

Z ∝

[∏x∈R

∫ ∞−∞

dq〨x〩

]づへば

(−β∫dx

[κ1

(dq〨x〩

dx

)2

κ2

〲q2〨x〩

])〨〳〮〱〮〴〩

になります.βU〨q〩が場の理論の作用汎関数Sせqその役割を果たします.上の議論はかなり大雑把ですが,自由場の理論を離散的模型の

連続極限から構成する方法は基本的にこれだけです.この汎関数積分や作用汎関数もとても重要なのですが,今後もっと重要なのは

格子間隔aの逆数が波数〨運動量〩の上限〃を与える,という点です.この〃をカットオフと呼びます.次章で導入するしどぬびはのの繰り込

み群で扱うのはカットオフ付きの場の理論〨カットオフ理論〩で,最初から〃 〽 ∞〨またはa 〽 〰〩の理論を取り扱う訳ではありません.

〃 〽 ∞の連続空間上の場の理論は,〃が有限なカットオフ理論の極限〃 → ∞で構成されます.この節では〃 ∼ 〱/aを明らかにする為

に相関関数の観点から連続極限を議論して行くことにします.まずは初等的なぇちふびび積分の話から始めましょう.

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〳 第〳章 ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論

3.1.1 Gauss積分

1変数Gauss積分

まず〱変数のぇちふびび積分から始めましょう.次の積分を考えます〺

ZせJ そ 〽

∫ ∞−∞

dq づへば

(−〱

〲Aq2 Jq

)〨〳〮〱〮〵〩

AとJは実数です.積分が有限になる為にはA > 〰でなければならない事に注意しましょう.統計力学や場の理論では相関関数が重要

なのですが,今のおもちゃの積分で相関関数に対応するのは次の量です〺

〈qn〉 〽 〱

Zせ〰そ

∫ ∞−∞

dq qn づへば

(−〱

〲Aq2

)〨〳〮〱〮〩

これを〨ぇちふびび分布での〩n次のモーメントと呼んだりします.nが奇数の時は奇関数の−∞から∞までの積分なので〈qn〉はゼロになることに注意しましょう.

さて,今から〈qn〉を計算していきたい訳ですが,これは次の様にZせJ そをJでn階微分して最後にJ 〽 〰と置く事で計算できます〺

〈qn〉 〽 〱

Zせ〰そ

∂nZせJ そ

∂Jn

∣∣∣∣J=0

〨〳〮〱〮〩

従って,ZせJ そが求まれば後はJについて微分していけば良いことになります.このZせJ そを求めましょう.積分〨〳〮〱〮〵〩は指数部分を平方

完成して適当に変数変換する事で簡単に計算できます.まず指数部分を平方完成すると

−〱

〲Aq2 Jq 〽 −〱

〲A〨q −A−1J〩2

〲A−1J2 〨〳〮〱〮〸〩

なので,変数xをx 〽 q −A−1Jで導入して変数変換すると,積分〨〳〮〱〮〵〩は次の様に計算されます〺

ZせJ そ 〽 づ−12A−1J2

∫ ∞−∞

dx づへば

(−〱

〲Ax2

)〽 Zせ〰そ づへば

(〱

〲A−1J2

)〨〳〮〱〮〹〩

但し,

Zせ〰そ 〽

∫ ∞−∞

dx づへば

(−〱

〲Ax2

)〽

√〲π

A〨〳〮〱〮〱〰〩

式〨〳〮〱〮〩の∂nZせJ そ/∂Jn|J=0はZせJ そのJ 〽 〰周りのごちべぬはひ展開のn次の展開係数に他ならないので,式〨〳〮〱〮〹〩をごちべぬはひ展開しておくと

便利です.計算すると次の様になります〺

ZせJ そ 〽 Zせ〰そ∞∑n=0

〲nn〡〨A−1〩nJ2n 〨〳〮〱〮〱〱〩

これより相関関数〈q2n〉は次の様に求まります〺

〈q2n〉 〽 〨〲n〩〡

〲nn〡〨A−1〩n

〽 〨〲n− 〱〩〡〡〨A−1〩n 〨〳〮〱〮〱〲〩

ここで〨〲n− 〱〩〡〡 〽 〨〲n− 〱〩〨〲n− 〳〩 · · · 〳 · 〱は〲重階乗〨つはふぢぬづ てちっぴはひどちぬ〩です.以下ではまず上の結果をN変数の場合に拡張して,そ

の結果を使って相互作用の無い連続場の理論の相関関数を構成していきます.

Page 47: 臨界現象と繰り込み群 - Nihon Universityaries.phys.cst.nihon-u.ac.jp › ~ohya › stat-mech › main.pdfぶ はじめに この講義では〲次相転移の臨界現象を繰り込み群の観点から解説します.主に次の〳つの事柄について学びます〺

〳〮〱 連成振動子から場の理論へ 〳

多変数Gauss積分

次にN変数のぇちふびび型積分を考えましょう〺

ZせJ そ 〽

∫ ∞−∞

dq1 · · ·∫ ∞−∞

dqN づへば

−〱

N∑i=1

N∑j=1

qiAijqj N∑i=1

Jiqi

∫ ∞−∞

dq1 · · ·∫ ∞−∞

dqN づへば

(−〱

〲qᵀAq Jᵀq

)〨〳〮〱〮〱〳〩

ここでq 〽 〨q1, · · · , qN 〩ᵀ J 〽 〨J1, · · · , JN 〩ᵀは実のN成分縦ベクトルで,A 〽 Aᵀ 〽 〨Aij〩は実のN次対称行列です.ᵀは転置を表し

ます.このN変数のおもちゃの積分ではn点相関関数に対応するのは次の量です〺

〈qii · · · qin〉 〽〱

Zせ〰そ

∫ ∞−∞

dq1 · · ·∫ ∞−∞

dqN qi1 · · · qin づへば(−〱

〲qᵀAq

)〨〳〮〱〮〱〴〩

これは式〨〳〮〱〮〩同様,ZせJ そをJi1 , Ji2 , · · · , Jinで微分して〨J1, · · · , Jn〩 〽 〨〰, · · · , 〰〩と置けば得られます〺

〈qii · · · qin〉 〽〱

Zせ〰そ

∂nZせJ そ

∂Ji1 · · · ∂Jin

∣∣∣∣J=0

〨〳〮〱〮〱〵〩

従って,ZせJ そが分かれば相関関数を求めることが出来ます.以下,ZせJ そを求めましょう.まず,式〨〳〮〱〮〸〩でやったように指数部分を

平方完成します.対称行列A 〽 Aᵀに対してはA−1 〽 〨A−1〩ᵀが成り立つことに注意すると,指数部分は次の様に平方完成出来ます〺

−〱

〲qᵀAq Jᵀq 〽 −〱

〲〨q −A−1J〩ᵀA〨q −A−1J〩

〲JᵀA−1J 〨〳〮〱〮〱〩

実際, 〨q−A−1J〩ᵀ 〽 qᵀ−Jᵀ〨A−1〩ᵀ 〽 qᵀ−JᵀA−1 となる事を使うと左辺が右辺に一致する事が簡単に分かります.積分変数xiを

新たにxi 〽 qi −∑Nj=1〨A

−1〩ijJjで導入して変数変換を行うと,積分〨〳〮〱〮〱〳〩は次の様になります〺

ZせJ そ 〽 づ12J

ᵀA−1J

∫ ∞−∞

dx1 · · ·∫ ∞−∞

dxN づへば

(−〱

〲xᵀAx

)〽 Zせ〰そ づへば

(〱

〲JᵀA−1J

)

〽 Zせ〰そ づへば

N∑i=1

N∑j=1

Ji〨A−1〩ijJj

〨〳〮〱〮〱〩

但し,

Zせ〰そ 〽

∫ ∞−∞

dx1 · · ·∫ ∞−∞

dxN づへば

(−〱

〲xᵀAx

)〨〳〮〱〮〱〸〩

このZせ〰そは以下の議論では全然重要ではないのですが,場の理論の〱ループ有効作用〨または〱ループ有効ポテンシャル〩の計算で登

場するぴひちっづぬはで公式の典型例なのでここで計算しておきましょう.まず,実対称行列Aに対しては必ずある直交行列Oが存在し

てA 〽 OAdiagOᵀと対角化できる事に注意します.ここでAdiag 〽 つどちで〨α1, · · · , αN 〩は対角行列でα1, · · · , αNはAのN個の実の固

有値です.新たな積分変数y 〽 〨y1, · · · , yN 〩ᵀをx 〽 Oyで導入すると,積分の指数部分は − 12x

ᵀAx 〽 − 12y

ᵀOᵀOAdiagOᵀOy 〽

− 12y

ᵀAdiagy 〽 − 12

∑Nn=1 αny

2n となります.また,この変数変換のおちっはぢどちのは|つづぴ〨∂xi∂yj

〩| 〽 |つづぴ〨Oij〩| 〽 |つづぴO| 〽 〱となる事に注

意すると,Zせ〰そは次の様に計算されます〺

Zせ〰そ 〽

∫ ∞−∞

dy1 · · ·∫ ∞−∞

dyN |つづぴO| づへば(−〱

〲yᵀAdiagy

)〽

(∫ ∞−∞

dy1 づ− 1

2α1y21

)· · ·(∫ ∞−∞

dyN づ−12αNy

2N

)

√〨〲π〩N

α1 · · ·αN

√〨〲π〩N

つづぴA

〽 〨〲π〩N/2 づへば

(−〱

〲ぬはで つづぴA

)

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〳〸 第〳章 ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論

〽 〨〲π〩N/2 づへば

(−〱

〲ごひ ぬはでA

)〨〳〮〱〮〱〹〩

但し,〳行目でつづぴA 〽 つづぴAdiag 〽 α1 · · ·αNを使いました.最後の等号はぬはで つづぴA 〽 ごひ ぬはでAから従います.

さて,相関関数の話に戻りましょう.まず式〨〳〮〱〮〱〩の指数関数をJ 〽 〰周りでごちべぬはひ展開すると次の級数表示を得ます〺

ZせJ そ 〽 Zせ〰そ

∞∑n=0

〲nn〡

N∑j1=1

N∑j2=1

· · ·N∑

j2n−1=1

N∑j2n=1

〨A−1〩j1j2 · · · 〨A−1〩j2n−1j2nJj1Jj2 · · · Jj2n−1Jj2n 〨〳〮〱〮〲〰〩

これと式〨〳〮〱〮〱〵〩及び ∂Ji∂Jj

〽 δijを用いてひたすらJi1 , Ji2 , · · · , Jinで偏微分していくことで相関関数〈qi1qi2 · · · qin〉が得られます.〨〱変

数の時と同様,nが奇数の場合はゼロです.〩例えば〲点と〴点相関関数を計算すると次の様になります〺

〈qi1qi2〉 〽 〨A−1〩i1i2 〨〳〮〱〮〲〱ち〩

〈qi1qi2qi3qi4〉 〽 〨A−1〩i1i2〨A−1〩i3i4 〨A−1〩i1i3〨A

−1〩i2i4 〨A−1〩i1i4〨A−1〩i2i3 〨〳〮〱〮〲〱ぢ〩

多点の相関関数はもっと項が増えて,一般に〲n点相関関数では〨〲n− 〱〩〡〡 〽 〨〲n− 〱〩〨〲n− 〳〩 · · · 〱個の項からなります.例えば点相

関関数は〵〡〡 〽 〵 · 〳 · 〱 〽 〱〵個,〸点相関関数は〡〡 〽 · 〵 · 〳 · 〱 〽 〱〰〵個の項からなります.この様に項数は〲重階乗で増えていくので

すが,最終的な結果は非常に単純で,〲n点相関関数の場合は単に〲点相関関数のn個の積の和になります.そしてどのような和になっ

ているかと言うと,〲n個の添字からn個の添字のペアを作る全ての可能な組み合わせの数だけの和になっています.形式的には次の様

に書けます〺

〈qi1 · · · qi2n〉 〽∑

添字の集合i1, · · · , i2nから作る(2n− 1)!!通りのペアリング(j1j2), · · · , (j2n−1j2n)

〨A−1〩j1j2 · · · 〨A−1〩j2n−1j2n 〨〳〮〱〮〲〲〩

この結果は場の理論の文脈ではしどっにの定理として知られており,確率論の文脈ではぉびびづひぬどびの定理として知られています.しどっにの定

理はぇちふびび固定点周りでの摂動論〨うづべのねちの則〩の基礎を成す結果で,これを用いて摂動計算を行います.場の理論の摂動計算について

は後の章でまた詳しく論じる予定です.

3.1.2 1次元連成振動子

以上,多変数ぇちふびび積分を見て来ましたが,これらの結果を用いて質量mのN個の質点から成る〱次元系の古典統計力学を考えて行

きましょう.i番目の質点の運動量をpi,質点の平衡の位置からのずれをqiとすると,この系のえちねどぬぴはのどちのは

H 〽

N∑i=1

p2i

〲m U〨q1, · · · , qN 〩 〨〳〮〱〮〲〳〩

但し,U〨q1, · · · , qN 〩はポテンシャルエネルギーです.前章の第〲〮〱〮〳節でやったように,この様な系の正準分布での分配関数Zは運動

量積分が実行出来て必ず次の様な形を取ります〺

Z 〽 N∫ ∞−∞

dq1 · · ·∫ ∞−∞

dqN づへば 〨−βU〨q1, · · · , qN 〩〩 〨〳〮〱〮〲〴〩

ここでNは運動量積分から来る因子で,以下の相関関数の議論では全く重要ではありません.さて,Uが一般的なままでは何も計算出来ないので,以下ではバネ定数k1とk2の〲種類のバネに繋がれたN個の連成振動子を考えま

す.ポテンシャルエネルギーは次の形のものを考えます〺

U〨q1, · · · , qN 〩 〽

N∑i=1

k1

〲〨qi − qi−1〩

2 N∑i=1

k2

〲q2i 〨周期的境界条件の場合〩

N+1∑i=1

k1

〲〨qi − qi−1〩

2 N∑i=1

k2

〲q2i 〨いどひどっとぬづぴ 〦 ぎづふねちのの境界条件の場合〩

〨〳〮〱〮〲〵〩

第〱項目の和にはq0やqN+1が含まれていますが,これらは表式をコンパクトにする為に仮想的に入れたもので,実際にはq0とqN+1に

対応する自由度はありません.適当な境界条件を課してこれらの自由度を消すのですが,代表的な境界条件としては次の〳つがありま

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〳〮〱 連成振動子から場の理論へ 〳〹

す〺*1

〨周期的境界条件〩 q0 〽 qN 〨〳〮〱〮〲ち〩

〨いどひどっとぬづぴ境界条件〩 q0 〽 〰 〦 qN+1 〽 〰 〨〳〮〱〮〲ぢ〩

〨ぎづふねちのの境界条件〩 q0 〽 q1 〦 qN+1 〽 qN 〨〳〮〱〮〲っ〩

さて,式〨〳〮〱〮〲〵〩は変位qiに関して〲次形式なのでこれはベクトルと行列を用いて次の様に表すことが出来ます〺

U〨q1, · · · , qN 〩 〽〱

〲qᵀAq 〨〳〮〱〮〲〩

ここでq 〽 〨q1, · · · , qN 〩ᵀはN成分縦ベクトルで,A 〽 AᵀはN次の実対称行列で次式で与えられます〺

A 〽 k1M k2I 〨〳〮〱〮〲〸〩

但し,I 〽 つどちで〨〱, · · · , 〱〩はN次の単位行列,M 〽MᵀはN次の実対称行列で境界条件の違いによって次の〳通りあります〺

〨周期的境界条件〩 M 〽

〲 −〱 −〱−〱 〲 −〱

−〱 〲〮 〮 〮

〲 −〱−〱 −〱 〲

〨〳〮〱〮〲〹ち〩

〨いどひどっとぬづぴ境界条件〩 M 〽

〲 −〱−〱 〲 −〱

−〱 〲〮 〮 〮

〲 −〱−〱 〲

〨〳〮〱〮〲〹ぢ〩

〨ぎづふねちのの境界条件〩 M 〽

〱 −〱−〱 〲 −〱

−〱 〲〮 〮 〮

〲 −〱−〱 〱

〨〳〮〱〮〲〹っ〩

この実対称行列A 〽 k1M k2Iを用いると分配関数〨〳〮〱〮〲〴〩は次の様に表されます〺

Z 〽 N∫ ∞−∞

dq1 · · ·∫ ∞−∞

dqN づへば

(−β〲qᵀAq

)〨〳〮〱〮〳〰〩

これはまさに前節で取り扱ってきた多変数ぇちふびび積分に他なりません.この模型の相関関数は

〈qi1 · · · qin〉 〽NZ

∫ ∞−∞

dq1 · · ·∫ ∞−∞

dqN qi1 · · · qin づへば(−β〲qᵀAq

)〨〳〮〱〮〳〱〩

で定義されますが,前節で見て来た様にこれらは全てA−1の行列要素で書き表されます.特に〲点相関関数は次の様になります〺

〈qiqj〉 〽〱

β〨A−1〩ij 〨〳〮〱〮〳〲〩

従って問題はこの逆行列を如何にして求めるかという線型代数の問題になります.逆行列の求め方は色々あるでしょうが,一番見通し

が良いのはAの固有値と固有ベクトルを求めて,スペクトル分解〨びばづっぴひちぬ つづっはねばはびどぴどはの〩から構成する方法でしょう.実際,固有

値方程式

Aen 〽 αnen 〨〳〮〱〮〳〳〩

*1 他にはDirichlet境界条件とNeumann境界条件を滑らかにつなぐRobin境界条件

q0 = (1− αL)q1 & qN+1 = (1 + αR)qN (αL, αR : 定数)

などもあります.(但し,この境界条件では行列Aの固有値に負の固有値が現れる場合があります.)

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〴〰 第〳章 ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論

を満たすAの固有値αnと規格化された固有ベクトルenが全て求まったとすると,実対称行列Aは次の様にスペクトル分解出来ます〺

A 〽∑n

αnPn ぷどぴと Pn 〽 ene†n 〨〳〮〱〮〳〴〩

ここで,Pnは射影演算子で次の性質を満たします〺

〨規格直交性〩 PnPm 〽 δnmPm 〨〳〮〱〮〳〵ち〩

〨完全性〩∑n

Pn 〽 I 〨〳〮〱〮〳〵ぢ〩

ひとたびAのスペクトル分解が得られると,Aの任意の冪は Aλ 〽 〨∑n αnPn〩

λ 〽∑n α

λnPn で与えられます.より一般にごちべぬはひ展開

可能な関数fに対してはf〨A〩 〽∑n f〨αn〩Pnになります.また,Aの逆行列は次の様に表されます〺

A−1 〽∑n

α−1n Pn 〨〳〮〱〮〳〩

従ってAの固有値と固有ベクトルが全て分かれば良い訳ですが,これらを実際に求めるのは結構面倒な計算が必要です.計算の詳細は

省略して答えだけ書くと,逆行列A−1の行列要素〨A−1〩ijは次の様になります〺

〨周期的境界条件〩 〨A−1〩ij 〽〱

N

[N2 ]′∑n=−[N2 ]

づi2nπN (i−j)

〴k1 びどの2〨nπN 〩 k2

〨〳〮〱〮〳ち〩

〨いどひどっとぬづぴ境界条件〩 〨A−1〩ij 〽〱

〲〨N 〱〩

N∑n=−N

づinπN+1 (i−j) − づi

nπN+1 (i+j)

〴k1 びどの2〨 nπ

2(N+1) 〩 k2

〨〳〮〱〮〳ぢ〩

〨ぎづふねちのの境界条件〩 〨A−1〩ij 〽〱

〲N

N−1∑n=−N+1

づinπN (i−j) づi

nπN (i+j−1)

〴k1 びどの2〨 nπ2N 〩 k2

〨〳〮〱〮〳っ〩

ここでせxそ 〽 ねちへn ∈ Z 〺 n < xはxを超えない最大の整数,せxそ′ 〽 ねちへn ∈ Z 〺 n ≤ xはx以下の最大の整数を表します.この様にNが有限だと境界条件によってだいぶ異なる表式になりますが,上手にN →∞の熱力学極限を取ると全て次の積分に収束します〺*2

〨A−1〩ij →∫ π

a

−πa

dk

〲π

づik(xi−xj)

4k1

a びどの2〨ka2 〩 k2

a

ちび N →∞ 〨〳〮〱〮〳〸〩

ここで波数kの上限がπ/aである事に注意しましょう.この様な波数〨運動量〩の上限をカットオフ〨または運動量カットオフ〩と呼び,

〃と記します.〃 〽 π/aです.更にa→ 〰の連続極限〨っはのぴどのふふね ぬどねどぴ〩を取ると次の表式になります〺

〨A−1〩ij → G〨xi − xj〩 〽∫ ∞−∞

dk

〲π

づik(xi−xj)

κ1k2 κ2ちび N →∞ 〦 a→ 〰 〨〳〮〱〮〳〹〩

但し,a→ 〰の極限の下で〲点相関関数がゼロや無限大にならないよう,バネ定数に

k1 〽κ1

a〦 k2 〽 κ2a 〨但し,κ1 κ2は定数〩 〨〳〮〱〮〴〰〩

とa依存性を持たせました.要するにa→ 〰 k1 →∞ k2 → 〰 〨但し,κ1 〽 k1a κ2 〽 k2/aは固定〩の極限を取りました.非自明な連

続極限が存在する為には格子模型のパラメータにカットオフ依存性を持たせなければならない,という点が重要です.

さて,式〨〳〮〱〮〳〹〩のGは微分演算子−κ1d2

dx2 κ2に対するぇひづづの関数で次の微分方程式を満たします〺(−κ1

d2

dx2 κ2

)G〨x− y〩 〽 δ〨x− y〩 〨〳〮〱〮〴〱〩

*2 実際,上手にN →∞の極限を取ると式(3.1.29a)–(3.1.29c)の3つの行列Mはどれも次の∞×∞の実対称行列になります:

M =

. . .

2 −1−1 2 −1

−1 2

. . .

「上手に」とはどういう事かと思うでしょうが,あまり気にしなくて良いです.(下手にN →∞の極限を取るとDirichletとNeumannの場合は半直線上の理論

になってしまい,境界で反射する波に対応する項±eik(xi+xj)が式(3.1.38)の被積分関数の分子に加わってしまいます.)

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〳〮〱 連成振動子から場の理論へ 〴〱

×

×

0 Re k

Im k

+i√κ2κ1

−i√κ2κ1

(a) x− y > 0の時の積分経路

×

×

0 Re k

Im k

+i√κ2κ1

−i√κ2κ1

(b) x− y < 0の時の積分経路

図3.1: 式(3.1.45)1行目の積分の経路変形.k = |k|eiθ = |k|(cos θ + i sin θ)と置くと eik(x−y) = ei|k|(x−y) cos θe−|k|(x−y) sin θ なので,x− y > 0の

時は式(3.1.45)1行目の被積分関数はsin θ > 0の領域では|k| → ∞でゼロに収束します.従って,x− y > 0の時は積分経路を上半平面で閉じること

が出来ます.(上半平面の半径無限大の半円に沿った積分はゼロだから足しても結果は変わらない事に注意しましょう.) 一方,x − y < 0の時は

式(3.1.45)1行目の被積分関数はsin θ < 0の領域では|k| → ∞でゼロに収束します.従って,x− y < 0の時は積分経路を下半平面で閉じることが出

来ます.

実際,積分表示〨〳〮〱〮〳〹〩を使って計算してみると,Gが上の微分方程式を満たすことは容易に確認できます〺(−κ1

d2

dx2 κ2

)G〨x− y〩 〽

(−κ1

d2

dx2 κ2

)∫ ∞−∞

dk

〲π

づik(x−y)

κ1k2 κ2

∫ ∞−∞

dk

〲π

(κ1k

2 κ2

) づik(x−y)

κ1k2 κ2

∫ ∞−∞

dk

〲πづik(x−y)

〽 δ〨x− y〩 〨〳〮〱〮〴〲〩

また,微分方程式〨〳〮〱〮〴〱〩は次の様にも書けます〺∫ ∞−∞

dz D〨x− z〩G〨z − y〩 〽 δ〨x− y〩 〨〳〮〱〮〴〳〩

但し,

D〨x− z〩 〽(−κ1

d2

dx2 κ2

)δ〨x− z〩 〨〳〮〱〮〴〴〩

式〨〳〮〱〮〴〳〩は離散的模型での等式∑Nk=1Aik〨A

−1〩kj 〽 δijの連続極限版に対応します.

最後に積分〨〳〮〱〮〳〹〩を計算することでぇひづづの関数G〨x − y〩の関数形を具体的に求めてみましょう.積分〨〳〮〱〮〳〹〩は留数定理を用いる

と簡単に計算できます〺

G〨x− y〩 〽∫ ∞−∞

dk

〲π

づik(x−y)

κ1k2 κ2

〽〱

κ1

∫ ∞−∞

dk

〲π

づik(x−y)(k − i

√κ2

κ1

)(k i

√κ2

κ1

)

κ1

〲π· 〨〲πi〩 · づ

i(+i√κ2κ1

)(x−y)

〲i√

κ2

κ1

〽づ−√κ2κ1

(x−y)

〲√κ1κ2

てはひ x− y > 〰

κ1

〲π· 〨−〲πi〩 · づ

i(−i√κ2κ1

)(x−y)

−〲i√

κ2

κ1

〽づ+√κ2κ1

(x−y)

〲√κ1κ2

てはひ x− y < 〰

〽〱

〲√κ1κ2

づへば

(−√κ2

κ1|x− y|

)〨〳〮〱〮〴〵〩

但し,〲行目でx− y > 〰の時は積分経路を上半平面の半径無限大の半円で閉じ,x− y < 〰の時は下半平面の半径無限大の半円で閉じて

留数定理を用いました〨図〳〮〱参照〩.これよりぇひづづの関数はG〨x− y〩 ∝ づへば〨− |x−y|ξ 〩と振る舞うことが分かります.但し,ξ 〽√

κ1

κ2で

す.このξを相関長〨っはひひづぬちぴどはの ぬづのでぴと〩と呼びます.相関長はぇひづづの関数の典型的な広がり〨または〲点間の影響を及ぼし合う距離〩を

表す量で,臨界点では無限大に発散します.これについては後々詳しく見ていきます.

Page 52: 臨界現象と繰り込み群 - Nihon Universityaries.phys.cst.nihon-u.ac.jp › ~ohya › stat-mech › main.pdfぶ はじめに この講義では〲次相転移の臨界現象を繰り込み群の観点から解説します.主に次の〳つの事柄について学びます〺

〴〲 第〳章 ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論

3.1.3 汎関数積分と汎関数微分

以上,連成振動子の連続極限を取ることで,〱次元の自由スカラー場の理論の相関関数を構成しました.最後に汎関数積分を用いた

標準的な方法について簡単に述べて終わりにしましょう.以下述べることは今までの議論から導かれたものではなく,単にN変数の場

合の素朴な拡張として導入しています.また,空間次元は一般のd ≥ 〱にしています.

まず前節〳〮〱〮〱で扱ったN変数ぇちふびび型積分の連続極限版は次の汎関数積分〨てふのっぴどはのちぬ どのぴづでひちぬ〩に対応します〺

ZせJ そ 〽 N

∏x∈Rd

∫ ∞−∞

dφ〨x〩

づへば

(−〱

∫ddx

∫ddy φ〨x〩D〨x− y〩φ〨y〩

∫ddx J〨x〩φ〨x〩

)

〽 Zせ〰そ づへば

(〱

∫ddx

∫ddy J〨x〩G〨x− y〩J〨y〩

)〨〳〮〱〮〴〩

Nは適当な規格化因子で,以下では全く重要ではありません.また,GはDの「逆行列」で次式を満たします〺∫ddzD〨x− z〩G〨z − y〩 〽 δd〨x− y〩 〨〳〮〱〮〴〩

これは等式∑Nk=1Aik〨A

−1〩kj 〽 δijの連続極限版に対応します.特に自由場の理論の場合,Dは次の微分演算子です〺

D〨x− z〩 〽 〨−∇2x m2〩δd〨x− z〩 〨〳〮〱〮〴〸〩

この時,式〨〳〮〱〮〴〩は次の微分方程式になります〺(−∇2

x m2)G〨x− y〩 〽 δd〨x− y〩 〨〳〮〱〮〴〹〩

即ち,G〨x− y〩は微分演算子〨−∇2x m2〩に対するぇひづづの関数です.うはふひどづひ変換を使うとこの微分方程式は簡単に解けて,次の積分

表示を得ます〺

G〨x− y〩 〽∫

ddp

〨〲π〩dづip·(x−y)

p2 m2〨〳〮〱〮〵〰〩

また,一般のn点相関関数は次の様に表されます〺

〈φ〨x1〩 · · ·φ〨xn〩〉 〽NZせ〰そ

∏x∈Rd

∫ ∞−∞

dφ〨x〩

φ〨x1〩 · · ·φ〨xn〩 づへば(−〱

∫ddx

∫ddy φ〨x〩D〨x− y〩φ〨y〩

)

〽NZせ〰そ

δn

δJ〨x1〩 · · · δJ〨xn〩

∏x∈Rd

∫ ∞−∞

dφ〨x〩

づへば

(−〱

∫ddx

∫ddy φ〨x〩D〨x− y〩φ〨y〩

∫ddx J〨x〩φ〨x〩

)∣∣∣∣∣∣J=0

〽〱

Zせ〰そ

δnZせJ そ

δJ〨x1〩 · · · δJ〨xn〩

∣∣∣∣J=0

〨〳〮〱〮〵〱〩

ここで, δδJ(x)は汎関数微分〨てふのっぴどはのちぬ つづひどぶちぴどぶづ〩で,次を満たします〺

δJ〨x〩

δJ〨y〩〽 δd〨x− y〩 〨〳〮〱〮〵〲〩

これは等式 ∂Ji∂Jj

〽 δijの連続極限版に対応します.N変数ぇちふびび型積分の時の様に,〨〳〮〱〮〵〱〩を用いて相関関数が計算できます.まず分

配関数〨〳〮〱〮〴〩をJについて級数展開すると

ZせJ そ 〽 Zせ〰そ∞∑n=0

〲nn〡

∫ddx1 · · ·

∫ddx2nG〨x1 − x2〩 · · ·G〨x2n−1 − x2n〩J〨x1〩 · · · J〨x2n〩 〨〳〮〱〮〵〳〩

あとはこれを〨〳〮〱〮〵〲〩のルールを使ってJ〨x1〩, · · · , J〨xn〩について汎関数微分をして最後にJ 〽 〰と置けば相関関数が得られます.例

えば〲点及び〴点相関関数は次の様になります〺

〈φ〨x1〩φ〨x2〩〉 〽 G〨x1 − x2〩 〨〳〮〱〮〵〴ち〩

〈φ〨x1〩φ〨x2〩φ〨x3〩φ〨x4〩〉 〽 G〨x1 − x2〩G〨x3 − x4〩 G〨x1 − x3〩G〨x2 − x4〩 G〨x1 − x4〩G〨x2 − x3〩 〨〳〮〱〮〵〴ぢ〩

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〳〮〱 連成振動子から場の理論へ 〴〳

一般の〲n点相関関数の場合は,式〨〳〮〱〮〲〲〩と同様,〲点相関関数の積の和になります〺

〈φ〨x1〩 · · ·φ〨x2n〩〉 〽∑

添字の集合1, · · · , 2nから作る(2n− 1)!!通りの添字のペアリング(i1i2), · · · , (i2n−1i2n)

G〨xi1 − xi2〩 · · ·G〨xi2n−1− xi2n〩 〨〳〮〱〮〵〵〩

N変数ぇちふびび型積分の時と同様,〲n点相関関数は〨〲n− 〱〩〡〡個の項からなります.式〨〳〮〱〮〵〵〩の結果をしどっにの定理と呼び,ぇちふびび固定

点周りの摂動論の基礎を成す重要な結果です.場の理論の摂動計算については必要になった時にまた詳しく議論します.

Green関数と相関長

最後に積分〨〳〮〱〮〵〰〩を計算してぇひづづの関数〨〲点相関関数〩の関数形を求めておきましょう.積分の計算の仕方は色々ありますが,いわ

ゆるこっとぷはどのでづひのパラメータ表示〨こっとぷどのでづひ ばちひちねづぴづひどぺちぴどはの〩を使って計算するのが最も簡単です.まず次の等式が成り立つ

事に注意しましょう〺

p2 m2〽

∫ ∞0

dτ づ−τ(p2+m2) 〨〳〮〱〮〵〩

この等式は右辺の積分を計算することで容易に確かめられます.式〨〳〮〱〮〵〩をこっとぷどのでづひのパラメータ表示とかこっとぷどのでづひの固有時間表

示と呼び,τをこっとぷどのでづひの固有時間と呼んだりします.〨但し,τの質量次元は−〲で普通の時間の質量次元−〱とは異なります.〩これ

を式〨〳〮〱〮〵〰〩に代入してpについて平方完成し,運動量積分を先に実行することで次の表式を得ます〺

G〨x− y〩 〽∫ ∞

0

∫ddp

〨〲π〩dづ−τ(p2+m2)+ip·(x−y)

∫ ∞0

∫ddp

〨〲π〩dづ−τ(p−ix−y

2τ )2−m2τ− |x−y|24τ

∫ ∞0

dτ づ−m2τ− |x−y|2

d∏j=1

[∫ ∞−∞

dpj〲π

づ−τ(pj−ixj−yj

2τ )2

]

∫ ∞0

dτ づ−m2τ− |x−y|2

d∏j=1

∫ ∞+ixj−yj

−∞+ixj−yj

dpj〲π

づ−τ(pj−ixj−yj

2τ )2

∫ ∞0

dτ づ−m2τ− |x−y|2

d∏j=1

[∫ ∞−∞

dqj〲π

づ−τq2j

]

∫ ∞0

dτづ−m

2τ− |x−y|24τ

〨〴πτ〩d2

〨〳〮〱〮〵〩

但し,〳行目でpj積分の積分経路を虚軸方向にixj−yj

2τ だけずらし,〴行目で変数変換qj 〽 pi − ixj−yj2τ を行いました.次に積分変数

をτからs 〽 2m|x−y|τに変数変換すると,積分〨〳〮〱〮〵〩は次の様になります〺

G〨x− y〩 〽 〱

〴π

(m

〲π|x− y|

) d−22∫ ∞

0

ds s−d2 づへば

[−m|x− y|

(s

s

)]〨〳〮〱〮〵〸〩

最後の積分は第〲種変形あづびびづぬ関数K d−22〨m|x− y|〩の積分表示の〲倍に他ならないので,結局ぇひづづの関数は次の様に書けます〺

G〨x− y〩 〽 〱

〲π

(m

〲π|x− y|

) d−22

K d−22〨m|x− y|〩 〨〳〮〱〮〵〹〩

以下で重要なのはこのぇひづづの関数の漸近形です.一般に第〲種変形あづびびづぬ関数Kν〨z〩は|z| 〱と|z| 〱で次の様に振る舞います〺

Kν〨z〩 〽

π

〲zづ−z

(〱 O〨 1

z 〩)

てはひ |z| 〱

 〨ν〩

(〲

z

)ν〨〱 O〨z〩〩 てはひ |z| 〱

〨〳〮〱〮〰〩

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〴〴 第〳章 ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論

これよりぇひづづの関数はm|x− y| 〱とm|x− y| 〱の極限で次の様に振る舞う事が分かります〺*3

G〨x− y〩 〽

〲m

(m

〲π|x− y|

) d−12

づ−m|x−y|(〱 O〨 1

m|x−y| 〩)

てはひ m|x− y| 〱

 〨d−22 〩

〴πd2

|x− y|d−2〨〱 O〨m|x− y|〩〩 てはひ m|x− y| 〱

〨〳〮〱〮〱〩

従って〲点間の距離|x − y|が〱/mよりも十分長い時,〲点相関関数は指数関数づ−m|x−y|で減衰し,〲点間の距離|x − y|が〱/mよりも十

分短い時,〲点相関関数は冪関数|x− y|−(d−2)の様に振る舞うことが分かります.これまでの議論でもすでに登場していましたが,こ

の〱/mを相関長〨っはひひづぬちぴどはの ぬづのでぴと〩と呼び,ξと記します〺

ξ 〽〱

m〨〳〮〱〮〲〩

今後はこの相関長が非常に重要な役割を果たしていきます.

3.2 Ginzburg-Landau理論

この節のまとめ

• φ〨x〩 〽 〨φ1〨x〩, · · · , φn〨x〩〩を実のn成分スカラー場とする.このφを秩序変数とする統計場の理論の分配関数は次の汎関数積分で与えられる〺

Z 〽

∏x∈Rd

n∏a=1

∫ ∞−∞

dφa〨x〩

づへば 〨−Sせφそ〩

但し,Sせφそはn成分スカラー場の汎関数で,βHせφそに対応.Sせφそを作用汎関数と呼ぶ.Sせφそは局所性,対称性などを指針に構

成し,この節では次の模型〨O〨n〩線型σ模型〩を調べる〺

Sせφそ 〽

∫ddx

[〱

〲〨∇φ〩2 m2

〲φ · φ

λ

〴〡〨φ · φ〩2

], m2 〽 m2

0

T − TcTc

このSせφそは任意のn次直交行列O ∈ O〨n〩に対してSせOφそ 〽 Sせφそを満たす.

• 〈φ〉を作用汎関数を最小にする場の配位とすると,これは方程式 δS[〈φ〉]δφa(x) 〽 〰の解.特にポテンシャル U〨φ〩 〽 m

2 |φ|2 λ

4! |φ|4

を最小にする定数場で,一般性を失うこと無く次の様に選ぶことが出来る〺

〈φ〉 〽

〰 てはひ m2 > 〰√−m2

λen てはひ m2 < 〰

但し,en 〽 〨〰, · · · , 〰, 〱〩.この時,作用汎関数はφ〨x〩 〽 〈φ〉周りで次の様に展開出来る〺

Sせφそ 〽 Sせ〈φ〉そ 〱

〲〡

∫ddx

∫ddy

δ2Sせ〈φ〉そδφa〨x〩δφb〨y〩

〨φa〨x〩− 〈φa〉〩〨φb〨y〩− 〈φb〉〩 O〨φa − 〈φa〉〩3

〽 Sせ〈φ〉そ 〱

∫ddx

[n−1∑a=1

〨∇ϕa〩

2 M2⊥ϕ

2a

〨∇ϕn〩

2 M2‖ϕ

2n

]O〨ϕ3

a〩

ここで,ϕa〨x〩 〽 φa〨x〩− 〈φa〉は 〈φ〉の周りの揺らぎで,M2⊥とM

2‖は次式で与えられる〺

M2⊥ 〽 m2

λ

|〈φ〉|2 〽

m2 てはひ m2 > 〰

〰 てはひ m2 < 〰

M2‖ 〽 m2

λ

〲|〈φ〉|2 〽

m2 てはひ m2 > 〰

−〲m2 てはひ m2 < 〰

*3 第2種変形Bessel関数の漸近形(3.1.60)を持ち出さなくても,Green関数のm|x − y| 1の漸近形は積分(3.1.58)を鞍点近似で評価すれば得られます.一方,

m|x−y| 1の漸近形は式(3.1.57)の被積分関数をm = 0周りでTaylor展開してs =|x−y|2

4τと変数変換し,Gamma関数の積分表示Γ(z) =

∫∞0 ds sz−1e−sを

用いれば得られます.漸近形(3.1.60)を天下りだと感じる人は自分で計算してみましょう.

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〳〮〲 ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論 〴〵

m2 < 〰の秩序相〨対称性が破れた相〩ではM2⊥ 〽 〰なのでϕaは無質量になる.この対称性が破れた相で出現するn− 〱個の無質

量スカラー場をぎちねぢふぇはぬつびぴはのづボゾンと呼ぶ.

• 揺らぎϕの〰次の近似では分配関数は

Z ≈ づへば 〨−Sせ〈φ〉そ〩 〽 づへば

(−V

[m

〲|〈φ〉|2 λ

〴〡|〈φ〉|4

])但し,V 〽

∫ddxは系の体積.これより単位体積当たりの自由エネルギーは

βf 〽m

〲|〈φ〉|2 λ

〴〡|〈φ〉|4 〽

〰 てはひ m2 > 〰

−〳

m4

λてはひ m2 < 〰

この単位体積当たりの自由エネルギーから平均場近似での臨界指数が再現できる.揺らぎの第ゼロ近似を特にがちのつちふ理論

と呼ぶ.

• 揺らぎϕの〲次の近似の範囲では分配関数はぇちふびび型の汎関数積分になって次の様に計算される〺

Z ≈ づへば

(−Sせ〈φ〉そ− 〱

〲ごひ ぬはで

δ2Sせ〈φ〉そδφa〨x〩δφb〨y〩

)これより単位体積当たりの自由エネルギーは次の様になる〺

βf 〽m2

〲|〈φ〉|2 λ

〴〡|〈φ〉|4 n− 〱

∫ddp

〨〲π〩dぬはで〨p2 M2

⊥〩 〱

∫ddp

〨〲π〩dぬはで〨p2 M2

‖ 〩

この単位体積当たりの自由エネルギーから比熱c 〽 −T ∂2f∂T 2を計算すると次の様になる〺

c ≈

n

∫ddp

〨〲π〩dm4

0

〨p2 m2〩2てはひ m2 > 〰

−〳m40

λ

∫ddp

〨〲π〩d〴m4

0

〨p2 − 〲m2〩2てはひ m2 < 〰

〲項目の積分を評価すると,d > 〴では揺らぎの効果が臨界指数に寄与しないが,d < 〴では一般に揺らぎの効果が臨界指数に

影響を与える事が分かる.d 〽 〴をO〨n〩線型σ模型の臨界次元〨っひどぴどっちぬ つどねづのびどはの〩と呼ぶ.

第〲〮〲節で平均場近似でのぉびどので模型の単位格子当たりの自由エネルギーf〨T, h〩は次の形を取ることを見ました〺

f〨T, h〩 〽〱

〲Tcm

2 − T ぬはで

[〲 っはびと

(TcTm

Th

)]〨〳〮〲〮〱〩

但し,単位格子当たりの磁化mは次の自己無撞着条件の解でなければなりません〺

m 〽 ぴちのと

(TcTm

Th

)〨〳〮〲〮〲〩

この自己無撞着条件は式〨〳〮〲〮〱〩をmの関数と思って,mがfの極値を与えるための条件 ∂f∂m 〽 〰と等価です〺

∂f

∂m〽 Tcm− Tc ぴちのと

(TcTm

Tch

)〽 〰 〨〳〮〲〮〳〩

これを踏まえて,以下,fをmの関数と思ってみましょう.まず臨界点のごく近傍では自発磁化は非常に小さいので,臨界点近傍の振

る舞いは式〨〳〮〲〮〱〩のm 〽 〰周りでのごちべぬはひ展開の最初の数項だけで決まる筈です.地道に展開すると次の様になります〺

f 〽 f0〨T 〩 〱

〲a〨T 〩m2 b〨T 〩m4 O〨m6〩

− c〨T 〩hm · · · 〨〳〮〲〮〴〩

ここで展開係数a〨T 〩 b〨T 〩 c〨T 〩は温度Tに関する解析関数で,T 〽 Tc周りで次の様にごちべぬはひ展開されます〺

a〨T 〩 〽 〰 a1〨T − Tc〩 O〨T − Tc〩2 〨〳〮〲〮〵ち〩

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〴 第〳章 ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論

b〨T 〩 〽 b0 b1〨T − Tc〩 O〨T − Tc〩2 〨〳〮〲〮〵ぢ〩

c〨T 〩 〽 c0 c1〨T − Tc〩 O〨T − Tc〩2 〨〳〮〲〮〵っ〩

ぉちどので模型の平均場近似ではf0〨T 〩 〽 −T ぬはで 〲 a1 〽 〱 b0 〽 Tc12 b1 〽 − 1

4 c0 〽 〱 c1 〽 − 1Tcとなります.係数a〨T 〩のT 〽 Tc周り

のごちべぬはひ展開の初項a0はゼロである事,及びa1とb0は共に正である事に注意しましょう.上の展開〨〳〮〲〮〵ち〩ほ〨〳〮〲〮〵っ〩の最低次の項だけ

を使うと単位体積当たりの自由エネルギーは次の様に書けます〺

f 〽 f0〨T 〩 〱

〲a1〨T − Tc〩m2 b0m

4 − hm 〨〳〮〲〮〩

この秩序変数mに関するfの多項式近似を用いると,次の様に平均場近似の結果が全て再現出来ます〺

• 秩序変数〺 自発磁化と臨界指数βとδ

まず自己無撞着条件は ∂f∂m 〽 〰に対応するので,まずこの方程式を解いて自発磁化を求めましょう.式〨〳〮〲〮〩をmで偏微分する

ことで次の条件を得ます〺

∂f

∂m〽 a1〨T − Tc〩m 〴b0m

3 − h 〽 〰 〨〳〮〲〮〩

特にh 〽 〰ではこれは〴b0m〨m2 a1

2b0〨T − Tc〩〩 〽 〰になります.これよりh 〽 〰での自発磁化は

m〨T, 〰〩 〽

〰 てはひ T > Tc√a1

〴b0〨Tc − T 〩 てはひ T < Tc

〨〳〮〲〮〸〩

となります.臨界指数βはm〨T, 〰〩 ∼ |T − Tc|βで定義されていた事を思い出すと,式〨〳〮〲〮〸〩よりβ 〽 12と読み取れます.ま

たT 〽 Tcでは式〨〳〮〲〮〩は〴b0m3 − h 〽 〰になります.これより臨界温度T 〽 Tc直上での単位体積当たりの磁化m〨Tc, h〩は

m〨Tc, h〩 〽

(h

〴b0

)1/3

〨〳〮〲〮〹〩

となります.臨界指数δはm〨Tc, h〩 ∼ |h|δで定義されていた事を思い出すと,式〨〳〮〲〮〹〩よりδ 〽 〳と読み取れます.

• 応答関数〺 等温帯磁率と臨界指数γ

次に等温帯磁率を考えましょう.まず条件a1〨T − Tc〩m 〴b0m3 − h 〽 〰の両辺をhで偏微分すると

(a1〨T − Tc〩 〱〲b0m

2) ∂m∂h− 〱 〽 〰 〨〳〮〲〮〱〰〩

これよりゼロ磁場での等温帯磁率は

χT 〨T, 〰〩 〽∂m〨T, 〰〩

∂h〽

a1〨T − Tc〩 〱〲b0m2〨T, 〰〩〽

a1〨T − Tc〩てはひ T > Tc

〲a1〨Tc − T 〩てはひ T < Tc

〨〳〮〲〮〱〱〩

となります.臨界指数γはχT 〨T, 〰〩 ∼ |T − Tc|−γと定義されていた事を思い出すと,式〨〳〮〲〮〱〱〩よりγ 〽 〱と読み取れます.

• 応答関数〺 定磁場比熱と臨界指数α

最後に定磁場比熱を考えましょう.まず式〨〳〮〲〮〸〩を式〨〳〮〲〮〩に代入することで,h 〽 〰での単位体積当たりの自由エネルギーは

次の様になる事が分かります〺

f〨T, 〰〩 〽

f0〨T 〩 てはひ T > Tc

f0〨T 〩−a2

1

〱b0〨Tc − T 〩2 てはひ T < Tc

〨〳〮〲〮〱〲〩

よってh 〽 〰での定磁場比熱は

ch〨T, 〰〩 〽 −T∂2f〨T, 〰〩

∂T 2〽

c0〨T 〩 てはひ T > Tc

c0〨T 〩−a2

1

〸b0てはひ T < Tc

〨〳〮〲〮〱〳〩

但し, c0〨T 〩 〽 −T ∂2f0(T )∂T 2 です. 〨ぉびどので模型の平均場近似の場合はf0〨T 〩 〽 −T ぬはで 〲なのでc0〨T 〩 〽 〰です. 〩臨界指

数αはch〨T, 〰〩 ∼ |T − Tc|−αで定義されていた事を思い出すと,式〨〳〮〲〮〱〳〩よりα 〽 〰と読み取れます.

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〳〮〲 ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論 〴

以上まとめると,臨界指数はα, β, γ, δ 〽 〰, 12 , 〱, 〳となって第〲〮〲節で求めた平均場近似の結果と一致します.重要なのは臨界指

数は展開係数a1 b0には全く依存しない所で,臨界指数の値はfの次の性質だけで決まっています〺

• h 〽 〰の時,fはmの偶関数である〨即ち,h 〽 〰ではZ2変換m 7→ −mの下で不変である〩

• 臨界点T 〽 Tc近傍ではmは微小で,fはm 〽 〰周りでごちべぬはひ展開可能

• ごちべぬはひ展開の展開係数は温度依存性を持ち,臨界点近傍では展開係数もT 〽 Tc周りでごちべぬはひ展開可能.m2とm4の係

数a〨T 〩とb〨T 〩のT 〽 Tc周りの展開は次の様になる〺

a〨T 〩 〽 a1〨T − Tc〩 O〨T − Tc〩2, a1 > 〰 〨〳〮〲〮〱〴ち〩

b〨T 〩 〽 b0 O〨T − Tc〩, b0 > 〰 〨〳〮〲〮〱〴ぢ〩

この様に秩序変数mと系の対称性および展開係数の温度依存性だけに基づいてfをmの多項式で表し解析するのががちのつちふ理論〨また

はがちのつちふの現象論〩です.がちのつちふ理論の利点はその柔軟性で,系の秩序変数と対称性が分かれば容易に他の系にも拡張することが

出来ます.良く使われるの秩序変数mをn成分実ベクトルm 〽 〨m1, · · · ,mn〩に拡張し,Z2変換m 7→ −mの下での不変性をn次元回転m 7→ Om 〨O ∈ O〨n〩〩 の下での不変性に拡張したものです.この時,単位体積当たりの自由エネルギー〨〳〮〲〮〩は次の様に拡張され

ます〺

f 〽 f0〨T 〩 〱

〲a1〨T − Tc〩m ·m b0〨m ·m〩2 − h ·m 〨〳〮〲〮〱〵〩

この模型は後で解析するのでここでは調べませんが,このfを使って臨界指数を計算すると全て平均場近似の結果と一致します.

がちのつちふ理論は解析が容易で便利ですが,秩序変数を定数として扱うのでその空間的揺らぎを調べる事が出来ません.これを解消する

為に秩序変数に座標依存性を持たせてm〨x〩とし,分配関数が次の汎関数積分で与えられる場の理論を考えます〺

Z 〽

∏x∈Rd

n∏a=1

∫ ∞−∞

dma〨x〩

づへば 〨−βHせmそ〩 〨〳〮〲〮〱〩

ここでえちねどぬぴはのどちの Hせmそはm〨x〩の汎関数で,式〨〳〮〲〮〴〩に倣って次の様な積分で表されます〺

Hせmそ 〽

∫ddx

[〱

〲a1〨T − Tc〩m〨x〩 ·m〨x〩 b0 〨m〨x〩 ·m〨x〩〩

2 〨m ·mの高次の項〩

K

〲∇m〨x〩 ·∇m〨x〩 〨高階微分の項〩

−h〨x〩 ·m〨x〩 · · · そ 〨〳〮〲〮〱〩

秩序変数を空間依存性を持った局所的な量m〨x〩にした事で微分項∇m ·∇mが入るというのが新しい点です.前節の連成振動子の連続極限で見た様に,この微分項は秩序変数の最近接相互作用が起源となっていると見なせます.この微分項を特に運動項〨にどのづぴどっ

ぴづひね〩,またm ·mの項を質量項〨ねちびび ぴづひね〩と呼びます.a1 b0 Kは模型のパラメータで,これらは全て正の量です.この様な秩

序変数と対称性に基づいた場の理論の現象論をぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論〨またはぇどのぺぢふひでがちのつちふしどぬびはの理論〩と呼びます.

以下では秩序変数mを適当に規格化し直してφ 〽√

KTcmとし,汎関数βH ≈ βcHの運動項が常に

12 |∇φ|

2となるようにします.

〨β 〽 1TをT 〽 Tc周りで展開した時の初項はβc 〽

1Tcになります.〩 式〨〳〮〲〮〩に倣ってφの〴次の項までを取り入れると次の様な模型に

なります〺

Sせφそ 〽 βcHせ√

TcK φそ

∫ddx

[〱

〲|∇φ〨x〩|2 〱

〲m2|φ〨x〩|2 λ

〴〡|φ〨x〩|4

]〨〳〮〲〮〱〸〩

但し,

m2 〽 m20τ ぷどぴと τ 〽

T − TcTc

〨〳〮〲〮〱〹〩

で,m20 > 〰,λ > 〰は共に正のパラメータです.また,簡単の為h〨x〩 〽 〰としました.秩序変数を規格化し直した事で汎関数積

分〨〳〮〲〮〱〩の全体の規格化が定数だけずれますが,それは全く重要でないので捨てると,この理論の分配関数は次の汎関数積分で与え

られます〺

Z 〽

∏x∈Rd

n∏a=1

∫ ∞−∞

dφa〨x〩

づへば 〨−Sせφそ〩 〨〳〮〲〮〲〰〩

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〴〸 第〳章 ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論

汎関数Sせφそを作用汎関数〨ちっぴどはの てふのっぴどはのちぬ〩とか単に作用〨ちっぴどはの〩と呼び,作用汎関数が式〨〳〮〲〮〱〸〩で与えられるスカラー場の理論

を特にO〨n〩線型σ模型と呼びます.特にn 〽 〱の時をφ4模型〨またはφ4理論〩と呼びます.

さて,汎関数積分〨〳〮〲〮〲〰〩が厳密に計算できればそれから単位体積当たりの自由エネルギーf 〽 − logZβV が求まるのですが,そ

れはとても無理な問題なので,通常は適当に近似を行って汎関数積分〨〳〮〲〮〲〰〩を評価します.以下では鞍点近似〨びちつつぬづばはどのぴ

ちばばひはへどねちぴどはの〩を用いてがちのつちふ理論からのずれを見て行くことにしましょう*4.これは〈φ〉を作用汎関数を最小にする場の配位として,Sせφそをφ〨x〩 〽 〈φ〉周りでごちべぬはひ展開した表式

Sせφそ 〽 Sせ〈φ〉そ 〱

〲〡

∫ddx

∫ddy

δ2Sせ〈φ〉そδφa〨x〩δφb〨y〩

〨φa〨x〩− 〈φa〉〩 〨φb〨y〩− 〈φb〉〩 O〨φa − 〈φa〉〩3 〨〳〮〲〮〲〱〩

を用います.〈φ〉からのずれ〨揺らぎ〩φ〨x〩− 〈φ〉の〲次の近似だと,汎関数積分は単なるぇちふびび型積分になって厳密に計算することが可

能です.以下,この揺らぎの〲次の近似で単位体積当たりの自由エネルギーを求めて,それを用いて比熱を計算してみましょう.

3.2.1 O(n)線型σ模型

まずSせφそを最小にする場の配位〈φ〉を求めましょう.普通の関数f〨x〩の場合,f〨x〩の極値はdf(x)dx 〽 〰の解として求まりますが,汎関

数の場合も同様で,作用汎関数の極値は方程式δS[φ]δφa(x) 〽 〰の解として求まります.式〨〳〮〲〮〱〸〩を使って計算すると,この極値の条件は

次の非線形偏微分方程式になります〺

δSせφそ

δφa〨x〩〽 −∇2φa〨x〩 m2φa〨x〩

λ

|φ〨x〩|2φa〨x〩 〽 〰 〨〳〮〲〮〲〲〩

特に最小値を与えるのはx依存性の無い定数解です.これは式〨〳〮〲〮〱〸〩の運動項 12 |∇φ〨x〩|

2 ≥ 〰は常に正定値なので,∇φ〨x〩 〽 〰の場

合,即ちφ〨x〩が定数の場合が最もSせφその値が小さくなるからです.従って作用汎関数を最小にする場の配位は方程式

m2φa λ

|φ|2φa 〽

λ

φa

(|φ|2 m2

λ

)〽 〰 〨〳〮〲〮〲〳〩

の解です.これは簡単に解けて,m2 > 〰の場合は|φ| 〽 〰,m2 < 〰の場合は|φ| 〽√−6m2

λ となります.これで〈φ〉の大きさが求まった事になります.〈φ〉の向きはO〨n〩対称性からどの方向でも良く,一般性を失う事無くen 〽 〨〰, · · · , 〰, 〱〩方向に選べます.結局,作用積分を最小にする場の配位は次の様に書けます〺

〈φ〉 〽

〰 てはひ m2 > 〰√−m2

λen てはひ m2 < 〰

〨〳〮〲〮〲〴〩

次にこの〈φ〉周りの揺らぎを考えましょう〺

φ〨x〩 〽 〈φ〉ϕ〨x〩 〨〳〮〲〮〲〵〩

作用汎関数を φ〨x〩 〽 〈φ〉 〽 〈φn〉en 周りでごちべぬはひ展開すると次の様になります〺*5

Sせφそ 〽 Sせ〈φ〉ϕそ

4∑j=0

j〡

∫ddx1 · · ·

∫ddxj

δjSせ〈φ〉そδφa1

〨x1〩 · · · δφaj 〨xj〩ϕa1〨x1〩 · · ·ϕaj 〨xj〩

〽 Sせ〈φ〉そ 〱

∫ddx

[n−1∑a=1

〨∇ϕa〩

2 M2⊥ϕ

2a

〨∇ϕn〩

2 M2‖ϕ

2n

]λ〈φn〉〳〡

∫ddxϕn|ϕ|2

λ

〴〡

∫ddx |ϕ|4 〨〳〮〲〮〲〩

*4 正確には鞍点近似が良い近似になる為にはあるパラメータα 1が存在してBoltzmann因子がe−αSの形をとる場合ですが,ここでは気にしない事にします.

因みに場の量子論ではαとして1/~を採用する事が出来て,~ → 0の古典極限がα → ∞に対応します.今のO(n)線型σ模型では適当にパラメータの再定義や補

助場の導入をするとα = nとする事も可能で,n→∞のラージn極限では鞍点近似が良い近似になります.但し,この節では特にラージn極限を考えている訳ではありません.

*5 式(3.2.26)の書き方だとS[φ]の汎関数微分をして計算していったと思うかもしれません.勿論それでも計算できるのですが,それよりも単に式(3.2.25)を

式(3.2.18)に代入して計算した方がミス無く計算できます.代入すると,(3.2.18)の各項は次の様になります:

|∇φ|2 = |∇ϕ|2

|φ|2 = |〈φ〉|2 + 2〈φ〉 ·ϕ+ |ϕ|2

|φ|4 = |〈φ〉|4 + 4|〈φ〉|2〈φ〉 ·ϕ+ 4(〈φ〉 ·ϕ)2 + 2|〈φ〉|2|ϕ|2 + 4(〈φ〉 ·ϕ)|ϕ|2 + |ϕ|4

これと式(3.2.24)を使ってまとめると式(3.2.26)になります.

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〳〮〲 ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論 〴〹

但し,M2⊥ 〨M2

‖ 〩は 〈φ〉 〽 〈φn〉enに直交〨平行〩する場の配位の質量パラメータで次式で与えられます〺

M2⊥ 〽 m2

λ

|〈φ〉|2 〽

m2 てはひ m2 > 〰

〰 てはひ m2 < 〰〨〳〮〲〮〲ち〩

M2‖ 〽 m2

λ

〲|〈φ〉|2 〽

m2 てはひ m2 > 〰

−〲m2 てはひ m2 < 〰〨〳〮〲〮〲ぢ〩

T < Tcの秩序相ではM2⊥とM

2‖の値が異なるので,作用汎関数はもはやO〨n〩変換〨ϕ1, · · · , ϕn〩ᵀ 7→ O〨ϕ1, · · · , ϕn〩ᵀ 〨O ∈ O〨n〩〩の

下で不変ではなく,O〨n − 〱〩変換〨ϕ1, · · · , ϕn−1〩ᵀ 7→ O〨ϕ1, · · · , ϕn−1〩

ᵀ 〨O ∈ O〨n − 〱〩〩の下でのみ不変です.この事を「対称性

がO〨n〩からO〨n − 〱〩へ自発的に破れた」と言い表します.また,T < Tcの秩序相ではϕa 〨a 〽 〱, · · · , n − 〱〩の質量項はゼロにな

ることにも注意しましょう.この様に秩序相〨対称性がO〨n〩からO〨n − 〱〩へ破れた相〩で質量項がゼロになるn − 〱個のスカラー場

をぎちねぢふぇはぬつびぴはのづボゾンと呼びます.

さて,次に分配関数を評価しましょう.式〨〳〮〲〮〲〩のϕの〳次と〴次の項は無視すると,分配関数はぇちふびび型積分になって次の様に計

算されます〺

Z 〽

∏x∈Rd

n∏a=1

∫ ∞−∞

dφa〨x〩

づへば 〨−Sせφそ〩

≈ づ−S[〈φ〉]

∏x∈Rd

n∏a=1

∫ ∞−∞

dϕa〨x〩

づへば

(−〱

∫ddx

∫ddy

δ2Sせ〈φ〉そδφa〨x〩δφb〨y〩

ϕa〨x〩ϕb〨y〩

)

≈ づへば

(−Sせ〈φ〉そ− 〱

〲ごひ ぬはで

δ2Sせ〈φ〉そδφa〨x〩δφb〨y〩

)〨〳〮〲〮〲〸〩

ここで,δ2S[〈φ〉]

δφa(x)δφb(y) は〲階微分演算子で,式〨〳〮〲〮〲〩の〲行目第〲項を部分積分する事で次の様に読み取れます〺*6

δ2Sせ〈φ〉そδφa〨x〩δφb〨y〩

(In−1〨−∇2

x M2⊥〩δ

d〨x− y〩〨−∇2

x M2‖ 〩δ

d〨x− y〩

)〨〳〮〲〮〲〹〩

但し,In−1は〨n− 〱〩次の単位行列です.式〨〳〮〲〮〲〸〩より単位体積当たりの自由エネルギーは次の様に求まります〺

βf 〽〱

V

(Sせ〈φ〉そ 〱

〲ごひ ぬはで

δ2Sせ〈φ〉そδφa〨x〩δφb〨y〩

)〽 βfmean

n− 〱

∫ddp

〨〲π〩dぬはで(p2 M2

⊥)

∫ddp

〨〲π〩dぬはで(p2 M2

)〨〳〮〲〮〳〰〩

ここでfmeanは平均場近似〨またはがちのつちふ理論〩での単位体積当たりの自由エネルギーで次式で与えられます〺

βfmean 〽〱

〲m2|〈φ〉|2 λ

〴〡|〈φ〉|4 〽

〰 てはひ m2 > 〰

−〳m4

〲λ〽 −〳m4

0

〲λτ2 てはひ m2 < 〰

〨〳〮〲〮〳〱〩

単位体積当たりの自由エネルギーが求まったので比熱c 〽 −T ∂2f∂T 2 ≈ −Tc ∂

2f∂T 2は次の様に計算されます〺

c ≈ −Tc∂2f

∂T 2

〽 −T 2c

∂2〨βcf〩

∂T 2

〽 −∂2〨βcf〩

∂τ2

*6 式(3.2.26)の2行目第2項を部分積分すると次の様に書けます:

1

2

∫ddx

[n−1∑a=1

(∇ϕa)2 +M2

⊥ϕ2a

+ (∇ϕn)2 +M2

‖ϕ2n

]=

1

2

∫ddx

[n−1∑a=1

ϕa(−∇2 +M2⊥)ϕa + ϕn(−∇2 +M2

‖ )ϕn

]

=1

2

∫ddx

∫ddy

(ϕ⊥(x)ϕn(x)

)ᵀ(In−1(−∇2

x +M2⊥)δd(x− y)

(−∇2x +M2

‖ )δd(x− y)

)(ϕ⊥(y)ϕn(y)

)但し, ϕ⊥ = (ϕ1, · · · , ϕn−1)ᵀ でIn−1は(n− 1)次単位行列です.また,部分積分した時に出る表面項は捨てました.これより式(3.2.29)が読み取れます.

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〵〰 第〳章 ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論

cmean

n

∫ddp

〨〲π〩dm4

0

〨p2 m2〩2てはひ m2 > 〰

cmean 〱

∫ddp

〨〲π〩d〴m4

0

〨p2 − 〲m2〩2てはひ m2 < 〰

〨〳〮〲〮〳〲〩

但し,〲行目でβf ≈ βcfを使いました.また,cmeanは平均場近似〨がちのつちふ理論〩での比熱で次式で与えられます〺

cmean ≈ −∂2〨βcfmean〩

∂τ2≈

〰 てはひ T > Tc

−〳m40

λてはひ T < Tc

〨〳〮〲〮〳〳〩

さて,式〨〳〮〲〮〳〲〩の運動量積分は真面目に評価しないといけません.まず今まで明確にしてきませんでしたが,今扱っている場の理論

はカットオフ理論で,従って運動量の上限|p| < 〃があります.第〳〮〱〮〲節で見た様に〱/〃が格子間隔aに対応します.〃2/m2 〱とす

ると,一般に次が成り立ちます〺*7 ∫|p|<Λ

ddp

〨〲π〩d〱

〨p2 m2〩a〽

《〨d〩

〨〲π〩d

∫ Λ

0

dppd−1

〨p2 m2〩a

〃d−2a てはひ d > 〲a

md−2a てはひ d < 〲a〨〳〮〲〮〳〴〩

但し,《〨d〩 〽 2πd/2

Γ(d/2)です.式〨〳〮〲〮〳〴〩のa 〽 〲の場合を使うと比熱〨〳〮〲〮〳〲〩は結局次の様に評価されます〺

c ≈

cmean A±〃

d−4 てはひ d > 〴

cmean B±|T − Tc|−4−d

2 てはひ d < 〴〨〳〮〲〮〳〵〩

ここでA±とB±は温度に依存しない係数で,T > TcとT < Tcで異なる値を取ります.d > 〴では揺らぎの寄与は大きな定数〃d−4で

すが温度依存性は無く,従って臨界指数は平均場近似の値α 〽 〰から変更はありません.一方,d < 〴では揺らぎの寄与は温度依存

性|T − Tc|−4−d

2 を持ち,これの方が平均場近似の結果|T − Tc|0よりも特異性が強いので臨界指数の値がα 〽 4−d2 と変更を受けます.

この様にd 〽 〴を境にして平均場近似の結果がそのまま正しいか変更を受けるかが変わってきます.d 〽 〴をO〨n〩線型σ模型の臨界次

元〨っひどぴどっちぬ つどねづのびどはの〩と呼びます*8.

3.3 Ginzburgの判定基準

この節のまとめ

• T 6〽 Tcでは〲点相関関数G(2)〨x〩は|x| → ∞で指数関数的に減衰する〺

G(2)〨x〩 ∝ づ−|x|/ξ ちび |x| → ∞

指数関数の指数部分は無次元でなければならないから,必ず長さの次元を持った量ξ > 〰が登場する.このξを相関

長〨っはひひづぬちぴどはの ぬづのでぴと〩と呼ぶ.T 〽 Tc近傍では相関長は非常に大きくなり,次の冪則に従って発散する〺

ξ ∼ |T − Tc|−ν ちび T → Tc

冪の指数νは臨界現象を特徴付ける新たな臨界指数で,自由場の理論の場合はν 〽 〱/〲.

• T 〽 Tc直上では〲点相関関数は次の冪関数の様に振る舞う〺

G(2)〨x〩 ∼ 〱

|x|d−2+η

*7 x = p2/Λ2またはx = p2/m2と変数変換すると,式(3.2.34)1行目の積分はΛ2/m2 1の仮定の下で次の様に評価されます:

∫ Λ

0dp

pd−1

(p2 +m2)a=

Λd−2a

2

∫ 1

0dx

xd2−1

(x+ m2

Λ2 )a≈

Λd−2a

2

∫ 1

0dx x

d2−a−1 =

Λd−2a

d− 2afor d > 2a

md−2a

2

∫ Λ2

m2

0dx

xd2−1

(1 + x)a≈md−2a

2

∫ ∞0dx

xd2−1

(1 + x)a=

Γ( d2

)Γ(a− d2

)

2Γ(a)md−2a for d < 2a

d < 2aでの表式はベータ関数の積分表示 B(p, q) =∫∞0 dx xp−1

(1+x)p+q =Γ(p)Γ(q)Γ(p+q)

(但し,Re p > 0 & Re q > 0)から従います.

*8 正確には上部臨界次元(upper critical dimension)と呼びます.上部臨界次元より上の空間次元では臨界指数は平均場近似のものが厳密な結果を与えます.

因みに下部臨界次元(lower critical dimension)というのもあって,これはその次元以下では有限温度で相転移は起きない,という空間次元です.

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〳〮〳 ぇどのぺぢふひでの判定基準 〵〱

ηは新たな臨界指数で,自由場の理論の場合はη 〽 〰.

• 等温帯磁率χTは秩序変数の連結〲点相関関数を用いて次の様に表される〺

χT 〽 β

∫ddxG(2)

c 〨x〩

但し,連結〲点相関関数G(2)c は次式で定義される〺

G(2)c 〨x〩 〽 〈〨φ〨x〩− 〈φ〨x〩〉〩 〨φ〨〰〩− 〈φ〨〰〩〉〩〉 〽 〈φ〨x〩φ〨〰〩〉 − 〈φ〨x〩〉〈φ〨〰〩〉

• 臨界指数γ, η, νの間には次の関係式が成り立つ〺

γ 〽 ν〨〲− η〩

• 平均場近似が無矛盾である為には,揺らぎ〨期待値からのずれ〩の寄与が期待値からの寄与に比べて無視出来る程小さければ良

い.揺らぎの広がりは相関長程度である事を考慮すると,秩序相で次の条件が成り立てば平均場近似が適用できる〺∣∣∣∣∣∣∣∣∫|x|<ξ

ddx 〈〨φ〨x〩− 〈φ〨x〩〉〩 〨φ〨〰〩− 〈φ〨〰〩〉〩〉∫|x|<ξ

ddx 〈φ〨x〩〉〈φ〨〰〩〉

∣∣∣∣∣∣∣∣ 〱 てはひ T < Tc

この左辺は統計学で言う所の相対標準偏差〨または変動係数〩の〲乗に対応する量で,標準偏差と期待値の比の〲乗に対応する.

上の条件をぇどのぺぢふひでの判定基準〨ぇどのぺぢふひで っひどぴづひどはの〩と呼ぶ.左辺の積分を評価すると,空間次元dが次の条件を満たす

時,平均場近似が無矛盾である事が分かる〺

d > dc 〽〲β γ

ν

このdcを〨上部〩臨界次元と呼ぶ.平均場近似と自由場の理論の結果β, γ, ν 〽 12 , 〱,

12を使うとdc 〽 〴.

前節で鞍点近似を用いて比熱を評価し,揺らぎの効果が臨界指数αにどう影響するかを調べました.そして揺らぎの〲次の近似では,

d > 〴では揺らぎの寄与は臨界指数αに影響しないが,d < 〴では揺らぎの寄与が無視できず臨界指数αが変更を受けることを見ました.

この節では,一般の与えられた系で平均場近似が適用可能かどうかを判定するぇどのぺぢふひでの判定基準〨ぇどのぺぢふひで っひどぴづひどはの〩を紹介し

ます.その為にまず新たな臨界指数νとηを導入しましょう.以下,簡単の為Z2不変な〱成分スカラー場の理論を想定して議論をして行

きます.

3.3.1 臨界指数νとη

相関長と臨界指数ν

式〨〳〮〱〮〱〩で見た様に,自由スカラー場の理論のぇひづづの関数G〨x〩は,|x| 〱/mで次の様に振る舞います〺

G〨x〩 〽〱

〲m

(m

〲π|x|

) d−12

づ−m|x|[〱 O〨 1

m|x| 〩]

てはひ |x| 〱

m〨〳〮〳〮〱〩

一般に臨界点T 〽 Tcから外れた場の理論の〲点相関関数G(2)〨x〩 〽 〈φ〨x〩φ〨〰〩〉は無限遠で指数関数的に減衰して次の様に振る舞います〺*9

G(2)〨x〩 ∼ づ−|x|/ξ てはひ |x| ξ 〨〳〮〳〮〲〩

指数関数の指数部分は無次元でなければならないので,必ず長さの次元を持った量ξが登場します.この長さの次元を持った量ξは〲点

相関関数の典型的な空間的広がりを表す量で,相関長〨っはひひづぬちぴどはの ぬづのでぴと〩と呼びます.相関長はT 〽 Tc近傍で次の冪則に従って発

散します〺*10

ξ ∼ |T − Tc|−ν 〨〳〮〳〮〳〩

*9 一般の相互作用がある場の理論の相関関数を G(n)(x1, · · · ,xn) = 〈φ(x1) · · ·φ(xn)〉 と書く事にして,自由場の理論のGreen関数をG(x)と書く事にします.*10 正確には空間次元が下部臨界次元よりも上の場合,冪則に従って発散します.(脚注*8で触れた様に,下部臨界次元とはその次元より下では有限温度で相転移が

起きないという次元です.) 但し,物理的に最も興味あるd = 3は下部臨界次元よりも上なので,この点はあまり気にしない事にします.

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〵〲 第〳章 ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論

特に臨界点T 〽 Tc直上ではξ 〽 ∞になります.この冪の指数νは臨界現象を特徴付ける新たな臨界指数です.自由場の理論の場合,式〨〳〮〳〮〱〩から相関長はξ 〽 〱/mと読み取れます.また,式〨〳〮〲〮〱〹〩に示した様にぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論ではm ∼ |T − Tc|1/2なので,自由場の理論での臨界指数νは

ν 〽〱

〲〨自由場の理論〩 〨〳〮〳〮〴〩

となります.

2点相関関数と臨界指数η

式〨〳〮〱〮〱〩で見た様に,自由スカラー場の理論のぇひづづの関数G〨x〩は,|x| 〱/mで次の様に振る舞います〺

G〨x〩 〽 〨d−2

2 〩

〨〴π〩d2

|x|d−2せ〱 O〨m|x|〩そ てはひ |x| 〱

m〨〳〮〳〮〵〩

一般に,|x|が相関長ξと比べてずっと小さい時,〲点相関関数は次の冪関数の様に振る舞います〺

G(2)〨x〩 ∼ 〱

|x|d−2+ηてはひ |x| ξ 〨〳〮〳〮〩

特に臨界点T 〽 Tc直上ではξ 〽 ∞なので全ての長さのスケールで〲点相関関数はこの冪関数の様に振る舞います.この冪の指数ηも臨

界現象を特徴付ける新たな臨界指数です.自由場の理論の場合,式〨〳〮〳〮〵〩から臨界指数ηは次の様に読み取れます〺

η 〽 〰 〨自由場の理論〩 〨〳〮〳〮〩

因みに場の理論の文脈では,臨界指数η〨の〱/〲倍〩は秩序変数の異常次元〨ちのはねちぬはふび つどねづのびどはの〩と呼ばれ,通常γと記します.

η 〽 〲γです.

3.3.2 応答関数と連結2点相関関数

以上,新しく臨界指数ηとνを導入しましたが,これらは今まで扱って来た臨界指数α, β, γ, δと独立ではありません.これを見ておきましょう.

まず今までも何度も登場して来ましたが,応答関数は相関関数で書けます.例えばぉびどので模型の場合,等温帯磁率χTは次の様に表せ

ました〺

χT 〽β

N

∑i

∑j

〈〨Si − 〈Si〉〩〨Sj − 〈Sj〉〩〉

〽β

N

∑i

∑j

〨〈SiSj〉 − 〈Si〉〈Sj〉〩 〨〳〮〳〮〸〩

これの場の理論の対応物を考えましょう.場の理論では格子数Nは体積Vに置き換わり,和∑iは積分

∫ddxに置き換わり,スピン変

数Siは場φ〨x〩に置き換わります.結局,応答関数は次の相関関数の積分で与えられます〺*11

χT 〽β

V

∫ddx

∫ddyG(2)

c 〨x− y〩 〨〳〮〳〮〹〩

但し,G(2)c は連結〲点相関関数〨っはののづっぴづつ ぴぷはばはどのぴ っはひひづぬちぴどはの てふのっぴどはの〩と呼ばれる量で,次式で定義されます〺

G(2)c 〨x− y〩 〽 〈〨φ〨x〩− 〈φ〨x〩〉〩 〨φ〨y〩− 〈φ〨y〩〉〩〉

〽 〈φ〨x〩φ〨y〩〉 − 〈φ〨x〩〉〈φ〨y〩〉 〨〳〮〳〮〱〰〩

この右辺の表式からは明らかではありませんが,並進対称性がある系ではG(2)c は差x− yにしか依りません.よって,x′ 〽 x yと変

数変換すると,式〨〳〮〳〮〹〩のy積分は単に系の体積∫ddy 〽 Vを与えるだけになって,結局次の様になります〺

χT 〽β

V

∫ddx′

(∫ddy

)G(2)

c 〨x′〩

*11 今は無限体積の系を考えているので,実際にはV = ∞です.V = ∞なら(3.3.9)はゼロになるんじゃないのかと思うかもしれませんが,うまいことVがキャン

セルして式(3.3.9)は有限量になります.いい加減な式変形だと思うかもしれませんが(実際,いい加減なのですが),物理では頻繁にこういう議論をするので,こ

ういう雑な議論にも慣れておきましょう.ちゃんとやるには有限体積の系から出発して熱力学極限及び連続極限を取るべきです.有限体積でも周期的境界条件が

課されている場合は並進対称性があります.

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〳〮〳 ぇどのぺぢふひでの判定基準 〵〳

〽 β

∫ddxG(2)

c 〨x〩 〨〳〮〳〮〱〱〩

但し,最後の等号でx′をxと書き直しました.これで応答関数が連結〲点相関関数の空間積分で与えられることが分かりました.但し,

応用上は連結〲点相関関数の運動量表示を用いた表式の方が便利です.G(2)c 〨x〩のうはふひどづひ積分表示

G(2)c 〨x〩 〽

∫ddp

〨〲π〩dまG(2)

c 〨p〩づip·x 〨〳〮〳〮〱〲〩

を式〨〳〮〳〮〱〱〩に代入すると次式を得ます〺

χT 〽 β

∫ddx

∫ddp

〨〲π〩dまG(2)

c 〨p〩づip·x

〽 β

∫ddp

〨〲π〩dまG(2)

c 〨p〩〨〲π〩dδd〨p〩

〽 β まG(2)c 〨〰〩 〨〳〮〳〮〱〳〩

但し,〲番目の等号でx積分を先に実行してデルタ関数を出して,〳番目の等号でp積分を実行しました.結局,応答関数は運動量

表示連結〲点相関関数 まG(2)c 〨p〩のp 〽 〰での値で与えられる事が分かりました.ここで例を挙げておきましょう.前節〳〮〲〮〱で議論し

たぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論のϕnを考えます.この連結〲点相関関数は普通の自由場の理論の〲点相関関数と同じで次の様になります〺

まG(2)c 〨p〩 〽

p2 M2‖〽

p2 m2てはひ m2 > 〰

p2 − 〲m2てはひ m2 < 〰

〨〳〮〳〮〱〴〩

式〨〳〮〲〮〱〹〩で示した様にぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論ではm2 〽 m20〨T − Tc〩/Tcである事に注意すると,応答関数は次の様になります〺

χT 〽 β まG(2)c 〨〰〩 〽

β

M2‖〽

β

m2〽

m20〨T − Tc〩

O〨T − Tc〩0 てはひ T > Tc

β

−〲m2〽

〲m20〨Tc − T 〩

O〨T − Tc〩0 てはひ T < Tc

〨〳〮〳〮〱〵〩

但し,T 〽 Tc近傍では逆温度βは β 〽 1T 〽 1

Tc1

1+(T−Tc)/Tc 〽 1Tc

O〨T − Tc〩 と振る舞うことを使いました.式〨〳〮〳〮〱〵〩は平均場理

論及びがちのつちふ理論の結果〨〲〮〲〮〳〳〩と〨〳〮〲〮〱〱〩に〨全体に掛かる定数倍を除いて〩完全に一致している事に注意しましょう.

さて,連結〲点相関関数は〈φ〨x〩〉 〽 〰のZ2対称性が破れていない相では普通の〲点相関関数と全く同じです.また,〈φ〨x〩〉 6〽 〰のZ2対

称性が破れた相でも新たにϕ〨x〩 〽 φ〨x〩− 〈φ〨x〩〉と定義すれば,φの連結〲点相関関数はϕの〲点相関関数と同じになります.ですので,

前節で議論した〲点相関関数の|x| ξと|x| ξでの振る舞いはそのまま連結〲点相関関数にも適用されます.これを使って応答関数

の温度依存性を見積もってみましょう.連結〲点相関関数G(2)c 〨x〩は|x|が相関長ξよりも長い領域では指数関数的に減少するので,積

分〨〳〮〳〮〱〱〩に主に寄与するのは|x| < ξの領域の寄与です.|x| ξの領域ではG(2)c 〨x〩は冪関数の様に振る舞うので,応答関数は次の様

に見積もる事ができます〺*12

χT ∼ β∫|x|<ξ

ddxG(2)c 〨x〩

∼∫|x|<ξ

ddx |x|−(d−2+η)

〽 ξ2−η∫|u|<1

ddu |u|−(d−2+η)

∼ ξ2−η

∼ |T − Tc|−ν(2−η) 〨〳〮〳〮〱〩

ところで,応答関数の臨界点近傍での温度依存性はχT ∼ |T − Tc|−γだったので,これより臨界指数の間に次の関係式が成り立つことが分かります〺

γ 〽 ν〨〲− η〩 〨〳〮〳〮〱〩

これは第〲〮〳節で議論したスケーリング関係式の一種です.式〨〳〮〳〮〱〩を特にうどびとづひの等式と呼んだりします.

*12 式(3.3.16)1行目の最右辺の積分はη ≥ 2で無限大に発散してしまいますが,表1.1に示した様に実際にはηはとても小さい値なので気にしなくて良いです.

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〵〴 第〳章 ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論

3.3.3 平均場近似の適用限界とGinzburgの判定基準

以上,臨界指数νとηを導入しましたが,これを用いて平均場近似が適用可能かどうかを判定する条件式を紹介して終わりにしまし

ょう.

前節〳〮〲〮〱で見たように,秩序変数φ〨x〩の期待値〈φ〨x〩〉からのずれ〨揺らぎ〩の寄与が無視出来なくなる時,平均場近似が破綻します.

従って,平均場近似が適用出来る為には揺らぎφ〨x〩− 〈φ〨x〩〉の寄与が期待値〈φ〨x〩〉の寄与に比べて十分小さければ良いです.秩序変数はT < Tcで期待値を持つ事,及び揺らぎの空間的広がりは相関長ξ程度である事を考慮すると,次の条件が成り立っていれば平均場

近似が無矛盾であると言えます〺 ∣∣∣∣∣∣∣∣∫|x|<ξ

ddx 〈〨φ〨x〩− 〈φ〨x〩〉〩 〨φ〨〰〩− 〈φ〨〰〩〉〩〉∫|x|<ξ

ddx 〈φ〨x〩〉〈φ〨〰〩〉

∣∣∣∣∣∣∣∣ 〱 てはひ T < Tc 〨〳〮〳〮〱〸〩

この条件をぇどのぺぢふひでの判定基準〨ぇどのぺぢふひで っひどぴづひどはの〩と呼びます.この式の左辺は統計学で言う所の相対標準偏差〨ひづぬちぴどぶづ

びぴちのつちひつ つづぶどちぴどはの〩の〲乗に対応します.以下,この条件式をがちのつちひふ理論〨平均場理論〩の結果を使った場合と臨界指数νを使った

場合の〲通りで評価して見ましょう.

Landau理論の結果を使った場合

まずがちのつちふ理論の結果が自己矛盾を示さないかどうか,条件式〨〳〮〳〮〱〸〩を吟味してみましょう.以下,第〳〮〲〮〱節で扱ったφn 〽

〈φn〉 ϕnを考えます.まず式〨〳〮〳〮〱〸〩の左辺の分子は次の様に評価できます〺

〨分子〩 〽

∫|x|<ξ

ddx 〈〨φn〨x〩− 〈φn〨x〩〉〩 〨φn〨〰〩− 〈φn〨〰〩〉〩〉

∫|x|<ξ

ddxG(2)c 〨x〩

∼ 〱

βχT

〽 ξ2 〨〳〮〳〮〱〹〩

但し,途中で式〨〳〮〳〮〱〵〩を使いました.また,ξ 〽 1M‖

〽 1√−2m2

です.次に式〨〳〮〳〮〱〸〩の左辺の分母を評価しましょう.まず

式〨〳〮〲〮〲〴〩で示した様に,がちのつちふ理論では秩序変数の期待値は |〈φn〨x〩〉|2 〽 −6m2

λ 〽 3λξ2 となります.ここで,式〨〳〮〲〮〳〳〩から

従うT 〽 Tcでの比熱のギャップ、cmean 〽3m4

0

λ 〽 3λξ4

0を用いると結合定数λが消せて|〈φn〨x〩〉|2 〽

ξ40∆cmean

ξ2 と書けます.但し,

ξ0 〽 1√2m0はT 〽 〰での相関長です.これを使うと左辺の分母は次の様に評価できます〺

〨分母〩 〽

∫|x|<ξ

ddx 〈φ〨x〩〉〈φ〨〰〩〉

∼ ξd ξ40、cmean

ξ2

〽 ξd−2ξ40、cmean 〨〳〮〳〮〲〰〩

式〨〳〮〳〮〱〹〩と〨〳〮〳〮〲〰〩の比を取って整理すると,条件式〨〳〮〳〮〱〸〩は次の様に書く事が出来ます〺

ξ2

ξd−2ξ40、cmean

〱 ⇔(ξ

ξ0

)4−d

ξd0、cmean 〨〳〮〳〮〲〱〩

これはξ/ξ0 〽 |T−TcTc|−1/2を使うと次の様な温度Tに対する条件となります〺

∣∣∣∣T − TcTc

∣∣∣∣ 4−d2

ξd0、cmean〨〳〮〳〮〲〲〩

式〨〲〮〱〮〲〹〩の理想気体の場合で見た様に,比熱はおおよそ粒子数密度に比例するので,右辺のξd0、cmeanは大体一辺の長さξ0の立方

体の中に入っている粒子数を表します.よって, 1ξd0∆cmean

は常に〱より小さいです.一方,温度Tが〰 < T < 〲Tcの範囲にある時

は|T−TcTc| < 〱なので,d > 〴なら臨界点T 〽 Tc近傍では|T−TcTc

|(4−d)/2 > 〱となって条件式〨〳〮〳〮〲〲〩は必ず満たされる事が分かります.

一方,d < 〴の時は一般に条件〨〳〮〳〮〲〲〩が満たされず平均場近似が破綻してしまいます.但し,d < 〴なら常に平均場近似が駄目なのか

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〳〮〳 ぇどのぺぢふひでの判定基準 〵〵

と言うとそうでは無くて,実はξ0の値によっては条件〨〳〮〳〮〲〲〩を破る温度の範囲が非常に狭く,d < 〴でも平均場近似が良い近似を与え

る事があります.その典型例が普通の超伝導相転移です.強磁性体の強磁性相転移や4えづの超流動相転移ではξ0は大体〱〗ぁ程度なのです

が,普通の超伝導相転移ではξ0が大体〱〰3〗ぁ程度で,T 〽 Tcの極めて近傍以外ではd 〽 〳でも条件式〨〳〮〳〮〲〱〩を満たす事が知られていま

す.条件式〨〳〮〳〮〲〲〩を破るT 〽 Tcのごく近傍は通常の実験精度では到達できない領域で,実際,普通の超伝導相転移の臨界指数は平均

場近似の値と非常に近い値が観測されているそうです.〨但し,高温超伝導の場合は違います.〩

臨界指数νを使った場合

次に,がちのつちふ理論の結果を用いずに臨界指数の議論だけで条件式〨〳〮〳〮〱〸〩を吟味してみましょう.まず〨〳〮〳〮〱〸〩左辺の分子は次の様

に評価できます〺

〨分子〩 〽

∫|x|<ξ

ddx 〈〨φ〨x〩− 〈φ〨x〩〉〩 〨φ〨〰〩− 〈φ〨〰〩〉〩〉

∫|x|<ξ

ddxG(2)c 〨x〩

∼ χT∼ |τ |−γ 〨〳〮〳〮〲〳〩

但し,τ 〽 〨T − Tc〩/Tcです.一方,左辺の分母は次の様に評価できます〺

〨分母〩 〽

∫|x|<ξ

ddx 〈φ〨x〩〉〈φ〨〰〩〉

∼∫|x|<ξ

ddx |τ |2β

∼ ξd|τ |2β

∼ |τ |−dν+2β 〨〳〮〳〮〲〴〩

これらの比を取ると,条件式〨〳〮〳〮〱〸〩は次の様になります〺

|τ |−γ+dν−2β 〱 〨〳〮〳〮〲〵〩

臨界点近傍では|τ | < 〱なので,この式〨〳〮〳〮〲〵〩が成り立つ為には次の条件が成り立っていなければなりません〺

−γ dν − 〲β > 〰 〨〳〮〳〮〲〩

これは空間次元dに対して次の条件を与えます〺

d > dc 〺〽〲β γ

ν〨〳〮〳〮〲〩

このdcを〨上部〩臨界次元と呼びます.以上でd > dcなら平均場近似が適用出来る事が分かりました.平均場近似の結果β, γ, ν 〽

12 , 〱,

12を使うとdc 〽 〴となって,上のがちのつちふ理論を使った結果と一致します.

参考文献

ぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論について解説した教科書は沢山あります.私が参考にしたのは次の教科書です〺

せ〱そ ぎ〮 ぇはぬつづのてづぬつ Lectures on Phase Transitions and the Renormalization Group 〨しづびぴぶどづぷ ぐひづびび 〱〹〹〲〩

せ〲そ き〮 かちひつちひ Statistical Physics of Fields 〨ぃちねぢひどつでづ さのどぶづひびどぴべ ぐひづびび 〲〰〰〩

せ〳そ ぐ〮 ぃはぬづねちの Introduction to Many-Body Physics 〨ぃちねぢひどつでづ さのどぶづひびどぴべ ぐひづびび 〲〰〱〵〩

せ〱その第〵章及び第章,せ〲その第〲章及び第〳章,せ〳その第〱〱章がぇどのぺぢふひでがちのつちふ理論の解説になっています.特にぃはぬづねちのの教科書の

第〱〱章にとても詳しい解説が載っています.ぃはぬづねちのの教科書は特に相転移・臨界現象の教科書ではありませんが,この講義ではち

ゃんと扱わなかった超流動相転移や超伝導相転移についても詳しく論じており,この辺の物理に興味がある人は読んでみると良いでし

ょう.

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第4章

Wilsonの繰り込み群

臨界点近傍で成り立つスケーリング則,そして臨界現象の普遍性は繰り込み群変換の固定点でほぼ完全に決定されます.この章で

は〱〹〱年にかづののづぴと ぇ〮 しどぬびはのによって創始された繰り込み群の基礎について学びます.

4.1 繰り込み群変換

この節のまとめ

• 繰り込み群変換〨ひづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば ぴひちのびてはひねちぴどはの〩は分配関数を不変に保つ〱径数族の変換群.繰り込み群変換が

作用する対象は,運動項が規格化されたカットオフ〃の場の理論の作用汎関数全体から成る汎関数の集合.この集合を理論空

間〨ぴとづはひべ びばちっづ〩と呼び,Sと記す.

• 繰り込み群変換Rtは正数tをパラメータとする連続変換で,或る作用汎関数S ∈ Sを別の作用汎関数St ∈ Sに写す〺

Rt 〺 S → S

∈ ∈

S 7→ Rt〨S〩 〽 St

但し,Rtは群の掛け算則RtRt′ 〽 Rt+t′を満たす様に構成される.特に微小変換は次の微分方程式になる〺

dStdt

〽 G〨St〩 ぷどぴと St=0 〽 S

ここで,Gは極限G〨St〩 〽 ぬどねδt→0Rδt(St)−St

δt で定義される繰り込み群変換の無限小生成子で,一般には極めて非線型な変

換.上の〱階非線型常微分方程式を繰り込み群のフロー方程式〨ひづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば 」はぷ づぱふちぴどはの〩と呼ぶ.フロー

方程式に従う理論Stは,t 〽 〰での初期値をSとして理論空間の中で或る〱次元の軌道を描く.この軌道を繰り込み群のフロ

ー〨ひづのはひねちぬどぺちでどはの でひはふば 」はぷ〩と呼ぶ.

• 繰り込み群変換Rt 〺 S 3 S 7→ St ∈ Sが分配関数を不変に保つ事の帰結として,理論SとStの運動量表示相関関数〈 · 〉Sと〈 · 〉Stの間には一般に次の等式が成り立つ〺

〈まφ〨づ−tp1〩 · · · まφ〨づ−tpn〩〉S 〽 づへば

(n

∫ t

0

dτ 〨d−、〨Sτ 〩〩

)〈まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩〉St , ∀|pi| ∈ 〨〰,〃〩

ここで,、〨Sτ 〩は理論Sτ 〽 Rτ 〨S〩〨τ ∈ 〨〰, t〩〩で決まる或る定数である.この等式を運動量表示相関関数に対する繰り込み群

方程式〨ひづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば づぱふちぴどはの〩と呼ぶ.

• 上の繰り込み群方程式は,理論Sの低運動量スケールづ−t|pi| ∈ 〨〰, づ−t〃〩の相関関数は,理論Stの運動量スケール|pi| ∈〨〰,〃〩の相関関数と定数倍を除いて一致する,という事を意味する.この意味で,繰り込み群変換した理論Rt〨S〩 〽 Stは理

論Sの低エネルギー有効理論〨ぬはぷ づのづひでべ づ》づっぴどぶづ ぴとづはひべ〩である.

今まで見て来たように,流体や強磁性体といった微視的には全く異なる系でも,〲次相転移の臨界点近傍では種々の応答関数が同じ

冪則に従って振る舞い,臨界指数α, β, γ, δ, η, νが全て一致する場合があります.この様に,臨界指数が全て一致する事を臨界現象の普遍性〨ふのどぶづひびちぬどぴべ〩と呼び,臨界指数が全て等しい理論の集合を普遍類〨ふのどぶづひびちぬどぴべ っぬちびび〩と呼びます.普遍類は空間次元dや系

の対称性,秩序変数の成分数,相互作用の種類などで決まって,代表的なものとしては次の〳つがあります〨表〴〮〱参照〩〺

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〵〸 第〴章 しどぬびはのの繰り込み群

臨界

指数

平均場

近似

〳次元ぉびどので普遍類 〳次元じす普遍類 〳次元えづどびづのぢづひで普遍類

気液相転移 秩序・無秩序相転移 超流動相転移 強磁性相転移

じづ 〲成分混合液体 β真鍮 4えづ うづ ぎど

α 〰 < 〰.〲 〰.〱〱〳± 〰.〰〰〵 〰.〰〵± 〰.〰 −〰.〰〱〴± 〰.〰〱 −〰.〰〳± 〰.〱〲 〰.〰〴± 〰.〱〲

β 12 〰.〳〵± 〰.〰〱〵 〰.〳〲〲± 〰.〰〰〲 〰.〳〰〵± 〰.〰〰〵 〰.〳〴± 〰.〰〱 〰.〳± 〰.〰〱 〰.〳〵〸± 〰.〰〰〳

γ 〱 〱.〳+0.1−0.2 〱.〲〳〹± 〰.〰〰〲 〱.〲〵± 〰.〰〲 〱.〳〳± 〰.〰〳 〱.〳〳± 〰.〰〱〵 〱.〳〳± 〰.〰〲

δ 〳 〴.〳+0.6−0.3 〴.〸〵± 〰.〰〳 ほ 〳.〹〵± 〰.〱〵 〴.〳± 〰.〱 〴.〲〹± 〰.〰〵

η 〰 〰.〱± 〰.〱 〰.〰〱± 〰.〰〱〵 〰.〰〸± 〰.〰 〰.〰〲〱± 〰.〰〵 〰.〰± 〰.〰〴 〰.〰〴〱± 〰.〰〱

ν 12 ≈ 〰.〵 〰.〲〵± 〰.〰〰 〰.〵± 〰.〰〲 〰.〲± 〰.〰〰〱 〰.〹± 〰.〰〲 〰.〴± 〰.〱

表4.1: 普遍類と臨界指数.J. J. Binney et al., The Theory of Critical Phenomena (Oxford University Press, 1992)の22ページTable 1.2から

殆どそのまま引用しました.2成分混合液体(binary liquid mixture)やβ真鍮(β-brass)が何なのかは自分で調べましょう.

• d次元ぉびどので普遍類〨dつどねづのびどはのちぬ ぉびどので ふのどぶづひびちぬどぴべ っぬちびび〩

d次元ぉびどので模型 ぼ Z2不変な最近接相互作用の模型 ぼ と臨界指数が一致する理論の集合

• d次元じす普遍類〨dつどねづのびどはのちぬ じす ふのどぶづひびちぬどぴべ っぬちびび〩

d次元じす模型 ぼ O〨〲〩〨またはU〨〱〩〩不変な最近接相互作用の模型 ぼ と臨界指数が一致する理論の集合

• d次元えづどびづのぢづひで普遍類〨dつどねづのびどはのちぬ えづどびづのぢづひで ふのどぶづひびちぬどぴべ っぬちびび〩

d次元えづどびづのぢづひで模型 ぼ O〨〳〩〨またはSU〨〲〩〩不変な最近接相互作用の模型 ぼ と臨界指数が一致する理論の集合

ぉびどので模型,じす模型,えづどびづのぢづひで模型は全て格子模型ですが,これらと対称性が等しい局所相互作用の場の理論の模型としては,例え

ば前章第〳〮〲〮〱節で調べたO〨n〩線型σ模型のn 〽 〱, 〲, 〳がそれぞれ対応します.

ところで第〲〮〳節で見た様に,臨界点T 〽 Tc近傍で単位体積当たりの自由エネルギーが同じスケーリング則に従っていれば,臨界指

数は全て一致する事が言えます.従って,普遍類とは臨界点近傍で同じスケーリング則に従う理論の集合と換言出来ます.第〲〮〳節で

はスケーリング則は完全に仮説として導入しましたが,しどぬびはのの繰り込み群を用いると,繰り込み群変換の固定点を共有する理論は

全て同じスケーリング則に従う事が導き出せます.即ち,繰り込み群変換の固定点を共有する理論が普遍類を成すのです.以下,まず

繰り込み群変換とは一体何なのかを見ていきましょう.

4.1.1 繰り込み群変換の抽象的構造

まず繰り込み群〨ひづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば〩の抽象的な構造の話から始めましょう.以下述べる事は抽象的過ぎて実用上は殆ど無力

ですが,繰り込み群の全体像を把握する為には是非とも知っておくべき事柄です.

まず繰り込み群はその名の通り群〨でひはふば〩で*1,繰り込み群変換〨ひづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば ぴひちのびてはひねちぴどはの〩と呼ばれる〱つの実

パラメータtで記述される連続変換から成ります.この変換が作用する対象は,

〨ど〩 カットオフ〃の場の作用汎関数Sで

〨どど〩 運動項が正しく規格化されているもの

の全体からなる汎関数の集合です.この様な作用汎関数の集合を理論空間〨ぴとづはひべ びばちっづ〩と呼びます*2.以下,この理論空間をSと記しましょう〺

S 〽作用汎関数S 〺 カットオフ〃の場の汎関数 〦 運動項は規格化されている

〨〴〮〱〮〱〩

繰り込み群変換Rt 〺 S → Sとはこの理論空間上に作用する〱径数族〨はのづばちひちねづぴづひ てちねどぬべ〩の連続変換で,或る作用汎関数S ∈ Sを別

*1 この段階では分かりませんが,次の節で具体的に構成する繰り込み群変換Rtは逆元R−1t に対応する操作が定義出来ない(少なくともどう定義すれば良いか分か

らない)ので,正確に言うと代数的には群では無く半群(semigroup)です.(逆元の存在と単位元の存在を必ずしも仮定しないのが半群です.但し,繰り込み群

には単位元Rt=0 = 1はあります.) しかしながら,ひとたび繰り込み群のフローが得られればそれを逆に辿る事はいつでも出来ます.実際,場の理論の連続極

限Λ→∞を構成する時は繰り込み群のフローを逆に辿ります.繰り込み群のフローを逆に辿って行った時,或る極限値(固定点)S∗に収束するか否か,という事

が問題になるのです.但し,場の理論の連続極限(連続空間上の場の理論の構成法)はとても難しい話題なのでこの講義では扱いません.興味のある人は章末に参

考文献を挙げるのでそれで自習しましょう.

*2 理論空間と簡単に言っていますが,この空間は超巨大な得体の知れない無限次元空間です.本当の所,私にはこれが何なのか分かりません.

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〴〮〱 繰り込み群変換 〵〹

の作用汎関数St ∈ Sに写します.これを次の様に書きましょう〺

Rt 〺 S 7→ Rt〨S〩 〽 St 〨〴〮〱〮〲〩

但し,Rt=0 〽 〱は恒等変換とします.この様に繰り込み群変換は或る理論Sを別の理論Stへ変換する訳ですが,この変換は何でも良い

訳では無く,分配関数Zは不変に保つ様にします.理論Sの分配関数をZせSそと記す事にすると,任意のtに対して次が成り立つ様に構成

して行きます〺

ZせSそ 〽 ZせStそ てはひ ちのべ t 〨〴〮〱〮〳〩

また,繰り込み群変換の積Rt1Rt2を合成変換〨Rt1Rt2〩〨S〩 〺〽 Rt1〨Rt2〨S〩〩で定めた時,次の群の掛け算則が成り立つ様に構成します〺

RtRt′ 〽 Rt+t′ 〨〴〮〱〮〴〩

この様な分配関数を不変に保つ変換を用いて,興味ある理論Sの臨界現象を,分配関数は等しい別の理論Stを使って解析しよう〨若し

くは関係付けよう〩,というのが繰り込み群の基本的な戦略です.そこで実際問題うえで述べた性質を満たす連続変換Rtをどうやって

構成するのか,という事が問題になるのですが,これは次の節で取扱います.

さて,繰り込み群の代数的な構造は上で述べた通りなのですが,これだけでは殆ど何の役にも立ちません.応用上重要なのは,

繰り込み群変換Rt〨S〩 〽 Stの微分形です.δtを微小量として,理論Stをδtだけ繰り込み群変換したものRδt〨St〩 〽 〨RδtRt〩〨S〩 〽

Rδt+t〨S〩 〽 Sδt+t 〽 St+δtを考えましょう〺

St+δt 〽 Rδt〨St〩 〨〴〮〱〮〵〩

この両辺からStを引いて,両辺をδtで割り,最後にδt→ 〰の極限を取ると次の〱階微分方程式になります〺

dStdt

〽 G〨St〩 ぷどぴと St=0 〽 S 〨〴〮〱〮〩

但し,dSt/dt,G〨St〩はそれぞれ次の様に定義されます〺

dStdt

〺〽 ぬどねδt→0

St+δt − Stδt

〨〴〮〱〮ち〩

G〨St〩 〺〽 ぬどねδt→0

Rδt〨St〩− Stδt

〨〴〮〱〮ぢ〩

Gを繰り込み群変換の無限小生成子と呼びます.また,〱階微分方程式〨〴〮〱〮〩を繰り込み群方程式〨ひづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば づぱふち

ぴどはの〩とか繰り込み群のフロー方程式〨ひづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば 」はぷ づぱふちぴどはの〩と呼びます.このノートではフロー方程式と呼ぶこ

とにします.フロー方程式〨〴〮〱〮〩に従う理論Stは,tを変化させて行くとt 〽 〰での初期値をSとして理論空間Sの中で或る〱次元の軌道

を描いて行きます.この軌道を繰り込み群のフロー〨ひづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば 」はぷ〩と呼び,これを摂動論的に求めるのが第〵章の主

題になります.

量子力学とのアナロジー

以上,繰り込み群の構造について述べて来ましたが,抽象的過ぎてピンと来ないかもしれません.以下,馴染みのある量子力学の時

間発展演算子U〨t〩 〽 づへば〨− i~H〩と比較して,繰り込み群変換との類似点を挙げておきます.

まず,繰り込み群変換が作用するのはあらゆる作用汎関数からなる理論空間Sでしたが,一方,量子力学の時間発展演算子U〨t〩が作

用するのはあらゆる状態ベクトルからなるえどぬぢづひぴ空間Hです.SとHが対応します.また,理論Sの繰り込み群変換はSt 〽 Rt〨S〩でし

たが,一方,量子力学の状態ベクトル|ψ〉の時間発展は|ψ〨t〩〉 〽 U〨t〩|ψ〉です.作用積分Sが状態ベクトル|ψ〉に対応し,繰り込み群変換Rtが時間発展演算子U〨t〩に対応します.また,繰り込み群変換は分配関数を不変に保ちますが,一方,量子力学の時間発展演算子は

状態ベクトルの内積を保存します.分配関数と内積が対応する訳です.更に,繰り込み群変換の微分形はフロー方程式 ddtSt 〽 G〨St〩で

したが,一方,量子力学の時間発展の微分形はこっとひみはつどのでづひ方程式 ddt |ψ〨t〩〉 〽 −

i~H|ψ〨t〩〉です.繰り込み群変換の無限小生成子Gが時

間発展演算子の無限小生成子〨えちねどぬぴはのどちの〩− i~Hに対応します.これらの対応を表〴〮〲にまとめました.

これで繰り込み群変換と量子力学の時間発展演算子がうまく対応付けられた様に思えますが,実は非常に重要な相違点がありま

す.それは量子力学のU〨t〩とHは線型変換ですが,繰り込み群のRtとGは一般には極めて非線型な変換である,という点です.これは

重要です.しかしながら,繰り込み群変換の固定点が存在すると,その固定点周りではGは線型近似が出来て,この時フロー方程式

はこっとひみはつどのでづひ方程式と同様,線型の固有値方程式の問題に帰着されます.第〴〮〲節で詳しく述べますが,この固有値方程式の固有値と

固有ベクトルを求める事で,臨界点近傍で成り立つスケーリング則及び種々の臨界指数が求まるのです.この固有値・固有ベクトルを

摂動論的に求めるのが第〵章の主題になります.

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〰 第〴章 しどぬびはのの繰り込み群

繰り込み群変換Rt 量子力学の時間発展演算子U〨t〩

変換が作用する空間 理論空間S えどぬぢづひぴ空間H

有限の変換 St 〽 Rt〨S〩 〨S ∈ S〩 |ψ〨t〩〉 〽 U〨t〩|ψ〉 〨|ψ〉 ∈ H〩

変換の下で不変なもの 分配関数 内積

フロー方程式d

dtSt 〽 G〨St〩

d

dt|ψ〨t〩〉 〽 − i

~H|ψ〨t〩〉

無限小生成子 G〨St〩 〽 ぬどねδt→0

Rδt〨St〩− Stδt

− i~H|ψ〨t〩〉 〽 ぬどね

δt→0

U〨δt〩|ψ〨t〩〉 − |ψ〨t〩〉δt

〨非〩線型性 a

Rt〨αS1 βS2〩 6〽 αRt〨S1〩 βRt〨S2〩 U〨t〩〨α|ψ1〉 β|ψ2〉〩 〽 αU〨t〩|ψ1〉 βU〨t〩|ψ2〉

G〨αS1 βS2〩 6〽 αG〨S1〩 βG〨S2〩 H〨α|ψ1〉 β|ψ2〉〩 〽 αH|ψ1〉 βH|ψ2〉

〨∀S1, S2 ∈ S, ∀α, β ∈ C〩 〨∀|ψ1〉, |ψ2〉 ∈ H, ∀α, β ∈ C〩a 任意のS1, S2 ∈ Sに対して線型結合αS1 + βS2を取ると一般に規格化がずれるので,理論空間はそもそも和やスカラー倍の下で閉じていません.ここでは運動項

の規格化は一旦忘れて,適当な汎関数に対する線型結合だと理解しておきます.

表4.2: 繰り込み群変換Rtと量子力学の時間発展U(t)の類似点と非類似点.どちらも1径数族の変換群を成しますが,U(t)及びその生成子Hは線型

変換であるのに対して,Rt及びその生成子Gは一般には極めて非線型な変換である点が大きく異なります.しかしながら,繰り込み群変換の固定

点S∗が存在する場合,固定点周りではGは線型近似が可能です.この時,フロー方程式は線型の固有値問題に帰着されます.

4.1.2 繰り込み群変換の具体的構成

前節では繰り込み群変換Rtが存在したと仮定して,その代数的構造やフロー方程式について述べました.この節では実際にどうや

って繰り込み群変換を構成するのか,その具体的構成法について説明します.

まず,繰り込み群変換は運動量空間で定義するのが最も簡単です.簡単の為,以下では〱成分スカラー場φ〨x〩を考えます.まずカッ

トオフ〃を持つ場φ〨x〩のうはふひどづひ積分表示は次の様になります〺*3

φ〨x〩 〽

∫|p|<Λ

ddp

〨〲π〩dまφ〨p〩づip·x 〨〴〮〱〮〸〩

この表式は運動量pの関数まφ〨p〩が与えられた時,φ〨x〩がこの積分で定義されると読むべきです.

さて,繰り込み群変換ではあらゆる作用汎関数から成る理論空間Sを考える訳ですが,この空間の要素S ∈ Sは一般にどの様に書けるかをまず考えましょう.前章で調べたO〨n〩線型σ模型のn 〽 〱の場合〨つまりφ4模型の場合〩,座標表示での作用汎関数は

Sせφそ 〽

∫ddx

[〱

〲〨∇φ〨x〩〩

2m2

〲φ2〨x〩

λ

〴〡φ4〨x〩

]〨〴〮〱〮〹〩

ですが,これに式〨〴〮〱〮〸〩を代入すると次の運動量空間での表示を得ます〺

Sせ まφそ 〽〱

〲〡

∫|p|<Λ

ddp

〨〲π〩d(p2 m2

)まφ〨p〩まφ〨−p〩

λ

〴〡

∫|p1|<Λ

ddp1

〨〲π〩d· · ·∫|p4|<Λ

ddp4

〨〲π〩dまφ〨p1〩 · · · まφ〨p4〩〨〲π〩

dδd〨p1 · · · p4〩 〨〴〮〱〮〱〰〩

一般の作用汎関数はこれをまφの冪級数に拡張したもので,例えばZ2変換まφ 7→ −まφの下で不変な理論の場合は次の偶数冪だけの級数にな

*3 Λの逆数がだいたい格子間隔に対応します.実際,格子間隔a > 0のd次元立方格子上でのFourier変換は,周期的境界条件の下で

φ(x) =

d∏j=1

∫ πa

−πa

dpj

φ(p)eip·x 但し x = an (n ∈ Zd)

となります.この積分の積分領域は1辺の長さがπ/aのd次元立方体ですが,これを半径Λのd次元球に置き換えたのが式(4.1.8)です.立方体を球に置き換えたの

は計算の便宜の為で,それ以上の深い意味はありません.

Page 71: 臨界現象と繰り込み群 - Nihon Universityaries.phys.cst.nihon-u.ac.jp › ~ohya › stat-mech › main.pdfぶ はじめに この講義では〲次相転移の臨界現象を繰り込み群の観点から解説します.主に次の〳つの事柄について学びます〺

〴〮〱 繰り込み群変換 〱

ります〺*4

Sせ まφそ 〽〱

〲〡

∫|p|<Λ

ddp

〨〲π〩dS(2)〨p2〩まφ〨p〩まφ〨−p〩

n=4,6,···

n〡

∫|p1|<Λ

ddp1

〨〲π〩d· · ·∫|pn|<Λ

ddpn〨〲π〩d

S(n)〨p1, · · · ,pn〩まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩〨〲π〩dδd〨p1 · · · pn〩 〨〴〮〱〮〱〱〩

ここでS(2)〨p2〩 S(n)〨p1, · · · ,pn〩は回転対称性などの制限はありますが,それ以外には特に制限の無いかなり一般的な運動量の関数です.但し,一つだけ条件があって,それが次の運動項の規格化条件です〺

規格化条件〺dS(2)〨x〩

dx

∣∣∣∣x=0

〽 〱 〨〴〮〱〮〱〲〩

この条件は式〨〴〮〱〮〱〰〩と同様,関数S(2)〨p2〩をp2 〽 〰周りでごちべぬはひ展開した時のp2の係数が〱であれ,という要請です.

さて,作用汎関数〨〴〮〱〮〱〱〩に対しては分配関数は〨形式的には〩次の汎関数積分で与えられます〺

ZせSそ 〽

∫D まφ づへば

(−Sせ まφそ

)但し

∫D まφ 〺〽

∏|p|∈(0,Λ)

∫ ∞−∞

dまφ〨p〩 〨〴〮〱〮〱〳〩

繰り込み群変換はこの分配関数を不変に保つ変換で,次の〳つの操作から成ります〺

• 高運動量モードの積分〨っはちひびづ でひちどのどので〩

まずまφ〨p〩を次の様に高運動量モードと低運動量モードに分けます〺

まφ〨p〩 〽

まφh〨p〩 てはひ |p| ∈ 〨づ−t〃,〃〩まφl〨p〩 てはひ |p| ∈ 〨〰, づ−t〃〩

〨〴〮〱〮〱〴〩

ここで,t ∈ 〨〰,∞〩は正の実数で,これが繰り込み群変換のパラメータになります.この様に場を〲つに分けると,作用汎関数

はまφhとまφlの汎関数になります.これを単にSせ まφそ 〽 Sせ まφh, まφlそと書きましょう.繰り込み群変換の第〱の操作は,式〨〴〮〱〮〱〳〩の汎関

数積分のうち,高運動量モードまφhの積分を先に実行して新たな作用積分S′tせまφlそを作る,というものです〺

ZせSそ 〽

∫D まφ づ−S[φ] 〽

∫D まφlD まφh づ

−S[φl,φh] 〽

∫D まφl づ

−S′t[φl] 〽 ZせS′tそ 〨〴〮〱〮〱〵〩

ここで,S′tせまφlそはtに依存するまφlだけの汎関数で,次式で定義されます〺

づ−S′t[φl] 〺〽

∫D まφh づ

−S[φl,φh] 〨〴〮〱〮〱〩

但し,式〨〴〮〱〮〱〵〩と〨〴〮〱〮〱〩の∫D まφhと

∫D まφlは次の汎関数積分の略記です〺∫

D まφh 〺〽∏

|p|∈(e−tΛ,Λ)

∫ ∞−∞

dまφh〨p〩 ちのつ

∫D まφl 〺〽

∏|p|∈(0,e−tΛ)

∫ ∞−∞

dまφl〨p〩 〨〴〮〱〮〱〩

構成から明らかですが,理論Sの分配関数ZせSそと理論S′tの分配関数ZせS′tそは必ず一致します.

• スケール変換〨ひづびっちぬどので〩

上の操作で作られた新たな作用汎関数S′tせまφlそはカットオフがづ−t〃の場の汎関数になってしまったので,次の様にpをqに変数変

換することで運動量の上限〨カットオフ〩を〃に戻します〺

p 〽 づ−tq, |q| ∈ 〨〰,〃〩 〨〴〮〱〮〱〸〩

こうすると,|p|の上限はづ−t〃ですが|q|の上限は〃になります.

• 再規格化〨ひづのはひねちぬどぺちぴどはの〩

上の〲つの操作をすると必ず運動項の規格化がずれて式〨〴〮〱〮〱〲〩を満たさなくなります.〨これは具体例をやればすぐに分かりま

す.〩 そこで,場まφ〨q〩を新たに次の様に定義して規格化を元に戻します〺

まφ〨q〩 〺〽 づ−dt√Z〨St〩まφl〨づ

−tq〩, |q| ∈ 〨〰,〃〩 〨〴〮〱〮〱〹〩

*4 式(4.1.11)には場に依存しないφの0次の項S(0)を付け加えても良いです.実際,繰り込み群変換をすると必ず定数項が生じます.但し,定数項はあっても無く

ても相関関数には何の影響も与えないので,慣例に従ってこのノートでは入れない事にします.

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〲 第〴章 しどぬびはのの繰り込み群

ここで√Z〨St〩は定数で,規格化条件〨〴〮〱〮〱〲〩を満たす様にうまく選びます.〨紛らわしいですが,このZは分配関数ではあり

ません.〩因子づ−dtや平方根√· に深い意味は無く,後々便利なのでこの様に書きました.この様にして構成した作用汎関数

Stせ まφそ 〽 S′tせづdtZ−1/2〨St〩まφそ はカットオフが〃の場の汎関数で,且つ運動項が正しく規格化されたものになり,理論空間〨〴〮〱〮〱〩に

属する作用汎関数となります*5.

以上の〳ステップで構成されたStが理論Sを繰り込み群変換したもので,SからStを作る操作が繰り込み群変換Rt 〺 S 7→ Rt〨S〩 〽

Stになります.上の説明だけだと何をやっているのかいまいち分からないかもしれませんが,簡単な具体例をやればすぐに感覚が掴め

ます.また,証明はしませんが,この様に構成したRtは群の掛け算則〨〴〮〱〮〴〩を満たします.

4.1.3 繰り込み群方程式

さて,繰り込み群変換が分配関数を不変に保つことの帰結として,理論SとStの相関関数の間にはある関係式が成り立ちます.これ

を見て行きましょう.まず,元々の理論Sの運動量表示での相関関数は

〈まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩〉S 〺〽〱

ZせSそ

∫D まφ まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩づ−S[φ] 〨〴〮〱〮〲〰〩

で定義されます.この運動量表示相関関数の全ての運動量p1, · · · ,pnの大きさがづ−t〃よりも小さい場合を考えましょう.この時,まφ〨pi〩 〽 まφl〨pi〩 〨i 〽 〱, · · · , n〩なので次の等式が成り立ちます〺

〈まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩〉S 〽〱

ZせSそ

∫D まφ まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩づ−S[φ]

〽〱

ZせSそ

∫D まφlD まφh まφl〨p1〩 · · · まφl〨pn〩づ−S[φl,φh]

〽〱

ZせS′tそ

∫D まφl まφl〨p1〩 · · · まφl〨pn〩

∫D まφh づ

−S[φl,φh]

〽〱

ZせS′tそ

∫D まφl まφl〨p1〩 · · · まφl〨pn〩づ−S

′t[φl]

〽 〈まφl〨p1〩 · · · まφl〨pn〩〉S′t てはひ |pi| ∈ 〨〰, づ−t〃〩 〨〴〮〱〮〲〱〩

但し,〳番目の等号でZせSそ 〽 ZせS′tそを使い,〴番目の等号でS′tの定義〨〴〮〱〮〱〩を使いました.次に相関関数の変数をpi 〽 づ−tqiと置き換

え,最後に再規格化の式〨〴〮〱〮〱〹〩を使うと次の等式になります〺

〈まφ〨づ−tq1〩 · · · まφ〨づ−tqn〩〉S 〽 〈まφl〨づ−tq1〩 · · · まφl〨づ−tqn〩〉S′t〽 づndtZ−

n2 〨St〩〈まφ〨q1〩 · · · まφ〨qn〩〉St 〨〴〮〱〮〲〲〩

これで理論Sの相関関数と繰り込み群変換した理論Stの相関関数が関係付きました.実用上は因子づndtZ−n2 〨St〩を次の様に積分を使っ

て書き直しておく方が便利です〺

づndtZ−n2 〨St〩 〽 づへば

(ndt− n

〲ぬはでZ〨St〩

)〽 づへば

(n

[dt− 〱

〲〨ぬはでZ〨St〩− ぬはでZ〨St=0〩〩

])〽 づへば

(n

∫ t

0

(d− 〱

d ぬはでZ〨Sτ 〩

))〨〴〮〱〮〲〳〩

ここで,〲行目でZ〨St=0〩 〽 〱を使いました.従って,等式〨〴〮〱〮〲〲〩は次の様に書き表されます〺

〈まφ〨づ−tq1〩 · · · まφ〨づ−tqn〩〉S 〽 づへば

(n

∫ t

0

dτ 〨d−、〨Sτ 〩〩

)〈まφ〨q1〩 · · · まφ〨qn〩〉St てはひ |qi| ∈ 〨〰,〃〩 〨〴〮〱〮〲〴〩

*5 正確には,Z[S] = Z[S′t]は成り立ちますがZ[S′t] = Z[St]は成り立ちません.これは式(4.1.19)で規格化を変えているので,汎関数積分の積分要素が定数倍だけ

ずれるからです:

Z[S′t] =

∏|q|∈(0,Λ)

e∫ t0 dτ(d−∆(Sτ ))

∫ ∞−∞

dφ(q)

e−St[φ] 6=

∏|q|∈(0,Λ)

∫ ∞−∞

dφ(q)

e−St[φ] = Z[St]

ここで,因子edtZ−1/2(St)を式(4.1.23)と (4.1.24)を用いてe∫ t0 dτ(d−∆(Sτ ))と書き直しました.しかしながら,この定数倍だけのずれはStの定数項として追

いやる事が出来るので全く問題ではありません.実際,この定数項を含めたものを新たにStと定義し直せばZ[St] = Z[S′t] = Z[S]が成り立ちます.実用上はこ

の定数項は殆ど気にしなくて良く,実際,定数項を入れようが入れまいが相関関数には全く影響を与えません.

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〴〮〲 繰り込み群変換の固定点と繰り込み群のフロー 〳

但し,、〨St〩はφのスケーリング次元〨びっちぬどので つどねづのびどはの〩と呼ばれる量で次式で定義されます〺

、〨St〩 〺〽〱

d ぬはでZ〨St〩

dt〨〴〮〱〮〲〵〩

式〨〴〮〱〮〲〴〩が運動量表示相関関数に対する繰り込み群方程式〨ひづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば づぱふちぴどはの〩です.この繰り込み群方程式の意

味する所は殆ど明らかでしょう.式〨〴〮〱〮〲〴〩は,運動量の大きさををづ−t〨< 〱〩倍だけ一様に下げた理論Sの低エネルギーの相関関数は,

理論Stの相関関数と定数倍を除いて等しい,という事を意味します.この意味で,繰り込み群変換した理論St 〽 Rt〨S〩は理論Sの低エ

ネルギー有効理論〨ぬはぷ づのづひでべ づ》づっぴどぶづ ぴとづはひべ〩である,と言ったりします.

4.2 繰り込み群変換の固定点と繰り込み群のフロー

この節のまとめ

• 繰り込み群変換の下で不変な理論S∗を繰り込み群変換の固定点〨「へづつ ばはどのぴ〩と呼ぶ.その様な理論S∗は次を満たす〺

Rt〨S∗〩 〽 S∗同値⇐⇒ G〨S∗〩 〽 〰

• 繰り込み群のフロー方程式は〱階非線型常微分方程式だが,固定点近傍では線型近似が可能.固定点近傍の理論をS 〽 S∗δS,

この理論を繰り込み群変換した理論をSt 〽 S∗ δStと書くと,δStは次の線型化されたフロー方程式に従う〺

d

dtδSt 〽 L∗〨δSt〩

但し,L∗は固定点S∗に依存した或る線型変換.

• 固定点S∗近傍の繰り込み群のフローは線型変換L∗の固有値と固有ベクトルで完全に決まる.L∗のn番目の固有値をλn,対応する固有ベクトル〨固有汎関数〩をOnとすると,Stのt依存性は線型近似の範囲で次の様に定まる〺

St 〽 S∗ ∑n

gn〨t〩On ぷどぴと gn〨t〩 〽 gn〨〰〩づλnt

但し,gn〨〰〩はt 〽 〰での初期値S 〽 S∗ δSで決まる理論のパラメータ.固定点近傍の理論空間Sはパラメータg1, g2, · · · を局所座標系として記述され,S∗近傍の繰り込み群のフローはgn〨t〩 〽 gn〨〰〩づ

λntで完全に決定される.固有値が全て実数の時,

これはλnの値によって次の〳通りが有り得る〺

ほ λn > 〰の場合

この時gn〨t〩はtが増えるにつれ急激に増加し,Stは固定点S∗から遠ざかって行く.このgn〨t〩をひづぬづぶちのぴパラメータと呼

び,このλnに対応する固有汎関数Onをひづぬづぶちのぴ演算子と呼ぶ.

ほ λn < 〰の場合

この時gn〨t〩はtが増えるにつれ急激に減少し,Stは固定点S∗に収束して行く.このgn〨t〩をどひひづぬづぶちのぴパラメータと呼び,

このλnに対応する固有汎関数Onをどひひづぬづぶちのぴ演算子と呼ぶ.

ほ λn 〽 〰の場合

この時gn〨t〩は線型近似の範囲で初期値gn〨〰〩から変化しない.このgn〨t〩をねちひでどのちぬパラメータと呼び,このλnに対応

する固有汎関数Onをねちひでどのちぬ演算子と呼ぶ.

• 固定点S∗近傍の理論空間Sには〲つの特別な部分空間が存在する.〱つはひづぬづぶちのぴパラメータが全てゼロの部分空間で,これ

を臨界面〨っひどぴどっちぬ びふひてちっづ〩と呼び,Scrと記す.Scr上の理論は全て繰り込み群変換の下で固定点S∗に収束する.もう〱つ

はどひひづぬづぶちのぴパラメータが全てゼロの部分空間で,これをひづのはひねちぬどぺづつ ぴひちなづっぴはひべと呼び,S∞と記す.S∞上の理論は全てt→ −∞の極限が存在し,極限値はS∗.

• 理論Stの相関長ξせStそは一般に繰り込み群変換の下で単調減少し,次を満たす〺

ξせStそ 〽 づ−tξせSそ, ∀t ∈ 〨〰,∞〩

特に固定点S∗ではξせS∗そ 〽 づ−tξせS∗そを満たす.この方程式の解はξせS∗そ 〽 〰またはξせS∗そ 〽 ∞の〲つで,臨界現象を支配するの

はξせS∗そ 〽∞を満たす固定点S∗.この時,臨界面Scr上の理論は全てξ 〽∞の臨界温度T 〽 Tc直上の理論.また,ひづぬづぶちのぴパ

ラメータ〨の〱つ〩が臨界温度からのずれ〨T − Tc〩/Tcに対応するパラメータを与える.

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〴 第〴章 しどぬびはのの繰り込み群

• 上の結果は全て「繰り込み群変換に固定点が存在し,そこではL∗の固有値は全て実数」という仮定に基づく.しかし本当にこれが満たされているかどうかは方程式G〨St〩 〽 〰を解かねば本来は分からない.〱階非線型常微分方程式dSt/dt 〽 G〨Rt〩の

解の観点からは,上に挙げた挙動以外にも様々な繰り込み群のフローが有り得る.その典型例は次の〲つ〺

ほ リミットサイクル〨ぬどねどぴ っべっぬづ〩

tが増加するにつれて或る閉軌道に収束し,最終的に閉軌道をぐるぐる回る繰り込み群のフロー

ほ カオス的フロー〨っとちはぴどっ 」はぷ〩

tが増加するにつれて初期値Sの違いが指数関数的に増大し,実質予測不能な繰り込み群のフロー

前節で繰り込み群変換の一般的構造について述べましたが,臨界現象へ応用する為にはもう一つ準備をしなければなりません.それ

が繰り込み群変換の固定点〨「へづつ ばはどのぴ〩です.今から見て行く様に,〲次相転移の臨界現象は繰り込み群変換の固定点の情報で完全

に決定されます.以下重要なのは固定点周りで線型化された繰り込み群のフロー方程式です.この線形化されたフロー方程式を解析す

る事で臨界現象のほぼ全てが分かるのです.

4.2.1 フロー方程式の線型化

まず固定点の定義から始めましょう.繰り込み群変換の固定点とは任意の繰り込み群変換の下で不変な理論の事で,任意のtに対し

て次が成り立つ理論S∗として定義されます〺

Rt〨S∗〩 〽 S∗ てはひ ちのべ t 〨〴〮〲〮〱〩

そしてこれは次の条件と等価です〺

G〨S∗〩 〽 〰 〨〴〮〲〮〲〩

実際,式〨〴〮〱〮ぢ〩よりG〨S∗〩の定義はG〨S∗〩 〽 ぬどねδt→0Rδt(S∗)−S∗

δt ですが,定義〨〴〮〲〮〱〩より任意のδtに対してRδt〨S∗〩 − S∗ 〽 〰なので

この極限はゼロになります.

次にこの固定点から僅かにずれた理論Sを考えましょう〺

S 〽 S∗ δS 〨〴〮〲〮〳〩

ここでδSは〨何らかの意味で〩微小な汎関数で,運動項は含まないとします.今から調べたいのはこの固定点近傍の理論Sが繰り込み群

変換Rtの下でどの様に変換されて行くか,という事です.少なくともtが微小量なら繰り込み群変換した理論Rt〨S〩も固定点S∗近傍に

留まる筈です.そこでRt〨S〩 〽 Stを次の様に書きましょう〺

St 〽 S∗ δSt 〨〴〮〲〮〴〩

ここで,δStはtに依存する汎関数で,これも〨何らかの意味で〩微小だとします.知りたいのはこのδStのt依存性で,これを調べるには

繰り込み群のフロー方程式〨〴〮〱〮〩を使います.まず,フロー方程式 ddtSt 〽 G〨St〩の左辺は次の様になります〺

〨左辺〩 〽d

dtSt

〽d

dt〨S∗ δSt〩

〽d

dtδSt 〨〴〮〲〮〵〩

但し,最後の等号でS∗はtに依存しない事を使いました.次にフロー方程式の右辺を線型化しましょう.一般に関数f〨x〩をf〨x∗〩 〽 〰を

満たすx 〽 x∗周りでごちべぬはひ展開すると f〨x〩 〽 f〨x∗〩 f ′〨x∗〩〨x − x∗〩 O〨x − x∗〩2 〽 f ′〨x∗〩〨x − x∗〩 O〨x − x∗〩2 となる様に,G〨St〩をSt 〽 S∗周りで線型化すると次の様になります〺

〨右辺〩 〽 G〨St〩

〽 G〨S∗ δSt〩

〽 G〨S∗〩 L∗〨δSt〩 O〨δSt〩2

〽 L∗〨δSt〩 O〨δSt〩2 〨〴〮〲〮〩

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〴〮〲 繰り込み群変換の固定点と繰り込み群のフロー 〵

ここで,L∗は固定点S∗に依存した或る線型変換で,任意の汎関数O1,O2に対して次を満たします〺*6

L∗〨αO1 βO2〩 〽 αL∗〨O1〩 βL∗〨O2〩, ∀α, β ∈ C 〨〴〮〲〮〩

式〨〴〮〲〮〵〩と〨〴〮〲〮〩を合わせると次の固定点周りで線型化されたフロー方程式を得ます〺

d

dtδSt 〽 L∗〨δSt〩 〨〴〮〲〮〸〩

あとはこの方程式を解けば良いだけです.これが解ければ固定点S∗近傍の繰り込み群のフローが完全に分かります.

さて,前節でフロー方程式とこっとひみはつどのでづひ方程式の類似点について述べましたが,式〨〴〮〲〮〸〩は正にこっとひみはつどのでづひ方程式と同じタイ

プの線型微分方程式です.なので,こっとひみはつどのでづひ方程式を解く時に使う手法がそのまま使えます.こっとひみはつどのでづひ方程式i~ ddt |ψ〨t〩〉 〽

H|ψ〨t〩〉を解く時は,まずHの固有値・固有ベクトルを求めて,次に|ψ〨t〩〉を固有ベクトルで展開し,次に展開係数のt依存性を決定する,という風にすれば良かったので,それと同様にやります.まず,L∗の固有値をλn,固有値λnに属する固有ベクトル〨固有汎関

数〩をOnとしましょう〺

L∗〨On〩 〽 λnOn 〨〴〮〲〮〹〩

次にこの固有値・固有汎関数が全て分かったと仮定します.すると,δStはこの固有汎関数で展開できます〺

δSt 〽∑n

gn〨t〩On 〨〴〮〲〮〱〰〩

ここで,gn〨t〩は展開係数で,これのt依存性が分かればSt 〽 S∗ δStのt依存性が分かります.この展開係数gn〨t〩のt依存性は線型化

されたフロー方程式〨〴〮〲〮〸〩から決まります.式〨〴〮〲〮〱〰〩を式〨〴〮〲〮〸〩に代入すると次の様になります〺

〰 〽d

dtδSt − L∗〨δSt〩

〽∑n

dgn〨t〩

dtOn − L∗

(∑n

gn〨t〩On

)

〽∑n

dgn〨t〩

dtOn −

∑n

gn〨t〩L∗〨On〩

〽∑n

dgn〨t〩

dtOn −

∑n

gn〨t〩λnOn

〽∑n

(dgn〨t〩

dt− λngn〨t〩

)On 〨〴〮〲〮〱〱〩

但し,〳行目でL∗の線型性〨〴〮〲〮〩を使い,〴行目で固有値方程式〨〴〮〲〮〹〩を使いました.従って,フロー方程式が成り立つ為には展開係

数は次の方程式の解でなければなりません〺

dgn〨t〩

dt− λngn〨t〩 〽 〰 〨〴〮〲〮〱〲〩

*6 L∗が線型変換であるというのは少し分かり辛いかもしれませんが,実際に想定しているのは次の様な単純なものです.まず,実用上は繰り込み群のフロー方程

式は理論のパラメータg1, g2, · · · に対する次の様な連立1階非線型常微分方程式になります:

d

dtg1(t) = β1(g1(t), g2(t), · · · )

d

dtg2(t) = β2(g1(t), g2(t), · · · )

...

ここで,β1, β2, · · · は繰り込み群のβ関数と呼ばれる量で,一般には極めて非線型な関数です.(「非線型な」とは要するに1次関数では無いという事です.

) 但し,任意のi ∈ 1, 2, · · · に対してβi(g1∗, g2∗, · · · ) = 0となる固定点(β関数の零点)(g1∗, g2∗, · · · )が存在すると,この固定点周りでは線形近似が出来て,Taylor展開の1次の近似では次の様な連立1階線型常微分方程式の問題に帰着されます:

d

dt

g1(t)− g1∗g2(t)− g2∗

...

=

∂β1∂g1

(g1∗, g2∗, · · · ) ∂β1∂g2

(g1∗, g2∗, · · · ) · · ·∂β2∂g1

(g1∗, g2∗, · · · ) ∂β2∂g2

(g1∗, g2∗, · · · ) · · ·...

.... . .

g1(t)− g1∗g2(t)− g2∗

...

+O(gi(t)− gi∗)2

この右辺の行列が固定点S∗に依存する線型変換L∗に対応する訳です.また,式(4.2.6)のO(δSt)2は(記法がとても良くないですが)上のO(gi(t) − gi∗)2の事を

指しています.因みに,上の右辺の行列をstability matrixと呼ぶ事があります.

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第〴章 しどぬびはのの繰り込み群

これは簡単に解けて答えは次の様になります〺

gn〨t〩 〽 gn〨〰〩づλnt 〨〴〮〲〮〱〳〩

ここで,gn〨〰〩はt 〽 〰での初期値で決まるパラメータです.結局,線型近似の範囲では,固定点S∗近傍の理論S 〽 S∗ δSを繰り込み

群変換すると次の様になります〺

St 〽 S∗ ∑n

gn〨t〩On ぷどぴと gn〨t〩 〽 gn〨〰〩づλnt 〨〴〮〲〮〱〴〩

この表式から明らかですが,固定点S∗近傍の理論はパラメータg1, g2, · · · で完全に特徴付けられます.これは固定点近傍の理論空間Sは,パラメータg1, g2, · · · を局所座標系として記述できることを意味します.また,固定点近傍の繰り込み群のフローはg1〨t〩, g2〨t〩, · · · で完全に決定されます.固有値λnは全て実数だと仮定すると*7,式〨〴〮〲〮〱〳〩からgn〨t〩の振る舞いは次の〳通りに分

類されます〺

• λn > 〰の場合〺 ひづぬづぶちのぴパラメータ

この時,gn〨t〩 〽 gn〨〰〩づλntはtが増加するにつれ指数関数的に増加し,理論空間のgn方向に関しては固定点S∗から急速に

遠ざかって行く.正の固有値λn > 〰に対応するパラメータgn〨t〩をひづぬづぶちのぴパラメータと呼び,このλnに属する固有汎関

数Onをひづぬづぶちのぴ演算子と呼ぶ.

• λn < 〰の場合〺 どひひづぬづぶちのぴパラメータ

この時,gn〨t〩 〽 gn〨〰〩づλntはtが増加するにつれ指数関数的に減少し,理論空間のgn方向に関しては固定点S∗へ向かって急

速に収束して行く.負の固有値λn > 〰に対応するパラメータgn〨t〩をどひひづぬづぶちのぴパラメータと呼び,このλnに属する固有汎関

数Onをどひひづぬづぶちのぴ演算子と呼ぶ.

• λn 〽 〰の場合〺 ねちひでどのちぬパラメータ

この時,gn〨t〩 〽 gn〨〰〩づλntは線型近似の範囲で初期値gn〨〰〩から変化しない.ゼロ固有値λn 〽 〰に対応するパラメー

タgn〨t〩をねちひでどのちぬパラメータと呼び,このλnに属する固有汎関数Onをねちひでどのちぬ演算子と呼ぶ.

以上で,線型変換L∗の固有値・固有ベクトルが分かれば,固定点S∗近傍での繰り込み群のフローが完全に決定される事が分かりま

した*8.次の第〴〮〳節でこの固有値から臨界指数が決定される事を見ます.また,第〵章ではこの固有値・固有ベクトルを摂動論で求め

ていきます.

4.2.2 臨界面とrenormalized trajectory

前節でL∗の固有値が全て実数であるという仮定の下,固定点近傍での繰り込み群のフローを分類しました.この分類から固定点近

傍の理論空間には〲つの特別な部分空間が存在することが分かります.次にこの話をしましょう.

まず〱つ目の部分空間はひづぬづぶちのぴパラメータが全てゼロの部分空間で,これを臨界面〨っひどぴどっちぬ びふひてちっづ〩とか臨界部分空間〨っひどぴどっちぬ

びふぢびばちっづ〩とか臨界部分多様体〨っひどぴどっちぬ びふぢねちのどてはぬつ〩と呼びます.このノートでは臨界面と呼ぶことにして,Scrと記すことにし

ます.臨界面Scr ⊂ Sはどひひづぬづぶちのぴパラメータだけから成る部分空間で,次の様に定義されます〺

Scr 〽 〨g1, g2, · · · 〩 〺 ひづぬづぶちのぴパラメータが全てゼロ 〨〴〮〲〮〱〵〩

前節の議論から明らかですが,臨界面上の理論は全て繰り込み群変換の下で固定点S∗に収束して行きます.今の段階では分かりませ

んが,どひひづぬづぶちのぴパラメータは無限個あるのでScrは無限次元部分空間です.

〲つ目の部分空間はどひひづぬづぶちのぴパラメータが全てゼロの部分空間で,これをひづのはひねちぬどぺづつ ぴひちなづっぴはひべと呼び,S∞と記します.以下,ひづのはひねちぬどぺづつ ぴひちなづっぴはひべを略してげごと書くことにします.げごはひづぬづぶちのぴパラメータだけから成る部分空間で,S∞ ⊂ Sは次の様に定義されます〺

S∞ 〽 〨g1, g2, · · · 〩 〺 どひひづぬづぶちのぴパラメータが全てゼロ 〨〴〮〲〮〱〩

これも前節の議論から明らかですが,げごは固定点S∗から湧き出す繰り込み群のフローの上に載っている理論の集合です.逆に言うと,

繰り込み群のフローを逆に辿って行った時に固定点S∗に収束する理論の集合がげごです.げご上の理論は全てt → −∞の極限が存在し,極限値はS∗になります.

*7 これは全くの仮定です.L∗の固有値が全て実数であるという保証はどこにもありません.実際,次節で取り上げるリミットサイクルの例では固有値が複素数に

なります.但し,よく知られている模型では固有値は全て実数になっているので,ここはあまり気にしない様にしましょう.

*8 実はmarginalパラメータは少々厄介で,線型近似でmarginalでも,近似の次のオーダーを調べると往々にしてt依存性を持ちます.簡単のため以下で

はmarginalパラメータは無いと仮定して議論を進める事にします.因みに厳密にt依存性が無い場合をexactly marginalと言います.

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〴〮〲 繰り込み群変換の固定点と繰り込み群のフロー

S∗

理論S

理論S′

Scr

←S∞

Sc

S′c

図4.1: 固定点S∗近傍の繰り込み群のフローの模式図.赤色の線は理論SとS′の持っているパラメータを手で変えていった時に描く軌跡で,一方,青

色の曲線は繰り込み群のフローを表します.理論SとS′には温度Tに対応するパラメータがあり,このパラメータをT = Tcにチューニングすると臨

界面Scr上の理論ScとS′cになります.この温度Tに対応するパラメータがrelevantパラメータ(の1つ)に他なりません.

〲次相転移の臨界現象で興味あるのは特に臨界面Scr近傍の理論のフローで,これはどひひづぬづぶちのぴパラメータ方向には固定点に収束し,

ひづぬづぶちのぴパラメータ方向には固定点から遠ざかって行きます.図〴〮〱に固定点近傍の理論空間と,臨界面近傍にある〲つの理論SとS′の

繰り込み群のフローの模式図を示しました.

相関長と繰り込み群のフロー

次に繰り込み群変換の下での相関長ξの変換則を見ておきましょう.理論Sの相関長をξせSそと記すことにすると,繰り込み群変換はス

ケール変換を含んでいたので次を満たします〺

ξせStそ 〽 づ−tξせSそ てはひ ちのべ t 〨〴〮〲〮〱〩

つまり,相関長は繰り込み群変換の下で単調減少します.特にS 〽 S∗の時は任意のtに対してSt 〽 S∗が成り立つので,式〨〴〮〲〮〱〩は次

の様になります〺

ξせS∗そ 〽 づ−tξせS∗そ てはひ ちのべ t 〨〴〮〲〮〱〸〩

この方程式の解は〲通りあって,ゼロか無限大です〺

ξせS∗そ 〽 〰 はひ ξせS∗そ 〽∞ 〨〴〮〲〮〱〹〩

前章第〳〮〳〮〱節で議論したように,臨界温度T 〽 Tc直上では相関長は無限大になります.従って,〲次相転移の臨界現象と関係あるの

はξせS∗そ 〽∞を満たす固定点S∗です.いまS∗をξせS∗そ 〽∞を満たす固定点としましょう.この時,臨界面上の理論は全て相関長無限大の臨界温度T 〽 Tc直上の理論を記述します.なぜなら,繰り込み群変換の下で相関長は単調減少しますが,S∗での相関長が無限大な

ので,S∗に収束する理論の集合Scrは全て相関長無限大でなければ式〨〴〮〲〮〱〩と矛盾してしまうからです.臨界面ScrではT 〽 Tcなの

で,Scrに直交する方向のパラメータの〱つが温度Tと関係し,臨界温度を基準にして測った温度〨T − Tc〩/Tcと同一視されます.つまりひづぬづぶちのぴパラメータの〱つが〨T − Tc〩/Tcの役割を果たします.今後はξせS∗そ 〽 〰となる固定点S∗は考えない事にします.

4.2.3 色々な繰り込み群のフロー

以上,繰り込み群変換の固定点が存在すると仮定して,固定点近傍の理論の振る舞いを分類してきました.今までの議論はフロー

方程式の線型近似に基づいた解析なので,それでは線型近似を超えた領域での大局的な解の振舞いはどうなるのかが次に知りたい

所です.しかしこれはかなり難しい問題で,一般にはフロー方程式を厳密に解かなければ分かりません.また,これまではL∗の固

有値が全て実数と仮定してきましたが,L∗の固有値が常に実数である保証はどこにもありません.固有値が複素数になる場合,繰

り込み群のフローはどうなるのかも知りたい所です.脚注でも述べた様に,繰り込み群のフロー方程式は実際上は理論のパラメー

タg1, g2, · · · に対する連立〱階非線型常微分方程式になります.〱階非線型常微分方程式の解の観点からは,図〴〮〱に示した単純な振る

舞いの他に,実に様々な解の挙動が有り得ます*9.以下,簡単な例を〳つだけ挙げておきます*10.これらを用いて繰り込み群のフロー

の大局的構造およびL∗の固有値が複素数になる場合の雰囲気を掴んでおきましょう.

*9 但し,L∗の固有値が全て実数になるような固定点S∗近傍のフローは図4.1に示したもので尽きます.より一般の1階非線型常微分方程式の解の振る舞いは力学

系(dynamical system)の分野で詳しく調べられています.興味のある人は適当な力学系の教科書を見てみましょう.*10 ここで示す例は全ておもちゃのフロー方程式で,これらに従う場の理論が存在すると主張している訳ではありません.また,2次相転移の臨界現象と直接関係し

ている訳でもありません.単にフロー方程式の解の挙動をより深く理解しようという為のものです.

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〸 第〴章 しどぬびはのの繰り込み群

• 固定点が複数ある場合のフロー〲つのパラメータg1, g2で記述される次のフロー方程式〨連立〱階非線型常微分方程式〩を考えましょう〺

dg1

dt〽 g1〨g2 − b〩 〨〴〮〲〮〲〰ち〩

dg2

dt〽 g2〨g1 − a〩 〨〴〮〲〮〲〰ぢ〩

但し,a, bは適当な実数です.このフロー方程式には固定点〨右辺がゼロになる点〩が〲つあって,〨g1, g2〩 〽 〨〰, 〰〩, 〨a, b〩の〲つで

す.それぞれの固定点周りでフロー方程式を線型化すると次の様になります〺

〨〰, 〰〩周り〺d

dt

(g1 − 〰g2 − 〰

)〽

(−b 〰〰 −a

)(g1 − 〰g2 − 〰

)〨〴〮〲〮〲〱ち〩

〨a, b〩周り〺d

dt

(g1 − ag2 − b

)〽

(〰 ab 〰

)(g1 − ag2 − b

)〨〴〮〲〮〲〱ぢ〩

計算すれば簡単に分かるので計算過程は書きませんが,右辺の〲次正方行列の固定点〨〰, 〰〩での固有値は−bと−a,対応する固有ベクトルは〨〱, 〰〩ᵀと〨〰, 〱〩ᵀです.一方,固定点〨a, b〩での固有値は±

√ab,対応する固有ベクトルは〨

√a,±√b〩ᵀとなります.

この場合,a, bどちらか一方が負の場合は固有値が虚数になる事に注意しましょう.以下,a > 〰且つb > 〰の場合とa > 〰且

つb < 〰の場合に分けて調べてみます.

ほ a > 〰且つb > 〰の場合

この時,固定点〨〰, 〰〩での固有値−bと−aは共に負の実数.従って,固定点〨〰, 〰〩近傍ではこの点に流れ込むフローしか無

い.一方,固定点〨a, b〩での固有値±√abは正と負の両方ある.繰り込み群のフローは,正の固有値

√abに属する固有ベクト

ル〨√a,√b〩ᵀの方向に関しては固定点から湧き出し,負の固有値−

√abに属する固有ベクトル〨

√a,−√b〩ᵀの方向に関しては

固定点へ流れ込む.繰り込み群のフローの大局的構造は図〴〮〲ちに示した通りで,赤色の曲線が固定点〨a, b〩から見た時の臨

界面とげご.

ほ a > 〰且つb < 〰の場合

この時,固定点〨〰, 〰〩での固有値は−b 〽 |b|が正で−aが負.繰り込み群のフローは,正の固有値|b|に属する固有ベクトル〨〱, 〰〩ᵀ方向に関しては固定点から湧き出し,負の固有値−aに属する固有ベクトル〨〰, 〱〩ᵀ方向に関しては固定点へ流れ

込む.一方,固定点〨a, b〩での固有値は±√ab 〽 ±i

√a|b|と純虚数になる.この固定点周りのフローを調べると実は閉軌

道〨っぬはびづつ はひぢどぴ〩になる.繰り込み群のフローの大局的構造は図〴〮〲ぢに示した通りで,赤色の線が固定点〨〰, 〰〩から見た時

の臨界面とげごを表す.特筆すべきは第〴象限でのフローで,一般に線型近似の解析では臨界面近傍の点はげごに収束して行

くという結果だが,フロー方程式を厳密に解くとげごに近づいては行くが或る所でまた離れて行って,最終的に元の点に戻

り周回軌道を描くという結果になっている.この振る舞いは固定点〨〰, 〰〩周りで線型化されたフロー方程式〨〴〮〲〮〲〱ち〩だけで

は分からない*11.

• リミットサイクル〨ぬどねどぴ っべっぬづ〩

今度は次のフロー方程式を考えましょう〺

dg1

dt〽 ag1 bg2 − g1〨g

21 g2

2〩 〨〴〮〲〮〲〲ち〩

dg2

dt〽 ag2 − bg1 − g2〨g

21 g2

2〩 〨〴〮〲〮〲〲ぢ〩

但し,aは正の実数,bは正でも負でも良い実数とします.このフロー方程式には固定点が原点〨g1, g2〩 〽 〨〰, 〰〩に〱つだけありま

す.この固定点周りで線型化したフロー方程式は次の様になります〺

d

dt

(g1 − 〰g2 − 〰

)〽

(a b−b a

)(g1 − 〰g2 − 〰

)〨〴〮〲〮〲〳〩

上の行列の固有値はa ± ib,対応する固有ベクトルは〨〱,±i〩ᵀでどちらも複素数になります.このフロー方程式の解の大局的挙動は図〴〮〲っに示した通りで,初期値に依らず円軌道g2

1 g22 〽 aに収束して行き,最終的にこの円軌道をぐるぐる回るというフ

ローになっています.この様なフローをリミットサイクル〨ぬどねどぴ っべっぬづ〩と呼びます.リミットサイクルにも色々あって,この

例では閉軌道に流れ込むリミットサイクルですが,閉軌道から湧き出すリミットサイクルもあります.ここで,閉軌道上の理

*11 前節までの線型近似の解析結果が破綻しているではないかと思うかもしれません.実際,固定点から離れた所で破綻しているのですが,よく知られている模型で

はこのような事は起きないのであまり気にしなくて良いです.但し,1階非線型常微分方程式の観点からはこの様な振る舞いも十分有り得るという事は認識して

おきましょう.

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〴〮〲 繰り込み群変換の固定点と繰り込み群のフロー 〹

g1

g2

(a) a > 0 & b > 0

g1

g2

(b) a > 0 & b < 0

g1

g2

(c) リミットサイクル

g1

g2

g3

(d) 初期値(g1, g2, g3) = (0.01, 0.01, 0.01)

g1

g2

g3

(e) 初期値(g1, g2, g3) = (0.01, 0.01, 0.02)

g1

g2

g3

(f) 初期値(g1, g2, g3) = (0.01, 0.01, 0.03)

図4.2: フロー方程式(4.2.20a)と(4.2.20b), (4.2.22a)と(4.2.22b),及び(4.2.27a)–(4.2.27c)の解の大局的構造.(a)は典型的な固定点で振る舞いが

決まるフロー,(b)は固定点と閉軌道のハイブリッド,(c)はリミットサイクル,(d)–(f)はカオスを表します.

論Sに対して成り立つ重要な事柄があるのでそれについて述べておきましょう.繰り込み群のフローの閉軌道が成す部分空間

をScycle ⊂ S,閉軌道上のフローの周期をTとすると,閉軌道上の理論Sを周期Tで繰り込み群変換すると自分自身に戻ります〺

RT〨S〩 〽 S, ∀S ∈ Scycle 〨〴〮〲〮〲〴〩

一方,式〨〴〮〲〮〱〩の所で議論した様に,繰り込み群変換の下で相関長ξは一般に単調減少してξせRT〨S〩そ 〽 づ−TξせSそが成り立ちま

す.これと式〨〴〮〲〮〲〴〩を合わせると,閉軌道上の任意の理論に対して次が成り立つ事が分かります〺

ξせSそ 〽 づ−TξせSそ, ∀S ∈ Scycle 〨〴〮〲〮〲〵〩

固定点の場合同様,この方程式の解はゼロか無限大です〺

ξせSそ 〽 〰 はひ ξせSそ 〽∞ てはひ S ∈ Scycle 〨〴〮〲〮〲〩

相関長がゼロになるか無限大になるかはScycleの性質だけで決まります.特に相関長が無限大となるScycleの場合,〨固定点S∗の

時と同じ論理で〩 閉軌道上の理論は全てT 〽 Tcの臨界温度直上の理論を記述する事が分かります*12.

• カオス的フロー〨っとちはぴどっ 」はぷ〩

最後に〳つのパラメータg1, g2, g3で記述される次のフロー方程式を考えましょう〺

dg1

dt〽 a〨g2 − g1〩 〨〴〮〲〮〲ち〩

dg2

dt〽 g1〨b− g3〩− g2 〨〴〮〲〮〲ぢ〩

dg3

dt〽 g1g2 − cg3 〨〴〮〲〮〲っ〩

*12 但し,繰り込み群のリミットサイクルで支配される臨界現象は聞いた事がありません.臨界現象への応用は不明ですが,リミットサイクルはEfimov効

果(Efimov effect)で現れる事が知られています.Efimov効果は非相対論的量子力学の3体問題に関するもので,繰り込み群のリミットサイクルや連続的スケ

ール不変性の離散的スケール不変性への破れ,無限個の束縛状態など理論的にとても興味深い話題を内包しています.また,実験的にも観測されています.興味

のある人は自分で調べてみましょう.

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〰 第〴章 しどぬびはのの繰り込み群

但し,a, b, cは適当な実数です.このフロー方程式には 〨g1, g2, g3〩 〽 〨〰, 〰, 〰〩, 〨±√c〨b− 〱〩,±

√c〨b− 〱〩, b− 〱〩 の〳つの固定点

があります.解析が面倒なので線型化されたフロー方程式は調べませんが,実はこの連立〱階非線型微分方程式はカオス*13を示

す有名な系で,その解はがはひづのぺ ちぴぴひちっぴはひと呼ばれています.図〴〮〲つほ〴〮〲てに〨a, b, c〩 〽 〨〱〰, 〲〸, 〸/〳〩の場合で初期値を少しずつ

変えていった時のt 〽 〰からt 〽 〱〰までのフローを示しました.初期値をちょっと変えただけでt 〽 〱〰での位置が大きく異なる

事が見て取れると思います.

以上,簡単な例を用いて繰り込み群のフローの大局的構造を調べてみました.まず上の例でも登場しましたが,固定点S∗周りで線

型化した繰り込み群変換の生成子L∗の固有値が複素数になる場合,繰り込み群のフローは固定点周りでぐるぐると回ります.特に固

有値が純虚数の場合は閉じた軌道になり,実数部分が非ゼロの複素数の場合は螺旋軌道になります.また,実固有値の固定点と複素固

有値の固定点が共存する場合,臨界面Scr近傍の理論は必ずげごに漸近して行く,という前節の線型近似の結果が破綻し得る事も見まし

た.また,複素固有値の固定点の場合,繰り込み群のフローが最終的に或る閉軌道に収束するリミットサイクルとなる場合も有り得ま

す.リミットサイクルが存在するか否かは固定点周りで線形化したフロー方程式だけでは分かりません.更に,繰り込み群のフローが

カオスになる場合も有り得るという事も見ました.カオスになるか否かも線型近似だけでは分からない,非線型性の産物です.

以上の結果を見ると,前節までの線型近似の解析結果は全然信用出来ないと思うかもしれません.しかしながら,実際上は線型近似

の描像で殆どそのまま正しいです.なぜなら,上の例からも明らかな様に,繰り込み群のフローが珍妙な振る舞いをするのは基本的に

複素固有値が現れる場合で,良く知られている模型では複素固有値は出て来ないからです*14.通常の問題では,閉軌道やリミットサ

イクル,カオスなどは全く気にしなくて良いと言っていいでしょう.

最後に〱つだけ注意しておくと,繰り込み群のフローは途中で分岐や交差はしません.〨但し,固定点は除きます.〩 これは,常微分

方程式の解の一意性から,初期値を決めればフロー方程式の解は一意的に定まるからです.

4.3 スケーリング則と臨界指数

この節のまとめ

• 理論Sの単位体積当たりの自由エネルギーに逆温度βを掛けたものを〨βf〩せSそと記すと,繰り込み群変換Rt 〺 S 7→ Stが分配関

数を不変に保つ事の帰結として,〨βf〩せSそと〨βf〩せStその間には一般に次の関係式が成り立つ〺

〨βf〩せSそ 〽 づ−dt〨βf〩せStそ てはひ ∀t ∈ 〨〰,∞〩

特に固定点S∗近傍の理論 S 〽 S∗ ∑n gn〨〰〩づ

λntOn に対してはこの等式は次のスケーリング則を意味する〺

〨βf〩〨g1〨〰〩, g2〨〰〩, g3〨〰〩, · · · 〩 〽 づ−dt〨βf〩〨g1〨〰〩づλ1t, g2〨〰〩づ

λ2t, g3〨〰〩づλ3t, · · · 〩

• 同様にして,相関長に対する等式 ξせSそ 〽 づtξせStそも固定点近傍の理論Sに対しては次のスケーリング則を与える〺

ξ〨g1〨〰〩, g2〨〰〩, g3〨〰〩, · · · 〩 〽 づtξ〨g1〨〰〩づλ1t, g2〨〰〩づ

λ2t, g3〨〰〩づλ3t, · · · 〩

• 臨界現象を示す典型的格子模型では,外部磁場が無い場合,温度パラメータをT 〽 Tcにチューニングするだけで臨界点に到

達する.これは外部磁場が無い場合,臨界現象を支配する固定点S∗近傍のひづぬづぶちのぴパラメータは〱つだけである事を意味する.

これを踏まえて,λ1だけが正で,残りの固有値λ2, λ3, · · · は全て負だとし,更にひづぬづぶちのぴパラメータg1〨〰〩を臨界温度を基準

にして測った温度g1〨〰〩 〽 〨T − Tc〩/Tc 〽 τと同一視する.すると,tが十分大きい時,上のスケーリング則は次の様になる〺

〨βf〩〨τ, g2〨〰〩, g3〨〰〩, · · · 〩 ∼ づ−dt〨βf〩〨τづλ1t, 〰, 〰, · · · 〩

ξ〨τ, g2〨〰〩, g3〨〰〩, · · · 〩 ∼ づtξ〨τづλ1t, 〰, 〰, · · · 〩

このスケーリング則からβf及びξのτ依存性が決まり,臨界指数ν, αが次の様に求まる〺

ν 〽〱

λ1〦 α 〽 〲− d

λ1

• 繰り込み群方程式を使うと,臨界面Scr上の理論Sの相関関数は,t→∞の低運動量極限で固定点S∗上の相関関数に〨定数倍を

*13 私の知っている限り,場の理論の繰り込み群のフローでカオスになる例は知られていないと思います.知られていませんが,1階非線型常微分方程式の解の観点

からはカオス的フローが出て来ても何らおかしくありません.

*14 多くの模型で複素固有値が出て来ないという事には何か深遠な理由があるかもしれません.L∗に対して実は何か強い条件が掛かっているのかもしれませんが,

これに関しては私は答えを知りません.

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〴〮〳 スケーリング則と臨界指数 〱

除いて〩収束する事が言える〺

ぬどねt→∞〈まφ〨づ−tp1〩 · · · まφ〨づ−tpn〩〉S 〽 づ

∫∞0dt (d−∆(St))〈まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩〉S∗

特にn 〽 〲の場合,並進対称性と回転対称性を加味する事で臨界面上の理論Sの〲点相関関数の低運動量極限は完全に決定され

る.規格化定数は除くと,次の様になる〺

〈まφ〨p〩まφ〨p′〩〉S ∝ |p|2∆(S∗)−d〨〲π〩dδd〨p p′〩 ちび |p|, |p′| → 〰

これをうはふひどづひ変換する事で座標表示〲点相関関数の長距離極限が次の様に定まる〺

〈φ〨x〩φ〨x′〩〉S ∝ |x− x′|−2∆(S∗) てはひ |x− x′| 〃−1

これより臨界指数ηが次の様に読み取れる〺

η 〽 〲、〨S∗〩− d 〲

第〲章〲〮〳節でスケーリング仮説について述べ,臨界指数の間に成り立つ関係式を調べました.この時はスケーリング則は完全に仮説

でしたが,繰り込み群を用いるとこのスケーリング則が導出出来ます.以下,固定点近傍の繰り込み群のフローを用いることで,この

スケーリング則を導きましょう.このスケーリング則により臨界指数がL∗の固有値で書き表される事が分かります.

4.3.1 単位体積当たりの自由エネルギーと相関長のスケーリング則

まず単位体積当たりの自由エネルギーfから始めましょう.理論Sの単位体積当たりの自由エネルギーに逆温度βを掛けたもの

を〨βf〩せSそと記す事にすると,〨βf〩せSそは次で定義されます〺

〨βf〩せSそ 〽 − 〱

VぬはでZせSそ 〨〴〮〳〮〱〩

ここで,Vは系の体積です.繰り込み群変換Rt 〺 S 7→ Rt〨S〩 〽 Stは分配関数を不変に保つ事,及び繰り込み群変換はスケール変換を

含んでいた事を考慮すると,理論SとStの単位体積当たりの自由エネルギーの間に次の等式が成り立つ事が分かります〺

〨βf〩せSそ 〽 づ−dt〨βf〩せStそ 〨〴〮〳〮〲〩

ここで,dは空間次元です.以下,Sとして固定点S∗近傍の理論を考えましょう.この時,式〨〴〮〲〮〱〴〩よりSを繰り込み群変換したもの

は St 〽 S∗ ∑n gn〨〰〩づ

λntOn と書けるので,式〨〴〮〳〮〲〩は次の等式を意味します〺

〨βf〩〨g1〨〰〩, g2〨〰〩, g3〨〰〩, · · · 〩 〽 づ−dt〨βf〩〨g1〨〰〩づλ1t, g2〨〰〩づ

λ2t, g3〨〰〩づλ3t, · · · 〩 〨〴〮〳〮〳〩

これは第〲〮〳節で調べたスケーリング則〨〲〮〳〮〲〩を拡張したものに他なりません.同様に,式〨〴〮〲〮〱〩の所で述べた相関長に対して成り立

つ等式ξせSそ 〽 づtξせSそも固定点近傍の理論に対しては次のスケーリング則を与えます〺

ξ〨g1〨〰〩, g2〨〰〩, g3〨〰〩, · · · 〩 〽 づtξ〨g1〨〰〩づλ1t, g2〨〰〩づ

λ2t, g3〨〰〩づλ3t, · · · 〩 〨〴〮〳〮〴〩

さて,ぉびどので模型やその他の格子模型〨じす模型やえづどびづのぢづひで模型〩の場合,外部磁場が無い場合は実質温度Tだけが理論のパラメータ

で,この温度を臨界温度T 〽 Tcにチューニングすることで臨界点T 〽 Tcに到達出来ます.これはぉびどので模型等では〱つのパラメータだけ

を操作すれば臨界面Scrに到達出来る事を意味しています.これを踏まえて,以下,λ1だけが正の固有値で,他の固有値λ2, λ3, · · · は全て負の固有値だとしましょう.そして,ひづぬづぶちのぴパラメータg1〨〰〩を臨界温度を基準にして測った温度τと同一視します〺

g1〨〰〩 〽T − TcTc

〽 τ 〨〴〮〳〮〵〩

すると,どひひづぬづぶちのぴパラメータgn〨t〩 〽 gn〨〰〩づλnt 〨n 〽 〲, 〳, · · · 〩はtが増えるにつれ急激にゼロに収束するので,ある程度大きいt > 〰に

対してはスケーリング則〨〴〮〳〮〳〩及び〨〴〮〳〮〴〩は実質次の等式を意味します〺

〨βf〩〨τ, g2〨〰〩, g3〨〰〩, · · · 〩 ∼ づ−dt〨βf〩〨τづλ1t, 〰, 〰, · · · 〩 〨〴〮〳〮ち〩

ξ〨τ, g2〨〰〩, g3〨〰〩, · · · 〩 ∼ づtξ〨τづλ1t, 〰, 〰, · · · 〩 〨〴〮〳〮ぢ〩

ここで,tの任意性を利用して,tを次の等式を満たす様に選びましょう〺

|τ |づλ1t 〽 〱 〨〴〮〳〮〩

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〲 第〴章 しどぬびはのの繰り込み群

即ち,tを次の様に選びます〺

t 〽 − 〱

λ1ぬはで |τ | 〨〴〮〳〮〸〩

すると,式〨〴〮〳〮ち〩と〨〴〮〳〮ぢ〩は次の様になります〺

〨βf〩〨τ, g2〨〰〩, g3〨〰〩, · · · 〩 ∼ |τ |d/λ1〨βf〩〨びでの〨τ〩, 〰, 〰, · · · 〩 〨〴〮〳〮〹ち〩

ξ〨τ, g2〨〰〩, g3〨〰〩, · · · 〩 ∼ |τ |−1/λ1ξ〨びでの〨τ〩, 〰, 〰, · · · 〩 〨〴〮〳〮〹ぢ〩

右辺の〨βf〩〨びでの〨τ〩, 〰, 〰, · · · 〩やξ〨びでの〨τ〩, 〰, 〰, · · · 〩は臨界面から離れたげご上の理論の量なので,ある有限な値*15で,且つτの符号のみ

に依存します.つまり,上の式で臨界面近傍の理論のβfやξのτ依存性が決定出来た事になります.まず式〨〴〮〳〮〹ぢ〩より臨界指数νが次

の様に読み取れます〺

ν 〽〱

λ1〨〴〮〳〮〱〰〩

また,比熱はc ∼ −∂2(βf)∂τ2 ∼ |τ |−2+d/λ1となるので,これより臨界指数αが次の様に読み取れます〺

α 〽 〲− d

λ1〽 〲− dν 〨〴〮〳〮〱〱〩

以上により,臨界指数α, νがL∗の正の固有値λ1で与えられる事が分かりました.関係式α 〽 〲− dνを特におはびづばとびはのの等式と呼んだ

りします.

以上の議論は外部磁場がゼロの場合ですが,外部磁場が非ゼロの場合はひづぬづぶちのぴパラメータg2〨〰〩がもう〱つ加わって,これを外部磁

場hと同一視します.この場合も同様に出来て,第〲章〲〮〳節のものと本質的に同じ結果が得られます.やり方は全く同じなので繰り返

しませんが,特に式〨〲〮〳〮〱〸ち〩と〨〲〮〳〮〱〸ぢ〩で示したスケーリング関係式α 〲β γ 〽 〲とγ 〽 β〨δ − 〱〩が得られます.

4.3.2 相関関数のスケーリング則

最後に相関関数のスケーリング則について調べて終わりにしましょう.用いるのは運動量表示相関関数に対する繰り込み群方程

式〨〴〮〱〮〲〴〩です.まず興味があるのは臨界面Scr上の理論Sです.先程と同じくこの理論Sは固定点S∗近傍にあって,この固定点近傍で

はg1だけがひづぬづぶちのぴパラメータで,残りは全てどひひづぬづぶちのぴパラメータだとしましょう.g1〨〰〩 〽 τと同一視されます.すると,この臨界

面上の理論Sを繰り込み群変換したものRt〨S〩 〽 Stは次の様に書けます〺

St 〽 S∗ ∑n

gn〨〰〩づλntOn ぷどぴと g1〨〰〩 〽 τ 〽 〰 〨〴〮〳〮〱〲〩

任意のtに対してStも臨界面上にある事に注意しましょう.いま固有値λ2, λ3, · · · は全て負なので,Stはtが増えるにつれて急速に固定点S∗に近づき,t→∞でS∗に収束します.従って,t→∞の極限では理論SとSt

t→∞→ S∗の間の繰り込み群方程式〨〴〮〱〮〲〴〩は次の様

になります〺

ぬどねt→∞〈まφ〨づ−tq1〩 · · · まφ〨づ−tqn〩〉S 〽 づへば

(n

∫ ∞0

dt 〨d−、〨St〩〩

)〈まφ〨q1〩 · · · まφ〨qn〩〉S∗ , ∀|qi| ∈ 〨〰,〃〩 〨〴〮〳〮〱〳〩

さて,今からやりたいのはこの方程式の右辺をn 〽 〲の場合で計算して,臨界面上の理論Sの〲点相関関数の低運動量極限を求める事

です.そこで,まず固定点上の繰り込み群方程式を使って右辺を少し書き換えましょう.t 〽 〰での初期値が固定点S∗だった場合,繰

り込み群方程式〨〴〮〱〮〲〴〩は次の様になります〺

〈まφ〨づ−tq1〩 · · · まφ〨づ−tqn〩〉S∗ 〽 づnt(d−∆(S∗))〈まφ〨q1〩 · · · まφ〨qn〩〉S∗ , ∀|qi| ∈ 〨〰,〃〩 〨〴〮〳〮〱〴〩

これを用いると式〨〴〮〳〮〱〳〩は次の様に書き換えられます〺

ぬどねt→∞〈まφ〨づ−tq1〩 · · · まφ〨づ−tqn〩〉S 〽 づへば

(n

∫ ∞0

dt 〨、〨S∗〩−、〨St〩〩

)ぬどねt→∞〈まφ〨づ−tq1〩 · · · まφ〨づ−tqn〩〉S∗ , ∀|qi| ∈ 〨〰,〃〩 〨〴〮〳〮〱〵〩

*15 ここではirrelevantパラメータgn(t)(n = 2, 3, · · · )を全てゼロにしていますが,実はirrelevantパラメータへの依存性が1/gn(t)の様に逆冪の場合があって,こ

の時は単純にゼロには出来ません.この様なirrelevantパラメータを危険なirrelevantパラメータ(dangerous irrelevant parameter)と呼びます.実

は(上部)臨界次元dcより上の次元ではこれが現れるのですが,簡単の為ここではd < dcとします.

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〴〮〳 スケーリング則と臨界指数 〳

ここでpi 〽 づ−tqi 〨i 〽 〱, · · · , n〩と書くと,この式は大雑把には次の様にも書けます〺

〈まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩〉S → づへば

(n

∫ ∞0

dt 〨、〨S∗〩−、〨St〩〩

)〈まφ〨p1〩 · · · まφ〨pn〩〉S∗ ちび |pi| → 〰 〨〴〮〳〮〱〩

これより理論Sの相関関数の低運動量極限は,定数倍を除いて固定点S∗の相関関数の低運動量極限と一致する事が分かりました.

以下,n 〽 〲の場合の繰り込み群方程式〨〴〮〳〮〱〴〩を解いてS∗の〲点相関関数をまず求めて,次にそれを使ってSの座標表示〲点相関関

数〈φ〨x〩φ〨x′〩〉Sの長距離極限|x− x′| → ∞での漸近形を求め,それから臨界指数ηを読み取って行きます.まず固定点S∗上の理論に限らず,理論Sの運動量表示〲点相関関数は,並進対称性及び回転対称性より必ず次の形を取ります〺

〈まφ〨q〩まφ〨q′〩〉S 〽 まG(2)S 〨|q|〩〨〲π〩dδd〨q q′〩 〨〴〮〳〮〱〩

特にS 〽 S∗の場合を繰り込み群方程式 〈まφ〨づ−tq〩まφ〨づ−tq′〩〉S∗ 〽 づ2t(d−∆(S∗))〈まφ〨q〩まφ〨q′〩〉S∗ に代入すると, まG(2)S∗に対して次のスケーリ

ング則が得られます〺

まG(2)S∗

〨づ−t|q|〩 〽 づ(d−2∆(S∗))t まG(2)S∗

〨|q|〩 てはひ ちのべ t 〨〴〮〳〮〱〸〩

但し, δd〨づ−tq づ−tq′〩 〽 づdtδd〨q q′〩 を用いました.前節同様,このスケーリング則は解く事が出来ます.まずtの任意性を利用

してt 〽 ぬはで〨|q|/q0〩と選びましょう.ここで,q0は適当な運動量スケールで,対数の中身を無次元にする為だけに導入しました.する

と, まG(2)S∗の|q|依存性は次の様に決まります〺

まG(2)S∗

〨|q|〩 〽 づ(2∆(S∗)−d)t まG(2)S∗

〨づ−t|q|〩

(|q|q0

)2∆(S∗)−dまG

(2)S∗

〨q0〩

∝ |q|2∆(S∗)−d 〨〴〮〳〮〱〹〩

これで固定点S∗での運動量表示〲点相関関数が次の様に求まりました〺

〈まφ〨p〩まφ〨p′〩〉S∗ 〽 N|p|2∆(S∗)−d〨〲π〩dδd〨p p′〩 〨〴〮〳〮〲〰〩

但し,Nは規格化因子です.従って,理論Sの低運動量極限〲点相関関数は, まG(2)S 〨|p|〩で書くと次の様になります〺

まG(2)S 〨|p|〩→ N づへば

(〲

∫ ∞0

dt 〨、〨S∗〩−、〨St〩〩

)|p|2∆(S∗)−d ちび |p| → 〰 〨〴〮〳〮〲〱〩

臨界面上の理論Sの座標表示〲点相関関数はこれをうはふひどづひ変換すれば良く,次の様に書き表されます〺

〈φ〨x〩φ〨x′〩〉S 〽

∫|p|<Λ

ddp

〨〲π〩d

∫|p′|<Λ

ddp′

〨〲π〩d〈まφ〨p〩まφ〨p′〩〉S づip·x+ip′·x′

∫|p|<Λ

ddp

〨〲π〩d

∫|p′|<Λ

ddp′

〨〲π〩dまG

(2)S 〨|p|〩〨〲π〩dδd〨p p′〩づip·x+ip′·x′

∫|p|<Λ

ddp

〨〲π〩dまG

(2)S 〨|p|〩づip·(x−x

′)

〽〱

|x− x′|d

∫|u|<Λ|x−x′|

ddu

〨〲π〩dまG

(2)S 〨 u|x−x′| 〩づ

iu·n 〨〴〮〳〮〲〲〩

但し,〲行目で式〨〴〮〳〮〱〩を用い,〳行目でp′積分を実行し,最後の行で変数変換u 〽 |x−x′|pを行いました.また,n 〽 〨x−x′〩/|x−x′|は単位ベクトルです.次に長距離極限〃|x− x′| → ∞を考えましょう*16.まず,式〨〴〮〳〮〲〱〩より次が成り立ちます〺

まG(2)S 〨 u|x−x′| 〩→ N づへば

(〲

∫ ∞0

dt 〨、〨S∗〩−、〨St〩〩

)|u|2∆(S∗)−d

|x− x′|2∆(S∗)−dちび 〃|x− x′| → ∞ 〨〴〮〳〮〲〳〩

これより理論Sの座標表示〲点相関関数の長距離極限が次の様に得られます〺

〈φ〨x〩φ〨x′〩〉S →N づ2

∫∞0dt(∆(S∗)−∆(St))

|x− x′|2∆(S∗)

∫|u|<∞

ddu

〨〲π〩d|u|2∆(S∗)−dづiu·n

*16 長距離極限と呼んでいますが,これは2点間の距離|x− x′|が無限大である必要は無く,格子間隔Λ−1よりもずっと大きければ良いです.

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〴 第〴章 しどぬびはのの繰り込み群

臨界指数 定義 場の理論での求め方

α |τ | 〱かつゼロ磁場での定積比熱 c ∼ |τ |−α α 〽 〲− d

λ1〽 〲− dν

β |τ | 〱かつゼロ磁場での秩序変数 〈φ〉 ∼ |τ |β β 〽、〨S∗〩

λ1〽

〲ν〨d− 〲 η〩

γ |τ | 〱かつゼロ磁場での応答関数 χ ∼ |τ |−γ γ 〽d− 〲、〨S∗〩

λ1〽 ν〨〲− η〩

δ τ 〽 〰での秩序変数 〈φ〉 ∼ h1/δ δ 〽d

、〨S∗〩− 〱 〽

d 〲− ηd− 〲 η

ν |τ | 〱での秩序変数の相関長 ξ ∼ |τ |−ν ν 〽〱

λ1

η τ 〽 〰での秩序変数の異常次元 G(2)〨x〩 ∼ |x|−d+2−η η 〽 〲、〨S∗〩− d 〲

表4.3: 臨界指数とL∗の正固有値λ1及びスケーリング次元∆(S∗)との関係.τ = (T − Tc)/Tcは臨界温度を基準にして測った無次元化した温度を表します.臨界指数はλ1と∆(S∗)(若しくはνとη)を求めれば全て決定できます.但し,ここでは空間次元dは上部臨界次元dcよりも下だと仮定していま

す.

∝ 〱

|x− x′|2∆(S∗)ちび 〃|x− x′| → ∞ 〨〴〮〳〮〲〴〩

これを式〨〳〮〳〮〩と比較する事で臨界指数νが次の様に読み取れます〺

η 〽 〲、〨S∗〩− d 〲 〨〴〮〳〮〲〵〩

以上,計算が長くなりましたが,臨界指数ηは結局固定点S∗でのスケーリング次元、〨S∗〩で決まる事が分かりました.ここまで

でν, α, ηを求めた訳ですが,残りの〳つの臨界指数β, γ, δは〳つのスケーリング関係式α 〲β γ 〽 〲 γ 〽 β〨δ − 〱〩 γ 〽 ν〨〲− η〩を用いる事で全てλ1と、〨S∗〩で書き表せます.結果は表〴〮〳にまとめました.

参考文献

しどぬびはのの繰り込み群について解説した教科書やレビュー論文,講義録等は数多くあります.その中でも私が読んで勉強したことが

あるものや参考にしたものを教科書を中心に幾つか挙げておきます.

まず教科書としては次の〵冊を参考にしました〺

せ〱そ お〮 お〮 あどののづべ ぎ〮 お〮 いはぷひどっに ぁ〮 お〮 うどびとづひ ちのつ き〮 ぅ〮 お〮 ぎづぷねちの The Theory of Critical Phenomena 〨くへてはひつ さのどぶづひびどぴべ

ぐひづびび 〱〹〹〲〩

せ〲そ お〮 ぃちひつべ Scaling and Renormalization in Statistical Physics 〨ぃちねぢひどつでづ さのどぶづひびどぴべ ぐひづびび 〱〹〹〩

せ〳そ き〮 かちひつちひ Statistical Physics of Fields 〨ぃちねぢひどつでづ さのどぶづひびどぴべ ぐひづびび 〲〰〰〩

せ〴そ ぉ〮 えづひぢふぴ A Modern Approach to Critical Phenomena 〨ぃちねぢひどつでづ さのどぶづひびどぴべ ぐひづびび 〲〰〰〩

せ〵そ げ〮 ことちのにちひ Quantum Field Theory and Condensed Matter 〨ぃちねぢひどつでづ さのどぶづひびどぴべ ぐひづびび 〲〰〱〩

初学者におすすめなのはせ〳その第〵章までと,せ〵その第〱〱章から第〱〴章までです.これらの内容が一通り理解出来ていれば取り敢えず十

分でしょう.せ〱そは場の理論の摂動計算法に詳しいですが,この章で取り扱ったような繰り込み群の一般論は載っていません.因みに

表〴〮〱はせ〱その〲〱ページから殆どそのまま引用しました.せ〲そとせ〴そはコンパクトな本なので一通りの話題を知るには良いと思います.

また,講義録としてはしどぬびはの自身によるものと,他にはこぴづぶづの しづどのぢづひでによるものが有名です〺

せそ か〮 ぇ〮 しどぬびはの ちのつ お〮 かはでふぴ ぜごとづ ひづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば ちのつ ぴとづ ε づへばちのびどはの〢 Phys. Rep. 〱〲 〨〱〹〴〩 〵ほ〲〰〰

せそ こ〮 しづどのぢづひで ぃひどぴどっちぬ ぐとづのはねづのち てはひ うどづぬつ ごとづはひどびぴび どの Understanding the Fundamental Constituents of Matter 〨ぐぬづのふね

ぐひづびび 〱〹〸〩 ばば〮 〱ほ〵〲

せそは有名ですが,決して分かり易くはありません.但し,時間を掛けて読む価値は充分にあります.また,せそのプレプリントは下

のかぅかライブラリーからダウンロード可能です〺

https://lib-extopc.kek.jp/preprints/PDF/1976/7610/7610218.pdf

Page 85: 臨界現象と繰り込み群 - Nihon Universityaries.phys.cst.nihon-u.ac.jp › ~ohya › stat-mech › main.pdfぶ はじめに この講義では〲次相転移の臨界現象を繰り込み群の観点から解説します.主に次の〳つの事柄について学びます〺

〴〮〳 スケーリング則と臨界指数 〵

因みに,このせそでこぴづぶづの しづどのぢづひでは漸近安全性〨ちびべねばぴはぴどっ びちてづぴべ〩なる語を導入しました.漸近安全な理論とは,繰り込み群の

フローを逆に辿って行った時に或る極限値〨固定点〩S∗に収束する理論の事で,要するに繰り込み可能な理論の事です.漸近安全性とは

単に繰り込み可能性の事なのですが,特に量子重力理論の分野では漸近安全性という語が好まれて使われています.

さて,第〴〮〲〮〳節で繰り込み群のリミットサイクルやカオス的フローについて述べましたが,この辺の話は聞いた事がない人も多い

かもしれません.この箇所は次のいちぶどつ お〮 ぇひはびびの講義録の第〵〮〱節から影響を受けて書いたものです〺

せ〸そ い〮 お〮 ぇひはびび ぁばばぬどっちぴどはのび はて ぴとづ げづのはひねちぬどぺちぴどはの ぇひはふば ぴは えどでとづのづひでべ ぐとべびどっび どの Methods in Field Theory: Les Houches

Session XXVIII 〨しはひぬつ こっどづのぴど「っ ぐふぢぬどびとどので 〱〹〸〱〩 ばば〮 〱〴〱ほ〲〵〰

この講義録もとても有名で,しどぬびはの流の繰り込み群の解説ではありませんが,素粒子物理に於ける繰り込み群の活用法について論じ

ていて読むととても勉強になります.私は大学院生の時にこれで勉強しました.また,リミットサイクルやカオスについては力学系の

教科書も参考にしました.大概どの力学系の教科書にも載っているので,ここでは敢えて文献は挙げません.

最後に,この講義では全く扱いませんが,しどぬびはのの繰り込み群は場の理論の連続極限〨連続空間上の場の理論の非摂動論的構成法〩に

ついても教えてくれます.これはかなり高級な話題なのですが,興味のある人は次の教科書で勉強すると良いでしょう〺

せ〹そ 江沢洋,渡辺敬二,鈴木増雄,田崎晴明,『くりこみ群の方法』〨岩波書店 〲〰〰〰年〩

せ〱〰そ 園田英徳,『今度こそわかるくりこみ理論』〨講談社 〲〰〱〴年〩

せ〹そは第〴章,せ〱〰そは教科書丸ごとが連続極限の話題になっています.また,ことちのにちひの教科書せ〵その第〱〴章にも連続極限の解説がありま

す.しどぬびはのの講義録せそでは第〱〲章及び第〱〳章が対応します.因みに園田さんは繰り込み群の講義ノートを幾つも書かれていて,私が

大学院生の頃に読んで勉強していたのは次の〲つです〺

せ〱〱そ 園田英徳,『連続極限のとり方』〨素粒子論研究 〱〰〹 のは〮 〵 〨〲〰〰〴〩 〳〵ほ〸〹〩

せ〱〲そ え〮 こはのはつち ぜしどぬびはの〧び げづのはひねちぬどぺちぴどはの ぇひはふば ちのつ ぉぴび ぁばばぬどっちぴどはのび どの ぐづひぴふひぢちぴどはの ごとづはひべ 〢

arXiv:hep-th/0603151

どちらもウェブ上で無料で入手出来ます.但し,とても難しいです.

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第5章

ε展開

d〨< dc 〽 〴〩次元φ4模型にはぇちふびび固定点の他にしどぬびはのうどびとづひ固定点が存在します.この章では上部臨界次元dcからのずれε 〽

dc − dに関する摂動論 ぼ ε展開 ぼ を用いて〴− ε次元φ4模型の臨界現象を調べます.

5.1 繰り込み群変換とキュムラント展開

この節のまとめ

• 〱成分スカラー場の理論を考える.スカラー場φを高運動量モードφhと低運動量モードφlに分けると,φhとφlが直交する事か

ら,理論空間Sに属する作用汎関数Sは必ず次の様に分解出来る〺

Sせφそ 〽 S0せφhそ S0せφlそ SIせφh, φlそ

但し,S0は場の〲次式だけから成る自由場の理論で,SIは上の分解の残り.高運動量モードφhを汎関数積分して得られる作

用S′tは次の様にキュムラント展開〨っふねふぬちのぴ づへばちのびどはの〩で書ける〺

−S′tせφlそ 〽 ぬはでZ0 − S0せφlそ ∞∑n=1

〨−〱〩n

n〡〈SnI 〉c

但し,〈SnI 〉cとZ0は自由場の理論S0せφhそに関するn次のキュムラントと分配関数.キュムラントは自由場の理論S0せφhそに関す

る期待値〈∗〉を用いて書き下せて,例えば最初の〳項は次の様に与えられる〺

〈SI〉c 〽 〈SI〉, 〈S2I 〉c 〽 〈S2

I 〉 − 〈SI〉2, 〈S3I 〉c 〽 〈S3

I 〉 − 〳〈S2I 〉〈SI〉 〲〈SI〉3

• d次元φ4模型

Sせφそ 〽

∫ddx

[〱

〲〨∇φ〩2

m0〃2

〲φ2

λ0〃4−d

〴〡φ4

]を繰り込み群変換すると,キュムラント展開の〱次の近似では,繰り込み群変換Rt 〺 S 7→ Stの固定点はぇちふびび固定点〨無質量

自由場の理論〩S∗ 〽12

∫ddx 〨∇φ〩2のみ.このぇちふびび固定点近傍の理論を繰り込み群変換したものは,線型近似の範囲で次の

様に表される〺

Stせφそ 〽 S∗ ∑n=1,2

gn〨t〩

∫ddxOn〨x〩 ぷどぴと gn〨t〩 〽 gn〨〰〩づ

λnt

但し,λ1 〽 〲 λ2 〽 〴 − dはぇちふびび固定点周りで線型化された繰り込み群変換の生成子L∗の固有値.O1 O2は対応する固有

ベクトル〨固有場〩で,次式で与えられる〺

O1〨x〩 〽〃2φ2〨x〩

〲ちのつ O2〨x〩 〽 −

C

d− 〲

〃2φ2〨x〩

〃4−dφ4〨x〩

〴〡

但し,C 〽 Ω(d)2(2π)d

.また,g1〨〰〩 〽 m20

Cd−2λ0 g2〨〰〩 〽 λ0で,d > 〴ではg1のみがひづぬづぶちのぴパラメータ.

第〴章で繰り込み群,繰り込み群のフロー方程式,固定点周りで線型化したフロー方程式,相関関数に対する繰り込み群方程式等の

一般論について割りと詳しく述べました.これらは全て分配関数を不変に保つ繰り込み群変換Rt 〺 S 7→ Stに基づいている訳ですが,

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〸 第〵章 ε展開

実はこの変換を実際に実行してSからStを構成するのは非常に困難です.第〴〮〱〮〲節で見た様に,繰り込み群変換はt ∈ 〨〰,∞〩を変換の

パラメータ,〃を理論のカットオフとした時,次の〳つの操作から成っていました〺

〱〮 高運動量モードの積分 ぼ カットオフ理論の高運動量モード|p| ∈ 〨づ−t〃,〃〩の自由度を積分する

〲〮 スケール変換 ぼ 理論のカットオフをづ−t〃から〃に戻す

〳〮 再規格化 ぼ 場を再定義して運動項を正しく規格化し直す

しかしながら,実際上は〱の汎関数積分の操作を厳密に実行するのは絶望的なほど困難です.一方,〲と〳の操作は〱が出来れば比較的

容易に行えます.通常,〱の操作は適当な近似の下で摂動論的に行うのですが,その際キュムラント展開〨っふねふぬちのぴ づへばちのびどはの〩が

非常に有用です.このキュムラント展開を用いると,第〳〮〱〮〳節で導入したしどっにの定理だけを用いて繰り込み群変換が行えます.以下,

まずキュムラント展開について簡単に学んだ後,φ4模型を例に繰り込み群変換をキュムラント展開の〱次のオーダーで実行してみまし

ょう.キュムラント展開の〱次では有名なしどぬびはのうどびとづひ固定点は現れないのですが,最初にやる練習問題としては充分です.

5.1.1 キュムラント展開

汎用性を持たせる為に少し抽象的な話から始めます.まずVを適当な線型空間,〈∗〉 〺 V → Cを次の線型性を満たす演算〨期待値を取

る操作〩としましょう〺

〈αx βy〉 〽 α〈x〉 β〈y〉, ∀x, y ∈ V, ∀α, β ∈ C 〨〵〮〱〮〱〩

後の繰り込み群変換で想定しているのはVとして理論空間Sを持って来た場合で,この時x ∈ Vは適当な汎関数です*1.さて,〈∗〉を上を満たす演算とした時,適当なx ∈ V,J ∈ Cに対して次が成り立ちます〺

〈づJx〉 〽

⟨ ∞∑n=0

Jn

n〡xn

〽∞∑n=0

Jn

n〡〈xn〉

〽 〱 ∞∑n=1

Jn

n〡〈xn〉 〨〵〮〱〮〲〩

ここで,〲番目の等号は線型性の仮定〨〵〮〱〮〱〩から従います.次に対数関数のごちべぬはひ展開

ぬはで〨〱 x〩 〽 −∞∑m=1

〨−〱〩m

mxm 〨〵〮〱〮〳〩

を用いてぬはで〈づJx〉 〽 ぬはで〨〱∑∞n=1

Jn

n! 〈xn〉〩を展開してJの冪級数として書き直す事を考えましょう.この展開は必ずJの冪の次数毎に

まとめ上げることが出来て,必ず次の形に持って行けます〺

ぬはで〈づJx〉 〽∞∑n=1

Jn

n〡〈xn〉c 〨〵〮〱〮〴〩

ここで〈xn〉cは〈x〉, 〈x2〉, · · · , 〈xn〉から作られるJに依存しない多項式で,n次のキュムラント〨nぴと っふねふぬちのぴ〩と呼びます.実際

にぬはで〨〱 ∑∞n=1

Jn

n! 〈xn〉〩を展開してJの冪で整理してみましょう.最初の数項なら次の様にして簡単に計算出来ます〺

ぬはで〈づJx〉 〽 ぬはで

(〱

∞∑n=1

Jn

n〡〈xn〉

)

〽 −∞∑m=1

〨−〱〩m

m

( ∞∑n=1

Jn

n〡〈xn〉

)m

(J〈x〉 J2

〲〡〈x2〉 J3

〳〡〈x3〉 J4

〴〡〈x4〉 · · ·

)− 〱

(J〈x〉 J2

〲〡〈x2〉 J3

〳〡〈x3〉 · · ·

)2

(J〈x〉 J2

〲〡〈x2〉 · · ·

)3

− 〱

〴〨J〈x〉 · · · 〩4 · · ·

*1 表4.2で述べた様に,厳密に言うと理論空間は和とスカラー倍の下で閉じていないので線型空間ではありません.しかし,これは規格化条件があるせいで,規格

化については一旦忘れると線型空間となります.実際,高運動量モードの積分の箇所では規格化は気にしなくて良いので,ここの議論がそのまま使えるのです.

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〵〮〱 繰り込み群変換とキュムラント展開 〹

〽 J〈x〉 J2

〲〡

(〈x2〉 − 〈x〉2

)J3

〳〡

(〈x3〉 − 〳〈x2〉〈x〉 〲〈x〉3

)J4

〴〡

(〈x4〉 − 〴〈x3〉〈x〉 − 〳〈x2〉2 〱〲〈x2〉〈x〉2 − 〈x〉4

) · · · 〨〵〮〱〮〵〩

これより〈x〉c 〈x2〉c 〈x3〉c 〈x4〉cが次の様に読み取れます〺

〈x〉c 〽 〈x〉 〨〵〮〱〮ち〩

〈x2〉c 〽 〈x2〉 − 〈x〉2 〽 〈〨x− 〈x〉〩2〉 〨〵〮〱〮ぢ〩

〈x3〉c 〽 〈x3〉 − 〳〈x2〉〈x〉 〲〈x〉3 〽 〈〨x− 〈x〉〩3〉 〨〵〮〱〮っ〩

〈x4〉c 〽 〈x4〉 − 〴〈x3〉〈x〉 − 〳〈x2〉2 〱〲〈x2〉〈x〉2 − 〈x〉4 〽 〈〨x− 〈x〉〩4〉 − 〳〈〨x− 〈x〉〩2〉2 〨〵〮〱〮つ〩

式〨〵〮〱〮〴〩で示したJの関数W 〨J〩 〽 ぬはで〈づJx〉をキュムラント母関数〨っふねふぬちのぴ でづのづひちぴどので てふのっぴどはの〩と呼びます.式〨〵〮〱〮〴〩は次式

と等価であることに注意しましょう〺

〈づJx〉 〽 づへば

( ∞∑n=1

Jn

n〡〈xn〉c

)〨〵〮〱〮〩

実際,両辺の対数を取ると式〨〵〮〱〮〴〩になります.以下の繰り込み群変換ではこの表式を用います.

5.1.2 繰り込み群変換とキュムラント展開

次に上のキュムラント展開を場の理論の繰り込み群変換に応用しましょう.簡単の為,〱成分スカラー場φの理論を考えます.

式〨〴〮〱〮〱〴〩でやった様に,繰り込み群変換ではまずφを次の様に低運動量モードと高運動量モードに分けます〺*2

φ〨x〩 〽 φl〨x〩 φh〨x〩 〨〵〮〱〮〸〩

但し,φlとφhは次の積分で定義されます〺

φl〨x〩 〽

∫|p|∈(0,e−tΛ)

ddp

〨〲π〩dまφl〨p〩づ

ip·x ちのつ φh〨x〩 〽

∫|p|∈(e−tΛ,Λ)

ddp

〨〲π〩dまφh〨p〩づ

ip·x 〨〵〮〱〮〹〩

この様にスカラー場φを〲つに分けた時,理論空間Sに属する作用汎関数Sせφそは必ず次の様に分解できます〺

Sせφそ 〽 S0せφlそ S0せφhそ SIせφl, φhそ 〨〵〮〱〮〱〰〩

ここで,S0は場の〲次式だけから成る作用汎関数で,SIは場の〳次以上の項から成る相互作用項です.多くの場合,S0は自由場の理論

で,簡単に確かめる事が出来る様にS0せφそ 〽 S0せφlそ S0せφhそとなります〺

S0せφそ 〽〱

∫ddx

[〨∇φ〩2 m2φ2

]〽

∫|p|∈(0,Λ)

ddp

〨〲π〩d(p2 m2

)まφ〨p〩まφ〨−p〩

〽〱

∫|p|∈(0,e−tΛ)

ddp

〨〲π〩d(p2 m2

)まφl〨p〩まφl〨−p〩

∫|p|∈(e−tΛ,Λ)

ddp

〨〲π〩d(p2 m2

)まφh〨p〩まφh〨−p〩

〽〱

∫ddx

[〨∇φl〩

2 m2φ2l

]

∫ddx

[〨∇φh〩

2 m2φ2h

]〽 S0せφlそ S0せφhそ 〨〵〮〱〮〱〱〩

この様に低運動量モードφlと高運動量モードφhは直交するので,場の〲次式の場合はφlとφhが混ざった項は現れません.しかし,〳次

以上の項はこの様には行かず,一般にφlとφhが混ざって式〨〵〮〱〮〱〰〩の様になります.

さて,第〴〮〱〮〲節で見た様に,繰り込み群変換の第〱の操作は,汎関数積分ZせSそ 〽∫Dφ づ−S[φ]のうちφhに関する積分を先に実行して

新たな作用積分S′tせφlそを作る,というものでした.分解〨〵〮〱〮〱〰〩を使うとこれは次の様に行われます〺

ZせSそ 〽

∫Dφ づ−S[φ]

*2 第4.1.2節では運動量表示でやりましたが,ここでは座標表示で議論する事にします.

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〸〰 第〵章 ε展開

∫DφlDφh づ−S0[φl]−S0[φh]−SI[φl,φh]

∫Dφl づ−S0[φl]

∫Dφh づ−S0[φh]−SI[φl,φh]

∫Dφl づ−S

′t[φl] 〨〵〮〱〮〱〲〩

但し,S′tは次の様に書き表されます〺

づ−S′t[φl] 〽 づ−S0[φl]

∫Dφh づ−S0[φh]−SI[φl,φh]

〽 Z0づ−S0[φl] · 〱

Z0

∫Dφh づ−SI[φl,φh]づ−S0[φh]

〽 Z0づ−S0[φl]

⟨づ−SI

⟩〨〵〮〱〮〱〳〩

但し,Z0 〽∫Dφh づ−S0[φh]です.期待値〈 · 〉はあはぬぴぺねちのの因子 づ−S0[φh]に関するもので,適当なφhの汎関数Oせφhそに対して次の様に

定義されます〺

〈O〉 〽 〱

Z0

∫DφhOせφhそづ−S0[φh] 〨〵〮〱〮〱〴〩

O1,O2を適当な汎関数,α, βを適当な数係数とすると,この様に定義された期待値は明らかに線型性 〈αO1 βO2〉 〽 α〈O1〉 β〈O2〉を満たすので,式〨〵〮〱〮〩と同様,〈づ−SI〉はキュムラントで書き表す事が出来て,次の様になります〺

⟨づ−SI

⟩〽 づへば

( ∞∑n=1

〨−〱〩n

n〡〈SnI 〉c

)〨〵〮〱〮〱〵〩

ここで,n次のキュムラント〈SnI 〉cの具体的表式は前節と全く同じで,特にn 〽 〱, 〲, 〳, 〴の場合は次の様になります〺

〈SI〉c 〽 〈SI〉 〨〵〮〱〮〱ち〩

〈S2I 〉c 〽 〈S2

I 〉 − 〈SI〉2 〽 〈〨SI − 〈SI〉〩2〉 〨〵〮〱〮〱ぢ〩

〈S3I 〉c 〽 〈S3

I 〉 − 〳〈S2I 〉〈SI〉 〲〈SI〉3 〽 〈〨SI − 〈SI〉〩3〉 〨〵〮〱〮〱っ〩

〈S4I 〉c 〽 〈S4

I 〉 − 〴〈S3I 〉〈SI〉 − 〳〈S2

I 〉2 〱〲〈S2I 〉〈SI〉2 − 〈SI〉4 〽 〈〨SI − 〈SI〉〩4〉 − 〳〈〨SI − 〈SI〉〩2〉2 〨〵〮〱〮〱つ〩

式〨〵〮〱〮〱〵〩を使って式〨〵〮〱〮〱〳〩の両辺の対数を取ると,結局,S′tは次の様なキュムラント展開で書けます〺

−S′tせφlそ 〽 ぬはでZ0 − S0せφlそ ∞∑n=1

〨−〱〩n

n〡〈SnI 〉c 〨〵〮〱〮〱〩

以下ではφ4模型を例に,このキュムラント展開を使って繰り込み群変換を具体的に実行して行きましょう.

5.1.3 具体例: φ4模型の繰り込み群変換

d次元のφ4模型を考えましょう.次の作用汎関数を考えます〺

Sせφそ 〽

∫ddx

[〱

〲〨∇φ〩2

m2

〲φ2

λ

〴〡φ4

]〨〵〮〱〮〱〸〩

先に進む前にここで質量次元〨ねちびび つどねづのびどはの〩について述べておきましょう.質量次元とは今やっている統計場の理論の文脈では

長さの次元の逆数の事で,例えば座標xの質量次元は−〱,微分∇の質量次元は〱になります.以下,或る量Xの質量次元をつどねせXそと

表すことにしましょう.まず,作用汎関数Sは指数関数の肩に載せるので無次元でなければならず,従ってつどねせSそ 〽 〰でなければなり

ません.つどねせSそ 〽 〰であれ,と要請する事で場φやパラメータm2, λの質量次元が決まって,次の様になります〺

つどねせφそ 〽d− 〲

〲, つどねせm2そ 〽 〲, つどねせλそ 〽 〴− d 〨〵〮〱〮〱〹〩

以下では質量次元を持ったパラメータは全てカットオフ〃を単位として測ると便利です.m20 λ0を無次元のパラメータとし

てm2 〽 m20〃

2 λ 〽 λ0〃4−dと書くと,式〨〵〮〱〮〱〸〩は次の様になります〺

Sせφそ 〽

∫ddx

[〱

〲〨∇φ〩2

m20〃

2

〲φ2

λ0〃4−d

〴〡φ4

]〨〵〮〱〮〲〰〩

以下,キュムラント展開〨〵〮〱〮〱〩を用いてこの理論を繰り込み群変換して行きます.

Page 91: 臨界現象と繰り込み群 - Nihon Universityaries.phys.cst.nihon-u.ac.jp › ~ohya › stat-mech › main.pdfぶ はじめに この講義では〲次相転移の臨界現象を繰り込み群の観点から解説します.主に次の〳つの事柄について学びます〺

〵〮〱 繰り込み群変換とキュムラント展開 〸〱

繰り込み群変換その1: 高運動量モードの積分

まず作用汎関数〨〵〮〱〮〲〰〩を式〨〵〮〱〮〱〰〩の様に場の〲次式とそれ以外に分解しましょう.式〨〵〮〱〮〲〰〩にφ 〽 φl φhを代入すると次の様に

なります〺

Sせφそ 〽 S0せφlそ S0せφhそ SIせφl, φhそ 〨〵〮〱〮〲〱〩

但し,

S0せφlそ 〽

∫ddx

[〱

〲〨∇φl〩

2 m2

0〃2

〲φ2l

]〨〵〮〱〮〲〲ち〩

S0せφhそ 〽

∫ddx

[〱

〲〨∇φh〩

2 m2

0〃2

〲φ2h

]〨〵〮〱〮〲〲ぢ〩

SIせφl, φhそ 〽

∫ddx

λ0〃4−d

〴〡〨φl φh〩

4

∫ddx

[λ0〃

4−d

〴〡φ4l

λ0〃4−d

〳〡φ3l φh

λ0〃4−d

〲〡〲〡φ2l φ

2h

λ0〃4−d

〳〡φlφ

3h

λ0〃4−d

〴〡φ4h

]〨〵〮〱〮〲〲っ〩

このSIはλ0に比例する事に注意しましょう.従って,キュムラント展開〨〵〮〱〮〱〩はλ0に関する冪級数展開と同じです.λ0の〲次のオー

ダーではS′tは次の様になります〺

−S′tせφlそ 〽 ぬはでZ0 − S0せφlそ− 〈SI〉c 〱

〲〡〈S2

I 〉c O〨λ30〩 〨〵〮〱〮〲〳〩

以下,まず〱次のキュムラント〈SI〉cを計算して行きましょう.期待値〈∗〉は自由場の理論〨〵〮〱〮〲〲ぢ〩に関するものなのでφhの奇数冪の項

は期待値を取ると消える事に注意すると,〱次のキュムラント〈SI〉cは次の様になります〺

〈SI〉c 〽 〈SI〉

∫ddx

[λ0〃

4−d

〴〡φ4l 〨x〩

λ0〃4−d

〲〡〲〡φ2l 〨x〩〈φ2

h〨x〩〉λ0〃

4−d

〴〡〈φ4h〨x〩〉

]〨〵〮〱〮〲〴〩

〲項目及び〳項目の〈φ2h〨x〩〉と 〈φ4

h〨x〩〉は第〳〮〱〮〳節でやったしどっにの定理で計算出来て,次の様になります〺

〈φ2h〨x〩〉 〽 〈φh〨x〩φh〨x〩〉

∫|k|∈(e−tΛ,Λ)

ddk

〨〲π〩d〱

k2 m20〃

2〨〵〮〱〮〲〵ち〩

〈φ4h〨x〩〉 〽 〈φh〨x〩φh〨x〩φh〨x〩φh〨x〩〉

〽 〈φh〨x〩φh〨x〩〉〈φh〨x〩φh〨x〩〉 〈φh〨x〩φh〨x〩〉〈φh〨x〩φh〨x〩〉 〈φh〨x〩φh〨x〩〉〈φh〨x〩φh〨x〩〉〽 〳〈φh〨x〩φh〨x〩〉〈φh〨x〩φh〨x〩〉

〽 〳

2∏j=1

∫|kj |∈(e−tΛ,Λ)

ddkj〨〲π〩d

k21 m2

0〃2

k22 m2

0〃2

〨〵〮〱〮〲〵ぢ〩

上の結果をまとめると,〱次のキュムラント〨〵〮〱〮〲〴〩は運動量表示で次の様になります〺

〈SI〉c 〽 Vλ0〃

4−d

〲3

2∏j=1

∫|kj |∈(e−tΛ,Λ)

ddkj〨〲π〩d

k21 m2

0〃2

k22 m2

0〃2

λ0〃

4−d

〲〡〲〡

∫|k|∈(e−tΛ,Λ)

ddk

〨〲π〩d〱

k2 m20〃

2

∫|p|∈(0,e−tΛ)

ddp

〨〲π〩dまφl〨p〩まφl〨−p〩

λ0〃

4−d

〴〡

4∏j=1

∫|pj |∈(0,e−tΛ)

ddpj〨〲π〩d

まφl〨p1〩まφl〨p2〩まφl〨p3〩まφl〨p4〩〨〲π〩dδd〨p1 p2 p3 p4〩 〨〵〮〱〮〲〩

但し,V 〽∫ddxは系の体積です.これを式〨〵〮〱〮〲〳〩に代入して整理すると,λ0の〱次のオーダーではS′tは次の様になります〺

−S′tせφlそ 〽 −V βfh

− 〱

〲〡

∫|p|<e−tΛ

ddp

〨〲π〩dS(2)〨p2〩まφl〨p〩まφl〨−p〩

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〸〲 第〵章 ε展開

− 〱

〴〡

4∏j=1

∫|pj |<e−tΛ

ddpj〨〲π〩d

S(4)〨p1,p2,p3,p4〩まφl〨p1〩まφl〨p2〩まφl〨p3〩まφl〨p4〩〨〲π〩dδd〨p1 p2 p3 p4〩

O〨λ20〩 〨〵〮〱〮〲〩

但し,

−βfh 〽〱

VぬはでZ0

−λ0〃4−d

〲3

2∏j=1

∫|kj |∈(e−tΛ,Λ)

ddkj〨〲π〩d

k21 m2

0〃2

k22 m2

0〃2

〨〵〮〱〮〲〸ち〩

−S(2)〨p2〩 〽 −(p2 m2

0〃2)−λ0〃

4−d

∫|k|∈(e−tΛ,Λ)

ddk

〨〲π〩d〱

k2 m20〃

2〨〵〮〱〮〲〸ぢ〩

−S(4)〨p1,p2,p3,p4〩 〽 −λ0〃4−d 〨〵〮〱〮〲〸っ〩

これでλ0の〱次近似の範囲による繰り込み群変換の第〱の操作が完了したことになります.第〴章の脚注〴及び〵で述べた様に,繰り込

み群変換をすると一般に場φlに依存しない定数項が生成されて,式〨〵〮〱〮〲〸ち〩がこれに対応します.この定数項は単位体積当たりの自

由エネルギーには効きますが,相関関数には一切影響を与えないので,通常は捨てます.このノートでも慣例に従って捨てる事にしま

す.

繰り込み群変換その2: スケール変換

高運動量モードの積分によって得られた新たな作用汎関数〨〵〮〱〮〲〩は,カットオフ〨運動量の上限〩がづ−t〃の場φlの理論になっ

てしまって,理論空間Sの要素とは看做せません.これを解消する為に,式〨〵〮〱〮〲〩の積分変数p,p1,p2,p3,p4を全て次の様にq, q1, q2, q3, q4に変数変換〨スケール変換〩します〺

p 〽 づ−tq ちのつ pi 〽 づ−tqi 〨i 〽 〱, 〲, 〳, 〴〩 〨〵〮〱〮〲〹〩

デルタ関数に対して成り立つ等式 δd〨づ−tq1 · · · づ−tq4〩 〽 づdtδd〨q1 · · · q4〩 に注意すると,この変数変換の下で式〨〵〮〱〮〲〩〨の定

数項は捨てたもの〩は次の様に書き換えられます〺

−S′tせφlそ 〽 −〱

〲〡

∫|q|<Λ

ddq

〨〲π〩dづ−dt

(づ−2tq2 m2

0〃2 − −λ0〃

4−d

∫|k|∈(e−tΛ,Λ)

ddk

〨〲π〩d〱

k2 m20〃

2

)まφl〨づ

−tq〩まφl〨−づ−tq〩

− λ0〃4−d

〴〡

4∏j=1

∫|qj |<Λ

ddqj〨〲π〩d

づ−3dt まφl〨づ−tq1〩 · · · まφl〨づ−tq4〩〨〲π〩

dδd〨q1 q2 q3 q4〩

O〨λ20〩 〨〵〮〱〮〳〰〩

繰り込み群変換その3: 再規格化

式〨〵〮〱〮〲〹〩のスケール変換を施すと,運動項の規格化が 12p

2 まφl〨p〩まφl〨−p〩 から 12づ−(d+2)tq2 まφl〨づ

−tq〩まφl〨−づ−tq〩 にずれてしまうので,式〨〵〮〱〮〳〰〩はまだ理論空間Sの要素とは看做せません.これを解消する為に,新たにスカラー場まφ〨q〩を次の様に再定義〨再規格化〩し

ます〺

まφ〨q〩 〺〽 づ−d+2

2 t まφl〨づ−tq〩

〽 づ−dtづd−2

2 t まφl〨づ−tq〩

〽 づ−dt√Z〨St〩まφl〨づ

−tq〩 〨〵〮〱〮〳〱〩

但し,√Z〨St〩 〽 づ

d−22 tで,これより、〨St〩が次の様に計算されます〺

、〨St〩 〽〱

d ぬはでZ〨St〩

dt

〽d ぬはで

√Z〨St〩

dt

〽d− 〲

〲〨〵〮〱〮〳〲〩

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〵〮〱 繰り込み群変換とキュムラント展開 〸〳

この再規格化の下で得られる作用汎関数を改めて Stせφそ 〽 S′tせづd+2

2 tφそ 〽 S′tせづdtZ−1/2〨St〩φそ と書く事にします.このStがスカラー場

の理論〨〵〮〱〮〲〰〩を繰り込み群変換Rt 〺 S 7→ Rt〨S〩 〽 Stして得られる場の理論の作用汎関数です.実際に まφl〨づ−tq〩 〽 づ

d+22 t まφ〨q〩 を

式〨〵〮〱〮〳〰〩に代入するとStは次の様に得られます〺

Stせφそ 〽〱

〲〡

∫|q|∈(0,Λ)

ddq

〨〲π〩d(q2 m2〨t〩〃2

)まφ〨q〩まφ〨−q〩

λ〨t〩〃4−d

〴〡

4∏j=1

∫|qj |∈(0,Λ)

ddqj〨〲π〩d

まφ〨q1〩まφ〨q2〩まφ〨q3〩まφ〨q4〩〨〲π〩dδd〨q1 q2 q3 q4〩

O〨λ20〩 〨〵〮〱〮〳〳〩

但し,m2〨t〩とλ〨t〩は次式で与えられます〺

m2〨t〩 〽 づ2t

(m2

0 λ0〃

2−d

∫|k|∈(e−tΛ,Λ)

ddk

〨〲π〩d〱

k2 m20〃

2

)O〨λ2

0〩 〨〵〮〱〮〳〴ち〩

λ〨t〩 〽 づ(4−d)tλ0 O〨λ20〩 〨〵〮〱〮〳〴ぢ〩

これでキュムラント展開の〱次のオーダーでの繰り込み群変換が完了しました.後で使うので〨〵〮〱〮〳〳〩の座標表示も書いておきましょ

う.Stの座標表示は次の様になります〺

Stせφそ 〽

∫ddx

[〱

〲〨∇φ〩2

m2〨t〩〃2

〲φ2

λ〨t〩〃4−d

〴〡φ4

]O〨λ2

0〩 〨〵〮〱〮〳〵〩

繰り込み群のフロー

最後にキュムラント展開の〱次のオーダーでの繰り込み群のフローを調べておきましょう.この為にまず式〨〵〮〱〮〳〴ち〩〲項目の積分を

扱い易い様に書き直しておきます.この積分は次の様に変形できます〺∫|k|∈(e−tΛ,Λ)

ddk

〨〲π〩d〱

k2 m20〃

2〽

《〨d〩

〨〲π〩d

∫ Λ

e−tΛ

dk kd−1 〱

k2 m0〃2

〽《〨d〩

〨〲π〩d〃d−2

∫ t

0

dxづ−(d−2)x

〱 m20づ

2x〨〵〮〱〮〳〩

但し,《〨d〩 〽 2πd/2

Γ(d/2)は〨d− 〱〩次元単位球面の表面積で,最後の等号は変数変換k 〽 〃づ−xから従います.これより

m2〨t〩 〽 づ2t

(m2

0 《〨d〩λ0

〲〨〲π〩d

∫ t

0

dxづ−(d−2)x

〱 m20づ

2x

)O〨λ2

0〩 〨〵〮〱〮〳ち〩

λ〨t〩 〽 づ(4−d)tλ0 O〨λ20〩 〨〵〮〱〮〳ぢ〩

を得ます.両辺をtで微分すると次のフロー方程式を得ます〺

d

dtm2〨t〩 〽 〲づ2t

(m2

0 《〨d〩λ0

〲〨〲π〩d

∫ t

0

dxづ−(d−2)x

〱 m20づ

2x

)

《〨d〩

〲〨〲π〩dλ0づ

(4−d)t

〱 m20づ

2tO〨λ2

0〩

〽 〲m2〨t〩 《〨d〩

〲〨〲π〩dλ〨t〩

〱 m2〨t〩O〨λ2

0〩 〨〵〮〱〮〳〸ち〩

d

dtλ〨t〩 〽 〨〴− d〩づ(4−d)tλ0 O〨λ2

0〩

〽 〨〴− d〩λ〨t〩 O〨λ20〩 〨〵〮〱〮〳〸ぢ〩

但し,λ0の〱次のオーダーでは λ0づ(4−d)t〨〱 m2〨t〩〩−1 〽 λ0づ

(4−d)t〨〱 m0づ2t〩−1 O〨λ2

0〩 となることを使いました.固定点

は ddtm

2〨t〩 〽 〰かつ ddtλ〨t〩 〽 〰となる点で,これは明らかに〨m2, λ〩 〽 〨〰, 〰〩のみです.m2 〽 λ 〽 〰なので,この固定点での作用汎関

数S∗は無質量自由場の理論です〺

S∗ 〽〱

∫ddx 〨∇φ〩2

〽〱

∫|p|∈(0,Λ)

ddp

〨〲π〩dp2 まφ〨p〩まφ〨−p〩 〨〵〮〱〮〳〹〩

Page 94: 臨界現象と繰り込み群 - Nihon Universityaries.phys.cst.nihon-u.ac.jp › ~ohya › stat-mech › main.pdfぶ はじめに この講義では〲次相転移の臨界現象を繰り込み群の観点から解説します.主に次の〳つの事柄について学びます〺

〸〴 第〵章 ε展開

m2

λ

0

Gauss固定点

Scr

S∞

図5.1: d(> 4)次元φ4模型の繰り込み群のフローの概形.赤色の1次元部分空間がrenormalized trajectory S∞で,緑色の余次元1の部分空間が臨界

面Scrを表します.Scr上の理論は全て臨界温度T = Tc直上の理論で,Scr近傍の理論は全て繰り込み群変換の下でS∞に漸近します.

自由場の理論の分配関数はぇちふびび型の汎関数積分なので,この固定点をぇちふびび固定点〨ぇちふびびどちの 「へづつ ばはどのぴ〩と呼びます.こ

のぇちふびび固定点周りでフロー方程式を線型化すると次の様になります〺

d

dt

(m2〨t〩λ〨t〩

)〽

(〲 Cd〰 〴− d

)(m2〨t〩λ〨t〩

), Cd 〽

《〨d〩

〲〨〲π〩d〨〵〮〱〮〴〰〩

右辺の正方行列の固有値λ1, λ2とそれらに属する固有ベクトルv1,v2は次の様になります〺

λ1 〽 〲, v1 〽 〨〱, 〰〩ᵀ 〨〵〮〱〮〴〱ち〩

λ2 〽 〴− d, v2 〽 〨− Cdd−2 , 〱〩

ᵀ 〨〵〮〱〮〴〱ぢ〩

d > 〴ではλ1だけが正の固有値で,λ2は負の固有値になる事に注意しましょう.従って,d > 〴では固有ベクトルv1で張られる〱次元部

分空間がひづのはひねちぬどぺづつ ぴひちなづっぴはひべ S∞で,固有ベクトルv2で張られる余次元〱の部分空間が臨界面Scrとなります.より明確に書くと,

これらの部分空間は〲次元〨m2, λ〩平面の次の部分空間です〺

S∞ 〽〨m2, λ〩 〺 λ 〽 〰

てはひ d > 〴 〨〵〮〱〮〴〲ち〩

Scr 〽

〨m2, λ〩 〺 m2

Cdd− 〲

λ 〽 〰

てはひ d > 〴 〨〵〮〱〮〴〲ぢ〩

これらの部分空間と共に,ぇちふびび固定点周りで線型化された繰り込み群のフローを図〵〮〱に示しました.

次に,第〴〮〲〮〱節で議論した固定点周りで線型化されたStを明確に書いておきましょう.まず固有ベクトルv1 v2に対応する固有

場O1〨x〩 O2〨x〩を次の様に導入します〺*3

O1〨x〩 〽 〱 · 〃2

〲φ2〨x〩 〰 · 〃

4−d

〴〡φ4〨x〩 〨〵〮〱〮〴〳ち〩

O2〨x〩 〽 −Cdd− 〲

· 〃2

〲φ2〨x〩 〱 · 〃

4−d

〴〡φ4〨x〩 〨〵〮〱〮〴〳ぢ〩

この様にして定義された場O1 O2を用いると,ぇちふびび固定点〨〵〮〱〮〳〹〩近傍の理論Sを繰り込み群変換したものは,線型近似の範囲で次

の様に書けます〺

Stせφそ 〽 S∗ ∑n=1,2

gn〨t〩

∫ddxOn〨x〩 ぷどぴと gn〨t〩 〽 gn〨〰〩づ

λnt 〨〵〮〱〮〴〴〩

但し,g1〨〰〩, g2〨〰〩はm20, λ0を用いて次の様に表されます〺

g1〨〰〩 〽 m20

Cdd− 〲

λ0 〨〵〮〱〮〴〵ち〩

g2〨〰〩 〽 λ0 〨〵〮〱〮〴〵ぢ〩

d > 〴ではg1のみがひづぬづぶちのぴパラメータで,実際,g1 〽 〰の部分空間が臨界面〨〵〮〱〮〴〲ぢ〩となっています.一方,g2はd > 〴で

はどひひづぬづぶちのぴパラメータで,実際,g2 〽 〰の部分空間がひづのはひねちぬどぺづつ ぴひちなづっぴはひべ 〨〵〮〱〮〴〲ち〩となっています.ここで,式〨〵〮〱〮〴〴〩がどこ

から出て来たのか不思議に思うかもしれないので,簡単に導出しておきましょう.まず,式〨〵〮〱〮〳ち〩と〨〵〮〱〮〳ぢ〩を 〨m20, λ0〩 〽 〨〰, 〰〩周

りで線型化すると次の様になります〺

m2〨t〩 〽 づ2t

(m2

0 Cdλ0

∫ t

0

dx づ−(d−2)x

)*3 第4.2.1節で固有汎関数と呼んでいたものは,ここで言う

∫ddxOn(x)の事です.

Page 95: 臨界現象と繰り込み群 - Nihon Universityaries.phys.cst.nihon-u.ac.jp › ~ohya › stat-mech › main.pdfぶ はじめに この講義では〲次相転移の臨界現象を繰り込み群の観点から解説します.主に次の〳つの事柄について学びます〺

〵〮〱 繰り込み群変換とキュムラント展開 〸〵

〽 づ2t

(m2

0 Cdλ0

[−づ−(d−2)x

d− 〲

]x=t

x=0

)

(m2

0 Cdd− 〲

λ0

)づ2t − Cd

d− 〲λ0づ

(4−d)t 〨〵〮〱〮〴ち〩

λ〨t〩 〽 λ0づ(4−d)t 〨〵〮〱〮〴ぢ〩

このぇちふびび固定点周りで線型化したm2〨t〩, λ〨t〩を式〨〵〮〱〮〳〵〩に代入して,更にΛ2

2 φ2 〽 O1

Λ4−d

4! φ4 〽 O2 Cdd−2O1 を代入すると,

繰り込み群変換した理論〨〵〮〱〮〳〵〩は次の様に書けます〺

Stせφそ 〽

∫ddx

[〱

〲〨∇φ〩2

m2〨t〩〃2

〲φ2

λ〨t〩〃4−d

〴〡φ4

]〽

∫ddx

[〱

〲〨∇φ〩2

(m2

0 Cdd− 〲

λ0

)づ2t − Cd

d− 〲λ0づ

(4−d)t

O1 λ0づ

(4−d)t

(O2

Cdd− 〲

O1

)]〽 S∗

(m2

0 Cdd− 〲

λ0

)づ2t

∫ddxO1 λ0づ

(4−d)t

∫ddxO2

〽 S∗ g1〨〰〩づ2t

∫ddxO1 g2〨〰〩づ

(4−d)t

∫ddxO2 〨〵〮〱〮〴〩

これは式〨〵〮〱〮〴〴〩に他なりません.この表式から明らかですが,d > 〴では繰り込み群変換の下でStはS∞上の理論に漸近して行きます.また,d > 〴ではひづぬづぶちのぴパラメータg1がτ 〽 〨T − Tc〩/Tcと同一視されます.τ → 〰と臨界温度にチューニングする事が,g1 → 〰と理

論を臨界面上にチューニングする事に対応している訳です.

臨界指数

最後にd > 〴の臨界指数を繰り込み群から求めておきましょう.第〴〮〳節で見た様に,臨界指数を求める為に必要なのはλ1と、〨S∗〩で

すが,式〨〵〮〱〮〴〱ち〩よりλ1 〽 〲で,式〨〵〮〱〮〳〲〩より、〨S∗〩 〽d−2

2 と既に求まっています.これらを表〴〮〳にまとめた表式に代入すると,

臨界指数が次の様に求まります〺

α 〽 〲− d

λ1〽

〴− d〲

〨〵〮〱〮〴〸ち〩

β 〽、〨S∗〩

λ1〽d− 〲

〴〨〵〮〱〮〴〸ぢ〩

γ 〽d− 〲、〨S∗〩

λ1〽 〱 〨〵〮〱〮〴〸っ〩

δ 〽d

、〨S∗〩− 〱 〽

d 〲

d− 〲〨〵〮〱〮〴〸つ〩

ν 〽〱

λ1〽

〲〨〵〮〱〮〴〸づ〩

η 〽 〲、〨S∗〩− d 〲 〽 〰 〨〵〮〱〮〴〸て〩

ここで,γ, ν, ηを除いて,これらは平均場近似の結果とずれていることに注意しましょう.第〳〮〳節で議論した様に,d > 〴では平均

場近似の結果が厳密な臨界指数を与える筈ですが,それとは食い違っています.これは前章脚注〱〵で述べた様に,g2が所謂つちのでづひはふび

どひひづぬづぶちのぴ ばちひちねづぴづひだからで,この場合,実は第〴〮〳〮〱の議論が破綻しています.但し,この辺の議論は少し面倒なので,ここではこ

れ以上踏み込まない事にしましょう.次節で扱うd < 〴ではこの様な事は起きません.

以上,主にd > 〴の場合を調べてきましたが,最後にd < 〴の場合を簡単に述べてこの節を終わりにしましょう.キュムラント展開

の〱次の近似では,d < 〴ではひづぬづぶちのぴパラメータが〲つで,臨界面は〨m2, λ〩 〽 〨〰, 〰〩の固定点のみです.従って,理論をT 〽 Tcに追

いやる為には〲つのひづぬづぶちのぴパラメータをゼロにチューニングしないといけないのですが,これはぉびどので模型での経験と相容れません.

ぉびどので模型では,外部磁場がゼロの時は実質温度だけが理論のパラメータで,この温度パラメータ〱つだけをT 〽 Tcにチューニングすれ

ば臨界温度の理論に追いやる事が出来たからです.ぇどのぺぢふひでがちのつちふパラダイムの観点からはφ4模型もぉびどので模型と同じ普遍類に属し

ている筈ですが,キュムラント展開の〱次近似の解析結果はこれと矛盾してしまっています.実はこれは近似のせいで,λ0の〲次の寄

与まで取り入れた時にλ〨t〩のフロー方程式が

d

dtλ〨t〩 〽 〨〴− d〩λ〨t〩−Aλ2〨t〩 O〨λ3

0〩 〨〵〮〱〮〴〹〩

となっていれば,λ 〽 〰の固定点の他にλ 〽 〨〴− d〩/Aの固定点が有り得て,その固定点近傍でのひづぬづぶちのぴパラメータは〱つだけである

可能性があります.次節でλ0の〲次の項まで取り入れると確かにこれが起こっている事を見ます.

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〸 第〵章 ε展開

5.2 Wilson-Fisher固定点

この節のまとめ

• φ4模型で高運動量モードの積分を実行すると,キュムラント展開の〲次のオーダーではS′tは次の様になる〺

−S′tせφlそ 〽 −V βfh

− 〱

〲〡

∫|p|<e−tΛ

ddp

〨〲π〩dS(2)〨p2〩まφl〨p〩まφl〨−p〩

− 〱

〴〡

4∏j=1

∫|pj |<e−tΛ

ddpj〨〲π〩d

S(4)〨p1, · · · ,p4〩まφl〨p1〩 · · · まφl〨p4〩〨〲π〩dδd〨p1 · · · p4〩

− 〱

6∏j=1

∫|pj |<e−tΛ

ddpj〨〲π〩d

S(6)〨p1, · · · ,p6〩まφl〨p1〩 · · · まφl〨p6〩〨〲π〩dδd〨p1 · · · p6〩

ここで,βfh S(2) S(4) S(6)は結合定数の〲次のオーダーでの連結ダイアグラム〨っはののづっぴづつ つどちでひちね〩の寄与から成り,

うづべのねちの図を用いると次の様に表される〺

−βfh 〽〱

VぬはでZ0

〲3

〲 · 〴〡

〲4

−S(2)〨p2〩 〽 − 〨 〩−1

〳〡

〲2

−S(4)〨p1, · · · ,p4〩 〽 〱

(

)−S(6)〨p1, · · · ,p6〩 〽 〨残り〹項〩

この様に多くの項が出て来るが,繰り込み群のフローで考慮すれば良いのは〱粒子既約なダイアグラム〨はのづばちひぴどっぬづ どひひづ

つふっどぢぬづ つどちでひちね〩のみ.これは今の例では下のつだけ〺

実際は〲番目と〳番目は〲ループ図なので,〱ループ近似の範囲で計算すべきは〱 〴 〵 番目のうづべのねちの図だけ.

• 〱ループ近似での繰り込み群のフロー方程式は次の様になる〺

d

dtm2〨t〩 〽 〲m〨t〩

Cdλ〨t〩

〱 m2〨t〩

d

dtλ〨t〩 〽 ελ〨t〩− 〳Cdλ

2〨t〩

〨〱 m2〨t〩〩2

但し,ε 〽 〴−d Cd 〽 Ω(d)2(2π)d

〽 1(4π)d/2Γ(d/2)

.左辺が共にゼロになる繰り込み群変換の固定点〨m2∗, λ∗〩は〲つあって,εの〱次

のオーダーで次の様に与えられる〺

〨m2∗, λ∗〩 〽

〨〰, 〰〩 〨ぇちふびび固定点〩

〨− ε6 ,

16π2

3 ε〩 〨しどぬびはのうどびとづひ固定点〩

• しどぬびはのうどびとづひ固定点周りで線型化したフロー方程式は,εの〱次近似で次の様になる〺

d

dt

(m2〨t〩−m2

∗λ〨t〩− λ∗

)〽

(〲− ε

31

16π2 〨〱 O〨ε〩〩〰 −ε

)(m2〨t〩−m2

∗λ〨t〩− λ∗

)右辺の正方行列の固有値はλ1 〽 〲− ε

3とλ2 〽 −εの〲つで,これより臨界指数νがεの〱次近似で次の様に求まる〺

ν 〽〱

〲− ε3

〽〱

ε

〱〲O〨ε2〩

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〵〮〲 しどぬびはのうどびとづひ固定点 〸

• 〱ループ近似では,しどぬびはのうどびとづひ固定点S∗でのφのスケーリング次元は、〨S∗〩 〽 〨d − 〲〩/〲.よって臨界指数ηは平均場近似

の結果と変わらず次の様になる〺

η 〽 〲、〨S∗〩− d 〲 〽 〰 O〨ε2〩

これは〱ループ図 ではループ内に外線運動量が流れ込まない為で,〲ループ図 まで考えるとηは非ゼロの有限値

を取る.

前節ではキュムラント展開の〱次のオーダーで繰り込み群変換を実行し,パラメータm2, λに対するフロー方程式を得ました.キュムラント展開はλ0に関する冪級数展開と同じだったので,m

2に対するフロー方程式はλの補正項が入っていましたが,λに対するフ

ロー方程式はλ自身がλの〱次のオーダーなので,その補正項は〱次のキュムラント展開には含まれていません.補正項はλ2のオーダー

から現れます.この節ではキュムラント展開の〲次のオーダー*4まで計算して,d〨< 〴〩次元のφ4模型の臨界現象を調べます.記法の簡

単化の為,以下ではカットオフ〃が〱になる単位系で議論します〺

〃 〽 〱 〨〵〮〲〮〱〩

次の第〵〮〲〮〱節はほぼ計算のみなので,うづべのねちの則を知っている人や自分で計算出来る人は読み飛ばして良いです.

5.2.1 2次のキュムラント

第〵〮〱〮〳節と同じ問題設定で,φ4模型の高運動量モードの積分を〲次のキュムラント〈S2I 〉c 〽 〈S2

I 〉 − 〈SI〉2のオーダーまで計算しましょう.φhの奇数冪は期待値を取るとゼロになる事に注意すると,まず〈S2

I 〉は次の様に計算されます〺

〈S2I 〉 〽

∫ddx

∫ddy

λ0

〴〡

λ0

〴〡

⟨〨φl〨x〩 φh〨x〩〩

4〨φl〨y〩 φh〨y〩〩

4⟩

∫ddx

∫ddy

λ20

〴〡〴〡〈φ4h〨x〩φ

4h〨y〩〉

∫ddx

∫ddy

λ20

〳〡〳〡〈φ3h〨x〩φ

3h〨y〩〉φl〨x〩φl〨y〩

∫ddx

∫ddy

〲λ20

〴〡〲〡〲〡〈φ2h〨x〩φ

4h〨y〩〉φ2

l 〨x〩

∫ddx

∫ddy

λ20

〲〡〲〡〲〡〲〡〈φ2h〨x〩φ

2h〨y〩〉φ2

l 〨x〩φ2l 〨y〩

∫ddx

∫ddy

〲λ20

〳〡〳〡〈φh〨x〩φ3

h〨y〩〉φ3l 〨x〩φl〨y〩

∫ddx

∫ddy

〲λ20

〴〡〴〡〈φ4h〨x〩〉φ4

l 〨y〩

∫ddx

∫ddy

λ20

〳〡〳〡〈φh〨x〩φh〨y〩〉φ3

l 〨x〩φ3l 〨y〩

∫ddx

∫ddy

〲λ20

〴〡〲〡〲〡〈φ2h〨x〩〉φ2

l 〨x〩φ4l 〨y〩

∫ddx

∫ddy

λ20

〴〡〴〡φ4l 〨x〩φ

4l 〨y〩 〨〵〮〲〮〲〩

これから式〨〵〮〱〮〲〴〩を使って〈SI〉2を差っ引くと〲次のキュムラントが次の様に得られます〺

〈S2I 〉c 〽

∫ddx

∫ddy

λ20

〴〡〴〡

(〈φ4h〨x〩φ

4h〨y〩〉 − 〈φ4

h〨x〩〉〈φ4h〨y〩〉

)

∫ddx

∫ddy

λ20

〳〡〳〡〈φ3h〨x〩φ

3h〨y〩〉φl〨x〩φl〨y〩

∫ddx

∫ddy

〲λ20

〴〡〲〡〲〡

(〈φ2h〨x〩φ

4h〨y〩〉 − 〈φ2

h〨x〩〉〈φ4h〨y〩〉

)φ2l 〨x〩

∫ddx

∫ddy

λ20

〲〡〲〡〲〡〲〡

(〈φ2h〨x〩φ

2h〨y〩〉 − 〈φ2

h〨x〩〉〈φ2h〨y〩〉

)φ2l 〨x〩φ

2l 〨y〩

*4 実際は2次のキュムラントを全て計算する必要はありませんが,何を計算すれば良いのか判断するにはある程度経験が必要なので,最初は愚直に全て計算した方

が良いです.因みに上のまとめではFeynman図を用いて表しましたが,本文ではFeynman則については一切説明しません.

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〸〸 第〵章 ε展開

∫ddx

∫ddy

〲λ20

〳〡〳〡〈φh〨x〩φ3

h〨y〩〉φ3l 〨x〩φl〨y〩

∫ddx

∫ddy

λ20

〳〡〳〡〈φh〨x〩φh〨y〩〉φ3

l 〨x〩φ3l 〨y〩 〨〵〮〲〮〳〩

後はしどっにの定理を使って各行に登場する相関関数を評価していけば良いだけです.これはやれば出来る問題なので詳細は書きません

が,計算すると次の様に全て〲点相関関数の積で書けます〺

〈φ4h〨x〩φ

4h〨y〩〉 − 〈φ4

h〨x〩〉〈φ4h〨y〩〉 〽 〴〡〈φh〨x〩φh〨y〩〉4 〲〈φ2

h〨x〩〉〈φh〨x〩φh〨y〩〉2〈φ2h〨y〩〉 〨〵〮〲〮〴ち〩

〈φ3h〨x〩φ

3h〨y〩〉 〽 〈φh〨x〩φh〨y〩〉3 〹〈φ2

h〨x〩〉〈φh〨x〩φh〨y〩〉〈φ2h〨y〩〉 〨〵〮〲〮〴ぢ〩

〈φ2h〨x〩φ

4h〨y〩〉 − 〈φ2

h〨x〩〉〈φ4h〨y〩〉 〽 〱〲〈φh〨x〩φh〨y〩〉2〈φ2

h〨y〩〉 〨〵〮〲〮〴っ〩

〈φ2h〨x〩φ

2h〨y〩〉 − 〈φ2

h〨x〩〉〈φ2h〨y〩〉 〽 〲〈φh〨x〩φh〨y〩〉2 〨〵〮〲〮〴つ〩

〈φh〨x〩φ3h〨y〩〉 〽 〳〈φh〨x〩φh〨y〩〉〈φ2

h〨y〩〉 〨〵〮〲〮〴づ〩

これらを式〨〵〮〲〮〳〩に代入すると次の様になります〺

〈S2I 〉c 〽

∫ddx

∫ddy

(λ2

0

〴〡〈φh〨x〩φh〨y〩〉4

λ20

〲3〈φ2h〨x〩〉〈φh〨x〩φh〨y〩〉2〈φ2

h〨y〩〉)

∫ddx

∫ddy

(λ2

0

〳〈φh〨x〩φh〨y〩〉3

λ20

〲2〈φ2h〨x〩〉〈φh〨x〩φh〨y〩〉〈φ2

h〨y〩〉)φl〨x〩φl〨y〩

∫ddx

∫ddy

λ20

〲2〈φh〨x〩φh〨y〩〉2〈φ2

h〨y〩〉φ2l 〨x〩

∫ddx

∫ddy

λ20

〲3〈φh〨x〩φh〨y〩〉2φ2

l 〨x〩φ2l 〨y〩

∫ddx

∫ddy

λ20

〳〡〈φh〨x〩φh〨y〩〉〈φ2

h〨y〩〉φ3l 〨x〩φl〨y〩

∫ddx

∫ddy

λ20

〳〡〳〡〈φh〨x〩φh〨y〩〉φ3

l 〨x〩φ3l 〨y〩 〨〵〮〲〮〵〩

次にこれを運動量空間での表式に書き換えましょう.〲点相関関数〈φh〨x〩φh〨y〩〉及び低運動量モードφl〨x〩の積分表示

〈φh〨x〩φh〨y〩〉 〽∫|k|∈(e−t,1)

ddk

〨〲π〩dづik·(x−y)

k2 m20

〨〵〮〲〮ち〩

φl〨x〩 〽

∫|p|∈(0,e−t)

ddp

〨〲π〩dまφl〨p〩づ

ip·x 〨〵〮〲〮ぢ〩

を代入してx積分とy積分を実行すると,式〨〵〮〲〮〵〩の各項は次の様に書き換えられます〺*5

〨〱行目第〱項〩 〽λ2

0

〴〡

∫ddx

∫ddy

4∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

づik1·(x−y)

k21 m2

0

づik2·(x−y)

k22 m2

0

づik3·(x−y)

k23 m2

0

づik4·(x−y)

k24 m2

0

〽 Vλ2

0

〴〡

4∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

k21 m2

0

k22 m2

0

k23 m2

0

k24 m2

0

〨〲π〩dδd〨k1 k2 k3 k4〩

〽 Vλ2

0

〴〡

3∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

k21 m2

0

k22 m2

0

k23 m2

0

〨k1 k2 k3〩2 m20

〨〵〮〲〮ち〩

〨〱行目第〲項〩 〽λ2

0

〲3

∫ddx

∫ddy

4∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

k21 m2

0

づik2·(x−y)

k22 m2

0

づik3·(x−y)

k23 m2

0

k24 m2

0

〽 Vλ2

0

〲3

4∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

k21 m2

0

k22 m2

0

k23 m2

0

k24 m2

0

〨〲π〩dδd〨k2 k3〩

*5 以下の計算ではデルタ関数の積分を少しいい加減にやっています.例えば式(5.2.7a)ではデルタ関数δd(k1 + k2 + k3 + k4)を使ってk4積分を実行し,k4と

書いていたものを単に−(k1 + k2 + k3)に置き換えていますが,元々k4の積分範囲は|k4| ∈ (e−t, 1)だったので,式(5.2.7a)最後のk1, k2, k3積分の積

分範囲は正確には|kj | ∈ (e−t, 1)かつ |k1 + k2 + k3| ∈ (e−t, 1)となります.他の積分についても同様ですが,この辺をちゃんとやっても最終的な結果

は(5.2.12a)と(5.2.12b)になるので,ここでは記法の簡略化の為にいい加減にやっています.

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〵〮〲 しどぬびはのうどびとづひ固定点 〸〹

〽 Vλ2

0

〲3

∏j=1,2,4

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

k21 m2

0

〨k22 m2

0〩2

k24 m2

0

〨〵〮〲〮ぢ〩

〨〲行目第〱項〩 〽λ2

0

∫ddx

∫ddy

3∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

[ 2∏n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]づik1·(x−y)

k21 m2

0

づik2·(x−y)

k22 m2

0

づik3·(x−y)

k23 m2

0

× まφl〨p1〩づip1·x まφl〨p2〩づ

ip2·y

〽λ2

0

3∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

[ 2∏n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]〱

k21 m2

0

k22 m2

0

k23 m2

0

まφl〨p1〩まφl〨p2〩

× 〨〲π〩dδd〨p1 k1 k2 k3〩〨〲π〩dδd〨p2 − k1 − k2 − k3〩

〽λ2

0

2∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

∫|p1|∈(0,e−t)

ddp1

〨〲π〩d〱

k21 m2

0

k22 m2

0

〨p1 k1 k2〩2 m20

まφl〨p1〩まφl〨−p1〩 〨〵〮〲〮っ〩

〨〲行目第〲項〩 〽λ2

0

〲2

∫ddx

∫ddy

3∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

[ 2∏n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]〱

k21 m2

0

づik2·(x−y)

k22 m2

0

k23 m2

0

× まφl〨p1〩づip1·x まφl〨p2〩づ

ip2·y

〽λ2

0

〲2

3∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

[ 2∏n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]〱

k21 m2

0

k22 m2

0

k23 m2

0

まφl〨p1〩まφl〨p2〩

× 〨〲π〩dδd〨p1 k2〩〨〲π〩dδd〨p2 − k2〩

〽 〰 〨〵〮〲〮つ〩

〨〳行目〩 〽λ2

0

〲2

∫ddx

∫ddy

3∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

[ 2∏n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]づik1·(x−y)

k21 m2

0

づik2·(x−y)

k22 m2

0

k23 m2

0

× まφl〨p1〩づip1·x まφl〨p2〩づ

ip2·x

〽λ2

0

〲2

3∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

[ 2∏n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]〱

k21 m2

0

k22 m2

0

k23 m2

0

まφl〨p1〩まφl〨p2〩

× 〨〲π〩dδd〨p1 p2 k1 k2〩〨〲π〩dδd〨k1 k2〩

〽λ2

0

〲2

∏j=1,3

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

∫|p1|∈(0,e−t)

ddp1

〨〲π〩d〱

〨k21 m2

0〩2

k23 m2

0

まφl〨p1〩まφl〨−p1〩 〨〵〮〲〮づ〩

〨〴行目〩 〽λ2

0

〲3

∫ddx

∫ddy

2∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

[ 4∏n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]づik1·(x−y)

k21 m2

0

づik2·(x−y)

k22 m2

0

× まφl〨p1〩づip1·x まφl〨p2〩づ

ip2·x まφl〨p3〩づip3·y まφl〨p4〩づ

ip4·y

〽λ2

0

〲3

2∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

[ 4∏n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]〱

k21 m2

0

k22 m2

0

まφl〨p1〩まφl〨p2〩まφl〨p3〩まφl〨p4〩

× 〨〲π〩dδd〨p1 p2 k1 k2〩〨〲π〩dδd〨p3 p4 − k1 − k2〩

〽λ2

0

〲3

∫|k1|∈(e−t,1)

ddk1

〨〲π〩d

[4∏

n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]〱

k21 m2

0

〨p1 p2 k1〩2 m20

× まφl〨p1〩まφl〨p2〩まφl〨p3〩まφl〨p4〩〨〲π〩dδd〨p1 p2 p3 p4〩

〽λ2

0

〳 · 〲3

∫|k1|∈(e−t,1)

ddk1

〨〲π〩d

[4∏

n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]〱

k21 m2

0

×[

〨p1 p2 k1〩2 m20

〨p1 p3 k1〩2 m20

〨p1 p4 k1〩2 m20

]× まφl〨p1〩まφl〨p2〩まφl〨p3〩まφl〨p4〩〨〲π〩

dδd〨p1 p2 p3 p4〩 〨〵〮〲〮て〩

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〹〰 第〵章 ε展開

〨〵行目〩 〽λ2

0

〳〡

∫ddx

∫ddy

2∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

[ 4∏n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]づik1·(x−y)

k21 m2

0

k22 m2

0

× まφl〨p1〩づip1·x まφl〨p2〩づ

ip2·x まφl〨p3〩づip3·x まφl〨p4〩づ

ip4·y

〽λ2

0

〳〡

2∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

[ 4∏n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]〱

k21 m2

0

k22 m2

0

まφl〨p1〩まφl〨p2〩まφl〨p3〩まφl〨p4〩

× 〨〲π〩dδd〨p1 p2 p3 k1〩〨〲π〩dδd〨p4 − k1〩

〽 〰 〨〵〮〲〮で〩

〨行目〩 〽λ2

0

〳〡〳〡

∫ddx

∫ddy

∫|k|∈(e−t,1)

ddk

〨〲π〩d

[6∏

n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]づik·(x−y)

k2 m20

× まφl〨p1〩づip1·x まφl〨p2〩づ

ip2·x まφl〨p3〩づip3·x まφl〨p4〩づ

ip4·y まφl〨p5〩づip5·y まφl〨p6〩づ

ip6·y

〽λ2

0

〳〡〳〡

∫|k|∈(e−t,1)

ddk

〨〲π〩d

[6∏

n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]〱

k2 m20

まφl〨p1〩まφl〨p2〩まφl〨p3〩まφl〨p4〩まφl〨p5〩まφl〨p6〩

× 〨〲π〩dδd〨p1 p2 p3 k〩〨〲π〩dδd〨p4 p5 p6 − k〩

〽λ2

0

〳〡〳〡

[6∏

n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

]〱

〨p1 p2 p3〩2 m20

まφl〨p1〩まφl〨p2〩まφl〨p3〩まφl〨p4〩まφl〨p5〩まφl〨p6〩

× 〨〲π〩dδd〨p1 p2 p3 p4 p5 p6〩

〽λ2

0

〱〰 · 〳〡〳〡

[6∏

n=1

∫|pn|∈(0,e−t)

ddpn〨〲π〩d

] [〱

〨p1 p2 p3〩2 m20

〨p1 p2 p4〩2 m20

〨p1 p2 p5〩2 m20

〨p1 p2 p6〩2 m20

〨p1 p3 p4〩2 m20

〨p1 p3 p5〩2 m20

〨p1 p3 p6〩2 m20

〨p1 p4 p5〩2 m20

〨p1 p4 p6〩2 m20

〨p1 p5 p6〩2 m20

]まφl〨p1〩まφl〨p2〩まφl〨p3〩まφl〨p4〩まφl〨p5〩まφl〨p6〩

× 〨〲π〩dδd〨p1 p2 p3 p4 p5 p6〩 〨〵〮〲〮と〩

但し,式〨〵〮〲〮ち〩と〨〵〮〲〮ぢ〩のV 〽∫ddxは系の体積です.また,式〨〵〮〲〮つ〩と〨〵〮〲〮で〩では,上限がづ−tの運動量pと下限がづ−tの運動

量kが等しくなる事は無いので,δd〨p− k〩 〽 〰が成り立つ事を使いました.また,式〨〵〮〲〮て〩と〨〵〮〲〮と〩では,積分変数p1,p2, · · · について対称化を行いました*6.以上の結果〨〵〮〲〮ち〩ほ〨〵〮〲〮と〩と,前節のキュムラント展開の〱次の結果〨〵〮〱〮〲〸ち〩ほ〨〵〮〱〮〲〸っ〩を使ってまと

めると,λ0の〲次のオーダーではS′tは次の様になります〺

−S′tせφlそ 〽 ぬはでZ0 − S0せφlそ− 〈SI〉c 〱

〲〡〈S2

I 〉c O〨λ30〩

〽 −V βfh

− 〱

〲〡

∫|p|∈(0,e−t)

ddp

〨〲π〩dS(2)〨p2〩まφl〨p〩まφl〨−p〩

− 〱

〴〡

4∏j=1

∫|pj |∈(0,e−t)

ddpj〨〲π〩d

S(4)〨p1, · · · ,p4〩まφl〨p1〩 · · · まφl〨p4〩〨〲π〩dδd〨p1 · · · p4〩

− 〱

6∏j=1

∫|pj |∈(0,e−t)

ddpj〨〲π〩d

S(6)〨p1, · · · ,p6〩まφl〨p1〩 · · · まφl〨p6〩〨〲π〩dδd〨p1 · · · p6〩

O〨λ30〩 〨〵〮〲〮〸〩

*6 任意の0 ≤ i, j ≤ nに対して等式 φl(p1) · · · φl(pi) · · · φl(pj) · · · φl(pn) = φl(p1) · · · φl(pj) · · · φl(pi) · · · φl(pn) が成り立つので,係数もこの対称性

S(n)(p1, · · · ,pi, · · · ,pj , · · · ,pn) = S(n)(p1, · · · ,pj , · · · ,pi, · · · ,pn) を持っていなければなりません.デルタ関数δd(p1 + · · · + pn)による運動量保存

則も加味して,この変数の入れ替えの下での対称性が明白になる様に式(5.2.7f)では全体の積分としては同じものを3つ足して3で割り,式(5.2.7h)では全体の積

分としては同じものを10個足して10で割っています.

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〵〮〲 しどぬびはのうどびとづひ固定点 〹〱

但し,

−βfh 〽〱

VぬはでZ0

−λ0

〲3

2∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

k21 m2

0

k22 m2

0

〨−λ0〩

2

〲 · 〴〡

3∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

k21 m2

0

k22 m2

0

k23 m2

0

〨k1 k2 k3〩2 m20

〨−λ0〩

2

〲4

3∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

k21 m2

0

〨k22 m2

0〩2

k23 m2

0

O〨λ30〩 〨〵〮〲〮〹ち〩

−S(2)〨p2〩 〽 −(p2 m2

0

)−λ0

∫|k|∈(e−t,1)

ddk

〨〲π〩d〱

k2 m20

〨−λ0〩

2

〳〡

2∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

k21 m2

0

k22 m2

0

〨p k1 k2〩2 m20

〨−λ0〩

2

〲2

2∏j=1

∫|kj |∈(e−t,1)

ddkj〨〲π〩d

k21 m2

0

〨k22 m2

0〩2O〨λ3

0〩 〨〵〮〲〮〹ぢ〩

−S(4)〨p1, · · · ,p4〩 〽 −λ0

〨−λ0〩

2

∫|k|∈(e−t,1)

ddk

〨〲π〩d〱

k2 m20

〨k p1 p2〩2 m20

〨−λ0〩

2

∫|k|∈(e−t,1)

ddk

〨〲π〩d〱

k2 m20

〨k p1 p3〩2 m20

〨−λ0〩

2

∫|k|∈(e−t,1)

ddk

〨〲π〩d〱

k2 m20

〨k p1 p4〩2 m20

O〨λ30〩 〨〵〮〲〮〹っ〩

−S(6)〨p1, · · · ,p6〩 〽 〨−λ0〩2

[〱

〨p1 p2 p3〩2 m20

〨p1 p2 p4〩2 m20

〨p1 p2 p5〩2 m20

〨p1 p2 p6〩2 m20

〨p1 p3 p4〩2 m20

〨p1 p3 p5〩2 m20

〨p1 p3 p6〩2 m20

〨p1 p4 p5〩2 m20

〨p1 p4 p6〩2 m20

〨p1 p5 p6〩2 m20

]O〨λ3

0〩 〨〵〮〲〮〹つ〩

以上で繰り込み群変換の第〱のステップがキュムラント展開の〲次のオーダーで完了しました.但し,以下ではこれらの項を全て使う訳

ではありません.結果を少し吟味しましょう.

まず,式〨〵〮〲〮〹ち〩の場まφlに依らない定数項は〨単位体積当たりの自由エネルギーには効きますが〩繰り込み群のフローには影響を与え

ないので以下では捨てます.また,式〨〵〮〲〮〹ぢ〩のS(2)〨x〩をx 〽 p2 〽 〰周りでごちべぬはひ展開した表式

S(2)〨x〩 〽 S(2)〨〰〩 dS(2)〨〰〩

dxxO〨x2〩

〽dS(2)〨〰〩

dx

(S(2)〨〰〩dS(2)(0)dx

xO〨x2〩

)〨〵〮〲〮〱〰〩

からも分かりますが,微係数dS(2)(0)dx が場の再規格化に影響を及ぼし,比S(2)〨〰〩/dS

(2)(0)dx がm2

0に対する補正を与えます.しかし,

S(2)〨p2〩のp依存性は〨〵〮〲〮〹ぢ〩の〱行目と〳行目から来るのみで,〳行目の寄与はO〨λ20〩なので今考えている近似の範囲では無視して良い

です.従って,場の再規格化は式〨〵〮〱〮〳〱〩と全く一緒で,従ってm2〨t〩も前節と同じで式〨〵〮〱〮〳ち〩で与えられます.次に式〨〵〮〲〮〹っ〩です

が,これのp1 〽 p2 〽 p3 〽 p4 〽 〰での値が定数項λ0への補正を与えます.スケール変換〨〵〮〱〮〲〹〩及び場の再規格化〨〵〮〱〮〳〱〩も考慮す

ると,λ〨t〩は次の様に与えられます〺

λ〨t〩 〽 づ(4−d)t

(λ0 −

〳λ20

∫|k|∈(e−t,1)

ddk

〨〲π〩d〱

〨k2 m20〩

2

)O〨λ3

0〩

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〹〲 第〵章 ε展開

〽 づ(4−d)t

(λ0 −

〳λ20

《〨d〩

〨〲π〩d

∫ 1

e−tdk kd−1 〱

〨k2 m20〩

2

)O〨λ3

0〩

〽 づ(4−d)t

(λ0 −

〳《〨d〩λ20

〲〨〲π〩d

∫ t

0

dxづ(4−d)x

〨〱 m20づ

2x〩2

)O〨λ3

0〩 〨〵〮〲〮〱〱〩

但し,〳行目で変数変換k 〽 づ−xを行いました.最後に〨〵〮〲〮〹つ〩ですが,これはφ6の項に対応します.このφ6の項は元々の理論には含

まれていませんでしたが,繰り込み群変換をして新たに生成されました.一般に,対称性などの特別な理由がない限り,繰り込み群

変換をすると元々の理論には無くても対称性で許される項は全て生成されます.例えばφ4模型はZ2変換φ 7→ −φの下で不変な理論で,φの奇数冪はZ2不変性から許されません.繰り込み群変換をすると,このφの奇数冪以外の項は基本的に全て現れます.しかしながら,

高次冪の項に対応するパラメータは,入れたとしてもしどぬびはのうどびとづひ固定点での値はε 〽 d − 〴の高次の項になるので次節で扱うε展開

には効きません.従って,〨〵〮〲〮〹つ〩は考慮しなくて良いです.〨詳細は章末に挙げたかちひつちひの教科書の第〵〮〸節を見てください.〩

まとめると,m2〨t〩, λ〨t〩は次の様になります〺

m2〨t〩 〽 づ2t

(m2

0 Cdλ0

∫ t

0

dxづ(2−d)x

〱 m20づ

2x

)O〨λ2

0〩 〨〵〮〲〮〱〲ち〩

λ〨t〩 〽 づ(4−d)t

(λ0 − 〳Cdλ

20

∫ t

0

dxづ(4−d)x

〨〱 m20づ

2x〩2

)O〨λ3

0〩 〨〵〮〲〮〱〲ぢ〩

但し,Cdは定数で次式で与えられます〺

Cd 〽《〨d〩

〲〨〲π〩d〽

〲〨〲π〩d〲πd/2

 〨d/〲〩〽

〨〴π〩d/2 〨d/〲〩〨〵〮〲〮〱〳〩

これらの両辺を微分することで,次の様にフロー方程式が得られます〺

d

dtm2〨t〩 〽 〲づ2t

(m2

0 Cdλ0

∫ t

0

dxづ(2−d)x

〱 m20づ

2x

)Cdλ0づ

(4−d)t

〱 m20づ

2tO〨λ2

0〩

〽 〲m2〨t〩 Cdλ〨t〩

〱 m2〨t〩O〨λ2

0〩 〨〵〮〲〮〱〴ち〩

d

dtλ〨t〩 〽 〨〴− d〩づ(4−d)t

(λ0 − 〳Cdλ

20

∫ t

0

dxづ(4−d)x

〨〱 m20づ

2x〩2

)− 〳Cdλ

20づ

2(4−d)t

〨〱 m20づ

2t〩2O〨λ3

0〩

〽 〨〴− d〩λ〨t〩− 〳Cdλ2〨t〩

〨〱 m2〨t〩〩2O〨λ3

0〩 〨〵〮〲〮〱〴ぢ〩

但し,m2〨t〩 〽 づ2tm20 O〨λ0〩 λ〨t〩 〽 づ(4−d)tλ0 O〨λ2

0〩に注意して,〨〵〮〲〮〱〴ち〩の最後の等号では λ〨t〩〨〱m2〨t〩〩−1 〽 λ0づ(4−d)t〨〱

m20づ

2t〩−1 O〨λ20〩 を使い,〨〵〮〲〮〱〴ぢ〩の最後の等号では λ2〨t〩〨〱 m2〨t〩〩−2 〽 λ2

0づ2(4−d)t〨〱 m2

0づ2t〩−2 O〨λ3

0〩 を使いました.

5.2.2 ε展開

さて,いよいよ繰り込み群変換の固定点を探しましょう.以下ではまずフロー方程式〨〵〮〲〮〱〴ち〩と〨〵〮〲〮〱〴ぢ〩の固定点を求め,次に固

定点周りでフロー方程式を線型化し,最後に線型化された繰り込み群変換の生成子L∗の固有値・固有ベクトルを計算して繰り込み群

のフロー及び臨界指数を求めます.

まず第〴章の脚注でも述べましたが,フロー方程式の右辺に現れる関数を繰り込み群のβ関数〨ぢづぴち てふのっぴどはの〩と呼びます.今の

場合,β関数は式〨〵〮〲〮〱〴ち〩と〨〵〮〲〮〱〴ぢ〩から次の様に読み取れます〺

βm2〨m2, λ〩 〽 〲m2 C4−ελ

〱 m2〨〵〮〲〮〱〵ち〩

βλ〨m2, λ〩 〽 ελ− 〳C4−ελ

2

〨〱 m2〩2〨〵〮〲〮〱〵ぢ〩

但し,εは上部臨界次元dc 〽 〴からのずれで次式で定義されます〺

ε 〽 〴− d 〨〵〮〲〮〱〩

繰り込み群変換の固定点は上のβ関数の零点です.このβ関数の零点を求めましょう.まず,βλの零点は次の方程式の解として与えれ

ます〺

βλ 〽 − 〳C4−ελ

〨〱 m2〩2

(λ− 〨〱 m2〩2

〳C4−εε

)〽 〰 〨〵〮〲〮〱〩

Page 103: 臨界現象と繰り込み群 - Nihon Universityaries.phys.cst.nihon-u.ac.jp › ~ohya › stat-mech › main.pdfぶ はじめに この講義では〲次相転移の臨界現象を繰り込み群の観点から解説します.主に次の〳つの事柄について学びます〺

〵〮〲 しどぬびはのうどびとづひ固定点 〹〳

この方程式の解はλ 〽 〰とλ 〽 (1+m2)2

3C4−εε の〲つです.λ 〽 〰の時のβm2 〽 〰の解はm2 〽 〰なので,まずぇちふびび固定点〨m2, λ〩 〽 〨〰, 〰〩が

ある事が分かります.興味があるのはλ 〽 (1+m2)2

3C4−εεの時の固定点で,これを式〨〵〮〲〮〱〵ち〩に代入すると次を得ます〺

βm2 〽 〲m2 C4−ε

〱 m2

〨〱 m2〩2

〳C4−εε 〽

(〲

ε

)m2

ε

〳〽 〰 〨〵〮〲〮〱〸〩

|ε| 〱としてこの方程式をm2について解くと,εの〱次のオーダーでまずm2の固定点での値が次の様に得られます〺

m2 〽 − ε/〳

〲 ε/〳〽 − ε

〱 ε/〽 − ε

〨〱 O〨ε〩〩 〽 − ε

O〨ε2〩 〨〵〮〲〮〱〹〩

次にこれをλ 〽 (1+m2)2

3C4−εεに代入すると固定点でのλの値がεの〱次のオーダーで次の様になります〺*7

λ 〽〨〱 O〨ε〩〩2

〳C4−εε 〽

〨〱 O〨ε〩〩2

〳 · 1(4π)2 〨〱 O〨ε〩〩

ε 〽〱π2

〳εO〨ε2〩 〨〵〮〲〮〲〰〩

式〨〵〮〲〮〱〹〩と〨〵〮〲〮〲〰〩で与えられる繰り込み群変換の固定点をしどぬびはのうどびとづひ固定点〨しどぬびはのうどびとづひ 「へづつ ばはどのぴ〩と呼びます.以

上の結果をまとめると,d 〽 〴− ε次元のφ4模型には次の〲つの固定点が存在する事が分かりました〺

〨m2∗, λ∗〩 〽

〨〰, 〰〩 〨ぇちふびび固定点〩

〨− 16ε,

16π2

3 ε〩 O〨ε2〩 〨しどぬびはのうどびとづひ固定点〩〨〵〮〲〮〲〱〩

次に固定点周りで線型化したフロー方程式を解析しましょう.β関数〨〵〮〲〮〱〵ち〩と〨〵〮〲〮〱〵ぢ〩を固定点周りでごちべぬはひ展開すると,

ごちべぬはひ展開の〱次近似でフロー方程式は次の様になります〺

d

dt

(m2〨t〩−m2

∗λ〨t〩− λ∗

)〽

(∂βm2

∂m2 〨m2∗, λ∗〩

∂βm2

∂λ 〨m2∗, λ∗〩

∂βλ∂m2 〨m

2∗, λ∗〩

∂βλ∂λ 〨m2

∗, λ∗〩

)(m2〨t〩−m2

∗λ〨t〩− λ∗

)〨〵〮〲〮〲〲〩

ここで,右辺の〲次正方行列はεの〱次のオーダーで次の様に与えられます〺*8

(∂βm2

∂m2 〨m2∗, λ∗〩

∂βm2

∂λ 〨m2∗, λ∗〩

∂βλ∂m2 〨m

2∗, λ∗〩

∂βλ∂λ 〨m2

∗, λ∗〩

)〽

(〲 1

16π2 〨〱 Aε〩

〰 ε

)〨ぇちふびび固定点〩

(〲− ε

31

16π2 〨〱 Bε〩

〰 −ε

)O〨ε2〩 〨しどぬびはのうどびとづひ固定点〩

〨〵〮〲〮〲〳〩

但し,A 〽 12 〨〱 γ ぬはで 〴π〩 B 〽 A 16π2

3 です.どちらの固定点でも〨O〨ε〩では〩左下の非対角成分がゼロなので,固有値λ1 λ2は

単に対角成分で与えられます.対応する固有ベクトルv1 v2も簡単に計算できて,εの〱次のオーダーでは次の様になります〺

ぇちふびび固定点〺

λ1 〽 〲〻 v1 〽 〨〱, 〰〩ᵀ

λ2 〽 ε〻 v2 〽 〨− 132π2 〨〱 〨A 1

2 〩ε〩, 〱〩ᵀ 〨〵〮〲〮〲〴ち〩

しどぬびはのうどびとづひ固定点〺

λ1 〽 〲− ε

2 〻 v1 〽 〨〱, 〰〩ᵀ

λ2 〽 −ε〻 v2 〽 〨− 132π2 〨〱 〨B − 1

3 〩ε〩, 〱〩ᵀ 〨〵〮〲〮〲〴ぢ〩

いまεは正の微小量なので,ぇちふびび固定点ではどちらの固有値も正になります.従ってぇちふびび固定点からは湧き出す繰り込み群のフ

ローしかありません.一方,しどぬびはのうどびとづひ固定点ではλ1は正ですが,λ2は負になります.従って,しどぬびはのうどびとづひ固定点近傍の繰り

*7 |ε| 1の時,C4−εは次の様にεの冪で展開されます:

C4−ε =1

(4π)2− ε2 Γ(2− ε

2)

=1

(4π)2

eε2

log 4π

Γ(2− ε2

)=

1

(4π)2

1 + ε2

log 4π +O(ε2)

1− 1+γ2ε+O(ε2)

=1

(4π)2

[1 +

1

2(1 + γ + log 4π)ε+O(ε2)

]但し,γ = 0.57721 . . .はEulerの定数です.(臨界指数のγではありません.)

*8 まずβ関数の1階偏導関数は次の様になります:

∂βm2

∂m2= 2−

C4−ελ

(1 +m2)2,

∂βm2

∂λ=

C4−ε

1 +m2

∂βλ

∂m2=

6C4−ελ2

(1 +m2)3,

∂βλ

∂λ2= ε−

6C4−ελ

(1 +m2)2

これらに固定点の値(5.2.21)を代入してεの1次までで評価すると式(5.2.23)が得られます.

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〹〴 第〵章 ε展開

m2

λ

0

Gauss固定点

Scr

S∞

図5.2: d = 4 − ε次元φ4模型の繰り込み群のフロー.青色の丸がGauss固定点で,赤色の丸がWilson-Fisher固定点です.また,赤色の1次元部分

空間S∞がWilson-Fisher固定点から見た時のrenormalized trajectoryで,緑色の余次元1の部分空間ScrがWilson-Fisher固定点から見た時の臨界

面です.Scr上の理論は全て臨界温度T = Tc直上の理論で,繰り込み群変換の下でWilson-Fisher固定点に収束します.一方,Scr近傍の理論は全

てT = Tc近傍の理論で,繰り込み群変換の下でS∞に漸近します.

込み群のフローは,固有ベクトルv1方向には湧き出すフローで,固有ベクトルv2方向には吸い込まれるフローになります.従って,

式〨〵〮〲〮〲〱〩で与えられるしどぬびはのうどびとづひ固定点〨m2∗, λ∗〩を原点とした時,固有ベクトルv1で張られる〱次元部分空間がしどぬびはのうどびとづひ固

定点から見た時のひづのはひねちぬどづつ ぴひちなづっぴはひべ S∞で,固有ベクトルv2で張られる余次元〱の部分空間がしどぬびはのうどびとづひ固定点から見た時の

臨界面Scrになります.より明確に書くと,これらの部分空間は次の様に与えられます〺

S∞ 〽〨m2, λ〩 〺 λ 〽 λ∗

〨〵〮〲〮〲〵ち〩

Scr 〽

〨m2, λ〩 〺 m2 −m2

∗ 〱 〨B − 1

3 〩ε

〳〲π2〨λ− λ∗〩 〽 〰

〨〵〮〲〮〲〵ぢ〩

以上の結果はβ関数〨〵〮〲〮〱〵ち〩と〨〵〮〲〮〱〵ぢ〩の固定点周りでの線型近似およびεの〱次近似に基づいた結果である,という事を強調しておき

ましょう.但し,フロー方程式〨〵〮〲〮〱〴ち〩と〨〵〮〲〮〱〴ぢ〩自身は特に近似をしなくても計算機を使えば数値的には解く事が出来ます.計算

機を使って繰り込み群のフローをプロットしたものを図〵〮〲に示しました.線型近似の範囲ではひづのはひねちぬどぺづつ ぴひちなづっぴはひべはm2軸と平行

ですが,数値解では右肩上がりになっているのが見て取れます.

最後に臨界面Scr近傍の理論の臨界指数を計算しましょう.これはしどぬびはのうどびとづひ固定点の情報だけで決まり,表〴〮〳にまとめた様に,

臨界指数は正固有値λ1と固定点S∗でのスケーリング次元、〨S∗〩だけで決まります.今の場合,正固有値はλ1 〽 〲− ε/〳です.一方,スケーリング次元は式〨〵〮〱〮〳〲〩と同じで次式で与えられます〺

、〨S∗〩 〽d− 〲

〲〽

〴− ε− 〲

〲〽 〱− ε

〲〨〵〮〲〮〲〩

これらを用いると,臨界指数はεの〱次のオーダーで次の様に求まります〺

α 〽 〲− d

λ1〽 〲− 〴− ε

〲− ε3

〽ε

O〨ε2〩 〨〵〮〲〮〲ち〩

β 〽、〨S∗〩

λ1〽

〱− ε2

〲− ε3

〽〱

〲− ε

O〨ε2〩 〨〵〮〲〮〲ぢ〩

γ 〽d− 〲、〨S∗〩

λ1〽

〴− ε− 〲〨〱− ε2 〩

〲− ε3

〽 〱 ε

O〨ε2〩 〨〵〮〲〮〲っ〩

δ 〽d

、〨S∗〩− 〱 〽

〴− ε〱− ε

2

− 〱 〽 〳 εO〨ε2〩 〨〵〮〲〮〲つ〩

ν 〽〱

λ1〽

〲− ε3

〽〱

ε

〱〲O〨ε2〩 〨〵〮〲〮〲づ〩

η 〽 〲、〨S∗〩− d 〲 〽 〲(〱− ε

)− 〨〴− ε〩 〲 〽 〰 O〨ε2〩 〨〵〮〲〮〲て〩

この様に上部臨界次元dc 〽 〴からのずれε 〽 〴 − dを微小量として扱い,εの冪の次数で種々の量を展開していく事をε展開〨づばびどぬはの

づへばちのびどはの〩と呼びます.ε展開は系統的に出来て良いのですが,物理的に最も興味があるε 〽 〱の場合がどうなのかが少し謎です.最

後にこれについて簡単に述べてこの節を終わりにしましょう.素朴にはεの冪の次数をどんどん上げていけば精度が向上するので適当

な所でε 〽 〱と置けるだろうと思いたくなります.しかし実際はε展開は収束半径ゼロの漸近級数である事が知られていて,或る冪の次

数を超えると収束せずに振動し始めて逆に精度が悪くなります.ε展開から信頼できる〳次元の結果を得るにはあはひづぬ総和法を使うので

すが,詳細については章末の文献を見てください.

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〵〮〲 しどぬびはのうどびとづひ固定点 〹〵

参考文献

まず原論文を挙げておきましょう.ε展開による臨界現象の研究は,〱〹〲年のしどぬびはのとうどびとづひの共著論文及びそのすぐ後のしどぬびはのの

論文から始まりました〺

せ〱そ か〮 ぇ〮 しどぬびはの ちのつ き〮 ぅ〮 うどびとづひ ぜぃひどぴどっちぬ ぅへばはのづのぴび どの 〳〮〹〹 いどねづのびどはのび〢 Phys. Rev. Lett. 〲〸 〨〱〹〲〩 〲〴〰ほ〲〴〳

せ〲そ か〮 ぇ〮 しどぬびはの ぜうづべのねちのぇひちばと ぅへばちのびどはの てはひ ぃひどぴどっちぬ ぅへばはのづのぴび〢 Phys. Rev. Lett. 〲〸 〨〱〹〲〩 〵〴〸ほ〵〵〱

しどぬびはのが彼の繰り込み群を導入したのは〱〹〱年ですが,その時は最終的に計算機を用いて臨界指数を求めていました.〨しどぬびはのは計算

機の扱いに長けていたそうです.〩 しかし上の論文で誰もが頑張れば解析的に計算出来る手法が開発されて,その後の爆発的な発展へ

と繋がって行きました.しどぬびはのとうどびとづひがε展開を思い付くに至った経緯を知りたい人は,しどぬびはののぎはぢづぬ賞受賞講演録の第〳節およ

びうどびとづひの講義録の第〱〱節に当時の回想が載っているので読んでみると良いでしょう〺

せ〳そ か〮 ぇ〮 しどぬびはの ぜごとづ ひづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば ちのつ っひどぴどっちぬ ばとづのはねづのち〢 Rev. Mod. Phys. 〵〵 〨〱〹〸〳〩 〵〸〳ほ〰〰

せ〴そ き〮 ぅ〮 うどびとづひ ぜげづのはひねちぬどぺちぴどはの でひはふば ぴとづはひべ〺 ぉぴび ぢちびどび ちのつ てはひねふぬちぴどはの どの びぴちぴどびぴどっちぬ ばとべびどっび〢 Rev. Mod. Phys. 〰

〨〱〹〹〸〩 〵〳ほ〸〱

この〲つは単なる回顧録では無く,当時の状況と共に繰り込み群のアイデアも上手にまとめられているので初学者にもお薦めです.

さて,ε展開について解説した教科書は沢山ありますが,初学者には次の〳つが良いと思います〺

せ〵そ お〮 お〮 あどののづべ ぎ〮 お〮 いはぷひどっに ぁ〮 お〮 うどびとづひ ちのつ き〮 ぅ〮 お〮 ぎづぷねちの The Theory of Critical Phenomena 〨くへてはひつ さのどぶづひびどぴべ

ぐひづびび 〱〹〹〲〩

せそ き〮 かちひつちひ Statistical Physics of Fields 〨ぃちねぢひどつでづ さのどぶづひびどぴべ ぐひづびび 〲〰〰〩

せそ げ〮 ことちのにちひ Quantum Field Theory and Condensed Matter 〨ぃちねぢひどつでづ さのどぶづひびどぴべ ぐひづびび 〲〰〱〩

特にせそとせそが良いと思います.せその第〵章の章末にはε展開のあはひづぬ総和法についても簡単な説明が載っています.また,この講義では

キュムラント展開を使って繰り込み群変換をごりごり計算しましたが,通常の場の理論の摂動計算でも臨界指数を求めることは出来ま

す.これについて学びたい人はせ〵そで勉強すると良いでしょう.相対論的場の量子論を勉強したことがある人は,ぐづびにどのこっとひはづつづひの

教科書

せ〸そ き〮 ぅ〮 ぐづびにどの ちのつ い〮 ざ〮 こっとひはづつづひ An Introduction to Quantum Field Theory 〨しづびぴぶどづぷ ぐひづびび 〱〹〹〵〩

の第〱〳章にも臨界指数の計算法が載っているので,それで勉強しても良いと思います.