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16 原  著 日本臨床細胞学会岡山県支部会誌 目的 超音波内視鏡下穿刺吸引法(Endoscopic Ultrasonography-guided Fine Needle Aspiration 以下EUS-FNA)で採取された検体の処理方法と,診断精度を検討した. 検体処理方法 細胞検査士がEUS-FNAで採取された検体をその場で処理し,圧挫細胞診標本を作 製しDiff-Quik ® 染色で採取の適否を確認した後,Cell block(以下CB)標本とフィルター細胞診標本 を作製した. 対象と方法 2011年~2012年の2年間で病理診断の得られた75例を対象に,細胞診断精度を検討し た.さらに,手術施行例の組織診断で悪性とされた13例を対象に,細胞診断とCB組織診断の感度を 比較した. 診断精度の結果 対象の細胞診断精度は,感度は95.0%,特異度80.0%,正診率92.0%であった.手 術組織診断悪性13例のCB組織診断の内訳は,検体不良1例,陰性3例,疑陽性1例,陽性8例で感 度は69.2%であった.いっぽう細胞診断は,疑陽性3例,陽性10例で感度は100%であった. まとめ 今回の検討ではEUS-FNA細胞診断がCB組織診断より良好な結果を得た. Key words:EUS-FNA,On-site cytology,Sampling technique,Quality control 超音波内視鏡下穿刺吸引法で得られた検体処理の工夫と 病理・細胞診の精度 高須賀 博久 1) ,畠  榮 1) ,成富 真理 1) ,日野 寛子 1) ,物部 泰昌 2) 川崎医学大学附属川崎病院病理部 1) ,川崎医学大学附属川崎病院病理科 2) Ⅰ.は じ め に 腹腔内病変等に対し,EUS-FNAは低侵襲の検査法 で質的診断に有用な手段として普及している.今回 我々は,EUS-FNAで得られた検体での当院の処理方 法を紹介し,病理診断と細胞診断の精度について検討 した. Ⅱ.検体処理方法とその工夫 当院では細胞検査士が採取現場に出向き,その場で 検体処理を行い(いわゆるon-site cytology),その結 果を臨床に報告した.持参する器具は,固定液,スラ イドガラス,カバーガラス,滅菌シャーレ,ピンセッ ト,ライト,Diff-Quik ® 染色セット,細胞保存液(Cyto Rich ® )および10%ホルマリン固定液などである. EUS-FNAにより生検針内に採取された検体をスタ イレットの挿入により圧をかけてシャーレに押し出 し,透明感のある白色調の微小組織片をピンセットで 摘みスライドガラスに載せ,2枚の圧挫細胞診標本を 作製した.そのうち1枚の標本は,Diff-Quik ® 染色を 行い検体採取の適否を確認した.採取された検体中に 凝血塊が認められた場合は10%ホルマリンで固定し, 通常の方法でパラフィン包埋組織標本を作製した.採 取された検体に細胞保存液を加え,その中の微小組織 片を用いてCB組織標本を作製した.残りの検体はFile Cup Super ® を使用したフィルター法で細胞診標本を 作製した.各種標本の作製過程を図1に示した. CB組織標本の作製方法(図2)は,細胞固化法で行っ た.①シャーレの検体をピペットで遠沈管に入れ, 2,000回転5分遠心し,②沈渣に10%ホルマリンを加え て1時間固定した.固定後再度2,000回転5分遠心し, ③沈渣に1%エオジンを1滴加え撹拌し局方エタノー ルを加えた.次にその液をアジア器材の綿棒チューブ ® に移し2,000回転5分遠心し,④沈渣にHOLDGEL110 ® Hirohisa TAKASUGA,C.T.,I.A.C. 1) , Sakae HATA,C.T.,C.F.I.A.C. 1) , Mari NARITOMI,C.T.,I.A.C. 1) , Hiroko HINO, C.T.,I.A.C. 1) , Yasumasa MONOBE,M.D 2) . Department of Pathology,Kawasaki Hospital Kawasaki Medical School 論文別冊請求先:〒700-8505 岡山県岡山市北区中山下2-1-80 川崎医科大学附属川崎病院病理部 高須賀 博久

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原  著

日本臨床細胞学会岡山県支部会誌

目的 超音波内視鏡下穿刺吸引法(Endoscopic Ultrasonography-guided Fine Needle Aspiration 以下EUS-FNA)で採取された検体の処理方法と,診断精度を検討した.検体処理方法 細胞検査士がEUS-FNAで採取された検体をその場で処理し,圧挫細胞診標本を作製しDiff-Quik®染色で採取の適否を確認した後,Cell block(以下CB)標本とフィルター細胞診標本を作製した.対象と方法 2011年~2012年の2年間で病理診断の得られた75例を対象に,細胞診断精度を検討した.さらに,手術施行例の組織診断で悪性とされた13例を対象に,細胞診断とCB組織診断の感度を比較した.診断精度の結果 対象の細胞診断精度は,感度は95.0%,特異度80.0%,正診率92.0%であった.手術組織診断悪性13例のCB組織診断の内訳は,検体不良1例,陰性3例,疑陽性1例,陽性8例で感度は69.2%であった.いっぽう細胞診断は,疑陽性3例,陽性10例で感度は100%であった.まとめ 今回の検討ではEUS-FNA細胞診断がCB組織診断より良好な結果を得た.

 Key words:EUS-FNA,On-site cytology,Sampling technique,Quality control

超音波内視鏡下穿刺吸引法で得られた検体処理の工夫と病理・細胞診の精度

高須賀 博久1),畠  榮1),成富 真理1),日野 寛子1),物部 泰昌2)

川崎医学大学附属川崎病院病理部 1),川崎医学大学附属川崎病院病理科2)

Ⅰ.は じ め に

腹腔内病変等に対し,EUS-FNAは低侵襲の検査法で質的診断に有用な手段として普及している.今回我々は,EUS-FNAで得られた検体での当院の処理方法を紹介し,病理診断と細胞診断の精度について検討した.

Ⅱ.検体処理方法とその工夫

当院では細胞検査士が採取現場に出向き,その場で検体処理を行い(いわゆるon-site cytology),その結果を臨床に報告した.持参する器具は,固定液,スライドガラス,カバーガラス,滅菌シャーレ,ピンセッ

ト,ライト,Diff-Quik®染色セット,細胞保存液(Cyto Rich®)および10%ホルマリン固定液などである.EUS-FNAにより生検針内に採取された検体をスタイレットの挿入により圧をかけてシャーレに押し出し,透明感のある白色調の微小組織片をピンセットで摘みスライドガラスに載せ,2枚の圧挫細胞診標本を作製した.そのうち1枚の標本は,Diff-Quik®染色を行い検体採取の適否を確認した.採取された検体中に凝血塊が認められた場合は10%ホルマリンで固定し,通常の方法でパラフィン包埋組織標本を作製した.採取された検体に細胞保存液を加え,その中の微小組織片を用いてCB組織標本を作製した.残りの検体はFile Cup Super®を使用したフィルター法で細胞診標本を作製した.各種標本の作製過程を図1に示した.CB組織標本の作製方法(図2)は,細胞固化法で行った.①シャーレの検体をピペットで遠沈管に入れ,2,000回転5分遠心し,②沈渣に10%ホルマリンを加えて1時間固定した.固定後再度2,000回転5分遠心し,③沈渣に1%エオジンを1滴加え撹拌し局方エタノールを加えた.次にその液をアジア器材の綿棒チューブ®

に移し2,000回転5分遠心し,④沈渣にHOLDGEL110®

Hirohisa TAKASUGA,C.T.,I.A.C.1), Sakae HATA,C.T.,C.F.I.A.C.1), Mari NARITOMI,C.T.,I.A.C.1), Hiroko HINO, C.T.,I.A.C.1), Yasumasa MONOBE,M.D2).Department of Pathology,Kawasaki Hospital Kawasaki Medical School

  論文別冊請求先:〒700-8505 岡山県岡山市北区中山下2-1-80          川崎医科大学附属川崎病院病理部          高須賀 博久

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を数滴滴下した.その上にメタノールを重層し,固化のため1晩放置した.固化したHOLDGEL110®は,綿棒チューブ®の底をハサミで切断して局方エタノールの中に取り出し,通常の方法でパラフィン包埋組織標本を作製した.

Ⅲ.診断精度の対象と方法

2011年~2012年の2年間に行われたEUS-FNAは 79症例で,そのうち病理診断で検体不良とされた4例を除く75症例を対象に,EUS-FNA細胞診断の精度について検討した.方法は,CB組織診断または手術組織診断での最終病理診断を基に陰性,疑陽性および陽性に区分し,陰性には非腫瘍性病変,疑陽性には良性腫瘍性病変・異型細胞・境界腫瘍性病変,陽性には悪性腫瘍性病変を分類した.EUS-FNA細胞診断も病理診断と同様に陰性,疑陽性および陽性に区分し,陰性はパパニコロウ分類のClass1~2,疑陽性はパパニコロウ分類のClass3,陽性はパパニコロウ分類のClass4~5に分類し,EUS-FNA細胞診断の感度,特異度および正診率

をもとめた.さらに,75症例のうち手術施行例で組織診断が悪性とされた13症例を対象として,CB組織診断とEUS-FNA細胞診断の感度をもとめ比較検討した.

Ⅳ.診断精度の結果

a) CB組織診断または手術組織診断とEUS-FNA細胞診断の比較CB組織診断または手術組織診断で陰性とした症例

は15例(20.0%)あり,その細胞診断の内訳は,陰性12例,陽性2例および検体不良1例であった.細胞診断が陰性の12例の内訳は,非悪性1例,膵嚢胞性病変2例,慢性膵炎4例,胆管炎1例,自己免疫性膵炎(IgG4+)1例,肝膿瘍1例,脾膿瘍1例およびリンパ節転移無1例であった.細胞診断が陽性の2例は明らかな腺癌細胞(図3)を認め陽性としたが,CB組織診断では異型細胞を認めず非悪性とされた.しかし,これら2例は臨床的には明らかな浸潤性膵癌であった.細胞診断が検体不良の1例は,上皮細胞成分を認めず検体不良とした.

図1 EUS-FNAで採取された検体から各種標本の作製過程

図2 Cell block組織標本の作製方法

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18 日本臨床細胞学会岡山県支部会誌

病理診断で疑陽性とした症例は11例(14.7%)あり,その細胞診断の内訳は,疑陽性5例,陽性3例,陰性2例および検体不良1例であった.疑陽性5例の細胞診断は,異型上皮細胞1例,膵Intraductal papillary mucinous adenoma(以下IPMA)疑い1例および紡錘形細胞性腫瘍3例であった.これらの病理診断は順に膵異型上皮細胞1例,IPMA1例,胃Gastrointestinal stromal tumor (以下GIST)2例および腹膜デスモイド1例であった.細胞診断で陽性とした3例のCB組

織診断は,膵Intraductal papillary mucinous neoplasia(以下IPMN)1例と膵異型上皮細胞2例であった.しかし,これら3例は臨床的には明らかな浸潤性膵癌であった.細胞診断が陰性の2例は1例が悪性リンパ腫症例で,CB組織診断では異常リンパ球の集簇を伴う膵異型上皮細胞とされたが,細胞診では異常リンパ球等の異型細胞は認められなかった.他の1例は,手術組織標本で膵粘液性嚢胞性腺腫と診断された.細胞診断で検体不良の1例は,上皮細胞成分を認めず検体

図3 EUS-FNA細胞診断陽性でCB組織診断陰性の細胞像2症例(臨床診断:膵癌)

(左;症例1 パパニコロウ染色 ×60,右;症例2 パパニコロウ染色 ×60)

図4 胃GIST症例(左;EUS-FNA細胞診 パパニコロウ染色 ×20,

右上;CB組織標本 HE染色 ×20,右下;C-KIT免疫染色 ×20)

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不良とした.その病理診断は,十二指腸GISTであった.病理診断陽性は49例(65.3%)で,その細胞診断の内訳は,陽性45例と疑陽性4例であった.細胞診断が陽性の45例の内訳は,膵癌25例,転移性膵神経内分泌癌1例,肝内胆管癌1例,胆管癌6例,胆嚢癌2例,食道癌1例,腎盂癌1例,悪性リンパ腫2例,腹膜ユーイング肉腫1例,転移性肺癌3例,転移性子宮頸部癌1例および胃癌又は胆嚢癌1例であった.細胞診断が疑陽性の4例は,異型細胞の出現数が少なかったため確定診断に至らず疑陽性とした.その内訳は,膵癌1例,肝門部胆管癌2例および胆嚢癌1例であった.疑陽性を正診としたEUS-FNA細胞診断の感度は95.0%,特異度80.0%および正診率92.0%であった.以上を表1に示した.

b) 手術組織診断で悪性とされた症例のCB組織診断とEUS-FNA細胞診断の比較対象の75症例のうち,手術組織診断で悪性とされた13症例の内訳は,膵癌5例,肝内胆管癌1例,肝門部

胆管癌1例,中部胆管癌1例,下部胆管癌3例,胆嚢癌1例および悪性リンパ腫1例であった.CB組織診断の陽性は8例(61.5%)で,その細胞診断の内訳は,陽性7例と疑陽性1例であった.細胞診断が疑陽性の1例は,異型細胞がごく少数のため確定診断に至らず疑陽性とした.CB組織診断で疑陽性は1例(7.7%)で,その細胞診断は陽性であった.CB組織診断で陰性は3例(23.1%)で,その細胞診断の内訳は,疑陽性2例と陽性1例であった.細胞診断が疑陽性の2例は,異型細胞を認めたがごく少数のため確定診断に至らず疑陽性とした. CB組織診断で検体不良とされた1例(7.7%)は,細胞診断では腺癌細胞を認め陽性とした.それらを表2に示す.疑陽性を正診とした場合のCB組織診断の感度は69.2%で,細胞診断は100%であった.

Ⅴ.考   察

腹腔内腫瘤性病変に対し,これまでは画像診断による存在診断がなされてきたが,EUS-FNAの普及によ

表1 病理診断とEUS-FNA細胞診断の比較

表2 手術施行例で組織診断陽性のCB組織診断とEUS-FNA細胞診断の比較

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20 日本臨床細胞学会岡山県支部会誌

り簡便で安全に組織採取が得られるようになり,質的診断が可能となった.しかしながら,EUS-FNAで採取される検体は微小なことが多く,組織標本の作製には工夫が必要である.そのためには細胞検査士が現場に出向き,EUS-FNAで採取された検体を的確に処理し,良好な標本を作製することが大切である(図1).また,その場で細胞検査士が,検体採取の適否を術者に伝えることで穿刺回数を減らし患者の侵襲を低減できると考える.我々は,EUS-FNAで採取された検体から組織標本を作製するためにCBを用いている.CB組織標本の作製で細胞を効率よく収集する方法には,大きく分けて2通りの方法が行われている.一つは遠心分離細胞収集法としてのクロロホルム重層法,ナイロンメッシュ法,コロイジオンバッグ法,クライオバイアル法などがある.もう一つは細胞固化法として寒天やセルロース,アルギン酸ナトリウム,グルコマンナンなどを使用する方法である1).当院では,EUS-FNAで採取された検体に細胞保存液を加え,細胞固化法のグルコマンナンを成分とするHOLDGEL110®を用いてCB組織標本を作製している.そのため採取された検体の多くを組織標本にすることが可能で,微量な検体でも容易にCB組織標本を作製できる.CB組織標本の有用性については多くの報告がある1, 2).たとえば、連続切片を作製し免疫染色等を並行して行うことで,HE標本と同一細胞を免疫組織学的に観察することが可能となり,診断に対する高い有用性を得ることができる.今回検討した胃GIST(図4)の症例を例にとると,細胞診断では紡錘形細胞性腫瘍としか診断できなかったが,CB組織標本でC-KIT免疫染色を行うことで最終診断が可能であった.CB組織診断または手術組織断診での最終病理診断

におけるEUS-FNA細胞診断の検討では,感度95.0%,特異度80.0%および正診率92.0%であった.EUS-FNAの成績についてのこれまでの報告例では,感度83.3~97.2%,特異度100%,正確度84.3~97.9%と報告されている2~5).今回の検討結果の比較では,細胞診断の特異度がやや低かった.この理由としては,細胞診断陽性でCB組織診断陰性とされた症例が2例あったことが挙げられる.これら2例の細胞所見は,偏在性の核を有し核腫大や核小体の腫大がみられ明らかな腺癌であった(図3).さらに,これら2例は臨床的にも浸潤性膵癌と診断されていた.しかし,CB組織診断では異型細胞を認めず陰性とされていたためである.これら2例を細胞診断が正診として陽性に扱った場合の

EUS-FNA細胞診断の成績は,感度95.2%,特異度は92.3%および正診率は94.7%と向上した.次に,EUS-FNA細胞診断とCB組織診断の感度を比較するため,手術施行例の組織診断で悪性とされた13例で検討した結果では,CB組織診断の感度は69.2%に対し,EUS-FNA細胞診断の感度は100%であった.これらのことより,腺癌等の通常型の悪性症例においては,CB組織診断と比較してEUS-FNA細胞診断は,微量な検体であっても的確に異型細胞を塗抹でき,良好な標本作製が可能であるため診断精度が向上したと考えられた.しかしながら,胃GIST症例や腹膜デスモイド症例のように,細胞診断では紡錘形細胞性腫瘍としか診断できない症例があり,CB組織標本などの手法を用いて免疫染色を行うことで最終的な診断が可能であると考えられた.今回のEUS-FNA細胞診の検討は,圧挫細胞診標本とフィルターを用いた細胞診標本で行ったが,鮮明な細胞像と細胞保存が行えるLiquid-based cytology技術の応用もさらなる精度向上に期待できると考える.

Ⅵ.ま と め

EUS-FNAで得られる検体は微小な組織片のため,オンサイドで細胞検査士の目で確認し,的確にサンプリングを行い検体採取の適否を報告することは重要である.そして,細胞診標本ならびにCB組織標本の両方を作製することが,診断精度の向上に寄与すると考えられた.

文   献

1) 西 国広,國實久秋,渋田秀美,羽原利幸,濱川真治,藤田 勝.細胞診標本作製マニュアル(体腔液).細胞検査士会 2008;1:16-18.

2) 白波瀬浩幸,小畑彩子,平田勝啓,白井孝夫,辻眞里子,南口早智子,et al.超音波内視鏡下針穿刺吸引細胞診におけるセルブロック併用の有用性.日臨細胞誌 2011; 50:472.

3) 渋谷信介,河野幸治,松永 徹,本山睦美,大道清美,串田吉生,et al.当院における超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(EUS-FNA)の現状.日臨細胞誌 2012;51:367.

4) 井上博文,藤田 勝,松岡博美,今井みどり,那須篤子,森下由美子,et al.超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診における検体の取り扱いとその有用性【第二法】. 日本臨床細胞学会中国四国連合会会報 2009;24:39.

5) 羽場 真,山雄健次,水野伸匡,原 和生,肱岡 範,清水泰博.胆膵癌実施臨床の最前線-膵・胆道癌の診断と治療.内科 2011;107:375-382.