教職協働の新しい形 ~アクションリサーチの実践~...教職協働の新しい形...

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中田康夫 、伴仲謙欣 、桐村豪文 、髙松邦彦 、野田育宏 、光成研一郎 神戸常盤大学教育イノベーション機構、 神戸常盤大学事務局、 神戸常盤大学教育学部 近年、大学運営における教職協働に関する文献は増えつつあるが、「単に教員と職員とが 役割分担すれば済む話ではなく、お互いの能力や特質を活かしつつ、溶け合うような関係 でさまざまな仕事を行うような密接な関係」 1) によって生み出された成果について公表さ れたものはほとんどみられない。そこで今回、「お互いの能力や特質を活かしつつ、溶け合 うような関係でさまざまな業務を行う」ことをも超えて、単なる業務ではなく、本学で実 践している教職協働によるアクションリサーチの概要について報告するとともに、今後の 我が国の大学運営における教職協働の新しい形について提案する。 アクションリサーチは実証主義研究とは異なり、「単一事例から“全体的な具体的事実と その固有の性質”を導出し、その事例の時間的及び力動的変化を捉える診断研究」 2) であ り、「変化や変化によってその行動主体の意識の改革が図られる特徴がある。変化を図ると いうことは現状に対して何らかの批判的見解をもって変革するということが前提にある。 (中略)場にいる“私”は、傍観するだけでなくその場で何ができるのかが問われる研究 パラダイム」 3) という特徴を有している。 本学における教職協働の取り組みは 2015 年度から始まるが、初めから「アクションリ サーチ」を目的としたものではなかった。当初は、教育学術新聞(日本私立大学協会機関 紙)や Between(ベネッセコーポレーション・進研アド発行)、ASAGAO メーリングリス トをはじめとする各種媒体から入ってくる、我が国における大学を取り巻く環境の劇的変 化に危機感をもった学内の教職員有志が、サロン的な雰囲気をもつ学内の研究を支援する 部署 4)5) に三々五々集い、本学が将来にわたって生き残るための「課題」や、それに端を発 した「夢」を語り合っていたことに始まる。それを契機として、本学生き残りのための課 題を SWOT 分析などのフレームワークを用いて抽出し 4)5) 、その解決策を企画・立案して いくというプロセスに発展した 6) 。そしてこのプロセスを経る中で、今後の我が国の大学 改革や教学マネジメント改革、あるいは教職協働のあり方に資することができる知見を生 み出すに至った。この一連の成果を経時的に整理したのが図である。なお、これらの成果 は学長をはじめとした上層部に認められ、本学において 2017 年度から始まる教学マネジ メント改革の基盤・根幹・土台となることになった。 1日目 個人研究ポスター発表 - 236 -

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Page 1: 教職協働の新しい形 ~アクションリサーチの実践~...教職協働の新しい形 ~アクションリサーチの実践~ 中田康夫1、伴仲謙欣2、桐村豪文1、髙松邦彦1、野田育宏2、光成研一郎3

教職協働の新しい形

~アクションリサーチの実践~

中田康夫1、伴仲謙欣2、桐村豪文1、髙松邦彦1、野田育宏2、光成研一郎3

1神戸常盤大学教育イノベーション機構、2神戸常盤大学事務局、3神戸常盤大学教育学部

緒言

近年、大学運営における教職協働に関する文献は増えつつあるが、「単に教員と職員とが

役割分担すれば済む話ではなく、お互いの能力や特質を活かしつつ、溶け合うような関係

でさまざまな仕事を行うような密接な関係」1)によって生み出された成果について公表さ

れたものはほとんどみられない。そこで今回、「お互いの能力や特質を活かしつつ、溶け合

うような関係でさまざまな業務を行う」ことをも超えて、単なる業務ではなく、本学で実

践している教職協働によるアクションリサーチの概要について報告するとともに、今後の

我が国の大学運営における教職協働の新しい形について提案する。

アクションリサーチとその特徴

アクションリサーチは実証主義研究とは異なり、「単一事例から“全体的な具体的事実と

その固有の性質”を導出し、その事例の時間的及び力動的変化を捉える診断研究」2)であ

り、「変化や変化によってその行動主体の意識の改革が図られる特徴がある。変化を図ると

いうことは現状に対して何らかの批判的見解をもって変革するということが前提にある。

(中略)場にいる“私”は、傍観するだけでなくその場で何ができるのかが問われる研究

パラダイム」3)という特徴を有している。

教職協働によるアクションリサーチに至った経緯

本学における教職協働の取り組みは 2015 年度から始まるが、初めから「アクションリサーチ」を目的としたものではなかった。当初は、教育学術新聞(日本私立大学協会機関

紙)や Between(ベネッセコーポレーション・進研アド発行)、ASAGAO メーリングリストをはじめとする各種媒体から入ってくる、我が国における大学を取り巻く環境の劇的変

化に危機感をもった学内の教職員有志が、サロン的な雰囲気をもつ学内の研究を支援する

部署 4)5)に三々五々集い、本学が将来にわたって生き残るための「課題」や、それに端を発

した「夢」を語り合っていたことに始まる。それを契機として、本学生き残りのための課

題を SWOT 分析などのフレームワークを用いて抽出し 4)5)、その解決策を企画・立案して

いくというプロセスに発展した 6)。そしてこのプロセスを経る中で、今後の我が国の大学

改革や教学マネジメント改革、あるいは教職協働のあり方に資することができる知見を生

み出すに至った。この一連の成果を経時的に整理したのが図である。なお、これらの成果

は学長をはじめとした上層部に認められ、本学において 2017 年度から始まる教学マネジメント改革の基盤・根幹・土台となることになった。

図 本学における教職協働によるアクションリサーチの成果(2015~現在)

教職協働から教職協創としてのアクションリサーチの実践

従来、教職協働そのものを研究する者はあれど、自ら教職協働を実践しながら研究に繋

げていくアクションリサーチャーや、常時同一の教職員メンバーで研究活動をしているユ

ニットやチームに関する文献は管見の限り存在しない。教職員の有志の集まりに端を発し

た本学における教職協働メンバーが、この 2 年間、常に改善に向けた創造や実践を行い、その事例や研究成果を学内外に公表・発信し続けていることそのものが、我々が目指すべ

き教職協働のあり方である。これを我が国における今後の教職協働の新しい形として、「働」

から「創」への転換、すなわち教職協創としてのアクションリサーチとして提案する。

文献

1) 山本眞一 (2011) 教職協働は大学の特性に応じて 役員・教員・職員調査結果からの示唆.アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム),No.464.

2) レヴィン,クルト,末永俊郎,訳 (1954) 社会的葛藤の解決~グループダイナミックス論文集~.東京創元社,東京

3) 秋田喜代美,恒吉遼子,佐藤学(編) (2005) 教育研究のメソドロジー~学校参加型マインドへのいざない~.東京大学出版会,東京

4) 伴仲謙欣,野田育宏,桐村豪文,髙松邦彦,中田康夫 (2016) 教職協働の意義~「知」の観点から~,第 22 回大学教育研究フォーラム発表論文集,148-149.

5) 桐村豪文,髙松邦彦,伴仲謙欣,野田育宏,中田康夫 (2016) 教職協働による新たな知の創造〜セレンディピティの可能性を高めるための工夫〜.神戸常盤大学紀要,9,71-78.

6) 桐村豪文,髙松邦彦,伴仲謙欣,野田育宏,光成研一郎,中村忠司,中田康夫 (2016) 教職協働による教学マネジメント改革の理念構築~まなびの re:デザイン~.神戸常盤大学紀要,10,印刷中.

1日目 個人研究ポスター発表

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教職協働の新しい形

~アクションリサーチの実践~

中田康夫1、伴仲謙欣2、桐村豪文1、髙松邦彦1、野田育宏2、光成研一郎3

1神戸常盤大学教育イノベーション機構、2神戸常盤大学事務局、3神戸常盤大学教育学部

緒言

近年、大学運営における教職協働に関する文献は増えつつあるが、「単に教員と職員とが

役割分担すれば済む話ではなく、お互いの能力や特質を活かしつつ、溶け合うような関係

でさまざまな仕事を行うような密接な関係」1)によって生み出された成果について公表さ

れたものはほとんどみられない。そこで今回、「お互いの能力や特質を活かしつつ、溶け合

うような関係でさまざまな業務を行う」ことをも超えて、単なる業務ではなく、本学で実

践している教職協働によるアクションリサーチの概要について報告するとともに、今後の

我が国の大学運営における教職協働の新しい形について提案する。

アクションリサーチとその特徴

アクションリサーチは実証主義研究とは異なり、「単一事例から“全体的な具体的事実と

その固有の性質”を導出し、その事例の時間的及び力動的変化を捉える診断研究」2)であ

り、「変化や変化によってその行動主体の意識の改革が図られる特徴がある。変化を図ると

いうことは現状に対して何らかの批判的見解をもって変革するということが前提にある。

(中略)場にいる“私”は、傍観するだけでなくその場で何ができるのかが問われる研究

パラダイム」3)という特徴を有している。

教職協働によるアクションリサーチに至った経緯

本学における教職協働の取り組みは 2015 年度から始まるが、初めから「アクションリサーチ」を目的としたものではなかった。当初は、教育学術新聞(日本私立大学協会機関

紙)や Between(ベネッセコーポレーション・進研アド発行)、ASAGAO メーリングリストをはじめとする各種媒体から入ってくる、我が国における大学を取り巻く環境の劇的変

化に危機感をもった学内の教職員有志が、サロン的な雰囲気をもつ学内の研究を支援する

部署 4)5)に三々五々集い、本学が将来にわたって生き残るための「課題」や、それに端を発

した「夢」を語り合っていたことに始まる。それを契機として、本学生き残りのための課

題を SWOT 分析などのフレームワークを用いて抽出し 4)5)、その解決策を企画・立案して

いくというプロセスに発展した 6)。そしてこのプロセスを経る中で、今後の我が国の大学

改革や教学マネジメント改革、あるいは教職協働のあり方に資することができる知見を生

み出すに至った。この一連の成果を経時的に整理したのが図である。なお、これらの成果

は学長をはじめとした上層部に認められ、本学において 2017 年度から始まる教学マネジメント改革の基盤・根幹・土台となることになった。

図 本学における教職協働によるアクションリサーチの成果(2015~現在)

教職協働から教職協創としてのアクションリサーチの実践

従来、教職協働そのものを研究する者はあれど、自ら教職協働を実践しながら研究に繋

げていくアクションリサーチャーや、常時同一の教職員メンバーで研究活動をしているユ

ニットやチームに関する文献は管見の限り存在しない。教職員の有志の集まりに端を発し

た本学における教職協働メンバーが、この 2 年間、常に改善に向けた創造や実践を行い、その事例や研究成果を学内外に公表・発信し続けていることそのものが、我々が目指すべ

き教職協働のあり方である。これを我が国における今後の教職協働の新しい形として、「働」

から「創」への転換、すなわち教職協創としてのアクションリサーチとして提案する。

文献

1) 山本眞一 (2011) 教職協働は大学の特性に応じて 役員・教員・職員調査結果からの示唆.アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム),No.464.

2) レヴィン,クルト,末永俊郎,訳 (1954) 社会的葛藤の解決~グループダイナミックス論文集~.東京創元社,東京

3) 秋田喜代美,恒吉遼子,佐藤学(編) (2005) 教育研究のメソドロジー~学校参加型マインドへのいざない~.東京大学出版会,東京

4) 伴仲謙欣,野田育宏,桐村豪文,髙松邦彦,中田康夫 (2016) 教職協働の意義~「知」の観点から~,第 22 回大学教育研究フォーラム発表論文集,148-149.

5) 桐村豪文,髙松邦彦,伴仲謙欣,野田育宏,中田康夫 (2016) 教職協働による新たな知の創造〜セレンディピティの可能性を高めるための工夫〜.神戸常盤大学紀要,9,71-78.

6) 桐村豪文,髙松邦彦,伴仲謙欣,野田育宏,光成研一郎,中村忠司,中田康夫 (2016) 教職協働による教学マネジメント改革の理念構築~まなびの re:デザイン~.神戸常盤大学紀要,10,印刷中.

1日目 個人研究ポスター発表

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