たばこ自動販売機における成人識別機能の費用対効果kkojima/seminar/soturon/10e0293.pdf ·...

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1 たばこ自動販売機における成人識別機能の費用対効果 * taspo を例にして 名古屋学院大学 経済学部 経済学科 学籍番号 10e0293 氏名 古奥和樹 キーワード 日本専売公社、taspotaspo 導入後の副次的効果 要旨 1985(昭和 60)4 1 日に中曽根内閣の行政改革により、日本専売公社は日本たばこ産業株 式会社へ民営化した。酒類とともに、たばこは大人の嗜好品であり、民営化後もたばこ産業は順調 に成長し続けた。しかし、最大の課題は未成年者の喫煙と言える。未成年者喫煙禁止法により規 制をされているにも関わらず、20 歳未満の喫煙者はゼロにならない。そこで財務省認可の下、未 成年者喫煙撲滅のために行われた対策が「taspo(タスポ)」である。taspo 2008(平成 20)3 1 日から試験導入が開始され、導入エリアを順次拡大し、同年 7 1 日に全国稼働となった。非接 触型 IC カードを用いてたばこを購入する方法は世界的にも稀な存在だけに、本論文では日本で どのような効果が得られたかを論述する。 現在、taspo が導入されてから、約 1 年半以上が経過している。taspo 導入直後の未成年者の 喫煙による補導件数は確かに減尐した。それは成人識別システムを導入し、taspo カードを所持し なければ、たばこ自動販売機での購入が不可能になったからである。しかし、20 歳未満の喫煙者 はコンビニエンスストア(以下、コンビニ)でのたばこ購入や、taspo カードを所持している成人喫煙 者から taspo カードを借用するなどと、様々な抜け道を利用して喫煙している。また、taspo 導入の 副次的効果として、たばこ自動販売機・コンビニ・たばこ小売店を例に挙げた。コンビニでは一時的 に利益が発生したが、たばこ小売店では売上低下による廃業という大きな損失が出たという事例か ら、約 800 億円の投資に対する効果は十分でないと結論付けた。 また、taspo 以外の未成年者の喫煙規制方法もある。taspo 同様の技術による規制で、顔認証 自動販売機と運転免許証認証機が挙げられる。これらと taspo との相違点は費用の違いである。 年間運用費が約 100 億円かかる taspo に対し、顔認証自動販売機と運転免許証認証機のランニ ングコストは、ほぼ不要となる。よって、この 2 つの規制方法は費用が taspo と比較すると格段に抑 制され、副次的効果も尐なく、たばこ小売店は廃業せずに済む可能性がある。以上の理由からこ 2 つの技術を普及させることを提案する。(18 ) * 本稿は、第 8 回経済学部卒業研究発表会にて報告(2009 12 9 日名古屋国際会議場)

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1

たばこ自動販売機における成人識別機能の費用対効果*

- taspoを例にして -

名古屋学院大学 経済学部 経済学科

学籍番号 10e0293 氏名 古奥和樹

キーワード

日本専売公社、taspo、taspo導入後の副次的効果

要旨

1985(昭和60)年4月1日に中曽根内閣の行政改革により、日本専売公社は日本たばこ産業株

式会社へ民営化した。酒類とともに、たばこは大人の嗜好品であり、民営化後もたばこ産業は順調

に成長し続けた。しかし、最大の課題は未成年者の喫煙と言える。未成年者喫煙禁止法により規

制をされているにも関わらず、20 歳未満の喫煙者はゼロにならない。そこで財務省認可の下、未

成年者喫煙撲滅のために行われた対策が「taspo(タスポ)」である。taspoは 2008(平成 20)年 3月

1日から試験導入が開始され、導入エリアを順次拡大し、同年 7月 1日に全国稼働となった。非接

触型 IC カードを用いてたばこを購入する方法は世界的にも稀な存在だけに、本論文では日本で

どのような効果が得られたかを論述する。

現在、taspo が導入されてから、約 1 年半以上が経過している。taspo 導入直後の未成年者の

喫煙による補導件数は確かに減尐した。それは成人識別システムを導入し、taspo カードを所持し

なければ、たばこ自動販売機での購入が不可能になったからである。しかし、20 歳未満の喫煙者

はコンビニエンスストア(以下、コンビニ)でのたばこ購入や、taspo カードを所持している成人喫煙

者から taspoカードを借用するなどと、様々な抜け道を利用して喫煙している。また、taspo導入の

副次的効果として、たばこ自動販売機・コンビニ・たばこ小売店を例に挙げた。コンビニでは一時的

に利益が発生したが、たばこ小売店では売上低下による廃業という大きな損失が出たという事例か

ら、約 800億円の投資に対する効果は十分でないと結論付けた。

また、taspo 以外の未成年者の喫煙規制方法もある。taspo 同様の技術による規制で、顔認証

自動販売機と運転免許証認証機が挙げられる。これらと taspo との相違点は費用の違いである。

年間運用費が約 100 億円かかる taspo に対し、顔認証自動販売機と運転免許証認証機のランニ

ングコストは、ほぼ不要となる。よって、この 2つの規制方法は費用が taspo と比較すると格段に抑

制され、副次的効果も尐なく、たばこ小売店は廃業せずに済む可能性がある。以上の理由からこ

の 2つの技術を普及させることを提案する。(全 18頁)

* 本稿は、第 8回経済学部卒業研究発表会にて報告(2009年 12月 9日名古屋国際会議場)。

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目次

第1章 はじめに ....................................................................................................................... 3

第2章 たばこ産業をとりまく環境とその変化 .............................................................................. 4

2.1 たばこ産業の歴史 ....................................................................................................... 4

2.2 特殊法人から JT民営化へ ......................................................................................... 4

2.3 健康被害と規制強化 ................................................................................................... 5

第3章 成人識別の必要性と「taspo」システム ........................................................................... 7

3.1 成人識別の社会的必要性 ........................................................................................... 7

3.2 taspoの概要とシステム ............................................................................................... 8

3.3 taspoの導入経緯と現在状況 .................................................................................... 10

第4章 taspo導入による副次的効果 ..................................................................................... 12

4.1 たばこ自動販売機に与える影響 ................................................................................ 12

4.2 コンビニとたばこ小売店への影響 ............................................................................... 13

第5章 おわりに ..................................................................................................................... 15

参考資料 ............................................................................................................................... 17

参考文献 ............................................................................................................................ 17

参考サイト ........................................................................................................................... 17

図表番号 ............................................................................................................................ 18

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第1章 はじめに

1985(昭和60)年4月1日に中曽根内閣の行政改革により、日本専売公社は日本たばこ産業株

式会社(以下、JT)へ民営化した。酒類とともに、たばこは大人の嗜好品であり、民営化後もたばこ

産業は順調に成長し続けた。しかし、健康志向の高まった現在、消費者にあたる喫煙継続者は分

煙や禁煙区域の拡大などにより肩身の狭い思いをしている。また、未成年者喫煙禁止法により規

制をされているにも関わらず、20 歳未満の喫煙者はゼロにならない。そこで財務省認可の下、未

成年者喫煙撲滅のために行われた対策が「taspo(タスポ)」である。taspoは 2008(平成 20)年 3月

1日から試験導入が開始され、導入エリアを順次拡大し、同年 7月 1日に全国で稼働となった。非

接触型 IC カードを用いてたばこを購入する方法は世界的にも稀な存在だけに、日本でどのような

効果が得られるのか注視されている。

2009(平成 21)年 12 月現在、taspo が全国で稼働して 1 年半が経過した。導入当初の普及率

は約8%と鈍い伸びであったが、2009(平成21)年8月の社団法人日本たばこ協会(TIOJ)1の調査

結果によると約 34.9%まで普及している。導入後、確かに未成年者の喫煙補導は減尐し taspo導

入の成果はあったが、taspo カードの貸借による不正購入が起きている。また taspo 導入による副

次的効果が表れたのは、たばこを対面販売しているコンビニとたばこ小売店である。コンビニは短

期間ではあるが利益が増加し、たばこ小売店は利益減尐による廃業に陥ってしまうという両極端の

事態が発生した。

本稿では、未成年者の喫煙防止のために導入された成人識別システム taspo によって各方面

でどのような影響があったのかを明らかにする。まず、たばこ自動販売機は一時期、最大約 62 万

台もの台数が設置してあったにも関わらず、2009(平成 21)年 7 月末の社団法人日本自動販売機

工業会(JVMA)2の調査結果によると約 40.9 万台まで減尐している。減尐した推移や背景につい

てもグラフを用いながら説明していく。また taspo 導入による副次的効果がとりわけ大きかったコン

ビニとたばこ小売店に着目する。喫煙者のたばこ購入において欠かせないコンビニとたばこ小売

店では、たばこ自動販売機を設置し、対面販売も行っている。IC カード導入で双方が受けた影響

について言及する。また、未成年喫煙に対する規制の在り方について taspo以外での規制方法で

はどうなるかを推察する。

本稿の構成は以下の通りである。次章で、たばこ産業の歴史や日本専売公社の民営化につい

て述べる。次に第 3 章では、成人識別の社会的必要性とそれにより導入された taspo の概要を説

明する。続く第 4章では、taspoによる副次的効果をたばこ自動販売機・コンビニ・たばこ小売店を

例に挙げて論述する。そして最終章は結論として、約 800 億円の投資に対する効果は得られたの

かを考察する。また今後の展望としては、taspo 以外の成人識別機能付きたばこ自動販売機の機

能とその効果について推察する。

1 たばこに関する情報の収集および普及を通じ、たばこに対する社会の公正かつ客観的な理解促進に

貢献することを目的としている。 2自動販売機や金融機器(ATMなど)等の現金取扱機器の総合的な進歩発展、普及促進を図るとともに、

偽造貨幣への対策を検討し、日本経済の発展に寄与することを目的としている。

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第2章 たばこ産業をとりまく環境とその変化

本章では、たばこ産業の歴史や JT の民営化について論述する。まず 2.1 では、たばこ産業の

歴史的経緯に触れる。続く 2.2では、JTの民営化について言及する。最後に 2.3では、健康志向

の高まりとたばこの規制強化の関係性を述べる。

2.1 たばこ産業の歴史

本節では、たばこ産業の歴史に触れる。たばこ産業の歴史は第二次世界大戦にまで遡る。大戦

前は国の税収財源のうち約 20%をたばこの税収が占めていた。第二次世界大戦により、たばこ工

場の半数を失い生産能力が激減したため、戦後は 1人当たり 1 日 3 本の配給しかできなかった。

しかし、急速に経済が回復し成長過程にあった日本は1949(昭和24)年6月 1日に三公社五現業

3の 1 つである特殊法人日本専売公社を発足させた。日本専売公社はたばこ・塩・樟脳4の 3 つを

専売することができる特殊法人である。

1957(昭和 32)年には世界初のフィルター付きのたばこが発売になった。以前のたばこはフィル

ターがなく、加工されているい草をそのまま吸っているという感覚があったが、フィルターを付けるこ

とでその不快感がなくなり、より大人の嗜好品として認知されることとなった。現在ではマイルドセブ

ン・セブンスター・キャビン・キャスター・ピースなど様々な特徴を持つ商品が販売されている。

2.2 特殊法人から JT 民営化へ

本節では、日本専売公社の民営化について詳解する。前節でも記述したように 1949(昭和 24)

年に日本専売公社は発足したが、11年後の1960(昭和35)年2月25日の産業計画会議5にて「専

売制度の廃止を勧告する。専売公社の民営分割は議論の時代ではなく、実行の時代である」と発

表された。その 2年後の 1962(昭和 37)年 4月 1日に樟脳専売法廃止により樟脳が専売品から除

外された。その後、22 年間は特殊法人として日本専売公社は成り立っていたが 1984(昭和 59)年

8月 10日に専売改革関連法が成立し、1985(昭和 60)年 4月 1日に日本専売公社全ての業務が

JT に移行された。これと同時期に三公社五現業の一つである日本電信電話公社が日本電信電

話株式会社(NTT グループ)に移行された。3つ目の公社、日本国有鉄道は 1998(平成 10)年 10

月 22日に日本国有鉄道清算事業団に移行されたが、鉄道事業は 1987(昭和 62)年 4月 1日に

JRグループに移行された。

3公共企業体労働関係法、公共企業体等労働関係法、国営企業労働関係法、国営企業および特定独

立行政法人の労働関係に関する法律あるいは特定独立行政法人等の労働関係に関する法律(昭和

23年法律第 257号)の適用を受けていたか、あるいは現在も受けている公共企業体および国の経営す

る企業の総称である。 4 天然樟脳は楠 100%の天然素材で消臭剤・芳香剤として使用されている。 5 松永安左エ門が戦後日本の再建を目的に主宰した私設シンクタンク。

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民営化されたJTだが、特別法「日本たばこ産業株式会社法」による特殊会社6で、全株式の内、

半分以上は国(財務省)が保有しなくてはいけないと規定されている。こういった専売時代の名残も

あるが、JT へと民営化したメリットもある。それは多くの事業を展開できることである。専売時代はた

ばこ・塩・樟脳の 3 種類しか製造・販売を認可されていなかったが、民営化後は多くの事業に着手

できるようになった。現在、JT はたばこ製造の独占的販売を認められているため、たばこ販売国内

シェアは約 60%を占めている。しかし、たばこ産業だけに留まらず医療事業や食品事業も展開し

ており、JTは次世代の中核を担う事業として医療事業に力を入れている。

2.3 健康被害と規制強化

本節では、健康志向の向上によって規制された事実を述べる。まずたばこの健康被害について

言及する。喫煙に伴う急性障害として食欲低下・狭心症・不整脈・心筋梗塞・気管支炎・高血圧な

どが挙げられる。慢性障害として歯周病・脳卒中・肺気腫・動脈硬化などが挙げられる。これら以外

にも症状の事例はあるが、喫煙することでこれ程の健康被害が生じる可能性が高くなると示唆され

ている。以上のことから健康志向が高まり、規制が強化されるのは必然である。

表 1 規制の歴史

年月 規制の事例

1972年 財務省により、たばこパッケージ横面に「たばこの吸いすぎには注意しましょう」

の表示義務

1984年 1985年以降の「たばこ広告に関する指針」が財務省より出される

1985年 4月 財務省の指針に基づき、広告・販売促進活動に関する自主規準、包装表示に

関する規準を決定。午後 6 時から 8 時台の TVCM、女性向け雑誌、読者の

50%が未成年の雑誌、未成年に人気のある芸能人の起用等の自主規制。な

お、TV・ラジオ・雑誌に関しては 8月以降

1987年 8月 女性の喫煙を描いた広告の自主規制

1989年 1月 午前 5時から午後 8時の間の TVCMの自主規制

1990年 財務省の指導により、警告表示が「あなたの健康を損なう恐れがありますので

吸いすぎに注意しましょう」に変更される。また、全日本スキー連盟は大会にた

ばこ銘柄を冠することを禁止する

1995年 10月 日本たばこ協会は広告・販売促進活動に関する自主規準等の改訂を行い、週

末のラジオ CM、小中高の学校から 100m以内の屋外広告が自主規制される

1996年 屋外における自動販売機の深夜時間帯の稼動停止が逐次行われる

1998年 4月 日本たばこ産業の自主規制により、TV・ラジオ・インターネット等でのたばこ銘

柄の CMが自主規制される

6 特別法により設立される会社のこと。

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1998年 12月 たばこ税増税(230円→250円)7

2002年 6月 読者の 25%が未成年の雑誌への広告掲載が自主規制される

2003年 7月 たばこ税増税(250円→270円)

2004年 メディア(TV・ラジオでのCMの全面禁止、雑誌、新聞への広告の規制)を通じ

てのたばこ銘柄広告、イベント会場等でのたばこの無料配布や屋外広告など

の制限が強化される

2005年 たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約が発行

たばこパッケージの前面、背面に健康を警告(「喫煙は、あなたにとって肺気腫

を悪化させる危険性を高めます」等)の表示

2006年 7月 たばこ税増税(270円→300円)

2006年末 JTが F1から撤退

2008年 7月 taspoが全国稼働

(出所:厚生労働省ホームページ)

表-1 は規制の歴史を表している。主な規制は、たばこパッケージに喫煙は危険という意図が伝

わる表示義務や CM の自粛などであるが、広告塔になるスポーツ大会名や JT の F1 撤退まで厳

しいところにまで規制が至っている。また、2005 年には世界保健機関(以下、WHO)発効のたばこ

の規制に関する世界保健機関枠組条約8(以下、たばこ規制枠組み条約)に批准したため、締約国

の義務として健康被害が尐ないと誤解を与えかねない表示に変更するよう規制された。加えて、包

装面積の 3割以上を用いて健康被害の警告表示の掲載を求めることなど様々な表示を変更しなく

てはならなくなった。また、たばこ規制枠組み条約は成人に対しての喫煙率低下も目指しているた

め、これからもたばこ産業には厳しい規制が設けられると推察される。

7 JTが製造・販売するマイルドセブンソフトの増税である。マイルドセブンボックスになると 240円から

260円になり、ソフトとボックスでは微妙に異なる。また外国製のたばこも異なる。 8 たばこの使用およびたばこの煙に晒されることの広がりを継続的かつ実質的に減尐させるため、締約

国が自国においてならびに地域的および国際的に実施するたばこの規制のための措置についての枠

組みを提供することにより、たばこの消費およびたばこの煙に晒されることが健康、社会、環境および経

済に及ぼす破壊的な影響から現在および将来の世代を保護することを目的とした条約である。

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第3章 成人識別の必要性と「taspo」システム

本章では、taspoの概要や現在状況について詳述する。3.1では、成人識別の社会的必要性を

説明する。続く 3.2 では、taspo の概要とシステムに触れる。そして 3.3 では taspo の導入経緯と

現在状況について詳解する。

3.1 成人識別の社会的必要性

本節では、成人識別の社会的必要性を言及する。

グラフ 1 男子学年別喫煙経験率

(出所:厚生労働省「未成年者の喫煙および飲酒行動に関する全国調査 2004」)

グラフ 2 女子学年別喫煙経験率

(出所:厚生労働省「未成年者の喫煙および飲酒行動に関する全国調査 2004」)

0

10

20

30

40

50

60

中1 中2 中3 高1 高2 高3

平成12年

平成16年

(%)

(学年)

0

10

20

30

40

中1 中2 中3 高1 高2 高3

平成12年

平成16年

(%)

(学年)

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グラフ-1 とグラフ-2 は男子学年別喫煙経験率と女子学年別喫煙経験率を表している。上記 2

つのグラフにあるように、調査毎に減尐しているのがわかる。しかし、未成年者喫煙禁止法で規制

しているにも関わらず、未成年者が喫煙しているという事実が浮き彫りになっている。2003(平成

15)年にはたばこ税が増税され、規制による影響で未成年者の喫煙は男女共に約 10%減尐して

いるが、効果が薄かったためゼロにはならなかった。また、2001(平成 13)年総務省の調査結果で

は未成年者の主なたばこの購入手段は自動販売機であることが実証され、2004(平成 16)年厚生

労働省の調査結果によると、毎日喫煙する男子中高生が 13%と高い割合だったことが判明した。

これらの結果からわかるように、以前までの販売形式が未成年者にとってたばこが購入しやすい環

境であったことから成人識別システムの導入を決定した。また 2005(平成 17)年 2月 27日、世界保

健機関(以下、WHO)発効のたばこ規制枠組み条約9において、未成年者の自動販売機によるた

ばこ購入を防ぐことを要求されたために導入せざるを得なかった。また taspo導入にあたり、約 800

億円を投資したが、たばこ販売会社である JTやフィリップモリスジャパン10・ブリティッシュアメリカン

タバコ11などが投資している。内訳は、システム開発費に約 380億円、たばこ自動販売機交換費に

約 420億円かかり、運用費で年間約 100億円必要となる。

3.2 taspo の概要とシステム

本節では、taspo の概要を述べる。taspo とは IC カードと成人識別ユニットの総称であり、

2008(平成 20)年 7 月 1 日から全国で稼動した。taspo の導入と運用には、社団法人日本たばこ

協会、全国たばこ販売協同組合連合会(全協)12、日本自動販売機工業会の 3団体が主体となって

行っている。

taspo の申し込み方法は、まず申込書に必要事項を記入することから始まる。申込書の入手方

法はたばこ販売店からの入手、もしくはインターネットを利用し「taspo 公式サイト」からダウンロード

することの 2 つが挙げられる。次に必要書類の本人確認書類と顔写真が必要である。本人確認書

類は運転免許証や各種健康保険証のコピーを準備し、顔写真は 3 ヶ月以内に撮影したものとし、

この顔写真が taspo カードに転載される。最後に申込書に必要事項を記入後、本人確認書類・顔

写真同封の上郵送し、約 2週間後に taspoカードが手元に簡易書留にて郵送される。

taspoカードは発行手数料・年会費が無料で有効期限は 10年である。taspoカード故障時の再

9 たばこの使用およびたばこの煙に晒されることの広がりを継続的かつ実質的に減尐させるため、締約

国が自国においてならびに地域的および国際的に実施するたばこの規制のための措置についての枠

組みを提供することにより、たばこの消費およびたばこの煙に晒されることが健康、社会、環境および経

済に及ぼす破壊的な影響から現在および将来の世代を保護することを目的とした条約である。 10 国際的な大手たばこ販売会社であり、本社は米国のニューヨークである。有名な銘柄はマールボロ

である。 11 英国のロンドンに本社を置く世界第 2位のたばこ販売会社である。有名な銘柄はラッキーストライク・

クールが挙げられる。 12会員の相互扶助の精神に基づき、会員およびその組合員のために必要な共同事業を行い、たばこ

販売業の改善発達に資すると共に会員の自主的な経済活動を促進し、その経済的社会的地位の向上

を図ることを目的としている。

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発行料は無料であるが、紛失時の再発行料として 1,000 円が必要となる。また、taspo カードには

プリペイド方式の電子マネー機能「Pidel(ピデル)」が付帯することで、チャージ上限金は20,000円

である。電子マネーPidelが付加することで、あらかじめチャージしておけば現金が無くとも、たばこ

が購入できるというメリットがある。

taspo の規格には、非接触型 IC カードの「MIFARE13」が採用されている。taspo に IC カード

を採用した理由は、ICチップに記載された成人を証明する情報を読み取ることにより、厳格な成人

識別が実現可能だからである。taspo カードの表面には、①氏名②会員番号③顔写真④譲渡・貸

与を禁止する旨の表記の 4 つが記載されている。これにより、対面販売のときなどに行う成人識別

の厳格性を向上させている。

2009(平成 21)年 7月末現在、たばこ自動販売機は 98.3%が taspoを採用している。taspoを利

用したたばこの購入方法は金銭を投入し、購入したいたばこの銘柄のボタンを押し、taspo カード

を成人識別ユニットにタッチすると購入可能となる。また、電子マネー機能を利用する場合は購入

したいたばこの銘柄のボタンを押し、成人識別ユニットに taspo カードをタッチすると購入すること

ができる。

taspo のシステムには NTT データ・NEC トーキン・NTT ドコモ・大日本印刷・トッパンフォーム

ズ・トランスコスモス・日立製作所・ベルシステム24の8社の企業が携わっている。各企業の役割は

以下の通りである。

①NTTデータ

大規模プロジェクト構築、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)14および IC カード関連

ビジネスでの経験を生かし、「未成年者の自販機からのたばこ購入防止」を目指した新しい社

会インフラの構築にあたり、元請として全体のプロジェクト管理を実施している。

②NEC トーキン

アンテナなどのRF回路 15のノウハウを保有し、また ICタグ・ICカードなどの媒体とリーダライ

タ端末両方の製造実績が豊富な数尐ないメーカーであるため、ICカードの製造を担当してい

る。

③NTT ドコモ

ユビキタスコミュニケーション技術のノウハウを活用し、自販機に設置する FOMA 通信モジュ

ール・FOMA無線ネットワークインフラを全国で提供する。また、通信のさらなる安全性を向上

させるための認証設備や自動販売機へのデータ設定のための情報端末を提供している。

④大日本印刷

プライバシーマークを取得した高いセキュリティを備えた専用の印刷センターを開設し、同セ

ンターで関連情報を迅速かつ正確に取り扱うシステムを構築・運用し、印刷物の製造および

在庫管理やたばこ販売店に対する精算書などの出力・発送業務を実施している。

13 非接触型 ICカードの通信規格の 1つであり、世界で最も多く使用されている。 14BPO(Business Process Outsourcing)とは、各企業の内部管理部門で行われていた総務、人事、

経理、給与計算関係のデータ出入力を中心とした業務やコールセンターなどのビジネスプロセスを専門

企業に外部委託すること。 15高周波回路のこと。電気回路の一種でマイクやスピーカーに使用されている。

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⑤トッパンフォームズ

クレジットカードを始め健康保険証・社員証・学生証などあらゆるカードの発行処理事業を展

開している企業である。そのノウハウを活かし、低コスト・短納期・大量発行を実現するプリント

システムを開発し、顧客のニーズに迅速に対応するため発行・発送業務を担当している。

⑥トランスコスモス

クレジットカード申込み処理などの受付業務・データエントリー業務・審査業務のアウトソーシ

ングのノウハウを活かし、カード発行の申込み受付・審査業務オペレーション全般を担当して

いる。

⑦日立製作所

交通システムや金融システムなどをはじめとする多くの社会インフラの構築経験で有している

大規模 ID管理・オンライン決済ノウハウを活かし、全体システムをバックエンドで支えるデータ

センターシステムの構築を実施している。

⑧ベルシステム 24

CRM ソリューションエージェンシーとして、大規模コールセンター構築・運営のノウハウを活か

し、電話・Web を通じた利用者・販売店・導入店からの各種問い合わせ受付業務・電話発信

による確認業務および各種通知業務を担当している。

3.3 taspo の導入経緯と現在状況

本節では、taspoの導入経緯を IC カードの代表でもある Suicaや住民基本台帳カード(以下、

住基カード)の主な事柄も踏まえながら説明する。

表 2 taspo関係の年表

年月(日) taspo関係の出来事(*は ICカード関連)

2001年 11月 成人識別機能付きのたばこ自動販売機の設置を決定

2001年 11月 18日 Suica利用開始*

2002年 4月 1日 1年間、千葉県匝瑳市にて第一次導入検証

2003年 5月 21日 WHO総会にてたばこ規制枠組み条約が全会一致で採択

2003年 7月 たばこ税増税

2003年 8月 25日 住民基本台帳カードの交付開始*

2004年 5月 10日 1年間、鹿児島県種子島にて第二次導入検証

2005年 2月 27日 たばこ規制枠組み条約発効

2006年 1月 28日 モバイル Suicaのサービス開始*

2006年 7月 たばこ税増税

2006年 たばこ自動販売機が減尐し始める(約 56万台)

2008年 3月 1日 パイロットエリアの taspo導入開始

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2008年 5月 1日 第一次エリアに taspo導入

2008年 6月 1日 第二次エリアに taspo導入

2008年 7月 1日 第三次エリアに taspo導入し全国稼動

2008年末 この時点でたばこ自動販売機が約 42.4万台

2009年 6月 30日 住民基本台帳カードの発行枚数 3,625,253枚*

2009年 7月 Suicaの発行枚数は約 2933万枚*

2009年 7月末 たばこ自動販売機が約 40.9万台まで減尐

2009年 8月 15日 taspo発行枚数は 9,344,373枚で普及率は約 34.9%

表-2 は成人識別機能付きのたばこ自動販売機の設置を決定した 2001(平成 13)年 11 月から

taspoを導入してから1年経過した2009(平成21)年8月までをまとめた taspo関連の年表である。

まず、成人識別機能付きのたばこ自動販売機の設置を決定した日は 2001(平成 13)年 11月で

ある。taspoの取り組みの主体である 3団体が財務省に認可を求め、許諾を得た。それとほぼ同時

期に JR 東日本が Suica の利用を開始した。その約 5 ヶ月後の 2002(平成 14)年 4月 1日に千

葉県匝瑳市にて 1年間、第一次導入検証が行われた。主な内容は、技術面や運用面での基礎的

な知見の収集およびたばこ自動販売機利用者の受容性の検証である。2003(平成 15)年 5 月 21

日には WHO 総会にて、たばこ規制枠組み条約が全会一致で採択された。その年の 7 月にはた

ばこ税の増税がされた。その 3 ヶ月後の 8 月 25 日には住基カードの交付が開始された。また

2004(平成 16)年 5月 10日には、鹿児島県種子島にて 1年間第二次導入検証が行われた。ここ

では成人識別機能付きのたばこ自動販売機を設置しての検証であり、主な内容はカードを使用し

たことでの各業務・活動・カード・ハード面・使い勝手・販売オペレーションのトラブルの有無を確認

しながらの検証であった。

2005(平成 17)年 2 月 27 日にはたばこ規制枠組み条約が発行された。そして 2006(平成 18)

年にたばこ自動販売機台数が減り始め、再度たばこ税増税が実施された。また JR 東日本は携帯

電話でも Suicaカードと同様のサービスが利用可能となるモバイル Suicaサービスを 1月 28日に

開始した。2 度の導入検証を経て taspo は全国展開することになったが、パイロットエリア・第一次

エリア・第二次エリア・第三次エリアの 4 つに区分され、順次導入された。パイロットエリアは試験を

含め、宮崎県と鹿児島県で 2008(平成 20)年 3 月 1 日にされた。次に、第一次エリアである北海

道・東北・中国・四国・九州地方に 5月 1日に導入後、続く第二次エリアである北陸・東海・関西地

方に 6月 1日に導入され、最後に第三次エリアである関東地方と沖縄県で 7月 1日に導入され、

全国稼動となった。そして、現在の状況は社団法人日本たばこ協会の 2009(平成 21)年 8 月 15

日調査結果よると、taspoカードの普及率は約 34.9%で、発行枚数は 9,344,373枚である。

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第4章 taspo 導入による副次的効果

本章では taspoによる効果について概観する。4.1ではたばこ自動販売機台数の推移を過去の

たばこ関連事項を踏まえて説明する。次に、4.2 では taspo 導入によってコンビニとたばこ小売店

にはどのような影響があったのかを述べる。

4.1 たばこ自動販売機に与える影響

本節では、たばこ自動販売機台数の推移を過去にあった関連事項を踏まえながら詳解する。

グラフ 3 たばこ自動販売機台数の推移

(出所:一般社団法人日本自動販売機工業会)

グラフ-3は 1995(平成 7)年から 2008(平成 20)年までのたばこ自動販売機台数の推移を表して

いる。1995(平成 7)年から 1997(平成 9)年までは、ほぼ横ばいの状態が続いたが、1998(平成 10)

年から2000(平成 12)年までの間では急激に増加していることがわかる。以前までは成人喫煙者の

喫煙販売促進のために未成年喫煙者の 7 割以上がたばこ自動販売機で購入しているという現実

に目を背け、規制にも強硬に反対してきた JT だが、1998(平成 10)年の TV・ラジオによる銘柄広

告自主規制後、たばこ自動販売機自体が広告塔の役割を担い、一気に台数が増加した。

2000(平成 12)年から 2005(平成 17)年までは、ほぼ変動せず横ばい状態が続いた。この間、

2003(平成 15)年にたばこ税の増税を行っているが、たばこ販売への影響はさほどなかった。また、

第一次導入検証と第二次導入検証を実施することにより taspoの導入が可能かどうかも検討し、全

国展開を決定した。2005(平成 17)年から2008(平成20)年までを見てみると減尐傾向にあることが

わかる。これは 2006(平成 18)年に再びたばこ税の増税を行ったが、それに伴いたばこ販売で自

0

100,000

200,000

300,000

400,000

500,000

600,000

700,000

1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009

(台)

(年)

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動販売機による売上額が減尐し、撤去せざるを得ない状況となった。また、taspo が全国で稼動し

始めた結果、taspo 普及率に比例してたばこ販売店が所有またはリースするたばこ自動販売機を

撤去しなければ経営難になるという事態が起きたため、前年度に比べ約 10万台減の結果となった。

そして、2009(平成 21)年 7 月末の一般社団法人日本自動販売機工業会の調査によると、たばこ

自動販売機は約 40.9万台まで減尐した。

4.2 コンビニとたばこ小売店への影響

本節では taspo 導入によって、たばこを対面販売するコンビニとたばこ小売店にどのような影響

があったのかを説明する。

グラフ 4 全店舗月別売上高

(出所:社団法人日本フランチャイズチェーン協会)

グラフ-4は taspo導入前の 2007(平成 19)年 1月から taspoが導入されてから 1年 3カ月経

った 2009(平成 21)年 10 月までのコンビニ全店舗の売上高の推移を 1 年間毎に表している。

2009(平成21)年はこの時点で10月が最新のデータである。まず注目すべき点は、2007(平成19)

年 7月と 2008(平成 20)年 7月の売上高の比較である。グラフから見て取れるように急激な伸びが

確認できる。前年同月比で見てみると2008(平成 20)年7月の方が約7%プラスの売上高を記録し

ている。これは taspo が全国で稼働した直後のデータなので、taspo 導入による影響と判断する。

また、2008(平成 20)年 3月から 2009(平成 21)年 6月まで売上高が前年同月比プラス約 2~7%

の推移で移行している。パイロットエリアから順次拡大した影響でコンビニの売上も順次増加してい

ったと推察される。

2 つ目に注視すべき点は、2008(平成 20)年 7 月から 10 月までの推移と、2009(平成 21)年 7

月から 10月までの推移の比較である。2009(平成 21)年 7月から 10月までの推移は taspo導入

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前の 2007(平成 19)年7月から10月の売上高を全て上回っているが、taspo導入直後の2008(平

成 20)年 7 月から 10 月までの売上高を全て下回っている。これは、taspo 導入によって売上が増

加したコンビニへの影響が徐々に無くなりつつあると推察する。

次にたばこ小売店の影響を詳解する。たばこ小売店は taspo 導入により大きな損失を被った結

果となった。たばこ小売店に設置されているたばこ自動販売機には 3つの形態がある。1つ目はた

ばこ販売会社の貸与機、2 つ目はたばこ小売店自前の自動販売機、3 つ目はたばこ小売店が自

動販売機製造会社からリースしている自動販売機である。この3つの形態によってたばこ自動販売

機のたばこ購入は成り立っている。この 3 つの内、3 つ目のたばこ小売店がリースしている自動販

売機を設置しているたばこ小売店は実際に廃業になる可能性や廃業の危機まで追い込まれてい

る状況にある。それにはいくつかの理由が挙げられる。1つ目のたばこ販売会社の貸与機を設置し

ているたばこ小売店はリース代・メンテナンス代などはたばこ販売会社が負担するため、問題はな

い。しかし今までの売上が好調であったことやこれからの売上が見込めるなどの条件がないと貸与

されないため、この形態で販売している小売店は尐数である。2 つ目のたばこ小売店自前の自動

販売機は今まで小売店が出してきた利益でたばこ自動販売機を購入しているため、たばこ自動販

売機でのたばこ売上が良いたばこ小売店にしか自動販売機は購入できない。そして 3つ目の自動

販売機製造会社から自動販売機をリースしているたばこ小売店が 1 番に多い。これはたばこの売

上でリース代やメンテナンス代を支払わなければならないため、taspo の影響を受けたたばこ小売

店は廃業するしかなかった。

しかし、たばこ小売店もこの状況を打破する対策があった。それはたばこ自動販売機に「taspo

貸します」の張り紙をし、taspo カードを貸与することだった。(参考文献[8])この策に対し、社団法

人日本たばこ協会は「成人であることを確認した上で店主の前にて自動販売機で購入するなら対

面販売と同様」と発言しているため、この販売方法には問題がないとの見解を示している。これらが

taspo 導入によって受けたたばこ小売店の影響である。しかし、taspo カードの普及率も徐々に伸

びてきており、コンビニでのたばこ購入も導入当初より減尐傾向にあるので、これ以上の悪化はな

いと推察できる。

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第5章 おわりに

未成年者喫煙防止対策として taspoが導入されてから、約 1年半以上が経過した。taspo導入

直後の未成年者の喫煙による補導件数は、確かに減尐してきた。それは成人識別システムを導入

し、taspoカードを所持しなければ、たばこ自動販売機で購入が不可能になったからである。しかし、

20 歳未満の喫煙者はコンビニでのたばこ購入や、taspo カードを所持している成人喫煙者から

taspoカードを借用するなどと、様々な抜け道を利用して喫煙している。また、本稿では taspo導入

の副次的効果としてたばこ自動販売機・コンビニ・たばこ小売店を例に挙げた。第 4 章で述べた通

り、コンビニは利益が発生したが、たばこ小売店では売上低下による廃業という大きな損失が出た。

以上の事例から、約 800億円の投資に対する効果は十分でないと判断する。

しかし、taspo 以外にも未成年者の喫煙規制方法はある。規制方法には大別して①道徳的規制、

②法律による規制、③市場を用いた規制、④技術を用いた規制の 4 種類がある。1 つ目の道徳的

規制には、高校での徹底的指導が挙げられる。現在でも高校では喫煙の危険さや法律で禁止さ

れていることを指導しているが、それでも喫煙する未成年者を撲滅できていない。また、厚生労働

省による「未成年者の喫煙および飲酒行動に関する全国調査 2004」によれば、未成年者の喫煙

は、両親や親戚の喫煙などの家庭環境の影響が大きいという結果が出ている。よって、この規制法

は費用も尐ないが効果も希薄と考察する。2 つ目の法律による規制は、対面の販売だけとし、たば

こ自動販売機の全撤去を意味する。20 歳未満の喫煙者のたばこ購入は、たばこ自動販売機が主

であると総務省から調査結果が出ており、効果があると思われる。しかし、taspoと同様に、コンビニ

に流れる可能性が高いと推測できるため、これも効果は期待できない。3つ目の市場を用いた規制

は未成年者が購入しにくい価格設定が挙げられる。確かに効果はあるが、急激な価格の上昇は成

人喫煙者も購入できなくなる可能性も高い。財源となるたばこの税収が急減する恐れがあるため、

得策ではないと考える。最後の技術を用いた規制は、taspo と同様に財務省に認可された顔認証

自動販売機と運転免許証認証機が挙げられる。前者は株式会社フジタカが、後者は松村エンジニ

アリングが開発した。この 2つと taspoとの相違点は費用の違いである。年間運用費が約 100億円

かかる taspoに対し、顔認証自動販売機と運転免許証認証機のランニングコスト費は、ほぼ不要で

ある。また、顔認証自動販売機は成人か未成年か不明と判断した際に運転免許証で認証するた

め、喫煙者は別のカードを所持する必要もない。これにより、技術の規制方法は費用が taspo と比

較すると格段に抑制され、副次的効果も尐なく、たばこ小売店は廃業せずに済む可能性がある。

以上の理由から、今後の規制策として、この 2つの技術を普及させた方が良いと提案する。

今後の研究課題として、たばこ産業関連として JT の現状と今後の対策がある。現在、禁煙意識

の高まりから社会的な立場がますます弱くなっている。大人の嗜好品として愛用されていたたばこ

が、今では日本の健康志向の考え方や喫煙者のマナーなどの面で、煙たがれる存在として変化し

ており、喫煙率も年々減尐傾向にある。そのような状況の中で、taspo が導入され、利益が低下し

てしまった JT の将来に向けた経営戦略が、本稿では触れていない。以上を今後の研究課題とし

て挙げておく。

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最後に本稿を起稿するに当たり、多くの助言をいただいた濵田直也氏、近藤紘充氏、佐藤茉利

生氏、種田吉恭氏、河合拓真氏、小松奏子氏、生駒浩司氏、星野善洋氏(以上、児島ゼミナール)

に感謝の念を表すと共に心からお礼申し上げたい。

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参考資料

参考文献

[1] 山口一臣 宇多理,『米国シガレット産業の覇者』,千倉書房出版,2006年

[2] ASH-Action on Smoking and Health グループ,『悪魔のマーケティング「タバコ産業が語

った真実」』,日経 BP出版センター,2005年

[3] 「たばこ協会、800 億円プロジェクトの全容判明 自販機での成人認証に向け、3000 万人分

ID管理」,『日経コンピュータ』,2006年 11月 13日号,13頁掲載

[4] 「たばこ自販機が消える 上がらぬタスポ普及率に販売店が悲鳴」,『日経ビジネス』,2008

年 4月 21日号,6頁~7頁

[5] 「日本たばこ産業、4-12 月期の純利益は 40.3%減の 1314 億円」,『日経トレンディネット』,

2009年 2月 10日

[6] 「木村 宏 氏[日本たばこ産業社長] 喫煙文化の火、消さない」,『日経ビジネス』,2008 年

8月 25日,114頁~116頁

[7] 「また親が!長男にタスポ貸す 宮崎」,『MSN産経ニュース』,2008年 8月 6日

[8] 「スーパー低調、コンビニ好調 8 月既存店販売」,『MNS 産経ニュース』,2008 年 9 月 22

[9] 「タスポ貸します 神戸のたばこ店が苦肉の策」,『MNS産経ニュース』,2008年 6月 18日

[10] 「たばこ自販機への年齢認証システムの導入 6割が導入に賛成」,『日経ビジネス』,2008

年 4月 14日,121頁

[11] 「たばこ自販機に FOMA端末内蔵来年から始まる成人識別に活用」,『日経コミュニケーショ

ン』,2007年 1月 15日,60頁~62頁

参考サイト

[1] 「JR東日本:Suica」,http://www.jreast.co.jp/Suica/

[2] 「JTホームページ」,http://www.jti.co.jp/JTI/index.html

[3] 「ブリティッシュ・アメリカン・タバコ」,http://www.batj.com/

[4] 「社団法人 日本たばこ協会」,http://www.tioj.or.jp

[5] 「JTニュースリリース」,http://www.jti.co.jp/News/2007/10/20071017_01.html

[6] 「health クリック」,http://www.health.ne.jp/library

[7] 「松村テクノロジーホームページ」,http://www.matsumura-tech.com

[8] 「成人識別 ICカード taspo公式サイト」,http://www.taspo.jp/index.html

[9] 「たばこと塩の博物館」,http://www.jti.co.jp/Culture/museum/WelcomeJ.html

[10] 「フジタカホームページ」,http://www.fujitaka.com/index.html

[11] 「今後のたばこ販売について考えるVOICE」,http://www.fujitaka.com/voice/index.html

[12] 「国税庁ホームページ」,http://www.nta.go.jp/index.htm

[13] 「一般社団法人日本自動販売機工業会」,http://www.jvma.or.jp/index.html

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[14] 「社団法人日本フランチャイズチェーン協会」,http://jfa.jfa-fc.or.jp/index.html

URLは 2009年 12月 18日 現在

図表番号

表 1 規制の歴史 ............................................................................................................. 5

表 2 taspo関係の年表 ................................................................................................. 10

グラフ 1 男子学年別喫煙経験率 ..................................................................................... 7

グラフ 2 女子学年別喫煙経験率 ..................................................................................... 7

グラフ 3 たばこ自動販売機台数の推移 ......................................................................... 12

グラフ 4 全店舗月別売上高 .......................................................................................... 13

最終提出日:2009年 12月 18日