国際部員が見たベトナムの税務事情 平山幸保 ベトナム ... · 2014-07-02 ·...

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国際部員が見た ベトナム の税務事情 2014年4月 158法人 2015年目標3,000法人 2013年9月 129法人 2012年12月 105法人 2012年4月 83法人 2011年8月 78法人 時期 法人数 合格率 25% 15% 18% 10% 2013~2014年の試験は、2014年第四半期に行う予定。 2014年3月30日現在の、税理士1,813人 内訳 試験合格者:1,049人 試験2科目免除者:764人 資格付与合格者数 456 229 261 103 計1,049 受験者数 1,854 1,563 1,395 1,015 開催年 2009 2010 2011 2012 国際部委員 平山幸保 5 ベトナム ベトナムの税理士制度 4月9日から13日まで、東京税理士会のベトナム 税制等研究視察に参加させていただきました。私個 人としては初めてのベトナム訪問でしたが、内容は 充実したものでした。全体としての報告は近々発表 されますので、詳しい内容は、そちらを見ていただ くとして、今回は、ベトナムの税理士制度について レポートさせていただきます。 1.ベトナムの概要 正式名称 ベトナム社会主義共和国 (Social Republic of Vietnam) 独立 1945年9月2日 国土面積 約33万$(日本の88%) 人口 8,932万人(日本の69%) 民族 キン族が約9割、その他53の少数民族 首都 ハノイ(650万人)経済の中心はホー チミン(740万人) 一人あたりGDP 1,374ドル (日本は45,920ドル) GDP成長率 約5% 国土面積が日本に近く、南北に細長いという国土 の形状も日本に近いものがあります。 2.ベトナムの近代史 1887年 フランスによる植民地化 1945年 ベトナム独立宣言・南北に分裂 1975年 ベトナム戦争終結、南北統一 1986年 ドイモイ(経済開放)政策導入 1995年 ASEAN加盟、アメリカとの国交回復 2007年 WTO加盟 2009年 日越EPA(自由貿易協定)発効 1975年まで戦争が続いており、その後の1986年の ドイモイ政策の導入をきっかけに対外投資を呼び込 み、経済発展をしていくようになりました。そうい う意味では、ベトナムの経済発展はまだ30年ほどし かたっていないことになります。WTO加盟が最近 ということもあり、発展の道半ばという段階でしょ う。 3.ベトナムの人口構成 ベトナムの人口は8,932万人で増加の傾向にあり ます。人口ピラミッドもほぼ綺麗なピラミッド形状 になっていますが10歳以下の人口は少し凹んでお り、長期的には少子化の懸念もあります。平均年齢 は30歳で、日本の45歳と比べると対照的です。実際 に街を歩いていても若い人が多いです。 4.ベトナムの地理 ベトナムは、南北に細長い形をしており、北は中 国、東、南は南シナ海、西はラオス・カンボジアと 接しています。地図を見ると、ベトナムは東南アジ ア地域の中心に位置しています。 ホーチミンから各国への所要時間は、タイ・カン ボジアが1時間、シンガポール・マレーシア・イン ドネシア・フィリピン・ミャンマー・香港が2時間 と、東南アジアであれば全て飛行機で2時間圏内で す。また、南北に長く海に面しているため、港湾も 多く、物流も簡単です。更には、ベトナム中部の都 市ダナンからラオス、タイ、ミャンマーと続く東西 回廊という高規格道路の建設も始まっており、東南 アジア各国へのアクセスは、人、モノとも良好です。 5.ベトナムの税理士制度の創設 ベトナムでは、1986年のドイモイ以降、社会主義 体制下での資本主義経済を導入したことにより、 1990年代に入ってから税制が整備されるようになり ました。2004年より法人の自主申告納税方式を試行 し、2007年より全国に適用しました。これに伴い、 税務管理法第20条に税務関連の手続きサービスを提 供する組織について規定が置かれ、2008年4月3日 に通達№28が出され、税理士制度の詳細を定めるこ とにより、ベトナムに税理士制度が創設されました。 6.ベトナムの税理士制度の概要 % 税務管理法第20条により、税理士は、納税者と 契約を結ぶことにより、税務手続きを行うと共 に、納税者の権利を守ることが定められていま す。具体的には以下の職務を行うこととされてい ます。 !納税者のために、税務代理業務。 "税の減免、還付の申請のために資料を取りまと め、減免額、還付額について記述し、これらの 資料を税務当局に提出します。 & 税理士としてサービスを提供するにはライセン スが必要で、そのためには、2人以上の税理士資 格保有者で法人を設立し、登録をします。 (個人事 務所は認められていません) ' 税理士登録数 ( 税理士試験状況 7.ベトナムの税理士制度の問題点 % 法律的に税理士に認められているのは、!税務 書類の作成と、"税務代理(調査立会いを含む) の2つだけです。 & 税務相談の権限は、監査法により会計士に認め られ、税理士には認められていません。 ' 記帳代行、記帳指導の権限についても、会計士 法により会計士に認められ、税理士には認められ ていません。 ( 税務書類の作成については、税務書類に税理士 署名欄があり、ここに署名することにより、法的 な効果が税理士に帰属することとされています。 会計士の多くはこの欄に署名しないことにより、 税務管理法違反とならないよう法的効果の帰属を 回避しています。つまり、会計士が税理士登録を することなく、税理士のみに認められた税務書類 作成の業務を脱法的に行使しているのが現状とい うことです。 ) 調査立会いを始めとする税務代理については、 以下の理由によりほとんど機能していません。 !税務職員がそもそも税理士制度を認識していま せん。 "社会主義国及び発展途上国に多い、官尊民卑の 発想が著しく、税理士を税務当局の対等なパー トナーと考える土壌が政府職員に欠如していま す。 #納税者に対して強い立場にある税務職員は、税 理士が介入してくることを嫌い、調査立会いを 認めようとしません。 (元々、法律と実態が異な ることが多くアンダーテーブル、所謂、賄賂で 処理される部分があるため、税理士が調査に立 会わないというより、税務書類に署名しないの がほとんどです) * 国民に納税意識を含めたコンプライアンスの概 念がまだ根付いていないため、税理士サービスを 利用しようという発想がほとんどありません。 + 税理士会への登録が任意とされているため、税 理士の一部しか税理士会に登録していません。と いうより、ほとんどの税理士は小規模で、税理士 業務からの売上は低く、他のコンサルタント業務 等で売上を上げるしかありません。 8.税理士制度の発展計画 2014年3月3日にベトナム財務省は、2020年まで の税理士制度発展計画の承認に関する決定を制定し ました。 % 税理士の活動に関わる法律整備に関する解決策 !現行の通達の改正、追加。 "政府政令の制定による、税理士法制定の準備。 & 税理士の活動に対する国家管理整備に関する解 決策 !税務当局による税理士の業務活動の管理機能・ 職務規定の明確化。 "税理士に対する管理活動の税理士会への段階的 な移行。 ' 税理士の活動能力向上に関する解決策 !税理士に対する職務知識の年次研修・教育訓 練。 "税務当局と税理士のホームページの構築。 #税理士の職業道徳規則の制定。 9.ベトナム税理士会と日税連が友好協定を締結 ベトナム税理士会(グエン・ティ・クック会長) は、2009年に、AOTCA(アジア・オセアニアタッ クスコンサルタント協会)の正規加盟団体としての 入会が承認され、日税連をはじめとするアジア諸国 の税務専門家団体との交流にも積極的に取り組んで います。こうしたなか、2010年11月26日、オースト ラリア、シドニーでベトナム税理士会と日税連の友 好協定が締結されました。これは、2009年のAOTCA ムンバイ会議時の合意に基づくもので、両国の税 制、税務行政、税務専門家制度等に関する情報や税 務専門家に関する経験と知識の交換を通じ、両会間 のさらなる理解と協力を深めることを目的としてい ます。 10.終わりに(ベトナム税理士制度発展のために必要なこと) ベトナムの税理士制度が発展する為には、まず、 税理士法を制定することが必要だと思います。その 中で、!税理士の税理士会への登録を強制加入とす ること。"税務代理、税務書類の作成、税務相談の 全ての業務を税理士に認めること。#会計士が税理 士業務をする場合には税理士登録させること等、日 本の税理士制度の良い所を参考にしていただければ と思います。 2014年〔平成26年〕6月1日〔日曜日〕 〔第三種郵便物認可〕 Volume No.689【8】

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Page 1: 国際部員が見たベトナムの税務事情 平山幸保 ベトナム ... · 2014-07-02 · 国際部員が見たベトナムの税務事情 2014年4月 158法人 2015年目標3,000法人

国際部員が見たベトナムの税務事情

2014年4月

158法人

2015年目標3,000法人

2013年9月

129法人

2012年12月

105法人

2012年4月

83法人

2011年8月

78法人

時期

法人数

合格率

25%

15%

18%

10%

2013~2014年の試験は、2014年第四半期に行う予定。2014年3月30日現在の、税理士1,813人内訳 試験合格者:1,049人

試験2科目免除者:764人

資格付与合格者数

456

229

261

103

計1,049

受験者数

1,854

1,563

1,395

1,015

開催年

2009

2010

2011

2012

国際部委員 平山幸保第5回 ベトナム

ベトナムの税理士制度

4月9日から13日まで、東京税理士会のベトナム

税制等研究視察に参加させていただきました。私個

人としては初めてのベトナム訪問でしたが、内容は

充実したものでした。全体としての報告は近々発表

されますので、詳しい内容は、そちらを見ていただ

くとして、今回は、ベトナムの税理士制度について

レポートさせていただきます。

1.ベトナムの概要

正式名称 ベトナム社会主義共和国

(Social Republic of Vietnam)

独立 1945年9月2日

国土面積 約33万�(日本の88%)人口 8,932万人(日本の69%)

民族 キン族が約9割、その他53の少数民族

首都 ハノイ(650万人)経済の中心はホー

チミン(740万人)

一人あたりGDP 1,374ドル

(日本は45,920ドル)

GDP成長率 約5%

国土面積が日本に近く、南北に細長いという国土

の形状も日本に近いものがあります。

2.ベトナムの近代史

1887年 フランスによる植民地化

1945年 ベトナム独立宣言・南北に分裂

1975年 ベトナム戦争終結、南北統一

1986年 ドイモイ(経済開放)政策導入

1995年 ASEAN加盟、アメリカとの国交回復

2007年 WTO加盟

2009年 日越EPA(自由貿易協定)発効

1975年まで戦争が続いており、その後の1986年の

ドイモイ政策の導入をきっかけに対外投資を呼び込

み、経済発展をしていくようになりました。そうい

う意味では、ベトナムの経済発展はまだ30年ほどし

かたっていないことになります。WTO加盟が最近

ということもあり、発展の道半ばという段階でしょ

う。

3.ベトナムの人口構成

ベトナムの人口は8,932万人で増加の傾向にあり

ます。人口ピラミッドもほぼ綺麗なピラミッド形状

になっていますが10歳以下の人口は少し凹んでお

り、長期的には少子化の懸念もあります。平均年齢

は30歳で、日本の45歳と比べると対照的です。実際

に街を歩いていても若い人が多いです。

4.ベトナムの地理

ベトナムは、南北に細長い形をしており、北は中

国、東、南は南シナ海、西はラオス・カンボジアと

接しています。地図を見ると、ベトナムは東南アジ

ア地域の中心に位置しています。

ホーチミンから各国への所要時間は、タイ・カン

ボジアが1時間、シンガポール・マレーシア・イン

ドネシア・フィリピン・ミャンマー・香港が2時間

と、東南アジアであれば全て飛行機で2時間圏内で

す。また、南北に長く海に面しているため、港湾も

多く、物流も簡単です。更には、ベトナム中部の都

市ダナンからラオス、タイ、ミャンマーと続く東西

回廊という高規格道路の建設も始まっており、東南

アジア各国へのアクセスは、人、モノとも良好です。

5.ベトナムの税理士制度の創設

ベトナムでは、1986年のドイモイ以降、社会主義

体制下での資本主義経済を導入したことにより、

1990年代に入ってから税制が整備されるようになり

ました。2004年より法人の自主申告納税方式を試行

し、2007年より全国に適用しました。これに伴い、

税務管理法第20条に税務関連の手続きサービスを提

供する組織について規定が置かれ、2008年4月3日

に通達№28が出され、税理士制度の詳細を定めるこ

とにより、ベトナムに税理士制度が創設されました。

6.ベトナムの税理士制度の概要

� 税務管理法第20条により、税理士は、納税者と

契約を結ぶことにより、税務手続きを行うと共

に、納税者の権利を守ることが定められていま

す。具体的には以下の職務を行うこととされてい

ます。

�納税者のために、税務代理業務。�税の減免、還付の申請のために資料を取りまとめ、減免額、還付額について記述し、これらの

資料を税務当局に提出します。

� 税理士としてサービスを提供するにはライセン

スが必要で、そのためには、2人以上の税理士資

格保有者で法人を設立し、登録をします。(個人事

務所は認められていません)

� 税理士登録数

� 税理士試験状況

7.ベトナムの税理士制度の問題点

� 法律的に税理士に認められているのは、�税務書類の作成と、�税務代理(調査立会いを含む)の2つだけです。

� 税務相談の権限は、監査法により会計士に認め

られ、税理士には認められていません。

� 記帳代行、記帳指導の権限についても、会計士

法により会計士に認められ、税理士には認められ

ていません。

� 税務書類の作成については、税務書類に税理士

署名欄があり、ここに署名することにより、法的

な効果が税理士に帰属することとされています。

会計士の多くはこの欄に署名しないことにより、

税務管理法違反とならないよう法的効果の帰属を

回避しています。つまり、会計士が税理士登録を

することなく、税理士のみに認められた税務書類

作成の業務を脱法的に行使しているのが現状とい

うことです。

調査立会いを始めとする税務代理については、

以下の理由によりほとんど機能していません。

�税務職員がそもそも税理士制度を認識していま

せん。

�社会主義国及び発展途上国に多い、官尊民卑の発想が著しく、税理士を税務当局の対等なパー

トナーと考える土壌が政府職員に欠如していま

す。

納税者に対して強い立場にある税務職員は、税理士が介入してくることを嫌い、調査立会いを

認めようとしません。(元々、法律と実態が異な

ることが多くアンダーテーブル、所謂、賄賂で

処理される部分があるため、税理士が調査に立

会わないというより、税務書類に署名しないの

がほとんどです)

� 国民に納税意識を含めたコンプライアンスの概

念がまだ根付いていないため、税理士サービスを

利用しようという発想がほとんどありません。

� 税理士会への登録が任意とされているため、税

理士の一部しか税理士会に登録していません。と

いうより、ほとんどの税理士は小規模で、税理士

業務からの売上は低く、他のコンサルタント業務

等で売上を上げるしかありません。

8.税理士制度の発展計画

2014年3月3日にベトナム財務省は、2020年まで

の税理士制度発展計画の承認に関する決定を制定し

ました。

� 税理士の活動に関わる法律整備に関する解決策

�現行の通達の改正、追加。�政府政令の制定による、税理士法制定の準備。� 税理士の活動に対する国家管理整備に関する解

決策

�税務当局による税理士の業務活動の管理機能・職務規定の明確化。

�税理士に対する管理活動の税理士会への段階的な移行。

� 税理士の活動能力向上に関する解決策

�税理士に対する職務知識の年次研修・教育訓練。

�税務当局と税理士のホームページの構築。税理士の職業道徳規則の制定。

9.ベトナム税理士会と日税連が友好協定を締結

ベトナム税理士会(グエン・ティ・クック会長)

は、2009年に、AOTCA(アジア・オセアニアタッ

クスコンサルタント協会)の正規加盟団体としての

入会が承認され、日税連をはじめとするアジア諸国

の税務専門家団体との交流にも積極的に取り組んで

います。こうしたなか、2010年11月26日、オースト

ラリア、シドニーでベトナム税理士会と日税連の友

好協定が締結されました。これは、2009年のAOTCA

ムンバイ会議時の合意に基づくもので、両国の税

制、税務行政、税務専門家制度等に関する情報や税

務専門家に関する経験と知識の交換を通じ、両会間

のさらなる理解と協力を深めることを目的としてい

ます。

10.終わりに(ベトナム税理士制度発展のために必要なこと)

ベトナムの税理士制度が発展する為には、まず、

税理士法を制定することが必要だと思います。その

中で、�税理士の税理士会への登録を強制加入とすること。�税務代理、税務書類の作成、税務相談の全ての業務を税理士に認めること。会計士が税理士業務をする場合には税理士登録させること等、日

本の税理士制度の良い所を参考にしていただければ

と思います。

2014年〔平成26年〕6月1日〔日曜日〕 東 京 税 理 士 界 〔第三種郵便物認可〕 Volume No.689【8】