自治体間連携制度を活用した建築物における木材利...

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論文の構成 調査概要と目的 調査時期 3章 地方自治体における 木材利用の施策動向 既に木材利用方針を策定している47都道府県,政令指定17都市, 東京都3区を対象に、木材利用方針に関する資料を取得する。重 要項目を元に、記載内容について各地方自治体の木材利用の取り 組みを比較分析する。 H27.9 H28.1 「建築着工統計調査」(国土交通省)から2011年から2015年までの 全国の木造化率の動態を明らかにする。 4章 木材の需要と供給に 関する地域特性 ・「世界農林業センサス報告書」(農林水産省) ・「森林資源現況総括表」( 林野庁 ) ・「工業統計調査」(経済産業省) ・「木材統計調査 木材需給報告書」(国土交通省) ・「都市計画現況調査」(国土交通省) ・「建築着工統計調査」(国土交通省) の資料を取得し、都道府県別に森林・木材産業と建築需要から地 域特性を明らかにする。 H27.11 H28.1 5章 先行自治体間連携制度の ケーススタディ 先進的な自治体間連携制度の取り組みを行う地方自治体を対象に 制度に関する実態調査 ( ヒアリング調査・目視調査 ) を行う。 また、区有 13 施設の使用木材について樹種 , 使用部位 , 使用量等に 関する資料を取得。 H27.11 ヒアリング対象 行政の担当者と、事例建築物 ( 区有 3 施設と 民間 1 施設 ) の設計担当者 (4 名 ) 目視調査の対象 自治体所有の 3 施設における木材の使用箇所 6章 自治体間連携の 可能性と課題 地域特性とケーススタディの課題から 自治体間連携の可能性を考察する。 28-1 自治体間連携制度を活用した建築物における木材利用に関する研究 ―森林・木材産業と建築需要からみた地域特性の検討と先行制度のケーススタディ― 1. はじめに 1-1. 研究の背景 木材利用を促進することが、温もりのある快適な生活 空間の形成や、二酸化炭素排出の抑制及び建築物等にお ける炭素蓄積の増大を通じた地球温暖化の防止と低炭素 社会の実現に繋がることが言われてきた。特に、建築用 材への需要拡大はわが国全体の木材需要拡大に向けて重 要であり、2010 年 10 月の「公共建築物等における木材 の利用の促進に関する法律」(以下促進法)の施行をは じめとして建築物における木材利用を推進する施策が積 極的に進められている。 一方で、地域産木材を地域内で消費する従来の「地産 地消」型の木材利用だけでは、地域の木材供給能力や建 築需要量の状況に左右され、わが国全体の木材消費量の 向上を図るには十分でない。建築物への木材利用拡大に 向けての課題として、木材需要に対する安定的な供給体 制の整備が挙げられるが、今後は自治体内にとどまらず、 地域を超えて自治体間で連携し、特に、建築需要が見込 まれる地域と木材の供給側の地域とを見極め、両者を結 び付ける取組みが求められている。 1-2. 研究の目的 本研究の目的は、現在わが国の建築物における木材利 用に関する施策動向を明らかにするとともに、木材の利 用に関して自治体間で連携することを目的とした制度を 自治体間連携制度と定義したうえで、自治体間連携制度 の連携のあり方についての検討や課題を明らかにするこ とで今後の建築物における木材利用の促進に資する知見 を得ることを目的とする。 土井 彰人 表1 論文の構成と調査概要 2. 研究の方法 表 1 に各章と調査概要の対応を示す。まず、促進法が 施行された 2010 年以降のわが国の木材利用に関する政 策動向を、各自治体が策定している木材利用方針 註 1) り明らかにする。次に、全国の森林・木材産業と建築需 要に関する地域特性を、統計資料より数値化し明らかに する。最後に、自治体間連携制度の先進的事例として位 置づけられる事例のケーススタディを行い、自治体間連 携制度の課題の抽出を行うとともに、望ましい自治体間 連携制度のあり方について考察する。 3. 地方自治体における木材利用の施策動向 木材利用に対する取り組み状況を把握するために、木 材利用方針を策定済みの 67 自治体(全都道府県、政令 指定 17 都市、東京都 3 区)を対象とし、各木材利用方 針において木材利用の取り組みの積極性に対する指標と して7つの項目に関する記述の有無を整理した(表3)。 その結果、北海道・東北地方では規定している項目数が 多い傾向にあり、他の地方では取り組み状況にばらつき が見られるが、関東地方の茨城、中部地方の岐阜・静岡、 九州地方の熊本・宮崎など林産業が盛んな地域では規定 された項目が多い。利用木材に関しては、基本的には地 域産材のみを対象にしているが、市町村レベルでは港区、 品川区、横浜市など、他の地域産材も可とするなど、地 域を超えて対応する柔軟な施策展開がされていることも 確認された。 4. 木材の需要と供給に関する地域特性 4-1. 地域特性の考え方 ここでは、各地域の地域特性を「川上(森林)」「川中 (木材産業)」「川下(建築需要)」の以上3つの要素をポ テンシャル量として数値化し明らかにする 註 2) 4-2. 地域特性の類型 次に、各スコアの占める割合の値を基準(ポテンシャ ル傾向)に、各地域を「川上主導型」「川中主導型」「川 下主導型」「バランス型」に位置づける(表4)。 4-3. 都道府県の地域特性 ポテンシャル量の平均値である 2.1 より高い地域を抽 出し、地方ごとに地域特性を見た場合、川上の値が大き い地域が多い地方は北海道・東北、九州、中部、川中の

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Page 1: 自治体間連携制度を活用した建築物における木材利 …...する。最後に、自治体間連携制度の先進的事例として位 置づけられる事例のケーススタディを行い、自治体間連

論文の構成 調査概要と目的 調査時期

3章

地方自治体における木材利用の施策動向

既に木材利用方針を策定している 47 都道府県 , 政令指定 17 都市 ,東京都 3 区を対象に、木材利用方針に関する資料を取得する。重要項目を元に、記載内容について各地方自治体の木材利用の取り組みを比較分析する。

H27.9~

H28.1「建築着工統計調査」(国土交通省)から2011年から2015年までの全国の木造化率の動態を明らかにする。

4章

木材の需要と供給に関する地域特性

・「世界農林業センサス報告書」(農林水産省)・「森林資源現況総括表」(林野庁)・「工業統計調査」(経済産業省)・「木材統計調査 木材需給報告書」(国土交通省)・「都市計画現況調査」(国土交通省)・「建築着工統計調査」(国土交通省)の資料を取得し、都道府県別に森林・木材産業と建築需要から地域特性を明らかにする。

H27.11~

H28.1

5章

先行自治体間連携制度のケーススタディ

先進的な自治体間連携制度の取り組みを行う地方自治体を対象に制度に関する実態調査(ヒアリング調査・目視調査)を行う。また、区有13施設の使用木材について樹種,使用部位,使用量等に関する資料を取得。 H27.11

ヒアリング対象 行政の担当者と、事例建築物(区有3施設と民間1施設)の設計担当者(4名)

目視調査の対象 自治体所有の3施設における木材の使用箇所6章

自治体間連携の可能性と課題

地域特性とケーススタディの課題から自治体間連携の可能性を考察する。 ―

28-1

自治体間連携制度を活用した建築物における木材利用に関する研究

―森林・木材産業と建築需要からみた地域特性の検討と先行制度のケーススタディ―

1. はじめに

1-1. 研究の背景

 木材利用を促進することが、温もりのある快適な生活

空間の形成や、二酸化炭素排出の抑制及び建築物等にお

ける炭素蓄積の増大を通じた地球温暖化の防止と低炭素

社会の実現に繋がることが言われてきた。特に、建築用

材への需要拡大はわが国全体の木材需要拡大に向けて重

要であり、2010 年 10 月の「公共建築物等における木材

の利用の促進に関する法律」(以下促進法)の施行をは

じめとして建築物における木材利用を推進する施策が積

極的に進められている。

 一方で、地域産木材を地域内で消費する従来の「地産

地消」型の木材利用だけでは、地域の木材供給能力や建

築需要量の状況に左右され、わが国全体の木材消費量の

向上を図るには十分でない。建築物への木材利用拡大に

向けての課題として、木材需要に対する安定的な供給体

制の整備が挙げられるが、今後は自治体内にとどまらず、

地域を超えて自治体間で連携し、特に、建築需要が見込

まれる地域と木材の供給側の地域とを見極め、両者を結

び付ける取組みが求められている。

1-2. 研究の目的

 本研究の目的は、現在わが国の建築物における木材利

用に関する施策動向を明らかにするとともに、木材の利

用に関して自治体間で連携することを目的とした制度を

自治体間連携制度と定義したうえで、自治体間連携制度

の連携のあり方についての検討や課題を明らかにするこ

とで今後の建築物における木材利用の促進に資する知見

を得ることを目的とする。

土井 彰人

表1 論文の構成と調査概要

2. 研究の方法

 表 1に各章と調査概要の対応を示す。まず、促進法が

施行された 2010 年以降のわが国の木材利用に関する政

策動向を、各自治体が策定している木材利用方針註 1)よ

り明らかにする。次に、全国の森林・木材産業と建築需

要に関する地域特性を、統計資料より数値化し明らかに

する。最後に、自治体間連携制度の先進的事例として位

置づけられる事例のケーススタディを行い、自治体間連

携制度の課題の抽出を行うとともに、望ましい自治体間

連携制度のあり方について考察する。

3. 地方自治体における木材利用の施策動向

木材利用に対する取り組み状況を把握するために、木

材利用方針を策定済みの 67 自治体(全都道府県、政令

指定 17 都市、東京都 3 区)を対象とし、各木材利用方

針において木材利用の取り組みの積極性に対する指標と

して7つの項目に関する記述の有無を整理した(表 3)。

その結果、北海道・東北地方では規定している項目数が

多い傾向にあり、他の地方では取り組み状況にばらつき

が見られるが、関東地方の茨城、中部地方の岐阜・静岡、

九州地方の熊本・宮崎など林産業が盛んな地域では規定

された項目が多い。利用木材に関しては、基本的には地

域産材のみを対象にしているが、市町村レベルでは港区、

品川区、横浜市など、他の地域産材も可とするなど、地

域を超えて対応する柔軟な施策展開がされていることも

確認された。

4. 木材の需要と供給に関する地域特性

4-1. 地域特性の考え方

ここでは、各地域の地域特性を「川上(森林)」「川中

(木材産業)」「川下(建築需要)」の以上3つの要素をポ

テンシャル量として数値化し明らかにする註2)。

4-2. 地域特性の類型

 次に、各スコアの占める割合の値を基準(ポテンシャ

ル傾向)に、各地域を「川上主導型」「川中主導型」「川

下主導型」「バランス型」に位置づける(表 4)。

4-3. 都道府県の地域特性

 ポテンシャル量の平均値である 2.1 より高い地域を抽

出し、地方ごとに地域特性を見た場合、川上の値が大き

い地域が多い地方は北海道・東北、九州、中部、川中の

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地域特性 定義川上主導型 豊富な森林資源を有し、素材の生産量が多く安定的な原木供給が期待できる地域川中主導型 製材・集成材製造等木材工業関連工場が充実しており、安定的な木材供給が期待できる地域川下主導型 継続的な建築需要が見込まれ、木材消費が期待できる地域バランス型 3項目のポテンシャル傾向がいずれも40%を上回らない地域

表4 地域特性の類型と定義

図1. 各要素における上位地域の内訳

28-2

策定時期(最新改定時期)利用木材(*1)

取り組み計画(*2)

過去の木材推進事業

(*3)

補足資料(*4)

事例

(*5)

目標値

(*6)

実績

(*7)

○の数/自治体数

47都道府県北海道 H23.3.22 C - ○ ○ ○ - -

4.17

青森県 H23.9.21 C - - - ○ - ○

岩手県 H15.12(H26.2) C ○ ○ - ○ ○ ○

宮城県 H19.1 C ○ ○ ○ ○ ○ -

秋田県 H13.3.12(H24.6.11) C ○ ○ - ○ ○ ○

山形県 H23.3.30 A ○ ○ - ○ ○ ○

福島県 H23.7.12 B ○ ○ ○ ○ - -

茨城県 H26.4.1 B ○ ○ - ○ ○ ○

3

栃木県 H9 A+D ○ ○ ○ ○ ○ -

群馬県 H23.3.29 B - - ○ - - -

埼玉県 H16.4(H23.2.23) A ○ ○ ○ ○ - -

千葉県 H23.3.31 F - - - - - -

東京都 H18.12.5(H23.11.4) A ○ ○ - ○ - -

神奈川県 H17.4.1(H23.12.22) A+C ○ ○ - ○ - -

新潟県 H15.11.18(H23.10.12) A+C ○ ○ ○ - ○ -

3.88

富山県 H23.4.1(H25.5.11) C - ○ ○ ○ ○ -

石川県 H23.7.1 C - ○ - - - ○

福井県 H23.4.1 D ○ - ○ ○ ○ -

山梨県 H23.3.15 B - - - - - -

長野県 H16.4.1(H22.12.13) A - ○ ○ ○ - ○

岐阜県 H19.4.1(H23.3.2) F ○ ○ ○ ○ ○ ○

静岡県 H16.4.1(H23.4.1) A ○ ○ ○ ○ ○ ○

愛知県 H27.4.21 A ○ ○ ○ - ○ ○

三重県 H22.12.13 A - - - ○ - ○

2.14

滋賀県 H24.2.29 A+B - ○ ○ - - -

京都府 H23.3 A - - - ○ ○ -

大阪府 H15.3(H23.12) B - ○ - ○ - -

兵庫県 H23.12.22 D - ○ ○ ○ - ○

奈良県 H24.3.29 A - ○ - ○ - -

和歌山県 H24.2.6 C - - ○ - - -

鳥取県 H20.8(H27.3) F - ○ ○ ○ - ○

3.4

島根県 H22.12.28 F ○ ○ - ○ ○ ○

岡山県 H20.2 C - ○ - ○ ○ ○

広島県 H22.12.13 C - ○ - - - ○

山口県 H23.12 C - - - ○ ○ ○

徳島県 H24.12 A+B ○ ○ ○ ○ ○ ○

3.75香川県 H24.3 F - ○ ○ ○ - ○

愛媛県 H23.3.25 B - ○ - ○ - -

高知県 H23.4.1(H27.4.1) B ○ ○ - ○ ○ -

福岡県 H24.1.30 B ○ ○ ○ ○ ○ -

3.5

佐賀県 H23.12.14 C ○ ○ ○ ○ - -

長崎県 H23.4.14 B - ○ - ○ - -

熊本県 H23.2.21 C ○ ○ ○ ○ ○ ○

大分県 H23.2.18 C - - - - - ○

宮崎県 H22.11.16(H24.1.13) C ○ ○ - ○ ○ ○

鹿児島県 H23.7.27(H24.7.26) C ○ ○ - ○ ○ -

沖縄県 H24.3.30 E ○ - - - - -

○の数 24 36 22 36 22 22

(*1) 利用木材 : 各地方自治体で利用促進を図る木材。以下内訳を記す。A: 自県の木材認証制度により認証された木材 B: 自県で生産された木材 C: 自県で生産、自県で加工された木材 D: 自県で生産、他県で加工された木材 E: 他の地域の木材 F: 特記事項なし G: 国産材 (*2) 取り組み計画:木材利用方針に基づいた、各地方自治体が定める継続的な行動計画。(*3) 過去の木材推進事業:各地方自治体の木材利用方針の策定時期以前に、建築物を対象にした木材利用促進の取り組み。(*4) 補足資料:木造建築物を設計する際のガイドラインや、県産材に関する特性の説明、木材調達プロセスのフローチャート等、建築物の木造化・木質化を計画する上で参考になる資料。(*5) 事例:木材利用の取り組みの成果物としての建築物の紹介。写真、概要データ、図面、空間の印象等を記載。公開方法はWEB サイトに掲載、パンフレットとしてダウンロード、行動計画に記載等がある。(*6) 目標値:計画期間中に達成する木造化率・木質化率を明確に数値化したもの。数値の示し方としては、床面積ベースの木造化率・木質化率や着工棟数ベースの木造化率・木質化率、県産材利用率、公共建築物等における木材使用量等がある。(*7) 実績:計画期間内の木材使用量。数値の示し方としては、床面積ベース、着工棟数ベース、木材使用量ベース等がある。公表の仕方としては、毎年度の実績公表と木材使用量の総量がある。

表3 地方自治体における木材利用方針の事項項目 項目

自治体 自治体策定時期(最新改定時期)

利用木材

取り組み計画

過去の木材推進事業

補足資料

事例

目標値

実績 ○の数/

自治体数

東京都3区・政令指定17都市札幌市 H25.2.8 C - - - ○ - -

1.5仙台市 H27.6.2 C ○ ○ - - - -

さいたま市 H27.2.19 A ○ - - - - -

2

千葉市 H26.3.25 A+B - - ○ - - -

港区 H24.4.20 E ○ ○ ○ ○ ○ ○

江東区 H26.4.1 G ○ - - - ○ ○

品川区 H27.4.1 E - - - - - -

横浜市 H24.4.1 E - - ○ ○ - -

川崎市 H26.10.24 G - - - - ○ -

相模原市 H25.1.1 A+C ○ - - ○ - -

新潟市 H24.1.24 A ○ - - - - -

2.25静岡市 H24.4.1 F ○ ○ ○ - ○ ○

浜松市 H18.1.23(H22.10.1) B - ○ ○ - ○ -

名古屋市 H26.10.8 F - - - - - -

京都市 H25.9.9 B - ○ - ○ ○ - 3

岡山市 H23.11.1 C - - - - - -0広島市 H25.3.29 C - - - - - -

北九州市 H26.7.1 A+B - - - - - -

0福岡市 H25.10.1 B - - - - - -

熊本市 H25.3.25 C - - - - - -

○の数 7 5 5 5 6 3

「○」該当項目あり、「-」該当項目なし。 各地方自治体が策定した木材利用方針に関する資料より作成

北海道・東北

北海道・東北

北海道・東北

関東

関東

関東中部 中部関西

関西中国

中国

四国

四国

九州

川上 (N=18) (N=20) (N=14)川中 川下

4 4

4中部

九州4

2

四国

2

2

2

2

5

中国2

1

1

1

1

3 3

関西3

0

0

6

九州

値が大きい地域が多い地方は北海道・東北、九州、中部、

川下の値が大きい地域が多い地方は関東、関西、北海道・

東北の順に割合を占める(図 1)。また、秋田県、福島県、

岐阜県、愛媛県、熊本県、宮崎県は川上 ,川中とも値が

大きく、木材の供給側として果たしている役割が大きい。

宮城県は川上 ,川下ともの値が大きく、供給と需要の両

方の特性が強い地域である。

以上のように地域で地域特性に違いがあることから、

地域特性をひとつの指標として地域の連携を図ることが

できれば、木材利用の促進に繋がるサプライチェーンが

構築できると考えられる。また、川上・川中ともポテン

シャル量の高い地域は、いずれかまたは両方の地域特性

を活かして周辺地域と連携を取ることが可能であり、周

辺地域に対して重要な役割を果たす地域と考えられる。

5. 先行自治体間連携制度のケーススタディ

5-1. 事例の概要

 すでに独自の自治体間連携制度を構築し施行している

東京都港区の「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度(以

下みなとモデル)」を対象にケーススタディを行う。 

 自治体間連携制度を活用した木材利用の取り組みは、

みなとモデルのみである(2015 年 12 月現在)註 3)。み

なとモデルとは、港区内で建てられる建築物等に国産木

材の使用を促すことで、区内での二酸化炭素(CO2)固

定量の増加と国内の森林整備の促進による CO2 吸収量の

増加を図り、地球温暖化防止に貢献する制度であり、一

定規模の建築物に対し木材使用量の基準値を設け、また、

使用する国産木材には港区と「間伐材を始めとした国産

材の活用促進に関する協定」を締結した自治体から産出

される協定木材の使用を推奨するものであり、他地域産

木材の利用を促す全国ネットワーク型の制度である。

5-2. 木材利用の実態

 区有 13 施設を対象に木材使用部位別の木材使用量(㎥

/ ㎡)と協定木材の調達先を表 6 にまとめる。全ての事

例において床に使用され、使用量も大きい。次いで家具・

外装材・壁に使用されており、面積が大きい床のフロー

リング材や利用者が触れる場所に使用している傾向があ

る。

 次に、設計者のヒアリング調査と事例の目視調査によ

り得られた木材の使い方や設計上の工夫・空間の印象を

図 2に示す。複合行政福祉施設Mでは、外装材に多くの

木材を使用するためメンテナンス性を上げるバルコニー

の設置や、材の脱落防止や木のあばれを許容したのディ

テールが採用されている。また、高天井空間を耐火区

画することや、全リブの面積を天井・壁の見付面積の

1/10 以内に収める註 4)ことで壁面・天井における木材の

使用を実現している。また、複合福祉施設Aでは、木製

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表5 森林・木材産業と建築需要からみた地域特性ポテンシャル量 ポテンシャル傾向(%) 地域特性川上 川中 川下 合計 川上 川中 川下 合計

全国計 100.0 100.0 100.0 300.0 33.3 33.3 33.3 100.0 ―北海道・東北 33.1 19.8 10.6 63.5 52.1 31.3 16.6 100.0 川上主導型北海道 (1) 12.5 (1) 6.4 (8) 4.1 23.0 54.2 27.8 18.0 100.0 川上主導型青森県 (11) 2.9 1.0 0.8 4.6 62.9 20.7 16.4 100.0 川上主導型岩手県 (2) 5.6 (15) 2.6 0.8 9.0 62.0 29.2 8.8 100.0 川上主導型宮城県 (18) 2.1 0.8 (14) 2.2 5.1 40.6 16.1 43.3 100.0 川下主導型秋田県 (5) 4.5 (4) 4.7 0.5 9.6 46.2 48.8 5.0 100.0 川中主導型山形県 2.0 1.3 0.6 4.0 50.6 34.0 15.4 100.0 川上主導型福島県 (6) 3.6 (10) 3.0 1.6 8.1 44.2 36.7 19.2 100.0 川上主導型関東 6.0 11.2 37.6 54.8 11.0 20.3 68.6 100.0 川下主導型茨城県 1.3 (9) 3.1 (12) 2.3 6.7 19.0 47.1 33.9 100.0 川中主導型栃木県 1.7 1.7 1.5 4.9 35.0 34.7 30.3 100.0 バランス型群馬県 1.4 (20) 2.2 1.4 5.0 27.8 43.5 28.7 100.0 川中主導型埼玉県 0.5 1.8 (5) 6.3 8.5 5.8 20.6 73.6 100.0 川下主導型千葉県 0.5 1.4 (6) 5.1 7.0 6.7 20.3 73.0 100.0 川下主導型東京都 0.3 0.6 (1) 13.3 14.2 2.4 4.0 93.6 100.0 川下主導型神奈川県 0.3 0.4 (3) 7.8 8.5 4.1 4.3 91.6 100.0 川下主導型中部 16.8 20.2 16.2 53.2 31.6 38.0 30.4 100.0 バランス型新潟県 1.9 (16) 2.6 1.4 5.9 32.2 43.4 24.4 100.0 川中主導型富山県 0.6 1.5 0.8 2.9 20.2 52.7 27.1 100.0 川中主導型石川県 1.1 1.3 0.9 3.2 33.6 39.5 26.9 100.0 バランス型福井県 1.1 0.5 0.4 2.0 54.9 23.6 21.4 100.0 川上主導型山梨県 1.1 0.3 0.4 1.9 59.6 17.6 22.8 100.0 川上主導型長野県 (4) 4.5 1.5 1.1 7.1 63.1 21.6 15.3 100.0 川上主導型岐阜県 (9) 3.3 (7) 3.6 1.3 8.1 40.0 43.7 16.3 100.0 川中主導型静岡県 (16) 2.3 (5) 4.1 (10) 2.9 9.3 24.3 44.6 31.1 100.0 川中主導型愛知県 1.0 (3) 4.8 (4) 6.9 12.8 7.7 38.0 54.3 100.0 川下主導型関西 9.5 13.5 18.8 41.8 22.7 32.4 45.0 100.0 川下主導型三重県 1.5 (19) 2.3 1.2 4.9 29.7 46.0 24.3 100.0 川中主導型滋賀県 1.1 0.6 1.1 2.8 39.7 21.7 38.6 100.0 バランス型京都府 1.8 1.9 (11) 2.3 6.1 30.2 31.8 38.0 100.0 バランス型大阪府 0.2 (13) 2.7 (2) 8.1 11.0 1.9 24.7 73.5 100.0 川下主導型兵庫県 (17) 2.2 2.0 (7) 4.6 8.7 25.0 22.3 52.6 100.0 川下主導型奈良県 1.2 (14) 2.7 1.0 4.9 24.8 54.3 20.9 100.0 川中主導型和歌山県 1.4 1.4 0.5 3.3 43.2 41.6 15.2 100.0 川上主導型中国 9.6 11.9 5.0 26.6 36.2 44.9 18.9 100.0 川中主導型鳥取県 1.3 1.4 0.3 2.9 42.7 46.0 11.3 100.0 川中主導型島根県 (15) 2.3 1.9 0.3 4.5 50.1 43.0 6.9 100.0 川上主導型岡山県 2.0 (12) 2.8 1.3 6.1 33.3 45.2 21.5 100.0 川中主導型広島県 (14) 2.3 (6) 3.9 (13) 2.3 8.5 27.1 46.4 26.5 100.0 川中主導型山口県 1.7 1.9 0.8 4.4 39.2 42.7 18.1 100.0 川中主導型四国 6.8 6.5 2.6 15.9 42.9 40.9 16.2 100.0 川上主導型徳島県 1.4 1.8 0.5 3.6 38.2 49.1 12.7 100.0 川中主導型香川県 0.1 0.6 0.9 1.6 9.2 35.0 55.9 100.0 川下主導型愛媛県 (13) 2.3 (17) 2.5 0.8 5.7 41.1 44.6 14.2 100.0 川中主導型高知県 (10) 3.0 1.6 0.4 5.0 59.3 32.6 8.1 100.0 川上主導型九州 18.2 16.8 9.7 44.7 40.7 37.6 21.7 100.0 川上主導型福岡県 1.2 (11) 2.9 (9) 3.9 8.0 15.4 35.6 49.0 100.0 川下主導型佐賀県 1.2 1.0 0.5 2.6 44.4 37.4 18.2 100.0 川上主導型長崎県 0.9 0.2 0.8 2.0 46.7 11.5 41.8 100.0 川上主導型熊本県 (8) 3.4 (8) 3.2 1.1 7.7 44.5 41.7 13.9 100.0 川上主導型大分県 (7) 3.4 (18) 2.5 0.7 6.6 51.9 38.0 10.1 100.0 川上主導型宮崎県 (3) 4.9 (2) 5.1 0.7 10.7 45.7 47.8 6.5 100.0 川中主導型鹿児島県 (12) 2.7 1.8 0.8 5.4 50.5 33.7 15.8 100.0 川上主導型沖縄県 0.4 0.1 1.2 1.6 22.4 5.8 71.8 100.0 川下主導型

文 4)を参考、文 5)~ 10)より作成()内の数字は、それぞれの項目中の順位

表6 みなとモデルに認証された区有施設の概要と木材利用の実態

(*1) 使用部位:床は床、床下地、根太、床根太、地流し、ライニチンググレーチング、階段、フローリング、フローリング基材、フローリング表面材、床下地合板、床その他、複合フローリング一般用合板、複合フローリング床暖房用合板、複合フローリング挽板を指す。外装部材はウッドデッキ、外構、外構材、外構床、軒天、軒天ルーバー、外壁、外壁ルーバー、フェンス、外装パネル、外装下見板を指す。壁は壁、壁面、壁装材、壁下地、壁格子、壁リブ、壁パネル、壁ルーバー、柱型を指す。家具は家具、造作家具、置き家具、家具 挽板、家具 合板、家具 乾燥材、書架を指す。天井は天井、天井ルーバー、天井材、天井下地、天井その他を指す。操作家具は造作部材、造作部材 その他、見切り、サッシ額縁、窓・開口枠、巾木、廻縁、カウンター、木格子、照明ボックスを指す。その他は木製水槽、用途不明を指す。建具は建具、ドアを指す。(*2) 当該建築物に使用された木材の量を表す。★…床面積 1㎡当たりの木材使用量が 0.001㎥、★★…床面積 1㎡当たりの木材使用量が 0.005㎥、★★★…床面積 1㎡当たりの木材使用量が 0.010㎥。

「-」は利用なし。セル内の色が濃い:高い数値 セル内の色が薄い:低い数値

提供資料より作成

都道府県

木材使用量調査事例複合

行政福祉施設M複合

福祉施設K複合

福祉施設N複合

福祉施設A複合

福祉施設S福祉施設

S小中一貫校

S保育園

SU保育園

SK保育園

A保育園

I図書館

A共同住宅

S 平均 合計 木材量の内訳

延床面積(㎡) 50,724.90 6,946.32 5,425.29 5,017.91 1,570.50 9,907.24 17,967.66 6,597.53 2,705.25 2,355.07 1,664.82 3,005.59 4,333.31 9,093.95 118,221.39 木材使用量(㎥) 477.18 57.96 71.87 99.82 16.63 50.58 110.33 40.62 51.66 30.06 14.05 44.27 42.70 85.21 1,107.73 100.00%協定木材(㎥) 468.49 22.03 62.02 65.56 14.76 35.08 98.84 37.14 34.48 23.30 12.44 28.77 42.64 72.73 945.55 85.36%

国産木材・国産合法材(㎥) 8.69 35.93 9.85 34.26 1.87 15.50 11.49 3.48 17.18 6.76 1.61 15.50 0.06 12.48 162.18 14.64%

協定材の調達先

東白川村,都城市,宍粟市,石巻市,高山市,葛巻町,日南市,紋別市,川根本町,久万高原町,あわら市,坂井市,三好市,四万十町,新宮市,西予市,馬路村,隠岐の島町,小国町,小諸市,檜原村

隠岐の島町

久万高原町

小国町

新宮市

日南市

石巻市

静岡市

川根本町

静岡市

東白川村

あきる野市

沼田市

紋別市

朝来市

あきる野市

東白川村

石巻市

浜松市

石巻市

紋別市

石巻市

久万高原町

紋別市

川根本町

あきる野市

石巻市

紋別市

あきる野市

石巻市

都城市

高山市

都城市

日南町

紋別市

四万十市

木材利用の実態複合

行政福祉施設M複合

福祉施設K複合

福祉施設N複合

福祉施設A複合

福祉施設S福祉施設

S小中一貫校

S保育園

SU保育園

SK保育園

A保育園

I図書館

A共同住宅

S 平均 合計 割合床(10-3㎥/㎡) 3.22 0.88 4.80 6.37 9.83 3.93 4.82 4.77 7.87 7.46 3.18 5.16 4.65 5.15 66.95 46.57%

家具(10-3㎥/㎡) 0.48 - - 1.85 - - 1.12 - 6.05 5.31 5.26 7.17 0.18 3.43 27.41 19.07%外装部材(10-3㎥/㎡) 2.82 1.89 6.48 2.03 - 0.94 - 0.86 5.17 - - 2.40 - 2.82 22.59 15.71%

壁(10-3㎥/㎡) 1.73 1.85 0.59 4.35 0.40 - 0.21 0.53 - - - - 3.30 1.62 12.96 9.01%天井(10-3㎥/㎡) 0.38 3.73 - 2.24 - - - - - - - - 1.70 2.01 8.05 5.60%

造作部材(10-3㎥/㎡) 0.50 - 1.38 2.97 0.36 - - - - - - - - 1.30 5.20 3.62%その他(10-3㎥/㎡) 0.28 - - - - 0.23 - - - - - - - 0.26 0.51 0.35%建具(10-3㎥/㎡) - - - 0.08 - - - - - - - - 0.02 0.05 0.10 0.07%合計(10-3㎥/㎡) 9.41 8.34 13.25 19.89 10.59 5.11 6.14 6.16 19.10 12.76 8.44 14.73 9.85 11.06 143.77 100.00%

木材使用量の基準値 ★★ ★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★ ★★ ★★ ★★★ ★★★ ★★ ★★★ ★★

区有施設

区有施設

使用部位(*1)

概要項目

5-3.制度の課題

 制度の課題として、まず、認証の要件を満たす適切な

木材利用がされているか確認するため、計画段階から工

事完了までに必要な 4段階の申請手続きや、それに伴う

木材出荷証明書の提出等の、申請の煩雑さが申請者か

ら指摘されていた註 5)。一方で、制度施行から 4 年経ち、

社会的にも木材利用の重要性や制度の認知度が高まり、

申請者の理解を得やすくなってきている註 6)との意見も

聞かれ、以前とは状況に変化がある。

 次に、木材輸送時の CO2 排出の問題が挙げられる。全

国ネットワーク型の制度により、木材のトレーサビリ

ティ、量的確保がより確実となる一方で、木材の輸送に

伴う環境負荷については課題が残る。認証事例における

CO2 固定量に対する輸送時の CO2 排出量の値(表 7中 A)

を木材使用量(表 7 中 B)で除した値を、木材利用によ

る炭素固定の観点から環境効率を測る指標註 7)として比

べると、複合福祉施設Aの値が最も小さく効率が良い。

これは、複合福祉施設Aは木材使用量が最も多にも関わ

らず、木材の調達先が静岡県・岐阜県・東京都といった

比較的近郊であるためである。一方、保育園 SU の木材

使用量は少ないが、調達先が北海道、宮城と距離が離れ

ているため、値が最も大きい。木材利用で生じる環境負

荷を考慮しながら木材使用量を増加させるには、木材の

調達距離を抑えることが望ましい。

28-3

窓枠・サッシを設け、利用者の目に入りやすく、窓の断

熱性能の向上にも繋がり、木材の複数の性能を同時に活

かした使い方であると考えられる。小中一貫校Sでは、

協定木材の利用に留まらず、敷地内に植えてあった樹木

から取れる木材を学校のシンボルとして利活用してい

る。以上のようにみなとモデルの認証事例では設計者の

木材利用における様々な創意工夫が見られることから、

この制度による設計者の木材利用に対する意識への影響

は大きいと考えられる。

6. 自治体間連携制度の可能性と課題

6-1.地方圏ネットワーク型モデルの構想

 全国の地域特性の分布(4 章)、また、自治体間連携

制度における、調達距離に関する課題(5 章)を踏まえ

ると、自治体間連携制度のひとつの在り方として、近隣

の自治体間で連携する「地方圏ネットワーク型モデル」

が考えられる。以下ではその圏域の検討と課題について

検証する。

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区有13施設

CO2固定量

計(t-CO2)

協定木材分CO2

(t-CO2)

国産木材分CO2

(t-CO2)

CO2排出量(t-CO2)

(*1)

CO2排出量/CO2

固定量計(A)

10-3㎥ /㎡(B)

環境効率(A)/(B)

複合福祉施設A 69.91 48.61 21.30 4.67 0.07 19.89 3.36保育園SK 31.35 21.46 9.89 4.40 0.14 19.10 7.34図書館A 25.48 16.56 8.92 3.37 0.13 14.73 8.99保育園A 21.60 15.79 5.81 3.01 0.14 12.76 10.91複合福祉施設S 11.70 10.53 1.17 1.38 0.12 10.59 11.15福祉施設S 36.43 26.19 10.24 2.07 0.06 5.11 11.16複合福祉施設N 44.77 36.79 7.98 8.08 0.18 13.25 13.62複合行政福祉施設M 307.43 299.24 8.19 45.98 0.15 9.41 15.90保育園I 9.61 7.77 1.84 1.30 0.14 8.44 16.05小中一貫校S 66.68 56.90 9.78 7.02 0.11 6.14 17.15複合福祉施設K 33.38 12.69 20.69 5.39 0.16 8.34 19.35共同住宅S 24.87 24.84 0.03 6.25 0.25 9.85 25.52保育園SU 30.21 26.21 4.00 4.94 0.16 6.16 26.56

合計 713.42 603.58 109.84 97.86 0.14 143.77 0.95

図3.地域特性の平準化からみた自治体間連携の圏域の可能性

(*1)CO2 排出量:木材の輸送に伴う CO2 排出量の合計。協定材はウッドマイレージ L ※ 1(=各協定自治体の木材使用量 (㎥ ) ×役所間の距離 (km) ※ 1)の値に自動車のCO2排出原単位の係数0.18520を掛けた値。国産材は、使用量に係数 79 を掛けた値。文 11)の値を参照。※ 1 役所間の距離:港区役所と各自治体の役所・役場間の直線距離。なお国産合法材・国産材の直線距離は、366 kmとする。文 11)の値を参照。

表7 区有施設の環境貢献と環境負荷

N▲

200km

圏域 ポテンシャル量 ポテンシャル傾向川上 川中 川下 合計 川上 川中 川下 合計

地域特性

Ⅰ 15.4 7.4 4.9 27.6 55.7 26.6 17.7 100.0 川上主導型Ⅱ 19.6 15.1 7.1 41.8 46.9 36.0 17.0 100.0 川上主導型Ⅲ 13.9 17.2 42.0 73.1 19.0 23.5 57.5 100.0 川下主導型Ⅳ 24.3 31.2 33.5 89.1 27.3 35.0 37.6 100.0 バランス型Ⅴ 20.7 30.2 31.4 82.3 25.2 36.7 38.1 100.0 バランス型Ⅵ 21.1 23.8 12.2 57.1 37.0 41.7 21.4 100.0 川中主導型Ⅶ 24.6 25.2 13.6 63.3 38.8 39.8 21.4 100.0 バランス型

平準化シュミレーションした結果、浮かび上がった境界

Ⅵ 鳥取県岡山県香川県徳島県島根県広島県愛媛県高知県山口県大分県福岡県

Ⅶ 広島県愛媛県山口県大分県宮崎県福岡県熊本県鹿児島県佐賀県長崎県沖縄県

Ⅳ 山梨県長野県静岡県富山県岐阜県愛知県石川県福井県滋賀県三重県京都府奈良県大阪府和歌山県兵庫県

Ⅴ 岐阜県愛知県石川県福井県滋賀県三重県京都府奈良県大阪府和歌山県兵庫県鳥取県岡山県香川県徳島県

Ⅰ 北海道青森県

Ⅱ 岩手県秋田県宮城県山形県福島県新潟県

Ⅲ 茨城県栃木県群馬県埼玉県千葉県東京都神奈川県山梨県長野県静岡県

地域圏ネットワーク型モデルの圏域シュミレーション

提供資料と文 11)より作成

筆者撮影図2. 木材の使い方・設計上の工夫・空間の印象

複合行政福祉施設M 複合福祉施設A 小中一貫校S

低学年の教室周りの壁、天井、床に

多くの木材を利用し、温もりある空

間を作る。木材が持つ色味・質感を

大事にし、学年に合わせた空間づく

りを目指した。敷地に植えてあった

木も見える部分に活用することで、

愛着を抱くきっかけ作りを試みた。

28-4

7. まとめ

 本研究では、地域の実情に合わせて他地域産の木材利

用を認める動きがあること、各地域の森林・木材産業と

建築需要に関する指標から地域特性を明らかにし、地域

を超えた木材のサプライチェーンの構築の可能性を示し

た。また、自治体間連携制度の在り方として地方圏ネッ

6-2. 地方圏ネットワーク型モデルにおける圏域の検討

 4 章で算出した、ポテンシャル量の 3 項目の全国を平

準化する圏域のシミュレーションを行った。その結果、

半径 200 kmの圏域を導いた。次いで、200 kmの有効

性を検証するために、木材の需要を牽引する 7 都市註 8)

を中心として半径200kmの圏域Ⅰ~Ⅶ註9)のポテンシャ

ル量とポテンシャル傾向を算出した(図 3)。その結果、

Ⅰ、Ⅱは川上主導型、Ⅵは川中主導型、Ⅳ、Ⅴ、Ⅶがバ

ランス型となる。北海道・東北地方が構成の大半を占め

るⅠ、Ⅱは、川上主導型であり、川下に比べ川上のポイ

ントが高いため、関東の需要に対する連携が考えられる。

Ⅲでは川下のポイントが高いため、福島県、新潟県、岐

阜県、富山県を含む圏域の設定も考えられる。Ⅵは川中

ポイントが高いため、近隣の川下主導型である兵庫県を

含む圏域が考えられる。

 地方圏ネットワーク型モデルの課題として、調達先の

エリアが限られてくることから当該エリアにおける木材

供給状況に影響を受けやすくなることが考えられる。そ

のため、木材の在庫状況の把握・共有化等、安定的な木

材供給を図るための管理を行う組織を立ち上げるといっ

た設計支援体制の整備が求められる。

木材の点検・更新のしやすいバルコニーを設置、内側から取替可能なディテールの工夫、木のあばれを許容したデザイン、高天井空間を耐火区画して内装制限を回避、壁の見付面積の 1/10 以内にリブを納め、不燃化処理をしない。外装ルーバー 体育館の壁面床

照明ボックス

開口枠

腰壁区民ギャラリーの壁面 廊下の床サッシ額縁

木材をサッシ額縁・開口枠として使

用することで断熱性を高めると同時

に材幅が大きいことから、目に見え

る木面積の割合を増加させる効果が

ある。壁・床・天井の木質化可能な

箇所に無理のない木材利用が行われ、

利用者の満足度が高い。

トワーク型モデルを提案し、その望ましい範囲としての

圏域の検討とその課題を指摘した。

【注釈】註 1)法律第 36号 公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律 第 8条 1項と第 9条第 1項に規定された条文に基づく方針註 2)既往研究 文 4)において、川上、川中、川下の指標として用いた人口林と天然林の森林面積のデータと製材業と集成材製造業の全従業員のデータと市街化区域人口のデータを指標にしていたことに対して、本論では素材(原木)生産量と林業経営者と雇用者(150 日以上)のデータ、床板製材業と木材チップ製造業と合板製造業の全従業者のデータ、建築着工床面積のデータを加味した新たな指標を用いた。註 3)他の自治体間連携制度として、川崎市と宮崎県の「崎・崎モデル」、品川区の姉妹都市連携制度があるが、制度が先行し、認証事例があるものは、みなとモデルだけである。註 4)令129条7項の規定により,スプリンクラー設備等で自動式のもの及び令126条の3の規定に適合する排煙設備を設けた建築物の部分は,「特殊建築物の内装制限」 が適用の除外となる、また、昭和 44 年5月1日建設省住指発第 149 号の規定により、内装制限が適用される壁又は天井の部分に柱,梁等の木部が露出する場合で,柱,梁等の室内に面する部分の床面積が各面の面積の 1 / 10 以内のものも「特殊建築物の内装制限」 が適用の除外となる。註 5)以前の調査 文 2)で指摘され、今回実施した制度担当者や設計者へのヒアリング調査でも指摘された。註 6)制度の担当者のヒアリング調査の回答より確認された事項。註 7)非生産的アウトプットである単位木材使用量当たりのCO 2排出量(木材輸送)の値を、生産的アウトプットである単位面積当たりの木材使用量で除することで示される、数値が小さいほど環境効率が良いことを示す。註 8)7都市は、札幌市、仙台市、新宿区、名古屋市、大阪市、広島市、福岡市を設定する。註 9)主要都市を中心とした半径 200km以内の円の中に、県庁所在地が含まれる地域を圏内とする。【参考文献】文 1)井上泰斗:地方自治体の木造公共建築の施策展開に関する研究 , 九州大学大学院2010 年修士論文文 2)石川亮平:木造建築物等による環境保全方策に関する研究‐二酸化炭素固定認証制度の検証と展望‐ , 九州大学大学院 2013 年修士論文文 3)国土交通省:「建築着工統計調査 2. 建築主別、構造別/建築物の数、床面積、工事費予定額」, 2011 年 ,2012 年 ,2013 年 ,2014 年 ,2015 年文 4)株式会社日本政策投資銀行 地域企画部 , 株式会社日本経済研究所 地域本部:木造建築物の新市場創出と国産材利用の推進~木質系構造部材のサプライチェーン構築に伴う各主体による地域間連携の重要性~ , 平成 27年 3月文 5)林野庁:森林資源現況総括表 ( 平成 24年 3月 31日現在 ) 1. 全国 , 2013 年文 6)国土交通省:木材統計調査 平成 26年木材需給報告書 都道府県別、地域別、月別統計 1-2-1. 素材需給の動向 素材需要量 主要部門別素材生産量 , 2013 年文 7)農林水産省:「2010 年世界農林業センサス報告書 第 2巻 農林業経営体調査報告書―総括編― 林業経営体 4-6. 林業労働力」, 2010 年文 8)経済産業省:「工業統計調査 平成 25年確報 産業再分類別統計表」, 2013 年文 9)国土交通省:「平成 25年都市計画現況調査 ( 平成 25 年 3月 31 日現在 ) 調査結果No,2 都市計画区域 市街化区域 地域区域の決定状況 (1) 都市計画区域、市街化区域、用途地域 ( イ ) 面積、人口」, 2013 年文 10)国土交通省:「建築着工統計調査 2014 年 6-1. 都道府県別、構造別 /建築物の数、床面積、工事費予算額」, 2014 年文 11)藤原敬:国内に流通する製材の平均的輸送距離と環境負荷 , ウッドマイルズ研究ノート ( その 5), 2005 年