送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 ·...

16
送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ 2019 10/29 (Tue) PART 1 SCE 社におけるDX の方向性と課題について 送配電部門での事例 PART 2-2 電力ネットワークのレジリエンス強化に向けて データ分析を活用し総合サービス提供 PART 2-1 日米の取り組み事例から課題を抽出 マネジメントの関与、組織と人材育成、企業カルチャーの変革 3 8 13 主催/        一般社団法人 日本電気協会新聞部 協賛/       SAS Institute Japan 株式会社

Upload: others

Post on 28-May-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

送配電事業におけるDXのあり方とは課題と可能性を探る

2019 日米電力ワークショップ

2019 10/29(Tue)

PART 1SCE社におけるDXの方向性と課題について送配電部門での事例

PART 2-2電力ネットワークのレジリエンス強化に向けてデータ分析を活用し総合サービス提供

PART 2-1日米の取り組み事例から課題を抽出マネジメントの関与、組織と人材育成、企業カルチャーの変革

3

8

13

主催/        一般社団法人 日本電気協会新聞部

協賛/       SAS Institute Japan株式会社

Page 2: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

 産業におけるさまざまな場所に大量のデータが集まっていることが自覚される時代となり、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の推進が叫ばれている。電気事業、特に送配電事業部門においては、数多くの設備の保守管理や電力の品質維持などをより効率的に進めるためにDXが有効とされ、世界の電力会社が取り組みを加速している。しかし、DXは、単なる設備のデジタル化(Digitalization)ではない。デジタル技術を活用し、設備だけでなく事業内容や人材、組織のあり方など、その企業のカルチャーを丸ごと見直していく取り組みであり、そこにはさまざまな課題が横たわる。DXをどのように進め、既存システムと整合性を取り、適切に人財を配置し、事業革新にスムーズにつなげていくか。大規模な投資に見合う効果を、どのようなステップで発現していくか、経営層のサポートは――。 電気新聞とSAS Institute Japan(SASジャパン)は、「2019 日米電力ワークショップ「送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る」を10月29日、東京都内で開催した。昨年に続き、米国のエネルギー事業者、サザン・カリフォルニア・エジソン社(SCE)からゲストを招き、日本の送配電事業者の幹部ら約30人と議論を重ね、課題を抽出。解決策を探った。 コーディネーターを務めた関西電力の松浦康雄理事・送配電カンパニー配電部・情報技術部担任はワークショップの冒頭、DXを推進するためには「経営トップからのコミットメントと、現場からの課題解決に関する発議をどう上手くかみ合わせて経営改革につなげていくかが求められる」と指摘。「それぞれの企業に内在する課題を意識しながら、議論を深めてもらいたい」と述べた。 当日のプレゼンテーションや議論の模様を紹介する。

I N T R O D U C T I O N

2

Page 3: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

3

PART 1

・ 演 題 ・

マシュー・ピーコア氏

 現在、電気事業では蓄電設備や分散型発電技術、またそれらを制御、管理する技術や電力設備全体の保守管理に資する技術の開発がめざましく進展している。SCEの事業基盤はカリフォルニアで、州政府や規制当局からの厳しい要請に応え、再生可能エネルギーやEVの導入拡大にも積極的に取り組む必要があり、これらをデジタル技術によって既存の設備と調和させる、また災害対応力の向上なども重要となる。加えて、電気事業以外の製品やサービスで、デジタル化の恩恵を受けている顧客の期待にも応えていかなければならない。 こうした背景の下、私たちは2年前に「DXジャーニー」に本格的に取り組み始めた。すでにさまざまな部門でデジタル技術活用の芽が動き出していたが、会社としてより戦略的に行うことを目指し全体の戦略とロードマップを策定、導入効果のインパクトが大きいものから着手して勢いをつけることとした。重点方針として「オペレーション部門の進化」「顧客や従業員も含めたステークホルダー・エクスペリエンスの向上」「他業界からのベス

トケースの導入」の3つを柱とした。DX推進本格化にあたっては、ピザーロCEOからの全面的な支持も取り付けていたことも大きかったと思う。 2年目にはIT部門と事業部門横断のハイブリッドチー

パート1では、米国からのゲスト、SCEでデジタルデザインチームを率いるマシュー・ピーコア氏からSCEにおけるDXの取り組み内容やDX推進のカギとなる手法、体制の整備などについてプレゼンテーションが行われた。プレゼンテーションの内容に対する質疑のほか、参加する各社の抱える課題なども提起され、「レガシー部門(送配電や営業などの既存の部門)に、どのようにして主体的にDXに関わってもらうか」という点について、組織のあり方や既存システムとの調和の方法など、活発な意見交換が行われた。

SCE社におけるDXの方向性と課題についてDXに挑む背景と効果的な推進への手法・課題送配電部門での事例

「SCE's Digital Transformation Journey」米国側プレゼンテーションMr. Matthew Peacore(マシュー・ピーコア)氏Southern California Edison, Principal Manager, Digital Design and SolutionsSCEデジタルデザイン・アンド・ソリューション首席マネジャー

Page 4: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

4

PART 1

ムを立ち上げた。「現場プロセスの見直し」と「継続的なカイゼン」を手がけてきた事業部門の社員と、IT部門でDXを推進する「デジタルアクセラレーター」の社員を1つのチームにし、同じ部屋で働いてもらった。DXの推進体制で重要なのは「人と組織」「技術の組み合わせ」「プロセス」の3つをバランス良く組み合わせることだ。 一方、システム開発の手法としては「デザインシンキング(DT)」と「アジャイル」を組み合わせた。これはDXを進める上でカギとなる。例えば送配電部門で導入する場合、DTによって、そのシステムを使って働く人たちの考え方への共感を深めつつ概念設計を行い、実際の開発体制はアジャイル手法で行う。DTもアジャイル手法も

「fail fast(早く失敗する)」が重要だ。アジャイル手法はプロセスを細かく分け、失敗を繰り返しながら、事業部門など関係者との対話を繰り返して先に進むやり方で、IT部門が完成品を事業部門に引き渡す従来のウォーターフォール手法とは異なる。このため、技術面で最も苦労したのはレガシーシステム(送配電や顧客管理部門など、部門で構築した既存の業務システム)とのシステム連携で、従来の開発手法とアジャイル手法の調和だったともいえる。

 チーム形成や手法だけでなく、個々の人の面も重要だ。データを活用した経営革新を行うのだから、データ

Dedicated, centralized, cross functional teams to accelerate Operational Excellence through process & digitally enabled transformations

1

Digital AcceleratorBusiness Transformation

Continuous Improvement

Drive end-to-end transformation by using lean and design thinking to reimaging SCE future state value streams.

Agile delivery of a digital and data platform to deploy mobile, analytics, automation/ robotics solutions.

Develop OU capabilities and centers of practices through X-Change and belt certification programs.

1

※アジャイル手法  ソフトウエアなどを柔軟に開発する手法のこと。従来は詳細設計を行ってからプログラム開発に取り組み、顧客に渡して試験し

ていた。この方法は開発途中で仕様の変更や修正がやりにくかった。アジャイル手法は仕様や設計の変更もありうることを念頭に置きながら開発していき、段階ごとの検証結果を反映させるといったやり方。

※デザインシンキング  ユーザー側の立場になって課題を見つけ、調査や分析を繰り返して解決策や新たな価値を生み出すといった概念。開発者の立場

で製品をつくると優良品であってもユーザーが使いにくいこともある。デザインシンキングの手法を取り入れることで、それらの弊害を取り除ける。

「現場プロセスの見直し」(左)チームと「継続的カイゼン」(中)チーム、加えてデジタルアクセラレーター(右)の3部門の出身者でクロスファンクショナルチームを構成している

Page 5: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

5

PART 1

サイエンティストも数多く必要になる。新たにデータサイエンティストを採用する方針としたが、南カリフォルニアでは優秀なIT人材の獲得競争が激しい。このため、最初はシニア層をメンターとして雇用し、内部で人材を育成しようとしたがうまくいかなかった。このため、方針を変え、サラリーではなく、「電力会社には貴重なデータが沢山ある」「データ分析を活用して、広く社会の役に立てる」など、電気事業を『データ活用フロンティア』として魅力を感じる人材に焦点を当て、採用活動をしている。採用・育成したデータサイエンティストは、IT部門だけでなく、送配電や営業部門などにも個別に配置している。また分析基盤ではSASも重要な役割を担っており、「SAS Grid」と「SAS Visual Analytics」を採用している。

 まとめると、DX推進のポイントとなるのは以下の通り。「明確な企業文化の変革」「大きなビジョン、その中での

フォーカスと優先順位づけ」「ITプラットフォームとデータ、核となる技術が用意できているか」「組織的な体制の整備」「高度デジタル人材の獲得」など。従来のシステムや仕事のやり方との統合の部分で軋轢が生じるが、これを乗り越えるチャレンジも非常に重要になる。

 最後に送配電部門でのDX事例についても紹介したい。概括すると、さまざまな設備にセンサーや稼働データを採るシステムを構築し、このデータをリスクモデルで分析する。当該設備の故障リスクと故障した場合の影響度をスコアで示し、設備データベースを構築する。これらの情報に基づき、保守点検や交換に関する計画や組織体制を効率的に組み立てていく。センサーやモバイルアプリ、ドローン点検などの導入時期、統合型システムの全体像構築などについても、今後10年間の計画を策定している。

3

Within T&D, we have set an aspirational view of how we want to evolve digitally over the next decade

40% Improvement of risk spend efficiency:• Improved work prioritization• Efficiency in work scheduling

and execution

50% of field tasks are digitally assisted (e.g., drones, robots, augmented reality)

100% Of critical distribution assets are continuously monitored

Visibility into the performance of assets across the fleet (virtual digital twin)

Realtime

100% inspections adhere to quality standards:• Standard procedures• Accurate data

100% of notifications are closed out on time

of inspections are risk informed>50%

Near term: 2019-2020 Medium term: 2020-2023 Long term: 2023-2030+

Aspiration

High winds in sector 3, switching to micro grid

Remote-controlled robotics for dangerous repairs improves safety

Virtual reality

21SCE inspection portal

43

Automated Schedule

1

Geo tagging2

Inspection checklist and automated

close

3

Expert access4

Risk of asset failure

Pattern detection shows risk in sector 4 –prioritize workorders 714 and 812

What transfor-mation looks like

SCEの今後10年間における送配電部門のデジタル化イメージ。意欲的なビジョンを設定している

Page 6: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

6

PART 1

 ピーコア氏のプレゼンテーションの後、ラウンドテーブルでの議論に移った。まずは日本側の出席者から様々な質問が寄せられた。SCEが設置したハイブリッド組織については、「自社でも取り組んでいるが、やはり出身部門で固まりやすく、コミュニケーションがなかなか上手くいかない」との問いかけがあった。ピーコア氏は「それでもレガシー部門(送配電や営業など従来の現業を持つ部門)を巻き込まなければ、DXは進まない。参加者に自ら、『ハイブリッド組織に参加している』との意識を持たせることが重要」と指摘。同様に、レガシーシステムとの統合の難しさについての問いかけにも「レガシーの核心部分にどう入っていくかが課題。優先順位づけして統合計画を策定する必要がある」と述べた。

 また、参加者から「DXはやはり、企業文化、カルチャーの問題に突き当たる」との問いかけもあり、ピーコ

ア氏は「その改革が何を目的とし、どのような成果をゴールとしているかの共有、意識づけが重要になる。加えて各部門、レガシーの領域をDXチームに加えること。そうしないと、彼らはDXによって要求ばかりされていると感じるようになる」と話し、レガシー部門が当事者意識を持つことの重要性を強調。「SCEでも、企業カルチャーを変えるにはまだ、この先何年もかかるとみている」と述べ、電気事業におけるDXにおける課題の多さは、日米同様であることも改めて浮き彫りとなった。 このほか、デザインシンキングを効果的に取り入れるための方策を聞かれると、「きちんとしたトレーニングを社員に受けさせ、その人材が各部門や現場でデザインシンキングを広めるハブとなってもらったことが大きい」と経験を披露した。

 その後、「経営層のサポート」「アジャイル手法の有効

▲ ▲ ▲   組織・人・システム 事業部門の参加と意識の共有が不可欠経営のサポートを得やすい指標などにも工夫を

Page 7: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

7

PART 1

性」の大きく2つのテーマに関しても活発な議論が交わされた。 経営のサポートについては、日本側から「DXは投資効果が出るまで時間がかかる。経営方針としては、『DXはどんどんやれ』だが、個別の案件に進むと、費用の面で通していくのが難しくなる」というコメントが出た。この点についてピーコア氏は、自社で停電復旧予測アプリを開発した際に、復旧予測を顧客に通知するまでの時間が4分の1に短縮できたため、経営層には「顧客満足度が上昇した」と説明して理解を得たと説明。顧客満足度は競争下では非常に重要であり、「まずは経済性メリット以外を(経営層に)強調するのはどうか」との考えを示した。日本側からは、需要密度の低いエリアなども含め、フラットに投資することを疑問視される場合もあるとし、「顧客満足度を指標(KPI)に使うのは良いアイデアだ」と賛同の声が上がった。

 アジャイル手法については、ピーコア氏が「PoC(概念実証)を2週間で回していく」と説明したことに対し、「本当に可能か」との質問が出た。ピーコア氏は「骨格となるような大きなプロジェクトの場合は難しい」と前置きしつつも、「2週間ごとに再評価し、その結果を反映させることが重要」との見方を示した。この見解に端を発し、アジャイル手法を使って短期間で成果を出すことについて日米の参加者が意見交換した。「現場の多忙な人たちをチームに入れることによって集中するため、逆に1週間で開発できることもある」「開発の規模が大きくても機能ごとに細分化し、マイルストーンを定めて集中してやっていくことは可能ではないか」などの意見が出たほか、「新しい領域を開発する場合にアジャイル手法は適している」との見方も示された。

ラウンドテーブル参加者の方々。活発に意見交換が行われた。(巻末にラウンドテーブル参加者リストを掲載しています)

Page 8: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

8

PART 2-1

・ 演 題 1 ・

佐藤 秀幸氏

 東京電力グループでは「生産性倍増」「新ビジネス創造」を達成するため、2016年からデジタル技術の活用に乗り出した。デザインシンキングとハイスピードPoCを取り入れ、2018年までに数千件のアイデアが集まった。このうち100件以上のPoCを行ったが、試験サービスに進んだ案件は数件。アイデアが出ても、基幹システムとの統合やセキュリティ上の問題などで、なかなか実行に移せなかった。

 そこで、欧米などで事例も調べたところ、デジタル化が遅れている企業にはミレニアム世代の優秀な人材が集まらないということで、企業文化変革の文脈でデジタル化を進めている企業が多いことがわかった。特に面白かったのがスペインで、「ラボを持つなど、見た目から変えるのも重要」という指摘もあり、当社もグループ企業のテプコシステムズに「テプシスラボ」を開設し、現在は企業文化の改革からイノベーションを進める活動に注力している。 具体的には、社内向けのイノベーションイベントなどを数多く、活発に行っている。これは米国の大手電力・エ

クセロンが取り入れているものを参考にした。若手が運営する新入社員向けの研修なども実施しており、世代が近いだけに意外に盛り上がった。『社員の1割以上がイノベーションイベントに参加すると、企業文化が変わる』という話も聞いており、積極的に進めたいと考えている。企業文化を醸成するためのDX人材育成、またデータア

パート2では、日本側の取り組みを報告。東京電力グループから2人が登壇。グループ全体でのDXに関する方針や組織体制、またグループ内にデータサイエンティストを育成するプログラムについて、これまでの実績と見えてきた成果や課題について報告が行われた。ラウンドテーブルでは、パート1のピーコア氏のプレゼンテーションも踏まえ、「DXと企業文化」「非常災害とDX」の2つの論点で、参加者同士の活発なやりとりが行われた。

日米の取り組み事例から課題を抽出マネジメントの関与、組織と人材育成、企業カルチャーの変革

「東京電力におけるDXの概要」

DX推進のカギとなる「企業文化の変革」と「人材育成」東京電力グループから具体的な取り組み事例を報告

佐藤 秀幸氏東京電力パワーグリッド 技術・業務改革推進室 IT・OT技術戦略グループ グループマネージャー

Page 9: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

9

PART 2-1

ナリティクス人材の育成も、社外研修と社内研修を組み合わせて行っている。東京電力PGにおけるDX人材育成としては、「基礎的な知識を持つ人財」「各部の中核者となるデジタルリテラシー人財」、専門的なレベルの「デジタルプロデューサー」という3ステップを考えている。データ分析に関する人材についても同様の考え方で、「基礎

分析人財」「中核となる高度分析人財」「分析スペシャリスト」の3段階での育成計画を立てている。

 DXによる具体的な成果としては、2018年2月からサービスを開始した火力発電所の集中運営サポートや、送電鉄塔の上空をドローンの航路にする「ドローンハイウェイ

構想」などだ。また、電力10社をはじめ50社以上にご参加いただいている「グリッドデータバンクラボ」では、電力会社のデータと異業種のデータを組み合わせることによる社会課題解決やビジネス価値創造にも挑戦している。

基本的なアプローチ

Openパートナーとの連携外部知の活用

Speed多くのアイディアを高速で検証

Co-creation共創

User eXperience

社外活用Outside-In

コア創造Inside-Out

基本的なアプローチ

生産性倍増 新ビジネス創造

・ 演 題 2 ・

川上 剛氏

 3項目のトピックスをお伝えする。まずはデータサイエンティスト養成プログラム(DSP)。3段階のステップで進めており、50人のデータ分析スキル所有者を育成する最初の目標は達成した。彼らを中核者と位置付け、現在はさらに中核者を育てるステップ2の段階。現状、中核者は160人程度で最終的には340人程度に増やし、さらに高度な人材も育成する計画だ。 DSPは2016年から開始した。受講者は、まず統計の基礎知識とデータ加工の講義を受ける。応用力として、受講者個人の本来業務に関連する分析課題を設計するプロセスも学ぶ。これらの講義は6コマあり、それから実践的な課題に取り組む。その成果を業務に適用した結果を発表するなど、課題を終えるまでに2度の報告を行う

「東京電力グループにおけるDXの取り組み」川上 剛氏テプコシステムズICT推進室 DX推進部長

Page 10: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

10

PART 2-1

ベンチャー企業並に素早く形に

流れだ。3回にわけて募っており、1年間で18人のDX人材が育つ。受講後のフォローアップでは、学んだ分析技術をそれぞれの現場でどう生かしているか、また悩みはないかなどを聞き取る。今後については、中核者のスキル高度化を目的に、現在のコースと並行する形で、高度分析やAIの活用を含めた高度データ活用人材の育成にも取り組んでいく予定だ。 2つめの取り組みは、デジタル基盤を中心としたオープンな分析環境の構築。基幹系と制御系の情報をひとつの基盤に集め、分析しやすい環境を全社に提供する。これらのデータを使って社内外に業務改善や新規事業に向けた情報などを提供する環境も整えていきたい。

 最後は「テプシスラボ」について。社内外からアイデアを集めてビジネス課題を設定し、ベンチャーを含めた新しい技術でPoCを実施する。実際の業務に適用するためのシステムを構築する場といえる。これまでにオープンイノベーションとしては、「電力需要予測コンテスト」の開催、高速PoCで迅速に実現していく取り組みとしては、火力発電所(JERA)で事業化しているイチゴ農園で、収穫時期をAIの画像分析で予測するなどの取り組みにつなげている。 電柱や電線の不具合について近隣の方々がお気づきの場合、撮影した画像をお客さまに送って頂くことでより適切な対応につなげていく「テプコスナップ」も開発した。

DSP※の目的※データサイエンティスト 養成・実践プログラム

ラボのコンセプト

Page 11: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

11

PART 2-1

 パート2のラウンドテーブルの冒頭では、ピーコア氏と東電グループのプレゼンテーション内容もふまえ、「DXと企業文化」「DXと非常災害対応」の2テーマについて意見交換を行った。 議論に入る前に、松浦コーディネーターから問題提起が行われ、「単なるデジタル化ではなくDXを目指す中では、やはり企業文化改革が必要という話が多い。SCEのプレゼンではDNAらせん構造を示し、改革を実行しながら企業文化に落とし込んでいくという構造と説明していた。東電は『社員の10%が研修を受ければ企業文化が変化する』という話から、数多くの社員をまきこんでいくイベントを多く実施しているという。こうした企業文化改革への取り組みについて、他の企業からも何か具体的事例や課題などがあれば」との問いかけがあった。

 これを受けて、ラウンドテーブル参加者から、「ITリテラシーや分析技術の必要性を、現場にどう理解してもら

うかも課題。DSPにも関心があるが、現場から研修に人を出すことに負担感はないか」との東電に質問。東電グループからは、「DSP参加者は現場で今、困っている課題解決を持ち込む。『生産性倍増』という経営のメッセージもあり、これを達成する手段のひとつとしてデータ活用が有効という上司や周囲の理解もあると思う。現場の課題解決を本店側でサポートしているイメージ」「DSPでは現場で使える分析の基礎を身につける。繰り返し分析を行う文化の醸成が目的」という説明があった。

 講演者の佐藤氏からは、「企業文化の醸成という面では、『失敗を恐れない文化』をつくることが大事。失敗しないことが優先される電気事業において、トライ・アンド・エラーを繰り返すことが重要とされる文化だ」との認識も示された。 関西電力からは「当社も、社長をトップとしたDX戦略委員会を立ち上げ、全社的に取り組みをしている。DXコ

▲ ▲ ▲  「失敗を恐れない企業文化」への変革が必要優先的かつ全国大で取り組む分野として「非常災害対応」は

Bringing People, Process, & Technology Together – Change the Culture

• The technology landscape is evolving at an unprecedented pace

• Customer expectations are changing with increasing choices and alternatives

• The regulatory environment for utilities is complex • The California greenhouse gas reduction targets

cannot be met without support from us

• Today, we face the need to reduce risk on many fronts, such as wildfire and other environmental threats. • It has created the need to take additional

significant and immediate measures to protect our customers and our grid.• To meet these challenges, we must find new and

different ways to operate more effectively.

Centralized team focus on process + digital enablement

Execute on priority and high value transformation efforts in partnership

w/ the business OUs

Build the capability within the OUs on lean, design thinking,

agile & digital, and OCM

“Build the capability” “Learn by doing” “The SCE way”

• Lean Six Sigma• Design thinking• Agile & Digital• OCM

2

ピーコア氏からは、「人とプロセスと技術」が同時に変革しながら、「The SCE Way」ともいうべき企業カルチャーの変革に落とし込んでいくという説明があった

Page 12: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

12

PART 2-1

ミュニケーターという役割を付与した人材を各部門に配置し、現場の各部門との取り持ちも行っている」との説明があり、松浦コーディネーターからは、「東電はやはり、他社に比べて外部からの改革プレッシャーが強い面もあると思う。『失敗を恐れない文化』というのは、非常に響く言葉」との言及があった。 また、ピーコア氏も企業文化を変える動機付けの重要性について意見した上で、「DSPがカルチャーチェンジにどう生かされているのか」と質問。川上氏から、研修受講生との定期ミーティングなどのフォローアップなどについて説明し、「現場の分析環境の形成をリードしてほしいと研修中も言っているし、そういう役を担える人を出して欲しいと言っている。残念ながら、受講終了による給与やポストなどの処遇対応まではいっていないが」と説明された。

 一方、非常災害とDXの論点では、台風襲来の多い九州電力から、現状の取り組みについて説明があった。2002年から本店も含めた情報共有のシステム化が進んでおり、現場の事故の詳細がおよそ2時間以内にはわかる状態となっており、配電レベルでは事故点がほぼリアルタイムで把握できる状況になっていると説明。これらのシステム構築にあたっては、データ分析の手法というよりも、従来の現場の経験則に基づき、部門主導で整備したものだとしたうえで、このことはグループ会社や協力会社を含め、設備部門全体の現場作業者の効率化につ

ながっていると強調した。 この説明を踏まえ、松浦コーディネーターからは「非常災害については、各社単独ではなく、共有できるものは共有していくのはどうか」との提案が出された。電力業界全体で作りこめるとよいのでは」との意見も出された。2019年の台風15号では千葉県などで停電が長期化した東京電力グループは、「非常災害時は『停電状況把握の迅速化』『現場の実態把握』『作業管理』の3点でDXが活用できるが、台風15号ではテプコスナップやドローンなども活用した。19号では衛星写真も活用しようとしたが、あまり精度が高くなかった。今年度の経験を踏まえた現状の認識は、情報はあるが作業優先順位なども含め、オペレーションに課題がある」との見解を示した。

 このほか、ドローンを活用する場合の規制緩和の必要性を指摘する意見、また災害時に国や自治体との情報連携が難しいとの声も出た。山火事などで自治体との連携については、ピーコア氏も「(カリフォルニアも)全く状況は同じ。自治体はやはり紙でしか出してこないところがある」と指摘。ただ、技術面より「コミュニケーションの仕組みに課題がある」との考えを示した。これらを踏まえ、松浦コーディネーターが「国や自治体との情報連絡、また電力会社間での情報連携などについても、今後、別の場などで再点検をしていくことも重要かと思う」とまとめた。

Page 13: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

13

PART 2-2

・ 演 題 ・

小野 恭平氏

 SASはアナリティクスの専業ベンダーとしてグローバルで40年間トップを走ってきた。国内でも、電気事業以外でも流通、医薬、金融などさまざまな産業で、事業のコアに当たる分野でも、データ分析やAIを活用した事業革新のお手伝いをしてきた。ソフトウエアを提供するだけではなく、実際の業務に適用するための方策や人材育成、分析をどう実際に織り込んでいくかという業務プロセスへの展開などのサービスも充実させている。 電気事業におけるDXも、近年かなり多く取り組んでいる分野で、グローバルでも、SCEのほか、ENEL、EDFなどで、需要予測や設備故障予測、経営分析などさまざまな分野での経験を持っている。DXの成功については、「テクノロジー・プロセス・ピープル」の3つがバランスよく展開していかなければならないということは、本日の議論にもあったとおりだが、SASについてはこのうちのテクノロジー面でのシステム・分析技術の提供と見られがちだったと思う。しかし最近ではシステム面だけではなく、それをより有効に活用しDXを推進するための組織・体制づくりや、人材育成や教育などについてもご相談を受けることも増えてきており、そうしたコンサルティング

業務に力を注ぐ形で変わってきている。

 そうしたコンサルティング活動の一環として、災害対応という電力業界の共通課題に関する勉強会や共同実証に取り組めないかと考え、本日は具体的にひとつのプロジェクトを提案させていただきたい。 台風災害の激甚化などで、復旧に向けた関係機関の連携や情報収集体制の強化が求められているが、限られた要員や資材で対応する必要があるため、事前の正確な被害予測と適切な対応計画が重要となる。そのため、既

 パート2の前半は東京電力グループからのプレゼンテーションを受けて、企業文化・非常災害とDXのあり方について議論が深まった。後半は、SASジャパンから、災害対応にデータ分析技術を活かしていくための提案が行われた。

電力ネットワークのレジリエンス強化に向けてデータ分析を活用し総合サービス提供

Grid × SAS「DXによる電力ネットワークのレジリエンス強化を目指して」

製品・技術だけでなく体制整備・人材育成なども台風時の飛来物と被害予測の高度化検証を提案

小野 恭平氏SASジャパン・ソリューション統括本部 シニアプリセールスコンサルタント

Page 14: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

14

PART 2-2

存の電力中央研究所の台風配電設備被害推定システム「RAMPT」を活用し、より精緻なエリアごとの配電支持物の被害予測モデルをつくれないかと構想した。 すでにRAMPT内にある雨量や風速、進路といった台風情報と電力各社の地盤や設備などの情報などに加え、空撮写真などで把握するトタン屋根やビニールハウスといった主な飛来物の分布を基に、機械学習によるリスク係数をかけ合わせることで、実際の設備被害、主に電柱

への被害予測精度について検証する。これにより、営業所などのエリア単位で、より正確な被害予測と人員・資材の適切な配置計画を立てることに役立つのではないかと考えている。

 さらに、こうした送配電事業者の共通課題をPoCで進める場として、「送配電DX研究会」などのような形を立ち上げるきっかけになればうれしい。当社は電力ネッ

トワークのレジリエンス(強靭性)を強化するためにデジタル解析技術で貢献したい。送配電の領域で何かお手伝いできるものがあれば、ぜひお引き受けしたいと考えている。

Copyright © SAS Institute Inc. All r ights reserved.

1

検証内容案︓空撮写真から⾶来物による被害を予測する

台⾵情報⾬量情報 海⾯気圧分布 地図情報

地盤情報 設備情報 係数基準被害率/地域係数

⾃動取得 事前⼊⼒

RAMPT配電営業所毎の被害予測

対応計画・要員・資材の事前配置・応援派遣要請検討・スケジュール

空撮写真による被害判別モデルの検証

主な⾶来物のトタン屋根やビニルハウス等の分布を加味する

被害予測モデル

 SASジャパンのプレゼンテーションを受けて、質疑応答が行われた。SASジャパンのソリューション統括本部製造・コンシューマーインダストリーソリューション統括部長の池本洋信氏も補足し、「データを分析すると様々なことがわかるようになってきている。他の産業での事例、経験や知見を活かし、電力業界のレジリエンス強化にお役にたてることは必ずあるのではと考えている」と述べた。 RAMPTを運営している電力中央研究所からは、被害想定の精度を上げていくためにSASのシステムがどのように活用できるかを把握することから始めるとは思うが、ツールの役割向上につながるものがあれば取り入れ

ていくのは良いことではないかという見解が示された。 これらの議論をあわせ、関西電力から「DXに限らず、現在どのようなシステムを作ろうとしているのかを把握していこう、まずは情報交換から始め、他社の良い事例を取り入れていける仕組みづくりというような取り組みを進めているところ」という説明があり、こうした電力業界大での取り組みにSASからの提案、またそれ以外の検討事項なども、どのように反映していくかというコンセンサスづくりも重要という指摘が行われた。東京電力からは、そうした電力大での検討、調整の場としてグリッドデータバンクラボの活用も選択肢に入れてほしいとの提案もあった。

▲ ▲ ▲   変わる送配電事業 各社共通の課題を見出す問題解決へ向けた共同の活動基盤なども提案

Page 15: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

15

 ワークショップ終盤、松浦コーディネーターからまとめが行われた。松浦氏は、送配電事業はインフラ産業ということで、安定供給のためには『失敗を起こさないことが最も大切』という文化でやってきた面があると述べ、「DXのような、新しい考えを取り入れて未来へ向かって進んでいくという意味では最後尾の業界だと考えていたが、それでも今回のような議論を交わし、変わっていこうとの動きが出始めているところに大きな気付きがある」と指摘した。

 さらに、「変わるための最大の障壁は企業に残る文化ではないかという論点も明らかになった。これについては、経営層も覚悟をもって関与する必要があるだろう。(経営層の)理解を深め、どのようにプロジェクトに関与し支援をしてもらうか、どのように継続して取り組んでもらうかといったことがDXを進展させるための課題だろう」と強調した。

 その上で、「様々な課題を抱えながらも新しい未来へ向かってDXを進めることは、各社共通のテーマだ。限られた時間だったが、意見交換と基本的な認識のすり合わせができた。これを機に引き続き意見交換し、日本国内で安定した送配電事業に取り組むために、課題や情報などを共有する場を設けていければと考えている」と締めくくった。 松浦氏からは改めて日米の登壇者に対し、本ワークショップでの詳細な解説や事例紹介に対する謝意が示された。

W r a p U p

松浦 康雄氏関西電力 理事送配電カンパニー 配電部・情報技術部担任

Page 16: 送配電事業におけるDXのあり方とは 課題と可能性を探る · 2019-12-09 · 送配電事業におけるdxのあり方とは 課題と可能性を探る 2019 日米電力ワークショップ

16

[日米電力ワークショップ ラウンドテーブル出席者(敬称略)]

コーディネーター松浦 康雄関西電力理事 送配電カンパニー 配電部・情報技術部担任

青山 孝広北海道電力総合研究所戦略統括グループリーダー

和田 浩文東北電力企画部デジタルイノベーション推進室長

島田 敏彦東京電力パワーグリッド技術・業務革新推進室長

佐藤 秀幸 講演者東京電力パワーグリッド技術・業務革新推進室IT・OT技術戦略グループ グループマネージャー

冨倉 敏司テプコシステムズ取締役常務執行役員

川上 剛 講演者テプコシステムズICT推進室DX推進部長

丹羽 章裕中部電力技術開発本部エネルギー応用研究所長

當波 茂孝北陸電力技術開発研究所研究企画・知的財産チーム統括 課長代理兼送配電企画部企画チーム課長代理

ラウンドテーブルに出席いただいた16人(日本側)の皆さまのほか、電力各社・団体より、18人の方々にワークショップを傍聴、ご参加いただきました。本ワークショップ開催にあたり、大勢の皆さまにご協力をいただきましたことを改めて感謝申し上げます。

電気新聞

※本書の一部または全部の複写・複製、時期媒体・光デバイスへの入力及びウェブサイトへの転載を禁じます

松田 亨関西電力送配電カンパニー情報技術部長

長江 泰太郎中国電力送配電カンパニー制御通信部長

森下 穣四国電力送配電カンパニー配電部計画グループリーダー

木戸 啓人九州電力送配電カンパニー技術計画部長

伊藤 和雄Jパワー(電源開発)デジタルイノベーション部長

八太 啓行電力中央研究所エネルギーイノベーション創発センター(ENIC)配電システムユニットネットワークグループ グループリーダー

池本 洋信SASジャパン・ソリューション統括本部製造・コンシューマーインダストリーソリューション統括部長