深部静脈血栓症(dvt)と早期離床深部静脈血栓症 (deep vein thrombosis:dvt)...
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深部静脈血栓症(DVT)と早期離床
金沢医科大学病院
理学療法士 中木 哲也
深部静脈血栓症 (deep Vein Thrombosis:DVT)
• 四肢や骨盤の深部静脈に生じる血液凝固
• DVTは肺血栓塞栓症(PE)の主な原因
• DVTとPEを合わせて、静脈血栓塞栓症という
• 臥床傾向にある患者の全てに発症するが、なかでも整形外科領域に多く発生する
• 発生要因:Virchowの3因子 ①血流の停滞
②静脈内皮障害
③血液凝固能の亢進
静脈血栓塞栓症の特徴
下肢>上肢 遠位>近位
*下肢DVTは左側に多い! (左総腸骨静脈が右総腸骨動脈に
圧迫されるためである)
ヒラメ静脈
下大静脈
前脛骨静脈
膝窩静脈
後脛骨静脈
総腸骨静脈
総大腿静脈
外腸骨静脈
浅大腿静脈
深大腿静脈
DVTの頻度 総腸骨動脈
症 状
発熱(熱感)、疼痛、圧痛、浮腫、痺れ、重量感
など
*無症状の場合も多い!
呼吸困難、胸痛、咳嗽、
血痰、失神、急性右心不全
など
DVT
PE
Homans徴候(動画)
• 膝を軽く押さえ、足関節背屈させると腓腹部に疼痛が生じるかを検査します。
血液検査
• 凝固線溶検査 Dダイマー
FMC/SF(可溶性フィブリンモノマー複合体)
TAT(トロンビン抗トロンビン複合体)
FDP(フィブリン/フィブリノーゲン分解産物)
AT Ⅲ(アンチトロンビンⅢ) など
• 血液凝固機能検査 APTT
(活性化部分トロンボプラスチン時間)
PT-INR(プロトロンビン時間)
TT(トロンボテスト) など
所 見
Dダイマー:正常値 1.0以下(μg/ml)
*DダイマーはDVTの除外診断に有効
数値が正常であれば99%血栓なし!
(数値が高いからといってDVTとは限らない)
*術後、Dダイマーの上昇 平均10(10~15)μg/ml程度
鑑別診断
うっ血性心不全
ネフローゼ症候群
肝硬変
栄養失調
など
リンパ浮腫
蜂窩織炎
など
全身性浮腫 局所性浮腫
臨床確率 要 因 ポイント
悪性腫瘍(6カ月以内に治療を中止した症例を含む) 1
下肢の不動化(麻痺,不全麻痺,ギプスおよびその他の固定) 1
過去4週間以内の,3日を超える不動化に至る手術 1
脚全体の腫脹 1
ふくらはぎ または大腿の静脈の分布に沿った圧痛 1
両ふくらはぎの腫脹(脛骨粗面の10cm下での測定) 患側が3cm以上 1
患脚においてより高度な圧痕浮腫 1
表在性の側副静脈の拡張 1
深部静脈血栓症と同等またはそれ以上の可能性のある他の診断 -2
参考文献:Based on data from Anand SS Well, PS, Hunt, D et al: JAMA 279(14):1094–1099,1998.
合計スコア リスクレベル DVT可能性(%)
≦0 低確率 2~15%
1~2 中確率 40~50%
≧3 高確率 80~85%
陰性
DVTの診断 DVTを疑う症状
臨床確率 低確率 中・高確率
陰性 陽性
DVTの診断 DVT除外
静脈エコー
陰性 陽性
DVTの診断
DVT除外
Dダイマー
陽性
追跡静脈エコー
Dダイマー
DVT除外
陰性 陽性
静脈エコー
DVTの付加的な危険因子の強度 危険因子の強度 危険因子
強い 静脈血栓塞栓症の既往 血栓性素因 先天性素因:アンチトロンビン欠損症,プロテインC欠損症, プロテインS欠損症など 後天性素因:抗リン脂質抗体症候群など
下肢麻痺 下肢ギプス包帯固定
中等度 長期臥床 高齢 うっ血性心不全 呼吸不全 悪性疾患 中心静脈カテーテル留置 癌化学療法 重症感染症
弱い 肥満 エストロゲン治療 下肢静脈瘤
参考文献:肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン
整形外科におけるリスクとその予防 *付加的な危険因子を加味して決定される
参考文献:肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン
リスクレベル 要因 予防法
最高リスク 「高」リスクの手術を受ける患者に 静脈血栓塞栓症の既往, 血栓性素因が存在する場合
低用量未分画ヘパリンと 間欠的空気圧迫法または 弾性ストッキングの併用
高リスク 股関節全置換術 膝関節全置換術 股関節骨折手術
間欠的空気圧迫法あるいは 低用量未分画ヘパリン *早期離床、積極的な運動、 早期荷重が重要
中リスク 脊椎手術 骨盤・下肢手術 (股・膝関節全置換術, 股関節骨折手術を除く)
弾性ストッキングあるいは 間欠的空気圧迫法 *早期離床、積極的な運動、 早期荷重が重要
低リスク 上肢手術 *早期離床、積極的な運動
予防法
• 早期離床、早期荷重
• 積極的な下肢の運動(底背屈運動)
*可能であれば抵抗運動
• 弾性ストッキング(弾性包帯)
• 間欠的空気圧迫法
• 水分摂取(2L)
• 薬物療法
DVTの離床基準
Dダイマー値 (病院により基準が異なる場合があります)
5 μg/ml以下:歩行許可
2 μg/ml以下:外来での抗凝固療法
抗凝固療法開始 24時間持続点滴ヘパリン ⇒目標APTT基準値の1.5~2.0倍 ⇒経口抗凝固剤開始
まとめ
• 入院中に臥床を強いられる患者の殆どにDVTを発症している可能性がある
• 骨折による不動や人工関節を施行した患者ではDVTのリスクが高い(中リスク以上)
• 術後のDダイマーは平均10μg/mlまで上昇
• DVTが発生していることが問題ではなく、PEに移行することが問題であるため、早期発見とその対処が重要となる
• 予防には早期離床、下肢の運動が重要