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胆道系酵素について(ALPとGGT) IDEXX Diagnostic Tips アイデックス お役立ち情報 発行:2013年1月 平田 雅彦 先生 (IDEXX診断医) No.4 アイデックス ラボラトリーズ株式会社 〒181-8608 東京都三鷹市北野 3-3-7 0120-71-4921 FAX:0120-71-3922 www.idexx.co.jp ALP と GGT アルカリフォスファターゼ(ALP)は肝臓のスクリーニング検査 に必ず含まれるが、異常値が出てもあまり気にされない項目の 1 つである。GGT に関しても院内検査の項目として取り入れている 病院は少ないように思われる。ALP や GGT などの酵素を調べる 際には、単に基準値よりも高値を示すかどうかではなく、その異 常値の出る原因をよく理解しておく必要がある。この 2 つの酵素 は ALT や AST などの障害された肝細胞から漏出する酵素(逸脱 酵素)とは異なっており、胆道系における胆汁のうっ滞により合 成が亢進し血中の濃度が増加することから、誘導酵素や逸脱酵 素と呼ばれている。 ALP と GGT の増加 ALP の増加の原因として犬猫に共通するものとしては、成長期 にみられる上昇や胆道系疾患における上昇が挙げられる。成長期 にみられる ALP は骨芽細胞由来であり、GGT にはこの機序での 上昇はないため ALP 単独の上昇となる。犬で最も重要なことは、 犬ではステロイド誘発性の ALP や GGT の上昇があるということ である。これはクッシング症候群やステロイド投与のみでなく、体 に内因性コルチゾールが増加するような変化が起きた場合でもそ の増加は起こりえる。例えば激しい痛みが持続するような症例で は、胆道系疾患に関係なくこれらの酵素の顕著な増加がみられる ことがある。よくステロイド投与中に ALP の上昇がみられたため投 薬を中止したと聞くが、投与による ALP や GGT の上昇は肝障害 の程度と相関するものではなく,肝障害の指標とはならない。ス テロイド投与による肝障害を懸念するのであれば、逸脱酵素であ る ALT や AST、そして胆道系を評価するのであればビリルビンの 測定が必要となる。一方、猫ではステロイド誘発性の ALP や GGT の上昇はみられず、ステロイド投与中にこれらの酵素の上昇 がみられた場合、肝疾患などの原因を検討する必要がある。 肝臓由来の ALP の半減期を考えると、犬で 72 時間、猫で 5 時間程度と記載されているものが多い。つまり猫の ALP は犬の ALP の 10 倍以上速く減少するということであり、半減期の大きく 異なる犬の ALP 300 IU/ Lと猫の ALP 300 IU/ L を同じ土俵の 上で評価してはならないということである。猫は犬のようにステロイ ド誘発性の ALP の上昇もなく、肝胆道系疾患があっても ALP の 上昇がみられないことがあり、逆に ALP が軽度の上昇でも重篤 な胆道系疾患が存在する可能性が考えられるということである。 犬の ALP と GGT の使い方は、肝胆道系疾患における感度は ALP >GGT である。しかし、両酵素とも肝臓に特異性が高いと は言えず、肝疾患を疑う場合、両方の酵素のみを測定する意義 はそれほど高くはない。肝疾患を疑う場合は、Tbil や Tchol およ び画像診断などを併せて総合的に評価する必要がある。猫の ALP と GGT の使い方は、肝胆道系疾患における感度は ALP < GGT と犬とは逆となる。但し、ALP が著しく上昇する疾患として 肝リピドーシスおよび甲状腺機能亢進症が挙げられる。肝リピドー シスの約 80%の症例は ALP が高値を示すにも関わらず、GGT が基準値内である。また、猫の肝疾患で ALP が ALT の値を越 えることは少ないとされているが、肝リピドーシスに関しては逆転し ていることが多いとされている。甲状腺機能亢進症に関しては、 骨芽細胞由来の ALP の上昇であり、ALT や AST の上昇を伴う ことがあるが、Tbil や GGT の上昇を伴うことは少ない点で胆管 炎などの肝疾患とは異なっている。また猫では敗血症性黄疸と呼 ばれる Tbil の上昇がみられることがしばしば経験される。これは 敗血症の際に肝細胞の血中ビリルビンの取り込みが減少すること によりみられる現象であり、肝細胞性黄疸(肝細胞の障害により ビリルビンが上昇する病態)の範疇に含まれている。この場合、 胆道系に胆汁のうっ滞所見は認められず、理論的には ALP や GGT および Tchol の上昇を伴うことはない。 ALP と GGT の測定意義 犬では猫と比べ ALP、GGT とも胆道系疾患において感度は高 いが特異性が低いとされており、逆に猫では犬と比べ ALP、 GGT とも胆道系疾患において感度は低いが特異性が高い酵素で ある。犬で肝疾患を疑う場合、ALP、GGT 単項目を測定する意 義に関しては高いものではないが、胆道系疾患やクッシング症候 群などを考える際には重要な項目と言える。猫では ALP と GGT が高値を示した場合、肝胆道系疾患の疑いが高くなる。特に肝 リピドーシスや甲状腺機能亢進症では両酵素を測定することによ り、単項目で測定するより多くの情報が得られることがある。 血液化学検査というものは、1 つ 1 つの項目で評価を行うもの ではなく、各項目を関連付けて評価することが重要であり、ぜひ 院内検査としての ALP や GGT の測定意義を今一度検討して頂 きたい。

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Page 1: 胆道系酵素について(ALPとGGT)胆道系酵素について(ALPとGGT) IDEXX Diagnostic Tips アイデックス お役立ち情報発行:2013年1月 平田 雅彦 先生

胆道系酵素について(ALPとGGT)

IDEXX Diagnostic Tips アイデックス お役立ち情報発行:2013年1月

平田 雅彦 先生 (IDEXX診断医)

No.4

アイデックス ラボラトリーズ株式会社〒181-8608 東京都三鷹市北野 3-3-7

0120-71-4921 FAX:0120-71-3922 www.idexx.co.jp

ALPとGGT アルカリフォスファターゼ(ALP)は肝臓のスクリーニング検査

に必ず含まれるが、異常値が出てもあまり気にされない項目の 1

つである。GGT に関しても院内検査の項目として取り入れている

病院は少ないように思われる。ALP や GGT などの酵素を調べる

際には、単に基準値よりも高値を示すかどうかではなく、その異

常値の出る原因をよく理解しておく必要がある。この 2 つの酵素

はALTやASTなどの障害された肝細胞から漏出する酵素(逸脱

酵素)とは異なっており、胆道系における胆汁のうっ滞により合

成が亢進し血中の濃度が増加することから、誘導酵素や逸脱酵

素と呼ばれている。

ALP とGGTの増加 ALP の増加の原因として犬猫に共通するものとしては、成長期

にみられる上昇や胆道系疾患における上昇が挙げられる。成長期

にみられる ALP は骨芽細胞由来であり、GGT にはこの機序での

上昇はないため ALP 単独の上昇となる。犬で最も重要なことは、

犬ではステロイド誘発性の ALP や GGT の上昇があるということ

である。これはクッシング症候群やステロイド投与のみでなく、体

に内因性コルチゾールが増加するような変化が起きた場合でもそ

の増加は起こりえる。例えば激しい痛みが持続するような症例で

は、胆道系疾患に関係なくこれらの酵素の顕著な増加がみられる

ことがある。よくステロイド投与中にALPの上昇がみられたため投

薬を中止したと聞くが、投与によるALPやGGTの上昇は肝障害

の程度と相関するものではなく,肝障害の指標とはならない。ス

テロイド投与による肝障害を懸念するのであれば、逸脱酵素であ

るALT や AST、そして胆道系を評価するのであればビリルビンの

測定が必要となる。一方、猫ではステロイド誘発性の ALP や

GGT の上昇はみられず、ステロイド投与中にこれらの酵素の上昇

がみられた場合、肝疾患などの原因を検討する必要がある。

 肝臓由来の ALP の半減期を考えると、犬で 72 時間、猫で 5

時間程度と記載されているものが多い。つまり猫の ALP は犬の

ALP の 10 倍以上速く減少するということであり、半減期の大きく

異なる犬のALP 300 IU/ Lと猫のALP 300 IU/ Lを同じ土俵の

上で評価してはならないということである。猫は犬のようにステロイ

ド誘発性の ALP の上昇もなく、肝胆道系疾患があってもALP の

上昇がみられないことがあり、逆に ALP が軽度の上昇でも重篤

な胆道系疾患が存在する可能性が考えられるということである。

 犬の ALP と GGT の使い方は、肝胆道系疾患における感度は

ALP >GGT である。しかし、両酵素とも肝臓に特異性が高いと

は言えず、肝疾患を疑う場合、両方の酵素のみを測定する意義

はそれほど高くはない。肝疾患を疑う場合は、Tbil や Tchol およ

び画像診断などを併せて総合的に評価する必要がある。猫の

ALP とGGT の使い方は、肝胆道系疾患における感度は ALP <

GGT と犬とは逆となる。但し、ALP が著しく上昇する疾患として

肝リピドーシスおよび甲状腺機能亢進症が挙げられる。肝リピドー

シスの約 80%の症例は ALP が高値を示すにも関わらず、GGT

が基準値内である。また、猫の肝疾患で ALP が ALT の値を越

えることは少ないとされているが、肝リピドーシスに関しては逆転し

ていることが多いとされている。甲状腺機能亢進症に関しては、

骨芽細胞由来の ALP の上昇であり、ALT や AST の上昇を伴う

ことがあるが、Tbil や GGT の上昇を伴うことは少ない点で胆管

炎などの肝疾患とは異なっている。また猫では敗血症性黄疸と呼

ばれる Tbil の上昇がみられることがしばしば経験される。これは

敗血症の際に肝細胞の血中ビリルビンの取り込みが減少すること

によりみられる現象であり、肝細胞性黄疸(肝細胞の障害により

ビリルビンが上昇する病態)の範疇に含まれている。この場合、

胆道系に胆汁のうっ滞所見は認められず、理論的には ALP や

GGTおよびTcholの上昇を伴うことはない。

ALP とGGTの測定意義 犬では猫と比べ ALP、GGT とも胆道系疾患において感度は高

いが特異性が低いとされており、逆に猫では犬と比べ ALP、

GGT とも胆道系疾患において感度は低いが特異性が高い酵素で

ある。犬で肝疾患を疑う場合、ALP、GGT 単項目を測定する意

義に関しては高いものではないが、胆道系疾患やクッシング症候

群などを考える際には重要な項目と言える。猫では ALP と GGT

が高値を示した場合、肝胆道系疾患の疑いが高くなる。特に肝

リピドーシスや甲状腺機能亢進症では両酵素を測定することによ

り、単項目で測定するより多くの情報が得られることがある。

 血液化学検査というものは、1 つ 1 つの項目で評価を行うもの

ではなく、各項目を関連付けて評価することが重要であり、ぜひ

院内検査としての ALP や GGT の測定意義を今一度検討して頂

きたい。