教養教育科目 はじめての経済学 - u-toyama.ac.jp...消費者余剰 5 払い 許容額...
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教養教育科目
はじめての経済学第 9 回 市場の効率性
2016 年 6 ⽉ 6 ⽇(⽉)5 限担当教員: 経済学部唐渡広志(からと・こうじ)研究室: 経済学研究棟4階432号室email: [email protected]: http://www3.u-toyama.ac.jp/kkarato/
1
講義のまとめ
完全競争市場における価格メカニズムは,消費者余剰と⽣産者余剰の和を最⼤化するという意味で効率的な資源配分を実現する。
⾃由でない競争市場(価格の規制)は,消費者余剰と⽣産者余剰の和を(完全競争市場に⽐べて)低下させるという意味で,資源配分を⾮効率にする。
効率(efficiency):無駄のない使い⽅をしている状態のこと
2
【復習】余剰
消費者余剰すべての消費者が財・サービスを消費することによって得る「便益」を⾦銭換算した値(⽀払い許容額)から,それを⼿に⼊れるために⽀払った⾦額(「⽀出」)を差し引いた値消費者余剰=総便益ー総⽀出
⽣産者余剰すべての⽣産者が財・サービスを⽣産することによって得る「収⼊」から,それを⽣産するために⽀払った「費⽤」を差し引いた値⽣産者余剰=総収⼊ー総費⽤
3
消費者の支払い許容額(市場需要曲線)
4
A1 Q
P
O
5万円
⽀払許容額A 姉⼩路 5.0万円B 分倍河原 4.5
C セガール 4.0
D 童⾨ 3.5
E 江良 3.0
4.5
4.0
3.5
3.0
2 3 4 5AB
ABC
ABCD
ABCDE
タブレットPC1台に対する⽀払い許容額
Aさんは最⼤で5万円まで⽀払う⽤意がある(お店での値段が3万円や2万円なら,もちろん買うことができる)。もしも,お店での値段が3.5万円ならば,Aさんが⽀払う費⽤は3.5万円で済むので,1.5万円だけ得をする。同じく,Bさんは1.0万円,Cさんは0.5万円だけ得をする。Dさんは⽀払い許容額ぎりぎりで買うことができる(損得はゼロ)。Eさんは3.5万円なら買わない。3.5万円もするのなら,他のものを買った⽅が良さそうだ。
お店での値段3.5万円
消費者余剰
5
⽀払い許容額
お店での値段 意思決定
どれだけ得した?
便益 費⽤ 余剰A 5.0 3.5 買う 1.5
B 4.5 3.5 買う 1.0
C 4.0 3.5 買う 0.5
D 3.5 3.5 買う 0合計 17 14 - 3
E 3.0 3.5 買わない -
費⽤便益
費⽤便益
[万円]費⽤の合計総⽀出
[万円]⽀払い許容額の合計総便益145.35.35.35.3
175.30.45.40.5
[定義]消費者余剰=総便益ー総⽀出=17-14 = 3[万円]
消費者余剰
0 2 4 6 8 10 12
01
23
45
数量Q:
価格
P:
数値例. Q =11−2P の消費者余剰
6
PQD 211: 市場需要曲線
お店での値段3.5万円
5.5
1445.3
182145.35.5
総⽀出
総便益41418: 消費者余剰
2
4
消費者余剰の図解
7
P 価格
Q 数量
市場需要曲線
お店での値段
総便益(消費者の⽀払許容額の合計)台形OAEC
消費者の総⽀出額:□OBEC
O
A
B E
C
消費者余剰=台形OAEC ー□OBEC = △ABE
消費者余剰:△ABE
最適(効率的)でない消費(過剰消費)
8
D
P*
Q*
E
Q
P
O
A
B
C
総便益=台形OAGH総⽀出=OBFH消費者余剰
= OAGH - OBFH =ABE - EFG
Q* だけ需要した場合の消費者余剰はABEであったから,最適でない消費をすると,消費者余剰は EFGだけ減少する。
この場合,Q1は無駄のある効率的でない消費である。
F
G
H
Q1
価格が P*のとき,Q*よりも多い Q1 を需要した場合
最適(効率的)でない消費(過少消費)
9
D
P*
Q*
E
Q
P
O
A
B
C
総便益=台形OAIK総⽀出=OBJK消費者余剰
= OAIK - OBJK =BAIJ ( < ABE)
Q* だけ需要した場合の消費者余剰はABEであったから,最適でない消費をすると,消費者余剰は JIEだけ減少する。
この場合,Q2は無駄のある効率的でない消費である。
I
J
K
Q2
価格が P*のとき,Q*よりも少ないQ2を需要した場合
効率的でない。剰を最大化しないので資源配分は,消費者余
であるようなのとき,数量が価格が
の結論】【過剰消費・過少消費** QQP
生産者の最低費用(市場供給曲線)
10
最低費⽤A 姉⼩路書籍 10万円B 分倍河原プリント 12
C セガール出版 14
D 童⾨企画 16
E 江良⼯房 18
PRパンフレットを作るための最低費⽤( 1ページあたり)
Q 数量⼊札した会社数
P 価格
10121416
A AB
ABC
ABCD
ABCDE
(⽣産のための単位あたり最低費⽤)
18
1 2 3 4 5
A社は10万円の費⽤で作成することができる。(依頼企業の⽀払い価格が12万円や15万円なら,もちろんこの仕事を請け負うことできる)。もしも,⽀払価格が14万円ならば,A社の費⽤は10万円で済むので,4万円だけ得をする。同じく,B社は2万円だけ得をする。C社は費⽤ぎりぎりでこの仕事を請け負うことができる(損得はゼロ)。D,E社は14万円ならこの仕事請け負わない。14万円しか払ってもらえないのなら,他の仕事をした⽅が良さそうだ。
⽀払価格14万円
生産者余剰
11
最低費⽤
買い⼿の⽀払い価格(収⼊) 意思決定
どれだけ得した?
費⽤ 便益 余剰A 10 14 売る 4
B 12 14 売る 2
C 14 14 売る 0合計 36 42 - 6
D 16 14 売らない -
E 18 14 売らない -
費⽤収⼊
費⽤収⼊
[万円]総費⽤[万円]総収⼊
3614121042141414
[定義]⽣産者余剰=⽣産者の総収⼊ー⽣産者の総費⽤=42-36 = 6[万円]
⽣産者余剰
最適(効率的)でない生産(過剰生産)
12
S
Q*
E
Q
P
O
A
B
C
収⼊= OBGH
費⽤= OAFH
⽣産者余剰= OBGH- OAFH
=ABE - EFG
Q* だけ供給した場合の⽣産者余剰はABEであったから,最適でない⽣産をすると,⽣産者余剰は EFGだけ減少する。この場合,Q1は無駄のある効率的でない⽣産である。
F
G
H
Q1
P*
価格が P*のとき,Q*よりも多いQ1を供給した場合.
最適(効率的)でない生産(過少生産)
13
S
Q*
E
Q
P
O
A
B
C
収⼊=OBIK
費⽤=OAJK
⽣産者余剰= OBIKーOAJK
=ABIJ ( < ABE)
Q* だけ供給した場合の⽣産者余剰はABEであったから,最適でない⽣産をすると,⽣産者余剰は JIE だけ減少する.この場合,Q2は無駄のある効率的でない⽣産である。
I
J
K
Q2
P*
価格が P*のとき,Q*よりも少ないQ1を供給した場合.
効率的でない。剰を最大化しないので資源配分は,生産者余
であるようなのとき,数量が価格が
の結論】【過剰生産・過少生産** QQP
市場均衡における社会的余剰
14
S
P*
Q*
E
Q 数量
P 価格
O
A
B
C
F
社会的余剰= 消費者余剰 + ⽣産者余剰(総便益-総⽀出)(総収⼊-総費⽤)
総便益=OFEC総⽀出=OBEC
消費者余剰=総便益ー総⽀出= OFEC - OBEC =BFE
総収⼊= OBEC総費⽤= OAEC
⽣産者余剰=総収⼊ー総費⽤= OBECーOAEC=ABE
消費者
⽣産者
社会的余剰=消費者余剰+⽣産者余剰=BFE+ABE=AFE
D
効率性と社会的余剰
価格が P* のとき Q* を除く取引数量は資源配分を⾮効率にする。
( Q*, P*) は市場メカニズムによって(放っておいても)実現する。
市場での取引は,消費者余剰と⽣産者余剰という⼆つの利益を⽣み出す。消費者余剰と⽣産者余剰を⾜し合わせたものを「社会的余剰(Social Surplus)」とよぶ。社会的余剰=消費者余剰+⽣産者余剰
完全競争市場は,社会的余剰を最⼤化する。(効率的な資源配分を実現する。)
15
完全競争市場の効率性
16
完全競争市場での均衡 E(Q*,P*) は社会的余剰を最⼤にする.このことを別な⾔葉で「完全競争市場は効率的である」と表現する。
S
P*
Q*
E
Q
P
O
A D
E(Q*,P*) 以外の任意の数量と価格の組み合わせは社会的余剰を最大化しないことを証明。
B
C
F
G
H
I
J
「完全競争市場は効率的である」
K
L
M
N
(i) 価格が P*のとき, Q > Q* であるような取引量(例えばQ1)は社会的余剰を最⼤化する。⽭盾
Q1Q2
(ii) 価格が P*のとき, Q < Q* であるような取引量(例えばQ2)は社会的余剰を最⼤化する。⽭盾
(i),(ii) より価格がP*のとき,社会的余剰を最⼤にする取引量は Q* 以外存在しない。完全競争市場は無駄のない資源配分を実現する(効率的である)。
比較静学と社会的余剰 (1):供給の増加
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S0
P*
Q*
E
Q
P
O
A
B
C
F
S1
D
I
G
J
H
供給の増加(S0 からS1 への右⽅シフト)
消費者余剰の変化
BFE IFJ
⽣産者余剰の変化
ABEOIJG
社会的余剰の変化
AFEOFJG
⽐較静学:他の条件(当該在価格以外の要因)が変化したときの需要・供給の変化に関する分析
比較静学と社会的余剰 (2):供給の減少
18
S0
P*
Q*
E
Q
P
O
A
B
C
FS1
D
H
G
JI
供給の減少(S0 からS1 への右⽅シフト)
消費者余剰の変化
BFE IFJ
⽣産者余剰の変化
ABE HIJ
社会的余剰の変化AFE HFJ
比較静学と社会的余剰:需要の変化
19
需要の増加( D0 D1 へ)
消費者余剰の変化 BFE HIJ
⽣産者余剰の変化 ABEAHJ
社会的余剰の変化 AFEAIJ
S0
P*
Q*
E
Q
P
OA
B
C
F
D1
H
G
J
I
D0
需要の減少( D0 D1 )
消費者余剰の変化 BFE HIJ
⽣産者余剰の変化 ABE AHJ
社会的余剰の変化 AFE AIJ
S0
P*
Q*
E
Q
P
OA
B
C
F
D0
H
G
J
I
D1
政府の市場介入
価格に対する政策規制:価格に下限や上限を設定する課税をする
数量に対する政策販売・購⼊数量を規制する(割り当て)市場への参⼊を規制する
完全競争市場において政府が市場介⼊すると,得られたはずの余剰が失われる。
政府の市場介⼊などによって失われる余剰のことを死荷重 (dead-weight loss) とよぶ。
20
価格規制 (1) 上限の規制
21
S
D
Qd − Qs の超過需要が発⽣しているが,価格が PC で規制されているため,需要と供給の乖離は調整されない。均衡価格 = P* ,均衡取引量 = Qs
商品を求めて⻑い⾏列や混雑が⽣じる商品を購⼊できるのは,⼀部の運のいい⼈だけ
消費者余剰:PCABC⽣産者余剰: OPCC社会的余剰:OABC死荷重:CBE
PC
P*
Qs Qd
P1
O
E
A
B
C
均衡価格よりも低い⽔準に「価格の上限」 PC が設定される場合
価格規制によって△CBEの死荷重が発⽣する
注意:均衡価格よりも⾼い⽔準の上限規制を設けた場合には,価格が市場メカニズムによってP*まで下落してしまうので意味のない規制になる。
価格の上限規制の弊害 電⾞やバスの運賃:どんなに混雑していても,朝・⼣の運賃は混んでいない昼間と同じ料⾦ 朝・⼣の料⾦を引き上げない限り,混雑は解消できない 鉄道への混雑料⾦:ロンドン,フランクフルト,ワシントンD.C.など
病院の診察料⾦:診療報酬で規定されているため,それ以上の価格で医療サービスは供給できない。患者の⽀払い料⾦は実際の3割負担 来院した患者の診察を拒むことはできない。質を落として診療
家賃値上げ規制(例. ニューヨーク):古い住宅の家賃値上げに上限が課されている 低い家賃しか設定できないので,新しい賃貸住宅が供給されにくくなったり,⽼築化した住宅をメンテナンスするインセンティブが失われてしまった。借主に良かれと思ってやったことが,却って借主を不幸にしている,スラム街の形成
22
価格の規制 (2)下限の規制
23
S
D
均衡価格よりも⾼い⽔準に「価格の下限」PFが設定される場合
Qs − Qd の超過供給が発⽣しているが,価格が PF で規制されているため,需要と供給の乖離は調整されない.売れない商品在庫の⼭が出来上がる商品を売ることができるのは,⼀部の供給者だけ.
消費者余剰:PFAB
⽣産者余剰: OPFBC
社会的余剰:OABC
死荷重:CBE
P2
P*
Qd Qs
PF
O
E
A
B
C
F
価格規制によって△CBEの死荷重が発⽣する
注意:均衡価格よりも低い⽔準の下限規制を設けた場合には,価格が市場メカニズムによってP*まで上昇してしまうので意味のない規制になる。
新聞記事からの例. 「最低賃金、全国平均780円、厚労省、今年度16円上げ決定。」
厚⽣労働省は28⽇、2014年度の最低賃⾦が全国平均で時給780円となり、前年度より16円上昇したと発表した。労使の代表が参加する都道府県の審議会が同⽇までに、地域ごとの最低賃⾦を答申した。引き上げ幅は4年ぶりの⼤きさで、厚労省が7⽉に⽰した⽬安と同額だった。10⽉から適⽤して、⼿取り収⼊が⽣活保護を下回る逆転現象もすべての都道府県で解消する。
以下省略(2014/08/29 ⽇本経済新聞 朝刊)
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例.最低賃金(賃金水準の下限規制)
25
S: 労働供給曲線
D: 労働需要曲線
P*
Qd Qs
PF
O
E
A
B F
最低賃⾦の引き上げ
超過供給(失業)
最低賃⾦の⽔準を引き上げると,市場賃⾦は上昇するが,雇うことのできる企業は減少する(労働需要曲線に沿って,労働の需要量が減少)。企業は操業を継続できなくなるか,賃⾦の安い海外に逃げてしまうかもしれない。均衡賃⾦が低いと考えられる⾮熟練労働者や若年者の労働市場で,失業が増⼤する恐れがある。
最低賃⾦失業の増⼤,貧しい⼈々をさらに貧しくさせる可能性ワーキングプア対策としての最低賃⾦引き上げは,当事者の雇⽤機会そのものを奪ってしまうかもしれない。
若年者(15-24歳)失業率と最低賃金(2013年)
26
Australia Belgium
Canada
FranceIreland
Israel
JapanKorea
Luxembourg
Netherlands
NZ
UK
US
400
600
800
1000
1200
1400
0 10 20 30 40
最低賃⾦(1時
間あたり,円)
失業率 [%]
ChileCzech
Estonia
Greece
Hungary
Mexico
PolandPortugal
Slovak
Slovenia
Spain
Turkey
0
200
400
600
800
0 20 40 60 80最低賃⾦(1時
間あたり,円)
失業率 [%]参考資料 OECD STAT
⾼所得国 低所得国
正規労働者の平均賃金に対する最低賃金の比率
27
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
United StatesMexico
Czech RepublicEstonia
JapanLuxembourg
RomaniaSpainKorea
Slovak RepublicLatvia
GreecePortugalTurkey
United KingdomCanadaPoland
HungaryLithuania
NetherlandsBelgium
IsraelChile
AustraliaIreland
SloveniaFrance
New Zealand
参考資料 OECD STAT
キーワードと参考文献
28
Keywords: 効率性,社会的余剰,価格の規制,死荷重
参考⽂献1. マンキュー:pp. 202-215
2. ⼋⽥:pp. 113-127