葉菜類(コマツナ・ホウレンソウ)におけるリン酸減肥指標の …0.6~1...

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葉菜類(コマツナ・ホウレンソウ)におけるリン酸減肥指標の設 誌名 誌名 日本土壌肥料學雜誌 = Journal of the science of soil and manure, Japan ISSN ISSN 00290610 著者 著者 和田, 巽 棚橋, 寿彦 巻/号 巻/号 88巻2号 掲載ページ 掲載ページ p. 129-133 発行年月 発行年月 2017年4月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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  • 葉菜類(コマツナ・ホウレンソウ)におけるリン酸減肥指標の設定

    誌名誌名 日本土壌肥料學雜誌 = Journal of the science of soil and manure, Japan

    ISSNISSN 00290610

    著者著者和田, 巽棚橋, 寿彦

    巻/号巻/号 88巻2号

    掲載ページ掲載ページ p. 129-133

    発行年月発行年月 2017年4月

    農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

  • 129

    葉菜類(コマツナ・ホウレンソウ)における

    リン酸減肥指標の設定

    キーワード リン酸,減肥指標,コマツナ,ホウレンソウ,

    トルオーグリン酸

    1. はじめに

    肥料の価格は2008年の高騰以降も高い傾向が続いてい

    ることから,生産現場においては一層の施肥コストの低減

    や肥料資源の有効活用が求められている.この中でリン酸

    は,農耕地土壌,特に施設土壌において蓄積が進んでお

    り(小原・中井, 2004),岐阜県においても葉菜類を栽培

    する土壌ではリン酸の蓄積が顕著で、ある.リン酸は土壌中

    に蓄積していても生産性に与える影響が少ないと考えられ

    ているが,近年,リン酸の過剰蓄積により,品目によって

    は生理障害の発生(小宮山ら, 2009;岡本・山田, 2009)

    や病害の助長(村上ら, 2004),また農耕地土壌外への流

    出(糟谷ら, 2010)等農作物や環境への影響が懸念されて

    いる.このため,土壌への過剰なリン酸蓄積を抑制し,同

    時に施肥コストを低減する施肥管理の重要性が高まってい

    そこで,土壌に蓄積したリン酸を有効に活用しリン酸施

    肥量を削減することで,施肥コストの低減やリン酸資源の

    循環利用につなげることを目的とし,本県で広く栽培され

    る葉菜類のうちコマツナおよびホウレンソウを対象とした

    リン酸減肥指標を設定したので,設定の経過を中心に報告

    する.

    2. 設定したリン酸滅肥指標の概要

    県内では県南部の平坦地域を中心に施設でのコマツナ栽

    培が,県北部の山間地域を中心に簡易雨よけハウスでのホ

    ウレンソウ栽培が行われており,いずれも年間に複数回栽

    培を繰り返す作型である.このような品目で土壌中のリン

    酸含量に応じたリン酸減肥栽培を行うに当たり,一度の栽

    Tatsumi WADA and Toshihiko TANAHASHI: Index for

    reduction of phosphate fertilizer application to leaf vegeta-

    bles Komatsuna (Brassicαrapa L.) and Spinach (Spinαciα

    olerαceαL.)

    岐阜県農業技術センター土壌化学部(501-1152岐阜市又丸

    729-1)

    Corresponding Author :和田巽

    2016年10月31日受付・ 2016年12月7日受理

    日本土壌肥料学雑誌第88巻第2号 p.129~133 (2017)

    和田巽・棚橋寿彦

    培ごとに土壌診断によって土壌中のリン酸含量を把握し,

    診断結果に基づいて次回の栽培のリン酸施肥量を決定する

    ことはこれらに要する時間や労力等から全く現実的ではな

    い.県内の生産現場における土壌診断の実施状況は多くて

    も年に 1回,年間の栽培終了後や土壌改良資材の施用前に

    行われていることから,本指標では両品目の年間の栽培回

    数を考慮し, リン酸減肥栽培が一年間継続できる指標を設

    定することとした.具体的な年間の栽培回数はそれぞれの

    生産現場において実施が可能な最大の回数として設定し,

    コマツナでは8回,ホウレンソウでは6回とした.

    作物が利用可能な土壌中のリン酸の評価には様々な手

    法があり,近年ではリン酸高蓄積土壌を対象とした簡便

    な現場型評価法も開発されている(中央農業総合研究セン

    ター, 2013).しかしながら,本指標では生産現場の土壌

    診断で広く採用され,過去の診断結果との比較も容易であ

    ることから,従来のトルオーグ法を可給態リン酸の評価手

    法として用いることとした.また,土壌タイプを間わない

    一律の指標とすることとし,指標におけるリン酸施肥量の

    水準は,土壌のリン酸肥沃度が低い場合には「施肥基準ど

    おり」,中程度の蓄積が見られる場合には「リン酸吸収量

    相当を補給」,過剰に蓄積している場合には「リン酸無施

    肥」とする 3段階とした.

    3. リン酸減肥指標の検討

    1)一度のリン酸減肥栽培が可能となる可給態リン酸レ

    ベルの解明

    コマツナおよびホウレンソウにおいてリン酸減肥栽培を

    一度行った場合に収量に影響が現れる土壌中の可給態リン

    酸の水準を明らかにするため,栽培前土壌の可給態リン酸

    とリン酸減肥栽培により得られた収量との関係を解析し

    (1)方法

    試験はポット試験(1/2,000aワグネルポット,ポット

    当たり 7株栽培)により行い,いずれも未耕地より採取し

    た褐色森林土(リン酸吸収係数470mg100g1, 可給態リ

    ン酸0.7mg100g1)および黒ボク士(同2,653mg100g-1,

    0.3mg100 g-1)を供試した.これらに過リン酸石灰の主成

    分であるリン酸二水素カルシウム・一水和物(試薬)を施

    用し,可給態リン酸を段階的に変え0~175mg100g1 (コ

    マツナ5段階,ホウレンソウ6または8段階)とした土壌

  • 130 日本土壌肥料学雑誌第四巻第2号 (2017)

    を調製した.

    リン酸吸収量相当に減肥したリン酸施肥量(以下, リン

    酸補給施肥)あるいは リン酸無施肥での栽培をコマツナで

    は8回,ホウレンソウでは3~6回,同ーの土壌において繰り返し,栽培前の可給態リン酸と当作の収量との関係を

    品目およびリン酸施肥方法ごとに解析した.作物体の収量

    はポット当たりの地上部の乾重により求め,それぞれの栽

    培において最大の収量が得られた試験区を 100とした指

    数(以下,乾重指数)を算出し比較に用いた.窒素および

    加里には硝安(阻料),硝酸カリウム(試薬)を用い,窒素

    0.6~1 gpot-1,加里lgpoC1を栽培ごとに同ーの施肥量となるように施用した.リン酸補給施肥では化成肥料のリ

    ン酸原料として広く利用されるリン安(DAP,肥料)を用

    い,事前の検討により得られたポット試験におけるリン酸

    吸収量相当量 として,コマツナでは0.25gpot1, ホウレ

    ンソウでは0.3gpoC1を栽培ごとに施用した.

    (2)結果および考察

    いず、れの品目においても栽培前の可給態リン酸が低い場

    合には乾重指数が大きく低下し,この低下は リン酸補給施

    肥, リン酸無施肥の双方で認められた(図1にコマツナに

    おける結果を一部示した).

    それぞれの試験で得られた栽培前の可給態リン酸(x)

    とmz:重指数(Y)との関係を指数関数モデル(Mitscherlich式 ;Y=M (1-e-c (川)))に適用し(Mitscherlich,1923),

    最小二乗法により定数 b,cを算出し,最適なモデルとし

    た.本試験では収量を乾重指数により表したため,理論上

    の最大収量に相当する定数Mは乾重指数の最大値である

    100とした.得られたモデルから乾重指数が99を上回る,

    つまり減収程度が1%未満となる栽培前の可給態リン|酸合

    -トーTr-P174 -ーーTr-P24 --O-T1-P I

    一〈〉ーTr-P67 ~ーTr-P 12

    IOO

    80

    査 60÷恥

    欄認 40

    20

    。2 3 4 5 6 7 8

    栽培回数(回)

    区11 リン酸無施肥栽培の継続による収量(乾重指数)の推移(コマツナ,褐色森林土における結果)

    収量はポット当たりの地上部の乾重により求め,最大の収量が

    得られた試験区を 100とした乾重指数を栽培ごとに算出し作図

    した.図中の凡例に示した Tr-P(トルオーグリン酸)値は,試

    験開始前の各試験区の可給態リン酸含量(mglOOg-1)を示す.

    量を求めた(図2にコマツナにおける結果を一部示した).

    図2の例では,褐色森林土を用いてコマツナのリン酸無施

    肥栽培を継続した条件で, i~z:重指数が99 となる栽培前の

    可給態リン酸が54.4mgl00g-1と算出された.品目およ

    びリン酸施肥方法ごとに解析した結果,表1に示した可給

    態リン酸含量を上回れば,収量に影響なく 一度のリン酸減

    肥栽培が可能と考えられた.

    両品目ともに黒ボク土では褐色森林土に比べ低い可給態

    リン酸レベルで一度の リン酸減肥栽培が可能と考えられ

    た.しかしながら,本指標では土壌タイプを問わない一律

    の指標とするため,安全を加味してより値の大きい褐色森

    林土におけるレベルを指標値の設定に用いることとした.

    2)リン酸減肥栽培の継続による可給態リン酸の年間低

    下量の推計

    過去の栽培履歴により可給態リン酸の蓄積程度が異なる

    土壌においてリン酸補給施肥あるいはリン酸無施肥での栽

    培を継続し,栽培期間中の可給態リン酸の動態からリン酸

    減肥栽培による可給態リン酸の年間低下量を推計した.

    (1)方法

    コマツナの栽培試験は岐阜農技セ(岐阜市)内温室にお

    UハU

    80 Y=IOO×(トe抑制い1.364))

    話 60謹

    盟4020

    。0 20 40 60 80 I 00 120 140 I 60

    栽培前の可給態リン酸(mg100 g-1)

    図2 リン酸無施肥栽培を継続した条件での栽培前の可給態リ

    ン酸と当作の乾重指数との関係(コマツナ,褐色森林土

    における結果)

    図中の凡例は図1と同様である.図中の実線は Mitscher lich

    式により得られた指数関数モデルを,破線は乾重指数が99と

    なる栽培前の可給態リン酸含量を示す.

    表l コマツナ,ホウレンソウにおいて一度の リン酸減肥栽精

    が可能な可給態リン酸レベル(mglOOg-1)

    品目 土壌タイプリン酸 リン酸

    補給施肥 無施肥

    コマツナ 褐色森林土 三40 ミ55

    黒ボク土 三35 ~40

    ホウレンソウ 褐色森林土 三35 三35

    黒ボク土 ミ20 ミ25

    それぞれの処理において図2と同様に指数関数モデルを作成

    し,モデルから乾重指数が99を上回る値を5mglOOg 1単

    位で、読み取った.

  • 和田・棚橋:葉菜類(コマツナ・ホウレンソウ)におけるリン酸減肥指標の設定 131

    いて, 2012年から 2014年の聞に年間栽培回数を8固とし

    た試験を二度実施した(表2).試験開始前の可給態リン酸

    が52~323mg100g1と異なる 5試験区において,慣行のリン酸施肥量(年間SOkglOa-1)に対してリン酸補給施肥

    (年間28または34kg10al,化学肥料による)およびリ

    ン酸無施肥での栽培を繰り返した.窒素施肥量はすべての

    試験区で同ーとした.

    一方,ホウレンソウの栽培試験は,高山市内現地および

    岐阜県中山間農業研究所(飛騨市)内の簡易雨よけハウス

    において, 2013,2014年に実施した.年間の栽培回数は3

    ~5回であり,試験実施ほ場により異なった.試験開始前の可給態リン酸は61~353mg100g1であり,これらのほ場において慣行のリン酸施肥量(年間18~43kg10a1,

    栽培回数により異なる)に対して,リン酸補給施肥(年間

    12または25kg10a一1,化成肥料または牛ふん堆肥によ

    る)およびリン酸無施肥での栽培を繰り返した.リン酸補

    給施肥における牛ふん堆肥からのリン酸施肥量は,堆肥に

    含まれるリン酸全量を施肥量として扱った.窒素はいずれ

    の試験実施ほ場においても現地の標準的な施肥量とし,慣

    行栽培とリン酸減肥栽培では同量とした.

    コマツナ,ホウレンソウともにリン酸減肥栽培の継続に

    よる生育,収量,リン酸吸収量への影響を評価するととも

    に,試験期間中の可給態リン酸の動態を調査し,本指標に

    おいて設定した年間栽培回数に応じて可給態リン酸の年間

    低下量を推計した.

    表2 コマツナの栽培試験の概要および作物体の収量,リン酸吸収量

    試験期間試験開始前の 年間リン酸 リン酸吸収量2)

    (年)試験区 可給態リン酸 施肥量 使用した肥料の種類 収量指数1) (kg lOa-1

    (mg lOOg-1) (kg lOa-1) 栽培回数 1)

    2012-2013 補給施肥① 52 28.0 硝安,リン安 104 1.9

    (DAP),硫加

    無施肥① 235 。 硝安,硫加 111 2.0 無施肥② 302 。 硝安,硫加 109 2.4 無施肥③ 323 。 硝安,硫加 114 2.4 慣行施肥 52 80.0 硝安,リン安 2.4

    (DAP),硫加

    2013-2014 補給施肥② 61 34.0 化成肥料(12ふ 5) 100 2.1

    無施肥④ 53 。 硝安,硫加 101 2.2 無施肥⑤ 173 。 硝安,塩加 103 2.2 無施肥⑥ 237 。 硝安,ケイ酸加里 99 2.3 慣行施肥 59 80.0 化成肥料(13・13・13) 2.0

    1)各試験区の年間の合計収量から,慣行施肥区を 100とした指数を算出した.

    2)年間のリン酸吸収量の合計を栽培回数で除し,栽培1回あたりのリン酸吸収量を算出した.

    表3 ホウレンソウの栽培試験の概要および作物体の収量,リン酸吸収量

    試験期間 試験ほ場試験開始前の 試験期間中の 年間リン酸 使用した肥料の

    リン酸吸収量1)

    試験区 可給態リン酸 施肥量 収量指数1) (kg lOa-1 (年) (mglOOg 1) 栽培回数(回) (kg lOa 1) 種類 栽培回数一1)

    2013 A 補給施肥 63 4 12.1 化成肥料(12-5・5) 103 3.2

    慣行施肥 61 4 26.5 化成肥料(13-13-13) 2.7

    B 無施肥 158 3 。 化成肥料(18-0・18) 97 3.2 慣行施肥 158 3 18.0 化成肥料(13-13-13) 2.8

    c 無施肥 353 4 。 硝安,硫加 101 3.3 慣行施肥 321 4 26.5 化成肥料(13・13・13) 2.9

    2014 D2l 補給施肥 69 5 25.0 硫安,牛ふん堆肥 2.6

    E 無施肥 76 5 。 化成肥料(18-0-18) 104 1.8 慣行施肥 76 5 39.0 化成肥料(13・13-13) 1.8

    F 無施肥 140 5 。 化成肥料(16-0-16) 102 3.6 慣行施肥 162 5 43.2 化成肥料(13-13司 13) 3.1

    1)表2と同様に算出した.

    2)慣行施肥区は設置していない.生産者からの聞き取りにより,通常の慣行栽培に比べ生育,収量とも遜色ないことを確認した.

  • 132 日本土壌肥料学雑誌第88巻第2号 (2017)

    (2)結果および考察

    いずれの試験においても, リン酸減肥栽培では慣行のリ

    ン酸施肥栽培と遜色ない生育,収量およびリン酸吸収量が

    得られた(表2,3).このことから,土壌中にリン酸が蓄積

    している場合には,リ ン酸減肥栽培を継続しても収量や養

    分吸収の低下等の影響がないことが確認された.なお,本

    試験における作物体の栽培 1回あたりのリン酸吸収量は,

    コマツナでは最大2.4kgl0a-1(表2),ホウレンソウでは

    最大3.6kglOa 1 (表3)であった.

    土嬢中の リン酸の動態については, リン酸補給施肥栽培

    を継続することで可給態 リン酸は横ばいからわずかに低

    下する推移を示し(医13に結果を一部示した),低下量の

    最大値は コマツナでは栽培回数8回で3.SmglOOg1,ホ

    ウレンソウでは栽培回数4回で0.9mgl00g-1であった

    (表4).可給態リン酸の年間低下量は コマツナでは低下量

    400

    コマツナ(試験期間 :2012-2013年)

    -ー慣行焔肥 -0ー 特有給施JI巴

    一+ー無焔llE① ーー企- '.I!\\施!IE②

    ・0 i1~h削巴③

    nu nU

    1J

    -∞。。一∞E)

    R::·g·忍去二2~-~~ -~-~~--~~ -~ ~ 〈ト〈トぐ〉・-0-ー〈〉・0ー〈〉ー令ー〈〉

    寵 200

    入τご\

    組 100 担問T 。

    前 I 2 3 4 5 6 7 8

    栽培回数(回)

    の最大値を用い,ホウレンソウでは年間栽培回数(6回)

    まで栽培を繰り返した場合に本試験での低下量の最大値

    と同じ割合で低下が継続すると仮定した値を用いて推計し

    た.これらのことから, リン酸補給施肥栽培を継続した条

    件での可給態リン酸の年間低下量を 5mgl00gl単位で推

    計し,両品目ともに 5mgl00g-1とした(表4-①).

    一方,リン酸無施肥栽培を継続した場合はリン酸補給施

    肥栽培に比べ可給態リン酸の低下の程度が大きく ,試験期

    間を通じ可給態リン酸は徐々に低下した(図3に結果を一

    部示した).試験開始前の可給態 リン酸が300mgl00g1

    を上回るような リン酸が過剰に蓄積したほ場ではさらに低

    下の程度が大きい傾向が見られたが, これらのほ場ではリ

    ン酸無施肥栽培を一年間継続しでも過剰なリン酸蓄積は解

    消されなかった.そこで,可給態リン酸の年間低下量の推

    計には,試験開始前の可給態リン酸が300mgl00g1未満

    ホウレンソウ(試験期間 :2013年)

    -酔- A慣行地JI巴 A補給施j氾

    400

    --+--Bー慣行h在日目 ー-<>--- B-無施肥

    -Iトー C-慣行地肥 ・O・ C-無施肥

    む0

    g 300 Lよ~『。0E

    重量 200 入 〈〉一企 . . ご\

    組 100 4是la 。

    前 I 2 3

    栽培回数(回)

    4

    図3 コマツナおよびホウレンソウの栽情試験における土壌中の可給態リン酸の動態

    表4 一年間リン酸減肥栽培を継続した条件での可給態リン酸の低下量およびリン酸減肥指標の下限値の算出

    可給態リン酸(mglOOg-1)

    リン酸試験期間中

    品目 試験区 の栽培回数 一度のリン酸施肥方法 試験期間中の 年間低下量 指標の下限値

    (回) 低下量 推計値(①)減肥が可能な

    (②+①×2) レベル1)(②)

    補給施肥 コマツナ 補給施肥① 8 3.8 5 40 50

    補給施肥② 8 1.0

    ホウレンソウ 補給施肥(ほ場A) 4 0.9 5 35 45

    補給h刷巴(ほ場 D) 。戸 -0.3 吉正施肥 コマツナ 無施肥① 8 22.1 25 55 105

    無施肥④ 8 6.1

    m~施肥⑤ 8 20.9

    無施肥⑥ 8 17.5

    ホウレンソウ 無11包肥 (ほ場 B) 3 14.8 30 35 95

    無施肥(ほ場 E) b 13.6

    1l!\施肥(ほ場 F) 5 10.3

    l)表1の褐色森林土におけるレベルを,土壌タイプを問わない指標として用いた.

  • 和国 ・棚橋 :葉菜類(コマツナ ・ホウレンソウ)における リン酸減肥指標の設定 133

    のほ場における結果を用いる こととした.

    リン酸無施肥栽培による可給態 リン酸の低下量の最大

    値は,コマツナでは栽培回数8回で22.lmglOOg1,ホ

    ウレンソウでは栽培回数3回で14.8mg100g-1であった

    (表4). リン酸補給施肥の場合と同様にそれぞれの品目に

    おける可給態リン酸の年間低下量を 5mg100g-1単位で推

    計し, リン酸無施肥栽培を継続した条件での可給態リン酸

    の年間低下量を,コマツナでは 25mg100g1, ホウレン

    ソウでは 30mgl00g1とした (表4-①).

    4. リン酸減肥指標の設定

    これまでに得られた結果を基に,それぞれの品目におい

    てリン酸減肥指標の下限値を算出した.

    指標の下限値は,安全を加味して可給態 リン酸の年間

    低下量推計値(表4-①)を 2倍とし,これらと一度のリン

    酸減肥栽培が可能な可給態 リン酸レベル (表4-②)との和

    により求めた.その結果,コマツナのリン酸補給施肥では

    50mgl00g 1, リン酸無施肥では 105mg100g-1,ホウレ

    ンソウの リン酸補給施肥では45mgl00g-1, リン酸無施

    肥では95mg100glとなった (表4).

    さらに,生産現場への普及性を考慮、し,コマツナとホウ

    レンソウで共通した指標とすることおよび指標の下限値

    を分かりやすい数値とすることとした.すなわち,葉菜

    類(コマツナ ・ホウレンソウ)におけるリン酸減肥指標を,

    栽培開始前の可給態リン酸が50mg100g-1未満の場合,

    50~lOOmglOOg lの場合, 100mg100g-1を超える場合

    の3段階に区分し,図4のとおり設定した.

    本指標では普及 ・利用上の留意点として,土壌診断結果

    に基づくリン酸施肥量の決定,リン酸補給施肥の場合の施

    旧方法および家畜ふん堆肥を施用する場合の指標の活用法

    を提案している.特に家畜ふん堆肥については,堆肥に含

    まれる リン酸も肥料や土壌改良資材に含まれる リン酸と概

    ね同等に活用する ことができる と考えられ,本試験におい

    ても牛ふん堆肥に含まれる リン酸を活用した補給施阻によ

    り,収量やリン酸吸収量は化学肥料によ る慣行の リン酸施

    肥と同程度となった(表3).このため,留意点では家畜ふ

    ん堆肥を施用する場合の化学肥料等によるリン酸施肥量の

    削減を促している.

    本指標の活用により,土壌中にリン酸が蓄積している場

    合には リン酸施肥量を削減する ことが可能となり, 肥料費

    の削減に寄与する と考えられる.県北部の飛騨地域のホウ

    レンソウ産地では実際に本指標が平成27年から施肥基準

    に採用され,リン酸が蓄積しているほ場ではリン酸を多く

    含まない V型肥料を導入する ことで, 安定した生産を維

    持しながら肥料費の削減につなげている.あわせて, リン

    1年間リン酸減目E栽t音;が継続できる,リン援減肥指標

    可給態リン酸(mg/100g)

    リン酸施肥量

    50未満

    施肥基準どおり

    [普及・利用上の留意点】

    50~100

    リン酸吸収量相当を補給

    100超

    無施肥

    1)栽培開始前に土壌診断を行い可給態リン酸の現状を把握した上で本指標

    に基づき1年間のリン酸施肥方法を決定する必要がある

    2)リン酸吸収蚤相当を補給する場合のリン酸施肥量はI コマツナでは栽培l回

    あたり 3kg/10a程度ホウレンソウでは栽培l回あたり 4kg/10a程度とし

    栽培回数に応じて必要量を施用する

    3)家畜ふん堆肥に含まれるリン酸も肥料として活用できることから,家畜ふん

    堆胞を施用する場合にはI 堆肥に含まれるリン酸量を施肥から減ずることが

    できる

    図4 葉菜類(コマツナ ・ホウレンソウ)におけるリン酸減肥

    指標

    酸施肥量の低減により,これまでのような土壌への過剰な

    リン酸蓄積を抑制し, 農耕地土壌外への影響の低減や肥料

    資源の有効活用により,環境に配慮した持続的な生産につ

    ながることが期待される.

    謝辞:本研究の実施に当たり, J士、ウレンソウの生産 ・

    指導に関わる皆さま,岐阜県中山間農業研究所の皆さまに

    は多大なる ご協力をいただきました.ここに感謝の意を表

    します.

    付 記:本報告では,生産現場の土壊診断において慣用

    されている mglOOg-1等の非 SI単位を採用した.また,

    本報告の一部は,2012年度および2014年度日本土壌肥料

    学会中部支部例会,日本土壌肥料学会2015年度京都大会

    において発表した.

    文献

    糟谷真宏 ・坂西研二 ・板橋 直 ・荻野和明 ・康戸誠一郎 2010.畜

    産業を伴う赤黄色土野菜畑地帯の河川における窒素,リンの流

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