大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  ·...

24
大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から ○小林雅之(東京大学) ○濱中義隆(国立教育政策研究所) 劉文君(東京大学) 2013/05/26 1 日本高等教育学会第16回大会 III-5 「大学進学」部会 2013526日(日) 広島大学 学生への経済的支援の在り方に関する検討会 3回(6/17参考資料

Upload: others

Post on 08-Aug-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

大学進学と学費負担構造に関する研究

高校生保護者調査2012年から

○小林雅之(東京大学)

○濱中義隆(国立教育政策研究所)

劉文君(東京大学)

2013/05/26 1

日本高等教育学会第16回大会III-5 「大学進学」部会2013年5月26日(日) 広島大学

学生への経済的支援の在り方に関する検討会第3回(6/17) 参考資料

Page 2: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

発表内容

• 高校生の進路選択• CRUMP2006調査と高卒者保護者調査2012• 所得階層別進路と所得階層別成績別進路• 経済的理由で進学できなかった者の推計• 奨学金の認知度、貸与奨学金の回避傾向• 所得階層別教育費負担の構造• 教育費負担に対する保護者の意識

2013/05/26 2

Page 3: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

高校生の進路選択

• 日本社会における「格差の拡大」の懸念• 教育機会の格差に対する関心の高まり• 子どもの教育費を親(家計)が負担するのは当然であるという教育観と乏しい公的補助(機関補助と個人補助)

• 家庭の経済状況によって、教育機会、とりわけ多額の費用負担を要する大学への進学選択が大きく異なる

• 東京大学大学経営・政策研究センター・学術創成科研費(金子元久研究代表)「全国高校生・保護者調査」(以下、CRUMP2006)による一連の研究(小林(2008)など)

• 2012年高卒者保護者調査によりその後の動向を検証

2013/05/26 3

Page 4: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

4

進路選択の分析枠組

親の進路希

教育アスピ

レーション

家計特性 教育費負担

家計負担学

生生活費

学生特性

奨学金

2013/05/26

Page 5: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

2006年CRUMP調査

• 全国の2006年3月高校卒業予定者を母集団としたサンプリング調査

– 4,000名の高校3年生およびその保護者を対象にそれぞれ、アンケート調査を実施(2005年11月)

–層化二段抽出(全国400地点、地点あたり10世帯)によるエリアサンプリング(対象世帯の抽出)

• 詳細はhttp://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/cat77/cat81/

– 2006年3月に、卒業時点での進路状況を郵送または電話により追跡調査(3,493名、87.3%)

2013/05/26 5

Page 6: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

2012年高卒者保護者調査

• NTTオンライン・マーケティング・ソリューション社「gooリサーチ」を通じて実施

• 同サービスに登録しているアンケートモニタから、2012年3月に高校を卒業した子どもをもつ者を抽出(プレ調査を実施)したうえで、2012年10月にそれらの者を対象に本調査、1,064名が回答

• 全国の高校卒業者の保護者を母集団とする無作為抽出によるサンプリング調査とはいえない

2013/05/26 6

Page 7: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

2012年高卒者保護者調査と「学校基本調査」の比較

2013/05/26 7

学校基本調査(H24)

男子 女子 男子 女子

就職 16.5 15.3 就職 19.9 13.4

大学 49.4 51.3 大学 50.3 44.8

短大 0.9 5.7 短大 1.0 10.0

専各 8.1 14.7 専門学校 13.5 20.2

(進学先不明) 0.9 1.0

その他 24.1 12.0 上記以外 15.2 11.5

計 100 100 計 100 100

(N) (540) (524) (N) (531210) (521970)

保護者調査2012

Page 8: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

進路の比較

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

-400 400-600 600-800 800-1000 1000+0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

-400 450-600 625-800 825-1025 1050+

就職

専各

短大

国公立大学

私立大学

2013/05/26 8

CRUMP2006調査 2012年高卒者保護者調査

Page 9: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

成績別所得階層別大学進学率の比較

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

-400 400-600 600-800 800-1000 1000+0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

-400 425-600 625-800 825-1025 1050+

中の上

中の下

2013/05/26 9

CRUMP2006調査 2012年高卒者保護者調査

Page 10: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

経済的理由で進学できなかった者の規模の推計

• 高卒後の進路 就職 15.9%(2012年度学校基本調査では16.8%)

• 「経済的に進学が難しかった」– とてもあてはまる 2.1% あてはまる4.2% 計6.3%

• 「給付奨学金(返済不要)がもらえれば進学して欲しかった」• とてもあてはまる 1.2% あてはまる3.9% 計5.1%

• 進学できなかった者 6.6万人と5.4万人と推計(2012年度高卒者105万人)

2013/05/26 10

Page 11: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

日本学生支援機構奨学金の認知度

29.0%

59.0%

51.1%

30.4%

53.3%

38.3%

47.4%

51.8%

17.8%

2.7%

1.5%

17.9%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

就職

進学

浪人

アルバイト等

この奨学金のことをよく知っている 知っているが内容は詳しく知らない 聞いたことがない

2013/05/26 11

Page 12: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

奨学金を申請しなかった理由

21.7%

18.1%

12.2%

13.6%

5.4%

34.8%

26.4%

26.7%

19.3%

14.3%

10.9%

12.5% 9.7%

12.2%

28.4%

39.3%

28.3%

33.3%

44.4%

35.2%

39.3%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

-400万

425-600万

625-800万

825-1025万

1050万-

将来、返済できるか不安 よく知らなかったから 成績の基準に達しなかった 収入が高すぎた 必要ない

2013/05/26 12

Page 13: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

進学に要する費用の実態(年額:円)

授業料(等) 生活費 合計

国公立大学 自宅外 675,286(518,000)

1,013,043(1,076,000) 1,688,329

自宅 672,000(513,600)

554,795(370,300) 1,226,795

私立大学 自宅外 1,202,959(1,206,700)

1,031,507(1,040,500) 2,234,466

自宅 1,180,956(1,128,800)

576,450(372,300) 1,757,406

短大・専各 自宅外 1,089,000 875,000 1,964,000自宅 1,052,852 486,885 1,539,737

※括弧内は、平成22年度「学生生活調査」(日本学生支援機構)の集計値。ただし、「国公立」は、国立大学の数値※ここでの「自宅外」には、大学・学校の寮を含まない

132013/05/26

Page 14: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

所得階層別の進学費用(年額:円)

授業料 生活費 合計

〜400万 979,373 516,867 1,496,241

425-600万 1,010,437 632,813 1,643,250

625-800万 1,004,408 682,166 1,686,573

825-1025万 959,062 689,063 1,648,125

1050万〜 1,062,222 748,889 1,811,111

合計 1,005,509 666,086 1,671,594

• 「授業料」は所得階層による有意な差はない(p=.474)• 「生活費」は家計所得と相関あり(p=.004)。ただし中間の所得層では、あまり大きな差があるとはいえない。

142013/05/26

Page 15: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

所得階層別の進路(%)

~400 425-600 625-800 825-1025 1050~ 計

私立・自宅外 5.5 6.4 11.3 10.1 8.2 8.4

国公立・自宅外 3.7 7.9 8.9 11.7 9.2 8.4

私立・自宅 14.7 23.2 28.2 34.6 34.8 27.3

国公立・自宅 3.7 5.4 8.0 6.1 11.4 7.0

浪人 7.4 10.3 9.4 17.9 20.1 13.0

専各・短大 22.1 19.2 16.9 7.8 8.7 15.0

就職・その他 42.9 27.6 17.4 11.7 7.6 21.0合計(N)

100(163)

100(203)

100(213)

100(179)

100(184)

100(942)

• 中所得層以上では、自宅外進学率に大きな差はない(浪人生の進路、所得と地域の相関を考慮しなければならないが)

• 「625−800万」と「825-1025万」の間で、質的な断絶がある?152013/05/26

Page 16: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

家計による学費負担の構造授業料

0%

20%

40%

60%

80%

100%

生活費

0%

20%

40%

60%

80%

100%

全額

半分以上

半分

半分未満

全く負担してい

ない

• 全体的に所得と相関あるが、第3分位と第4分位の間に大きな差

• 所得の相関は授業料に比べて小さい• 中所得層でむしろ「半分」以下が多い

162013/05/26

Page 17: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

所得階層別、JASSO奨学金受給率(%)

~400 425-600 625-800 825-1025 1050~

併用 6.0 7.8 5.8 3.9 3.0

一種 13.3 8.6 5.8 3.1 2.2

二種 27.7 29.7 35.9 27.3 11.1

不採用 7.2 5.5 3.8 0.8 3.7

応募せず 45.8 48.4 48.7 64.8 80.0 計(N)

100(83)

100(128)

100(156)

100(128)

100(135)

平均受給額:円(受給者のみ)

65,706 71,123 73,192 64,182 68,182

• 「625-800万」以下では、いずれも46~47%の受給率• 中所得層においても奨学金が果たす役割は大きい

172013/05/26

Page 18: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

奨学金の認知度と大学進学率の関係

83.883.5

73.2

86.6

64.8

66.4

41.5

63.3

20.5

50.0

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100四年制大学への進学希望率(%)

1050万-

825-1025万

625-800万

425-600万

-400万

• 低所得層では、奨学金の認知が、大学進学率を高める効果あり

• 中所得層では、進学率の上昇よりも、費用負担の方策としての役割が大きい

182013/05/26

Page 19: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

教育費負担に対する保護者の意識(強くそう思う、そう思うと回答した者の比率、%)

~400 425-600 625-800 825-1025 1050~ 計

卒業までの学費・生活費は保護者が負担するのが当然だ

66.7 74.1 71.0 72.4 84.9 73.9

学費は保護者が出すが、生活費は子どもがある程度負担すべきだ

48.5 55.6 54.2 53.0 48.4 52.2

学費や生活費は奨学金やローンでまかない、本人が就職してから返すべきだ

52.7 50.2 48.1 33.7 28.0 42.7

返済が必要な奨学金は、負担となるので、借りたくない

52.7 52.7 53.7 54.1 62.4 55.1

• 「保護者による負担は当然」⇔「奨学金等による本人負担」(所得階層と相関あり)

• 一方で、「生活費の一部は本人負担」には、所得階層を問わず、一定の支持(授業料等の負担が、かなり厳しいことを示唆?)

• 所得階層間で「ローン回避」傾向に明確な差があるわけではないが、第二種奨学金受給者では1/3が肯定(利用せざるを得ない)

192013/05/26

Page 20: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

まとめとインプリケーション 1

• CRUMP2006と保護者調査2012の比較から・・・– 私立大学進学率については、所得階層と強い相関があり、2006 年と 2012 年でこの傾向は変わっていない

– 国公立大学進学率については、2006 年には所得階層と関連が見られなかったが、2012 年には強い相関関係が見られる

– 成績別に所得階層別4年制大学進学率をみると、2006 年には成績上位者では、所得階層との関連が見られなかったが、2012 年には他の者と同様、所得階層と強い相関が見られる

• 教育機会において、 2012 年には格差が拡大していることを示唆

202013/05/26

Page 21: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

まとめとインプリケーション 2

• 保護者調査2012における学費負担(負担観)の分析から・・・

–中所得層においては、自宅外通学を含めて大学進学は可能であるけれども、家計における費用負担は重い

–第二種奨学金が、中所得層における費用負担の方策として果たす役割は大きい(不可欠)

• 一方で、貸与額が大きくなれば、将来の返還のリスクも大きくなり、進学機会の選択に影響を及ぼすおそれ

212013/05/26

Page 22: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

まとめとインプリケーション 3

• 現行の貸与制の奨学金制度は、教育の機会均等に対して一定の効果をもたらしていることは明らかであるが、その効果は限定的

–低所得層に対して、給付制などより踏み込んだ経済支援制度が必要

–一方で、中所得層においても進学費用の負担は大きく、所得階層間での不公平感を生じさせない制度の構築が求められる

222013/05/26

Page 23: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

参考文献

• 小林雅之 2013年「大学の教育費負担 ー誰が教育を支えるのか」上山隆大他編『大学とコスト ー誰がどう支えるのか』岩波書店。

• 小林雅之編 2012年『教育機会均等への挑戦』東信堂。

• 小林雅之 2009年『大学進学の機会』東京大学出版会。

• 小林雅之 2008年『教育格差 ー深刻化する教育費負担問題』ちくま新書。

2013/05/26 23

Page 24: 大学進学と学費負担構造に関する研究2013/07/08  · 大学進学と学費負担構造に関する研究 高校生保護者調査2012年から 小林雅之(東京大学)

※進学費用の計算方法

授業料(年額)

調査票の選択肢 割り当て値

1. 60万円未満 = 500,000

2. 60〜100万円未満 = 800,000

3. 100〜150万円未満 = 1,250,000

4. 150〜200万円未満 = 1,750,000

5. 200〜300万円未満 = 2,500,000

6. 300万円以上 = 4,000,000

生活費(月額)

調査票の選択肢 割り当て値

1. 5万円未満 = 25,000

2. 5〜10万円未満 = 75,000

3. 10〜15万円未満 = 125,000

4. 15〜20万円未満 = 175,000

5. 20〜25万円未満 = 225,000

6. 25万円以上 = 275,000

242013/05/26