言語学、はじめの一歩( 7) - kufsq:「brunch(=breakfast+lunch)」などもそ...

1
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございま す。今は期待と不安が入り混じった複雑な心境 ではないでしょうか。どうぞ急がず、焦らず、ゆっ くりと新しい環境に慣れて行って下さい。 これから卒業するまでの間には、様々な分野 を学ばれると思います。このコーナーでは、言 語学について入学先生と、私(藤井)がQ&A形 式で、出来るだけ分かり易くご紹介しようと思っ ています。少しでも興味を持って頂ければ幸い です。なお、館報186号から連載していますので、 図書館のホームページから「デジタル図書館報」 を利用すれば、バックナンバーが手軽に読める ようになっています。 今回は、前回の続きの形態論についてです。 Q:前回までは合成語と複合語についてのお話 でした。 A:はい。合成語と複合語は、他の要素を加え て単語を長くすることで別の単語を造り出 すというものでした。今回はその他の造語 法をいくつか紹介したいと思います。まず、 最も単純なのは「転換(conversion)」です。 これは単語の長さを変えることなく別の品 詞にすることです。英語では名詞の多くは 動詞に品詞転換されます。 Q:例えば「bottle(ビン)」が「bottle wine(ワ インをビンに詰める)」のように使われる例 ですね。 A:そうです。10年くらい前からでしょうか、 電車や街中のポスターなどで「DO YOU KYOTO?」という表現を目にするようにな りました。 Q:これは知っています。「環境にいいことをし ていますか」という意味ですね。 A:その通りです。1997年に京都で地球温暖化 防止会議が開かれたことを受けて、Kyoto という固有名詞が「環境にいいことをする」 という自動詞として使われるようになりま した。 Q:品詞転換は名詞から動詞に限られるわけで はないですよね? A:数は少ないですが、他のパターンもあります。 例えば「take a walk(散歩をする)」では、 本来は動詞のwalkが名詞として使われてい ますし、 「cool a room(部屋を涼しくする)」 では形容詞coolが動詞になっています。 Q:他にはどのような造語法がありますか? A:単語を短くすることで新たな語を造り出す こともあります。単語の一部を切り捨てる 例として、英語では「(tele)phone」「exam (ination)」「(in)flu(enza)」などがあり ますし、日本語では「(アル)バイト」「携 帯(電話)」「(最)終電(車)」などは日常 よく使われる表現ですよね。これらの語は 木を切った後に根株だけが残った状態に喩 えられ「切り株語(stump word)」と呼ば れます。また「頭字語(acronym)」と言って、 各単語の頭文字を並べて一語にしたものも あります。UN(=United Nations)、京外 大(=京都外国語大学)などがその例です。 Q:「brunch(=breakfast+lunch)」などもそ うですか? A:brunchや「smog(=smoke+fog)」のよ うに二つの単語の一部を切り取り、それらを 結合して造られた語は「混成語(blending)」 あ る い は「 か ば ん 語(portmanteau word)」と呼ばれます。日本語の例として は「ゴジラ(=ゴリラ+クジラ)」があります。 Q:「かばん語」というのは面白い表現ですね。 A:これはルイス・キャロルの造語で、二つの 単語を旅行かばんに詰め込んで一つにした ものという意味です。彼は『鏡の国のアリス』 の中で多くのかばん語を用いました。彼が 造 っ た「chortle(=chuckle+snort)」 な どは定着し辞書にも記載されています。 Q:新語の造り方にも色々あるわけですね。そ う言えば、日本では毎年年末に「新語・流 行語大賞」が発表されます。最近では「ア ラフォー」「歴女」「イクメン」などがあり ましたね。 A:英語では1960年代以降、コンピュータ関連 の 単 語 が 増 え ま し た ね。Internet、LAN、 netizen、downloadableなど数多くありま す。各言語には使える音の種類や順序には 規則がありますが、その規則に従っている 限り、人間はいくらでも新語を造り出せる わけです。 Q:ありがとうございました。では、今回の参 考図書をお願いします。 A:『新語はこうして作られる』、窪薗晴夫著、 岩波書店(2002年)です。 この本は、日本語に新しい語が作られる際の 過程を言語学的に解説しています。専門用語は 極力使わないようにして、初めて読む人でも理 解出来るように配慮されています。扱っている 言葉は馴染みがあるものばかりですので、気軽 に読み進む事が出来ると思います。本書の請求 番号は814‖Kub、資料IDは 480301で、本館の第 1閲覧室にあります。場所が分からなければ、気 軽に職員に尋ねて下さい。 にゅうがく なおや (福井工業大学講師・英語学・英語史) ふじい たつや(司書・係長・アジア関係図書館入学 直哉、藤井 達也 言語学、はじめの一歩( 7 ) 31 図書館利用案内

Upload: others

Post on 06-Oct-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 言語学、はじめの一歩( 7) - KUFSQ:「brunch(=breakfast+lunch)」などもそ うですか?A:brunchや「smog(=smoke+fog)」のよ うに二つの単語の一部を切り取り、それらを

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。今は期待と不安が入り混じった複雑な心境ではないでしょうか。どうぞ急がず、焦らず、ゆっくりと新しい環境に慣れて行って下さい。 これから卒業するまでの間には、様々な分野を学ばれると思います。このコーナーでは、言語学について入学先生と、私(藤井)がQ&A形式で、出来るだけ分かり易くご紹介しようと思っています。少しでも興味を持って頂ければ幸いです。なお、館報186号から連載していますので、図書館のホームページから「デジタル図書館報」を利用すれば、バックナンバーが手軽に読めるようになっています。 今回は、前回の続きの形態論についてです。

Q:前回までは合成語と複合語についてのお話でした。

A:はい。合成語と複合語は、他の要素を加えて単語を長くすることで別の単語を造り出すというものでした。今回はその他の造語法をいくつか紹介したいと思います。まず、最も単純なのは「転換(conversion)」です。これは単語の長さを変えることなく別の品詞にすることです。英語では名詞の多くは動詞に品詞転換されます。

Q:例えば「bottle(ビン)」が「bottle wine(ワ  インをビンに詰める)」のように使われる例

ですね。A:そうです。10年くらい前からでしょうか、

電車や街中のポスターなどで「DO YOU KYOTO?」という表現を目にするようになりました。

Q:これは知っています。「環境にいいことをしていますか」という意味ですね。

A:その通りです。1997年に京都で地球温暖化防止会議が開かれたことを受けて、Kyotoという固有名詞が「環境にいいことをする」という自動詞として使われるようになりました。

Q:品詞転換は名詞から動詞に限られるわけではないですよね?

A:数は少ないですが、他のパターンもあります。例えば「take a walk(散歩をする)」では、本来は動詞のwalkが名詞として使われていますし、「cool a room(部屋を涼しくする)」では形容詞coolが動詞になっています。

Q:他にはどのような造語法がありますか?A:単語を短くすることで新たな語を造り出す

こともあります。単語の一部を切り捨てる例として、英語では「(tele)phone」「exam

(ination)」「(in)flu(enza)」などがありますし、日本語では「(アル)バイト」「携帯(電話)」「(最)終電(車)」などは日常

よく使われる表現ですよね。これらの語は木を切った後に根株だけが残った状態に喩えられ「切り株語(stump word)」と呼ばれます。また「頭字語(acronym)」と言って、各単語の頭文字を並べて一語にしたものもあります。UN(=United Nations)、京外大(=京都外国語大学)などがその例です。

Q:「brunch(=breakfast+lunch)」などもそうですか?

A:brunchや「smog(=smoke+fog)」 の ように二つの単語の一部を切り取り、それらを結合して造られた語は「混成語(blending)」あ る い は「 か ば ん 語(portmanteau word)」と呼ばれます。日本語の例としては「ゴジラ(=ゴリラ+クジラ)」があります。

Q:「かばん語」というのは面白い表現ですね。A:これはルイス・キャロルの造語で、二つの

単語を旅行かばんに詰め込んで一つにしたものという意味です。彼は『鏡の国のアリス』の中で多くのかばん語を用いました。彼が造 っ た「chortle(=chuckle+snort)」 などは定着し辞書にも記載されています。

Q:新語の造り方にも色々あるわけですね。そう言えば、日本では毎年年末に「新語・流行語大賞」が発表されます。最近では「アラフォー」「歴女」「イクメン」などがありましたね。

A:英語では1960年代以降、コンピュータ関連の単語が増えましたね。Internet、LAN、netizen、downloadableなど数多くあります。各言語には使える音の種類や順序には規則がありますが、その規則に従っている限り、人間はいくらでも新語を造り出せるわけです。

Q:ありがとうございました。では、今回の参考図書をお願いします。

A:『新語はこうして作られる』、窪薗晴夫著、岩波書店(2002年)です。

 この本は、日本語に新しい語が作られる際の過程を言語学的に解説しています。専門用語は極力使わないようにして、初めて読む人でも理解出来るように配慮されています。扱っている言葉は馴染みがあるものばかりですので、気軽に読み進む事が出来ると思います。本書の請求番号は814‖Kub、資料IDは 480301で、本館の第1閲覧室にあります。場所が分からなければ、気軽に職員に尋ねて下さい。

にゅうがく なおや(福井工業大学講師・英語学・英語史)

ふじい たつや(司書・係長・アジア関係図書館)

入学 直哉、藤井 達也

言語学、はじめの一歩 ( 7 )

31

図書館利用案内