教員養成教育における...

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教員養成教育における ICT 活用能力育成の試み 電子黒板とタブレット端末を活用したグループ学習 上田喜彦 ([email protected]) 天理大学人間学部総合教育研究センター教職課程 要旨 近年,学校の情報化が進展し,電子黒板や教育用コンビュータが多く の小・中学校に導入されている。また, iPadなどのタブレット端末やタブ レット型パソコンの教科指導への活用や教科書のデ、ジタル化も研究が進んで いる。これらの教育の情報化に伴って,学校現場では, ICT機器を活用し て授業ができる教員が求められている。 本報告では,教員養成教育における ICT活用能力育成の試みとして,教 職に関する科目「教育方法学Jの授業で,筆者が実践した「電子黒板とタブ レット端末を活用したグループ学習Jについて報告する。また,その教育実 践の省察から,その効果,実践のために必要な ICT環境,教育の情報化に 対応した教員養成教育のあり方等についていくつかの実銭的な示唆を得た。 キーワード電子黒板 タブレット端末教員養成教育 グループ学習 I はじめに 近年,コンピュータやインターネットなど情報通信技術の進展は目覚ましいものがある。 1990 年代前半においては,インターネットといってもテキスト情報を送るにとどまって いたものが,今日では, You 'fu be などで動画を閲覧したり,電子書籍などを手軽に閲覧 したり,インターネットで簡単に多くの情報を手に入れたりできるようになった。また, iPad などのタブレット端末も様々な形で進化し普及している。 現在の大学生にとって,携帯電話やスマートフォンは,電話としての機能よりもメール でコミュニケーションをするツールとして欠かせないものとなり,ツイッターやフェイス ブックで情報を発信するツールとしても活用されている。子どもたちゃ学生を取り巻く情 報通信に関する環境は,数年前とは比べものにならないほど激しく変化している。 このように,数年前にはできなかったことが今日ではあたりまえになり,情報通信技術 (l CT;Information and Communication Technology) は,指数関数的に発展している といわれている。情報通信技術の進展に伴い学校の情報化も進んでおり,文部科学省によ れば,平成 24 3 月現在の学校における ICT 環境の整備状況は,以下のような結果とな っている。 1) 教育用コンビュータ 1 台あたりの児童生徒数 6.6 ② 教員の校務用コンピュータ整備率 102.8% -45-

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教員養成教育における ICT活用能力育成の試み

電子黒板とタブレット端末を活用したグループ学習

上田喜彦 ([email protected])

天理大学人間学部総合教育研究センター教職課程

要旨 近年,学校の情報化が進展し,電子黒板や教育用コンビュータが多く

の小・中学校に導入されている。また, iPadなどのタブレット端末やタブ

レット型パソコンの教科指導への活用や教科書のデ、ジタル化も研究が進んで

いる。これらの教育の情報化に伴って,学校現場では, ICT機器を活用し

て授業ができる教員が求められている。

本報告では,教員養成教育における ICT活用能力育成の試みとして,教

職に関する科目「教育方法学Jの授業で,筆者が実践した「電子黒板とタブ

レット端末を活用したグループ学習Jについて報告する。また,その教育実

践の省察から,その効果,実践のために必要な ICT環境,教育の情報化に

対応した教員養成教育のあり方等についていくつかの実銭的な示唆を得た。

キーワード電子黒板 タブレット端末教員養成教育 グループ学習

I はじめに

近年,コンピュータやインターネットなど情報通信技術の進展は目覚ましいものがある。

1990年代前半においては,インターネットといってもテキスト情報を送るにとどまって

いたものが,今日では, You'fubeなどで動画を閲覧したり,電子書籍などを手軽に閲覧

したり,インターネットで簡単に多くの情報を手に入れたりできるようになった。また,

iPadなどのタブレット端末も様々な形で進化し普及している。

現在の大学生にとって,携帯電話やスマートフォンは,電話としての機能よりもメール

でコミュニケーションをするツールとして欠かせないものとなり,ツイッターやフェイス

ブックで情報を発信するツールとしても活用されている。子どもたちゃ学生を取り巻く情

報通信に関する環境は,数年前とは比べものにならないほど激しく変化している。

このように,数年前にはできなかったことが今日ではあたりまえになり,情報通信技術

(lCT; Information and Communication Technology)は,指数関数的に発展している

といわれている。情報通信技術の進展に伴い学校の情報化も進んでおり,文部科学省によ

れば,平成 24年 3月現在の学校における ICT環境の整備状況は,以下のような結果とな

っている。 1)

① 教育用コンビュータ 1台あたりの児童生徒数 6.6人

② 教員の校務用コンピュータ整備率 102.8%

-45-

③ 普通教室の校内 LAN整備率

④ 超高速インターネット接続率

83.6%

71.3%

(高速インターネット 98.4%)

73,377台(前年比 12,899台増)

72.5% (前年比 3.2%増)

22.6% (前年比 9.1%増)

125,679台(前年比 13,226台増)

⑤ 電子黒板の整備状況

電子黒板のある学校の割合

デジタル教科書の整備状況

⑥ 実物投影機の整備状況

まだまだ十分とはいえないが,数年前と比較すれば,教員の校務用コンピュータや電子

黒板整備などハード面での整備が進んでいる状況がわかる。また,教員の ICT指導力に

ついても,下の図のように推移していることが報告されている。

(%)

100

90

80

70

60

50

40

H 19 . 3

Ae紛研究・錨場の,.・.If信~白羽Te活用する鎗1JB:m.ゅに1CTを活用して18記事する飽カc-.a.のtCT活用を錨.する飽1JD~側鰭毛ラル唱Eどを錨aーする飽カE:ooに!CTを活用する鎗カ

78.1

81.5 82.8

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Hn・3

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図1 教員の ICT活用指導力の推移

-46-

,i!18小項目(A'-E2)ごとにa段階野信苦行い.rbりにで曹る』若し<I;l.rややで曹るjと悶寄した験阻の網古

90

75.4 75.7

73.9 71.6

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50

40

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10

。Al A2 A3 A4 81 82 83 84 CI C2 C3 C4 01 02 03 04 El E2

図2 教員の ICT 活用指導力の状況(18 小川1 別 ・ 企校~Jí)

これらの状況を見ると,成績処理や学校事務など校務の処理にコンビュータを用いるこ

とは当然になり ,授業や教科指導等への ICTの活用も進んで、いくと考えられる。今後,

教員となるものには,教員採用時点でこれまで以上の ICT活用能力が求められることに

なるであろう ことは,容易に推察できる。新聞等の報道 2)によれば,大阪市では,2015

年度以降すべての市立小中学校に授業用のタブレッ 卜端末を順次導入し,電子黒板と接続

して,授業に活用することを計画している。さらに,佐賀県では,平成 26年度に採用す

る教員の採用試験(平成 25年度実施)から,その二次試験に,竜子黒板による模擬授業

を導入することが発表されている3)。

また,海外の動向に目を向けると,アジアにおける教育の情報化の先進地域といわれる

韓国やシンガポーノレで‘は,屯子黒板の導入やタブレット端末によるデジタノレ教科書,児童

生徒の学習ツールとしてのタブレッ ト端末の利用などが一般的に行われている。韓国にお

いては,2015年から,タブレッ ト端末による教科書のデジタノレ化を行うことを決定し,

学校現場もそのように受け止め準備を進めている。シンガポールではフューチャースクー

ノレの実践的研究に基づ、いて,多くの学校で,学習ツーノレとしてタブレッ 卜端末を導入した

教育実践が行われている九

本稿では,教員養成教育における ICT活用能力育成の試みとして,筆者が実践した

「電子黒板と タブレット端末を活用したグノレープ学習j の教育実践について報告する。ま

た,その教育実践を省察することから,その効果や実践のために必要な ICT環境,教育

の情報化に対応した教員養成教育のあり方等について得られたいく つかの知見についても

報告する。

-47-

E 電子黒板やタブレット端末の教育への活用

1 電子黒板の特徴

教育の情報化が推進され,小・中学校を中心に電子黒板が導入されつつある。電子黒板には,コンビュータの画面を大型ディスプレイで表示する「一体型の電子黒板J, 黒板やスクリーンを張り付け,コンビュータ画面をプロジェクタで投影し,スクリー

ン上で直接操作や書き込みができる「ユニット型J,ホワイトボードのようなスクリーンにプロジェクタで投影し,ユニット型と同様の機能をもった「ボード型j の3種

類が一般的である。

電子黒板は,黒板の機能, OHPの機能,テレビ・ビデオの機能,コンビュータ・ディスプレイの機能のすべての機能をもっディスプレイ装置であるといえる。電子黒

板は, r操作J r書き込みJ r保存Jが特色とされている。 r操作Jは,映写された画面上でコンビュータを操作でき,児童生徒の集中力の向上,教師の授業の効率化につながる。 r書き込みJは,写真や映像など,コンビュータ画面を通じて画面のどこにでも書き込みが可能であり,指示や説明を明確に伝えることができる。 r保存j は,

提示した画面も書き込んだ内容も簡単に保存が可能で,以前の学習の復習や児童生徒の考えを比較するときに便利である。

しかし,画面の大きさが黒板に比べて小さいこと,コンビュータの操作が必要であること,若干の事前準備が必要なことなどは,黒板に比べ劣っているといえる。これまでに学校の教室で集団に教材や資料などを提示するために使われてきたディスプレイ装

置の機能を整理し,メリットやデメリットなどの特性をまとめてみると,表 1のよう

になる。

表 1 教室のディスプレイ装置のメリットとデメリット

消し 注動画

視線目と

フ 止静ン

画面

能手書可きてYもE

ン ピ

備事前準コ.

ダ 画音声 の

ム のタ

大きさ戻れ

の方表t 提万立

の の一提刀t 操作る 致

黒板 。 × 。 × ム × ~ 。 。OHP 。 A A ム 。 × / 。 。ピデオ

× × ム × ム 。/ ム 。テレピ

コン モニタ × × × 。 。 。 ム × ムピュータ スクリーン × × 。 。 。 。 ム 。 A

電子黒板 。 。 。 。 。 。 。 ム A 」

n中 0・・・メリット ×…デメリット ム・・・その鏑能はあるが十分ではないと考えられるもの 清水康敬 rlll子m鋭で侵廷が変わる』にlUQの表をもとに司王暑が作成

-48-

2 電子黒板等の教育への活用の効果

電子黒板の教育活用の効果については,文部科学省の委託により行われた『電子黒板の

活用により得られる学習効果等に関する調査研究 報告書~ 5)では,次のように報告され

ている。

授業実施した教員の評価として,初回の一体型電子黒板活用では,コンビュータや実物

投影機をあわせて活用し,静止画を提示したり,静止画に書き込んだりして,授業の展開

場面と導入場面で,主に教員が説明に活用した割合が高い。また,電子黒板の準備やシス

テムの立ち上げについては, 90%以上の教員が負担ではないと感じている。さらに,す

べての教員が,電子黒板の活用は,子どもの意欲を高めたり,理解を深めたりする効果が

あると感じている。今後の活用の課題としては,すべての教室への整備や映像コンテンツ

の充実させることが必要であると感じているとしている。

また,同調査報告書では,一体型電子黒板を活用した授業によって客観テストの結果が

有意に高くなること。特に,社会や算数・数学,理科において,思考・判断に関する観点

で有意に高い結果を示したとしている。ただし,一部の観点では,有意な差が得られてお

らず,これは,一体型電子黒板を活用した指導方法にも関係すると考えられるとして,そ

れらの視点に関する一体型電子黒板活用の指導方法に関する調査研究を今後の課題である

としている。

同報告の児童生徒向けの意識調査では,小・中学校の社会,算数・数学,理科における

意識調査 4877件について,全 21項目に関する因子分析を行った結果,①関心・意欲,

②思考・表現,③知識・理解の 3つの因子が抽出することができたとして,社会,算数・

数学,理科のそれぞれで,一体型電子黒板を活用した授業の方が活用しない授業と比較し

て,①関心・意欲,②思考・表現,③知識・理解が確実に高いことが分かつたとしている。

このほかにも, ICTを活用した授業では,子どもの意欲喚起や学力向上に寄与すると

いう結果が報告 6) されており, ICTの教育への活用は,一定の効果があるといわれてい

る。

3 デジタル教科書と学びの場

学校の情報化が進み, ICTの教育への活用の効果が一般に認識されていく,これから

の時代の教員には,授業にデ、ジタル教科書や電子黒板,インターネットなど ICTを活用

した指導を積極的に取り入れ,わかりやすく力のつく授業を展開していく授業力が求めら

れている。

(1 )デジタル教科書

いわゆるデジタル教科書とは, rデ、ジタル機器や情報端末向けの教材のうち,既存の教

科書の内容と,それを閲覧するためのソフトウェアに加え,編集,移動,追加,削除など

の基本機能を備えるものj のであるとされている。デジタル教科書は,指導者用デジタル

教科書と学習者用デジタル教科書の 2種類に大きく分けることができる。

現在,我が国でデジタル教科書といわれているものは,指導者用デジタル教科書で,

-49-

「主に先生が電子黒板等により子どもたちに提示して指導するためのものj であるといえ

る。

(2) ICTを活用した学びの場

具体的には,授業の中 ICTを活用した学びの場としては次のような場面が考えられる。

① 一斉授業において,ポイントとなる部分を拡大・強調したり,動画など子どもた

ちの興味関心を引く教材を使用して学んだりすること。すなわち,授業の中で,電

子黒板や液晶プロジェクタ等を用いて教師用のデジタル教科書等の教材を提示した

り,シミュレーションや静止画・動画を提示したりして,教師が指導ツールとして

ICTを用いる場である。

② 個別学習において,デジタルコンテンツ等の活用により,疑問について深く調べた

り,自分にあった進度で学んだり,一人一人の理解やつまずきの状況に対応した課

題に沿って学びをすすめたりすること。たとえば,インターネットを用いて調査活

動を行うことや児童生徒用の学習コンテンツを用いてドリルなどの定着指導を行う

こと,あるいは,学習者用デジタル教科書を用いてコンテンツを編集,移動,追加,

削除しながら学習することなど,児童生徒が学習ツールとして ICTを用いる場であ

る。

③ 共同学習において,情報端末や提示機器等を活用し,教室内の授業で子どもたち

同士がお互いの考え方の共有や吟味を行いつつ意見交換や発表を行うことや,学校

外・海外との交流授業を通じて,お互いを高め合う学びを進めること。たとえば,

タブレット端末やコンビュータを用いて,自らの考えを発表したり,書画カメラを

用いてノートを拡大表示しながら説明したりするなど,児童生徒が学習ツールとし

てICTを用いる場である。

このように学校における学習場面でICTの活用が広く行われようとしている状況のな

かで,教員養成においても,教材やコンテンツの開発の技能の向上,黒板のような従来の

教室メディアとの有機的で効果的な活用方法に関する考察,タブレット端末を用いた協働

教育(インタラクティブな教育)の理解や技能などの向上が求められている。

1 実践の概要

・実践の時期

.科目名

・対象

E 電子黒板と iPadを活用した教育実践

2012年度春学期

教職に関する専門教育科目『教育方法学J

3年次生〈人間,文,国際学部)100名 (3クラス)

-50-

-実践の概要

教育方法学は,教育職員免許法施行規則第6条に規定された,教育課程及び指導法

に関する科目で,教育の方法及び技術(情報機器及び教材の活用を含む。)につい

て修得することが求められている科目である。筆者が担当している授業では,次の

ような到達目標を設定している。

【到達目標】

① 教育方法に関する基礎理論等について理解で、きる。

② 授業展開に必要な基礎的な知識・技能等について理解できる。

③ 教育における ICT活用の基礎的な理論等について理解できる。

④ ICTを活用した教材開発について理解できる。

このためJ 90分間の授業を前半と後半に二つにわけ,前半を教育方法の歴史や一

般的な教育方法に関する講義にあて,後半を ICTの教育への活用の知識や技能を育

成するための実習・演習を中心とした構成としている。

今回の実践全体の概要は,表 2に示したとおりである。

なお,この授業は,コンビュータ入門などで,コンビュータの基本的操作やワード

やエクセルなどの代表的なオフィスアプリケーションの操作はマスターしているこ

とを前提としているため,実習・演習では プレゼンテーション用のアプリケーシ

ョンである fパワーポイントJ8)の操作と教材開発,指導者用のデジタル教科書作成

アプリケーションであるはBookProJ9)による教師用デジタル教科書の作成及び,

本年度から電子黒板 rBIGPADJ (SHARP社製)が導入されたことに伴いJ BIG

PAD用 SHARPベンソフト 10)の操作を取り扱う。また,電子黒板を用いる前提とな

る電子黒板とコンビュータおよびiPadとの接続方法についても,本年度から取り扱

うこととした。

表 2 2012年度春学期「教育方法学』のシラパス

講義 実習・演習

1 オリエンテーション・教育方法に関する諸概念

2 授業の準備に関わる諸概念 ワード演習①「自己紹介カードをつくろう(1) J

3 教育方法の理論と歴史① パワーポイント演習①「基本操作Jプレゼン基礎

4 教育方法の理論と歴史② パワーポイント演習②「課題提示型教材の作成J

5 教育方法の理論と歴史③ パワーポイント演習③「フラッシュ型教材の作成j

6 小テスト(教育方法の理論と歴史) パワーポイント演習④『アニメーションを使って①J

7 学習意欲と授業と授業技術の関わり パワーポイント演習⑤「アニメーションを使って②j

8 教師の言語活動『発問J パワーポイント演習⑥「動画を挿入するJ

9 教師の言語活動『説明J 「指示J 電子黒板について

10 学校教育と著作権 教師用電子教科書をつくろう①-dBookProを使ってー

11 ICTの教育活用と情報モラル教育 教師用電子教科書をつくろう②-dBookProを使ってー

12 板番の機能と電子黒板の活用 教師用電子教科書をつくろう③-dBookProを使ってー

13 板番の計画と板番の実際 教師用電子教科書を使ってみよう①ーデジタル教科書一 |

14 さまざまな学習形態とその活用 電子黒板と iPadを活用して

15 授業のまとめと課題提出

唱EA

FD

以下では,表 2で示した内容のうち「危子黒板と iPadを活用してJについて報告する。

2 電子黒板と iPadを活用したグループ学習

(1)授業の目標(知識 ・技能面を中心に)

① 屯子黒板と iPadを Wi-Fiを介して接続する"AirPlay"(ミラーリング)の方法

について理解することができる。

② 演習をとおして, iPadの機能を理解し,授業場面での iPadの活用について考え

ることができる。

(2)学生の実態

パワーポイントによる教材開発について 学習を終えた時点におけるアンケート調査

(57名から回答を得た)から学生の実態を探ってみると,次のようになる。

① ICTを活用した授業を受けた経験

中学校 技術 ・家庭,高等学校「情報j 以外の授業で ICTを活用した授業を受け

たことがある学生は6% (3名)で, 94% (54名)の学生は,ICTを活用した授業を受けた経験が無いと回答している。学校種別の内訳は,小,中,高それぞれ 1名

ずつで,教科領域としては,社会科,外国語科,特別活動があげられている。

② ICTの教育への活用について

ICTの教育への活用については,積極的に授業に取り入れるべきだと考える学生

が 17% (10名),補助的に授業に取り入れるべきだという学生が 71% (41名)で,ほとんどの学生が何らかの形でICTを教育に活用すべきであると考えている。

また,次のような授業場面で ICTを活用したいと考えている。

授業でICTを使いたい場面。 5 10 1S 20 25 30

学習得担のi呈示(j畳~の混入)

生徒に発表をさセる(綬菜の展開)

牧師が説明する(慢*の展開

放師が民支のまとめをす{l(!蛍菜の終末)

組織・理解.1支能の定着(問題の提示)

その他

図 3 綬業で ICTを使いたい湯面(n=57:盤復回答)

nL

F

、υ

③ ICT活用の知識・技能について

授業等での ICT活用の知識や技能についての自己評価結果は,次の表のとおりである。

表 3 授業等での ICT活用の知臓や按能についての自己評価の結果

1 2 3 4

授業で使う教材や資料などを集めるために,インターネットなど5% 15% 52% 15% を活用する。

授業に必要なプリントや提示資料を作成するために,ワープロソ3% 22% 45% 19%

フトやプレゼンテーションソフトなどを活用する。

学習に対する生徒の興味・関心を両めるために,コンビュータや7% 19% 43% 19%

提示装置などを活用して資料などを効果的に提示する。

生徒一人一人に課題意識をもたせるために,コンビュータや提示7% 17% 54% 14%

装置などを活用して資料などを効果的に提示する。

わかりやすく説明したり,生徒の思考や理解を深めたりするために,コンビュータや提示装置などを活用して資料などを効果的に 5% 28% 38% 19%

提示する。

生徒がコンビュータやインターネットなどを活用して,情報を収1% 24% 52% 12%

集したり選択したりできるように指導する。

生徒が自分の考えをワープロソフトで文章にまとめたり,調べた結果を表計算ソフトで表やグラフなどにまとめたりすることを指導す 8% 29% 45% 8% る。

生徒がコンビュータやプレゼンテーションソフトなどを活用して,わかりやすく説明したり効果的に表現したりできるように指 10% 26% 43% 8%

導する。

※ 1 ほとんどできない 2 あまりできない 3 ややできる 4 わりにできる

※ 無回答は,表中に表示していないが,各項目 7%一10%程度が無回答である。

これらの結果から, rデジタルネイティブJといわれる現在の学生たちは,自らICT機器を操作することにはある程度なれており自信を持っているが,それにくらべて,生徒に指導することについては自信が持てない状況にあるといえる。

これは,これまで学校で ICT機器などのハードの整備が遅れていたことや学生たち

が小・中・高等学校で ICT機器を活用した授業を受けた経験が少ないことから,指導

場面をイメージすることが困難であるということに起因していると考えられる。そこで,教育方法学の前半では,教材提示や説明などに効果的に活用できると考え

られるプレゼンテーションソフトの操作を取り扱い,後半では,機器の操作よりも,できる限り教材を効果的に作成することや,発問・指示,板番技術,授業展開と学習形態などの講義と関連付けながら, ICT活用能力を高めるように授業構成や内容を工夫し

た。

(3) この実践に必要な教室の ICT環境

今回の実践では,普通教室において,大型デ、イスプレイ 1台とiPad 7台(うち1台は教師用)を用いて,グ、ループ学習の発表を行うことを想定している。できる限り高価なソフトウェアやノ、ードウエアを用いずに,できるだけ簡易な方法で接続することを考

司。FD

えた。また, iPadのモバイノレピリティを生かすために, 概念図 (図4)のように, Wi-Fi

(無線 LAN)Jレーターと AppleTVを用いて, iPadの AirPlayミラーリング機能を用い

た。この接続方法では,同時に 1台の iPadの画面しか表示できないという難点はあるも

のの,一度接続の設定をしておけば,大型ディスプレイ(たとえば,大型のデジタノレテレ

ビ)が教室に設置してあれば, iPadを 10台までは接続可能で,AppleTVとWi-Fiノレー

ターのみを移動させれば,環境を整えることが可能であるため,汎用性は非常に高いとい

える。

0 今回使用した機器及びソフトウェア一覧

[ハードウエア]

大型ディスプレイ(電子黒板) : B 1 G P A D (SHARP社製 PN-L602B)

AppleTV (Apple社製)

Wi-Fiノレーター:e-mobile Pocket WiFi LTE GL02P

タブレット端末 :iPad第3世代 (Apple社製 MC707J iOS6.0.1)

[ ~ノフトウェア ]

プレゼンテーションソフト :KEYNOTE (Apple社製)iPadで使用。

大型ディスプレイ

インターネッ ト

〆/〆〆斤/

AppleTV Wi-Fi Jレーター

無線LAN

図4 大型ディスプレイと iPadの接続概念図

R1 E園

iPad

これらとは別に, デジタノレ教科書表示のために,デジタノレ教科書用ソフト :dBookPro

(ラティオインターナショナノレ)校内フリーライセンス版およびコンビュータ 1台。また,

例示用に インターネット閲覧用ソフト Safari,1屯子書籍等を使用 した。

-54-

(4 )授業の実際

① 学習形態と授業展開に関する講義(略)

② AppleTVを用いたミラーリングによる接続方法

ここでは,各グノレープに 1台の iPadを配り ,

dBookProを用いて,その方法を電子黒板に示しながら,

AppleTVを用いたミラーリ ングによる接続方法について

解説し,その後グループごと伍実際に設定をして,実際

にミラーリングによる表示を行った。

③ iPadの機能の概説

iPadでは,インターネッ トの閲覧,メー/レ

の送受信,ワープロ,プレゼン,表計算などコ

ンビュータでできることは,アプリケーション

をインストーノレすることによって,ほぼすべて

できること,また,内蔵されているカメラで写

真や動画を撮影すること,音声を録音再生する

こと,辞書や電子書籍を閲覧することなどがで

きることについて解説するとともに,そのうち

のいくつかについては,実際にアプリケーショ

ンを起動させて説明をした。

iPadは,操作が直感的におこなえることから,低学年の児童や初めて扱う生徒た

ちにとっても,操作についてのハードノレは高くない。もちろん,コンビュータやス

マートフォンの操作を経験している学生にとっては,操作自体はさほど困難はない

と判断し,操作については,ごく簡単な説明にとどめた。

④ グ、/レープ討議

f授業における iPadの活用方法を考えてみようJとしづ課題について,グノレープ

で討議し, その結果を fKEYNOTEJを用いて発表し共有した。

まず,下の写真のように, K J法を用いて,各個人の考え得る活用方法を付筆紙

に書き ,それを集約 ・カテゴライズして,グループの意見と してまとめ,

fKEYNOTEJを使ってプレゼンの資料としてまとめ,大型液晶に提示しながら,

グ、ノレープごとに発表 した。ここでは,機々な iPadの活用法が発表された。具体的な

内容については,後述する。

KJ)去による意見の集約 iPadによるプレゼン作成

⑤ フィー ドパックペーパーの記入(略)

phd

Fhd

大型ディスプレイを用いた発表

N 実践の省察

1 授業の目標は達成できたか

今回の実践では. r①電子黒板と iPadを Wi-Fiを介して接続する"Ail・Play"(ミラー

リング)の方法について理解することができる。 ② 演習をとおして.iPadの機能を

理解し,授業場面での iPadの活用について考えることができる。 j の二つを授業の目標

としたが,その目標は達成できたのかを考えてみる。

①については,授業後半のグループ発表において,グノレープの代表がこの機能を用いて

発表したが,その際,すべてのグ‘/レープが,さほど混乱せずに大型ディスプレイ

に"AirPlay"(ミラーリング)機能を用いて iPadと接続できたことから,ほぽ達成できて

いるのではないかと思われる。

②については,少なくとも rKEYNOTEJの操作については,すべてのグノレープで・質

問はなく ,スムーズに操作ができていた。これは,教育方法学の前半で, パワーポイント

について学習したことが生かされているとともに,スマートフォンなどの操作による機器

に対する慣れもあるのではないかと考えられる。

また,授業場面での iPadの活用方法については,様々な意見が出された。以下にいく

つかのグ〉レープの発表資料をあげる。

[Aグノレープ]

先生が使用する場合

[Bグループ]

聾唖通信

-何回で出紛盟実

.9.,圃で圃宜血茸車

iPadの授業での活用

一56-

1.寅儒剛{吹同,TuI叫調毛怠Eど}湾をaみ与f仇1晶

!「附…分併一で叫叩雌郎な繍…寅

.写属聖児るととが出来晶

ピレピ臨地える

発表

- 捜(&ど~t!ヲたフしゼン.tJ"Tllð

-慶.レジュメを作れる

-口分@耳曲が冨積聞に・nd

・先様1>'..にで11る

画像情報【自】 画像情報[耳】

-地図在使える

-写認を使ってlItI'Rで曾る

-備促at~どの寅P!!l示

oSJ置をel1る

o~1Itの免責3~al1る

-直面が大gぃ

ここにあげたほカ吋こも,

「体育の授業で,パフォ

ーマンスを動画で撮影して改善するJ r辞書などの電子書籍を使って調べ学習をするj な

ど,短時間のグ、ループ討議で、はあったが,学生たちは, iPadの機能を生かした授業場面

での活用方法について考えることができたと考えられる。

-白濁聖児ねる

2 iPadを活用するためのICT環境について

今回は,普通教室で各グ、ループのiPadを, AppleTV及ひ~Wi-Fiノレーターを用いて,電子

黒板と接続してグループの発表を行うことを想定して実践した。この接続方法は,サーバ

ーや高価なアプリケーションが必要なく,持ち運び可能な機器のみで接続でき,電子黒板

がない場合でも,大型のデ、ジタルテレビ等に接続でき汎用性が高い。そのため教員個人で

の導入もでき,グ、ループごとの発表や教師が説明に使う場面などでは,有効な方法である

といえる。しかし,このICT環境では,ルーターへの接続台数(最大10台)の制限や,

AirPlayミラーリングによるiPadと電子黒板との接続の制限(1対 1の接続のみ可能)と

いうハード面での制限があるため,児童生徒一人一人の考えを積み上げたり,話し合った

りする活動に使うのには限界がある。

グ、ループの考えを一覧して,発表する部分を教師が指定したり,子どもの考えをつない

でいく授業を行ったりする場合など,さらに多くのタブレット端末を接続したり,一人 1

台のタブレット端末を学習ツールとして用いるためには,現在のコンビュータ教室のよう

なインタラクティブなシステムを構築する必要があるといえる。

3 教育の情報化に対応した教員養成教育

平成20年告示の学習指導要領では,教科指導における教員のICT活用を求めている。ま

た,教育の情報化に関する手引では, r教員が授業のねらいを示したり,学習課題への興

味関心を高めたり,学習内容をわかりやすく説明したりするために,教員による指導方法

のーっとしてICTを活用することであるJと記されている。

子どもの興味関心を高めるためには,指導のねらいや子どもの実態に応じた教材を教員

が十分吟味し,選ぶことが重要である。また,教員が教材をタイミングよく拡大提示した

り,提示した映像や画像などを指し示しながら発問,指示や説明をしたりすることで,

ICT活用による効果が期待できるといえる。

教員養成教育においては, ICTの積極的な活用やICT機器の使い方を習得することは,

当然のこととして,それを活用してどのように授業展開の中で活かしていくかが重要で、あ

円'Fhd

り,発問や指示,板書やノート指導などこれまでに蓄積されてきた様々な授業面でのスキ

ルとの関連を改めて見つめ直すことが必要であると考える。

教員養成教育における情報関連科目のカリキュラムについては,たとえば,本学におい

ても,教育方法学の履修までに,コンビュータ入門の修得が必要とされているように,教

育職員免許法の定めに応じた科目を配当している。しかし,実態調査から,自らがコンビ

ュータなどの情報通信機器を活用したり,インターネットを活用したりすることにくらべ

て,それらを児童生徒に指導することについて「できるj と考えている割合が低いことが

分かる。また,教育方法学において,提出された課題をみると,プレゼンテーションソフ

トやデ、ジタル教科書作成ソフトなどを用いて,教材を作成することで精一杯で,効果的な

教材の作成についてさらに追求したり,教材研究を活かした教材を作成したりすることな

と学校現場で求められる十分なICT能力を養うところまでには至っていないのが現状と

いえる。今後,教員養成に特化したコンピュータ基礎やさらに高いICT活用の能力育成を

めざした情報関連科目などを選択できるようにカリキュラムを工夫していく必要もあると

考えられる。

また,今回タブレット端末としてiPadを授業で学生が使用する形で導入したが, ICT機器の操作等については,経験したことややってみたこと以外は,知識や技能として定着し

にくいことから, ICT機器の発達に合わせて最新の機器に触れてみることが重要であると

いえる。授業アンケートでも,この授業で良かった点を問う設問で riPadを使ってみて,

とても便利なのに驚いた。 Jや riPadをはじめて使ったが,授業の中でいろいろ使えそ

うで興味をもった。 J, riPadの使い方がわかって良かった。 J等の回答があった。こ

のことから,教員養成教育にあたっては,今後学校で使用されると考えられるICT機器を

用いて授業を行うことが重要であり、そのことが教員になった際, ICT,機器を活用できる

素地になると考えられる。

V おわりに

今回は,教員養成教育におけるICT活用能力育成の試みとして,筆者が,実践した「電

子黒板とタブレット端末を活用したグループ学習Jの教育実践について報告した。また,

その省察をすることから,今後の教育実践に資する次のような示唆が得られた。

今回の実践をとおして, iPad等のタブレット端末をグループ学習のツールとして,

電子黒板と接続して使用する簡便な方法について開発し,それが利用可能であること。

・ iPad等のタブレット端末をグ、ループ学習のツールとして使用させることを通して,タ

ブレット端末の操作の概要を理解させ,電子黒板との接続方法について,学生に理解さ

せること。

グループでの討論のテーマとして「授業におけるiPadの活用方法j を考えさせるこ

とで,これまでの教育方法学での授業の内容を総括することができ,グループ発表のツ

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ールとしてiPadを用いる方法を学生に経験させ,体験的に理解させること。

タブレット端末(たとえばiPadなど)に触れる機会を設けることで,教員となった

際にICT機器を活用する素地となると考えられること。そのために,最新のICT機器に

触れることができる機会を設けることが大切であること。

教員養成教育においては, ICT機器の操作だけではなく,これまでに蓄積されてきた

授業技術や指導技術との組み合わせの中で, ICTを活用したより一層効果的な指導につ

いて考察させるためのカリキュラムの見直しゃ工夫が必要であること。

今後の課題としては,協同学習や学習ツールとしてのタブレット端末の活用や,一人 1

台などもっと多くのタブレット端末を用いた教育実践の試み,教員養成における情報関連

科目の具体的なカリキュラムの検討などがあげられる。

註及び引用・参考文献

1) 文部科学省「平成23年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果〔速報値)J ,

2012.9

2) たとえば,朝日新聞 2012年6月1日 朝刊「全小中にタブレット端末 大阪市教委、導入へj

の記事など

3) 佐賀県教育委員会HP http://www.pref.saga.lg.jp/web/var/revO/Ol06/5977/2012511141011.pdf.

2012.11.10現在

I平成25年度佐賀県公立学校教員採用選考試験実施要項Jp.9に,来年度の採用試験について

として, r佐賀県教育委員会は, ICT利活用教育を推進しています。来年度からは,第二次試験

において, ICT利活用力をみるため,電子黒板を使った模擬授業を導入する予定です。 Jの記述

がある。

4) シンガポールの状況については, たとえば,テイ・リー・ヨン(著),リム・チェー・ピン

(著),カイン・ミント・スウィー(著),中J11一史(監訳)~フューチャースクール シンガポール

の挑戦~ , 2011,ピアソン桐原など,韓国の状況については,筆者がICME12に参加した際の韓

国の小・中学校教員へのインタピ‘ューに基づいている。

5) 株式会社内田洋行教育総合研究所「電子黒板の活用により得られる学習効果等に関する調査研

究J検討委員会『文部科学省委託 電子黒板の活用により得られる学習効果等に関する調査研究

報告書~ ,平成22年3月

6) たとえば,平成18年度に,独立行政法人メディア教育開発センターが,文部科学省の委託を受

けて実施した「教育の情報化の推進に資する研究(lCTを活用した指導の効果の調査)Jによれ

ば,小学校においてICTを活用した授業を行い, ICTを活用しなかった授業と比較して, r知識・理解J r関心・意欲J r思考力・判断力Jが向上したとしている。

7) 文部科学省『教育の情報化ビジョン』平成23年4月

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8} パワーポイントは, Microsoft Office 2010 PowerPointを使用した。

9} dBookProは,ラティオインターナショナル社から販売されているデジタル教科書作成ソフトの

名称。 Windows搭載コンピュータで, Adobe社製FlashPlayerがインストールされていれば,簡

単にしかも直感的にデジタル教科書が作成できる。このソフトウェアは,上原永護著

~dBookProデジタル教科書作成入門~ , 2011,イーテキスト研究所においても使用解説の書籍

に添付して提供されているが,今回は,ラティオインターナショナルから, rdBookProデジタ

ルブック校内フリーライセンスJを購入して使用した。

10} BIGPAD用SHARPベンソフトは,本年度, PC教室に導入された電子黒板

(SHARPPNL602B)に付属のソフトウェアで,電子黒板上に書き込んだり、画像を提示したり,

画面を保存したりすることができる。

11} 文部科学省『教育情報化の手引き』平成21年3月

12) 文部科学省「教員のICT活用指導力チェックリスト(中学校・高等学校版}J平成19年2月

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