成長路線の見極めカギに - daily-cargo18 韓国エアカーゴ特集 第3種郵便物認可...

7
韓国エアカーゴ特集 米中日路線大幅減、越は10%増 韓国の国際航空貨物の中心である仁川国際空港の2018年 ( 1 ~ 12 月)国際貨物量は年間 286 万トンで、世界 3 位(国際 空港ධ議会ʻACIʼ速報値)。国内貨物量を加えた総取扱量は 295 万トンで世界 4 位。世界トップクラスの規模をތる。しかし、 今年1 ~ 6月は、主要路線を中心に物量が落ち込み、仁川発着 貨物量は前年同期比 7.0% 減の 133 万トン(うち、輸出は 7.7% 減の 66 万トン、輸入は 6.3% 減の 67 万トン)で、2016 年並み の水準で推移している(グラフ参照)。 同空港発着の主要トレードレーンである米国線(貨物量シェア は全体の 19.5% )が 5.7% 減、中国線(17.2% )が 11.4% 減、 日本線( 9.4%)が17.5% 減と、軒並み落ち込んでいる(表参 )。一方で、ベトナム線( 7.7% )は 9.7% 増とプラス推移。米 中貿易摩擦の影響で、製造業の拠点が中国から移転している影 響があると見られる。大韓航空(KAL )、アシアナ航空(AAR )は、 さらなるベトナム路線の成長を見込み、貨物便の供給量を拡充し つつある。 医薬・越境ECに期待、デジタル推進 仁川空港での韓国系航空会社(KAL、AARおよびエアインチョ ン)の貨物シェアは、重量ベースで 65.1%( IIAC 資料より。19 年 1 ~ 6 月実績)。KAL、AAR がそろって注目する成長産業が、 医薬品と越境eコマース(EC)だ。両社は今年6月、国際航空 運送協会( IATA )の医薬品輸送品質認証「 CEIV ファーマ」を取 得しており、サービス水準も上がっている。一方、越境 EC 貨物輸 送量も増加基調にあり、さらなる成長に期待がかかっている。 デジタル対応も一つのキーワードとなる。IBS 製「 iCargo 」を 昨年 7 月には AAR、今年 4 月から KAL が基幹システムとして導 入。拡ு性の高い、クラウドベースの完全統合型ソリューション により、貨物関連業務を一元的に管理する体制に移行した。主要 キャリアのインフラが整うにつれ、デジタル化が進んでいく。例 えば、eAWB(航空貨物運送状の電子化)を見ると、今年 6 月の 世界平均実施率が前月比1.1ポイント増の65.5%に対して、仁 川空港は12.4ポイント増の74.0%と急速な広がりを見せてい る(IATA 資料より)。 23年までに第4滑走路 将来を見据えると、仁川空港の機能拡ுが進む。現在、空港拡 フェーズは第4期(17 ~ 23年)に入っており、昨年1月に供用 開始した第 2 旅客ターミナルの拡ுのほか、23 年までに3700 メートル級の第4路整備が計画されている。貨物処理能力 は現在の年間 500 万トンから630 万トンに拡ுされる見通し。 170,000 180,000 190,000 200,000 210,000 220,000 230,000 240,000 250,000 260,000 270,000 1月 月 月 月 月 6月 月 月 月 10月 11月 12月 仁川国空港ͷ貨物औѻ量ਪҠ ˞ग़యʹਔࡍࠃߓ(IncheonInternationalAirportCorporation、IIAC) (トン) 2016 2017 2018 2019 仁川空港発着貨物量上位20路線 (IIAC資料より作成) 2019年1~6月 取り降ろし 増減 増減 増減 合計 積み込み (単位:トン、%) 105,246 ▲10.2 154,536 ▲2.4 259,782 ▲5.7 123,007 ▲8.5 106,496 ▲14.6 229,503 ▲11.4 69,259 ▲18.8 56,117 ▲15.8 125,376 ▲17.5 66,946 ▲3.4 45,448 ▲7.2 112,394 ▲4.9 43,589 10.0 59,308 9.4 102,897 9.7 42,271 ▲6.0 26,458 ▲8.4 68,729 ▲6.9 25,120 6.9 21,001 ▲5.1 46,121 1.1 21,509 2.2 13,207 ▲21.2 34,715 ▲8.2 12,182 4.4 14,952 ▲3.7 27,134 ▲0.2 15,373 ▲3.8 11,382 ▲14.0 26,755 ▲8.4 12,755 ▲1.2 13,860 7.8 26,614 3.3 8,925 6.0 12,445 ▲4.5 21,370 ▲0.4 8,574 ▲16.8 10,419 ▲1.0 18,993 ▲8.8 12,710 ▲7.8 6,152 ▲1.3 18,862 ▲5.8 6,728 33.4 9,917 2.5 16,645 13.1 10,729 ▲7.8 5,802 6.0 16,531 ▲3.4 7,600 7.2 7,467 0.8 15,068 4.0 5,186 ▲9.7 8,486 ▲16.2 13,672 ▲13.9 7,427 ▲15.6 6,074 ▲18.2 13,501 ▲16.8 7,200 ▲5.4 6,036 ▲12.2 13,236 ▲8.6 537 11.6 12,235 ▲19.6 12,772 ▲18.6 3,995 ▲26.7 8,281 ▲16.3 12,276 ▲20.0 4,081 ▲14.5 5,720 ▲8.0 9,800 ▲10.8 8,707 26.8 78 300.0 8,784 27.5 3,994 4.5 3,893 ▲25.4 7,887 ▲12.8 7,633 ▲14.4 198 ▲70.6 7,831 ▲18.3 3,775 ▲11.0 2,939 ▲37.6 6,714 ▲25.0 2,207 ▲24.7 4,341 ▲16.1 6,548 ▲19.2 3,495 30.6 2,246 ▲21.1 5,741 4.0 3,016 14.4 2,410 11.6 5,427 13.2 1,839 23.1 3,481 5.5 5,320 10.9 シンガポール オーストリア インドネシア アラブ首長国連邦 アゼルバイジャン ルクセンブルク オーストラリア フィンランド 成長路線の見極めカギに 韓国主要航空会社 インタビュー P18 ~ 19 ▶ 大韓航空 盧 三碩・専務貨物事業本部長 「常に挑戦、価値提案を」 P20 ~ 21 ▶ アシアナ航空 呉 倫圭・貨物本部貨物営業担当常務 「来年に向け備えの年」

Upload: others

Post on 23-Jan-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 成長路線の見極めカギに - Daily-Cargo18 韓国エアカーゴ特集 第3種郵便物認可 2019年8月23日(金) インタビュー盧三碩・専務貨物事業本部長

韓国エアカーゴ特集

米中日路線大幅減、越は10%増 韓国の国際航空貨物の中心である仁川国際空港の2018年

(1~12月)国際貨物量は年間286万トンで、世界3位(国際空港評議会<ACI>速報値)。国内貨物量を加えた総取扱量は295万トンで世界4位。世界トップクラスの規模を誇る。しかし、今年1~6月は、主要路線を中心に物量が落ち込み、仁川発着貨物量は前年同期比7.0%減の133万トン(うち、輸出は7.7%減の66万トン、輸入は6.3%減の67万トン)で、2016年並みの水準で推移している(グラフ参照)。 同空港発着の主要トレードレーンである米国線(貨物量シェアは全体の19.5%)が5.7%減、中国線(17.2%)が11.4%減、日本線(9.4%)が17.5%減と、軒並み落ち込んでいる(表参照)。一方で、ベトナム線(7.7%)は9.7%増とプラス推移。米

中貿易摩擦の影響で、製造業の拠点が中国から移転している影響があると見られる。大韓航空(KAL)、アシアナ航空(AAR)は、さらなるベトナム路線の成長を見込み、貨物便の供給量を拡充しつつある。

医薬・越境ECに期待、デジタル推進 仁川空港での韓国系航空会社(KAL、AARおよびエアインチョン)の貨物シェアは、重量ベースで65.1%(IIAC資料より。19年1~6月実績)。KAL、AARがそろって注目する成長産業が、医薬品と越境eコマース(EC)だ。両社は今年6月、国際航空運送協会(IATA)の医薬品輸送品質認証「CEIVファーマ」を取得しており、サービス水準も上がっている。一方、越境EC貨物輸送量も増加基調にあり、さらなる成長に期待がかかっている。 デジタル対応も一つのキーワードとなる。IBS製「iCargo」を昨年7月にはAAR、今年4月からKALが基幹システムとして導入。拡張性の高い、クラウドベースの完全統合型ソリューションにより、貨物関連業務を一元的に管理する体制に移行した。主要キャリアのインフラが整うにつれ、デジタル化が進んでいく。例えば、eAWB(航空貨物運送状の電子化)を見ると、今年6月の世界平均実施率が前月比1.1ポイント増の65.5%に対して、仁川空港は12.4ポイント増の74.0%と急速な広がりを見せている(IATA資料より)。

23年までに第4滑走路 将来を見据えると、仁川空港の機能拡張が進む。現在、空港拡張フェーズは第4期(17~23年)に入っており、昨年1月に供用開始した第2旅客ターミナルの拡張のほか、23年までに3700メートル級の第4滑走路整備が計画されている。貨物処理能力は現在の年間500万トンから630万トンに拡張される見通し。

170,000180,000190,000200,000210,000220,000230,000240,000250,000260,000270,000

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

仁川国際空港の貨物取扱量推移

※出典=仁川国際空港公社(IncheonInternationalAirportCorporation、IIAC)

(トン)

2016年 2017年2018年 2019年2016年 2017年2018年 2019年

(トン)(トン)

仁川空港発着貨物量上位20路線(IIAC資料より作成)

2019年1~6月 取り降ろし 増減 増減 増減合計積み込み(単位:トン、%)

105,246 ▲10.2 154,536 ▲2.4 259,782 ▲5.7 123,007 ▲8.5 106,496 ▲14.6 229,503 ▲11.4 69,259 ▲18.8 56,117 ▲15.8 125,376 ▲17.5 66,946 ▲3.4 45,448 ▲7.2 112,394 ▲4.9 43,589 10.0 59,308 9.4 102,897 9.7 42,271 ▲6.0 26,458 ▲8.4 68,729 ▲6.9 25,120 6.9 21,001 ▲5.1 46,121 1.1 21,509 2.2 13,207 ▲21.2 34,715 ▲8.2 12,182 4.4 14,952 ▲3.7 27,134 ▲0.2 15,373 ▲3.8 11,382 ▲14.0 26,755 ▲8.4 12,755 ▲1.2 13,860 7.8 26,614 3.3 8,925 6.0 12,445 ▲4.5 21,370 ▲0.4 8,574 ▲16.8 10,419 ▲1.0 18,993 ▲8.8 12,710 ▲7.8 6,152 ▲1.3 18,862 ▲5.8 6,728 33.4 9,917 2.5 16,645 13.1 10,729 ▲7.8 5,802 6.0 16,531 ▲3.4 7,600 7.2 7,467 0.8 15,068 4.0 5,186 ▲9.7 8,486 ▲16.2 13,672 ▲13.9 7,427 ▲15.6 6,074 ▲18.2 13,501 ▲16.8 7,200 ▲5.4 6,036 ▲12.2 13,236 ▲8.6 537 11.6 12,235 ▲19.6 12,772 ▲18.6 3,995 ▲26.7 8,281 ▲16.3 12,276 ▲20.0 4,081 ▲14.5 5,720 ▲8.0 9,800 ▲10.8 8,707 26.8 78 300.0 8,784 27.5 3,994 4.5 3,893 ▲25.4 7,887 ▲12.8 7,633 ▲14.4 198 ▲70.6 7,831 ▲18.3 3,775 ▲11.0 2,939 ▲37.6 6,714 ▲25.0 2,207 ▲24.7 4,341 ▲16.1 6,548 ▲19.2 3,495 30.6 2,246 ▲21.1 5,741 4.0 3,016 14.4 2,410 11.6 5,427 13.2 1,839 23.1 3,481 5.5 5,320 10.9

米 国中 国日 本香 港ベ ト ナ ムド イ ツシ ン ガ ポ ー ルタ イ台 湾マ レ ー シ アカ タ ー ルロ シ アフ ィ リ ピ ンイ タ リ ア英 国カ ナ ダト ル コオ ラ ン ダフ ラ ン スス ペ イ ンオ ー ス ト リ アイ ン ド ネ シ アアラブ首長国連邦ベ ル ギ ーアゼルバイジャンノ ル ウ ェ ーメ キ シ コルクセンブルクオーストラリアフ ィ ン ラ ン ドイ ン ド

成長路線の見極めカギに

大韓航空は米国経由南米ルートも拡充

韓国主要航空会社インタビュー

P18~19▶ 大韓航空 盧三碩・専務貨物事業本部長「常に挑戦、価値提案を」P20~21▶アシアナ航空 呉倫圭・貨物本部貨物営業担当常務「来年に向け備えの年」

アシアナ航空は短期リースで輸送力を調整

Page 2: 成長路線の見極めカギに - Daily-Cargo18 韓国エアカーゴ特集 第3種郵便物認可 2019年8月23日(金) インタビュー盧三碩・専務貨物事業本部長

P18~19▶ 大韓航空 盧三碩・貨物事業本部長専務「常に挑戦、価値提案を最大化」P20~21▶アシアナ航空 呉倫圭・貨物本部貨物営業担当常務「来年に向け、備えの年」

Page 3: 成長路線の見極めカギに - Daily-Cargo18 韓国エアカーゴ特集 第3種郵便物認可 2019年8月23日(金) インタビュー盧三碩・専務貨物事業本部長

第3種郵便物認可 2019年8月23日(金)18 韓国エアカーゴ特集

インタビュー 盧三碩・専務貨物事業本部長

常に挑戦、価値提案を世界最長路線だ。新しい成長市場の開拓で、ネットワークを強化していく。 ―南米路線の需要とは。 盧 南米向け需要の中心はブラジル。大手スマートフォンメーカーの同国向け製品の最終組み立て拠点があり、仁川発の需要が強い。また、アジア発自動車部品、電子機器類の需要もある。南米発では、韓国、日本、中国向けチリ産サーモンやチェリー、香港、台湾、日本向け熱帯魚などがある。ペルー産アスパラガス、プルーンといった生鮮品のアジア向け出荷ニーズも底堅い。 南米-アジア間のフレイターネットワークは、マイアミで積み替えるものが多い。プレイヤーが多い市場だが、大型貨物機でアジア発着の直行便を乗り入れているという強みは大きい。 ―日本では2月に成田線を増便したが、今後は。 盧 米中貿易摩擦の影響を強く受けている路線の一つだ。中国半導体メーカーの生産拡大計画が滞っていることで、日本から韓国経由で輸送される半導体装置が減少している。逆に、米系メーカーは生産拡大基調にあり、日本発米国、特に米西海岸向けの装置需要は底堅いものがある。オフシーズンの今は米国線の供給を減らしているが、秋口からのピーク期

 ―国際市場の現況をどう見るか。  盧  米中貿易摩擦を発端に、世界で保護主義が拡大してきており、航空貨物事業の見通しはさらに悪くなってきている。主戦場とする韓国、中国、米国をはじめ、世界のほぼすべての地域が米中貿易摩擦の影響を受けている。今年上期(1~6月)の輸送量は前年同期比9%減。売り上げも10%台のマイナスだが、特に問題なのは物量の減少だ。 韓国経済についても、南北関係、米中貿易摩擦、最近の日韓関係と、影響を及ぼす多くの課題がある。韓国銀行は今年の経済成長率を2.2~2.5%と予想している。下期以降に向けての最大の懸念材料は、米中貿易摩擦、ブレグジットなど欧州経済の行方のふたつ。状況の変化を注視している。 ―米中貿易摩擦の航空貨物事業への影響は。 盧 米国線の需要が落ち込む一方 で、東南アジア路線では中国からの製造拠点移転に伴う荷動きが出てきている。中でもベトナム市場は大きく、多くの世界大手衣類、家具メーカ ーが中国拠点を移している。タイ、フ ィリピン、マレーシアでは主にIT(情報技術)関連品目、電化製品の産業が盛ん。インドネシアはベトナムに次

ぐ、フットウェアの製造拠点となっており、中国から関連品目が動いている。 こうした変化に合わせて東南アジア路線の貨物便供給量を拡充し、中国市場の落ち込みを補っている。

東南アジア、南米貨物便を拡充

 ―貨物便拡充路線は。 盧 まずは東南アジアとインド。東南アジアでは特にベトナム、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシアに注力し、5月にはマニラ線に週2便で就航。今月からはバンコクに週3便で就航する(初便は8月13日)。ベトナム線は現在週12便だが、すぐにでも週14便体制としたい。インドでは5月から欧州回りのインド路線を週3便から週4便に増便した。仁川→ハノイ→デリー→ウイーン→ミラノと運航するものだ。 きょう(8月23日)からは米国経由南米ルートを週2便から週3便に増やす。現在、仁川→アムステルダム→マイアミ→サンパウロ・ヴィラコポス(ブラジル)→サンチアゴ(チリ)→リマ(ペルー)→ロサンゼルス→仁川を週2便運航している。アジアと南米を貨物便で直結する、他社に無い路線だ。フライトアワーは合計52時間。グランドハンドリングなどの時間も併せると合計72時間で、おそらく

 大韓航空は現在、貨物専用機23機体制で、25カ国・地域43都市に乗り入れている。旅客便を合わせると44カ国・地域124都市向け貨物輸送ネットワークを展開。盧三碩専 務貨物事業本部長は「すべてのステークホルダーに対し、信頼に基づく最高品質のサービ スを提供することで国際経済に貢献し、世界の航空貨物業界を牽引する物流企業となる。常に挑戦し続けることで、価値提案を最大化していく」とビジョンを語る。直近の貨物便事業戦略、新価値を生み出すデジタリゼーションなどの考えなどを聞いた。(文中敬称略)

大韓航空

Page 4: 成長路線の見極めカギに - Daily-Cargo18 韓国エアカーゴ特集 第3種郵便物認可 2019年8月23日(金) インタビュー盧三碩・専務貨物事業本部長

2019年8月23日(金) 第3種郵便物認可 19韓国エアカーゴ特集

インタビュー 盧三碩・専務貨物事業本部長に需要が強まれば、増便やチャーター便を柔軟に行っていく。 ―貨物機のフリート計画を。  盧  自社保有貨物機 は 現在、B 777F型機12機、B747-8F型機7 機、B747-400ERF型機4機の合計 23機。最新鋭旅客機の導入、フリート刷新に伴うベリースペースの増加分を見越し、貨物機フリート規模、構成はしばらく変えないつもりだ。  旅客機 で は B777型機、A330型機、B747型機の後継機種として、貨物輸送力も大きいB787-10型機が中距離、B787-9型機が長距離路線の主力機材となっていく。今年6月にB787-10型機20機を発注し、現在10機保有して い るB787-9型機も新たに10機追加発注した。B787-10 型機初号機 は2021 年から受領予定だ。 ―新機材導入でベリーはどの程度増えるか。 盧 B777-300型機の貨物供給量はLD3コンテナ34台分、約17 トン分で、現有機で最大のベリースペースを持つ。1便当たりの輸送量が20トンを超えることもある。B787-9型機 も LD3で26台分 の貨物輸送力がある。B787-10型機では約30台のキャパシティーを見込んでいる。重量ベースではそれぞれ約13~14トン、約15トンとなる。これほどの輸送力がある旅客機が毎日特定路線に入ってくるわけだ。

あらゆるプロセスをデジタルへ

 ―デジタル戦略をどう描くか。 盧 あらゆる貨物プロセスをペーパーレスのサービスとして提供することが最終目標だ。今年4月に新しい クラウド型の貨物システム「iCargo」を運用開始したことは、デジタリゼー

ションの第一歩だ。従来は、自社の基幹システム「ACE」に、さまざまな枝葉システムを相互接続して運用していたが、今はほとんどの機能がiCargoに集約されている。第二段階として、10月からは収益管理システム(RMS)の機能を統合する。 人工知能(AI)を活用したツールの導入が肝となっていくだろう。貨物需要やビジネストレンドなどの予測、貨物ごとに最適な機材や路線の自動提案などが実現できる。将来的には、分析ツールや、ペーパーレス通関機能などをiCargoに組み込んでいきたい。まだ、同システムの能力を活用しきれていない。どのような価値提案ができるか精査している。 ―医薬品、eコマース(EC)と高付加価値輸送サービスの整備にも力を入れている。 盧 そうだ。医薬品航空物流は成長市場の一つだが、取り扱いは簡単ではない。今年6月3日付で国際航空運送協会(IATA)の 医薬品輸送品質認証「CEIVファーマ」を取得した。同認証に対応する過程で、国際基準に適合し、医薬品輸送に係るあらゆるスタッフの訓練を終えた。 ECは将来、最も収益性の高い市

場となる。年々物量が増えており、今後は主要品目として対応していきたい。EC貨物輸送ではシステマチックなサービスが求められる。どのようなことが必要か、研究している。 ―民営化から今年で50年経った。現在までの貨物事業展開を振り返って。 盧 現在まで、新しい荷主の開拓、新路線の開設、次世代機材の導入、そして最近では最新システムの導入と、どのような環境下でも挑戦、革新に取り組み続けてきた。日本路線には1968年に就航し、70年からベリーの貨物輸送を開始した。翌71年には金浦-羽田で貨物便を就航。機材はB707F型機だった。 2000年代は電化製品、自動車、船用品など、メインデッキサイズの高イールド貨物が多く、04~09年には6年連続で国際FTK(貨物トンキロ)部門で世界トップにいた。12年にB777F 型機、B747-8F 型機の導入を開始。同年、アジアの航空会社として初めて、南米への貨物便乗り入れを果たした。当社最大の長距離路線で、通関などの課題もあったが、市場可能性を信じて挑戦した結果、今や成功路線だ。

Page 5: 成長路線の見極めカギに - Daily-Cargo18 韓国エアカーゴ特集 第3種郵便物認可 2019年8月23日(金) インタビュー盧三碩・専務貨物事業本部長

第3種郵便物認可 2019年8月23日(金)20 韓国エアカーゴ特集

インタビュー 呉倫圭・貨物本部貨物営業担当常務

来年に向け備えの年

 アシアナ航空の呉倫圭・貨物本部貨物営業担当常務は「マーケットの潮目が変わるだろう2020年に最大の焦点を当てる。今年は備えの年だ」とする。貨物便事業では、1年前後のリース契約による機数、輸送力の調整を行っている。来年には、韓国電子メーカーの海外投資、5G(第5世代移動通信システム)商用利用拡大などによる物量回復があると見込み、体制を整える。今年秋ごろには新たな親会社が決まる見通しで、航空会社としての大きな転換期を迎える。「さまざまなシナリオを想定し、貨物でも都度柔軟に対応していく」とする。呉常務に直近の事業概況、貨物営業の短期戦略を聞いた。 (文中敬称略)

アシアナ航空

には稼働しそうだ。完成すれば、第1棟工場よりも大きな生産設備となる。稼働開始時期から逆算して1年~1年半前に半導体製造装置の荷動きが強まることが予想される。 さらに今年から商用利用の動きが本格化してきた5Gのモバイルビジネス関連の荷動きが来年ごろに出てくるのではないか。特に韓国発米国向けのニーズを見込んでいる。潮目が変わるだろう20年に向けて、今年はリストラクチャー、リシェープ、貨物市場の再分析を行う。

短期リースで供給調整

 ―貨物便フリート構成、運用方針は。  呉 昨年から、短期リースによる輸

 ―錦湖グループがアシアナ航空を売却する。貨物便事業への影響は。 呉 7月中旬、韓国政府と韓国銀行が正式に当社を売却する公告を発出した。10月まで入札を公募する。政府、銀行の狙いは、当社の事業を維持し、より健全な財務体質にすること。現時点でさまざまなシナリオが想定されるが、いずれの場合もしっかりと対応していく。 貨物専用機15機体制は小さい航空会社ではない。航空会社として、貨物事業を強化して堅固なものにしていかなくてはならない。 ―直近の実績を振り返って。 呉 ベースの市況は悪い。韓国は中国発米国向け航空貨物の中継地点として活用されてきた。米中貿易摩擦の影響が、米中間の物量にマイナスとなって表れてきている。仁川空港全体の1~6月の貨物取扱量は前年同期比7%減。しかし、当社の輸送量は5%減にとどまっている。時期を誤らずに定期便ネットワークを再構成したことが奏功した。チャーター需要も取り込めている。また、米中貿易摩擦がプラスに働き、実績が増加した路線もある。中国からベトナム、台湾への製造ラインのシフトで、韓国―ベトナム、台湾間の貨物流動は増加している。また、中国市場の鈍化で、韓国

発・経由のeコマース(EC)商品の出荷需要も徐々に拡大している。こうしたニーズの変化に供給を合わせてきた。

半導体回復、5G需要見込む

 ―来年以降の市場をポジティブに予測している。プラス要因は。 呉 航空貨物事業でカギとなるのはEC、半導体関連荷動きをいかにしっかり取り込むか。この2大市場の需要回復を見込んでいる。今、中国発着の荷動きは総じて悪いが、来年に向けては半導体関連の需要が増えるだろう。中国中西部に位置する都市、西安では現在、サムスン電子の西安工場第2棟建設が始まっており、20年7月か、ずれ込んでも同年末

Page 6: 成長路線の見極めカギに - Daily-Cargo18 韓国エアカーゴ特集 第3種郵便物認可 2019年8月23日(金) インタビュー盧三碩・専務貨物事業本部長

2019年8月23日(金) 第3種郵便物認可 21韓国エアカーゴ特集

インタビュー 呉倫圭・貨物本部貨物営業担当常務送力の調整を行っている。現在の保有機はB747F型機11機、B767F型機1機。これに加えてB747F型機3機、時期をずらして短期リースしている。昨年はチャーター需要が強く、通年で130便を運航した。17~18年に2機をリース開始した。19年5月からは年末までの契約で3機目をリースしている。期間はそれぞれ異なり、需要に応じて延長など判断をしていく。 リース機では主にチャーター需要を取り込んでいる。大型案件では昨年10月には仁川→武漢→シカゴのサービスを週3便で開始した。半導体関連とEC貨物輸送のビジネスだ。当初よりも期間が5カ月延び、年末まで継続する案件となった。 ―定期便ネットワークで拡充している路線は。 呉 まずベトナム路線。サムスン、LGと韓国系大手電子メーカーがバクニン省、ハイフォン市に大きく投資し、高級品の製造ラインを置いている。これに対応し、充実したハノイ線の貨物便供給量を維持することがまずひとつ。すでにベトナム向け貨物便では、ハノイ週12便、ホーチミン週2便の合計週14便を運航しており、現状の需要以上の供給がある。常に調整しながらこの規模感を維持していきたい。太平洋路線の定期便供給も拡充していく。 ―日本路線はどうか。 呉 世界的な荷動き鈍化の中で、今年1~6月の実績は落ち込んだ。不買運動もあり日本発韓国向けEC貨物量は、7月には少なくとも従来から20%程度減少している。一方で、製造産品では、一連の通商問題による大きな減少は今のところ見られない。今、日本路線の定期貨物便は成

田週4便、関西週2便。日本路線では競合も激しく、昨年から貨物便の供給が市場全体で増えて需給不均衡だ。改めて需要を分析して需給調整していく。ただし縮小だけを見ていくわけではなく、柔軟に対応していく。機会があれば供給増も行っていく。 ―EC需要増について詳しく聞きたい。 呉 EC貨物輸送実績は年率10%で伸びている。ほとんどがフォワーダーから受託するもので、BtoC、CtoCともに増加基調にある。越境ECの幹線は太平洋路線、米国向け路線で、これらが全体のほとんどを占める。特に中国発ロサンゼルス、シカゴ向けが主要なトレードレーンだ。全世界から米国向けの EC 貨物量は、前年比15~20%増加している。 米国線の定期貨物便は週24便。ロサンゼルス、シカゴ、サンフランシスコ、ニューヨーク、アトランタ、ダラスに乗り入れている。いずれも投入機材はB747F型機で、週2400トン分の供給がある。 ―医薬品輸送のニーズにも注目している。 呉 そうだ。高付加価値を生む、海 上輸送に移りにくい品目だ。韓国で

はサムスンバイオロジクス、セルトリオンのバイオファーマ大手2社が筆頭する。温調コンテナで輸送する需要が多く、物量は年々増加傾向にある。メインは欧州、米国向け。当社では、エンバイロテイナー、ドカシュ

(DoKaSch)、シーセーフと、温調コンテナプロバイダー3社と貸借契約がある。 ―デジタル対応への考えは。  呉  昨年7月 に 貨物 シ ス テ ム

「iCargo」を導入した。運用から一年経ち、次のステップに進む準備ができる状況になった。今後、デジタル環境は必要になっていく。同システムを改修し、他のプラットフォーム(PF)と連結していくようなことも視野に入れている。 一部ではデジタルフォワーダーの出現など、変化がある。今はその数も展開されるPFの絶対数は多くないが、将来的にこうしたデジタル化が進んでいく。その時に対応していけるようにならなくてはならない。

 【略歴】(オ・ユンギュ)1990年12月アシ アナ航空入社。91年2月韓国航空大航空経営学部卒。2005年11月シカゴ貨物支店カルガリー営業所長。12年1月ブリュッセル貨物支店長。16年2月貨物本部貨物営業チーム長。18年1月から現職。53歳。

Page 7: 成長路線の見極めカギに - Daily-Cargo18 韓国エアカーゴ特集 第3種郵便物認可 2019年8月23日(金) インタビュー盧三碩・専務貨物事業本部長