電気自動車(ev)・天然ガス自動車 普及の課題と...

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19 石油・天然ガスレビュー アナリシス 自動車産業を取り巻く外部環境が大きく変わりつつある。CO 2 削減、燃費規制、排気ガス規制、安全 性向上といった自動車そのものに係る対応だけでなく、電気自動車(Electric Vehicle:EV)、自動運転、 ライドシェア・カーシェアなど移動・輸送・所有形態の変革や、EVの蓄電池による再生可能エネルギー の負荷変動吸収など、従来の自動車の製造・運転、燃料の消費に関わるものだけではく、他分野とも相 互に連携し、社会全体に幅広い影響を与え得るような可能性が出てきている。 特に EVはその変革の中心にあり、今後、爆発的な普及拡大が期待されるが、電池技術革新(資源、 密度、走行距離、充電時間)、インフラ(充電・電力供給)の整備が前提となるため、その実現の時期・ 影響については不確実なことも多い。本稿では、EVの導入に関する現状、導入支援策、燃料需要に与 える影響、そして、今後の、移動・輸送を取り巻く環境変化等について考察した。 じめに 電気自動車 (EV) ・天然ガス自動車 普及の課題と燃料需給への影響 1. EV 普及動向と燃料需要への影響 (1)EV導入実績、各国政策 電気自動車(Electric Vehicle:EV)の定義は各国・各 メーカー・調査機関等により多様であるが、国際エネル ギー機関(International Energy Agency:IEA)では、内 燃機関(Internal Combustion Engine:ICE)を持たない バッテリー式電動車(Battery Electric Vehicle:BEV)と、 内燃機関を有するが、外部電源から充電した電力で走行 す る プ ラ グ イ ン・ ハ イ ブ リ ッ ド 車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle:PHEV)をEVとして、その普及状況・ 見通し等を整理している。 JOGMEC 調査部 田村 康昌 14 61 179 381 704 1,239 1,982 3,109 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 千台 その他 フランス オランダ 英国 ノルウェー 日本 米国 中国 BEV台数 PHEV台数 図1 電気自動車(BEV + PHEV)の国別普及実績推移 出所:IEA, Global EV Outlook 2018

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Page 1: 電気自動車(EV)・天然ガス自動車 普及の課題と …...21石油・天然ガスレビュー JOGMEC K Y M C 電気動車(EV)・天然ガス動車普及の課題と燃料需給への影響

19 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

K Y M C

アナリシス

 自動車産業を取り巻く外部環境が大きく変わりつつある。CO2削減、燃費規制、排気ガス規制、安全性向上といった自動車そのものに係る対応だけでなく、電気自動車(Electric Vehicle:EV)、自動運転、ライドシェア・カーシェアなど移動・輸送・所有形態の変革や、EVの蓄電池による再生可能エネルギーの負荷変動吸収など、従来の自動車の製造・運転、燃料の消費に関わるものだけではく、他分野とも相互に連携し、社会全体に幅広い影響を与え得るような可能性が出てきている。 特にEVはその変革の中心にあり、今後、爆発的な普及拡大が期待されるが、電池技術革新(資源、密度、走行距離、充電時間)、インフラ(充電・電力供給)の整備が前提となるため、その実現の時期・影響については不確実なことも多い。本稿では、EVの導入に関する現状、導入支援策、燃料需要に与える影響、そして、今後の、移動・輸送を取り巻く環境変化等について考察した。

はじめに

電気自動車(EV)・天然ガス自動車普及の課題と燃料需給への影響

1. EV普及動向と燃料需要への影響

(1)EV導入実績、各国政策

 電気自動車(Electric Vehicle:EV)の定義は各国・各メーカー・調査機関等により多様であるが、国際エネルギー機関(International Energy Agency:IEA)では、内燃機関(Internal Combustion Engine:ICE)を持たない

バッテリー式電動車(Battery Electric Vehicle:BEV)と、内燃機関を有するが、外部電源から充電した電力で走行するプラグイン・ハイブリッド車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle:PHEV)をEVとして、その普及状況・見通し等を整理している。

JOGMEC調査部 田村 康昌

14 61 179381

704

1,239

1,982

3,109

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017年

千台その他

フランス

オランダ

英国

ノルウェー

日本

米国

中国

BEV台数

PHEV台数

図1 電気自動車(BEV + PHEV)の国別普及実績推移

出所:IEA, Global EV Outlook 2018

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202018.9 Vol.52 No.5

JOGMEC

K Y M C

アナリシス

 2017年時点での世界全体のEVの保有台数は約310万台*1(乗用車+トラック・バスの普及台数 約13億2,000万台*2の約0.23%)に達し、2017年1年間での登録台数は115万台(乗用車+トラック・バス生産台数9,730万台の約1.2%)である。 特に、中国は保有台数(123万台)・新規登録台数(58万台)ともに世界第1位。第2位には、米国(保有台数76万台、新規登録台数20万台)が続く。なお、ノルウェー

(保有台数18万台、新規登録台数6万台)は凍結防止のため、車庫に電源設備を備えていたなどの事情もあり、新車販売の約4割をEVが占めるEV先進国となっている。 2017年に入り、各国政府や自動車メーカーから、従来型の内燃機関車を段階的に廃止、EVの販売、EV車種の拡充等に関する発表が相次いでいる。 気候変動対策・大気汚染対策を念頭に導入を促進する

だけでなく、中国のように完成車・部品・素材・電池・制御等、自国内での生産、産業育成、中長期的な成長分野として取り組んでいるケースもある。

(2) EVの導入見通し、燃料需給への影響

 IEA、BP、BNEF(Bloomberg New Energy Finance)をはじめ、各国の調査機関が将来のEV化の進展とその燃料需要への影響予測についてとりまとめを行っている。シナリオにより差はあるが、昨今のバッテリー技術革新(価格低下、エネルギー密度向上)や、インフラ(充電、電力供給)の整備、政府の支援(燃費規制含む)が普及拡大の鍵を握るが、これらが進めば、2020年代後半から販売数が急速に増加し、乗用車の新車販売のなかで大きな位置を占めると予測している。しかし、台数の増加、また、その時期については不確実性が大きく、技術革新

表1 主要国、主要自動車メーカーの EV 普及策

出所:各種資料より JOGMEC 作成

国名 EV普及政策

中国 ・NEV(New-Energy Vehicle:BEV、PHEV、燃料電池車)の販売割合を、2019年10%、2020年12%とすることを各メーカーに義務付ける。また、2025年の新車販売台数3,500万台のうち、20%の700万台をNEVとすることを目指す(2017年9月)。

・ガソリン・ディーゼル車の販売禁止検討(2017年9月、各種報道等)

フランス ・2040年までに、ガソリン・ディーゼルカーの販売禁止

英国 ・2040年までに、ガソリン・ディーゼルカーの販売禁止

オランダ ・2030年までに、新車販売のすべてをゼロエミッション車とする

ノルウェー ・2025年までに、新車販売(乗用車+都市のバスのすべて)をゼロエミッション車とする。・2030年までに、都市間バスの75%、トラックの50%をゼロエミッション車とする。

日本 自動車新時代戦略会議 中間整理案(2018年7月24日)・2050年までに、世界で供給する日本車について、1台あたりの温室効果ガスを8割程度削減(乗用車は9割程度削減、

電動車(xEV)100%想定)※電動車(xEV)=BEV・PHEV・HEV・FCEV。内訳については示されていない。

次世代自動車戦略2010・2030年次世代自動車普及目標:国内乗用車の5~7割。 -ハイブリッド車:30~40% -電気自動車、プラグイン・ハイブリッド車:20~30% -燃料電池自動車:~3% -クリーンディーゼル自動車:5~10%※ 長期ゴールの実現に向けた重要なマイルストーンとして、取り組みを加速する方針が、2018年7月の自動車新時代戦

略会議で改めて示された。

企業 EV化方針

トヨタ(2017年12月)

・2025年頃までに、全車種にEV、PHV、HVなどの電動モデルを設ける。・2030年に、グローバル販売台数における電動車を550万台以上、ゼロエミッション車であるEV・FCVは、合わせて

100万台以上を目指す。・2025年頃までに、HV・PHV・EV・FCVといった電動専用車およびHV・PHV・EVなどの電動グレード設定車の拡大

により、グローバルで販売する全車種を、電動専用車もしくは電動グレード設定車(エンジン車のみの車種はゼロ)とする。

・パナソニックと車載用角形電池事業の開発で提携・2020年代前半、全固体電池の実用化を目指した技術開発

ボルボ(2017年7月)

・2019年以降は、EV/ハイブリッド車のみを販売する方針を発表

仏ルノー・日産・三菱

・2022年に想定する世界販売台数1,400万台のうち、約3割を電動車(EV、HV)とする見通し(2017年9月、中期経営計画)

・ルノー・日産アライアンス、中国 東風汽車集団股份有限公司は、中国でのEV共同開発を行う合弁会社を設立合意(2017年8月)

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21 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

K Y M C

電気自動車(EV)・天然ガス自動車普及の課題と燃料需給への影響

と社会インフラの実現とともに、非連続的な増加となることが予想されている。 なお、EV導入増による燃料需要の代替について、IEAの新政策シナリオでは、石油需要全体の約2.4%(2040年の石油需要1億490万b/dのうち、250万b/dをEVで代替)、電力需要全体の2%程度(2040年EV2億8,000万台保有)としており、EV単体では需要に与える影響は限定的であると言える。むしろ、燃料需要への影響は保有自動車(ストック)の大半を占める内燃機関自動車

(ICE)の燃費向上、新興国の自動車保有台数の増加による需要増がより大きな要因となる。

 なお、IEAは、現在想定される政策を盛り込んだメインシナリオ(新政策シナリオ)以外にも、技術革新、インフラ整備により、EV導入がより進むケースも想定している。この場合、EVの普及台数は、3倍増の約10億台程度となるが、それでも、石油需要の約1割(920万b/d)程度を代替するにとどまる。 なお、EVの将来予測では、BEV、PHEVの合計値が示されることが一般的だが、内訳として、BEVの導入比率が大きくなれば同じ導入台数であっても、石油需要減の影響が大きくなる。また自動運転・カーシェア・ライドシェアとも親和性が高いEVは、ICE車に比べて稼

表2 EV 普及見通しと燃料需給への影響

出所:各種資料より JOGMEC 作成

調査機関 普及見通し・シナリオ前提

IEA 〈WEO 2017 新政策シナリオ〉・ EVの保有台数(ストック):2016年200万台、2025年約5,000万台、2030年1億3,000万台(BEV約33%、バス

100万台、トラック150万台)、2040年2億8,000万台(保有台数の15%)・ 石油需要:2016年9,460万b/d、2025年1億30万b/d、2040年1億490万b/d・ 道路輸送部門の石油需要:2016年4,070万b/d、2025年4,300万b/d、2040年4,400万b/d・ 2025年バッテリーコスト:80ドル/kWh(BEV)、100ドル/kWh(PHEV)・ EVによる石油需要減:2025年70万b/d、2040年250万b/d・ EVによる電力需要増:2016年0.1%、2040年2%・ 燃費基準:効率改善により、2040年までに1,200万b/dの石油需要を抑制

〈Global EV Outlook 2018 EV30@30 Scenario〉・ EVの保有台数(ストック):2030年2億2,800万台のEV普及(BEV約60%、バス450万台、トラック250万台) ※WEO新政策シナリオよりも2030年時点で約1億台追加・ EVによる石油需要代替:2030年257万b/d(原油換算約1億2,000万トン/年)の石油需要を代替・ BEVのバッテリー容量:70~80kWh/台。PHEVバッテリー容量15kWh/台。全世界で、2,250G(ギガ=10億)

Wh/年相当のバッテリー需要増・ EVによる電力需要:2030年928T(テラ=1兆)Wh(全発電量の約3%程度)

〈WEO 2017 持続可能な開発シナリオ〉・ EVの保有台数(ストック):2040年に9億台・ EVによる石油需要代替:2040年920万b/d・ 燃費向上効率改善により、2040年までに1,400万b/dの石油需要を抑制

BP(Energy Outlook 2018)

〈Evolving Transition シナリオ〉・ EVの保有台数(ストック):2020年700万台、2030年約9,500万台、2040年3億2,400万台(全体の16.4%)・ 自動車保有台数(EV+ICE):2020年11億6,000万台、2030年約15億9,000万台、2040年19億7,000万台・ EVの販売台数シェア:2020年2%、2025年5%、2030年12%、2040年25%・ 2040年にはEVが競争力を持つ自動運転・カーシェアリングの普及が進み、乗用車の全走行距離のうち31%はEV

が担う。トラック輸送についても、短距離を中心に、全走行距離の15%をEVが担う・ 乗用車の燃料需要は、2016年の1,870万b/dから、2040年には1,860万b/dとなり、ほぼ変化しない。内訳としては、 -走行量増大(自動車保有台数増)で2,260万b/d増 -燃料効率改善で1,820万b/d減 -EVへの転換により250万b/d(3億2,000万台のEVのうち、1億5,400万台がBEV、1億6,900万台がPHEV) -カーシェアリング(主にEV)による需要減:200万b/d

〈内燃機関車 禁止シナリオ〉・ EVの販売台数シェア:2020年2%、2025年12%、2030年35%、2035年64%、2040年100%・ 乗用車全体におけるEVの走行距離が占める割合:2020年1.3%、2030年20%、2040年68%・ 乗用車の燃料需要:2016年1,870万b/d、2040年890万b/d(2016年比で980万b/dの減少)

ExxonMobil2018 Outlook for Energy:A View to 2040

・EVの保有台数(ストック):2040年約1億6,000万台(Base assumption)・1億台EVが追加的に導入されると、石油需要は約120万b/d減少する

Bloomberg

Electric Vehicle Outlook 2018

・EVの保有台数(ストック):2040年5億5,900万台(全保有台数の33%)・EVの販売台数:2040年6,000万台/年(乗用車の全販売台数の55%)・2030年時点での電池コスト:70$/kWh・2040年時点で、EV、電動バスで730万b/dの石油需要を代替・2024年までにEVの初期費用は、補助金なしでも競争力を持つ水準に低下する・バッテリー需要は2017年の1.3GWh/年、2021年に400GWh/年、2030年には1,500GWhとなる見込み。生産設

備の増強と、低コバルト使用量の電池の導入が進む

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222018.9 Vol.52 No.5

JOGMEC

K Y M C

アナリシス

働率、1台あたりの走行距離が長くなることも想定され、これら新技術・所有形態の普及度合いによっては石油需要への影響も変わってくると考えられる。ただし、「乗用車」部門における石油使用量(現行約2,000万b/d =10億トン/年)は、全石油使用量(約9,500万b/d=48億トン/年)の約20%、他の化石燃料を含めた全1次エネルギー

(約140億トン/年)の、約7%に過ぎずEV(特に乗用車)の普及だけでの需要減は限定的とも言えるだろう。

(3)輸送部門の高度化による燃料需要への影響

 EVの導入、自動運転、カーシェア、ライドシェアなど輸送部門の高度化による影響を表3に示す。また、これらは、相互に関係しながら燃料需要減の効果をもたらすとともに、コスト低下、自動運転等によるアクセス性の向上は、走行距離(需要)の増大をもたらす可能性もある。 BPは、Energy Outlook 2017において、2035年の乗用車保有台数18億台のうち、EVが1億台(BEV7,500万台、PHEV2,500万台)をベースケースとし、自動運転、ライドシェア、カーシェアなどの「デジタル革命進展」シナリオ、また、電動化がさらに進展(ベースケースに加

えて、BEVが2億台増を想定)する「デジタル革命+EV化進展」シナリオを示している。 「デジタル革命進展」シナリオでは、自動運転等により、石油需要の抑制が見込まれるものの、自動車移動のコスト低減やアクセスの良化に伴う走行距離の増加により相殺される(燃料需要 約2,300万b/dは変化なし)としている。 また、「デジタル革命+EV化進展」シナリオでは、デジタル革命の成果が全て電動車に集約されると仮定。その結果、各要素による減要因が燃料需要減に集約され(石油需要は、2,300万b/dから1,560万b/dまで減少)、走行距離の増加は石油ではなく電力量増加に反映されるとしている。 あくまでシナリオの「前提」ではあるが、デジタル革命だけでは燃料需要への影響は少なく、電動化の進展状況に大きく左右されることとなっている。ただ、実現していない、デジタル化進展・利便性の向上による需要増等の効果を予測するのは困難でもあり、具現化の時期、影響量も、相当程度幅を持って見る必要があるだろう。

表3 輸送部門の高度化による燃料使用量への影響

出所:BP, Energy Outlook 2017 の前提を基に JOGMEC 作成

燃料需要への影響 1 億台導入時の燃料需要増減

2035年ベースケース ・2035年、乗用車18億台(うち、EVは1億台。BEV7,500万台、PHEV2,500万台)。燃料需要2,300万b/d(ICE車1億台あたり135万b/d)

EV 化 ・ICEからBEVへの転換により、燃料5.11bbl/年・台(約810ℓ/年・台)の減要因 140万b/d減

自動運転 ・自動運転により、約25%の燃費向上 ※ ICE車での導入により、燃料需要減

35万b/d減(ICE車)

カーシェア ・EVにおけるカーシェア進展を想定。EVの走行距離増・燃料需要減効果を2倍増 ※ ICE車への導入では燃料需要へは影響しない

140万b/d減

ライドプール(同乗・相乗り)

・ICE車、EV車ともにライドプールが進展・都市の走行(全体の25%)×ライドシェア割合(40%)=5%程度の車両(約1億

台)が不要になると想定

140万b/d減

141618202224百万b/d

2035ベース

ケース

BEV台数増

自動運転車

効率改善

カーシェア

ライドプール

輸送需要増

デジタル化

革命ケース

図2 デジタル革命進展オプション

出所:BP, Energy Outlook 2017

141618202224百万b/d

2035ベース

ケース

BEV台数増

(2億台)

カーシェア

ライドプール

輸送需要増

デジタル化革命

+EV化進展

図3 デジタル革命+ EV 化進展オプション

出所:BP, Energy Outlook 2017

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23 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

K Y M C

電気自動車(EV)・天然ガス自動車普及の課題と燃料需給への影響

 EVは、これまで何度も普及拡大への期待があったにもかかわらず、充電スタンド、航続距離(利便性)、価格等が従来の内燃機関(Internal Combustion Engine:ICE)を備えた自動車に劣後し、限定的な導入にとどまってきた。しかし、近年、蓄電池の技術進展・低コスト化により、インフラが整備された域内で短距離の移動に用途を限定すれば、従来のICE車と同水準のコスト・利便性が可能になりつつある。今後、環境問題への対処、産業育成の観点からの政策的な支援もあり、普及拡大のための障壁の解消、将来の大幅な普及拡大につながる可能性が出てきている。 一方、個人の所有する乗用車については、消費者主導で選択されることとなり、性能・利便性が劣る製品が政策的な意義、支援、規制的措置によるだけでは、大幅な普及拡大は難しい。また、大量導入による資源制約、電力インフラ、輸送部門のEV化等課題も残っている。以下、EVの導入課題について、これまでの改善の動向と今後も対応が必要な課題について確認していきたい。

(1)蓄電池

 EV向けの電池には、安全性、容量、コスト、充電時間、長寿命、高密度、低環境負荷(資源・製造)と、多くの要件が求められる。①電池材料の供給 リチウムイオンバッテリーの主要部材は、正極材、負極材(黒鉛等)、電解液(LiPF6、有機溶媒)、正極と負極を絶縁するためのセパレーター(ポリエチレン、ポリプロピレン等)等で構成される。

 特に、正極材(ニッケル、コバルト、マンガン、アルミ)の組み合わせにより、高容量かつ安全性を高め、低コストかつ安定した資源調達をどう実現するかが課題である。ニッケル比率を高めれば、容量は大きくなるが、劣化が激しく短寿命となる。コバルトは、電池の安定性を高めるが、資源の安定供給が難しく、高コストとなる。また、アルミは長寿命化、マンガンは安定性向上に寄与するなどの特徴がある。 現在、性能、コスト等で主流となっている三元系リチウムイオンバッテリーの正極材として用いられる、リチウム、コバルト、ニッケル主要3原材料の総コストは、現状のスポット価格ベースで約42ドル/kWh*3であり、2017年の電池パックコスト209ドル/kWhの約20%程度となる。これらの資源は、今後、需給逼

ひっぱく

迫による価格の高騰も懸念され、電池コストを、100ドル/kWh以下

2. EV普及の課題

表4 リチウムイオン蓄電池 正極材の種類と特徴

出所:各種資料より JOGMEC 作成

正極材 組成 特徴

ニッケル系(LNO、LNCA)

LiNiO2、LiNiCoA l O2

・高容量、安全性課題・車載用(テスラ)

コバルト系(LCO) LiCoO ・高価、民生用

三元系(NCM) LiNiCoMnO2 ・ バランス型。コバルト使用量削減へ技術開発

・車載用(LG、Samsung)

マンガン系(LMO) LiMnO ・安全、低容量・車載用(旧型リーフ)

リン酸鉄系(LFP) LiFePO4 ・安全だが低容量・車載用(中国、EV バス)

表5 リチウム生産量、埋蔵量(純分トン)

出所:USGS, Mineral Commodity Summaries 2017

国名 2016 2017 埋蔵量

Chile 14,300 14,100 7,500,000

China 2,300 3,000 3,200,000

Australia 14,000 18,700 2,700,000

Argentina 5,800 5,500 2,000,000

Portugal 400 400 60,000

Brazil 200 200 48,000

United States — — 38,000

Zimbabwe 1,000 1,000 23,000

World Total 38,000 43,000 16,000,000

024681012141618

2012

2014

2016.01

2016.03

2016.05

2016.07

2016.09

2016.11

2017.01

2017.03

2017.05

2017.07

2017.09

2017.11

2018.01

2018.03

2018.05

ドル/kg

年/月

図4 炭酸リチウム輸入価格

出所:通関統計

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242018.9 Vol.52 No.5

JOGMEC

K Y M C

アナリシス

図5 リチウムマテリアルフロー

出所:JOGMEC 鉱物資源マテリアルフロー 2017

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25 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

K Y M C

電気自動車(EV)・天然ガス自動車普及の課題と燃料需給への影響

の大幅削減を目指すに際しては、原材料価格の占める割合も上昇するため、使用量の低減、原材料資源の確保、原材料価格の安定化が必要となる。このため、構成元素の比率、特に、ニッケルの構成比率を引き上げることでエネルギー密度の向上を図り、コスト高のコバルトの使用量の削減が進んでいる。安全性と容量のバランスが取れ、主流となっている三元系(NCM)リチウムイオン電池では、ニッケル、コバルト、マンガンの比率は、1:1:1(NCM111)が主流だが、今後、8:1:1(NCM811)程度までハイニッケル化が検討されている。Li(リチウム): リチウムの埋蔵量は豊富にあり、生産は、南米等塩湖

(鹹かん

水)から生産されるものと、豪州等の鉱石由来のものに分けられる。鹹水によるものは生産コスト低いが、適地も少ない。1 ~ 2年の天日干し期間が必要で急な増産も困難であるのに対し、豪州等鉱石由来のものは、生産に要する期間は短いものの、鉱石を焙

ばいしょう

焼後に硫酸に浸しリチウムを取り出す工程等でコスト高となる。 三元系リチウムイオンバッテリーに用いられる炭酸リチウム世界需要20万トン(2015年)は、EV約800万台

(40kWh/台、約25kg/台)*4に相当すると推計される。・ 炭酸リチウム:

 炭酸リチウムはニッケル系以外のリチウムイオンバッテリーの正極材、リチウムイオンバッテリー電解質(LiPF6)、窯

ようぎょう

業添加(耐熱・HDD ガラス添加剤)、連続鋳造用フラックス、コンクリート補修材、医薬品等に用いられる。リチウム純分が99.0%程度の工業品グレードと、99.5%以上のバッテリーグレードの2種が

ある。通常、LIB正極材にはバッテリーグレード品が使用され、耐熱・HDDガラス添加剤、コンクリート補修材向けでは工業品グレードが利用されている。輸入した炭酸リチウムの一部は、国内で高純度炭酸リチウムに精製され、LIB 電解質、医薬品、表面弾性波フィルター向けに使用される。

・ 水酸化リチウム:  ニッケル系のLIB 正極材、グリース等に用いられる。鉱石または炭酸リチウムから生産されるが、国内での生産は行われておらず、国内で使用される水酸化リチウムは全量が輸入品となる。Ni(ニッケル): ニッケルの主な用途はステンレス鋼・特殊鋼への添加剤であり、資源量も豪州、ブラジル等を中心に豊富である。ニッケルの国際相場は、中国等をはじめとするステンレス需要の鈍化により、2014年前半から下落傾向が続いている。 2016 年の世界 209 万トンは、EV約 1 億 5,000 万台

(40kWh/台、Ni:15kg/台前提)に相当する。市況による価格変動には留意が必要で、また、蓄電池向けの増産、他用途からの転用には設備投資が必要となるので、短期的には対応が難しい。Co(コバルト): コバルトは、銅、ニッケルの副産物で、供給量は主産物の生産動向に依存する。最大供給国のコンゴ民主共和国(DR Congo)では、特に小規模採掘における児童労働も問題視されており、法令遵守等の観点から大手企業が関与する増産も容易ではない。

表6 コバルト生産量、埋蔵量(純分トン)

出所:USGS, Mineral Commodity Summaries 2017

国名 2016 2017 埋蔵量

DR Congo 64,000 64,000 3,500,000

Australia 5,500 5,000 1,200,000

Cuba 4,200 4,200 500,000

Philippines 4,100 4,000 280,000

Zambia 3,000 2,900 270,000

Canada 4,250 4,300 250,000

Russia 5,500 5,600 250,000

Madagascar 3,800 3,800 150,000

Papua New Guinea 72,190 3,200 51,000

South Africa 2,300 2,500 29,000

United States 690 650 23,000

New Caledonia 3,390 2,800 —

Other Countries 7,600 5,900 560,000

World Total 111,000 110,000 7,100,000

010,00020,00030,00040,00050,00060,00070,00080,00090,000100,000

2012.01

2013.01

2014.01

2015.01

2016.01

2017.01

2018.01

年/月

ドル/トン

図6 コバルト価格推移

出所:LME(London Metal Exchange)

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JOGMEC

K Y M C

アナリシス

 2015年の世界需要12万トンは、EV約800万台(40kWh、15kg/台)に相当する。現状のEV生産台数には対応可能であるが、銅・ニッケルの副産物であるため、急な増産は困難、かつ需給逼迫時には、価格の急騰懸念もある。同じ正極材料であるLi、Niと比べても、EVの生産増に伴う影響が最も大きく、今後の使用量の低減、安定的な確保が課題となっている。 日本においても自動車メーカー等が安定的に調達できる状況をつくるため、共同調達・備蓄スキームの立ち上

げ、紛争鉱物や児童労働による鉱物をスクリーニングできる国際的枠組みを構築すべく、官民一体での検討が進んでいる。②電池コスト動向 電気自動車の蓄電池コスト(2017年のセル+電池パックコスト)は、209ドル/kWhとなり、直近7年間で約1/5となる大幅なコストダウンが進んでいる。 同様のコストダウンについては、半導体の集積率が18カ月で2倍となるとしたムーアの法則が知られるが、

これは過去の経験則を公式化したものであり、電池についても同様のコストダウン傾向が必ずしも将来にわたって見通せるというわけではない点に注意したい。また、半導体のように設備投資の規模が大きく、シリコンウエハーの大口径化、大量生産、集積度の向上により大幅なコストダウンの可能な製造工程と違い、電池製造に際しては、設備稼働率の向上による一定の低減効果はあるとはいえ、生産量の大幅拡大による材料資源価格の高騰も、コスト低減の制約要件となる可能性がある。また、最も課題になる正極材料の使用量・コスト低減だけではなく、多岐にわたる調達部品の総合的なコスト

表7 ニッケル生産量、埋蔵量(純分トン)

出所:USGS, Mineral Commodity Summaries 2017

国名 2016 2017 埋蔵量

Australia 204,000 190,000 19,000,000

Brazil 160,000 140,000 12,000,000

Russia 222,000 180,000 7,600,000

Cuba 51,600 51,000 5,500,000

Philippines 347,000 230,000 4,800,000

Indonesia 199,000 400,000 4,500,000

South Africa 49,000 49,000 3,700,000

China 98,000 98,000 2,900,000

Canada 236,000 210,000 2,700,000

Guatemala 54,000 68,000 1,800,000

Madagascar 49,000 45,000 1,600,000

Colombia 41,600 49,000 1,100,000

United States 24,100 23,000 130,000

New Caledonia 207,000 210,000 —

Other Countries 150,000 150,000 6,500,000

World Total 2,090,000 2,100,000 74,000,000

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

2012.01

2013.01

2014.01

2015.01

2016.01

2017.01

2018.01

年/月

ドル/トン

図7 ニッケル価格推移

出所:LME

1,000

800

642599

540

350273

209

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017年

ドル/kWh

図8 バッテリーコスト(セル+電池パック)推移

出所:BNEF * 5

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27 石油・天然ガスレビュー

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電気自動車(EV)・天然ガス自動車普及の課題と燃料需給への影響

ダウンが求められている。③エネルギー密度の向上、次世代電池動向 EVの航続距離を延ばすためには電池容量(kWh)を増やす必要があるが、これは車両重量増および燃費(電費)とのトレードオフとなるため、電池のエネルギー密度の向上を目指した技術開発が進んでいる。現在、電池パックのエネルギー密度は、約10kg/kWh(100Wh/kg)程度と言われ、2017年型日産リーフの車両重量1.5トンに占める40kWhの電池パック重量は303kg*6 と、車両重量の約20%程度を占める。初期型の24kWh、294kgからは大幅に向上しているが、今後さらなる高密度化がEVの普及拡大の鍵となる。 トヨタは、2017年12月、“次世代電池として性能向

上が期待される全固体電池を、2020年代前半での実用化を目指し開発を進める”方針を明らかにした。 電池には、正極と負極の間にイオンの通り道となる電解質が満たされているのに対し、全固体電池は、電解質として従来の液体の代わりに固体材料を用いるものである。これにより、液漏れの防止による安全性の向上、セルの設計自由度が大きく増しモジュールの体積の減少、大電流による充電時間の短縮、高温や低温での出力低下も少ないなどの長所がある。 日本政府も、2018年7月、自

動車新時代戦略会議において、全固体電池について2022年度までに450Wh/Lの第1世代セルの量産プロセスや積層化、次世代セルの高エネルギー密度化を実証し、そのなかで現行LIBに比べ量産時パック価格1/3、体積エネルギー密度3倍、充電時間1/3に必要な技術の確立を目指すとしている。さらに、革新型蓄電池の開発を促進し、2030年頃までに重量エネルギー密度500Wh/kgの標準セルの確立を目指している。 エネルギー密度向上による重量低減は、燃費向上、積載容量の増加にも直結し、この進展次第では、短距離・都市近郊の移動に普及が進むEVが、中長距離の輸送を担うトラック等にも活用の可能性が広まることとともに期待される。

24%

13%

7%

12%

15%

Positive Active Material(正極材料)

Negative Active Material(負極材料)

Carbon and Binders 2%

Positive Current Collector(正極集電体) 2%

Negative Current Collector(負極集電体)

12%

8%

5%

Separators

Electrolyte(電解液)

Cell Hardware

Module Hardware

Battery Jacket

2%2%

図9 車載用蓄電池材料、外部調達部品 コスト内訳

出所:US/DOE,“the BatPaccost model, at Argonne National Lab”, 2017 年 10 月

図10 電池技術進化に関する各国目標

出所:経済産業省

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アナリシス

(2)電池製造段階を含めたCO2削減効果

 EVは走行時の化石燃料の燃焼に伴うCO2 の排出はもとよりないが、EVに給電する電力のCO2 排出係数次第で、CO2削減の効果が大きく左右されることとなる。加えて、リチウムイオンバッテリーの製造段階(採掘・精製・製造・組み立て)で、150 ~ 200kg-CO2/kWh程度のCO2を排出しているとも試算され*7、これらを含めた削減効果を評価していくことも肝要である。 仮に、1台あたり40kWhの蓄電池を搭載したと仮定すると、天然ガス火力発電からEVに給電する場合、約7万 km以上を走行した時にCO2削減効果が生じる。また、石炭火力の排出係数を前提にすると、約 20 万 kmの走行が必要となり、バッテリーの劣化により、交換が必要であれば、CO2削減効果はさらに限定的となる。 なお、現在、加速度的に導入が進む再生可能エネルギーによる発電も、普及当初は製造段階のCO2排出量に対する懸念等もあったが、ライフサ

イクルを通じたCO2排出原単位は、電力中央研究所の調査によれば、住宅用太陽光(0.038kg-CO2/kWh)、風力

(0.025kg-CO2/kWh)、地熱(0.013kg-CO2/kWh)、水力(0.011kg-CO2/kWh)*8 等となっており、火力発電等に比してもCO2排出削減効果は極めて大きいと言える。今後、EVの大量導入による気候変動対策を採るに当たっては、再エネ起源の電源の有効活用がより重要となろう。

0

5

10

15

20

25

30

0

5

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25

30CO2排出量(トン)

走行距離(km)

内燃機関車 EV(2016年日本排出係数0.531kg-CO2kWh)

EV(天然ガス火力排出係数0.376kg-CO2kWh) EV(石炭火力排出係数0.810kg-CO2kWh)

EV(再エネ排出係数0.038kg-CO2kWh)

再エネから給電EV5万km超の走行で排出減

天然ガス火力から給電EV7万km超の走行で排出減

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

90,000

100,000

110,000

120,000

130,000

140,000

150,000

図11 蓄電池製造段階のCO2排出を含めたEV ―内燃機関車総走行距離-CO2排出量比較

(注) 電気事業低炭素社会協議会(日本の排出係数)、2015 年資源エネルギー庁長期エネルギー需給見通し前提(天然ガス火力は GTCC、石炭火力は USC 前提、送電端)。内燃機関車燃費 15km/ℓ、EV 電費 7km/kWh、EV 電池積載量 40kWh/ 台。バッテリー製造段階CO2 排出係数は、175kg-CO2 と想定し、JOGMEC 試算。

出所: IVL Swedish Environmental Research Institute 2017.“The Life Cycle Energy Consumption and Greenhouse Gas Emissions from Lithium-Ion Batteries”。バッテリーの製造段階での CO2 排出量 150 ~ 200kg-CO2/kWh の中央値 175kg-CO2/kWh

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100

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1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 年

百万b/d百万toe/年

Oil Gas Coal Nuclear Hydro Renewables

図12 燃料別エネルギー需要推移と見通し

出所:BP, Energy Outlook 2018、Evolving Transition(ET)Senaciros

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29 石油・天然ガスレビュー

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電気自動車(EV)・天然ガス自動車普及の課題と燃料需給への影響

(3)トラック(長距離・重量輸送)におけるEV化

 石油燃料の多くは輸送に用いられるが、EV導入を主たるターゲットとする乗用車向け需要は、全体の約2割程度にとどまる。現時点の電池のエネルギー密度・コストを勘案すると、航空・船舶部門で液体燃料を電動化するのは現実的ではなく、また、貨物部門においても、長距離輸送については高コスト・大容量の電池が必要で充

電時間の制約もある EV化よりも、NOx・CO2削減が可能なLNG燃料の活用等が当面の解決策として考えられる。  な お、 米 Teslaは、2017 年 11 月、電動セミトレーラー “Tesla Semi”を発表、航続距離、コンセプト等を公表した。バッテリー容量は公表されなか っ た が、 航 続 距 離、 電 費 か ら 約600kWh(航続距離 473kmモデル)/1,000kWh(航続距離805kmモデル)となり、現状の電池のエネルギー密度

(10kg/kWh程度)を前提すれば、電池だけでそれぞれ、約6トン(航続距離473kmモデル)・10トン(航続距離805kmモデル)となる。

 日本企業でも、三菱ふそう、いすゞ自動車が、2017年11月の東京モータショーに、小型電気トラックを出展している。航続距離は約100kmで、都市部での利用を想定している。 電池のエネルギー密度・コストによっては、今後より普及が進む可能性があるが、輸送部門では、当面、特定の地域内での輸送、市内移動(バス等)での導入が先行す

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2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

百万b/d

Cars Trucks Non-road Non-combusted Industry Buildings Power

図13 用途別石油需要推移と見通し

出所:BP, Energy Outlook 2018

表8 輸送部門、用途別代替燃料

出所:各種資料より JOGMEC 作成

乗用車 貨物自動車等 船舶 航空機

燃料種 ・ガソリン、軽油 ・主に軽油 ・ C 重油(2020 年に低硫黄化排出規制施行予定)

・ジェット燃料(灯油系)

代替燃料 ・LPG・天然ガス(CNG/LNG)・HV、PHEV

・天然ガス(CNG/LNG)・バイオ燃料

・LNG・低硫黄燃料

・バイオ燃料混合

EV 化 ・先進国を中心に進展 ・ 地域内輸送、市内移動(バス等)での導入

・不可(特に外航船) ・不可

表9 Tesla Semi 仕様

出所:Tesla Website * 9

モデル Tesla Semi

航続距離 300mile もしくは、500mile(483km もしくは、805km)

加速(80,000ポンド=36トン積載時)

0km/h から、97km/h に要する時間:20秒

電力消費 2kWh/mile 以下(0.8km/kWh 以上)

価格 15 万ドル(300mile・483km)、18 万ドル(500mile・805km)

製造開始 2019 年予定

表10 三菱ふそう eCanter 諸元

出所:三菱ふそう Website

モデル Tesla Semi

航続距離 100km 以上

バッテリー リチウムイオン電池(6 個)バッテリー容量:13.8kWh/ 個 (合計 82.8kWh)

充電時間 1.3 時間(直流急速充電時)/9 時間(交流 230V)

最大積載量 3,600kg

車両総重量 7,500kg※ 車両総重量=車両重量+乗車定員× 55kg +最大

積載量

価格 未公表

製造開始 2017 年

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302018.9 Vol.52 No.5

JOGMEC

K Y M C

アナリシス

ると考えられる。電池容量だけでなく、1,000kWhという大容量の充電を可能にするような充電インフラの整備、系統対策も併せて必要となる。

(4)大気汚染対策

 東京都内の窒素酸化物(NOx)の4割、粒子状物質(PM)の約4分の1が自動車(建設機械等を含む)からの排出となっており、そのうち、窒素酸化物の約9割、粒子状物質のほとんどがディーゼル車によるものである。 しかし、大気汚染対策は、自動車からの排出削減だけにとどまらず、EVによる車両重量増が悪影響を及ぼす可能性もある。自動車タイヤの、ブレーキ摩擦によるPM排出の低減、工場・民生からの排出も含めた総合的な対策も怠れない。 これまでに、厳しい排出基準の適用により日本では、都市の大気環境について大きな課題になってはいないが、新興国では、自動車保有台数の増加、都市部でのエネルギー需要増による大気環境の悪化は深刻さを増している。大気汚染対策としてのEV化も解決策の一つではあるが、乗用車(ガソリン車)向けのEV化だけでは効果は限定的であるから、ディーゼル機関のトラック等への対策、EV化だけに限らず、天然ガス・LNG・LPG等も含めた現実的な対策も効果的であろう。

(5)電力系統対策

 IEAは、2億8,000万台のEV導入により、2040年時点で電力需要は約2%程度の増加と試算している。また、仮に、乗用車(輸送用除く)のBEV普及率が100%となった場合でも、現状の電力需要量と比べ、日、米、中はおおよそ1割増、EUは2割増であり、EV普及拡大の移行期間も考慮すれば電力量(kWh)への影響は限定的と言えよう。 一方、配電網、充電インフラの整備、充電に際しての負荷平準化の点では、大きな影響が考えられる。風力・太陽光などの再生可能エネルギーは、EVの蓄電池と同様に、近年、大幅なコストダウンが進んでいる。政策的な支援もあり、日照条件に恵まれた地域(国)での売電価格は、1セント/kWh台を示すなど、天然ガス・石炭火力等に比して競争力のある価格水準での導入が可能となりつつある。しかし、需要に応じた柔軟な発電ができないこれら自然電源の大量導入に際し、火力・水力発電が担ってきた負荷変動を吸収する等系統運用の改善が課題となってくる。蓄電池として、一般家庭の電力使用量(約10kWh/日)の数日分の蓄電池を搭載するEV(約30 ~100kWh/台)への期待は大きく、相乗効果としての普及が進む可能性があり、これらを前提としたインフラ再整備が求められる。

3. 天然ガス自動車、LNGトラック

 大気汚染対策、温室効果ガスの削減のためには、EVだけでなく輸送用燃料としての天然ガス利用による改善

効果も大きい。既に圧縮天然ガス(Compressed Natural Gas:CNG)車、LNG燃料トラック・船舶等で、実用化・

図14 都内の PM 排出量(二次生成粒子は含まない)

出所:東京都環境白書 2017

図15 都内の NOx 排出量

出所:東京都環境白書 2017

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31 石油・天然ガスレビュー

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電気自動車(EV)・天然ガス自動車普及の課題と燃料需給への影響

商業化が進んでいる。特に、EVの導入に際して課題になる電池コスト・航続距離・充電スタンド・充電時間等については、長距離輸送になるほどエネルギー密度の高い天然ガス車(Natural Gas Vehicle:NGV)に優位性があると言える。EVの電池コスト・重量等の技術革新の進展が見えてくるまで、大気汚染対策の現実的な解決策としての普及促進が見込まれている。

(1)普及状況、短期見通し

 NGVの保有台数は、2016年時点で約2,400万台以上と、EVの10倍超の普及状況だ。NGVの普及拡大を目指す業界団体、NGV Globalによると、世界のNGV保有台数は、2024年までに3,000万台を超える見通しである。 IEAも、WEO2017新政策シナリオにおいて、輸送部門の天然ガス需要を、2016年の約50Bcm(天然ガス需要3,635Bcmの約1.4%)から、2040年には約250Bcm(天然ガス需要5,304Bcmの約4.7%)への増加を見込み、このうち、天然ガス自動車需要は約185Bcm、原油換算では、約290万b/dに相当する。このシナリオによる見通しは、2040年に、EVが約2億8,000万台、原油換算約250万b/dの石油需要を想定するのとほぼ同等の見通しと言える。

(2)各種天然ガス自動車

 天然ガスを燃料とする自動車は、燃料の貯蔵方式により種別される。それは主に、圧縮天然ガス(CNG)、LNGと、研究段階ながらガス容器内の吸着材に吸着・数 MPaで 貯 蔵 す る 吸 着 天 然 ガ ス(ANG:Adsorbed Natural Gas)とに分けられる。 CNG車は、天然ガスを気体のまま高圧(20MPa)でガ

ス容器に貯蔵するもので、現在使用されている天然ガス自動車のほとんどがこのタイプである。なお、圧縮天然ガスだけを燃料にする天然ガス専焼車に加え、圧縮天然ガスとガソリンのどちらでも走行できるバイフューエル車、圧縮天然ガスに軽油を混合させるデュアルフューエル車等も欧州等で導入されている。燃料の供給は、ガソリンスタンドと同様に、小型車であれば数分で天然ガスを充

じゅうてん

填可能で、日本でも、既に、2018年3月末時点で4万7,158台*10が普及している。 液化天然ガス自動車(LNG自動車)は、天然ガスを液体状態(-162℃)で、超低温容器に貯蔵する。ボイルオフガス(BOG)が発生するため数日間しかタンク内のLNGを維持できないこともあり、稼働率・利用率が高い事業用のトラックを中心に、中国、米国等長距離移動が必要な地域での導入が中心となっている。 特に、中国では、LNG車の導入が急速に進んでおり、2016年末までにその導入台数は、26万台と推計される。初期投資額は、従来型のトラックよりも1万~ 1万5,000ドル程度高くなるが、LNG価格が軽油価格よりも安価なこともあって、追加投資は1 ~ 2年程度で回収できる環境となってきた。また、LNGの充填所は約2,700箇所を有し、沿岸地域ではLNG受入基地からの輸入LNG、内陸部では国産天然ガスからLNGプラントで液化、供給される。CNG車よりも長距離の走行が可能であることから、日本でも技術開発・実証試験が進んではいるが、LNG車・充填スタンドの商業運用はなされていない。

(3)EVとの比較、普及拡大の可能性

 EV、NGVともに、ガソリン・軽油など既存の輸送用燃料需要を代替するものであるが、EV、NGV普及上位

国の顔ぶれは大きく異なる。EVの普及国は、中国を除きすべてOECD国であるのに対し、NGVの普及上位国は、イタリアを除きすべて新興国・産ガス国だ。 現時点では、経済成長に伴い、自動車普及台数が増加段階にある新興国にとってEVの初期コスト負担は重荷なのである。また、EV導入の目的としては、特に先進国において間接的な経済被害の防止ためのCO2排出削減も重要だが、新興国では、直接的な環境被害・健康被害を防

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35,000,000

2000 2004 2008 2012 2016 2017 2021

2021見通し

その他

Italy

Brazil

Argentina

Pakistan

India

Iran

China年

図16 天然ガス自動車保有台数推移と見通し

出所:NGV Global (旧・International Association for Natural Gas Vehicles:IANGV)

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322018.9 Vol.52 No.5

JOGMEC

K Y M C

アナリシス

止するための大気環境改善が、より喫緊の課題となろう。 今後、各国政府にとって、EVの技術革新・コストダウンが進展するなかで、EV・燃料電池車・圧縮天然ガス・LNG燃料等から、どの燃料供給インフラを整備すべきかも課題となる。 NGVの燃料補給インフラが既に確立している国でEVが市場でのシェアを獲得するには、まだしばらく時間がかかる。小型乗用車にとって、EVが地球温暖化対策、大気環境改善の有効な解決策となる時代が近づきつつあるとはいえ、まだ大量導入による系統への影響等インフラの整備も課題と解決策が見えてきている段階にはない。また、トラックのような大型車両・長距離輸送車両を完全にEVに代替するには、単なる政策的な支援だけでは十分ではない。それにはまだ見ぬ技術革新が前提となり、より実現可能な選択肢としての、CNG・LNG活用の必要性も出てくると思われる。

4. まとめ

 EVは、これまで何度も普及拡大への期待があった。しかし、航続距離(利便性)、価格、充電スタンド等で、従来型の内燃機関を有する自動車に劣後し、限定的な導入にとどまってきた。ここへきて、将来の普及拡大が期待されるようになってきたのには、主に以下の要因・状況変化によるものと言える。

・蓄電池の技術革新  電池の低コスト化(7年で、1/5に低減)、エネルギー

密度の向上により、航続距離を延ばすために積載容量を増やした場合の車両価格の低下、車両重量の低減、燃費が向上。

・地球温暖化対策、大気汚染対策  EVは走行時に、燃焼に伴うCO2 排出、NOx、PM

表11 EV 保有台数・充電所(2017 年)

出所:IEA, Global EV Outlook 2018

順位 国名EV 保有台数 公共充電所

合計 BEV PHEV 低速 高速

1 China 1,227,770 951,190 276,580 130,508 83,395

2 United States 762,060 401,550 360,510 39,601 6,267

3 Japan 205,350 104,490 100,860 21,507 7,327

4 Norway 176,310 116,130 60,180 8,292 1,238

5 United Kingdom 133,670 45,010 88,660 11,497 2,037

6 Netherlands 119,340 21,120 98,220 32,976 455

7 France 118,770 92,950 25,820 14,407 1,571

8 Germany 109,560 59,090 50,470 22,213 2,076

9 Sweden 49,670 12,390 37,280 5,168 673

10 Canada 45,950 23,620 22,330 3,081 2,531

Others 160,600 100,820 59,780 31,959 7,009

World Total 3,109,050 1,928,360 1,180,690 318,128 112,023

表12 天然ガス自動車普及台数(2017年)

出所: NGV Global

順位 国名 保有台数 充填所

1 China 6,080,000 8,400

2 Iran 4,502,000 2,400

3 India 3,090,139 1,424

4 Pakistan 3,000,000 3,416

5 Argentina 2,185,000 2,014

6 Brazil 1,859,300 1,805

7 Italy 1,004,982 1,219

8 Colombia 571,668 813

9 Thailand 474,486 502

10 Uzbekistan 815,000 651

24 Japan 47,158 660

Others 2,533,831 7,742

World Total 26,163,564 31,046

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33 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

K Y M C

電気自動車(EV)・天然ガス自動車普及の課題と燃料需給への影響

排出がない。  2016年11月、パリ協定発効による気候変動対策の

ための取り組み強化、新興国都市部の深刻な大気汚染の改善。

・次世代産業の育成(中国等) ・ 再生可能エネルギー大量導入に係る負荷変動を吸収

するための、「蓄電池」としてのEVへの期待 一方で、EVの大量普及に際し、電力需要(kWh)増、ガソリン需要減といった影響は限定的だが、以下の課題への対処が必要である。 ・蓄電池の資源制約  リチウムイオンバッテリーの正極材の原材料である

Li、Coの資源制約、価格高騰懸念。  使用量の低減、エネルギー密度の向上、次世代型電

池(全固体電池)。 ・環境性  EV製造段階でのCO2排出も含めた温室効果ガス削

減。  大気汚染対策のため、民生・産業部門、重量増によ

るタイヤ・ブレーキ摩擦、トラック輸送におけるEV化等も含めた複合的な対策が必要。

・長距離輸送でのEV利用  電池コスト、エネルギー密度、充電インフラ、充電

時間。  天然ガス自動車(CNG)、LNGトラック、水素燃料

自動車等さまざまな代替手段の政策的な支援。 ・ 電力系統安定化、負荷平準化、再生可能エネルギー

発電の普及拡大

5. EV・自動運転の普及、移動・輸送の高度化を通じた社会変革の可能性(所感)

 EV導入による影響試算は、EVがICEをどれだけ代替するかを前提に検討される場合が多い。しかし、自動運転・ライドシェア・カーシェア等による移動・輸送の効率化は、EVと相互に関連することにより、より大きな社会の変革につながる可能性を秘めている。 自動車の燃費基準は、今後も、軽量化・内燃機関車の

効率向上による進展が見込まれるが、空気抵抗・転がり(摩擦)抵抗がある以上、大幅な効率向上には一定の限界がある。 燃費基準は、車両1台あたりの移動距離に応じた燃料・CO2排出量で評価され、例えば、km/ℓ、g-CO2/kmという目標への達成を目指した改善が進んでいる。

図17 諸外国における燃費基準推移

出所: 環境省*11“諸外国における車体課税のグリーン化の動向”2017年7月。日本2020:122g-CO2/kmは約20km/ℓに相当。

1km

走行

あた

りC

O2排

出量

(gC

O2/

km・

NED

Cベ

ース

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342018.9 Vol.52 No.5

JOGMEC

K Y M C

アナリシス

 しかし、内燃機関の燃費効率の向上は進むが、排気ガスとして一定の熱を排出するため、利用時点での効率ではEVには劣後する。また、移動、輸送の観点で考えると、車両重量1.5トンの車で体重60kg前後の人の移動を担い、かつ周囲の安全を確認しながら運転もするというのは、必ずしも効率的ではないかもしれない。単に移動するだけなら電動バイク等も効率的な移動手段となり得るし、また、同乗が可能なら、追加的な燃料消費も少なく極めて効率的な移動も可能となる。また、物流・輸送部門のEV化は、特に長距離輸送には大容量の電池が必要で、乗用車に比べて難しいとも言われるが、現時点でも、燃費(g-CO2/km)では乗用車に劣るが、輸送量あたりのCO2排出は圧倒的に効率的とも言える。したがって、車単体としての効率向上よりも、輸送・移動を含めたトータルとしての観点からの効率向上がより重要になると考えられる。 移動手段としての車両の稼働率向上についても今後、多くの変革・改善の可能性がある。大半の乗用車、特に個人が所有する場合の稼働率は、通勤や休日・余暇の活用が中心だとすれば数パーセントに過ぎない。情報化革命により、遊休資産の効率的な活用が可能であれば、高付加価値・低燃費の車は価格が高価であっても、導入が進む可能性がある。車「単体」の個人所有を前提とするのでなく、「高効率」な車両を、社会全体で保有「カーシェア」し、必要な移動時に

「ライドシェア」、蓄電池としての負荷平準化を「電池シェア」することで、より効率的な社会が実現できる。 Tesla社は、先進的な電気自動車を開発し、高価ではあるが、環境面・先

進性に価値を見出だす一定の消費者の支持を得た。しかし、1人が移動するのに、加速に優れ、長距離移動が可能となるような大きな電池(100kWh)を搭載した2トン超の車よりも、場合によっては、電動バイク(電動自転車)が必要な時に使えれば十分かもしれないのだ。むしろ、高価な車は所有しないが、必要に応じて移動手段が確保でき、自動運転により快適な輸送空間で運転以外の作業ができれば、日常的な移動にはそれを選択したい消費者も多いかもしれない。 自動車製造業にとっては、車の「所有」から、利用・移動に関心が移行し、稼働率の向上による製造・販売台数が減少することは、収益に対する影響は大きいものがあろうが、マクロ的視点から見れば、社会全体での資源の再配分がなされ、新たなサービス消費を増やすことにつながるであろう。 しかし、これらの社会変革・実現に際しては、現実的な技術課題の解決が必須であり、関連する社会インフラの整備も含めれば実現には数十年単位を要する課題でもある。化石燃料資源の多くを輸入に頼る日本においては、

表13 積載量、燃費、輸送量あたりの CO2 排出量比較

(注) 燃費、重量等は各種情報より JOGMEC 想定。系統排出係数は、0.5kg-CO2/kWh を想定。輸送量あたりの CO2 排出量は、車両種類ごとに乗員・積載量 1kg の移動(輸送)に必要な CO2 排出量を試算。内燃機関の電費参考値は、ガソリン発熱量33.37MJ/ℓ(=9.27kWh/ℓ)で換算。

出所:各種資料より JOGMEC 作成

種別 車両重量 乗員・積載量 総重量 燃費(電費) 燃費(g-CO2/km)

輸送量あたりのCO2 排出

(g-CO2/km・kg)

電動トラック 3,900 3,600 7,500 1.2km/kWh 416.7 0.1

内燃機関車 1,000 60 1,060 20km/ℓ(2.2km/kWh) 116.5 1.9

EV 1,500 60 1,560 7km/kWh 71.4 1.2

電動バイク 60 60 120 40km/kWh 12.5 0.2

EV(同乗) 0 60 60 5% 燃費低下 3.6 0.1

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

050100150200250300350400450

g-CO2 /km・kg輸送

g-CO2 /km

燃費(g-CO2/km) 輸送量あたりのCO2排出(g-CO2/km・Kg輸送)=右軸

電動トラック 内燃機関車 EV EV(同乗)電動バイク

図18 車種別 CO2 排出量比較

出所:各種資料より JOGMEC 作成

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35 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

K Y M C

電気自動車(EV)・天然ガス自動車普及の課題と燃料需給への影響

執筆者紹介

田村 康昌(たむら こうしょう)(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構〈JOGMEC〉 調査部調査課 主任研究員東京ガス株式会社入社後、工場向けの都市ガス営業、排出権取引、環境省出向、LNG船の契約・運航業務等に従事。2016年4月より現職。

Global Disclaimer(免責事項)本稿は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本稿に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本稿は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本稿に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本稿の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

<注・解説>*1: IEA, Global EV Outlook 2017*2: 一般社団法人 日本自動車工業会。2016年末の世界各国の四輪車保有台数*3: 工業レアメタル Annual review 2017等に基づき、主流の三元系NCM111のエネルギー密度0.58kWh/kg、Li(炭

酸リチウム換算0.67kg/kWh、12ドル/kg)、Ni(0.36kg/kWh、12ドル/kg)、Co(0.36kg/kWh、80ドル/kg)、Mn(0.33kg/kWh、5ドル/kg)を前提に試算。なお、エネルルギー密度の向上、Co使用量の低減も進んでおりあくまで目安。

*4: 工業レアメタル Annual review 2017等に基づき、主流の三元系NCM111のエネルギー密度0.58kWh/kg、Li(炭酸リチウム換算0.67kg/kWh×40kWh/台=約25kg/台、Co 0.36kg/kWh×40kWh/台= 15kg/台。Ni 0.36kg/kWh×40kWh/台= 15kg/台として試算。

*5: https://about.bnef.com/blog/lithium-ion-battery-costs-squeezed-margins-new-business-models/*6: https://www.nissan-global.com/JP/ENVIRONMENT/A_RECYCLE/BATTERY/PDF/leaf_ze1_manual.pdf、

https://www.nissan-global.com/JP/ENVIRONMENT/A_RECYCLE/BATTERY/PDF/nissan_leaf_manual.pdf*7: IVL Swedish Environmental Research Institute 2017*8: http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/leaflet/Y06.pdf*9: https://www.tesla.com/semi*10: 日本ガス協会 天然ガス自動車の普及に向けて 2017 ~ 2018年度版*11: https://www.env.go.jp/policy/tax/misc_jokyo/attach/trend.pdf*12: http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf

その移行段階で生じる多くの変化・不確実性にも対処できるよう、エネルギーの3E(Energy Security, Economic Efficiency, Environment)+S(Safety)のバランスを損なわないよう、また、戦略的なエネルギー確保が必要となるし、産業構造の変化に対応した新たな競争力確保も重要である。 2015年に国連で採択された“持続可能な開発のための 2030アジェンダ”*12 は、貧困、紛争、人権侵害、食糧安全保障、気候変動等さまざまな角度から、持続可能な

開発目標を掲げている。気候変動対策を考えても、既存技術の延長では技術的・政治的にも達成は難しいものがあるとはいえ、情報化の進展、EV・再エネの普及拡大・技術革新が相互に影響を及ぼし合いながら進展すれば、新たな社会実現も夢物語ではなくなってくると思われる。安定した経済成長のもとでの革新的な技術開発、社会全体の効率化による、真に持続可能な開発・発展を期待したい。