文部科学省 (パワーデバイス・システム領域) 成果報告書 ......平成29...

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文部科学省 科学技術試験研究委託事業 省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発 (パワーデバイス・システム領域) 成果報告書(平成29年度) 平成30年5月30日 国立大学法人名古屋大学

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  • 文 部 科 学 省

    科学技術試験研究委託事業

    省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発

    (パワーデバイス・システム領域)

    成果報告書(平成29年度)

    平成30年5月30日

    国立大学法人名古屋大学

  • 2

    本報告書は、文部科学省の科学技術試験

    研究委託事業による委託業務として、国立

    大学法人名古屋大学が実施した平成29年

    度「省エネルギー社会の実現に資する次世

    代半導体研究開発(パワーデバイス・シス

    テム領域)」の成果を取りまとめたもので

    す。

  • 1

    1.研究背景

    本研究「省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発」は、省エネルギー社会の実

    現に向けて、基礎基盤研究の課題が多い窒化ガリウム(GaN)等の次世代半導体に関し、我が国の

    強みを活かして実用化に向けた研究開発を加速することを目的としている。

    そのため、2030 年に高周波・高出力で小型、軽量なパワーデバイス(例:MHz レベル以上、100

    kVA 以上で動作するパワーデバイス)、パワーデバイスと制御回路等を融合した革新的なスマー

    トパワーデバイスが実現することを念頭におきながら、GaN 等の次世代半導体に関して、材料創

    製からデバイス化・システム応用までの研究開発を一体的に行う研究開発拠点を構築し、理論・

    シミュレーションも活用した基礎基盤研究を実施する。

    平成 29 年度における本事業の実施体制としては「中核拠点」、「評価基盤領域」、「パワーデ

    バイス・システム領域」、「レーザーデバイス・システム領域」から成る体制によって構築され

    ている。研究開発の中核を担う中核拠点と 3 つの領域が相互に連携を取り、一体となって本事業

    の実施を進めた。なお、平成 29 年度において事業を実施した具体的な受託機関、再委託機関は

    下記のとおりである。

    ・「中核拠点」研究の中心となる結晶創製に係る研究開発等を実施

    受託機関 :国立大学法人名古屋大学

    再委託機関:国立大学法人大阪大学、株式会社豊田中央研究所

    国立大学法人三重大学、国立大学法人山口大学

    ・「評価基盤領域」結晶やパワーデバイスの評価に係る研究開発を実施

    受託機関 :国立研究開発法人物質・材料研究機構

    再委託機関:学校法人早稲田大学、国立大学法人東北大学、国立大学法人筑波大学

    国立研究開発法人産業技術総合研究所、富士電機株式会社

    豊田合成株式会社

    ・「パワーデバイス・システム領域」パワーデバイスの作製に係る研究開発を実施

    受託機関 :国立大学法人名古屋大学

    再委託機関:学校法人名古屋電気学園愛知工業大学、国立大学法人京都大学

    国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立大学法人東北大学

    株式会社豊田中央研究所、学校法人法政大学、国立大学法人北海道大学

  • 2

    ・「レーザーデバイス・システム領域」レーザーデバイスの作製に係る研究開発を実施

    受託機関 :名城大学

    再委託機関:国立大学法人山口大学、国立大学法人名古屋工業大学

    国立大学法人名古屋大学、国立大学法人三重大学

    国立研究開発法人産業技術総合研究所

    株式会社小糸製作所、豊田合成株式会社

    ウシオ オプトセミコンダクター株式会社、スタンレー電気株式会社

    日機装株式会社 上記の目標を推進するため、パワーデバイス・システム領域においては下記の課題を実施し

    た。

    a.欠陥生成を制御する新規エピタキシャル成長技術開発

    a-1. エピタキシャル成長層に含まれる点欠陥の分析

    a-2. エピタキシャル成長層に含まれる転位の分析

    a-3. エピタキシャル成長基板の試料提供

    b.信頼性、再現性の高い酸化膜形成技術開発とその手法を基礎とした閾値変動のないノー

    マリオフゲート構造の形成方法の構築

    b-1.酸化膜形成手法の確立

    b-2. p型低濃度GaN基板上のMOSFETの閾値制御

    c.イオン注入技術の確立と革新的スマートパワーデバイス構造作製技術への応用

    c-1. イオン注入による n 型層の形成

    c-2. イオン注入によるp型層の形成

    c-3. 終端構造の設計

    .

    d.エッチングプロセスで導入される加工ダメージの評価とメカニズムの理解に基づいた低

    ダメージエッチング技術、ダメージ回復技術の開発

    d-1. ドライエッチングにより誘起されるダメージの分析

    e.デバイスモデル作製に必要となる点欠陥および転位の特性の整理とデータベース化、点

    欠陥および転位の評価用 TEG の標準化

    e-1. GaNに含まれる点欠陥および転位のデータ集積

  • 3

    e-2. 評価用TEGの設計

    e-3. 深い準位がデバイス性能に及ぼす影響の分析

  • 4

    2.業務の実施体制

    ① 業務主任者

    (受託者(委託先))

    役職・氏名 国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究所

    特任教授 加地 徹

    (再委託先)

    役職・氏名 学校法人名古屋電気学園愛知工業大学

    工学部 教授 徳田 豊

    (再委託先)

    役職・氏名 国立大学法人京都大学

    大学院工学研究科 特定助教 堀田 昌宏

    (再委託先)

    役職・氏名 国立研究開発法人産業技術総合研究所

    窒化物半導体先進デバイスオープンイノベーションラボラトリ

    ラボ長 清水 三聡

    (再委託先)

    役職・氏名 国立大学法人東北大学

    未来科学技術共同研究センター 教授 寺本 章伸

    (再委託先)

    役職・氏名 株式会社豊田中央研究所

    研究員 成田 哲生

    (再委託先)

    役職・氏名 学校法人法政大学

    理工学部教授 栗山 一男

    (再委託先)

    役職・氏名 国立大学法人北海道大学

    量子集積エレクトロニクス研究センター 准教授 赤澤 正道

    ② 業務項目別実施区分

    業 務 項 目 実 施 場 所 担 当 責 任 者

    ① 研究開発業務 a-1. エピタキシャル成長層に

    含まれる点欠陥の分析

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究所

    愛知県長久手市横道41番地の1

    株式会社豊田中央研究所

    愛知県豊田市八草町八千草1247

    学校法人名古屋電気学園愛知工業

    大学 工学部

    京都府京都市左京区吉田本町

    国立大学法人京都大学 大学院

    工学研究科

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究

    所 特任教授 加地 徹

    株式会社豊田中央研究所

    研究員 成田 哲生

    学校法人名古屋電気学園

    愛知工業大学 工学部

    教授 徳田 豊

    国立大学法人京都大学

    大学院工学研究科

    特定助教 堀田 昌宏

  • 5

    a-2. エピタキシャル成長層に

    含まれる転位の分析

    a-3. エピタキシャル成長

    基板の試料提供

    b-1. 酸化膜形成手法の確

    b-2. p型低濃度GaN基板上の

    MOSFETの閾値制御

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究所

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究所

    愛知県長久手市横道41番地の1

    株式会社豊田中央研究所

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究所

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学 大学院

    工学研究科

    宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-6

    国立大学法人東北大学

    未来科学技術共同研究センター

    北海道札幌市北区北8条西5丁目

    国立大学法人北海道大学 量子集積

    エレクトロニクス研究センター

    愛知県長久手市横道41番地の1

    株式会社豊田中央研究所

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究所

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学 大学院

    工学研究科

    宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-6

    国立大学法人東北大学

    未来科学技術共同研究センター

    北海道札幌市北区北8条西5丁目

    国立大学法人北海道大学

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究

    所 教授 宇治原 徹

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究

    所 教授 五十嵐信行

    株式会社豊田中央研究所

    研究員 成田 哲生

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究

    所 特任教授 加地 徹

    国立大学法人名古屋大学

    大学院工学研究科

    教授 宮﨑 誠一

    国立大学法人東北大学

    未来科学技術共同研究セ

    ンター

    教授 寺本 章伸

    国立大学法人北海道大学

    量子集積エレクトロニク

    ス研究センター

    准教授 赤澤 正道

    株式会社豊田中央研究所

    研究員 成田 哲生

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究

    所 特任教授 加地 徹

    国立大学法人名古屋大学

    大学院工学研究科

    教授 宮﨑 誠一

    国立大学法人東北大学

    未来科学技術共同研究セ

    ンター

    教授 寺本 章伸

    国立大学法人北海道大学

    量子集積エレクトロニク

  • 6

    c-1. イオン注入による n 型層

    の形成

    c-2. イオン注入によるp型層

    の形成

    c-3. 終端構造の設計

    d-1. ドライエッチングによ

    り誘起されるダメージの分析

    量子集積エレクトロニクス研究セ

    ンター

    愛知県長久手市横道41番地の1

    株式会社豊田中央研究所

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究所

    愛知県名古屋市千種区不老町

    産総研・名大 窒化物半導体先進デバイ

    スオープンイノベーションラボラトリ

    茨城県つくば市梅園1-1-1 中央第2

    国立研究開発法人産業技術総合研究所

    東京都千代田区富士見2-17-1

    学校法人法政大学 理工学部

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究所

    愛知県名古屋市千種区不老町

    産総研・名大 窒化物半導体先進デバイ

    スオープンイノベーションラボラトリ

    茨城県つくば市梅園1-1-1 中央第2

    国立研究開発法人産業技術総合研究所

    東京都千代田区富士見2-17-1

    学校法人法政大学 理工学部

    北海道札幌市北区北8条西5丁目

    国立大学法人北海道大学

    量子集積エレクトロニクス研究セ

    ンター

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究所

    京都府京都市左京区吉田本町

    国立大学法人京都大学 工学研究科

    ス研究センター

    准教授 赤澤 正道

    株式会社豊田中央研究所

    研究員 成田 哲生

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究

    所 特任教授 加地 徹

    国立研究開発法人産業技

    術総合研究所

    窒化物半導体先進デバイ

    スオープンイノベーショ

    ンラボラトリ

    ラボ研究主幹 山田 寿一

    学校法人法政大学 理工

    学部 教授 栗山 一男

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究

    所 特任教授 加地 徹

    国立研究開発法人産業技

    術総合研究所

    窒化物半導体先進デバイ

    スオープンイノベーショ

    ンラボラトリ

    ラボ研究主幹 山田 寿一

    学校法人法政大学 理工

    学部 教授 栗山 一男

    国立大学法人北海道大学

    量子集積エレクトロニク

    ス研究センター

    准教授 赤澤 正道

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究

    所 特任教授 加地 徹

    国立大学法人京都大学

    大学院工学研究科

    特定助教 堀田 昌宏

  • 7

    e-1. GaNに含まれる点欠陥お

    よび転位のデータ集積

    e-2 評価用TEGの設計

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究所

    北海道札幌市北区北8条西5丁目

    国立大学法人北海道大学

    量子集積エレクトロニクス研究セ

    ンター

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究所

    愛知県長久手市横道41番地の1

    株式会社豊田中央研究所

    京都府京都市左京区吉田本町

    国立大学法人京都大学 大学院工学研

    究科

    愛知県豊田市八草町八千草1247

    学校法人名古屋電気学園愛知工業

    大学 工学部

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究所

    京都府京都市左京区吉田本町

    国立大学法人京都大学 大学院工学研

    究科

    愛知県豊田市八草町八千草1247

    学校法人名古屋電気学園愛知工業

    大学 工学部

    北海道札幌市北区北8条西5丁目

    国立大学法人北海道大学

    量子集積エレクトロニクス研究セ

    ンター

    愛知県長久手市横道41番地の1

    株式会社豊田中央研究所

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究

    所 特任教授 加地 徹

    国立大学法人北海道大学

    量子集積エレクトロニク

    ス研究センター

    准教授 赤澤 正道

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究

    所 特任教授 加地 徹

    株式会社豊田中央研究所

    研究員 成田 哲生

    国立大学法人京都大学

    大学院工学研究科

    特定助教 堀田 昌宏

    学校法人名古屋電気学園

    愛知工業大学 工学部

    教授 徳田 豊

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究

    所 特任教授 加地 徹

    国立大学法人京都大学

    大学院工学研究科

    特定助教 堀田 昌宏

    学校法人名古屋電気学園

    愛知工業大学 工学部

    教授 徳田 豊

    国立大学法人北海道大学

    量子集積エレクトロニク

    ス研究センター

    准教授 赤澤 正道

    株式会社豊田中央研究所

    研究員 成田 哲生

    国立大学法人名古屋大学

  • 8

    e-3. 深い準位がデバイス性能

    に及ぼす影響の分析

    ② 研究環境の整備等

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究所

    愛知県名古屋市千種区不老町

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究所

    未来材料・システム研究

    所 特任教授 加地 徹

    国立大学法人名古屋大学

    未来材料・システム研究

    所 特任教授 加地 徹

    ③ 業務実施計画

    業務項目

    実 施 日 程

    4

    5

    6

    7

    8

    9

    10

    11

    12

    1

    2

    3

    ① 研究開発業務

    a.欠陥生成を制御する新規

    エピタキシャル成長技術開

    a-1

    エピタキシャル成長層

    に含まれる点欠陥の分

    a-2 エピタキシャル成長層

    に含まれる転位の分析

    a-3 エピタキシャル成長基

    板の試料提供

    b. 信頼性、再現性の高い酸

    化膜形成技術開発とその手

    法を基礎とした閾値変動の

    ないノーマリオフゲート構

    造の形成方法の構築

    b-1 酸化膜形成手法の確立

    b-2 p 型低濃度 GaN 基板上

    MOS 構造の閾値制御

    c. イオン注入技術の確

    立と革新的スマートパワ

    ーデバイス構造作製技術

    への応用

    c-1 イオン注入によるn型層

    の形成

    c-2 イオン注入によるp型

    層の形成

    c-3 終端構造の設計

  • 9

    d. エッチングプロセスで導

    入される加工ダメージの評

    価とメカニズムの理解に基

    づいた低ダメージエッチン

    グ技術、ダメージ回復技術の

    開発

    d-1

    ドライエッチングによ

    り誘起されるダメージ

    の分析

    e. デバイスモデル作製に必

    要となる点欠陥および転位

    の特性の整理とデータベー

    ス化、点欠陥および転位の評

    価用TEGの標準化

    e-1

    GaN に含まれる点欠陥

    および転位のデータ集

    e-2 評価用 TEG の設計

    e-3 深い準位がデバイス性

    能に及ぼす影響の分析

    ② 研究環境の整備等

  • 10

    3.研究成果

    ① 研究開発業務

    a. 欠陥生成を制御する新規エピタキシャル成長技術開発

    a-1. エピタキシャル成長層に含まれる点欠陥の分析

    <p 型 GaN エピタキシャル成長技術と成長層に含まれる点欠陥の評価 1>

    GaN 系材料は次世代パワー素子材料の候補として注目されている。パワーMOSFET

    (Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)の場合、しきい電圧は p 型 GaN(p-

    GaN)層のアクセプタ(Mg)濃度で設計され、Mg 濃度の精密な制御が要求される。図 a-1.1

    に縦型 GaN-MOSFET の p-GaN ボディ層の Mg 濃度としきい値電圧の関係を示す。計算前提と

    して、室温で 70 nm 厚のアルミナ(Al2O3)ゲート絶縁膜を用い、GaN とゲート電極の仕事関

    数差がない条件を仮定した。一般的に、数 kV クラスのパワーデバイスに要求されるしきい値電

    圧は 3~8V であるので、対応する Mg 濃度は 3 × 1017 cm-3 以下であることが図 a-1.1 から分か

    る。さらに、1016 ~ 3 × 1017 cm-3 の Mg 濃度範囲でしきい値電圧のばらつきを 0.1V 以下にする

    ためには、Mg 濃度のばらつき(変動係数)を 5%以内に抑制する必要がある。

    図 a-1.1 GaN 中 Mg アクセプタ濃度と GaN-MOSFET のしきい電圧の関係

    0

    5

    10

    15

    20

    1016 1017 1018

    MO

    SFET

    のし

    きい

    電圧

    (V

    )

    Mgアクセプタ濃度 (cm-3)

    要求仕様

    n--GaN Epi.

    n+-GaN sub.

    n+GaN

    Gate Ins. p-GaN Epi.

    Gate Metal

    Al Al

    p+GaN

    Gate Source

    Drain

    3

    8

  • 11

    以上の要求仕様を満たす Mg 添加 GaN を、有機金属気相成長(MOVPE)法で実現するに

    はいくつかの課題がある。28 年度の委託成果報告書では、深さ方向に濃度の均一な低濃度の p

    型 GaN 層のエピタキシャル成長技術の構築に取り組んだ 1)。その結果、流速を含めた反応ガス

    の流れを制御することによって、深さ方向に濃度の均一な Mg 添加を実現した。また、Mg 原料

    であるビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(Cp2Mg)の供給不安定性を改善すること

    で、1016 cm-3 台の Mg 添加を実証した。しかしながら、28 年度に用いた手法では、1017 cm-3 以

    下の Mg 添加領域で供給 Mg 濃度に対する GaN 中 Mg 濃度の低下が起こっていたこと、1017

    cm-3 台の Mg 濃度であっても、成長ごとの Mg 濃度ばらつきが大きかったことなど、しきい電

    圧の安定制御の上では大きな課題が残されていた。29 年度は、MOVPE 装置の大幅な改造を行

    い、低 Mg 濃度領域であっても安定して Cp2Mg を供給できる Mg 二重希釈ライン配管の検討を

    行った。また、この二重希釈配管にごく微量の Cp2Mg 濃度を高精度に検出できる機構を備え付

    け、インラインでの Mg 濃度管理を検討した。尚、この高精度の濃度検出機構については特許

    出願済み(2 件)であるが、現時点で公開されていないため詳細については記載しない。以下

    に、取り組みの結果を示す。

    図 a-1.2 に、 Mg 二重希釈配管を用いて作製した 5 試料の Mg 添加 GaN に対する、Mg 濃

    度の深さ方向プロファイルを示す。Mg 濃度の深さ方向分析は二次イオン質量分析法(SIMS)

    によって計測された。深さ方向に均一な Mg 添加が確認された。これは、28 年度委託成果報告

    書に記載した流速を含めた反応ガスの流れ制御の効果である 1)。Mg 濃度の絶対値は、Mg の実

    効供給流量に応じて、2 × 1016 ~ 2 × 1018 cm-3 で変化した。Mg 濃度が最も低い試料(2 × 1016

    cm-3)の Mg 原料供給条件は流量制御下限ではなく、Mg 二重希釈配管図の設計上さらに 1/20

    の Cp2Mg 供給が可能であるため、1015 cm-3 の Mg 添加まで可能である。図 a-1.3 に、GaN 中

    Mg 濃度の Cp2Mg 供給量依存性を示す。横軸の Mg 供給量は Ga 原料のモル供給流量で規格化

    した値で表示している。低濃度側の 5 点(図 a-1.3 ●)は Mg 原料の二重希釈ラインを用いて作

    製した試料(図 a-1.2)の SIMS から得られた Mg 濃度の平均値であり、高濃度側の 3 点(図 a-

    1.3 ○)は高濃度域専用の Mg 供給配管を用いて作製した試料の SIMS データから得られた Mg

    濃度である。Mg 二重希釈配管と高濃度域専用配管の両方を用いて、1016 ~ 1020 cm-3 の広い Mg

    濃度範囲で供給量に応じた Mg 濃度制御を実現することができた。一連の配管改造の効果で、

    従来報告されている極微量の Mg 供給設定量に対して Mg が供給されない Drop-off 現象も見ら

    れない 2,3)。特に、Mg 二重希釈配管の導入効果で、しきい電圧制御に必要な Mg 濃度範囲

    (1016 ~ 3 × 1017 cm-3)を十分カバーすることができるようになった。

  • 12

    図 a-1.2 SIMS 分析から得られた GaN 中 Mg 濃度の深さ方向プロファイル

    図 a-1.3 GaN 中 Mg 濃度の Cp2Mg 供給量依存性

    1016

    1017

    1018

    1019

    1020

    10-6 10-5 10-4 10-3 10-2

    Mg 濃度

    (cm

    -3)

    Mg/Ga 供給モル比

    ○ 高濃度用配管● 二重希釈配管

    従来制御範囲

    VT 制御に必要な濃度範囲

  • 13

    図 a-1.4 に、SIMS によって測定した Mg 二重希釈配管導入前後の Mg 濃度の深さ方向プロ

    ファイルを示す。両者とも、表面からの深さ 0.7~2.1µ において深さ方向に均一な Mg 濃度添加を確認できた。この深さ領域の Mg 濃度の平均値はともに 3 × 1017 cm-3 以下であり、3 ~ 8

    V のしきい電圧制御に必要な Mg 濃度範囲にある。しかし、N=3 の深さ 0.8 ~ 2 位置での平均

    Mg 濃度のばらつきは、Mg 二重希釈配管導入前(28 年度)で(2.68 ± 0.57) × 1017 cm-3 に対し

    て、改造後(29 年度)では(2.13 ± 0.09) × 1017 cm-3 であった。ここで、±は標準偏差の値を表

    す。従来の Mg の絶対濃度に対するばらつき(変動係数)は 21%であったが、Mg 二重希釈配管

    導入前後 4%まで低減され、しきい値電圧を± 0.1 V に制御する許容値(5%以下)を満たし

    た。改造の前後では Mg 二重希釈配管の導入だけではなく、Cp2Mg 原料ボトルの形状変更も行

    っており、29 年度に達成した再現性の高い Mg 濃度添加の背景には、ボトル改良効果による

    Mg 原料安定供給効果も入っている。以上の結果から、Mg 添加の再現性向上が認められ、しき

    い値電圧の安定制御の基礎技術を構築できた。

    図 a-1.4 SIMS によって測定した Mg 濃度の深さ方向プロファイル

    次に、Mg 濃度検出機構の導入と、その効果について述べる。濃度検出器には市販の赤外分

    光(FT-IR)方式のものを用いた。図 a-1.5 に、濃度検出器の Cp2Mg 分圧出力値の時間推移を

    示す。図 a-1.5 には同一成長条件で 2 バッチ(バッチ番号 NTL3078, NTL3079)の成膜を行っ

    1015

    1016

    1017

    1018

    1019

    0 1 2

    Mg

    濃度

    (cm

    -3)

    表面からの深さ (m)

    Mg添加領域

    (2.13 0.09) 1017 cm-3N=3

    GaN:Mgi-GaNp+ n-

    1015

    1016

    1017

    1018

    1019

    0 1 2

    Mg

    濃度

    (cm

    -3)

    表面からの深さ (m)

    Mg添加領域

    (2.68 0.57) 1017 cm-3N=3

    GaN:Mgi-GaNp+ n-

    (a) 改造後(28年度) (b) 改造後(29年度)

  • 14

    た結果を重ねて表示した。FT-IR 方式の濃度検出器は、Cp2Mg 濃度を分圧出力値として出力す

    る。Cp2Mg 分圧は反応炉圧力に比例するため、同じ原料濃度であっても反応炉圧力が 2 倍の場

    合、Cp2Mg 分圧は 2 倍の値を示す。例示した結果の場合、昇温および第 1、第 3 層の n+層と p-

    GaN 層は反応炉圧力 300 Torr で成膜を行っており、第 2, 第 4 層の n 型 GaN(n-GaN)層と n+

    層は反応炉圧力 600 Torr で成膜を行っている。反応炉圧力 600 Torr で成膜を行った第 2, 第 4

    層の Cp2Mg 分圧値は、反応炉圧力 300 Torr の第 1, 第 3 層の 2 倍であり、分圧値を正しく検出

    できたことが分かる。また、異なる成膜バッチ間で Mg 原料の濃度検出器の分圧値の時間推移

    は完全に一致しており、Mg 二重希釈配管の導入と原料ボトル改良の効果で、Mg 原料供給濃度

    の再現性が得られたことが分かる。

    図 a-1.5 Cp2Mg 分圧出力値の時間推移

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    0:00:00 0:30:00 1:00:00 1:30:00 2:00:00 2:30:00濃度測定器の

    Cp 2

    Mg分

    圧値

    (m

    Torr

    )

    成長開始からの時間 (h: mm: ss)

    NTL3078NTL3079

    Mg ON Mg OFF

    n+ n- GaN p-GaN

    [Mg]=5 1017 cm-3

    n+昇温

    第1層

    第2層

    第3層

    第4層

  • 15

    図 a-1.6 に反応炉圧力 600 Torr における濃度検出器が示した Mg 原料分圧の Mg 原料供給

    濃度に対する依存性を示す。横軸の「計算上の Mg 供給分圧」は、キャリアガス流量と希釈濃

    度、および Cp2Mg 原料の蒸気圧から換算した計算値である。Mg 原料の供給濃度に比例して、

    分圧値が得られていることが分かる。これは、Mg 原料濃度に応じた濃度検出がなされているこ

    とを示している。一方で、濃度検出器が検出した分圧出力値は、計算上の出力値の 74 %であ

    る。この原因はいくつか考えられる。第 1 には換算に用いた Cp2Mg の蒸気圧式(文献値)に実

    験と乖離があること、第 2 には Cp2Mg は固体原料であるため水素キャリアガス中に飽和蒸気よ

    り低い濃度の Cp2Mg 原料しか取り出せていないこと、第 3 には Cp2Mg が輸送中に副反応を起

    こし、一部が他の化合物になっていることである。現状、これらの推定原因を特定する判断材

    料はないが、供給濃度に応じて分圧値を線形制御できていることから、供給不安定性はないと

    言える。図 a-1.6 に示すデータのうち、濃度の低い 2 点の供給条件について、二次イオン質量分

    析から得られた GaN 中 Mg 濃度値を合わせて示す。検出分圧が約 2 倍になると GaN 中 Mg 濃

    度が約 2 倍になることから、濃度検出器の分圧出力値は反応炉に供給された Mg 原料濃度を反

    映していると考えられる。最も濃度の低い GaN 中 Mg 濃度は 5.8 × 1016 cm-3 であり、このとき

    の濃度検出器の分圧出力値は 1.0 mTorr であった。これは濃度検出器の検出下限値 0.7 mTorr

    よりも高い。以上から、しきい電圧制御に必要な GaN 中 Mg 濃度 3 × 1017 cm-3 以下の範囲にお

    いて、本機構を用いて Mg 濃度の検出が可能であることが示された。

    図 a-1.6 濃度検出器の Mg 原料分圧の Mg 原料供給濃度に対する依存性

    0

    2

    4

    6

    0 2 4 6

    濃度検出

    器の

    Mg原

    料分圧 (m

    Torr

    )

    計算上のMg供給分圧 (mTorr)

    濃度計検出限界以下

    5.8 10

    VT 制御に必要な濃度範囲 1.2 10

    SIMS分析結果

    (∝ Mg原料供給濃度)

  • 16

    また、28 年度に作製した p-GaN 層には 1016 cm-3 台の炭素濃度が SIMS 分析から検出され

    ていた 1)。p-GaN 中で炭素の果たす電気的な役割については検討が必要であるが、一般的にア

    クセプタ以外の不純物は禁制帯中に深い準位を形成し、パワーデバイスの動的特性に悪影響を

    与える。以上から、炭素濃度は抑制されるべきで、少なくともアクセプタ Mg 濃度より十分低

    く保つ必要がある。n-GaN においては、高 V/III 比と成長温度の高温化、高成長圧力化で残留

    炭素濃度が抑制できることが知られている 4)。28 年度の委託成果報告書に示したように、p-

    GaN 中には n-GaN 中と同一の H1 正孔トラップが存在しており、成長中は n 型伝導を示してい

    る可能性が示された。この結果から、n-GaN とほぼ同じ手法でカーボン濃度の低減が可能と考

    え、検討を行った。図 a-1.7 に SIMS 分析から得られた p-GaN 層中の残留不純物の深さ方向プ

    ロファイルを示す。28 年度の成長条件に対して高成長温度化、高成長圧力化を行った結果、p-

    GaN 中の炭素濃度を従来よりも 1 桁低い(2-3) × 1015 cm-3 まで低減することができた。また、

    炭素濃度を 1017 cm-3 程度まで意図的に高められる成長条件も見い出した。以上のように、p-

    GaN 中の炭素濃度を制御できるようになったため、今後、p-GaN 中の残留炭素の電気的な役割

    について、定量的な検討を行う予定である。

    図 a-1.7 p-GaN 層中の残留不純物の深さ方向プロファイル(SIMS 分析結果)

    左) 28 年度の結果、右) 29 年度の結果

  • 17

    (1) 文部科学省 科学技術試験研究委託事業「省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研

    究開発」(パワーデバイス・システム領域)成果報告書(平成28年度)

    (2) Y. Ohba and A. Hatano: “A study on strong memory effects for Mg doping in GaN

    metalorganic chemical vapor deposition”, J. Cryst. Growth, 145 (1994) 214.

    (3) A. Cros, R. Dimitrov, H. Angerer, O. Ambacher, M. Stutzmann, S. Christiansen, M.

    Albrecht, and H.P. Strunk: “Influence of magnesium doping on the structural properties

    of GaN layers”, J. Cryst. Growth 181 (1997) 197.

    (4) G. Piao, K. Ikenaga, Y. Yano, H. Tokunaga, A. Mishima, Y. Ban, T. Tabuchi, and K.

    Matsumoto: “Study of carbon concentration in GaN grown by metalorganic chemical

    vapor deposition”, J. Cryst. Growth, 456 (2016) 137.

  • 18

    <p 型 GaN エピタキシャル成長技術と成長層に含まれる点欠陥の評価 2>

    平成28年度に、GaN 基板上 n+p GaN ダイオードを作製し、低 Mg 濃度(~2x1017 cm-3) p-GaN

    のトラップ評価を行った 1-5)。図 a-1.8 に、用いたダイオード構造を示す。容量の周波数依存性

    図 a-1.8 作製した n+p ダイオード構造

    図 a-1.9 n+p ダイオードの 1 MHz 容量 DLTS 信号

    から容量測定として周波数 1 MHz が使用できること、1 MHzCV 測定より空乏層が p-GaN に伸びて

    いること、また CV 測定より求めたイオン化アクセプタ濃度が Mg ドーピング濃度と一致してい

    ることを示した。これらのことは、作製した n+p GaN ダイオードの p-GaN 中トラップ評価に通常

    使用される測定周波数 1 MHz 容量 DLTS 測定が適用可能であることを示しており、p-GaN トラッ

    プの信頼できるデータが得られた。図 a-1.9 に、平成28年度に報告した DLTS 信号を再掲す

    Ti/Al/Ni/Au

    n+GaN substrate

    n+GaN

    p-GaN[Mg]=2 1017 cm-3

    p+GaN[Mg]=8 1019 cm-3

    Ni/Au

    0.1 m

    0.2 m

    0.7 m

    100 200 300 400 500

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    1201 MHzVa/Vr=0/-2(V)=191 ms

    DLT

    S si

    gnal

    (fF)

    , C (p

    F)

    Temperature (K)

    Hc

    Hd

    HeHf

    1MHz C-T

    [C]=1.4x1016 cm-3

  • 19

    る。4つの正孔トラップ Hc(0.46 eV)、Hd(0.88 eV)、He(1.0 eV)、Hf(1.3 eV)が観測されること

    はすでに示した(括弧内数値は価電子帯上エネルギー準位)。さらに、主トラップである Hdの

    エネルギー準位は n-GaN で観測される H1 正孔トラップの値と一致していることを示した。H1 ト

    ラップは、①そのトラップ濃度がカーボン濃度とともに増加すること 6)、②そのエネルギー準位

    が理論的に計算された窒素サイトカーボン(CN)アクセプタのエネルギー準位 Ev+0.90 eV7)に一致

    することから、CNと同定している。Hdトラップが H1 と同一トラップで CNであることを確認する

    ために、Hdトラップ濃度のカーボン濃度依存性を調べた。

    図 a-1.10 p-GaN 中 Hd トラップ濃度のカーボン濃度依存性。

    n-GaN 中 H1 トラップ濃度についても示した

    新たに作製した n+p ダイオードの p-GaN の SIMS 測定より得られたカーボン濃度は 4.7x1015、

    6.4x1015、1.6x1016 cm-3であり、平成28年度試料の 1.4x1016 cm-3を含め、4水準のカーボン濃

    度に対して Hdトラップ濃度を測定した。図 a-1.10 に、Hdトラップ濃度のカーボン濃度依存性を

    示す。Hdトラップ濃度はカーボン濃度とともに増加していることがわかる。図中には、すでに

    報告した n-GaN 中 H1 トラップ濃度のカーボン濃度依存性も示した。Hd、H1 とも同様のカーボン

    濃度依存性を示しており、両トラップは同一トラップであり、CNであると確認できる。また、

    図に示した点線はカーボン濃度=トラップ濃度を示しているが、Hd、H1 のトラップ濃度はほぼこ

    の線上にあることがわかる。この結果は GaN 中に成長中に混入したカーボンはほぼ 100%が CNに

    なることを示している。すでに報告したように n-GaN 中 H1 トラップ濃度はエピ面内で変動する

    ので、Hd トラップ濃度についても面内分布を評価し、さらに上記の結論①Hd、H1 は CNである、

    ②混入したカーボンはほぼ 100%が CNになる、を確認する予定である。

    1015 10161015

    1016

    Hd H1

    Nt (

    cm-3

    )

    Carbon concentration (cm-3)

    [C]=[Nt]

  • 20

    図 a-1.9 には、1 MHz 容量 DLTS 信号に加えて容量の温度依存性を示した。容量は 150 K 付近で

    温度低下とともに急激な減少を示し、その後一定の値を示している。この温度依存性は、Mg ア

    クセプタの温度低下に伴う不活性化により起こる。ダイオードの交流等価回路は空乏層容量に

    よるリアクタンス 1/ωC と中性領域の抵抗 R の直列回路で表され、キャパシタンスメータ

    (Boonton 7200)ではこれを Cmと Gmの並列回路で周波数 1 MHz で測定している。CV、DLTS では空

    乏層幅を測定するためには空乏層容量を測定しなければならない。1/ωC>>R なら Cm=C となる

    が、1/ωC

  • 21

    容量 DLTS 測定を低温度領域で行うには、低温でも 1/ωC>>R を満足させる必要がある。そのた

    めには容量測定周波数を下げて 1/ωC を大きくすればよい。例えば 1 kHz とすれば 1 MHz に比

    べリアクタンスは 1000 倍大きくなるので、測定可能温度が低温側に移動することが期待でき

    る。1 kHz で容量の温度依存性を測定したところ、DLTS の測定温度範囲が 120 K まで低温に拡

    張できることがわかった。図 a-1.12 に、ロックインアンプと電流/電圧変換器からなる低周波容

    量 DLTS 測定系を示す。ロックインアンプの動作周波数は 0.5 Hz~100 kHz であるので、この範

    囲での容量測定が可能である。

    図 a-1.12 低周波容量 DLTS 測定系

    図 a-1.13 n+p ダイオードの 1 kHz 容量 DLTS 信号

    50 100 150 200 250 300 350 400

    0

    20

    40

    60

    80

    Hd

    Hc

    DLT

    S si

    gnal

    (fF)

    , C (p

    F)

    Temperature (K)

    1 kHzVa/Vr=0/-2(V)=191 ms

    Ha

    Hb

    1kHz C-T[C]=1.4x1016 cm-3

  • 22

    図 a-1.13 に、容量測定周波数 1 kHz を用いた DLTS 信号を示す。図中に示した容量の温度依存

    性より、先に述べたように DLTS 測定可能温度範囲が 120 K まで低温に拡張できていることがわ

    図 a-1.14 p-GaN 正孔トラップ Ha、Hb の2T のアレニウスプロット。

    参考に、すでに報告した Hc、Hd、He、Hf のアレニウスプロットも示した。

    表 a-1.1 p-GaN([C]=1.4x1016 cm-3)正孔トラップのトラップパラメータ

    Trap

    Energy

    level

    (eV)

    Hole capture

    cross

    section (cm2)

    Trap concentration

    (cm-3)

    Ha E

    v+0.29 1.2x10

    -14 8.1x10

    15

    Hb E

    v+0.33 6.5x10

    -15 4.0x10

    15

    Hc E

    v+0.46 2.1x10

    -15 9.1x10

    14

    Hd E

    v+0.88 7.5x10

    -14 1.7x10

    16

    He E

    v+1.00 2.9x10

    -14 2.1x10

    15

    Hf E

    v+1.30 9.3x10

    -15 2.7x10

    15

    2 3 4 5 6 7 8102

    103

    104

    105

    106

    Hb Ha

    Hf

    He

    Hc

    Hd

    T2 [

    s K2 ]

    1000/T [K-1]

    Hole Traps

  • 23

    かる。正孔トラップ Ha、Hbが 1 kHz 容量 DLTS 信号で明瞭に観測されている。また Haは主トラッ

    プ Hdに匹敵する大きな信号である。図 a-1.14 に、Ha、Hbの のアレニウスプロットを示した

    (τ は正孔熱放出時定数)。参考に、すでに報告した Hc、Hd、He、Hfのアレニウスプロットも示し

    た。表 a-1.1 にエネルギー準位、正孔捕獲断面積、トラップ濃度を示した。今後、濃度の高い

    Hd、Haトラップのオリジンについてさらに議論を深めていく予定である。

    参考文献

    1) 小木曽達也、上田聖悟、徳田豊、成田哲生、富田一義、加地徹、“DLTS 測定による GaN 基板

    上MOCVD p++p-n+ GaNのトラップ評価”、第64回応用物理学会春季学術講演会、16a-P4-2-S (2017).

    2) Y. Tokuda、K. Kogiso、T. Narita、 K. Tomita、T. Kachi, “Detection of hole traps in

    p-type GaN using pn junction grown by MOCVD on n-type GaN substrate”,EMRS Fall Meeting,

    P.7.3 (2017).

    3) 小木曽達也、徳田豊、成田哲生、富田一義、加地徹、“GaN 基板上 MOCVD p-GaN の電子トラッ

    プ”第 78 回応用物理学会秋季学術講演会、7a-S22-7 (2017).

    4) T. Narita, Y. Tokuda、K. Kogiso、K. Tomita、T. Kachi, “The trap states in lightly

    Mg-doped GaN grown by MOVPE on a freestanding GaN substrate”, to be published in J.

    Appl. Phys.

    5) 小木曽達也、徳田豊、成田哲生、富田一義、加地徹、“低周波容量 DLTS 測定による MOCVD p-

    GaN のトラップ評価”第 65 回応用物理学会春季学術講演会、19a-C302-9 (2018).

    6) Y. Tokuda, “DLTS studies of defects in n-GaN”, ECS Transactions 75, 39 (2016).

    7) J. L. Lyons, A. Janotti, and C. G. Van de Walle: “Effects og carbon on the

    electrical and optical properties of InN, GaN, and AlN”, Phys. Rev. B 89, 035204

    (2014).

    8) Y. Tokuda, T. Shibata, H. Naitou, T. Katou, M. Katayama, “Current Deep Level

    Transient Spectroscopy with a bipolar rectangular weighting function to detect traps

    in organic light emitting diodes”, MRS Fall Meeting, U3.11 (2011).

  • 24

    <n 型 GaN エピタキシャル成長技術と成長層に含まれる点欠陥の評価>

    パワーデバイスにおいて耐圧の保持を担う n 型 GaN(n-GaN)ドリフト層のエピタキシャ

    ル成長技術は、前述の低濃度 p 型層の成長技術と並んで、もう1つの大きな研究課題である。

    車載用途等で最も大きな市場の見込まれる 1200 V の耐圧を実現するためのドリフト層厚さは最

    低でも 5 μm であり、エピタキシャル成長層全体の層構造の実に 7 割以上を占める。これはドリ

    フト層の成長速度が、スループットを含めた製造コストに転化されることを意味している。一

    方で、n-GaN ドリフト層に含まれる点欠陥は深い準位を形成し、ドリフト層の保持する耐圧を

    設計よりも低下させる、またはオン抵抗を上昇させる等の悪影響を与える。また、伝導帯下端

    から 1 eV 以内に形成される点欠陥準位は、パワーデバイスの動作温度(室温~200℃)におい

    てマイクロ秒~数分の過渡的な応答を示し、パワーデバイスのスイッチング動作の時間変動を

    もたらすと考えられる。このような点欠陥の起源の同定と撲滅は、GaN の物性限界を引き出し

    て、省エネルギー効果を最大限に発揮できるパワーデバイスを創生する上で欠くことができな

    い。よって、高成長速度、かつ高品質の n-GaN エピタキシャル成長技術の研究が必要とされて

    いる。n-GaN 中でキャリアを補償してオン抵抗を増加させる要因としては、GaN 中の窒素サイ

    ト炭素(CN)の形成する H1 正孔トラップ(EV + 0.9 eV)だけでなく、E3 電子トラップ(EC

    -0.6 eV)が寄与することが最近報告された 1)。一方で、パワーデバイスのドリフト層として、

    炭素濃度、および E3 電子トラップ濃度をどこまで減らすべきか、その指針は明確でなく、29

    年度はまず、この点について考察を行った。

    図 a-1.15 に炭素低減目標に対する考え方を図示する。n-GaN ドリフト層に一定濃度の炭素

    が存在する場合、存在しない場合に比べてパワーデバイスのオン抵抗は増加する。オン抵抗の

    増加要因には A)イオン化不純物散乱による移動度の低下 2,3) と B)キャリア補償の2つがある。

    まず、移動度の低下について考察するために、図 a-1.16 にキャリアを補償するアクセプタ濃度

    と移動度の関係を示す。移動度モデルは、NEDO の戦略的イノベーション創造プログラムにて

    構築したものを活用した。図 a-1.16 から、移動度低下によるオン抵抗増加を 10%以下に抑えた

    い場合、アクセプタ濃度を 8 × 1015 cm-3 以下に抑制すべきであることが分かる。ここでいうア

    クセプタ濃度は、炭素濃度だけでなく、n-GaN ドリフト層に含まれる電子を捕獲する点欠陥の

    総濃度であることに注意したい。したがって、炭素濃度と E3 電子トラップ濃度の総和が 8 ×

    1015 cm-3 以下であることが求められる。自己補償効果など 1) 他の無視できない補償要因が存在

    する場合は、それも考慮する必要がある。一方で、炭素によるキャリア補償については、補償

    される分だけドナー濃度を上積みして、実効ドナー濃度(Nd-Na)をもとに耐圧設計をすること

    ができる。議論を単純にするために、E3 電子トラップなど他の補償要因の影響を無視し、かつ

    取り込まれた炭素の全てがアクセプタとして働くと仮定する([C]=Na)。ここで重要なのが、

  • 25

    炭素濃度の実効ドナー濃度に対するばらつきである。例えば、炭素濃度がウエハー面内および

    MOVPE 成長のロット間で 30%のばらつきを持つ仮定する。炭素濃度のばらつきが、実効ドナ

    ー濃度の 10%以内であれば、オン抵抗の増加、または耐圧低下を 10%以下に抑えることができ

    る。n-GaN ドリフト層の実効ドナー濃度はパワーデバイスの設計耐圧によって異なるから、素

    子耐圧ごとに分けて考える。600V 級デバイスの場合、実効ドナー濃度は 2 × 1016 cm-3 であるか

    ら、炭素濃度のばらつきは 10%の 2 × 1015 cm-3 まで許容でき、炭素濃度のばらつきが 30%なら

    ば、炭素濃度の絶対値は 6.6 × 1015 cm-3 まで許容できる。同じ理屈で、1200V 級と 3300V 級デ

    バイスの許容炭素濃度(絶対値)はそれぞれ、3.3 × 1015 cm-3 と 1.3 × 1015 cm-3 と試算できる。

    28 年度の委託業務成果報告書に示したように、現状の MOVPE 技術の炭素濃度低減限界は 3 ×

    1015 cm-3 であるから、600V 級と 1200V 級デバイスは成立する。ただし、1200V 級の 3.3 ×

    1015 cm-3 の炭素濃度を実現するための MOVPE 法の成長速度は 2.3 μm/hr 程度に留まってお

    り、かつ 1200V 級デバイスでは最低でも 5 μm 以上の n-GaN ドリフト層成長が必要だから、製

    造のスループットの点で課題がある。一方で、3300V 級のパワーデバイスの要求を満たす n-

    GaN 中炭素濃度は、現状の MOVPE 技術では未達の領域であり、ブレイクスルーを必要とする

    ことが明らかとなった。

    以上は、炭素濃度の低減目標を定めるための基本的な考え方である。現実の MOVPE 成長

    では、上記で述べたばらつきを様々な要因に分けて考える必要がある。例えば、炭素濃度のウ

    エハー面内ばらつきについては、世の中でも議論が始まったばかりである。Horikiri らは、炭

    素濃度が基板のオフ角に依存することを報告した 3)。現状のハイドライド気相成長(HVPE)法

    で作製した GaN 基板は、異種基板上のヘテロエピタキシャル成長層を種結晶としているため、

    GaN 基板成長中の反りの影響でオフ角の面内分布が存在し、炭素濃度も面内分布をもつ。した

    がって、オフ角分布のない GaN 基板を作製する技術が求められる。これが達成されたとして

    も、MOVPE 成長環境における、ウエハー面内の温度分布、ガス分布とその再現性を制御する

    必要があり、製造の観点からさまざまな研究が必要である。

  • 26

    図 a-1.15 炭素(C) 濃度低減目標の考え方

    図 a-1.16 キャリアを補償するアクセプタ濃度と移動度の関係

    0

    1x1016

    2x1016

    3x1016

    600V級 1200V級 3000V級

    Si濃

    度 (

    cm-3

    )

    許容C濃度

    ND-N

    A

    設計値

    +30 %

    -30 %

    A)移動度5%低下

    [C]上振れRON 10%Up

    [C]下振れ耐圧 10%Down

    許容 C 濃度 . . .

    A) 移動度低下 オン抵抗RON増大: 5%以内: [C] < 8 10B) C濃度の振れ RON、耐圧の振れ: 10%以内: 設計耐圧に依存

    C濃度仕様の決定因子

    【前提条件】

    • 30%以内のC 濃度振れ幅(面内、ロット間)を想定

    • C濃度分だけ、Siドナー濃度を上乗せして設計

    一定

    問題なし◎

    可能 ○成長速度に課題

    現状未達

    ×B) C濃度の振れ考慮

    1014 1015 1016 10171000

    1100

    1200

    1300

    1400 300 K

    Compensating Acceptor / cm-3

    Ele

    ctro

    n M

    obilit

    y / c

    m2 /

    Vs

    Nd-Na = 1x1015cm-3 5x1015cm-3 1x1016cm-3 2x1016cm-3

  • 27

    次に、GaN 中窒素サイト炭素(CN)と E3 電子トラップの電気的な役割の違いについて考

    察する。順バイアス下では、CN も E3 電子トラップも同じように電子を捕獲してキャリアを補

    償する。また、キャリアを捕獲した CN および E3 電子トラップはイオン化しているから、イオ

    ン化不純物散乱による移動度低下を同様に引き起こす。すなわち、オン抵抗増加に対して両者

    は同等の効果を持つ。逆バイアスを印加した場合、両者の振る舞いは異なる。その理由を図 a-

    1.17 で説明する。CN は EV + 0.9 eV に準位を形成するから 4,5)、伝導帯下端からみてエネルギ

    ー的に極めて深く、現実的なパワー半導体の使用時間内に捕獲された電子が放出されることは

    ない(図 a-1.17(a))。だから、炭素起因のアクセプタに対しては、耐圧設計は実効ドナー濃度

    (Nd-Na)で設計すればよく、図 a-1.15 の議論で示したように炭素濃度分だけ n-GaN ドリフト

    層のドナー濃度を上積みすれば、オン抵抗の増加を回避できる。これに対して、E3 電子トラッ

    プは Ec-0.6 eV の比較的浅い位置に準位を形成する 1,5,6)。逆バイアスを印加したとき、E3 電

    子トラップに捕獲された電子はわずか数百ミリ秒(室温)で放出される(図 a-1.17(b))。した

    がって、耐圧設計はイオン化ドナー濃度によって決まり、E3 電子トラップを起源とするアクセ

    プタは耐圧に寄与しない。言い換えれば、E3 電子トラップ濃度の分だけドナー濃度を上積みす

    ると、耐圧低下が起こる。したがって、E3 電子トラップ濃度は極力低く保つことが好ましい。

    以上のように、キャリア補償要因ごとに、デバイスから要求される低減指針は異なることが明

    らかとなった。

    図 a-1.17 GaN 中カーボンと E3 電子トラップの逆バイアス電圧下での振る舞い

    逆バイアス下で電子を捕獲

    (a) GaN中カーボン(CN)

    逆バイアス下で電子を放出

    (b) GaN中E3電子トラップ(EC – 0.6 eV)

    CN

    Nd+p+GaN

    n--GaNEC

    EV

    ++ + +++ + ++++ + + +

    2⁄補償分だけNdを増す設計可

    2⁄Ndを増すと耐圧低下:撲滅すべき欠陥

    E3Nd+p+GaN

    n--GaNEC

    EV

    + + + + + ++ + + –+

  • 28

    MOVPE 法において、GaN 中炭素濃度を低くすると E3 電子トラップ濃度が増加する逆相

    関の関係が報告されている 1,6)。これが本質的な現象ならば、アクセプタ濃度を低く保つ上で重

    大な課題である。Tokuda らは、高 V/III 比条件で CN 欠陥準位である H1 正孔トラップ濃度が

    減少し、逆に E3 電子トラップ濃度が増加することを報告した 7)。一方で、高圧力条件では H1

    濃度と E3 濃度はともに減少することを示した 7)。この結果は、炭素濃度と E3 電子トラップ濃

    度の逆相関は本質的ではなく、成長パラメータを介した擬相関である可能性を示唆している。

    以上から、V/III 比以外のパラメータを用いて、炭素濃度を増加させずに、E3 電子トラップ濃

    度の低減が可能であると考えられる。

    そこで、炭素濃度を増加させずに、E3 電子トラップ濃度を低減できる成長条件の探索に取

    り組んだ。E3 電子トラップ濃度は等温度過渡容量(ICTS)法を用いて決定した。図 a-1.18 に

    2 ンチウエハーを 4 分割した試料の E3 電子トラップ濃度のマップを示す。成長条件 A、B の炭

    素濃度はともに 3×1015 cm-3 であるが、E3 電子トラップ濃度の面内平均値は成長条件 A では約

    1015 cm-3 に対して、成長条件 B では 7.2×1013 cm-3 であった。1200 V 級のパワー半導体の n 型

    ドリフト層のドナー濃度は~1016 cm-3 であるから、成長条件 B の E3 電子トラップ濃度は十分低

    く抑制されたと言える。以上から、炭素濃度と E3 電子トラップ濃度の逆相関は擬相関の可能性

    が高く、炭素濃度を増加させずに E3 電子トラップ濃度を抑制できることを明らかにした。

    図 a-1.18 E3 電子トラップ濃度の面内分布

    次に、n 型ドリフト層の成長速度を現状より向上させる取り組みについて示す。28 年度の

    委託業務成果報告書に示したように、炭素濃度低減と成長速度の向上はトレードオフの関係に

    ある。成長速度は原料のトリメチルガリウム(TMGa)の供給分圧に比例するため、炭素濃度低

  • 29

    減のための高 V/III 比条件の適用は TMGa 供給分圧を低下させ、成長速度を低下させるからで

    ある。28 年度までの実力値としては、炭素濃度 3×1015 cm-3 に対して成長速度は 2.3 μm/hr に

    留まっていた。そこで、TMGa 分圧を低下させずにアンモニア分圧を高めて、V/III 比を高める

    試みを行った。図 a-1.19 に成長速度と炭素濃度の関係を示す。■の従来条件の TMGa 利用効率

    が 5.7%であるのに対して、●で示した新条件の TMGa 利用効率は 8.6%まで高まった。この高

    成長効率化の効果によって、例えば従来条件と同じ炭素濃度(3×1015 cm-3)を許容するなら、

    成長速度を 4.3 μm/hr と従来の約 2 倍まで高めることができる。また、成長速度を従来と同程

    度に保つなら、炭素濃度を 2×1015 cm-3 まで低減できることが分かった。

    図 a-1.19 成長速度とカーボン濃度の関係

    しかしながら、成長速度一定条件下での炭素濃度低減は、従来よりも高 V/III 比を用いるた

    め、別の問題が生じることが分かった。図 a-1.20 に高 V/III 比条件で作製した n-GaN の微分干

    渉顕微鏡像を示す。図 a-1.20 からわかるように、結晶表面にマクロステップが出現した。これ

    は、成長初期のステップバンチングが進行した結果であり、マクロステップの高さは成長時間

    (ドリフト層膜厚)とともに増大する。このようなモフォロジーは、パワー半導体の pn 接合位

    1x1015

    3x1015

    5x1015

    7x1015

    1 3 5 7

    Car

    bon

    conc

    entra

    tion

    (cm

    -3)

    Growth Rate (m/hr)

    ノイズのため高めに検出

    高成長速度化

    C低減

    新条件TMGa効率

    8.6%

    従来条件TMGa効率

    5.7%

  • 30

    置に面内揺らぎを与え、予期せぬ電界集中の原因となる。しかし、ホモエピタキシャル成長で

    ステップバンチングが発生するメカニズムは明らかでなく、さらなる研究が必要である。

    図 a-1.20 高 V/III 比条件に表れるマクロステップ

    参考文献

    (1) N. Sawada, T. Narita, M. Kanechika, T. Uesugi, T. Kachi, M. Horita, T. Kimoto, J.

    Suda: “Sources of carrier compensation in metalorganic vapor phase epitaxy-grown

    homoepitaxial n-type GaN layers with various doping concentrations”, Appl. Phys.

    Express 11 (2018) 041001.

    (2) E.C. H. Kyle, S.W. Kaun, P.G. Burke, F. Wu, Y.R. Wu, and J.S. Speck: “High-electron-

    mobility GaN grown on free-standing GaN templates by ammonia-based molecular

    beam epitaxy”, J. Appl. Phys. 115 (2014) 193702.

    (3) F. Horikiri, Y. Narita, T. Yoshida, T. Kitamura, H. Ohta, T. Nakamura, and T. Mishima:

    “Wafer-level nondestructive inspection of substrate off-angle and net donor

    concentration of the n--drift layer in vertical GaN-on-GaN Schottky diodes”, J. Jpn.

    Appl. Phys. 56, (2017) 061001.

    (4) J. L. Lyons, A. Janotti, and C. G. Van de Walle: “Effects of carbon on the electrical and

    optical properties of InN, GaN, and AlN”, Phys. Rev. B 89, (2014) 035204.

  • 31

    (5) Y. Tokuda, Proc. Int. Conf. Compound Semiconductor Manufacturing Technology:

    “Traps in MOCVD n-GaN Studied by Deep Level Transient Spectroscopy and Minority

    Carrier Transient Spectroscopy”, 2014, p. 19.

    (6) T. Tanaka, N. Kaneda, T. Mishima, Y. Kihara, T. Aoki, and K. Shiojima: “Roles of

    lightly doped carbon in the drift layers of vertical n-GaN Schottky diode structures on

    freestanding GaN substrates”, Jpn. J. Appl. Phys. 54 (2015) 041002.

    (7) Y. Tokuda: “DLTS Studies of Defects in n-GaN”, ECS Trans. 75 [4] (2016) 39.

  • 32

    <点欠陥準位に起因する過渡応答>

    点欠陥準位に起因する過渡応答と、パワーデバイスのスイッチング動作の時間変動への影

    響を調査した。過剰キャリアライフタイム測定により、スイッチング動作に影響する欠陥準位

    の動的な電気特性変化を観測できる。厚み 10 μm、Si ドーピング濃度: 5.0×1016 cm-3を有する

    n 型 GaN エピタキシャル成長試料に対して、時間積分のフォトルミネッセンススペクトル測定、

    そして時間分解フォトルミネッセンス(TR-PL)法および、マイクロ波光導電減衰(μ-PCD)法を

    行った。励起光源は全て波長 266 nm の第四高調波 YAG レーザ(パルス幅 1 ns)である。図 a-

    1.21 に測定された PL スペクトルを示す(これらの結果は一部昨年度の報告書と重複するが、本

    報告書の読解を助けるために再掲する)。スペクトルにおいてバンド端付近(365 nm)の発光は

    強いため、測定値が飽和している。一方で、波長 570 nm (2.2 eV)付近にピークを持つブロード

    な発光、イエロールミネッセンス(YL)も観測された 1)。

    図 a-1.21 n 型 GaN から得られた PL スペクトル。挿入図は同試料から得られた TR-PL

    (LPF あり、なし)および μ-PCD 信号(ピークで規格化)

    この PL スペクトルを基に、TR-PL 測定を実施した。8.5×1013 cm-2のフォトン密度で試料に

    照射した場合の PL を光電子増倍管で受光し、オシロスコープでその時間変化を観測した。この

    とき、フィルタ無しで全てのスペクトルを受光する場合と、461 nm 以上の波長を通過するロン

    グパスフィルタ(LPF)を使用し、YL 成分のみを受光する場合とで測定を実施した。図 a-1.21 内

    の挿入図に、TR-PL 信号をピークで規格化した結果を示す。LPF の有無にかかわらず、約 0.2

    μs までの速い減衰とそれ以降の遅い減衰の二つの異なる減衰成分が見られた。また、速い減衰

    の割合は LPF の有無で異なり、LPF 無しの方が速い減衰の割合は大きかった。またこの図には

  • 33

    10 GHz のマイクロ波を試料に照射し、その反射強度変化をオシロスコープにより観測した μ-

    PCD の結果も示している。μ-PCD でも TR-PL の結果と同様に、初期の速い減衰と遅い減衰が観

    測された。なお、このような光導電性の遅い減衰は、少数キャリアが注入されるデバイスにお

    いて、ターンオフ後のリークを引き起こす可能性が高いため、この原因を突き止め抑制する必

    要がある。

    そこで遅い減衰の時定数をより明確にするために、図 a-1.22 に示すように TR-PL と μ-PCD

    の減衰曲線を両対数プロットした。両対数プロットでは時定数に対応する時間で、肩のような

    曲線が得られる。その結果、TR-PL の遅い成分は LPF の有無に関わらず、2 つの肩を示す曲線が

    得られた。LPF 有りの場合では YL しか検出していないため、TR-PL の遅い成分は YL によるもの

    だと考えられる。また、TR-PL の曲線において、時定数 200-260 μs の Component 1 と時定数

    1-10 μs の Component 2 という 2 つの時定数成分が現れた。一方、μ-PCD から得られた曲線に

    は時定数 1-10 μs の Component 2 に似た成分のみが現れ、Component 1 と同様の成分は確認で

    きなかった。μ-PCD は TR-PL に比べ SN が悪いため断定は難しいが、電気伝導に影響する欠陥準

    位は TR-PL で Component 2 として現れる発光成分に関連していることを示唆している。

    図 a-1.22 n 型 GaN から得られた TR-PL および μ-PCD 減衰曲線の両対数プロット

    遅い成分は一般に、少数キャリアトラップとして振る舞う欠陥準位により引き起こされる

    と考えられている 2)。光励起されたキャリアは、バンド間で再結合するが、少数キャリアトラッ

    プが存在すると、少数キャリアがトラップされるためバンド内にいなくなり、過剰な多数キャ

    リアと再結合する相手がいなくなる。そして少数キャリアがトラップよりバンドに熱励起・放

    出されると、多数キャリアは少数キャリアと再結合することができる。したがって、このモデ

    ルでは遅い減衰の時定数は温度依存性を示し、温度が高くなると時定数が短くなる。昨年度ま

    でに μ-PCD 減衰曲線の温度依存性を 250℃まで測定していたが、今年度においては SN の良い

    TR-PL w/o LPF

    Component 1

    TR-PL w LPF

    -PCD

    Component 2

  • 34

    LPF 有り場合の TR-PL により 350℃までの温度依存性を測定した。その結果を図 a-1.23 に示す。

    温度が上がるにつれて、Component 2 の大きさが小さくなり、200℃以上ではほとんど見えなく

    なった。一方、Component 1 に関しては、図中の赤矢印で示すように 200℃以上で時定数が短く

    なっており、350℃では 1-10 μs 程度の時定数になった。

    図 a-1.23 n 型 GaN から得られた TR-PL 減衰曲線の温度依存性(LPF 有り、両対数プロット)

    この Component 1 の時定数の温度依存性を抽出し、図 a-1.24 に◯として示した。得られた

    時定数の温度依存性に対して、計算モデルによるフィッティングを行った。モデルは、試料と

    同じドナー濃度 51016 cm-3を有する n 型 GaN に対して、再結合中心(エネルギー準位 ER = EV +

    1.7eV および電子捕獲断面積n = 正孔捕獲断面積p = 10-15 cm2)と、正孔トラップの2つの準

    位を導入したものである。ここで再結合中心は特定の準位を模したわけではなく、すべての再

    結合成分をまとめたものとして設定しており、その濃度 NRはパラメータとした。一方、正孔ト

    ラップには炭素との関連が示唆されている H1 トラップを参考にし 2)、エネルギー準位 ET = EV +

    0.88eV、p = 210-13cm2とした。またトラップの濃度 NTをエピ中の炭素濃度に近い 31015cm-3と

    した。そして、励起されたキャリア(濃度 Δn=11016cm-3)のそれらの準位への捕獲・放出によ

    る、伝導帯中の電子濃度 n と価電子帯中の正孔濃度 p の時間変化を計算し、n と p から見積もら

    れる TR-PL 信号(np)を出力した。図 a-1.25 にこのモデルのバンド表現による模式図を示す。

    正孔がトラップされている間、励起された電子が再結合する相手がいないため、伝導帯に残り

    続け、遅い減衰が起こるというモデルである。

  • 35

    図 a-1.24 TR-PL 減衰曲線における Component 1 の時定数の温度依存性

    ◯は実験値、曲線は計算値

    図 a-1.24 にこのモデルによる計算値を曲線によって示す。実験値は図 a-1.23 で示したよう

    に 1000/T=2.2(450 K)程から温度とともに減少している。計算値も NRに若干依存するものの実

    験値とほぼ同じ温度から減少したが、実験結果を最も再現する NRは 51015cm-3であった。ま

    た、450 K 以下の時定数(220s)を再現するnは 310-21cm2となり既報値 1.410-22cm2に近い

    ものとなった 4) 。したがって、TR-PL 信号の遅い減衰のうち Component 1 は H1 のような正孔ト

    ラップを有するモデルにより再現でき、450 K 以下の減衰は正孔トラップへの電子捕獲により律

    速されている可能性が高いことがわかった。

    なお、過去の報告を考慮すると H1 トラップは窒素サイト置換の炭素 CNの荷電状態-/0 の準

    位(価電子帯端から 0.9-1.1 eV の深いアクセプター準位)である可能性が高い 5-7) 。一方で、

    CNには荷電状態 0/+の準位も存在すると言われており、その位置は荷電状態-/0 の準位よりも浅

    く、価電子帯端から 0.35-0.43 eV にあると予想されている 6,7)。TR-PL での遅い減衰の

    Component 2 は Component 1 に比べ時定数が短いことから、CNの荷電状態 0/+の準位による可能

    性が考えられる。Component 2 は-PCD でも観測されることから電気特性において重要であり、

    今後は CNの上記2種類の荷電状態の準位を考慮したモデルを立て、Component 2 を再現可能か

    検証する予定である。

    1

    10

    100

    1000

    1.5 2.5 3.5

    Tim

    e co

    nsta

    nt (

    s)

    1000/T (K-1)

    n=110-21 cm2

    n=510-21 cm2

    NR=51016 cm-3

    NR=51014 cm-3

    n=310-21 cm2NR=51015 cm-3

  • 36

    図 a-1.25 Component 1 を再現する計算に用いたモデル

    再結合 正孔捕獲

    熱放出(450 K以上)

    H1(CN-?)EV+0.88 eVσp=2x10-13 cm2

    その他の再結合成分(熱放出された正孔と電⼦が再結合)

    電⼦は捕獲されにくい(σnが⾮常に⼩さい)

    電⼦が伝導帯に残る

    EV

    EC

  • 37

    参考文献

    (1) M. A. Reshchikov, and H. Morkoç: “Luminescence properties of defects in GaN”, J.

    Appl. Phys. 97, (2005) 061301.

    (2) M. Ichimura: “Temperature dependence of a slow component of excess carrier decay

    curves,” Solid. State. Electron. 50, 1761 (2006).

    (3) Y. Tokuda: “DLTS studies of defects in n-GaN”, ECS Transactions, 75 (2016) 39.

    (4) A.Y. Polyakov, N.B. Smirnov, E.B. Yakimov, S.A. Tarelkin, A. V. Turutin, I. V.

    Shemerov, S.J. Pearton, K. Bin Bae, and I.H. Lee: “Deep traps determining the non-

    radiative lifetime and defect band yellow luminescence in n-GaN”, J. Alloys Compd.

    686, 1044 (2016)

    (5) J. Lyons, A. Janotti, and C. G. Van De Walle: “Carbon impurities and the yellow

    luminescence in GaN”, Appl. Phys. Lett. 97, 152108 (2010).

    (6) J. L. Lyons, A. Janotti, and C. G. Van de Walle: “Effects og carbon on the

    electrical and optical properties of InN, GaN, and AlN”, Phys. Rev. B 89 (2014)

    035204.

    (7) D. O. Demchenko, I. C. Diallo, and M. A. Reshchikov: “Yellow luminescence of

    gallium nitride generated by carbon defect complexes”, Phys. Rev. Lett. 110, 087404

    (2013)

  • 38

    <n 型 GaN 中の正孔トラップの定量化>

    GaN 縦型パワーデバイスの実現に向けて高品質なホモエピタキシャル成長は欠かすことができ

    ない。最も一般的に用いられている MOVPE 成長ホモエピタキシャル GaN における課題は真性点

    欠陥や残留不純物に起因するトラップ準位の低減である。

    取り込まれた炭素のうち補償アクセプタとして振る舞うものの存在割合を定量化すること

    は、物理分析から得られる残留炭素と電気的な補償効果を結びつけるために必要である。ま

    た、炭素以外の補償アクセプタ(Ga 空孔等)の存在濃度の定量も重要である。H1 トラップに代表

    される n 型 GaN 中に存在する少数キャリアトラップは、MCTS 法によって評価される。通常の

    MCTS 法はバンドギャップより光子エネルギーの大きな光を照射し、光照射により生成された電

    子-正孔対のうち、正孔が正孔トラップに捕獲され、その後、光照射を停止以降の正孔トラップ

    からの正孔の熱放出過程(過渡容量変化)を測定する。この手法では、電極直下に生成される少

    数キャリアの量が測定条件によって一定になりにくく、試料間のある程度の相対比較は可能で

    あるものの、トラップ濃度の絶対的な定量が難しいという課題があった。すなわち、n 型 GaN 中

    の正孔トラップの定量化は、それ自体が研究課題である。

    当研究グループでは、バンドギャップに満たない光子エネルギーの光(サブバンドギャップ光)

    を用いた正孔トラップ評価手法について取り組んでいる。サブバンドギャップ光は電子-正孔対

    の生成には不十分であるが、バンドギャップより若干低エネルギーの光源を選べば、正孔トラッ

    プから伝導帯への励起が可能であり、正孔非占有状態(電子占有状態)のトラップを正孔占有状態

    (電子を伝導帯に励起して空にする)ことができる。サブバンドギャップ光は、GaNでほとんど吸収

    されないため、裏面で反射し、GaN層全体にほぼ均一にサブバンドギャップ光が届くことになる。

    よって、電極下部の空乏層全体で正孔捕獲させることが可能であり、絶対量評価に適した手法で

    あるといえる。平成28年度までの成果として、GaNの主要な正孔トラップであるH1トラップに対し

    て、サブバンドギャップ光を用いた光励起ICTS測定評価が可能であり、その評価結果は電極径に

    よらないことを示した。すなわち、サブバンドギャップ光照射によって、H1トラップは空間的に

    均一に正孔占有状態にできていることを明らかにした。しかしながら、本手法を用いてH1トラッ

    プの絶対量の算出を行うには、いくつかの課題が存在する。絶対量算出には、H1トラップに関す

    るいくつかのパラメータが必要であるが、それらは現状明らかになっていない。平成29年度は、

    これらのパラメータを確定することを目標として、評価用デバイスの作製および詳細な測定、解

    析を行った。

  • 39

    様々な条件で成長したエピ層に対して、本手法を用いてH1トラップの絶対量評価を行うことを

    考えると、図a-1.26(a)に示すように、ショットキバリアダイオード(SBD)に対して光励起ICTS測定

    を行うのがデバイス構造の観点で簡便である。この場合、光励起ICTSで得られるトラップ密度

    NT,OICTSは、見かけのトラップ密度であり、真のトラップ密度NTに対して、NT,OICTS = fT NTの関係が

    ある。fTは、光照射時におけるトラップの正孔占有率であり、NTを算出するには、fTが既知である

    必要がある。ここで、fTは、fT(T) = eno / (eno + epo + ent(T))で表される。eno、epo、ent(T)はそ

    れぞれ、H1トラップに対する電子の光励起レート、正孔の光励起レート、正孔の熱的放出レート

    である。ent(T)はICTSにおいて放出過程を観測することで実測が可能である。一方で、NT、eno、epo

    は未知であり、NT,OICTSの温度依存性のみでは、これら3つの値を確定することはできない。そこで、

    pn接合ダイオード(PND)を用いてこれらの値を算出することを考えた。PNDは、構造が複雑であり、

    多数のエピ層に対する評価には向かないが、順方向バイアスによって正孔を注入する電流注入

    ICTS(図a-1.26(b))が可能である。電流注入ICTSでは、得られるトラップ密度NT,ICTSはNTに等しい

    (NT,CTS = NT)。また、SBDの場合と同様に、光励起ICTS(図a-1.26(c))を行うことも可能であり、NT,OICTS

    = fT’NTの関係がある。従って、PNDにおける電流注入ICTSによって、NTを算出した上で、同じPND

    において、光励起ICTSの温度依存性測定を行うことで、enoおよびepoが算出可能である。eno、epoの

    算出に向けて、実際に評価用pn接合ダイオードの作製を行い、測定評価・解析を行った。

    図a-1.26: 正孔トラップを評価する手法とその特徴

  • 40

    pn接合ダイオードに対して、340 Kにおいて電流注入ICTSを行い、得られたスペクトルを図a-

    1.27に示す。n型GaNにおいて主要な正孔トラップであるH1が観測され、挿入図に示したアレニウ

    スプロットより、エネルギー準位深さET = EV+0.88 eV、捕獲断面積1.2x10-13 cm2が得られた。ま

    た、トラップ密度は、NT = 1.3x1015 cm-3と算出された。同じPNDに対して、同温度にて、波長390

    nmの光を照射して、光励起ICTSを行った。図a-1.28に得られたICTSスペクトルを示す。時定数0.7

    s付近と12 s付近にそれぞれピークが観測されており、電流注入ICTSによって得られたH1ピーク

    と比較すると、時定数0.7 s付近のピークがH1であることが分かる。一方で、時定数12 s付近に、

    比較的高強度のピークXdeepが観測された。光励起ICTSによるH1ピーク強度を得るためには、Xdeepピ

    ークの影響を排除する必要がある。そこで、H1トラップを励起することができない光(波長=525

    nm)を用いて、光励起ICTS

    図a-1.27: 電流注入ICTSによって得られたスペクトル

    図a-1.28: 光励起ICTSによって得られたスペクトル(破線は電流注入ICTSスペクトル)

    H1 trap

    E3 trap

    ET = EV+0.88 eVσp = 1.2×10

    -13 cm2

    NT,H1 = 1.3×1015 cm-3

    ET = EC-0.63 eVσn = 7.6×10

    -15 cm2

    NT,E3 = 4.3×1015 cm-3ln

    (τT2

    / sK

    2 )

    1000/T / K-1

    H1 trap

    E3 trap

    T = 340 KUR = -5 V

    T = 340 KUR = -5 V

    H1 peak

    OICTS (390 nm)

    Xdeep peak

  • 41

    を行い、波長390 nmの光を用いた光励起ICTSスペクトルとの差分により、光励起ICTSにおけるH1

    トラップピークの抽出を試みた。図a-1.29に、電流注入ICTSおよび光励起ICTSで得られたH1トラ

    ップピークを示す。光励起ICTSによる見かけのH1トラップ密度NT,OICTSは5.2x1014 cm-3であり、これ

    より340 Kにおける正孔占有率fTは0.4と算出された。同様の測定および解析を、温度315~345 K

    の範囲で行い、算出したfTの温度依存性を図a-1.30に示す。このfTの温度依存性に対するフィッテ

    ィング解析より、電子および正孔の光励起レートはeno = 2.7 s-1、epo = 1.1 s-1と算出された。

    得られたenoおよびepoは、光励起強度に依存する値であるが、これらの比eno / epo =σno /σpo =

    2.4 (σno、σpoは、それぞれ電子、正孔の光イオン化断面積)はトラップ固有の値であり、SBDで

    図a-1.29: H1トラップの電流注入ICTSおよび光励起ICTSスペクトルの比較

    図a-1.30: 正孔占有率fTの温度依存性

    T = 340 KUR = -5 V

    Difference (OICTS)

    H1 peak (ICTS)

    fT=2.7/(3.8+ept(T))

  • 42

    の光励起ICTSにおけるH1トラップの絶対定量評価を行う上で極めて重要なパラメータである。本

    研究では、光励起ICTSにおけるXdeepピークの影響があり、精度の点に課題は残るが、重要なパラ

    メータを算出する指針が提示できたことは、H1トラップの絶対定量評価においてける大きな成果

    であるといえる。今後は、電子/正孔光イオン化断面積比σno /σpoの精度を向上し、確定するこ

    とを目指す。Xdeepピークが存在しないPNDを作製し評価することが必要である。また、電流注入/

    光励起ICTSにおける正孔占有率の空間分布を詳細に検討することで、トラップ密度を過小評価す

    る要因を排除した上で正確なσno /σpoを算出する。

  • 43

    a-2 エピタキシャル成長層に含まれる転位の分析

    <p 型 GaN エピタキシャル成長層における Mg 偏析欠陥の透過電子顕微鏡評価>

    [目的]

    高濃度 Mg ドーピングを行った結晶層で形成されるナノスケール結晶欠陥の透過電子顕微鏡法

    (TEM)構造解析を行なった。結晶欠陥における Mg の偏析を、原子スケールで初めて明らかにする

    とともに、この観察結果に基づき、偏析によって Mg がアクセプタとしての働きを失う可能性を

    指摘した。さらに、欠陥密度と、欠陥を構成する Mg 原子数の見積もりから Mg 偏析量を推定し、

    上述の Mg の偏析と失活は、高濃度 Mg ドーピング GaN の H 取り込み挙動に関する知見と矛盾しな

    い結果を与えることを明らかにした。

    高濃度に Mg をドープした GaN 結晶では、ナノスケールの結晶欠陥が形成されること、また、こ

    の欠陥が母相に対して 0001 方向が反転した反転領域を伴う可能性が指摘されてきた 1-3)。また、

    欠陥近傍の Mg 濃度が高くなることも報告されている 2,4)。このため、この欠陥形成が、高濃度ド

    ーピングにおける Mg アクセプタの失活の原因である可能性が指摘されてきが、欠陥形成が Mg 失

    活に与える影響は議論が続いている 1-3)。その原因は欠陥形成により Mg が失活するメカニズムは

    明らかにされていないことにあり、このメカニズムを明らかにするためには欠陥の結晶構造、と

    くに、Mg の原子位置の直接的な決定が必要である。

    本実験では、Mg 濃度の異なる GaN エピタキシャル層の TEM 観察を行い、まず、高濃度ドーピン

    グにより結晶欠陥が形成されること、また、この欠陥内部には、母相に対して c 軸が反転した領

    域を含むことを明らかにし、その欠陥の体積密度を計測した。さらに、高分解能観察から、Mg が

    この欠陥中で、0001 面に平行な原子面に偏析し、従って、Mg 原子位置を置換する構造をとってい

    ないこと、を直接的に明らかにした。

    [実験]

    観察を行ったサンプルは、Mg 濃度 1×1019 cm-3、1×1020 cm-3の 2 サンプルである(以下サンプ

    ル A, B)。Mg をドープしたエピタキシャル GaN 層は、MOVPE によって成長し、その厚さは 1μmである。成長表面は (0001)面(Ga 面)である。

    これらのサンプルから、断面試料を作製し[1-100]入射の観察を行った。試料作製においては、

    試料薄片化プロセスに伴う結晶欠陥形成を抑制するため、低加速の Ar イオンミリングを用い、

    試料を冷却して薄片化を行った。

    結晶構造評価は TEM、STEM を用いて行った。High-angle Annular Dark Field (HAADF) STEM 条

  • 44

    件の観察では、原子列の明るさは、原子列を構成する原子の原子番号の 2 乗におよそ比例するの

    で 5)、観察像から原子スケールで組成分析を行う観察に応用可能である。TEM は JEM-2100plus,

    JEM-ARM200F を用い電子線強度の試料厚さ依存性の計算を winHREM ver.3.2 を用いて行った。

    [結果]

    サンプル A (Mg 濃度 1×1019 cm-3)、サンプル B (1×1020 cm-3)の欠陥分布の違いを示す観察例

    を図 a-2.1 に示す。観察像は 000-2 暗視野像で

    あり、矢印は観察時の回折波励起ベクトル(g

    ベクトル)を示す。母相の明暗は等厚干渉縞で

    ある。サンプル B (図 a-2.1(b))において、母

    相とは、明暗の明瞭に異なる微細領域が存在

    することが観察されている。一方、サンプル A

    (図 a-2.1(a))。においては、このような微細領

    域は観察されていない

    サンプル B において観察された母相と明暗

    の異なる微細領域が、反転領域であることを

    示す観察像を、図 a-2.2 a, b に示す。これら観察像は、サンプル B の同一の領域を、000-2 暗視

    野条件と、0002 暗視野条件で観察を行った観察像であり、母相と明暗の異なる三角形の領域が観

    察されている。一方、図 a-2.2 c は、GaN に[1-100]方位から入射した電子波強度(透過波、000 2回折波)の試料厚さ依存性の計算結果である。計算結果は、観察を行った試料厚さ(約 30nm 以下)

    では、0002 回折波強度が、000 2 回折波強度よりも大きいことを示している。この結果は、母相

    の 000-2 暗視野観察条件(図 a-2.2)では、反転領域は、回折波強度の大きい 0002 暗視野条件とな

    り、母相より明るく観察され、一方、母相の 0002 暗視野観察条件(図 a-2.2 b)では、反転領域は、

    図 a-2.1

    図 a-2.2

  • 45

    回折波強度の小さい 000-2 暗視野条件となり、母相より暗く観察される。従って、図 a-2.2 c の

    計算結果および、図 a-2.2 a, b 観察結果から、図 a-2.2 a, b で観察されている三角形の微細領域

    は、反転領域であると結論可能である。

    図 a-2.3 は、典型的な微細反転領域

    の格子像である。底面は、(0001)面と

    平行で、側面は(11-23)面と平行であ

    る。これは、本実験で観察されている

    反転領域が、従来報告されてきたピ

    ラミッド型反転領域 2)と呼ば�