重度・重複障害児の コミュニケーションに関する …...q! ! !q!ºÏ r! ! !s![ で...
TRANSCRIPT
重度・重複障害の児童生徒に対する
認知・コミュニケーション指導の在り方 ~本校アセスメントチェックリスト・指導のための手引の活用~
平成28年3月23日
広島県立福山特別支援学校
教育研究部
1
1 コミュニケーションに関する研究推進について
2 「重度・重複障害児のアセスメントチェックリスト,それに対応する手引」の作成の目的・作成経過について
3 「重度・重複障害児のアセスメントチェックリスト,それに対応する手引」の内容・使用方法について
4 アセスメントチェックリスト,手引きの活用
実践,個別の指導計画,学習指導案等への反映 等
報告の内容について
2
1 コミュニケーションに関する研究推進について
3
福山特別支援学校は,平成23年度に自立活動部を創立,そして24年度からこのよう
な研究工程表を作成し,重度・重複障害児の「コミュニケーション」をテーマに継続して研究に取り組んできました。
さらなる研究推進のために,公益財団法人広島県教育振興会の平成27年度教育助成金の交付を受け,「重度・重複障害の児童生徒に対するコミュニケーション指導の在り方」について研究を行ってきました。
【 研究工程表 】
1学期 2学期 3学期
・活用方法の研修(5
/7
)
・チェックリスト配布
チェックリスト活用による APDCA サイクルの確立の推進
・一学級一研究授業【20 回】
・学部単位での校内授業研究会【2回】
・公開授業研究会(1/29)
・自立活動実践報告【14 例】
コミュニケーション指導に関する文献研究
手引き作成
【70 例掲載】
広島県特別支援教育研究大会(12/24)
学校企画発表
★ 先進校視察
チェックリストの活用をふまえた指導案様式の研究
チェックリスト
の改良・公開
★ ★
手引き作成
【100 例掲載】
手引き公開
注:★チェックリストによる実態把握及び評価
適切な姿勢,呼吸ケア等,コミュニケーション指導環境の支援
個に応じた適切なコミュニケーション指導の内容について集約・分析
★
【120 例】
4
平成27年度コミュニケーションに関する研究の工程
2 「アセスメントチェックリスト・手引」の作成目的
Ⅲ類型(自立活動を主とする教育課程)の児童生徒が過半数を占める。
自立活動の指導を充実させる必要がある。
福山特別支援学校
適切な指導内容の設定
自立活動の指導の充実
明確な指導目標の設定
的確なアセスメント (行動観察,発達検査等)
日々の指導についての
校内アンケートでは…
【実態把握について】
・働きかけへの反応が表情や態度に表れにくく,実態把握が本当に正しいか判断できない。
・実態把握に自信が持てず,指導内容が児童生徒の実態にあっているかどうか分からない。
・人によって大きく判断が異なる。
【具体的な指導について】
・表情や態度を示しにくく,判断に困る。
・視覚や聴覚に困難さのある児童生徒に対する指導内容の設定が難しい。
・一貫した取組を継続するための連携が難しい。
5
適切な指導 内容の設定
自立活動の指導の充実
明確な指導 目標の設定
的確な 実態把握
「重度・重複障害児のアセスメントリストチェックリスト」と,それに対応する「指導の手引」を作成
リストと手引の活用
(授業改善の軸)
既存のアセスメントリストは重度・重複障害の子供には活用しにくい。 ・身体が動かせないと・・・。 ・目が見えていないと・・・。 ・声がうまく出せないと・・・。 ・チェックできる項目が少なく限られる。 ・発達段階を踏まえた細かなスモールステップが見えてこない。
6
・校内アンケート
・先行文献研究
・作成方法の検討
・第1.1版公開(7月)
・校内研修,活用開始,修正
・第2.0版公開(平成27年2月)
・対応する手引の作成
・手引き第1版公開(4月)
・手引き第1.2版公開(8月)
・発達段階19~24ヶ月追加
・リスト全体の修正
・手引き追加修正,公開(12月)
・リスト,手引第3版の公開(3月)
平成24~26年度
【作成の手順】 ①先行文献よりリスト アップしデータベース化 約600項目 ②領域に分類 (当初4領域,現在5領域)
発達段階を基準に整理 ③内容の精選・修正 新規項目の作成追加 試用,修正改善 【留意点】 ・発達段階に応じたより細かいステップ ・視覚,聴覚,運動機能へ配慮した項目 ・発達初期の項目の充実
平成27年度
「アセスメントチェックリスト・手引」の作成経過 7
実態把握・目標設定のヒントとなるツール
子供をよりよく知るために…
•子供の様子を具体的に把握する
•学習課題を明確化する
•発達の順序を知る 等
3 「重度・重複障害児のアセスメントチェックリスト」の内容
8
多角的・客観的・具体的に子供を理解できるように!
今までぼんやりと子供のことを把握はできてい
たが…
◆コミュニケーションに関するプロフィール表
段階 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ
月齢 1ヶ月 (0日~ 30日)
2ヶ月
~3ヶ月 4ヶ月
~6ヶ月 7ヶ月
~9ヶ月 10ヶ月
~12ヶ月 13ヶ月
~18ヶ月 19ヶ月 ~24ヶ月
1 アセスメントリスト概要
9
本リストは,コミュニケーション・認知の力を細やかにアセスメントするために,5つの領域,6つの発達段階に分かれています。
発達段階
領域番号
項目 . 記述欄手引き
総
番号
説明欄
Ⅰ 1生理的不快の表出がある。(※暑さ・寒さ・痛み等を支援者が読み取れるようしめすことができる)
6環境変化や体調の変化による不快感を,表情や動きなど教員がわかる範囲で表出できる。
Ⅰ 2 不快になる刺激・働き掛けがある。 7人からの刺激でいやなものがある。例:顔はさわってほしくない。右手はさわってほしくない。
Ⅰ 3優しく抱きかかえると心地よさそうになる。(例:緊張が緩む・表情が緩む・脈や呼吸が安定する等)
8最初期の人からの関わりでもたらされる快反応。笑顔にならなくても,心身に安楽の反応が見られればよい。圧迫刺激と弛緩をくりかえす。抱きしめる。その刺激への定位反応を作る。
Ⅰ 4 快になる刺激・働き掛けがある。 9人からの働きかけや,周囲環境からの働きかけに対して快の表情を出すことができる。(人からの働き掛けである必要はない。)
できない
時々で
きる
おおよそ
できる
できる
Ⅰ 快不快の分化
2 アセスメントリスト使用例
不安定なところが明らかになる。 課題として
選定できる。
「時々できる」「おおよそできる」にマークがついた項目から総合的に判断し,特に重要な指導項目をピックアップして記入欄に○印。
10
前庭覚刺激を受容 できた時は,微笑 むことがある
分野
領域
発達
段階
領域
番号 課題とする項目 具体的な指導目標 支援・留意点
コミュニケーション
要求表出
Ⅱ 6
手や身体に触れられると表情
や身体の動き(過敏や反射では
ない動き)等の反応がある。
触れられることに気付き,表情等で
反応することができる。
・人から触れられていることに気付けるように,初めはタッ
ピング等大きく触れ,刺激を入力し,徐々に手に触れるだけ
にする等接触する面積を少なくする。
Ⅱ 7
支援者から働き掛け(揺さぶり
等の前庭感覚等の刺激)を受
け,笑う等の快反応がある。
働き掛け(揺さぶり等の前庭感覚等
の刺激)を受け,笑顔になる等の快
反応を表出することができる。
・児童が好む揺さぶり遊び等を繰り返し行い,快反応を安定
させるようにする。はじめは刺激に注意を向けやすくするた
め,大きな揺れにする。言葉掛けは少なくし,できるだけ一
つの刺激に集中できるようにする。
人間関係
Ⅱ 5 反応の良い音がある。 反応の良い音がある。
・できるだけ聞かせたい音刺激のみにし,電子音等の単音等
反応があった音を繰り返し聞かせる。人の声を含め,様々な
音を聞かせるようにする。
Ⅱ 6 音よりも人の声に反応する。 音よりも人の声に反応する。 ・人の声に対して好反応を引きだすように,ことば掛けを行
いながら,児童の好む遊びを行い,
3 課題整理シートによる指導内容の整理
課題とする項目をリストより転記する。
課題とする項目を踏まえて,児童・生徒に応じた,より具体的な指導目標を設定する。
指導上の支援・留意点についても必要に応じて記す。
11
「アセスメントリストに対応した指導の手引」の内容
指導内容を考えるヒントとなるツール
目標を指導につなげていくために…
• 日々の実践,授業場面で取り組む
• 共通理解・引き継ぎの資料にする
• 個別の指導計画や指導案の手立ての資料にする
12
発達段階
領域番号
項目 . 記述欄手引き
総
番号
説明欄
Ⅰ 1生理的不快の表出がある。(※暑さ・寒さ・痛み等を支援者が読み取れるようしめすことができる)
6環境変化や体調の変化による不快感を,表情や動きなど教員がわかる範囲で表出できる。
Ⅰ 2 不快になる刺激・働き掛けがある。 7人からの刺激でいやなものがある。例:顔はさわってほしくない。右手はさわってほしくない。
Ⅰ 3優しく抱きかかえると心地よさそうになる。(例:緊張が緩む・表情が緩む・脈や呼吸が安定する等)
8最初期の人からの関わりでもたらされる快反応。笑顔にならなくても,心身に安楽の反応が見られればよい。圧迫刺激と弛緩をくりかえす。抱きしめる。その刺激への定位反応を作る。
Ⅰ 4 快になる刺激・働き掛けがある。 9人からの働きかけや,周囲環境からの働きかけに対して快の表情を出すことができる。(人からの働き掛けである必要はない。)
できない
時々で
きる
おおよそ
できる
できる
Ⅰ 快不快の分化
【関連項目】 指導のつながりがある
前後項目
【目標達成のための手立て】 具体的な指導方法・留意事項 等
引用・参考文献
【作成に当たって】 実際に行った指導内容,文献等に示された事例を教育研究部全体で考案しました。指導上有効であった手立てを整理して記録を行いました。あくまで,指導の一例として参考にしてください。
【目標】 項目が転記してある場合と,目標値として言葉を変えている場合がある。
【領域名】 発達段階
ー領域番号
13
手引き概要
4 アセスメントチェックリスト,手引きの活用
1 日々の実践
14
実際にアセスメントリストに記入し,手引きの指導を行った実践例です。要求表出Ⅰ-4の項目で,人からされて快になる刺激・働きかけがあるという項目です。
対象児童は,4月の段階では前庭覚刺激である揺さぶり遊びで時々安楽な様子でほほえむことがあるという状況でした。 安定した覚醒状態・安楽な姿勢で,揺さぶり遊びを行うということを継続して行いました。
結果数カ月すると,担任や保護者ではないと読み取れなかった微笑みが,見ている誰もが笑っていると分かる笑顔になり,抱っこしただけでも微笑むような様子に変化してきました。
発達段階
領域番号
項目 . 記述欄手引き
総
番号
説明欄
Ⅰ 1生理的不快の表出がある。(※暑さ・寒さ・痛み等を支援者が読み取れるようしめすことができる)
6環境変化や体調の変化による不快感を,表情や動きなど教員がわかる範囲で表出できる。
Ⅰ 2 不快になる刺激・働き掛けがある。 7人からの刺激でいやなものがある。例:顔はさわってほしくない。右手はさわってほしくない。
Ⅰ 3優しく抱きかかえると心地よさそうになる。(例:緊張が緩む・表情が緩む・脈や呼吸が安定する等)
8最初期の人からの関わりでもたらされる快反応。笑顔にならなくても,心身に安楽の反応が見られればよい。圧迫刺激と弛緩をくりかえす。抱きしめる。その刺激への定位反応を作る。
Ⅰ 4 快になる刺激・働き掛けがある。 9人からの働きかけや,周囲環境からの働きかけに対して快の表情を出すことができる。(人からの働き掛けである必要はない。)
できない
時々で
きる
おおよそ
できる
できる
Ⅰ 快不快の分化
要求表出
Ⅱ 6
手や身体に触れられると表情や
身体の動き(過敏や反射ではな
い動き)等の反応がある。
触れられることに気付き,表情等で
反応することができる。
・人から触れられていることに気付けるように,初めはタッピ
ング等大きく触れ,刺激を入力し,徐々に手に触れるだけにす
る等接触する面積を少なくする。
Ⅱ 7
支援者から働き掛け(揺さぶり
等の前庭感覚等の刺激)を受け,
笑う等の快反応がある。
働き掛け(揺さぶり等の前庭感覚等
の刺激)を受け,笑顔になる等の快反
応を表出することができる。
・児童が好む揺さぶり遊び等を繰り返し行い,快反応を安定さ
せるようにする。はじめは刺激に注意を向けやすくするため,
大きな揺れにする。言葉掛けは少なくし,できるだけ一つの刺
激に集中できるようにする。
① リストにより重点項目を決定します
② 手引きを踏まえながら,課題整理シートにまとめ,指導の手立てと期間を考えます。
③ 個別の指導計画に目標,手立てを記入し,学期末に再度リストをつけ,評価します。
目標 手立て 評価
個別の
指導計画
本リストによるAPDCAサイクル
的確なアセスメント
↓
指導目標の設定
↓
適切な指導内容
↓
本リストの再評価
改善
①アセスメントリスト・手引き
②課題整理シート
③
2 個別の指導計画への活用
15
・担当の教師からの働き掛け(揺さ
ぶり遊び,ボディタッチ等)に表情
等で反応することができる。
・声掛けの際は,抱きかかえたり触れたり
することで,児童が働き掛けられているこ
とを意識できるようにする。
・児童が笑顔等を表出した時は受け止め,
働き掛けを繰り返し,反応を引きだす。
・抱っこで不随意運動を抑制すると,落ち着いた表情を見せて
いた。そこで揺さぶり遊びをすることで,楽しいこととして刺
激を受け止め,にっこりと大きな笑顔になることが多かった。
腕を持って揺さぶる関わり遊びでは,大きな動きをするとほほ
えむように笑顔になっていた。
• 例:児童生徒の実態把握の根拠として,本リストを活用した結果を指導案中に記します。
3 指導案への活用①
活用された指導案からの抜粋(児童・生徒観へリストのまとめ表の一部を記載)
16
• 学習指導案の児童観,生徒観に記される実態の参考資料として,コミュニケーションに関するプロフィール表を指導案に添付する。
4 指導案への活用②
活用された指導案からの抜粋(指導案の添付資料としてプロフィール表を記載)
コミュニケーション 認知
要求表出 人間関係 聴覚・言語 触覚等 視覚等
Ⅰ 快不快の分化
人の働きかけに
よる快刺激
外界への気付き
(聴覚)
外界への気付き(皮膚感覚・味覚・嗅覚等)
外界への気付き
(視覚) 光への反応
Ⅱ
反応表出の芽生え
大人への注意
人への注意
声への好反応
音への注意
音の変化の気付き
外界への興味(触覚・嗅覚・味覚等) 探索(触覚)
色への反応
注視
追視
Ⅲ
期待反応
やりとりの予測
応答性のある行動
要求の芽生え
人への愛着
大人への積極性
やりとりの芽生え
特定フレーズへの
気付き・意味づけ
音への興味
音の方向性の気付き
物の単純な操作
因果関係の理解の芽生え
探索(視覚) リーチング
眼球運動
Ⅳ
要求表出
選択の表出
問いかけの理解
自分への気付き
初期の三項関係
他者意図の理解
言葉の理解の芽生え
言葉への応答
探索的操作
因果関係の理解
探索的操作
物の永続性
視覚的変化への興味
17
• 例:指導過程中に「指導の手引き」から有効であった指導事例があれば,参考としてそのページを示します。
5 指導案への活用③
活用された指導案からの抜粋(指導過程へ手引きの指導内容を引用・参考を記載)
18
• 実態把握のため行動観察の視点,共通の手段として
• 学習課題,指導内容設定の根拠として
• APDCAサイクルを確立するためのツールとして
• 個別の指導計画の目標として
• 関係者の共通理解・引き継ぎの資料として
• 全体像の把握によって各領域の指導を関連付ける根拠として
• 重度・重複障害のある児童生徒の“学び”と“育ち”を理解する資料として
5 まとめ ~アセスメントリスト・手引の活用効果~
子供をよりよく理解するために…
多角的な視点 客観的な視点 具体的な視点
を提供します。
教職員の専門性向上
19
平成27年度3月に至るまでの研究の成果物
20