軟部肉腫(成人) - ganjoho.jp · がんの診療の流れ...

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  • 各種がん 166

    軟な ん ぶ に く し ゅ

    部肉腫(成人)受診から診断、治療、経過観察への流れ

    患 者 さんとご 家 族 の 明日のために

  • この図は、がんの「受診」から「経過観察」への流れです。大まかでも、流れがみえると心にゆとりが生まれます。ゆとりは、医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう。あなたらしく過ごすためにお役立てください。

     がんの診療の流れ

    「体調がおかしいな」と思ったまま、放っておかないでください。なるべく早く受診しましょう。

    受診のきっかけや、気になっていること、症状など、何でも担当医に伝えてください。メモをしておくと整理できます。いくつかの検査の予定や次の診察日が決まります。

    治療後の体調の変化やがんの再発がないかなどを確認するために、しばらくの間、通院します。検査を行うこともあります。

    治療が始まります。治療中、困ったことやつらいこと、小さなことでも構いませんので、気が付いたことは担当医や看護師、薬剤師に話してください。よい解決方法が見つかるかもしれません。

    がんや体の状態に合わせて、担当医は治療方針を説明します。ひとりで悩まずに、担当医と家族、周りの方と話し合ってください。あなたの希望に合った方法を見つけましょう。

    検査が続いたり、結果が出るまで時間がかかることもあります。担当医から検査結果や診断について説明があります。検査や診断についてよく理解しておくことは、治療法を選択する際に大切です。理解できないことは、繰り返し質問しましょう。

    がんの疑い

    受 診

    検査・診断

    治療法の選択

    治 療

    経過観察

  • がんの冊子 軟部肉腫(成人)

    がんの診療の流れ1. がん(肉腫)と言われたあなたの心に起こること ................ 1

    2. 軟部肉腫とは .......................................................................... 3

    3. 検査と診断 .............................................................................. 5

    4. 病期(ステージ) ...................................................................... 7

    5. 治療 ......................................................................................... 9

    1 手術(外科治療) ........................................................... 10

    2 薬物療法 ...................................................................... 13

    3 放射線治療 .................................................................... 13

    6. 経過観察 ............................................................................... 15

    7. 転移 ....................................................................................... 16

    8. 再発 ....................................................................................... 17

    診断や治療の方針に納得できましたか? ................................ 18

    セカンドオピニオンとは? ....................................................... 18

    メモ/受診の前後のチェックリスト ....................................... 19

     目 次

  • 1

    1. がん(肉腫)と言われた あなたの心に起こること

    がん(肉腫)という診断は誰にとってもよい知らせではありません。ひどくショックを受けて、「何かの間違いではないか」「何で自分が」などと考えるのは自然な感情です。

    病気がどのくらい進んでいるのか、果たして治るのか、治療費はどれくらいかかるのか、家族に負担や心配をかけたくない…、人それぞれ悩みは尽きません。気持ちが落ち込んでしまうのも当然です。しかし、あまり思いつめてしまっては、心にも体にもよくありません。

    この一大事を乗りきるためには、がん(肉腫)と向き合い、現実的かつ具体的に考えて行動していく必要があります。そこで、まずは次の2つを心がけてみませんか。

    ■ 情報を集めましょうまず、自分の病気についてよく知ることです。病気によって

    はまだわかっていないこともありますが、担当医は最大の情報源です。担当医と話すときには、あなたが信頼する人にも同席してもらうといいでしょう。わからないことは遠慮なく質問してください。

    病気のことだけでなく、療養生活のこと、経済的なこと、薬のこと、食事のことのような身の回りに関しては、看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師、栄養士などが専門的な経験や視点であなたの支えになってくれます。

    また、あなたが集めた情報が正しいかどうかを、あなたの担

    あなたに心がけてほしいこと

  • 2がんの冊子 軟部肉腫(成人)

    がん(肉腫)と言われたあなたの心に起こること1当医に確認することも大切です。他の病院でセカンドオピニオンを受けることも可能です(セカンドオピニオンについては18ページをご覧ください)。「知識は力なり」。正しい知識は、あなたの考えをまとめると

    きに役に立ちます。

    ■ 病気に対する心構えを決めましょうがん(肉腫)に対する心構えは、積極的に治療に向き合う人、

    治るという固い信念をもって臨む人、なるようにしかならないと受け止める人などいろいろです。どれがよいということはなく、その人なりの心構えでよいのです。そのためには、あなたが自分の病気のことをよく知っていることが大切です。病状や治療方針、今後の見通しなどについて担当医からよく説明を受け、いつでも率直に話し合い、その都度十分に納得した上で、自分なりの病気に対する向き合い方を探していきましょう。

    自分自身の気持ちを伝えることは、自分らしく病気と向き合い、過ごしていくための第一歩です。あなたが自分の病状について理解した上で治療に取り組みたいと考えていることを、担当医や家族に伝えるようにしましょう。率直に話し合うことが、担当医や家族との信頼関係を強いものにし、しっかりと支え合うことにつながります。

    ● 肉腫とは胃がんや肺がんなどは、体や臓器の表面をおおう細胞(上皮細胞)から発生する「がん」です。それに対して「肉腫」は、骨や筋肉などの細胞から発生する「がん」で、胃がんや肺がんとは発生する組織が異なります。

    では、これから軟な ん ぶ に く し ゅ

    部肉腫(成人)について学ぶことにしましょう。

  • 3

    2. 軟部肉腫とは

    軟部肉腫とは、軟部組織から発生した悪性腫瘍のことです。軟部組織とは、肺や肝臓などの臓器と骨や皮膚を除いた、筋肉、腱

    けん

    、脂肪、血管、リンパ管、関節、神経を指します。軟部肉腫は、手足、胴体、頭

    と う け い ぶ

    頸部、おなかの中など、体のいろいろな部位に発生します。

    図1. 太ももに発生した軟部肉腫

    軟部肉腫の種類はさまざまあり、分類が30種類以上あります。種類によって、よく発症する年齢や発生する部位が異なります。発生率が高いものとしては、脂肪肉腫、粘

    ね ん え き せ ん い に く し ゅ

    液線維肉腫および未分化/分類不能肉腫、平

    へいかつきんにくしゅ

    滑筋肉腫があります。※悪性線維性組織球腫は、WHO 分類の改定により、粘液線維肉腫および未分化/分類不

    能肉腫に再分類されています。

    軟部肉腫

    太ももの筋肉

  • 4がんの冊子 軟部肉腫(成人)

    2軟部肉腫とは年齢別でみると、高齢者では粘液線維肉腫および未分化/

    分類不能肉腫と平滑筋肉腫、中~高齢者では脂肪肉腫と線維肉腫、若年者では滑

    か つ ま く に く

    膜肉腫しゅ

    と悪あくせいまっしょうしんけいしょうしゅよう

    性末梢神経鞘腫瘍が多くみられます。また、小児の軟部肉腫の大部分は横

    おうもんきんにくしゅ

    紋筋肉腫が占めています。男女別では男女同数または男性にややできやすい腫瘍が多いのですが、平滑筋肉腫、滑膜肉腫などは女性に多い傾向がみられます。

    発生部位は、肉腫の種類により違いがみられます。脂肪肉腫と粘液線維肉腫および未分化/分類不能肉腫は特に太ももに多く、滑膜肉腫は大きな関節の近くに発生します。平滑筋肉腫は後

    こうふくまく

    腹膜や腸ちょうかんまく

    間膜などのおなかの中に発生することが多く、横紋筋肉腫は頭頸部や膀

    ぼうこう

    胱の近くに多く発生します。線維肉腫はいろいろな部位に発生しますが、比較的胴体に多くみられます。

    ● 軟部肉腫の症状軟部肉腫の大部分は、皮下や筋肉の中にこぶのようにあらわれます。症状としては痛みのない腫

    しゅりゅう

    瘤や腫は

    れですが、痛みがないために放置してしまうことも多く、受診したときには腫瘤が大きくなっていることがあります。

    太ももなど筋肉の厚い場所に発生すると、太もも全体が大きく腫れたようになることもあります。手足にできた腫瘍が大きくなると関節が曲がらなくなったり、座ることができなくなったりすることもあります。また、皮膚の色が変わったり、潰瘍になったりすることもあります。

  • 5

    3. 検査と診断

    検査は大きく3つに分けられます。1つ目は、腫瘍の性質を調べる生検です。2つ目は、腫瘍の位置や広がりを検査するX線検査、CT検査、MRI検査、PET検査、骨シンチグラフィなどの画像検査です。3つ目は、身体機能を調べるための、血液検査、尿検査、超音波(エコー)検査、心電図検査などです。

    1 生検

    悪性腫瘍が疑われると、確実な診断をするために、病変に針を刺して組織の一部を採取し、顕微鏡で調べる針生検を行います。超音波(エコー)検査、CT検査、MRI検査をガイドに用いて、針を刺せる適切な場所を見定め、局所麻酔を行いながら処置を行うこともあります。また針生検では組織採取量が少なく、診断には至らない場合や、確実な診断のためには外科的手術によって生検を行います。

    生検は、その後の治療内容に関わってくる非常に重要な検査です。軟部肉腫は種類が多く、確実な診断には専門施設での生検や診断が必要です。

  • 6がんの冊子 軟部肉腫(成人)

    検査と診断3 X線検査、CT検査、MRI検査、PET検査、

    骨シンチグラフィなどの画像検査

    腫瘍の位置や広がり、リンパ節や肺、肝臓などへ転移がないかどうかを調べるために、X線検査、CT検査、MRI検査、PET検査、骨シンチグラフィなどの画像検査を行います。

    CT検査は、X線を使った検査で、体の内部を描き出して腫瘍の広がりを調べます(図2)。腫瘍と血管の位置関係や、腫瘍による血管浸潤の有無の評価に有用です。最も転移を生じやすい肺の評価に有用です。

    図2. CT検査の様子

    MRI検査は、磁気を用いて体の臓器や血管を撮影する検査で、腫瘍とまわりの筋肉や神経、血管などとの位置関係や腫瘍の広がりなどを調べます。手術にはMRI検査が必要になり、造影剤を用いることで腫瘍の広がりを評価します。

    PET検査は、放射性フッ素を付加したブドウ糖液を注射し、細胞への取り込みの分布を撮影することで全身のがん細胞を検出する検査です。一般的にはCT検査を併用したPET-CT検査を行います。リンパ節転移や遠隔転移の診断で補助的に活用することがあります。

    2

  • 7

    骨シンチグラフィは骨への転移を調べるのに有用となることがあります。

    3 血液検査、尿検査、超音波(エコー)検査、心電図検査など

    軟部肉腫では、診断に有用とされる腫瘍マーカーはありません。検査や治療に影響する腎臓の機能や肝臓の機能、貧血などの状態を血液検査、尿検査、超音波(エコー)検査で調べます。また心臓の機能を調べるために、心電図検査を行います。

    4. 病期(ステージ)

    予後因子となる組織学的悪性度(腫瘍のたちの悪さ)、腫瘍の大きさ、腫瘍の発生深度(表在性、深在性)、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無により、病期(ステージ)が分類されます。

    American Joint committee on Cancer(AJCC:米国がん合同委員会)による第 7 版病期分類(表 1)と、Union for International Cancer Control(UICC:国際対がん連合)による第 7 版病期分類(表 2)では、組織学的悪性度の分類や腫瘍の発生深度の扱いが異なるのですが、この病期をもとに、年齢や全身状態を考慮して最も有効な治療法を決定します。

    検査と診断3 4 病期(ステージ)

  • 8がんの冊子 軟部肉腫(成人)

    4病期(ステージ)表1. AJCC system (7th ed.)※1

    病期 腫瘍のサイズと深度 ※2 リンパ節転移※3 遠隔転移 ※4 組織学的悪性度

    ⅠA T1a、T1b N0 M0 Grade1

    ⅠB T2a、T2b N0 M0 Grade1

    ⅡA T1a、T1b N0 M0 Grade2、3

    ⅡB T2a、T2b N0 M0 Grade2

    ⅢT2a、T2b N0 M0 Grade3

    Any T N1 M0 Any Grade※5

    Ⅳ Any T Any N M1 Any Grade※1 カポジ肉腫、デスモイド、先天性線維肉腫は除く※2 T1:5cm 以下、T2:5cm より大きい、a:浅在性、b:深在性、AnyT:サイズや深度に関わらない※3 N0:所属リンパ節転移がない、N1:所属リンパ節転移がある、AnyN:リンパ節転移の有無に関わらない※4 M0:遠隔転移がない、M1:遠隔転移がある ※5 悪性度に関わらないEdge, S. B., et al., eds.: AJCC Cancer Staging Manual, 7th ed., 2010; 291-6, Springer.

    表2. UICC system (7th ed.)※6

    病期 腫瘍のサイズと深度 ※7 リンパ節転移※8 遠隔転移 ※9 組織学的悪性度

    ⅠA T1a、T1b N0 M0 低悪性度

    ⅠB T2a、T2b N0 M0 低悪性度

    ⅡA T1a、T1b N0 M0 高悪性度

    ⅡB T2a N0 M0 高悪性度

    ⅢT2b N0 M0 高悪性度

    Any T N1 M0 Any Grade※10

    Ⅳ Any T Any N M1 Any Grade

    ※6 カポジ肉腫、皮膚線維肉腫、線維腫症、血管肉腫、さらに硬膜、脳、管かんくう

    腔臓器、または実質臓器(乳腺肉腫を除く)から発生した肉腫は除く

    ※7 T1:5cm 以下、T2:5cm より大きい、a:浅在性、b:深在性、AnyT:サイズや深度に関わらない※8 N0:所属リンパ節転移がない、N1:所属リンパ節転移がある、AnyN:リンパ節転移の有無に関わらない※9 M0:遠隔転移がない、M1:遠隔転移がある ※10 悪性度に関わらないSobin, L. H.,et al., eds.: International Union Against Cancer, "TNM Classification of Malignant Tumours", 7th ed., 2010; 157-61, WILEY-BLACKWELL.

  • 9

    軟部肉腫は治療の難しい腫瘍の1つであり、最初の治療での有効性により、患者さんの予後や治療後の生活に大きな違いが出ることもあります。したがって、軟部肉腫の治療は早期発見とともに、専門家のいる病院で治療することが大切です。悪性度の高い肉腫は手術だけではなく、薬物療法や放射線治療、症状を和らげる対症療法を組み合わせた治療(集学的治療)を行うこともあります。

    図3. 軟部肉腫(成人)の臨床病期と治療

    臨床病期

    治療

    対症療法

    治癒的切除可能 治癒的切除不可能 標準治療は確立されていない(高悪性度は全身化学療法を考慮する)

    手術(外科治療)

    ・広範切除

    (患肢温存術)

    手術(外科治療)

    ・転移巣切除+原発巣切除

    ±全身化学療法

    切除縁評価

    経過観察

    追加広範切除

    術後放射線治療

    手術(外科治療)

    ・切離断術

    放射線治療

    対症療法

    手術(外科治療)

    +補助療法

    (術前・術後・術中

     放射線治療など)

    Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅳ期Ⅲ期

    適切 不適切

    孤立性の転移巣

    多発性の転移巣

    全身化学療法

    転移巣切除

    原発巣切除

    放射線治療

    (高悪性度は全身化学療法を考慮する)

    日本整形外科学会診療ガイドライン委員会・軟部腫瘍診療ガイドライン策定委員会編「軟部腫瘍診療ガイドライン2012」(南江堂)より作成

    5. 治療

  • 10がんの冊子 軟部肉腫(成人)

    治療51 手術(外科治療)

    手術は、軟部肉腫における治療の要です。腫瘍が局所にとどまっている場合、その局所の腫瘍を除去するために手術を行います。再発を最小限にするためにも、手術前に腫瘍の性質をよく調べ、切除する範囲を検討します。

    腫瘍が徐々に成長するときに、腫瘍の周囲に反応層といわれる膜のようなものをつくります。一見、この膜は腫瘍とは関係ないように思われるかもしれませんが、この反応層の中にはすでに腫瘍細胞が入り込んでいます。したがって、反応層での切除は高い再発率を招きます。正しい切除法とは、反応層の外側で周囲の正常組織を十分含めて切除することです(広範切除)。また、リンパ節転移が疑われる場合にはリンパ節郭

    かくせい

    清を行うこともあります。

    腫瘍を大きく切除したあとの再建技術は進歩してきており、別の部位の皮膚、筋肉、骨などを用いて、切除部位で細い血管を顕微鏡下でつないだり、静脈や人工血管を使って血管を移植したりすることにより、手足を残して機能を温存する患

    か ん し

    肢温存術が広く行われるようになってきました。現在、多くの施設で患肢温存率は90%以上です。ただし、腫瘍が大きくなりすぎて、血管や神経に浸潤している場合は、切離断術になることもあります。

  • 11

    ● 手術に伴う合併症神経や手足の切離断術では、強い痛みが生じたり、数カ月痛みが持続したりすることがあります。痛みには鎮痛剤が処方されます。また、神経や血管を切除した手足や切断した部位に体液が滞り、むくんだり、義肢や装具が合わなくなったりすることもあります。むくみの軽減には、むくんだ手足や切断した手足の先を包帯で圧迫したり、やさしくマッサージしたりするのが効果的です。看護師に説明を受けて、包帯の巻き方を練習しましょう。

    治療によって手足や神経を切断した場合、手術後、失った手足があたかもあるような感覚を覚えることがあります。これを「幻

    げ ん し

    肢」といいます。幻肢痛は、幻肢に伴う不快な感覚や痛みのことで、しびれた感じがする、ピリピリする、チクチクするなど、人によって痛みの表現はさまざまです。幻肢および幻肢痛は、手術による創

    きず

    の痛みが治まるころに始まり、新しい体のイメージができ上がる1 ~ 2年で消えるといわれています。幻肢痛を感じたときは担当医に相談しましょう。必要に応じて鎮痛剤や安定剤が処方されます。

    長期間にわたる寝たきりの生活や、足を切断して十分なリハビリをしないまま車いす生活を続けると、切断した部位の関節が外側を向いて硬くなる外

    がいてんこうしゅく

    転拘縮や、曲がったまま固まる屈くっきょくこうしゅく

    曲拘縮を起こすことがあります。股関節がいったん外転・屈曲拘縮になってしまうと、起立歩行義肢を装着する際に支障を来すことがあるので予防が大切です。特に幼児や高齢者は股関節の外転・屈曲拘縮が起こりやすいので、担当医と相談しながら、関節を動かす訓練などで予防します。

  • 12がんの冊子 軟部肉腫(成人)

    治療5● 手術後に日常生活を送る上で

    筋力の強化や動作の練習から、日常生活に戻る準備を始めます。義肢を装着したり、松葉づえや車いすを利用したりする場合でも、障害を受けていないほう(健

    けんそく

    側)の手足はこれまで以上の筋力を必要とします。理学療法士の指導を受けて、できるだけ早めに手足の筋力を強化する訓練を始めましょう。ただし、以前できたような動作を少しでも早く取り戻したいという気持ちが先走って無理をしたりすると、体に過剰な負担がかかったり、転倒しやすくなったりします。治療を受けた担当医やリハビリ担当医、理学療法士、義肢装具士と相談し、近くの医療機関やリハビリ施設を利用しながら、無理のない予定を立てていきましょう。

    作業療法や装具については、個々の患者さんに合わせた工夫が不可欠です。また、自宅の設備や職場環境の確認(段差や仕切りが障害にならないか、エレベーターの位置など)や改善の検討も重要になります。

    義肢や装具を利用することは生活動作や行動の幅を広げます。義肢や装具にはさまざまな種類がありますので、担当医やリハビリ担当医から紹介された義肢装具士(義肢・装具製作担当者)に相談して、生活環境や学業、仕事、通勤・通学状況などに応じた義肢や装具を準備しましょう。

    障害者手帳の交付、治療や介護費用の助成を受けられることがあります。院内のソーシャルワーカーなどにご相談ください。

  • 13

    2 薬物療法

    手術後の再発・転移の原因としては、いろいろな検査を行っても発見できないほどの小さな転移(微小転移)が残っていたことが考えられます。このような微小転移を治療するため、術前や術後に薬物療法を行うことがあります。また、肺転移巣やその他の転移巣の治療、あるいは手術ができない場合に、悪性腫瘍の進行をコントロールするために薬物療法を行うこともあります。

    細胞障害性抗がん剤(以下、抗がん剤)は静脈からの点滴、あるいは内服(飲み薬)として投与され、血流に乗って全身に行き渡り、腫瘍細胞へ到達します(全身化学療法)。通常、抗がん剤は1種類投与されますが、場合によっては複数の抗がん剤を併用することもあります(多剤併用療法)。

    副作用には、吐き気、嘔お う と

    吐、食欲不振、脱毛などがありますが、症状を軽減する薬剤など、さまざまな支持療法が行われています。

    3 放射線治療

    腫瘍細胞を死滅させ、腫瘍を小さくするために行います。しかし軟部肉腫には、放射線治療が比較的効きにくいものが多く、放射線治療が第一選択になることはほとんどありません。補助療法として、手術後の再発を減らす目的で、腫瘍を切除したあとに放射線治療を行うことがあります。また、手術ができない場合、手術前に腫瘍をできるだけ小さくして切除しやすく

  • 14がんの冊子 軟部肉腫(成人)

    治療5する場合、手術後に腫瘍の取り残しが考えられる場合などに行うこともあります。また対症療法として、疼

    とうつう

    痛を緩和するために行うことがあります。

    副作用として、皮膚、関節、骨の障害が照射した場所に起こることがあります。

    ● その他の治療軟部肉腫に対する免疫療法についての報告はさまざまありますが、まだ効果は明らかにされておらず、確立されたものはありません。

    ● 対症療法症状を緩和する目的で行われる治療です。例えば、痛みが強いときには、医療用麻薬を含めた痛み止めを使ったり、痛みの原因となっているがんのある場所に対して放射線治療を行ったりして、つらさを和らげることもできます。

  • 15

    6. 経過観察治療後の体の状況や再発の有無を確認するために、定期的

    に外来通院し、X線検査やCT検査、MRI検査などの画像検査を必要に応じて行います。

     病状や受けている治療の状況により、日常生活で注意することや運動できる範囲は異なります。自分の体調と治療の副作用をみながら、担当医とよく相談して無理のない範囲で過ごしましょう。

    経過観察6

  • 16がんの冊子 軟部肉腫(成人)

    7転移7. 転移転移とは、悪性腫瘍細胞がリンパ液や血液の流れで運ばれ

    て別の臓器に移動し、そこで成長することをいいます。軟部肉腫は肺転移の頻度が高く、皮膚、リンパ節、骨に転移する可能性もあります。

    リンパ節転移単独の場合や、肺のみの転移で手術により完全に切除可能な場合は、切除することにより予後がよいという報告もあり、手術を検討することがあります。

    軟部肉腫が転移している場合の薬物療法は、悪性腫瘍の進行を遅らせたり、つらい症状を和らげたりすることを目標に行います。痛みなどの部分的な症状が強いときは、手術や放射線治療を組み合わせて対症療法を行うこともあります。骨への転移があるときには、痛みの悪化や骨折を減らすために骨吸収抑制薬(骨を破壊する細胞の機能を抑え、骨吸収を抑制する薬。BMA[Bone Modifying Agent]ともいいます)による治療が検討されます。

    治療やケアの方針は、患者さんの症状や体調、あるいは希望に応じて決めていきます。

  • 17

    8. 再発

    再発とは、治療により悪性腫瘍がなくなったあと、再び悪性腫瘍が出現することをいいます。再発には、もとの悪性腫瘍と同じ場所あるいはごく近くに起こる局所再発と、転移により別の場所にあらわれる遠隔転移があります。

    局所再発の場合は、再度、手術を行って治癒(根治)を目指します。状況によって薬物療法や放射線治療を組み合わせます。

    遠隔転移の場合は、切除により転移した病巣を取り除く場合もありますが、病状により薬物療法あるいは症状緩和を目的とした対症療法を行います。

    再発8

  • 18

    診断や治療の方針に納得できましたか?/セカンドオピニオンとは?

    がんの冊子 軟部肉腫(成人)

    診断や治療の方針に納得できましたか?

    治療方法は、すべて担当医に任せたいという患者さんがいます。一方、自分の希望を伝えた上で一緒に治療方法を選びたいという患者さんも増えています。どちらが正しいというわけではなく、患者さん自身が満足できる方法が一番です。まずは、病状を詳しく把握しましょう。わからないことは、

    担当医に何でも質問してみましょう。治療法は、病状によって異なります。医療者とうまくコミュニケーションをとりながら、自分に合った治療法であることを確認してください。診断や治療法を十分に納得した上で、治療を始めましょう。

    セカンドオピニオンとは?

    担当医以外の医師の意見を聞くこともできます。これを「セカンドオピニオンを聞く」といいます。ここでは、①診断の確認、②治療方針の確認、③その他の治療方法の確認とその根拠を聞くことができます。聞いてみたいと思ったら、「セカンドオピニオンを聞きたいので、紹介状やデータをお願いします」と担当医に伝えましょう。

    担当医との関係が悪くならないかと心配になるかもしれませんが、多くの医師はセカンドオピニオンを聞くことは一般的なことと理解しています。納得した治療法を選ぶために、気兼ねなく相談してみましょう。

  • 19

    メモ/受診の前後のチェックリスト

    メモ (    年   月   日)● がんの種類 [                ]● 病期(ステージ) [                ]● 大きさ [       ]cm位● 数 [       ]個● 広がり・深さ [       ]まで● リンパ節への転移 [ あり・なし ]● 別の臓器への転移 [ あり・なし ]

    受診の前後のチェックリスト□ 後で読み返せるように、医師に説明の内容を紙に書いてもらったり、自分でメモをとったりするようにしましょう。

    □ 説明はよくわかりますか。わからないときは正直にわからないと伝えましょう。

    □ 自分に当てはまる治療の選択肢と、それぞれのよい点、悪い点について、聞いてみましょう。

    □ 勧められた治療法が、どのようによいのか理解できましたか。□ 自分はどう思うのか、どうしたいのかを伝えましょう。□ 治療についての具体的な予定を聞いておきましょう。□ 症状によって、相談や受診を急がなければならない場合があるかどうか確認しておきましょう。

    □ いつでも連絡や相談ができる電話番号を聞いて、わかるようにしておきましょう。

    □ 説明を受けるときには家族や友人が一緒の方が、理解できて安心だと思うようであれば、早めに頼んでおきましょう。

    □ 診断や治療などについて、担当医以外の医師に意見を聞いてみたい場合は、セカンドオピニオンを聞きたいと担当医に伝えましょう。

    参考文献:日本整形外科学会診療ガイドライン委員会・軟部腫瘍診療ガイドライン策定委員会編:軟部腫瘍診療ガイドライン2012;南江堂Edge, S. B., et al., eds.: AJCC Cancer Staging Manual, 7th ed., 2010; 291-6, Springer.Sobin, L. H.,et al., eds.: International Union Against Cancer, "TNM Classification of Malignant Tumours", 7th ed., 2010; 157-61, WILEY-BLACKWELL.

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    サポート

    すべての冊子は、がん情報サービスのホームページで、実際のページを閲覧したり、印刷したりすることができます。また、全国の国指定のがん診療連携拠点病院などのがん相談支援センターでご覧いただけます。*の付いた冊子は、書店などで購入できます。その他の冊子は、がん相談支援センターで入手できます。詳しくはがん相談支援センターにお問い合わせください。

    がんの冊子 各種がんシリーズ 軟部肉腫(成人)

    編集・発行 国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター印刷・製本 図書印刷株式会社

    2016 年 10 月 第 1版第 1刷 発行

    がんの冊子各種がんシリーズ 肺がん/胃がん/大腸がん/肝細胞がん/乳がん/他小児がんシリーズ 白血病/悪性リンパ腫/脳腫瘍/神経芽腫/他がんと療養シリーズがんと心/がんの療養と緩和ケア/もしも、がんと言われたら/他社会とがんシリーズがん相談支援センターにご相談ください/家族ががんになったとき/身近な人ががんになったときがんを知るシリーズ 科学的根拠に基づくがん予防がんと仕事のQ&A

    患者必携がんになったら手にとるガイド普及新版*別冊 『わたしの療養手帳』もしも、がんが再発したら*

    国立がん研究センターがん対策情報センター作成の冊子

    執筆協力者(五十音順):内藤 陽一(国立がん研究センター東病院先端医療科/乳腺・腫瘍内科) 横山 雄章(国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科)査読協力者(五十音順):公平 誠(公平病院 病院長) 小林 英介(国立がん研究センター希少がんセンター) 国立がん研究センターがん対策情報センター 患者・市民パネル

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    軟部肉腫(成人)

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    国立がん研究センターがん対策情報センター

    より詳しい情報はホームページをご覧ください国立がん研究センターがん対策情報センター〒104-0045東京都中央区築地5-1-1

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