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迅速導入におけるマスク換気の是非 2019/6/25 慈恵IC勉強会 レジデント 渡辺

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Page 1: 迅速導入におけるマスク換気の是非RSIでは無呼吸時間が長い •薬剤投与から挿管に45〜90秒。•低酸素血症が高頻度 –フランスの多施設観察研究では、ICUでの挿管で

迅速導入におけるマスク換気の是非

2019/6/25慈恵IC勉強会レジデント 渡辺

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Introduc1on

• アメリカで気管挿管される患者は年間150万人• sta1s1cal brief #165. Agency for Healthcare Research and

Quality,2013(hFp://www.hcup-us.ahrq.gov/reports/statbriefs/sb165.pdf P2. 2019/5/30参照)

• ICUで気管挿管される患者の40%が心停止につながりうる低酸素血症

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rapid-sequence induc1on(RSI)

• 重症患者の挿管を一発できめるための手法• 挿管までの時間短縮と誤嚥のリスク減少を可能にする• 1970年に初めて提唱され、今では一般的に

• 北米型救急外来の多施設観察研究では、挿管17,583症例に対しRSIは85%に行われていた。

• 83%で一回目の施行で挿管成功し、99.4%で気道確保に成功した。• Ann Emerg Med. 2015 Apr;65(4):363-370.

• 米国単独施設の観察研究では、筋弛緩を使用しない挿管は、筋弛緩を使用したRSIと比較して多くの合併症がみられた。(aspiration (15%), airway trauma (28%), and death (3%))

• 筋弛緩使用したRSIではこれらの合併症はなかった。• Am J Emerg Med. 1999 Mar;17(2):141-3

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RSIでは無呼吸時間が長い• 薬剤投与から挿管に45〜90秒。• 低酸素血症が高頻度–フランスの多施設観察研究では、ICUでの挿管で26%に重症低酸素血症。 Crit Care Med. 2006 Sep;34(9):2355-61.

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Classic RSI薬剤投与後にバックマスク換気なし

低酸素血症リスクより誤嚥のリスクを重視

Protocol P7より改変

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Modified RSI薬剤投与後にバックマスク換気あり低酸素血症のリスクを重要視

Protocol P7より改変

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賛否両論あり

• バックマスクによる陽圧換気を行うべきか?• 誤嚥のリスクが上昇するのでは?

ガイドラインの推奨も様々

• 全例挿管前のバックマスク換気を推奨• 低酸素血症なしなら、バックマスク換気なし–最近のガイドラインにはマスク換気推奨も

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重症患者の挿管ガイドライン2018年、イギリス

• 呼吸停止後、挿管前にバックマスク換気をCPAPかけながら行うことを推奨する。– 20mmHg以上で胃内圧が上昇することに注意。

• 誤嚥リスクがある患者にはmodified RSIを推奨する。– 絶食、胃内容吸引、適切な

cricoid pressureなどを行う。• または15Lnasal cannulaで呼吸停止後も酸素投与を継続する。

• Br J Anaesth 2018; 120: 323-52

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しかし、一致した見解はまだない

• バックマスク換気を行うことによる誤嚥のリスク

利点

について質の高い研究データがない。

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本研究の目的

• 重症患者に気管挿管する際にバックマスク換気が低酸素血症にどのくらい効果があるのかを究明する。

• 仮説:薬剤投与後にバックマスク換気を行うと、

挿管前の酸素化および、挿管2分後の酸素化

が改善する。

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Preven1ng Hypoxemia with Manual Ven1la1on during endotracheal intuba1on (PreVent) TrialVanderbilt University Medical Center(大学HPより)

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Methods• 期間は2017/3/15〜2018/5/6• 多施設• 非盲験• ランダム化比較試験

Patient: ICU患者(挿管前:鎮静薬投与から喉頭鏡挿入まで)Intervention: バックマスク換気ありComparison: バックマスク換気なしOutcome: 導入から挿管2分後までのSpO2

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場所:アメリカの7カ所のICU

3800-1200症例/年、35-17床general、medical、trauma、neonatal ICU

Aラインとることが少ない挿管時、胃管は前もって入れないことが多いCricoid Pressure行わないことが多いMacGRATH持っていない施設も多い

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対象• Inclusion criteria– 18歳以上の成人– 対象となるICUに入院している– 担当医により挿管が必要であると判断された– 導入で鎮静薬、筋弛緩薬の投与が計画されている– 挿管担当者が現場での挿管に慣れている(医師、看護師)

• 除外基準– 妊婦、囚人– ランダム化の時間がとれないくらい挿管の緊急性が高い場合– 医師が導入から挿管の間にバックマスク換気が必要と判断した場合• 低酸素血症や重度のアシドーシス

– バックマスク換気をしてはいけないと判断した場合• 嘔吐、吐血、喀血していて誤嚥の危険が高い場合

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ランダム化

• ブロックランダム化• Permuted block– 2,4,6人のグループ– 1:1で割り付け

• 参加施設ごとの層別化• 封筒法

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介入の概要

Protocol P7より改変

コントロール群

バックマスク換気群

ランダム化 導入 喉頭鏡挿入 →挿管

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バックマスク換気群• 導入(薬剤投与)から喉頭鏡挿入までの間にバックマスク換気をする。

• バックマスク換気の方法– 15L/minの酸素流量– PEEP5~10cmH2Oの付加–気道確保とマスクフィット

• 経口エアウェイを使用• 挿管担当者が両手法で換気、後屈・顎先挙上

–換気回数と換気量• 換気回数10回/min• 換気量は目視で胸が上がる必要最低限の量

• 導入時にバックマスク換気が出来なかった場合はプロトコル違反。

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コントロール群• 導入から喉頭鏡挿入まで、バックマスク換気なし

• 下記の場合はバックマスク換気へ– 1回目の施行で挿管できなかった場合– 低酸素血症(SpO2<90%)の治療の場合– 担当医が患者の安全のために必要と判断した場合

• 1回目の挿管施行の前にSpO2≧90%にもかかわらずバックマスク換気をした場合はプロトコル違反。

• 導入後のNIVは禁止– 導入前のPreoxygena1onについてはNIVも可

• 無呼吸中のマスク換気をしない酸素投与は可

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以下は制限なし

• 挿管の適応があるか否か• Preoxygenationの方法• 患者の体位• 導入薬の種類と薬剤投与のタイミング• 筋弛緩を使うか否か• 喉頭鏡の種類とサイズ• Cricoid Pressure行うか否か

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データ収集• 手技を行っていない看護師や医師がデータを収集

– 導入時のSpO2とsBP– 導入後から挿管2分後まで間のSpO2とsBPの最低値– 導入から挿管までの時間

• 挿管担当者の報告– cormack-lehane grade– 挿管の主観的な難易度– 気道合併症– 挿管担当者の過去の挿管経験数

• 研究担当者がカルテから抽出– 患者のbaseline characteris1cs– 喉頭鏡をかける前後の管理– 臨床的outcome

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Outcome

• Primary outcome導入から挿管2分後までのSpO2の最低値

• Secondary outcome同時間帯の重度低酸素血症(SpO2<80%)の発生

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• Main safety outcome挿管6-24時間後までのSpO2とFiO2、PEEPの最悪値–口腔咽頭内容物・胃内容物の誤嚥の評価のため、挿管24時間後までのSpO2とFiO2、PEEPを記録

• Procedural outcome口腔咽頭・胃内容物の誤嚥(挿管担当者の判断)挿管48時間後までに出現した胸部レントゲンの新たな陰影– 2名の呼吸器内科/集中治療専門医が診断(割り付けを知らない)

–挿管前直近のレントゲン写真がない場合は、すべての陰影、気胸、縦隔気腫を新規と認定

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サンプルサイズ

• 先行研究を参考に、SpO2最低値の標準偏差を14%と推定、SpO2最低値のグループ間差5%

• Ann Am Thorac Soc. 2018 Nov;15(11):1320-1327

• 有意水準:0.05、検出力:90%• 欠損値:5%未満▶350例が必要。

↓後、中間解析で、安全委員会の推奨により

目標400例に変更(標準偏差の算出により)

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先行研究:SpO2低下の因子について

• 同大学の2018年にpublishされた観察研究• 433例の挿管症例• 導入から挿管2分後までの最低SpO2

– 平均値88%、標準偏差14%、中央値93%

• 低酸素となるリスク因子– 低酸素性呼吸不全が挿管適応であること– 導入時の低SpO2– 年齢が若いこと– BMIが高いこと– 人種が白人– 挿管担当者の挿管経験が100例に満たないこと

• Ann Am Thorac Soc. 2018 Nov;15(11):1320-1327

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統計解析:Primary analysis

• 2郡間のSpO2最低値を解析

–非調整– inten1on-to-treat比較–Mann-Whitney rank sum test

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統計解析:Per-protocol analysis

• 初回喉頭鏡挿入までの間のバックマスク換気あり vs. なし

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• 175症例の登録後、グループ間のSpO2最低値をHaybiFle-Peto法で中間解析 (P<0.001で中止)

• Primary outcomeはP値0.05未満を統計的に有意

• Secondary outcome, exploratory outcomeのグループ間の差は、点推定と95%信頼区間で推測

• 信頼区間の幅の多重性調整は行わない。

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Results

• 対象患者– 667名のうちExclusion criteriaに該当しない401名(60.1%)

– バックマスク換気群:199名– コントロール群:202名

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除外された患者

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対象患者年齢中央値:60歳

病態

敗血症:約50%肺炎:28% ,39.6%

挿管適応

低酸素血症:約60%高CO2血症:19%,27%

肺炎、消化管出血患者

の割合には差あり

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Preoxygenation

Protocol P7より改変

コントロール群バックマスク換気<HFNC

バックマスク換気群バックマスク換気>HFNC

ランダム化 導入

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• バックマスク換気を行った割合:バックマスク換気群(39.7%) > コントロール群(10.9%) (rela1ve risk:3.65)• ハイフローネーザルカニュラを用いた割合:コントロール群(44.1%) >バックマスク換気群(27.6%) (rela1ve risk:0.63)

Preoxygenation

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導入時のSpO2はグループ間で差なし

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97.5%が筋弛緩薬あり導入に使用した薬剤の種類や量は各群で差なし

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導入から挿管までのマネジメントバックマスク換気されたのは

– バックマスク換気群 198名(99.5%)– コントロール群 5名(1.5%)

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プロトコル違反:3症例

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導入から喉頭鏡挿入までの時間バックマスク換気群で98秒(四分位範囲IR:65-135秒)コントロール群で72秒(IR:52-120秒)mean difference:13.8秒、CI -1.1-28.6

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バックマスク換気とpreoxygenationの手法• バックマスク換気をされた、バックマスク換気群の198名+コントロール群44名

• 経口エアウェイを使用したのは– バックマスク換気群39.4%– コントロール群47.7%

• 後屈、顎先・下顎挙上が行われたのは両群同頻度– バックマスク換気群83.3% – コントロール群88.6%– relative risk, 0.94; 95% CI:0.83 to 1.06

• コントロール群の77.7%にあたる157名に、導入から喉頭鏡挿入までの間にも酸素投与した。– リブリーザなしのマスクや鼻カニュラ使用

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導入から挿管までの時間

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Primary OutcomeSpO2最低値の中央値

バックマスク換気群 96%(IR:87-99)コントロール群 93%(IR:81-99)

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• 多変量解析– SpO2最低値の平均差は4.7%(95%CI:2.5-6.8)

• Post-hoc 解析– preoxygena1onの方法とデバイス、肺炎と消化管出血の有無について調整

– SpO2最低値の平均差は5.2%(95%CI:2.8-7.5)

• Per-protocol analysis、sensi1vity analysisでも同様の結果

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• サブグループ解析SpO2最低値は、導入時にSpO2が低い患者で差が大きい

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BMI、APACHEⅡスコア、挿管担当者の経験値はSpO2最低値に影響なし

青:バックマスク換気群、赤:コントロール群

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Secondary Outcome:重症低酸素血症SpO2 < 80%バックマスク換気群 10.9%(21名)コントロール群 22.8%(45名)rela1ve risk:0.48, 95%CI:0.30-0.77

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Additional outcome• SpO2が90%を下回った患者数

– バックマスク換気群29.5% – コントロール群40.1%– rela1ve risk, 0.74; 95% CI, 0.56 to 0.97

• SpO2が70%を下回った患者数– バックマスク換気群4.1%– コントロール群10.2%– rela1ve risk, 0.41; 95% CI,0.18 to 0.90

• 導入時からのSpO2減少幅の中央値– バックマスク換気群で1%(IR:0-7)– コントロール群で5%(IR:0-14)– 平均差4.5%,95%CI:2.2-6.8

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挿管担当者が報告した誤嚥発症率

挿管48時間以内のレントゲン新規陰影発生率に差なし

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挿管24時間後までのSpO2、FiO2、PEEPに差なし

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入院中の死亡率、呼吸器離脱日数、ICU退室後の日数も差なし

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Discussion

• バックマスク換気群とコントロール群で重症低酸素血症の割合の絶対差は12%–挿管適応となる重症患者9例に対し、導入後バックマスク換気を行うことで1例の重症低酸素血症を防ぐことが可能

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• バックマスク換気と誤嚥– 先行研究では健康なボランティアに麻酔をかけて、上腹部の聴診で逆流を評価しており、結果が一貫していなかった。

• 挿管担当者による誤嚥の報告は少ない、とする先行研究– バックマスク換気が誤嚥を増やすかどうか統計的に証明するにはサンプルサイズが必要となる。

• 本研究では、バックマスク換気群のほうがコントロール群に比べて誤嚥の報告が数字上は少ない– バックマスク換気による誤嚥リスクはabsolute decrease4.9%、

absolute increase2.0%

– 49名は誤嚥リスクがきわめて高いと判断されて除外されているが、これらの患者にバックマスク換気が安全かどうかは不明

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この研究の強み

• ベースラインの共変数のバランスがとれるようにランダム化している

• 選択バイアスを防ぐためにenrollment前のグループ割当を公表していない

• 多施設

• エンドポイントの集計を独立した観測者が行うことで、観測者によるバイアスを軽減

• プロトコル違反やmissing dataが少ない

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Limita1on• 介入を盲検化できていない

• グループ割当がpreoxygena1onの方法に影響した可能性あり

• 導入から喉頭鏡挿入までのNIV使用の検証はなし

• ICU患者での研究: ERや院外の患者に適応できるかは不明

• SpO2以外のoutcomeは不明

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結論

• 挿管適応のICU患者において、導入から喉頭鏡挿入までの間にバックマスク換気を行った場合、そうでない場合と比較してSpO2が高く、重症低酸素血症の発症率が低かった。

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Editorial

• SpO2最低値の中央値がバックマスク換気群で高かったこと(96% vs. 93%)は臨床的にはあまり意味ない

• コントロール群の45例に重症低酸素血症が生じたことが重要– バックマスク換気群は21名

• この研究は重症低酸素血症に起因する致命的合併症や死亡率等は検証していないが、おそらくunder power

• 誤嚥について発症率に差は見られなかった。• マスク換気によって臨床的に有意に誤嚥のリスクが上がる訳ではないとうことだろう。– 統計解析にはサンプルサイズが少なすぎるが

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Editor が考えるLimitation• preoxygena1onの方法が統一されておらず、導入前にバックマスク換気を受けた患者が、介入群のほうがコントロール群より多くなってしまっている(39.7% vs. 10.9%)

• 導入前のSpO2が両群で同じであったとしても、動脈血酸素飽和度が同じであるかどうかは分からないこと– ヘモグロビンの酸素解離曲線によれば、SpO2 100%はPaO2

110mmHg~600mmHgに相当しうる– 導入前にバックマスク換気を受けた場合、導入時の動脈血酸素飽和度がより高値であった可能性を否定できない

• 導入時に重症低酸素血症があった患者を除外していること– そういった患者には誤嚥のリスクに関らず、NIVやバックマスク換気などの積極的酸素化が必要となる

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• バックマスク換気がそれほど危険なものでないことを示した、多施設、プロトコル遵守率の高い研究である。

• きちんとデザインした研究を行えば、臨床医療行為で長い間妄信されてきた定説に疑問を投げかけることが可能となる

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私見①内的妥当性

• Preoxygentaionのやり方・時間が統一されていない– Editorialにもあるように、preoxygetaionの方法によっては動脈血酸素飽和度に大きな違いを生じる

Preoxygentaionの時間によるSpO2低下の違い(シミュレーション)Int. J. Med. Sci. 2015, Vol. 12

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対象患者

肺炎はコントロール群

に多い

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私見②外的妥当性• 日米のICU環境の違い

– 使用薬剤• エトミデート vsプロポフォール• エトミデートは作用発現が早く(30-60sec)、循環抑制が少なく血圧低下起こしにくい、呼吸抑制作用少ない。頭蓋内圧下げる。Wikipediaより

• エトミデートはプロポフォールよりも循環抑制が少なかった報告あり。Br.J Anesth. 2013,vol110(3),388-396

– 使用デバイス• 喉頭鏡 vs MacGRATH• 喉頭鏡のほうが挿管により深い筋弛緩が必要であろう

• 本研究の導入から喉頭鏡挿入までの時間はすこし長い可能性がある。– バックマスク換気群で中央値98秒、コントロール群で72秒– 一般的なRSIでは45〜90秒– ロクロニウム投与量が1mg/kg1でRSIにしては少なめであろうか

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誤嚥リスクの評価について

本研究の対象患者も、ある程度は誤嚥のリスクあり

とくに6時間の絶飲食が不確かな症例が半数

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Modified RSIが適応できる場合(私見)

• 明らかな嘔吐、吐血がない–絶飲食6時間でなくても良い–胃に内容物が多すぎない

• マスク換気を有効に行え、胃に空気を送らない–後屈、下顎・顎先挙上が可能–経口エアウェイを使用する–圧をかけすぎない(20cmH2Oを超えない)

• Br J Anaesth 2018; 120: 323-52