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消費者のリスク認知バイアス③ リスクコミュニケーションのパラドックス 主張や解説が必要になった段階で人の心 は疑念でいっぱい。「安全神話の崩壊」 リスク管理責任者が「安全」を語れば語 るほど疑われる。 関谷直也著 『「災害」の社会心理』 ワニ文庫刊 より TVで首相がモモを食べてた けど、なんでそんなPRを わざわざするのかな・・ 実は放射能汚染では?

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Page 1: 消費者のリスク認知バイアス③ - maff.go.jp · 工食品でも安心して食べられそうだ。 食品添加物が原因で健康被害が起った事故の歴史はあるが、説明

消費者のリスク認知バイアス③

リスクコミュニケーションのパラドックス

主張や解説が必要になった段階で人の心は疑念でいっぱい。「安全神話の崩壊」リスク管理責任者が「安全」を語れば語るほど疑われる。

関谷直也著 『「災害」の社会心理』ワニ文庫刊 より

TVで首相がモモを食べてたけど、なんでそんなPRをわざわざするのかな・・実は放射能汚染では?

Page 2: 消費者のリスク認知バイアス③ - maff.go.jp · 工食品でも安心して食べられそうだ。 食品添加物が原因で健康被害が起った事故の歴史はあるが、説明

公益財団法人食の安全・安心財団ホームページよりhttp://www.anan-zaidan.or.jp/pages/china10.pdf

輸入食品で違反が多いのは中国なの?

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リスクコミュニケーションのパラドックスによりリスク認知バイアスが発生した状態③

リスク情報が氾濫して不安が蔓延・・

『リスクコミュニケーションのパラドックス』にどう対処するか~理事長雑感2014年9月号http://www.nposfss.com/blog/paradox.html

不安助長因子を逆手にとったリスコミとは

• 消費者の心は疑念でいっぱい⇒いきなり正論を主張しても逆効果(言い訳としか聞こえない)

• まずは消費者の不安に寄り添うこと(共感)• 「守りの姿勢」が大事(私どもの不徳のいたす所・・)• 消費者が知りたいリスク情報は素直に開示する• 情報発信者への信頼が回復したと感じたら、初めてリス

クの大小を説明する⇒不安解消に導いてさしあげる

Copyright 2019 Takeshi Yamasaki

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消費者からのクレームをもとに異物混入の品質不良が発覚し、自主回収を決めたとマスコミで報じられたとしよう。該当する食品を購入してすでに食べてしまった顧客から、食品メーカーのお客様相談室にお電話があり、カンカンに怒っておられる状態のときに、該当商品のいろいろな安全情報をもとにいくら解説しても、おそらくその顧客は言い訳としかとってくれず、なかなか聞く耳をもってくれないであろう。まさに「リスクコミュニケーション・パラドックス」の状態で、この顧客はリスク管理者である当該食品企業を信頼していないからである。安全を語れば語るほど「蟻地獄」に落ちていく経験をされた方もおられるだろう。

ではどうすればよいか?筆者がおすすめするのは、顧客のクレームに抵抗しないこと、まずはご不便をおかけしたことに対して真摯に謝罪し、顧客に共感することが重要と考える。すなわち、いったん自社サイドから顧客サイドに立ち位置を移し、顧客のクレームや問題点に十分共感するところから、少しずつ信頼を取り戻していくのである。「お客様のおっしゃるとおりです。今回はうちの会社が悪かった。本当に申し訳ない。」というお客様への相槌をうつところから、共感できる話題をさがすことで、お客様と心理的に近い立ち位置に立った会話ができなければならない。お客様の気持ちが十分に理解できて共感できると、徐々に信頼が回復してくるはずで、そうなれば蟻地獄から脱出である。そこで初めてリスク情報をわかりやすく説明し、原因究明・再発防止策などの取り組みも詳しく説明すると、お客様の信頼がある程度こちらに向いている状態であれば、ご理解いただける可能性が高くなると考えられる。

山崎毅(2016)『不安煽動指数(Aoring Index)~「食の安心」は社会全体でつくりあげていくもの』 クリーンテクノロジー 2016年1月号 45-48

リスクコミュニケーションのパラドックスに対する応対事例

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消費者のリスク認知バイアス④確証バイアス

消費者は「危険重視の本能」があり、危険情報の方を信じる。一度「食品添加物は危険」という判断を行うと、それが先入観になる。そして、自分の判断の正しさを証明する情報ばかりを集めて、そうでない情報は拒絶するという「確証バイアス」に陥り、さらに先入観が増長される。

唐木英明:『食品添加物のリスコミのあり方』http://www.nposfss.com/cat7/risk_communication_of_food_additives.html

無添加食品の方が添加物を使用した加工食品よりリスクが小さいのは当然だ?!

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【方法】本研究では、このようなリスク認知バイアスをとりのぞくリスクコミュニケーション(リスコミ)手法を開発するため、食品添加物の健康リスクに過敏な消費者を対象として、インターネット調査を用いて確証バイアス」をとりのぞくリスコミ手法の効果を検証することとした。

【スマートリスコミ手法の仮説】我々は「確証バイアス」をとりのぞくリスコミ手法として、「確証バイアス」の要因となっている信念や仮説にいたった原因に共感した設問を投げかけたうえで、学術的理解を与える科学的根拠をわかりやすく提供することが有効であるとの仮説をたてた。

食品添加物の健康リスクに対する「確証バイアス」をターゲットとしたスマート・リスコミの開発と効果検証について発表(山崎ら,2018)

〇山崎毅,大瀧直子,冨岡伸一,広田鉄磨,山口治子日本リスク研究学会第 31 回年次大会講演論文集(Vol.31, Nov.9-11, 2018)

http://www.nposfss.com/data/03_resume_20181110.pdf

『リスク認知バイアスをターゲットとした 食のリスクコミュニケーション手法の開発ならびに効果検証』

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【結果1】 最初にQ1で食品添加物が健康によくないという「確証バイアス」にいたった

原因の選択肢を6項目あげることで回答者に対する共感を示した。次にQ2で食品添加物の安全性に関する有識者(大学教授)の見解を読んでもらい、理解できたかどうかを確認した。

〇山崎毅,大瀧直子,冨岡伸一,広田鉄磨,山口治子日本リスク研究学会第 31 回年次大会講演論文集(Vol.31, Nov.9-11, 2018)

http://www.nposfss.com/data/03_resume_20181110.pdf

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【結果2】 Q1、Q2を踏まえて、Q3では今後食品添加物が入った加工食品を選択するかどうかを聞いたところ、24%~39%が選択すると回答した。

21

28

29

24

30

26

39

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

説明を読んでも結局納得できないので、食品添加物の入った加工食

品はできるだけ避けたい。その理由を記入してください:

「食べてはいけない・・」など食品の裏事情に関する書籍や記事(週

刊誌・TV番組・ネット情報など)を読んで、やはり食品添加物は危険

と感じていたが、説明を読んでほぼ納得したので、食品添加物の…

天然の無添加食品と添加物を配合した加工食品を比較すると、むし

ろ後者の方が安全という説明を読んでほぼ納得したので、食品添加

物の入った加工食品でも安心して食べられそうだ。

食品添加物は食品事業者が売るためのものであり消費者にメリット

がないと思っていたが、説明を読んでほぼ納得したので、食品添加

物の入った加工食品でも安心して食べられそうだ。

たしかに発がんリスクが懸念され使用禁止になった食品添加物が過

去にあるが、説明を読んでほぼ納得したので、食品添加物の入った

加工食品でも安心して食べられそうだ。

過去に家庭科の授業で食品添加物はできるだけ使わないように教

わったが、説明を読んでほぼ納得したので、食品添加物の入った加

工食品でも安心して食べられそうだ。

食品添加物が原因で健康被害が起った事故の歴史はあるが、説明

を読んでほぼ納得したので、食品添加物の入った加工食品でも安心

して食べられそうだ。

Q3.前問の有識者の説明を読んで、あてはまる番号を選んでくだ

さい。

〇山崎毅,大瀧直子,冨岡伸一,広田鉄磨,山口治子日本リスク研究学会第 31 回年次大会講演論文集(Vol.31, Nov.9-11, 2018)

http://www.nposfss.com/data/03_resume_20181110.pdf

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インターネットでの無機的な情報伝達に限界はあるものの、相当数の回答者(100人中79人)で「確証バイアス」の補正が認められたことから、リスク認知バイアスをターゲットとしたリスコミ手法の有効性が示唆された。

今回のインターネット消費者アンケート調査において、食品添加物のリスク/安全性について消費者が理解できない原因として「リスク認知バイアス」が強く疑われる傾向が認められたことから、今後のスマート・リスコミ手法開発のきっかけになるものと期待された。

考察

@NPOSFSS_event

〇山崎毅,大瀧直子,冨岡伸一,広田鉄磨,山口治子日本リスク研究学会第 31 回年次大会講演論文集(Vol.31, Nov.9-11, 2018)

http://www.nposfss.com/data/03_resume_20181110.pdf

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自分の信じた危険情報ばかりを集めて、リスク認知バイアスが深刻な状態④

『確証バイアス』に陥った消費者

不安助長因子を逆手にとったスマート・リスクコミュニケーションとは

「確証バイアス」を補正するスマートリスコミとは~食品添加物は不健康とした消費者の79%が「加工食品を安心して食べる」と回答~理事長雑感2018年11月19日 http://www.nposfss.com/blog/smart_risk_comi.html

Copyright 2019 Takeshi Yamasaki

• まずはその消費者が「確証バイアス」の要因となっている信念や仮説にいたった原因に共感した設問を投げかける。

• そのうえで、学術的理解を与える科学的根拠をわかりやすく提供することで、「説得する」のではなく「理解」につながる。

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リスク情報の送り手が信頼できるか?

一般市民は科学者や専門家のような知識を持ち合わせていないので、解説を受けても簡単には判断できない。情報そのもののみならず、「情報を伝えてくれる相手は信頼できる人物か」を基準に安全・危険を見極める。

関谷直也著 『「災害」の社会心理』 ワニ文庫刊 より

消費者のリスク情報認知の特徴⑤

やっぱりNHKの「アサイチ」や「深よみ」が一番信頼できるわ。企業スポンサーもついてないしね。あと事情通の友人・知人にき

くのが早いかも・・

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リスク情報の送り手で最も説得効果が高いのは?

•魅力的⇒好感度が高い•受け手と類似性が高い⇒市民との交流、ボランティア活動、SNS等

•信憑性がある⇒信頼性(中立な立場で情報提供しているという信念)⇒専門性(メッセージについて専門的知識をもっているという信念)

広田すみれほか編著 『心理学が描くリスクの世界』 慶應義塾大学出版会刊 より

SNS対策にも有効

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リスク管理責任者への不信感からリスク認知バイアスが発生した状態⑤

リスク情報の発信者が信用できない

不安助長因子を逆手にとったリスコミとは

• 好感度UPにつながるCSR/消費者コミュニケーション活動(工場見学、地域密着型イベント、SNSなど)が普段から積極的にできているか

• リスク情報(健康被害につながる可能性が否定できない食の安全情報)を誠実に発信する姿勢

• 異物混入クレームなどの苦情に対する誠実な対応• リスク評価/リスコミの発信を信頼度の高い第三者の

有識者に依頼ハラキリ・コミュニケーション ~日本文化に合ったリスコミとは~~理事長雑感2015年3月16日http://www.nposfss.com/blog/harakiri.html

Copyright 2019 Takeshi Yamasaki

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企業にとっての不祥事(社会的に許容されない重大な事件)が発生してしまったときには、いち早く謝罪会見を開き、われわれの不徳のいたすところですという「ハラキリ・コミュニケーション」が必要なのだ。徹底的な原因究明で組織の膿をだし、再発防止策に努めますという情報開示ができれば、顧客も消費者も痛みをともなう情報開示をして謝罪している事業者に対して、そこまで懺悔するなら信用してもいいよ、次もお宅の商品を買ってやるよと感じるのであろう。これは武士の潔さを美しいと感じる日本ならではの感覚ではないかと思う。<中略>

企業のお客様相談室などに電話をかけてご指摘をされるようなお客様の場合、企業側から提供された商品や情報に不満や不安をもって電話されているわけで、「ハラキリ・コミュニケーション」が重要だ。お客様が期待される以上のリスク情報がうまく伝えられたときに、初めてお客様からの信頼が得られるので、企業担当者はぜひゲロッと情報開示をしていただきたい。痛みをともなうハラキリをすることで、「そこまで教えてくれてありがとう!」というお客様の信用が得られる瞬間を、きっと体験できると思う。

リスク管理責任者が日本人特有の潔さで不信感を好転させる応対事例

ハラキリ・コミュニケーション ~日本文化に合ったリスコミとは~http://www.nposfss.com/blog/harakiri.html

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安心=安全X信頼

「食の安心」は社会全体として創りあげていくもの。消費者の不安をあおるような情報発信は正されるべきである

http://www.news24.jp/articles/2017/03/30/07357725.html

*明治大学名誉教授 向殿政男先生のご講演資料より

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これだけは押さえてほしい:

「安全情報」と「安心情報」を明確に切り分けて伝えること!

「安全情報」は不特定多数の消費者に

「安心情報」は特定の消費者の要望に応じて

Copyright 2019 Takeshi Yamasaki

*ラベル表示において特に大事

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http://www.nposfss.com/

食の安全と安心と検索してください

安全第一、安心は二番目であるべき

理事長雑感2016年12月号http://www.nposfss.com/blog/safety_first.html

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http://blogos.com/blogger/sfss/article/