若年教育訪問者に関する日豪比較 -...

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-- 日本国際観光学会論文集(第20号)March,2013 《論 文》 若年教育訪問者に関する日豪比較 Inbound short-term younger visitors are an extremely large group in Australia. For example, the international revenue brought in by educational tourists is a big plus for Australia. Meanwhile, Japan receives relatively few inbound educational tourists. However, as Japanese universities and colleges are starting to offer some attractive educational programs in various languages for short- term visitors, educational tourism in Japan now has greater potential to receive high-end youth visitors from all over the world. 1.はじめに 本論では観光客や短期研修プログラム の参加者などの人的移動に関する基礎的 なデータを用い、日豪両国の短期訪問者 の特徴について比較する。特に若年層の うち大学生に着目し、両国の特徴を述べ るだけでなく、教育観光などオーストラ リアの優れた点に注目する。日本と同様 にオーストラリアも地理的には外国人観 光客の受け入れに不利であるため、日本 における国際観光の活性化に応用できな いか考察したい。 2.日豪両国における短期訪問者に関す る先行研究 多くの国々にとって外国人観光客の受 け入れは経済的に重要である。さらに、 外国からの訪問者の受け入れは政治的に 重要であり、文化交流の面でも重要な役 割を演じている。日本の場合、バブル経 済期にはアウトバウンド観光が重視され ていたが、バブル崩壊後にはインバウン ド観光振興のための様々な施策が行われ ており、近年インバウンド観光に関する 研究や報告書も少なからず見られる。 インバウンド観光は首都圏だけでな く、地方でも重要である。たとえば鬼塚 (2006)は「ニセコ地域への外国人観光客 急増とその理由」の中で国際観光地とし てあまり知られていなかったニセコが民 間主導で成功を収めた事例について紹介 している(鬼塚2006:114-12)。国土交通 省近畿運輸局(200)は「全国で提供さ れている観光コンテンツの現状と課題に 関する調査報告書」を出版し、広域エリ アにわたる外国人客誘致の重要性につい て指摘している(国土交通省近畿運輸局 200:)。自治体国際化協会(2012)は 『自治体国際化フォーラム』誌にて「外国 人の視点を取り入れた訪日観光客誘致戦 略」について特集を組んでいる(自治体 国際化協会2012:2-22)。さらに、東日本 大震災後は政府や地方自治体が国際観光 による震災復興について積極的に取り組 んでいる。たとえばJNTOニューヨーク・ オフィス(2011)は震災後まもなく『2011 年3月11日後の日本のインバウンド・ツー リズム』(Japan's Inbound Tourism after March 11, 2011)を出版しており、震災 によるネガティブなイメージの払拭に取 り 組 ん で い る(JNTO New York Office 2001:1-3)。 他方、本研究の比較対象国であるオー ストラリアは若年層の訪問者の受け入れ に力を入れてきた。デビッドソン他 (2010)は『国際教育訪問』(International education visitation)の中で、修学期の 若者によるオーストラリア訪問の重要性 に つ い て 述 べ て い る(Davidson et al. 2010:2-)。菊池と有馬(2010)はオー ストラリア政府が若年層の観光客の受け 入れに力を入れており。中でもワーキン グホリデーや修学旅行の誘致が重要であ るとしている(菊池と有馬2010:41-42)。 実際、オーストラリア政府も教育観光 を重要視しており、オーストラリア政府 観光局(Tourism Australia:TA)の一 般向け概説書『インバウンドで成功する た め の プ ラ ン ニ ン グ』(Planning for Inbound Success)の 中 で、教 育 旅 行 客 (Education Travelers)の特徴について 扱っている(TA n. d.:16)。教育観光に 関する報告書もいくつか公開されてお り、連邦政府の『教育観光レポート』 (Study Tourism Report)だけでなく、ク イーンズランド州の『国際教育観光戦略』 (International Study Tourism Strategic Directions)やニューサウスウエールズ州 の『オーストラリアと NSW における国 者』(International Study Visitors to Australia and NSW)など、各 州政府もまた教育観光を重視している。 3.人的交流で見る日豪比較 景気低迷が続いている日本は海外渡航 者数が伸び悩んでいるとはいえ、今でも 海外からの訪問者数と比べればアウトバ ウンドが圧倒的に多い(図-1)。他方、 近年のオーストラリアは好景気が続いて いるが、類似したデータを見ると、日本 あさ みず むね ひこ 山口大学経済学部准教授 山口大学経済学部准教授

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Page 1: 若年教育訪問者に関する日豪比較 - JAFIT日本国際観光学会論文集(第20号)March,2013 《論 文》 若年教育訪問者に関する日豪比較 Inbound short-term

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日本国際観光学会論文集(第20号)March,2013

《論 文》

若年教育訪問者に関する日豪比較

Inbound short-term younger visitors are an extremely large group in Australia. For example, the international revenue brought in

by educational tourists is a big plus for Australia. Meanwhile, Japan receives relatively few inbound educational tourists. However,

as Japanese universities and colleges are starting to offer some attractive educational programs in various languages for short-

term visitors, educational tourism in Japan now has greater potential to receive high-end youth visitors from all over the world.

1.はじめに

 本論では観光客や短期研修プログラム

の参加者などの人的移動に関する基礎的

なデータを用い、日豪両国の短期訪問者

の特徴について比較する。特に若年層の

うち大学生に着目し、両国の特徴を述べ

るだけでなく、教育観光などオーストラ

リアの優れた点に注目する。日本と同様

にオーストラリアも地理的には外国人観

光客の受け入れに不利であるため、日本

における国際観光の活性化に応用できな

いか考察したい。

2.日豪両国における短期訪問者に関す

る先行研究

 多くの国々にとって外国人観光客の受

け入れは経済的に重要である。さらに、

外国からの訪問者の受け入れは政治的に

重要であり、文化交流の面でも重要な役

割を演じている。日本の場合、バブル経

済期にはアウトバウンド観光が重視され

ていたが、バブル崩壊後にはインバウン

ド観光振興のための様々な施策が行われ

ており、近年インバウンド観光に関する

研究や報告書も少なからず見られる。

 インバウンド観光は首都圏だけでな

く、地方でも重要である。たとえば鬼塚

(2006)は「ニセコ地域への外国人観光客

急増とその理由」の中で国際観光地とし

てあまり知られていなかったニセコが民

間主導で成功を収めた事例について紹介

している(鬼塚2006:114-12�)。国土交通

省近畿運輸局(200�)は「全国で提供さ

れている観光コンテンツの現状と課題に

関する調査報告書」を出版し、広域エリ

アにわたる外国人客誘致の重要性につい

て指摘している(国土交通省近畿運輸局

200�:�)。自治体国際化協会(2012)は

『自治体国際化フォーラム』誌にて「外国

人の視点を取り入れた訪日観光客誘致戦

略」について特集を組んでいる(自治体

国際化協会2012:2-22)。さらに、東日本

大震災後は政府や地方自治体が国際観光

による震災復興について積極的に取り組

んでいる。たとえばJNTOニューヨーク・

オフィス(2011)は震災後まもなく『2011

年3月11日後の日本のインバウンド・ツー

リズム』(Japan's Inbound Tourism after

March 11, 2011)を出版しており、震災

によるネガティブなイメージの払拭に取

り組んでいる(JNTO New York Office

2001:1-3)。

 他方、本研究の比較対象国であるオー

ストラリアは若年層の訪問者の受け入れ

に力を入れてきた。デビッドソン他

(2010)は『国際教育訪問』(International

education visitation)の中で、修学期の

若者によるオーストラリア訪問の重要性

に つ い て 述 べ て い る(Davidson et al.

2010:2-�)。菊池と有馬(2010)はオー

ストラリア政府が若年層の観光客の受け

入れに力を入れており。中でもワーキン

グホリデーや修学旅行の誘致が重要であ

るとしている(菊池と有馬2010:41-42)。

 実際、オーストラリア政府も教育観光

を重要視しており、オーストラリア政府

観光局(Tourism Australia:TA)の一

般向け概説書『インバウンドで成功する

た め の プ ラ ン ニ ン グ』(Planning for

Inbound Success)の中で、教育旅行客

(Education Travelers)の特徴について

扱っている(TA n. d.:16)。教育観光に

関する報告書もいくつか公開されてお

り、連邦政府の『教育観光レポート』

(Study Tourism Report)だけでなく、ク

イーンズランド州の『国際教育観光戦略』

(International Study Tourism Strategic

Directions)やニューサウスウエールズ州

の『オーストラリアと NSW における国

際 教 育 訪 問 者』(International Study

Visitors to Australia and NSW)など、各

州政府もまた教育観光を重視している。

3.人的交流で見る日豪比較

 景気低迷が続いている日本は海外渡航

者数が伸び悩んでいるとはいえ、今でも

海外からの訪問者数と比べればアウトバ

ウンドが圧倒的に多い(図-1)。他方、

近年のオーストラリアは好景気が続いて

いるが、類似したデータを見ると、日本

朝あ さ

水み ず

 宗む ね

彦ひ こ

山口大学経済学部准教授山口大学経済学部准教授

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日本国際観光学会論文集(第20号)March,2013

のバブル経済以降で海外渡航者が訪問者

を上回ったのは2008年以降のことである

(図-2)。

 日本における「若者の海外離れ」は少

子高齢化の影響を考慮すると必ずしも正

しい表現とは言い切れないが、日豪関係

に絞って見ると、日本人の海外渡航に関

するあまり好ましくないデータもいくつ

か見られる。たとえば訪豪日本人数はこ

こ数年減少傾向である。近年の訪豪日本

人を見ても、2007年に�7万304�人だった

ものが、2008年に4�万7232人、2009年に

3�万�4�6人と減少し、2010年に39万8188

人に回復したものの、2011年には33万

2700人と減少している(JNTO n. d. a.:

web)。

 さらに、オーストラリア政府観光局

(Tourism Australia : TA)に よ る と、

2011年にオーストラリアを訪問した日本

人33万26�3人のうち、1�歳未満が2万

7202人(8%)、1�-29歳が12万6766人

(38%)、30-44歳が8万�463人(26%)、

4�-�9歳が5万3262人(16%)、60歳以上

が3万9960人(12%)だった(TA 2012:

�)。つまり、日本からオーストラリアへ

の訪問者は比較的若い年代の比率が高い

ため、若年層の海外旅行者の絶対数が減

ることはオーストラリアにおける日本人

観光客の数が減る要因になり得る。

 オーストラリアへ訪問する人々のなか

で、日本は1990年代に首位を占めていた

こともある。たとえば1996年における日

本人渡豪者は81万3100人であり、国別短

期訪問者数のトップであった(BTR

1997:21)。しかし、1年以内の滞在期間

でオーストラリアへ訪問した人々を見る

と、近年では英語圏諸国だけでなく、中

国からの訪問者も2008年後半から日本を

上回るようになった(ABS 2011:web)。

 他方、日本へ訪問するオーストラリア

人は比較的順調に増加を続け、3.11の震

災の影響を受けた2011年以前は右肩上が

りの状況が続いた。しかし、1年未満出

国したオーストラリア人を見ると、こち

らも1994年から中国が日本を上回ってい

る(ABS 2011:web)。

出典:政府統計の総合窓口(2012)「出入国管理統計2011年」web

図-1 日本における訪日外国人数と出国日本人数(単位:人)

出典:ABS(2011)Overseas Arrivals and Departures, Australia, Dec 2011, web

図-2 1年未満のオーストラリア人出国者数とオーストラリアへの訪問者数(単位:人)

出典:JASSO(2012a)「平成23年度外国人留学生在籍状況調査結果」web

図-3 留学生数の推移(各年5月1日現在)

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日本国際観光学会論文集(第20号)March,2013

4.オーストラリアの強みから見る日本

への提言

 ここで、人的な移動のうち、若年層に

関連のあるものとして教育目的の移動に

ついて着目したい。3.11の影響を受け、

2011年度は減少したが、近年の日本にお

ける留学生の受け入れ数は著しく増加し

た。いわゆる留学ビザを有している留学

生は近年では10万人代で推移している

(図-3)。

 他方、JASSOの調査によると、日本に

おける短期教育プログラム(特にサマー

スクールなどのビザ無しプログラム)に

参加した外国人学生数は留学ビザを有し

ている学生と比べれば明らかに少ない

(表-1)。JASSO の短期教育プログラム

の調査はアンケート方式であるため、調

査漏れも十分考えられるが、学位留学と

比べれば短期教育プログラムの参加者が

少ない、あるいは短期プログラムの受け

入れに十分に力を入れていないことが想

定される。

 他方、オーストラリアにおける外国人学

生の受け入れ状況は日本と大きく異なって

いる。まず、オーストラリアの教育機関で

学ぶ外国人の年間受入数は近年�0-60万

人代で推移しており、日本よりも圧倒的に

多い(図-4)。大学だけでなく、英語学校

の ELICOS(English Language Intensive

Course for Overseas Students)や職業訓

練校(この図では Vocational Education)

の TAFE(Technical and Further

Education)などでの受け入れも充実して

いる。オーストラリアの大学や職業訓練

校もアメリカと同様に様々な年齢層の学

生が受講していると想定されるが、一般

的に留学生の年齢構成もまた多様である

と想定されるので、大量の留学生を受け

入れることは教育機関のさらなる多様化

につながることが期待される。

 さらに、オーストラリアではいわゆる

「教育観光」と呼ばれる短期教育プログラ

ムが発展しており、留学ビザ無しでも外

国人が学べる機会が多い。典型的なもの

として、午前中は英語の学習、午後にバ

スツアー等のアクティビティがセットに

なっている外国人向けのプログラムが従

来から行われてきた。近年ではアクティ

ビティの部分にボランティアや職場体験

など、参加者のニーズに応じた様々なプ

ログラムが多数整備されており、そのた

め、オーストラリアへ教育目的で入国し

た短期訪問者は海外へ教育目的で出国し

たオーストラリア人の数を遥かに上回る

ようになった(図-5)。

 オーストラリアで発展しているような

表-1 日本における短期教育プログラムによる外国人学生受入れ状況(2010年度)

プログラム実施レベル

2週間未満2週間以上1か月未満

1か月以上3か月未満

3か月以上6か月未満

合 計 構成比

大学院 363 77 186 39 66� 12.6%大学学部 1,092 1,606 701 11� 3,�14 66.4%短期大学 111 96 0 0 207 3.9%レベルを判断できない

167 4�6 269 12 904 17.1%

計 1,733 2,23� 1,1�6 166 �,290 100.0%

出典: JASSO(2012b)「平成22年度短期教育プログラムによる外国人学生受入れ状況調査結果」web

出典:AEI(n. d.)International student data 2011, web

図-4 オーストラリアで学ぶ留学生数

出典:ABS(2010)Overseas Arrivals and Departures, Australia, Jan 2010, web

図-5 教育目的のオーストラリア人短期出国者数とオーストラリアへの短期訪問者数

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日本国際観光学会論文集(第20号)March,2013

外国人向けの短期教育プログラムを強化

することにはいくつかのメリットがあ

る。まず、短期プログラムは学位留学と

比べれば安いため、多くの人にとって手

軽に参加しやすい。オーストラリアにお

ける短期教育プログラムはより多くの知

豪派(親豪派とは限らない)を輩出する

のに貢献していると思われる。経済的な

メリットを考えても、短期教育プログラ

ムはプログラムそのものの経済効果だけ

でなく、将来の学位留学生を生み出す効

果や学位留学生が将来優秀な人材として

オーストラリアで活躍する可能性も想定

できる。

 なお、オーストラリアにおける短期教

育プログラムの多くは英語で開講されて

いるため、そのまま日本で応用すること

にはいくつかのハードルがある。まず言

語面だが、日本における短期教育プログ

ラムには日本語で開講しているものと英

語で開講しているものがある。日本語の

習得のために日本語で開講している短期

プログラムは従来から行われてきたが、

英語開講プログラムは近年少なからぬ大

学で注目されるようになってきた。もち

ろん日本語話者よりも英語話者の人口が

多いことがこの背景としてあるが、日本

では英語が日常的に使われているとは限

らないので、オーストラリアとは違った

切り口から短期教育プログラム、特に英

語プログラムについての可能性について

考えたい。

 日本の場合、政府や地方自治体などの

公的機関が外国人の若者を積極的に受け

入れている事例が少なからず見られる。

たとえば日本では外国人向け教育旅行の

推進策として文部科学省が中心に200�年

から「フレンドシップ・ジャパン・プラ

ン」を実施してきた。特に東日本大震災

後は日本の復興と安全性をPRするため、

2012年には文部科学省、外務省、観光庁

と東日本の諸大学が共同で「ジャパン・

スタディ・プログラム」を実施している

(文部科学省2012:web)。同じく2012年

には外務省が中心に「キズナ強化プロジ

ェクト」を実施し、2週間から12か月ま

で公的な教育機関に滞在しながら教育観

光を行える海外の若者たちの招聘と日本

人の海外派遣を実施している(外務省

2012:web)。

 地方レベルでもたとえば大分県は2011

年に「訪日教育旅行に伴う学校交流受入

れマニュアル」を製作している(大分県

2011:web)。山口県でも2012年に「Road

to Japan」という国際青少年交流プログ

ラムを実施しており、県内の大学や青少

年自然の家、高校などで地元の学生や生

徒との体験活動を試みている(ボーイス

カウト山口県連盟2012:web)。

 ここで、日本における外国人学生と地

元学生との交流について考えたい。日本

における英語開講プログラムでは日本の

経済や現代社会について入門的な授業を

行っているものが少なくない。これだけ

でもある程度の学習効果が期待される

が、残念ながら日本人学生との交流機会

が極めて少ないプログラムも見かけられ

る。オーストラリアにおける地元学生協

力型プログラムの逆バージョンである

が、日本でもいくつかの大学で既に試み

ているように、日本人学生をプログラム

運営のボランティア等で取り入れれば、

教室の外を含めたより広い範囲で日本理

解を促すことが可能である。さらに、い

くつかの大学では外国人向け英語開講プ

ログラムに対する日本人受講者の受け入

れも行っており、外国人と日本人が共に

学べる環境が整いつつある。この場合、

日本人学生の英語力強化や異文化理解能

力の向上も期待され、将来日本人学生が

留学や海外勤務などで活躍するための足

がかりになることも想定されよう。

5.おわりに

 本論では短期訪問者に関する基礎的な

データや幾つかの事例を用い、日豪両国

のインバウンド訪問者の特徴について比

較してきた。日本と同様にオーストラリ

アも外国人観光客の受け入れに関して地

理的に不利であるため、オーストラリア

の成功体験が日本における国際観光の活

性化に応用できないか考察してきた。

 本論では特に教育観光と称される短期

間の教育プログラムに着目したが、この

分野はオーストラリアにおいて質量共に

発展してきた。日本の場合は公的な受け

入れプログラムについての質的な評価は

できるが、商業ベースとして成り立つ程

度の量的な教育観光を発展させるために

はまだまだ改善の余地がある。

 日本とオーストラリアでは日常的に使

用する言語が違うのでそのまま他国のプ

ログラムを導入することは難しい。しか

し、オーストラリアで優れている点を日

本で応用し、さらに独自に発展させるこ

とは外国からの訪問者を増やす(あるい

は知日派を増やす)だけでなく、日本人

学生との友好関係を構築する(あるいは

親日派の育成)ことや、日本人学生自身

の実践的なスキルアップにもつながるだ

ろう。

参考文献

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Departures, Australia, Dec 2011,

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日本国際観光学会論文集(第20号)March,2013

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g=true&seldspnm=&syoclscd=all&do

cclscd=all&keyw1=&keyw2=&keyw3

=&keyw4=&operator1=AND&operat

or2=AND&operator3=AND&SYOna

me=&gengo_from=Y&nendo_from=

&gengo_to=Y&nendo_to=&dispcount

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Tourism NSW

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【本論文は所定の査読制度による審査を経たものである。】

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