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No 497 2013 4 29 34 他の制度との関係 3 (1)過少資本税制との関係 過大支払利子の損金算入制限(過大支払利子 税制)は、関連者に対する支払い利息の損金算 入を制限する点では過少資本税制と類似の制度 であり、同時に適用されることにもなりえる。 したがって、これら両税制が適用されうる状況 下ではどちらの規定を適用するのかという問題 が生じる。 この点については、次のように整理されてい る。 i ) 法人のその事業年度に係る過大支払利子税 制により計算された金額(損金算入制限を受 ける金額)が、その事業年度に係る過少資本 税制により計算された金額(損金算入制限を 受ける金額)以下となる場合には、過大支払 利子税制の規定は適用されない(措法 66 の 5 の 2 ⑦、措令 39 の 13 の 2 ⑰⑳)。 ii ) 過少資本税制により計算された金額が、そ の事業年度に係る過大支払利子税制により計 算された金額を下回る場合には、過少資本税 制の規定は適用されない(措法 66 の 5 ④⑩、 措令39の13⑪)。 つまり、過大支払利子税制と過少資本税制の 双方で損金算入が制限される支払利子の額があ る場合には、制限される金額(損金不算入とさ れる金額)が大きいほうの制度が適用されるこ ととされている。これは、状況に応じ、より効 果が大きい制度が適用されるように位置づける ことにより、過大支払利子税制及び過少資本税 制が相互に補完する制度として機能することを 狙ったものと考えられる。 (2)タックスヘイブン対策税制との関係 タックスヘイブン対策税制の適用の対象とな る特定外国子会社等に支払う利子を有する法人 において、過大支払利子税制により損金不算入 とされる金額がある場合には、その利子の支払 # 76 品川克己 日本公認会計士協会租税 調査会専門委員(国際租 税専門部会) 税理士法人プライスウォーターハウスクーパ ース(マネージング・ディレクター) 略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国 際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及 び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロー スクールにて客員研究員として日米租税条約につ いて研究。97年より00年までOECD租税委員会 に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD 移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」 の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財 務省を辞職し現職。 過大支払利子の 損金算入制限② 今週のマエストロ&テーマ 次回のテーマ # 77 経営戦略に応える 企業再編成税制 税理士 朝長英樹 経営戦略の1つとして組織再編成税制を活 用できる方法を、同税制等の創設を主導し た筆者が事例形式で解説する。 ※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。 [email protected]

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Page 1: 76...2013/04/02  · 76 品川克己 日本公認会計士協会租税 調査会専門委員(国際租 税専門部会) 税理士法人プライスウォーターハウスクーパ

No 4972013 4 2934

他の制度との関係3(1)過少資本税制との関係過大支払利子の損金算入制限(過大支払利子税制)は、関連者に対する支払い利息の損金算入を制限する点では過少資本税制と類似の制度であり、同時に適用されることにもなりえる。したがって、これら両税制が適用されうる状況下ではどちらの規定を適用するのかという問題が生じる。この点については、次のように整理されている。i )法人のその事業年度に係る過大支払利子税制により計算された金額(損金算入制限を受ける金額)が、その事業年度に係る過少資本税制により計算された金額(損金算入制限を受ける金額)以下となる場合には、過大支払利子税制の規定は適用されない(措法66の5の2⑦、措令39の13の2⑰⑳)。ii)過少資本税制により計算された金額が、その事業年度に係る過大支払利子税制により計算された金額を下回る場合には、過少資本税制の規定は適用されない(措法66の5④⑩、措令39の13⑪)。つまり、過大支払利子税制と過少資本税制の双方で損金算入が制限される支払利子の額がある場合には、制限される金額(損金不算入とされる金額)が大きいほうの制度が適用されることとされている。これは、状況に応じ、より効果が大きい制度が適用されるように位置づけることにより、過大支払利子税制及び過少資本税制が相互に補完する制度として機能することを狙ったものと考えられる。(2)タックスヘイブン対策税制との関係タックスヘイブン対策税制の適用の対象となる特定外国子会社等に支払う利子を有する法人において、過大支払利子税制により損金不算入とされる金額がある場合には、その利子の支払

#76品川克己日本公認会計士協会租税調査会専門委員(国際租税専門部会)税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(マネージング・ディレクター)

略歴89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

過大支払利子の損金算入制限②

今週のマエストロ&テーマ

次回のテーマ

#77 経営戦略に応える企業再編成税制税理士朝長英樹

経営戦略の1つとして組織再編成税制を活用できる方法を、同税制等の創設を主導した筆者が事例形式で解説する。

税務における第一人者〝税務マエストロ〟による税実務講座

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。[email protected]

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を受けた特定外国子会社等の所得相当額がタックスヘイブン対策税制による合算課税の対象となる一方で、その法人が支払う利子の一部が損金不算入となり、二重課税の状態が生じることとなる。こうした二重課税を排除、調整するため、過大支払利子税制により損金不算入とされた支払利子が生じた年度にタックスヘイブン対策税制の適用による合算課税が行われる場合、次のような調整が行われる(措法66の5の2⑧、措令39の13の2)。過大支払税制により損金不算入とされる支払利子の金額(過大支払利子)のうち、次の算式で計算される合算課税の対象となる金額(以下、「調整対象金額」)と、その特定外国子会社等に係る課税対象金額又は部分課税対象金額のうちいずれか少ない金額が、「調整事業年度」において過大支払利子税制により損金不算入とされる金額から減算される。したがって、調整対象金額または合算課税の対象となる金額のいずれか少ない金額に相当する過大支払利子については、加算調整の対象に含まれないことになる。なお、「調整事業年度」とは、対象法人の事業年度における過大支払利子税制により損金不算入とされる金額のうちに調整対象金額があ

る場合の事業年度をいう。

例えば上記の図にあるように、過大支払利子税制により損金不算入とされる金額180を有する法人(内国法人A:関連者支払利子等の合計額は300)が、関連者たる外国法人(特定外国子会社等B)に対して、調整事業年度のうち特定子法人事業年度の期間内に支払う関連者支払利子等の額が150ある場合において、調整事業年度において特定外国子会社等Bがタックスヘイブン対策税制の対象となり、合算課税の対象となる金額(課税対象金額)80が合算課税される場合、過大支払利子税制とタックスヘイブン対策税制による二重課税の状態が生じる。したがって、過大支払利子税制により損金算入さ

図2】 定 者の 囲

【図】

所:財務省 平成2 年度 制改正 解説)

特定外国子会社等B

内国法人A

1 第三者を通じた関連者からの資金供与(a)の )

50%人 者人

他第

50

債券

債券

関連

の三

50%

債務 証債券

法人

3 関連者又は第三者から し付け れ を他の第三者へ譲渡し又 付けること等による資 ((c のケース)

(150)支払利子(150)

(80)課税対象金額(80)

1/1

3/31

12/31

支払利子課税対象金額

4/1

当期の関連者支払利子等の額の合計額は300

特定子法人事業年度

調整事業年度(当期)

調整後の損金不算入額 100 = 180 - 80(課税対象金額)

80(課税対象金額) < 90(調整対象金額) = 180 × 150300

調整対象金額

=過大支払利子の金額

特定子法人事業年度(注1)の期間に支払う関連者支払利子等の額(注2)関連者支払利子等の額の合計額

(注1)特定外国子会等の事業年度のうち、その事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日が法人の調整事業年度に含まれる場合におけるその特定外国子会社等の事業年度

(注2)調整事業年度においてその特定外国子会社等に支払われた関連者支払利子等の額

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れる金額180から80(調整対象金額90と課税対象金額80のうち少ない金額)を損金不算入とされる金額180から控除し、調整後の損金不算入額は100となる。(3)連結納税制度における調整連結納税における過大支払利子税制は、連結グループ全体の関連者純支払利子等の額と連結グループ全体の連結調整所得金額を比較して、過大支払利子の判定及び損金不算入額の計算を行うこととなる。連結所得計算上損金に算入されない利子等の金額は下記の算式で算定される(措法68の89の2)。

損金不算入額=関連者純支払利子等-連結調整所得金額×50%

この場合の、「関連者純支払利子等」は、各連結法人の関連者支払利子等(グループ内の他の連結法人への支払利子等を除く)の額の合計額からこれに対応する受取利子等(グループ内の他の連結法人からの受取利子等を除く)の額の合計額を控除した金額をいう。また、「連結調整所得金額」とは、原則とし

て連結法人全体で、単体納税の場合と同様に計算するが、グループ内の他の連結法人からの受取配当等に係る益金不算入額等については加算の対象とならない。なお、以下のいずれかに該当する場合は、本制度の適用はないが、確定申告書等に下記の規定の適用がある旨を記載した書面及びその計算明細があり、かつ、その計算に関する書類の保存がある場合に限り、適用される。また適用除外の申告要件等は単体申告の場合と同様である。i )その連結事業年度における各連結法人の関連者純支払利子等の額の合計額が1千万円以下であることii)その連結事業年度における各連結法人の関連者支払利子等の額(注)の合計額が各連結

法人の総支払利子等の額の合計額の50%以下であること(注)関連者に対する支払利子等でその支払

を受ける関連者において我が国の法人税の課税所得に算入されるもの等は含まれない。

(4)外国法人への適用外国法人についても過大支払利子税制は適用される。この場合、「関連者純支払利子等の額」、「関連者支払利子等の額」及び「控除対象受取利子等の額」等は、その外国法人の国内において行う事業に係るものに限定される。また、「調整所得金額」は、その外国法人の国内源泉所得に係る所得の金額に係るものに限定される(措法66の5の2⑨)。

超過利子額の繰越控除等4(1)超過利子額の損金算入法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始

した事業年度において、過大支払利子税制の適用により、損金不算入となった利子等の金額(以下「超過利子額」)がある場合には、関連者純支払利子等の額が調整所得金額の50%に満たない年度において、当該差額相当額(関連者純支払利子等の額から調整所得金額の50%を控除した金額)を限度として、損金の額に算入される(措法66の5の3①)。これは、支払利息の水準や比較対象となる所得水準が、ともに外部的な要因としての経済状況や、創業期であるとか事業再生期であるとかの内部的要因により大きく変動する要素であるため、単年度の状況だけでなく、事後の一定期間(7年間)の状況によって判断すべきとの考えに基づく制度といえる。なお、この措置は、超過利子額に係る事業年度のうち最も古い事業年度以後の各事業年度の確定申告書にその超過利子額に関する明細書の

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記事に関連するお問い合わせ先記事に関するお問い合わせは週刊「T&Amaster」編集部にお寄せください。執筆者に質問内容をお伝えいたします。

TEL:03-5281-0020 FAX:03-5281-0030 e-mail:[email protected]※なお、内容によっては回答いたしかねる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

添付があり、かつ、この措置の適用を受けようとする事業年度の確定申告書(中間申告書を含む)に、適用を受ける金額の申告の記載及びその計算に関する明細書の添付がある場合に限り、適用される(措法66の5の3⑧)。(2)適格合併等に係る超過利子額の引継ぎ適格合併等(法人を合併法人とする適格合併又はその法人との間に完全支配関係がある他の法人でその法人が発行済株式等の全部もしくは一部を有する内国法人の残余財産の確定)が行われた場合において、被合併法人等が超過利子額を有する場合には、引き継対象超過利子額として、合併法人等の事業年度において生じた超過利子額とみなされる(措法66の5の3③)。(3)タックスヘイブン対策税制と過年度の超

過利子額の損金算入過年度より繰り越された超過利子額を有する事業年度(7年間)にタックスヘイブン対策税制の適用による合算課税が行われる場合には、次のように計算される「調整対象超過利子額」

と、その特定外国子会社等に係る課税対象金額又は部分課税対象金額のうちいずれか少ない金額が、当該事業年度において損金に算入される(措法66の5の3②)。この措置は、超過利子額に係る事業年度のうち最も古い事業年度以後の各事業年度の確定申告書にその超過利子額に関する明細書の添付があり、かつ、この措置の適用を受けようとする事業年度の確定申告書(中間申告書を含む)に、適用を受ける金額の申告の記載及びその計算に関する明細書の添付がある場合に限り、適用される(措法66の5の3⑧)。

調整対象超過利子額

=

対象事業年度の超過利子額(注)

×

特定子法人事業年度の期間に支払う関連者支払利子等の額(注)関連者支払利子等の額の合計額(注)

(注)いずれも、対象事業年度(法人の調整事業年度前の事業年度で特定子法人事業年度の期間内の日を含むもの)に係る利子額