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麻薬に関する研修会 「麻薬に関する基礎講義」 (2回目) 福岡市薬剤師会薬局七隈店 加藤正久

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Page 1: 麻薬に関する研修会...麻薬に関する研修会 「麻薬に関する基礎講義」 (2回目) 福岡市薬剤師会薬局七隈店 加藤正久 前回のおさらい

麻薬に関する研修会

「麻薬に関する基礎講義」 (2回目)

福岡市薬剤師会薬局七隈店 加藤正久

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前回のおさらい ・麻薬は制度、オピオイドは性質 オピオイドについて ・オピオイドとはオピオイド受容体のアゴニスト ・オピオイド受容体はG蛋白共役型受容体 ・オピオイドの鎮痛作用は下降性抑制系の賦活 ・オピオイドは主にμ受容体に作用する 副作用について(消化器系) ・便秘は、オピオイド使用時に、ほぼ発生する。 ・吐き気は主に3つの経路で誘発される 慢性疼痛時に適切なオピオイド使用を行えば、 依存性は発現しにくい

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主な参考資料

日本緩和医療学会 がん疼痛の薬物療法に関する ガイドライン

厚生労働省 医療用麻薬適正使用 ガイダンス

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今回の予定 ○ウォーミングアップ WHO方式がん疼痛治療法 強オピオイド?弱オピオイド? 医薬品情報(DI)の活用! ○本題 国内で利用可能なオピオイドとその特徴 製剤の特徴 換算表 鎮痛補助薬

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WHO方式がん疼痛治療法

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Q:麻薬(麻薬性オピオイド)はどんな時に使われるか A:がん性疼痛・慢性疼痛・その他の治療に用いられる Q:どのように用いたらよいか A:患者の状態を評価し、ガイドラインを参照する。

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Q:がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインでは、どのように書かれているか A:痛みの治療は薬物療法と非薬物療法の組み合わせが必要となるが、 鎮痛薬(表2)の使用が主役となる。 WHO方式がん疼痛治療法における「鎮痛薬の使用法」は、 治療にあたって守るべき「鎮痛薬使用の5原則」(表3)と、 痛みの強さによる鎮痛薬の選択 ならびに鎮痛薬の段階的な使用法を示した「三段階除痛ラダー」(図1) から成り立っている。 表3 鎮痛薬使用の5原則

● 経口的に (by mouth) ● 時刻を決めて規則正しく (by the clock) ● 除痛ラダーにそって効力の順に (by the ladder) ● 患者ごとの個別的な量で (for the individual) ● その上で細かい配慮を (with attention to detail)

図1 三段階除痛ラダー

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薬剤群 代表薬 代替薬

非オピオイド鎮痛薬

アスピリン アセトアミノフェン イブプロフェン インドメタシン

コリン・マグネシウム・トリサルチレートa) ジフルニサルa) ナプロキセン ジクロフェナク フルルビプロフェン※1

弱オピオイド (軽度から中等度の強さの痛みに用いる)

コデイン

デキストロプロポキシフェンa) ジヒドロコデイン アヘン末 トラマドールb)

強オピオイド (中等度から高度の強さの痛みに用いる)

モルヒネ

メサドンa) ヒドロモルフォンa) オキシコドン レボルファノールa) ペチジンc) ブプレノルフィンa) フェンタニル※2

表2 WHO方式がん疼痛治療法の鎮痛薬リスト

a:日本では入手できない薬剤。 b:日本では注射剤のみ入手可能。 c: がん疼痛での継続的な使用(反復投与)は推奨されていないが、他のオピオイドが入手できない国があるため、表に残された薬。 d:経口投与で著しく効果が減弱する薬。 ※1: 原著では、基本薬リストにあげられていないが、非オピオイド鎮痛薬の注射剤としてはフルルビプロフェンの注射剤(ロピオン®)がある。 ※2:( 強オピオイド)フェンタニルは、経皮吸収型製剤(貼付剤)と注射剤が使用できる。当時はフェンタニル貼付剤を使える国が限られていたことから、原著では基本薬リストに挙げずに文中での記載にとどめている。

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図1 三段階除痛ラダー

+強オピオイドを使う

+弱オピオイドを使う

推奨される鎮痛薬

強オピオイド? 弱オピオイド?

非オピオイドや鎮痛補助薬を使う

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強オピオイド? 弱オピオイド?

【仮説】 麻薬性オピオイドが 強オピオイドである 非麻薬性オピオイドが 弱オピオイドである

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強オピオイド? 弱オピオイド?

【仮説】 強い作用を持つオピオイドが 強オピオイドである 弱い作用を持つオピオイドが 弱オピオイドである

? 麻薬は制度

作用はオピオイド

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作用が強いオピオイドとは? 天井効果(ceiling effect) ある程度の量以上、投与量を増やしても鎮痛効果が 頭打ちになること。有効限界ともいう。 鎮痛効果は 天井効果がある<天井効果が無い と考えられる ※統計学の世界では別の意味でつかわれます。

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強オピオイド? 弱オピオイド? 【仮説】 軽度から中等度の強さの痛みに用いる オピオイドを「弱オピオイド」と呼ぶ 中等度から高度の強さの痛みに用いる オピオイドを「強オピオイド」と呼ぶ 異なる疾患のガイドラインで分類が異なる こと(ブプレノルフィン)も、説明できる

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強オピオイド? 弱オピオイド? 【結論】 オピオイドの使用が推奨される 痛みのレベルを曖昧に表現している? 強・弱の分類に こだわることは あまり意味が無い かもしれません。

表3 鎮痛薬使用の5原則

● 経口的に (by mouth) ● 時刻を決めて規則正しく (by the clock) ● 除痛ラダーにそって効力の順に (by the ladder) ● 患者ごとの個別的な量で (for the individual) ● その上で細かい配慮を (with attention to detail)

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医薬品情報(DI)について

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インタビューフォームの情報を引用しています

DIの情報源となる資料

三次資料 ・医薬品添付文書 ・医薬品インタビューフォーム(IF) ・使用上の注意の解説 ・医薬品安全対策情報(DSU) ・医薬品医療機器等安全性情報 ・緊急安全性情報(イエローレター) ・安全性速報(ブルーレター) 二次資料に近いかもしれないが、容易に収集できる医薬品情報 ・医薬品審査報告書(オススメです!) ・医薬品リスク管理計画(RMP:Risk Management Plan) ※RMPは、まだスチバーガしかありません

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麻薬のインタビューフォームの準備を。 インタビューフォームは重要な情報源です。 しかし、麻薬のインタビューフォームは いずれもPMDAのHPで見つける事ができませんでした。 製品によっては、各メーカー毎に会員登録をすることで、 メーカーHPよりDLすることも可能ですが、 各製品のメーカーを把握し、メーカー毎にIDPWを管理というのは 煩雑でDI活用には向きません 今回は紙ベースで麻薬のインタビューフォームを収集しました。 但し、メーカーにお願いしたところ、1日~6日入手に時間を要しました。 取り扱いのある麻薬に関しては、予めメーカーに依頼し、 インタビューフォームを常備しておかないと、 素早い情報収集ができないかもしれません。 今回ご協力いただいた製薬企業には、 本研修会でインタビューフォーム収集の呼びかけをする事を伝えていますので、 ある程度準備して頂いていると思います。

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三次資料 ・医薬品添付文書 ・医薬品インタビューフォーム ・使用上の注意の解説 ・医薬品安全対策情報(DSU) ・医薬品医療機器等安全性情報 ・緊急安全性情報 ・安全性速報 二次資料に近いかもしれないが、容易に収集できる医薬品情報 ・医薬品審査報告書(医薬品・医療機器) ・医薬品リスク管理計画(RMP:Risk Management Plan)

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過去の情報も簡単に入手できます

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医薬品審査報告書のDIへの活用 「審査報告書」及び「審議結果報告書」は、当該医薬品の審査経過、評価結果等を 取りまとめたものです。 「審査報告書」にあっては独立行政法人医薬品医療機器総合機構が、 「審議結果報告書」にあっては厚生労働省が作成したものであり、承認後、 速やかに掲載することとしています。 (PMDAホームページより) 臨床試験データ 添付文書記載内容の科学的理由 申請者(企業)より提出された資料に関する、審査者(機構)の質問と、申請者の回答 データと結論だけでなく、そこに至った過程が具体的にわかります。 PMDAメディナビでは 「承認情報(医療用医薬品)掲載のお知らせ」 として、届きます。 分量は多いですが、「機構は、」から始まる部分を追うだけで、とても簡単に 新規薬品の特徴を把握することができます。

イチオシです!

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国内で利用可能な オピオイドとその特徴

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特徴紹介

モルヒネ オキシコドン フェンタニル

3種類の麻薬性オピオイドについて、ガイドラインで説明されている特徴を 三次資料の情報を基にADMEに分類し、薬物動態を基に紹介していきます 自分なりの、情報の解釈も付け足していきます

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モルヒネ

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モルヒネの薬物動態 Absorption (吸収)

Distribution (分布)

Metabolism (代謝)

Excretion (排泄)

Absorption (吸収)※経口投与

吸収部位:経口投与後、胃腸管から吸収。主に小腸上部。 ラットの試験では、胃を除く消化管の各部位から速やかに吸収される。 となっているが、ヒトでは胃からも吸収されている。(詳細なデータなし)

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モルヒネの薬物動態 Absorption (吸収)

Distribution (分布)

Metabolism (代謝)

Excretion (排泄)

Distribution (分布)

他のオピオイドと比較し、水溶性が高いため、 LogP[n-オクタノール/PB(pH7.4,21℃)]=-0.06 血液脳関門(BBB)通過性は(単純拡散に従うため)低い、P糖蛋白で排出される。 腎、肺、肝、回腸、筋、脳の順に多く分布する(血流量の多い臓器に多く分布) (水溶性は高いが) 胎盤通過性・乳汁移行性が報告されている(海外データ) ・妊娠中のモルヒネ服用で、出産後24時間以内に、新生児に退薬症状 ・分娩時のモルヒネ投与で、新生児の呼吸抑制・心拍数低下 ・授乳中の母親に投与したモルヒネの0.8~12%が乳児に吸収された

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モルヒネの薬物動態 Absorption (吸収)

Distribution (分布)

Metabolism (代謝)

Excretion (排泄)

Metabolism (代謝)

ヒトにおける小腸粘膜での代謝については確立していないが 肝臓と消化管において初回通過効果をうける事が知られている ・モルヒネ塩酸塩には注射剤、坐剤も有。 代謝物が薬理活性・神経毒性を持つことも知られている

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国内で利用可能なオピオイドとその特徴 モルヒネの特徴 ・水溶性が高い ・代謝物が薬理作用を示す

経口吸収されたモルヒネは約55%がmorphine-3-glucuronide(M-3-G)に、約15%がmorphine-6-glucuronide (M-6-G)に変化する

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モルヒネの薬物動態 Absorption (吸収)

Distribution (分布)

Metabolism (代謝)

Excretion (排泄)

Excretion (排泄)

水溶性が高いためモルヒネの消失機構は主として腎排泄 。 胆汁より糞便に約 10%が排泄されるが、残りは尿中に排泄される。 モルヒネの排泄は 24時間までに約 90%が尿中に見られる。 モルヒネ水溶液(1回の投与量、10mg)での 24時間の尿中回収率 (平均値±標準偏差)は、モルヒネ 4.1±4.0%、M-6-G が 6.5±4.3%、M-3-G が 27.6±19.5%であり、全回収率は 38.2±27.4(20.2~78.8)%であった 。

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国内で利用可能なオピオイドとその特徴 モルヒネの特徴

モルヒネ塩酸塩水和物「第一三共」原末インタビューフォームより

[作用機序] 代表的なオピオイドであるモルヒネは、μオピオイド受容体に対する選択性が比較的高く (δ、κオピオイド受容体よりも数倍~数十倍)、その作用のほとんどがμオピオイド受容体を 介して発現する。

がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版) 2章-4.薬学的知識-6.各オピオイドの薬理学的特徴

][

]][[

AB

BAKi

オピオイド受容体はGi蛋白共役型受容体で cAMPの合成を抑制し、効果を示す。

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解離定数

BA AB

][

]][[

AB

BAK

][][][ BKABA のとき

この式はどのような意味を持つか Kとは・・・ 「フリーの受容体」と「リガンドと結合した受容体」の数が同じ時 つまり 受容体の半分が結合している状態の時のリガンドの濃度 どれだけの濃度があれば 受容体の半分に結合させる事が出来るか Kが低い=少ない濃度で多くの受容体に結合する事が出来る →親和性が高い

A:フリーの受容体([A]:Aのモル濃度) B:Aのリガンド([B]:Bのモル濃度) AB:Bと結合したA([AB] :ABのモル濃度)

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国内で利用可能なオピオイドとその特徴 1)モルヒネ [作用機序] 代表的なオピオイドであるモルヒネは、μオピオイド受容体に対する選択性が 比較的高く(δ、κオピオイド受容体よりも数倍~数十倍)、その作用のほとんどがμオピオイド 受容体を介して発現する。 [吸収・代謝・排泄] 経口投与されたモルヒネは、胃腸管から吸収される。 速放性経口製剤は、約0.5~1.3時間で最高血中濃度に到達する。 また、徐放性経口製剤は、約1.9~7.3時間で最高血中濃度に到達する。 吸収されたモルヒネは肝初回通過効果により代謝され、生体内利用率*1は 19~47%(平均25%)である。全身循環に到達したモルヒネは、グルクロン酸抱合により、 約44~55%がモルヒネ-3-グルクロニド(M3G)に、約9~10%が モルヒネ-6-グルクロニド(M6G)に代謝され、8~10%が未変化体(モルヒネ)として尿中から 排泄される。M6GおよびM3Gは、ほとんど腎臓から排泄される(表5)。 [特 徴] モルヒネは、多くのがん疼痛緩和ガイドラインにおいて、 豊富な使用経験などから第一選択薬として推奨されている。また、経口や静脈内、 直腸内、皮下、硬膜外、くも膜下腔内へ投与できる。モルヒネの代謝物であるM6Gは強力な 鎮痛作用を有しており、また、脳移行性がモルヒネよりも低く、ゆっくりと血液脳関門を 通過するために、作用持続時間が長い。一方、もう一つの代謝物であるM3Gは、 オピオイド受容体に対してほとんど親和性をもたず、鎮痛作用は示さないが、 がん疼痛患者へモルヒネを大量投与した際に認められる痛覚過敏*2やアロディニア*3の 発現に関与している可能性が示唆されている。主な副作用として、嘔気・嘔吐、 便秘および眠気がある。

がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版) 2章-4.薬学的知識-1.オピオイド-2.国内で利用可能なオピオイドとその特徴

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オキシコドン

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オキシコドンの Absorption (吸収)

Distribution (分布)

Metabolism (代謝)

Excretion (排泄)

Absorption (吸収) ※経口投与

胃腸管から容易に吸収される ラットのデータでは吸収率96%と、ほぼ完全に消化管から吸収されることが 明らかとなっている。

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オキシコドンの Absorption (吸収)

Distribution (分布)

Metabolism (代謝)

Excretion (排泄)

Distribution (分布)

分配係数(オクタノール/水分配係数)logP=0.7 ヒト血清タンパク結合率は20~100ng/mLにおいてほぼ一定45~46% 結合タンパクは主にアルブミン、α酸性糖タンパクとの結合率は低い (in vitro) 本薬・代謝物共に特異的な組織残留性は無い。(ラット) 胎盤通過性:否定できない(モルヒネが移行するから) 乳汁移行性:血漿中濃度の約3.4倍で検出(海外報告)

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オキシコドンの Absorption (吸収)

Distribution (分布)

Metabolism (代謝)

Excretion (排泄)

Metabolism (代謝)

主な代謝部位:肝臓 CYP3A4によりN-脱メチル化されたノルオキシコドンは薬理活性が低い (ノルオキシコドンはマウスによるフェニルキノン・ライジング試験で オキシコドンに対して1/138(皮下)、1/35(経口)の活性) CYP2D6によりO-脱メチル化されたオキシモルフォンは薬理活性を有する (ラットによるTail flick試験でオキシモルフォンのED50値はオキシコドンの約1/7) ほとんどがノルオキシコドンに代謝される

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3A4

2D6

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オキシコドンの Absorption (吸収)

Distribution (分布)

Metabolism (代謝)

Excretion (排泄)

Excretion (排泄)

腎排泄(寄与率は低い) 健康成人9例(男性4例、女性5例)に、オキシコドン塩酸塩0.28mg/kgを経口投与 した時、投与後24時間までの尿中に投与量の5.5±2.5%( mean±S.D. )が 未変化体として、 2.3±5.5%がオキシコドンの抱合体として排泄された。また、 尿中にはノルオキシコドンとオキシモルフォン抱合体も排泄された。

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国内で利用可能なオピオイドとその特徴 3)オキシコドン [作用機序] オキシコドンは、半合成テバイン誘導体であり、強オピオイドに分類される。 その薬理作用は主にμオピオイド受容体を介して発現する。 [吸収・代謝・排泄] 速放性経口製剤は約1.7~1.9時間で最高血中濃度に到達する。 また、徐放性経口製剤は約4.0時間で最高血中濃度に到達する。経口オキシコドンの 生体内利用率は約60%(50~87%)である。チトクロムP450のCYP2D6およびCYP3A4により、 ノルオキシコドンおよびオキシモルフォンに代謝される。ノルオキシコドンは、 主代謝物であるが、非活性代謝物である。また、オキシモルフォンは鎮痛活性を示すが、 そのAUC*〔薬物血中濃度(時間)曲線下面積〕は、オキシコドンAUC の約1.4%とごく微量 である。オキシコドンはほとんど肝臓で代謝されるが、約5.5~19%が未変化体として 尿中から排泄される(表5)。

オキシコドンの特徴 ・肝代謝型の麻薬性オピオイド ・腎機能の影響が低い。 ・薬物代謝酵素の阻害・誘導等、相互作用に注意

がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版) 2章-4.薬学的知識-1.オピオイド-2.国内で利用可能なオピオイドとその特徴

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フェンタニル

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見るからに異質なフェンタニル

モルヒネ オキシコドン

フェンタニル

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フェンタニルの Absorption (吸収)

Distribution (分布)

Metabolism (代謝)

Excretion (排泄)

Absorption (吸収)

内服すると、初回通過効果が大きく、ほとんどが代謝を受ける為経皮吸収製剤 として開発され、使われてきた。バッカル錠が登場、舌下錠も登場予定 全て初回通過効果を避ける剤形。 経皮吸収可能→分子量(低: 336.5 )、脂溶性(高:油水分配係数4.05) 類似した数値を持つ経皮吸収製剤→ネオキシテープ(オキシブチニン塩酸塩) 分子量394.0、油水分配係数4.68 分子量500以下、油水分配係数1~4(理想は2~3)が、 全身作用型経皮吸収製剤に適した物性とされている

5)Bos JD, et al., Exp. Dermatol., 9, 165-9, 2000

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フェンタニルの Absorption (吸収)

Distribution (分布)

Metabolism (代謝)

Excretion (排泄)

Distribution (分布)

脂溶性が高いので容易に脂質二重膜を通過する。 血漿中と、脳内は、ほぼ同様の濃度。 人でのデータはないがラットにおける胎盤内は1.5~2倍、乳汁中は4倍の濃度 組織移行性(ラットのデータ) 多い順に、投与部位皮膚、小腸、大腸、膀胱、肝臓、(ハーダー腺)、胃、腎臓 顎下腺(いずれも血漿中の10倍以上) ほぼすべての組織で血漿中濃度を上回る。 血液、大脳、脊髄が、血漿中濃度と同程度。

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フェンタニルの Absorption (吸収)

Distribution (分布)

Metabolism (代謝)

Excretion (排泄)

Metabolism (代謝)

フェンタニルは、人の皮膚ホモジネートによる代謝を受けない(in vitro)ため、 皮膚中では代謝されないと報告されている。 主要な代謝経路はノルフェンタニルを生成する酸化的N-脱アルキル化 芳香環、プロピオニル側鎖の水酸化、芳香環水酸化後の抱合反応がある。 主な代謝物はノルフェンタニル

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フェンタニルの Absorption (吸収)

Distribution (分布)

Metabolism (代謝)

Excretion (排泄)

Excretion (排泄)

尿中及び糞中排泄 排泄率、未変化体・代謝物の割合などは、投与経路・投与部位の状態によって 大きく異なり、測定物質も製品により異なる。 排泄に関して、特異的なトランスポーターによる輸送系等の記述はない。

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国内で利用可能なオピオイドとその特徴 2)フェンタニル [作用機序] フェンタニルは、フェニルピペリジン関連の合成オピオイドであり、 麻酔補助薬として使用されてきた。μオピオイド受容体に対する選択性が非常に高く、 完全作動薬として作用する。フェンタニルの鎮痛効果は、モルヒネと類似しており、 静脈内投与した場合、フェンタニルの鎮痛作用はモルヒネの約50~100 倍である。 [吸収・代謝・排泄] 経皮吸収型製剤(フェンタニル貼付剤)の生体内利用率は 計算上57~146%(平均92%)である。初回貼付後1~2時間で血中にフェンタニルは 検出され、17~48時間で最高血中濃度に到達する。 貼付2回目以降に定常状態に到達する。 フェンタニルはほとんど肝臓で代謝され、主にチトクロムP450*4のCYP3A4により、 ノルフェンタニルに代謝される。ノルフェンタニルは非活性代謝物である。 フェンタニルは脂溶性が高く、血液脳関門を速やかに移行する(表5)。 [特徴] フェンタニルは、経皮、静脈内、皮下、硬膜外、くも膜下腔内へ投与することが できる。静脈内投与したフェンタニルが最大鎮痛効果に達する時間は約5分とモルヒネや 他のオピオイドと比較して速効性がある。脂溶性が高く比較的分子量が小さいため、 皮膚吸収が良好であり、貼付剤としても使用されている。副作用として、モルヒネと同様に、 嘔気・嘔吐があるが、便秘および眠気は比較的弱い。

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オピオイド μ受容体 δ受容体 κ受容体

モルヒネ +++ +

フェンタニル +++

オキシコドン +++

コデイン +

トラマドール +※

ペンタゾシン ++(P) + ++

ブプレノルフィン +++(P) ++(P) +++(P)

(P)部分作動薬であることを示す ※トラマドール自体に結合親和性はなく(モルヒネの1/1000)、 CYP2D6による代謝物が部分作動薬として作用する(モルヒネの1/10)

表4 各オピオイドのオピオイド受容体タイプに対する 結合親和性(結合しやすさ)

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オピオイド 未変化体尿中排泄率

物質としての半減期

主な代謝経路 代謝物(鎮痛活性の有無)

モルヒネ 約8~10% 約2~4時間

グルクロン酸抱合

M6G(有)

グルクロン酸抱合

M3G※

フェンタニル 約10% 約4時間 CYP3A4 ノルフェンタニル(無)

オキシコドン 約5.5~19% 約3.5 ~4時間

CYP3A4 ノルオキシコドン(無)

CYP2D6 オキシモルフォン(有)

コデイン 約3~16% 約2.5 ~3.5時間

CYP2D6 モルヒネ(有)

トラマドール 約30% 約6時間 CYP2D6 O-デスメチルトラマドール (有)

ペンタゾシン 約5~8% 約2~3時間 グルクロン酸抱合

グルクロン酸抱合ペンタゾシングルクロニド (無)

ブプレノルフィン

約1% 約2時間 CYP3A4 ノルブプレノルフィン (有:弱い)

※鎮痛活性はないが神経毒性を有しているとの報告もある

表5 オピオイドの代謝

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製剤について

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一般名

商品名 剤形・規格・濃度 投与経路 (適応内)

投与間隔 放出 機構

製剤としての

Tmax*1

(h) (mean±S

D)

製剤としての

半減期(h) (mean±S

D)

特徴

モルヒネ硫酸塩

カディアン®

カプセル: 20mg・30mg・60mg スティック粒: 30mg・60mg・120mg

経口 24時間毎 徐放性 7.3±0.8 9.2±0.9 pH 依存型の放出制御膜でコーティングされた直径1.0 ~1.7mmの徐放性顆粒がカプセルまたはスティックに充填されている。

ピーガード® 錠: 20mg・30mg・60mg・120mg

経口 24時間毎 徐放性 6.3±4.1 21.6±5.9

モルヒネ硫酸塩に、放出制御膜として水溶性微粒子を分散させた水不溶性高分子がコーティングされている。消化管内で水溶性微粒子が速やかに溶解して多数の細孔を形成し、pH非依存的に徐放性を示す。高脂肪食食後に投与するCmax

*2およびAUC*3が減少、Tmax が遅延するが、食前60分投与であれば食事の影響は無視できるため、食間投与とされている。

MSコンチン® 錠: 10mg・30mg・60mg

経口 12時間毎 徐放性 2.7±0.8 2.58±0.85 高級アルコールをコーティングしたモルヒネ粒子を圧縮した構造で、これが腸管内の水分により徐々に溶解される。

MSツワイスロン®

カプセル: 10mg・30mg・60mg

経口 12時間毎 徐放性 1.9±1.3 ND 直径0.6~1mmの徐放性顆粒をカプセルに充填した製剤で、腸管内の水分により徐々に製剤中のモルヒネが溶解する。

モルペス®

細粒: 2% (10mg/0.5g/包、バラ) 6% (30mg/0.5g/包、バラ)

経口 12時間毎 徐放性 2.4~2.8 6.9~8.7 モルヒネを含む素粒子に徐放性皮膜をコーティングし、その上から甘味料をコーティングした構造で、直径約0.5mm の細粒である。経管投与可。

国内で利用可能なオピオイドとその特徴

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一般名

商品名 剤形・規格・濃度 投与経路

(適応内) 投与間隔

放出 機構

製剤としての Tmax

*1(h) (mean±SD)

製剤としての 半減期(h)

(mean±SD) 特徴

モルヒネ塩酸塩

モルヒネ塩酸塩 末 錠: 10mg

経口

4時間毎 (定期投与)、

1時間 (レスキュー・

ドーズ)

速放性 0.5~1.3 2.0~3.0 定期投与またはレスキュー・ドーズとして使用する。

オプソ® 内服液: 5mg/2.5mL/包 10mg/5mL/包

経口

4時間毎 (定期投与)、

1時間 (レスキュー・

ドーズ)

速放性 0.5±0.2 2.9±1.1

モルヒネ経口投与開始時の用量調節および用量調節後の疼痛治療に使用でき、また、オピオイド徐放性製剤投与中のレスキュー・ドーズとしても使用する。

パシーフ® カプセル: 30mg・60mg・120mg

経口 24時間毎 徐放性

速放部: 0.7~0.9 徐放部: 8.4~9.8

11.3~ 13.5

速放性細粒と徐放性細粒がカプセルに充填され、1日1回投与で投与後早期から24時間安定した鎮痛効果を維持できるように設計された製剤である。

アンペック® 坐剤: 10mg・20mg・30mg

直腸内

6~12時間毎 2時間

(レスキュー・ドーズ)

― 1.3~1.5 4.2~6.0 吸収が速やかで、投与後約8時間まで有効血中濃度が保たれる

モルヒネ塩酸塩 アンペック® プレペノン®

注: (モルヒネ・アンペック®) 10mg/1mL/A(1%) 50mg/5mL/A(1%) 200mg/5mL/A(4%) (プレペノン®) 50mg/5mL/ 本(1%) 100mg/10mL/本(1%)

(モルヒネ・ アンペック®)

皮下 静脈内 硬膜外

くも膜下 (プレペノン®)

皮下 静脈内

単回・持続 ― 静脈内:

<0.5 静脈内:

2.0

プレペノン® はプレフィルドシリンジであり、注射剤調製や投与の簡便性・安全性を向上させた製剤である。輸液剤に配合して投与するか、シリンジポンプまたは携帯型ディスポーザブル注入ポンプを用いて投与する。

国内で利用可能なオピオイドとその特徴

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一般名

商品名 剤形・規格・濃度 投与経路

(適応内) 投与間隔

放出 機構

製剤としての Tmax

*1(h) (mean±SD)

製剤としての 半減期(h)

(mean±SD) 特徴

オキシコドン

オキシコンチン® 錠: 5mg・10mg・20mg・ 40mg

経口 12時間毎 徐放性 4.0±2.5 9.2±2.6

アクリル酸系高分子膜と高級アルコール膜の二重構造で、腸管内の水分が浸透し、オキシコドンが徐々に小腸内へ放出される。マトリックス基剤(抜け殻)が糞便中に排泄される場合があるが、成分はすでに吸収されているため、臨床上問題はない。

オキノーム®

散(0. 5 %): 2.5mg/0.5g/包 5mg/1g/包・ 10mg/2g/包

経口

6時間毎 (定期投与)、

1時間毎 (レスキュー)

速放性 1.7~1.9 4.5~6.0

オキシコドン経口製剤を用いる際の用量調節や、突出痛へのレスキュー・ドーズとして使用する。

パビナール®

注: (1A(1mL)あたり) オキシコドン 8mg ヒドロコタルニン 2mg

皮下 単回・持続 ― ND

オキシコドン: 4.1±1.9

ヒドロコタルニン: 2.0±0.7

オキシコドン、ヒドロコタルニンを含有する複方オキシコドン注射剤である。

フェンタニル

デュロテップ®MT

貼付剤: 2.1mg(12.5μg/h)・ 4.2mg(25μg/h)・ 8.4mg(50μg/h)・ 12.6mg(75μg/h)・ 16.8mg(100μg/h)

経皮 72時間毎 徐放性 30~36 21~23

マトリックスタイプの経皮吸収型製剤である。他のオピオイド鎮痛薬から切り替えて使用する。含量が異なる5製剤(2.1mg、4.2mg、8.4mg(50μg/h)、12.6mg(75 μ g/h)、16. 8mg(100μg/h))があり、単位面積あたりの放出速度はいずれも同一である。

フェンタニル

注: 0.1mg/2mL/A 0.25mg/5mL/A 0.5mg/10mL/A

静脈内 硬膜外

くも膜下

静・硬: 持続

くも膜下: 単回

静脈内: 投与直後 硬膜外:

<0.2~0.5

静脈内: 3.65±0.17

国内で利用可能なオピオイドとその特徴

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一般名 商品名 剤形・規格・濃度 投与経路

(適応内) 投与間隔

放出 機構

製剤としての Tmax

*1(h) (mean±SD)

製剤としての 半減期(h)

(mean±SD) 特徴

ペチジン

オピスタン® 末 経口 8時間毎 速放性 2.0 3.5

― オピスタン® ― ペチロルファン®

注: 35mg/1mL/A 50mg/1mL/A

皮下 筋肉内 静脈内

3~4時間毎 ―

筋肉内: 約1.0

静脈内: 投与直後

筋肉内: 3.3

静脈内: α;0.1,β;3.9

コデイン コデインコデインリン酸塩

散: 10mg/g(1%) 100mg/g(10%) 錠: 5mg・20mg

経口

4~6時間毎 (定期投与)、

1時間毎 (レスキュー)

速放性 0.8±0.2 2.2±0.2

コデインは体内でモルヒネに代 謝されることにより鎮痛効果を発揮すると考えられている。

ジヒドロコデイン ジヒドロコデイン リン酸塩

末 散: 10mg/g(1%) 100mg/g(10%)

経口

4~6時間毎 (定期投与)、

1時間毎 (レスキュー)

速放性 1.6~1.8 3.3~3.7 コデインに比べて鎮痛作用はほぼ同等。

トラマドール トラマール® 注: 100mg/2mL/A

筋肉内 4~5時間毎 ― 0.5 ND ―

ブプレノルフィン レペタン®

坐剤: 0.2mg・0.4mg

直腸内 8~12時間毎 ― 1.0~2.0 ND

麻薬拮抗性鎮痛薬*4 注: 0.2mg/1mL/A 0.3mg/1.5mL/A

筋肉内 6~8時間毎 ― < 0.08 2~3

ペンタゾシン ソセゴン® ペンタジン®

錠: 25mg

経口 3~5時間毎 速放性 2.0 1.6~3.2 麻薬拮抗性鎮痛薬 錠剤には、不適切な使用法を防止するために麻薬拮抗薬であるナロキソン塩酸塩が添加されている。

注: 15mg/1mL/A 30mg/1mL/A

皮下 筋肉内

3~4時間毎 ― 筋注:

0.2~0.5 筋注:

1.3~2.0

エプタゾシン セダペイン® 注: 15mg/1mL/A

皮下 筋肉内

単回 ― 皮下・筋注:

0.4~0.5 皮下・筋注:

1.7~1.8 麻薬拮抗性鎮痛薬

ブトルファノール スタドール® 注: 1mg/1mL/A 2mg/1mL/A

筋肉内 5~8時間毎 ― 筋注: 約0.1

静脈内: 4~5

麻薬拮抗性鎮痛薬

国内で利用可能なオピオイドとその特徴

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徐放製剤の粉砕・脱カプセルについて

徐放錠は基本的に、粉砕不可

徐放性カプセルは、

カプセルに徐放性が無ければ脱カプセル可。 カディアン、MSツワイスロン、パシーフは脱カプセル可能 ただし、内部の顆粒に徐放性がある為、

粉砕しない、投与時に噛み砕かない等の注意が必要

モルヒネは苦みが強いと言われている為、経口投与の場合 速放性細粒と徐放性細粒がカプセルに充填されているパシーフカプセルは 注意が必要ではないかと思います。 麻薬である為、脱カプセルによる飛散・紛失等による暴露には十分注意が必要です 適切な剤形を選択し、不要な事故は予防しましょう

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経皮吸収製剤の注意点 フェンタニルの経皮吸収製剤は貼付後12hrで鎮痛効果を示す目標の血中濃度に 達する、剥がした直後に貼り替えることでうまくコントロールできていれば、 はがした後も12hr効果を示すと考えられる。 この考え方を使うと、他剤との切り替え時もイメージしやすい 1日1回の徐放製剤(効果が24hr継続する製剤) 効果が切れるころにフェンタニルが効果を示すように投与後12hrに貼る 1日2回の徐放製剤(効果が12hr継続する製剤) 効果が切れるころにフェンタニルが効果を示すように投与と同時に貼る 速放製剤(1日に4回の投与でコントロールできている場合、効果は6hr示している) 貼ると同時に1回服用、6hr後にもう1度服用 (持続投与の点滴も貼付後6hrまで投与とされている) 別の経皮吸収型製剤からの変更は、貼り替えで問題ない

キーワードは「12時間」 経皮吸収製剤は皮膚の状態(皮膚構造・体温等)の影響を受けやすいことに注意

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換算比に関しては多くの報告がなされており、その数値にはばらつきがある。

また、多くの報告は痛みの安定している患者での対モルヒネでの

単回投与の結果に基づいた換算となっている。

実際の診療では、痛みの不安定な患者での変更が多く、

換算表のみに頼った変更はするべきではない。 換算表を目安に決定した変更後の投与量から、個々の患者の痛み、副作用を 観察したうえできめ細かい調節をすることが必要である。 本ガイドラインでは標準的な換算の目安として、ガイドラインなどの換算表をもとに 検討し、使用しやすいと思われる数値を示すこととした(表3)。

表3 換算表 モルヒネ経口30mgを基準とした場合に、 計算上等力価となるオピオイドの換算量を示す。 ※ フェンタニル貼付剤については添付文書の換算表を参照。12.5μg/hに相当する。

投与経路 静脈内投与・皮下投与

経口投与 直腸内投与

経皮投与

モルヒネ 10~15mg 30mg 20mg

コデイン 200mg

オキシコドン

15mg 20mg

フェンタニル

0.2~0.3mg ※

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鎮痛補助薬 鎮痛補助薬の定義 [定義(狭義)] 主たる薬理作用には鎮痛作用を有しないが、 鎮痛薬と併用することにより鎮痛効果を高め、 特定の状況下で鎮痛効果を示す薬物である。 (ガイドライン上ではこちらを採用) [定義(広義)] 鎮痛を目的として使用するものを第1種鎮痛補助薬、 それ以外を第2種鎮痛補助薬と定義し 制吐薬などの副作用対処薬を含む。

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鎮痛補助薬の特徴 1.抗うつ薬 下降性抑制系賦活作用。抗うつ作用の発現する週単位の期間より短く 1週間以内に効果発現し、低用量で抗うつ作用を示さずに鎮痛効果が認められる 2.抗けいれん薬 ガバペンチンがよく使われていたが、リリカの発売によりあまり見なくなった。 3.局所麻酔薬、抗不整脈薬(抗不整脈薬のクラスIb群) 4.NMDA受容体拮抗薬 オピオイドと拮抗する。麻薬性非オピオイド「ケタミン」が該当する。 5.中枢性筋弛緩薬 6.コルチコステロイド 骨転移痛、腫瘍による神経圧迫、関節痛、頭蓋内圧亢進、 管腔臓器の閉塞などによる痛みに使用される。作用機序は明確ではない。 鎮痛補助薬としては、作用時間が長く、電解質作用*が比較的弱いベタメタゾン、 デキサメタゾンが広く使用される。 プレドニゾロンを代替薬として使用することもある。 7.ベンゾジアゼピン系抗不安薬 筋痙縮の痛みに使用される。 8.ビスホスホネート 骨転移痛に使用される。顎骨壊死のリスク因子、 口腔内の不衛生は唾液分泌の低下も影響する。寝たきりの方には使いにくい。 9.その他

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鎮痛補助薬の選択 NNTとNNH(NNQ) NNT(number needed to treat) →1例の効果を得るためにその治療を何人の患者に用いなければならないかを 示す指標 NNH(number needed to harm) →何人の患者を治療すると1例の有害症例が出現するかを示す指標 NNQ(number needed to quit) →何人の患者を治療すると1例の副作用による治療中断が出現するかを示す指標 痛みの機序に基づき、NNTが小さく、NNHが大きな薬物を選択する事が 神経障害性疼痛に対する効果的かつ安全な治療戦略となるが、 質の高い臨床試験は少なく、適正な使用方法についてはいまだに確立されていない。

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薬剤の種類

文献1より改変引用

Cochrane Review 文献2~8より引用 神経障害性疼痛全般

中枢性疼痛 末梢性疼痛

NNT注1(95% CI)

NNT注1(95% CI)

NNT注1(95% CI)

NNH注2(95% CI)

NNT注1(95% CI)

NNH注3(95% CI)

NNQ注4(95% CI)

抗うつ薬

抗うつ薬(全般) 3.3(2.9~3.8)

3.1(2.7~3.7) 3.1(2.7~3.7) 16.0(12~25)

三環系抗うつ薬 3.1(2.7~3.7) 4.0(2.6~8.5) 2.3(2.1~2.7) 14.7(10~25) 3.6(3.0~4.5)

SSRI 6.8(3.4~441) ND 6.8(3.4~441) ns NA

SNRI 5.5(3.4~14) ND 5.5(3.4~14) ns ND

アミトリプチリン 3.1(2.5~4.2) 6(4.2~10.7) 28(17.6~68.9)

デシプラミン 2.6(1.9~4.5)

イミプラミン 2.2(1.7~3.22)

抗てんかん薬

抗てんかん薬(全般)

4.2 (3.8~4.8) ns 4.1 (3.6~4.8) 10.6 (9~13)

カルバマゼピン 2.0(1.6~2.5) 3.4(1.7~105) 2.3(1.6~3.9) 21.7(13~79) 2.5(2.0~3.4) 3.7(2.4~7.8)

バルプロ酸 2.8(2.1~4.2) ns 2.4(1.8~3.4) ns

フェニトイン 2.1(1.5~3.6) ND 2.1(1.5~3.6) ns 3.2(2.1~6.3)

ガバペンチン 4.7(4.0~5.6) NA 4.3(3.7~5.2) 17.8(12~30) 4.3(3.5~5.7) 3.7(2.4~5.4) ns

抗不整脈薬 メキシレチン 7.8(4.0~129) NA 5.2(2.9~26) ns

NMDA受容体拮 抗薬

NMDA受容体 拮抗薬(全般)注5

7.6(4.4~27) ND 5.5(3.4~14) 12.5(8~36)

デキストロメトルファン

4.4(2.7~12) ND 3.4(2.2~7.6) 8.8(6~21)

オピオイド(参考)

オピオイド(全般)

2.5(2.0~3.2) ND 2.7(2.1~3.6) 17.1(10~66)

ビスホスホネート ビスホスホネート(全般)

11※(6~36) <4週投与>

7※(5~12) <12週投与>

16(12~27)

表12 鎮痛補助薬のNNTとNNH(NNQ)

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まとめ 強オピオイド・弱オピオイドの、強・弱は痛みのレベル 薬剤師としてDIを活用し、医療チームの中で職能を発揮していきましょう。 成分ごとの特徴 モルヒネは情報量が多い オキシコドンは肝代謝型 フェンタニルは便秘・傾眠の副作用が少ない 製剤の特徴 徐放製剤の中には、脱カプセルできるものもある 換算表はあくまで目安 神経障害性疼痛は鎮痛補助薬でサポート 痛みの機序に基づき高NNT低NNH (エビデンスレベルが低い事は注意)

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がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

3章-推奨

について

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推奨される対処法だけでなく それに関連する臨床疑問と、 それに対する推奨とその解説が掲載されています 例) 【臨床疑問】 オピオイドを開始する時に、制吐薬を投与することは、 投与しないことに比較して嘔気・嘔吐を減少させるか 【推奨】 オピオイドを開始する時に、制吐薬を投与することが、投与しないことに比較して 嘔気・嘔吐を減少させることを示す根拠はない。 オピオイドを開始する時は、嘔気・嘔吐について十分な観察を行い、 嘔気時として制吐薬をいつでも使用できる状況にしておく。 嘔気・嘔吐が継続する場合は数日間定期的に投与する。 患者の状態によっては、オピオイドの開始と同時に制吐薬を定期的に投与してもよい。 1C(強い推奨、とても低いエビデンスレベル)

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推奨はされているが、根拠がない。リスク&ベネフィットのバランスで、検討しなければならない 例) 【解説】 本臨床疑問に関する無作為化比較試験、質の高い前後比較研究のいずれもない。 すなわち、オピオイドを開始する時に、制吐薬を投与することが、投与しないことに比較して 嘔気・嘔吐を減少させることが可能であるかは不明である。 本ガイドラインでは、専門家の合意により、オピオイドを開始する時は、嘔気・嘔吐について 十分な観察を行い、嘔気時として制吐薬をいつでも使用できる状況にしておき、 嘔気・嘔吐が継続する場合は数日間定期的に投与することを推奨する。 ただし、制吐薬により生じうる副作用(眠気、ふらつき、パーキンソン症候群、アカシジアなど) の可能性よりも、嘔気・嘔吐を予防する利益が上回ると考えられる患者では、 オピオイドの開始と同時に制吐薬の定期的な投与を検討してもよい。 その理由は、①嘔気・嘔吐はオピオイドのアドヒアランスを悪化させるので、 積極的に予防するほうがよい、②制吐薬の短期間の投与により生じうる害より嘔気・嘔吐を 予防できる有益性が高い場合があると考えられるためである。このような場合としては、 消化器がんや化学療法を受けている患者など嘔気・嘔吐を生じやすい患者、 全身状態が良好な若年者など制吐薬の副作用が重篤になる可能性が少ない患者 などが挙げられる。オピオイド開始時に制吐薬を定期的に使用した場合には、 オピオイドの嘔気・嘔吐に対しては耐性が生じるため、投与後1~2週間で減量・中止すること を検討し、漫然と長期投与にならないようにする。 使用する制吐薬は、ドパミン受容体拮抗薬(ハロペリドール、プロクロルペラジン)、 消化管蠕動亢進薬(メトクロプラミド、ドンペリドン)、または、 抗ヒスタミン薬のいずれかを選択する。