構造設計における最適化プログラムの利用に関する アンケートお...
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構造設計における最適化プログラムの利用に関する
アンケートおよびヒアリングの実施
- 報告資料 -
(一社)日本建築学会
構造最適化と設計小委員会
1.実施の概要
<アンケート>
アンケートは以下の 2つのイベントにおいて実施した。①では構造設計実務者の母数が少なかった
ため、JSCA(日本建築構造技術者協会)の協力を得て②のイベントでも実施することができた。実
施したアンケートの内容を図1に示す。
① 平成 28年 10 月 27 日(木)、28日(金)
「第 11 回コロキウム構造形態の解析と創生 2016」建築会館ホール
② 平成 28年 11 月 22 日(火)
「JSCA 構造デザイン発表会 WG 勉強会」日建設計 NSRI ホール
<ヒアリング>
アンケートに連絡先をご記入いただいた回答者の中からヒアリングにもご協力いただける方を募り、
ヒアリングを以下の日時で実施した。
③ 平成 29年 3 月 7日(火)日本建築学会 会議室
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図1:アンケートの内容
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2.アンケート結果
① 「第 11 回コロキウム構造形態の解析と創生 2016」
回答率:32/94=34.0% (32 名の回答のうち、実務者は 7 名)
- Q1を見ると、学生など大学関係者が8割を占めており、実務経験を有する方の回答は少なかった。
- Q3 より、最適化プログラムの構造設計への活用は9割が「なし」という回答であった。「ある」
と回答した方は、全員、プログラムを自作して活用していた。
- Q4 の分かりにくい部分について、回答は均等に配分された。一番多かった回答は「設計にどのよ
うに導入すればよいか」で、2番目に「目的関数、設計変数、制約条件をどのように設定すればよ
いか」、3番目に「探索手法の理論」であった。
- Q5 の興味のある部分について、「形状の探索」の回答が一番多く、回答の3割を占めた。2番目
は「耐震壁・ブレースの位置・断面の探索」、3番目は「骨組部材断面、部材配置の探索」であっ
た。
- Q6 の探索手法への興味としては、回答は均等に配分された。1番多かった回答は「多目的最適化
の手法」、2番目に「発見的手法」、3番目に「数理最適化の手法」であった。
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Q2~Q6その他の回答内容、Q7意見・要望等
Q5 その他
アルゴリズミックデザイン 最適解がもつ力学的性質と形態との関係 解を誰がどのように判断するのか
Q2 その他
鉄鋼メーカー研究所、ソフトメーカー
Q3 開発環境
Matlab, C, Fortran, Processing, Excel VBA
Q4 その他
構造最適化プログラムを作成する際に適切な言語 理論とプログラミングのハードル (ライブラリの可搬性がクリアできると、、、) 解を誰がどのように判断するのか
Q7 ご意見・ご要望等
免震、ブレース配置の最適化 近年のPC環境の著しい向上で、再び価値が出てきそうな最適設計の研究 (例えば、ラーメン骨組の1次~2次設計の実務設計+最適化) ・構造以外の指標をどう取り入れるべきか ・個別の構造最適化が建物設計のどの段階での使用を想定しているのか ライノセラスなどの汎用ソフトを利用した構造最適化 (汎用ソフトどうしを組み合わせたものを含む) 音響も考慮した構造最適化 具体的な実施設計への活用・応用について (実施設計に耐える最適化プログラムの開発等) たいへん充実したコロキウムでした。益々のご発展をお祈りしております!
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② 「JSCA 構造デザイン発表会 WG 勉強会」
回答率:42/74= 56.8%
- JSCA の若手構造設計者を対象とした催し物であったため、実務経験が「5年未満」、「10年未
満」の方がそれぞれ4割ずつと回答の多くを占める結果となった(Q1参照)。
- Q2 より、所属としては組織設計事務所が5割を占める。
- Q3 より、最適化プログラムの構造設計への活用は8割が「なし」という回答であった。「ある」
と回答した方は、ほとんどがプログラムを自作して活用していた。 市販のツールとしては「グラス
ホッパー」を活用した方もいた。
- Q4 の分かりにくい部分について、「目的関数、設計変数、制約条件をどのように設定すればよい
か」が一番多く、回答の約3割を占めた。2番目は「設計にどのように導入すればよいか」、3番
目は同じ割合で「構造最適化の流れ」と「探索手法の理論」であった。
- Q5 の興味のある部分について、「形状の探索」の回答が一番多く、回答の3割を占めた。2番目
は「骨組部材断面、部材配置の探索」、3番目は「崩壊系の探索」であった。
- Q6 の探索手法への興味としては、回答は均等に配分された。「発見的手法」と「多目的最適化の
手法」が同じ割合で一番多く、3番目に「数理最適化の手法」であった。
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Q2~Q6その他の回答内容、Q7意見・要望等
Q4 その他
ツールの種類 等
Q6 その他
AI
Q7 ご意見・ご要望等
最適化についても知りたい 最適化手法を構造設計に適用するための入門書等を整備して欲しいです。 設計例、プログラムソースの公開・・・
Q3 開発環境, 市販ソフト
ADOS, Grasshopper, Fortran,
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アンケート結果に対する考察
①と②のアンケート結果から考察できることを以下に示す。
- 構造設計の実務において最適化プログラムは、まだほとんど活用されていないというのが現状で
ある。
- 分かりにくい部分は「設計にどのように導入すればよいか」と「目的関数、設計変数、制約条件
をどのように設定すればよいか」が多くを占めており、実務における普及を促すためには、ここの
部分を明快にしていく必要がある。
- 興味のある部分について、「形状の探索」が一番多いのは、近年、国内で自由曲面シェルへの最
適化の適用事例が増えており、その認知度が高いことが理由のひとつかもしれない。「骨組部材断
面、部材配置の探索」が多いのは、実務設計で担当する物件の中で骨組構造の設計の需要が多いか
らと思われる。また、「耐震壁・ブレースの位置・断面の探索」と「崩壊系の探索」の回答が多い
点においては、耐震設計に着目した最適化に興味が示されていることが分かる。
- 探索手法については「多目的最適化の手法」、「発見的手法」への興味が多くを占めた。実務設
計において、規格断面を扱おうとすると離散変数となること、また、近年の CPU の向上に伴い、計
算量をあまり気にしない傾向にあることから「発見的手法」に興味が示されているのかもしれない。
また、「多目的最適化の手法」への関心が高いのは、実務設計においてトレードオフの関係で判断
に迷うときに、最適化手法を判断を補助するツールとして使いたいからではないかと思われる。
- アンケートの「ご意見、ご要望等」の欄において、さまざまな意見がよせられた。その中には、
最適化手法を構造設計に活用するにあたって勉強できるような入門書等の整備の要望もあり、最適
化手法を実際の構造設計へ適用したいという傾向が見られるようになってきていることが分かる。
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3.ヒアリングの内容
ヒアリング協力者:A 氏、B 氏、C 氏、D 氏、E 氏、F 氏
司会者:山川誠(東京電機大)
記録:松尾智恵(川口衞構造設計事務所)
委員会出席者:大崎純(京都大学)、木村俊明(佐々木睦朗構造計画研究所)、國光修五(ユニオ
ンシステム)、澤田樹一郎(鹿児島大)、高田豊文(滋賀県立大)、藤田皓平(京都大)、本間俊
雄(鹿児島大)、永野康行(兵庫県立大学、新委員(予定))
協力者:清水謙一(日本設計)、杉崎健一(サットコンサルタント)、多田聡(石本建築事務所)
(氏名掲載を承諾された方のみ表記し、匿名希望者は記載しておりません)
アンケートに連絡先をご記入いただいた回答者の中からヒアリングにもご協力いただける方々を募
り、最終的に6名の協力者が得られ、有用なお話を聞くことができた。協力者のみなさまはそれぞ
れに多様な異なるバックグラウンドをお持ちで、さまざまなご意見を聞くことができた。6名の協
力者には、改めてヒアリングのご協力に感謝したい。
次項からヒアリングの内容を記すが、協力者はそれぞれの回答を「A~F:」で表記し、個人や所属
が特定できそうな表記・話の内容は、あえて明記を避けるよう努めた。委員会からの質問は「Q(氏
名):」、回答は「回答(氏名):」、コメントは「コメント(氏名):」という表記とし、敬称
は省略する。 ヒアリングの記録は、当日の話の流れに沿うようにまとめており、協力者の回答の順番は質問ごと
に異なるので、ご留意いただきたい。質問は1~6まであり、質問2と質問3の回答は長いので、
各協力者の回答を区切る位置に短い点線を入れている。
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質問1 設計経験のバックグラウンド
F: - ゼネコンの設計部 - 設計実務経験 23-24 年、昨年から開発にも携わる - 工場系が多い、S造で規模は平面プランが約 100m、200m 級 - 大空間ではスパン 50m 規模の火力発電所など E: - 組織設計事務所 - 構造形式や用途は、まんべんなく設計している - 用途としてはオフィス、病院、学校、研究所 - 構造形式としては鉄骨造、RC 造、免震、木造、PC 造 D: - 18 年ほどメーカーの建材開発に携わる - 鉄骨造の接合部、厚物の鉄骨、薄物で住宅産業向けのもの - 現在は構造設計と最適化をより直接的に連携できるシステムの開発にも携わる C: - ゼネコンの設計部 - 実務経験は 3 年目 - 工場やコンベンションセンターに携わる B: - 設計実務経験 40 年 - 現在は個人設計事務所であるが、30 年ゼネコンに在籍し、そのうち約 15 年が開発に携わる - 専門は空間構造で、膜構造、トラス構造、テンション構造の設計と開発に携わる A: - 組織設計事務所 - 設計実務経験 12 年 - 構造形式は S 造、RC 造を中心に手がける - 用途は庁舎、オフィス、学校、病院、体育館など - 高いものから、広いものまでまんべんなく設計している - 超高層、制震、免震も経験がある
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(この質問内での最適化についてのコメント)
F: - 社内においては、最適化は個人でやっているところが多い。 - 昔の常識と今の常識が変わってきていることもあり、DR(デザインレビュー)等で、最適化を上手
く利用できないかという気運がある。 D: - 例えば骨組最適化について、形鋼などの部材の規格寸法や種類が豊富であることは良いのだが、
どんな部材を使えば一番効率的かという観点から最適化で見極めることができれば、その部材を使
う側も提供する側もメリットがあるのではないかと思う。 -Q(山川) 市場で需要の高い規格寸法などはデータとして持っていると思うが、それに加え、さらにユーザ側
からこの規格寸法があればさらに良いという提案が出せたらよいという主旨か? D:個人的にそう思う。 C: - 大学の研究で最適化をやっていた。 - 経済性を求められる工場の物件で、最適化を導入しなかったことはややいたらなかったかなと悔
やむ。 B: - 空間構造の設計は最適化と関係が深い。一番苦労するのは形状をどう設定するかである。応力や
変形に対する最適化をやる必要があるが、特に大事なのは境界構造との関係をどう設定するかであ
る。境界の設定によって一般部への影響が大きい。境界を連続して支持するのは難しく、離散的に
支持した場合と連続的に支持した場合とでどう構造性能が違うのか、把握するのが難しく苦労した。 - 鉄骨造の場合は部材重量とその長さが非常に大事で、最適解が得られたとしてもクレーンの負担
重量等が厳しいとか施工に時間がかかるとか、設計と施工のバランスをとることが大事と考える。
したがって、最適化は初期の基本設計時は使えても実施設計では難しいのではないかという印象が
ある。特に境界は、最適化したら施工が難しかったという例がたくさんある。 - 施工と空間構造をどうリンクするかということで、逆解析をよく実施した。施工の順番をどうい
う風にすれば、一番良いのかという問題である。施工の途中で安全性が確保できない場合が多くあ
り、最適化に施工関連の話も組み込めるとよい。 A: - 最適化を使うきっかけがなかなか難しい。イメージとしては体育館の屋根の形状の最適化や、部
材配置の最適化などから少しずつ取り組んでいければよいと考える。 体育館の場合、平面形状や、競技で要求される高さなどの制約でプログラムが決まってくるので、
意匠設計者の引いたラインの中で近傍の局所解となる形状を求めたり、意匠設計者の求める形に近
い最適な形状を求めるイメージである。
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質問2 設計で優先する事項
「構造的合理性」・「構造安全性の高さ」・「経済性」・「施工性」・「4つのバランス」・「そ
の他」ありますが、どれを最も優先しますか?
A: - 一般的なラーメン構造を設計する場合は、平面計画、設備計画とのかねあいから構造計画がほと
んど決まるので、各部の応力に合わせて梁せいを変えるなどの構造の自由度は少ない。 - S 造では梁の板厚の調整、RC 造では鉄筋量の調整などに最適化を導入したい。 - 最後のもうひと押し経済的でかつ合理的な設計を追求するときに使えるのではないかと思う。 Q(山川): - 見積もり設計と実施設計の部分で、上流で使いたいけど、実際使おうと思うと下流で条件が決ま
りすぎている状態ではなかなか使いづらいということか。先ほど、屋根の話があったが、そこでは
最適化は使えないか?事務所系の方が需要が多いのか? A: - 需要としてはフレーム系の物件の方が多いので、フレーム系に対する最適化ツールの方があれば
使う機会が多いと思われる。 - 体育館の屋根の場合は、部材というよりは屋根の形自体を決める方向となる。 Q(山川): - ボリュームとして大きい中低層のあたりで、静的な設計でできる範囲で断面を決めるツールがあ
るとよい? A: - 多少 NGがある状態であっても、断面を減らせるところと増やすところとで最適な鉄の量を決め、
力学的な性能を確保した上で意匠・設備計画とも整合した計画の範囲内で使えるとよい。他の計画
に波及せずに最後のひと押しで使えれば実用的であると考える Q(澤田): - 断面を決める時に、コスト面・鋼重量から梁せいをあげた方がよいのではないかなど、迷いはな
いのか? A: - 例えば、梁せいの場合は階高があり、天井高、スラブ厚、仕上げ厚が決まっていくと、配置でき
る梁せいが自ずと決まってしまう。迷いなく断面は決めている。 -------------------------- B: - 構造設計者の一番苦労するところは意匠設計者との折り合いをつけることで、どう解決するかが
腕の見せどころ。 - 空間構造の場合では、応力の最適化より剛性最適化の方が求められる。剛性を確保しなければい
ろんな問題が起きるので、変形を制御することが大事。それをシミュレーションしながら、意匠の
人に見せてあげるときに、最適化のプログラムを使っていくべきではないかと考える。 - 松井源吾先生が「見える力学」という本を出しているが、構造設計の内容を見せるということが
大事。「形を決める上で、ここをこうすると、こうなる」ということを意匠設計者に口ではなく見
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せて示すことで、説得するのにもうまくいく方法だと感じる。 コメント(山川): 東京電機大学の今川先生の授業科目に、「応力の可視化」という授業がある。応力をいかに見せて
可視化していくかという授業で、まさにおっしゃられていることだと思う。 B: 均質な応力というのは大事なのであるが、応力が必ずどこかに集中する。応力の集中がどこかとい
うことが見えないと設計がうまくいかない。その点で見える化というのがとても大事と感じる。 Q(山川): (木村委員に対して)実際に空間構造の実務設計に携わっている中で、前述の話のどこがあるとよ
いと感じるか?デザイナーとの折り合いをつけるときに介するツールとして何がありうるか?ライ
ノ・グラスホッパーというツールがあるが、果たしてそれらのツールで十分なのか、ということも
含めて。 回答(木村): - 屋根版の変形が大きい場合に、意匠設計に見せてあげる使い方はあると思う。 - 自分はライノ・グラスホッパーを使って、意匠設計者とやりとりをすることはある。 Q(山川): - FEM のツールで見せるのと同時に、グラスホッパーなどで意匠が提案する形状以上のものを追求
するというプロセスが入ってくるのか、あるいはもともとある形なのか? 回答(木村): - 計算量が増えない場合は、その場でパラメトリックに数字を変えて検討する場合もある。 - 直接会ってやる場合は、電卓たたいて手計算ということがベースで、そこまでライノやグラスホ
ッパーは活躍していないかもしれない。 Q(山川): - ケースバイケースだと思うが、意匠設計者が決めた形を検討するのが、一般的に多いのか? B: - それが一番多い。ある程度、制約条件がある中で設計することが多い。完全に自由にやってくれ
というケースはほとんどない。 B: - 追加したいことがあり、鉄骨造の場合、重量最適化で軽量化していった場合に風で変形が増える
ということがあるので注意が必要だ。(実際の建物事例を紹介していただいたが、匿名性を保つた
めに略) - 軽量化と剛性のバランスがとても難しい。形状で剛性を確保することもできるので、いいバラン
スの形状と配置と重量を決めていくのが必要。 Q(山川): - プロジェクトの経験で、意匠設計者の決めた形を構造側からの提案でこう変えるとよくなるとい
う提案で、どのくらいまで大きく変えたことがあるのか? B: - かなり変えたことがある。部材配置の方向を直交ではなく斜めの方が良い場合もある。梁せいを
均質にすればいいわけではなく上層は少なく下層では多くなどバランスの問題もある。シミュレー
ションをして示していき、これで意匠大丈夫かとせめぎあいをして、うまくいく方法を見出してい
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く。 - 建築は、意匠・構造・設備のすべてのバランスをよくしなければいけない。コラボレーションを
円滑にするために、構造設計者もいろんなツールを活かせた方が良いと思う。 - 特に空間構造の場合は、経験の少ない設計者が勉強するためのツールとして、こういう最適な形
状があると確認しながら勉強できるかもしれない。したがって、設計の経験程度に応じた、いろん
なかたちのツールがあるとよい。 -------------------------- C: - ゼネコンの設計部であるため、施工性、経済性が重視される。 - 鋼材量の最小化の場合、つきつめると部材一本一本異なる梁になるかもしれない一方、施工性を
考えると符号が同じ部材を多く使い同じ加工が多い方が施工性もあがり、ファブのコストも下がる。
その点で、どの程度グループ化した方がよいかを見極めていくことが大事と考える。 - 先輩に「構造設計はいかにグループ化するかという仕事だ」と言われたこともある。 - 最適化のツールとして、鋼重量最小化だけでなく、グループ化もある程度できてくれるシステム
があると使いやすい。 Q(山川): 同所属の Fu 氏が、それらについてかなり開発していると思うが、それは実際のプロジェクトに使わ
れているのか? C: - 社内で使っているツールと、それとが完全にリンクしきっていないため、みんなが使っていると
いうほどではない。 Q(山川): - 確かに、日ごろ使っているツールとどれだけ連携できるかは、大事かもしれない。 - 費用対効果が少ない点で、会社も大きな費用をかけられないのか? C: - そうだと思う。コストという点で考えると「システムをつくるコスト」と「設計工数の削減によ
るコスト」を比較すると費用対効果は少ないかもしれないと個人的には思う。 コメント(山川): - 一企業では大変で、もう少し広い立場から、携わっている企業が集まると有効かもしれない。 C: - 汎用ソフトでそういう機能がつけば、みんな使うかもしれないと思う。 Q(山川): (國光委員に対して)一貫構造計算の開発側からすると、コメントはあるか? コメント(國光): - 最適化についてマイダスに少し入っているが、他のソフト会社で最適化を搭載しているソフトは
ほとんどないのが現状である。これから、このような機会を通じて、だんだん普及していくのでは
ないか。 Q(山川): - あれば使いますか?
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C: - 個人的には使ってみたいと思う。 Q(山川): - 使い道としては、どうか? C: - 空間構造に使う場合は、部分の切り分けの検討で一貫構造ソフトの最適化を使うかもしれない。 - 平面的に広かったり、複雑な複合施設で、膨大な計算が求められる設計で機械的にできる箇所に
最適化ツールを活かしたいと個人的には思う。 -------------------------- D: - 経済性に関して、ものづくり的なところと設計手法的な課題があると考える。 - ものづくり的なところでは 例えば、鋼板を用いた部材の断面寸法最適化を考える場合、板厚は離散的な値として扱う必要性が
ある、といったこと。 薄板の場合、分野によって板厚のピッチが違う。自動車分野などでは、コストよりも軽量化を優先
させて任意の板厚で製造した鋼板を使用するケースもあるようだ。一方、建材に用いる鋼板の場合
は、決まったピッチの板厚から選択することが多く、任意の板厚の採用は難しい状況にある。した
がって、構造合理性を追求した場合に、逆にコストが高くなるケースもある。 このため、設計手法としては、最適化において離散的な値を扱える必要があると思う。 Q(山川): 建材開発側の立場から、具体的な商品としてこの辺りが狙い目という商品はどういうものなのか? D: - 板厚を集約できるような手法があれば、供給する側も調達する側もいろいろな在庫を抱えなくて
済むかもしれない。 - 最適化をする中で、ある程度、均一的な方がものづくりの面ではやりやすい。 Q(山川): - 板厚にかぎらず、制振装置や免震装置においても最適化はひとつの範疇に入るのか? D: - 設計にもよるが、例えば免震装置をいれて上部構造の構造体の地震力負担を減らし、鋼材料がど
れだけ減るという最適解を求めることができるかもしれない。 コメント(山川): - 高張力鋼を活かした部品を使うことで、こう違いますよという提案もできるかもしれない。 D: - 設計手法的な課題については、繰り返し計算をしようと思うとデータの入出力だけで時間がかか
る。ある程度、オープンソース化されたようなものがあると、最適化の普及に貢献すると思う。汎
用の設計ソフトにも、最適化プログラム等をつなげるための仕組みがあると良い。 Q(高田): - 設計者が最適設計をする場合、使用する材料、コストを最小化することをめざす一方で、建材を
提供する立場の場合は建材を多く提供できる方が有益となる。最適化の使用方法として、このくら
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いの建材を使えば、これだけの安全が得られるよという提案をしたりするのか? D: - つくっているお客さんがいいものを作ってくれたら、建材を提供する立場としてもうれしいとい
う WIN-WIN の関係を求めるのが基本スタンス。したがって、安全で鋼重量をおとした合理性の高
い建物をつくる提案に貢献しながら、国内の品質の安定した素材を供給していけるような関係性を
築いていれれば良いと思う。 -------------------------- E: - ビルものを設計するにあたり、梁せいは意匠や設備的な制約から、変更する余地がない。また、
平面的な計画から梁間のスパンも決まる。 - 設計の猶予があるのは、桁行き方向の柱割りである。今までは、経験的にやっていたところを最
適化のツールで純粋に数学的につきつめていくと、どこがよいのか。スパンが変わると小梁のピッ
チも変わってくるので、それらも含めてどうやれば一番数量が減るのかが簡単に求められるツール
があると良い。 - 判断材料としてツールを使いたい。 Q(山川): - 小梁のかけ方が得られるツールがあると、使ってみたいと言われたことがある。(永野委員に対
して)コメントをお願いできるか? コメント(永野): - どのくらいの床性能を求められるかによって、床のスパンが決まり、それによって小梁の割り方
がきまる。 - ただし、性能ぎりぎりに設計しても床が振動する。 E: - 床の振動性状も含めて、最適化できるとよい。 Q(山川): - どういうものがあると、使ってみたいか? E: - どういう割り方がいいかという判断材料となれば、使ってみたいと思う。実施設計の最後で使う
となると、梁の板厚をいくつにするかという使い方になると思う。初期の段階で、どちらの方向に
進めばよいのかという判断をするときに、ツールとして使いたい。 Q(澤田): - 建築主の要求として、「耐震性能はあげたいけどコストは心配である」というように耐震性能と
コストの両方をみながら、建築主が判断したいという要望はないか? E: - 耐震性能とコストをつきつめた場合を比較して、どっちにするか検討したいという建築主は少な
く、要求される耐震性能が決まっている場合が多い。耐震性能を確認する場合でも、「建築基準法
に則ればよい」か「性能をさらに上げる」かなどの設計方針は、設計の初めの段階で決定すること
が多い。 - 耐震性に対するお客さんの希望はいろいろバリエーションがある。
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-------------------------- F: - ゼネコンの設計なので、コストが一番重要。 - 最適化に求めることは、安全な建物をいかに少ない重量で求められるか。 - 工場系の設計で、お客さんからもらうスパン割はバラバラだったりして合理性に基づいていない。
そういうときは、こちら側から設計の提案を出す。基本となる最小重量で安全な建物の提案をまず
提示できれば、それをベースにしてお客さんの要求に応じて内容を変化させていける。 - お客さんの希望により、例えば1スパンぬきたいという要望が出れば、そこから設計していけば
よいと考える。 - (用途として工場や物流倉庫が多いので)まずは意匠を度外視して、その敷地に建てられる安全
で一番安いものは何かが最適化で求められると良い。面積が多いので、コストが積もり積もると効
いてくる。 - 小梁の割り方についても、小梁のかけ方によって小梁の梁せいが大きくても大梁の負担が減らせ
る方向にかけるなど、総合的にみて主要構造の応力が均等になるような割り方を最適化で求めるこ
とができると有用である。 - ひとつ懸念があるのは、例えば汎用ソフトでそういうものが出ると、どこのゼネコンでも同じ結
果が出てしまう。ただ、そこは工法等で差が出るのではないか。または、最適化の条件や、工夫の
仕方によって勝負ができるのではないかと思う。 - 条件が多すぎるとぶれることもあるので、まずは比較的単純なツールがベースとしてあると良い
し、シンプルな方が普及するのではないかと思う。 Q(山川): - コストは最重要項目のひとつであるが、評価が難しい面もある。コストは鋼材重量という指標だ
けではなく、製作上、グループ化をしないとコストはあがってしまうし、ビルドではなく規格断面
の方が良い。鉄骨のファブに設計を見せると値段は出るがコストを定式化するのは難しいと言われ
る。季節要因や調達のしやすさによって価格も変動する。そのあたりを含めて、コストといっても
それは鋼材重量だけでよいのか、それとも施工や製作まで考慮すべきなのか? F: 基本プランの検討においては、鋼材重量で十分である。基本プランでの見積もりは鋼材の数量をベ
ースにトン重量いくらで算出する。季節によってトン重量の価格は変動するが、それは数量に対す
る係数が変わるだけにすぎない。お客さんのプランでやった場合とこちらの提案するプランでやっ
た場合の経済性を比較する点においては特に問題ない。 数学的手法によって算出し、判断の後ろ盾となるようなツールができるとよいと思う。
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質問3 改めて、構造最適化の分かりにくい点、興味のある点、補足したいこと F: 最適化のいろんな手法がある中で、それらを市販ソフトに組み込み、ある程度概算数量が算出でき
るツールがあるとよい。 -------------------------- E: - 興味がある点だが、現在 BIM 化は進んできていて、意匠・設備・構造が同じプログラム上で図面
を描いて進めていっているが、そこに最適化を導入できると面白いと思う。 - 設計では他の要素があるのでなかなかできないことだけど、純粋に構造だけに着目して最適化し
た形状をつくりたい Q(山川): -ツールの問題があるが、形状探索はライノセラス・グラスホッパー・最適化ツールの組み合わせで
できる。実務設計で使おうとしたときにそれで十分なのか、もう少し特化したツールが必要なのか、
または講習会等で使い方が習得できれば解決するのか? E: - ライノセラス・グラスホッパーは使ったことがないので、よく分からない。普段使っているツー
ルとつながるとすごく便利である。 - 単独のプログラムでも、そこに大きなメリットがあるのであれば、取り組んでみようと思う。 -------------------------- D: -最適化を設計にどのように導入すればよいかという点が分かりにくい。確認申請が提出できるレベ
ルまで使うのか、それとも設計支援として使うのか?どこをゴールに決めて使うと実際の設計に役
立つのかが分かると興味深い。 - 目的関数は、コストなのか鋼重量なのか、制約条件は1次設計や2次設計といった設計以外の施
工条件も含めたものとするべきなのか?パレート解とした方がいいのか、単一最適解でよいのか?
どういった目的関数にすると、実際に役立つ手法となるのか? コメント(大崎): 最適化ツールの使い方は設計者が決めていくものと思っている。例えば、梁寸法を連続変数にして
最適化することもできるし、規格断面を離散的に選択する最適化もできる。接合部で梁せいをそろ
えたいという場合もプログラムでは可能である。プログラム上ではいろいろなことができるので、
どうやって使うかは設計者が選択するべきだと思っている。 コストをおとすか、耐震性能をあげるかという点についても、多目的最適化のトレードオフの関係
にあるが、設計者の設計思想による。 Q(山川): 先ほど F 氏が出した例でいくと、多目的の解を得る必要があるのか?単一解を得られればよいの
か?
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F: 耐震性能等、建築基準法上求められる性能は確保した前提で、単一解が求められればよい。 -------------------------- Q(山川): B 氏が携わっておられた空間構造の建物の場合は、単一では不十分で多目的最適化が求められるの
ではないかと思う。多目的最適化をする場合は、どういう条件を加味するとよいのか?または、逆
問題として設計者が全部決めて、シンプルな問題に帰着するべきなのか? B: - 空間構造の場合は、どこかに制約をつけないと設計が収斂していかない。多目的というよりは、
制約の条件をつけた中で収斂した方がよい。 - 細かい話でいくと、例えば RC 系の場合、コストは、型枠の量、鉄筋の量、コンクリートの量と3つポイ
ントがある。コストが一番かかるのは型枠で人件費が関係している。したがって、RC 系の最適化の
場合は、部材重量だけでなく型枠の量も含めるべきである。施工という条件をある程度、加味した
最適化が必要。 - 鉄骨造の場合は、数量最適化でよいと思う。ただ、そこでは応力だけではなく変形にも着目した
最適化とするべき。 - 空間構造に最適化を適用するのは難しいと思っているが、やるのであれば形状最適化に特化した
方がおもしろい(形態創生)。実際に、最適化した形状をつくったこともあるが、施工条件がぴっ
たり合わないので難しい。施工するときは設計と実際をデータで比較しながらやっているが、空間
構造の場合はいろんなところに不静定な部分があり、静定で計算しているが、経験値で例えば変形
は 8 割程度にとどまる。そこは経験してみないと分からない。 - 空間構造の設計経験が少ない人が、最適化を使って設計の方向性を模索し、いろいろシミュレー
ションをするのに使うという方法があるかもしれない。 -------------------------- C: - 目的関数の設定の仕方が難しいと思っている。最終的な命題は、コストの最小化であるがそれは
部材数量の評価だけでは不十分。例えば先ほどの話で、RC の場合は型枠や鉄筋の数量も加味しない
といけないなど。そうすると、コストの最小化の問題を取り組むにあたり、何を変数としてどうい
う関数を使えばよいのかが分からない。価格は時季にもよるし、各社のノウハウ、材料の調達価格
の問題もあり、難しい。 - 興味のある点は、空間構造において形状最適化を試みて設計してみたい。 - ブレースや耐震壁の配置はあるかないかでガラッと構造性状が変わるので、予測がつきにくい。
また、配置の組み合わせを考えると膨大な数となる。したがって、そういう問題を数学的な手法で
算出できるとよい。
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-------------------------- A: - 最適化を設計に導入することに関して、普段使っているツールに組み込まれていないと作業的に
難しい面がある。 - ライノセラスのプラグインなど、取っ掛かりとして勉強できるものがあるとよい。また、勉強す
るにあたり計算内容も含めて自分で触れるプログラムがあると使いやすい。 - 興味がある点について、形状探索も興味があるが、特にロバスト性・信頼性を考慮した探索に興
味がある。プログラムの精度があがってきて、ハードにおいてもコンピュータのスペックもあがっ
ている。最適化において、ある目的関数と制約条件に対して、精度の高い答えが求められるように
なっていると思うが、条件が少し動いたときにどの程度、解に影響が出るのかが分からない。 - 耐震における安全性を考えるときは、幅を持った範囲で安全性を確保できる解が良い。例えば、
超高層において、周期が少し変わっても安全性に影響がないとか、大空間の場合はいろんな偏荷重
に対応できるような解が得られるなど。信頼性の高い解が得られる最適化ができれば、性能設計す
る上でも使いやすく、お客さんに薦められる良い設計ができると思う。 Q(山川): ロバスト性・信頼性を考えると必ずコストアップの方向となる。クライアントに説明するためのツ
ールとしても使えるとよいか? A: コストは金額という部分があるが、コストパフォーマンスという別の視点もある。コストが高くて
も、本当に性能がよければお金を出したいというお客さんもいる。パフォーマンスを含めた上で比
較検討できるようなツールがあれば、選択肢を増やすことができるのではないかと思う。 コメント(山川): ロバスト性・信頼性において、パフォーマンスを定量化するのが難しいという点が現状ある。なの
で、最適化に限らずロバスト性を数値で定義できると良いかもしれない。
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質問4 便利なツールへの危惧、構造設計者の教育、職能に関して
F: - 手計算レベルで、剛性の配分から応力がどうなるかを基本は分かった上で使う。 - 結果を判断するのは構造設計者で、その数字があっているかどうかは手計算や経験で分かるレベ
ルの人が使わないと意味がない。 - 後進者についてはそういう教育をするようにしている。 コメント(山川): -実務者と話すと、「設計の最終的な場面で断面を決める部分はコンピュータにゆずってもよく、設
計者は設計の上流の部分に力をそそげるといいよな」ということを聞く。そういうことなのかなと
思う。 C: - 昨今、残業時間の短縮という話があり、BIM や最適化のツールを使うことで設計工数を減らして
いきましょうという方針が社内的にはあるが、そうは言いつつも上司のその言葉の裏に、努力を重
ね経験を身につけて内容を理解した上でそれらのツールを使うようにという意味が含まれているよ
うに思う。 - 結果に対して、良いか悪いか判断するのは設計者がやるべき職能であると思う。 Q(山川): 最適化が導入されようとしている現在は FEM が導入されたときと似たような状況にあり、構造技
術者が FEM を導入するかどうかというときにも、同じような議論があった。(大崎委員に対して)
コメントをお願いできるか? コメント(大崎): - 使えるものは使った方が良い。コンピュータを使って悪いことが起きても、コンピュータが悪い
のではなく、それを利用した人間が悪いのであって、使えるものを使わない方がおかしい。 - 時間がある限り、人間の要求が増えるため、コンピュータの性能があがっているのに設計時間が
減らず、CPU が速くなればなるほど細かい計算をしなければならなくなっている。これはこれでし
ょうがないことだと思う。 - 最適化のツールは、優秀な設計者が設計条件を与えて結果を見てそれを判断するためのツールで
あり、自動設計のためのツールではない。そのような使い方をしてもらえれば問題ない。 B: - 経験からの持論であるが、構造設計者のやる仕事の中で、構造計画で 80%が決まり、構造計画が
決まれば残りの 20%は普通に流れる。 - 最適化というのは、構造計画を立案する段階で使うべきであると考える。
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質問5 構造設計者の判断
「構造設計者が結果を判断する」というが、どういったものを判断根拠にするのか?(例えば、プ
ロポーションなのか、力の流れなのか)
また、例えば工場などの場合で、ラーメン構造でやるのか、またはブレース構造でやるのかという
構造システムの選択が経済性に大きくかかわってくるが、計画の「みたて」と最適化がどう絡むと
よいのか?
B: - 松井源吾先生は「プロポーションはとても大事」「構造でもきれいなものをつくれ」とおっしゃ
っている。「きれいなもの」を人間に例えていうと、やせすぎでもなく太りすぎでもないプロポー
ション。 - 安全がある程度確保された上で、コストをしぼらなければならない。そのバランスである。 - RC 造でいうと、梁せいはスパンの 1/10、柱幅は階高の 1/30 という慣用値はそことつながると思
う。 - 柱割りについても、支配面積がこのくらいであればこのくらいでいけるというのが経験的にはあ
り、それは地震で生じる柱のせん断力からプロポーションが決まる - 構造設計者の判断というのは、経験に負うところがかなりある - 経験(実績)を重ねていくと形というのはあるところに収斂する。その経験の部分に新しい技術
が加わり、形というのはすこしずつ変わっていくわけであるが、芯には経験の部分が必ず残る。 - 部分だけを設計している人は成長するのに時間がかかり、トータルですべてを設計しないと設計
の神髄は分からない。トータルな技術を持っておくべきで、それによって判断が正しくできるよう
になるのではないかと思う。 - 経験値もプログラムに取り込めるようにできればよいと思う。 質問6 アウトプット 今回の集まりにおいてアウトプットとして何を要求しますか?
D: - 他の実務者の意見からいろいろと学ぶことができるので、(今回のヒアリング以外の場も含め)
このような意見に関する情報もフィードバックしてほしい。 コメント(山川): - 継続して、実務者と話合う機会を設けて、続けていきたいと思う。
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