急性解離性大動脈瘤症例の心電図 -...

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361 (鎌旧記94第二56鞭) 特別掲載 急性解離性大動脈瘤症例の心電図 急性期所見.を中心として 東京女子医科大学循環器内科学教室(主任: 山 口 い..づ.み ヤマ グチ 広沢弘七郎教授) (受付 昭和56年10月3日) Electmcardiogmphic Findings of Pat三ents witb Acute Diss -With Special Emphasis on the Findings Duri血g Acute Stage一. Izumi YAMAGUCHI Department of Cardiology(Diゴector:Prof..Koshichiro HIROSAW The Heart Institute ofJapan, Tokyo women’s Medical College Electrocardiograms’gf 60 patients with acute stage of dissecting aneu togram and/or cT scanning or autopsy at the Heart Iぬstitute ofJapan, T I3years per量od, were analysed. The main electrocardiographic abnormali (51.6%),myocardiζl infarction(16.7%)and. atrioventricuI耳r conduρtion.d bornlalities are similar to those.previoμsly reported. However a more detail of arrhythmias:sinu5 taOhycardia(33.3%), supraventricular premature (8.3%).Electrocardi6graphlc changes of acute pericarditis was observed where..rロptロro into.the pericardium occurred. The.patient with myo¢ardial infarction showed elevation of ST segment on Th・t・an・i・n・・lec・…a・di・9・aphic ch・p9…f・ky・hm di・・u・b・nce(27・3%!・nd ST w6re observed whilεthe patient had been complained of cレest pai耳. T卜e rhythm ef艶ct of atrium by the progress of dissection of aorta.Howeyer the mechanism A11. patients with p6rsiste飢.Supraventricula中remaute beat gn admissio died. SuPraventricular premature beat, especially¢anslent atrial fibri豆la Transient atrial丘brillati6h in’thi3 diseasds a s量gn of impending rupture hemiblock was thou奮ht to be a sign of impending ruμure, however thi5 was not .言 我国における解離性大動脈瘤の頻度は剖検例に おいて,0,37~1.21%と報告されて.おり,循環器 疾患のなかでは脳血管障害,心筋梗塞とならん で急死することが多い疾患として注目されてい る1)2).解離性大動脈瘤は,解離の発生部位,成 因,合併症の有無などによって,極めて複雑な臨 床症状を呈し,診断が困難な疾患でもある.ま 一2079『

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Page 1: 急性解離性大動脈瘤症例の心電図 - CORE心電図は特徴的所見がないと考えられ,検討され ることが少なかった.本邦では堀江らが,心筋梗

361

(鎌旧記94第二56鞭)

特別掲載

急性解離性大動脈瘤症例の心電図

急性期所見.を中心として

東京女子医科大学循環器内科学教室(主任:

山 口 い..づ.み

ヤマ グチ

広沢弘七郎教授)

(受付 昭和56年10月3日)

Electmcardiogmphic Findings of Pat三ents witb Acute Dissecting Aneurysm

-With Special Emphasis on the Findings

Duri血g Acute Stage一.

Izumi YAMAGUCHI

Department of Cardiology(Diゴector:Prof..Koshichiro HIROSAWA)

The Heart Institute ofJapan, Tokyo women’s Medical College

Electrocardiograms’gf 60 patients with acute stage of dissecting aneurysm., diagnosed by means of aor・

togram and/or cT scanning or autopsy at the Heart Iぬstitute ofJapan, Tokyo women’s Medical college over

I3years per量od, were analysed. The main electrocardiographic abnormalitie3 were left ventricular hypertrophy

(51.6%),myocardiζl infarction(16.7%)and. atrioventricuI耳r conduρtion.disturbanges.(10%). These ab・

bornlalities are similar to those.previoμsly reported. However a more detailed study revea16d a higher incidence

of arrhythmias:sinu5 taOhycardia(33.3%), supraventricular premature beat(26.7%)and atrlal且brillation

(8.3%).Electrocardi6graphlc changes of acute pericarditis was observed in one patient among 10 patients

where..rロptロro into.the pericardium occurred.

The.patient with myo¢ardial infarction showed elevation of ST segment on adlnission.

Th・t・an・i・n・・lec・…a・di・9・aphic ch・p9…f・ky・hm di・・u・b・nce(27・3%!・nd ST・b…m・liti・・(25%)

w6re observed whilεthe patient had been complained of cレest pai耳. T卜e rhythm disturbance will be dμe to the

ef艶ct of atrium by the progress of dissection of aorta.Howeyer the mechanism of the ST elevation is hot clear.

A11. patients with p6rsiste飢.Supraventricula中remaute beat gn admission or 4uring the course of disease

died. SuPraventricular premature beat, especially¢anslent atrial fibri豆lation indicates poor prognosis.

Transient atrial丘brillati6h in’thi3 diseasds a s量gn of impending rupture in DeBakey Type I.L6ft posterio士

hemiblock was thou奮ht to be a sign of impending ruμure, however thi5 was not observed量n this study.

緒 .言

我国における解離性大動脈瘤の頻度は剖検例に

おいて,0,37~1.21%と報告されて.おり,循環器

疾患のなかでは脳血管障害,心筋梗塞とならん

で急死することが多い疾患として注目されてい

る1)2).解離性大動脈瘤は,解離の発生部位,成

因,合併症の有無などによって,極めて複雑な臨

床症状を呈し,診断が困難な疾患でもある.ま

一2079『

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Age and’Sex Incidence… 60cases

5 10 15 20

30~39Y

40~49

50~59

60~69

70~

國翫巳 36CASES24

Fig.1 Age and Sex Incidence・… 60 cases

た,急性期死亡率が著しく高く,発症48時間後の

生存率は64%~50%と低値を示す3)7).近年,’本

症の急性期に積極的降圧療法がとりいれられてか

らは,本疾患の予後は,急性発症時における適格

な診断と治療により改善される傾向にある4)36).

本疾患での胸部レントゲン,心血管造影,超音波

法,CTスキャン等の報告は数多くみられるが,

心電図は特徴的所見がないと考えられ,検討され

ることが少なかった.本邦では堀江らが,心筋梗

塞合併の解離性大動脈瘤7例を,外国ではエevi-

nsbnらが34例の急性解離性大動脈瘤の心電図の

報告をしているのみである5)6).解離性大動脈瘤

の急性期の心電図の経過変化を検討している報告

は現在までない.しかし,急性期診断と治療に

役立つ超音波法,CTスキャン等の諸設備の整

った施設は限られており,救:急医療機関での治

療開始の時期が逸せられていることが多くみられ

る.そこで,著者は一般救急施設においても施行

可能な心電図検査を検討し,急性期における解離

性大動脈瘤の特徴と,心電図上の切迫大動脈瘤破

裂徴候と考えられる所見を,多数例の分析結果よ

り得られたのでここに報告する.

対象および方法

1969年より1981年の過去13年間に東京女子医科

大学日本心臓血圧研究所に入院し,2方向断続的

大動脈造影,CTスキャン,または剖検で解離性

大動脈瘤の診断が確定された128症例のうち,発

症2週間以内に入院した60症例を急性解離中大動

脈瘤として今回の検討の対象とした.60例全例に

心電図検査が施行されている.大血管造影30例,

CTスキャン14例,剖検28例,これら三者のうち

二者が施行されたのは7例であった.心電図所見

の判定には,mobile CCU出動時,救急外来受診

時およびモニター心電図を含めた入院経過中の心

電図を使用した.検索対象の年齢は32歳~81歳で

平均年齢は59.3歳,男性36例,女性24例,男女比

は1.5対1であった(Fig.1)..

Anhulo-aortic ectasia(以下AAEと略す)を

伴った症例は4例であり,年齢は32~40歳となっ

ており,平均年齢は35.8歳であった.AAEの有

無は大動脈造影または剖検時の上行大動脈の形態

学的診断で決定した.心電図の診断基準として

M五nnesota codeを用いそれに準拠した9)37).左室

肥大については本邦人における判定基準を示した

森,川真田によるSokolow,正y・nの基準訂正値

を用いた10)19).心室内伝導障害については,左脚

ブロック,右脚プロッンとも決めがたい症例は,

非典型的(atypica1)心室内伝導障害とした.一

過1生心房細動は発現より48時間以内に消失した例

とした.

一2080一

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手術時生検,または剖検によって基礎疾患が確

認された症例は32例であり,その内訳は動脈硬化

20例,マルファン症候群3例,その他に特発性中

膜壊死3例,梅毒3例,大動脈炎1例であった.

成 績

A・発症後の経過時間による心電図所見

本症は2週間以内の死亡率が著しく高く,特に

24時間以内に2~4割近くの症例が死亡してい

る3)7)8).発症時より,入院またはmobil CCU出

動時心電図記録までの経過時間別に区分してどの

ような差違があるか検討してみた(Table 1).6

時間以内30例,24時間以内16例,24時間以降14例

となっていた.発症早期例には,臨床的に重症例

が多く,死亡例も多数含まれていた.

Table l ECG Findings in Acute Dissecting

Aneurysm。

(on admissin)Onset~6h. ~24h. 24h.~ Total

30case5 16cases 14case5 60cases

tachycardia>100/min 8(26.7%) 8(50.0%) 6(42.9%} 22(36.7%〉

bradycardiaく601min 6(20.0%) 1(6.3%) 0 7(11.7%)

.LAO 3(10.0%) 1(6.3%) 2(14.3%) 6(10。0%)

RAO 0 0 0 0

日目E: 4(13.3%) 2(12.5%) 3(2L4%) 9G5.0%)

R.AE 0 2(12.5%) 0 2(3.3%)

BAE 0 1(6.3%) 2(14.3%) 3(5.0%)

LVH 17(55.6%) 6.(3ア.5%) 8(57.1%) 31(51.6%)

RVH 0 0 1(7.1%) 1(L6%)

BVH 0 0 1(ア.1%》 1(1.6%)

CLBBB 0 0 0 0

CRBBB 1(3.3%) 0 1(ア,1%) 2(3.3%)

atypical IVCD 3(10.0%) 0 1(7.1%) 4(6.7%1

Iow vo比age 2(6.7%) 0 0 2(3.3%〉

QT-prolong ati。ロ 1(3.3%) 1(6、3%) 2(14.3%) 4(6.7%)

AF・Af 3(10.0%) o 1(7,1%) 4(5.7%)

PAC 6(20』%) 6(37.5%) 4(2B.6%) 16(26.7%)

PVC 2(6.7%) 0 0 2(3.3%)

10A-V bbck 2(6.7%) 0 0 2(3,3%)

『 〃 2(6.7%) 0 o 2(3.3%)

皿。 〃 2(6.7%) 0 0 2(3.3%)

Ta segment 5(16.7%) 0 o 5(8.3%)

myocardial infarctbn 6(20.0%) 1(6.3%) 3(2L4%) 10(16.7%)

1)基本調律

初診時の心電:図60例中50例(83。3%)カミ洞調律

であった.一度房室ブロック2例,二度房室ブロ

ック2例,三度房室ブック2例が認められ,いず

れも発症6時間以内の早期入院例であった.心房

細動は4例に認められ,2例では48時間以内に洞

調律に戻り,そのうちの1例は一度房室ブμック

を示し,一過性心房細動と考えられた.残りの2

例では,解離性大動脈瘤発症前より心房細動が存

在していだ.入院経過中に心房細動を生じたもの

は11例あった.詳細については後述する.

2)心拍数

初診時に1分間60i拍以下の徐脈を認めた症例

は,60例中7例(11.7%)であり,洞性徐脈4

例,二度房室ブロック2例,三度房室プロヅク1

例であった.徐脈例では6例が発症6時間以内の

早期入院であった.1分間に1σ0拍以上の頻拍症

は60原中22例(36.7%)に認められ,このうち洞

性頻拍20例,心房細動2例となっていた.その

22例の内訳は,本症発症6時間以内30例中8例

(26.7%),24時間以内16例中8例(50%),24時

間以降は14例中6例(42.9%)であった.

3) 期外収縮

初診時に期外収縮が出現したものは60例中18例

(30%)あり,そのうち心室性期外収縮が2例に

あり,上室性期外収縮は16例(26.7%)と多数に

認められた.入院経過中に上室性期外収縮が多発

した後に,洞調律から心房細動に移行した5例で

は全例1ヵ月以内に死亡した.入院時に上室性期

外収縮がみられ,入院後の急性期に上室性期外収

縮の散発していた5例も1ヵ月以内に死亡した.

その内訳は心嚢内破裂3例,胸腔内破裂5例,大

動脈弁閉鎖不全1例,イレウス1例であった.し

かし,疹痛の消提とともに上室性期外収縮の消失

した6例は,予後が良かった.

4)P波 左房負荷(P波の幅が0.12秒以上で,V、にお

ける陰性部分の大なるもの)所見が60例中9例

(15%)に,右房負荷(P波高が0・25mV以上で,

頂きが尖鋭なもの)は2例にみられた.すなわ

ち,左房負荷所見が多く認められた.

5)Ta部分 皿,皿,aVFでTa部分の上昇を認めた2例

は急性下県梗塞を,1,aVLでTa部分の上昇を

認めた2例は,それぞれ急性側壁梗塞と,前壁心

筋梗塞を伴っていた.また,1,aVLでTa部分

の下降を認めた1例は,急性下院梗塞を伴ってい

一2081一

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TaI⊃1e 2 ECG Findings on Admission in DeBakey Type.

Deeak8yrrype DeBakey!a 〃 1b 〃 皿a 〃 皿b Tota110ca5es 26cases 6case5 18case5 60cases

taohycardia>100!min 3 (30%} 9(34.6%) 3冒(肌0%) 7(38.9%) 22(36.7%)

bradycardla〈601min 1 110%) 5(19,2%) 0 1(5,6%) ア(目.7%)

LAO 2 (20%) 3(IL5%〉 0 1(5.6%) 6(10.O%}

RAO 0 0 0 0 0

」AE 0 4(15.4%) 1(16,7%) 4(22.2%〉 9(15.o%)

RAE 1 (10%) 0 1(16,7%〉 0 2(3.3%)

8AE 0 2〔7,7%} 0 1(5.6%) 3(5.0%)

LVH 4 (40% 15(56.6%) 1(16.7%〉 11(61.6%) 31(5L6%)

RVH 1 (10%) 0 0 0 1(1.6%)

8VH 0 重(3』%) 0 o 1〔1.6%)

CLBBB 0 0 0 0 0

CRBBB 0 2(ア.ア%) 0 0 2(3.3飴)

atypica日VCD 0 2(7.ア%) 0 2(11.1%) 4(6.7%)

low voltage 電 (10%) 1(3.8%) 0 0 2(3,3%)

QT・prolong ation 1 (10%} 3(11.5%) 0 o 4(6,7%)

AF・Af 0 3〔1L5%) o 1(5.6%) 4(6.7%)

PAC 3 〔30%) 6(23.1%) 2(33.3%) 5{27.8%) 16(26.7%)

PVC 0 0 0 2(ILI鶉) 2.(3,3%)

1。A-V block 0 2(7.ア%) o o 2(3.3%)

『 ” o 1(3.8%) 0 1(5,6%) 2(3,3%)

皿o 〃 1 σo%) 1(3.8%) 0 0 2(3.3妬)

Ta segme[t 2 (20%) 3(1L5%) o o 5(83%)

myocardial infarctbn 3 (30%) 3(1}.5%) 2(33%) 2(17.1%) 10(i6.ア%)

た.Ta部分の異常を示した5例では全例が急性

心筋梗塞を合併していた5).

6)qRS電気軸 前額面における電気軸の異常は60例中6例(10

%)に認められた.右軸偏位を示す症例はなく,

一30度以上の左軸偏位を示したものは6例あった

が,いずれも3~5年間の高血圧の既往を有して

いた.

7)qrc時間 0.43秒以上のQTc延長を4例に認めた.その

うち,発症6時間以内の1例では,入院2日目よ

り腎不全の為に腹膜潅流が施行された.その後

も胸背部痛が持続し,心房細動が生じ,ST低下

が,1,∬,aVL, aVF, V4~V6で著明で心内膜

下梗塞が生前に疑われ,入院4日目に急死した症

例であった(Table 3,5(6,7,8)の症例29),

8) 心室内伝導障害

本症では完全左脚ブロックを示した症例はな

く,完全右脚ブロックは2例に,非典型的心室内

伝導障害は4例に認められた.完全右脚ブロック

を呈した1例は,胸背部痛の消槌とともに脚ブロ

ックが発症5日目に消失し,DeBakey I型であ

った.

9) 心室肥大

DeBakey I type

a b

君、

皿type

a b

弼 10 26 6 18

N=60Fig.2 Drawing Shows Class且fication of Dissecting

Aneurysm.

ハハ

左室肥大所見は本症60例中31例(51.6%)に認

められ,高血圧を伴わないマルファン症候群2例

を含んでいた.:右室肥大は,急性肺梗塞を伴った

1例に,両室肥大は1例に認められた.

10)心筋梗塞

入院時に心筋梗塞所見が得られた症例は60例中

10例(16.7%)あり,6時間以内の症例が6例と

多く,全例急性心筋梗塞症であった.6時間以降

の4症例は,陣旧性心筋梗塞に解離性大動脈瘤が

合併したものであった.

B・発症時の紅型別分類の心電図所見

病型の分類は,一般的なDeBakey型を用い,

腎動脈上部まで解離の進行している型をa型,

下部までをb型と分類した18)(Fig・2). I a型

10例,Ib型26例,皿a型6例,皿b型18例と分

布していた.各々の病型別による初診時の心電図

所見を呈示し,検討してみた(Table 2).頻拍は

各型別で差異を示さなかったが,徐脈はIa型に

1例,Ib型に5例と1型に多く認められた.1

型の徐拍6例中には,一度房室ブロック1例,二

度房室ブロック1例,三度房室ブロック1例が含

まれており,洞性徐脈は3例にみられた.

期外収縮では心室性期外収縮が皿b型に2例認

められ,1型には認められなかった.上室性期外

収縮では1型が36例中9例(25%),皿型24例中

7例(29.3%)と同じ頻度で発現していたが,皿

型の症例では疹;三三槌とともに上室性期外収縮

一2082一

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365

瞑ぎ裂ぎ

1、

一ぞ調

4.16.80

、1…ii

426.80

・1・講鰍_械軒v1穰窯・罫霧.騨.

讐難華華霧・嚢警葦饗墾妻瞳鑓蓬黛畷漏鎗詮難1論必 ダ:二鷺』』噴轡∵…∴∵州∵π 一一…一:一…__.、一、.、

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循澱;’1継璃添学鋼濃3詠逡 4.26、80 F旭

Fig.3 Case No.53

が消失した4例があり,これらは生存していた.

1型の上室性収外収縮9例中4例が心房細動に移

行した.皿型の上室性期外収縮7例中1例が心房

細動と粗動に移行した.この症例(Table 7の症

例53)は,胸水貯溜,イレウスなどの合併症を生

Table 3

じて,発症26日目に死亡した(Fig・3).

心房細動は4例に認められた.その内訳は1型

3例,椚田1例で,1型の2例では入院後消失

し,一過性心房細動と考えられた.

房室ブロックは1型が36例中15例(13.9%),

皿型が24一中1例(4.2%)と1型に多く認めら

れた.

左室肥大はIb型が26例中15例(57.7%),皿b

型が18例中11例(61.1%)とb型に多く認めら

れた.

心筋梗塞はIa型で3例, Ib型で3例と1型

に多く認められ,全例が急性心筋梗塞であった.

皿a型2例,皿b型2例はいずれも陳旧性心筋梗

塞であった.

C・本症における合併症の心電図所見

解離甲声動脈瘤の死亡原因は,破裂によること

が多いとされており,当施設では,死亡原因の

71.4%であった.胸腔内,心嚢内への破裂が殆

んどであり,胸腔内12例,心嚢内破裂10例につい

て,各々の心電図所見を検討してみた.また,合

併症として頻度が高く,心電図上特徴的な所見を

呈する心筋梗塞13例についても検討してみた.

1) 心嚢内破裂

心嚢内破裂症例は本症60例中10例(16.7%)で

あった(Table 3).

初診時よりすでに収縮期血圧80mmHg以下で,

冷汗,意識障害等のショック症状を呈したもの

ECG Findings in Cases with Hemopericardium.

(10ca5e5)

C85emo.

N8mo Sex Age Surviv81 Timo BP ECG Findhgs ComplicotionP・rio8rdr●I

d価」5ion

1 M.E, F 74 78hour 176190 V聰RS pottom Iung cancer 170鵬虚

2 N.A. F 66 2day 80ノ~LVHィ.珂.置VF.ST,十rA・V bl㏄k

AMI(hforior) 220

3 S.丁. M 49 !8h 1田170t・chy・8・d油→匝璽

AR. hemothor8x 450

6 N,M. M 66 7h 1田180LVHrR一・2」A・V block

1・hem回egi8 200

13 T.U. M 48 !8h 田。川2LVHuI-V..ST,.t8chyc8rdi8

Adam5-St。ke5 Syn・ 500

14 Y.S. M 64 36h 60/~t8chycardi8. PAC

トcerebral inforction 250

17 T.M. F 80 4d 70ノ~LVHP』.8VF.ST↑+rA・V囹ock

hemotho「8x`M照nforio「)

100

29 Y.S, M 65 4d 401~」VH.」AD tr昌n t 8

P』.■VL.aVF.V4鯉V。.ST↓AM1昌ntero・5eptal 210

30 H.T. M 70 4h 80!~LVH t8chyc8・曲 1。wI・M・・V」・VF.V・~堕・ST‘+・。lt・区・

Iiver cirrhosi5 150

F 59re昌ttack一・2h

博4/62」VH.t8chycadl己

AMI〔}nferior} 55043 S,N, 6d n』,aVF.V,~V6.ST↑→r昌n5iont昌

一2083一

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366

1.21.79

コ.23

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羅羅,。.瞬鰯

Fig.4 Case No.43

が5例あった.この5難中3例が急性心筋梗塞

を合併していた.残り2例は,それぞれ脳梗塞,

10年来の肝硬変症を合併していた.また5例全例

において入院後も血圧が上昇せずにショック状態

にて死亡した.入院時血圧が高かった2例では,

入院後も降圧療法の効果なく,血圧が上昇し,突

然に死亡した(Tableの症例1,13).

洞性頻脈が10例4例(40%)に,一週性心房細

動が3例(30%)に認められた.心嚢内破裂10例

全例が剖検でDeBakey I型と確認された.生

存期間は発症4時間から6日となっており,平均

生存時間は2日と極めて短かく,合併難中で予後

が一番不良であった.

急性心膜炎に相当する心電図所見のST上昇を

示した症例は1例(Table 3,5,6,7,8の症例43)

のみであった.発症2日目より心膜摩擦音が聴取

され,急性心膜炎の合併が疑われていた.発症6

日目に一過性心房細動軽度背部痛を訴え,死亡

20分前に付添いの娘と口論し起座位となった直後

に意識消失を生じ,心電図で∬,皿,aVFのST

一2084一

Page 7: 急性解離性大動脈瘤症例の心電図 - CORE心電図は特徴的所見がないと考えられ,検討され ることが少なかった.本邦では堀江らが,心筋梗

367

T8ble 4 ECG Findings in Cases with Hemothorax.

(12cases)

C85emo.

N8閉。 Sox Age Surviva1 Ti団。 ECG Findhgs Co叩lic昌ti㎝bural

dffusioD●Bakeysype

3 S.T. M 49 18hour →匡亟唖ヨ舳chyc昌rdi昌

hem。peric8rdium十AR L 56伽昭 1

4 F.S. M 50 36h. t8chy・昂曲÷匝函→SR porfor8tio[of the bronGhu5R 200

v 1501

9 LS, F 71 24h。LVH@ 十PACt8chyo8rdi8 8bdomin818neurysm RlOOO ■墨

10 W.T. F 55 6d8y LVH十PAC 5昌rooidosi5 1r 200 皿8

17 ↑.M, F 80 4d.LVH逞垂盾uF.ST↑十rA-V br㏄k

hemoperic8rdium

`MI回erbr)

R lgo

k 200=

25 K.o. M 52 凹h. t8GhyG8rdia+PAC 8bdomind飢eury珊 L2400 夏

27 M.M. M 50 8d,窒盾Wtt邑ck一・6h

BVH 匝皿,墨VF、Q㊦+馳chycardi昌

AM(hf8rl。r) L 460 年高1

32 S.S, M 45 9h. normd L3500 1邑

38 S,N. F 81 2Id.

窒?怩粕ィck→3h

LVHチchyc8rdi墨+PAC

AMI〔inforior)

垂?窒?盾窒≠狽奄盾?of愉e bronchu5 」300 ■一・1

39 F.K, F 75survival

窒?≠狽狽≠モ bmdyGardia→tr8n tOf→SRr・hemiplegl昌

高凾??р?キ

L? :

娼 A.N. F 76 8d. §と・一眼PVC perfor飢ion of the bro【chus

??漉Wturia

L?厘

49 S.M. M 4ア 8d, しVH 80rtit155ynd・。囎 し2000 璽

上昇,三度房室ブロックとなり心停止を生じた

(Fig.4).

2)血胸

胸腔内破裂症例は本症60例中12例(20%)に認

められた(Table 4).

DeBakey I型36例中5例(19.4%),皿型24畑

中5例(20.8%)で,1型と皿型の問では同比率

で発症していた.しかし,皿山死亡例7例中5例

(71%)と,皿型死亡の主原因となっていた.ま

た右血胸1,左血胸9,両側血胸2例と,左血胸

士爵の多いことが目立つた.また,左血胸の出血

量2,000mlを超える症例が3例あった.

洞性頻拍が12例中7例(58,3%),上室性期多収

縮が4例(33.3%),一過性心房細動が5例(41.7

%)に認められた.生存時間は発症9時間から21

日となっており,生存している1例を除いた11例

の平均生存時間は5.4日であった.

生存例(Table 4,7の症例39)はDeBakey I b

型で,解離性大動脈瘤発生11日目に胸痛の再発作

とともにショック状態になり,心房細動,左血胸

を呈し,その後血胸の消裾とともに洞調律に戻っ

た症例であった(Fig.5).

3)心筋梗塞

本症の心筋梗塞合併症例は60例中13例(21.7

%)であった(Table 5).

6.18.77 ㎝8dm鰍罰

1

ロ漏犠皿 _¢_」

v・押・v~㌍.牌’

v・轡ん一’ き 1

・・瀞副㎞

v5_縞♂_l l l

りら コ コ ア

一一

6.29

.V嘩

●Vし

・い_野鼠

1

π ボ謎

メ助皿

,v鱒¶伽

.軌 「榊

.v・講謎

Fig.5 Case No.39

摺「轡r.「V匹

喉傷ρ州L

V~

嘱縞.へv,’、i‘歌:

4鴫薦V.

日華i 餌藤v・1.li1・

V6 り、《A《一’

歪 雷 眠帆

当施設における解離性大動脈瘤に伴う急性心筋

梗塞7例についてはすでに報告されておるが,今

回の検討にはその後の症例を加えて13例となっ

た5).入院時に心筋梗塞所見を認めた症例は10例

で,その中に陳軸性心筋梗塞4例を含んでいる.

解離性大動脈瘤に伴った急性心筋梗塞6例は,全

例が発症より6時間以内に収容されている.これ

らの心電図所見では急性心筋梗塞に相当するST

一2085一

Page 8: 急性解離性大動脈瘤症例の心電図 - CORE心電図は特徴的所見がないと考えられ,検討され ることが少なかった.本邦では堀江らが,心筋梗

368

Table 5 ECG Findings in Cases with Myocardial Infarction

(13cases)Casemo.

Name Sex Age Survivanrime ECG FIndings Compllc己tbnDeBakey@’「ype

N,A,

m.H.

s.M,

x.S,

`.〒.

l.K.

FFFMFF 66

U6

W0

U5

R7

W1

2day

P0hour

Sd

Sd

Rh

Qd

LVHMOA冒V block}皿,瓦,aVF,ST 7

kVH ,

d。A・V blockgaVL,V5~V5,S7,

kVHhDA・V block,五,皿.呂VF.ST↑

kVH,LAD translent 8f

h,1,aVLiaVF,V4陶Vo,ST↓

kaVL,ST↑

M。A・V block,皿、aVF,ST t

hferi。r my。c8rdial hf,

撃≠狽?窒≠? 〃

奄獅??窒撃盾? 〃

≠獅狽?窒潤|5epta【〃

≠獅狽?窒撃盾? 〃

奄獅??窒撃盾? 〃

=II:aI81a

訂8

S4

T0

T8

M.1,

r.G.

`,S,

s,M,

MMFM 60

U9

S6

U5

suMva1

Turvlva【

TurvivaI

唐浮窒魔奄魔≠h

CRB8BH。A・V bbck

uL~V3,R‘

kADu庫一V4, R↓

kVHホ,皿βVF,Q㊥

anterior ”

≠獅狽?窒b? 〃

≠獅狽?窒奄盾? 〃

奄獅??窒b? 〃

皿a

Ma

M皿

27

R8

S3

M,M.

r,N.

r.N.

MFF 50

W1

T9

reattack一・6h

@ 8d窒?≠狽狽≠モ笈黶E3h

@ 2オd窒?≠狽狽≠モ笈黶E2h

@ 6d

BVH rA・V block, ranslentaf

M,aVF,Q(D、tachyc昌rdla

kVH窒`-V bl。ck, E,皿.aVF,Q㊥

kVH r8n51ent ロf

M9A・V block,1L皿,aVF,ST↑

inferior 〃

奄獅??窒奄盾? 〃

奄獅??窒b? 〃

on admission

1

轟VR

「i国目 目i’1” ・’=3

奪琉li…1 …lllii…i騰lii弩

aVL しヨ ll」 _t } …i : _ 暑 _ 4 』し記…

V2

1

E

11.10.76

嚇i掛騰皿1響 … 1 ;

鼎/lll;縢蔽

aVF

鼎総門V6

講liii……ii糊1;1!

羅v、

鷹響

上鞘

{PM O=20}rI 1.9.76

F MK.

F且g.6 Cases No.36

上昇を示しており,全例にQ波の出現がまだ認め

られていなかった(Fig.6).

入院治療中に解離性大動脈瘤の再発作による急

性心筋梗塞発症は3例みられた.その発症様相

は,1例で大動脈造影後,1例で集中管理室より

一般病室へ移送当日,1例で激怒直後であり,い

ずれも再発作6時間以内に死亡した.

解離性大動脈瘤が原因となった9例の心筋梗塞

部位は,下面が6例,側壁1例,前壁2例であっ

た.また,陳旧性心筋梗塞に解離性大動脈瘤を

一2086一

Page 9: 急性解離性大動脈瘤症例の心電図 - CORE心電図は特徴的所見がないと考えられ,検討され ることが少なかった.本邦では堀江らが,心筋梗

369

(11cases)

C8semo.

Name Sex Age Survival Time ECG Fi【din95 C。mp医cationCoronary

`詫ery

Do8akoyVype

12 Y.S. M 67 survlval V■卍V畠↑ normal 皿

16 S.Y, M 50 5こ口vl》aI

π.皿.aVF ↓V4~V5

norm81 皿

37 Y』. M 56 5urvivaI L瓜aVL@ 喜V4即V6 Anemia 皿

41 N.H. F 34 5urvivaI 1,L6V」aVFu聰~Vo ↓

nom81 皿

55 K.1. M 61 5urvivaI V置何V3 ↑ normal 皿

57 S.Y. M 69 5urviva[ V1~V8 ↑Post.

№≠唐狽窒?モ狽順oy皿

59 M.N. M 61 5urvi》al ∬,皿.aVF↑ 斑

25 M.T. M 59 5urvival Vl~V3 ↑ AR, MR mrm81 1

29 Y.S, M 64 4day VI何V4↑ AMlR.L

盾モモ撃tsion1a

43 S、N, F 59 6day π.皿,aVF@ 5V■帽V. AMl

?盾高盾垂盾窒奄盾≠窒р奄浮

R.

盾カclusion1

60 T.K, M 40 5urvivaI 耳』,8VF↓ AR, MR mrmal 工

Table 6 ST changes in Acute Dissecting Aneur-

ysm with chest pain

合併した4例では,全例がDeBakey皿型で予後

良好であった.心電図はQS型でST上昇を認

めず,急性心筋梗塞とは考えにくく,その内訳は

前壁梗塞3例,下帯梗塞が1例であった.解離動

大動脈瘤による急性心筋梗塞9例の生存時間は発

症3時間から21日であり,平均生存時間は5.3日

となっていた。

D・落胆時の心電図変化

本疾患の疹痛は長時間持続するが,痛みの強さ

に変動があり,痙痛増加時と軽減または消失時の

心電図所見を対比してみた(Table 6).

入院後の疹痛増強時に心電図検査を再施行した

44例中23例(52.3%)に一過性の心電図変化を認

めた.

調律の異常が12例に,STの異常が11例に認め

られた.

調律の異常の中では上室性が多く,上室性期外

収縮4例,心房細動が7例に認められた.その7

例中に胸背部疹痛の軽減とともに心房細性が洞調

律:に戻る症例が5例あった.1分間に150拍の洞

頻脈が1例に,心室性期外収縮が1例あった.調

律異常12例の内訳は,1型が36例中10例(27.8%),

皿型が24例中2例(8.3%)と1型に多くみられ

た.

9.11.74 AM 2=15

1 11

皿癒 み トドヨ ド コ

皿i謹書

蒜難髄蘂圭

蕗婁 マ サ

v1蕪馨

嘩羅脆羅。蕪r薙刀

T I⊥ レ

V5「一[一

団皿

V6 一 ア モ

AM 245

難’

欝欝韮墨

ぴ ヒ

犠契鍵’辱斗一≒↓」一一・

蹴コ 課十・ッリ トゆ

識議i離礁

Fig.7Case N・・

¶O,3。74 AM1090 r I ■ 1

1 1幽1’噌 コ じ

輯 リ コ

午葦、.黒 端

覇 難 一 一L 騨 1

_断 t 馬

I i I 1 コ じ ロ

翻 製 lTT’

葺峯一1、量

壁前論謡講騰’馨

一一1一 、÷遷

工も[_-

悪』“1一

覇 F戸11 1

M 民諄

55

STの異常11例中に, V、~V3において上昇を

示す5例があり,1例は血腫による冠動脈の圧迫

によると考えられた.ST異常11例中皿型が24例

中5例(29.2%),1型は36例中4例(11.1%)

と皿型に多くみられた.

疹三時にST異常を示した1例(Table 6の症

例55)は,突然の激しい前胸部痛が出現し,夜半

に救急外来を受診 V1~V3においてST上昇が

認められ,切迫心筋梗塞の疑いにより集中管理室

にて治療を行った症例で,入院2週間目に冠動脈

造影と大動脈造影を同時に施行し,冠状動脈には

50%以上の有意な狭窄なく,下行大動脈に解離性

大動脈瘤を認めた.(Fig・7),

E・切迫破裂徴候の心電図所見

本症の切迫破裂徴候は,胸部レントゲン像よ

り,縦隔陰影の拡大,胸腔内浸出液貯溜等がとり

あげられているが,心電図上ではScottの提唱

した左脚後枝プロヅクのみである7)14).しかし,

一2087一

Page 10: 急性解離性大動脈瘤症例の心電図 - CORE心電図は特徴的所見がないと考えられ,検討され ることが少なかった.本邦では堀江らが,心筋梗

370

Table 7 Clinical Findings in Cases with Atrial Fibrillatim.

(15cases)

Casemo,

Name Sex Age SurvivalTime ECG Fi[ding5 Complication DeBakey@type

3 S,T. M 49 τ8hour SR, tachycardia一・t旧n tafhemothorax??高盾垂?窒奄モ≠窒р奄浮香C AR

1

4 F.S, M 50 36h. SR. tachycardia→tran taf一レSRhemothorax垂?窒?盾窒≠狽奄盾?of the bronchu5

1

13 T.U. M 48 18h, LVH・一一潔hyca曲 hemopericardiじm

`dam5-Stokessyn.皿→工

27 M.M, M 50 7day rA・V blockBVH,もran t af→

@ 皿,aVF Q㊥

hemothorax`MI(inferi。「)

Ia

28 S.S. F 56 5urvivalacute pulm。hary embdism Ia

29 Y.S, M 64 4d.LVH, LAD. SR tran tafI,五,aVL,aVF, V4~V6ST↓一

AMI(anter。5eptal) 1

33 M,S. M 47 survlval SR.LVH→ 旧n t af一・SR unkn。wnlhlgh fever 1

39 F.K, F 75 5urvival SRr bradycardia-9 tran t8f一, SR hem。th。rax,myxedema 皿

42 ’K.N, M 64 survivaI LVH, LAD, atyplcal IVCDpafgtac巨ycardla 工

43 S.N. F 59 6d. 皿OA・v blockSR.LVH→tran t af→ 江,皿,aVF ST↑ hemopericardium

`MI(inferior)1

45 Y.丁, F 63 5urvlval SR,LVH.bradycardia-tran taf→SR AR,pleural effuslon 1

4ア H.G. M 68 6d. SR、tachycardla→tran taf AR、rupture 1

48 A,N. F 76 7d。 PVC.tachycardiaSR,LVH→arrest→ tran taf

perforation of the bronohu5 皿

53 A.B. F 70 26d, SR,LVH→ ranslent af a →SR 皿

60 T.K, M 40 survivaI LVH`ftachycardia Marfan syn.AR,MR. 1

本研究で1例も出現しておらず,臨床上に役立て

ることは困難である.本研究では,他に心電図上

の切迫破裂徴候がみられるか否かを,急性期の60

症例について検討してみた.

1)心房細動

解離性大動脈瘤の心房細動については,これま

で報告はみられていない.しかし,入院経過中に

発現した症例を含めると本症60例中15例(25.0

%)と多数に認められた(Table 7),

固定した心房細動は2例と少なく,13例が一過

性に出現していた.DeBakey I型が36例中10例

(27.8%),皿型が24例中3例(12.5%)と圧倒

的に1型に多く一過性心房細動が出現していた.

皿型の1例は,胸腔・気管支内への破裂を示し,

残りの1例では肋膜貯溜液が存在し,胸水の減少

とともに洞調律に戻り,その後21日目に腎不全で

死亡した.

入院時より退院時まで継続して心房細動が

存在したDeBakey三型の1例では3年前より,

DeBahey I型の1例はマルファン症候群+連合

弁膜症を伴っており,解離性大動脈瘤発症の1年

前より存在していた.

心房細動の持続時間は5分から5時間と短か

く,洞調律に戻った後も上室性期外収縮が散発し

ていることが多く認められた.一過性心房細動の

発現時期は,死亡前45分より6日と種々であった

が,いずれも剖検により解離性大動脈瘤による心

房障害像が認められた.DeBakey I型で一過性

心房細動を呈した6症例の臨床経過表をまとめて

呈示した(Fig.8).

2) DeBakey I型の剖検所見と調律

DeBakey I型に調律の異常が多いことは既に

述べたが,その原因として解離性大動脈瘤の血腫

による心房への影響を考え,調律異常を示さなか

った症例をも含めて,心電図所見と剖検の心房の

状態を比較し,検討をしてみた35).心房障害所

見は,既に堀江らが解離i生大動脈瘤に多いことを

発表している5)11).本研究では,それに従い,肉

眼的所見で右心房と左心房の障害に分けて記載

した(Table 8).

DeBakey I型で剖検所見が得られた21症例は,

心房障害12例,心房拡大3例,正常心房4例,心

房所見不明瞭な3例であった.心房障害部位は右

心房5例,左心房3例,両心房4例と右心房が多

かった(Fig・9).心房障害が存在した12症例で

一2088一

Page 11: 急性解離性大動脈瘤症例の心電図 - CORE心電図は特徴的所見がないと考えられ,検討され ることが少なかった.本邦では堀江らが,心筋梗

Fig.

(6cases)

CaseNo. Name Sex Age

SurvivalTime ClinicalCourse

Atria]

lnjury

admissien' phintt

80s:R30 pAcA.f.Af'23:3ol:lsST

FS

TU

MM

ys

SN

MMMMMF 49

5,O,48506459

18hour

36h.

18h.

7day

4d.

6d.

(---

,,i l'k?O'4g,ios:is・tttAngiepaint,ti7<siAloo2os.Roei8fig:ooisxsO,.i.iA31eObi..k;AMtZ2/i5:iO

i6(6V-:oe2ofv2;is"'M3t,:・2o's:2on:eot

SR.pAc-AfSRIftA-Vbleck

LARA

LARA

LARA

?RARA

'8 Clinical Course in Dissecting Aneurysm with Transient Atrial Fibrillation in the Acute

' ' ' ' ' ' ' ' ' ' ' ' ' ttt t/t Tahle 8 Correlative Study of ECG Findings and Atrial Injury in the DeBakey Type I

CaseNo Name SexAge

Survival

TimeECGfindings Atrial' injary

SR

SR

SR,tachycardia.transientaf

SR,tachycardia-transientaf

sR,IIeALvblock

SR,IIOA-Vbloek,TtII,III,aVF

SR,tachycardia,PAC

transientaf->SR,tachycordia

M.E.

N.A.

S.T.

F.S.

N.M.

N.H.

I.S.

T.U.

y.s.

T.M.

M.T.

M.MY.S.

H.T.

A.T.

s.s.

M.K.

S.N.

S.N.

M.S.

T.K.

F74

F66

M49

M50M66

F66

F71

M48

F78

F80

M59

M50

M64

M70

F37

M45F81

F81

F59

M34

M40

18hour

2day

18h.

36h.

7h.

10h.

24h.

18h.

36h.

4d.

Iyear

7d.

4d.

4h.・

3h.

8h.

2d.

21d.

6d.

14d.

Iyear

SR,tachycardia,PAC

SR,IeA-Vblock,TaTII,III,aVF

SR,-S-Ablock

(-)

(-)

RA(1+)LA(1+)

RA(1+)LAO+>

(-)

LA(1+)

LAenlargernent

RA(2+)LA(1+)

RA(!+)LA(1+)

RA(1+)

notclear

notclear

RA(1+)

LAenlargement

LA(1+)

notciear

RA(1+)

LA(3+)

RA(2+)

(->

RA(1+)LA' enlargement

transientaf.SR,I"A-Vbloek

SR.transientaf

SR,PAC

SR,TaTaVL

SR

III"A-Vblock,TaTIII,aVF

SR,tachycardia,PAC

SR-transientaf-IIIeA-Vblock

SR

Af

Stage

-2089-

371

Page 12: 急性解離性大動脈瘤症例の心電図 - CORE心電図は特徴的所見がないと考えられ,検討され ることが少なかった.本邦では堀江らが,心筋梗

372

Fig。9With the right atrium opened along the tricuspid valve.

A=atrial injury, SVC=superior vena cava, IVC=inferior vena cava, CS=coronary

smus, Ao=aorta, H=hematoma, LV=1eft ventricle

は,一過性心房細動5例,心房細動1例,上室性

期外収縮2例,Ta部分異常5例であった. Ta

部分の異常を認めた症例は,5例とも急性心筋梗

塞を合併していた.心筋梗塞の合併のない7例に

は,Ta部分の異常を認めなかった.

心房拡大3例では,1例は腹部大動脈瘤を,1

例は心嚢内破裂を合併しており,両者とも10年以

上の高血圧の既往を有し,上室性期外収縮の発現

をみた.残りの1例はマルファン症候群で心房細

動を示していた.

正常心房4例はいずれも洞調律であったが,二

度房室ブロックを示した1例は心嚢内破裂を合併

していた.

考 察

解離性大動脈瘤の心電図所見については,Bears

らが1948年に23例を報告し,ついで,Levins・nら

が58例の剖検例を発表しているが,いずれも左

室肥大,心筋梗塞以外に特徴的な所見に乏しか

ったとしている6)12).Hirstは本症の505例中173

例の心電図の検討を行なっているが,同様の結果

を報告しているのみである13).1970年代に入り,

Scottは解離の切迫破裂徴候として,右冠動脈の

血腫の圧迫による左脚後枝ヘミブロック(LPH)

の1例報告を行なっている14).

また,Yacobらは解離が房室結節付近まで進

行し,三度房室ブロックを示した症例を発表して

いる15).しかし,数多くの解離至大動脈瘤の報告

があいつぐなかで,心電図の検討は極端に少な

い.これは,外科施設からの報告が多いことも一

因となっているが,Wheatら内科施設の報告も

従来通りで心電図の詳細は述べられていない16).

解離性大動脈瘤は発症2週間の死亡率が著しく

高く,診断と治療の確立が急務と考えられる.本

研究では,解離性大動脈瘤発症2週間以内の急性

期心電図の検討と入院後のモニター心電図の経時

変化を追跡してみた.急性期,特に6時間以内の

死亡率は高く,心電図所見も多彩であり,重症例

が多く含まれていた.これは,剖検輯報中の東京

監察医務院の解離性大動脈瘤の頻度が1.14%と他

の病院施設の0.37%よりはるかに高く,病院を経

ない急死症例が多いことと一致する17).当施設で

は,急性解離性大動脈瘤の疑いのある症例は,集

中管理室に収容して診断と治療を行なっているた

め,今回の検討の対象とした60症例には,頻回に

一2090一

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心電図撮影が施行されていた.しかし,収容数時

間以内の死亡で,12誘導心電図1枚のみより判定

せざるをえない症例も6例含まれていた.

発症時には徐脈が多いとされているが,むしろ

頻脈が22例(36。7%)と多く認められた21).徐脈

は発症の極く早期に出現し,房室ブ召ック例を含

み,洞性徐脈は4例のみであった.しかも同一症

例で経過とともに頻脈に移行していくことがあ

った.徐脈がDeBakey I型に多く認められたの

は,房室結節まで解離が進行し,房室ブニックを

起こした症例が含まれていると考えられる.初診

時房室ブロック症例の6例中3例が,剖検にて心

室中隔部への血腫の侵入を認めた.房室伝導部へ

の血腫による伝導異常は古くから提唱されてお

り,最近ではThieneらが42例のDeBakey I型

中6例の房室伝導障害を示した症例を報告して

いる15)20)22).本研究の症例は,一度房室ブロック

症例でも房室伝導部への血腫の侵入を認めた例

や,死亡直前に洞調節から三度房室プロヅクに移

行した症例もあり,房室プロヅクの心電図所見よ

り,解離性大動脈瘤の房室伝導部への侵入を予測

することは困難であった.

心室内伝導障害は6例あり,いわゆる1例は,

左脚前枝ヘミブロック(発症2年前より存在),2

例は完全右脚プロヅクで,残りは非典型的な心室

内伝導障害で左室肥大を伴っていた.

完全右脚ブロックの1例は,解離による伝導組

織のanOxia,圧迫などによると推定され,それ

らは陣痛寛解とともに消失した.Scottは,解離

性大動脈瘤の切迫破裂徴候の心電図所見として,

血腫による右冠動脈の圧迫の左脚後枝ブロックの

1症例を報告しているが今回の症例にはそれは1

例も含まれていなかった14).

左室肥大は本症60例中31例(5L6%)に認めら

れ,腎動脈起始部まで解離の進行しているb型

が44年中27例(61.4%)と多くなっていた.

Hirstは173例中43例(25%),Levinsonは43%,

Slattetは43%,急性例を報告したVechtらは50

例中12例(24%)に心電図上の左室肥大所見を認

めている6)’3)23>24).このように諸家の報告で20~「

40%台と差異があるのは,左室肥大の判定基準の

相違によることも考えられる.なお,Goreらは

解離性大動脈瘤の剖検64例中47例に左室肥大がみ

られたと報告している25).

QT延長を示した4例中3例では,血清クレア

チニン,尿素窒素の上昇,高カリウム血症を認め

たが,残り1例は腎不全症状を呈してはいなかっ

た.■evinsonらはQT延長を伴った腎不全2例

を報告しているが,解離が腎動脈基部まで進行

していても,腎動脈の血流は偽腔からも供給され

ることがあり,急性期の心電図上のQT延長を

呈することは少ないと思われる6).

不整脈は心室性2例に対し,上室性期外収縮が

60例中16例(26.7%)と多数認められた.不整脈

の報告例は少なく,Hirstらは5.2%, Vechtは

10%,Spittseはほとんど出現しないと述べてい

る13)24)26).しかし,本研究では上室性期外収縮の

頻度は高く,解離性大動脈瘤に特異的な所見と考

えられる.発症直後の12誘導心電図よりも,CCU

入室直後のモニター心電図でとらえられた上室性

期外収縮が多く,諸外国との報告の差が,ここに

あるのかもしれない.初診時のみならず,入院後

も上室性期外収縮の持続,又は心房細動へ移行し

た10症例では全例が,心嚢内,胸腔内破裂等で死

亡していた.入院時および経過中の上室性期外収

縮の持続には充分な注意が必要である.

解離性大動脈瘤の死亡原因のほとんどが,心嚢

内,胸腔内への破裂である.Goreは85例中52例

(61%)が心嚢内へ,32例(38%)が胸腔内に破

裂し∫Humeらは68例中前者が29例(43%),後

者17例(25%)と報告している25)27).当院の死亡

2$例中,心嚢内工0例(36%),胸腔内11例(39.2

%)への破裂による出血を認めた.

心嚢内破裂症例はDeBakey I型剖検21例中10

例(48%)と1型死亡原因の主となっていた.

Ellis28)らは生存中に心膜炎所見を呈する例は少

ないとし,Bearらは心膜摩擦音を聴取した1症例

も心房細動がみられたのみで心電図上の心膜炎所

見はなかったとしている12)28).しかし,Hirstは

一2091一

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ユ1例に心膜炎の心電図所見ありと報告している

が,その詳細は述べていない13).LevinsOnらは,

解離性大動脈瘤の急性心膜炎合併例の心電図所

見として,RS-T、~RS-T3の上昇をあげている6).

本研究では典型的急性心膜炎の心電図所見を呈し

たのは1例のみであった.解離性大動脈瘤の心嚢

内への破綻は,徐々に進行することが少なく,ま

た,心電図撮影の時期を逸することが多い為にこ

のような結果となったと考える.今後,更に注意

深く症例を追ってみる必要がある.また,心嚢内

破裂例は生存時間が短かく,合併症中で一番予後

不良なので,注意が必要である.

胸腔内破裂症例は60例中12例(43%)で,1型

と中型とで同頻度で発現しているが,心嚢内破裂

例と異なり,皿型剖検7例中5例(71%)と盟型

の死亡の主原因となっていた.また,左側血胸例

数と血液量の多いことが目立っており,これは破

裂部位が左側であると,free Spaceが多い為に起

こる現象と考えられた.また上室性期外収縮が多

く出現しており,anoxiaが関与していると考え

られる.

心筋梗塞例は60例中13例(21.7%)で,DeBa-

key I型に合併した症例は全例がST上昇を示

す急性心筋梗塞で,皿型はQS型でST上昇を伴わない陳旧性心筋梗塞であった.

急性心筋梗塞例の中では右冠状動脈閉塞による

下壁梗塞が6例と多かったが,側壁や前壁梗塞例

も少数ではあるが含まれていた,諸家の報告で

は,心筋梗塞部位まで記載されていないが,解離

の発生しやすい部位や{血腫の位置から推定して,

右冠状動脈領域に影響がおきやすいと考えられ

る.

解離性大動脈瘤の疹二時の心電図には一過性の

変化が多くみられた.調律の異常は,上室性期

外収縮4例,心房細動6例とDe8akey I型に多

くみられた.これは,解離の進展により血腫が増

大し,心房を直接圧迫したり,心内膜下へ浸潤

したりすることによる不整脈の発現と推定され

る22)29).

ST異常を示した例は, DeBakey皿型のもの

が7例と多かったが,胸部誘導のV、~V3にかけ

て,0・1~0・2mvの上昇を認めた.この中で,

冠動脈狭窄由来のST変化が考えられた症例は

1例のみで,他は正常範囲内の上昇と考えられ

た9)30).ST上昇の原因には,種々の要因が考え

られ,疹痛時の自律神経,または心臓の位置の変

換などの関与も影響していると思われる.しか

し,その原因は正確には,いまのところ不明であ

るといえる。

心房細動の出現が多いことは注目に値するが,

それについての諸家の報告では殆んど認められて

いない。Liottaらが24例中4例を報告している

のが最も多い31).本研究では,入院召すでに心房

細動のあった4例と,入院経過中に心房細動の出

現した症例とを加えると,60例中の15例(25%)

にも及ぶ.解離の進行を疑わせる臨床症状ととも

に心房細動の出現は,剖検例での検討結果と照合

してみると,解離の進展,血腫の右房への浸潤と

明らかに関連をみた35).解離の右房への破裂の報

告は,Dul亀ke, Temple, Millwardらによってそれ

ぞれ1例報告がなされているが,1例は心房細動,2例は洞調律となっている29>32)33).その後,

Thieneらが42例中23例に右心房壁内に血腫が侵

入していることを報告しているが,心電図の記載

は全例にはない22).当施設においても,堀江が心

筋梗塞に心房障害を合併した症例を検討してお

り,心房障害時のTa部分の異常が重要な所見

である事を提唱している5)・11).しかし,解離特大動

脈瘤における心房内血腫浸潤例では,Ta部分の

異常は認められずに心房細動を呈していた.一過

性心房細動より洞調律に戻っている症例でもTa

部分の変化は認められなかった.心房障害時に心

房細動が認められることは,Cushingらが報告し

ている34).DeBakey I型の解離性大動脈瘤にお

いては,上室性期外収縮,特に一過性心房細動に

移行する例には,心房内への血腫の浸潤が考えら

れ,解離の進展や破裂の危険が予測される.

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結 語

発症2週間以内に入院した急性解離工大動脈瘤

60症例について急性期の心電図を入院時から経時

変化を追って検討してみた.

1) 左室肥大(51.6%),心筋梗塞(16.7%),

房室伝導障害(10%),洞性頻脈(33.3%),上室

性期外収縮(26.7%),心房細動(8.3%)を入院

時に認めた.徐脈は,従来の報告より少なかっ

た.

2) 心嚢内破裂時に,急性心膜炎を示唆する心

電図所見を呈するものは10例中1例の.みであっ

た.

3) 急性心筋梗塞を合併した症例では,入院時

に右冠状動脈の血腫による圧迫とその閉塞部位に

一致して,ST上昇を示すことが多かった.陳旧

性心筋梗塞合併例4例は全例生存していた.

4) 疹痛時に一過性の心電図変化を示す例は,

52.3%(調律の異常が27.3%,STの異常が25%)

に認められた.調律異常は,大動脈の解離の進展

による心房への影響と考えられたが,ST上昇の

機序は不明であった.

5) 入院時のみならず,経過中に上室性期外収

縮が持続した症例は,全例死亡していたことよ

り,上室性期外収縮,特に一過性心房細動に移行

する症例は予後不良の徴候として,注意が必要で

ある.

6) 本症に伴って生ずる一過性心房細動は,

DeBakey I型の症例における切迫破裂の徴候で

あることを提唱したい.なお,従来切迫破裂徴候

とされていた左脚後枝プロヅク所見は,今回の検

討で認められなかった.

本研究にあたり終始ご指導をたまわった広沢弘七郎

教授,渋谷実教授,関口守衛教授,小松行雄助教授,堀

江俊伸講師に感謝致します.また,貴重な剖検例の検索

を許された第一病理梶田昭教授,第二病理今井三喜教授

に感謝致します.(本研究の一部は,第18,21,22回脈

管学会総回において発表した.)

文 献

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