海洋汚染防止・海洋環境保護 - kobe...

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海洋汚染防止・海洋環境保護 MARPOL73/78 条約 http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1997/01185/contents/146.htm ( 1 ) 採択の経緯 1960 年代に入り、石油の大量輸送手段としてタンカーの需要が高まるとともに、運送コス ト等の問題から大型化が進んだ。しかしながら、こうした現象は、一度事故が発生すると大 規模な海洋汚染事故を招く結果ともなり、 1967 年のトリーキャニオン号乗揚げ事故 1977 年のア ルゴマーチャント号乗揚げ事故 は甚大な海洋汚染の被害をもたらすに至った。 こうした背景を踏まえ、船舶からの油、有害液体物質及び廃棄物の排出や船舶の構造・設 備についての規制により海洋の汚染を防止することを目的とした「 1973 年の船舶による汚染 の防止のための国際条約」( MARPOL73 条約)が採択されたが、ばら積みされる有害液体物質 に係る規制の実施について一部問題があり発効するに至らなかったため、これに一定の猶予 期間を設けるなど MARPOL73 条約に修正・追加した MARPOL73/78 条約が採択された。 MARPOL73/78 条約: International Convention for the Prevention of Pollution from Ships, 1973, as modified by the Protocol of 1978 relating thereto ( MARPOL 73/78 ) ( 2 ) 条約の内容 この条約は、船舶からの油、有害液体物質及び廃棄物の排出を規制するものであるが、 具体的には、次のとおり各附属書において規制されている。 附属書 I に関する規則 附属書 II ばら積みの 有害液体物質 に関する規則 附属書 III 容器等に収納されて運送される 有害物質 に関する規則 附属書 IV 汚水 に関する規則 附属書 V 廃物 に関する規則 これらの附属書のうち、附属書 I 及び II MARPOL73/78 条約を批准する以上、必ず批准 しなければならないこととされている一方、附属書 III IV 及び V は選択附属書と呼ばれ、 批准の際の留保が可能となっている。このため、選択附属書の批准状況は附属書 I 及び II の場合と異なっている。 本条約は、発効要件(批准国数が 15 ヵ国以上で、批准国の商船船腹量の合計が世界の 50% 以上)を満たした後、 12 ヵ月で発効することとなっており、 附属書 I 及び II 1983 10 2 日(附属書 II 1987 4 6 日から実施)から、 附属書 III 1992 7 1 日から、附属書 V 1988 12 31 日から、それぞれ発効して いる。なお、附属書 IV は批准国数の要件を満たしているものの船腹量が不足しているた め、未だ発効していない。 タンカー貨物油取扱い作業上の注意事項 ( 1 ) 一般的な注意事項 タンカーの貨物油取り扱い作業は、船舶と陸上(または船舶)間の油の積込み及び取卸し 作業と、船内の作業としてタンク間移送及びタンク洗浄作業に分けることができる。特に 貨物油の荷役作業は、大量の危険物を取り扱うため、ひとたびこれらが海上ヘ流出すると、 海洋を汚染して、莫大な被害を伴う環境破壊をもたらすばかりでなく、船舶や乗組員及び 付近の施設や住民にまで直接大きな災害をもたらすことは言うまでもない。

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海洋汚染防止・海洋環境保護

MARPOL73/78 条約 http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1997/01185/contents/146.htm

(1) 採択の経緯

1960 年代に入り、石油の大量輸送手段としてタンカーの需要が高まるとともに、運送コス

ト等の問題から大型化が進んだ。しかしながら、こうした現象は、一度事故が発生すると大

規模な海洋汚染事故を招く結果ともなり、1967 年のトリーキャニオン号乗揚げ事故や 1977 年のア

ルゴマーチャント号乗揚げ事故は甚大な海洋汚染の被害をもたらすに至った。

こうした背景を踏まえ、船舶からの油、有害液体物質及び廃棄物の排出や船舶の構造・設

備についての規制により海洋の汚染を防止することを目的とした「1973 年の船舶による汚染

の防止のための国際条約」(MARPOL73 条約)が採択されたが、ばら積みされる有害液体物質

に係る規制の実施について一部問題があり発効するに至らなかったため、これに一定の猶予

期間を設けるなど MARPOL73 条約に修正・追加した MARPOL73/78 条約が採択された。

MARPOL73/78 条約: International Convention for the Prevention of Pollution from Ships, 1973,as modified by the Protocol of 1978 relating thereto (MARPOL 73/78)

(2) 条約の内容

この条約は、船舶からの油、有害液体物質及び廃棄物の排出を規制するものであるが、

具体的には、次のとおり各附属書において規制されている。

① 附属書 I 油に関する規則

② 附属書 II ばら積みの有害液体物質に関する規則

③ 附属書 III 容器等に収納されて運送される有害物質に関する規則

④ 附属書 IV 汚水に関する規則

⑤ 附属書 V 廃物に関する規則

これらの附属書のうち、附属書 I 及び II は MARPOL73/78 条約を批准する以上、必ず批准

しなければならないこととされている一方、附属書 III、IV 及び V は選択附属書と呼ばれ、

批准の際の留保が可能となっている。このため、選択附属書の批准状況は附属書 I 及び IIの場合と異なっている。

本条約は、発効要件(批准国数が 15 ヵ国以上で、批准国の商船船腹量の合計が世界の 50%以上)を満たした後、12 ヵ月で発効することとなっており、

附属書 I 及び II は 1983 年 10 月 2 日(附属書 II は 1987 年 4 月 6 日から実施)から、

附属書 III は 1992 年 7 月 1 日から、附属書 V は 1988 年 12 月 31 日から、それぞれ発効して

いる。なお、附属書 IV は批准国数の要件を満たしているものの船腹量が不足しているた

め、未だ発効していない。

タンカー貨物油取扱い作業上の注意事項(1) 一般的な注意事項

タンカーの貨物油取り扱い作業は、船舶と陸上(または船舶)間の油の積込み及び取卸し

作業と、船内の作業としてタンク間移送及びタンク洗浄作業に分けることができる。特に

貨物油の荷役作業は、大量の危険物を取り扱うため、ひとたびこれらが海上ヘ流出すると、

海洋を汚染して、莫大な被害を伴う環境破壊をもたらすばかりでなく、船舶や乗組員及び

付近の施設や住民にまで直接大きな災害をもたらすことは言うまでもない。

(2) 荷役中および航海中の漏油事故例

荷役中及び航海中の漏油事故例の主な原因には次図のようなものがある。本図を参考に、

タンカーの荷役作業に際しては、安全・確実な対策を講ずる必要がある。

(3) 積み荷役

〈積荷前の準備〉

① 送油管に通ずるすべての“海水バルブ”を完全に閉鎖し、荷役責任者が確認すること。

② 積込み油量は、油の温度、比重等を考えたうえで、タンク容積に対して適切な量とな

るよう予め積付け計画を立案しておくこと。

③ バラストパイプラインを完全に閉鎖するほか、必要以外のすべてのバルブを開鎖(施封

又は固縛する)し、使用する送油管系のバルブを完全に“積荷”の位置にセットしている

ことを確認しておくこと。

④ 陸上又は相手船の責任者と積込み数量、積込みの順序、送油速度、圧力、とくに積荷

の初期、末期における送油速度などについても十分打ち合わせておくこと。

〈積荷作業〉

① 積込み開始は、陸上(または相手船)の作業責任者と互いに支障のないことを確認のう

え行うこと。

② 初の送油は送油圧を落して開始し、決められたタンクヘの流入やパイプ、バルブ、管系の接

続部、送油圧力計など各部を点検し、異常のないことを確認してから送油圧を徐々に上げること。

③ 念のため、船の周りの水面に漏油のないことを確認すること。

④ 絶えず船の傾き(ヒール)に注意するほか、数個のタンクヘ同時に積込む場合は、安

全に作業できる範囲内のタンク数とすること。また、積荷タンクのグループ順序をあらか

じめ十分に打合せ、その通りに行うこと。

⑤ タンク内のアレージは常時監視し、タンクの切替時のバルブ操作は迅速に行うこと。

⑥ フロートゲージで油量を監視するときは、装置が完全に作動しているか、頻繁に確認すること。

⑦ 一つのタンクヘの流入量を減らした時には、他のタンクヘの流入量が増加していることを忘れないこと。

⑧ 積切りタンクの送油量を減らす場合、船内のバルブのみで操作しないで、前もって打

ち合わせた方法で余裕をもって相手側へ連絡し、送油速度を落としてゆくこと。

⑨ 積荷が終了したならば、すぐに相手側に連絡し、相手側が送油を停止したことを確認して

から、各バルブを開めるなど燃料油の補給作業が終了した時と同じような注意を払うこと。

(4) 揚げ荷役〈揚荷準備〉

一般的な注意事項のほか

① すべての海水バルブや送油管系に関連するバルブを全部閉め、必要なバルブを揚荷位

置にセットし確認すること。

② 相手側と揚荷量、連絡方法などについて十分に打ち合わせること。

④ 特に甲板上の荷役管系からの油洩れを厳重に監視するとともに、ポンプルーム付近の

海面にも漏油がないかどうかを十分に注意すること。

⑤ 異常を認め、送油を緊急に停止する必要が生した場合には、甲板上で操作できる緊急

停止装置を作動させること。また、ゲートバルブを開鎖するとともに、緊急時バルブ操作

によるパイプ内循環操作あるいはタンク内への逃し操作を行うこと。

⑥ 揚荷が終了したならば、適当な方法でイナートガス(不活性ガス)によるポンプ押しなどを行い、

パイプ内に残油がないことを確認したのち、マニホールドバルブを開め、ホースを取り外すこと。

(5) クリーンバラスト搭載のための貨物艙の洗浄要領

クリーンバラストとは、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律施行令第 1 条の 7 第

2 項に基づき、同法施行規則第 8 条の 2 において、

① 晴天の日に停止中のタンカーの当該貨物艙から清浄かつ平穏な海中に水バラストを排

出した場合において視認することのできる油膜を海面若しくは隣接する海岸線に生じない

よう洗浄され、かつ、油性残留物若しくは乳濁液の推積を海面下若しくは隣接する海岸線

に生じないよう洗浄されていること。

② タンカーの当該貨物艙からバラスト用油排出監視制御装置又は技術基準省令第 12 条第 1

項に規定するバラスト用濃度監視装置により監視して水バラストを排出した場合において、

油分濃度が 1 万立方センチメートル当たり 0.15 立方センチメートルを超えるものが排出され

なかったことが、当該バラスト用油排出監視制御装置又はバラスト用濃度監視装置の記録

(Oil/Water ratio Monitoring and Recording)により明らかとなるよう洗浄されていること。

と定められた程度以上に洗浄された貨物艙に積載された水バラストをいい、これは一定の

方法(後述)により排出できる。

そこで、前記の油取扱い作業の一般的注意事項のほかに、以下のようにクリーンバラス

トを確保するための海水による標準的タンク洗浄要領は以下のとおりである。

〈計画立案上考慮すべき事項〉

効果的な洗浄を行うためには、作業全般にわた綿密な計画を立案することが必要である。

① 洗浄後搭載するバラストの量の決定(計画喫水)と洗浄すべき貨物艙の選定

航海に必要なバラストの量は、船型、就航海域、就航する季節等によって一様ではない。

堪航性(たんこうせい: Seaworthiness)の観点からのみいえば、バラスト量はできるだけ

多いことが望ましいが、経済面との関連により必要量は決定される。洗浄すべき貨物艙は、

航海中の喫水とトリムをどのように計画するか、船体強度に問題はないのかなどの確認ポ

イントにより選定されるが、現在の大型タンカーにあっては、バラスト搭載に使用するタ

ンクは、造船所が船体強度をあらかじめ計算し指定するのが一般的である。貨物艙の洗浄

はバラスト搭載のためのほかに、保守整備の必要上も一般には行われている。なお、原則

として分離バラストタンク(SBT:Segregate Ballast Tank)を設置したタンカーの貨物艙、

又は 150GT 以上のタンカー及び 4,000GT 以上のタンカー以外の船舶の燃料油タンクには、

水バラストを積載してはならない。また、分離バラストタンクの代替措置として、クリー

ンバラ ストタン ク又は 原油洗浄 設備を設 置して いるタン カーにつ いては、 原油洗浄

(COW:Crude Oil Washing)未実施のタンクヘのバラストの積込みは禁止されている。

② 洗浄作業を行う時期、海域

洗浄効果に及ぼす要素は、船体動揺である。洗浄汚水、ダーティバラスト等の油性混合

物の油水分離作業に十分な時間的余裕も必要であり、他の関連作業に支障を来さない時間、

海域を選ぶ必要がある。

③ 洗浄要領

現在、一般的な洗浄方法は、ポータブルノズルを使用する方法である。ノズルは、種類

により有効範囲および 1 サイクルに要する時間が決まっており、貨物艙の内部構造を検討

の上、ノズルの吊下げ位置、洗浄時間を決定しなければならない。一般に、洗浄は高温・

高圧水が効果的であるが、爆発事故防止の面でも十分な安全対策を立てることが必要であ

る。貨物艙の内部構造は複雑で、ノズルの吊下げ位置の決定にあたっては、死角が生じな

いよう細かな吊下げ操作が必要である。固定式ノズルを使用する場合、ノズルの死角には

特に注意を要し、場合によっては、ポータブルノズルにより補助する方法も効果的である。

同一艙内で同時に使用するノズルの数は、ストリッピングポンプの能力により決定される

が、爆発事故防止の面からも考慮する必要がある。

④ 洗浄汚水の扱い

洗浄汚水はスロップタンクに集め、油水分離しなければならない。このため、使用する

スロップタンクと発生する汚水の予想量などについて事前に計画を立て、油水分離作業が

順調に行えるように考慮する。(専用スロップタンクを有しない船にあっては、タンクの

選定が重要な要素となる。)

⑤ 作業時の注意

油濁事故及びその他の事故を防止するため、注意事項を挙げ、作業関係者全員に周知さ

せることが必要である。

〈タンク洗浄作業〉

原油洗浄の概要は、別途技術基準が定められている。ここでは海水により貨物艙を効果

的に洗浄するため考慮すべき事項等について説明する。

① ノズルの吊下げ位置

タンカーのタンク・クリーニングホールの位置は、新造の段階で決定されているため、

作業に応じ位置を選定することは不可能。本船上でできることは、このタンク・クリーニ

ングホールよリノズルを吊下げた場合、 も効果的なノズルの高さを決定することである。

洗浄効果の面からは、全タンク内構造物表面にノズルからの射水が直接当たるのが理想だ

が、一般的にこれは不可能に近く、実際には、反射水も利用した洗浄が行われている。実

際に吊下げ位置を決定するには、タンク

内構造物とノズルの有効射水距離により、

も死角の少ない位置を求めている。

ポータブルノズルの有効射水距離の例

は、右表のとおり。

② 洗浄時間

ノズルの吊下げ位置が決定したら、次は吊下げ位置における洗浄時間の決定である。

洗浄時間を決定する上で考慮すべき点は、次のとおり。

イ .過去の実績

ロ .使用する洗浄水の温度

ハ .前回洗浄からの経過時間

二 .艙内構造物の配置

ホ .前航に積載した貨物油の種類及び性質

以上を考慮の上、洗浄時間を決定しますが、このうち も重要なものは過去の実績であ

る。洗浄は、状況の許す限り長時間行うことが望ましいが、他の作業との関連により必要

にして十分な時間を選定することが重要である。

③ 同時使用のノズル台数

貨物艙の洗浄をする際、同時に使用できるノズルの台数は、船によって異なり、これを

決定する要素は、次のとおり。

イ . ノズルの容量

ロ . タンク・クリーニング・ポンプの容量

ハ . タンク・クリーニング・ヒーターの容量

二 . ストリッピングポンプの容量

ホ . 爆発事故防止上の安全対策

現在の一般的なタンカーでは、一個の貨物艙は、一行程で洗浄できるだけのポンプ、ヒ

ーター等の容量が決められているのが一般的である。

静電気による洗浄中の貨物艙の爆発説がクローズアップされている今日、国際海運会議

所(ICS-INTERNATIONAL CHAMBER OF SHIPPING)では、事故防止の観点から、同一タンク(区

画)内で同時に使用することができるノズルの台数制限を含む一連の安全対策を推奨して

いる。

貨物艙の洗浄中の汚水のストリッピングの良否は、洗浄効果の点で も重要な要素であ

る。従ってノズル台数の決定にあたっては、ストリッピングシステムの容量と汚水発生量

との見合いを十分考慮する必要がある。ストリッピングシステムの容量は、汚水発生量の

1.25 倍以上あるのが望ましい。

④ 洗浄水温度

一般に洗浄水の温度が高いほど洗浄効果は良い。しかしながら油種によっては、高温水

による洗浄の結果揮発分が蒸発し、スロップタンク内に回収した油分が残留することもあ

りますので、油の種類によって洗浄水の温度を適当に選ぶことが重要である。高温水で洗

浄を行う場合は、貨物艙内のガスの濃度が、爆発限界外にあることを確認することも必要

である。また、タンク内コーティング・パッキン類などへの影響を避けるため、洗浄水の

温度は 60 ℃以下とする。

⑤ 汚水の発生量と処置

ノズルの種類と使用台数、洗浄水圧力及び洗浄時間によって、発生する全汚水量を推定

することが可能である。

油水分離のために使用するタンクにより、汚水の扱いは異なる。専用タンクを持たない

タンカー及び専用タンクを一個しか持たないタンカーでは、洗浄作業と並行してタンクか

らの水分の排出は行わない方がよい。

分離した水分を始外へ排出する場合の汚水の静置時間は、気象・海象の状況等によって

も変わり、状況のよい場合は 12 時間以上の静置を要しないこともあるが、ほとんどの場

合、好結果を得るためには 24 時間以上の静置が必要であり、タンクの容量、タンクの構

造等を検討の上、汚水発生量の面からも洗浄作業計画を検討しておかなければならない。

⑥ タンク洗浄剤

貨物艙の洗浄に「タンク洗浄剤」を使用することは、洗浄効果を高めるうえで、その価

値は十分認められているが、一般に洗浄後の油水分離作業が困難になること及び洗浄中に

貨物艙内の静電気量が増大することもあり、使用しない方がよい。

〈タンク洗浄後の貨物艙点検〉

貨物艙の洗浄が終了し、当該艙内がガスフリーとなったならば、バラストを漲水する前

に洗浄度の点検を行わなければならない。同時に艙内構造物の損傷の有無も点検する。

洗浄が効果的に行われた場合は、艙内構造物表面にはほとんど油分が残らない。しかし、

洗浄水が当たらなかった死角あるいは、洗浄中に汚水が溜まった箇所にはスラッジが残る。

高温水で洗浄を行った場合、艙内に残留している油分の流動点は、 60 ℃前後が普通であ

り、海水を漲水した場合、表面にほとんど油は浮上しない。艙内構造物表面にベットリし

た油分が多量に残っている場合は、洗浄の失敗であり、高温水で再度洗浄をやり直す必要

がある。

クリーンバラストを漲水する場合、一般に洗浄後、艙内に残留するスラッジは処理しな

い。冷海水で洗浄を行った場合、残留油分の流動点は比較的低く、バラストを漲水した場

合、表面に油分が浮上することが多い点に注意が必要である。いずれにせよ、貨物艙内に

派水したバラストの表面には、多少の油分が認められるが、これらの油分はバラストの排

出に伴い再度構造物に付着し、艙内に残留している。漲水したバラストの表面に着色を認

める程に多量の油が浮上しているのは、洗浄が不十分な証拠であり、再度洗浄を行う。

〈洗浄時における油濁防止上の注意事項〉

洗浄作業中は、一般的な注意のほかに、油濁事故防止のため特に次の諸点に注意する必

要がある。

① 洗浄汚水の適正な処置

油性汚水は、スロップタンクに集め静置して油分と水分に分離する必要がある。従って、

汚水が直接船外に排出されないよう作業関係者に周知し、誤操作を防止するとともに、関

係パイプライン及びバルブの点検を行わなければならない。

② スロップタンクのオーバーフロー防止

締密な計画を立案し、スロップタンクのオーバーフローを防止することは可能だが、洗

浄時間・洗浄水圧力の計画値との差異により、汚水量が予想以上に増加することがある。

このためスロップタンク内の液面位を十分に監視するとともに、汚水の増加に伴う予備タ

ンクの用意等、あらかじめ対策を講じておく必要がある。

〈ダーティバラストの処理〉(タンカーからの貨物油を含む水バラスト等の排出基準」参照)

ダーティバラストは油性汚水であり、これの排出は、海洋汚染及び海上災害の防止に関

する法律第 4 条第 3 項に基づき定められている水バラスト等の排出基準(32 頁「表 2-3 タ

ンカーからの貨物油を含む水バラスト等の排出基準」を参照)に従って行う必要がある。

セットリングが十分に行われた場合、ダーティバラストの上部に油層ができる。その下層

の水分は、できる限り船の動揺の少ない時を選んで、次の手順に従って処理する。

① 必要に応し、メインライン及びポンプをダーティ・バラスト・タンクヘフラッシングする。

② バラスト水の排出を開始する。

③ タンク内の水位がタンク深さの約 15 パーセントになれば、タンクからの排出速度を落とす。

④ 渦巻現象や堰止め現象(weir effect)により表面の油が吸引されないようポンプの速度を落とす。

⑤ 油の流出を生ずるおそれがある水位まできたら、そのタンクの排出を中止する。全タ

ンクがこの水位まで排出されたら船外への排出は終了する。

⑥ この段階で担当者は、ダーティバラストの残量がスロップタンクに収容可能かどうか

確かめなければならない。もし余積が不足するときは、油層の下に適当な水の層が残るよ

う注意しながら、必要な容積ができるまでスロップタンクの水分を一部排出してもよい。

⑦ 次に、ストリッピング系統を使用して、残りのダーティバラストをスロップタンクヘ回収する。

〈ポンプルーム、ビルジ水の処理〉

ポンプルームのビルジ水には、相当量の油分が含まれているため直接船外に排出しては

いけない。貨物艙の洗浄に引き続き、ポンプルームのビルジ水及びストリッピング系統に

接続する他のビルジをスロップタンクに回収し、貨物艙の洗浄汚水と同時に処理するのが

よい。

〈パイプラインの洗浄〉

パイプラインの洗浄(関係ポンプも含めて)は、クリーンバラスト排出時の油濁事故防止

上 も重要なことである。

貨物艙がいくらきれいに洗浄されていても、バラストを排出するパイプライン、ポンプ

の洗浄が不十分であれば、バラストの排出に伴い必ず油が船外に流出するおそれがある。

このためパイプラインの洗浄を行うにあたっては、綿密な洗浄作業計画を立て、関係パイ

プラインの洗浄に不備のないよう努めなければならない。

① 作業計画

パイプラインの洗浄を行うにあたっては、配管図を検討の上、洗浄経路、洗浄時間及び

洗浄順位を決定する。実際のバラスト排出作業には、1 ~ 2 系統のパイプライン及びポン

プが使用されるだけであるが、洗浄は出来るだけ多くのパイプラインについて行っておく

のがよい。

② 洗浄作業

パイプラインの洗浄は、揚荷終了後、ダーティバラストを漲水する際に、出来るだけ行

っておけば便利である。パイプラインの洗浄には比較的多量の洗浄水が必要であり、スロ

ップタンクヘの回収作業、油/水分離作業との関連により、汚水量を極力少なくすること

を考える必要がある。貨物艙の洗浄が終了したら、クリーンパラストを漲水する前に、再

度、洗浄を行い、艙内にパイプライン内の残油が入らないようにしなければなりません。

洗浄したパイプライン系統は、ダーティバラストの排出には使用しない方が良い。使用し

なければならない場合は、使用後に洗浄を行い、汚水はすべてスロップタンクに集めて処

理しなければならない。

〈スロップタンクからの排出〉「タンカーからの貨物油を含む水バラスト等の排出基準」

油性汚水の静置と水切り作業は、油濁防止上 も注意を必要とする作業であり、「タン

カーからの貨物油を含む水バラスト等の排出基準」に従って排出しなければならない。ま

た、各操作のタイミングが重要で、ポンプ停止あるいはパルプ閉鎖のわずかな遅れでも海

に大量の油が流出する場合があるので、相当の知識と技術を必要とする作業である。スロ

ップタンクで油/水分離を行う場合、全汚水の静置を同時に行うのが効果的である。貨物

艙の洗浄汚水、ダーティバラスト、パイプライン洗浄汚水を発生するたびに静置のうえ水

切りを行うのは、油/水分離効果の点からは好ましくない。スロップタンクの容積によっ

ては、全汚水を同時に処理することは不可能であり、それぞれを分けて処理しなければな

らないが、この場合も次の汚水を回収するだけの容積を水切りにより確保するにとどめ、

極端な水切りは行わない方がよい。

水切りを開始する前に、正確な油水境界面の位置とアレージを計測し、油層の厚さを求

めておかなければならない。また、油水境界面の断面は一様でなく 10 センチほどの凹凸

があるものと考えられる。そのため、スロップタンクからの排出は、エマルジョン層の船

外への排出を防止するため、測定した境界面に達する前に余裕をもって中止する。

スロップタンク内の水分をできるだけ多量に排出する努力は必要だが、本来の目的は油

性汚水を海に排出しないようにすることが主眼なので、細心の注意が必要であり、船外へ

の排出に際しては厳重にチェックしなければならない。この場合も、渦巻現象や堰止め現

象(weir effect)により表面の油分を吸引しないよう、またスロップタンク内の攪乱はできる

だけ生じないようにしなければならない。油水境界面がタンク底部の構造材の高さに近づ

くときは、特に注意が必要である。

以上のことに注意しながら、次のような手順を遵守すること。

① 水位がスロップタンクの深さの約 15 パーセントになるまでは、低速度でメインポ

ンプ 1 台を使って排出する。

② メインポンプを停止し、油水境界面の位置としてアレージを計測し、残水の深さ

を計算する。

③ 次にストリッピングポンプを使用して、スロップタンクの大きさと構造を考慮し

てあらかじめ決定しておいた油の排出のおそれがある水位になるまで、スロップタ

ンクからの排出を行う。 初のうちは通常の排出速度で行ってもよいが、この水位

に近くなれば速度を落とさなければならない。そして、ストリッピングポンプのド

レンコックを開き、その水に油の痕跡があるかどうか、視認あるいは計器によって

チェックする。

④ もし、この水位に達する以前でも油を認めたならば、ポンプを停止する。

⑤ このような場合には、③および④の過程を繰り返す前に、できるだけ長時間さら

に静置しなければならない。

⑥ このあらかじめ定めておいた水位以下には、決して水切りしてはならない。

〈クリーンバラストの排出〉

クリーンバラストは、海面より上の位置から排出しなければならない。ただし、排出す

る直前に当該バラスト中の油分の状態を確認した上排出する場合は、海面より下の位置に

排出することができる。(船舶が港及び沿岸の係留施設以外にある場合にあっては、ポン

プを使用することなく排出しなければならない。)

タンクが良く洗浄されており、ライン洗浄が完壁であるならば、バラスト排出時に漏油

は生じないはずである。念のために、船が陸岸から 50 海里をこえる海域にある間に、ク

リーンバラストの排出に使用する予定のラインやポンプは、徹底的に海ヘフラッシングし

ておく必要がある。それでもなお、バラスト排出口を監視しなければならない。特にタン

ク底部をさらえるときが も油が出やすいものである。もし油が認められた場合には、バ

ラストの排出を直ちに中止し、その残りはスロップタンクヘ移送しなければならない。

他に注意すべきことは、ダーティタンクのバルブがしっかり閉っていない場合、バラス

ト排出時にそのタンクヘ水が入ってしまうことである。ダーティタンクヘー度入った水は

油分を含んでいるため、船外へ排出できずスロップタンクヘ回収することになり、時間的

余裕もなく積荷に支障を来すことになる。

バラスト排出時、バルブの操作ミスで上記のごとき事態を起こさぬよう、使用禁止のバ

ルブはシールしておくべきであ

る。また、バラスト航海中、空

のタンクもしばしば点検してバ

ルブのゆるみ、その他によるダ

ーティタンク内への漏水に注意

しなければならない。

〈漏油対策〉

クリーンバラストの排出中、

海面に油膜を生した場合は、た

だちに処理する必要がある。こ

のような場合に備え、バラスト

の排出に先立ち、油処理剤等を

直ちに使用できる状態に用意しておくことが必要である。

一般にクリーンバラストの排出時に大量の油が流出することはまれであり、流出しても

発見が早ければ本船にて処理することが可能である。

(6)タンク洗浄水・油性水バラストの排出

海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律では、原則として全海域とも禁止である。排

出する場合は、一定の排出基準によらなければならない。

一番問題になるのはタンカーから出るダーティバラストとタンク洗浄水である。

① 外航タンカー

排出基準に適合し得る処理方法は、ロードオントップ方式である。

ロード オン トップ方式 (Load on Top System)

この方式はタンク掃除やバラストの注排水により生じる油性混合物を特定のスロップ・

タンクに集めて油水分離し,水切り後発生したスロップ(又はスロップ・レジデュー)を

揚げ荷港で貨油と共に陸揚げ処分することにより,海洋に投棄される油分を制限すること

を本来の目的としている。したがってタンカーではスロップをそのままスロップ・タンク

に残しておき,積み地ではその上に新しい貨油を積む方法を採用し,揚げ地で貨油と一緒

に揚げ荷する。この一連の作業方法をロード・オン・トップ方式という。

【ロードオントップ方式】

従来から原油を輸送する外航タンカーで採用されている方式(1961 年開発)で、この方

式の適切な運用によるならば、新しい排出基準に適合し得るものと考えられている。

この方式は、タンク洗浄水やダーティバラストを特定のタンク(スロップタンク)へ(ダ

ーティバラストの場合には、静置しているので、下方の油分濃度の薄い水の部分を海面上

へ排出し残りの油分濃度の高い部分だけをこのタンクヘ)集め、水切りをした後、その上

へ次の貨物油を積む方法である。

この方式の洗浄には、

【1】オープン・サイクル・システム

【2】クローズド・サイクル・システム

の2つの方法があって、別図のような手順となっている。この方式を行うにあたり も重

要なことは、バラスト水の排出にせよ、タンク洗浄水の水切りにせよ、水切りの限界を合

理的に行い、油分を含んだ水が船外に排出されるのを 小限におさえることである。

②内航タンカー

貨物艙からの廃油は、すべて陸上の廃油処理施設に引渡す。一般に、原油その他のダー

ティバラストは、積地にある廃油処理施設に引渡す。