豚の閉鎖育種集団の有効な大きさと近交度(2)2008. 9月...

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豚の閉鎖育種集団の有効な大きさと近交度(2) 誌名 誌名 日本養豚学会誌 = The Japanese journal of swine science ISSN ISSN 0913882X 巻/号 巻/号 453 掲載ページ 掲載ページ p. 156-163 発行年月 発行年月 2008年9月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: 豚の閉鎖育種集団の有効な大きさと近交度(2)2008. 9月 豚の閉鎖育種集団における近交度の予測 日豚会誌 45巻 3号 fこ。彼らの得た結果は,世代の重複,家系情報を

豚の閉鎖育種集団の有効な大きさと近交度(2)

誌名誌名 日本養豚学会誌 = The Japanese journal of swine science

ISSNISSN 0913882X

巻/号巻/号 453

掲載ページ掲載ページ p. 156-163

発行年月発行年月 2008年9月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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2008, 9月 日豚会誌 45巻 3号

豚の閉鎖育種集団の有効な大きさと近交度

11. 複数の形質に対する選抜下での予測

家入誠二・野村哲郎*

熊本県農業研究センター,熊本県合志市栄 3801, 861 -1113

*京都産業大学工学部生物工学科,京都市北区上賀茂本山, 603-8555

(2008年 3月 14日受付, 2008年 6月25日受理)

要約 複数形質に対する指数選抜下での集団の有効な大きさおよび近交度を予測する

ための理論を開発した。予測モデルにおいては,選抜指数の遺伝率を用いて指数選抜を単

一形質に対する選抜で近似する方法を採用した。 7世代にわたる指数選抜によ って造成さ

れた現実の系統に得られた予測理論を適用し,集団の有効な大きさと近交係数の予測値を

造成過程で観測された値と比較した。集団の有効な大きさに関する予測値と観測値の聞に

は2,3の世代で相対的に大きな差が認められたが,世代にわたる調和平均で見ると予測値

は観測値に近い値を示した。集団の有効な大きさから予測された共祖係数および近交係数

は,観測値とよく 一致した。これ らの結果から,選抜指数を用いた豚の閉鎖群育種の設計

に当たって,提示した予測理論が利用できるものと考えられた。

緒 T

E司

集団の有効な大きさは,近交係数の上昇率およ

び遺伝的浮動の大きさを決定するパラメータであ

り,豚の系統造成のように比較的小規模な閉鎖集

団における育種計画の策定にあた って考慮すべき

重要なパラメータの lつである。選抜が働く集団

では,遺伝的に優れた親からは多くの子どもが選

ばれる傾向があるため,各親が選抜された個体群

に寄与する子どもの数(家系サイズ)の分散が大

きくなり, これによ って集団の有効な大きさは無

選抜下で期待される値よりも小さ くなる。 しか

し,前報l)で述べたように, ある世代の選抜は親

世代の家系サイズの分散だけでなく,さ らに遡っ

た世代の家系サイズの分散にも影響を与える。 し

たがって,選抜の働いている集団の有効な大きさ

は,親世代だけでなく,さらに遡った世代の家系

サイズの分散に対して選抜が与える影響を考慮し

ない限り,過小に予測されることになる。

このような選抜が集団の有効な大きさに与える

影響を,最初に定式化したのは ROBERTSONのであ っ

た。彼は,選抜の累積効果と呼ばれる概念を導入

し,選抜下での集団の有効な大きさに関する基本

的な予測式を導いた。その後, WRAYとTHOMPSON3)

および SANTlAGOとCABALLER04)は,選抜の累積

効果をより厳密に定義し,予測式の改良を行っ

Effective Size and 1nbreeding in Clos巴dBreeding Herds of Pig

1I. Prediction under Selection on Multiple Traits

S. 1EIRI and T. NOMURA *

Kumamoto Agricultural Research Center, Sakae 3801, Koushi-city, Kumamoto 861-1113,

Japan

* Department of Biotechnology, Faculty of Engineering, Kyoto Sangyo University, Kyoto-

city 603-8555, Japan

連絡者:野村哲郎 (E-mail:[email protected]引 l.ac伊 Tel. 075-705-1929)

156

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2008. 9月 豚の閉鎖育種集団における近交度の予測 日豚会誌 45巻 3号

fこ。彼らの得た結果は,世代の重複,家系情報を

組み込んだ選抜など,育種上重要な場面に対応で

きるように拡張されてきたの。 しかし, 複数の形

質に対する選抜についての拡張は,これまでなさ

れてこなかった。

豚の系統造成においては,通常,複数の形質が

改良の対象となるため,集団の有効な大きさの予

測理論を複数の形質に対する選抜に対応できるよ

うに拡張することは,実用上の重要な課題であ

る。そこで本報告では,複数の形質に関する個体

情報に基づく指数選抜下での集団の有効な大きさ

の予測式を導いた。 また,前報1)で材料とした豚

の閉鎖系統「ヒゴサカエ 301Jの造成過程におけ

る集団の有効な大きさおよび近交度を予測し,観

測値と比較することで予測式の有効性を評価し

fこ。

材料および方法

1. 選抜計画

毎世代.Nm 頭の雄親を NfiiJlの雌親に交配する

計画を想定した。ただし,雄親 l頭当たりに交配

する雌親の数は r=叫/Nm頭に固定した。雌親 l

個体が寄与する選抜候補個体(一腹当たりの育成

豚〉の数は,雄の育成豚については ηfm頭,雌の育

成豚については nff頭とした。したがって,雄親 l

個体が寄与する育成豚の数は,雄については nmm

=rnfm頭,雌については ηmf=mff頭となる。全育

成豚の中から後述する選抜基準に基づき.Nm個

体の雄とめ個体の雌が選抜され,次世代の親と

なるものとした。したがって,選抜率は雄ではPm

= 1/nmm.雌ではρ'f=1/nffである。選抜強度およ

び標準正規分布上での切断点を,それぞれ雄につ

いては仇および Xm.雌についてはのおよび Xfで

表す。

選抜の基準には,候補個体自身の m 個の形質

の表現型値 (Plo P2• …Pm) が含まれ,選抜は指

I=bIP1 +bzP2十 ・"bmPm (1)

に基づいて行われるものとした。 ここで. biはt

番目の形質に対する重み付け値である。

2. 予測モデル

(1) 選抜指数の遺伝率

単一の形質の選抜について開発されてきた集団

の有効な大きさの予測理論を,選抜指数(1)の下

での選抜に対応できるように拡張するために,

LIN とALLAIRE6)および NORDSKOG7)によって導

入された選抜指数の「遺伝率」の概念を利用した。

選抜指数の遺伝率 (h1)とは,選抜指数(1)を 11つ

の形質」とみなしたときの「表型分散」に対する

「相加的遺伝分散」の比であり,

h2 b'Gb /-b'Pb (2)

として得られる。ここで.b'= [bl b2…bmJであ

り Pおよび Gはそれぞれ m 個の形質の表型お

よび遺伝分散共分散行列である。このような捉え

方により,指数選抜を単一の形質に対する選抜と

同等に扱うことができる。たとえば,選抜指数の

分散(表型分散)を dj.選抜強度を Zとすると,選

抜指数の世代当たりの改良量は

t1G/=hho/

と書け,単一形質の遺伝的改良量と同等の形式で

表せる6.7)。

(2) 集団の有効な大きさの予測

集団の有効な大きさの予測は. SANTIAGOと

CABALLER04)の方法を利用して行った。予測方法

は次のように要約される。いま,添字s(雄のとき

m.雌のとき ρで性を表し,↑生Sの親が次世代の

雄親および雌親に寄与する子の数(性 Sの家系サ

イズ)の分散のうち非遺伝的な要因によって生じ

る成分を,それぞれにm および Vsfとすれば,第 t

世代までの選抜の累積効果を考慮した集団の有効

な大きさ (Ne.,)は,前報l)で用いた LATTER8)の式

を拡張した式

1_,.. , (Nm \ • ~O~O l =~12+ Vmm+( ':: ) Vmf+4QTC~ I Ne,f 16Nm L¥N

f / .... ~ . '''J

+ .~1>T i2+Vff+(笠)い+4QtC}l16Nf L ¥Nm/ .... -'-.J

(3)

によって予測できる九 ここで. Q,は第 t世代ま

での選抜の累積効果を表す係数, C~ は性 S の親か

ら生まれる子が持つ選抜に対する優越度の分散で

ある Q,および C~ は, それぞれ次のようにして得

られる。

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2008, 9月 家人 ・野村 日豚会誌 45巻 3号

Q,=l+ ~ +(与)¥(与Y+...+(与)'

=高(与)'C~= i2ps

ここで,Gはks=isCis-xs)および Gs=1-kshJと

すると G=(Gm十Gβ/2であり, i[ = Cim+if)/2] は選抜強度の雌雄平均である。Gsは性Sの親にお

ける選抜後の指数(1)の相加的遺伝分散の残存率9)

である。また, ρsは性 Sの親を共有する個体の指

数(1)に関する級内相関であり,ρFSおよびρHSを

それぞれ指数(1)の全きょうだいおよび半きょう

だい聞の級内相関とすれば,

ρ士ρFs+(l-!)ρHS

ρ'f=ρFS

として得られる。ρFSおよびρm は親が選抜を受け

ていることを考慮すれば

ρFS-士hJ(l-kmhJ)+!h7(1一例)

向 S= ! hJ ( 1 -kmhJ)

と書ける。

予測式(3)中の Vsmおよび Vsfは, 前報1)で示し

た二項分布で近似した家系サイズの分散,すなわ

V,m=生 11ー土/且〓山 NsL- nsm¥Nsノ」

Nr i. 1 f Nr¥1 Vsf=τナ11---¥ラナ川

lVs L nsf¥lVsノ」

に等しし、。 したがって,無選抜下での集団の有効

な大きさの期待値を NeRとすれば,式(3)は

1 . i C;, • C} l~? 一一一=一一+1 .-..':' + .--"J. IQ~ (4) Ne./ NeR L4Nm 4NfJ

と書ける。右辺の第 2項が選抜による集団の有効

な大きさの減少を説明する部分である。近交係数

の上昇率が ムF=1/2Neであることに注意すれば,

第 t世代における近交係数の上昇率は,式(4)より

ムF,=dFR+dFs., (5)

と表せる。ここで,ムFR=1/2NeRは無選抜下での

近交係数の上昇率であり,

[" C乙 C7l 白

=1ーム+ー」ーIQtL8Nm 8NfJ

は第 t世代までの選抜の累積効果による近交係数

の上昇率である。

3. 観測値との比較

豚の閉鎖系統「ヒゴサカエ 301Jの造成過程に

おける集団の有効な大きさを式 (3)を用いて予測

し前報1)で得た観測値と比較した。「ヒゴサカエ

301Jは,一日平均増体重 (PDC),超音波診断に

よって生体から測定された背脂肪の厚さ (PBF)お

よびロースの断面積 (PEM)の3形質について希

望改良量を達成するための制限付き選抜指数式10)

I=0.054PDc-6.590PBF+0.390PEM (6)

による選抜で造成された系統である。形質問の表

型および遺伝分散共分散は表 lに示すとおりで

あった。式(2)から求めた選抜指数(6)の遺伝率は,

hJ=0.314であった。

なお,遺伝的パラメータを推定するための十分

な情報が得られていなかった最初の 2世代の選抜

には,遺伝的ノマラメータの文献値に基づく指数

I=0.151PDc一10.l28PBF+0.914PEM (7)

が選抜基準として聞いられた。表 lに示した表型

および遺伝分散共分散から求めた指数(7)の遺伝

率は,hJ=0.355であった。集団の有効な大きさの

予測は,指数(6)および(7)の遺伝率に加えて,指

数の遺伝率を 0.2および 0.4とした場合について

も行っ fこ。

集団の有効な大きさの計算に際しては,前報1)

の結果を踏まえて雄親および雌親の数はそれぞれ

Nm=10およびNf=50,一腹当たりの平均育成豚

数は雄で nfm=1頭,雌で nff=2.5頭を造成当初の

設計値とした。したがって,選抜率は雄で九=1/

5,雌でρf=50/125となる。それぞれの遺伝率に

ついて式 (3)により得た各世代の集団の有効な大

きさの予測値に加えて,Q,の漸近値

∞ fG¥' 2 QL= 2:( ':: ) =

i=O¥2ノ 2-G

から得られる漸近予測値Ne.Lを求めた。

得られた集団の有効な予測値を用いて,各世代

の共祖係数印)を WRIGHT")の漸化式

内 1+丈(1一筋 1+ん )

-158-

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2008, 9月 豚の閉鎖育種集団における近交度の予測 日豚会誌 45巻 3号

表 1. 豚の閉鎖系統 「ヒゴサカエ 301Jにおける一日平均増体重 (DG),背脂

肪の厚さ (BF) およびロース芯の面積 (EM) に関する表型および追

伝分散共分散の推定値

Table 1. Estimated phenotypic and genetic variance and covariance for

daily gain (DG), back fat thickness (BF) and rib eye area (EM)

in a c10sed pig strain “Higosakae 301"

Phenotypic variance & covariance Genetic variance & covariance

G

F

M

D

B

E

DG

3302.0

EM

-3.486

-0.048

9.200

BF

2.736

0.070

DG

1452.9

BF

4.634

0.046

EM

7.057

0.004

4.232

によって予測した。また,半きょうだい以上の血

縁関係を持つ個体間での交配を回避している系統

においては,近交係数の上昇は共祖係数の上昇よ

りも 2世代遅れること 1)を考慮して,第 t世代の

近交係数F,を

F,=j'-2

として予測した。 これらの予測値を前報1)で求め

た造成過程における近交係数および共祖係数の観

測値と比較した。

結果および考察

表2には,前報1)で示した共祖係数の上昇率か

ら求めた集団の有効な大きさの観測値および第 3

世代以降に用いられた選抜指数(6)の遺伝率肘=

0.314を仮定した予測値を示した。 世代の進行と

ともに選抜の効果が蓄積されるため,集団の有効

な大きさの予測値は徐々に小さくなった。しか

し,漸近値 (N..L) への収束は早く ,後半世代の予

測値は実質的に漸近値に一致した。また,第 7世

代までの予測値の調和平均も漸近値に極めて近い

値を示した。各世代について予測値と観測値を比

較すると,第 2,5および 6世代において予測に大

きな誤差が生じた。第2世代の過小な予測は, こ

の世代に用い られた雄親の頭数が 18頭と予測に

おいて仮定した 10頭よりも 2倍近く多かったこ

と1)によるものである。 一方,第 5および 6世代

の過大な予測は,これらの世代で実際に行われた

選抜 ・交配が,式 (3)で説明される効果を超える

影響を集団の有効な大きさに与えたことを示唆し

ている。このことには,前報1)で述べたように,系

統の認定基準を満たすために, これらの世代で選

抜 ・交配に意図的な調整が行われたことが反映さ

れているものと考え られる。すなわち,これらの

世代における観測値と予測値の差には,予測モデ

ルに考慮されていない要因が関与しているものと

考えられる。 しかし,上記の 3世代を除くと,式

(3)による予測は観測値に近い値を与えており,さ

らに第 l世代以降,集団の有効な大きさが小さく

なるという観測値に認められた傾向を捉えること

ができている。また,予測値の調和平均および漸

近値はいずれも観測値の調和平均に近い値であ

る。

豚の系統造成の初期段階においては,遺伝的パ

ラメ ータの推定に対して十分なデータが蓄積され

ていないため,遺伝的パラメ ータの推定値に基づ

く選抜基準は初期世代では大きな誤差を含むこと

が予想される。今回の研究で材料とした「ヒゴサ

カエ 301Jにおいても,遺伝的パラメ ータの推定

値に基づく最適指数 (6)が用いられたのは第 3世

代以降であり,それ以前の世代は異なる選抜指数

(7)が選抜基準に用い られた。このような選抜基準

の誤差や見直しの影響を評価するために, 初期世

代に用いられた選抜指数(7)の下での遺伝率肘=

0.355に加えて ん=0.2および 0.4を仮定して予測

を行った結果も表 2に示しである。 いずれの予測

値札遺伝的パラメータの推定値に基づく最適指

- 159-

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2008, 9月 家入 ・野村 日豚会誌 45巻 3号

表 2. 閉鎖系統「ヒゴサカエ 30U において観測された集団の有効な大きさ (Ne) および選抜指

数の遺伝率 (hY)に種々の値を仮定したときの集団の有効な大きさの予測値

hY=0.314 :第 3世代以降に用いられた選抜指数(6)の遺伝率

hY=0.355 :第 lおよび 2世代で用いられた選抜指数(7)の遺伝率

九。L .集団の有効な大きさの漸近予測値

Table 2. Obs巴rved巴ffectivepopulation size (Ne) in a closed pig strain“Higosakae 301", and

the predicted values under various heritabilities (hY) of selection index

Predicted Ne

Generation Observed Ne hY=0.314 hY=0.355 hY=0.2

l 36.0 34.0 33.7 35.0

2 44.8 31. 2 30.8 32.6

3 26.8 30.0 29.7 31.4

4 28.8 29.5 29.3 30.9

5 21.4 29.3 29.1 30.7

6 22.0 29.3 29.1 30.6

7 27.9 29.3 29.0 30.5

Harmonic mean 28.0 30.3 30.0 31.6

品。L 29.2 29.0 30.5

hY=0.314: heritability of selection index (6) actually applied after generation 3.

hY=0.355: heritability of selection index (7) actually applied in generations 1 and 2.

Ne.L : asymptotic prediction of effective population size.

表 3. 共祖係数の上昇率の観測値 (d.fl), 無選抜下での近交係数

の上昇率の予測値 (M R),選抜による近交係数の上昇率の

予測値 (ムFs.1) および全近交係数の上昇率の予測値 (M1

=ムFR+M s1)

Table 3. Observed increasing rate of coancestry (ム11),pre-

dicted rate of inbreeding under random selection

(ムFR),predicted component of rate of inbreeding

due to selection (ムFS.1),and predicted total rate of

in breeding (ムF1=ムFR+ムFs.1)

Observed Predicted Generation

ム11(%) ムFR(%) ムFs.1(%) ムF1(%)

l 1.39 1.35 0.12 1.47

2 1.12 1.35 0.25 1.60

3 1.87 1.35 0.32 1.67

4 1. 74 1.35 0.34 1.69

5 2.34 1.35 0.35 1. 70

6 2.27 1.35 0.36 1. 71

7 1. 79 1.35 0.36 1. 71

- 160一

hY=0.4

33.4

30.6

29.5

29.1

29.0

28.9

28.9

29.8

28.9

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2008, 9月 豚の閉鎖育種集団における近交度の予測l 日豚会誌 45巻 3号

数(6)の下での遺伝率 hl=O.314を仮定した予測と 0.14

大差はなかった。この結果は,式 (3)による予測

分 (ムFs,,)を示したものである。無選抜下での予 0.02

測値は全世代を通じて一定の値を示し,第 3世代

以降は常に観測値を過小に予測している。近交係

数の上昇率への選抜による寄与の予測値は,選抜

の効果が蓄積されるため世代の進行とともに大き

くなるが,第 4世代以降は,ほぼ一定の寄与を示

した。これら 2つの成分の和として予測された近

交係数の上昇率は,集団の有効な大きさの予測に

おいて誤差の大きかった第 2. 5および 6世代を

除くと,観測値に近い値を与えた。これらの結果

は,系統造成の過程における近交係数の上昇の予

測には,明らかに選抜の影響を考慮する必要があ

ることを示している。

図 lは,各世代の共祖係数と近交係数の予測値

を前報1)で求めた観測値と比較したものである。

予測値の計算には,選抜指数 (6)による選抜下で

の集団の有効な大きさの漸近予測値 (Ne,L)を全

世代にわたって用いた。各世代の集団の有効な大

きさの予測値(J¥ι,)を用いた予測も行ったが,

Ne,Lを用いた場合と大きな違いは認められなかっ

たので図では省略しである。すでに述べたように

予測モデルに考慮されていない要因が働いたと考

えられる世代が含まれるにもかかわらず,予測lの精度は極めて良好であった。今回材料とした 「ヒ

ゴサカエ 301Jに限らず,現実の系統造成におい

ては,種々の予測不可能な要因が生じることが予

想されるが,図 lの結果は,今回の予測モデルが

そのような場合でも実用上有効な予測値を与える

ことを示している。

以上,今回の研究では,単一形質に対する選抜

下での集団の有効な大きさおよび近交係数の予測

理論を複数の形質に対する指数選抜に対応できる

ように拡張した。 しかし,現在,わが国で行われ

は,遺伝的パラメータの推定誤差あるいは実際的

な場面で想定される範囲内での選抜基準の見直し

に対して頑健性を持つことを示唆している。

表 3は,各世代で観測された共祖係数の上昇率

(ムfふ式(5)から求めた選抜指数(6)による選抜の

下での近交係数の上昇率の予測値(ムF,), 無選抜

下での予測値(ムFR),および選抜による寄与の成

0.12 --+ーobsF

-ーobsf .企 E ・preF ..x... pre f

x '

i

n

k

u

n

h

V

4

4

n

U

A

Hv

n

u

n

U

AHv

n

HV

A

HV

E訪

ES。υ』。田口号

Z』』口同

,x

123 456 7 Generation

図1. 共祖係数c!)および近交係数 (F)の

7世代までの観測値 (obs) と予測値

(pre)

Fig. 1. Observed (obs) and predicted

(pre) coancestry的 andinbreed.

ing coefficient (F) over 7 gener-

ations

ている豚の系統造成では,指数選抜から多形質の

アニマルモデル BLUP法から得られる予測育種

価による選抜(多形質の BLUP選抜)へと移行し

ている。単一形質の BLUP選抜について, WRAY

とHILLI2)は血縁個体の記録を用いた選抜指数

(擬似 BLUP) として近似する方法を開発し, 選

抜反応の予測を行っているo NOMURAら13)は,こ

の方法を利用して,単一形質の BLUP選抜下で

の集団の有効な大きさおよび近交度が予測できる

ことを示した。本研究で採用した複数の形質に関

する選抜指数を単一の形質として取り扱う考え方

を拡張して,複数の形質に関する擬似 BLUPを

単一の形質として扱うことは理論上可能である。

しかし著者らが予備的に検討したところ,計算

式が極めて煩雑になることが明 らかにな った。近

似的な解法を含めて,複数形質の BLUP選抜下

での集団の有効な大きさおよび近交度を予測する

ための実用的方法の開発については,今後検討す

る予定である。

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2008, 9月 家入 ・野村 日豚会誌 45巻 3号

文 献

1) 野村哲郎 ・家入誠二 ・山下純:豚の閉鎖

育種集団の有効な大きさと近交度 1.血統分析, 円豚会誌, 45, 149-155, 2008.

2) ROBERTSON, A.: Inbreeding in artificial

selection programmes, Genet. Res., 2,

189-194. 1961.

3) WRAY, N.R. and R. THOMPSON: Predic-

tions of rates of in breeding in selected

populations, Genet. Res., 55, 41-54,1990.

4) SANTIAGO, E. and A. CABALLERO: E仔e-

ctive size of populations under selection,

Genetics, 139,1013-1030,1995

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Page 9: 豚の閉鎖育種集団の有効な大きさと近交度(2)2008. 9月 豚の閉鎖育種集団における近交度の予測 日豚会誌 45巻 3号 fこ。彼らの得た結果は,世代の重複,家系情報を

2008, 9月 豚の閉鎖育種集団における近交度の予測l 日豚会誌 45巻 3号

Effective Size and Inbreeding in Closed Breeding Herds of Pig

11. Prediction under Selection on Multiple Traits

Seiji IEIRI and Tetsuro NOMURA *

Kumamoto Agricultural Research Cent巴r,Sakae 3801,

Koushi-city, Kumamoto 861-1113, Japan * Department of Biotechnology, Faculty of Engin巴enng,Kyoto Sangyo University, Kyoto-city 603-8555, Japan

Theory for predicting the effective population size and inbreeding under index

selection on multiple traits was developed. The concept of heritability of selection

index was used for the prediction model. The prediction theory was applied to an

actual pig strain selected over 7 generations by a desired-gain selection index of

daily gain, back fat thickness and rib eye area, and the predicted effective size and

inbreeding coefficient were compared with the observed values. Although the

difference between the predicted and observed effective sizes was relatively large in

a few generations, the harmonic mean of the predicted e妊ectivesize over genera-

tions was well agreed with that of observed values. The coancestry and inbreeding

coefficient obtained from the predicted effective size were close to the observed

values. These results suggest that the proposed theory could be used for designing

closed breeding programs of pigs with index selection on multiple traits.

εJpn. J. Swine Science, 45, 3: 156-163

Key words : prediction theory, inbreeding, effective population size, index selection

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