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聴覚障害者の自立支援のためのIT活用事業報告書 福祉医療機構高齢者・障害者福祉基金助成 平成 17 年 3 月 福祉情報研究会

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聴覚障害者の自立支援のためのIT活用事業報告書

福祉医療機構高齢者・障害者福祉基金助成

平成 17 年 3 月

福祉情報研究会

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はじめに

現在、愛知県には、約 15,000 人の聴覚障害者が暮らしている。彼らは、音を聞く能

力に違いがあることにより、健常者と比較して、生活の質(QOL)、特に「安心して暮ら

す」という部分において違いを強いられている。一例として、2000 年に発生した東海

豪雨で避難が遅れた被害者の中には、聴覚障害者が多く含まれていた。彼らに対する情

報の伝達手段が不足であるために、災害時には早期に避難できる健常者との差が生じた。

本事業では、災害発生時の聴覚障害者支援のための「手話映像による災害コール機能」

と、平常時の聴覚障害者同士や聴覚障害者と健常者のコミュニケーションを支援する

「テレビ電話による街角コラボレーション機能」を開発し、技術的な課題抽出と利用シ

ーンと利用技術の確認のため実証実験を実施した。

平常時に、従来の聴覚障害者のコミュニケーション方法を筆談等の文字によるものか

ら、よりコミュニケーションの原点であるイメージ認識に近い映像による方法を利用す

ることであり、「自然な方法」で情報入手できるようにすることである。これを実現す

るために、 新の IT を駆使したシステムを構築し、社会的に孤立状態にある聴覚障害

者の情報発信をサポートする。聴覚障害者向けに、すべての発信情報を「手話」と「テキ

スト」の二重化を実現し、システムをユニバーサル化する。聴覚障害者と健常者のコミ

ュニケーションを支援するコールセンターを設置し、携帯電話のテレビ電話機能による

システムを構築した。

災害時において、自宅から避難所までの第一次避難を安全かつ 適に実行するための、

支援ツールを構築した。聴覚障害者のための支援機器は、モバイル性を重視した GPS 携

帯電話、テレビ電話携帯を利用する。災害対策本部のための管理ツールとしては一斉同

報システム、位置情報システム、テレビ電話システム、Web 情報システム、二次元バー

コード、到着確認システムを構築し利用する。災害対策本部と聴覚障害者間の双方向通

信の実験により、災害発生通知から避難所への到着確認までの第一次避難プロセスを確

実に行なうための課題の抽出を行った。

本事業で開発したシステムにより、映像等を含んだイメージ認識情報を手話動画の形

式で送信することが可能となり、災害発生時には情報弱者となる聴覚障害者に早い段階

で適切な情報提供が可能となる。聴覚障害者のストレスが少ない、自由な形式と自然な

スピードのコミュニケーション手段として提案できる。この事業の普遍性は高く、全国

への展開が可能といえる。

本事業の遂行する過程において、独立行政法人福祉医療機構から助成金をいただき、

また行政、知多地区聴覚障害者支援センター、半田市災害支援ボランティアコーディネ

ータの会などにお世話になった。関係者の皆様に厚くお礼を申し上げる次第である。

平成 17 年 3 月

福祉情報研究会

代表 後藤順久

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聴覚障害者の自立支援のためのIT活用事業報告書

目 次

1.事業の背景・目的

1.1 背 景 3

1.2 目 的 5

1.3 研究開発内容 6

2.テレビ電話機能による街角コラボレーション機能

2.1 実験の評価ポイント 7

2.2 想定シーン 1 学生の年金免除の申請 8

2.3 想定シーン 2 コンビニでの会計と道案内 9

3.システム構築の前提条件

3.1 災害の発生と災害弱者問題の実際 11

3.2 避難と見守りネットワークの支援 12

3.3 災害弱者のプライバシーと災害弱者台帳の整備 13

3.4 避難支援ツールとしての携帯電話の有効性 14

3.5 防災マップの作成 14

4.開発したシステム

4.1 開発したシステムの構成 16

4.2 一斉同報メールシステムの機能 17

4.3 位置情報監視システムの機能 19

4.4 災害弱者台帳のシステム化 20

4.5 GPS による位置情報の取得 21

4.6 避難所・監視エリア・見守りネットワークの関係 22

4.7 監視エリアとゾーン監視 23

4.8 避難支援と管理指標について 24

4.9 避難所の変更への対応 25

4.10 QR コードによる避難完了について 26

4.11 システム構成 27

5.実証実験の実施

5.1 半田市における実証実験 28

5.2 実施方法 28

5.3 シナリオの事例 29

5.4 システムの有効性評価 32

5.4 課 題 34

おわりに

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1.事業の背景・目的

1.1 背 景

2000 年に発生した東海豪雨で避難が遅れた被害者の中には、聴覚障害者が多く含ま

れていた。彼らに対する情報の伝達手段が不足であるために、災害時には早期に避難で

きる健常者との差が生じ聴覚障害者の問題が顕在化し、その解決が求められている。被

災後、ボランティアの献身的な活動と携帯電話による情報収集が効果を上げたことが報

告され、聴覚障害者への的確な情報提供と収集が是非とも必要とされている。昨年の台

風 23 号では、兵庫県豊岡市在住の聴覚障害者が孤島となった県営住宅に閉じ込められ、

安否確認が 2 日間もできない事態が起きていた。防災行政無線システムが一般家庭に配

られているが、それを介した避難勧告や配給情報は聴覚障害者には役に立たず、別の情

報提供の方法が必要である。また、2004 年の新潟・福井の水害の際、避難勧告情報が

遅れ、何人かの要援護の高齢者・障害者の命が奪われた。それ以前の台風災害や 2000

年の東海豪雨水害の際も障害者への災害情報の提供、避難や救出などの支援体制のあり

方が課題になった。たとえば、災害同報無線を整備していても「雨の音で聞こえない」

など聞こえないことが多く、特に聴覚障害者、難聴者にとっては、聞き取りが困難な場

合が多い。

また、災害時では、個人的に安否確認情報を送受信したいというニーズが高まるため、

一般音声回線の回線数を、災害緊急通信網を確保するために、規制される場合が多く、

ニーズに対応できない事態が数多く発生している。

さらに、高齢者や障害者は災害情報を得たり、自分の安否を発信したりすることがで

きても避難や救援依頼が困難な場合が多い。

水害の避難行動について調査(主に高齢者対象)した例として、郡山水害(1998)が

ある。その中から本事業に関連することを抜き出すと、以下のようにまとめることがで

きる。

・ 早期に避難情報を入手した災害弱者ほど、避難を早く開始するので、情報の迅速な

提供が重要

・ 身内が近所にいない災害弱者や社会的ネットワークの希薄な災害弱者ほど避難時期

が遅い

・ 独居高齢者で避難が必要にもかかわらず、避難しない高齢者が少なからず存在する

・ 独居高齢者で周りに援助を要請することで、避難活動の実現が可能となっており、

郡山の地域コミュニティが重要な役割を担った

日本では台風・水害だけでなく、海溝型地震や直下型地震による大規模災害の危険性

も指摘されている。それに伴い、防災対策の充実化の要望が高まり、IT を活用した支

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援のあり方が各地域で模索され、実証試験などが盛んに行われてきた。

行政のマニュアル上に記載されている災害弱者への情報伝達、避難誘導などでは、同

報無線、文字放送テレビ、見えるラジオなどを利用する想定になっている。一斉に同じ

情報を伝達する場合には一定の威力を発揮するが、聴覚障害者などには情報が確実に伝

達しないなど、個別の障害に応じた対応ができない課題がある。この解決のため、IT

の発達により小型化・高性能化したモバイルなどを活用した情報伝達・避難誘導を支援

するシステムの研究開発が期待されている。そうしたユニバーサルなシステムが一般の

健常者にも使い勝手の高いツールとして活用されることも可能である。

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1.2 目 的

1995 年に発生した阪神・淡路大震災では 6,000 人を超す尊い命が犠牲となった。そ

の半数は援護が必要な障害者や高齢者などの災害弱者であり、災害直後の安否確認、救

出活動、避難指示が迅速に行われなかったことがひとつの原因として指摘されている。

行政によっては災害弱者支援対策マニュアルを作成し、災害弱者に対する支援策を積極

的に講じようとしている。そのマニュアルの中では、災害弱者向けの情報伝達体制を形

成し、適時に正確な情報提供を行うことを明文化している。本事業での目的の一つには、

身近な携帯電話を緊急時の端末として、災害情報の提供やコミュニケーションのツール

としての可能性を探るためのシステム作りとその検証のための実証実験を行う。災害発

生直後の異常状態において、聴覚障害者が自宅から避難所までの第一次避難を安全かつ

適に実行するための、支援ツールの構築と有効性を確認することにある。被験者とし

ての対象は、視覚障害者で構成し、実証実験にてシステムを検証する。視覚障害者用の

ための支援機器は、モバイル性を重視した GPS 携帯電話、テレビ電話携帯を利用する。

自治体のための管理ツールとしては一斉同報システム、位置情報システム、テレビ電話

システム、Web 情報システム、二次元バーコード、到着確認システムを構築し、使用す

る。このシステムを活用した実験で、災害発生通知から避難所への到着確認までの第一

次避難プロセスを確実に行なうための課題の抽出を行う。また、聴覚障害者向け避難支

援情報システムが携帯電話による文字情報伝達と手話情報伝達を前提とした構成とな

っているため、携帯電話で手話情報の伝達が可能なのか、平常時のシーンで確認する必

要がある。

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1.3 研究開発内容

(1) 一斉同報メールシステム

このシステムでは、聴覚障害者/見守りネットへの避難開始、避難上での危険回避、

メール指示の回答などを行うため、Web 連携の可能な一斉同報メールシステム(モバイ

ル i-Call)を活用した。

(2) 位置情報監視システム

GPS の位置情報を処理するパッケージ部分と開発プログラムの 2 つに分割できる。パ

ッケージ部分は、ドコモの DLP サービスを経由して、GPS 携帯電話に対して第三者検索

を掛けて、受信した位置情報(緯度、経度)をデータベースに保存する。開発プログラ

ムは、以下の機能から構成される。

① 災害弱者台帳処理:事前情報を登録

② 図形描画処理:ランドマークや防災マップの登録

③ 避難監視処理:避難状況を監視して、各種アラームを発行

④ QR コード読込み処理:聴覚障害者が避難所に設置された読み取り機に登録し、

避難完了を登録

(3) 災害弱者台帳のシステム化

災害弱者台帳は、本システムの中心的なマスタであり、災害弱者の個人情報と避難情

報と管理情報に分類される。

(4) 半田市における実証実験

半田小学校を避難所と想定し、実験シナリオに基づき、構築したシステムの支援を受

けながら、見守りネットワークを含め、聴覚障害者の避難実験を行った。

(5) 平常時におけるテレビ電話機能の活用

携帯電話のテレビ電話機能を利用して手話情報を確実に送信することができるか、確

認する。

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2.テレビ電話機能による街角コラボレーション機能

従来の聴覚障害者とのコミュニケーション方法を筆談等の文字によるものから、より

コミュニケーションの原点であるイメージ認識に近い映像による方法を利用すること

により、自然な方法で会話できるようにすることができないかということにある。 今回の実験では技術的な課題の確認のため、平常時の聴覚障害者と健常者のコミュニ

ケーションを支援するコールセンターを設置し、携帯電話のテレビ電話機能による実証

実験を実施した。 2.1 実験の評価ポイント

・筆談による文字のコミュニケーションよりスムーズなコミュニケーションが図れるか

どうか。

・スピードを求めるのであれば、手話通訳者、聴覚障害者にも IT 機器を使いこなす技

術が短期間で身につくかどうか。

・一般的に使用することが可能なレベルの IT 機器操作であるのかどうか?

・音声や映像が途切れることが多々あるが、健常者、聴覚障害者共にストレスを感じさ

せないコミュニケーションとなると一回で音声を認識できるだけの音質を保つことが

できるかどうか。

・聴覚障害者が携帯電話、もしくは PC などの IT 機器を介してイメージの認識の共有に

楽しさや新鮮さなどといった価値を見出せるかどうか。

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2.2 想定シーン 1 学生の年金免除の申請

(1) スクリプト

行政マン:おはようございます。本日はどういったご用件ですか?

聴覚障害者:学生なので年金免除の申請をしたいのですが。

行政マン:はい。しばらくお待ちください。こちらの用紙に必要事項を記入していただ

けますか?

聴覚障害者:はい。ペンをお借りできますか?

行政マン:はい。どうぞ。

聴覚障害者が用紙に記入する。

聴覚障害者:記入が終わりました。

行政マン:本日、印鑑はお持ちですか?

聴覚障害者:はい。学生証のコピーが必要とお伺いしたのですが今、提出すればよろし

いですか? 行政マン:はい。では、印鑑と学生証のコピーをお預かりします。しばらくお待ちくだ

さい。 聴覚障害者:次はいつ申請に伺えばよいですか? 行政マン:年金免除の特例は在学中は適用されます。今年度は 3 月までの免除となりま

すのでお手数ですが次年度 4 月以降、再度学生証のコピーを持ってお越しください。本

日、確かに年金免除の申請を受け付けました。ありがとうございました。 (2) 実験の結果 このシーンは学生にとって年金免除は一年に一度申請しなければいけない重要なこ

とであり、また、行政マンと聴覚障害者が接するシーンである。この行政サービスを受

けるには提出しなければいけない書類も多く、コールセンターを設置することで聴覚障

害者、健常者ともに苦痛を感じることなく、コミュニケーションを図ることが可能であ

るということが予測された。 まず、このシーンをコミュニケーションのスピードという観点で比較評価してみたい。

このシーンに所要した時間は以下の通りである。

筆談 タイプⅠ(ネットミーティン

グ) タイプⅡ(携帯電話)

3 分 41 秒 3 分 45 秒 3 分 28 秒 このシーンに関しては 3 者ともにほぼ似た経過時間でコミュニケーションを図るこ

とができる。スピードの観点から言えば、筆談もイメージを介してのコミュニケーショ

ンもさほど差がなく、PC によるネットミーティングの構築や携帯電話の意義を見出す

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ことはやや困難である。ただし、今回は実験ということであらかじめペンや紙が用意さ

れていたことを考えると実際のシーンを想定した時には筆談はもう少しの時間が掛か

ることが懸念される。

それでは、ストレスという観点ではどうであろうか。時間から考えるストレスはほぼ

同じである。記入項目が多いこのケースの場合、筆談を行い、その後に記入するという

ことは多少ストレスを感じることがあるという意見が聴覚障害者から聞かれた。ただし、

イメージを介するコミュニケーションも手話通訳者が記入事項を通訳するのに紙をカ

メラで映し出したり、コミュニケ-ションを図る人が読み上げたりと健常者にかかる負

担も大きいと考えられる。携帯電話の画面は小さく、この点はかなり不利である。また、

音声や画像が途切れることもあった。

2.3 想定シーン 2 コンビニでの会計と道案内

(1) スクリプト

店員:いらっしゃいませ。こんにちは。

聴覚障害者が買う品物を出す。

店員:お会計 1,230 円になります。

聴覚障害者が 5,030 円を出す。

店員:5,030 円からお預かりします。3,800 円のお返しになります。

聴覚障害者:すいません。道をお伺いしたいのですが。

店員:はい。どこへ向かわれますか?

聴覚障害者:知多半島道路美浜 IC にはどのように向かえばいいでしょうか?

店員:ここから北へ 3キロほど向かってください。そうすると交差点があります。そこ

を右折して道なりに 3キロほど進むと左手に美浜 IC があります。

聴覚障害者: 初の交差点で何か目印になるものはありますか?

店員:左手に八百屋があります。交差点には青い看板で案内が出ます。

聴覚障害者:ここからだと何分くらいかかりますか?

店員:10 分から 15 分程度だと思います。

聴覚障害者:ありがとうございました。

店員:どういたしまして。ありがとうございました。また、お越しくださいませ。

(2) 実験の結果 コンビニエンスストアーは聴覚障害者、健常者ともにもっとも便利な店であり、コミ

ュニケーションが必要とされることが予想される。レジの数字を視覚で捉えることによ

り会計をすることができるが、道を尋ねたりすることは困難であり、このシステムを確

立することにより、スムーズで無理のないコミュニケーションが図れると考えられる。

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このシーンも同様にコミュニケーションのスピードを比較評価してみる。

筆談 タイプⅠ(ネットミーティン

グ) タイプⅡ(携帯電話)

3 分 37 秒 4 分 40 秒 3 分 53 秒 実験での所要時間が示す通り、このシーンに限っては筆談の方がより早くコミュニケ

ーションを図ることができるといえる。その要因は次のようなことが挙げられる。 ・ 道案内をする時には健常者、聴覚障害者関係ないしに筆談の方がコミュニケーショ

ンを図りや易い。筆談でコミュニケーションを図っている場合、地図をその紙に書

くことができる。 ・ 道案内に必要なのは人のイメージ映像ではなく、地図のような地形のイメージであ

る。 ・ 筆談の場合、全ての会話を書き出す必要はなく、必要事項のみ抽出してコミュニケ

ーションを図ることが可能である。 今回の実験は静かな環境の中で実施したが、雑踏の騒音の中では情報機器からの音声

は小さくて、より聞きづらくなる可能性が大きい。ストレスという観点ではどうであろ

うか。聴覚障害者は会話の内容を省略して、意味を伝えようとすることにストレスを感

じている聴覚障害者が多く、この実験の協力者も同様のことを述べていた。人一倍、自

分が伝えたい、知りたいということに敏感である聴覚障害者のことを考えればこのイメ

ージを介するシステムはすべての内容を手話という映像を通してコミュニケーション

を図ると同時に安心感を与えることも可能である。 通訳者の立場からは、会話文があまり長くならず、短いセンテンスであることが手話

に変換するときにわかりやすいとの指摘があった。また、暗いところや逆光などで画像

が見にくくなるので、携帯電話の欠点もまだまだ多い。

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3.システム構築の前提条件

3.1 災害の発生と災害弱者問題の実際

「災害弱者」という言葉は、 近、「災害時要援護者」という表現に変わりつつある

が、ここでは一般に浸透し、イメージしやすい「災害弱者」という言葉を採用した。災

害弱者は、大規模地震や水害などの広域自然災害において、障害者をはじめ、乳幼児、

体力的な衰えのある高齢者、疾病者、日本語の理解が十分でない外国人などを意味して

いる。 災害弱者という言葉には、一般に避難困難者、避難生活困難者、生活再建困難者が含

まれるが、本研究で取り扱うものは、避難の可否が人命に直結することから、避難困難

者に限定する。 過去の災害で、救援・救助から取り残された災害弱者は、日ごろから周囲との付き合

いが少なく、心身のハンディキャップにより家族や自分たちだけでは緊急時を乗り切る

ことが困難な人たちであった。 身体的に制約を抱える高齢者・障害者などの災害弱者は災害時において自力での避難

が困難な状態に陥りやすいため、避難行動は身内や近所からの援助に大きくゆだねられ

る。しかし、日本全体で核家族化の進展や地域において近隣関係の希薄化が進んでおり、

社会的に孤立している現状では、災害時にしかるべき援助が得られない可能性があり、

避難から取り残されることが大いにありうる。

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3.2 避難と見守りネットワークの支援

1995 年の阪神・淡路大震災では、災害直後に救援が必要となった住民(家や家具な

どの下敷きとなったもの)は 3.5 万人と想定され、そのうち約 8 千人が防災要員によっ

て救出されているが、残りの 2.7 万人は近隣住民によって救出されている。しかし、災

害弱者、特に障害者の場合、プライバシーの問題から日常的な近隣関係を築くことが困

難であることが多く、災害時に近隣からの救援を確実に得られる体制は未整備である。

障害者を地域全体で見守る仕組みはまだきちんと整備されていないわけである。しかも

地域の方からもどう手を差し伸べたらよいのかわからないという戸惑いがあるのも事

実である。

本事業では、システムの有効性を実証実験で確認することを主眼においているため、

地域において個別支援の必要な災害弱者に対して、近隣住民やボランティアによる「見

守りネットワーク」の体制が築かれている前提である。

「見守りネットワーク」とは、日常からの付き合いを通じて障害者本人のことを知り、

信頼関係を築き、生活状況や必要な支援の内容を理解し、災害が起きた緊急時に安否確

認や避難支援を手助けするものである。家族だけでは災害弱者本人を支えきれないケー

スや災害弱者が独居高齢者のケースなどに有効に機能するシステムである。

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3.3 災害弱者のプライバシーと災害弱者台帳の整備

地域が自主防災組織や民生委員などのアドバイスを受け、個別支援の必要な災害弱者

の実態調査を行う必要がある。それらは以下にその内容を示すように個人情報そのもの

であり、名簿の管理やプライバシーの問題など負担に感じている住民が多いのも事実で

ある。こうしたデータベースでの一元管理ではなく、当事者と見守りネットワークの間

だけで必要な情報を共有する方法もある(御殿場方式)。 本研究で提案する台帳の基本フィールドとして以下のものが考えられる。 ・災害弱者氏名(漢字、かな) ・生年月日 ・性別 ・住所(都道府県、市町村、その他、アパート等) ・電話番号 ・同居家族1~4(氏名、続柄) ・昼間連絡先1、2(氏名、続柄、住所、電話) ・夜間連絡先1、2(氏名、続柄、住所、電話) ・かかりつけ医師(病院名、住所、電話) ・持病1、2 ・使用薬 ・禁忌薬剤 ・必要補装具 ・緊急通報システム(有、無) ・避難所 ・広域避難所 ・保険福祉サービスの需給状況 ・介護時の留意点 ・身体の状況 ・持ち家の状況 ・持ち家の構造 ・家具の固定(有、無) ・担当民生委員、児童委員(氏名、住所、電話)

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3.4 避難支援ツールとしての携帯電話の有効性

災害情報を受ける個人の情報ツールとしては、現在のところ、家庭が所有するテレビ、

ラジオ、行政が設置している同報無線などが中心となる。一斉に同じ情報を伝達する場

合には有効な手段であるが、個別の障害に応じた対応ができない。近年の IT の発達に

より、個人が所有する携帯電話、モバイルパソコン、PDA など避難支援情報システムの

端末としての可能性が広がっている。本事業では、操作が煩雑との一般ユーザーの不満

も聞かれるが、個人普及率が 60%を超え、生活に必需品となりつつある携帯電話を避

難支援情報システムの端末として想定し、全体システムの構築を行った。

3.5 防災マップの作成

防災マップとは、大規模地震の発生や、河川の氾濫にそなえ

て、住民が自主的に迅速に避難できるように、被害の想定され

る区域と被害の程度、さらに避難場所、危険エリア、避難経路

などの情報を地図上に明示したものである。 防災マップは、住民の防災意識を高めるために大きな役割を

果たしており、災害時を想定して作成された危険設備、エリア

等の住民の防災意識を図形化したランドマークを、地図上に反

映させることができる。本事業では、半田市災害支援ボランテ

ィアコーディネータの会の協力の下、対象地域の防災マップを

作成した。 (1) ランドマークのアイコン化

今回のシステムでは、地震用に各種 160 種類のランドマーク

をアイコン化して、分類は、危険な建物、危険な場所、備蓄場

所、公共施設、避難場所等を作成し利用した。 システムの描画機能で地図上の任意の場所に、アイコンと説明を追加できる機能を開

発して、平時に調査したランドマークを、緯度/経度情報と共にデータベースに記録す

る。 (2) アイコンの表示レイア

利用できる地図の縮尺によって、ランドマークアイコンの表示が密集し、地図自体が

見辛い状況が発生する場合がある。また、ランドマークの種類や表示の重要度等でアイ

コンの表示数を制限したいケースもあり、これに対応するために"複数表示レイア機能"を開発した。

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方式は、10 枚の仮想的に作成した表示レイアを、0~9 の表示レベルを指定すること

により、重ねて表示するものである。これにより、地図の縮尺が充分に大きくない場合

でも、ランドマークの種類や表示の重要度により、ランドマーク表示を切り替えて見易

い状態で、地図の表示を可能とした。 【アイコン種類で表示レイアを分けたケース】 レイア 0 ――> レイア 1 ――> レイア 2 ――> ベース ――> マップ 【半田市の防災マップの事例】

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4.開発したシステム

4.1 開発したシステムの構成

本事業で開発したシステムの基本構成は、平時に登録した災害弱者台帳などを前提に

災害弱者・見守りネットワークへの安否確認や避難指示などを発出する一斉同報メール

システムと、危険エリアへ接近した場合や避難時間がかかり過ぎた場合などに、位置情

報を本部で監視することにより、避難支援指示を行う位置情報監視システムである。

災害弱者台帳などへの事前情報登

・住所、氏名、連絡先など

一斉同報メールシステ

・メールの一斉送信

位置情報監視システム

・防災マップの事前登録

・危険エリアの即時登録

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4.2 一斉同報メールシステムの機能

このシステムにおいて、聴覚障害者/見守りネットワークへの避難開始、避難上での

危険回避、メール指示の回答を実現するほか、Web 連携の可能な一斉同報メールシステ

ム(モバイル i-Call)を利用した。これは ASP サービスで提供され、事前のメッセー

ジ登録や発行時の変更に対して柔軟に対応できる。また、メール機能については、各社

の携帯電話に対応しているため、見守りネットワークが利用する携帯電話は個人所有の

ものを利用し、操作についても習熟した端末を利用することができる。Web 連携機能で

は、メールの返答の他に手話ソフトの連携も実験し、ドコモの FOMA*1を使った聴覚障害

者への手話による避難情報提供を確認した。

*1 ドコモの第三世代携帯電話 iモード、iモーション、テレビ電話機能が利用できる。

【システム説明】

【手話の動画】

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【画面遷移】

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- 19 -

4.3 位置情報監視システムの機能

このシステムは大きく分けると、GPS の位置情報を処理するパッケージ部分と開発プ

ログラムの 2 つに分割できる。

パッケージ部分は、ドコモの DLP サービス*2を経由して、GPS 携帯電話に対して第三

者検索を掛けて、結果として受信した位置情報(緯度、経度)をデータベースに保存す

る。

開発プログラムは、以下の 4 つの機能から構成される。

① 災害弱者台帳処理 :事前情報を登録する。

② 図形描画処理 :ランドマークや防災マップの登録を行う。

③ 避難監視処理 :避難状況を監視して、各種アラームを発行する。

④ QR コード読込み処理 :聴覚障害者が避難所に設置された読み取り機に登録

し、避難完了を登録する。

*2 DLP:「DLP(DoCoMo Location Platform)コンソーシアム」において取り決められた統一プラットフォー

ムに基づき、企業に位置情報データなどを提供する法人向けサービスである。

Pgetter

避難

監視

処理

位置情報

図形

描画

緯度経度

開発プログラ

ランドマーク監視マスタ

災害

弱者

台帳

処理

QRコード

読取処

理 監視エリア管理マスタ

災害弱者台帳

DLP サービス

災害弱者支援システム

GPS機能

パッケージ

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4.4 災害弱者台帳のシステム化

災害弱者台帳は、位置情報監視システムの中心的なマスタであり、災害弱者の個人情

報(基本情報)と避難情報と管理情報に分類される。

(1) システム化手順

災害弱者台帳をシステム化する上で以下の手順を取った。

①災害弱者支援対策マニュアルの平常時の災害弱者支援対策から平時に備えるべき防

災の作業を確認した。

②災害弱者支援対策マニュアルの見守り台帳の災害弱者台帳様式例から今回のシステ

ムに利用する項目を抽出した。

③抽出した項目を吟味して、個人情報(基本情報)を作成した。 ④避難を管理するために必要な避難関連情報を、システム化に合わせて検討した。 ⑤システム化に必要な見守りネットワーク関連情報を検討した。 ⑥災害弱者台帳のデータベース設計を実施した。 (2) 個人情報(基本情報)の基本フィールド

3-3 で基本的なフィールドの提案を示した。

(3) 避難関連情報の基本フィールド

・自宅情報(緯度情報、経度情報) ・避難所情報(緯度情報、経度情報) ・避難予定時間 ・避難実績時間 ・避難開始(年月日、時刻) ・避難完了(年月日、時刻) ・避難距離 ・アラーム(なし、発生) ・避難状況(待機、避難、完了) ・乖離率等 (4) 見守りネットワーク関連情報の基本フィールド

・見守りグループ番号

・見守り番号

・GPS 携帯番号

・見守りネット登録承認(有/無、年月日)

・情報修正(年月日、時刻)等

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4.5 GPS による位置情報の取得

本事業ではドコモの推奨する DLP (DoCoMo Location Platform)の仕組を利用して、

位置情報を取得する。この DLP の特徴は、位置情報サービスの「統一プラットフォーム

である」という点であり、ASP 事業者、ソフト開発業者に標準化された位置情報サービ

スを提供できる。

(1) DLP の仕組

サービスの内容によってセンターやインターネットにつながったパソコン、あるいは

DLP 端末自体がユーザーとなって、ASP に情報をリクエストする。DLP 端末は GPS や携

帯電話、位置情報サービスを利用して測位した現在位置をドコモに通知し、ドコモは企

業や ASP にこの現在位置を渡す。そして、ASP ではその情報をもとにサービスとなるデ

ータを作り出してユーザーに送り出す。

DLP では、DLP コンソーシアムによって、測位方式の統合や ASP からドコモへのリク

エストの出し方、あるいはドコモから企業や ASP に提供する位置情報のデータがどのよ

うな形になっているかが決められている。

(2) 利用した GPS 携帯

自分の居場所がすぐにわかる「現在地確認機能」、自分の居場所を相手に知らせる「現

在地通知機能」、さらには、第三者からの要求で自分の位置を知らせる「現在地提供機

能」など、位置情報を基にしたサービスを簡単な操作で利用することが可能。

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4.6 避難所・監視エリア・見守りネットワークの関係

本システムでは、まず災害弱者を論理的なグループである見守りネットワークに登録

し、その後で物理的な避難所を指定する。 後に地図上に監視エリアを設定して、それ

ぞれの関連付けを行う。 見守りネットワーク・避難所・監視エリアの関係は、1対1対1の関係を前提として

いる。災害弱者は、どこかの見守りネットワークグループに登録されていることになる。 ただし、地図上の物理的なエリアは、重なっていることも可能であり、これにより近

接する地域で複数のグループを管理/避難させることや、避難所の変更等の操作に対応

することが可能となる。

監 視 エ リ監 視 エ リ

見守りグルー

見守りグルー

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4.7 監視エリアとゾーン監視

今回のシステムでは、避難を安全に実施するた

めに、2 種類の監視エリアを設定し、それぞれに ゾーン監視*3 *3 ゾーン監視は、地図上で指定した任意のエリアに

「立ち入った」、「出た」を監視する機能で入出を検知

した場合にアラームを発生させる。

(1) 2 種類の監視エリア

一つ目は、避難所に所属する全ての災害弱者の自宅

を含む範囲(たとえば小学校区)を監視エリアとする。

避難行動の 中にこのエリアの外に出た場合に、アラ

ームを発生させる。アラームの種類としては、監視エ

リア内からエリア外に出た異常を通知する(Out 監視)。

避難者が、事前に設定した監視エリアの外に誤って出た場合、システムが GPS の位置

情報から判断して、Out 割り込みを発生させ、異常を避難所にいる管理者にメール、も

しくは画面表示等で通知する。管理者は、避難者にメールなどで連絡して、正しいルー

トに誘導する。

二つ目は、避難開始時点もしくは避難中に設定した危険エリア(たとえば市街地火災

区域)へ入った場合にアラームを発生させる。アラームの種類としては、監視エリア外

からエリア内に入った異常を通知する(Into 監視)。

自力避難者が、事前に設定した監視エリアの内に誤って入った場合、システムが GPS

の位置情報から判断して、into の割り込みを発

生させ、異常を避難所にいる管理者にメール、

もしくは画面表示等で通知する。管理者は、避

難者に連絡して、安全なルートに誘導する。

今回の避難のための位置情報管理システムでは、

動態監視に用いられる "out ->into 管理"の技

術を応用し、安全な避難誘導についてのシステ

ム化を実現する。

out

アラーム監視エリア

災害弱者

避難

防災マップ

避 難

監視エリア

災害弱

橋の倒

into アラーム

防災マップ

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4.8 避難支援と管理指標について

この位置情報監視システムでは、以下の 3 個の管理指標を設定した。 (1) 今回採用した管理指標

① 避難遅延アラーム 事前に登録した避難想定時間と避難完了時間の差を比較して、避難遅延アラームを出

力する。今回設定した閾値は 50%で、避難予定時間の 150%を越えた時点でアラームを

出力する。

② ゾーン監視アラーム

・out 監視アラーム

避難行動を開始し、災害弱者が事前に設定した避難監視エリア(エリア境)を越えた

場合に out 監視アラームを出力する。

・into 監視アラーム

避難を開始し、災害弱者が事前に、

または避難中に設定した危険監視

エリアに進入した場合に into 監視

アラームを出力する。

③ 乖離アラーム

避難を開始し、災害弱者が自宅か

ら避難所に向かう方向を大きく外

れた場合に乖離アラームを出力す

る。

乖離率=bの面積÷aの面積+閾値

三角形の面積は、事前に登録した自宅、避難所の位置情報と GPS 携帯からリアルタイ

ムに取得される災害弱者の位置情報から、ヘロンの公式を元に算出する。 ただし、逆走は別ルーチンの監視を行う。

(参考)ヘロンの公式

3 辺の長さをそれぞれ a,b,c とするときの、面積

Sは

S=√s(s-a)(s-b)(s-c)

(ただし、 s=(a+b+c)/2)

自宅

避難所 a

災害弱者

a:基準面積

ba

避難所

自宅

災害弱者

乖離アラーム

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(2) 今回採用しなかった管理指標

・滞留時間アラーム 避難行動を開始し、災害弱者が避難途中に同じ小さいエリアに、ある時間以上滞留し

た場合に滞留時間アラームを出力する。今回、採用しなかった理由は、位置情報の検索

時間間隔と滞留時間との関係で正確性を欠くと考えて採用を断念した。 4.9 避難所の変更への対応

実際の災害避難においては、避難所の状況に応じて避難所の変更が発生する。システ

ムとしてこれに対応できるように、避難所変更処理を追加した。

災害弱者は、災害弱者台帳により"避難所"と"監視エリア"と"見守りグループ"に関連

付けされている。避難所AからBへの変更は、災害弱者の関連付けを"避難所 A-監視

エリア A-見守りグループ A"から、"避難所 B-監視エリア B-見守りグループ B"に変

更することにより実施する。

システム面での考慮は、避難所の変更処理の実施したときに、データベースの関連付

けを移行できるように設計した。

監視エリア

監視エリア

見守りグループ

見守りグループ

避難所 A 避難所の変更

避難所 B

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4.10 QR コードによる避難完了について

避難完了時の登録は、携行した GPS 携帯の裏に貼り付けた QR コード*4をシステムで

読み取ることにより実施する。この方法を採用した点は、本人の確認を視覚と IT の両

方で実施することに重点をおいたためである。他の方法としては、GPS の位置情報を利

用して、避難所のエリアに進入したときに避難完了を行う方法もあり、避難場所により

選択したい。

QR コードには管理上のコードの他に、以下の情報をメモとして保存できる。

「自宅情報、災害弱者氏名、電話番号、昼間連絡先、夜間連絡先、かかりつけ医師(病

院名、住所、電話)、持病、使用薬、禁忌薬剤、血液型」

*4 QR コード:2次元コードの一種であり、「リーダにとって読み取り易いコード」を主眼にデンソーウェ

ーブ(開発当時は株式会社デンソーの一部門)が開発し、1994 年に発表した。

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4.11 システム構成

ネットワーク構成は、サーバークライアント型のシステムをインターネットで接続し

た構成を取る。回線スピードは、カード型のネットワークカードを利用することを想定

し、64Kbps で十分操作可能なように作成した。また、DLP センターとの接続は、インタ

ーネット上にグローバルアドレスを設定して実施するが、災害時に簡易的に使用できる

ように直接クライアント端末からネットワークカードを利用できるようにした。

今回のシステム構成の特徴は、DLP サービスを経由して位置情報を受け取る部分に車

両位置情報のパッケージ(P-Getter Lite)を利用したことにより、災害弱者システム

本体の作成に注力できた。開発手法は、プロトタイピング手法を利用することにより、

機能別の試験の結果をタイムリーにシステムに反映できた点が、システムをブラッシュ

アップするのに役立ったと考える。

DLP

サービス インターネット

サーバー クライアント

PowerGres

位置情報履歴

P-Getter Lite

位置情報パケージ

PowerGres

災害弱者台帳

Visual Basic

災害弱者支援

システム

位置情報

参照

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5.実証実験の実施

5.1 半田市における実証実験

災害発生(地震)直後において、聴覚障害者が自宅(職場・学校)から避難所までの

第一次避難を、安全かつ 適に実行するための支援ツール(避難支援情報システム)の

有効性を確認することを目的とし、半田小学校を避難所と想定し、聴覚障害者及び見守

りネットワークの役割を持つ被験者を割り当て、実験シナリオに基づき実証実験を実施

した。 5.2 実施方法

実施場所:半田小学校周辺地域

シナリオ概要:災害対策本部(瑞穂市総合センター)より以下のメールを発出

① 地震発生を被験者へ一斉メール発出 ② 災害弱者へ安否確認メール発出 → Web 入力により回答

③ 見守りネットワークへ支援要請メール発出 → Web 入力により回答

④ 災害弱者へ見守りネットワーク到着確認メール発出 → Web 入力により回答

⑤ 被験者へ地震による災害発生及び避難開始連絡メール発出

⑥ 災害弱者へ位置モニタ開始連絡メール発出

⑦ 災害弱者の避難経路が想定されている経路から外れていることを発見。災害弱

者及び見守りネットワークへ経路間違いの連絡メール発出 → Web 入力によ

り回答

⑧ 避難経路変更理由の確認メール発出

⑨ 避難所到着連絡及び QR コード提示依頼メール発出

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5.3 シナリオの事例

実験を行うため、自宅で被災してから避難を完了するまでのシナリオを事前に準備し

て、システムの動作を確認する作業を行った。その一例を以下に示す。 実験 1 石川さん(自宅<国盛 酒の文化館を自宅と想定>で被災)見守りは松井さん

発 生

か ら

の 時

災害事象 イベント

災対本部・避難所

からの情報発信 被験者の(避難)行動

見守りネットワークの

行動

0:00 地震発生

自宅半壊

庭へ避難

三重県沖を震源と

する地震が発生し、

半田市の揺れは震

度 6です。落ち着い

て行動してくださ

い。(メール)

自宅が半壊したので、庭

に避難した。

自宅で次のメールを待機

0:05 (聴覚障害者へ)

石川さん、地震が発

生しました。ケガを

しましたか?

身の回りに危険は

迫っていますか?

(見守りネットへ)

見守りネットの松

井さん、あなたの担

当の石川さんがケ

ガをされました。至

急、様子を見に行っ

てください。あなた

は今、行けますか?

⇒Web にて回答

「1.はい。ケガをしまし

た。」「2.いいえ、ケガを

していません」⇒1

「1.はい、危険が迫って

いる」「2.いいえ、危険

は迫っていない」⇒2

⇒Web にて回答

「1.はい。すぐに行きま

す」「2.いいえ、すぐには

いけません」⇒1

0:12 (聴覚障害者へ)

誰か、助けが来まし

たか?

「1.はい、来ました」

「2.いいえ、来ていませ

ん」⇒1

0:17 市街地火 (両者へ)

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災発生 本町5丁目で火災が

発生しました。避難

場所である半田小

学校に避難してく

ださい。

0:25 道順を間

違う

(両者へメール)

避難地である半田

小学校への道順が

間違っています。携

帯の地図をよく見

てください。

石川さん、そうでし

たか。安心しまし

た。気をつけて避難

してください。

「1.わかりました」「2.

障害物があったので迂

回する」「3.その他の理

由で迂回する」

⇒3

火災から避難するため

迂回しました。

「1.わかりました」「2.障

害物があったので迂回す

る」「3.その他の理由で迂

回する」

⇒3

0:35 避難地到

QR コード

の提示

避難地の半田小学

校に到着しました。

QR コードを提示し

てください。

⇒QR コードをリーダに

かざす

(評価のポイント) ・ 聴覚障害者に情報を時間遅れなく伝達できたか? ・ 見守りネットに情報を時間遅れなく伝達できたか? ・ 聴覚障害者および見守りネットがケイタイで地図を確認できたか? ・ 本部が聴覚障害者と見守りネットとの間で時間遅れなく情報伝達できたか? ・ 本部で対象者の位置を捕捉し、避難路の間違いなどを指摘し、正しい避難路に誘導でき

るか? ・ 対象者の位置が想定した避難路から大幅にずれた場合、アラームが自動的に出て、担当

者に知らせることが出来るか?

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【実験中の本部画面】

【携帯電話の画面】

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5.4 システムの有効性評価

実証実験を通じて、おおむね、以下の有効性が確認できた。

① 文字情報で伝わるため、情報の誤解が少ない。

② Web 連携機能によりメッセージの返信が可能であり、到着確認が確実に行える。

③ 返信には、メッセージの候補が登録でき、聴覚障害者にも操作が容易である。

④ 余裕のある聴覚障害者からは、災害情報も返信され、システムの危険エリアの

追加等に利用できる。

⑤ 送信側についても、事前に避難指示メッセージが登録でき、変更にも容易に対

応できる。

(1) 災害対策本部について、

メールソフト、位置測位ソフトともに、ソフトの操作が難しい。位置確認とメール配信

が別のソフトで別のパソコンで行われることもあり、メールの誤配信など操作ミスが出て

しまう。 また、1 人の聴覚障害者を支援するために 2 人体制で操作しなければならないため、人員

の無駄やミスが増えることになる。いくらミスがなくても、メールソフトは位置測位ソフ

トの状況確認をしながらの対応なのでの即応しにくくなる。また、災害が起きた際に、地

域の拠点にソフトの操作に明るい人材が必要となる。 避難と誘導まで行うとなると、地域の被害状況の情報収集が必要となるが、そのための

人員配置が必要となる。実際災害が起きたとき、見守りネットワークより早く情報発信源

となる災害対策本部に担当職員がたどり着けるのかという課題がある。辿り着けたとして

も、被災後の緊急を要する状況や、混乱状況で、聴覚障害者の居場所、多くの見守りネッ

トワークの情報が集まる一方、それを処理する人員が少なすぎて、緊急対応が円滑にでき

ない可能性がある。 したがって、聴覚障害者や見守りネットワークがこのシステムに依存すればするほど、

担当者の情報発信と情報収集の負担が増えるため、情報入力や処理の単純化、運用の自動

化を図り、宿直者が常駐できる、本庁への情報集約、判断の一元化が必要となる。 しかし、災害の状況により、本庁が機能しない場合がある、バックアップや情報の分散

化、処理の円滑化を狙って、各避難所など、対策本部は、地域分散をさせたほうがよいと

考えられる。

(2) 避難誘導について

避難誘導というコンセプトにこだわりすぎたのではないかと思う。避難誘導をするとな

ると、被災者の居場所にあった避難経路の指示(道順ナビゲーション)ができなくてはな

らないが、今回は技術の限界でできなかった。技術面の開発や情報通信のインフラ整備を

する必要がある。

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また、今後は、聴覚障害者や見守りスタッフの現場の判断を尊重し、「避難を開始します」

と被災者側から情報を発信する方がよいと考えられる。 理由は下記の通りである。

① 被災者が避難開始の指示を待つ時間が長かった。すでに避難できる準備ができているに

もかかわらず、避難できないという精神的な不安感があった。 ② 地震災害の場合、余震の可能性もあり、被害が拡大する可能性もある。すぐに避難所ま

たは、近くの安全な場所へ避難できるように配慮した方がよいと考える。 避難指示のメールの間違い、指示をするスタッフの負担が多くなる可能性もある。 避難所や災害対策本部は現地の情報に疎くなりがちなので、現場の判断を尊重し、現場

から情報収集、自発的に報告ができる形で、システム設計をし直した方がよいと考える。 まず、見守り者が現場へ到着できるのか、今どこにいるのか確認できるのかとういう課

題がある。また、見守りネットワークを多く配置する場合、誰が一番早くいけるかの計算

をし、誰に行ってもらうのかを決めるといった「コーディネート」が必要となる。 そのコーディネートはどうするのか、ソフトの機能で解決できる部分と、そうでない部

分に分けて検討する必要がある。

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5.5 課 題

実証実験を通じて、以下の課題が確認できた。

① 災害時にはメール遅延等の影響が懸念される。

② メール送信時に GPS の位置検索のメッセージが表示されると、誤って位置検索

をキャンセルするケースがあった。結果、その回の位置登録が行えないことが発生

した。

③ GPS については、普段とは違う携帯機種を使ったため、メール確認等に手間取

るケースがあった。

④ 二つ折りの携帯電話については、障害タイプにより携帯を開く操作が難しいケ

ースがあった。

⑤ 今回の被験者である聴覚障害者は、携帯電話によるメールを普段使い慣れてい

るという点で、メールによる情報提供は有効な方式であることを確認した。ただし、

障害タイプにより違いが発生するため、音声や手話テレビ電話等の併用を検討する

必要がある。

一斉同報メールによる聴覚障害者への災害情報の通知において、携帯電話の個体差に

よる使い易さの違いはあるにせよ、携帯電話は支援ツールとして、確実なツールである

ことが確認された。GPS 携帯電話は、可能な限り聴覚障害者への負担が少ない設計が災

害発生時には必要になる。実際の運用には、平時の見守りネットワークの編成や災害ボ

ランティによる防災マップ作り等の地域防災力が、安全でスムーズな避難行動を行うた

めの条件になる。ただし、災害発生時の電話の輻輳状況で、携帯メールや位置情報シス

テムがどこまで使えるか疑問であるが、地域防災力の向上と、将来的には IT の進歩に

より解消されるという基本思想の元で、個別の機能でも利用可能なシステムにすること

が重要である。

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おわりに

総務省では、2003 年度に「ユビキタスネットワーク時代に向けた次世代研究開発ネット

ワークの在り方に関する調査研究会」を組織し、携帯情報端末を活用し、GPS やその他、

無線情報ネットワークを活用した生活支援のあり方とインフラ整備を検討した。 その中では、次のように書かれている。

2005 年まで

目的地までの道案内や、買い物支援、スロープやエレベータの位置を案

内する高齢者や要介護者のための生活ナビゲーションシステム。また、い

つでもどこでも、時刻や場所に対応した地域の情報や天気などのさまざま

なホームページを呼び出すことができる。買い物の利便性、高齢者や要介

護者支援、日常生活における便利さ向上できる。 2010 年まで 高齢者や要介護者が外出先で事故や病気になったときにでも迅速に対応

できる。移動中ユーザの様々な要求に即時かつ柔軟に対応したサービス提

供。様々な情報端末上で、端末の種類や放送とインターネットの違いを意

識することなくサービス/コンテンツが利用できるようになる。 位置情報等の状態を発信することで、より利用者の嗜好に合った買い物

や、その時の状況に応じたナビゲーション、外出先で突然のアクシデント

に遭遇した場合も近場の施設等に通知され、迅速かつ適切に介助が可能と

なる。 上記のように、携帯情報端末を生活支援、特に要援護者の安否確認、生活支援、生活向

上に活用する動きは加速しており、国をあげて技術開発の支援をおこなっているところで

ある。 本報告書の中で述べたように、災害時、避難情報、災害発生情報の発信、安否確認の送

受信は犠牲者を減らすためには重要で、その情報を聴覚障害者に確実に届けることができ

ることが必須となっている。その時、日常的に各個人の情報の送受信に活用されている携

帯情報端末や携帯情報通信の果たす役割は大きいと考える。 さらに、情報発信、情報受信の技術やシステムをより有効に機能させるためには、技術

では対応しきれない「地域での互助・共助システム」が必要であると考える。 この事業では、災害発生時の聴覚障害者の避難や救出を支援する情報システムの開発を

主な目的としたが、日常の生活支援を視野に入れた、地域社会の「人的システム」を支援

する「情報システム」の開発にも取り組んだということが、特徴としてあげられる。

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主な機能は次のとおりである。

① 聴覚障害者の日常的な生活支援体制の構築 ② 災害発生情報、災害予測情報(避難指示・勧告情報)の発信 ③ 聴覚障害者をはじめ被災者の安否確認情報の収集 ④ 聴覚障害者の安全確実な避難誘導、避難援助の実行

具体的には、日常生活においては、聴覚障害者の安否確認や悩み相談など、見守りネッ

トワークや助け合いの支援になり、災害時においては、従来から携帯情報端末で行われて

いる、②③ の情報送受信機能と、①④ の被災者の位置情報の配信を活用し、地域住民に

よる安否確認や、救出の支援をするといったシステム開発が重要だといえる。

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参考文献

1) 災害時における障害者の支援・救援を考える会;「できることからはじめよう ~災

害弱者防災ハンドブック」,NPO 法人ストックヤード,2004 年 6 月

2) 片田敏孝;「平成 10 年 8 月末集中豪雨災害における高齢者の避難行動と避難援助に関

する調査報告書」,2000 年 3 月

3) 日本聴力障害新聞,2004 年 10 月 30 日

4) 岐阜県;「災害弱者支援対策マニュアル」,2002 年 5 月

5) 秋山隆志郎;「災害時における障害者情報システムの研究」,東京情報大学研究論集

Vol.3 No.1,1999 年

6) 「特集 災害弱者を守る」,月刊ガバナンス 第 24 号、2004 年 10 月