水中音響 ofdm 通信装置の構成と 実証試験 -...

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卒業論文 水中音響 OFDM 通信装置の構成と 実証試験 北見工業大学電気電子工学科 集積システム研究室 在籍番号 1110800033 赤田 2015 2 25

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卒業論文

水中音響 OFDM通信装置の構成と実証試験

北見工業大学電気電子工学科

集積システム研究室

在籍番号 1110800033赤田 瞬

2015年 2月 25日

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目次

第 1章 はじめに 1

1.1 背景と目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

1.2 本論文の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

第 2章 水中音響通信 3

2.1 水中環境における吸収減衰 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

2.2 水中音響の伝搬 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

2.3 OFDM変調方式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

2.3.1 ガードインターバル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.4 ダイバーシチ技術 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.4.1 空間ダイバーシチ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.4.2 周波数ダイバーシチ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.4.3 時間ダイバーシチ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.4.4 ダイバーシチ合成方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.4.5 選択型 RAKE受信 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

2.4.6 シュミレーション特性評価の概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

第 3章 実証試験装置構成 13

3.1 装置全体の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.2 ハイドロフォン . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

3.3 OFDM送受信機の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

3.4 インパルス応答・周波数応答測定方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

第 4章 小型水槽試験 18

4.1 測定条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

4.2 インパルス・周波数応答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

– i –

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4.3 BER結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

第 5章 プール試験 23

5.1 測定条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

5.2 インパルス・周波数応答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

5.3 BER結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27

第 6章 まとめ 29

謝辞 30

参考文献 31

付録 A 追加資料 33

– ii –

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第 1章

はじめに

1.1 背景と目的

水中音響通信は無線での画像や動画の伝送,遠隔操作で動く水中探査機 (Remotely Operated

Vehicle,ROV) の制御など多くの利用用途があり,海洋の調査や研究を要する島国である我が

国にとって,その重要性は高まりつつある.水中音響通信装置の研究開発では電磁波通信と

同様にデジタル変調方式の導入が進んでおり [1],近年では反射波による干渉に強い OFDM

(直交周波数分割多重方式,Orthogonal Frequency Division Multiplexing)に注目が集まっている

[2]-[5]. OFDMでは伝搬路の特性や障害物などの反射波によって生じるマルチパスに対処する

ため,想定する反射波の最大遅延時間に対応するガードインターバル (Gurard Interval,GI) を

設定する [6].水中環境における電波伝搬は吸収減衰が大きいため通信に不適合であり,音波

を用いるにあたっては吸収減衰の少ない, 数 10 kHz ~100 kHz 帯の減衰量の少ない周波数帯

を用いるのが望ましい [7]. しかしながら,音波の伝搬速度は電磁波よりも遅いため,電磁波通

信で想定している場合よりも遥かに遅い反射波が到来する.文献 [8]の海域実験では 3 msの

マルチパス波が報告されており,それに伴う長区間のガードインターバル挿入による実効デー

タ伝送速度の低下や受信応答の遅延が問題となる.

我々の研究室では,水中音響通信で短区間のガードインターバルでも十分な通信品質を得る

ための方法として,ダイバーシチ技術を用いてシュミレーションでの評価を行い,提案手法の

選択型 RAKE受信の有効性を明らかにした [9].

本研究では,水中音響通信試験装置の構築と小型水槽での試験, 及びフィールド試験 (プー

ル)によって,シュミレーションと同様の効果を得られた,選択型 RAKE受信の有効性を報告

する.

– 1 –

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1.2 本論文の構成

第 2章では,水中環境における伝搬特性について述べ水中音響通信に用いる OFDMの原理

について簡単に触れ,特にガードインターバルについて述べる.また,各種ダイバーシチ方式

についても述べる.

第 3 章では,装置全体の構成とハイドロフォンについて記述する.またソフトウェア上の

ベースバンド処理について述べ,章の最後にインパルス・周波数応答の測定法について述べる.

第 4章では,小型水槽試験について,測定条件と試験結果について述べる.

第 5章では,フィールド試験 (プール)について,測定条件と試験結果について述べる.

第 6章では,研究結果のまとめと今後の課題等について述べる.

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第 2章

水中音響通信

2.1 水中環境における吸収減衰

陸上では,電磁波を使った無線通信が一般的に行われているが,水中となると電磁波の吸収

減衰が大きく,使用するのが困難であるため,吸収減衰の格段に小さい音波を用いた無線通

信が主流になっている.電磁波の延長上にある,水中で最も減衰が小さい青色の可視光でも

1 km の吸収減衰は約 120 dB 程にもなる.一方,音波では,音響通信に一般的に用いられる

100 kHz以下の周波数で 10 dB/km程度の減衰で留まるため,水中で音波を用いることは大変

有効であることがわかる.しかし,水中での音波の吸収減衰特性から 100 kHz以降は大幅に減

衰量が増加するため,それ以下の周波数帯を用いることが通信を行うにあたり必要とされる.

2.2 水中音響の伝搬

海中における音速は有名なもとしてメドウィンの式 [7]があり,以下のような式で表される.

c(D, S ,T ) = 1449.2 + 4.6T − 5.5 × 10−2T 2

+ 2.9 × 10−4T 3 + (1.34 − 10−2T )(S − 35) + 1.58 × 10−2D (2.2.1)

ここで,T は水温 [ ◦C],S は塩分 %0,Dは深度 [m]である.この式は水温 0~35 ◦C,塩

分 0~45%0,深度 0~1,000mに対して有効とされている.2.2.1の式を近似的に考え,第 3次

以降を省略すると

c(D, S ,T ) = 1449.2 + 4.6T (2.2.2)

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と表すことができる.T=10[ ◦C] とすると,水中での音速は約 1,500m/s となる.これに対

し,電磁波の伝搬速度は約 300,000 km/sであり音速は約 20万分の 1であるため長遅延波が発

生し通信品質を劣化させる大きな要因となっている.

水中環境における音響伝搬路を図 2.2.1に示す.海面付近では,海面が完全に静止している

場合,ほぼ完全な音波の反射体となり,海面から反射した音波の強さは入射波の強さにほぼ等

しくなり,海底も海面と似た特性を持つ.

また,水中環境における音波伝搬は,図 2.2.1のように,送信機から受信機に直接伝搬する

直接波に対し,海面や海底間,海底に存在する岩などの様々な障害物に反射して到来する反射

波があり,特に海面と海底間を音波が繰り返し反射しながらある距離を伝搬していく水深を浅

海と呼ぶ.

従来の水中音響通信では浅海での通信は困難とされてきた.なぜならば,浅海のような多重

反射を繰り返す環境では,遅延波が長い時間入るマルチパスが多く発生するため,それに伴っ

た長いガードインターバルを設定する必要性が生じるからであり,またその結果,伝送レート

の低下や受信応答の遅延増加をひき起こす弊害が生じてしまうからである.

この浅海域のような長い遅延波が生じるマルチパス環境での水中音響通信においても十分な

通信品質を実現するための有効な手法については 2.4.5節で述べる.

RX��������

������������

����������

����

����

���

���

図 2.2.1 水中音波伝搬

– 4 –

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2.3 OFDM変調方式

本研究における水中音響通信ではベースバンド OFDM通信を用いている.

OFDMは (Orthogonal Frequency Division Multiplexing,直交周波数分割多重)の略で多数の

搬送波を使用し,それぞれの異なるデータでディジタル変調することによって並列伝送を行う

変調方式である.OFDM信号の基本構成信号は,搬送波周波数 n f0,シンボル長 T = 1/ f0 の

ディジタル変調信号であり,以下のような式で表される.ただし,nは整数である.

s(t) = an cos(2πn f0t) − bn sin(2πn f0t) (2.3.1)

式 2.3.1の信号を nの値を変えて同じタイミングで N 個加え合わせることによって生成され

る信号を sb(t)とすると,sb(t)は以下のように表される.

sb(t) =N−1∑n=0

(an cos(2πn f0t) − bn sin(2πn f0t)) (2.3.2)

式 2.3.2の sb(t)をベースバンド OFDM信号と呼ぶ.

sb(t)は N 個のディジタル変調波の重ね合わせによって構成されるが,sb(t)に三角関数の直

行関係を利用することによって,各ディジタル変調信号を構成している an,bn を正しく取り

出すことが可能である.最初に,sb(t)に対して以下のような処理を行う.

∫ T

0sb(t) cos(2πk f0t)dt

=

N−1∑n=0

{an

∫ T

0cos(2πn f0t) cos(2πk f0t)dt − bn

∫ T

0sin(2πn fot) cos(2πk fot)dt}

=T2

ak  (2.3.3)

同様にして,以下の処理によって bk も正しく取り出すことができる.∫ T

0sb(t){− sin(2πk f0t)}dt =

T2

bk (2.3.4)

したがって,上記の処理を n = 0......,N −1に対するすべての搬送波に対して行うことによっ

て,全シンボルを復調することが可能である.

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2.3.1 ガードインターバル

OFDMではガードインターバルと呼ばれるマルチパスによって生じる遅延波に対応した技

術が用いられる.ガードインターバルの概念を図 2.3.1に示す.

�� ���� ��

��������

���������� ��

図 2.3.1 ガードインターバルの概念

ガードインターバルとは図 2.3.1の影をつけた部分であり,OFDMシンボルの後半の一部分

と同じ信号を,OFDMシンボルの前半に接続したものであり,Tg をガードインターバル長と

呼ぶ.すべての搬送波は (Tg + 1/ f0)の期間で連続した正弦波になる.

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マルチパスの影響は,ガードインターバルを付加することで軽減できる.図 2.3.1の場合と

同様に,直接波に対して,遅延波が 1波存在するようなマルチパスを考える.但し,遅延波の

直接波に対する遅延時間はガードインターバル長より短いものし,τ < Tg であるものと仮定す

る.この時の直接波と遅延波の関係を図 2.3.2に示す.

��������

���

�� ���� ���

� � ����

���

���

���

� ���

� � �

��

���

図 2.3.2 マルチパスの影響

ガードインターバル長が遅延波の遅延時間よりも長ければ,標本化の際に所望の OFDMシ

ンボルからの信号のみを標本化することができるため,遅延波による干渉の影響を受けず正し

く復調をすることが可能となる.しかし,ガードインターバルを超えた遅延波が入ってきた場

合,干渉成分は除去したものの,遅延波による影響から次に入るシンボルは歪みを受けること

となる.その対策として,本研究ではダイバーシチ技術を用いることで,その歪みを軽減させ

ることを検討する.

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2.4 ダイバーシチ技術

通信特性を改善する方法として,ダイバーシチ技術が挙げられる.ダイバーシチとは複数の

伝送路を設け,受信信号を合成することで通信品質や信頼性の向上を図る技術であり,空間,

周波数,時間ダイバーシチが主にあげられる.以下に示す図 2.4.1はその動作原理である.

������������

��

����

�����������

����� �����

���

� �

������������図 2.4.1 各ダイバーシティ方式

2.4.1 空間ダイバーシチ

搬送波の SNRの低下の影響を軽減する有効な方法に,空間ダイバーシチがあげられる.図

2.4.1(a)は空間ダイバーシチの構成である.空間ダイバーシチでは複数アンテナを用いてそれ

ぞれ受信した信号を選択または合成することによって特性の向上を図る方式である.

2.4.2 周波数ダイバーシチ

空間ダイバーシチでは複数のマイクを物理的に配置する必要があり,システムによっては形

状の問題から,あるいはハードウェアのコストの問題から,実現が困難な場合がある.これに

対して,マイクを複数使用せず長遅延マルチパス環境に対応する方式として,周波数ダイバー

シチがあげられる.図 2.4.1(b)に周波数ダイバーシチの構成を示す.周波数ダイバーシチも空

間ダイバーシチと同様にして,合成または選択方式によってシンボルの復調を行うことができ

る.周波数ダイバーシチは同一のデータシンボルを複数の搬送波に分散させて送信する方式

である.通常 OFDMでは 1サブキャリアあたり 1個のシンボルを割り当てるが,周波数ダイ

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バーシチでは複数サブキャリアに 1個のデータシンボルを割り当て平均をとることで,シンボ

ル復調の信頼性を上げ,一部の搬送波がフェージングにより大きく歪んだとしても別の搬送波

で伝送されるデータが失われていなければデータの復調が可能となる.

2.4.3 時間ダイバーシチ

図 2.4.1(c)に時間ダイバーシチの構成を示す.時間ダイバーシチはデータシンボルを複数生

成し,合成することで特性の改善を図る技術である.受信信号の切り出しと高速フーリエ変換

(FFT)による時間-周波数変換を行う際,ガードインターバル区間内で FFTの切り出し区間を

ずらしながら受信タイミングの異なる信号を生成する.シンボル間干渉を含むシンボルを複数

生成することで,異なる受信信号得られ,これらを合成することで改善効果を得る.

2.4.4 ダイバーシチ合成方法

ダイバーシチの合成方法には,最大比合成 (Maximal Ratio Combining)と選択合成 (Selection

Combining)の 2種類が挙げられる.図 2.4.2にダイバーシチの合成方式の例を示す.

���

��������� ��������

���

図 2.4.2 合成方法

図 2.4.2(a)の最大比合成では,各ダイバーシチブランチの信号を加算し,電力を増大させる

ことで SNRを向上し特性の改善を行う.一方,図 2.4.2(b)の選択合成では,複数のダイバー

シチブランチの中から最も電力の大きなブランチを選択することで,SNRの高い信号の復調

を行う.一般的に,シンボル間の干渉の影響がほとんど無く,遅延波の少ない環境では最大比

合成の特性の方が優れることが知られている.

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2.4.5 選択型 RAKE受信

一般的に,シンボル間干渉の影響が少なく,遅延波のほとんど観測できない環境では,最大

比合成の方が優れることが知られている.しかし,水中のようなそれとは真逆のような環境の

場合,従来手法の合成法では干渉成分を抑えることは難しくなる.

そこで我々の研究室では提案手法として選択型 RAKE受信を提案した.その構成を図 2.4.3

に示す.従来手法の選択合成法は電力の最も大きなブランチを選択し,その信号を復調するの

に対し,提案手法の選択型 RAKE受信は,全てのブランチで信号を受け取った後,全ブラン

チのシンボルごとに受信機で誤り検出をかけ,ビット誤りの少ないデータを選択し復調する.

これに最大比合成での信号合成による SNR改善効果はないが,このような水中環境でも信頼

性の高い通信を行うことが可能となる.

�������������

��������������������������������

������������������������

������������ ������������

���

���

���

������

������

������ �� �� ��

図 2.4.3 選択型 RAKE受信

– 10 –

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2.4.6 シュミレーション特性評価の概要

2.4.5節では水中環境下のシンボル間干渉が発生する場合において,選択型 RAKE受信が優

れることを提案した.次に,この方式を評価するために我々の研究室でシミュレーション解析

を行った.表 2.1にシミュレーション条件を示す.伝送路モデルは 2波モデルを用い,マルチ

パス遅延時間に OFDMシンボル 3個分に相当する時間を与えた.以降,本論文に記述される

選択合成は提案手法の選択型 RAKE受信を指す.

表 2.1 シミュレーション条件

ベースバンド帯域幅 40 kHz

OFDMサブキャリア数 128

OFDMシンボル長 3.2 ms

ガードインターバル長 0.8 ms

OFDMシンボル数 10

パケット長 48 ms

一次変調 QPSK

誤り訂正符号 畳み込み符号

符号率 1/2

復号 ビタビ復号

通信路 2波モデル 

マルチパス遅延時間 12 ms

DU比 6 dB

CN比  0 – 24 dB 

繰り返し回数  1,000 - 100,000 

空間ダイバーシチブランチ数 4

周波数ダイバーシチ拡散率  4 

時間ダイバーシチ 切り出し数  16 

図 2.4.4はそれぞれのダイバーシチ方式を組み合わせた時の,シュミレーション結果の比較

である.グラフ中のMRCは提案手法の最大比合成であり,SCは提案手法の選択合成である.

空間ダイバーシチと時間ダイバーシチは選択合成,周波数ダイバーシチは最大比合成の組み合

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わせた場合が最も BER特性が優れることが確認できる.以上のシミュレーション結果から長

遅延マルチパス環境では,大半の場合,従来手法の最大比合成よりも提案手法の選択合成のほ

うがダイバーシチ効果が高いことが明らかとなった.

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��������������������������

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������������������ ��������

図 2.4.4 空間-周波数-時間ダイバーシチ組み合わせ BER特性

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第 3章

実証試験装置構成

3.1 装置全体の構成

本研究で行った試験装置構成について図 3.1.1に示す.送信側の PCでソフトウェアを用い

て送信データを生成し,OFDM変調をかけ音声ファイルに変換する.次に,そのデジタル情

報を USBオーディオで D/A変換し,増幅器で出力を上げ,送信側ハイドロフォンで音波を発

生させる.その後受信側ハイドロフォンで音波を拾い,チャージアンプで受信側ハイドロフォ

ンの電荷信号を電圧信号に変換する.その後,USBオーディオで A/D変換し,受信側の PC

で同じソフトウェアを用いて復調を行う.

インパルス応答測定の場合,全ての周波数信号を含んだ信号を送信し,受信側の PCで伝搬

路の特性を観測する.BER及び SNR測定の場合は,受信時の信号と送信時の信号を受信側の

パソコンで比較し,それぞれを算出する.

3.2節では水中音響通信を行うにあたり,重要な装置の一つ,ハイドロフォンについて特記

する.

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������

図 3.1.1 試験装置構成

3.2 ハイドロフォン

ハイドロフォンとは一般に,水中で扱えるマイクロフォンを指し,種類としては以下のもの

が挙げられる.

・静電圧力マイクロフォン

・動電圧力マイクロフォン

・圧力マイクロフォン

その中でも代表的な,動電圧力マイクロフォンと静電圧力マイクロフォンについて説明する

[10].

まず静電圧力マイクロフォンについて,基本的構造を図 3.2.1に示す.音圧を受けるのは板

ではなく,緊張された薄い導電性の振動膜で,この裏面に平行に対向してキャパシタンスを形

成する背電極と,それを支える絶縁物とで振動膜の裏側を密閉したものである.ただし,大気

圧の変化によって幕の位置が偏らないように,膜の両面の気圧を平衡させるための細かい空気

漏れの孔が設けてある.振動膜と背電極との間には数百 Vの高い電圧を加えるか,エレクト

レット膜を用いることによって,強い直流電界を作っておくと,振動膜の振動によって両者間

の間隔が変化し,音圧の変化に比例して出力電圧が生じる.永久分極をして表裏に正負の電荷

が現れているプラスチック膜 (エレクトレット) を背電極の表面に貼りつけて,電源なしに直

流電界を作るものが多い.

– 14 –

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図 3.2.1 静電圧力マイクロフォンの基本的構造

次に今回用いたハイドロフォンに分類される,動電圧力マイクロフォンについて説明する.

基本的構造を図 3.2.2に示す.周辺をばねで支えられた表側は空中に露出し,裏側は容器で密

閉される.振動板はふつうアルミニウム合金などで作られ,中央部は剛性を保つために球状に

成形される.振動板には発電コイルが取り付けられ,コイルが円筒上の磁極間隙の強い磁界の

中で振動板とともに振動して,振動速度に比例した起電力を発生する.

動電マイクロフォンは発電コイルの起電力は極めて小さいが,そのインピーダンスは低いの

で,昇圧変成器を付属させて電圧をあげ感度を高めて使うのが一般的である.

今回用いたハイドロフォンは送信側・受信側ともに同じものであり,マイクロフォンだけで

なく音源としても使用できる.

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図 3.2.2 動電圧力マイクロフォンの基本的構造

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3.3 OFDM送受信機の構成

OFDM 送信機及び受信機の構成を図 3.3.1 に示す.送信データは,まず畳み込み符号化さ

れ,多値変調後,データシンボルの順序を適切な方法で入れ替えるインターリーブ処理を施

す.その後,シンボル変調,マッピングを行い逆高速フーリエ変換後,ガードインターバルを

挿入し送信する.

受信機側では基本的に送信器側と逆の処理を行う.ガードインターバル除去,高速フーリエ

変換,チャネル等化,デマッピング,デインターリーブ,ビタビ復号を行い,受信データを

得る.

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図 3.3.1 OFDM送受信機の構成

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3.4 インパルス応答・周波数応答測定方法

系が線形時不変であるならば,その系への任意の入力信号に対する応答は,入力信号と系の

インパルス応答(Inpulse Response)との畳み込み演算によって計算することができる [11].

例えば,楽器を演奏する位置で短いパルス状の音を出して,聴く人の位置でインパルス応答を

記録し,その応答から任意の音源に対してどのような音がするかを計算により求めることがで

きる.しかし,音響系の伝達関数は一般に,ダイナミックレンジが広くインパルス応答が長い

という特徴をもっている.また,音響系の伝達関数を測定する場にはかなりの暗騒音が存在す

ることが多い.このため,持続時間の短い矩形パルスのような大きな信号を用いて伝達関数の

測定を行うと,伝達関数の谷の部分で十分な SN比(信号対雑音比)をとるためには同期加算

の回数が非現実的な大きさになってしまう.そこで,短時間に安定したインパルス応答測定を

行う方法として,本研究では,インパルス応答・周波数応答測定に TSP(Time stretch pulse)信

号を用いた.これはインパルスの位相を周波数の2乗に比例して変化させることにより,時間

軸を引き伸ばした信号である.

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図 3.4.1 TSP信号

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第 4章

小型水槽試験

4.1 測定条件

小型水槽で行った実証試験の測定条件を表 4.1に示す.空間ダイバーシチのアンテナ数は,

測定に用いた受信側のハイドロフォンの数を指す.伝送帯域について,10 kHz以下に雑音の

影響が観測されたことと,30 kHz以上の伝送帯域を用いると BERが悪化することが,事前の

測定で確認できたので,以下のような値に設定した.図 4.1.1は小型水槽試験の風景である.

また,ハイドロフォンの指向性の詳細について,仕様書に明記されていなかったため,図

4.1.2のように水平・垂直の二つの向きで測定を行った.

表 4.1 小型水槽測定条件

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図 4.1.1 小型水槽試験風景

図 4.1.2 ハイドロフォン水平・鉛直の様子

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4.2 インパルス・周波数応答

図 4.2.1,図 4.2.2,図 4.2.3,図 4.2.4に小型水槽で測定したインパルス応答と周波数応答に

ついての結果を示す.

まずインパルス応答について述べる.小型水槽の音波の拾いやすい環境でも,水平・垂直方

向互いに 10 ms を超える遅延波が観測されることが確認できる.この時のガードインターバ

ル長がデータ長の 1/4の長さ,つまり 5.3 msに設定しているので,両方の方向でガードイン

ターバルを超える遅延波が入射していることがわかる.

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図 4.2.2 インパルス応答 (鉛直)

また,ハイドロフォンの向きに着眼してみると,水平時の方が,遅延波の入射時間が短いの

で,送信側・受信側のハイドロフォンは多くの直接波で結ばれていることがわかる.この結果

により,ハイドロフォンの指向性は水平にパターンを持っていることが予想される.

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次に,周波数応答について述べる.10kHz 以下は雑音の影響が事前の試験で確認できたの

で,送信側で処理を施している.両方の方向で周波数応答に不定の周期で大きなノッチが現れ

ていることが確認できる.これはマルチパスによる多重反射した波が合成されたことによる,

選択性フェージングであると考えられる.

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図 4.2.4 周波数応答 (鉛直)

また,水平・鉛直の両特性を見比べてみると,鉛直時の相対電力が細かく変動しているのが

確認できる.これはインパルス応答の測定結果で述べたように,ハイドロフォンの持つ指向性

パターンと異なる鉛直方向では,多くの遅延波が発生してしまい,その事柄が影響を及ぼして

いると考えられる.

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4.3 BER結果

水槽試験の BER結果を表 4.2に示す.

まず周波数ダイバーシチの従来手法のMRCと提案手法の SCの結果を見比べてみると,拡

散率 4の時,1桁~2桁にかけてMRCが優れる結果となった.

次に空間ダイバーシチの BER特性を MRCと SCで比較してみると,僅かだが提案手法の

SCが優れた結果になった.シュミレーションのように,大きく BER特性が改善されなかった

理由として,ブランチ数が 2つであったことが挙げられる.

また,時間ダイバーシチでは SCが周波数ダイバーシチと同じよう 1桁~2桁にかけて BER

特性が優れる結果となった.

この結果から,シュミレーションと同じダイバーシチの組み合わせで,BERが優れること

が明らかとなったので,遅延波の多く観測される水中では,提案手法の SCを組み込んだダイ

バーシチが有効であるということが確認できる.

表 4.2 BER特性 (水槽)

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第 5章

プール試験

5.1 測定条件

プールで行った実証試験の測定条件を表 5.1に示す.場所は北見市民温水プール施設を利用

した.また,プールの寸法は幅 25 m×奥行き 15 m×深さ 1 mであり,図 5.1.1はプール試

験風景である.ハイドロフォン間の距離は,1 mと 8 mに設定し,設置高はプール深さの半分

に設定した.ハイドロフォンの向きは,小型水槽で確認した指向性をもとに水平に設定した.

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表 5.1 プール測定条件

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図 5.1.1 プール試験風景

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5.2 インパルス・周波数応答

下記にプールで測定したインパルス・周波数応答についての結果を以下に示す.

まずインパルス応答について述べる.小型水槽と同様,ガードインターバル長 5.3 msを超

える遅延波が観測された.また,1 mと 8 mのインパルス応答を比較してみると,8 mの方が

長い時間遅延波が入っている.このことから,伝搬路が長くなるほど多重反射が起こりやすく

なり,浅海域ではガードインターバルを超えた遅延波の入射は避けられないことがわかる.こ

の結果から,長距離の通信を行うに当たり,前述で述べた選択型 RAKE受信の有効性に期待

を持つことができる.

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図 5.2.1 インパルス応答 (プール)

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次に,周波数応答について述べる.これも小型水槽同様,周波数選択性フェージングが観測

された.このフェージングは伝搬路によって特定の周波数だけ影響を受けてしまうものであ

り,その対策として周波数ダイバーシチが有効であるが,小型水槽試験の結果より,各サブ

キャリアを加算合成し平均をとる周波数ダイバーシチ MRC の方が SC より,BER 特性が優

れることがわかっているので,こういった周波数選択性フェージングが生じることが予想され

る浅海域では,周波数ダイバーシチ従来手法のMRCが有効であることがこの結果からうかが

える.

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図 5.2.2 周波数応答 (プール)

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5.3 BER結果

プール試験の BER結果を表 5.2に示す.

まず周波数ダイバーシチの従来手法のMRCと提案手法の SCの結果を見比べてみると,拡

散率 4の時,2桁~3桁にかけてMRCが優れる結果となった.

次に空間ダイバーシチの BER特性を MRCと SCで比較してみると,ほとんど変わらない

結果となっており,ブランチ数が 2つであったことが BER特性の改善されなかった理由とし

て挙げられる.

また,特に時間ダイバーシチでは SCの場合において BER特性が大きく改善される結果と

なった.

この結果から,小型水槽と同様に,シュミレーションと同じダイバーシチの組み合わせで,

BER特性が優れることが明らかとなった.このことから,浅海域では大半の場合において提

案手法の SCを組み込んだダイバーシチが有効であるということが予想される.

表 5.2 BER特性 (プール)

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また,時間ダイバーシチの切り出し数を変えて,検証を行った結果を表 5.3に示す.どの条

件でも提案手法の時間ダイバーシチが優位になったことから,遅延波が多く発生し干渉の起こ

る水中において,特に時間ダイバーシチに提案手法を組み合わせた選択型 RAKE受信の有効

性が確認できる結果となった.

表 5.3 時間ダイバーシチ検証(プール)

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第 6章

まとめ

従来の水中音響通信ではガードインターバルを超えるような長い遅延波の入射しない海域,

つまりシンボル間干渉の影響の少ない深海における通信が主であったが,本研究では反射が多

くガードインターバルを超える長い遅延波が入射しやすい浅海域においても,十分な通信品質

を得ることが,我々の研究室で提案した選択型 RAKE受信の実証試験により,確認できた.

小型水槽試験また,プール試験の BER特性結果から,特に時間ダイバーシチを組み合わせ

ることにより,BERの改善効果が顕著に表れることを確認した.

今後の課題として,受信ブランチの数を増やすことで広い指向性での通信を可能にし,ま

た,より長距離で測定できるよう,試験装置の構築が課題として挙げられる.

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謝辞

本研究を行うにあたり,御指導,御助言いただいた谷本洋教授,吉澤真吾准教授に深く感謝

します.また,研究をしていくうえで様々な御助言をいただきました,集積システム研究室の

大学院生の方々,研究室の同期生の皆様にも深くお礼を申し上げます.並びに,共同研究で助

言していただいた三菱電機特機システム斉藤隆様に心から感謝致します.

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参考文献

[1] 海洋音響学会編:海洋音響の基礎と応用,成山堂書店, Apr. 2004.

[2] Hai Yan,Shengli Zhou,Zhijie Shi,Jun-Hong Cui,“DSP implementation of SISO and MIMO

OFDM acoustic modems,” IEEE OCEANS, pp.1-6, May 2010.

[3] Tadashi Ebihara, Koichi Mizutani, “Underwater acoustic communication with an orthogonal

signal division multiplexing scheme in doubly spread channels,” IEEE Journal of Oceanic

Engineering, Vol. 39, No. 1, pp.47-58, Jan. 2014.

[4] Z. Peng, H. Mo, J. Liu, Z. Wang, H. Zhou, X. Xu, S. Le, Y. Zhu, J.-H. Cui, Z. Shi, S. Zhou,

“NAMS a networked acoustic modem system for under applications,” MTS/IEEE OCEANS

Conference, pp.19-22, Sep. 2011.

[5] Jorbi Ribas, Daniel Sura, Milica Stojanovic, “Underwater wireless video transmission for

supervisory control and inspection using acoustic OFDM,” IEEE OCEANS, pp.1-9, Sept.

2010.

[6] 伊丹誠,わかりやすい OFDM技術,オーム社, Nov. 2005.

[7] Robert J. Urick,水中音響学,京都通信社, Jan. 2013.

[8] 越智寛,渡辺佳孝,志村拓也,服部岳人, “QPSK復調器の受信チャネル数に対する特性計

測,”電子情報通信学会技術報告,超音波,108(196), pp.27-32, Aug. 2008.

[9] 石本隆太,赤田瞬,谷本洋,吉澤真吾,斉藤隆, “水中音響 OFDM通信におけるダイバーシ

チ技術の組み合わせ評価,”電子情報通信学会技術報告, SIS2014-86, pp.109-114, Dec.2014.

[10] 西巻 正郎,電気音響概論,森北出版株式会社, Aug. 1989.

[11] 菖蒲真利子,TSP信号を用いた音響系評価の研究,東京電機大学,

http://www.asp.c.dendai.ac.jp/thesis/H13 shobu.pdf/ (2015/2/10アクセス)

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付録 A

追加資料

本研究で用いたハイドロフォンとは異なるハイドロフォン (Aquarian Audio社製)で行った

小型水槽試験の試験結果を付録に示す.

試験は表 A.1の条件と,図 A.0.1の装置構成で行い,各ダイバーシチの距離に対する BER

特性について測定した.

表 A.1 試験条件

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図 A.0.1 装置構成

図 A.0.2と図 A.0.3は各ダイバーシチ単体の場合と組み合せた場合の BER特性であり,異

なるハイドロフォンでも距離によらず,提案手法の SCを用いた時間ダイバーシチの結果が,

他と比べて優れていることが確認できる.このことから,試験装置や試験条件がいくらか異

なっていても,多重反射の起こる水中で,時間ダイバーシチの提案手法 SCが有効だというこ

とが再度確認できる.

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図 A.0.2 各ダイバーシチ単体の BER特性

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図 A.0.3 空間-時間ダイバーシチ組み合わせ時の BER特性

– 35 –