高齢者遭難時代の幕開け · 2012. 3. 23. · 1963 1965 1967 1969 1971 1973 1975 1977 1979...
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第3回山岳遭難事故調査報告書
高齢者遭難時代の幕開け
2005.7.14
日本山岳レスキュー協議会
青山講演概要より
警察庁データから得られるもの
警察庁2004年度山岳遭難事故と事故の経年変化
事故者総数は前年度より(1666人より1609人)と、57人減少したが、高止まり傾向が続いている。事故内容も2003年度に比べ大きな変化は見られない。減少の原因には道迷い者数が(640人から553人)87名減と大きく変化していることが大きい。ただ、道迷いの場合、千葉の大人数遭難のように1パーティが1回の事故で50名近い値を計上するため、変化幅の範囲と解釈される。
死者、行方不明者267名となった。これは、過去、平成11年に271名と最高記録を作った後、過去2番目の死亡者数である。しかし、死亡率(死者・行方不明/事故者総数)から見ると、ここ5年ほどはむしろ減少傾向にある
2004年;発生件数1321件、事故者総数1609名、死者行方不明267名
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200
400
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800
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1988
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2003
2004
事故者数と発生件数
発生件数死・不明負傷者無事救出遭難者総数
警察庁データに見る事故の経年変化(警察庁データ)
42年間における事故発生状況の経緯(警察庁データ)
0
200
400
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800
1000
1200
1400
1600
18001963
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1973
1975
1977
1979
1981
1983
1985
1987
1989
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
事故者数と発生件数
発生件数死・不明負傷者無事救出遭難者総数
42年間事故発生状況
遭難者総数と無事救出は推定値
1963-2004
参考;;1993年;昭和18生まれ50歳、団塊トップ昭和22年生まれ46歳
64
31
30
5
0
62
20
1
19
130
87
553
123
210
274
0 100 200 300 400 500 600
その他
不明
野生動物襲撃
鉄砲水
有毒ガス
悪天候
落雷
雪崩
落石
病気
疲労
道迷い
転落
転倒
滑落
該当者数
2004年度(H16) 事故態様
二大事故要因
転倒系
道迷い
転倒系(転落7.6%、滑落17%、転倒13.1%) 37.7%+道迷い 34.4%=72.1%
もし、全登山者が山岳会に参加すれば、単純に、組織の3.1%、の道迷い率を適用すると、
道迷い数は33人となり、全遭難者数は1609から減少して1089人となる
2004年度 事故態様(警察庁データ)
0
100
200
300
400
500
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700
H3
H4
H5
H6
H7
H8
H12
H13
H14
H15
H16
事故者数
H9~H11補間領域
道迷い
転・滑落
転倒
病気・疲労
道迷いと転・滑落を解決すれば山岳遭難は2/3解決
1991~2003 主な事故態様の経時変化(警察庁データ)
加齢により、道迷いが増加する(高年齢層60以上>道迷い)
0.0
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0
転・滑落割合(%)
道迷い割合(%)
H3-H15世代別
加齢の方向
15歳未満
15-19
20歳代30歳代
40歳代
50歳代
60歳代
70歳代
80歳代
加齢に伴う、世代別に見た道迷いと転・滑落の推移(警察+本調査)
認知症では街並失認、道順障害が始まる
山岳遭難事故調査データベースにおける遭難事故の概略
日山協、労山、都岳連(一部 日本山岳会)
山岳遭難事故調査データベース2004~2005年の主な出来事
• データベースは個人情報保護法を考慮に入れた形で再構築し、2005年3月までに関係機関、研究者に再配布した。
• その配布先については、すべて登録し、利用者に個人情報保護のための山岳遭難事故調査内規を提供した。
• 2005.6月現在で、レコード数535件• 日本山岳会よりデータの提供があった。当会は現在、本調査グループへの参加を検討中
山岳遭難事故調査データの推移
日本山岳会が参加2名は日本山岳会
発生年 女 男 総計2001以前 32 32 642002 53 54 1072003 98 99 1972004 88 73 1612005 1 1不明 4 5総計 271 263 535
男女ともに減少した
不明欄の総計5は発生年と性別(省略)の未記入
三大組織、事故発生状況 2003-2004
組織名 年度会員数(人)
事故者数(人)
対会員事故比x(1人:x人)
事故データベース数(人)
回収率(%)
日山協 2003 33003 171 193 29 17.0
2004 38534 103 374 34 33.0
労山 2003 22754 330 69 127 38.5
2004 21066 310 68 116 37.4
都岳連 2003 3654 10 365 5 50.0
2004 4513 9 501 9 100.0
3組織統合比較 2003-2004
年度 会員数 事故者数対会員事故比x(1:x)
事故データベース数
回収率(%)
2003 59,411 511 116 161 31.5
2004 64,113 422 152 157 37.2
4702人増 89人減改善(36人分)
4人減 改善(6%)
注意) 日山協は 2004.4~2005.3労山、都岳連 は 2004.1~2004.12
比較のため、1997年の少し古いデータであるが、ヨーロッパ、アルプス周辺のAlpine Clubではオーストリア267627人、スイス90145人、南部チロル32000人、ドイツ596084人で、計985916人、約100万人の会員数を誇っている。 事故比はドイツで220人に1人。
組織登山者の遭難割合
• 2004年段階で、組織人口(山岳会に属する)は日本山岳会の約6000人を加えて、約7万人程度、また事故者数は総数で約440名程度と予想される。
• 2004年度警察庁データが1609名の遭難者数であるから全事故者に占める組織者の割合は前年度(31%)より少し減って、27%となる。
組織データ(事故の繰り返し)
• 事故の再発性 <事故傾性の検討
同一人物による事故 3人/535人A(2003.8転倒,2004.6滑落)ともに脱臼※ 脱臼は繰り返す場合が多い。
B(2003.4転倒、2003.5転倒)打撲と骨折C(2003.8で9時雪渓が沈む、15時落石)きわめて珍しいケースで、それぞれ
上腕左、大腿右骨折
同じ山岳会で事故発生頻度
0
2
4
6
8
10
12
14g-1
g-2
g-3
g-4
g-5
g-6
g-7
g-8
g-9
g-10
g-11
g-12
g-13
g-14
g-15
g-16
g-17
g-18
g-19
g-20
山岳会グループ名
事故者数〔人〕
11人は同時事故
2人同時事故ともに死亡
3人同時事故
事故者の多い順に並べた山岳会の規模の違いがあるので、簡単な比較は難しい
2001-2004年における
事故の実態について
影響レベル 2001 2002 2003 2004 総計レベル1 0 0 0 0 0レベル2 1 4 18 9 33レベル3 39 77 127 122 376レベル4 7 13 25 18 64レベル5 4 8 7 5 25不明 4 5 20 7 37総計 55 107 197 161 535
★事故影響レベルについて
レベル1 インシデントレベル2 軽い傷害、自宅治療レベル3 入院による治療レベル4 長期入院、後遺症を残すレベル5 死亡
高齢者山岳遭難時代の幕開け
事故年齢の特徴
51-66歳にかけて女性の事故者が集中する。この年齢層だけで、女性全体の71%、男女全体では36%を占める。男女年齢別の事故態様分布ではTop9位までが女性が占め、すべて転落である。
女性の場合、50歳過ぎから始めた人が多く、
経験年数は10年付近にピークを持つ
30歳代
30歳代
40歳代
40歳代
50歳代
50歳代
60歳代
60歳代
70歳代
70歳代
10歳代
10歳代
20歳代
20歳代
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0
女
男
中高年
79%
男女の世代構成(50,60歳に注目)
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
2019212527293133353739414345474951535557596163656769717375
該当人数
女男
黒棒は 女性数が男性より多い場合白棒は 男性数が女性より多い場合
51歳~66歳区間 女性>男性
女性271名男性261名不明 3名
男女年齢別分布曲線とその差について
0
2
4
6
8
10
12
14
1659/女/転倒
52/女/転倒
61/女/転倒
56/女/転倒
64/女/転倒
63/女/転倒
54/女/転倒
60/女/転倒
62/女/転倒
53/男/転倒
57/女/転倒
53/女/転倒
58/女/転倒
54/男/転倒
53/男/滑落
65/女/転倒
49/女/転倒
57/男/転倒
55/女/転倒
68/女/転倒
該当人数
男女年齢別事故Top20 年齢+性+態様の関係 ※ ほぼ50歳以上 ※ 女性が多い ※ ほぼ転倒
1
111
109
876543
2
男女年齢別事故の発生数 Top20について
10歳~30歳
40歳代
50歳代
60歳代
70歳代
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
0-5 5-10 10-15 15-20 20-25 25-30 30-35 35-40 40-45 45-50 50-55
経験年数
該当者数
60歳代
50歳代
経験年数の分布範囲が広いのが特徴
男性における各世代ごとの経験年数
20歳~30歳
40歳代
50歳代
60歳代
70歳代
0
10
20
30
40
50
60
70
80
0-5 5-10 10-15 15-20 20-25 25-30 30-35 35-40 40-45 45-50
経験年数(年)
該当者数
経験年数が10年付近に集中する特徴がある
女性における各世代ごとの経験年数
事故年齢分布の現状と将来
• 中高年時代(40歳以上)から高年時代(60歳以上)の幕開け。
• 一方、中若年層( 40歳以下)の急激な減少により、若手指導者減少などの様々な世代ギャップが生まれようとしている
• 今後、高年齢化に伴う「病気・疲労」など事故の態様が変化し、しばらく、事故者数は高い値で推移しながら減少に転じ、大幅減少の日が来る可能性が高い。
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
35.0
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
各世代の割合(%)
団塊トップ50歳代に入る
50
60
40
50
60
30
70歳以上
20
19歳未満
20
70歳以上
40
数値は世代年齢
30
19歳未満
40歳世代の低下に注目、一方、60歳世代は30%を越えた。一世代の割合が
30%を越えるのは初めて。
各世代の事故割合の経年推移(警察庁データより)
0
5
10
15
20
25
3019
21
25
27
29
31
33
35
37
39
41
43
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47
49
51
53
55
57
59
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63
65
67
69
71
73
75
年齢
該当人数 消滅区間
高頻度事故発生区間
低頻度事故発生区間
中若年層の減少
過渡的領域
大学山岳部の激減
各世代の単純化モデルと将来予想
転倒とはどの様なものか
基礎体力
• 加齢に伴い、筋力、バランス、視力などが一様に減少していく。
• 加齢の影響を転倒問題においては、基礎体力、運搬重量、行程、天候、行動時間など、体力にみあった登山計画がダイレクトに影響すると予想される。
健康づくりのための運動ハンドブック(厚生省1987)より抜粋加工
50歳からの登山はある程度体力が低下してからのスタートであるから、座標軸がずれる
加齢に伴う体力要素(女性)
20.0%
30.0%
40.0%
50.0%
60.0%
70.0%
80.0%
90.0%
100.0%
110.0%
20-24
25-29
30-34
35-39
40-44
45-49
50-54
55-59
60-64
65-69
70-74
75-79
年齢(歳)
(%)
握力上体起こし長座体前屈反復横とび20mシャトルラン持久走・急歩立ち幅跳び
事故多発
加齢に伴う体力要素(女性の場合);文部科学省HPより加工
0.0
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
70.0
5-15 15-25 25-35 35-45 45-55 55-65
許容可搬荷重(kg)
該当者数
20歳代30歳代40歳代50歳代60歳代70歳代
加齢の方向
加齢により低下する許容可搬加重
0
10
20
30
40
50
0 10 20 30 40 50
許容可搬荷重(kg)
実荷重(kg)
許容可搬荷重と実荷重との関係
大部分は許容可搬荷重内で実荷重をかついでいるがかなりオーバーしたケースも多いなお、実荷重はアンケートにおける持参した用具、水、食料などから算出した
事故発生時刻
事故が発生しやすい時刻は、14時に見られる。一方、小ピークーとして9時に発生しやすい。前者は日帰りで、後者は宿泊の違いで現れる。
何故、いつの調査でも、事故は3/4行程で多発するのか。単に、時間の経過による疲労とすれば、矛盾する。集中力の低下など、ヒューマンエラーが入り込む状況が作られているのであろう。
(宿泊9:00),日帰り14:00にピークが現れる
0
5
10
15
20
25
30
35
40
450:00
1:00
2:00
3:00
4:00
5:00
6:00
7:00
8:00
9:00
10:00
11:00
12:00
13:00
14:00
15:00
16:00
17:00
18:00
19:00
20:00
21:00
22:00
23:00
事故者数
日帰り宿泊
9:0014:00
和歌山集団事故11人9:00に発生,この値を1人とすればピークはほとんど無くなる
2時間のずれ
日帰り登山と宿泊登山に見る事故発生時刻
0
10
20
30
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70
80
90
100
1/4行程 2/4行程 3/4行程 4/4行程登山の行程
該当者数日帰り登山宿泊登山
事故の発生する登山行程
何故3/4に集中するのか。
筋肉疲労は4/4の方が大きい。
気のゆるみ?
ヒューマンエラー
0
10
20
30
40
50
60
70
1/4行程 2/4行程 3/4行程 4/4行程
該当者数
滑落転倒
日帰り
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
1/4行程 2/4行程 3/4行程 4/4行程
該当者数
滑落転倒
宿泊登山
0
10
20
30
40
50
60見え(聞こえ)なかった
気づかなかった
忘れた
知らなかった
深く考えなかった
大丈夫だと思った
あわてた
イライラしてた
疲れてた
無意識に手が動いた
やりにくかった
体のバランスをくずした
該当数
滑るバランスが崩れる足・膝の障害足下の確認ミス足下が見えない
場面の把握
思考の統合 感情・情動 作業・行動
代表的な事故時の動作とヒューマンエラー
転倒・滑落事故の原因・態様について
• 4年間のデータに見る態様分布はほとんど変化が見られない。つまり、組織層の高年齢化に伴う病気、疲労の増加は現在、夏期登山時に未組織で見られるような変化の兆候が現れていない。
• 転倒、滑落は加齢の影響が明確に現れ、特に転倒は年齢の関数として整理することが可能である
経年的に分布幅が小さく、各項目の持つ割合はほぼ固定されている
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
35.0
40.0
45.0
50.0
滑落
墜落
転倒
雪崩
道迷い
発病
疲労
野生動物・昆
虫の襲撃
落石
悪天候の為の行動不能
不明
有毒ガス
年別態様分布割合(%)
2001200220032004
滑落 21.2±3.8墜落 5.4±1.7転倒 45.1±2.4道迷い 2.6±0.5疲労 4.3±1.7発病 1.7±0.6
2001~2004 態様分布特性
0
10
20
30
40
50
60谷川に沿う沢道
谷山を削った道
平坦な道
樹林帯
雪渓
雪田
岩山をぬう道
斜面沿いの道
尾根道
岩山をぬう道
岩山を削った道
河床
荒れ地
崩土地帯
湿地帯
山頂
該当者数
滑落墜落転倒
どの様な場所で転倒・滑落するのか
0
5
10
15
20
25氷瀑
氷雪斜面
土砂斜面
沢すじ
雪壁 滝
ガレバ
岩壁
岩場斜面
河床
やぶ
がけ地
その他
該当者数
転倒墜落滑落
どの様な場所で転倒・滑落するのか
道迷い事故が発生した場所
(左表;クライミング系)、(右表;縦走系)
道のない場所 道のある場所氷瀑 0 谷川に沿う沢道 2氷雪斜面 3 谷山を削った道 1土砂斜面 2 平坦な道 1沢すじ 3 樹林帯 1雪壁 1 雪渓 1滝 0 岩山をぬう道 1ガレバ 1 斜面沿いの道 2岩壁 0 尾根道 2岩場斜面 2 岩山をぬう道 1河床 1 河床 1やぶ 1 計 13がけ地 1その他 1計 16
道のない場所での発生が多い
3大動作 1.滑る、2.バランス崩し、3.足下の確認ミス >ヒューマンエラー
0
50
100
150
200
250滑る
バランスが崩れる
足・膝の障害
足下の確認ミス
足下が見えない
めまい
病気
疲労
足場が崩れた
引っかかり
引っかかり 木の根
引っかかり 岩角
引っかかり 突起物
引っかかり その他
衝突 人
衝突 岩肌
衝突 木
衝突 その他
ザイルに引っ張られる
アイゼンが外れる
押される
その他
該当者数
滑落墜落転倒引っかかり 衝突
事故時の動作
体力の低下
集中力低下
登り下り斜面の傾斜角とクライミング系、一般登山系でのデータ比較
クライミング系では60度以上の傾斜で、登りに多く発生。
一般登山では、圧倒的に下りで、中程度の傾斜に発生が多発する。
0
20
40
60
80
100
120
140
ほぼ水平
傾斜面(0~9度)
やや急斜面(10~29度)
急斜面(30~59度)
壁(60度以上)
該当者数
クライミング系縦走・山歩き
登り斜面
0
20
40
60
80
100
120
140
ほぼ水平
傾斜面(0~9度)
やや急斜面(10~29度)
急斜面(30~59度)
壁(60度以上)
該当件数
クライミング系縦走・山歩き
下り斜面
男女で差があるが、加齢の影響は同様の傾向を示す、影響因子は山行形態の変化より、筋力・バランス低下
%
y = 8.1322x - 2.8528
R2 = 0.9397
y = 9.2706x + 16.199
R2 = 0.9048
0.0
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
70.0
80.0
20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代
各世代ごとの態様分布(転倒に注目)(%)
女性男性線形 (男性)線形 (女性)
転倒は女性に多く、加齢の影響が明確に現れる
女性
男性
50歳から70歳への高齢化に伴い10数%発生量が増える
各世代ごとの態様分布(%)を求め、その中で「転倒」の占める割合
y = -5.9628x + 40.84
R2 = 0.842
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
35.0
40.0
20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代
各世代ごとの態様分布(滑落に注目)
女性男性線形 (女性)
女性は加齢とともに滑落が減少しており、山行の変化が見られる
男性は、変化が乏しく高齢者でも山行形態をあまり変化させていない
%
各世代ごとに態様分布(%)を求め、その中で「滑落」の占める割合
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
35.0
20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代
各世代ごとの態様分布(墜落に注目)
女性男性
クライミング系事故が大半を占めるため、男女での山行形態の違いが出る
%
各世代ごとに態様分布(%)を求め、その中で「墜落」の占める割合
複合原因
• 大部分の事故は複合原因が連鎖的に発生したと考えられるが、その根本的な登山者の基礎能力やヒューマンエラー的な因子の数量化が難しい。
• ここでは、事故以前に発生した問題・小事故と、事故との組み合わせについてまとめた。
• 参考に、535件の事故において、発生確率pを求めたが、最も発生頻度の高い転倒に支配された。その組み合わせの中で発生確率の最高値は「悪天候+転倒」p=0.076であった。
p滑落 6 0.010062墜落 4 0.002851転倒 3 0.021214雪崩 0 0.000335道迷い 13 0.001342
道迷い 発病 1 0.000839疲労 5 0.002348
野生動物・昆虫の襲撃 0 0.000335落石 1 0.001509
悪天候の為の行動不能 2 0.001006不明 0 0.000419有毒ガス 0 8.39E-05その他 2 0.005702
事故の態様p
滑落 12 0.014255墜落 5 0.004039転倒 12 0.030053雪崩 3 0.000475
予定変更 道迷い 1 0.001901発病 1 0.001188疲労 4 0.003326
野生動物・昆虫の襲撃 0 0.000475落石 2 0.002138
悪天候の為の行動不能 5 0.001425不明 0 0.000594有毒ガス 0 0.000119その他 4 0.008078
事故の態様
事故発生前に発生した小事故
p滑落 3 0.013416墜落 0 0.003801転倒 8 0.028285雪崩 0 0.000447道迷い 3 0.001789発病 3 0.001118疲労 7 0.00313
野生動物・昆虫の襲撃 0 0.000447落石 0 0.002012
悪天候の為の行動不能 2 0.001342不明 0 0.000559有毒ガス 0 0.000112その他 5 0.007602
事故の態様
メンバーの不調
注意、pは535件内での発生確率
事故発生までに生じた問題が、どのような事故に発展していったのか
例、前事故(道迷い)からずっと道迷いに発展するケースは少なく、他の事故へと発展している
事故連鎖について
悪天候、登山道の荒廃は行動を制約するか、転倒・滑落へとつながる。
p滑落 25 0.036056墜落 2 0.010216転倒 44 0.076017雪崩 1 0.001202道迷い 4 0.004807
悪天候 発病 2 0.003005疲労 5 0.008413
野生動物・昆虫の襲撃 0 0.001202落石 4 0.005408
悪天候の為の行動不能 12 0.003606不明 1 0.001502有毒ガス 1 0.0003その他 6 0.020431
事故の態様
p滑落 6 0.003354墜落 1 0.00095転倒 11 0.007071雪崩 0 0.000112道迷い 2 0.000447発病 1 0.00028疲労 2 0.000783
野生動物・昆虫の襲撃 0 0.000112落石 1 0.000503
悪天候の為の行動不能 4 0.000335不明 0 0.00014有毒ガス 0 2.8E-05その他 2 0.001901
事故の態様
登山道荒廃
事故発生前に生じた小事故
外傷部位と転倒・滑落
• 転倒、滑落によって受傷する場合、体のどの部位を損傷するのか、事故時の動きを知る上で、重要と考えている。損傷部位は事故履歴と考えると、事故時の受け身動作など様々な対策を考えることができる。
• 滑落と転倒とはどのような違いがあるのか。転倒も単にその場で倒れるような違いではないようである。
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
35.0
40.0
45.0
50.0
裂傷 打撲 骨折 脱臼 大出血 神経障害 その他
転倒、滑落における外傷の受傷割合(%)
転倒滑落
転倒、滑落に伴う外傷状況
右頭部 4.4躯幹 6.5腕部 17.4脚部 17.9
左頭部 11.1躯幹 9.2腕部 14.7脚部 18.7
転倒事故の外傷部位
頭部 21.8躯幹 17.0四肢 61.1
左頭部 16.2躯幹 15.9腕部 8.2脚部 12.2
右頭部 14.5躯幹 10.9腕部 10.4脚部 11.8
頭部 35.6躯幹 27.9四肢 36.5
滑落事故の外傷部位
12.1
7.5
1.1
11.5
35.1
6.3
26.4
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0
肩
上腕
肘
前腕
手首
手
指
腕部の外傷割合(%)
転倒時、腕部損傷状況(腕部のみ100%計算)
1.1
2.8
1.1
2.3
7.4
29.0
36.9
3.4
15.9
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0
股関節
大腿
ひざ
下腿
足首
足
足裏
足の甲
足指
転倒による股関節から脚部外傷割合(5)
関節系のダメージ大きい
転倒時、脚部損状況(脚部のみ100%計算)
0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 18.0 20.0
前頭
後頭
頭頂部
ひたい
目
ほほ
耳
あご
鼻
口
歯
首
転倒による頭部から首における外傷割合(%)
転倒は前転するケースが、後転するケースより多い。しりもち的なものではないようだ。なお、躯幹において胸は15件、背中は6件
後転
転倒による頭部、首の外傷状況
293
229
300
100
78
280
0
50
100
150
200
250
300
350
頭部 躯幹 四肢
該当件数
滑落転倒
滑落 120人、転倒 252人滑落は1人の受傷箇所が多く、転倒を遙かに上回る。1人あたりの平均受傷数は滑落6.9カ所/人、転倒1.8カ所/人
滑落と転倒の受傷数の違い
事故後の処理
• セルフレスキューに代表されるように、事故後の処置がどの程度取られるかによって、生死、後遺症などが決定づけられる。
• レスキュー者に事故の状態を簡易的にチェックする手法を提案する必要がある。
• 滑落、転倒による頭部損傷の割合が非常に高いにもかかわらず、応急処置に首の固定がなされていない。
0
20
40
60
80
100
レベル1 レベル2 レベル3 レベル4 レベル5事故影響レベル
該当者割合(%)
意識あり完全に失う呼べば答える
★事故影響レベルについて
レベル1 インシデントレベル2 軽い傷害、自宅治療レベル3 入院による治療レベル4 長期入院、後遺症を残すレベル5 死亡
見た目では、安易な救助要請かどうか、判断がつかない。
レベル5でも事故直後は意識がある。
事故影響レベルと意識状態
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
携帯薬の服用
酸素吸入
止血三角巾塗布薬
消毒
洗浄
体位変換
人工蘇生
注射
添え木あて
テーピング冷やす温めるその他
該当者割合(%)
「その他」 より抜粋シップをしてセイピングをし添え木をするツェルトによる保温経皮鎮痛消炎剤肩をタオルでつる自呼吸、心拍が有った為、呼びかけ繰返す車中にてニトロ服用足関節固定バンド(2枚使用)点眼
どの様な応急処置が取られたのか
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
冷やす添え木あて=首添え木あて=足添え木あて=手
添え木あて注射暖める
体位変換洗浄
人口呼吸心臓マッサージ
人口蘇生消毒止血
酸素吸入携帯薬の服用
その他
該当者数
完全に失う呼べば答える
行われていない
応急処置として、簡便な首の固定法の確立が望まれる
頭部外傷
滑落 35.6%
転倒 21.8%
意識状態が低下している登山者への応急処置について
0
5
10
15
20
25
30
350.1
0.16
0.25
0.330.5
0.66
0.911.31.51.82.5 3 44.65.5 7 8 101217192125293448627083
120
救出時間(時間)
該当者の割合(%)
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
救出割合(%)
1時間
2時間
5時間
8時間
救出時間(h) 救出割合 0.5 15% 1 時間 28 2 50 5 72 8 81 12 85 24(1日) 89 48(2日) 96 72(3日) 99 120(5日) 100
事故の連絡法; 携帯電話45.1%、無線6.8%、一般電話7.7%、歩いて40.4%
警察庁データ → 携帯37.5%、無線1.4%
救出時間の目安について 半数は2時間内に救助される
まとめ
• 2004年の事故は前年度より僅かに減少したが、依然高止まりしており、減少傾向は見られない。
• 山岳遭難は「中高年」時代が終了し、「高齢者」時代に入った。一方、40歳世代が非常に少なくなり、40歳以下の中若年層と高齢者層との世代ギャップ(技術の伝承不足、若手リーダー不足)が生まれようとしている。
• 組織系データには明確な加齢の影響が見られないが、未組織では夏場の「病気」が急増するなどの現象が生じている。いずれ、ともに高齢化の影響が現れることが懸念される。
• 本報告は転倒、滑落を中心にまとめた。転倒は、軽度の事故イメージで見られる傾向にあるが、事故内容は深刻であり、転倒時の受け身、事故後の応急処置法、特に首の簡易固定法などを急ぎ検討する必要がある。