新規公開株式の初値形成と半年効果 ·...

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49 1.はじめに 本稿では、日本の新規公開市場(IPO 市場)に おける初値形成について、投資家行動の視点をふ まえて分析するとともに、株式市場におけるアノ マリーの一種として知られているカレンダー効果、 特に半年効果について検証を行う。具体的には、 株式の日中取引データであるティックデータから 得られる情報、ならびにブックビルディングを通 じて投資家から集約された情報が反映される公開 価格から得られる情報を用いて、初値形成への影 響を検討する。 新規公開株式の初期収益率に関しては、世界各 国を通じておおむね十数 % から数十%となってい ることが知られている 1。初期収益率は新規公開 初日に市場で初めて形成される初値への公開価格 からの上昇率として定義されるが 21 週間から 数週間程度の間に獲得できる収益率として非常に 高いことから、研究者、実務家、投資家等の関心 を広く集めてきた。IPO に関しては米国を中心に 理論・実証両面からの膨大な研究蓄積が存在する が、主たるテーマの一つは高い初期収益率が生じ るメカニズムを解明することであるといえよう。 初期収益率の問題は、新規公開時の初値が効率的 に形成されていると見なすか、それとも何らかの 「過熱」現象によって過大な初値が形成されている 可能性を考慮するかによって、アプローチが異な る。前者の立場からは、新規公開市場における情 報の非対称性によって公開価格が「過小」に値付 けされると考える研究が主流である。後者の立場 からは、投資家が非合理的な行動をとっている可 能性を検討する必要が生じる。 株式市場におけるアノマリーの一つであるカレ ンダー効果は、収益率が特定の曜日や月などにお いてある種のパターンを示す傾向の総称であり、 例として 1 月に株価が上昇するという「1 月効果」、 月曜に株価が下落する「月曜効果」、休前日の収益 率が高い「週末効果」などが挙げられる。本稿で 取り上げる「半年効果」(または上半期効果)とは 1 月から 6 月の上半期の収益率が有意に高い現象 であり、榊原・山崎(2004)をはじめとして、城 下・森 保(2009)、Sakakibara et al.(2011)、角 田 2012)などで報告されている。 本稿の分析から得られた主要な結果は以下の通 りである。まず、ジャスダック、東証マザーズ(以 下、マザーズ)、大証ヘラクレス(以下、ヘラクレ ス:2010 10 月ジャスダックと統合)の新興 3 市場いずれにおいても、上半期の初期収益率が下 半期に比べて有意に高いことが明らかになった。 加えて、新規公開初日の日中取引状況に関して ディックデータから得られる情報を用いて分析し たところ、上半期では下半期に比べてより積極的 企画論文 新規公開株式の初値形成と半年効果 岡 村 秀 夫 本研究は、JSPS 科研費(基盤研究 (B):課題番号 23330138、基盤研究 (C):課題番号 23530395)の助成を受けたものである。ここ に記して感謝する次第です。 1一例として、IPO 分野の代表的な研究者の一人である Jay Ritter 氏のウェブサイトで、世界各国の初期収益率に関するデータが随時 アップデート・公表されている。詳しくは以下の URL を参照のこと。http://bear.warrington.ufl.edu/ritter/ipodata.htm 2初期収益率=(初値-公開価格)/公開価格。初値については、上場初日の最初の価格を用いる場合と初日終値を用いる場合があ る。なお、公開価格とは、IPO 直前に一般投資家に対して新規公開予定の企業が増資を行う際の価格、ないしは同時に既存株主が売 出を行う際の価格である。

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1.はじめに

 本稿では、日本の新規公開市場(IPO市場)における初値形成について、投資家行動の視点をふ

まえて分析するとともに、株式市場におけるアノ

マリーの一種として知られているカレンダー効果、

特に半年効果について検証を行う。具体的には、

株式の日中取引データであるティックデータから

得られる情報、ならびにブックビルディングを通

じて投資家から集約された情報が反映される公開

価格から得られる情報を用いて、初値形成への影

響を検討する。

 新規公開株式の初期収益率に関しては、世界各

国を通じておおむね十数%から数十%となっていることが知られている 1)。初期収益率は新規公開

初日に市場で初めて形成される初値への公開価格

からの上昇率として定義されるが 2)、1週間から数週間程度の間に獲得できる収益率として非常に

高いことから、研究者、実務家、投資家等の関心

を広く集めてきた。IPOに関しては米国を中心に理論・実証両面からの膨大な研究蓄積が存在する

が、主たるテーマの一つは高い初期収益率が生じ

るメカニズムを解明することであるといえよう。

初期収益率の問題は、新規公開時の初値が効率的

に形成されていると見なすか、それとも何らかの

「過熱」現象によって過大な初値が形成されている

可能性を考慮するかによって、アプローチが異な

る。前者の立場からは、新規公開市場における情

報の非対称性によって公開価格が「過小」に値付

けされると考える研究が主流である。後者の立場

からは、投資家が非合理的な行動をとっている可

能性を検討する必要が生じる。

 株式市場におけるアノマリーの一つであるカレ

ンダー効果は、収益率が特定の曜日や月などにお

いてある種のパターンを示す傾向の総称であり、

例として 1月に株価が上昇するという「1月効果」、月曜に株価が下落する「月曜効果」、休前日の収益

率が高い「週末効果」などが挙げられる。本稿で

取り上げる「半年効果」(または上半期効果)とは

1月から 6月の上半期の収益率が有意に高い現象であり、榊原・山崎(2004)をはじめとして、城下・森保(2009)、Sakakibara et al.(2011)、角田(2012)などで報告されている。 本稿の分析から得られた主要な結果は以下の通

りである。まず、ジャスダック、東証マザーズ(以

下、マザーズ)、大証ヘラクレス(以下、ヘラクレ

ス:2010年 10月ジャスダックと統合)の新興 3市場いずれにおいても、上半期の初期収益率が下

半期に比べて有意に高いことが明らかになった。

加えて、新規公開初日の日中取引状況に関して

ディックデータから得られる情報を用いて分析し

たところ、上半期では下半期に比べてより積極的

企画論文

新規公開株式の初値形成と半年効果※

 

岡 村 秀 夫

※ 本研究は、JSPS科研費(基盤研究 (B):課題番号 23330138、基盤研究 (C):課題番号 23530395)の助成を受けたものである。ここに記して感謝する次第です。

1) 一例として、IPO分野の代表的な研究者の一人である Jay Ritter氏のウェブサイトで、世界各国の初期収益率に関するデータが随時アップデート・公表されている。詳しくは以下の URLを参照のこと。http://bear.warrington.ufl.edu/ritter/ipodata.htm

2) 初期収益率=(初値-公開価格)/公開価格。初値については、上場初日の最初の価格を用いる場合と初日終値を用いる場合がある。なお、公開価格とは、IPO直前に一般投資家に対して新規公開予定の企業が増資を行う際の価格、ないしは同時に既存株主が売出を行う際の価格である。

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産研論集(関西学院大学)40号 2013.3

に買いの発注・約定がなされる傾向が明らかになっ

た。そして、初期収益率の決定要因の分析から、

仮条件中間値から公開価格への上昇率が高いほど

初期収益率は高くなる傾向が示された。ブックビ

ルディングを通じて決定される公開価格に投資家

センチメント(感情)が反映されていると想定す

るなら、投資家センチメントが強いほど初値も過

大に形成されている可能性が示唆される。

 以下、第 2節では関連する先行研究を整理し、第 3節では仮説を提示する。第 4節では、初期収益率について上半期と下半期の比較を行い、半年

効果の有無を検証する。第 5節では、仮条件中間値から公開価格への上昇率、ならびに日中の注文・

約定情報であるティックデータから得られた情報

を用いて、投資家行動に関する上半期と下半期の

比較を行う。第 6節では、初期収益率の決定要因の分析を行い、投資家行動や投資家センチメント

が初値形成に与える影響を明らかにする。第 7節は本稿のまとめである。

2.先行研究

 高い初期収益率の説明を試みるアプローチとし

ては、株式市場で初値が効率的に形成されると想

定し、公開価格が過小値付けされる理由を明らか

にするというものが代表的である。このアプロー

チでは、公開価格の過小値付けは、新規公開市場

に参加するプレーヤー(投資家、新規公開企業、

引受証券会社など)間に存在する様々な情報の非

対称性に起因すると考えられ、逆選択回避、シグ

ナリング、エージェンシー問題、情報顕示、など

に分類できる 3)。

 一方、近年展開をみせている行動経済学・行動

ファイナンスからのアプローチでは、市場参加者

の限定合理性を導入して初期収益率の問題を解明

しようとしている。例えば、Kahneman and Tversky(1979)が提唱したプロスペクト理論を新規公開株

式の価格形成問題に応用した Ljungqvist et al.(2006)は、投資家のセンチメントを考慮したモデルによる分析を行っている。まず、新規公開企業

に対して楽観的な見通しを持っている一部の非合

理的な投資家のセンチメントを利用して、新規公

開企業はファンダメンタル価値を上回る部分の最

大化を試みると仮定した。公開価格は「市場価格

>公開価格>ファンダメンタル価値」となるよう

に設定される。楽観的な投資家が過大評価された

市場価格を受け入れるなら、公開価格で新規公開

株式を取得した常時参加の投資家は楽観的投資家

に市場を通じて売却可能となる。長期的には株価

はファンダメンタル価値に戻ると考えられるが、

継続保有を期待され新規公開株式を割り当てられ

た常時参加の投資家は、「(公開価格-ファンダメ

ンタル価値)×(継続保有株数)」の補償として

「(市場価格-公開価格)×(楽観的投資家への売

却株数)」を獲得していると見なすことができる。

従って、仮条件の上限価格と下限価格の間で設定

される公開価格には、ブックビルディングを通じ

て集約された投資家のセンチメントや見通しが反

映されているとも考えられる 4)。

 日本の新規公開市場における投資家センチメン

トに関しては、高橋(2009)が先駆的な実証研究を行っている。具体的には、2002年から 2005年のジャスダック、マザーズ、ヘラクレスの新興 3市場における IPOを対象として、インターネット掲示板への投稿数・投稿内容を用いて売買につい

ての関心度を指標化し、公開価格ならびに初値の

形成に与える影響を分析している。その結果とし

て、掲示板への投稿数が多い場合には、初期収益

率が高くなること、および多数の買い注文が入る

ことにより初日に売買が成立しない傾向が強まる

ことを指摘している。船岡・増田(2010)は、1998年から 2008年のジャスダックでの IPOを対象とし、公開価格、初値、ならびに IPO 後の株価パフォーマンスを用いて独自に投資家センチメント

3) 詳しくは岡村(2011)を参照のこと。  また、IPOに関する先行研究については、Jenkinson and Ljungqvist(2001)、Ritter and Welch(2002)、Ritter(2003)、翟林瑜(2006a)(2006b)、Ljungqvist(2007)、忽那(2008)、岩井(2010)などが詳しい。

4) 海外の投資家センチメントに関する実証研究として、Derrien(2005)、Cornelli et al.(2006)、Dorn(2009)などが挙げられる。

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新規公開株式の初値形成と半年効果

指数を算出して価格形成への影響を分析している。

その結果として、投資家の楽観的なセンチメント

が初期収益率に正の影響を与えていること、およ

び新規公開市場が過熱気味の時期においては影響

がより顕著であることを示している。また、高橋・

山田(2011)では、1993年から 1997年の入札方式下のジャスダックでの IPOを対象として、投資家センチメントが価格形成に与える影響を分析し

ている。分析結果から、投資家センチメントの代

理変数として用いた応札倍率、ならびに落札加重

平均価格と最低落札価格の乖離率が大きくなるほ

ど、初期収益率が大きくなることを明らかにして

いる。このように、投資家センチメントは新規公

開株式の価格形成に影響を与えるとの実証結果が、

日本の新規公開市場に関しても確認されている。

 ところで、株式市場における収益率が季節性を

持つことは国内外で確認されており、標準的なファ

イナンス理論では説明できないアノマリーの一つ

として関心が寄せられている。Sakakibara et al.(2011)では、日本の株式市場におけるカレンダー効果の一つとして、半年効果の存在を指摘し

ている。具体的には、日経平均や TOPIXなど市場全体の動きを表すインデックスに加えて、

RUSSELL/NOMURA日本株インデックスを用いることで企業規模や時価/簿価比率で区分した分析

も行っている。また、城下・森保(2009)は日本の株式市場における月別収益率の分析を行ってお

り、全市場、東証一部、新興 3市場それぞれについて、1月から 6月の上半期には正の収益率となる傾向を指摘している。角田(2012)は日米英をはじめとする主要国株式指数の月別平均リターン

の計測結果から、冬から春にかけての上半期にリ

ターンが高くなる傾向を示している。また、リス

クの大きさで分割したポートフォリオのリターン

の分析を通じて、日本株の投資家は上半期にリス

ク追求的になり、下半期にリスク回避的となる傾

向を指摘している。加えて、外国株については、5月から 10月までのリターンよりも 11月から 4月のリターンの方が高い「ハロウィーン効果」が観

察されることを示している。

 ところで、株式市場における半年効果は、新規

公開株式の価格形成に影響を与えるのだろうか。

岡村(2012)では、1993年から 2007年の間についてTOPIXをベンチマークとしたBHAR(Buy-and-Hold Abnormal Return)を計測した上で、新規公開株式の長期パフォーマンス(取引日ベース:250日、500日、750日、1000日、1250日)に関する半年効果を分析している。その結果、上半期に IPOを行った銘柄の長期パフォーマンスは下半期の銘

柄に比べて有意に「低い」ことが明らかになった。

加えて、初期収益率の半年効果について分析を行っ

た結果、上半期に IPOを行った銘柄は下半期の銘柄に比べて、初期収益率が有意に「高い」ことが

明らかになった。これらの結果から、上半期の銘

柄は新規公開時点で初値が過熱して形成されたた

めに、長期パフォーマンスが低迷している可能性

を指摘している。

3.仮説の提示

 以上の先行研究をふまえて、本稿では以下の仮

説を検証する。

[仮説 1]新興 3市場の新規公開株式の初期収益率に半年効果が存在する。

 ジャスダック、マザーズ、ヘラクレスの新興 3市場それぞれについて、上半期に IPOを行った銘柄の初期収益率は、下半期の銘柄に比べて高いこ

とが予想される。

[仮説 2]投資家センチメントは下半期よりも上半期の方が強い。

 投資家センチメントが上半期により強ければ、

ブックビルディングで集約された情報を反映した

公開価格は、上半期に相対的に高い水準となるこ

とが予想される。

[仮説 3]投資家の取引行動は、下半期に比べて上半期にはより積極的である。

 日中の注文・約定状況は上半期の方が下半期に

比べて積極的(より高い価格での注文・約定を行

う)であることが予想される。

[仮説 4]投資家センチメントが強いほど、初値は相対的に高い水準で形成される。

 投資家センチメントが反映されると考えられる

公開価格が高いほど、初期収益率が大きくなるこ

とが予想される。

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産研論集(関西学院大学)40号 2013.3

4.初期収益率の半年効果

 本節では、仮説 1に関して、ジャスダック、マザーズ、ヘラクレスの新興 3市場における新規公開株式の初値形成について半年効果の存在を検証

する。

 分析対象は、2005年 1月から 2011年 12月の間にジャスダック、マザーズ、ヘラクレスの新興3

市場で IPOを行った銘柄である 5)。データは、金

融データソリューションズ「日本上場株式日次リ

ターンデータ」「IPO銘柄収益率関連データ」、ならびにディスクロージャー実務研究会(編)『株式

公開白書』より取得した。サンプル数は、ジャス

ダック 236銘柄、マザーズ 131銘柄、ヘラクレス93銘柄となっている。 図 1-Aにはジャスダック、図 1-Bにはマザーズ、図 1-Cにはヘラクレスの初期収益率の分布が示されている。実線が上半期、破線が下半期の分布を

表しており、おおむね上半期の方が右寄りに位置

していることが分かる。また、表 1には各市場の初期収益率が通年、上半期、下半期それぞれにつ

いて整理されている。

 初期収益率の平均値については、ジャスダック

では通年 64.39%、上半期 76.78%、下半期 46.00%、マザーズでは通年 110.17%、上半期 130.29%、下半期 96.49%、ヘラクレスでは通年 133.42%、上半期 158.24%、下半期 95.85%となっており、いずれの市場においても上半期の初期収益率の方が有意

に高くなっている。

 中央値については、ジャスダックでは通年

34.62%、上半期 55.17%、下半期 13.33%、マザーズでは通年 92.73%、上半期 100.00%、下半期79.72%、ヘラクレスでは通年 94.12%、上半期112.73%、下半期 52.12%となっており、同様にいずれの市場においても上半期が有意に高くなって

いる。

 岡村(2012)ではジャスダックの初期収益率について上半期が有意に高い半年効果が確認されて

いるが、本節の分析から、代表的な新興企業向け

市場のジャスダック、マザーズ、ヘラクレスいず

れの市場においても同様の半年効果の存在が明ら

かになった。

図 1-A 初期収益率の分布(ジャスダック)

5) サンプル期間を 2005年以降としたのは、第 4節以降の分析で用いるティックデータの利用可能期間を考慮したためである。

0

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-100 0 100 200 300 400 500 600 700 800 (%)

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新規公開株式の初値形成と半年効果

図 1-B 初期収益率の分布(マザーズ)

図 1-C 初期収益率の分布(ヘラクレス)

(出所)金融データソリューションズ「日本上場株式日次リターンデータ」「IPO銘柄収益率関連データ」    ディスクロージャー実務研究会(編)『株式公開白書』(プロネクサス)

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産研論集(関西学院大学)40号 2013.3

5.投資家行動:公開価格ならびにティック日次

情報を用いた分析

5.1 公開価格を用いた分析

 まず仮説 2に関して、仮条件中間値から公開価格への上昇率について、上半期と下半期の比較を

行った。分析対象は第 4節と同じものとなっている。

 IPO前に投資家を対象に仮条件を提示し、多数の投資家からの希望株数・価格を積み上げるブッ

クビルディングを通じて情報を集約し、主幹事証

券会社が中心となって公開価格を決定する。ブッ

クビルディングの際には仮条件の上限価格と下限

価格が提示され、その範囲内で公開価格が決定さ

れる。投資家センチメントが強いほど、公開価格

が相対的に高めに決定されることが考えられる。

従って、(公開価格-仮条件中間値)/仮条件中間

値、すなわち、仮条件中間値から公開価格への上

昇率を投資家センチメントの代理変数とみなし、

上半期と下半期の比較を行った。

 表 2には各市場の仮条件中間値から公開価格へ

の上昇率が通年、上半期、下半期それぞれについ

て整理されている。

 平均値については、ジャスダックでは通年

4.84%、上半期 5.96%、下半期 3.19%、マザーズでは通年 5.28%、上半期 6.38%、下半期 4.54%、ヘラクレスでは通年 6.42%、上半期 7.02%、下半期5.51%となっており、いずれの市場においても上半期の上昇率の方が有意に高くなっている。

 中央値については、ジャスダックでは通年

5.26%、上半期 5.71%、下半期 4.90%、マザーズでは通年 5.56%、上半期 6.45%、下半期 5.13%、ヘラクレスでは通年 6.33%、上半期 7.06%、下半期5.26%となっており、同様にいずれの市場においても上半期が有意に高くなっている。

 以上の結果から、投資家センチメントは下半期

に比べて上半期の方が強い可能性が明らかになっ

た。

5.2 ティック日次情報を用いた分析

 次いで、仮説 3に関して、IPO初日の価格形成における上半期と下半期の投資家行動の差異を見

表1 初期収益率(%):上半期と下半期の比較

通年 上半期 下半期 差(上半期-下半期) t-test/WMW検定 (1)

ジャスダック

平均値 64.39 76.78 46.00 30.78 2.640*** 中央値 34.62 55.17 13.33 41.83 3.955***最大値 676.92 430.30 676.92 ― ―

最小値 -42.86 -36.84 -42.86 ― ―

標準偏差 88.50 86.46 88.74 ― ―

サンプル数 236 141 95 ― ―

マザーズ

平均値 110.17 130.29 96.49 30.77 1.786*中央値 92.73 100.00 79.72 20.28 1.658*最大値 500.00 500.00 421.74 ― ―

最小値 -39.00 -4.90 -39.00 ― ―

標準偏差 103.12 114.71 92.73 ― ―

サンプル数 131 53 78 ― ―

ヘラクレス

平均値 133.42 158.24 95.85 62.39 2.114**中央値 94.12 112.73 52.12 60.61 2.398**最大値 772.73 772.73 543.24 ― ―

最小値 -23.33 -9.09 -23.33 ― ―

標準偏差 150.44 163.60 120.58 ― ―

サンプル数 93 56 37 ― ―

 (注) (1)平均値の差についてはWelch-Satterthwaite t-test、中央値の差についてはWilcoxon/Mann-Whitney検定を行った。   ***:10%水準で有意。**:5%水準で有意。*:1%水準で有意。 (出所)図 1に同じ。

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新規公開株式の初値形成と半年効果

表2 仮条件中間値から公開価格への上昇率(%):上半期と下半期の比較

通年 上半期 下半期 差(上半期-下半期) t-test/WMW検定 (1)

ジャスダック

平均値 4.84 5.96 3.19 2.76 4.319***中央値 5.26 5.71 4.90 0.82 3.767***最大値 22.22 22.22 12.00 ― ―

最小値 -14.29 -9.09 -14.29 ― ―

標準偏差 4.66 3.65 5.47 ― ―

サンプル数 236 141 95 ― ―

マザーズ

平均値 5.28 6.38 4.54 1.84 2.672***中央値 5.56 6.45 5.13 1.32 2.478***最大値 14.89 14.29 14.89 ― ―

最小値 -13.04 -6.98 -13.04 ― ―

標準偏差 4.22 3.25 4.64 ― ―

サンプル数 131 53 78 ― ―

ヘラクレス

平均値 6.42 7.02 5.51 1.52 2.241**中央値 6.33 7.06 5.26 1.80 2.347**最大値 13.33 13.33 12.12 ― ―

最小値 -5.26 -2.44 -5.26 ― ―

標準偏差 3.12 2.75 3.46 ― ―

サンプル数 93 56 37 ― ―

 (注) (1)平均値の差についてはWelch-Satterthwaite t-test、中央値の差についてはWilcoxon/Mann-Whitney検定を行った。   ***:1%水準で有意。**:5%水準で有意。 (出所)図 1に同じ。

表3 ティック日次情報:上半期と下半期の比較

(A:uptick 数 /downtick 数の比較)

uptick数 /downtick数差(上半期-下半期) t-test/WMW検定 (1)

通年 上半期 下半期

ジャスダック

平均値 0.995 1.046 0.932 0.114 1.826*中央値 0.964 0.971 0.937 0.033 1.656*最大値 7.000 7.000 1.093 ― ―

最小値 0.476 0.589 0.476 ― ―

標準偏差 0.491 0.648 0.108 ― ―

サンプル数 201 112 89 ― ―

マザーズ

平均値 1.134 0.944 1.247 -0.302 -1.254 中央値 0.930 0.941 0.918 0.022 0.126 最大値 10.000 2.185 10.000 ― ―

最小値 0.000 0.000 0.480 ― ―

標準偏差 1.277 0.363 1.585 ― ―

サンプル数 75 28 47 ― ―

ヘラクレス

平均値 0.990 1.011 0.966 0.045 0.902 中央値 0.980 0.993 0.960 0.032 0.452 最大値 2.167 2.167 1.174 ― ―

最小値 0.563 0.563 0.667 ― ―

標準偏差 0.196 0.250 0.104 ― ―

サンプル数 56 30 26 ― ―

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産研論集(関西学院大学)40号 2013.3

いだすため、株式の日中取引データであるティッ

クデータから得られる情報を用いた分析を行う。

なお、データは日本経済新聞デジタルメディア

「NEEDS ティックデータ」「NEEDS-TickVision」から取得した 6)。サンプル期間は 2005年 1月から2011年 12月である。サンプル数は、ジャスダック上半期 112銘柄・下半期 89銘柄、マザーズ上半期 28銘柄・下半期 47銘柄、ヘラクレス上半期 30銘柄・下半期 26銘柄となっている。 具体的には、uptick数と downtick数の比較、ならびに uptick の約定における取引金額合計とdowntickの約定における取引金額合計の比較を行った。uptickとは直前の約定に比べて高い価格での約定のことであり、downtickとは直前の約定に比べて低い価格での約定のことである。従って uptickは投資家の積極的な買いの行動、downtickは投資家の積極的な売りの行動を表すと考えられる。そ

こで、銘柄毎に IPO初日の uptick数と downtick数

の比、ならびに uptick取引金額と downtick取引金額の比をそれぞれ算出し、市場別に上半期と下半

期の比較を行った。

 表 3-Aには IPO初日の「uptick数/downtick数」が整理されている。ジャスダックの平均値は上半

期 1.046、下半期 0.932、中央値は上半期 0.971、下半期 0.937となっており、いずれも上半期の方が有意に高くなっている。なお、マザーズおよびヘ

ラクレスについては、上半期と下半期の間に有意

な差は確認されなかった。

 次いで、表 3-Bには IPO初日の「uptick取引金額/downtick取引金額」が整理されている。ジャスダックの平均値については、上半期 1.194、下半期 0.926となっており、上半期の方が有意に高くなっている。なお、ジャスダックの中央値、およ

びマザーズ、ヘラクレスについては、上半期と下

半期の間に有意な差は確認されなかった。

 以上の分析から、サンプル数の少ないマザーズ

6) ティックデータを用いた分析手法については、例えば太田・他(2011)第 7章、第 8章を参照のこと。

(B:uptick 取引金額 /downtick 取引金額の比較)

uptick取引金額 /downtick取引金額差(上半期-下半期) t-test/WMW検定 (1)

通年 上半期 下半期

ジャスダック

平均値 1.075 1.194 0.926 0.268 1.689*中央値 0.922 0.932 0.881 0.051 0.809 最大値 15.898 15.898 2.030 ― ―

最小値 0.174 0.398 0.174 ― ―

標準偏差 1.249 1.647 0.286 ― ―

サンプル数 201 112 89 ― ―

マザーズ

平均値 1.241 0.936 1.423 -0.486 -1.147 中央値 0.851 0.868 0.845 0.024 0.225 最大値 17.856 3.454 17.856 ― ―

最小値 0.000 0.000 0.214 ― ―

標準偏差 2.256 0.575 2.811 ― ―

サンプル数 75 28 47 ― ―

ヘラクレス

平均値 1.914 2.435 1.314 1.121 0.769 中央値 0.914 0.914 0.921 -0.008 0.205 最大値 43.536 43.536 9.270 ― ―

最小値 0.231 0.231 0.538 ― ―

標準偏差 5.785 7.779 1.656 ― ―

サンプル数 56 30 26 ― ―

 (注) (1)平均値の差についてはWelch-Satterthwaite t-test、中央値の差についてはWilcoxon/Mann-Whitney検定を行った。   *:10%水準で有意。 (出所)日本経済新聞デジタルメディア「NEEDS ティックデータ」「NEEDS-TickVision」

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新規公開株式の初値形成と半年効果

とヘラクレスについては結論を留保する必要があ

るものの、IPOの中心的な市場となっているジャスダックにおいて、下半期に比べて上半期に、相

対的に投資家が積極的な買いの行動をとっている

可能性が明らかになった。

6.初期収益率の決定要因の分析

 本節では、仮説 4に関して、投資家センチメントが初値形成に与える影響を明らかにするために、

初期収益率の決定要因について分析を行う。デー

タは、金融データソリューションズ「日本上場株

式日次リターンデータ」「IPO銘柄収益率関連データ」、ディスクロージャー実務研究会(編)『株式

公開白書』、日本経済新聞デジタルメディア

「NEEDS ティックデータ」「NEEDS-TickVision」から取得した。実証分析で用いる変数名と記述統計

量については表 4に整理されている。 被説明変数は IR(初期収益率)であり、IR=(初値-公開価格)/公開価格、として定義され

る。

 説明変数は以下の通りである。

 UP(公開価格と仮条件中間値の乖離率):仮条件の上限価格と下限価格の間で設定される公開価

格には、ブックビルディングを通じて集約された

投資家のセンチメントや見通しが反映されている

と考えられる。公開価格が相対的に高いほど、投

資家センチメント(ないしは投資家の見通し)が

強いと考えられるため、仮条件中間値との乖離率

を投資家センチメントの代理変数として用いるこ

ととした。予想される符号条件はプラスである。

 AGE(社齢)の対数値:企業属性をコントロールするために用いる。設立からの年数が長いほど、

情報の非対称性が小さくなり、また経営面のリス

クも小さくなることが考えられるため、公開価格

を引き下げる必要性が低下すると考えられる。予

想される符号条件はマイナスである。

 VALUE(公開時株式時価総額=発行済株式数×公開価格)の対数値:企業属性をコントロールす

るために用いる。企業規模が大きいほど経営面の

リスクが小さくなることが考えられる。予想され

る符号条件はマイナスである。

 F_HALF(上半期ダミー):上半期に IPOが実施された銘柄については 1、下半期の IPOについては 0をとるダミー変数である。第 4節で明らかになった半年効果をコントロールするために用いる。

予想される符号条件はプラスである。

 UDTICK(uptick数 /downtick数):第 5節の分析で用いた投資家行動を表す変数であり、値が大き

いほど投資家が積極的に買いの行動をとっている

ことを示す。予想される符号条件はプラスである。

 UDAMT(uptick取引金額 /downtick取引金額):第 5節の分析で用いた投資家行動を表す変数であり、値が大きいほど投資家が積極的に買いの行動

をとっていることを示す。予想される符号条件は

プラスである。

 さらに、企業・銘柄の属性をコントロールする

ため、MAKER(製造業ダミー:製造業 1、非製造業 0)、NOMURA(主幹事証券の新規公開市場における実績・能力・影響力等をコントロール:野村

證券 1、それ以外 0)、MM(一般的なオークション方式とは異なる取引方法をコントロール(ジャ

スダックのみ):マーケットメイク銘柄 1、それ以外 0)の 3種類のダミー変数を用いた。 上記の変数を用いて、以下のモデル 1からモデル 3について市場別に推定を行った結果は表 5に整理されている。

(モデル 1)IR i = α + β1∙UP i +β2∙log (AGE i ) +β3∙log (VALUEi)   + β4∙ F_HALFi + β5∙MAKERi + β6∙NOMURA i + εi

(モデル 2)IR i = α + β1∙UP i + β2∙log (AGE i ) + β3∙log (VALUE i )   + β4∙ F_HALF i + β5∙UDTICK i + β6∙MAKER i

  + β7∙ NOMURA i + ε i

(モデル 3)IR i = α + β1∙UP i + β2∙log (AGE i ) + β3∙log (VALUE i )   + β4∙F_HALF i + β5∙UDAMT i + β6∙MAKER i

  + β7∙NOMURA i + εi

 ジャスダックとマザーズについては、いずれの

モデルにおいてもUPの係数は有意にプラスとなっており、予想された符号条件と一致している。ヘ

ラクレスについてはモデル 1については有意にプ

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産研論集(関西学院大学)40号 2013.3

表4 記述統計量

(A:ジャスダック)

変数名 平均値 中央値 最大値 最小値 標準偏差 サンプル数

IR 初期収益率 (1) 0.64 0.35 6.77 -0.43 0.88 236

UP(公開価格-仮条件中間値)/仮条件中間値 (1) 0.05 0.05 0.22 -0.14 0.05 236

AGE 社齢 25.81 23.50 86.00 2.00 16.29 236

VALUE公開時株式時価総額(発行済株

式数×公開価格)12,300,000,000 5,200,000,000 499,000,000,000 911,000,000 36,700,000,000 236

F_HALF 上半期ダミー 0.60 1.00 1.00 0.00 0.49 236

UDTICK uptick数 /downtick数 1.00 0.96 7.00 0.48 0.49 201

UDAMT uptick取引金額 /downtick取引金額 1.08 0.92 15.90 0.17 1.25 201

MAKER 製造業ダミー 0.28 0.00 1.00 0.00 0.45 236

NOMURA 野村ダミー 0.28 0.00 1.00 0.00 0.45 236

MM マーケットメイク銘柄ダミー 0.13 0.00 1.00 0.00 0.33 236

(B:マザーズ)

変数名 平均値 中央値 最大値 最小値 標準偏差 サンプル数

IR 初期収益率 (1) 1.10 0.93 5.00 -0.39 1.03 131

UP(公開価格-仮条件中間値)/仮条件中間値 (1) 0.05 0.06 0.15 -0.13 0.04 131

AGE 社齢 8.68 7.00 52.00 2.00 6.00 131

VALUE公開時株式時価総額(発行済株

式数×公開価格)13,500,000,000 6,560,000,000 109,000,000,000 1,090,000,000 18,900,000,000 131

F_HALF 上半期ダミー 0.40 0.00 1.00 0.00 0.49 131

UDTICK uptick数 /downtick数 1.13 0.93 10.00 0.00 1.28 75

UDAMT uptick取引金額 /downtick取引金額 1.24 0.85 17.86 0.00 2.26 75

MAKER 製造業ダミー 0.10 0.00 1.00 0.00 0.30 131

NOMURA 野村ダミー 0.27 0.00 1.00 0.00 0.44 131

(C:ヘラクレス)

変数名 平均値 中央値 最大値 最小値 標準偏差 サンプル数

IR 初期収益率 (1) 1.33 0.94 7.73 -0.23 1.50 93

UP(公開価格-仮条件中間値)/仮条件中間値 (1) 0.06 0.06 0.13 -0.05 0.03 93

AGE 社齢 14.74 10.00 58.00 2.00 12.14 93

VALUE公開時株式時価総額(発行済株

式数×公開価格)6,940,000,000 4,400,000,000 45,900,000,000 1,050,000,000 8,010,000,000 93

F_HALF 上半期ダミー 0.60 1.00 1.00 0.00 0.49 93

UDTICK uptick数 /downtick数 0.99 0.98 2.17 0.56 0.20 56

UDAMT uptick取引金額 /downtick取引金額 1.91 0.91 43.54 0.23 5.79 56

MAKER 製造業ダミー 0.10 0.00 1.00 0.00 0.30 93

NOMURA 野村ダミー 0.13 0.00 1.00 0.00 0.34 93

 (注) (1)表 1、表 2と同じサンプルであるが、表 4ではパーセント表記をしていない。 (出所) 金融データソリューションズ「日本上場株式 日次リターンデータ」「IPO銘柄収益率関連データ」 ディスクロージャー実務研究会『株式公開白書』(プロネクサス)

日本経済新聞デジタルメディア「NEEDS ティックデータ」「NEEDS-TickVision」

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新規公開株式の初値形成と半年効果

表5 初期収益率の決定要因

(A:ジャスダック)

(1) (2) (3)係数 t値 係数 t値 係数 t値

定数項 3.489 2.456*** 2.292 2.359** 2.427 2.471***UP 3.161 2.368** 2.378 2.642*** 2.413 2.663***

log(AGE) -0.221 -2.775*** -0.119 -2.115** -0.117 -2.071**log(VALUE) -0.108 -1.753* -0.084 -1.993** -0.085 -1.995**

F_HALF 0.212 1.793* 0.154 1.871* 0.159 1.928*UDTICK 0.178 2.243**UDAMT 0.052 1.648*MAKER -0.116 -0.885 -0.022 -0.243 -0.025 -0.276

NOMURA -0.074 -0.550 -0.031 -0.328 -0.029 -0.308 MM 0.134 0.753 0.320 2.713*** 0.312 2.627***

修正済決定係数 0.088 0.143 0.133サンプル数 236 201 201

(B:マザーズ)

(1) (2) (3)係数 t値 係数 t値 係数 t値

定数項 6.759 3.157*** 2.979 3.063*** 3.059 3.074***UP 5.575 2.562*** 2.759 2.384** 2.521 2.148**

log(AGE) -0.191 -1.184 -0.062 -0.882 -0.060 -0.848 log(VALUE) -0.248 -2.741*** -0.112 -2.730*** -0.113 -2.702***

F_HALF 0.262 1.443 0.021 0.237 0.018 0.197 UDTICK 0.077 2.376**UDAMT 0.037 1.986**MAKER -0.248 -0.849 -0.219 -1.624* -0.222 -1.626*

NOMURA -0.034 -0.172 0.033 0.352 0.026 0.274 修正済決定係数 0.110 0.190 0.171サンプル数 131 75 75

(C:ヘラクレス)

(1) (2) (3)係数 t値 係数 t値 係数 t値

定数項 10.848 2.662*** 3.531 2.291** 3.708 2.480**UP 9.038 1.755* 1.872 1.185 2.024 1.302

log(AGE) -0.457 -2.391** -0.158 -2.276** -0.156 -2.281**log(VALUE) -0.419 -2.312** -0.141 -2.118** -0.138 -2.089**

F_HALF 0.574 1.842* 0.195 1.824* 0.192 1.812*UDTICK 0.293 1.085 UDAMT 0.013 1.514 MAKER 0.228 0.442 -0.187 -0.957 -0.171 -0.890

NOMURA -0.306 -0.674 -0.032 -0.209 -0.037 -0.247 修正済決定係数 0.136 0.259 0.275サンプル数 93 56 56

 (注) ***:1%水準で有意。**:5%水準で有意。*:10%水準で有意。 (出所) 表 4に同じ。

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産研論集(関西学院大学)40号 2013.3

ラス、モデル 2、モデル 3については有意ではないがプラスとなっている。仮条件中間値と比べて

公開価格が相対的に高いほど、初値が高い水準で

形成されることが明らかになった。すなわち、投

資家センチメントが強い銘柄においては、初値は

過熱しやすいことが示唆される。

 F_HALFについては、いずれも係数はプラスで予想された符号条件と一致しており、ジャスダッ

クとヘラクレスについては全て統計的に有意な結

果となっている。第 4節の結果と同様、上半期の初期収益率が高いという半年効果が確認された。

 また、UDTICKとUDAMTついては、ジャスダックとマザーズにおいてそれぞれ係数が有意にプラ

スで、予想された符号条件と一致している。ティッ

ク日次情報で表される投資家の買いの姿勢が積極

的であるほど、初値が高い水準で形成されること

が明らかになった。

 なお、企業属性に関するコントロール変数につ

いては、社齢と公開時株式時価総額の係数がおお

むね有意にマイナスとなっており、予想された符

号条件と一致している。

7.さいごに

 本稿の分析から、ジャスダック、マザーズ、ヘ

ラクレスの新興 3市場いずれにおいても、上半期の初期収益率が下半期に比べて有意に高いことが

明らかになった。岡村(2012)ではジャスダックに限定した分析で半年効果が確認されているが、

他の新興企業向け市場においても初期収益率の半

年効果の存在が示された意義は大きいものと考え

られる。加えて、仮条件中間値から公開価格への

上昇率の分析から、投資家センチメントは上半期

の方が強い可能性が示された。また、新規公開初

日の日中取引状況に関しては、上半期では下半期

に比べてより積極的に発注・約定される傾向が明

らかになった。最後に、初期収益率の決定要因の

分析から、仮条件中間値から公開価格への上昇率

が高いほど初期収益率が高くなる傾向が示され、

投資家センチメントが強いほど初値が過大に形成

されている可能性が示唆された。

 残された課題としては、初値の水準を評価する

ために長期パフォーマンスとの比較検討を行うこ

とが挙げられる。さらに、仮条件から公開価格、

初値、長期の株価推移に至る時間軸へと拡張した

分析についても課題としたい。新規公開をめぐる

市場間競争は、2000年前後に相次いだ新興企業向け市場の新設に始まり、2010年の大証とジャスダック証券取引所の合併を経て、2013年 1月の東証と大証の合併よる日本取引所グループの創設で

事実上幕が引かれた。新規公開市場のあり方につ

いて、これまでの経緯もふまえた議論が深まるこ

とを期待したい。

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