詫びおよび感謝表現...

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東京外国語大学論集第 80 号(2010179 詫びおよび感謝表現 1) の選択と文・談話構造との関わり -日本語と中国語のヴォイス 2) に注目して- 谷口 龍子 はじめに 1. 先行研究の概観 2. データの収集について 3. 詫びおよび感謝表現を含む文・談話の構造(日本語) 3.1 使役表現と共起する詫び表現 3.2 授受表現と共起する詫びおよび感謝表現 4. 詫びおよび感謝表現を含む文・談話の構造(中国語) 4.1 使役表現と共起する感謝表現 4.2 “不好意思を含む文・談話の構造 4.3 “對不起謝謝不好意思の比較 5. まとめ おわりに はじめに 本稿は、詫びおよび感謝表現の選択と、それらが使われている文や談話の構造について、日 本語と中国語 3) を対照させながらヴォイスを中心に考察するものである。 日本語では、感謝を示す行為として「すみません」「ごめんなさい」などのいわゆる詫び表現 が使われることがよくある。この理由についてこれまでは文化的側面や待遇的配慮の観点から 研究が行われてきた。 筆者は、谷口(2009)において、日本語と中国語の詫びおよび感謝表現が使われている談話を テレビドラマや映画の発話から収集し、その語用論的機能を中心に分析を行った。 本稿では、谷口(2009)で使われたデータのうち、詫びおよび感謝表現が使われている文や談 話全体の構造に注目し、統語的・語用論的制約が詫びや感謝を表す言語表現の選択に関わって いる点について論じる。

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東京外国語大学論集第 80 号(2010) 179

詫びおよび感謝表現1)の選択と文・談話構造との関わり -日本語と中国語のヴォイス2)に注目して-

谷口 龍子

はじめに

1. 先行研究の概観

2. データの収集について

3. 詫びおよび感謝表現を含む文・談話の構造(日本語)

3.1 使役表現と共起する詫び表現

3.2 授受表現と共起する詫びおよび感謝表現

4. 詫びおよび感謝表現を含む文・談話の構造(中国語)

4.1 使役表現と共起する感謝表現

4.2 “不好意思”を含む文・談話の構造

4.3 “對不起”、“謝謝”、“不好意思”の比較

5. まとめ

おわりに

はじめに

本稿は、詫びおよび感謝表現の選択と、それらが使われている文や談話の構造について、日

本語と中国語3)を対照させながらヴォイスを中心に考察するものである。

日本語では、感謝を示す行為として「すみません」「ごめんなさい」などのいわゆる詫び表現

が使われることがよくある。この理由についてこれまでは文化的側面や待遇的配慮の観点から

研究が行われてきた。

筆者は、谷口(2009)において、日本語と中国語の詫びおよび感謝表現が使われている談話を

テレビドラマや映画の発話から収集し、その語用論的機能を中心に分析を行った。

本稿では、谷口(2009)で使われたデータのうち、詫びおよび感謝表現が使われている文や談

話全体の構造に注目し、統語的・語用論的制約が詫びや感謝を表す言語表現の選択に関わって

いる点について論じる。

180 詫びおよび感謝表現の選択と文・談話の構造の関わり-日本語と中国語のヴォイスに注目して-:谷口 龍子

1. 先行研究の概観

ここでは、これまでの日本語あるいは中国語における詫びおよび感謝表現に関する研究を概

観する。

日本語の詫びや感謝の定型表現の種類を分類し、主に語義の面から分析したものとして、佐

久間(1983) 、奥津・沼田(1985) 、金田一 (1987)、森山 (1999)などが挙げられる。佐久間 (1983)

は、感謝の表現として「ありがとうございます」と「すみません」の使い分けがあることにつ

いて、「ありがとうございます」は、自己の「喜び」の表現(自己志向的)であるのに対し、「す

みません」のほうは、相手に対する恐縮の表現(他人志向的)であると述べている。また、金

田一 (1987)、森山 (1999)では、詫びと感謝を相対する行為として捉え、いずれも人間関係を

修復するための方略として位置づけている。これらの研究は日本語の感謝の場面において詫び

表現が使われる理由を主に文化論的な側面から考察したものである。

続いて、1980 年代後半から 1990 年代前半にかけて Searle (1969)の発話行為理論をもとに主

に英語と他の言語との対照研究が行われるようになった。山梨(1986)は、詫びと感謝は、問題

の行為の主体が話し手か聞き手か、また、その行為に対し話し手がどのような心的態度を抱き、

それをどのように表出するかという点で対照的な行為であると指摘している。 また、中田

(1989)は、自分の行為に対する陳謝と相手の行為に対する感謝とを明確に二分している英語に

比べ、日本語では相手が行った自分にとってのプラス行為を相手にとってのマイナス行為とし

て捉えるという見解を示している。そのほかに Coulmas(1981:80)では、”indebtedness”(恩義)

の有り無しにより詫び(apology)あるいは感謝(thanks)行為が行われるとしている。中国語の詫

び行為について、彭 (2003)は、詫び表現が使用されていない詫びの場面も含めて、中国語の謝

罪発話表現のプロトタイプ性に 4 つのパターン(A 真性・明示型、B 真性・暗示型、C類似・

明示型、D 類似・暗示型)があることを説明し、中国語の謝罪発話表現の体系化を試みている。

その後、Brown and Levinson (1987)において、詫び行為(apologize)がネガティブ・ポライト

ネスとして取り上げられたことにより、ポライトネス理論からの分析が盛んになった。詫び表

現や感謝表現の種類と、詫びや感謝が行われる場面やその要因を解明しようとする量的データ

に基づいた実証的研究が行われるようになったのは、1990 年代以降である。Brown & Levinson

(1987)のポライトネス理論におけるフェイスの概念を発展させたものとして、Mao (1994)や

Spencer-Oatey (2000)4)、談話レベルのポライトネスについては、Usami(2002)による日本語の会

話のスピーチ・シフトに関する実証データなどが挙げられる。

1990 年以降は、特に質問紙調査やシナリオデータなどの量的データに基づく実証的研究が行

われている。「すみません」の使用の実態調査については、酒井 (1979)、住田(1990)、三宅(1994a)、

小川(1995)などが挙げられる。三宅(1994a)では、日本人の大学生・大学院生とイギリス人の大

東京外国語大学論集第 80 号(2010) 181

学生や大学卒業直後の青年層を対象にアンケート調査を行い、日本人の詫び表現の使い方が、

相手の負担の量や話し手の利益の大小などの要因以上に、相手の種類や人間関係に強く影響を

受けていることを指摘している。さらに、小川(1995)は、世代の異なる社会人にアンケート調

査を行い、「すみません」の使用には制約があり、感謝を表す全ての場面で使われるものではな

いこと、相手や状況による使い分けだけでなく、使用する側に世代差があることを指摘してい

る。つまり、「すみません」は、若い世代の軽い感謝のことばとして、目上やソトの人に多用さ

れ、上の世代では目下や友達に対して使われる傾向があるということである。秦 (2002)は、テ

レビドラマや映画の映像資料を分析し、日本語の感謝の意味を表す定型表現の種類が韓国語よ

り多いことを指摘し、親疎・上下関係にかかわらず定型表現が使われていることを指摘してい

る。

以上の先行研究は、詫びや感謝を表す定型表現の選択がなぜ行われるのかという点について、

文化論的な側面からの考察、発話行為などからの理論的分析、あるいは質問紙調査やシナリオ

などの実証データにより分析したものである。

統語論における詫びおよび感謝表現の研究については、松岡ほか(2002)、北原(2007)、山田

(2000~2002,2004)、山口(2008)などがある。いずれも授受の補助動詞的表現に後接する感謝表現

の文法適格性について述べたものである。山田(2002:109)は、*「教えてもらってありがとう」

と「お教えいただきありがとうございます」が異なる文法性判断を呈することを指摘している。

庵 (2002)、北原(2007)、山田 (2000~2002,2004)、山口(2008)の研究については後述する。

2. データの収集について

データは、映画やテレビドラマでの発話を収集し文字化したものである。中国語のデータは、

すべて台湾地域で使われている中国語(台湾では”國語”と呼ばれているもの)に限定しデータ

を収集した5)。先行研究の調査データにはシナリオを扱っているものもあるが、役者によって

は、必ずしもシナリオどおりではなく、それぞれの場面においてより自然な発話をする者もい

ることから、映画やテレビドラマでの実際の発話を文字化したほうが、自然談話に近いデータ

が収集できると考えた。特に本研究で対象としている詫びや感謝の定型表現は、無意識のうち

に発せられる場合が多く、シナリオとは異なり、より自然な言語表現を役者が発話すると考え

たからである6)。取り扱う映画やテレビドラマの選別にあたっては、以下の点に留意した。ま

ず、現代を設定して、ストーリーにできるだけ現実味があり日常的な内容のもの、できるだけ

会話が自然で脚本が言語的に特殊ではなくしっかりしているもので、映画の場合は、映画賞受

賞作品など内容やシナリオの質が高いもの、テレビの場合は視聴率が高く、大衆に支持を得た

ものを選んだ。さらに、日本語のデータは、中国語の字幕があるもの、中国語のデータは、日

182 詫びおよび感謝表現の選択と文・談話の構造の関わり-日本語と中国語のヴォイスに注目して-:谷口 龍子

本語の吹き替えあるいは字幕のあるものをできるだけ多く選び、字幕や吹き替えの台詞も分析

の参考にした。収集したデータは、大学生以上の成人の発話で、子供の発話は含まない。日本

語の字幕、あるいは日本語の吹き替えがある中国語のテレビドラマには、若者向けのドラマが

多かったことから、日本語の出典もできるだけ同様のものを選択した。したがって、収集した

言語表現は比較的若い世代が使用する表現が多いと思われる。

収集したデータの出典は、次の通りである。

表 1) 日本語のデータの出典

題名 制作 放映年度 脚本 件数

1 ビューティフル・ライフ TBS テレビ 2000 北川悦吏子 8

2 やまとなでしこ フジテレビ 2000 中園ミホ 20

3 ハケンの品格 日本テレビ 2007 中園ミホ 5

4 ハゲタカ NHK テレビ 2007 林宏司 8

5 今週、妻が浮気します フジテレビ 2007 吉田智子 7

計 48

表 2)中国語のデータ7)の出典8)

題名 制作 放映年度 脚本 件数

1 王子變青蛙

(=カエルになった王子様)

TV ドラマ

(三立電視台)

2005 羅彩娟

陳玉珊

9

2 戦神 MARS TV ドラマ(Comic Ritz

Productions Co.Ltd.)

2004 蔡岳勲 12

3 海豚灣戀人

(=イルカ湾の恋人)

TV ドラマ

(三立都會台)

2003 羅彩娟 9

4 香草戀人館(=ハーブ恋人館) TV ドラマ(TVBS) 2004 李瑞洵 4

5 喜宴(=ウェディングバンケッ

ト)

映画 1993 ニール・ベ

ン他

7

6 飲食男女

(邦題「恋人たちの食卓」)

映画 1994 李安 6

7 推手 映画 1991 李安他 1

計 48

東京外国語大学論集第 80 号(2010) 183

3. 詫びおよび感謝表現を含む文・談話の構造9)(日本語)

2 章で抽出したデータの文構造をパターン別に分類した。

日本語のデータに見られる詫びおよび感謝表現が使われている文構造のパターンは以下のと

おりである。

表 3) 詫びおよび感謝表現が使われている文構造のパターン(日本語)

件数 件数

SV+「スマナイ10)」

SV+「ゴメン」

SV+「シツレイ」

SV+「モウシワケナイ」

SV+「ワルイ」

SV+(その他の表現)

13

13

2

2

4

2

SV+「~テモラウ」+「スマナイ」

SV+「~テモラウ」+「アリガトウ」

HV+「~テクレル」+「アリガトウ」

SCV+「ゴメン」

SCV+「スマナイ」

SCV+「ワルイ」

HV+「キョウシュク」

3

3

2

1

1

1

1

合計 48

( Sは話し手で主語、V は本動詞、CV は使役構文を表す)

表 3)から、話し手の行動の表明(SV)に詫び表現が後接されるパターンがもっとも多いこと

がわかる11)(SV+詫び表現)。次に例を挙げる。

例 1) 正社員「おれたち12) 派遣の企画やらなきゃなんないんだぜ」

派遣社員「ほんとに余計なことしてすいませんでした」 (ハケンの品格)

例 2) 会長「おう」

記者「無理言って取材をお願いしてしまい申し訳ありません」

会長「なあに 医者のやつらが大げさに言ってるだけだよ」 (ハゲタカ)

また、「~テモラウ」「~テクレル」などの授受的補助動詞に詫びおよび感謝表現が後接され

たり(SV+授受的補助動詞+詫びおよび感謝表現)、使役表現に詫び表現が後接される場合も

見られる(SCV+詫び表現)ことがわかる。このようなヴォイスに関わる表現と詫びおよび感

謝表現の接続について以下に見てゆく。

184 詫びおよび感謝表現の選択と文・談話の構造の関わり-日本語と中国語のヴォイスに注目して-:谷口 龍子

3.1 使役表現と共起する詫び表現

使役構文に詫び表現が後接される場合は、使役主体が自分の利益のために動作主体を使う

”つかいだて性” (早津 (2007)による)を持つ場合に限られる。また、意志動詞の場合、聞

き手に対して話し手が依頼した事柄を聞き手が遂行した(あるいは遂行中)後に発せられるも

のである。以下に例を挙げる。

例 3) 桜子「とうちゃん ごめん うそつかしてごめん」 (やまとなでしこ)

しかし、聞き手に対して強制ではなく依頼をした場合や話し手の利益になることを聞き手が

自ら行った場合であっても、使役構文が使われる場合がある。

次の例は、親しい同僚に休日を返上してプライベートな用事を手伝ってもらったことを詫びて

いる場面である。

例 4) 杏子「ごめんね休みなのにつきあわせちゃって」 (ビューティフル・ライフ)

使役構文を授受的補助動詞と比較したものには次のような考察がある。奥津・徐(1981)では、

a「私は彼にピアノをひいてもらった。」 と、b「私は彼にピアノをひかせた。」を比べて、「私」

が「彼」に要求し、その結果「彼がピアノをひく」という行為が実現したという文の意味は共

通しているが、「させる」を使うと尊大で強制的な感じを与えることから、事実としては明らか

な使役行為であっても「~もらう」が使いやすいとしている。また、「~てもらう」は、その基

本的意味から派生し、文脈によって使役行為の謙譲的表現になると述べている。益岡 (2001)

では、a 「私はきのう田中君に辞めてもらった。」 b「私はきのう田中君を辞めさせた」のよ

うな対立について、強制性の有無において対立しているのであり、恩恵性の意味を強く帯びる

ことはないとしている。

例 4) では、話し手は同僚に手伝いを依頼したか、あるいは同僚自らが話し手に手伝うこと

を申し出たことが想像されるので、「休みの日につきあってくれてありがとう」と表現してもよ

いのだが、あえて使役構文が使われている理由は、使役構文の使用によって、相手へ負担をか

けたことを誇張するという待遇的配慮であると思われる。使役構文のあとに感謝表現は使えず

(*SCV+感謝表現)、詫び表現が後接される(SCV+詫び表現)。

3.2 授受表現と共起する詫びおよび感謝表現

授受の補助動詞に詫びおよび感謝表現が後接しているものが 7 件見られた。「~てくれる」

東京外国語大学論集第 80 号(2010) 185

には詫び表現は後接されず、感謝表現のみが使われる。

例 5) 杏子「そうだ 忘れてた」

柊二「はあ↗」

杏子「きょうはありがとう

きれいにしてくれてありがとう(ポーズ)嬉しかった」

(ビューティフル・ライフ)

「~テクレル」文は利益を意味するが(高見・加藤(2003))、その利益の方向性が話し手に向

かっていることから、当然、感謝の表現しか接続されないことになる。

一方、「~テイタダク」に後接する表現は「スマナイ」「アリガトウ」のいずれも見られる13)。

文化審議会の答申(平成19年2月)では、「ご利用いただきましてありがとうございます」

「ご利用くださいましてありがとうございます」のいずれも、基本的にはどちらもほぼ同じよ

うに使える敬語だと言ってよい」とされている。

また、庵ほか(2000:114)では、「感謝の表現が後に続く場合「~てもらう」は使えず「~てく

れる」が用いられるが、(教えて{×もらって/○くれて}ありがとう。)「~ていただいて」

とすると、待遇的な配慮によって「させた」という意味が出なくなるために、自然な表現にな

る」と述べている。さらに、山口(2008)は、「~いただく」に感謝表現が後接する理由として、

「「もらう」と「くれる」は「視点」と「外側から向かう方向性が同じである。主格と与格の方

向制約よりも敬語の上下の方向性が勝る現象であろう」と述べている。

本稿のデータからは、次のような例が見られた。

例 6) 宿屋の主人「本日はようこそ西之屋へおこしいただきましてありがとうございます

わたくしこの宿のあるじでございます西野正吾と申します」

(ハゲタカ)

例 7) 取引先「わざわざお越しいただいてすいません 本社のほうはご存知のようにマスコミ

がおしかけてますんで」

鷲津「勝手知ったるところです こちらのほうが交渉しやすい」 (ハゲタカ)

例 6) と例 7) はいずれも相手の来訪に対する感謝の表明であるが、話の展開を見ると、来訪

に至った経緯はそれぞれ異なる。例 6) のほうは、融資の貸付利子がこげついていることから、

186 詫びおよび感謝表現の選択と文・談話の構造の関わり-日本語と中国語のヴォイスに注目して-:谷口 龍子

取引銀行の関係者が宿屋を訪問した際に行われた主人の挨拶である。一方、例 7)のほうは、

取引先が鷲津に対して訪問を依頼し、それが実現した際に行われたあいさつである。話し手の

依頼により聞き手が行動した場合には、「すいません」が後接している。両者は、次のように示

される。

例 6)’ (聞き手の自発的行為)→ SV+「~テモラウ」+感謝表現

例 7)’ (話し手による働きかけ)→(聞き手の行為)→SV+「~テモラウ」+詫び表現

例 6)は、聞き手の行為に対して感謝を示しているが、例 7)では、話し手が聞き手に依頼した

ことについて詫びていると理解できる。つまり、詫びおよび感謝表現の使用に至るまでの経緯

の違い、すなわち談話構造の相違が言語表現の選択に関係していると言えよう。

4. 詫びおよび感謝表現を含む文・談話の構造(中国語)

中国語における詫びおよび感謝表現が使われている文構造のパターンは次の通りである。

表 4) 詫びおよび感謝表現が使われている文構造のパターン(中国語)

件数 件数

對不起+(S)V14)

對不起+SV

對不起+SCV

抱歉+(S)V

抱歉+(S)CV

不好意思+(S)V

不好意思+SV

不好意思+(S)CV

不好意思+SCV

4

1

1

3

1

4

2

3

2

謝謝+HV

謝謝+HCV

感謝+HV

感謝+HCV

多謝+HV

HV+謝了

21

2

1

1

1

1

合計 4815)

(S は話し手で主語、( )は省略、H は聞き手で主語、V は本動詞を示す)

日本語の場合と同様に、詫び表現に話し手自身の行為が後接されるパターン(詫び表現+SV)

が多く見られる。次に例を挙げる。

東京外国語大学論集第 80 号(2010) 187

例 8) 澤亞“爲什麽沒有趕上啊?”(「どうして急がないの?16)」)

天邊“我剛剛遇到鈡曉剛他跟我說 歌選會已經結束了

對不起不能給你好消息”

(「もうオーディションは終わったって、鈡曉剛に言われたの。良い知らせじゃ

なくてごめんなさい。」) (イルカ)

例 9) 拍賣人“好的 誒 接下來要拍賣的商品 很抱歉沒有辦法擺在我們的舞臺上 但是呢

相信現場所有的好朋友都知道我們要拍賣我們學校的風雲人物陳零的一天 現

在開始起標多少”

(「さあ 次なる商品は。すみませんね。舞台に置くことはできないんですが、

みんなが誰でも知っている英雄 陳零を一日(だけ)売りますよ。

ではいくらから始めましょうか。」) (戦神)

“謝謝”+HVの構造におけるH(聞き手)は、“謝謝”の目的語であると同時に後接する動詞

の主語にもなる兼語構造である。

例 10) 高媽媽“謝謝你照顧我們偉同啊”

(「(息子の)偉同の世話をしてくれてありがとう」)

威威“那里 是他照顧我”(「そんな 私のほうこそ」) (喜宴)

例 11) 従業員“爾珊姐 今天很謝謝妳沒有跟老闆告狀”

(「爾珊姉さん 今日はボスに告げ口しないでくれてありがとう」)

阿珊“告狀?告什么狀啊” (「告げ口?何を?」) (香草)

4.1 使役表現と共起する感謝表現

中国語では“謝謝”に使役表現が後接し、使役主体が二人称、動作主体が一人称となる例が

見られる。

例 12) 子騫“謝謝妳讓我見識到,一個就算沒有血緣,也能夠很溫暖的家・・・”

(「ありがとう。血がつながっていなくても温かい家庭を作ることはできるとい

うことを教えてくれたんだね。 ・・」) (カエル)

188 詫びおよび感謝表現の選択と文・談話の構造の関わり-日本語と中国語のヴォイスに注目して-:谷口 龍子

この場合、実際に行動を行ったのは、文法上、使役主体となっている聞き手であり、利益の

得たのは動作主体となる話し手である。日本語なら、*「私にわからせてくれてありがとう」

という言い方は使われず、「教えてくれてありがとう」という表現が自然であろう。

4.2 “不好意思“を含む文・談話の構造

“不好意思”について、『中日辞典』(1994、初版 6 刷、小学館)には、①はずかしい、きまり

がわるい、②むげに・・できない、すげなく・・できない、③厚かましく・することができな

い、という説明がある。

次の例は、 “不好意思”本来の「はずかしい」という意味で使われている例である。

例 13) 従業員“妳是老闆娘 不必自己去抓吧 嚇死我了”

(「あなたはオーナーなんだから、自分でやる必要はないんですよ。

まったくもう(人を)驚かすんだから。」)

家慧の母親“真是不好意思 讓妳見笑了”

(「ほんとにはずかしい 笑われちゃったわ17)」) (香草)

彭 (2003:8)は、近年、謝罪の直接表現として広く使われるようになり、謝罪表現として使

われる場合には、一般的に深刻でない事態に対して多く使われると述べている。

例 14) 錦榮“不好意思 天天來你們家打擾”

(「いつも家にお邪魔してごめんなさい」)

家倩“跟我們家還分這個。”

(「私たちの家ということにしましょう」) (飲食男女)

例 13)は、自らの行為を笑われることを恥ずかしいと思っており、例 14)も、自らの行為を詫

びており、いずれも話し手の行為に言及している点で共通している。しかし、一方で、“不好意

思”は、相手の行為に対する言及としても使われる。

例 15) 朱晓生(人名)“郊遊的事安排的怎麼樣了”

(「ピクニックの準備はどうかな」)

電話の相手 “嗨”(笑い声)

東京外国語大学論集第 80 号(2010) 189

朱晓生“那 不好意思給你們添麻煩”

(「じゃあ めんどうかけてすまない」) (推手)

例 15) は、ピクニックの準備で面倒をかけていることについて言及している場面である。ピ

クニックの提案により相手に面倒をかけていることへの詫びとしても理解できるが、相手の行

為が自分の利益になっていることから感謝の表明と理解することもできる。

例 16) 零(人名)“不好意思 妳在上課我打擾妳出來 對了 這還你 有點皺皺的 不過已經

護貝了”

(「授業中なのに呼び出してごめんな。そうだ。これ返すよ。ちょっと皺に

なっちゃったから、カバーかけておいたよ。」)

綺羅(人名)“謝謝” (「ありがとう」) (戦神)

例 16) は、零が授業中に呼び出したことについて相手に言及した発話である。この例も相手

の行為が話し手の利益につながっている点で例 15)と同様である。

このように、“不好意思“は、恥ずかしさの表明という語義的意味を持って使われるばかりで

なく、話し手の行動を詫びる表現(“不好意思”+SV)や、話し手の働きかけにより相手が行

動し、それが話し手の利益につながった場合にも使われていることがわかる((話し手による

働きかけ)→(聞き手の行為)→“不好意思”+ SV)。

4.3 “對不起”、“謝謝”、“不好意思”の比較

“對不起”と“不好意思”は、後続の話し手を主語とする文法構造の点で共通するが、“謝謝”

と“不好意思”は、相手の行為への言及である点で共通する。また、話し手の働きかけによっ

て聞き手が話し手に利益を及ぼした場合には“不好意思”が使われ“對不起”は出現しない。

3 者の違いは次のように示される。

文法構造:

“對不起”+ SV

“不好意思”+ SV

“謝謝”+HV

190 詫びおよび感謝表現の選択と文・談話の構造の関わり-日本語と中国語のヴォイスに注目して-:谷口 龍子

文法構造だけを見ると、“對不起”と“不好意思“の違いがわからないが、談話構造では

次のように相違が見られる。

談話構造:

(聞き手の行動)→“對不起+SV”

(話し手による働きかけ)→(聞き手の行動)→“不好意思+SV”

(話し手の行動)→“謝謝+HV”

“不好意思”が聞き手の行為により話し手に利益がもたらされた場合に使われることは、

次のように“謝謝”と共起することからもわかる。

例 17 ) 零“不好意思 這兩天麻煩妳那麽多 謝謝你。”

(「わるいね。ここ両日面倒をかけて。ありがとう。」)

綺羅“你不要這麽說 拜拜”

(「そんなこと言わないで。バイバイ。」)

零 “拜拜” (「バイバイ。」) (戦神)

例 18) 陳太太“唉 我說你們今天帶什么來著”

(「あっ、今日は何しに来たって言ってるのよ。」)

朱先生“喔 說著說就忘了”

(「ああ、言ったさきから忘れてた。」)

陳太太“不好意思哦 謝謝(「悪いわね。ありがとう。」)

朱先生“我馬上給你掛起來” (「すぐ、(掛け軸を)かけてあげるよ。」)

(推手)

例 17) 、例 18) は、相手にめんどうをかけている点を詫びると同時に感謝の意も表している。

相手の行為が自分の利益につながった場合、相手への負担ともとらえる点で、中国語の“不好

意思”は、日本語の「スミマセン」と類似した使い方をすると言えよう。また、これらが感謝

表現と共起する場合、“不好意思”が“謝謝”に先行して使われる点も、「スミマセン」が「ア

リガトウ」に先行する点と共通している18)。

東京外国語大学論集第 80 号(2010) 191

5. まとめ

これまでの考察をまとめると次のようになる。

話し手の行為が聞き手に不利益を与えたことを話し手が詫びる場合は、日本語も中国語

も同様に、話し手の行為に詫び表現(中国語の場合は、詫び表現に話し手の行為)が後接

される点で共通している。

SV+詫び表現 (日本語)

詫び表現+SV (中国語)

聞き手の行為が話し手に利益を与えた場合、日本語では、次のようなパターンが見られる。

a) HV+「~テクレル」+感謝表現

b) SV+「~テモラウ」+詫び表現

c) SV+「~テモラウ」+感謝表現

d) SCV+詫び表現

聞き手の自発的な行為が話し手に利益をもたらした場合は、a)あるいは c)のパターンとなり、

依頼など話し手による働きかけがあり、聞き手の行動が話し手に利益を与えた場合は、b) ある

いは d)が使われることが多い。

(聞き手の自発的行為)→HV+「~テクレル」+感謝表現

(聞き手の自発的行為)→SV+「~テモラウ」+感謝表現

(話し手の働きかけ)→(聞き手の行為)→ SV+「~テモラウ」+詫び表現

(話し手の働きかけ)→(聞き手の行為)→ SCV+詫び表現

一方、中国語では、聞き手の行為が話し手に利益を与えた場合に次のようなパターンが見ら

れる。

a) 感謝表現+HV19)

b) 感謝表現+HCSV

c)“不好意思”+ S(C)V

192 詫びおよび感謝表現の選択と文・談話の構造の関わり-日本語と中国語のヴォイスに注目して-:谷口 龍子

聞き手の自発的な行為に対しては、a) や b)20)のパターンが使われ、話し手の働きかけによる

ものの場合は、c)のパターンが使われることが多い。

(聞き手の行為)→“感謝表現+HV”

(聞き手の行為)→“感謝表現+HCSV”

(話し手による働きかけ)→(聞き手の行動)→“不好意思+S(C)V”

日本語と中国語のいずれにおいても使役表現と詫び表現の共起が見られる。談話構造が言語

表現の選択に影響を与えている点も共通している。また、日本語では、詫びおよび感謝表現に

授受的補助動詞が共起することが多く、「~テモラウ」に詫び表現も感謝表現のいずれも後接さ

れる点で中国語より言語表現選択の自由度が高いとも言えよう21)。

おわりに

使役表現と授受的補助動詞の使い分けと談話構造の関わりについては、今後さらに見てゆく

必要がある。また、山口(2008)では、インターネットの使用実態から、授受的補助動詞と共起

する詫び表現や感謝表現のバリエーションの広がりが紹介されている。文法適格性と言語使用

の実態のずれをいかに考えるかという点も課題である。

1) 本稿では「ごめん」「すみません」などのいわゆる詫び表現や「ありがとう」「サンキュー」などの感謝表現

を総括して詫びおよび感謝表現と呼ぶことにする。 2) ここで扱うヴォイスとは、述語に接辞や補助動詞が付加されることに伴って、ガ格が現れる場合の広い意味

の規定である。―益岡ほか(1997:54-55) 3) 本稿で考察の対象となる中国語は台湾でいわゆる國語として使われている話言葉に限定する。 4) Mao (1994) や Spencer-Oatey (2000)は、東洋におけるフェイスには、Brown & Levinson (1987)に挙げら

れているような個人のレベルにおける二つのフェイスとは異なる社会における個人の立場や信用と関わる

フェイスが存在することを指摘している。 5) 話し言葉の表現形式や使用実態は、地域により様々であることから、データの収集にあたっては、ある一定

の地域に限定しなければ、言語使用の実態を把握できないと考えたからである。筆者が、1990 年代に長く

台湾社会において中国語で生活した経験を持ち、自らの語感による判断もできることから、データの対象を

台湾地域で使用されている中国語に選んだことも理由の一つである。 6) 実際、本調査で扱ったテレビドラマ『ビューティフルライフ』の発話データとそのシナリオ(北川悦吏子

(2000)『ビューティフルライフ シナリオ』)の台詞を比べてみたところ、特にあいさつ表現や文末表現に

異なりが多く見られた。 7) 中国人大学院生と言語学専攻の台湾人により、収集したデータの確認を行い、不自然な発話を削除した。 8) 中国語の発話の文字起こしは、筆者が行い、中国語母語話者 2 名による確認作業を行った。

東京外国語大学論集第 80 号(2010) 193

9) 基本的に前件と後件がポーズなしで一続きのものを選んだ。但し、中国語の “不好意思”は後件との間に若

干ポーズがおかれている。 10) 本稿では、文法構造に注目していることから、「すみません」「すいません」「すみませんでした」などのバ

リエーションをまとめて「スマナイ」のように表示する。 11) 言語表現による待遇的配慮の相違については、谷口(2009)を参照されたい。 12) ブランクはポーズを示す。 13) 詫びおよび感謝表現の談話構成上の機能については、大浜(1997) 、羽井佐 (1999)、谷口(2009)を参照され

たい。 14) 後件の前にポーズがある場合は主語が省略されないようである。 15) 谷口 (2009)では、日本語と中国語のデータ各 400 件のうち、詫びの機能を持つものは 132 件(日本語)、130

件(中国語)、感謝の機能は 100 件(日本語)、149 件(中国語)であった。 16) 和訳は筆者による。 17) “讓你見笑了”の“讓”は、使役の標識なので、直訳すると、「私があなたを笑わせた」となるが、日本語では「笑

われた」のほうが自然であろう。 18) 「アリガトウ」と“謝謝”が談話構成上、終了の機能を有する点については、熊取谷(1988)や谷口(2009)を参照

されたい。 19) 奥津・徐(1982:103)には、「テモラウの基本的な意味に対応する中国語表現はないだろう」という記述がある。 20) b )のパターンは、聞き手が相手の利益を意識せずに行動したことが結果として話し手に利益を及ぼした場

合によく使われるようである。 21) 「~させていただいてありがとうございます」のように、使役表現と授受表現が共起する場合は、感謝表現

が後接される。

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The Choice between Apology and Thanking Expressions and sentence/discourse structure

–Comparative analysis of Japanese and Chinese with a focus on Voice-

TANIGUCHI Ryuko

This paper examines the relationship between the selection of apology and thanking

expressions, and the syntactic and pragmatic features of voice, through a comparison with

Chinese.

Apology expressions such “sumimasen” and “gomennasai” are often used to show

appreciation in Japanese. Literature on this subject has mostly attributed this to a cultural point of

view or differences in politeness.

This paper selects Japanese and Chinese apology and thanking expressions found in TV

dramas and movies in Taniguchi (2009), and analyses the data mainly from a pragmatic functional

perspective.

From data found in Taniguchi (2009), we will select only apology and thanking expressions

with the former expressions to categorize the whole sentence structure patterns and compare

Japanese and Chinese. Subsequently, we will analyze the relationship between apology and

thanking expressions and sentence/discourse structures, in particular to voice.