京都大学理学部数学特別講義(応用数学 ii 有限要素法の数理注意:...

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京都大学理学部数学特別講義(応用数学 II有限要素法の数理 齊藤 宣一 東京大学大学院数理科学研究科 http://www.infsup.jp/saito/ 2019 11 11–15 概要 偏微分方程式の数値解法の一つである有限要素法 (Finite Element Method, FEM) の数学的な基礎理論を解説する.有限要素法は,汎用性が高く,理工学や生 命科学の幅広い分野で応用されている一方で,端正な数学理論によりその数学的正 当性が保証されている.この講義では,はじめに,線形楕円型方程式を題材にして, 有限要素法の概要を説明する.その後,一般化 Lax–Milgram の定理を紹介し,その 応用として,抽象的鞍点型変分問題とその Galerkin 近似,および,Stokes 問題の有 限要素近似を解説する.さらに,一般化 Lax–Milgram の定理の別の応用として,放 物型発展方程式の空間半離散有限要素近似についても説明したい. 最新更新日 2019 11 14 この講義ノートの最新版 http://www.infsup.jp/saito/materials/kyoto_fem19a.pdf 注意 1. この講義は,高度に専門的な予備知識を仮定せず,代数・幾何・解析などの分野に かかわらず広く修士課程の大学院生や学部生に開かれた講義として用意されたもの です. 2. 受講者に対して,プログラミングの知識や経験は問いません.関数解析の初歩的な 知識 (Hilbert 空間,Banach 空間,線形作用素,射影定理,L 2 空間など) は既習と 期待していますが,重要は事柄については説明(復習)しながら講義をすすめます. 3. 講義では,このノートに書いてあることすべてを話すわけではありません.細かい 証明は,ほとんど省略します.

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Page 1: 京都大学理学部数学特別講義(応用数学 II 有限要素法の数理注意: 有限要素法による偏微分方程式の計算について. 講義では有限要素法に関わる

京都大学理学部数学特別講義(応用数学 II)

有限要素法の数理

齊藤 宣一東京大学大学院数理科学研究科http://www.infsup.jp/saito/

2019年 11月 11–15日

概要

偏微分方程式の数値解法の一つである有限要素法 (Finite Element Method,

FEM) の数学的な基礎理論を解説する.有限要素法は,汎用性が高く,理工学や生命科学の幅広い分野で応用されている一方で,端正な数学理論によりその数学的正当性が保証されている.この講義では,はじめに,線形楕円型方程式を題材にして,有限要素法の概要を説明する.その後,一般化 Lax–Milgramの定理を紹介し,その応用として,抽象的鞍点型変分問題とその Galerkin近似,および,Stokes問題の有限要素近似を解説する.さらに,一般化 Lax–Milgramの定理の別の応用として,放物型発展方程式の空間半離散有限要素近似についても説明したい.

最新更新日2019年 11月 14日

この講義ノートの最新版http://www.infsup.jp/saito/materials/kyoto_fem19a.pdf

注意

1. この講義は,高度に専門的な予備知識を仮定せず,代数・幾何・解析などの分野にかかわらず広く修士課程の大学院生や学部生に開かれた講義として用意されたものです.

2. 受講者に対して,プログラミングの知識や経験は問いません.関数解析の初歩的な知識 (Hilbert空間,Banach空間,線形作用素,射影定理,L2 空間など)は既習と期待していますが,重要は事柄については説明(復習)しながら講義をすすめます.

3. 講義では,このノートに書いてあることすべてを話すわけではありません.細かい証明は,ほとんど省略します.

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目次0 この講義の目標 1

1 Poisson方程式と変分原理 5

2 有限要素法の導入 8

3 関数解析の準備 15

4 弱解と正則性 21

5 補間誤差評価 25

6 有限要素近似の誤差評価 30

7 Lax-Milgramの定理 36

8 一般化 Lax-Milgramの定理 42

9 Stokes方程式の有限要素近似 49

(a) Stokes方程式の境界値問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49

(b) 抽象的鞍点型変分問題と Galerkin近似 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 51

(c) Stokes方程式の有限要素近似 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

(d) 有限要素の具体例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58

(e) Freefem++を用いた数値計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 61

10 放物型方程式への応用 66

参考文献 67

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0 この講義の目標Ωは R2 の有界領域,Γ = ∂Ωをその境界とする.この節では,細かい記号の説明はしない.

Poisson方程式.−∆u = f in Ω, u = 0 on Γ

⋆ 弱形式:

u ∈ H10 (Ω),

∫Ω

∇u · ∇v dx =

∫Ω

fv dx (∀v ∈ H10 (Ω)).

⋆ 最小型変分問題:

u ∈ H10 (Ω), J(u) ≤ J(v) (v ∈ H1

0 (Ω)).

ただし,J(v) =

1

2

∫Ω

|∇v|2 dx−∫Ω

fv dx.

• 解の一意存在などは,Lax–Milgramの定理で保証される.• その際,双線形形式

a(u, v) =

∫Ω

∇u · ∇v dx

の H10 (Ω)における強圧性

∃α > 0, a(v, v) ≥ α∥v∥2H10

(∀v ∈ H10 (Ω))

が本質的.• Vh ⊂ H1

0 (Ω): 有限次元部分空間を導入して近似を構成 → Galerkin近似.• その際,強圧性は自動的に保存される.• Vh:コンピュータで計算可能なものを選ぶ → 有限要素法.• 有限要素法による近似解の安定性・収束性を考察する.その際も,双線形形式 a

の,H10 (Ω)における強圧性が本質的に重要になる.

Navier–Stokes方程式.

∂ui

∂t+

3∑j=1

uj∂ui

∂xj= ν∆ui −

1

ρ

∂p

∂xi+ fi, (i = 1, 2, 3)

3∑j=1

∂uj

∂xj= 0.

• 非粘性非圧縮性流体の運動を記述• u(x1, x2, x3, t) = (u1, u2, u3): 速度ベクトル場• p(x1, x2, x3, t): 圧力スカラー場

1

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• f(x1, x2, x3, t) = (f1, f2, f3): 外から流体に働く力の総和• ρ: 質量密度 (正定数)

• ν: 動粘性係数 (正定数)

• L. M. H. Navier (1827),G. G. Stokes (1845)

• ν = 0: Euler方程式.L. Euler(1755)

導出は例えば,岡本・中村 [28]や岡本 [29]を見よ.

Stokes方程式. 定常状態を考え,流速が十分に遅いと仮定(さらに境界条件を課す):

−ν∆u+∇p = f , in Ω

∇ · u = 0, in Ω

u = 0 on Γ.

この問題は,次の意味でも重要.元の非定常の Navier–Stokes方程式に戻って,時間変数について離散化を行う.∆t > 0を固定して,

un(x) ≈ u(x, n∆t), pn(x) ≈ p(x, n∆t) (n = 0, 1, 2, . . .)

を次で求める:

un − un−1

∆t+ (un−1 · ∇)un−1 = ν∆un −

1

ρ∇pn + fn,

∇ · un = 0, un|Γ = 0.

変形して,1

∆tun − ν∆un +

1

ρ∇pn = fn +

1

∆tun−1 − (un−1 · ∇)un−1,

∇ · un = 0, un|Γ = 0.

結局次の形を考えることになる (一般化 Stokes問題):

γu− α∆u+∇p = F , ∇ · u = 0, u|Γ = 0.

γ > 0でも γ = 0でも,(零 Dirichlet境界条件下では)解析はさして変わりはないので,以下では,γ = 0の場合のみを考える.⋆ 弱形式:

(u, p) ∈ H10 (Ω)

2 × L20(Ω),

ν

∫Ω

∇u · ∇v dx−∫Ω

p ∇ · v dx =

∫Ω

f · v dx (∀v ∈ H10 (Ω)

2),∫Ω

q ∇ · u dx = 0 (∀q ∈ L20(Ω)).

⋆ 鞍点型変分問題:

(u, p) ∈ H10 (Ω)

2 × L20(Ω),

J(u, q) ≤ J(u, p) ≤ J(v, p) (∀(v, q) ∈ H10 (Ω)

2 × L20(Ω)).

ただし,J(v, q) =

1

2

∫Ω

∇v · ∇v dx−∫Ω

q ∇ · v dx−∫Ω

f · v dx.

2

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• Lax–Milgramの定理は適用できない→一般化 Lax-Milgramの定理,あるいは,Babuska–Necas–Banachの定理を応用する.• その際,双線形形式

a(u, v) = ν

∫Ω

∇u · ∇v dx

の強圧性のとともに,双線形形式

b(u, p) = −∫Ω

p ∇ · u dx

が下限上限 (inf-sup)条件を満たすことが要請される.• 有限次元部分空間 Vh ⊂ H1

0 (Ω), Qh ⊂ L20(Ω)を導入して近似を構成する (Galerkin

近似).• その際,強圧性は自動的に保存されるが,下限上限条件の方は明らかでない→下限上限を満たすように,近似関数空間を構成しなければならない.

この講義の目標 = 上記の下線部の解説

注意: 有限要素法による偏微分方程式の計算について. 講義では有限要素法に関わる数理を解説し,実際の計算方法や計算例については例を示すに留めます.実際,図 0.1の(a)–(d)のような計算ができます.是非(むしろ理論を学ばなくても)計算を経験してほしいのですが,なかなか厄介です.次は O. Pironneau教授の言葉です:

Numerical analysis is somewhat dry if it is taught without testing the meth-

ods. Unfortunately experience shows that a simple finite element solution of a

Laplace equation with the P1conforming element requires at least 20 hours of

programming time; so it is difficult to reach the more interesting applications

discussed in this book in the time allotted to a Master course. “Finite Element

Methods for Fluids (Wiley, 1989)”の 197ページ

数学理論を勉強しつつ,計算も実行したい人には,Freefem++ https://freefem.org/というフリーソフトが便利です.この講義でも数値計算例は Freefem++を用いて計算したものを示します.Freefem++については,次が参考になります.実際,(a)–(d)の “作り方”が述べられています.

• 齊藤宣一,柏原崇人,周冠宇:数学教授にでも使えるFreefem++ [日本応用数理学会・応用数理セミナー(2018年 12月 26日)資料] http://www.infsup.jp/saito/ns/notes.html

3

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-1

-0.5

0

0.5

1

-1-0.5

0 0.5

1

1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9

"example7.plt"

y

1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9

(a) Poisson方程式の −∆u = f

の境界値問題

0 0.5

1 1.5

2 2.5

3 0 0.5

1 1.5

2 2.5

3

0 0.5

1 1.5

2 2.5

3 3.5

4 4.5

5

"sia11a20.plt"

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5

(b) 半線形楕円型方程式 −∆u = u3

の境界値問題

(c) 反応拡散方程式の 3種競合系

(d) 半線形 Shrodinger方程式iut +∆u = |u|4u(表示は解の絶対値)

図 0.1

4

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1 Poisson方程式と変分原理Ω を R2 の有界な領域とし,Γ = ∂Ω その境界とする.Ω = Ω ∪ Γ の一般の点を

x = (x1, x2)と書く.与えられた関数 f = f(x)に対して,次を満たす u = u(x)を求める問題を,Poisson方程式の Dirichlet境界値問題と言う:

−∆udef.= −

(∂2u

∂x21

+∂2u

∂x22

)= f (Ω内で), (1.1a)

u = 0 (Γ上で). (1.1b)

(1.1)の解 uが,ある汎関数の最小化問題として特徴付けられることが,有限要素法の出発点になる.すなわち,集合

V = “Ω上の適当に滑らかで境界上で 0である関数の集合” (1.2)

の上で汎関数J(v) =

1

2

∫Ω

|∇v|2 dx−∫Ω

fv dx (1.3)

を最小化する問題J(u) = min

v∈VJ(v)を満たす u ∈ V を見出せ (1.4)

を考える.汎関数 J(v)の停留点を求める問題として,次が得られる:任意の v ∈ V に対して∫Ω

∇u · ∇v dx =

∫Ω

fv dx

を満たす u ∈ V を見出せ.

(1.5)

ここで,次のような記号を用いている:

∇u · ∇v =∂u

∂x1

∂v

∂x1+

∂u

∂x2

∂v

∂x2, |∇v|2 = ∇v · ∇v (1.6)

実際,次の命題が成り立つ.

命題 1.1.

(1.4)と (1.5)は同値な問題である.すなわち,一方の解は必ず他方の解でもある.

証明. uを (1.4)の解とする.v ∈ V を任意として,実数値関数 j(t) = J(u+ tv) (t ∈ R)を考えると,これは t = 0のときに最小値を達成する.一方で,

j(t) = J(u) + t

∫Ω

(∇u · ∇v − fv) dx+t2

2

∫Ω

|∇ϕ|2 dx

と計算でき,これは tに関する 2次関数に過ぎない.したがって,t = 0で最小値を持つための必要条件は,j′(t)|t=0 = 0である.この条件は (1.5)に他ならない.逆に,uを (1.5)の解とする. w ∈ V を任意として,v = w − uとおく.このとき,

J(w)− J(u) =1

2

∫Ω

|∇v|2 dx.

したがって,w = uならば,J(w) > J(u)なので,uは (1.4)の解となる.

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命題 1.2.

Ωは適当に滑らかとする.

(i) Ω上の C2 級関数 uが (1.1)の解ならば,uは (1.5)の解である.(ii) (1.5)の解 uが C2 級であれば,uは (1.1)の解となる

証明. (i) uを (1.1)の解とする.v ∈ V を任意とする.−∆u = f の両辺に v を掛けて,Ω上で積分し,部分積分公式を適用すると,∫

Ω

fv dx =

∫Ω

(−∆u)v dx

=

∫Ω

∇u · ∇v dx−∫Γ

∂u

∂nv dS (← 部分積分)

=

∫Ω

∇u · ∇v dx (← 境界条件 v|Γ = 0)

を得る.ここで,n = n(s) (s ∈ Γ)は Γ上の外向き単位法線ベクトル,dS = dSΓ は Γの境界積分要素である.したがって,uは (1.5)を満たす.(ii) 上の計算の逆をたどれば,∫

Ω

(f +∆u)v dx = 0 (v ∈ V )

が得られる.これを用いて,wdef.= f +∆u ≡ 0を背理法で示す.w(z) > 0となる z ∈ Ω

の存在を仮定する.連続性により,w(x) > 0 (|x − z| < δ) となる,δ > 0 がとれる.v ∈ V は任意であったので,|x− z| < δ では,v(x) ≥ 0かつ v ≡ 0であり,|x− z| ≥ δ

では v(x) = 0を満たすものを選ぶ.このとき,∫Ω

wϕ dx =

∫|x−z|<δ

wϕ dx > 0

となり矛盾する.したがって,w ≡ 0である.

以上の議論で,   の部分については,意味が曖昧である.これらの正確な意味は,以下の議論で,徐々に明らかになる.

Ritz法と Galerkin法 命題 1.1–1.2に基づいて,(1.1)を直接に解くのではなく,(1.4)

あるいは (1.5)を解くことを考える.そのために,V の有限次元部分空間を導入する.具体的には,V から N 個の関数

ϕ1, . . . , ϕN を選び,それらの張る線形空間

VN = spanϕiNi=1

= vN ∈ V | vN = c1ϕ1 + · · ·+ cNϕN (c1, . . . , cN ∈ R) (1.7)

を導入する.そして,(1.4)における V を VN で置き換えた問題

uN ∈ VN , J(uN ) = minvN∈VN

J(vN ), (1.8)

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を考える.丁寧には,(1.5)のように,“∼を満たす ∼を見出せ”などと記述するべきであるが,このように簡単に書く.以下も同じである.(1.8)を (1.4)の Ritz近似方程式 と,(1.8)の解 uN を (1.4)の解 uの Ritz近似 と言う.一方で,(1.5)に基づいて

uN ∈ VN ,

∫Ω

∇uN · ∇vN dx =

∫Ω

fvN dx (∀vN ∈ VN ) (1.9)

を (1.4)の Galerkin近似方程式 と,解 uN を uの Galerkin近似 と言う.uN =

∑Nj=1 Ujϕj と書き,(1.9)で vN = ϕi において選べば,

N∑j=1

Uj

∫Ω

∇ϕj · ∇ϕi dx︸ ︷︷ ︸=ai,j

=

∫Ω

fϕi dx︸ ︷︷ ︸=fi

(1 ≤ i ≤ N) (1.10)

が得られる.すなわち,Galerkin近似方程式 (1.9)は連立一次方程式

Au = f (1.11)

に帰着さえれる.ここで,次のように置いておる:

A =

a1,1 · · · a1,N...

. . ....

aN,1 · · · aN,N

, u =

U1

...UN

, f =

f1...fN

. (1.12)

Ritz 近似方程式 (1.8) と Galerkin 近似方程式 (1.9) が同値になることは,命題 1.1 の証明と同様に確かめることができる.あるいは,(1.8)は,N 変数の 2次形式なので,その最小値が (1.11) の解 u で達成されることを確かめるのは,難しくない.この意味で,(1.8)あるいは (1.9)を Galerkin–Ritz近似方程式と言うことがある.

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2 有限要素法の導入本節では,有限要素法の考えに基づく有限次元部分空間 VN の具体的な構成を述べる.本節を通じて,

Ωを R2 の多角形領域

とする.

三角形上の一次関数 R2 上の異なる 3 点 Qi (i = 1, 2, 3) を結ぶ線分で囲まれる三角形を T とする(図 2.1).ただし,境界を含むものとする.このような T を閉三角形領域と言う.T の面積を area(T ) で表す.Qi の座標を (ai, bi) とし,T 内の一般の点 Q の座標を x = (x1, x2) ∈ T と表す.各 i = 1, 2, 3 に対して,T 上の関数λT,i = λT,i(x) = λT,i(x1, x2)を次のように定める:

λT,i(x1, x2) =area(QQjQk)

area(T )=

1

2 area(T )det

1 1 1x1 aj akx2 bj bk

=

1

2 area(T )(ajbk − akbj) + (bj − bk)x1 − (aj − ak)x2 .

ただし,i, j, k は,(i, j, k) = (1, 2, 3), (2, 3, 1), (3, 1, 2)の組みで考えるものとする.このようにして定めた,λ1, λ2, λ3 は,T 上の 1次多項式であり,さらに,

λT,i(Qj) = λT,i(aj , bj) =

1 (i = j)

0 (i = j)(2.1)

とλT,1(x) + λT,2(x) + λT,3(x) = 1 (x ∈ T ) (2.2)

を満たす.λT,i3i=1 を T の 重心座標 (barycentric coordinate) ,λT,i を Qi に関する T の重心座標と呼ぶ.

Q2

Q3

Q1

T

1

Q2

Q3

Q1

図 2.1 閉三角形領域 T と Q1 に関する T の重心座標 λT,1

λT,i の勾配は,

∇λT,i(x) =1

2 area(T )

(bj − bk−(aj − ak)

)(定数ベクトル) (2.3)

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と計算できるので,∫T

∇λT,i · ∇λT,j dx

=

1

4 area(T ) [(aj − ak)2 + (bj − bk)

2] (i = j),

14 area(T ) [(aj − ak)(ak − ai) + (bj − bk)(bk − bi)] (i = j)

(2.4)

となる.

Q2 = Q′3

Q3

Q1 = Q′1

Q4 = Q′2

T

T ′

図 2.2 閉三角形領域 T と Q1 に関する T の重心座標 λT,1

Qi (i = 1, . . . , 4)が,図 2.2のような配置で与えられているとし,Q1,Q2,Q3 で囲まれる閉三角形領域 T と,Q′

1 = Q1,Q′2 = Q4,Q′

3 = Q2 で囲まれる閉三角形領域 T ′ を考える.このとき,

λ1(x) =

λT,1(x) (x ∈ T ),

λT ′,1(x) (x ∈ T ′)(2.5)

で定められる関数は,T ∪ T ′ 上の連続関数となる.λT,1 と λT ′,1 を辺 Q1Q3 に制限した関数は同一となるからである.

問題 2.1. 次を示せ.∫T

λT,i(x)λT,j(x) dx =

16 area(T ) (i = j),112 area(T ) (i = j).

(2.6)

三角形分割 Ωを次の条件を満たすような三角形の集合 T に分割する:

1. T の各元は閉三角形領域 T であり,Ω =∪T∈T

T が成り立つ.

2. T の任意の 2つの閉三角形領域は,1辺全体を共有するか,頂点を共有するか,共通部分を持たないか,のいずれかである.

このような T を Ω の 三角形分割 (triangulation) ,あるいは, メッシュ (mesh) と言う.T の外接円の直径を hT で表す.分割の細かさ・粗さを表すパラメータとしてh = maxT∈T hT を導入し,これを T の 細分化 (granularity)パラメータ ,あるいは,メッシュパラメータ と言う.本来はこの T と hの組みを (T , h)のように表すべきであろうが,習慣上,Th と書く.この表記に基づけば,hの定義は,

h = maxT∈Th

hT (2.7)

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となる.(2.7)だけを見ると,定義が “循環”しているが,正確な意味は上に述べたとおりである.改めて,T ∈ Th を 要素 (element) と言い,T の頂点を 節点 (node) と言う.節点のうち,Ωの内部に位置するものに番号を振って P1, . . . ,PN とし,境界 Γ上に位置するものを PN+1, . . . ,PN+NB

とする.ここで,N は Ωの内部に位置する節点の総数,NB は Γ上に位置する節点の総数である.

図 2.3 正方形領域 Ω = (0, 1)× (0, 1)の規則分割に基づく三角形分割.節点数は,左から,81,289,1089であり,要素数は,左から,128,512,2048である

図 2.4 正方形領域 Ω = (0, 1)× (0, 1)の Freefem++を用いた非一様分割に基づく三角形分割.節点数は,左から,95,333,1267であり,要素数は,左から,156,600,2404である

図 2.5 多角形分割の三角形分割

有限要素空間 しばらく,1 ≤ i ≤ N +NB を固定して,

Λi = T ∈ Th | Pi ∈ T (2.8)

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図 2.6 区分的に滑らかな領域の三角形分割

とおく.このとき,連続関数 ϕi を,

ϕi(x) =

λT,i(x) (x ∈ T, T ∈ Λi),

0 (上記以外)(2.9)

で定める.だだし,λT,i は Pi に対応する T の重心領域である.定義より,

suppϕi =∪

T∈Λi

T (2.10)

が成り立つ.さらに,(2.1)と (2.2)により,

ϕi(Pj) =

1 (i = j)

0 (i = j),

N+NB∑i=1

ϕi ≡ 1 (2.11)

が成り立つ.

Pi

図 2.7 Pi に対する領域 Λi と関数 ϕi

このようにして定めた ϕ1, . . . , ϕN+NBで張られる線形空間

Xh = spanϕiN+NBi=1 (2.12)

を P1有限要素空間 (P1 finite element space) ,あるいは,P1要素 と呼ぶ.各 vh ∈Xh は次の条件で特徴付けられる:

11

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(i) vh は Ω上で連続である.(ii) 各 T ∈ Th 上では,vh|T = α+ βx1 + γx2 と表現できる.α, β, γ は T に依存して定まる定数である.

さらに,ϕ1, . . . , ϕN で張られる線形空間

Vh = spanϕiNi=1 (2.13)

も P1有限要素空間と呼ばれる.各 vh ∈ Vh は,上記の (i)と (ii)に加えて,

(iii) vh|Γ = 0

という条件で特徴付けられる.実際,ϕ1, . . . , ϕN は,すべて Γ上では 0となるので,あきらかに (iii)が成り立つ.

Galerkin近似. Galerkin方程式 (1.9)における有限次元部分空間 VN として,上記のVh を選ぶ.すなわち,改めて,

uh ∈ Vh,

∫Ω

∇uh · ∇vh dx =

∫Ω

fvh dx (∀vh ∈ Vh) (2.14)

を考える.(1.12) のように記号を定めたとき,これが連立一次方程式 (1.11) と同値であることは前に述べたとおりである.

計算例. 例として,

−∆u = 4 sin(πx) sin(πy) in D = (0, 1)× (0, 1), u = 0 on ∂D (2.15a)

と−∆u = 1 + x2y3 in Ω1, u = 0 on ∂Ω1 (2.15b)

を Freefem++で計算してみよう.ただし,Ω1 は,図 2.10や図 2.11の左側の図で示されているような,円盤の 1/4の部分から 2つの小さな円盤をくり抜いた領域である(これは多角形領域ではないが,Lipschitz 領域である).Listing 7 が (2.15a) の解を計算するための,Listing 2が (2.15b)の解を計算するための,Freefem++コードである.計算結果と,計算に使用した三角形分割は,図 2.8—2.11に示されている.

Listing 1 (2.15a)のための Freefem++コード//ex1.edp

func g = 0;

func f = 4.0*pi^2*sin(pi*x)*sin(pi*y);

int i, j, k = 30;

// domain

border G1(t=0,1)x=t; y=0;

border G2(t=0,1)x=1; y=t;

border G3(t=0,1)x=1-t; y=1;

border G4(t=0,1)x=0; y=1-t;

// triangulation

mesh Th = buildmesh(G1(k)+G2(k)+G3(k)+G4(k));

12

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// P1 element

fespace Vh(Th,P1);

Vh u,v;

// solve

solve poisson(u, v) = int2d(Th)(dx(u)*dx(v) + dy(u)*dy(v))

- int2d(Th)(f*v) + on(G1,G2,G3,G4,u = g);

// results for gnuplot

ofstream f1("ex1.plt");

f1 << "# k: " << k << endl << endl;

for(i = 0; i < Th.nt ; i++)

for(j = 0; j < 3; j++)

f1 << Th[i][j].x << " "<< Th[i][j].y << " " << u[][Vh(i,j)] << endl;

f1 << Th[i][0].x << " " << Th[i][0].y << " " << u[][Vh(i,0)] << endl <<

endl << endl;

// triangulation

plot(Th, ps="ex1.eps");

Listing 2 (2.15b)のための Freefem++コード//ex2.edp

func g = 0;

func f = 1+(x^2)*(y^3);

int i, j, k = 40;

// domain

border G1(t = 0, 3) x = t; y = 0;

border G2(t = 0, pi/2) x = 3*cos(t); y = 3*sin(t);

border G3(t = 0, 3) x = 0; y = 3 - t;

border G4(t = 0, 2*pi) x = 1.9 + 0.8*cos(t); y = 0.9 - 0.8*sin(t);

border G5(t = 0, 2*pi) x = 0.7 + 0.5*cos(t); y = 2.3 - 0.5*sin(t);

// triangulation

mesh Th = buildmesh(G1(k)+G2(2*k)+G3(k)+G4(2*k)+G5(k));

// P1 element

fespace Vh(Th,P1);

Vh u,v;

// solve

solve poisson(u, v) = int2d(Th)(dx(u)*dx(v) + dy(u)*dy(v))

- int2d(Th)(f*v) + on(G1,G2,G3,G4,G5,u = g);

// results for gnuplot

ofstream f1("ex2.plt");

f1 << "# k: " << k << endl << endl;

for(i = 0; i < Th.nt ; i++)

for(j = 0; j < 3; j++)

f1 << Th[i][j].x << " "<< Th[i][j].y << " " << u[][Vh(i,j)] << endl;

f1 << Th[i][0].x << " " << Th[i][0].y << " " << u[][Vh(i,0)] << endl <<

endl << endl;

// triangulation

plot(Th, ps="ex2.eps");

13

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0 0.2

0.4 0.6

0.8 1 0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 0.2 0.4 0.6 0.8

1 1.2 1.4 1.6 1.8

2

図 2.8 (2.15a)の有限要素解

0 0.2

0.4 0.6

0.8 1 0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 0.2 0.4 0.6 0.8

1 1.2 1.4 1.6 1.8

2

図 2.9 (2.15a)の有限要素解

0 0.5

1 1.5

2 2.5

3 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

-0.2 0

0.2 0.4 0.6 0.8

1 1.2 1.4

図 2.10 (2.15b)の有限要素解

0 0.5

1 1.5

2 2.5

3 0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.2 0.4 0.6 0.8

1 1.2 1.4 1.6

図 2.11 (2.15b)の有限要素解

14

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3 関数解析の準備前節までに導入した有限要素法を数学的に正当化するためには,関数解析の概念と用語が必要になる.特に重要な役割を果たすのが,ソボレフ空間 H1(Ω)と H1

0 (Ω)である.以下,本節を通じて,Ωを R2 の領域(連結な開集合)とする.

関数空間. C(Ω) = C0(Ω)は,Ω上の連続関数全体の集合である.正の整数 k に対して,Ck(Ω) は,任意の k 階以下の偏導関数が C(Ω) に属する関数全体の集合である.C(R2)や Ck(R2)の意味も同様である.C(Ω) = C0(Ω)は,Ω上の連続関数全体の集合であり,さらに Ck(Ω) = v|Ω | v ∈ Ck(R2)と表す.以下では,k は非負の整数を表すものとする.関数 v = v(x)の 台 あるいは サポート (support) とは,

supp v = x ∈ Ω | v(x) = 0 (3.1)

で定められる集合を意味する.そして,

Ck0 (R2) = v ∈ Ck(R2) | supp v は有界 , (3.2)

Ck0 (Ω) = v|Ω | v ∈ Ck

0 (R2), supp v は有界, supp v ⊂ Ω (3.3)

と定める.さらに,

C∞0 (R2) =

∩k≥0

Ck0 (R2), C∞(Ω) =

∩k≥0

Ck(Ω). (3.4)

L2(Ω)の内積とノルムを

(w, v) = (w, v)Ω = (w, v)L2(Ω) =

∫Ω

w(x)v(x) dx, (3.5)

∥v∥0,2,Ω = ∥v∥2,Ω = ∥v∥L2(Ω) =

(∫Ω

v2 dx

)1/2

(3.6)

と表す.v ∈ C0(Ω)に対して,

∥v∥0,∞,Ω = ∥v∥∞,Ω = ∥v∥L∞(Ω) = maxx∈Ω|v(x)| (3.7)

と書く.v ∈ L2(Ω)と 1 ≤ j ≤ dに対して,∫

Ω

v∂φ

∂xjdx = −

∫Ω

gjφ dx (∀φ ∈ C∞0 (Ω)) (3.8)

を満たす gj ∈ L2(Ω) が存在するとき,gj を xj に関する v の (L2 の意味での) 一般化された偏導関数 と言う.このような gj は存在するならば一意である.また,もし v ∈ C1(Ω)ならば,gj は通常の偏導関数 ∂v

∂xjと一致するので,一般化された導関数

は,通常の導関数を拡張した概念である.一般化された導関数を考えていることを了解した上で,

gj =∂v

∂xj, vxj

, ∂xjv, ∂jv, . . .

15

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などと記す.以上の準備の下で,Sobolev空間 H1(Ω)を次のように定義することができる:

H1(Ω) =

v ∈ L2(Ω) | ∂v

∂xj∈ L2(Ω) (1 ≤ j ≤ d) が存在

. (3.9)

空間 H1(Ω)は,内積

(w, v)H1(Ω) = (w, v) +

2∑j=1

(∂w

∂xj,∂v

∂xj

)(3.10)

を持ち,付随するノルム

∥v∥1,2,Ω = ∥v∥H1(Ω) =

∥v∥22,Ω +

2∑j=1

∥∥∥∥ ∂v

∂xj

∥∥∥∥22,Ω

1/2

(3.11)

の下で Hilbert空間となる.さらに,Sobolev空間 H2(Ω)は,

H2(Ω) =

v ∈ H1(Ω) | ∂v

∂xj∈ H1(Ω) (1 ≤ j ≤ d)

(3.12)

で定義され,ノルム

∥v∥2,2,Ω = ∥v∥H2(Ω) =

∥v∥21,2,Ω +

2∑l=1

2∑j=1

∥∥∥∥ ∂2v

∂xl∂xj

∥∥∥∥22,Ω

1/2

(3.13)

の下で Hilbert空間をなす.次の記号は便利なので本書でも採用する:

(∇w,∇v) =2∑

j=1

(∂w

∂xj,∂v

∂xj

), (3.14)

|v|21,2,Ω = ∥∇v∥22,Ω =

2∑j=1

∥∥∥∥ ∂v

∂xj

∥∥∥∥22,Ω

, (3.15)

|v|22,2,Ω =

2∑l=1

2∑j=1

∥∥∥∥ ∂2v

∂xl∂xj

∥∥∥∥22,Ω

. (3.16)

これらの記号を用いると,(3.11)と (3.13)は,

∥v∥21,2,Ω = ∥v∥22,Ω + ∥∇v∥22,Ω, (3.17)

∥v∥22,2,Ω = ∥v∥22,Ω + ∥∇v∥22,Ω + |v|22,2,Ω (3.18)

と書ける.∥∇v∥2,Ω を H1(Ω)の セミノルム ,|v|2,2,Ω を H2(Ω)のセミノルムと言う.Cauchy–Schwarzの不等式

|(w, v)| ≤ ∥w∥2,Ω∥v∥2,Ω (w, v ∈ L2(Ω)), (3.19)

|(∇w,∇v)| ≤ ∥∇w∥2,Ω∥∇v∥2,Ω (w, v ∈ H1(Ω)) (3.20)

は,以下の議論で頻繁に使われる.

16

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正の整数 k に対して,逐次的に Sobolev空間

Hk(Ω) =

v ∈ Hk−1(Ω) | ∂v

∂xj∈ Hk−1(Ω) (1 ≤ j ≤ d)

(3.21)

が定義される.これは,自然に定義されるノルムの下で Hilbert空間をなす.さらに,C∞

0 (Ω)の Hk(Ω)ノルムによる完備化を Hk0 (Ω)で表す.すなわち,

Hk0 (Ω) = v ∈ Hk(Ω) | ∃φn ⊂ C∞

0 (Ω) s.t. ∥v − φn∥Hk(Ω) → 0. (3.22)

Lipschitz領域と C0 級領域. 詳しくは,Necas [27]や宮島 [24]を参照すること.以下では,Ciarlet [11] に基づき,要点のみ述べる.有界領域 Ω ⊂ R2 の境界 Γ = ∂Ω がLipschitz連続であるとは,次が満たされるときを言う.正定数 αと β,有限個の直交座標系(元の座標系から回転と平行移動により得られるもの)yr = (yr1, y

r2) (r = 1, . . . ,m),

と Lipschitz連続関数 = ar(yr1) (|yr1| ≤ α) (r = 1, . . . ,m)が存在して,次が成り立つ:

Γ =

m∪r=1

(yr1, yr2) | yr2 = ar(yr1), |yr1| ≤ α;

(yr1, yr2) | ar(yr1) < yr2 < ar(yr1) + β, |yr1| ≤ α ⊂ Ω (r = 1, . . . ,m);

(yr1, yr2) | ar(yr1)− β < yr2 < ar(yr1), |yr1| ≤ α ⊂ (R2\Ω) (r = 1, . . . ,m).

整数 k ≥ 0に対して,各 ar が Ck 級関数のとき,Γを Ck 級と言う.

定義.

Lipschitz連続な境界を持つ有界領域を Lipschitz領域と言う.Ck 級の境界を持つ有界領域を Ck 級領域と言う.C0 級領域は,しばしば,連続な境界を持つ領域と言われる.

注意. 上の定義では,Ωが有界領域であることを前提としている.たとえば,“Lipschitz領域”は有界領域のみに対して定義されている.しかし,“Lipschitz領域”と言ったとき,有界性が課されているか否かは,分野によって違いがあるようである(もちろん,有界でない時には上の定義は修正が必要である).本講義では,誤解がないように,いささか面倒だが,“有界 Lipschitz領域”や “有界 C0 級領域”と書くことにしよう.

注意. “Ck 級領域”に関しては,標準的な偏微分方程式論における定義とは,微妙に異なっているかもしれない.この点が気になる人は,Grisvard [18]を参照せよ.

注意. Ωが有界 Lipschitz領域なら,ほとんど至る x ∈ Γに対して,Γ上の外向き単位法ベクトル n = n(x) = (n1(x), n2(x))

T が定義できる.そして,滑らかな関数 f = f(x)

と g = g(x)に対して,部分積分公式∫Ω

∂f

∂xjg dx =

∫Γ

fgnj dx−∫Ω

f∂g

∂xjdx (j = 1, 2)

が成り立つ([27, §3.1]).

注意. Γ上での積分を上の ar を用いて表しておくと,様々な命題を示す時に便利であるが,この講義では扱わない.

17

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有用な命題.

命題 3.1 (稠密性).

Ω を有界 C0 級領域とする.整数 m ≥ 1 に対して,C∞(Ω) は Hm(Ω) で稠密である.すなわち,各 v ∈ Hm(Ω) に対して,∥v − φn∥m,2,Ω → 0 (n → ∞) を満たすようなφn ∈ C∞(Ω) (n = 1, 2, . . .)が存在する.

命題 3.2 (Poincare–Wirtingerの不等式).

Ωを有界 C0 級領域とする.(i) Ωにのみ依存する正定数 CP が存在して,任意の v ∈ H1

0 (Ω)に対して,

∥v∥0,2,Ω ≤ CP∥∇v∥0,2,Ω. (3.23a)

(ii) Ωにのみ依存する正定数 CPW が存在して,任意の v ∈ H1(Ω)に対して,

∥v∥0,2,Ω ≤ CPW

(∥∇v∥0,2,Ω +

∣∣∣∣∫Ω

v(x) dx

∣∣∣∣) . (3.23b)

注意. (3.23a)を Poincareの不等式,(3.23b)を Poincare–Wirtingerの不等式と呼ぶことが多い.しかし,H. Poincareが証明したのは,(3.23b)の方である (出典????).

命題 3.3 (Sobolevの不等式).

Ωを有界な Lipschitz領域とする.各 v ∈ H2(Ω)に対して,Ω上の連続関数 v と Ωにのみ依存する正定数 CSob で,次を満たすものが存在する:

v = v a.e. in Ω; (3.24a)

∥v∥∞,Ω ≤ CSob∥v∥2,2,Ω. (3.24b)

以下では,v と v を区別しない.

v ∈ C1(Ω)には,境界値 f = v|Γ が定義され,f は Γ上の C0 級関数となり,さらに,

∥f∥2,Γ ≤ CTr∥v∥1,2,Ω (3.25)

が成り立つような領域にのみ依存する正定数 CTr が存在する ([27] の Chapter 1 のTheorem 1.2).一方で,v ∈ L2(Ω)は,各点で定義された関数ではないので,境界値の意味は自明ではない.しかし,v ∈ H1(Ω)には,以下のように,“一般化された境界値”が定義できる.稠密性 (命題 3.1)により,v には,∥v − φn∥1,2,Ω → 0 (n → ∞)を満たすφn ∈ C∞(Ω)が存在する.fn = φn|Γ とおくと,各 fn と φn は,(3.25)を満たすので,fnは L2(Γ)の Cauchy列となる.したがって,完備性により ∥f − fn∥0,2,Γ → 0となる f ∈ L2(Γ)が存在し,再び,(3.25)が成り立つ.vに対して,f が (φnの選び方によらず)唯一に定まることも,(3.25)からわかる.このように定められる f を,v の一般化された境界値あるいは トレース (trace) ,v から f への対応を トレース作用素 という.この考察を命題の形にまとめておこう.

18

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命題 3.4 (トレース定理).

Ω を有界な Lipschitz 領域とすると,次を満たすような有界線形作用素 γ : H1(Ω) →L2(Γ)が存在する:

γv = v|Γ (v ∈ C0(Ω)), (3.26a)

∥γv∥0,2,Γ ≤ CTr∥v∥1,2,Ω (v ∈ H1(Ω)) (3.26b)

命題 3.5 (H10 の特徴付け).

Ωを有界な Lipschitz領域とすると,H10 (Ω)は,H1

0 (Ω) = v ∈ H1(Ω) | γv = 0と特徴付けられる.

注意. トレース定理を了解した上で,H1(Ω)の関数 v に関しては,γv を,単に,v|Γと書くことが多い.本書でも以後はこの慣例に従う.例えば,H1

0 (Ω) = v ∈ H1(Ω) |v|Γ = 0と書く.

注意. Γの一部 Γ1 ⊂ Γに対しても,L2(Γ)は定義でき,Γ1 上でのトレース定理 (命題 3.4で Γを Γ1 に置き換えたもの) が成り立つ.

注意. γ による H1(Ω) の像 γ(H1(Ω)) について,γ(H1(Ω)) ⊂ L2(Γ) ではあるが,γ(H1(Ω)) = L2(Γ)ではない.

命題 3.1–3.2 の証明は,通常の関数解析や偏微分方程式論の教科書の中で述べられている.一方,Lipschitz領域の場合に,命題 3.3–3.5の証明を述べている教科書としては,Necas [27]が便利である.

表 3.1 本書の命題と [27]の命題との対応

本書 Necas [27] Ωに対する仮定命題 3.1 Theorem 3.1 (Chapter 2) 有界 C0 級命題 3.2(i) Theorem 1.1 (Chapter 1) 有界 C0 級命題 3.2(ii) Theorem 1.5 (Chapter 1) 有界 C0 級命題 3.3 Theorem 3.8 (Chapter 2) 有界 Lipschitz

命題 3.4 Theorem 1.2 (Chapter 1) 有界 Lipschitz

命題 3.5 Theorem 4.10 (Chapter 2) 有界 Lipschitz

命題 3.6.

有界 Lipschitz領域 Ωが,滑らかな曲面 S によって,2つの Lipschitz領域 Ω1 と Ω2 に分割されているとする.すなわち,Ω = Ω1 ∪ S ∪ Ω2 かつ Ω1 ∩ Ω2 = ∅である.このとき,v ∈ C0(Ω)について,v1 = v|Ω1 ∈ C1(Ω1)かつ v2 = v|Ω2 ∈ C1(Ω2)であるならば,v ∈ H1(Ω)である.

19

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証明. 1 ≤ j ≤ dを固定して,g ∈ L2(Ω)を次で定める:

g =

∂v1/∂xj ∈ C(Ω1) in Ω1

∂v2/∂xj ∈ C(Ω2) in Ω2.

S 上の Ω1 から Ω2 に向かう単位法ベクトルを n1 = (n1, . . . , nd)と,Ω2 から Ω1 に向かうそれを ν1 = (ν1, . . . , νd)と表すと,n = −ν が成り立つ.さて,任意の φ ∈ C∞

0 (Ω)に対して,部分積分により∫

Ω

gφ dx = −∫Ω1

v1∂φ

∂xjdx−

∫Ω2

v2∂φ

∂xjdx+

∫S

v(nj + νj)φ dS

= −∫Ω

v∂φ

∂xjdx.

これは,g が xj に関する v の (L2 の意味での)一般化された偏導関数であることを表している.

射影定理の応用として得られる次の定理は重要である.X を,内積 (·, ·)X,ノルム ∥·∥Xを備えた (実)Hilbert空間とする.X ′ を X の双対空間とする.すなわち,各 F ∈ X は,X 上で定義された線形汎関数

F (w + v) = F (w) + F (v), F (αv) = αF (v) (w, v ∈ V, α ∈ R)

であり,∥F∥X′

def.= sup

v∈X

F (v)

∥v∥X= sup

v∈X

|F (v)|∥v∥X

<∞ (3.27)

を満たすものである (右側の等式は自明であろう).

命題 3.7 (Rieszの表現定理).

X と X ′ を上で定めたものとする.このとき,任意の F ∈ X ′ に対して,次を満たすa ∈ X が唯一存在する:

F (v) = (a, v)X (v ∈ X).

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4 弱解と正則性Poisson方程式の境界値問題

−∆u = f (Ω内で), u = 0 (Γ上で) (4.1)

の考察に戻ろう.ただし,ΩはR2の有界 Lipschitz領域,Γはその境界であり,f ∈ L2(Ω)

は与えられた関数とする.考察の舞台となる関数空間は,

V = H10 (Ω)

である.これはH1(Ω)の閉部分空間なので,ノルム ∥ · ∥1,2,Ω の下で Hilbert空間をなす.しかしながら,V の内積とノルムとしては,H1(Ω)のそれでなく,

(w, v)V = (∇w,∇v), ∥v∥V = ∥∇v∥2,Ω (4.2)

を採用する.そうすると,Poincareの不等式 (命題 3.2(i))により,

∥v∥V ≤ ∥v∥1,2,Ω ≤ (C2P + 1)1/2∥v∥V (v ∈ V )

なので,∥ · ∥V は V 上で ∥ · ∥1,2,Ω と同値なノルムとなる.したがって,V は,(4.2)で定めた内積とノルムの下で再び Hilbert空間となる.さて,§1では,(4.2)の “V での再定式化”として (1.4)と (1.5)を導入した (もっとも,そこでは,V の正確な定義を明示していなかった).これらは共に V = H1

0 (Ω)に対して意味を持つ.(1.5)を,いま定めた記号で,あらためて述べると,

u ∈ V, (u, v)V = (f, v) (∀v ∈ V ) (4.3)

となる.(4.2) では,C2 級であることが前提となっていた解 u の滑らかさに関する条件が,

(4.3) では,L2 の意味で 1 階の一般化された導関数を持つことだけに減じられている.この意味で,(4.3) を (4.2) の 弱形式 (weak formulation) ,(4.3) の解を (4.2)

の 弱解 (weak solution) と言う.これと区別するために,(4.2)を,通常の意味で満たす u ∈ C2(Ω) ∩ C(Ω)を 古典解 (classical solution) と言う.

定理 4.1.

Ω を R2 の有界 Lipschitz 領域,Γ をその境界とする.f ∈ L2(Ω) が与えられたとする.このとき,次が成り立つ:

(i) (4.3)を満たす uが一意的に存在する.(ii) ∥u∥V ≤ CP∥f∥2,Ω が成り立つ.(iii) (4.3)の解 uは,次で特徴付けられる:

1

2∥u∥2V − (f, u) = min

v∈V

(1

2∥v∥2V − (f, v)

). (4.4)

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証明. (i) Riesz の表現定理 (命題 3.7) を応用すために,F (v) = (f, v) とおき,これが F ∈ V ′ であることを確かめる.Schwarz の不等式と Poincare の不等式を使うと,|F (v)| ≤ ∥f∥2,Ω∥v∥2,Ω ≤ CP∥f∥2,Ω∥v∥V.それゆえ,(u, v)V = F (v) = (f, v) (∀v ∈ V )

を満たす u ∈ V が唯一存在する.(ii) (4.3) において v = u と選ぶと,(i) で計算したように,∥u∥2V = (f, u) ≤CP∥f∥2,Ω∥u∥V.(iii) 命題 1.1の証明と全く同じである.

(4.3)の解 uの存在は,上の定理で保証される.それでは,この uは,Poisson方程式(4.2)の解となり得るだろうか? それに応えるのが,解の正則性理論である.

定理 4.2 (弱解の正則性).

(i) k を非負の整数として,Ωを有界 Ck+2 領域とする.f は,さらに,f ∈ Hk(Ω)とする (H0(Ω) = L2(Ω)と解釈する).このとき,(4.3)の解 u ∈ H1

0 (Ω)は,

u ∈ Hk+2(Ω), ∥u∥k,2,Ω ≤ C∥f∥k,2,Ω

を満たす.C は Ωと k にのみ依存する正定数である.

(ii) Ωを凸の Lipshitz領域とすると,(4.3)の解 u ∈ H10 (Ω)は,

u ∈ H2(Ω), ∥u∥2,2,Ω ≤ Creg∥f∥2,Ω (4.5)

を満たす.Creg は Ω にのみ依存する正定数である.一方で,Ω が非凸の角を持つ場合,(4.3)の解 uが H2(Ω)にはならないような f ∈ L2(Ω)が無数に存在する.

証明. (i)は,標準的な偏微分の教科書に証明が述べられている.例えば,[14],[10]など.(ii)は,簡単ではない.[18]を見よ.

⋆例 4.3. R > 0と 0 < ω < 2π を固定して,扇状領域

Ω = (r, θ) | 0 < r < R, 0 < θ < π/ω (極座標表示)

を考える.これは,多角形領域ではないが有界 Lipschitz領域である.以後常に,(x, y) =(r, θ)の関係を仮定する.関数 w, f と定数 αを

w(r, θ) = rα sin(αθ), f(x, y) =4

R2(1 + α)w(r, θ), α =

π

ω

により定め,Poisson方程式の境界値問題

−∆u = f (x, y) ∈ Ω, u = 0 (x, y) ∈ Γ = ∂Ω

を考える.f ∈ L2(Ω)なので,この問題には一意な弱解 u ∈ H10 (Ω)が存在する.実は,

u(x, y) = ϕ(r)w(r, θ), ϕ(r) = 1−( r

R

)2である(各自検算により確かめよ).ϕ ∈ H2(Ω),ϕx, ϕy, ϕxx, ϕxy, ϕyy ∈ L∞(Ω)だが,wについては,

∥w∥2L2 =ω

4(α+ 1)R2α+2, |w|2H1 =

π

2R2α, |w|2H2 ∼ I2R

def.=

∫ R

0

r2α−4rdr,

22

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かつ

I2R =

1

2α−2R2(α−1) (α > 1)

+∞ (α ≤ 1)

なので,(ω = π の場合は議論から除く)

0 < ω < π ⇒ w ∈ H2(Ω), π < ω < 2π ⇒ w ∈ H2(Ω).

であり,結果として,

0 < ω < π ⇒ u ∈ H2(Ω), π < ω < 2π ⇒ u ∈ H2(Ω)

が得られる.

注意. 上の例をもう少し詳しく検討する.wのみに焦点を絞る.上の結果は,

∥w∥2L2 ∼∫ R

0

r2αrdr, ∥Dw∥2L2 ∼∫ R

0

r2α−2rdr, ∥D2w∥2L2 ∼∫ R

0

r2α−4rdr

と解釈できる.これを動機として,記号として

∥Dβw∥2L2 =

∫ R

0

r2α−2βrdr

<∞ (β < α+ 1)

=∞ (β ≥ α+ 1)

と定める.実際,分数冪の Sobolev空間 Hs(Ω)を然るべく導入すると,

∥w∥2Hβ(Ω) = ∥w∥2L2 + ∥Dβw∥2L2

となる(両辺が同値なノルムを与えると意味での等号).すなわち,

β <π

ω+ 1 ⇒ w ∈ Hβ(Ω)

を得る.とくに,ω = 2π(1− ϵ) ⇒ β <

3

2+

ϵ

2(1− ϵ)

なので,π < ω < 2π である限り,β ≤ 3/2は,常に成り立つ.したがって,少なくとも,

w ∈ H3/2(Ω)

は保証される.

Vh を V の有限次元部分空間とする.hは,h→ 0とするパラメータである.この段階では,§2で定義した有限要素空間である必要はなく,任意の有限次元部分空間で良い.(4.3)の Galkerkin近似方程式は,

uh ∈ Vh, (uh, vh)V = (f, vh) (∀vh ∈ Vh) (4.6)

である.次の定理は,定理 4.1の証明と全く同じように証明できる.

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定理 4.4.

定理 4.1と全く同じ仮定の下で,次が成り立つ.

(i) (4.6)には一意的な解 uh が存在する.(ii) ∥uh∥V ≤ CP∥f∥2,Ω が成り立つ.(iii) (4.6) の解 uh は次で特徴付けられる:

1

2∥uh∥2V − (f, uh) = min

vh∈Vh

(1

2∥vh∥2V − (f, vh)

).

(4.3)の解 uと (4.6)の解 uh の間には,次に述べる顕著な関係 (Galerkin直交性,Cea

の補題)がある.

定理 4.5 (Galerkin直交性).

(4.3)の解 uと (4.6)の解 uh について,

(u− uh, vh)V = 0 (∀vh ∈ Vh) (4.7)

が成り立つ.

証明. vh ∈ Vh を任意とする.(4.3)の v として v = vh が取れるので,(4.3)から (4.6)

を引けば良い.

定理 4.6 (Ceaの補題).

(4.3)の解 uと (4.6)の解 uh について,

∥u− uh∥V = minvh∈Vh

∥u− vh∥V (4.8)

が成り立つ.

証明. vh ∈ Vhを任意とする.このとき,Galerkin直交性と Schwarzの不等式を使うと,

∥u− uh∥2V = (u− uh, u− uh)V

= (u− uh, u− vh)V + (u− uh, vh − uh)V︸ ︷︷ ︸=0

≤ ∥u− uh∥V ∥u− vh∥V .

したがって,∥u− uh∥V = |u− vh∥V.vh は任意であったので,(4.8)が成り立つ.

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5 補間誤差評価定理 5.1 (局所的補間誤差評価).

T を 3 点 Qj (j = 1, 2, 3) を結んでできる閉三角形領域とする.このとき,任意のv ∈ H2(T )に対して,Πv を T 上の 1次多項式のうち,T の頂点上で v と値が一致するような関数とする.すなわち,(Πv)(Qj) = v(Qj) (j = 1, 2, 3)が成り立つ (命題 3.3により,v は T 上の連続関数とみなせるので,Πv は確かに定義できる).このとき,

∥∇(v −Πv)∥2,T ≤ C⋆h2T

ρT|v|2,2,T (5.1)

が成り立つ.ただし,C⋆ は T や vと無関係な絶対的な正定数,hT は T の外接円の直径,ρT は内接円の直径である.

⋆例 5.2. Lと α > 0を正数として,(0, 0),(L, 0),(L/2, Lα)を 3頂点とする閉三角形領域 T を考える.v(x1, x2) = x2

1 はH2(T )の関数であり,(Πv)(x1, x2) = Lx1− 14L

2−αx2

である.したがって, ∂∂x1

(v − Πv) = 2x1 − L, ∂∂x2

(v − Πv) = 14L

2−α, ∂2

∂x21v = 2,

∂2

∂x1∂x2v = ∂2

∂x22v = 0と計算できるので,

∥∇(v −Πv)∥22,T|v|22,2,T

≥ 1

32· 1

L2α−4.

を得る.ゆえに,α > 2 のとき,十分小さな L に対しては,不等式 (5.1) は意味をなさない.

定義 (三角形分割の正則性).

Ωの三角形分割の族 Thh が正則 (shape–regular)であるとは,

∃ν1 > 0, supTh∈Thh

maxT∈Th

hT

ρT≤ ν1 (5.2)

成り立つときを言う.

問題 5.1 (Zlamalの最小角条件). 条件 (5.2)と,

∃θ1 > 0, infTh∈Thh

minT∈Th

θT ≥ θ1 (5.3)

が同値になることを示せ.ただし,θT は T の最小角を表す.

定義 (Lagrange補間).

v ∈ C0(Ω)に対して,vh ∈ Xh を,

vh(x) =

N+NB∑i=1

v(Pi)ϕi(x) (5.4)

で定める.この vh を v の (Th における 1次の)Lagrange補間関数と言う.また,v からvh への対応を vh = Πhv と書き,作用素 Πh : C(Ω) → Xh を Lagrange 補間作用素と言う.

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注意. (i) 命題 3.3により,任意の v ∈ H2(Ω)に対して,Πhv ∈ Xh が定義できる.(ii) もし,v ∈ C0(Ω)が Γ上で 0ならば,Πhv ∈ Vh となる.(iii) 各 T ∈ Th 上で,Πhv は 1次多項式であり,T の 3頂点を Pi,Pj,Pk とするとき,vh|T = v(Pi)λT,i + v(Pj)λT,j + v(Pk)λT,k と書ける.λT,i は,Pi に関する T の重心座標である.

定理 5.3 (大域的補間誤差評価).

三角形分割 Thが正則ならば,任意の v ∈ H2(Ω)に対して,

∥∇(v −Πhv)∥2,Ω ≤ C⋆ν1h|v|2,2,Ω (5.5)

が成り立つ.ここで,C⋆ は定理 5.1に現れる定数,ν1 は (5.2)に現れる定数である.

証明. v ∈ H2(Ω)に対して,(5.1)と (5.2)を使うと,

∥∇(v −Πhv)∥22,Ω =∑T∈Th

∥∇(v −Πhv)∥22,T

≤∑T∈Th

C2⋆

(h2T

ρT

)2

|v|22,2,T ≤ (C⋆ν1h)2|v|22,2,Ω.

したがって,(5.5)を得る.

定理 5.4 (Xh と Vh の近似能力).

三角形分割 Thが正則ならば,

limh↓0

infvh∈Xh

∥∇(v − vh)∥2,Ω = 0 (v ∈ H1(Ω)), (5.6)

limh↓0

infvh∈Vh

∥∇(v − vh)∥2,Ω = 0 (v ∈ H10 (Ω)). (5.7)

証明. v ∈ H1(Ω)と ε > 0を任意とする.稠密性 (命題 3.1)により,∥∇(v − w)∥2,Ω ≤ε/2を満たす,w ∈ C∞(Ω)が存在する.一方で,(5.5)により,

infvh∈Xh

∥∇(v − vh)∥2,Ω ≤ infvh∈Xh

[∥∇(v − w)∥2,Ω + ∥∇(w − vh)∥2,Ω]

≤ ∥∇(v − w)∥2,Ω + ∥∇(w −Πhw)∥2,Ω≤ ∥∇(v − w)∥2,Ω + C⋆ν1h|w|2,2,Ω

が成り立つ.したがって,δ = ε/(2C⋆ν1|w|2,2,Ω)とおくと,0 < h ≤ δ のとき,

infvh∈Xh

∥∇(v − vh)∥2,Ω ≤ε

2+

ε

2= ε,

すなわち,(5.6)が成り立つ.(5.7)の証明も同様である.

肝心の定理 5.1の証明に進もう.そのために命題を 3つ述べる.以下の議論では,様々な正定数が閉三角形領域 T に依存するか,あるいは絶対的な定数であるかを区別する必要がある.T に (のみ)依存する正定数を一括して c(T )と書き,そうでない絶対的な正定数を一括して C と書く.他と値を区別する必要がある場合は,c1(T )や C2 などと表す.

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命題 5.5.

S を閉三角形領域,B ∈ R2×2 を非特異行列,c ∈ R2 とし,写像

Φ(ξ) = Bξ + c (ξ ∈ S) (5.8)

を考え,Φによる S の像を T とする,すなわち,T = Φ(S).このとき,次が成り立つ.

(i) ∥B∥ def.= sup

|ξ|=1

|Bξ| ≤ hT

ρSかつ ∥B−1∥ ≤ hS

ρT.

(iii) v ∈ H1(T )に対して,wdef.= v Φ ∈ H1(S)であり,かつ,

∥∇w∥2,S ≤ ∥B∥ · | detB|−1/2∥∇v∥2,T . (5.9)

(iii) v ∈ H2(T )に対して,wdef.= v Φ ∈ H2(S)であり,かつ,

|w|2,2,S ≤ C0∥B∥2 · | detB|−1/2|v|2,2,T (5.10)

が成り立つ.

証明. (i) |ξ| = ρS となるベクトル ξ をとると,|Bξ| ≤ hT が成り立つ.したがって,∥B∥ = 1

ρSsup|ξ|=ρS

|Bξ| ≤ hT

ρS. ∥B−1∥ ≤ hS

ρTも同様に示せる.

(ii) JΦ と JΦ−1 を,Φ と Φ−1 の Jacobi 行列式とすると,|JΦ| = |detB| =

area(T )/ area(S) = 0 かつ |JΦ−1 | = |detB−1| = |detB|−1 である.稠密性により,v ∈ C1(T )について,(5.9)を示せば良い.このとき,w def.

= v Φ ∈ C1(S)である.Φはアフィン写像なので,∇ξw = BT∇xv なので,∥B∥ = ∥BT∥も使うと,

∥∇w∥2S =

∫T

|BT∇xv|2 JΦ−1dx

≤∫T

∥BT∥2 · |∇xv|2 |detB−1| dx = ∥B∥2|detB|−1∥∇v∥2T .

(iii) v ∈ C2(T )について,(5.10)を示す.このとき,wdef.= v Φ ∈ C2(S)であり,

∣∣∣∣∂2w

∂ξ21

∣∣∣∣ =∣∣∣∣∣∣

2∑i,j=1

Bi1Bj1∂2v

∂xi∂xj

∣∣∣∣∣∣ ≤ ∥B∥22∑

i,j=1

∣∣∣∣ ∂2v

∂xi∂xj

∣∣∣∣と計算できる.他の 2次導関数についても同様に計算できるので,∑

|α|=2

∣∣Dαξ w∣∣2 ≤ C∥B∥4

∑|α|=2

|Dαxv|

2,

すなわち,

|w|22,2,S ≤ C∥B∥4∫T

∑|α|=2

|Dαxv|

2JΦ−1 dx = C∥B∥4|detB|−1|v|22,2,T

が得られる.

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命題 5.6.

T を閉三角形領域とすると,

infq∈P1

∥v + q∥2,2,T ≤ c1(T )|v|2,2,T (v ∈ H2(T )) (5.11)

を満たす T にのみ依存する正定数 c1(T )が存在する.

証明. v ∈ H2(T )とする.次を満たす p ∈ P1 が一意的に存在する:∫T

(v + p) dξ =

∫T

∂x1(v + p) dx =

∫T

∂x2(v + p) dx = 0.

Poincare–Wirtingerの不等式 (3.23b)を, ∂∂xi

(v + p)に対して適用すると,∥∥∥∥ ∂

∂xi(v + p)

∥∥∥∥2,T

≤ c(T )

∥∥∥∥∇ ∂

∂xi(v + p)

∥∥∥∥2,T

≤ c(T )|v|2,2,T

を得る.したがって,∥∇(v + p)∥2,T ≤ c(T )|v|2,2,T が成り立つ.一方で,(3.23b) を,v+ pに対して適用すると,∥v+ p∥2,T ≤ c(T )∥∇(v+ p)∥2,T ≤ c(T )|v|2,2,T が得られる.まとめると,

∥v + p∥22,2,T = ∥v + p∥22,T + ∥∇(v + p)∥22,T + |v|22,2,T ≤ c(T )|v|22,T

となる.

命題 5.7.

T を閉三角形領域とすると,

∥∇(v −Πv)∥2,T ≤ c2(T )|v|2,2,T (v ∈ H2(T )) (5.12)

を満たす T にのみ依存する正定数 c2(T )が存在する.(Πv の意味は,定理 5.1と同じである.)

証明. v ∈ H2(T )を任意とする.Sobolevの不等式 (3.24b)を用いると,

∥∇(Πv)∥∞,T ≤ c(T )∥v∥2,2,T

が成り立つ.それゆえ,

∥∇(v −Πv)∥22,T ≤ 2(∥∇v∥22,T + area(T )2∥∇(Πv)∥2∞,T )

≤ c(T )∥v∥22,2,T

と評価できる.ここで,q ∈ P1を任意とすると,Πq = qなので (v+q)−Π(v+q) = v−Πv

となる.したがって,上の不等式を v + q に対して適用すると,∥∇(v − Πv)∥2,T ≤c(T )∥v+ q∥2,2,T となる.q は任意であったので,両辺を q について inf をとり,命題 5.6

を用いると,

∥∇(v −Πv)∥2,T ≤ c(T ) infq∈P1

∥v + q∥2,2,T ≤ c(T )|v|2,2,T

が得られ,証明が完了する.

以上の準備を経て,次の証明を述べることができる.Q1 : (0, 0),Q2 : (1, 0),Q3 = (0, 1)

を 3頂点とする閉三角形領域 T を考え,これを 参照要素 (reference element) と言う.

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ξ1

ξ2

Q1 Q2

Q3

Tx = Φ(ξ)

Q1

Q3

Q2

T

図 5.1 参照要素 T と写像 x = Φ(ξ) = Bξ + c

証明 (定理 5.1の証明). ξ ∈ T を x ∈ T に写す写像 x = Φ(ξ)を,(x1

x2

)= Bξ + c

def.=

(a2 − a1 a3 − a1b2 − b1 b3 − b1

)(ξ1ξ2

)+

(a1b1

)(5.13)

で定める.Φは T を T に写す全単射写像である.特に,Qj = Φ(Qj) (j = 1, 2, 3)が成り立つ.v ∈ H2(T )を任意として,v = v Φとおく.さらに,T 上の 1次多項式で頂点での値が v と一致するものを Πv で表す.命題 5.7を T = T に対して適用する.結果として,定数 c2(T )は絶対的な正定数となることに注意せよ.また,命題 5.5を T = T,S = T に対して適用し,h = hT,ρ = ρT

と書く.すなわち,

∥∇x(v −Πv)∥2,T ≤ ∥B−1∥ · | detB|1/2∥∇ξ(v − Πv)∥2,T

≤ h

ρT|detB|1/2c2(T )|v|2,2,T

≤ h

ρT|detB|1/2c2(T ) · C0∥B∥2|detB|−1/2|v|2,2,T

≤ h

ρTc2(T )C0

h2T

ρ2|v|2,2,T

=

(c2(T )C0h

ρ2

)· hT

ρT· hT |v|2,2,T

が得られる.ゆえに,C⋆ = c2(T )C0h/ρ2 に対して (5.1)が成り立つ.

注意. 定理 5.1の証明と同様にして,

∥v −Πv∥0,2,T ≤ C⋆h2T |v|2,2,T (v ∈ H2(T ))

を示すことができる.したがって,三角形分割に対する仮定無しに,

∥v −Πhv∥2,Ω ≤ C⋆h2|v|2,2,Ω (v ∈ H2(Ω))

が成り立つ.

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6 有限要素近似の誤差評価改めて有限要素法の考察に戻ろう.Ω を R2 の多角形領域,Γ をその境界として,

V = H10 (Ω) とする.V は,(4.2) で定められる内積とノルムの下で Hilbert 空間をなす

のであった.§4で述べた通り,任意の f ∈ L2(Ω)に対して,Poisson方程式 (4.2)の弱形式は,

u ∈ V, (u, v)V = (f, v) (∀v ∈ V ) (6.1)

である.Vh を Ωの三角形分割 Th 上で定義された P1有限要素空間とするとき,(6.1)の有限要素近似は,

uh ∈ Vh, (uh, vh)V = (f, v) (∀vh ∈ Vh) (6.2)

で与えらえる.§4節で考察したように,上の 2つの問題には一意な解 u ∈ V と uh ∈ Vh が存在する.以下の定理 6.1–6.3では,三角形分割の族 Thh>0 は正則と仮定する.

定理 6.1 (収束性).

limh↓0∥∇u−∇uh∥2,Ω = 0.

証明. Ceaの補題(定理 4.6)により,

∥u− uh∥V = minvh∈Vh

∥u− vh∥V (6.3)

がわかっている.したがって,定理 5.4の (5.7)により,(5.2)の右辺は h ↓ 0のとき 0に減衰することがわかる.

定理 6.2 (H1 誤差評価).

(6.1)の解 uが u ∈ H2(Ω)を満たすとする.このとき,

∥∇u−∇uh∥2,Ω ≤ C⋆ν1h|u|2,2,Ω

が成り立つ.ここで,C⋆ は定理 6.1に現れる定数,ν1 は (6.3)に現れる定数である.

証明. Πh を Lagrange補間作用素 (定義 ())として,(5.2)において,vh = Πhu ∈ Vh と選ぶと,定理 5.3により,

∥u− uh∥V ≤ ∥u−Πhu∥V ≤ C⋆ν1h|u|2,2,Ω

が得られる.

定理 6.3 (L2 誤差評価).

Ωが凸多角形ならば,

∥u− uh∥2,Ω ≤ C⋆Cregν1h∥∇u−∇uh∥2,Ω, (6.4)

さらに,∥u− uh∥2,Ω ≤ C2

⋆Cregν21h

2|u|2,2,Ω (6.5)

が成り立つ.

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証明. まず,Ω が凸多角形なので,u ∈ H2(Ω) となることに注意する (定理 4.2(ii)).eh = u− uh とおいて,変分方程式

w ∈ V, (v, w)V = (v, eh) (∀v ∈ V ) (6.6)

を考える.定理 4.1と定理 4.2(ii)により,(6.6)には,一意な解w ∈ V が存在し ∥w∥2,2,Ω ≤Creg∥eh∥2,Ω が成り立つ.(6.6)で v = eh と選ぶと,

∥eh∥22,Ω = (eh, w)V = (eh, w −Πhw)V

≤ ∥eh∥V ∥w −Πhw∥V≤ ∥eh∥V · C⋆ν1h|w|2,2,Ω≤ ∥eh∥V · C⋆ν1h · Creg∥eh∥2,Ω

が成り立つ.ただし,Galerkin 直交性 (4.7) より,(eh,Πhw)V = 0 が成り立つことを使った.したがって,(6.4)が示せた.これと,定理 6.2の結果を合わせれば,(6.5)が出る.

注意. (6.6) を (6.1) の共役問題あるいは双対問題と呼ぶ.定理 6.3 の証明方法を,双対論法 (duality argument) あるいは Aubin-Nitscheの技巧 と言う.

注意. 定理 6.2と定理 6.3の仮定は大いに異なっている.定理 6.2では,与えられたf ∈ L2(Ω)に対して,(6.1)の解が u ∈ H2(Ω)となることを仮定している.一方おいて,定理 6.3では,任意の h > 0に対して,(6.6)の解が w ∈ H2(Ω)となることを要請している.すなわち,任意の f ∈ L2(Ω)に対して,(6.1)の解が u ∈ H2(Ω)となることを仮定しているのである.

⋆例 6.4. 定理 6.2と定理 6.3を数値例を用いて検証してみよう.例題として,正方形領域 Ω = (0, 1)× (0, 1)上で,

−∆u = 2π2 sin(πx) sin(πy) in Ω, u = 0 on Γ

を考えよう.解は,u(x, y) = sin(πx) sin(πy)

である.数値解と区別すため,今後,微分方程式を厳密に満たす解を厳密解と呼ぶことにしよう.図 6.1に示したような,一様分割に基づく三角形分割 Th の族を考える.さらに,十分に細かく分割した三角形分割 Th′ を導入し,u = Πh′uとおく.ここで,Πh′ は Th′ 上で定義された Lagrange補間多項式である.さて,

∥∇u−∇uh∥L2(Ω) ≤ ∥∇u−∇u∥L2(Ω) + ∥∇u−∇uh∥L2(Ω)

と分解する.∥∇u −∇u∥L2(Ω) は,∥∇u −∇uh∥L2(Ω) と比べると十分に小さいことが期待されるので,誤差 ∥∇u−∇uh∥L2(Ω),∥u− uh∥L2(Ω) を直接見る代わりに,

eh = ∥∇u−∇uh∥L2(Ω), Eh = ∥u− uh∥L2(Ω)

31

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図 6.1 一様分割に基づく三角形分割 Th の族

を観察することにする(なぜ,このように回りくどいことを考えるのであろうか?各自理由を考えよ). さらに,

ρh =log e2h − log ehlog(2h)− log(h)

, Rh =logE2h − logEh

log(2h)− log(h).

を計算する.結果を,図 6.2と表 6.1に示した.これらから,

eh ≈ C1h, Eh ≈ C2h2 (C1, C2 正定数) (6.7)

という傾向を観察することができ,定理 6.2と定理 6.3から予見される結果が得られた.Listing 3は,計算に用いた Freefem++コードである.

Listing 3 例 6.4のための Freefem++コード// error1.edp

func exact = sin(pi*x)*sin(pi*y); // exact solution

func f = 2.0*pi*pi*exact; // rifht-hand side function

func g = exact; // Dirichlet boundary condition

real hsize, hold; // mesh size

real errh1, errh1old, errl2, errl2old, rateh1, ratel2;

int n, nn;

// fine triangulation

nn = 256;

mesh Th2 = square(nn, nn);

fespace Vh2(Th2, P1);

Vh2 uproj, w, uex;

uex = exact;

// output file

ofstream f1("error1.dat");

// n=4,8,16,32,64

n = 2;

errh1old = errl2old = 1.0;

hold = 1.0;

for (int i = 1; i < 6; i++)

n = 2*n;

mesh Th = square(n, n);

plot(Th, ps="error1.eps");

fespace Vh(Th, P1);

Vh u, v, hh = hTriangle;

hsize = hh[].max;

32

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0.0001

0.001

0.01

0.1

1

0.01 0.1 1

log

(Erro

r)

log (h)

H1 ErrL2 Err

図 6.2 誤差の挙動 (例 6.4)

表 6.1 eh, ρh, eh,Rh の値 (例 6.4)

h eh ρh Eh Rh

0.353553 0.838452 — 0.079064 —

0.176777 0.431591 0.96 0.021119 1.90

0.088388 0.217113 0.99 0.005364 1.98

0.044194 0.108122 1.01 0.001337 2.00

0.022097 0.052783 1.03 0.000325 2.04

solve Poisson(u,v) =int2d(Th)( dx(u)*dx(v) + dy(u)*dy(v)) - int2d(Th) ( f*

v ) + on(1,2,3,4,u = g);

// computation of error using the fine triangulation

uproj = u; // projection of u into the fine triangulation

w = uproj - uex; // error function

errh1 = sqrt( int2d(Th2)(dx(w)*dx(w) + dy(w)*dy(w)) ); // H1-error

errl2 = sqrt( int2d(Th2)(w^2) ); // L2-error

// computation of rates

rateh1 = (log(errh1) - log(errh1old))/(log(hsize) - log(hold));

ratel2 = (log(errl2) - log(errl2old))/(log(hsize) - log(hold));

errh1old = errh1;

errl2old = errl2;

hold = hsize;

// output results

f1 << hsize << " "

<< errh1 << " " << rateh1 << " "

<< errl2 << " " << ratel2<< " " << endl;

⋆ 例 6.5. 次に例 4.3 の方程式と解を考える.ω = 0.7π, 1.5π, 1.8π としたときの数値解 uh を図 6.3–6.5 に示した.例 4.3 で説明した通り,ω = 0.7π の時は u ∈ H2(Ω) だ

33

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が,ω = 1.5π, 1.8π の時は u ∈ H2(Ω) なのであった.したがって,定理 6.2 と定理 6.3

を適用することはできない.実際,誤差の挙動を調べて見ると図 6.6のようになり,前と同じ (6.7) のような傾向は観察できない.その一方で,1 < ω < 2 のときには,適当なs = s(ω), s′ = s′(ω) ∈ (0, 1)に対して,

∥∇u−∇uh∥L2(Ω) ≤ Cs(u)hs, ∥u− uh∥L2(Ω) ≤ Cs′(u)h

1+s′ ,

の形の誤差評価が予想できる.実際,この予想は正しい.

図 6.3 例 6.5.ω = 0.7

図 6.4 例 6.5.ω = 1.5

図 6.5 例 6.5.ω = 1.8

34

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0.000010

0.000100

0.001000

0.010000

0.100000

1.000000

0.01 0.1 1

log

(Erro

r)

log (h)

H1: ome=0.7piH1: ome=1.5piH1: ome=1.8piL2: ome=0.7piL2: ome=1.5piL2: ome=1.8pi

図 6.6 誤差の挙動 (例 6.5)

35

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7 Lax-Milgramの定理前章で見たように,Poisson方程式の境界値問題を考える際には,Rieszの表現定理が理論的な基礎となっていた.P. D. Laxと A. N. Milgramは,1954年に発表された論文[23]の中で,“Riezの表現定理の一般化”としてある定理を証明し,様々な(特に高階の)楕円型方程式の解の一意存在や安定性を議論した.今日では Lax–Milgramの定理と呼ばれるその定理は,楕円型偏微分方程式の解の存在だけでなく,数値解析の理論を展開する上でも重要である.V を,内積 (·, ·)V とノルム ∥ · ∥V を持つ(実)Hilbert空間とする.V ′ を V の双対空間とする.すなわち,各 F ∈ V は,V で定義された線形汎関数であり,

∥F∥V ′def.= sup

v∈V

F (v)

∥v∥V<∞. (7.1)

以後,慣例に従い,v ∈ V における F の値 F (v) を,⟨F, v⟩ と書く.⟨·, ·⟩ は双対積(duality pairing)と呼ばれる.

定義 (双線形形式).

(i) 写像 a : V × V → Rで,w ∈ V を固定したとき,a(w, v)は v ∈ V について線形であり,v ∈ V を固定したとき w ∈ V について線形であるようなものを,V × V 上の双線形形式と言う.すなわち,

a(kw + lu, v) = k · a(w, v) + l · a(u, v),a(w, kv + lu) = k · a(w, v) + l · a(w, u)

が,任意の w, v, u ∈ V と k, l ∈ Rに対して成立するような,V × V 上で定義された汎関数を双線形形式と言う.(ii) 双線形形式 aが,任意の w, v ∈ V に対して,a(w, v) = a(v, w)を満たすとき,aは対称であると言う.(iii) 双線形形式 aが有界であるとは,

∥a∥ def.= sup

w,v∈V

a(w, v)

∥w∥V ∥v∥V<∞ (7.2)

が成り立つときである.

定理 7.1 (Lax–Milgram).

a : V × V → R V × V 上の有界な双線形形式 aが,次に述べる強圧性条件 (coercivity

condition)を満たすとする:

∃α > 0 s.t. a(v, v) ≥ α∥v∥2V (v ∈ V ). (7.3)

このとき,任意の F ∈ V ′ に対して,次の方程式を満たす u ∈ V が一意的に存在する:

a(u, v) = ⟨F, v⟩ (∀v ∈ V ). (7.4)

36

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注意. 定理 7.1で述べた uは,

∥u∥V ≤1

α∥F∥V ′ (7.5)

を満たす.この不等式を,事前評価 (a priori estimate) と呼ぶことがある.実際,(7.4)

において,v = u と選び,強圧性条件 (7.3) を用いれば,α∥u∥2V ≤ a(u, u) = ⟨F, u⟩ ≤∥F∥V ′∥u∥V が得られる.これより,(7.5)が出る.

証明 (定理 7.1 の証明). 一意性は (7.5) より明らかなので,存在を示せばよい.2 段に分けて証明する.以下,単に (·, ·) = (·, ·)V,∥ · ∥ = ∥ · ∥V と書く.第 1段(問題の書き換え)まず,u ∈ V を固定して,φu(v) = a(u, v) (∀v ∈ V )とおく.φu(v) は,V 上の線形汎函数である.|φu(v)| ≤ (∥a∥ · ∥u∥) · ∥v∥V より,φu(v) は有界である.したがって,Riesz の表現定理(定理??)により,(w, v)V = φu(v) = a(u, v)

(∀v ∈ V ) を満たす w ∈ V が一意的に存在する.この対応 u 7→ w を w = Au と書く.そうすると,作用素 A は,V 上の線形作用素である.さらに,この A は有界である.実際,v = w = Au と選ぶと,∥Au∥2 = a(u,Au) ≤ ∥a∥ · ∥Au∥ · ∥u∥ なので,∥A∥ = supu∈V ∥Au∥/∥u∥ ≤ ∥a∥が成り立つ.以上から,有界双線形作用素 aは,有界線形作用素 Aを用いて,

(Au, v) = a(u, v) (u, v ∈ V ).

とかけることがわかった.さらに,

(Av, v) ≥ α∥v∥2, ∥Av∥ ≤ ∥a∥ · ∥v∥ (v ∈ V ). (7.6)

が成り立つ.一方で,F についても,Rieszの表現定理(定理??)により,⟨F, v⟩ = (f, v)

(∀v ∈ V )を満たす f ∈ V が唯一存在する.結果的に,(7.4)は,

(Au, v) = (f, v) (v ∈ V ) (7.7)

と表現できる.さらに,v = Au− f と選ぶことにより,(7.7)は,

Au− f = 0 (7.8)

と同値である.第 2段(縮小写像の原理による解の構成)(7.8)を満たす u ∈ V の存在を示せば,その u

は,目標の (7.4)も満たす.V 上の作用素 B と E を,次のように定める:

Bv = v − ρAv, Ev = v − ρ(Av − f) = Bu+ ρf, (v ∈ V ).

ここで,ρ > 0は後から定める定数である.このとき,(7.6)を用いると,v ∈ V に対して,

∥Bv∥2 = (Bv,Bv) = ∥v∥2 − 2ρ(Av, v) + ρ2∥Av∥2

≤ ∥v∥2 − 2ρα∥v∥2 + ρ2∥a∥2∥v∥2 = λ∥v∥2

と計算できる.ただし,λdef.= 1 − 2ρα + ρ2∥a∥2 と置いている.ここで,ρ を 0 < ρ <

2α/∥a∥2 の範囲で一つ選び固定すると,0 < λ < 1である.それゆえ,

∥Ev − Ew∥ = ∥B(v − w)∥ ≤√λ ∥v − w∥ (v, w ∈ V ).

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が成り立つ.したがって,E は V 上の縮小写像であり,縮小写像の原理により,E には唯一の不動点 u ∈ V,u = Euが存在する.この uは,(7.8)を満たす.

定理 7.2 (変分原理).

定理 7.1の仮定に加えて,双線形形式 aは対称であるとする.このとき,u ∈ V が (7.4)

の解であることと,u ∈ V が

1

2a(u, u)− ⟨F, u⟩ = min

v∈V

(1

2a(v, v)− ⟨F, v⟩

)(7.9)

を満たすことは同値である.

証明. 命題 1.1の証明と全く同じである.

この定理に基づいて,(aが対称でなくても)方程式 (7.4)のことを,変分方程式,あるいは,変分問題と呼ぶ.次に,変分方程式 (7.4)の有限次元近似を考える.そのために,V の有限次元部分空間

Vh を導入する.hは h→ 0とするパラメータである.変分方程式 (7.4)の Galerkin近似方程式は,

uh ∈ Vh, a(uh, vh) = ⟨F, vh⟩ (∀vh ∈ Vh) (7.10)

で定めらる方程式である.Vh の次元を N として,基底 ϕiNi=1 をとる.uh を uh =

∑Ni=1 Uiϕi と書いたとき,

(7.10)が,連立一次方程式Au = f (7.11)

に帰着されることは,Poisson 方程式の場合と同じである.ここで,次のように置いている:

A = (a(ϕj , ϕi))1≤i,j≤N , u = (Ui)1≤i≤N , f = (⟨F, ϕi⟩)1≤i≤N .

Galerkin近似方程式 (7.10)の解の一意存在も,Lax–Milgramの定理から直ちに従う.(あるいは,強圧性条件により,Aが正定値対称であることが示せる.)

定理 7.3 (Galerkin直交性).

定理 7.1の仮定の下で,u ∈ V を (7.4)の解,uh ∈ Vh を (7.10)の解とすると,

a(u− uh, vh) = 0 (∀vh ∈ Vh) (7.12)

が成り立つ.

証明. (7.4)で v = vh と選んだ式から,(7.10)を引けば良い.

定理 7.4 (Ceaの補題).

定理 7.1の仮定の下で,u ∈ V を (7.4)の解,uh ∈ Vh を (7.10)の解とすると,

∥u− uh∥V ≤∥a∥α

infvh∈Vh

∥u− vh∥V (7.13)

が成り立つ.

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証明. vh ∈ Vh を任意とする.定理 7.4により,a(u− uh, vh − uh) = 0なので,

α∥u− uh∥2V ≤ a(u− uh, u− uh)

= a(u− uh, u− vh) + a(u− uh, vh − uh)

≤ ∥a∥ · ∥u− uh∥V ∥u− vh∥V

が得られる.vh は任意であったので,(7.13)が成り立つ.

注意. 定理 7.4において,さらに,aは対称であるとすると,

∥u− uh∥V ≤√∥a∥α

minvh∈Vh

∥u− vh∥V . (7.14)

が成り立つ.実際,このとき,V の内積として ((w, v)) = a(w, v)を採用することができる.というのも,aの連続性と強圧性により,ノルム |||v||| = ((v, v))1/2 は,もともとのノルム ∥v∥V と V 上で同値であるからである.このとき,

((u− uh, wh)) = 0 (∀wh ∈ Vh)

が成り立つ.これは,対応 u 7→ uh が,V から Vh への ((w, v))に関する直交射影になっていることを意味している.したがって,射影定理により,

|||u− uh||| = minvh∈Vh

|||u− vh|||

が成り立つ.これは,(7.14)を意味している.

応用. 次に,Lax–Milgram の定理の応用を述べよう.Ω を Rd の有界な Lipschitz

領域とする.その境界 Γ = ∂Ωは,2つの部分 ΓD と ΓN から成っているとする.すなわち,Γ = ΓD ∪ ΓN である.ΓD と ΓN は,Lipschitz境界なので,その上で外向きの単位法ベクトル n = n(s) = (n1(s), . . . , nd(s))がほとんど致る s ∈ ΓD ∪ ΓN で定義される.与えられた正定数 ν とベクトル値の関数 b = (b1, . . . , bd) : Ω → Rd に対して,次の偏微分方程式を考える:

− ν∆u+∇ · (bu) + cu = f in Ω, (7.15a)

u = gD on ΓD, (7.15b)

ν∂u

∂n− (b · n)u = gN on ΓN . (7.15c)

ただし, ∂u

∂n= ∇u · n,∇ · (bu) =

d∑j=1

∂xj(bju)と書いている.

密度 uに対する流束j = −ν∇u+ bu

に対する勾配系になっている.すなわち,(7.15a)は,∇· j = f,(7.15c)は,−j ·n = gN

の形をしている.いま,gD が Ω 上の関数 gD の境界値として定義されていると仮定しよう.すなわち,

gD|ΓD= gD である.

39

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このとき,弱形式として次を導くことができる(本題ではないので詳しいことは省略する).

u = u− gD ∈ H1(Ω), (7.16a)

u ∈ V, a(u, v) = F (v) (∀v ∈ V ). (7.16b)

ただし,

V = v ∈ H1(Ω) | v|ΓD= 0,

a(w, v) =

∫Ω

(ν∇w · ∇v dx− (bw) · ∇v + cwv) dx,

F (v) =

∫Ω

fv dx+

∫ΓN

gNv dS + a(gD, v)

としている.簡単のため,measd−1(ΓD) > 0の場合を考える.このとき,V はノルムと内積

(w, v)V = (∇w,∇v)Ω, ∥v∥V = ∥∇v∥2,Ω (7.17)

を備えた Hilbert空間となる.f と境界関数 gD, gN について,

f ∈ L2(Ω) (7.18a)

gD ∈ H1(Ω), gD = gD|ΓD, gN ∈ L2(ΓN ) (7.18b)

を仮定する.一方で,

bj ∈ H1(Ω) ∩ L∞(Ω) (j = 1, . . . , d), c ∈ L∞(Ω), (7.18c)

1

2∇ · b+ c ≥ 0 (x ∈ Ω), b · n ≤ 0 (x ∈ ΓN ) (7.18d)

と仮定して,∥b∥∞,Ω = max1≤j≤d ∥bj∥∞,Ω とおくと,

|a(w, v)| ≤ C∥w∥V ∥v∥V

となり,a は有界である.ただし,C は,ν, CP, ∥b∥∞,Ω, ∥c∥∞,Ω に依存する正定数である.一方で,aの強圧性を示すために,部分積分公式を応用して,次の恒等式を用意しておく.v ∈ V に対して,

−∫Ω

(bv) · (∇v) dx = −∫Ω

d∑j=1

bj ·1

2

∂xj(v2) dx

= −1

2

∫∂Ω

d∑j=1

1

2bjv

2nj dS +1

2

∫Ω

d∑j=1

∂bj∂xj· v2 dx

= −1

2

∫ΓN

(b · n)v2 dS +1

2

∫Ω

(∇ · b)v2 dx

これと,(7.18d)を使うと,v ∈ V に対して,

a(v, v) ≥ ν∥v∥22,Ω +

∫Ω

(1

2∇ · b+ c

)v2 dx ≥ ν∥v∥2V

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が成り立ち,aは確かに V × V 上で強圧的である.さらに,F は V 上の有界線形汎関数となることが確かめられる.したがって,定理を得る.

定理 7.5.

measd−1(ΓD) > 0とする.係数・境界関数について,(7.18)を仮定すると,(7.16)を満たす u ∈ H1(Ω)と u ∈ V が唯一存在し,

∥u∥1,2,Ω ≤ C(∥f∥2,Ω + ∥g2∥2,Γ + ∥gD∥1,2,Ω) (7.19)

が成り立つ.ただし,C は ν,CP,CTr にのみ依存する正定数である.

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8 一般化 Lax-Milgramの定理§7で考察した Lax–Milgramの定理 (定理 7.1)では,試行関数と試験関数の空間がともに同じ Hilbert空間 V であった.これらを異なる Banach空間 V,W に拡張して,抽象的な変分問題

a(u,w) = ⟨L,w⟩W ′,W (∀w ∈W ) (8.1)

の解 u ∈ V の一意存在を保証する条件を導くことはできないであろうか?この問に答えるのが次の定理である.

定理 8.1.

一般化 Lax–Milgramの定理.形式版 V を Banach空間,W を回帰的 Banach空間とする.V ×W 上の有界双線形形式 a(v, w)に対して,次の (i)–(iii)は同値である.

(i) 任意の L ∈W ′ に対して,次の方程式を満たす u ∈ V が一意的に存在する.

a(u,w) = ⟨L,w⟩W ′,W (∀w ∈W ). (8.2)

(ii) 次の 2つが成り立つ:

β1def.= inf

v∈Vsupw∈W

a(v, w)

∥v∥V ∥w∥W> 0; (8.3a)

w ∈W, (∀v ∈ V, a(v, w) = 0) =⇒ (w = 0). (8.3b)

(iii) 次の 2つが成り立つ:

β1def.= inf

v∈Vsupw∈W

a(v, w)

∥v∥V ∥w∥W> 0; (8.4a)

β2def.= inf

w∈Wsupv∈V

a(v, w)

∥v∥V ∥w∥W> 0. (8.4b)

この定理を 一般化 Lax–Milgramの定理 と呼ぼう.他には,Babuska–Lax–Milgramの定理 や Banach–Necas–Babuskaの定理 と呼ばれることがある.定理 8.1に関する注意をまとめて述べよう.

注意. (i) 方程式 (8.2)の解 u ∈ V は,∥u∥V ≤1

β1∥L∥W ′ を満たす.

(ii) β1 = β2 となる.(iii) (8.3a)は,

∃β > 0, supw∈W

a(v, w)

∥w∥W≥ β∥v∥V (∀v ∈ V ).

と書いても同じである.(8.3a) は, Babuska–Brezzi 条件,あるいは,inf–sup条件 と呼ばれる.

(iv) (8.3b)は次のように書いても良い:

supv∈V|a(v, w)| > 0 (∀w ∈W,w = 0).

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(v) W = V のとき,強圧性条件 (7.3)から (8.4)が従うので,Lax–Milgramの定理 (定理 7.1)は定理 8.1の系である.

以下では,V とW が Hilbert空間の場合に限って,定理 8.1の証明を述べる.Banach

空間の場合は [13]を参照せよ.証明には,Rieszの表現定理 (命題 3.7)に加えて,関数解析学における基本定理である開写像定理と射影定理を用いる.

記法. X と Y をノルム空間,T : X → Y を作用素とする.

• D(T ): T の定義域,R(T ) = Tx ∈ Y | x ∈ D(T ): T の値域.• N (T ) = ker(T ) = x ∈ D(T ) | Tx = 0: T の零空間 (null space).核空間(kernel space)とも言う.• L(X,Y ): X から Y への有界線形作用素全体の集合.慣例に従い,T ∈ L(X,Y )

に対しては,X = D(T )を前提とする.• X における中心 a ∈ X,半径 r > 0 の開球を BX(a, r) で表す.すなわち,BX(a, r) = x ∈ X | ∥x− a∥X < rとする.

命題 8.2 (開写像定理).

X と Y を Banach空間として,T ∈ L(X,Y )かつ Y = R(T )とする.このとき,X の開集合M の T による像 TM = y ∈ Y | y = Tx (x ∈M)は Y の開集合になる.

定義.

内積 (·, ·)X とノルムを ∥ · ∥X を備えた Hilbert空間 X の部分集合 S に対して,

S⊥ = x ∈ X | (x, y)X = 0 (∀y ∈ S) (8.5)

を S の(Hilbert空間 X における)直交補空間という.S⊥ は X の閉部分空間になる.

命題 8.3 (射影定理).

L を Hilbert 空間 X の閉部分空間とすると,X の任意の元 x ∈ X は,x = y + z

(y ∈ L, z ∈ L⊥)の形に一意的に分解できる.このことを,X = L⊕ L⊥ のように書く.

はじめに,開写像定理から得られる有用な事実を述べる.

定義.

T を Banach空間 X から Banach空間 Y への作用素とするとき,

µ(T ) = µX,Y (T ) = infx∈D(T )

∥Tx∥Y∥x∥X

(8.6)

を T の下限 (minimum modulus)という.

注意. µ(T ) > 0ならば,N (T ) = 0,すなわち,T は単射である.

43

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命題 8.4.

X と Y を Banach空間とする.作用素 T ∈ L(X,Y )について,次の (i)と (ii)は同値である:

(i) R(T )は Y の閉部分空間であり,N (T ) = 0;(ii) µ(T ) > 0.

証明. (i)⇒(ii). Y = R(T )とおく.仮定より,Y は Y の閉部分空間であるから,Y はY と同じノルムを備えた Banach空間となる.そうすると,T はX から Y への全射な作用素と考えることができる.開写像定理により T BX(0, 1)は Y の開集合なので,c > 0

を適当に小くとれば,BY (0, c) ⊂ T BX(0, 1)とできる.さて,(0 =)x ∈ X を任意とし,ξ = cx/(2∥Tx∥Y ) ∈ X とおく.∥Tξ∥Y = c/2 < cなので,Tξ ∈ BY (0, c) ⊂ T BX(0, 1)

である.T は単射だから,これより,ξ ∈ BX(0, 1)がしたがう.∥ξ∥X < 1を変形すると,∥Tx∥Y /∥x∥X > c/2となるので,xについて inf をとれば,µ(T ) > 0が得られる.(ii)⇒(i). まず,N (T ) = 0は明らか.R(T )の点列 ynと y ∈ Y で,∥yn− y∥Y → 0

(n → ∞)となるものをとる.各 nに対して,Txn = yn となる xn ∈ X が存在する.いま,µ(T ) > 0より,

∥xn − xm∥X ≤ µ(T )−1∥Txn − Txm∥Y = µ(T )−1∥yn − ym∥Y

が成り立つので,xnは X の Cauchy列である.X の完備性により,∥xn − x∥X → 0

となる x ∈ X が存在するが,T が連続なので,Tx = yが成り立つ.すなわち,y ∈ R(A)

であり,R(A)は Y の閉集合である.

命題 8.4の系として,次を直ちに得る.

命題 8.5.

X と Y を Banach空間とする.

(i) T ∈ L(X,Y )が全単射写像ならば,T−1 ∈ L(Y,X)となる.(ii) T ∈ L(X,Y )を単射とする.(このとき,T−1 : R(T )→ X が定義できるが)さらに,T−1 ∈ L(R(T ), X)となるための必要十分条件はR(T )が閉集合となることである.

この命題の (i)は,しばしば,値域定理 と呼ばれる(閉値域定理とは異なるので注意すること).

⋆例 8.6. R(T )が閉集合にならないような作用素 T の例を挙げる.区間 I = (0, 1)を考え,X = Y = L2(I)とする.X や Y の関数を x = x(t)や y = y(t)のように書く.いま,T ∈ L(X,Y )を,掛け算作用素 (Tx)(t) = tx(t) (x ∈ X)で定める(実際,T が X

から Y への有界線形作用素となる).y ∈ Y を y(t) = 1 (t ∈ I) とする.Tx0 = y を満たす関数 x0 は x0(t) = 1/tとなるはずだが,x0 ∈ X なので,y ∈ R(T )である.次に,0 < ε < 1に対して,xε ∈ X と yε ∈ Y を,

xε(t) =

0 (0 < t < ε)

1/t (ε ≤ t < 1),yε(t) =

0 (0 < t < ε)

1 (ε ≤ t < 1)

44

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で定めると,Txε = yεが成り立つので,今度は,yε ∈ R(T )である.さらに,ε→∞の際に,∥yε−y∥Y → 0となるので,y ∈ R(T )であることもわかる.すなわち,R(T ) = R(T ),とくに, R(T )は閉集合ではない.一方において,直接の計算により,µ(T ) ≤ ∥Txε∥Y /∥xε∥X =

√ε なので,ε→ 0とす

ると,µ(T ) = 0となり,µ(T ) > 0は成り立っていない.

命題 8.7.

Banach空間 X において,

∥x∥X = supF∈X′

⟨F, x⟩X′,X

∥F∥X′(x ∈ X) (8.7)

が成り立つ.

この命題の証明には Hahn–Banachの定理を用いる.ここでは,以下での議論の準備の目的も含めて,Hilbert空間の場合について証明を述べる.しばらく,X を Hilbert空間とする.Riesz の表現定理 (命題 3.7) において,F ∈ X ′ に a ∈ X を対応させる作用素を,JX : X ′ → X と書く.すなわち,

⟨F, x⟩X′,X = (JXF, x)X (∀x ∈ X) (8.8)

である.JX をX ′ からX への Riesz写像 と呼ぶ.JX は線形かつ全単射な写像であり,

∥JXF∥X = ∥F∥X′ (F ∈ X ′) (8.9)

を満たす(→問題 8.1).したがって,JX は等長作用素である.さらに,X ′ は内積

(F,G)X′ = (JXF, JXG)X (∀F,G ∈ X ′) (8.10)

が定義され,付随するノルム ∥F∥X′ = (F, F )12

X′ は (8.9)と整合している.実際,X ′ はこの内積とノルムの下で Hilbert空間となる.

問題 8.1. (8.8)で定められる Riesz写像 JX : X ′ → X について(X は Hilbert空間),これが全単射写像であり,(8.9)を満たすことを示せ.

証明 (命題 8.7 の証明 (X が Hilbert 空間の場合)). (8.7) の右辺の量を |||x||| で表す.x ∈ X を任意とする.|||x||| ≤ ∥x∥X は明らかである.一方,Riesz写像を用いると,

|||x||| = supF∈X′

(JXF, x)X∥F∥X′

≥(JX(J−1

X x), x)X

∥J−1X x∥X′

=∥x∥2X∥J−1

X x∥X′

が得られる.(8.9)で F = J−1X xを考えると,∥J−1

X x∥X′ = ∥x∥X となり,これと上を合わせれば,∥x∥X ≤ |||x|||が示せた.

以上の準備を経て,定理 8.1の考察に戻ろう.以下では,X = V,W や Y = W ′, V ′ などどとして,上の事実を応用する.まず,u ∈ V を固定して,φv(w) = a(v, w)(w ∈ W )

を考えると,これは W 上の有界な線形汎関数となる.v ∈ V に φv ∈ W ′ を対応させる写像として A : V → W ′ を導入する.この A は有界線形作用素である.すなわち,A ∈ L(V,W ′)が,

a(v, w) = φv(w) = ⟨Av,w⟩W ′,W (v ∈ V, w ∈W ) (8.11)

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により定義された.全く同様にして,A′ ∈ L(W,V ′)が,

a(v, w) = ⟨v,A′w⟩V ′,V (v ∈ V, w ∈W ) (8.12)

により定義される.すなわち,Aと A′ は,

⟨Av,w⟩W ′,W = ⟨v,A′w⟩V ′,V (v ∈ V, w ∈W ) (8.13)

を満たす.A′ を Aの 双対作用素 (dual operator),あるいは, 共役作用素 (adjoint op-

erator)と言う.このように定めた Aと A′ について,

µ(A) = infv∈V

∥Av∥W ′

∥v∥V= inf

v∈Vsupw∈W

a(v, w)

∥v∥V ∥w∥W,

µ(A′) = infw∈W

∥A′w∥V ′

∥w∥W= inf

w∈Wsupv∈V

a(v, w)

∥v∥V ∥w∥W,

となるので,例えば,(8.3a)は,β1 = µ(A) > 0 であることと同値である.さらに,(8.3b)は,N (A′) = 0であることと同値である.結果的に,定理 8.1を含む定理として,次を示せば良いことがわかる.

定理 8.8 (一般化 Lax–Milgramの定理.作用素版).

V を Banach空間,W を回帰的 Banach空間とする.作用素 A ∈ L(V,W ′)とその双対作用素 A′ ∈ L(W,V ′)に対して,次の (i)–(v)は同値である:

(i) Aは V からW ′ への全単射写像;

(ii) µ(A) > 0かつ N (A′) = 0;(iii) µ(A) > 0かつ µ(A′) > 0;

(iv) µ(A′) > 0かつ N (A) = 0;(v) A′ はW から V ′ への全単射写像.

実際,一般的な有界線形作用素 Aについて,定理 8.8を示しておけば,Aが双線形形式から定義される特別な場合として定理 8.1が得られることになる.

証明 (定理 8.8 の証明 (V とW が Hilbert 空間の場合)). はじめに,(ii)⇒(i) を示す.命題 8.4 より,R(A) は W ′ の閉部分空間であり,N (A) = 0 となる.したがって,あとは,R(A) = W ′ を示せば良い.射影定理により,W ′ = R(A) ⊕ R(A)⊥ であるから,R(A)⊥ = 0を示せば良い.f ∈ R(A)⊥ を任意にとる.すなわち,f ∈ W ′ は,任意の v ∈ V に対して,(Av, f)W ′ = 0 を満たすとする.Riesz 写像 JW : W ′ → W とJV : V ′ → V を用いると,

0 = (Av, f)W ′ = (JWAv, JW f)W (← (8.10))

= ⟨Av, JW f⟩W ′,W (← (8.8))

= ⟨v,A′JW f⟩V ′,V (← (8.13))

= (v, JV A′JW f)V . (← (8.8))

と変形できる.v ∈ V は任意であったから,JV A′JW f = 0がわかる.JW と JV は単射

であり,さらに,仮定N (A′) = 0により,A′も単射なので,f = 0となり,R(A) = W ′

が示せた.

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次に,(i)⇒(iv) を示す.N (A) = 0 は明らか.一方で,命題 8.5(i) により,A−1 ∈L(W ′, V )なので,

µ(A)−1 = supv∈V

∥v∥V∥Av∥W ′

= supf∈W ′

∥A−1f∥V∥f∥W ′

= ∥A−1∥W ′,V <∞, (8.14)

すなわち,µ(A) > 0である.(0 =)w ∈W を任意とすると,

∥A′w∥V ′ = supv∈V

⟨v,A′w⟩V ′,V

∥v∥V

= supv∈V

⟨Av,w⟩W ′,W

∥v∥V(← (8.13))

= supf∈W ′

⟨f, w⟩W ′,W

∥A−1f∥V(← Aの全射性)

≥ supf∈W ′

⟨f, w⟩W ′,W

∥A−1∥W ′,V ∥f∥W ′= µ(A)∥w∥W (← (8.7), (8.14))

となり,両辺を ∥w∥W で割ってから,wについて inf をとれば,

µ(A′) ≥ µ(A)(> 0) (8.15)

が得られる.(iv)⇒(v)と (v)⇒(ii)は,Aと A′ の役割を入れ替えれば良いのみである.一方で,(iii)⇒(ii) は明らかであろう.さらに,(ii) から (i) を経て (iv) がしたがうので,(ii)⇒(iii)も正しい.

注意. (8.15) の導出において,A と A′ の役割を入れ替えれば,µ(A) ≥ µ(A′) であることもわかる.すなわち,µ(A) = µ(A′) が成り立つ.これは,定理 8.1 において,β1 = β2 が成り立つことを意味している.

Lax–Milgramの定理 (定理 8.1)における強圧性の条件は,V が Banach空間の場合でも意味をなす.作用素を用いて表現すると,A ∈ L(V, V ′)が,

∃α > 0 s.t. ⟨Av, v⟩V ′,V ≥ α∥v∥2V (∀v ∈ V ) (8.16)

を満たすとき,Aは強圧的である言う.しかしながら,強圧的な有界線形作用素が存在する Banach空間は,おのずと Hilbert空間になる.すなわち,強圧的な作用素,あるいは,双線形形式を考える舞台としては,Hilbert空間が自然である.

命題 8.9.

V を Banach空間とすると,次の (i)と (ii)は同値である:

(i) 強圧性条件 (8.16)を満たす A ∈ L(V, V ′)が存在する;

(ii) V は Hilbert空間である.すなわち,V には内積が導入され,その内積に付随するノルムは元の V のノルムと同値である.

証明. (i)⇒(ii) 内積を次のように定めれば良い:

(v, w) =1

2⟨Av,w⟩V ′,V +

1

2⟨Aw, v⟩V ′,V (v, w ∈ V ).

(ii)⇒(i) A = J−1X とする.

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注意. 一般化 Lax–Milgramの定理 (定理 8.1)には多くの数学者の寄与がある.V とW がともに Hilbert空間の場合に “(iii) ⇒ (i)” が成り立つことは,1962年に出版されたNecas の論文 [25, Theoreme 3.1] に述べられている.Necas は,“これは Lax–Milgram

の定理の簡単な拡張である”と述べている.さらに,(iii)を少々修正した条件下で (i)が得られることも示されている ([25, Theoreme 3.2],[26, Theoreme 6-3.1],[27, Theorem6-3.1]).数値解析(特に有限要素法)のコミュニティで,一般化 Lax–Milgram の定理が,よく知られる結果となったのは,1971 年の Babuska の論文 [2, theorem 2.1] と,1972 年の Babuska–Aziz の有名なレクチャーノート [3, Theorem 5.2.1] で,Necas の結果が紹介されたことにきかっけがあったようである.さらに,Brezzi による混合型有限要素法の解析に関する記念碑的な論文 [5, Corollary 0.1] においても,(Hilbert 空間の場合に)“(iii) ⇒ (i)” が成り立つことが,“よく知られる結果”として述べられており,これにより基本定理として広く認知されることになった.2002年に出版された Ern–Guermond

による有限要素法の教科書(フランス語)[12, §3.2] では,“(i)⇔(ii)” の部分を,Necas

の定理と紹介している.その後,[12] の拡大英訳版 [13, §2.1] において,“(i)⇔(ii)” をBanach–Necas–Babuska の定理と呼ぶことが提案されている.数値解析の流れとは独立して,一般化 Lax-Milgramの定理 (の一部)が提出された例もある.1968年に Haydenは,Banach空間の場合に,(8.3a)とN (A) = N (A′) = 0の下で (i) が成り立つことを示した ([19, Theorem 1]).1972 年に Simader [32, Theorem

5.4] は,“(iii) ⇒ (i)” を V = Wm,p0 (Ω) と W = Wm,q

0 (Ω) の場合について示している.ただし,Ω ⊂ Rn は滑らかな有界領域,1 < p, q < ∞ は 1

p + 1q = 1 を満たすもの,m

は 1以上の整数である.Simaderは,この場合に条件 (8.4)が実際に成立することも確かめている.1989年に,Rosca [31, Theorem 3]は,“(i)⇔(ii)”を示し,これを Babuska–

Lax–Milgram の定理と呼んでいる.なお,この名称は,Encyclopedia of Mathematics

(http://www.encyclopediaofmath.org/)でも採用されている(ただし,この項目を書いたのは Rosca自身である).

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9 Stokes方程式の有限要素近似(a) Stokes方程式の境界値問題

Ωを R2 の有界 Lipschitz領域とする.与えられた f ∈ L2(Ω)2 と ν > 0に対して,次を満たすベクトル値関数 u = (u1, u2)

T : Ω→ R2 とスカラー値関数 p : Ω→ R を求める問題を Stokes方程式の境界値問題 と言う:

−ν∆u+∇p = f in Ω, (9.1a)

∇ · u = 0 in Ω, (9.1b)

u = 0 on ∂Ω. (9.1c)

ベクトル値関数 v = (v1, v2)T, v = (w1, w2)

T に対して,次のように書く:

∆v =

(∆v1∆v1

), ∇v =

(∂vi∂xj

)1≤i,j≤2

(行列値の関数),

∇v · ∇w =∂vi∂xj

∂wi

∂xj=

2∑i,j=1

∂vi∂xj

∂wi

∂xj, |∇v|2 = ∇v · ∇v =

∂vi∂xj

∂vi∂xj

.

ベクトル値関数 u, v とスカラー値関数 pが十分に滑らかなら,∫Ω

(−ν∆u+∇p) · v dx

= ν

∫Ω

∇v · ∇w dx−∫Ω

p(∇ · v) dx−∫∂Ω

(pI − ν∇u)n · v dS (9.2)

が成り立つ (各自検算せよ!).ただし,I は 2× 2の単位行列,nは ∂Ω上の外向き単位法ベクトルである.関数空間と形式を以下のように定める:

V = H10 (Ω)

2 = v ∈ H1(Ω)2 | v|∂Ω = 0, ∥ · ∥V = ∥ · ∥1,2,Ω;

Q = L20(Ω) =

q ∈ L2(Ω) |

∫Ω

q dx = 0

, ∥ · ∥Q = ∥ · ∥0,2,Ω;

a(u, v) = ν

∫Ω

∇v · ∇w dx;

b(v, p) = −∫Ω

p(∇ · v) dx;

F ∈ V ′, ⟨F, v⟩ = ⟨F, v⟩V ′,V =

∫Ω

f · v dx (v ∈ V ).

(9.1)の弱形式として次を考えることができる.次の方程式系を満たす (u, p) ∈ V ×Q

を見出せ:

a(u, v) + b(p, v) = ⟨F, v⟩ (∀v ∈ V ), (9.3a)

b(q, u) = 0 (∀q ∈ Q) (9.3b)

次の命題に基づいて,(9.3)のことを 鞍点型変分問題 と呼ぶことにしよう.

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命題 9.1.

(9.3)の解 (u, p) ∈ V ×Qは,汎関数

J(v, q) =1

2a(v, v) + b(v, q)− ⟨F, v⟩V ′,V ((v, q) ∈ V ×Q)

の鞍点である.すなわち,

J(u, q) ≤ J(u, p) ≤ J(v, p) ((v, q) ∈ V ×Q)

が成り立つ.

証明. (u, p) ∈ V × Q を (9.3) の解とする.(v, q) ∈ V × Q を任意とする.まず,b(u, p)− b(u, q) = 0なので,J(u, p)− J(u, q) = 0.すなわち,J(u, q) ≤ J(u, p)は等号で成立する.次に,w = v − uとおくと,

J(v, p) = J(u+ w, p)

=1

2a(u, u) + a(u,w) +

1

2a(w,w) + b(u, p) + b(w, p)− ⟨F, u⟩ − ⟨F,w⟩

= J(u, p) + a(u,w) + b(w, p)− ⟨F,w⟩+ 1

2a(w,w)

≥ J(u, p)

と計算できる.

前節の考察と同様に,方程式を作用素で表現すると便利である.まず,双線型形式 aを表現する作用素 A ∈ L(V, V ′)は,まえと同様に,

⟨Aw, v⟩V ′,V = a(w, v) (w, v ∈ V )

で定義される.一方で,

⟨Bv, q⟩Q′,Q = b(v, q) = ⟨v,B′q⟩V ′,V (v ∈ V, q ∈ Q)

により B ∈ L(V,Q′)とその双対作用素 B′ ∈ L(Q,V ′)を導入すると,(9.3)は,次のように書き換えられる:

Au+B′p = F, (9.4a)

Bu = 0. (9.4b)

以下,いちいち詳しく書かないが,(9.4a)は,V ′ の元としての方程式,すなわち,

⟨Au+B′p, v⟩V ′,V = ⟨F, v⟩V ′,V (∀v ∈ V ) (9.4a′)

を表す.同様に,(9.4b)は,Q′ の元としての方程式,すなわち,

⟨Bu, q⟩Q,Q′ = 0 (∀q ∈ Q) (9.4b′)

を表す.

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(b) 抽象的鞍点型変分問題と Galerkin近似

この節を通じて,V とQを(一般の)Hilbert空間とする.そして,一般に与えられた,A ∈ L(V, V ′)と B ∈ L(V,Q′)に対して,(9.4)を一般化した

Au+B′p = F, (9.5a)

Bu = G (9.5b)

の可解性を論じたい.

定理 9.2.

(一般に与えられた)A ∈ L(V, V ′)と B ∈ L(V,Q′)を考え,V0 = N (B)とおく.このとき,次の (i)と (ii)は同値である.(i) 次の 3つが成り立つ:

αdef.= inf

w∈V0

supv∈V0

⟨Aw, v⟩V ′,V

∥w∥V ∥v∥V> 0; (9.6a)

v0 ∈ V0, A′v0 = 0 =⇒ v0 = 0; (9.6b)

βdef.= inf

q∈Qsupv∈V

⟨Bv, q⟩Q′,Q

∥v∥V ∥q∥Q> 0. (9.6c)

(ii) 任意の (F,G) ∈ V ′ ×Q′ に対して,(9.5)には一意な解 (u, p) ∈ V ×Qが存在する.

定理 9.3.

定理 9.2の (ii)において,(u, p) ∈ V ×Qは,

∥u∥V + ∥p∥Q ≤ C (∥F∥V ′ + ∥G∥Q′) (9.7a)

を満たす.ただし,C = C(∥A∥, α, β) = maxC1, C2 > 0は定数で,C1, C2 は

C1 =1

α+

1

β+∥A∥α

, C2 =1

β+∥A∥αβ

+∥A∥2

αβ+∥A∥β

(9.7b)

と取れる.

証明 (定理 9.2と定理 9.3の証明). (i)⇒(ii). (F,G) ∈ V ′ ×Q′ とする.V1 = V ⊥0 と

書き,V = V0 ⊕ V1 と分解し,

Ai = A|Vi: Vi → V ′, Bi = B|Vi

: Vi → Q′, Fi = F |Vi: Vi → R (i = 0, 1)

とおく.さらに,Aij = A|Vi : Vi → V ′

j (i, j = 0, 1)

とおく.例えば,w0, v0 ∈ V0, w1 ∈ V に対して,

⟨Aw0, v0⟩V ′,V = ⟨A00w0, v0⟩V ′,V , ⟨Aw1, v0⟩V ′,V = ⟨A10w1, v0⟩V ′,V

である.先に,発見的な考察を行う.まず,

• v0 ∈ V0 ⇒ ⟨B′p, v0⟩V ′,V = ⟨p,Bv0⟩Q′,Q = ⟨p,B0v0⟩Q′,Q = 0

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• v1 ∈ V1 ⇒ ⟨B′p, v1⟩V ′,V = ⟨p,B1v1⟩Q′,Q = ⟨B′1p, v1⟩V ′,V

である.(u, p) を (9.5) の解として,u = u0 + u1 ∈ V0 ⊕ V1 と分解する.以下では,単に,⟨·, ·⟩ = ⟨·, ·⟩V ′,V,⟨·, ·⟩ = ⟨·, ·⟩Q′,Q と書く.任意の v = v0 + v1 ∈ V0 ⊕ V1 に対して,

0 = ⟨Au+B′p− F, v⟩= ⟨A0u0 +A1u1 +B′p− F, v0 + v1⟩= ⟨A0u0 +A1u1 +B′p− F0, v0⟩+ ⟨A0u0 +A1u1 +B′p− F1, v1⟩= ⟨A00u0 +A10u1 − F0, v0⟩+ ⟨A01u0 +A11u1 +B′

1p− F1, v1⟩.

一方で,任意の q ∈ Qに対して,

0 = ⟨Bu−G, q⟩ = ⟨B1u1 −G, q⟩.

以上から,(9.5)の解 (u, p) = (u0 + u1, p)は,

A00u0 +A10u1 = F0, (9.8a)

A01u0 +A11u1 +B′1p = F1, (9.8b)

B1u1 = G (9.8c)

を満たすことがわかった.逆に (9.8)を満たす (u0, u1, p)に対して,(u0 + u1, p)は (9.5)

の解となる.以下,数段に分けて (9.8)の解の存在を示す.

1. q ∈ Qに対して,

supv∈V

⟨Bv, q⟩∥v∥V

= supv1∈V1

⟨B1v1, q⟩∥v1∥V

.

(∵) v = v0 + v1 ∈ V0 ⊕ V1 と書くと,

⟨Bv, q⟩ = ⟨B1v1, q⟩, ∥v∥V ≥ ∥v1∥V .

ゆえに,⟨Bv, q⟩∥v∥V

=⟨B1v1, q⟩∥v∥V

≤ ⟨B1v1, q⟩∥v1∥V

≤ supv1∈V1

⟨B1v1, q⟩∥v1∥V

.

一方で,≥は明らか.2. A00 : V0 → V ′

0 は全単射写像.(∵) V0 ⊂ V は閉部分空間なので,V0 はノルム ∥ · ∥V を備えた Hilber空間となる.(9.6a)は,α = µ(A00) > 0を意味し,(9.6b)は,N (A′

00) = 0を意味しているので,定理 8.8(一般化 Lax–Milgramの定理.作用素版)より,A00 : V0 → V ′

0 は全単射になる.

3. B1 : V1 → Q′ と B′1 : Q→ V ′

1 はともに全単射写像(∵) v = v0 + v1 ∈ V0 ⊕ V1 と q ∈ Qに対して,(9.6c)と第 0 段より,

β∥q∥Q ≤ supv∈V

⟨Bv, q⟩∥v∥V

= supv∈V1

⟨B1v1, q⟩∥v1∥V

= supv∈V1

⟨v1, B′1q⟩

∥v1∥V= ∥B′

1q∥V ′ .

すなわち,µ(B′1) > 0となる.一方,N (B1) = 0は明らかなので,定理 8.8よ

り,B1 : V1 → Q′ と B′1 : Q→ V ′

1 はともに全単射写像となる.

52

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4. 第 3段より,∃1u1 ∈ V1 s.t. B1u1 = G in Q′ かつ ∥u1∥V ≤ 1β ∥G∥Q′ .

5. 第 2段より,∃1u0 ∈ V0 s.t. A00u0 = F0 −A10u1 in V ′0 かつ

∥u0∥V ≤1

α∥F0 −A10u1∥V ′

≤ 1

α∥F∥V ′ +

∥A∥αβ∥G∥Q′ .

6. 第 3段より,∃1p ∈ Q s.t. B′1p = F1 −A01u0 −A11u1 in V ′

1 かつ

∥p∥Q ≤1

β∥F1 −A01u0 −A11u1∥V ′

≤ 1

β∥F∥V ′ +

∥A∥β

(∥u0∥V + ∥u1∥V )

≤(1

β+∥A∥α

)∥F∥V ′ +

(∥A∥2

αβ+∥A∥β

)∥G∥Q′ .

7. 以上を合わせれば,(u0, u1, p) ∈ V0×V1×Qが (9.8)を満たし,さらに,u = u0+u1

とおくと,

∥u∥V + ∥p∥Q

≤(1

α+

1

β+∥A∥α

)︸ ︷︷ ︸

C1

∥F∥V ′ +

(1

β+∥A∥αβ

+∥A∥2

αβ+∥A∥β

)︸ ︷︷ ︸

C2

∥G∥Q′

≤ C(∥F∥V ′ + ∥G∥Q′), C = maxC1, C2

を満たすことがわかる.8. なお,一意性は (9.11a)から明らか.

(ii)⇒(i): 省略(後で使わない).

(a)小節とは順序が逆だが,Aと B より,次のように双線形作用素を導入する:

a(w, v) = ⟨Aw, v⟩V ′,V (w, v ∈ V );

b(v, q) = ⟨Bv, q⟩Q′,Q = ⟨v,B′q⟩V ′,V (v ∈ V, q ∈ Q).

次の 2つの定理は定理 9.2と定理 9.3を言い換えただけである.

53

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定理 9.4.

有界双線形形式 a : V × V → R, b : V ×Q→ Rに対して,次は同値である:(i) 次の 2つが成り立つ:

αdef.= inf

w∈V0

supv∈V0

a(w, v)

∥w∥V ∥v∥V0 > 0; (9.9a)

v0 ∈ V0, (a(w, v0) = 0, ∀w ∈ V0) ⇒ v0 = 0; (9.9b)

βdef.= inf

q∈Qsupv∈V

b(v, q)

∥v∥V ∥q∥Q> 0. (9.9c)

ただし,V0 = v ∈ V | b(v, q) = 0 (∀q ∈ Q)としている.(ii) 任意の (F,G) ∈ V ′ ×Q′ に対して,

a(u, v) + b(p, v) = ⟨F, v⟩ (∀v ∈ V ), (9.10a)

b(u, q) = ⟨G, q⟩Q′,Q (∀q ∈ Q) (9.10b)

には一意な解 (u, p) ∈ V ×Qが存在する.

定理 9.5.

定理 9.4の (ii)において,(u, p) ∈ V ×Qは,

∥u∥V + ∥p∥Q ≤ C (∥F∥V ′ + ∥G∥Q′) (9.11a)

を満たす.ただし,C = C(∥a∥, α, β) = maxC1, C2 > 0は定数で,C1, C2 は

C1 =1

α+

1

β+∥a∥α

, C2 =1

β+∥a∥αβ

+∥a∥2

αβ+∥a∥β

(9.11b)

と取れる.

命題 9.6.

定理 9.4において,aが V0 上で強圧性条件

α = infv∈V0

a(v, v)

∥v∥2V> 0 (9.12)

を満たせば,条件 (9.9a)と (9.9b)は成立する.

証明. w ∈ V0 を任意とすると,

supv∈V0

a(w, v)

∥w∥V ∥v∥V≥ a(w,w)

∥w∥2V≥ α

なので,(9.9a)は成り立つ.次に,

v0 ∈ V0, a(v0, v0) ≥ α∥v0∥2V

より,a(v0, v0) = 0ならば,v0 = 0.したがって,(9.9b)を得る.

次に,Galerkin近似の考察に進もう.Vh ⊂ V と Qh ⊂ Qを有限次元部分空間とする.V ′h は,V ′ の定義域を Vh に制限したもの全体の集合を表す.さらに,Fh ∈ Vh に対して,

∥Fh∥V ′h= sup

vh∈Vh

⟨Fh, vh⟩V ′,V

∥vh∥V

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と書く.Q′h や ∥Gh∥Q′

hの意味も同様である.

定理 9.7.

Vh0 = vh ∈ Vh | b(vh, qh) = 0 (∀qh ∈ Qh)とする.次の 2つの条件

αh = infvh∈Vh0

a(vh, vh)

∥vh∥2V> 0; (9.13a)

βh = infqh∈Qh

supvh∈Vh

b(vh, qh)

∥vh∥V ∥qh∥Q> 0 (9.13b)

の下では,任意の (Fh, Gh) ∈ V ′h ×Q′

h に対して,

ah(uh, vh) + bh(vh, ph) = ⟨Fh, vh⟩V ′,V (∀vh ∈ Vh), (9.14a)

bh(uh, qh) = ⟨Gh, qh⟩Q′,Q (∀q ∈ Qh) (9.14b)

には一意な解 (uh, ph) ∈ Vh ×Qh が存在し,さらに,次を満たす:

∥uh∥V + ∥ph∥Q ≤ Ch

(∥Fh∥V ′

h+ ∥Gh∥Q′

h

)(9.15)

を満たす.ただし,Ch = Ch(∥a∥, αh, βh) = maxCh1, Ch2 の形であり,Ch1, Ch2 は(9.11b)において α, β を αh, βh に置き換たもの.

定理 9.8.

双線形形式 a : V × V → R と b : V × Q → R は (9.9) を満たすものとする.Vh ⊂ V

と Qh ⊂ Q を有限次元部分空間として,(9.13) を仮定する.(F,G) ∈ V ′ × Q′ をとり,Fh = F |Vh

,Gh = G|Qhで Fh ∈ V ′

h, Gh ∈ Q′h を定める.このとき,(9.10) の解

(u, p) ∈ V ×Qと (9.14)の解 (uh, ph) ∈ Vh ×Qh に対して,

∥u− uh∥V + ∥p− ph∥Q ≤ C∗h

(inf

vh∈Vh

∥u− vh∥V + infq∈Qh

∥p− qh∥Q)

(9.16)

が成り立つ.ただし,C∗h = maxC∗

h1, C∗h2 > 0は定数で,

C∗h1 = 1 + (∥a∥+ ∥b∥)

(1

αh+

1

βh+∥a∥αh

), (9.17a)

C∗h2 = 1 + ∥b∥

(1

βh+∥a∥αhβh

+∥a∥2

αhβh+∥a∥βh

)(9.17b)

の形である.

証明. vh ∈ Vh, qh ∈ Qh を任意にとり,しばらく固定しておく.wh = vh − uh, πh =

qh − ph とおく.任意の φh ∈ Vh に対して,

a(wh, φh) + b(φh, πh) = a(vh, φh) + b(φh, qh)− [a(uh, φh) + b(φh, ph)]

= a(vh, φh) + b(φh, qh)− [a(u, φh) + b(φh, p)]

= a(vh − u, φh) + b(φh, qh − p)

≡ ⟨Fh, φh⟩V ′,V .

55

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および,任意の χh ∈ Qh に対して,

b(wh, χh) = b(vh, χh)− b(uh, χ) = b(vh − u, χ)

≡ ⟨Gh, χh⟩Q′,Q

したがって,定理 9.7より,

∥wh∥V + ∥πh∥Q ≤ Ch

(∥Fh∥V ′

h+ ∥Gh∥Q′

h

).

ここで,

∥Fh∥V ′h= sup

φh∈Vh

⟨Fh, φh⟩V ′,V

∥φh∥V= sup

φh∈Vh

a(vh − u, φh) + b(φh, qh − p)

∥φh∥V≤ ∥a∥ · ∥vh − u∥V + ∥b∥ · ∥qh − p∥Q,

および,

∥Gh∥Q′h= sup

χh∈Qh

⟨Gh, χh⟩Q′,Q

∥χh∥Q= sup

χh∈Qh

b(vh − u, χh)

∥χh∥Q≤ ∥b∥ · ∥vh − u∥.

以上を合わせると,

∥u− uh∥V + ∥p− ph∥Q ≤ ∥u− vh∥V + ∥p− qh∥Q + ∥wh∥V + ∥πh∥Q≤ C∗

h1∥u− vh∥V + C∗h2∥p− qh∥Q.

したがって,(9.16)を得る.

次の定理は (9.16)と (9.17)の C∗h1, C

∗h2 の形から明らかである.

定理 9.9.

定理 9.8と同じ仮定を置き,さらに

∃α⋆ > 0 : αh ≥ α⋆, (9.18a)

∃β⋆ > 0 : βh ≥ β⋆ (9.18b)

を仮定する.このとき,定理 9.8 の (9.16) における C∗h は,h に依存しない定数 C∗ =

maxC∗1 , C

∗2で置き換えられる.ただし,

C∗1 = 1 + (∥a∥+ ∥b∥)

(1

α⋆+

1

β⋆+∥a∥α⋆

), (9.19a)

C∗2 = 1 + ∥b∥

(1

β⋆+∥a∥α⋆β⋆

+∥a∥2

α⋆β⋆+∥a∥β⋆

)(9.19b)

の形である.

(c) Stokes方程式の有限要素近似

以上の準備を経て,(a)小節の考察に戻ろう.記号はすべて (a)小節で定めた意味とする.さらに,Vh ⊂ V と Qh ⊂ Qを有限次元部分空間として,

a(uh, vh) + b(vh, ph) = ⟨Fh, vh⟩V ′,V (∀vh ∈ Vh), (9.20a)

b(uh, qh) = 0 (∀q ∈ Qh) (9.20b)

56

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を考える.

命題 9.10.

双線形形式 aは,V 上で強圧的である:

αdef.= inf

v∈V0

a(v, v)

∥v∥2V> 0.

証明. Poincareの不等式の応用.

命題 9.11.

任意の g ∈ Q = L20(Ω)に対して,

∇ · w = g in Ω, ∥∇w∥0,2,Ω ≤ C∥g∥0,2,Ω (9.21)

を満たす w ∈ V = H10 (Ω)

2 が存在する.(C は Ωにのみ依存する.)

証明. これは結構難しい.Girault & Raviart [17]や Sohr [35]を見よ.Bramble [8]にも,比較的に初等的な証明が述べられている.なお,念のために書いておくと,ここで問題なのは,Ωが Lipschitzであるということであり,滑らかな場合には,もっと簡単である.例えば,Babuska & Aziz [3]を見よ.

命題 9.12.

双線形形式 bは,V ×Q上で下限上限条件を満たす:

βdef.= inf

q∈Qsupv∈V

b(v, q)

∥v∥V ∥q∥Q> 0.

証明. q ∈ Qを任意とすると,命題 9.12により,∇·w = −q in Ω, かつ ∥w∥V ≤ C∥q∥Qを満たす w ∈ V が存在する.したがって,

supv∈V

b(v, q)

∥v∥V≥ b(w, q)

∥w∥V=∥q∥2Q∥w∥V

≥ 1

C∥q∥Q.

V0 = v ∈ V | b(v, q) = 0 (∀q ∈ Q) とすると,双線形形式 a は,V0 上で強圧的である:

infv∈V

a(v, v)

∥v∥2V≥ α > 0.

一方で,Vh0 = vh ∈ Vh | b(vh, qh) = 0 (∀qh ∈ Qh)とすると,やはり,双線形形式 a

は,Vh0 上で強圧的である:

αh = infvh∈Vh0

a(vh, vh)

∥vh∥2V≥ α > 0.

(ただし,Vh0 ⊂ V0 ではないので注意せよ.)したがって,定理 9.8と定理 9.9の仮定のうち,これまでの設定からは成立がわからないことは,双線形形式 bの Vh × Qh 上での下限上限条件のみである.したがって,次の定理が得られる.

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定理 9.13.

(u, p) ∈ V ×Qを (9.3)の解,(uh, ph) ∈ Vh ×Qh を (9.20)の解とする.このとき,

∃β⋆ > 0, βh = infqh∈Qh

supvh∈Vh

b(qh, vh)

∥qh∥Q∥vh∥V≥ β⋆ (9.22)

の下で,C = C(Ω, ν, β⋆, ν1) > 0が存在して,

∥u− uh∥V + ∥p− ph∥Q ≤ C

(inf

vh∈Vh

∥u− vh∥V + infqh∈Qh

∥p− qh∥Q).

定理 9.14.

定理 9.13の仮定に加えて,Vh, Qh が,k ≥ 1に対して,

infvh∈Vh

∥v − vh∥V ≤ C1hk∥v∥k+1,2,Ω (v ∈ Hk+1(Ω)),

infqh∈Qh

∥q − qh∥Q ≤ C2hk∥q∥k,2,Ω (q ∈ Hk(Ω))

なる近似能力を持つとする.ただし,C1, C2 は h, v, q には無関係な正定数.このとき,(u, p) ∈ Hk+1(Ω)×Hk(Ω)ならば,定数 C ′ = C ′(Ω, β⋆, ν, C1, C2) > 0が存在して,

∥u− uh∥V + ∥p− ph∥Q ≤ C ′hk (∥u∥k+1,2,Ω + ∥p∥k,2,Ω) .

(d) 有限要素の具体例

最後に,Vh と Qh の具体例を挙げよう.Xh を §2で定義した P1有限要素空間とする.

P1/P1 要素. V = H10 (Ω)

2, Q = L20(Ω) の有限次元部分空間を次で定める (P1/P1

要素):

Vh = [Xh ∩H10 (Ω)]

2 = vh = (v1h, v2h) | vih ∈ Xh, vih|Γ = 0 i = 1,Qh = Xh ∩ L2

0(Ω) = qh | qh ∈ Xh, (qh, 1) = 0.

この Vh, Qh の組は inf-sup条件 (9.22)を一般には満たさない.実際,vh ∈ Vh の各成分が区分的一次関数であることに注意すると,qh ∈ Qh に対して,

b(vh, qh) = −∑

T∈Th

∫T

qh (∇ · vh) dx = −∑

T∈Th

(∇ · vh)∫T

qh dx.

したがって,もし,

∃qh ∈ Qh : qh ≡ 0,

∫T

qh dx = 0 (∀T ∈ Th) (9.23)

ならば,sup

vh∈Vh

b(vh, qh)

∥vh∥V= 0 ⇒ inf

qh∈Qh

supvh∈Vh

b(vh, qh)

∥vh∥V ∥qh∥Q≤ 0.

一方で,(9.23)のような qh ∈ Qh は,図 9.1 のような三角形分割を考え,各節上で図に示す値を持つ ph を考えれば,実際に存在する.

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図 9.1 (9.23)を満たす qh ∈ Qh の例.

P1-bubble/P1要素 (MINI要素). 各 T ∈ Th について,λi,T (x)3i=1 をその重心座標として,

ϕT (x) = λ1,T (x)λ2,T (x)λ3,T (x) ∈ H10 (T )

とおく (気泡関数,bubble function).次のように定義:

Xh = wh ∈ C(Ω) | wh|T = ηT + cTϕT , ηT ∈P1(T ), cT ∈ R (∀T ∈ Th).

V = H10 (Ω)

2, Q = L20(Ω)の有限次元部分空間を次で定める (P1-bubble/P1要素):

Vh = vh = (v1h, v2h) | vih ∈ Xh, vih|Γ = 0, i = 1,Qh = qh | qh ∈ Xh, (qh, 1) = 0.

注意. P1-bubble/P1要素はMINI要素とも呼ばれる.圧力を連続な要素で近似した場合に,最も小さな自由度で Stokes問題の近似を実現するからである.

命題 9.15.

三角形分割 Thh が正則なら,P1-bubble/P1要素は inf-sup条件 (9.22)を満たす.

証明. Arnold, Brezzi & Fortin [1]を見よ.

命題 9.16.

三角形分割 Thh が正則なら,P1-bubble/P1要素は次の近似能力を持つ:

infvh∈Vh

∥v − vh∥V ≤ Ch∥v∥2,2,Ω (v ∈ [H2(Ω) ∩H10 (Ω)]

2),

infqh∈Qh

∥q − qh∥Q ≤ Ch∥q∥1,2,Ω (q ∈ H1(Ω)).

この 2つの命題の結果として次を得る:

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定理 9.17.

三角形分割 Thh は正則とする.Stokes 問題の厳密解 (u, p) ∈ V × Q が,(u, p) ∈H2(Ω)2 ×H1(Ω)なる正則性を持つとき,P1-bubble/P1要素を用いた有限要素解は,次の誤差評価を満たす:

∥u− uh∥V + ∥p− ph∥Q ≤ Ch(∥u∥2,2,Ω + ∥p∥1,2,Ω).

P2/P1 要素. V = H10 (Ω)

2, Q = L20(Ω) の有限次元部分空間を次で定める (P2/P1

要素):

Lh = w ∈ C(Ω) | w|T ∈P2(T ) (T ∈ Th),Vh = vh = (v1h, v2h) | vih ∈ Lh, vih|Γ = 0, i = 1,Qh = qh | qh ∈ Xh, (qh, 1) = 0.

命題 9.18.

三角形分割 Thh は正則であり,かつ

各 T ∈ Th の 3辺のうち,少なくとも 2辺は Ω内にある (9.24)

を仮定する.このとき,P2/P1要素は inf-sup条件 (9.22)を満たす.

証明. Bercovier & Pironneau [7]と Verfurth [37]を組み合わせる.

命題 9.19.

三角形分割 Thh が正則なら,P2/P1要素は次の近似能力を持つ:

infvh∈Vh

∥v − vh∥V ≤

Ch∥v∥2,2,Ω (v ∈ [H2(Ω) ∩H1

0 (Ω)]2)

Ch2∥v∥3,2,Ω (v ∈ [H3(Ω) ∩H10 (Ω)]

2),

infqh∈Qh

∥q − qh∥Q ≤

Ch∥q∥1,2,Ω (q ∈ H1(Ω) ∩ L2

0(Ω))

Ch2∥q∥2,2,Ω (q ∈ H2(Ω) ∩ L20(Ω)).

ただし,C = C(Ω, ν1) > 0は定数.

以下,C は,Ω,ν1,β,ν にのみ依存する正定数を表すものとする.

定理 9.20.

三角形分割 Thh は正則で仮定 (9.24) を満たすものとする.Stokes 問題の厳密解(u, p) ∈ V ×Qが,(u, p) ∈ H2(Ω)2 ×H1(Ω)なる正則性を持つとき,P2/P1要素を用いた近似解は,次の誤差評価を満たす:

∥u− uh∥V + ∥p− ph∥Q ≤ Ch(∥u∥2,2,Ω + ∥p∥1,2,Ω).

さらに,(u, p) ∈ H3(Ω)2 ×H2(Ω)なる正則性を持つとき,

∥u− uh∥V + ∥p− ph∥Q ≤ Ch2(∥u∥3,2,Ω + ∥p∥2,2,Ω).

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(e) Freefem++を用いた数値計算

Stokes 方程式 (9.1) の弱形式は,V = H10 (Ω)

2 と Q = L20(Ω) の上で定式化されてい

た.しかし,Qに対する有限次元部分空間を Freefem++で実現することは(現在の仕様では)できない.したがって,少し問題を修正する.圧力処罰問題: ε > 0を十分小さなパラメータとして,次を考える.

−ν∆u+∇p = f in Ω, (9.25a)

∇ · u = εp in Ω, (9.25b)

u = 0 on ∂Ω. (9.25c)

(9.25a)と (9.25b)により,

−ν∆u+1

ε∇(∇ · u) = f in Ω

となるので,この方程式自体は V = H10 (Ω)

2 で解くことができる.そして,

p =1

ε∇ · u ∈M

def.= L2(Ω)

とするのである.弱形式は,(u, p) ∈ V ×M を,∫∫Ω

[ν∇u · ∇v − p(∇ · v)] dxdy =

∫∫Ω

f · v dxdy (∀v ∈ V ), (9.26a)∫∫Ω

(∇ · u) q dxdy = ε

∫∫Ω

pq dxdy (∀q ∈M) (9.26b)

で求める問題となる.あるいは,次のように書いても良い:∫∫Ω

[ν∇u · ∇v − p(∇ · v)] dxdy +∫∫

Ω

(∇ · u) q dxdy

− ε

∫∫Ω

pq dxdy =

∫∫Ω

f · v dxdy (∀(v, q) ∈ V ×M). (9.27)

混合型境界値問題: 境界 ∂Ωを 2つの部分 ∂Ω = ΓD ∪ ΓN に分割して,

−ν∆u+∇p = f in Ω, (9.28a)

∇ · u = 0 in Ω, (9.28b)

u = 0 on ΓD, (9.28c)

(pI − ν∇u)n = 0 on ΓN . (9.28d)

ここで,W

def.= v ∈ H1(Ω)2 | v|ΓD

= 0

とおこう.恒等式 (9.2) によれば,(9.28) の弱形式として,次が採用できる.(u, p) ∈W ×M を,∫∫

Ω

[ν∇u · ∇v − p(∇ · v)] dxdy =

∫∫Ω

f · v dxdy (∀v ∈W ), (9.29a)∫∫Ω

(∇ · u) q dxdy = 0 (∀q ∈M) (9.29b)

61

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で求める.あるいは,次のように書いても良い:∫∫Ω

[ν∇u · ∇v − p(∇ · v)] dxdy +∫∫

Ω

(∇ · u) q dxdy

=

∫∫Ω

f · v dxdy (∀(v, q) ∈W ×M). (9.30)

次のデータで実際にこれらの問題を計算してみよう.

Ω = Ω0\(Ω1 ∪ Ω2),

Ω0 = (0, 1)× (0, 1),

Ω1 = (x, y) | (x− 0.4)2 + (y − 0.65)2 < 0.2,Ω2 = (x, y) | (x− 0.7)2 + (y − 0.3)2 < 0.1,

ΓN = ∂Ω2, ΓD = ∂Ω\ΓN ,

f =

(0.5− α sin θ0.5 + α cos θ

), (r, θ) = (x, y), α = 30.

Listing 4 P1-buble/P1要素を用いた圧力処罰問題のための Freefem++コード// stokesP1bP1_1.edp

int k=5s0;

real alpha = 30;

real ep = 1e-10;

func f=0.5-alpha*sin(atan2(y,x));

func g=0.5+alpha*cos(atan2(y,x));

// domain

border G1(t=0,1)x=t; y=0;

border G2(t=0,1)x=1; y=t;

border G3(t=0,1)x=1-t; y=1;

border G4(t=0,1)x=0; y=1-t;

border G5(t=0,2*pi)x=0.4+0.2*cos(t); y=0.65-0.2*sin(t);

border G6(t=0,2*pi)x=0.7+0.1*cos(t); y=0.3-0.1*sin(t);

// triangulation

mesh Th = buildmesh(G1(k)+G2(k)+G3(k)+G4(k)+G5(k)+G6(k/2));

// FE spaces

fespace Uh(Th,P1b); Uh u,v,uu,vv;

fespace Ph(Th,P1); Ph p,pp;

solve stokes([u,v,p],[uu,vv,pp]) =

int2d(Th)(dx(u)*dx(uu)+dy(u)*dy(uu) + dx(v)*dx(vv)+ dy(v)*dy(vv)

- dx(uu)*p - dy(vv)*p + pp*(dx(u)+dy(v))

-ep*p*pp) - int2d(Th)(f*uu + g*vv)

+ on(G1,G2,G3,G4,G5,G6,u=0,v=0);

// results

//plot([u,v],p,wait=1);

plot([u,v],p,wait=1,ps="stokesP1bP1_1.eps");

Listing 5 P1-buble/P1要素を用いた混合境界値問題のための Freefem++コード// stokesP1bP1_2.edp

int k=50;

62

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real alpha = 30;

func f=0.5-alpha*sin(atan2(y,x));

func g=0.5+alpha*cos(atan2(y,x));

// domain

border G1(t=0,1)x=t; y=0;

border G2(t=0,1)x=1; y=t;

border G3(t=0,1)x=1-t; y=1;

border G4(t=0,1)x=0; y=1-t;

border G5(t=0,2*pi)x=0.4+0.2*cos(t); y=0.65-0.2*sin(t);

border G6(t=0,2*pi)x=0.7+0.1*cos(t); y=0.3-0.1*sin(t);

// triangulation

mesh Th = buildmesh(G1(k)+G2(k)+G3(k)+G4(k)+G5(k)+G6(k/2));

// FE spaces

fespace Uh(Th,P1b); Uh u,v,uu,vv;

fespace Ph(Th,P1); Ph p,pp;

solve stokes([u,v,p],[uu,vv,pp]) =

int2d(Th)(dx(u)*dx(uu)+dy(u)*dy(uu) + dx(v)*dx(vv)+ dy(v)*dy(vv)

- dx(uu)*p - dy(vv)*p + pp*(dx(u)+dy(v))) - int2d(Th)(f*uu + g*vv)

+ on(G1,G2,G3,G4,G5,u=0,v=0);

// results

//plot([u,v],p,wait=1);

plot([u,v],p,wait=1,ps="stokesP1bP1_2.eps");

Listing 6 P2/P1要素を用いた圧力処罰問題のための Freefem++コード// stokesP2P1_1.edp

int k=30;

real alpha = 30;

real ep = 1e-10;

func f=0.5-alpha*sin(atan2(y,x));

func g=0.5+alpha*cos(atan2(y,x));

// domain

border G1(t=0,1)x=t; y=0;

border G2(t=0,1)x=1; y=t;

border G3(t=0,1)x=1-t; y=1;

border G4(t=0,1)x=0; y=1-t;

border G5(t=0,2*pi)x=0.4+0.2*cos(t); y=0.65-0.2*sin(t);

border G6(t=0,2*pi)x=0.7+0.1*cos(t); y=0.3-0.1*sin(t);

// triangulation

mesh Th = buildmesh(G1(k)+G2(k)+G3(k)+G4(k)+G5(k)+G6(k/2));

// FE spaces

fespace Uh(Th,P2); Uh u,v,uu,vv;

fespace Ph(Th,P1); Ph p,pp;

solve stokes([u,v,p],[uu,vv,pp]) =

int2d(Th)(dx(u)*dx(uu)+dy(u)*dy(uu) + dx(v)*dx(vv)+ dy(v)*dy(vv)

- dx(uu)*p - dy(vv)*p + pp*(dx(u)+dy(v))

-ep*p*pp) - int2d(Th)(f*uu + g*vv)

+ on(G1,G2,G3,G4,G5,G6,u=0,v=0);

63

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// results

//plot([u,v],p,wait=1);

plot([u,v],p,wait=1,ps="stokesP2P1_1.eps");

Listing 7 P2/P1要素を用いた混合境界値問題のための Freefem++コード// stokesP2P1_2.edp

int k=30;

real alpha = 30;

func f=0.5-alpha*sin(atan2(y,x));

func g=0.5+alpha*cos(atan2(y,x));

// domain

border G1(t=0,1)x=t; y=0;

border G2(t=0,1)x=1; y=t;

border G3(t=0,1)x=1-t; y=1;

border G4(t=0,1)x=0; y=1-t;

border G5(t=0,2*pi)x=0.4+0.2*cos(t); y=0.65-0.2*sin(t);

border G6(t=0,2*pi)x=0.7+0.1*cos(t); y=0.3-0.1*sin(t);

// triangulation

mesh Th = buildmesh(G1(k)+G2(k)+G3(k)+G4(k)+G5(k)+G6(k/2));

// FE spaces

fespace Uh(Th,P2); Uh u,v,uu,vv;

fespace Ph(Th,P1); Ph p,pp;

solve stokes([u,v,p],[uu,vv,pp]) =

int2d(Th)(dx(u)*dx(uu)+dy(u)*dy(uu) + dx(v)*dx(vv)+ dy(v)*dy(vv)

- dx(uu)*p - dy(vv)*p + pp*(dx(u)+dy(v))) - int2d(Th)(f*uu + g*vv)

+ on(G1,G2,G3,G4,G5,u=0,v=0);

// results

//plot([u,v],p,wait=1);

plot([u,v],p,wait=1,ps="stokesP2P1_2.eps");

k = 20 k = 50

図 9.2 Stokes方程式の計算例:P1-buble/P1要素を用いた圧力処罰問題 stokesP1bP1 1.edp

64

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k = 20 k = 50

図 9.3 Stokes 方程式の計算例:P1-buble/P1 要素を用いた混合境界値問題stokesP1bP1 2.edp

k = 20 k = 30

図 9.4 Stokes方程式の計算例:P2/P1要素を用いた圧力処罰問題 stokesP2P1 1.edp

k = 20 k = 30

図 9.5 Stokes方程式の計算例:P2/P1要素を用いた混合境界値問題 stokesP2P1 2.edp

65

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10 放物型方程式への応用扱えませんでした.

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