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場の量子論 I 風間洋一 16-321B Home page: http://hep1.c.u-tokyo.ac.jp/˜kazama/kazama.htm 1 序論 1.1 場の量子論 (Quantum Field Theory) とは何か QFT: 無限に近い自由度を持つ量子多体系の長距離 = 低エネ ルギーでの振る舞いを記述し理解するための、非常に強力でい論理的整合性を持った枠組み 低エネルギー有効理論 1

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場の量子論 I

風間洋一 16-321B

Home page: http://hep1.c.u-tokyo.ac.jp/˜kazama/kazama.htm

1 序論

1.1 場の量子論(Quantum Field Theory)とは何か

QFT: 無限に近い自由度を持つ量子多体系の長距離=低エネルギーでの振る舞いを記述し理解するための、非常に強力で高い論理的整合性を持った枠組み

低エネルギー有効理論

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1.無限自由度: QFTの基礎は量子力学。しかし通常の量子力学と異なり、無限(あるいはそれに近い)自由度を持つ系を扱う。有限系では現れない現象を記述できる。典型例: 相転移、対称性の自発的破れ

無限自由度であるがゆえの“困難”もある。例:

•短距離発散 = UV divergence. 量子的な不確定性原理によって、無限個の自由度が短距離で励起されうる。

•長距離発散 = IR divergence.

無限個の massless low energy quanta, such as photons,によって引き起こされる.

これらの現象は単に技術的な困難ではない。これらの発散の構造にはQFTの構造や物理に関する貴重な情報が組み込まれている。

2.長距離=低エネルギー有効理論:

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複雑な多体系をミクロに特徴付けるスケール(cf. lattice spacing) に比べて長波長でプローブ⇒ミクロな詳細は平均化され、連続的な場で記述することが可能になる。QFTの背後にはしばしばQFT自体とは非常に異なるミクロな構造が存在する。例:

• Spin system on a lattice (microscopic scale = lattice spacing)

• Superstring theory (microscopic scale = Planck scale (10−34 cm))

3.論理的整合性: 上記の見方はQFTの近似理論としての見方を強調。QFTの驚くべき性質: 同時に、それが非常に高い論理的整合性を持つこと。(cf. 熱力学)⇒ QFTは自然界の基本的な理論を記述する機能も持つ。

典型例:素粒子の標準理論

• Quantum Chromo Dynamics

•電弱統一理論 (Glashow-Weinberg-Salam theory)

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2 QFTの特徴の基礎 :

QFTが広汎な応用を持つこと⇐ 一見矛盾する二つの特徴を併せ持つ

•低エネルギー有効理論: 様々な状況に適用可能。系をプローブするエネルギースケールによる= scale-dependent.

異なるスケールにおいては、有効な自由度、重要になる相互作用が異なりうる。

•高度な論理的整合性: 一方QFTは高度な論理的整合性を持ち、少数の基本的パラメーターによる自然界の基本法則の記述に適している。(通常、近似理論ではこれは期待されない。)

例: QCDが何らかのよりミクロな理論の有効理論であるという兆候はQCDの中では見えない。

この意味では、QFTはscale independentであるように見える。

この二つの一見矛盾する特徴はどのように理解されるか。QFTの根幹に関わる重要な問題

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2 繰り込み(renormalization)と Universality:

「繰り込み(or factorization)」および「繰り込み群」という美しい概念で理解される ( K.G.Wilson等)。

具体例: 間隔 a(エネルギー cutoff Λ ∼ 1/a)で並べられたスピン系の作る強磁性体のHeisenbergモデル

a

L HΛ = −J∑

<i,j>

~Si · ~Sj

長さのスケールL(mass scale ∼ µ = 1/L)より短距離で起こる揺らぎを平均化する。(経路積分ではそれらの自由度を積分することにあたる。)

⇒ サイズ ∼ Lの間隔で並ぶ有効スピンの理論。もとのシステムと比較するために、これをL/aの因子によりスケールダウン。

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⇒ Scale µでの有効理論: スピン間の新しい有効相互作用を含む

Hµ =∑

n

gn(µ)︸ ︷︷ ︸UV

On(µ)︸ ︷︷ ︸IR

, factorized form

On(µ) ∼ ~Si · ~Sj , (~Si · ~Sj)2 , etc.

On(µ) = 有効スピンから組み立てられた local operators

gn(µ) = 有効結合定数. Lより小さなスケールでの物理の情報を集約。

これはµより低いエネルギースケールでの系の振る舞いを記述するのに適している: scale-dependent

繰り込み可能理論(の定義):この操作を繰り返す: µ → 0

有限個のgn(µ)のみが有限にとどまり、残りのcoupling constantsがゼロに近づく場合がある。⇒ 長距離極限では系のミクロな詳細はほとんど効かなくなる。ダイナミックスは小数のgn(µ)とOn(µ)で決まってしまう⇔ 繰り込み可能さらにµを小さくしても、gn(µ)の大きさが変わるのみ( On(µ)の定義も

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少し変更される)。Hamiltonianの形は変わらない。∼ scale independent

⇔ 系は繰り込み群のIR固定点に近づくという。

Universailty: 低エネルギー極限で、もとの系のミクロな詳細がほとんど効かなくなり、幾つかのクラス (universality class)の振る舞いに分類されること。Universality classは非常にしばしば系の対称性によって支配される。

こうした理由で、QFT、特に繰り込み可能なQFT、は有用かつ強力。

¨ミクロな詳細を知らなくても、低エネルギーの物理が整合的に記述できる。

¨我々の無知はgn(µ)に押し込められる⇒ 実験値で置き換えられる。

1.2 QFTにおける重要な概念と方法の概観

1.2.1 基本的自由度は何か ?

出発点は基本的な自由度(変数)の同定。

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¨素粒子物理: 実験データは“少数”の「素粒子」の散乱に関係するものがほとんど。⇒ 素粒子に対応する場を導入。それらの間の相互作用を(対称性を手がかりとして)散乱データを再現するように決める。場の理論が実は無限自由度を持つ複雑な系を記述しているという本質がよく見えない。

¨物性物理: 基本的自由度は、マクロな物質を形成する、原子、原子核、電子、スピン等。量子多体系を構成。それらの間の基本的相互作用は、様々なデータからわかっている。

何が基本的自由度であるかが必ずしも自明ではない場合が多々ある。

素粒子物理:

¨「素粒子」は本当に素粒子か? よりミクロな粒子の複合体 ?

(cf クォークモデル)

¨弦? 超弦理論の本当の自由度は?

物性物理:

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¨基底状態(「真空」)自体が複雑。その上の「素励起」は系の構成粒子とは非常に異なる場合もしばしばある。

¨相転移に伴い、基本的な自由度が大きく変わることがある。例: T < Tc “order variable” が有用。

T > Tc “disorder variable” が有用(これらは “duality transformation”で結ばれる場合がある。)

1.2.2 場の相互作用

2 相互作用の様々な記述 :

¨直接的相互作用: 場の配位の持つエネルギー(作用)を直接記述

¨境界条件を通じた相互作用:

¨拘束を通じた相互作用: ゲージ理論。非線形性。

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1.2.3 基底状態とその上の素励起のスペクトル

系の基底状態=「真空」: 量子的な揺らぎを含む。強結合系では、真空を求めることは系の性質を半分以上解くことに匹敵する。真空は縮退していることがある。(cf. double well potential)。素励起: 基底状態上の小さな運動量とエネルギーを持った波∼ 粒子素励起間の相互作用の形は、一般に元々の場の相互作用の形と異なる。

1.2.4 揺らぎとコヒーレンス

揺らぎ、コヒーレンス= 素粒子、物性を問わず、様々な興味深い現象のキー。

量子多体系における二つのタイプの揺らぎ:

¨熱統計的揺らぎ: 実

¨量子的揺らぎ: 複素 (i.e. 大きさと位相)

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これらは概念的には非常に異なるが、形式的にはユークリッド化を通じて関係付けられる。

2 統計力学との関係 :

QFTと統計力学は、様々な特徴を共有。統計力学の様々な概念と方法はしばしばQFTの理解に非常に役立つ。

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2 揺らぎの記述: オペレーター形式と経路積分形式 :

量子的および統計的な揺らぎを記述する二つの方法:

¨オペレーター形式: 揺らぎ(あるいは不確定性)はヒルベルト空間の作用素の非可換性で表現される。元々の伝統的な手法。この形式の利点: 量子的な状態の概念が鮮明。力学のハミルトン形式と良く適合する。

¨経路積分形式: 量子力学と統計力学の類似が明白な形式。揺らぎは、様々な異なる配位を適当な重み (Boltzman weightに対応する)をつけて加える(積分する)ことで取り入れられる。この形式の利点:

– 幾何学的

– 古典力学との関係が明瞭

– 系の持つ対称性が直接的に見える。ラグランジアン形式と良く適合する。

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– 統計力学の様々な概念が直接適用できる。例:

• Helmholtzの自由エネルギー F (V, T ) ⇐⇒連結相関関数の生成母関数

• Gibbs の自由エネルギー G(p, T ) ⇐⇒ 有効作用 (effective action)

これらの二つの形式の関係を付けるのは自明ではない。

2 長距離相関と相転移 :

適当な条件のもとで、場の位相が長距離にわたってそろうことが可能=コヒーレンスの現象。これが、古典的に安定な配位の存在や、相転移に伴う対称性の自発的破れを可能にしている。

2 次元のダイナミックスへの影響 :

揺らぎが系に与える影響の度合いは時空の次元による。

長距離: 次元が低いほど揺らぎの影響は強い。小さな揺らぎでもコヒーレ13

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ンスが破れる。

次元が高いと揺らぎの持つエネルギーは多くの方向に分散。系を擾乱しにくくなり、相転移温度は高くなる。

短距離: 長距離と逆。次元が高いほど、多くの自由度が存在するため、強いUV発散を引き起こす。

QFTは次元によってかなり異なる振る舞いをする。

1.2.5 相関関数とS行列

多体系の性質を調べる基本的な道具= 相関関数(Green 関数)

G(x1, x2, . . . , xn) = 〈φ(x1)φ(x2) · · · φ(xn)〉時空の異なる点での場の値がどれだけ相関しているかを測る。

「真空」の上にわずかな数の素励起が存在する場合には、相関関数は、それらの粒子がどのように伝播し、互いに相互作用するかを表す。

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~p1

~p2

~p3

~p4

Asymptotic region Asymptotic region

G(~p1, ~p1, ~p3, ~p4)LSZ reduction−→ S~p1,~p1;~p3,~p4 = S行列

2 摂動論とファインマン図 :

相互作用が比較的弱い場合には、摂動的計算が強力。

ファインマン図による視覚的理解と計算規則の図示

e e

複雑な多体系を理解できるかどうか⇔当該エネルギー領域で小さなパラメータに関する摂動計算ができるかどうか

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2 Schwinger-Dyson 方程式 :

QFTのダイナミックスの基本的方程式= Schwinger-Dyson 方程式

¨相関関数間の関係を規定し、QFTの力学を完全に支配:

¨厳密に解くことは非常に難しい。適当な近似のもとで解き、重要な非摂動的情報を得ることができる。

¨経路積分を(連立)微分方程式に直して実行することにあたる。

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1.2.6 対称性とその表現

QFT=無限自由度系: 解くのは難しい⇒ 対称性の考察が非常に重要

二つの側面 

Kinematical aspect

系が対称性を持つ⇔ ハミルトニアンHが群Gの変換に対して不変無限小変換を考えれば十分 ⇒ Gの無限小変換のなすLie 代数gに対する不変性。(通常基本的な場はgの表現に属す⇔ 多重項をなす。)

⇒ 有効理論にも対称性を保つ相互作用しか現れ得ない。⇒ Universality classは対称性で分類される。

Dynamical aspect

ある種の対称性⇒ (1)相互作用の形および/または(2)系のエネルギー準位を決定する (spectrum-generating symmetry)

(1)の例:

¨非可換ゲージ理論 

¨一般相対論(ゲージ理論とも見なせる)

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(2)の例:

水素原子のすべての(無限個の)準位は共形代数so(4, 2)の作用により生成される

2 ローレンツ対称性と場の分類 :

ローレンツ対称性=最も重要な対称性 (非相対論的な系でも重要になる場合がある)

ローレンツ群の表現とそれによる場の分類および場の方程式の構造。スカラー場、ベクトル場、スピナー場、etc.

2 スピンと統計 :

スピン-統計定理: すべての場は、それが持つスピンにより、二つの統計性の異なるグループに分類される

¨スピン= 0, 1, 2, . . . ⇔ ボゾン その集合はボーズ統計に従う

¨スピン= 1/2, 3/2, 5/2, . . . ⇔ フェルミオン その集合はフェルミ統計に従う

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2 因果律とユニタリー性 :

量子力学における二つの基本的な要請

¨因果律: ローレンツ対称性から保証される。

¨ユニタリー性(確率の保存): ローレンツ対称性を明白に保とうとするとユニタリー性は自明ではない。理由: 基本的な力はベクトルまたはテンソル粒子の交換力として生ずる。これらはゲージ理論で記述され、非物理的な成分を持つ。

二つのスキーム

1.非物理的な成分を消去して記述⇒ ユニタリー性は明白。ローレンツ対称性は要証明。

2.ゴーストと呼ばれる負の確率を持つ非物理的な場を導入し、ゲージ場の非物理的成分の寄与をキャンセル。ローレンツ対称性は明白。ユニタリー性は要証明。

問題によって、この二つの記述法を使い分ける必要がある。

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2 大域的な内部対称性と多重項 :

内部対称性: アイソスピン、ハイパーチャージ、バリオン数、等々

¨これらのglobal対称性は一般に厳密ではなく破れている

¨しかし、対応する「電荷」は実験で観測できるので重要な対称性である。

2 拘束系とゲージ対称性 :

より根本的で基本的な対称性=local symmetry =ゲージ対称性系が拘束を持つ場合必ず生ずる。拘束系の理論は非常に重要:

Dirac, BRS(Becchi-Rouet-Stora), BV(Batalin-Vilkoviski)

2 Ward-Takahashiの恒等式 :

QFTにおける対称性の表現:最も基本的なもの= WT-identities: 相関関数の間の関係を与える。ゲージ理論の繰り込み可能性の証明等にも不可欠。

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2 対称性の自発的破れ :

系の対称性は必ずしも明白には現れない。隠れた形で実現する場合: 対称性の自発的破れ(spontaneous breaking)

Global対称性の破れ: T = 0 (低温相)での強磁性体の回転対称性

|Ω0〉 |Ωθ〉

θ

ハミルトニアン自体は回転対称⇒真空の集合|Ωθ〉は回転に対して不変であり、縮退している。

|Ωθ〉= R|Ω0〉 , [H, R] = 0 , H|Ω0〉 = E|Ω0〉⇒ H|Ωθ〉 = H(R|Ω0〉) = R(H|Ω0〉) = E(R|Ω0〉) = E|Ωθ〉

実際に実現するのは、そのうちのひとつの真空⇒ 回転対称性の自発的破れ。

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自発的破れの現象の特徴

¨ Local spinの期待値がnon-zero になる 〈~S(~x)〉 6= 0

¨ T → Tc(臨界温度)で〈~S(~x)〉 → 0: 〈~S(~x)〉 = order parameter

¨ |Ωθ〉のエネルギーは縮退−→長い波長のスピン波を起こすのにエネルギーがほとんど要らない。⇒ Massless (gapless) excitation = Nambu-Goldstoneモード

– 通常の対称性の自発的破れ: NGモードはボゾン

– フェルミ的対称性(超対称性)の自発的破れ: NGモードはフェルミオン

これはmasslessの場を生成する非常に一般的でかつ自然なメカニズム。

NGモードの深い役割=自発的に破れた対称性の回復

¨ソリトン、インスタントン、string等の拡がりを持った物体の量子化

¨ NG励起によるdisorderingの現象

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ゲージ(local)対称性の自発的破れ⇒ Higgs 現象

NG ボゾン + massless ゲージ場= massiveなゲージ場

例: 電弱統一理論に現れるW ±ボゾンおよびZボゾン到達距離の非常に短い相互作用を媒介する

近似的な対称性の自発的破れ

対称性が厳密でない場合にも自発的破れの概念は有効な場合がある。NG boson ⇒ pseudo NG boson: 小さな質量を持つ

例: π中間子: 他のハドロンに比して非常に質量が小さい。⇒ (わずかに破れた)SU(2)L × SU(2)R カイラル対称性の自発的破れに伴うpseudo

NG bosonと理解される

2 対称性の非線形表現 :

対称性の現れ方:

対称性が明白: Wigner mode: 素励起 (場)は線形な多重項をなす。

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自発的な破れ: Nambu-Goldstone mode 低エネルギーの励起はNG bosonでdominate される。(Massiveな粒子は無視できる)

NG modesの数= 破れた対称性の生成子の数: 線形な多重項をなすには小さすぎる⇒ 対称性は非線形に表現される。非線形表現の理論により、NG bosonsの低エネルギーでの相互作用は完全に決まる。

2 量子アノマリー :

量子力学での対称性は、もう一つ微妙な現れ方をする場合がある。Projective(ray)表現 群Gの演算が余分な位相因子を伴って表現される

g1g2 → U(g1)U(g2) = eiφ(g1,g2)U(g1g2)

確率 (=内積の絶対値の二乗)にはeiφは効かないので、物理量の対称性として許される。しかし、通常の観点からは「異常 (anomalous)」な実現の仕方。多くの場合、位相は適当な変換の再定義で吸収できるが、二つ以上の対称性が同時に anomalousな場合、両方を同時に消すことができないことがある

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⇒真のanomaly ⇔ 古典的な対称性が量子的に破れるように見える。

¨ゲージ対称性にanomalyが生ずると、繰り込み可能性等が破綻する。⇒anomalyが相殺するように、自由度を調整する必要あり。⇒ 未知の場の予言に役立つこともある。例: 電弱統一理論におけるanomalyの相殺⇒ charm quarkの存在の予言

¨ Globalな対称性の場合、物理現象の説明にanomalyが不可欠な場合もある。例: π0 → 2γ 崩壊

2 超対称性(supersymmetry= SUSY) :

通常の対称性: boson ⇔ boson, fermion ⇔ fermion

超対称性: boson ⇔ fermion

自然界に存在している二種類の場を統一する可能性

¨標準模型を越えるエネルギー領域での統一理論の構築

¨超弦理論 (superstring theory)

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1.2.7 拡がりを持った物体とその量子的役割

場の理論の有限な作用を持つ古典解として、しばしば拡がりを持った場の配位が現れる。

¨ Soliton: Minkowski空間での解。エネルギーが局在。しばしば粒子のように振る舞う。例: 非可換ゲージ理論に現れるmagnetic monopole解

¨ Instanton: Euclid空間での解。物理的な物体ではないが、Minkowski空間でのトンネル現象を記述するのに有用 (cf. Double well potential)。これらの存在は基底状態 (真空)の構造を大きく変えることがある。例: ヤン・ミルズ理論における解

Solitonや Instantonの安定性⇐=トポロジカルな電荷(連続変形に対して不変な量)を持つ

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2 準古典近似法における役割 :

作用が有限 ⇒ 場の理論におけるWKB(semi-classical)近似の計算に最も重要な寄与をする:

Z =

∫Dφ exp

(i

~S[φ]

)

Saddle point: δS/δφ = 0 ⇔ 古典解

2 集団座標(collective coordinate)の概念と自発的対称性の破れの回復:

ナイーブなWKB近似計算⇒ 必ず発散が生ずる!

理由: これらの解は並進対称性等を自発的に破る⇒ Massless NG modes

φ(x − a)

ax

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この解は、理論の並進対称性を自発的に破る。φ(x − a − δa)も同じエネルギーを持った解。すべての解の寄与を加えると発散。解のまわりの揺らぎの中に、エネルギーが幾らでも小さくなる(masslessの)

揺らぎが存在= NG mode

この揺らぎはaを変える揺らぎ。aは実は定数ではなく、自由度と見るべし

a ⇒ a(t) =ソリトンの重心運動の自由度= collective coordinate

(mode)

φ(x − a)のまわりの揺らぎ = φ(x − a(t))+ これに直交する揺らぎ

NG collective modeの導入により、並進対称性の自発的破れが回復される:x → x + bに対してφ(x − a)は不変でないが、φ(x − a(t))は同時にNG modeをa(t) → a(t) + bと変換することにより不変になる。

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