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表紙(仙波担当) 都市景観創造にかかる国内のLRTの可能性

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表紙(仙波担当)

都市景観創造にかかる国内のLRTの可能性

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序文

1

 中心市街地の空洞化や高齢化に伴う交通問題、環境への配慮に関する諸問題に対して、これまで公共交通を活かしたまちづくりという視点での取り組みが国内では十全におこなわれてこなかった。そのなかで、乗合バスに比べて、定時性や輸送人員規模が大きく、輸送人キロあたりの二酸化炭素排出量が少ない LRT が欧米で多く導入され、国内でもその効果が注目されている。 道路上に軌道や電停などの設備が配置される LRTは、都市の中で目につきやすく、それゆえに都市景観に与える影響が強い。まちづくりとの連携を伴う LRT の導入によって、都市景観はどのように形成されていくのかを明らかにするため、各意匠面に着目し、現地調査や専門家によるレクチャーを基にして、国内 LRT の調査をおこなった。 本論第 1 章では LRT の取組や導入背景、各要素について概観し、第 2 章では、本調査でおこなった手法と内容を詳らかにし、レクチャーの内容を

紹介する。そして、第 3章において、車両デザイン、軌道敷、電停などLRTの各要素に着目して項を分け、生身の人間との「親近性」というキーワードを各項共通のヒントにしたうえで、LRT 導入によって都市景観がいかに形成されていくか、LRT に備わった独自の可能性について具体的考察をおこなう。

序文

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目次

2

目次

第1章 国内における LRT の取組 3

第2章 都市景観創造にかかる LRT の可能性 - 調査とレクチャー 6

第3章 都市景観創造にかかる LRT の可能性 - 考察 9

まとめ 48

LRTの「親近性」からみた車両外観の意義と課題 11

LRTが種々の都市状況と創り出す価値 18

LRTの「親近性」から見た軌道敷の象徴的意味 23 

LRTへの「親近性」を高める車両デザイン-利用の観点から 29

LRTの「親近性」から見た電停の意義とその「特権性」 34

LRTと交通結節点における環境創造 40

3. 1

3. 2

3. 3

3. 4

3. 5

3. 6

執筆担当序文・第 1章  馬場信行第2章  齋藤潮第3章  3.1 馬場信行  3.2 稲富健太郎  3.3 齋藤潮

第3章  3.4 齋藤潮、仙波雄一郎  3.5 吉田民瞳  3.6 吉田民瞳まとめ   齋藤潮

脚注、引用、参考文献等 50

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1    国内における LRT の取組

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4

 本章では国内でおこなわれている LRT の取組について、その背景や各要素など基本事項についておさえることを目的とする。 19 世紀末以来、路面電車が都市内交通の中心として活躍していたが、モータリゼーションの進展とともに一時期縮小する傾向にあった。しかし、昨今この路面電車の意義を見直し、これに一部改良を加えることにより、現代のニーズに見合った都市内交通を実現させる動きがある。これらについても考察対象とする。 LRT の定義

 LRT とは、一部は道路上を、その他は専用軌道で、1 両または数両編成の列車が電気運転によって走行する、主として中規模の人員輸送を想定した都市交通システムのことを基本的に指す(図 1-1)。

LRT 導入の背景

 1970 年代米国において、ボストンの路面電車の新型車両開発へ補助金を支出するにあたり、新しい路面電車の概念として、システム全体を LRT と名付けた。その後同じ北米のカナダ西部エドモントンで 1978 年 4 月に LRT が世界で初めて新規開業し、その後北米やヨーロッパにおいて徐々に普

及した。LRT は、低床式車両 (LRV) の活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する。 1960 年代からヨーロッパでは既存路面電車の改良が進められ、1980 年代には低床車両が導入された。既存の路面電車路線でも低床車両の導入や停留所のホームを嵩上げするなどしてバリアフリー対応をおこない、輸送力の増強を図っている。これらの取組を実現させることで、LRT とほぼ同等のサービスを保っている。 国内の路面電車は 1955 年頃に総距離や路線数のピークを迎え、その後は先述のとおり 1965 年以降1980 年代までにその規模は縮小の一途を辿った。しかし、1997 年に建設省(当時)が、道路渋滞緩和を目的とした路面電車交通改善施設への助成事業をおこなったのを契機に、既存路面電車維持に関する政策を打ち出し、低床車や運行管理システムへの助成制度も拡充した。そして、2005 年度に国は新たに LRT 総合事業制度を創設した。当該制度において、LRT は「都市の装置」と位置づけられ、公設民営方式で地方公共団体が整備する LRT 基盤等の助成や、公共交通機関利用を促進する施設整備への助成が拡充された。 こうした道路行政政策の転換を受け、1990 年代の熊本市や広島電鉄など既存の路面電車事業者に

国内における LRT の取組

よる 100%低床車両の導入や、後述の富山ライトレール開業など新規路線敷設といったように、都市装置としての LRT 基盤整備が国内で積極的におこなわれるようになった。

都市計画との連携

 LRT の導入は都市計画と連携して実施される。国内の代表事例として富山市の取組が挙げられる。2006 年富山市に開業した富山ライトレールは、国内ではじめて本格的に LRT を導入した実例である。在来線であった JR 西日本の富山港線 7.6km を引き継ぎ、その一部は路線変更して道路上に併用軌道1.1km を新設し、従前の駅を全面改良したうえで新たに4駅を増設し、車両はすべて低床式の新車を導入した。運行頻度は 15 分間隔以内に収め、接続するバスの路線再編や交通結節点の整備もおこなった。沿線のまちづくり事業も同時におこない、土地区画整理や一般住宅建設、路線と平行する富岩運河と古い街並みの保存、整備を進め、公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくりにおける都市装置として LRT を位置づけている。 開業から4年経過した2009年度の調査によると、開業前のJR富山港線の乗客に比べると、ライトレールの利用客総数は 2 倍以上に増え、とりわけ高齢者の利用が増え、地元ビジネスへのプラスの影響

図 1 - 1 国内 L R T 運行の様子(富山市)

図 1 - 2 鹿児島市電の芝生軌道(*1)

が指摘されている。沿線での住宅新規着工件数も増え、公共交通を軸としたまちづくりへの緩やかな転換が進んでいる。その後も、富山市では都心地区全体の魅力を高める政策の一環として、2009年に都心部を運行する市内路面電車を環状化し、魅力ある都市景観の形成を継続している。

LRT の各要素

 LRT でおこなわれている取組のなかでも、とりわけ重要と考えられる各要素を以下に列挙する。

(1)駅前広場への乗り入れ 交通結節点整理のために駅前広場を整備する際、従来は鉄道駅から離れていた路面電車停留所を目の前の駅前広場まで引き込み、既存のバス、タクシー、鉄道との乗換をスムーズにする試みがおこなわれている。広島電鉄の横川駅では、路面電車電停と JR 横川駅との間の乗り継ぎに横断歩道などを渡って 3 分以上を要し、道路中央に電停があるため渋滞や事故の原因にもなっていた。そこで、駅前広場整備時に電停を JR 駅構内に移設し、雨に濡れずスムーズに相互乗換できるようになった。

(2)芝生軌道と制振軌道 LRT 車両の走行に伴う騒音や振動は、住宅密集地等では問題になりやすい。芝生軌道は軌道敷のレールの両側に芝を張った構造で、道路上に一定の幅の緑地帯が成立することから緑化や都市景観の向上にも寄与する。代わりに定期的な散水や芝刈な

どのメンテナンスが必要になるが、防音や防振への効果が確認されており、鹿児島市交通局では散水電車と連結する芝刈装置が開発され、経費の抑制と作業の効率化が図られている(図 1-2)。 騒音・振動面の課題を解決するための方策としては、まくら木と締結金物を一切使用せず、樹脂でレールを固定させることで振動を減少させる樹脂固定軌道の導入が挙げられる。こうした制振軌道は、2001 年度熊本市で試験的に施行され、その後広島、福井、京都、富山各市でも導入されている。

(3)路線環状化 電車路線を環状(ループ状)にすることで、起終点での折り返しがなくなるため起終点での停車時間を減少し、運行効率を上昇させる取組がある。ヨーロッパやアメリカの都心部で多く見られ、国内でも富山地方鉄道富山市内軌道線で既存の路線に、かつて廃止された一部路線を復活させて環状化した。直近では札幌市電でも一部路線を延長することで、環状化が実現している(図 1-3)。 (4)リザベーション方式(中央走行・片側集約) 複数車線のうち一部車線について、一般車両を原則駐停車および走行禁止にするなどして、軌道の一部を路面電車専用車線にする試みの一環である。専用車線を中央に寄せる場合と、車線の歩道側に寄せる場合に分かれる。中央走行の場合、利用者は主に信号を使用して車線中央に移動するが、片側集約の場合、利用者は直接歩道から電車への

乗降ができるメリットがある(図 1-4)。もっとも、道路から車両を完全に排除するわけではないため、片側集約の場合、交差点における左折車両などの交通整理が課題になり、路面電車専用進行信号が設けられる等の工夫が為されていて、今後も検討を要する側面があることも踏まえておきたい。

(5)信用乗車方式 乗客が停留所または車内で乗車券を購入し、乗務員の運賃収受業務を省略する手法である。乗客はすべての扉から同時に乗降できるため、乗降時間が短縮され、停留所での停車時間が短縮できる。車内検札をおこない違反者に反則金を課すことで無賃乗車の牽制を図る例もあるが、昨今では使用環境が拡大しているICカードを用いて乗務員の運賃収受業務を省略する試みが多い。

国内における L R T の取組第 1 章

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 本章では国内でおこなわれている LRT の取組について、その背景や各要素など基本事項についておさえることを目的とする。 19 世紀末以来、路面電車が都市内交通の中心として活躍していたが、モータリゼーションの進展とともに一時期縮小する傾向にあった。しかし、昨今この路面電車の意義を見直し、これに一部改良を加えることにより、現代のニーズに見合った都市内交通を実現させる動きがある。これらについても考察対象とする。 LRT の定義

 LRT とは、一部は道路上を、その他は専用軌道で、1 両または数両編成の列車が電気運転によって走行する、主として中規模の人員輸送を想定した都市交通システムのことを基本的に指す(図 1-1)。

LRT 導入の背景

 1970 年代米国において、ボストンの路面電車の新型車両開発へ補助金を支出するにあたり、新しい路面電車の概念として、システム全体を LRT と名付けた。その後同じ北米のカナダ西部エドモントンで 1978 年 4 月に LRT が世界で初めて新規開業し、その後北米やヨーロッパにおいて徐々に普

及した。LRT は、低床式車両 (LRV) の活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する。 1960 年代からヨーロッパでは既存路面電車の改良が進められ、1980 年代には低床車両が導入された。既存の路面電車路線でも低床車両の導入や停留所のホームを嵩上げするなどしてバリアフリー対応をおこない、輸送力の増強を図っている。これらの取組を実現させることで、LRT とほぼ同等のサービスを保っている。 国内の路面電車は 1955 年頃に総距離や路線数のピークを迎え、その後は先述のとおり 1965 年以降1980 年代までにその規模は縮小の一途を辿った。しかし、1997 年に建設省(当時)が、道路渋滞緩和を目的とした路面電車交通改善施設への助成事業をおこなったのを契機に、既存路面電車維持に関する政策を打ち出し、低床車や運行管理システムへの助成制度も拡充した。そして、2005 年度に国は新たに LRT 総合事業制度を創設した。当該制度において、LRT は「都市の装置」と位置づけられ、公設民営方式で地方公共団体が整備する LRT 基盤等の助成や、公共交通機関利用を促進する施設整備への助成が拡充された。 こうした道路行政政策の転換を受け、1990 年代の熊本市や広島電鉄など既存の路面電車事業者に

よる 100%低床車両の導入や、後述の富山ライトレール開業など新規路線敷設といったように、都市装置としての LRT 基盤整備が国内で積極的におこなわれるようになった。

都市計画との連携

 LRT の導入は都市計画と連携して実施される。国内の代表事例として富山市の取組が挙げられる。2006 年富山市に開業した富山ライトレールは、国内ではじめて本格的に LRT を導入した実例である。在来線であった JR 西日本の富山港線 7.6km を引き継ぎ、その一部は路線変更して道路上に併用軌道1.1km を新設し、従前の駅を全面改良したうえで新たに4駅を増設し、車両はすべて低床式の新車を導入した。運行頻度は 15 分間隔以内に収め、接続するバスの路線再編や交通結節点の整備もおこなった。沿線のまちづくり事業も同時におこない、土地区画整理や一般住宅建設、路線と平行する富岩運河と古い街並みの保存、整備を進め、公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくりにおける都市装置として LRT を位置づけている。 開業から4年経過した2009年度の調査によると、開業前のJR富山港線の乗客に比べると、ライトレールの利用客総数は 2 倍以上に増え、とりわけ高齢者の利用が増え、地元ビジネスへのプラスの影響

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が指摘されている。沿線での住宅新規着工件数も増え、公共交通を軸としたまちづくりへの緩やかな転換が進んでいる。その後も、富山市では都心地区全体の魅力を高める政策の一環として、2009年に都心部を運行する市内路面電車を環状化し、魅力ある都市景観の形成を継続している。

LRT の各要素

 LRT でおこなわれている取組のなかでも、とりわけ重要と考えられる各要素を以下に列挙する。

(1)駅前広場への乗り入れ 交通結節点整理のために駅前広場を整備する際、従来は鉄道駅から離れていた路面電車停留所を目の前の駅前広場まで引き込み、既存のバス、タクシー、鉄道との乗換をスムーズにする試みがおこなわれている。広島電鉄の横川駅では、路面電車電停と JR 横川駅との間の乗り継ぎに横断歩道などを渡って 3 分以上を要し、道路中央に電停があるため渋滞や事故の原因にもなっていた。そこで、駅前広場整備時に電停を JR 駅構内に移設し、雨に濡れずスムーズに相互乗換できるようになった。

(2)芝生軌道と制振軌道 LRT 車両の走行に伴う騒音や振動は、住宅密集地等では問題になりやすい。芝生軌道は軌道敷のレールの両側に芝を張った構造で、道路上に一定の幅の緑地帯が成立することから緑化や都市景観の向上にも寄与する。代わりに定期的な散水や芝刈な

どのメンテナンスが必要になるが、防音や防振への効果が確認されており、鹿児島市交通局では散水電車と連結する芝刈装置が開発され、経費の抑制と作業の効率化が図られている(図 1-2)。 騒音・振動面の課題を解決するための方策としては、まくら木と締結金物を一切使用せず、樹脂でレールを固定させることで振動を減少させる樹脂固定軌道の導入が挙げられる。こうした制振軌道は、2001 年度熊本市で試験的に施行され、その後広島、福井、京都、富山各市でも導入されている。

(3)路線環状化 電車路線を環状(ループ状)にすることで、起終点での折り返しがなくなるため起終点での停車時間を減少し、運行効率を上昇させる取組がある。ヨーロッパやアメリカの都心部で多く見られ、国内でも富山地方鉄道富山市内軌道線で既存の路線に、かつて廃止された一部路線を復活させて環状化した。直近では札幌市電でも一部路線を延長することで、環状化が実現している(図 1-3)。 (4)リザベーション方式(中央走行・片側集約) 複数車線のうち一部車線について、一般車両を原則駐停車および走行禁止にするなどして、軌道の一部を路面電車専用車線にする試みの一環である。専用車線を中央に寄せる場合と、車線の歩道側に寄せる場合に分かれる。中央走行の場合、利用者は主に信号を使用して車線中央に移動するが、片側集約の場合、利用者は直接歩道から電車への

乗降ができるメリットがある(図 1-4)。もっとも、道路から車両を完全に排除するわけではないため、片側集約の場合、交差点における左折車両などの交通整理が課題になり、路面電車専用進行信号が設けられる等の工夫が為されていて、今後も検討を要する側面があることも踏まえておきたい。

(5)信用乗車方式 乗客が停留所または車内で乗車券を購入し、乗務員の運賃収受業務を省略する手法である。乗客はすべての扉から同時に乗降できるため、乗降時間が短縮され、停留所での停車時間が短縮できる。車内検札をおこない違反者に反則金を課すことで無賃乗車の牽制を図る例もあるが、昨今では使用環境が拡大しているICカードを用いて乗務員の運賃収受業務を省略する試みが多い。

図 1 - 3 札幌市電の路線図、オレンジ破線部分が延伸し環状化した(*2)

図 1 - 4 片側集約車線の具体的事例(札幌市電)(*3)

国内における L R T の取組第 1 章

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2都市景観創造にかかる LRT の可能性調査とレクチャー

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7

 都市景観創造の可能性という観点から、もっと

も確度の高いシステムのひとつが LRT であろうこ

とは疑いがない。その理由は次章にて順次詳述す

るが、端的に言えば、道路に軌道敷が明示的に現れ、

LRT 車両とともに都市景観の一部を形成するという

ことである。

 この点を確認・分析・考察すべく、研究チーム

は現地調査とレクチャーの2つの段階を踏んだ。

現地調査 現地調査対象は2件である。1つは、国の補助

を受けながら最新のシステムを導入し、「トータル・

デザイン」を実現させた富山ライトレールである。

「トータル・デザイン」の内容については、テキス

トを入手するとともに、設計担当者によるレク

チャー ( 後述 ) によっても把握することした。

他の1つは、大正期以来、営々として路面電車運

営に携わってきた広島電鉄である。路面電車とし

ては日本一の路線延長を誇り、運行頻度もきわめ

て高い。

 富山調査日はあいにく降雪があり、実態調査に

は支障があったが、ヒアリングに応じた富山ライ

トレール株式会社担当者の熱心な説明によってそ

の概要は把握できた (図 2 - 1 )。

 広島調査日は好天で、実態調査ならびに広島電

鉄へのヒアリングが滞りなく実施できた。全国か

ら引き受けた多種多様な車両の運行と運行頻度の

高さがもたらす独特の活況を目の当たりにすると

ともに、路線が様々な街路に敷設されているため、

街路状況の違いに照らして併用軌道の意味を考察

することが可能となった。

レクチャー 2015 年1月 21 日木曜日 17:00 より、株式会社

ジイケイ設計 ( 以下、GK設計 ) より富山ライトレー

ルのデザイン担当者 ( 都市環境デザイン 第1都市

環境デザイン室 室長 上田孝明氏 ) を招聘し、「トー

タル・デザイン」の内容についてレクチャーを受

都市景観創造にかかる LRT の可能性 - 調査とレクチャー

けた ( 図 2 - 2 )。あわせて、「トータル・デザイン」

のためのスタディで同氏がフランスの諸都市を調

査したおりの報告も受けた。以下、レクチャーの

内容を要約する。

(1) 富山ライトレールの「トータル・デザイン」

 「トータル・デザイン」の趣旨は、LRT が市民の

足として使いやすく親しまれるように LRT を包括

的にデザインすることであるという。そのため、

LRT 車両、電停、架線柱をはじめ、社員の制服、名刺、

路線図、グッズにいたるまでデザインが細かく詰

められていった。また、富山市内で別途行われて

いた街路整備にもタッチできたため、「トータル・

デザイン」のカバーする範囲が大きく広がった。

 このレクチャーを受けてから、研究チームは富

山の現地調査を実施した。また、レクチャー後の

やりとりを経て、当研究チームの分析の視点が明

確化した。

(2) フランス諸都市の事例

 いっぽう、フランスでの調査においては、

Reims、Orléans をはじめ多くの都市ではフランス

本拠の多国籍企業 (Alstom 社 ) の車両を採用してい

る。同社の車両は、運転席前面(車両の顔にあた

る部分)のみ都市に応じて意匠を考案し、それ以

外の部分は基本的に同型の車体を使用するなど、

デザインの個性化とコストダウンの両立を図って

いる。その中で、経営的な観点からデザインの質

を落としても国外メーカーの車両を導入する

Besançon のような都市もある ( コストを数 10%削

減 )。わが国では、電停の歩道を軌道面より高くし

て LRT の床とすりつけているが、たとえばフラン

スの Tours では、歩道はフラットのまま軌道面を

切り下げて LRT の床とすりつけている例もある。

歩行者優先の考え方が徹底している。

 また、おそらく歴史的景観に配慮してのことだ

と考えられるが、Reims の都心部では地表集電シ

ステム (APS) を採用して架線を一掃している。電

停停車時に充電する方式で、感電の恐れはない。

(3) わが国の今後

 目下、わが国では宇都宮で LRT 導入が決定して

いるが、今後 LRT 導入が積極化する際に、国の補

助を必ずしも充分に受けられないことも考慮し、

特注品ではなく既製品をうまくつかって「トータ

ル・デザイン」を模索する必要性も出てくるだろ

う ( 後日談 )。

都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 調査とレクチャー第 2 章

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 都市景観創造の可能性という観点から、もっと

も確度の高いシステムのひとつが LRT であろうこ

とは疑いがない。その理由は次章にて順次詳述す

るが、端的に言えば、道路に軌道敷が明示的に現れ、

LRT 車両とともに都市景観の一部を形成するという

ことである。

 この点を確認・分析・考察すべく、研究チーム

は現地調査とレクチャーの2つの段階を踏んだ。

現地調査 現地調査対象は2件である。1つは、国の補助

を受けながら最新のシステムを導入し、「トータル・

デザイン」を実現させた富山ライトレールである。

「トータル・デザイン」の内容については、テキス

トを入手するとともに、設計担当者によるレク

チャー ( 後述 ) によっても把握することした。

他の1つは、大正期以来、営々として路面電車運

営に携わってきた広島電鉄である。路面電車とし

ては日本一の路線延長を誇り、運行頻度もきわめ

て高い。

 富山調査日はあいにく降雪があり、実態調査に

は支障があったが、ヒアリングに応じた富山ライ

トレール株式会社担当者の熱心な説明によってそ

の概要は把握できた (図 2 - 1 )。

 広島調査日は好天で、実態調査ならびに広島電

鉄へのヒアリングが滞りなく実施できた。全国か

ら引き受けた多種多様な車両の運行と運行頻度の

高さがもたらす独特の活況を目の当たりにすると

ともに、路線が様々な街路に敷設されているため、

街路状況の違いに照らして併用軌道の意味を考察

することが可能となった。

レクチャー 2015 年1月 21 日木曜日 17:00 より、株式会社

ジイケイ設計 ( 以下、GK設計 ) より富山ライトレー

ルのデザイン担当者 ( 都市環境デザイン 第1都市

環境デザイン室 室長 上田孝明氏 ) を招聘し、「トー

タル・デザイン」の内容についてレクチャーを受

けた ( 図 2 - 2 )。あわせて、「トータル・デザイン」

のためのスタディで同氏がフランスの諸都市を調

査したおりの報告も受けた。以下、レクチャーの

内容を要約する。

(1) 富山ライトレールの「トータル・デザイン」

 「トータル・デザイン」の趣旨は、LRT が市民の

足として使いやすく親しまれるように LRT を包括

的にデザインすることであるという。そのため、

LRT 車両、電停、架線柱をはじめ、社員の制服、名刺、

路線図、グッズにいたるまでデザインが細かく詰

められていった。また、富山市内で別途行われて

いた街路整備にもタッチできたため、「トータル・

デザイン」のカバーする範囲が大きく広がった。

 このレクチャーを受けてから、研究チームは富

山の現地調査を実施した。また、レクチャー後の

やりとりを経て、当研究チームの分析の視点が明

確化した。

8

(2) フランス諸都市の事例

 いっぽう、フランスでの調査においては、

Reims、Orléans をはじめ多くの都市ではフランス

本拠の多国籍企業 (Alstom 社 ) の車両を採用してい

る。同社の車両は、運転席前面(車両の顔にあた

る部分)のみ都市に応じて意匠を考案し、それ以

外の部分は基本的に同型の車体を使用するなど、

デザインの個性化とコストダウンの両立を図って

いる。その中で、経営的な観点からデザインの質

を落としても国外メーカーの車両を導入する

Besançon のような都市もある ( コストを数 10%削

減 )。わが国では、電停の歩道を軌道面より高くし

て LRT の床とすりつけているが、たとえばフラン

スの Tours では、歩道はフラットのまま軌道面を

切り下げて LRT の床とすりつけている例もある。

歩行者優先の考え方が徹底している。

 また、おそらく歴史的景観に配慮してのことだ

と考えられるが、Reims の都心部では地表集電シ

ステム (APS) を採用して架線を一掃している。電

停停車時に充電する方式で、感電の恐れはない。

(3) わが国の今後

 目下、わが国では宇都宮で LRT 導入が決定して

いるが、今後 LRT 導入が積極化する際に、国の補

助を必ずしも充分に受けられないことも考慮し、

特注品ではなく既製品をうまくつかって「トータ

ル・デザイン」を模索する必要性も出てくるだろ

う ( 後日談 )。

図 2 - 2 レクチャー当日の風景

図 2 - 1 現地調査の風景 ( 富山 )

都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 調査とレクチャー第 2 章

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9

3都市景観創造にかかる LRT の可能性考察

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10

 レクチャーならびに現地調査、ヒアリングを経

て、研究チームは以下のような論点をもつに至っ

た。ひとことで言えば、LRT が、その直接の利用者

‒‒‒‒マイカーなどを利用しない交通弱者,運転免

許非保持者‒‒‒‒を中心とした生身の歩行者に対し

て「親近的」なスタンスを貫いた総合的なデザイ

ンが求められる、ということである。LRT は、他の

車両に比べて、生身の人間との距離感が近いとい

うスタンスを支えるべく、トータル・デザインが

求められている、と考えるべきだろう。そのデザ

インの射程には、利便性という観点から実質的・

機能的姿勢とともに、利用者に心理的にも寄り添

うという観点から象徴的な意味も含まれてしかる

べきである。

 たとえば、車両の可動域が軌道上に限定されて

ぶれない。しかも、低速 ( 併用軌道では平均時速

30km/h、電停などでは 15km/h 以下 ) である。だ

から、バスよりも穏やかな印象がある。その上、

排ガス臭がないから、「身近に引き寄せて」も不快

ではない。軌道敷は鉄道敷に比べて平滑で歩行可

能に見え、他の列車に比べて都市空間への馴染み

がよい。したがって、LRT の車両がそのまま建築の

内部空間に取り込まれても、違和感がないどころ

か絵になる。乗り入れ駅なら、コンコースの「室

内装飾品的な役割」すらもちうる ( 残念ながら富山

駅は、その点においてまだ徹底していないところ

がある ) 。そして、このように「身辺的」な車両が、

都市景観創造にかかる LRT の可能性 - 考察

都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察第 3 章

一旦、外に出れば、他の「無軌道な」交通に対し

て特権的な位置を約束される。

 横川駅前の軌道などは、物理的にも「特権的 or

超越的」である。自動車優先社会が築いてきた秩序、

幹線道路がつくる直交軸を度外視して、駅に出入

りする。いっぽうで、その LRT 車両が低床で、乗

降と眺望という点で車内外の「懸隔」を縮めている。

いろんな意味で人間的な乗り物だと言える。

LRTの「親近性」からみた車両外観の意義と課題 11

LRTが種々の都市状況と創り出す価値 18

LRTの「親近性」から見た軌道敷の象徴的意味 23

LRTへの「親近性」を高める車両デザイン-利用の観点から 29

LRTの「親近性」から見た電停の意義とその「特権性」 34

LRTと交通結節点における環境創造 40

3. 1

3. 2

3. 3

3. 4

3. 5

3. 6

3 章の目次

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3.1

11

 LRT は併用軌道の路線が多く、自動車と並行して都市の中心部を走る機会が頻繁にあり、運

行中の車体は軌道周辺を運転する乗用車や、そばの歩道を通行する歩行者の目に触れること

が多い。そうした性質を帯びた外観が、市民や観光客などにどのようなインパクトを与え、

それを受け市民や市内各企業は都市の電車外観にどのような働きかけをおこなうのか。本節

では、まず新型車両と旧型車両が併存する都市の背景と併存すること自体が内包する意義に

ついて触れ、次に、車体広告に関する法規制と趣旨を踏まえたうえで、車体ラッピングおよ

び塗装が与える市民や外部への影響と相互作用について考察する。

3.1 LRT の「親近性」からみた車両外観の意義と課題

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新型車両と旧型車両の併存

第3章 都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察 3 . 1 L R T の「親近性」からみた車両外観の意義と課題

12

富山ライトレールと広島電鉄の車両配置

 LRT の話題になると、新型の低床車両の話に集中しがちであるが、従来から市電が運行されていた都市では、今でも既存の旧型車両が活躍している。それらの製造年代の異なる車両が、同じ軌道を運行していることにどのような意味があるだろうか。また、そうした様々な種類の車両の姿を街なかで目の当たりにする周囲の人びとにとって、各車両がどのような意味をもちえるか、以上の点について考察する。 富山ライトレール富山港線は新型低床車両7編成で運行されている(図 3-1-1)。1 系統で路線総延長 7.6km と短い新規路線のため、低床車両のみの運行を確保できているが、路線数が増えたり総延長が長くなったりすると、安定運行のために車両数を増やさざるをえなくなる。 それに対して、軌道線だけでも6系統で総延長が 19.0kmにわたり、鉄道線の宮島線を併せると、1 日の利用客が 10 万人を越える広島電鉄の路線は、車両数が 100 を越える。そのため、新型低床車両だけではなく、旧型車両も現役で活躍する(図3-1-2)。広島では、新型と旧型車両が同時に停留所に存在する光景を見ることが珍しいものではない(図 3-1-3)。戦前から路面電車が運行している広島では、廃線になった他都市市電の車両を引き継ぐことが多い。以前運行されていた都市だけでなく、広島においても長い期間運行に供した旧型車両は、市民にとってなじみの顔になっている。

各軌道設備における新旧車両の見え方

 前述の富山港線のように一度にすべての車両を新しく導入した路線を除くと、各都市各路線において車両編成や車両導入時期は異なり、大半の路線では様々な新旧車両が同じ軌道を走る光景を見ることができる。 前述のとおり、多種類の電車が運行する広島では、新旧車両が同時に走ることも多い。例えば、図に掲げた写真においては、板石舗装による軌道敷のもつ石畳のような重厚感によって、年季の入った旧型車両だけでなく、まだ運行に供して歴史の浅い新型車両をも違和感なく受け入れ、街の風景を作り出している(図 3-1-4)。 板石舗装軌道敷以外の軌道設備で各車両はどのように映るだろうか。富山地方鉄道市内軌道線では、2015 年 3 月に新たに開業した環状線を主に走る新型低床車両と、既存系統運行に供している旧型車両とが併存する。写真で掲げた富山駅停留所は 2015 年 3 月に完成し、最新の設備を備えている。洗練された意匠の停留所に新型車両が悠然と入っていく姿は自然に映るが、昔なじみの旧型車両が最新設備の停留所に入線する姿は、どこかおそるおそる入っていくような印象を与える(図 3-1-5)。この印象については、後述のケースを紹介することで併せて考察する。

 2016 年 1 月実地調査実施時点では、富山市内軌道線環状線内の新規開通区間は新型低床車両のみで運行していた。新型車両の塗装は富山城址等都心部の環境色彩イメージに調和する白・銀・黒の3色を基調にしている(図 3-1-6)。丸みを帯び簡素なデザインの車両は、写真に示すとおり都心部建築物との相性も良好に映る(図 3-1-7)。

 その一方で、同じ市内軌道線の南富山駅停留所は、富山地方鉄道線軌道線と鉄道線の乗換場所であり、富山市内軌道線全3系統のうち2系統の始点である(図 3-1-8)。当該駅において軌道線は旧型車両のみが停車し、初電・終電に当駅隣接車庫に入るときを除くと、新型車両が基本的に入線することはない。築造から数十年経過した素朴な造作の駅に旧型車両は違和感なく、よくなじんで映る(図 3-1-9)。 先般の富山駅停留所の最新設備と、南富山駅停留所の旧来からの設備とを対比して考えると、車両と設備で作られた年代に別途差が存在するもの

車体利用広告の法規制と趣旨

 LRT および路面電車の外面を利用した装飾、とりわけ広告は、屋外広告物法(昭和 24 年 6 月 3日法律第百八十九号)における「屋外広告物」にあたり、「良好な景観を形成し、若しくは風致を維持し、又は公衆に対する危害を防止する」ために、その設置や維持については、都道府県知事、もしくは事務委任を受けた指定都市や中核市の市長の許可が必要になる。例えば富山市においては、富山市屋外広告物条例(平成 17 年 4 月 1 日条例第 228 号)により、屋外広告物の表示には市長の許可が必要となり、「電車、自動車等の車体に直接表示するもの又は電車、自動車等の車体に取り付けるもの」にあたる「車体利用広告」は一定の手数料を納付し許可を受けることになる。以上のような法規制とその趣旨のもとで、外観にどのような意匠を施すと、的確な相乗効果を生み出すことができるか、以下で考察する。

ラッピング、塗装の具体事例

 本考においては、塗装や広告も含んだ広義の意味での車体ラッピングを考察の対象とする。国内では、路面電車の車体に装飾を施して運行する花電車の存在が戦前よりあった。これは祭りの山車を電車に見立てたものとも捉えられ、路面電車を人々の身近に近づけるための往時の試みであったと解釈できる。当時の取組の系譜が、現在のラッピングに引き継がれている側面もある、以下に各都市、各社における取組をいくつか取り上げたい。 広島電鉄のラッピングは、デザイン可能領域を一部に抑制し、デザイン内容も私企業の広告で商業性の色彩が濃い(図 3-1-10)。広島では以前から車体広告が施された電車が運行されていて、道

を行きかう広告付の路面電車の光景に市民は慣れていて、車体広告は定着している。 高岡市と射水市を結ぶ万葉線の新型車両は、高岡市出身の藤子・F・不二雄にちなんだラッピングを施し、「ドラえもんトラム」と呼んでいる(図3-1-11)。彩色数も絞り、新型車両の丸みを帯びたフォルムを有効に活かしながら、ドラえもんをイメージした青色を基調に彩色している。窓全面ラッピングは内側からの眺望を一部阻害してしまう一方で、作画領域が広がるため車両側面を貫く思い切ったデザインが可能になり、周囲を通行する歩行者や自動車に大きなインパクトを与える。 他にも万葉線には、個性的な外観を示した旧型

都市における共有媒体

 富山ライトレールでは、地元の学生など市民が参加し、車両によって七色に異なる乗降口の色に合わせたラッピングデザインを施している。掲示期間を過ぎたデザインの一部は車両車庫の壁に保存されている。自分たち、あるいは、知人、友人がデザインに関わった電車が地元を走ることで、自分たちの町の電車であるという意識が高まり、より電車に関する愛着が深まる効果がそこで生まれている(図 3-1-13、図 3-1-14)。 都心部を走る富山地方鉄道市内軌道環状線(セントラム)の車両には、富山市内でおこなわれるイベントにちなんだラッピングが施される。桜の開花時期には桜のラッピング車両が走り、沿道の店舗もそれに合わせて外観に桜のラッピングを施すような波及効果もある(図 3-1-15)。

キャラクターラッピングの新たな射程

 補足的な議論になるが、前述した都市の共有媒体以外にも、ラッピングがもつ別種の可能性が見出される事例を紹介したい。 富山ライトレールでは、新型車両の1編成に「鉄道むすめ」シリーズのラッピングを施している(図3-1-16)。鉄道むすめとは、実在の鉄道会社の現場で働く女性をモチーフに作られたキャラクターコンテンツである。2005 年頃に商標登録され現在では玩具メーカーのタカラトミーグループが版権を管理し、共通の製作会社監修のもとで、国内各交通事業者が自社にちなんだオリジナルのキャラクターを創り、使用している。例えば、富山ライトレールのキャラクター「岩瀬ゆうこ」は、車内のアナウンスや高齢者・障害者への乗降補助をおこなう実際の職務であるポートラム・アテンダントの設定で、実際のアテンダントの制服・制帽を着用し、名前も路線終点駅である岩瀬浜駅にち

なんでいる(図 3-1-17)。こうしたキャラクターは現実のデフォルメであり、その造形はアニメーションのキャラクターとの親近性が高く、筆者を含むふだんアニメーションに触れない社会層には、一見受け入れがたい感じがする。 しかし、緻密にディテールを詰め、現実とのリンクを図ったこのキャラクターは、各地でよく見かける、いわゆる「ゆるキャラ」とは一線を画す存在感がある。このラッピングを備えた電車が実際に通過するところを何度も目にすると、現実に車内に搭乗して職務に従事するアテンダントの存在感とも重なって、まるでこのキャラクターが電車の人間性の一部を体現しているように感じさせる。「ドラえもんトラム」に対してどんなに親しみがわいたとしても、ドラえもんの存在と目の前の現実とを直接リンクさせることは不可能であることとは対称的である。そうした意味で、出来合いのキャラクターラッピングを越えた存在感を、この鉄道むすめシリーズは放っていて、電車のイメージを決定づける効果を生み出している。 また、富山ライトレール以外の路面電車を中心とする地方鉄道事業者も、同様のご当地の「鉄道むすめ」のキャラクターを設定しており、富山ライトレールのラッピングでその他キャラクターを紹介することもある。今訪ねている都市だけでなく、他都市でも同じような試みがおこなわれているという事実を、見る側に想像させることにも意味があると思料する。スタンプラリーのように各

 都市の路面電車を直接周遊しなくても、全国に点在する路面電車の一つに今乗っている、もしくは目の当たりにしているという意識をもつことによって、他所で路面電車が走る光景を想起し、都市と路面電車の結びつきの枠組を想像できる。アニメーションならではのデフォルメされたキャラクターであるため、現実の多様さをスポイルしてしまう面もあるが、それをカバーしてあまりある広がりや見る側のレベルへの浸透がおこなわれ、人々の LRT への親近性を生み出すうえで独特の試みがおこなわれていることを指摘しておきたい。

小結

 以上に概観してきたように、車両外観と軌道設備の組み合わせの妙によって、見る側は都市の履歴や発展を感じることができる。また、車両ラッピングや塗装などの意匠を工夫することによって、それらを通して、都市と各人のつながりを見出すことが可能になる。こうした内面上の効果を踏まえると、LRT における車両外観が持ちえる可能性と、それゆえに誤った認識を与えてしまいかねない危険性に留意しながら、今後各都市各社における独創的な試みに期待したい。新たな試みが生まれるたび、LRT は都市のなじみの顔として、よりいっそう親近性を増していくものになりうる。

 これは上述の富山ライトレールとも共通する、市民や市内企業と電車を結びつける試みにあたる。それに加えてセントラムの場合は、観光客の多い都心部を運行することから、市民以外の国内

の、新型車両は富山駅停留所に、旧型車両は南富山駅停留所によくなじんでいるという印象を受けた。ただし、車両と設備がなじまないという印象を、ただアンマッチとして否定的に捉えてもあまり意味はない。旧型車両も南富山駅停留所の趣のある設備も、路面電車のある都市として存続した富山市の歴史を現在に伝える生き証人である。 当然だが車両は移動するため、旧型車両は最新設備の富山駅停留所に入線する。現在の富山駅にいると車両も設備もすべて刷新されたように感じてしまうところを、そこに旧型車両が入線してくることで、路面電車とともに発展してきた富山市

の履歴が、その光景を目の当たりにした人の前に浮かびあがってくる。また、現状初電と終電の機会だけではあるが、新型車両が南富山駅停留所に入線することで、数十年ゆっくりと時間を過ごしてきた停留所にいても、路面電車からLRT への発展の過程を視覚的に届けることができる。こうした相互作用が生じるのも、車両が動く都市装置であるがゆえで、それぞれ個性的な外観を備えた車両が停留所に停車し軌道を走っていくことで、周囲に都市の履歴や発展を伝える役割を果たしている。

外の旅行者に対して、富山市そのものをアピールする効果を担った内容のラッピングが多い。こうした内容のラッピングにおけるメッセージが的確なものであれば、路面電車という市の公共共有財

車両が存在し、正面にネコ、側面に十二支の動物が直接車両に塗装されている(図 3-1-12)。彩色数が多すぎて雑然とした印象を与え、どうしても旧型車両の力強いフォルムが浮かび上がってしまうために、この車両の愛称である「アニマル電車」という印象を与えることがうまくいっているとは言い難い。すべての旧型車両を保存するのは難しいが、旧型車両の車体そのものから醸し出される重厚感を強調したほうが、都市の履歴を伝えるうえで示唆するところが大きいように感じる。

産を通して、都市のことを内外に知らせている。 このとき、ラッピングに関わった人だけに留まらず、市民全体へと、メッセージを発した主体の領域が広がっている。自分たちの都市を運行する電車が、的確かつ雄弁に都市をアピールしていると感じたとき、市民は都市とつながっている感覚をおぼえる。このように、ラッピングは単なる広告に留まらず、都市と市民の間をつなぎ、都市と外部をつなぐ共有媒体にもなりうる可能性を秘めている。

図 3-1-3 広島電鉄広島港停留所

図 3-1-1 富山ライトレール城川原駅における車両、写真左側が城川原車庫 図 3-1-2 千田車庫に停車する広島電鉄の各車両

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第3章 都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察 3 . 1 L R T の「親近性」からみた車両外観の意義と課題

各軌道設備における新旧車両の見え方

 前述の富山港線のように一度にすべての車両を新しく導入した路線を除くと、各都市各路線において車両編成や車両導入時期は異なり、大半の路線では様々な新旧車両が同じ軌道を走る光景を見ることができる。 前述のとおり、多種類の電車が運行する広島では、新旧車両が同時に走ることも多い。例えば、図に掲げた写真においては、板石舗装による軌道敷のもつ石畳のような重厚感によって、年季の入った旧型車両だけでなく、まだ運行に供して歴史の浅い新型車両をも違和感なく受け入れ、街の風景を作り出している(図 3-1-4)。 板石舗装軌道敷以外の軌道設備で各車両はどのように映るだろうか。富山地方鉄道市内軌道線では、2015 年 3 月に新たに開業した環状線を主に走る新型低床車両と、既存系統運行に供している旧型車両とが併存する。写真で掲げた富山駅停留所は 2015 年 3 月に完成し、最新の設備を備えている。洗練された意匠の停留所に新型車両が悠然と入っていく姿は自然に映るが、昔なじみの旧型車両が最新設備の停留所に入線する姿は、どこかおそるおそる入っていくような印象を与える(図 3-1-5)。この印象については、後述のケースを紹介することで併せて考察する。

 2016 年 1 月実地調査実施時点では、富山市内軌道線環状線内の新規開通区間は新型低床車両のみで運行していた。新型車両の塗装は富山城址等都心部の環境色彩イメージに調和する白・銀・黒の3色を基調にしている(図 3-1-6)。丸みを帯び簡素なデザインの車両は、写真に示すとおり都心部建築物との相性も良好に映る(図 3-1-7)。

 その一方で、同じ市内軌道線の南富山駅停留所は、富山地方鉄道線軌道線と鉄道線の乗換場所であり、富山市内軌道線全3系統のうち2系統の始点である(図 3-1-8)。当該駅において軌道線は旧型車両のみが停車し、初電・終電に当駅隣接車庫に入るときを除くと、新型車両が基本的に入線することはない。築造から数十年経過した素朴な造作の駅に旧型車両は違和感なく、よくなじんで映る(図 3-1-9)。 先般の富山駅停留所の最新設備と、南富山駅停留所の旧来からの設備とを対比して考えると、車両と設備で作られた年代に別途差が存在するもの

車体利用広告の法規制と趣旨

 LRT および路面電車の外面を利用した装飾、とりわけ広告は、屋外広告物法(昭和 24 年 6 月 3日法律第百八十九号)における「屋外広告物」にあたり、「良好な景観を形成し、若しくは風致を維持し、又は公衆に対する危害を防止する」ために、その設置や維持については、都道府県知事、もしくは事務委任を受けた指定都市や中核市の市長の許可が必要になる。例えば富山市においては、富山市屋外広告物条例(平成 17 年 4 月 1 日条例第 228 号)により、屋外広告物の表示には市長の許可が必要となり、「電車、自動車等の車体に直接表示するもの又は電車、自動車等の車体に取り付けるもの」にあたる「車体利用広告」は一定の手数料を納付し許可を受けることになる。以上のような法規制とその趣旨のもとで、外観にどのような意匠を施すと、的確な相乗効果を生み出すことができるか、以下で考察する。

ラッピング、塗装の具体事例

 本考においては、塗装や広告も含んだ広義の意味での車体ラッピングを考察の対象とする。国内では、路面電車の車体に装飾を施して運行する花電車の存在が戦前よりあった。これは祭りの山車を電車に見立てたものとも捉えられ、路面電車を人々の身近に近づけるための往時の試みであったと解釈できる。当時の取組の系譜が、現在のラッピングに引き継がれている側面もある、以下に各都市、各社における取組をいくつか取り上げたい。 広島電鉄のラッピングは、デザイン可能領域を一部に抑制し、デザイン内容も私企業の広告で商業性の色彩が濃い(図 3-1-10)。広島では以前から車体広告が施された電車が運行されていて、道

を行きかう広告付の路面電車の光景に市民は慣れていて、車体広告は定着している。 高岡市と射水市を結ぶ万葉線の新型車両は、高岡市出身の藤子・F・不二雄にちなんだラッピングを施し、「ドラえもんトラム」と呼んでいる(図3-1-11)。彩色数も絞り、新型車両の丸みを帯びたフォルムを有効に活かしながら、ドラえもんをイメージした青色を基調に彩色している。窓全面ラッピングは内側からの眺望を一部阻害してしまう一方で、作画領域が広がるため車両側面を貫く思い切ったデザインが可能になり、周囲を通行する歩行者や自動車に大きなインパクトを与える。 他にも万葉線には、個性的な外観を示した旧型

都市における共有媒体

 富山ライトレールでは、地元の学生など市民が参加し、車両によって七色に異なる乗降口の色に合わせたラッピングデザインを施している。掲示期間を過ぎたデザインの一部は車両車庫の壁に保存されている。自分たち、あるいは、知人、友人がデザインに関わった電車が地元を走ることで、自分たちの町の電車であるという意識が高まり、より電車に関する愛着が深まる効果がそこで生まれている(図 3-1-13、図 3-1-14)。 都心部を走る富山地方鉄道市内軌道環状線(セントラム)の車両には、富山市内でおこなわれるイベントにちなんだラッピングが施される。桜の開花時期には桜のラッピング車両が走り、沿道の店舗もそれに合わせて外観に桜のラッピングを施すような波及効果もある(図 3-1-15)。

キャラクターラッピングの新たな射程

 補足的な議論になるが、前述した都市の共有媒体以外にも、ラッピングがもつ別種の可能性が見出される事例を紹介したい。 富山ライトレールでは、新型車両の1編成に「鉄道むすめ」シリーズのラッピングを施している(図3-1-16)。鉄道むすめとは、実在の鉄道会社の現場で働く女性をモチーフに作られたキャラクターコンテンツである。2005 年頃に商標登録され現在では玩具メーカーのタカラトミーグループが版権を管理し、共通の製作会社監修のもとで、国内各交通事業者が自社にちなんだオリジナルのキャラクターを創り、使用している。例えば、富山ライトレールのキャラクター「岩瀬ゆうこ」は、車内のアナウンスや高齢者・障害者への乗降補助をおこなう実際の職務であるポートラム・アテンダントの設定で、実際のアテンダントの制服・制帽を着用し、名前も路線終点駅である岩瀬浜駅にち

なんでいる(図 3-1-17)。こうしたキャラクターは現実のデフォルメであり、その造形はアニメーションのキャラクターとの親近性が高く、筆者を含むふだんアニメーションに触れない社会層には、一見受け入れがたい感じがする。 しかし、緻密にディテールを詰め、現実とのリンクを図ったこのキャラクターは、各地でよく見かける、いわゆる「ゆるキャラ」とは一線を画す存在感がある。このラッピングを備えた電車が実際に通過するところを何度も目にすると、現実に車内に搭乗して職務に従事するアテンダントの存在感とも重なって、まるでこのキャラクターが電車の人間性の一部を体現しているように感じさせる。「ドラえもんトラム」に対してどんなに親しみがわいたとしても、ドラえもんの存在と目の前の現実とを直接リンクさせることは不可能であることとは対称的である。そうした意味で、出来合いのキャラクターラッピングを越えた存在感を、この鉄道むすめシリーズは放っていて、電車のイメージを決定づける効果を生み出している。 また、富山ライトレール以外の路面電車を中心とする地方鉄道事業者も、同様のご当地の「鉄道むすめ」のキャラクターを設定しており、富山ライトレールのラッピングでその他キャラクターを紹介することもある。今訪ねている都市だけでなく、他都市でも同じような試みがおこなわれているという事実を、見る側に想像させることにも意味があると思料する。スタンプラリーのように各

 都市の路面電車を直接周遊しなくても、全国に点在する路面電車の一つに今乗っている、もしくは目の当たりにしているという意識をもつことによって、他所で路面電車が走る光景を想起し、都市と路面電車の結びつきの枠組を想像できる。アニメーションならではのデフォルメされたキャラクターであるため、現実の多様さをスポイルしてしまう面もあるが、それをカバーしてあまりある広がりや見る側のレベルへの浸透がおこなわれ、人々の LRT への親近性を生み出すうえで独特の試みがおこなわれていることを指摘しておきたい。

小結

 以上に概観してきたように、車両外観と軌道設備の組み合わせの妙によって、見る側は都市の履歴や発展を感じることができる。また、車両ラッピングや塗装などの意匠を工夫することによって、それらを通して、都市と各人のつながりを見出すことが可能になる。こうした内面上の効果を踏まえると、LRT における車両外観が持ちえる可能性と、それゆえに誤った認識を与えてしまいかねない危険性に留意しながら、今後各都市各社における独創的な試みに期待したい。新たな試みが生まれるたび、LRT は都市のなじみの顔として、よりいっそう親近性を増していくものになりうる。

 これは上述の富山ライトレールとも共通する、市民や市内企業と電車を結びつける試みにあたる。それに加えてセントラムの場合は、観光客の多い都心部を運行することから、市民以外の国内

の、新型車両は富山駅停留所に、旧型車両は南富山駅停留所によくなじんでいるという印象を受けた。ただし、車両と設備がなじまないという印象を、ただアンマッチとして否定的に捉えてもあまり意味はない。旧型車両も南富山駅停留所の趣のある設備も、路面電車のある都市として存続した富山市の歴史を現在に伝える生き証人である。 当然だが車両は移動するため、旧型車両は最新設備の富山駅停留所に入線する。現在の富山駅にいると車両も設備もすべて刷新されたように感じてしまうところを、そこに旧型車両が入線してくることで、路面電車とともに発展してきた富山市

の履歴が、その光景を目の当たりにした人の前に浮かびあがってくる。また、現状初電と終電の機会だけではあるが、新型車両が南富山駅停留所に入線することで、数十年ゆっくりと時間を過ごしてきた停留所にいても、路面電車からLRT への発展の過程を視覚的に届けることができる。こうした相互作用が生じるのも、車両が動く都市装置であるがゆえで、それぞれ個性的な外観を備えた車両が停留所に停車し軌道を走っていくことで、周囲に都市の履歴や発展を伝える役割を果たしている。

外の旅行者に対して、富山市そのものをアピールする効果を担った内容のラッピングが多い。こうした内容のラッピングにおけるメッセージが的確なものであれば、路面電車という市の公共共有財

車両が存在し、正面にネコ、側面に十二支の動物が直接車両に塗装されている(図 3-1-12)。彩色数が多すぎて雑然とした印象を与え、どうしても旧型車両の力強いフォルムが浮かび上がってしまうために、この車両の愛称である「アニマル電車」という印象を与えることがうまくいっているとは言い難い。すべての旧型車両を保存するのは難しいが、旧型車両の車体そのものから醸し出される重厚感を強調したほうが、都市の履歴を伝えるうえで示唆するところが大きいように感じる。

産を通して、都市のことを内外に知らせている。 このとき、ラッピングに関わった人だけに留まらず、市民全体へと、メッセージを発した主体の領域が広がっている。自分たちの都市を運行する電車が、的確かつ雄弁に都市をアピールしていると感じたとき、市民は都市とつながっている感覚をおぼえる。このように、ラッピングは単なる広告に留まらず、都市と市民の間をつなぎ、都市と外部をつなぐ共有媒体にもなりうる可能性を秘めている。

図 3-1-5 富山駅停留所に停車する 7000 形(左)と 9000 形。通称セントラム(右)

図 3-1-4 広島電鉄広電西広島駅手前

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第3章 都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察 3 . 1 L R T の「親近性」からみた車両外観の意義と課題

各軌道設備における新旧車両の見え方

 前述の富山港線のように一度にすべての車両を新しく導入した路線を除くと、各都市各路線において車両編成や車両導入時期は異なり、大半の路線では様々な新旧車両が同じ軌道を走る光景を見ることができる。 前述のとおり、多種類の電車が運行する広島では、新旧車両が同時に走ることも多い。例えば、図に掲げた写真においては、板石舗装による軌道敷のもつ石畳のような重厚感によって、年季の入った旧型車両だけでなく、まだ運行に供して歴史の浅い新型車両をも違和感なく受け入れ、街の風景を作り出している(図 3-1-4)。 板石舗装軌道敷以外の軌道設備で各車両はどのように映るだろうか。富山地方鉄道市内軌道線では、2015 年 3 月に新たに開業した環状線を主に走る新型低床車両と、既存系統運行に供している旧型車両とが併存する。写真で掲げた富山駅停留所は 2015 年 3 月に完成し、最新の設備を備えている。洗練された意匠の停留所に新型車両が悠然と入っていく姿は自然に映るが、昔なじみの旧型車両が最新設備の停留所に入線する姿は、どこかおそるおそる入っていくような印象を与える(図 3-1-5)。この印象については、後述のケースを紹介することで併せて考察する。

 2016 年 1 月実地調査実施時点では、富山市内軌道線環状線内の新規開通区間は新型低床車両のみで運行していた。新型車両の塗装は富山城址等都心部の環境色彩イメージに調和する白・銀・黒の3色を基調にしている(図 3-1-6)。丸みを帯び簡素なデザインの車両は、写真に示すとおり都心部建築物との相性も良好に映る(図 3-1-7)。

 その一方で、同じ市内軌道線の南富山駅停留所は、富山地方鉄道線軌道線と鉄道線の乗換場所であり、富山市内軌道線全3系統のうち2系統の始点である(図 3-1-8)。当該駅において軌道線は旧型車両のみが停車し、初電・終電に当駅隣接車庫に入るときを除くと、新型車両が基本的に入線することはない。築造から数十年経過した素朴な造作の駅に旧型車両は違和感なく、よくなじんで映る(図 3-1-9)。 先般の富山駅停留所の最新設備と、南富山駅停留所の旧来からの設備とを対比して考えると、車両と設備で作られた年代に別途差が存在するもの

車体利用広告の法規制と趣旨

 LRT および路面電車の外面を利用した装飾、とりわけ広告は、屋外広告物法(昭和 24 年 6 月 3日法律第百八十九号)における「屋外広告物」にあたり、「良好な景観を形成し、若しくは風致を維持し、又は公衆に対する危害を防止する」ために、その設置や維持については、都道府県知事、もしくは事務委任を受けた指定都市や中核市の市長の許可が必要になる。例えば富山市においては、富山市屋外広告物条例(平成 17 年 4 月 1 日条例第 228 号)により、屋外広告物の表示には市長の許可が必要となり、「電車、自動車等の車体に直接表示するもの又は電車、自動車等の車体に取り付けるもの」にあたる「車体利用広告」は一定の手数料を納付し許可を受けることになる。以上のような法規制とその趣旨のもとで、外観にどのような意匠を施すと、的確な相乗効果を生み出すことができるか、以下で考察する。

ラッピング、塗装の具体事例

 本考においては、塗装や広告も含んだ広義の意味での車体ラッピングを考察の対象とする。国内では、路面電車の車体に装飾を施して運行する花電車の存在が戦前よりあった。これは祭りの山車を電車に見立てたものとも捉えられ、路面電車を人々の身近に近づけるための往時の試みであったと解釈できる。当時の取組の系譜が、現在のラッピングに引き継がれている側面もある、以下に各都市、各社における取組をいくつか取り上げたい。 広島電鉄のラッピングは、デザイン可能領域を一部に抑制し、デザイン内容も私企業の広告で商業性の色彩が濃い(図 3-1-10)。広島では以前から車体広告が施された電車が運行されていて、道

を行きかう広告付の路面電車の光景に市民は慣れていて、車体広告は定着している。 高岡市と射水市を結ぶ万葉線の新型車両は、高岡市出身の藤子・F・不二雄にちなんだラッピングを施し、「ドラえもんトラム」と呼んでいる(図3-1-11)。彩色数も絞り、新型車両の丸みを帯びたフォルムを有効に活かしながら、ドラえもんをイメージした青色を基調に彩色している。窓全面ラッピングは内側からの眺望を一部阻害してしまう一方で、作画領域が広がるため車両側面を貫く思い切ったデザインが可能になり、周囲を通行する歩行者や自動車に大きなインパクトを与える。 他にも万葉線には、個性的な外観を示した旧型

都市における共有媒体

 富山ライトレールでは、地元の学生など市民が参加し、車両によって七色に異なる乗降口の色に合わせたラッピングデザインを施している。掲示期間を過ぎたデザインの一部は車両車庫の壁に保存されている。自分たち、あるいは、知人、友人がデザインに関わった電車が地元を走ることで、自分たちの町の電車であるという意識が高まり、より電車に関する愛着が深まる効果がそこで生まれている(図 3-1-13、図 3-1-14)。 都心部を走る富山地方鉄道市内軌道環状線(セントラム)の車両には、富山市内でおこなわれるイベントにちなんだラッピングが施される。桜の開花時期には桜のラッピング車両が走り、沿道の店舗もそれに合わせて外観に桜のラッピングを施すような波及効果もある(図 3-1-15)。

キャラクターラッピングの新たな射程

 補足的な議論になるが、前述した都市の共有媒体以外にも、ラッピングがもつ別種の可能性が見出される事例を紹介したい。 富山ライトレールでは、新型車両の1編成に「鉄道むすめ」シリーズのラッピングを施している(図3-1-16)。鉄道むすめとは、実在の鉄道会社の現場で働く女性をモチーフに作られたキャラクターコンテンツである。2005 年頃に商標登録され現在では玩具メーカーのタカラトミーグループが版権を管理し、共通の製作会社監修のもとで、国内各交通事業者が自社にちなんだオリジナルのキャラクターを創り、使用している。例えば、富山ライトレールのキャラクター「岩瀬ゆうこ」は、車内のアナウンスや高齢者・障害者への乗降補助をおこなう実際の職務であるポートラム・アテンダントの設定で、実際のアテンダントの制服・制帽を着用し、名前も路線終点駅である岩瀬浜駅にち

なんでいる(図 3-1-17)。こうしたキャラクターは現実のデフォルメであり、その造形はアニメーションのキャラクターとの親近性が高く、筆者を含むふだんアニメーションに触れない社会層には、一見受け入れがたい感じがする。 しかし、緻密にディテールを詰め、現実とのリンクを図ったこのキャラクターは、各地でよく見かける、いわゆる「ゆるキャラ」とは一線を画す存在感がある。このラッピングを備えた電車が実際に通過するところを何度も目にすると、現実に車内に搭乗して職務に従事するアテンダントの存在感とも重なって、まるでこのキャラクターが電車の人間性の一部を体現しているように感じさせる。「ドラえもんトラム」に対してどんなに親しみがわいたとしても、ドラえもんの存在と目の前の現実とを直接リンクさせることは不可能であることとは対称的である。そうした意味で、出来合いのキャラクターラッピングを越えた存在感を、この鉄道むすめシリーズは放っていて、電車のイメージを決定づける効果を生み出している。 また、富山ライトレール以外の路面電車を中心とする地方鉄道事業者も、同様のご当地の「鉄道むすめ」のキャラクターを設定しており、富山ライトレールのラッピングでその他キャラクターを紹介することもある。今訪ねている都市だけでなく、他都市でも同じような試みがおこなわれているという事実を、見る側に想像させることにも意味があると思料する。スタンプラリーのように各

 都市の路面電車を直接周遊しなくても、全国に点在する路面電車の一つに今乗っている、もしくは目の当たりにしているという意識をもつことによって、他所で路面電車が走る光景を想起し、都市と路面電車の結びつきの枠組を想像できる。アニメーションならではのデフォルメされたキャラクターであるため、現実の多様さをスポイルしてしまう面もあるが、それをカバーしてあまりある広がりや見る側のレベルへの浸透がおこなわれ、人々の LRT への親近性を生み出すうえで独特の試みがおこなわれていることを指摘しておきたい。

小結

 以上に概観してきたように、車両外観と軌道設備の組み合わせの妙によって、見る側は都市の履歴や発展を感じることができる。また、車両ラッピングや塗装などの意匠を工夫することによって、それらを通して、都市と各人のつながりを見出すことが可能になる。こうした内面上の効果を踏まえると、LRT における車両外観が持ちえる可能性と、それゆえに誤った認識を与えてしまいかねない危険性に留意しながら、今後各都市各社における独創的な試みに期待したい。新たな試みが生まれるたび、LRT は都市のなじみの顔として、よりいっそう親近性を増していくものになりうる。

 これは上述の富山ライトレールとも共通する、市民や市内企業と電車を結びつける試みにあたる。それに加えてセントラムの場合は、観光客の多い都心部を運行することから、市民以外の国内

の、新型車両は富山駅停留所に、旧型車両は南富山駅停留所によくなじんでいるという印象を受けた。ただし、車両と設備がなじまないという印象を、ただアンマッチとして否定的に捉えてもあまり意味はない。旧型車両も南富山駅停留所の趣のある設備も、路面電車のある都市として存続した富山市の歴史を現在に伝える生き証人である。 当然だが車両は移動するため、旧型車両は最新設備の富山駅停留所に入線する。現在の富山駅にいると車両も設備もすべて刷新されたように感じてしまうところを、そこに旧型車両が入線してくることで、路面電車とともに発展してきた富山市

の履歴が、その光景を目の当たりにした人の前に浮かびあがってくる。また、現状初電と終電の機会だけではあるが、新型車両が南富山駅停留所に入線することで、数十年ゆっくりと時間を過ごしてきた停留所にいても、路面電車からLRT への発展の過程を視覚的に届けることができる。こうした相互作用が生じるのも、車両が動く都市装置であるがゆえで、それぞれ個性的な外観を備えた車両が停留所に停車し軌道を走っていくことで、周囲に都市の履歴や発展を伝える役割を果たしている。

車両と設備のなじみ具合と違和感、そこで生じる相互作用

外の旅行者に対して、富山市そのものをアピールする効果を担った内容のラッピングが多い。こうした内容のラッピングにおけるメッセージが的確なものであれば、路面電車という市の公共共有財

車両が存在し、正面にネコ、側面に十二支の動物が直接車両に塗装されている(図 3-1-12)。彩色数が多すぎて雑然とした印象を与え、どうしても旧型車両の力強いフォルムが浮かび上がってしまうために、この車両の愛称である「アニマル電車」という印象を与えることがうまくいっているとは言い難い。すべての旧型車両を保存するのは難しいが、旧型車両の車体そのものから醸し出される重厚感を強調したほうが、都市の履歴を伝えるうえで示唆するところが大きいように感じる。

産を通して、都市のことを内外に知らせている。 このとき、ラッピングに関わった人だけに留まらず、市民全体へと、メッセージを発した主体の領域が広がっている。自分たちの都市を運行する電車が、的確かつ雄弁に都市をアピールしていると感じたとき、市民は都市とつながっている感覚をおぼえる。このように、ラッピングは単なる広告に留まらず、都市と市民の間をつなぎ、都市と外部をつなぐ共有媒体にもなりうる可能性を秘めている。

図 3-1-6 セントラム車両図(*4)

図 3-1-7 富山都心部を走るセントラム車両(9000 形) 図 3-1-8 写真左側が富山地方鉄道南富山駅前停留所 図 3-1-9 富山地方鉄道南富山駅構内

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車体ラッピングおよび塗装

第3章 都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察 3 . 1 L R T の「親近性」からみた車両外観の意義と課題

各軌道設備における新旧車両の見え方

 前述の富山港線のように一度にすべての車両を新しく導入した路線を除くと、各都市各路線において車両編成や車両導入時期は異なり、大半の路線では様々な新旧車両が同じ軌道を走る光景を見ることができる。 前述のとおり、多種類の電車が運行する広島では、新旧車両が同時に走ることも多い。例えば、図に掲げた写真においては、板石舗装による軌道敷のもつ石畳のような重厚感によって、年季の入った旧型車両だけでなく、まだ運行に供して歴史の浅い新型車両をも違和感なく受け入れ、街の風景を作り出している(図 3-1-4)。 板石舗装軌道敷以外の軌道設備で各車両はどのように映るだろうか。富山地方鉄道市内軌道線では、2015 年 3 月に新たに開業した環状線を主に走る新型低床車両と、既存系統運行に供している旧型車両とが併存する。写真で掲げた富山駅停留所は 2015 年 3 月に完成し、最新の設備を備えている。洗練された意匠の停留所に新型車両が悠然と入っていく姿は自然に映るが、昔なじみの旧型車両が最新設備の停留所に入線する姿は、どこかおそるおそる入っていくような印象を与える(図 3-1-5)。この印象については、後述のケースを紹介することで併せて考察する。

 2016 年 1 月実地調査実施時点では、富山市内軌道線環状線内の新規開通区間は新型低床車両のみで運行していた。新型車両の塗装は富山城址等都心部の環境色彩イメージに調和する白・銀・黒の3色を基調にしている(図 3-1-6)。丸みを帯び簡素なデザインの車両は、写真に示すとおり都心部建築物との相性も良好に映る(図 3-1-7)。

 その一方で、同じ市内軌道線の南富山駅停留所は、富山地方鉄道線軌道線と鉄道線の乗換場所であり、富山市内軌道線全3系統のうち2系統の始点である(図 3-1-8)。当該駅において軌道線は旧型車両のみが停車し、初電・終電に当駅隣接車庫に入るときを除くと、新型車両が基本的に入線することはない。築造から数十年経過した素朴な造作の駅に旧型車両は違和感なく、よくなじんで映る(図 3-1-9)。 先般の富山駅停留所の最新設備と、南富山駅停留所の旧来からの設備とを対比して考えると、車両と設備で作られた年代に別途差が存在するもの

車体利用広告の法規制と趣旨

 LRT および路面電車の外面を利用した装飾、とりわけ広告は、屋外広告物法(昭和 24 年 6 月 3日法律第百八十九号)における「屋外広告物」にあたり、「良好な景観を形成し、若しくは風致を維持し、又は公衆に対する危害を防止する」ために、その設置や維持については、都道府県知事、もしくは事務委任を受けた指定都市や中核市の市長の許可が必要になる。例えば富山市においては、富山市屋外広告物条例(平成 17 年 4 月 1 日条例第 228 号)により、屋外広告物の表示には市長の許可が必要となり、「電車、自動車等の車体に直接表示するもの又は電車、自動車等の車体に取り付けるもの」にあたる「車体利用広告」は一定の手数料を納付し許可を受けることになる。以上のような法規制とその趣旨のもとで、外観にどのような意匠を施すと、的確な相乗効果を生み出すことができるか、以下で考察する。

ラッピング、塗装の具体事例

 本考においては、塗装や広告も含んだ広義の意味での車体ラッピングを考察の対象とする。国内では、路面電車の車体に装飾を施して運行する花電車の存在が戦前よりあった。これは祭りの山車を電車に見立てたものとも捉えられ、路面電車を人々の身近に近づけるための往時の試みであったと解釈できる。当時の取組の系譜が、現在のラッピングに引き継がれている側面もある、以下に各都市、各社における取組をいくつか取り上げたい。 広島電鉄のラッピングは、デザイン可能領域を一部に抑制し、デザイン内容も私企業の広告で商業性の色彩が濃い(図 3-1-10)。広島では以前から車体広告が施された電車が運行されていて、道

を行きかう広告付の路面電車の光景に市民は慣れていて、車体広告は定着している。 高岡市と射水市を結ぶ万葉線の新型車両は、高岡市出身の藤子・F・不二雄にちなんだラッピングを施し、「ドラえもんトラム」と呼んでいる(図3-1-11)。彩色数も絞り、新型車両の丸みを帯びたフォルムを有効に活かしながら、ドラえもんをイメージした青色を基調に彩色している。窓全面ラッピングは内側からの眺望を一部阻害してしまう一方で、作画領域が広がるため車両側面を貫く思い切ったデザインが可能になり、周囲を通行する歩行者や自動車に大きなインパクトを与える。 他にも万葉線には、個性的な外観を示した旧型

都市における共有媒体

 富山ライトレールでは、地元の学生など市民が参加し、車両によって七色に異なる乗降口の色に合わせたラッピングデザインを施している。掲示期間を過ぎたデザインの一部は車両車庫の壁に保存されている。自分たち、あるいは、知人、友人がデザインに関わった電車が地元を走ることで、自分たちの町の電車であるという意識が高まり、より電車に関する愛着が深まる効果がそこで生まれている(図 3-1-13、図 3-1-14)。 都心部を走る富山地方鉄道市内軌道環状線(セントラム)の車両には、富山市内でおこなわれるイベントにちなんだラッピングが施される。桜の開花時期には桜のラッピング車両が走り、沿道の店舗もそれに合わせて外観に桜のラッピングを施すような波及効果もある(図 3-1-15)。

キャラクターラッピングの新たな射程

 補足的な議論になるが、前述した都市の共有媒体以外にも、ラッピングがもつ別種の可能性が見出される事例を紹介したい。 富山ライトレールでは、新型車両の1編成に「鉄道むすめ」シリーズのラッピングを施している(図3-1-16)。鉄道むすめとは、実在の鉄道会社の現場で働く女性をモチーフに作られたキャラクターコンテンツである。2005 年頃に商標登録され現在では玩具メーカーのタカラトミーグループが版権を管理し、共通の製作会社監修のもとで、国内各交通事業者が自社にちなんだオリジナルのキャラクターを創り、使用している。例えば、富山ライトレールのキャラクター「岩瀬ゆうこ」は、車内のアナウンスや高齢者・障害者への乗降補助をおこなう実際の職務であるポートラム・アテンダントの設定で、実際のアテンダントの制服・制帽を着用し、名前も路線終点駅である岩瀬浜駅にち

なんでいる(図 3-1-17)。こうしたキャラクターは現実のデフォルメであり、その造形はアニメーションのキャラクターとの親近性が高く、筆者を含むふだんアニメーションに触れない社会層には、一見受け入れがたい感じがする。 しかし、緻密にディテールを詰め、現実とのリンクを図ったこのキャラクターは、各地でよく見かける、いわゆる「ゆるキャラ」とは一線を画す存在感がある。このラッピングを備えた電車が実際に通過するところを何度も目にすると、現実に車内に搭乗して職務に従事するアテンダントの存在感とも重なって、まるでこのキャラクターが電車の人間性の一部を体現しているように感じさせる。「ドラえもんトラム」に対してどんなに親しみがわいたとしても、ドラえもんの存在と目の前の現実とを直接リンクさせることは不可能であることとは対称的である。そうした意味で、出来合いのキャラクターラッピングを越えた存在感を、この鉄道むすめシリーズは放っていて、電車のイメージを決定づける効果を生み出している。 また、富山ライトレール以外の路面電車を中心とする地方鉄道事業者も、同様のご当地の「鉄道むすめ」のキャラクターを設定しており、富山ライトレールのラッピングでその他キャラクターを紹介することもある。今訪ねている都市だけでなく、他都市でも同じような試みがおこなわれているという事実を、見る側に想像させることにも意味があると思料する。スタンプラリーのように各

 都市の路面電車を直接周遊しなくても、全国に点在する路面電車の一つに今乗っている、もしくは目の当たりにしているという意識をもつことによって、他所で路面電車が走る光景を想起し、都市と路面電車の結びつきの枠組を想像できる。アニメーションならではのデフォルメされたキャラクターであるため、現実の多様さをスポイルしてしまう面もあるが、それをカバーしてあまりある広がりや見る側のレベルへの浸透がおこなわれ、人々の LRT への親近性を生み出すうえで独特の試みがおこなわれていることを指摘しておきたい。

小結

 以上に概観してきたように、車両外観と軌道設備の組み合わせの妙によって、見る側は都市の履歴や発展を感じることができる。また、車両ラッピングや塗装などの意匠を工夫することによって、それらを通して、都市と各人のつながりを見出すことが可能になる。こうした内面上の効果を踏まえると、LRT における車両外観が持ちえる可能性と、それゆえに誤った認識を与えてしまいかねない危険性に留意しながら、今後各都市各社における独創的な試みに期待したい。新たな試みが生まれるたび、LRT は都市のなじみの顔として、よりいっそう親近性を増していくものになりうる。

 これは上述の富山ライトレールとも共通する、市民や市内企業と電車を結びつける試みにあたる。それに加えてセントラムの場合は、観光客の多い都心部を運行することから、市民以外の国内

の、新型車両は富山駅停留所に、旧型車両は南富山駅停留所によくなじんでいるという印象を受けた。ただし、車両と設備がなじまないという印象を、ただアンマッチとして否定的に捉えてもあまり意味はない。旧型車両も南富山駅停留所の趣のある設備も、路面電車のある都市として存続した富山市の歴史を現在に伝える生き証人である。 当然だが車両は移動するため、旧型車両は最新設備の富山駅停留所に入線する。現在の富山駅にいると車両も設備もすべて刷新されたように感じてしまうところを、そこに旧型車両が入線してくることで、路面電車とともに発展してきた富山市

の履歴が、その光景を目の当たりにした人の前に浮かびあがってくる。また、現状初電と終電の機会だけではあるが、新型車両が南富山駅停留所に入線することで、数十年ゆっくりと時間を過ごしてきた停留所にいても、路面電車からLRT への発展の過程を視覚的に届けることができる。こうした相互作用が生じるのも、車両が動く都市装置であるがゆえで、それぞれ個性的な外観を備えた車両が停留所に停車し軌道を走っていくことで、周囲に都市の履歴や発展を伝える役割を果たしている。

外の旅行者に対して、富山市そのものをアピールする効果を担った内容のラッピングが多い。こうした内容のラッピングにおけるメッセージが的確なものであれば、路面電車という市の公共共有財

車両が存在し、正面にネコ、側面に十二支の動物が直接車両に塗装されている(図 3-1-12)。彩色数が多すぎて雑然とした印象を与え、どうしても旧型車両の力強いフォルムが浮かび上がってしまうために、この車両の愛称である「アニマル電車」という印象を与えることがうまくいっているとは言い難い。すべての旧型車両を保存するのは難しいが、旧型車両の車体そのものから醸し出される重厚感を強調したほうが、都市の履歴を伝えるうえで示唆するところが大きいように感じる。

産を通して、都市のことを内外に知らせている。 このとき、ラッピングに関わった人だけに留まらず、市民全体へと、メッセージを発した主体の領域が広がっている。自分たちの都市を運行する電車が、的確かつ雄弁に都市をアピールしていると感じたとき、市民は都市とつながっている感覚をおぼえる。このように、ラッピングは単なる広告に留まらず、都市と市民の間をつなぎ、都市と外部をつなぐ共有媒体にもなりうる可能性を秘めている。

図 3-1-10 広島電鉄の新型車両ラッピング 図 3-1-11 万葉線の「ドラえもんトラム」ラッピング 図 3-1-12 万葉線の「アニマル電車」塗装

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第3章 都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察 3 . 1 L R T の「親近性」からみた車両外観の意義と課題

各軌道設備における新旧車両の見え方

 前述の富山港線のように一度にすべての車両を新しく導入した路線を除くと、各都市各路線において車両編成や車両導入時期は異なり、大半の路線では様々な新旧車両が同じ軌道を走る光景を見ることができる。 前述のとおり、多種類の電車が運行する広島では、新旧車両が同時に走ることも多い。例えば、図に掲げた写真においては、板石舗装による軌道敷のもつ石畳のような重厚感によって、年季の入った旧型車両だけでなく、まだ運行に供して歴史の浅い新型車両をも違和感なく受け入れ、街の風景を作り出している(図 3-1-4)。 板石舗装軌道敷以外の軌道設備で各車両はどのように映るだろうか。富山地方鉄道市内軌道線では、2015 年 3 月に新たに開業した環状線を主に走る新型低床車両と、既存系統運行に供している旧型車両とが併存する。写真で掲げた富山駅停留所は 2015 年 3 月に完成し、最新の設備を備えている。洗練された意匠の停留所に新型車両が悠然と入っていく姿は自然に映るが、昔なじみの旧型車両が最新設備の停留所に入線する姿は、どこかおそるおそる入っていくような印象を与える(図 3-1-5)。この印象については、後述のケースを紹介することで併せて考察する。

 2016 年 1 月実地調査実施時点では、富山市内軌道線環状線内の新規開通区間は新型低床車両のみで運行していた。新型車両の塗装は富山城址等都心部の環境色彩イメージに調和する白・銀・黒の3色を基調にしている(図 3-1-6)。丸みを帯び簡素なデザインの車両は、写真に示すとおり都心部建築物との相性も良好に映る(図 3-1-7)。

 その一方で、同じ市内軌道線の南富山駅停留所は、富山地方鉄道線軌道線と鉄道線の乗換場所であり、富山市内軌道線全3系統のうち2系統の始点である(図 3-1-8)。当該駅において軌道線は旧型車両のみが停車し、初電・終電に当駅隣接車庫に入るときを除くと、新型車両が基本的に入線することはない。築造から数十年経過した素朴な造作の駅に旧型車両は違和感なく、よくなじんで映る(図 3-1-9)。 先般の富山駅停留所の最新設備と、南富山駅停留所の旧来からの設備とを対比して考えると、車両と設備で作られた年代に別途差が存在するもの

車体利用広告の法規制と趣旨

 LRT および路面電車の外面を利用した装飾、とりわけ広告は、屋外広告物法(昭和 24 年 6 月 3日法律第百八十九号)における「屋外広告物」にあたり、「良好な景観を形成し、若しくは風致を維持し、又は公衆に対する危害を防止する」ために、その設置や維持については、都道府県知事、もしくは事務委任を受けた指定都市や中核市の市長の許可が必要になる。例えば富山市においては、富山市屋外広告物条例(平成 17 年 4 月 1 日条例第 228 号)により、屋外広告物の表示には市長の許可が必要となり、「電車、自動車等の車体に直接表示するもの又は電車、自動車等の車体に取り付けるもの」にあたる「車体利用広告」は一定の手数料を納付し許可を受けることになる。以上のような法規制とその趣旨のもとで、外観にどのような意匠を施すと、的確な相乗効果を生み出すことができるか、以下で考察する。

ラッピング、塗装の具体事例

 本考においては、塗装や広告も含んだ広義の意味での車体ラッピングを考察の対象とする。国内では、路面電車の車体に装飾を施して運行する花電車の存在が戦前よりあった。これは祭りの山車を電車に見立てたものとも捉えられ、路面電車を人々の身近に近づけるための往時の試みであったと解釈できる。当時の取組の系譜が、現在のラッピングに引き継がれている側面もある、以下に各都市、各社における取組をいくつか取り上げたい。 広島電鉄のラッピングは、デザイン可能領域を一部に抑制し、デザイン内容も私企業の広告で商業性の色彩が濃い(図 3-1-10)。広島では以前から車体広告が施された電車が運行されていて、道

を行きかう広告付の路面電車の光景に市民は慣れていて、車体広告は定着している。 高岡市と射水市を結ぶ万葉線の新型車両は、高岡市出身の藤子・F・不二雄にちなんだラッピングを施し、「ドラえもんトラム」と呼んでいる(図3-1-11)。彩色数も絞り、新型車両の丸みを帯びたフォルムを有効に活かしながら、ドラえもんをイメージした青色を基調に彩色している。窓全面ラッピングは内側からの眺望を一部阻害してしまう一方で、作画領域が広がるため車両側面を貫く思い切ったデザインが可能になり、周囲を通行する歩行者や自動車に大きなインパクトを与える。 他にも万葉線には、個性的な外観を示した旧型

都市における共有媒体

 富山ライトレールでは、地元の学生など市民が参加し、車両によって七色に異なる乗降口の色に合わせたラッピングデザインを施している。掲示期間を過ぎたデザインの一部は車両車庫の壁に保存されている。自分たち、あるいは、知人、友人がデザインに関わった電車が地元を走ることで、自分たちの町の電車であるという意識が高まり、より電車に関する愛着が深まる効果がそこで生まれている(図 3-1-13、図 3-1-14)。 都心部を走る富山地方鉄道市内軌道環状線(セントラム)の車両には、富山市内でおこなわれるイベントにちなんだラッピングが施される。桜の開花時期には桜のラッピング車両が走り、沿道の店舗もそれに合わせて外観に桜のラッピングを施すような波及効果もある(図 3-1-15)。

キャラクターラッピングの新たな射程

 補足的な議論になるが、前述した都市の共有媒体以外にも、ラッピングがもつ別種の可能性が見出される事例を紹介したい。 富山ライトレールでは、新型車両の1編成に「鉄道むすめ」シリーズのラッピングを施している(図3-1-16)。鉄道むすめとは、実在の鉄道会社の現場で働く女性をモチーフに作られたキャラクターコンテンツである。2005 年頃に商標登録され現在では玩具メーカーのタカラトミーグループが版権を管理し、共通の製作会社監修のもとで、国内各交通事業者が自社にちなんだオリジナルのキャラクターを創り、使用している。例えば、富山ライトレールのキャラクター「岩瀬ゆうこ」は、車内のアナウンスや高齢者・障害者への乗降補助をおこなう実際の職務であるポートラム・アテンダントの設定で、実際のアテンダントの制服・制帽を着用し、名前も路線終点駅である岩瀬浜駅にち

なんでいる(図 3-1-17)。こうしたキャラクターは現実のデフォルメであり、その造形はアニメーションのキャラクターとの親近性が高く、筆者を含むふだんアニメーションに触れない社会層には、一見受け入れがたい感じがする。 しかし、緻密にディテールを詰め、現実とのリンクを図ったこのキャラクターは、各地でよく見かける、いわゆる「ゆるキャラ」とは一線を画す存在感がある。このラッピングを備えた電車が実際に通過するところを何度も目にすると、現実に車内に搭乗して職務に従事するアテンダントの存在感とも重なって、まるでこのキャラクターが電車の人間性の一部を体現しているように感じさせる。「ドラえもんトラム」に対してどんなに親しみがわいたとしても、ドラえもんの存在と目の前の現実とを直接リンクさせることは不可能であることとは対称的である。そうした意味で、出来合いのキャラクターラッピングを越えた存在感を、この鉄道むすめシリーズは放っていて、電車のイメージを決定づける効果を生み出している。 また、富山ライトレール以外の路面電車を中心とする地方鉄道事業者も、同様のご当地の「鉄道むすめ」のキャラクターを設定しており、富山ライトレールのラッピングでその他キャラクターを紹介することもある。今訪ねている都市だけでなく、他都市でも同じような試みがおこなわれているという事実を、見る側に想像させることにも意味があると思料する。スタンプラリーのように各

 都市の路面電車を直接周遊しなくても、全国に点在する路面電車の一つに今乗っている、もしくは目の当たりにしているという意識をもつことによって、他所で路面電車が走る光景を想起し、都市と路面電車の結びつきの枠組を想像できる。アニメーションならではのデフォルメされたキャラクターであるため、現実の多様さをスポイルしてしまう面もあるが、それをカバーしてあまりある広がりや見る側のレベルへの浸透がおこなわれ、人々の LRT への親近性を生み出すうえで独特の試みがおこなわれていることを指摘しておきたい。

小結

 以上に概観してきたように、車両外観と軌道設備の組み合わせの妙によって、見る側は都市の履歴や発展を感じることができる。また、車両ラッピングや塗装などの意匠を工夫することによって、それらを通して、都市と各人のつながりを見出すことが可能になる。こうした内面上の効果を踏まえると、LRT における車両外観が持ちえる可能性と、それゆえに誤った認識を与えてしまいかねない危険性に留意しながら、今後各都市各社における独創的な試みに期待したい。新たな試みが生まれるたび、LRT は都市のなじみの顔として、よりいっそう親近性を増していくものになりうる。

 これは上述の富山ライトレールとも共通する、市民や市内企業と電車を結びつける試みにあたる。それに加えてセントラムの場合は、観光客の多い都心部を運行することから、市民以外の国内

の、新型車両は富山駅停留所に、旧型車両は南富山駅停留所によくなじんでいるという印象を受けた。ただし、車両と設備がなじまないという印象を、ただアンマッチとして否定的に捉えてもあまり意味はない。旧型車両も南富山駅停留所の趣のある設備も、路面電車のある都市として存続した富山市の歴史を現在に伝える生き証人である。 当然だが車両は移動するため、旧型車両は最新設備の富山駅停留所に入線する。現在の富山駅にいると車両も設備もすべて刷新されたように感じてしまうところを、そこに旧型車両が入線してくることで、路面電車とともに発展してきた富山市

の履歴が、その光景を目の当たりにした人の前に浮かびあがってくる。また、現状初電と終電の機会だけではあるが、新型車両が南富山駅停留所に入線することで、数十年ゆっくりと時間を過ごしてきた停留所にいても、路面電車からLRT への発展の過程を視覚的に届けることができる。こうした相互作用が生じるのも、車両が動く都市装置であるがゆえで、それぞれ個性的な外観を備えた車両が停留所に停車し軌道を走っていくことで、周囲に都市の履歴や発展を伝える役割を果たしている。

外の旅行者に対して、富山市そのものをアピールする効果を担った内容のラッピングが多い。こうした内容のラッピングにおけるメッセージが的確なものであれば、路面電車という市の公共共有財

車両が存在し、正面にネコ、側面に十二支の動物が直接車両に塗装されている(図 3-1-12)。彩色数が多すぎて雑然とした印象を与え、どうしても旧型車両の力強いフォルムが浮かび上がってしまうために、この車両の愛称である「アニマル電車」という印象を与えることがうまくいっているとは言い難い。すべての旧型車両を保存するのは難しいが、旧型車両の車体そのものから醸し出される重厚感を強調したほうが、都市の履歴を伝えるうえで示唆するところが大きいように感じる。

産を通して、都市のことを内外に知らせている。 このとき、ラッピングに関わった人だけに留まらず、市民全体へと、メッセージを発した主体の領域が広がっている。自分たちの都市を運行する電車が、的確かつ雄弁に都市をアピールしていると感じたとき、市民は都市とつながっている感覚をおぼえる。このように、ラッピングは単なる広告に留まらず、都市と市民の間をつなぎ、都市と外部をつなぐ共有媒体にもなりうる可能性を秘めている。

図 3-1-13 富山ライトレール車両ラッピング

図 3-1-14 富山ライトレール車両ラッピング 図 3-1-15 富山地方鉄道市内軌道環状線(セントラム)の車両ラッピング(*5)

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第3章 都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察 3 . 1 L R T の「親近性」からみた車両外観の意義と課題

各軌道設備における新旧車両の見え方

 前述の富山港線のように一度にすべての車両を新しく導入した路線を除くと、各都市各路線において車両編成や車両導入時期は異なり、大半の路線では様々な新旧車両が同じ軌道を走る光景を見ることができる。 前述のとおり、多種類の電車が運行する広島では、新旧車両が同時に走ることも多い。例えば、図に掲げた写真においては、板石舗装による軌道敷のもつ石畳のような重厚感によって、年季の入った旧型車両だけでなく、まだ運行に供して歴史の浅い新型車両をも違和感なく受け入れ、街の風景を作り出している(図 3-1-4)。 板石舗装軌道敷以外の軌道設備で各車両はどのように映るだろうか。富山地方鉄道市内軌道線では、2015 年 3 月に新たに開業した環状線を主に走る新型低床車両と、既存系統運行に供している旧型車両とが併存する。写真で掲げた富山駅停留所は 2015 年 3 月に完成し、最新の設備を備えている。洗練された意匠の停留所に新型車両が悠然と入っていく姿は自然に映るが、昔なじみの旧型車両が最新設備の停留所に入線する姿は、どこかおそるおそる入っていくような印象を与える(図 3-1-5)。この印象については、後述のケースを紹介することで併せて考察する。

 2016 年 1 月実地調査実施時点では、富山市内軌道線環状線内の新規開通区間は新型低床車両のみで運行していた。新型車両の塗装は富山城址等都心部の環境色彩イメージに調和する白・銀・黒の3色を基調にしている(図 3-1-6)。丸みを帯び簡素なデザインの車両は、写真に示すとおり都心部建築物との相性も良好に映る(図 3-1-7)。

 その一方で、同じ市内軌道線の南富山駅停留所は、富山地方鉄道線軌道線と鉄道線の乗換場所であり、富山市内軌道線全3系統のうち2系統の始点である(図 3-1-8)。当該駅において軌道線は旧型車両のみが停車し、初電・終電に当駅隣接車庫に入るときを除くと、新型車両が基本的に入線することはない。築造から数十年経過した素朴な造作の駅に旧型車両は違和感なく、よくなじんで映る(図 3-1-9)。 先般の富山駅停留所の最新設備と、南富山駅停留所の旧来からの設備とを対比して考えると、車両と設備で作られた年代に別途差が存在するもの

車体利用広告の法規制と趣旨

 LRT および路面電車の外面を利用した装飾、とりわけ広告は、屋外広告物法(昭和 24 年 6 月 3日法律第百八十九号)における「屋外広告物」にあたり、「良好な景観を形成し、若しくは風致を維持し、又は公衆に対する危害を防止する」ために、その設置や維持については、都道府県知事、もしくは事務委任を受けた指定都市や中核市の市長の許可が必要になる。例えば富山市においては、富山市屋外広告物条例(平成 17 年 4 月 1 日条例第 228 号)により、屋外広告物の表示には市長の許可が必要となり、「電車、自動車等の車体に直接表示するもの又は電車、自動車等の車体に取り付けるもの」にあたる「車体利用広告」は一定の手数料を納付し許可を受けることになる。以上のような法規制とその趣旨のもとで、外観にどのような意匠を施すと、的確な相乗効果を生み出すことができるか、以下で考察する。

ラッピング、塗装の具体事例

 本考においては、塗装や広告も含んだ広義の意味での車体ラッピングを考察の対象とする。国内では、路面電車の車体に装飾を施して運行する花電車の存在が戦前よりあった。これは祭りの山車を電車に見立てたものとも捉えられ、路面電車を人々の身近に近づけるための往時の試みであったと解釈できる。当時の取組の系譜が、現在のラッピングに引き継がれている側面もある、以下に各都市、各社における取組をいくつか取り上げたい。 広島電鉄のラッピングは、デザイン可能領域を一部に抑制し、デザイン内容も私企業の広告で商業性の色彩が濃い(図 3-1-10)。広島では以前から車体広告が施された電車が運行されていて、道

を行きかう広告付の路面電車の光景に市民は慣れていて、車体広告は定着している。 高岡市と射水市を結ぶ万葉線の新型車両は、高岡市出身の藤子・F・不二雄にちなんだラッピングを施し、「ドラえもんトラム」と呼んでいる(図3-1-11)。彩色数も絞り、新型車両の丸みを帯びたフォルムを有効に活かしながら、ドラえもんをイメージした青色を基調に彩色している。窓全面ラッピングは内側からの眺望を一部阻害してしまう一方で、作画領域が広がるため車両側面を貫く思い切ったデザインが可能になり、周囲を通行する歩行者や自動車に大きなインパクトを与える。 他にも万葉線には、個性的な外観を示した旧型

都市における共有媒体

 富山ライトレールでは、地元の学生など市民が参加し、車両によって七色に異なる乗降口の色に合わせたラッピングデザインを施している。掲示期間を過ぎたデザインの一部は車両車庫の壁に保存されている。自分たち、あるいは、知人、友人がデザインに関わった電車が地元を走ることで、自分たちの町の電車であるという意識が高まり、より電車に関する愛着が深まる効果がそこで生まれている(図 3-1-13、図 3-1-14)。 都心部を走る富山地方鉄道市内軌道環状線(セントラム)の車両には、富山市内でおこなわれるイベントにちなんだラッピングが施される。桜の開花時期には桜のラッピング車両が走り、沿道の店舗もそれに合わせて外観に桜のラッピングを施すような波及効果もある(図 3-1-15)。

キャラクターラッピングの新たな射程

 補足的な議論になるが、前述した都市の共有媒体以外にも、ラッピングがもつ別種の可能性が見出される事例を紹介したい。 富山ライトレールでは、新型車両の1編成に「鉄道むすめ」シリーズのラッピングを施している(図3-1-16)。鉄道むすめとは、実在の鉄道会社の現場で働く女性をモチーフに作られたキャラクターコンテンツである。2005 年頃に商標登録され現在では玩具メーカーのタカラトミーグループが版権を管理し、共通の製作会社監修のもとで、国内各交通事業者が自社にちなんだオリジナルのキャラクターを創り、使用している。例えば、富山ライトレールのキャラクター「岩瀬ゆうこ」は、車内のアナウンスや高齢者・障害者への乗降補助をおこなう実際の職務であるポートラム・アテンダントの設定で、実際のアテンダントの制服・制帽を着用し、名前も路線終点駅である岩瀬浜駅にち

なんでいる(図 3-1-17)。こうしたキャラクターは現実のデフォルメであり、その造形はアニメーションのキャラクターとの親近性が高く、筆者を含むふだんアニメーションに触れない社会層には、一見受け入れがたい感じがする。 しかし、緻密にディテールを詰め、現実とのリンクを図ったこのキャラクターは、各地でよく見かける、いわゆる「ゆるキャラ」とは一線を画す存在感がある。このラッピングを備えた電車が実際に通過するところを何度も目にすると、現実に車内に搭乗して職務に従事するアテンダントの存在感とも重なって、まるでこのキャラクターが電車の人間性の一部を体現しているように感じさせる。「ドラえもんトラム」に対してどんなに親しみがわいたとしても、ドラえもんの存在と目の前の現実とを直接リンクさせることは不可能であることとは対称的である。そうした意味で、出来合いのキャラクターラッピングを越えた存在感を、この鉄道むすめシリーズは放っていて、電車のイメージを決定づける効果を生み出している。 また、富山ライトレール以外の路面電車を中心とする地方鉄道事業者も、同様のご当地の「鉄道むすめ」のキャラクターを設定しており、富山ライトレールのラッピングでその他キャラクターを紹介することもある。今訪ねている都市だけでなく、他都市でも同じような試みがおこなわれているという事実を、見る側に想像させることにも意味があると思料する。スタンプラリーのように各

 都市の路面電車を直接周遊しなくても、全国に点在する路面電車の一つに今乗っている、もしくは目の当たりにしているという意識をもつことによって、他所で路面電車が走る光景を想起し、都市と路面電車の結びつきの枠組を想像できる。アニメーションならではのデフォルメされたキャラクターであるため、現実の多様さをスポイルしてしまう面もあるが、それをカバーしてあまりある広がりや見る側のレベルへの浸透がおこなわれ、人々の LRT への親近性を生み出すうえで独特の試みがおこなわれていることを指摘しておきたい。

小結

 以上に概観してきたように、車両外観と軌道設備の組み合わせの妙によって、見る側は都市の履歴や発展を感じることができる。また、車両ラッピングや塗装などの意匠を工夫することによって、それらを通して、都市と各人のつながりを見出すことが可能になる。こうした内面上の効果を踏まえると、LRT における車両外観が持ちえる可能性と、それゆえに誤った認識を与えてしまいかねない危険性に留意しながら、今後各都市各社における独創的な試みに期待したい。新たな試みが生まれるたび、LRT は都市のなじみの顔として、よりいっそう親近性を増していくものになりうる。

 これは上述の富山ライトレールとも共通する、市民や市内企業と電車を結びつける試みにあたる。それに加えてセントラムの場合は、観光客の多い都心部を運行することから、市民以外の国内

の、新型車両は富山駅停留所に、旧型車両は南富山駅停留所によくなじんでいるという印象を受けた。ただし、車両と設備がなじまないという印象を、ただアンマッチとして否定的に捉えてもあまり意味はない。旧型車両も南富山駅停留所の趣のある設備も、路面電車のある都市として存続した富山市の歴史を現在に伝える生き証人である。 当然だが車両は移動するため、旧型車両は最新設備の富山駅停留所に入線する。現在の富山駅にいると車両も設備もすべて刷新されたように感じてしまうところを、そこに旧型車両が入線してくることで、路面電車とともに発展してきた富山市

の履歴が、その光景を目の当たりにした人の前に浮かびあがってくる。また、現状初電と終電の機会だけではあるが、新型車両が南富山駅停留所に入線することで、数十年ゆっくりと時間を過ごしてきた停留所にいても、路面電車からLRT への発展の過程を視覚的に届けることができる。こうした相互作用が生じるのも、車両が動く都市装置であるがゆえで、それぞれ個性的な外観を備えた車両が停留所に停車し軌道を走っていくことで、周囲に都市の履歴や発展を伝える役割を果たしている。

外の旅行者に対して、富山市そのものをアピールする効果を担った内容のラッピングが多い。こうした内容のラッピングにおけるメッセージが的確なものであれば、路面電車という市の公共共有財

車両が存在し、正面にネコ、側面に十二支の動物が直接車両に塗装されている(図 3-1-12)。彩色数が多すぎて雑然とした印象を与え、どうしても旧型車両の力強いフォルムが浮かび上がってしまうために、この車両の愛称である「アニマル電車」という印象を与えることがうまくいっているとは言い難い。すべての旧型車両を保存するのは難しいが、旧型車両の車体そのものから醸し出される重厚感を強調したほうが、都市の履歴を伝えるうえで示唆するところが大きいように感じる。

産を通して、都市のことを内外に知らせている。 このとき、ラッピングに関わった人だけに留まらず、市民全体へと、メッセージを発した主体の領域が広がっている。自分たちの都市を運行する電車が、的確かつ雄弁に都市をアピールしていると感じたとき、市民は都市とつながっている感覚をおぼえる。このように、ラッピングは単なる広告に留まらず、都市と市民の間をつなぎ、都市と外部をつなぐ共有媒体にもなりうる可能性を秘めている。

図 3-1-16 富山ライトレールの車両ラッピング 図 3-1-17 鉄道むすめシリーズの POP

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 本節では、LRT が種々の都市状況と作り出す価値について考察する。

 LRT のような公共交通が主要都市構成要素の近辺に整備されれば、利便性を向上させるだろ

う。本節では、利便性の向上を前提に置き、電車やバス、非低床車両と比較しつつ、LRT の特

徴である①低速度②低騒音③低車高④低床車両と電停のバリアフリー化⑤排ガス臭が出ない

ことに着目して都市構成要素との関係性や、そこで創り出される価値について述べる。

23.

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3.2 LRT が種々の都市状況と創り出す価値

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第3章

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都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察

住宅地

3.2 L R T が種々の都市状況と創り出す価値

図 3-2-1 住宅地内に電停が立地する万葉線庄川口駅周辺 図 3-2-2 騒音はほとんどないため、路線が住宅地に近接していても悪影響は感じない ( 富山ライトレール城川原駅周辺 )

図 3 - 2 - 4 フィーダーバスと L R T が直接乗り入れ連絡する富山ライトレール岩瀬浜駅図 3-2-3 城川原駅時刻表(富山港線)

LRT との相性

 住宅地における公共交通は、利便性向上だけがそこから得られる唯一のメリットではない。非 LRT の鉄道を例に挙げると、大型の車体が高速度で住宅地を駆け抜けるため、騒音や振動、安全面の不安といった問題がある。それに対し、LRT は低騒音であるために住環境を損なわない。また、一般的な鉄道車両と比べ、低速度かつ低車高であるため、安全面で住民が危険性を感じることは少ない ( 図 3-2-1, 3-2-2)。以上の理由から、LRT は利便性を向上させつつ、住民に対して気遣いをしている公共交通であり、住宅地との相性は良好であるといえる。

運行における工夫

 バスに比べ、渋滞や事故などの外的要因に左右されにくく定時性確保の点から、住民の日常利用を考えるうえで、LRT には優位性が存する。富山ライトレール富山港線ではパターンダイヤが導入され、7時から 9 時までは 10 分間隔、9 時から 20 時までは15 分間隔で運行されている ( 図 3-2-3)。等間隔ダイヤのため駅発着時刻を覚えやすく、待ち時間も最低限の範囲に抑えることで、乗客は利用しやすくなる。また、直営フィーダーバスと LRT の駅発着時間を合わせて乗換の利便を図っている ( 図 3-2-4)。これら運行における工夫により、住民の日常利用が促され、LRT が住民に寄り添った交通であると強調される。

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病院

第3章 3 . 2 L R T が種々の都市状況と創り出す価値都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察

図 3-2-5 富山ライトレール開業前後の利用者数変化(*6)

図 3-2-7 高齢者や体が不自由な人にとって、既存市電の旧型車両段差は乗り込む際の障壁となる

図 3 - 2 - 8 新幹線駅と L R T の停留所が連結して、バリアフリー化されている富山駅図 3-2-6 車体と電停がフラットに接続する(セントラム)

LRT 導入と通院利用者の相関関係

 郊外は病院が散在し、かつ、鉄道駅から離れているケースも多く、高齢者や体の不自由な人は通院に車やバスを利用せざるをえず、その負担は軽くない。富山ライトレール開業前後の変

化調査によると、LRT 開業前の JR 富山港線よりも開業後の LRT 富山港線のほうが、60 代以上の利用者数が増加しており、主な利用理由として病院への通院が挙げられている ( 図 3-2-5)。富山ライトレールでは電停や車体がすべてバリアフリー化され、通院に利用しやすい交通手段であることが功を奏し、乗客が増加したと考えられる ( 図3-2-6, 3-2-7)。病院の近くに LRT 電停が立地することで、通院やその帰りの買い物利用等誘因が生まれ、高齢者の外出を喚起する側面が指摘できる。

病院と LRTの一体的整備の可能性

 既存の市電電停のなかには、病院が路線に面しながらも電停側に入口がなく、電停からは外周を半周して入口にアクセスするものがあった。自動車利用者ばかりを優先した配置で、電停利用者の利便性はあまり考えられていない。 非自動車利用者にとって病院を密接にするため、停留所出入口と病院入口を隣接させたり、病院施設内に停留所を設け直接 LRT が乗り入れたりする工夫が必要である。富山駅のコンコースには LRT の停留所が乗り入れており、かつ乗降口はバリアフリー化されている ( 図 3-2-8)。これを病院に適用すれば、LRT

は病院と一体的に整備できる可能性を持つ。非LRT の電車やバスと比べて、LRT は低騒音であり排ガス臭がしないことから、病院の機能が大きく損なわれることもない。また、LRT で導入される低床車両は、高齢者や体が不自由な人にとって、乗降しやすく通院を円滑にする。

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商店街

第3章 3 . 2 L R T が種々の都市状況と創り出す価値都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察

図 3 - 2 - 9 屋内空間へ L R T 車両が入り込む横川駅。停留所と商店街入口が近接している

屋内空間のデザインと屋外的な LRTの乗り入れ

 既存の電車では近づけない場所に、近接できることが LRT のメリットである。横川駅では、停留所が商店街入口に近接しており、屋根が掛けられていることから、天候に影響を受けず商店街へアクセスできるように整備されており、LRT を利用する買い物客にとって快適な配置になっている ( 図 3-2-9)。 また、停留所と商店街が近接していることから、横川駅停留所から商店街を視認でき、LRT 利用者が商店街に立ち寄りたくなる誘因を生み出している。横川駅では、バリアフリーの停留所から商店街および JR 改札口までの動線に段差がなく、統一された胃デザインで一体的に整備されており、あたかもガレリアのような様相を示している。横川駅停留所の屋内空間に、屋外的な性質を帯びた LRT が入ることで、新たな都市景観を創出している。

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市街地と郊外

第3章 3 . 2 L R T が種々の都市状況と創り出す価値都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察

図 3 - 2 - 1 0 市街地で自動車と並走する L R T ( 広島市内 )

図 3 - 2 - 1 1 郊外で新設軌道を走る L R T ( 広島港付近 ) 図 3-2-12 市街地で自動車と並走する LRT( 高岡市内 ) 図 3-2-13 郊外で新設軌道を走る LRT( 万葉線庄川口駅周辺 )

場によって異なる車両の表情

 広島市や富山県の市街地において、LRT は併用軌道を走行することが多く、バスや乗用車と並走している光景が多く見られる(図 3-2-10)。一方で郊外では、既存の鉄道路線を転用している関係もあって、専用軌道(新設軌道)を走行することの多いLRT が、他交通と並走する光景を見る機会は少ない(図 3-2-11)。つまり、市街地においては他交通と一体になっている一方で、郊外において LRT が走行する姿は孤独に映る。 また、乗用車と並走する際には、相対的にサイズの大きな LRT 車両の存在感は増し力強く映るが(図 3-2-12)、河川敷など周囲が開けたところでは山や川など広大な自然物に対して車両数の少ないLRT は小さく映る(図 3-2-13)。この対比から、周囲の広大な自然物のなかを走行する LRT の姿にはどこか哀愁が漂う。 このように軌道種類や背景の相違により、車両はそれぞれ異なった雰囲気を醸し出す。市街地から郊外に移動するにつれ、表情を変えていく LRTは感情移入しやすい乗り物だとも言える。

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3.

 ここでは、軌道敷の、とくに舗装に焦点をあてて、LRT の「親近性」のためのデザインを論じる。

はじめに、軌道敷をめぐる法制度的規程に触れ、次の舗装の構造上の特質を踏まえた上で、「親

近性」創出にはたす軌道敷の象徴的な意味について論じる。

3

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3.3 LRT の「親近性」から見た軌道敷の象徴的意味

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法制度的な規程と軌道敷の構造  軌道敷の象徴的意味

第3章 都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察 3 . 3 L R T の「親近性」から見た軌道敷の象徴的意味

軌道敷をめぐる法制度的な規程 

 「軌道法」によって、軌道敷 ( 軌間及びその側縁610mm まで ) は、軌道管理者が管理することが定められている。また、「軌道建設規程」によって、併用軌道の軌道敷は、道路路面と同一構造として、軌道面と道路面との間に高低差が生じないようにすべきことが記されている。 このようにして、併用軌道区間では、車道と同面 ( どうづら ) で、かつ、管理運営上は車道に対して独立した帯状の空間 = 軌道敷が登場する。この帯状の空間は、道路交通法によって、車両 ( いわゆる自動車 ) の通行が制限されている ( 右左折、横断などの特定の場合を除き、軌道敷内の通行が原則禁止 )。これは、路面電車が急停止困難であることや、軌道の保護のためとされる。したがって、ドライバーにとって、軌道敷は、道路に対して明確に区分された領域として見える必要がある。 

軌道敷の舗装とその構造

 軌道建設規程のいう「同一構造」の詳細は不明だが、車道と軌道の舗装内部の構造は違ってしかるべきであるから、これは、断面的に見て同面 ( どうづら ) にすることを指すものと思われる。実際、車道はアスファルト、軌道敷は板石舗装という事例が普通に見られることから、舗装材料を同一にせよという意味だとは考えにくい。 板石舗装は、道路面から数十センチ切り下げた位置に路盤をつくり、その上に砕石を敷き詰めて枕木を設置して軌道を渡すという構造の、軌間ならびに側縁の上面を平滑に埋め合わせるように施されている。結果として軌道敷は石畳状を呈する。石材は花崗岩で厚みは 100mm という ( 図 3-3-1)。板石舗装は、それを固定しているモルタルを剥がせば、板石1枚ごとに取り外しが可能であるため、舗装下の軌道の構造のメインテナンスに便利である。処置後は、石材は再び据え直されるので、無駄が少ない。 ただし、戦後になって、コンクリート舗装やアスファルト舗装も採用され出した(*7)。自動車交通を優先させる立場から、軌道敷内への自動車乗り入れを認める都市も登場したためだという。 厚み100mmの花崗岩では、自動車(特に大型車両)の荷重には耐えられない。 ところで、アスファルト上の滑らかな走行に慣

れている自動車利用者にとっては、板石舗装上にタイヤが載ったときのごつごつした違和感が、軌道敷からの離脱を急ぐモチベーションになる、ということもあろう。板石舗装それ自体が、運転感覚的に自動車を排除するといっていい。広島電鉄では、自動車の横断頻度が高い交差点部などは板石舗装ではなくコンクリートブロック舗装にしている ( ヒアリングならびに現地調査による )。アスファルト舗装に比較すれば、コンクリート舗装も自動車走行時のノイズを高めるので、如上の効果は期待できよう。

軌道敷の象徴的意味の考察

 以上のような事実を踏まえた上で、軌道敷の象徴的意味を考察してみたい。まず、先にみたように、法制度的根拠をもって、軌道敷は自動車を排除する「聖域」的領域となっている。次に、板石舗装は軌道のメインテナンスに資することから一定の需要があり、石畳状の外観を車道に描きだす。 こうして、軌道敷が道路車道部にありながら、舗装において車道と異なるという状況が生まれている。このことが、都市景観にもたらしている象徴的意味はことのほか大きいと、われわれはみる。結論からいえば、軌道敷の「アスファルトならざる」舗装は、車優先社会に対する LRT の優位性を表現しているように見える、ということである。もちろん、このことは、自動車「非」利用者にとって LRT が「親近的」であることと強く結び合って、はじめて成り立っているといわなければならない。LRT が徹底して自動車「非」利用者の味方であるーこのことの具体的な分析は他節で詳述されるであろうーという前提が不可欠である。

図 3 - 3 - 1 板石舗装の構造(*7)

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第3章 都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察 3 . 3 L R T の「親近性」から見た軌道敷の象徴的意味

板石舗装が生み出す格調

 板石舗装が生み出す石畳状の外観は、西欧中世の広場を想起させなくもない(図3-3-2)。もちろん、一般的な西欧中世広場の敷石はもっと小振りな場合も多いから、ベネチアのサンマルコ広場などのように、広場なら相当に格調の高い広場ということになる。廃線などによって不要となった板石には相応に需要があって、神社仏閣の参道、玄関口、歩道、大学構内、公共施設などにほとんど原型のまま転用されているという(*7)。花崗岩の板石舗装が生み出す格調の高さを皆が認めているからこそであろう。板石舗装の軌道敷は、沿道の建築物と相俟って街路景観の格調を高めることに十分寄与しうる。

軌道敷が歩行可能に映ること

 格調の高さを印象づける板石舗装の軌道敷が道路交通上の「聖域」となり、法制度上、そこから自動車が締め出されているということの上に、LRT 利用者をはじめとする歩行者は ( 実際には延長上を歩行する者はいないとしても ) 締め出されてはいない、歩行可能であるように映るという点が重要である。歩行可能であるように映る、という点においてはコンクリートブロック舗装も同様であるが、残念ながらこちらは格調において劣る ( 図 3-3-3)。また、近年注目されている芝生舗装は、季節によっては瑞々しい外観を呈するが、歩行者が足を踏み入れる気持ちになるかどうかという観点からすれば、板石舗装の広場的情調に及ばない ( 図 3-3-4)。

軌道敷の象徴的意味 ‒ 板石舗装を中心に

アスファルト舗装では「聖域」が際立たない。歩行可能性の対極にあるのが、専用 ( 新設 ) 軌道敷もしくは、鉄道敷である。砕石、枕木、レールが露出し、凹凸著しい外観は、快適な歩行をアフォードしない ( 図 3-3-5)。これらは、自動車も排除すると同時に、歩行者も締め出す。

図 3 - 3 - 2 花崗岩の板石舗装がつくる格調の高い軌道敷外観 ( 広島市内 )

図 3 - 3 - 3 コンクリートブロック舗 装 . 歩 行 可 能 性 は 大 き い が、格 調 に お い て 板 石 舗 装 に 劣 る。ただし写真の例は比較的上品にまとめてある ( 横川 )

図 3 - 3 - 4 芝生舗装。 足の踏み場という点からみれば、 歩 行者を心理的に締め出す作用があろう

図 3 - 3 - 5 専用 ( 新設 ) 軌道の軌道敷は凹凸が著しく、歩行者を締め出す ( 西広島 )

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第3章 都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察 3 . 3 L R T の「親近性」から見た軌道敷の象徴的意味

軌道敷と LRT 車両がつくる都市景観

 軌道敷は「聖域」であるから、LRT 自体が信号待ちをしているのでなければ、その進路前方に立ちふさがる自動車はいない。信号が変わり、LRTが前進を始めると、自動車・バイクが歩調を合わせるかのように、軌道敷に沿って行儀よく走行し

始める。したがって、先頭車両の運転席付近から前方をみると、軌道敷を中心に視野が開けて LRTの「特権的」立場が明瞭になる ( 図 3-3-6)。 また、電停での到着待ちに際しても、軌道敷が遠方まで視野を導くために、LRT を視認しやすい。

LRT は他の自動車の列に紛れにくいのである。かくして、LRT は内側から外を見れば ( 内部視点景観 )、ヴィスタに対する動く眺望点である ( したがって、車両デザインにおいて運転席付近の眺望確保が重要となる )。また、外側から車両を見れ

ば ( 外部視点景観 )、動く目印になり、場所によっては都市景観を鮮やかな彩ることにもなる ( 図3-3-7)。その意味で LRT の塗装色は重要な役割を担う。軌道敷はこうした景観体験をも派生させているのである。

図 3 - 3 - 7 軌道敷が「間」をつくり、 電車車両が他の交通車両に紛れにくい ( 御幸橋 ) 図 3 - 3 - 6 軌道敷上には許されたタイミングしか自動車が進入できない。基本的に行く手を遮るものはないことが先頭車両から展望できる ( 横川駅手前 . 車窓から )

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第3章 都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察 3 . 3 L R T の「親近性」から見た軌道敷の象徴的意味

交差点における軌道敷線形のもつ象徴性

 LRT の最小回転半径は 10 数 m で、交差点で右左折する軌道はこれにあわせて設計される。当然ながら、軌道敷も軌道を含んでカーブを描く。車道車線は、軌道敷の線形に沿ってゆるやかなカーブを描くように設定される。車線がほぼ直交する交差点に慣れた目には、その通常の道路秩序が、軌道によって大きく変更させられていることが面白く映る。これもまた、自動車優先社会におけるLRT の優位性を表現しているとみることができる。 広島市横川の駅前交差点では、従来の軌道と電停を付け替え、駅に斜めに直進するようにした。ここでは、自動車交通に優先する軌道の特異な位置づけが如実に了解される ( 図 3-3-8)。

図 3 - 3 - 8 直線・直交軸系から逸脱した軌道敷敷設 ( 横川 )

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第3章 都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察 3 . 3 L R T の「親近性」から見た軌道敷の象徴的意味

軌道の位置 - サイドリザベーション方式は「親近性」を高めるか

 LRT の軌道の道路断面における位置は、わが国の軌道法によって道路中央 ( センターリザベーション方式、以下 CR 方式 ) と定められている。この方式では、LRT 利用者は乗降の際に歩道 - 電停間を歩行者用横断信号にしたがって横断しなくてはならない。海外諸都市で見られる道路側方(サイドリザベーション方式、以下 SR方式 )の軌道は、わが国では札幌で一部区間に例外的に採用されている ( 今後、SR 方式の採用が可能になるよう、軌道法の見直しが行われるようである )。この方式であれば、利用者は歩道でバスを待つごとく、車道を横断せずに LRT 乗降が可能となる。乗降にかかる利便性という観点からすれば、SR 方式が CR方式よりも有利であるように思われる。たしかに、車椅子利用者にとっては、SR方式がプラスである

ことには疑いがない。しかしながら、SR 方式の欠点も注意深く検討される必要があろう。 まず、SR 方式の軌道敷では、これが原則自動車進入禁止だとしても、バス、タクシー、一般車の乗降客の便宜を顧慮しないわけにはいくまい。つまり、SR 方式では、右左折・転回・横断に加えて乗客乗降のための自動車の軌道敷進入と、さらにはその軌道敷上での一時停止を招くということになる。さらに、自転車利用者が軌道敷をつかって走行する可能性もある。これらのことが、LRT の定時運行を脅かす怖れはあり、定時性が確保できなければ、LRT 利用者は不利益を被ることになる。 また、バスなどの大型車両の進入が常態化すれば、少なくともバス停留所付近においては軌道敷の板石舗装の採用は困難となろう。断続的な板石舗装が街路に格調をもたらすに足るかどうかは検討を要する。

 以上、2つの懸念材料は、LRT の優位性が、自動車利用者への便宜そのものによって薄められることになりかねない、という意味を含んでいる。 いっぽう、乗客乗降のために軌道敷を利用する自動車から歩行者を守るために、あるいは、歩行者がタクシーを捕まえるために軌道敷に踏み込んでこれを待つという事態を回避するために、歩道と軌道敷の間に断続的に安全柵が設置される可能性もある。こうなると軌道敷は歩道に隣接しながらむしろ心理的には歩行者と分離されるという状況になろう。 CR 方式では、利用者の乗り間違えなどの対応にさほどの不便は生じない。電停の間の軌道敷を経て反対側のホームに移動するだけである。しかし、SR 方式では、信号交差点経由で反対車線に移動するという、場所によっては相当の不便を強いられることになる。

補論 - 架線の意味

 路面電車にしろ、LRT にしろ、その架線はしばしば景観上のノイズとみなされてきた。しかし、LRT が徹底して自動車「非」利用者に寄り添った交通システムである限り、それを電気的に誘導する架線システムを悪役扱いするのは単純すぎまいか。むしろ、架線を取り去っただけではたしてそこに美しい都市景観が現出するのかどうか、冷静に分析することも必要だろう。 架線は、軌道とともに LRT の「道しるべ」であり、ある意味では「花道」を飾る要素だと考えて、相応のあり方を検討すべきだろう。なんといっても、中央柱 ( センターポール ) 方式は、もっともわかりやすく良好な「花道」を生み出す ( 図 3-3-9)。しかし、側柱 ( サイドポール ) 方式でも、照明柱の意匠と架線指示の方法をリンクさせることで、美しい「花道」を生み出すことはできる (図3-3-10)。

図 3 - 3 - 9 中央柱方式がつくる秩序だった「花道」 ( 左:原爆ドーム前 , 右:元宇品 ) 図 3 - 3 - 1 0 側柱方式でも , デザイン次第で「花道」を彩ることは可能 ( 御幸橋 )

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3.

 低床車両で床上に突出するタイヤハウス , モータボックスは、座席配置に制約を与える。結

果として、低床車両は「乗降しやすいが、着・離席、車内移動がしづらい」という弱点を露

呈しているように思われる。この点、狭軌に比べれば標準軌でやや有利であるが、それでも

本質的に改善されるとは言いがたい。わが国の都市状況に鑑みて軌間の変更が現実的でない。

とすれば、駆動システムの革新がない限り、この問題の解決は困難であろう。

 しかし、見方を変えれば、「乗降しづらいが着・離席、車内移動がしやすい」非低床の旧型

車両が、その逆の低床車両と併存することの意味が出てくる。運行頻度が高ければ、利用者

はいずれか乗りやすい車両を選択できるからである。広島電鉄で、次に到着する車両が低床

型かそうでないかを電停で電光掲示するシステムも採用しているが、合理的な方法だと言え

よう。

 ここでは、利用者による車両の選択可能性も視野に入れて、LRT、路面電車への親近性を高

めるための車内空間のデザインのさらなる課題を検討する。

4

29

3.4 LRT への「親近性」を高める車両デザイン

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低床車両 - 座席台としてのタイヤハウス

第3章 3 . 4 L R T への「親近性」を高める車両デザイン - 利用の観点から都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察

 低床車両では台車を収めるタイヤハウスが、床上窓際に突出する。車両の形態によって台車の位置が異なり、したがって、タイヤハウスの突出位置も異なるし、モータを台車から放して配置した形態では、モータボックスが床上に突出することもある。これら、駆動系のボックスを座席台として利用せざるを得ないことが、低床車両に窮屈さをもたらしている。 モータボックスは比較的小さいが、タイヤハウスは大きい。これを小さくするために様々な工夫が施されているようだが、その一つは連接車の採用である。曲線軌道区間での台車の変位 ( ボギー角 ) を最小限にするため、台車の変位と車体自体の変位を一致させるように車体を分割し、連接するのである。

 2台車2車体の連接車では、台車がそれぞれの車体の中央付近に配置されるが、駆動系のボックスが床上のかなりの範囲に突出する ( 図3-4-1(d) の緑色の部分 )。2台車3車体の連接車では、中間がフローティング形式である。フローティング車体ではその床全面がフラットとなって自由に座席をレイアウトできるメリットがあるが、その代わりに先頭と後尾車体は低床面率が相当に小さくなる ( 図 3-4-1(e)(f) の緑色の部分 )。 いずれにしても、問題はタイヤハウスである。一般に、タイヤハウスはこれを座席台として利用するにしても、使いやすい座席寸法とはなかなか整合しない。 小径車輪が採用されているらしいが、タイヤ

 一定の通路幅を確保する必要がある以上、クロスシートで二人掛座席を通路の左右に対称に展開する余裕はない。そこで、通路を挟んだ左右の座席幅を非対称にし、一方を2人掛、他方を 1.5 人掛もしくは1人掛とするなどの方法が採用されている。 広島電鉄のグリーンムーバでは、座席台に1人掛サイズの背もたれと座面を固定した車両も見られる。残る 0.5 人分は座席とせず、空きスペースとしている。ここはちょっとした荷物置きとしても使用可能である。しかし、駆動系のボックスに座席がいかにも貼付けられたという外観で、意匠的には成功しているとは言えない ( 図 3-4-5)。 富山ライトレール・ポートラムでは、駆動系ボックスを座面で覆い、座席がそこに貼付けられたと

 座席の問題を残しながらも、低床車両は乗降しやすい。旧型の非低床車両に乗降した後に低床車両を利用すると、その乗降しやすさが強く印象づけられる。いわゆる超低床車両では、床面とプラットフォームレベルとがほぼ同面 ( どうづら ) であり( 図 3-4-10)、このことが実用上はもちろん、心理的にもストレスフリーを生んでいると言えよう。車両に乗る、車両から降りるという意識が希薄になるほど、自然に移動できるのである。 これに比べれば、低床ながら床高さの違いから生じるプラットフォームとの小さな段差すら、抵抗感を拭えない ( 図 3-4-11)。もちろん、車椅子利用者には実際的なバリアになる。 いったん低床車両を経験してしまうと、旧型車両の乗降のしづらさが際立って感じられる。従来の電車の床がいかに高いかを思い知らされる ( 図3-4-12)。踏み台を設置して乗降の便宜を図ったり、乗降口だけ床面を少し傾斜させてステップの蹴上げを低く抑えたり ( 図 3-4-13) と、工夫はみられるが、どう頑張っても根本的ストレスは解消されない。車椅子利用者の乗降は絶望的であり、そうでなくとも、足腰に自身がない人は、乗降を拒まれているように感じるだろう。

 低床車両は、車両床とプラットフォームとが同面であるという点で、とくに車椅子利用者やベビーカー利用者にとってのバリアが小さい。 それでも、バリアが生じる場合がある。それは、軌道がカーブした箇所での電停プラットフォームと乗降口との間隙である ( 図 3-4-14)。些細なことのようであるが、この間隙は車椅子利用者にとってはバリアになりうる。広電西広島駅ではプラットフォームの縁でゴム製の足場を延伸させてこの間隙を小さくしているが、内輪差の影響で間隙は

ハウスに座席を設置すると、通常の座席に比べて座面が高くなり過ぎる。この場合、座席の足下を通路床よりやや高く嵩上げして座面高さを調整するか、さもなければ高いまま使用に供するかしなくてはならない。 また、パラレルシートの座席台とするには座面の奥行が大きくなりすぎる。つまり、背もたれが遠くなりすぎて座りづらい。これをクロスシートの座席台とすると、今度は、座面の幅が中途半端である。1人掛けには広く、2人掛けには狭い。 広島電鉄のグリーンムーバは3台車3車体の全低床で、そのフローティング車体では、駆動系のボックスから解放された座席配置が可能になっている ( 図 3-4-2)。富山ライトレール・ポートラムは2台車2車体で、車体中央の台車上ではクロス

いう印象を弱めようとしていることがわかる ( 図3-4-3 前掲 )。座面をタイヤハウスより通路側にはみ出させて 1.5 人掛スペースを2人掛風にアレンジするなど、狭軌であるための苦心の痕もある。だが、車内が意匠的にきれいにまとまっているだけに、ここにおけるサイズの「不整合」がかえって目に付く ( 図 3-4-6)。 いずれにしても、駆動系のボックスを座席台とした LRT のクロスシートは大変窮屈である ( 図3-4-7)。通路側の乗客は半身にならなければ座れないような状況もおこる。このとき、足は、座席足下と通路面との段差に跨がって置かれることになる。4人掛を想定した対面式のボックスシートも、実用上は、せいぜい二人が斜向いに座るだけのスペースしかない。これらに対して変則的な座席も

詰め切れないとみられる箇所もあった ( 図 3-4-15)。フランスでは、電車停車時にこの足場を電動でシフトさせて間隙を詰めている例もある。 いっぽう、車両のデザインによっては、直線区間のプラットフォームでも間隙が生じる。広島電鉄新型車両の乗降口は戸袋のないデザインで、開口時はドアが車外側にシフトする。したがって、その余裕を車体とプラットフォームとの間に確保しなくてはならない。戸袋式は維持管理上の難点があるというが、車両外壁の位置が固定されると

考案されている ( 図 3-4-8) が、座席として素直なかたちとは言えず、意匠的には今ひとつというところである。 低床車両であらかじめ座席配置を考慮した駆動

いう点でプラットフォームとの間隙調整に有利であり、低床車両ではもっと重視されてよい。 低床車両では、乗降のバリア解消を徹底するいっぽうで、車椅子やベビーカー利用者のための車内空間のデザインもまた重要である。 広島電鉄のグリーンムーバのフローティング車体では、乗降口付近に車椅子 , ベビーカー利用を考慮した優先席が設けられている。ここには座席はなく、フラットなオープンスペースとなっており、窓際に車椅子固定用ベルトが設置されている ( 図

3-4-16)。この優先席は、窓際がスタンドベンチのようにデザインされているため、通常の利用者が軽く腰掛けることもできる。ここに優先席を必要とする人が乗車してきた時には迅速に離席できる。

シートの足下での嵩上げを行い ( 図 3-4-3)、モータボックスはパラレルシートとしている ( 図3-4-4)。

系の開発がまたれるところだろう。現状では、旧型車両の昔ながらのロングシートを好む人がいるのも無理はない ( 図 3-4-9)。筆者らは、利用者のその種の会話を実際に耳にしている。

図 3 - 4 - 1 台車・車体構造と低床の関係 ( 右3つが全低床型 )(*8) 図 3 - 4 - 2 フローティング車体の座席/広島電鉄 ( グリーンムーバ )

図 3 - 4 - 3 クロスシート足下床の嵩上げ/富山ライトレール( ポートラム )

図 3 - 4 - 4 モータボックス上のパラレルシート( 右手前 ) /富山ライトレール ( ポートラム )

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第3章

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低床車両 - クロスシートの問題点

3.4 L R T への「親近性」を高める車両デザイン - 利用の観点から都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察

 2台車2車体の連接車では、台車がそれぞれの車体の中央付近に配置されるが、駆動系のボックスが床上のかなりの範囲に突出する ( 図3-4-1(d) の緑色の部分 )。2台車3車体の連接車では、中間がフローティング形式である。フローティング車体ではその床全面がフラットとなって自由に座席をレイアウトできるメリットがあるが、その代わりに先頭と後尾車体は低床面率が相当に小さくなる ( 図 3-4-1(e)(f) の緑色の部分 )。 いずれにしても、問題はタイヤハウスである。一般に、タイヤハウスはこれを座席台として利用するにしても、使いやすい座席寸法とはなかなか整合しない。 小径車輪が採用されているらしいが、タイヤ

 一定の通路幅を確保する必要がある以上、クロスシートで二人掛座席を通路の左右に対称に展開する余裕はない。そこで、通路を挟んだ左右の座席幅を非対称にし、一方を2人掛、他方を 1.5 人掛もしくは1人掛とするなどの方法が採用されている。 広島電鉄のグリーンムーバでは、座席台に1人掛サイズの背もたれと座面を固定した車両も見られる。残る 0.5 人分は座席とせず、空きスペースとしている。ここはちょっとした荷物置きとしても使用可能である。しかし、駆動系のボックスに座席がいかにも貼付けられたという外観で、意匠的には成功しているとは言えない ( 図 3-4-5)。 富山ライトレール・ポートラムでは、駆動系ボックスを座面で覆い、座席がそこに貼付けられたと

 座席の問題を残しながらも、低床車両は乗降しやすい。旧型の非低床車両に乗降した後に低床車両を利用すると、その乗降しやすさが強く印象づけられる。いわゆる超低床車両では、床面とプラットフォームレベルとがほぼ同面 ( どうづら ) であり( 図 3-4-10)、このことが実用上はもちろん、心理的にもストレスフリーを生んでいると言えよう。車両に乗る、車両から降りるという意識が希薄になるほど、自然に移動できるのである。 これに比べれば、低床ながら床高さの違いから生じるプラットフォームとの小さな段差すら、抵抗感を拭えない ( 図 3-4-11)。もちろん、車椅子利用者には実際的なバリアになる。 いったん低床車両を経験してしまうと、旧型車両の乗降のしづらさが際立って感じられる。従来の電車の床がいかに高いかを思い知らされる ( 図3-4-12)。踏み台を設置して乗降の便宜を図ったり、乗降口だけ床面を少し傾斜させてステップの蹴上げを低く抑えたり ( 図 3-4-13) と、工夫はみられるが、どう頑張っても根本的ストレスは解消されない。車椅子利用者の乗降は絶望的であり、そうでなくとも、足腰に自身がない人は、乗降を拒まれているように感じるだろう。

 低床車両は、車両床とプラットフォームとが同面であるという点で、とくに車椅子利用者やベビーカー利用者にとってのバリアが小さい。 それでも、バリアが生じる場合がある。それは、軌道がカーブした箇所での電停プラットフォームと乗降口との間隙である ( 図 3-4-14)。些細なことのようであるが、この間隙は車椅子利用者にとってはバリアになりうる。広電西広島駅ではプラットフォームの縁でゴム製の足場を延伸させてこの間隙を小さくしているが、内輪差の影響で間隙は

ハウスに座席を設置すると、通常の座席に比べて座面が高くなり過ぎる。この場合、座席の足下を通路床よりやや高く嵩上げして座面高さを調整するか、さもなければ高いまま使用に供するかしなくてはならない。 また、パラレルシートの座席台とするには座面の奥行が大きくなりすぎる。つまり、背もたれが遠くなりすぎて座りづらい。これをクロスシートの座席台とすると、今度は、座面の幅が中途半端である。1人掛けには広く、2人掛けには狭い。 広島電鉄のグリーンムーバは3台車3車体の全低床で、そのフローティング車体では、駆動系のボックスから解放された座席配置が可能になっている ( 図 3-4-2)。富山ライトレール・ポートラムは2台車2車体で、車体中央の台車上ではクロス

いう印象を弱めようとしていることがわかる ( 図3-4-3 前掲 )。座面をタイヤハウスより通路側にはみ出させて 1.5 人掛スペースを2人掛風にアレンジするなど、狭軌であるための苦心の痕もある。だが、車内が意匠的にきれいにまとまっているだけに、ここにおけるサイズの「不整合」がかえって目に付く ( 図 3-4-6)。 いずれにしても、駆動系のボックスを座席台とした LRT のクロスシートは大変窮屈である ( 図3-4-7)。通路側の乗客は半身にならなければ座れないような状況もおこる。このとき、足は、座席足下と通路面との段差に跨がって置かれることになる。4人掛を想定した対面式のボックスシートも、実用上は、せいぜい二人が斜向いに座るだけのスペースしかない。これらに対して変則的な座席も

詰め切れないとみられる箇所もあった ( 図 3-4-15)。フランスでは、電車停車時にこの足場を電動でシフトさせて間隙を詰めている例もある。 いっぽう、車両のデザインによっては、直線区間のプラットフォームでも間隙が生じる。広島電鉄新型車両の乗降口は戸袋のないデザインで、開口時はドアが車外側にシフトする。したがって、その余裕を車体とプラットフォームとの間に確保しなくてはならない。戸袋式は維持管理上の難点があるというが、車両外壁の位置が固定されると

考案されている ( 図 3-4-8) が、座席として素直なかたちとは言えず、意匠的には今ひとつというところである。 低床車両であらかじめ座席配置を考慮した駆動

いう点でプラットフォームとの間隙調整に有利であり、低床車両ではもっと重視されてよい。 低床車両では、乗降のバリア解消を徹底するいっぽうで、車椅子やベビーカー利用者のための車内空間のデザインもまた重要である。 広島電鉄のグリーンムーバのフローティング車体では、乗降口付近に車椅子 , ベビーカー利用を考慮した優先席が設けられている。ここには座席はなく、フラットなオープンスペースとなっており、窓際に車椅子固定用ベルトが設置されている ( 図

3-4-16)。この優先席は、窓際がスタンドベンチのようにデザインされているため、通常の利用者が軽く腰掛けることもできる。ここに優先席を必要とする人が乗車してきた時には迅速に離席できる。

シートの足下での嵩上げを行い ( 図 3-4-3)、モータボックスはパラレルシートとしている ( 図3-4-4)。

系の開発がまたれるところだろう。現状では、旧型車両の昔ながらのロングシートを好む人がいるのも無理はない ( 図 3-4-9)。筆者らは、利用者のその種の会話を実際に耳にしている。

図 3-4-5 1人掛のクロスシート/広島電鉄 ( グリーンムーバ ) 図 3-4-6 座席幅確保の工夫/富山ライトレール ( セントラム ) 図 3-4-7 窮屈なクロスシート/富山ライトレール ( ポートラム ) 図 3-4-8 変則的なクロスシート/広島電鉄 ( グリーンムーバ )

図 3 - 4 - 9 旧型車両の昔ながらのパラレルシート/広島電鉄

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第3章

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低床車両 - 乗降のストレスフリー

3.4 L R T への「親近性」を高める車両デザイン - 利用の観点から都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察

 2台車2車体の連接車では、台車がそれぞれの車体の中央付近に配置されるが、駆動系のボックスが床上のかなりの範囲に突出する ( 図3-4-1(d) の緑色の部分 )。2台車3車体の連接車では、中間がフローティング形式である。フローティング車体ではその床全面がフラットとなって自由に座席をレイアウトできるメリットがあるが、その代わりに先頭と後尾車体は低床面率が相当に小さくなる ( 図 3-4-1(e)(f) の緑色の部分 )。 いずれにしても、問題はタイヤハウスである。一般に、タイヤハウスはこれを座席台として利用するにしても、使いやすい座席寸法とはなかなか整合しない。 小径車輪が採用されているらしいが、タイヤ

 一定の通路幅を確保する必要がある以上、クロスシートで二人掛座席を通路の左右に対称に展開する余裕はない。そこで、通路を挟んだ左右の座席幅を非対称にし、一方を2人掛、他方を 1.5 人掛もしくは1人掛とするなどの方法が採用されている。 広島電鉄のグリーンムーバでは、座席台に1人掛サイズの背もたれと座面を固定した車両も見られる。残る 0.5 人分は座席とせず、空きスペースとしている。ここはちょっとした荷物置きとしても使用可能である。しかし、駆動系のボックスに座席がいかにも貼付けられたという外観で、意匠的には成功しているとは言えない ( 図 3-4-5)。 富山ライトレール・ポートラムでは、駆動系ボックスを座面で覆い、座席がそこに貼付けられたと

 座席の問題を残しながらも、低床車両は乗降しやすい。旧型の非低床車両に乗降した後に低床車両を利用すると、その乗降しやすさが強く印象づけられる。いわゆる超低床車両では、床面とプラットフォームレベルとがほぼ同面 ( どうづら ) であり( 図 3-4-10)、このことが実用上はもちろん、心理的にもストレスフリーを生んでいると言えよう。車両に乗る、車両から降りるという意識が希薄になるほど、自然に移動できるのである。 これに比べれば、低床ながら床高さの違いから生じるプラットフォームとの小さな段差すら、抵抗感を拭えない ( 図 3-4-11)。もちろん、車椅子利用者には実際的なバリアになる。 いったん低床車両を経験してしまうと、旧型車両の乗降のしづらさが際立って感じられる。従来の電車の床がいかに高いかを思い知らされる ( 図3-4-12)。踏み台を設置して乗降の便宜を図ったり、乗降口だけ床面を少し傾斜させてステップの蹴上げを低く抑えたり ( 図 3-4-13) と、工夫はみられるが、どう頑張っても根本的ストレスは解消されない。車椅子利用者の乗降は絶望的であり、そうでなくとも、足腰に自身がない人は、乗降を拒まれているように感じるだろう。

 低床車両は、車両床とプラットフォームとが同面であるという点で、とくに車椅子利用者やベビーカー利用者にとってのバリアが小さい。 それでも、バリアが生じる場合がある。それは、軌道がカーブした箇所での電停プラットフォームと乗降口との間隙である ( 図 3-4-14)。些細なことのようであるが、この間隙は車椅子利用者にとってはバリアになりうる。広電西広島駅ではプラットフォームの縁でゴム製の足場を延伸させてこの間隙を小さくしているが、内輪差の影響で間隙は

ハウスに座席を設置すると、通常の座席に比べて座面が高くなり過ぎる。この場合、座席の足下を通路床よりやや高く嵩上げして座面高さを調整するか、さもなければ高いまま使用に供するかしなくてはならない。 また、パラレルシートの座席台とするには座面の奥行が大きくなりすぎる。つまり、背もたれが遠くなりすぎて座りづらい。これをクロスシートの座席台とすると、今度は、座面の幅が中途半端である。1人掛けには広く、2人掛けには狭い。 広島電鉄のグリーンムーバは3台車3車体の全低床で、そのフローティング車体では、駆動系のボックスから解放された座席配置が可能になっている ( 図 3-4-2)。富山ライトレール・ポートラムは2台車2車体で、車体中央の台車上ではクロス

いう印象を弱めようとしていることがわかる ( 図3-4-3 前掲 )。座面をタイヤハウスより通路側にはみ出させて 1.5 人掛スペースを2人掛風にアレンジするなど、狭軌であるための苦心の痕もある。だが、車内が意匠的にきれいにまとまっているだけに、ここにおけるサイズの「不整合」がかえって目に付く ( 図 3-4-6)。 いずれにしても、駆動系のボックスを座席台とした LRT のクロスシートは大変窮屈である ( 図3-4-7)。通路側の乗客は半身にならなければ座れないような状況もおこる。このとき、足は、座席足下と通路面との段差に跨がって置かれることになる。4人掛を想定した対面式のボックスシートも、実用上は、せいぜい二人が斜向いに座るだけのスペースしかない。これらに対して変則的な座席も

詰め切れないとみられる箇所もあった ( 図 3-4-15)。フランスでは、電車停車時にこの足場を電動でシフトさせて間隙を詰めている例もある。 いっぽう、車両のデザインによっては、直線区間のプラットフォームでも間隙が生じる。広島電鉄新型車両の乗降口は戸袋のないデザインで、開口時はドアが車外側にシフトする。したがって、その余裕を車体とプラットフォームとの間に確保しなくてはならない。戸袋式は維持管理上の難点があるというが、車両外壁の位置が固定されると

考案されている ( 図 3-4-8) が、座席として素直なかたちとは言えず、意匠的には今ひとつというところである。 低床車両であらかじめ座席配置を考慮した駆動

いう点でプラットフォームとの間隙調整に有利であり、低床車両ではもっと重視されてよい。 低床車両では、乗降のバリア解消を徹底するいっぽうで、車椅子やベビーカー利用者のための車内空間のデザインもまた重要である。 広島電鉄のグリーンムーバのフローティング車体では、乗降口付近に車椅子 , ベビーカー利用を考慮した優先席が設けられている。ここには座席はなく、フラットなオープンスペースとなっており、窓際に車椅子固定用ベルトが設置されている ( 図

3-4-16)。この優先席は、窓際がスタンドベンチのようにデザインされているため、通常の利用者が軽く腰掛けることもできる。ここに優先席を必要とする人が乗車してきた時には迅速に離席できる。

シートの足下での嵩上げを行い ( 図 3-4-3)、モータボックスはパラレルシートとしている ( 図3-4-4)。

系の開発がまたれるところだろう。現状では、旧型車両の昔ながらのロングシートを好む人がいるのも無理はない ( 図 3-4-9)。筆者らは、利用者のその種の会話を実際に耳にしている。

図 3 - 4 - 1 0 床とプラットフォームが同面/広島電鉄 横川駅(グリーンムーバ)

図 3-4 - 11 床がプラットフォームよりわずかに高い/広島電鉄 西広島駅 ( グリーンムーバ )

図 3 - 4 - 1 3 旧型車両の乗降口/広島電鉄

図 3 - 4 - 1 2 旧型車両の床の高さ/広島電鉄

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第3章

33

低床車両 - 車椅子利用者のために

3.4 L R T への「親近性」を高める車両デザイン - 利用の観点から都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察

 2台車2車体の連接車では、台車がそれぞれの車体の中央付近に配置されるが、駆動系のボックスが床上のかなりの範囲に突出する ( 図3-4-1(d) の緑色の部分 )。2台車3車体の連接車では、中間がフローティング形式である。フローティング車体ではその床全面がフラットとなって自由に座席をレイアウトできるメリットがあるが、その代わりに先頭と後尾車体は低床面率が相当に小さくなる ( 図 3-4-1(e)(f) の緑色の部分 )。 いずれにしても、問題はタイヤハウスである。一般に、タイヤハウスはこれを座席台として利用するにしても、使いやすい座席寸法とはなかなか整合しない。 小径車輪が採用されているらしいが、タイヤ

 一定の通路幅を確保する必要がある以上、クロスシートで二人掛座席を通路の左右に対称に展開する余裕はない。そこで、通路を挟んだ左右の座席幅を非対称にし、一方を2人掛、他方を 1.5 人掛もしくは1人掛とするなどの方法が採用されている。 広島電鉄のグリーンムーバでは、座席台に1人掛サイズの背もたれと座面を固定した車両も見られる。残る 0.5 人分は座席とせず、空きスペースとしている。ここはちょっとした荷物置きとしても使用可能である。しかし、駆動系のボックスに座席がいかにも貼付けられたという外観で、意匠的には成功しているとは言えない ( 図 3-4-5)。 富山ライトレール・ポートラムでは、駆動系ボックスを座面で覆い、座席がそこに貼付けられたと

 座席の問題を残しながらも、低床車両は乗降しやすい。旧型の非低床車両に乗降した後に低床車両を利用すると、その乗降しやすさが強く印象づけられる。いわゆる超低床車両では、床面とプラットフォームレベルとがほぼ同面 ( どうづら ) であり( 図 3-4-10)、このことが実用上はもちろん、心理的にもストレスフリーを生んでいると言えよう。車両に乗る、車両から降りるという意識が希薄になるほど、自然に移動できるのである。 これに比べれば、低床ながら床高さの違いから生じるプラットフォームとの小さな段差すら、抵抗感を拭えない ( 図 3-4-11)。もちろん、車椅子利用者には実際的なバリアになる。 いったん低床車両を経験してしまうと、旧型車両の乗降のしづらさが際立って感じられる。従来の電車の床がいかに高いかを思い知らされる ( 図3-4-12)。踏み台を設置して乗降の便宜を図ったり、乗降口だけ床面を少し傾斜させてステップの蹴上げを低く抑えたり ( 図 3-4-13) と、工夫はみられるが、どう頑張っても根本的ストレスは解消されない。車椅子利用者の乗降は絶望的であり、そうでなくとも、足腰に自身がない人は、乗降を拒まれているように感じるだろう。

 低床車両は、車両床とプラットフォームとが同面であるという点で、とくに車椅子利用者やベビーカー利用者にとってのバリアが小さい。 それでも、バリアが生じる場合がある。それは、軌道がカーブした箇所での電停プラットフォームと乗降口との間隙である ( 図 3-4-14)。些細なことのようであるが、この間隙は車椅子利用者にとってはバリアになりうる。広電西広島駅ではプラットフォームの縁でゴム製の足場を延伸させてこの間隙を小さくしているが、内輪差の影響で間隙は

ハウスに座席を設置すると、通常の座席に比べて座面が高くなり過ぎる。この場合、座席の足下を通路床よりやや高く嵩上げして座面高さを調整するか、さもなければ高いまま使用に供するかしなくてはならない。 また、パラレルシートの座席台とするには座面の奥行が大きくなりすぎる。つまり、背もたれが遠くなりすぎて座りづらい。これをクロスシートの座席台とすると、今度は、座面の幅が中途半端である。1人掛けには広く、2人掛けには狭い。 広島電鉄のグリーンムーバは3台車3車体の全低床で、そのフローティング車体では、駆動系のボックスから解放された座席配置が可能になっている ( 図 3-4-2)。富山ライトレール・ポートラムは2台車2車体で、車体中央の台車上ではクロス

いう印象を弱めようとしていることがわかる ( 図3-4-3 前掲 )。座面をタイヤハウスより通路側にはみ出させて 1.5 人掛スペースを2人掛風にアレンジするなど、狭軌であるための苦心の痕もある。だが、車内が意匠的にきれいにまとまっているだけに、ここにおけるサイズの「不整合」がかえって目に付く ( 図 3-4-6)。 いずれにしても、駆動系のボックスを座席台とした LRT のクロスシートは大変窮屈である ( 図3-4-7)。通路側の乗客は半身にならなければ座れないような状況もおこる。このとき、足は、座席足下と通路面との段差に跨がって置かれることになる。4人掛を想定した対面式のボックスシートも、実用上は、せいぜい二人が斜向いに座るだけのスペースしかない。これらに対して変則的な座席も

詰め切れないとみられる箇所もあった ( 図 3-4-15)。フランスでは、電車停車時にこの足場を電動でシフトさせて間隙を詰めている例もある。 いっぽう、車両のデザインによっては、直線区間のプラットフォームでも間隙が生じる。広島電鉄新型車両の乗降口は戸袋のないデザインで、開口時はドアが車外側にシフトする。したがって、その余裕を車体とプラットフォームとの間に確保しなくてはならない。戸袋式は維持管理上の難点があるというが、車両外壁の位置が固定されると

考案されている ( 図 3-4-8) が、座席として素直なかたちとは言えず、意匠的には今ひとつというところである。 低床車両であらかじめ座席配置を考慮した駆動

いう点でプラットフォームとの間隙調整に有利であり、低床車両ではもっと重視されてよい。 低床車両では、乗降のバリア解消を徹底するいっぽうで、車椅子やベビーカー利用者のための車内空間のデザインもまた重要である。 広島電鉄のグリーンムーバのフローティング車体では、乗降口付近に車椅子 , ベビーカー利用を考慮した優先席が設けられている。ここには座席はなく、フラットなオープンスペースとなっており、窓際に車椅子固定用ベルトが設置されている ( 図

3-4-16)。この優先席は、窓際がスタンドベンチのようにデザインされているため、通常の利用者が軽く腰掛けることもできる。ここに優先席を必要とする人が乗車してきた時には迅速に離席できる。

シートの足下での嵩上げを行い ( 図 3-4-3)、モータボックスはパラレルシートとしている ( 図3-4-4)。

系の開発がまたれるところだろう。現状では、旧型車両の昔ながらのロングシートを好む人がいるのも無理はない ( 図 3-4-9)。筆者らは、利用者のその種の会話を実際に耳にしている。

図 3 - 4 - 1 4 カーブ区間のフォームと車両床の間隙/広島電鉄 西広島駅

図 3 - 4 - 1 5 間隙を埋めるためのゴム製足場/広島電鉄 西広島駅 図 3 - 4 - 1 6 低床車両の優先席/広島電鉄 ( グリーンムーバ )

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3.

 ここでは、LRT の停留所(以下電停)に注目し、そのデザインが「親近性」創出に果たす意

義を検討する。まずは電停の法規上の位置付けを確認し、電停における制約を整理した上で、

電停における諸要素が、LRT の「親近性」醸成に寄与すると同時に、電停の「特権性」を強調

する可能性について論じる。

5

34

3.5 LRT の「親近性」からみた電停の意義とその「特権性」

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図 3 - 5 - 2 広島市には道路幅員の制約から平面停留場が存在している(広電小網町電停) 図 3 - 5 - 3 低床型車両(L R V)設計図面(*9)

図 3-5-1 車道中央に位置する電停(富山市内)

電停をめぐる法制度的な規定 物理的な制約条件

第3章 3 . 5 L R T の「親近性」からみた電停の意義とその「特権性」都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察

35

 電停は道路交通法により安全地帯として規定され、車両の進入が禁止される領域である。電停は、周囲の交通に対して徐行や一旦停止、駐車禁止を要求するなど、優先的な地位を与えられている。この一方で、道交法上は高低差のある安全地帯(プラットフォーム)を設ける義務は定められていない(図 3-5-1)。この意味で、高低差のある安全地帯は義務ではなく、車両進入禁止の帰結として生まれたと理解すべきであろう。 このように、電停の構造は法規上一切の制約を持たないことになるが、調査対象である富山・高岡・広島の3市では、高低差を伴う電停が大多数を占めている。(図 3-5-2)。本調査においてはデザイン上の観点からこの高低差の持つ意味を吟味する必要がある。

 構造に関する法規上の制約が少ないことを述べたが、LRT というシステムを運用する観点から見ても、電停に要請される物理的な制約はごく限られており、このことが設計の自由度を高めている。 たとえば、LRT を含む路面電車一般に共通する特徴として、改札などの付随設備をともなわないことが挙げられる。鉄道駅と比較してもかなり簡素な作りとなっており、駅というよりはむしろバス停などと同じく停留所に類するものと言える。 現在、国内で見られる LRT のほとんどが、車道の中央を走る CR方式である(3.3 節を参照)。CR方式の軌道で見られる電停の多くは、車道の中央に位置する島型電停である。このため電停へのアクセスは、電停の一端を横断歩道に接しているものが多いが、狭小な街路においてはそのような横断歩道が設置されていないところも存在している。また、地下街が発達しているエリアでは、地下道を経由して電停に向かうものも存在している。場所によっては電光掲示板による接近表示などの情報が提供されるものもあるが、ベンチや屋

根だけでなく横断防止柵さえも設置しない質素なものもある。 安全地帯には法規上の制約がないものの、国交省の定める縁石の構造基準にも合致する「車道面から 15 センチ」以上を持ち上げたものが多い。また、近年導入が進んでいる低床車両(LRV)の床面に合わせて 300mm~350mmほどの厚みを持つものも市街地を中心に多く確認された(図3-5-3)。 このように、車両に乗り込むために十分なステップとなれば、あとは自由に設計できることから、LRT の沿線では多様な電停を目にすることができるといえよう。

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図 3-5-5 安全地帯のみからなる電停(広島市内)

図 3 - 5 - 4 車道中央に位置する CP 方式の電停(広電本社前電停)

図 3 - 5 - 6 軌道や車道の舗装と一体的に整備された電停(富山市内)

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「親近性」から見た電停の意義とその「特権性」

3.5 L R T の「親近性」からみた電停の意義とその「特権性」都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察第3章

周囲と呼応する「軽やか」な電停

 電停の特徴の一つは、そこに求められる機能が限られているということである。改札がいらず、プラットフォームの段差が低いという電停の特徴は、電停のしつらえに対する制約を自由にし、周辺の街並みと呼応する可能性をつくっている。 狭小な街路にある電停(図 3-5-5)は必要最小限の部分からなっているが、街路の幅員から想定される交通量や電停の利用客の量に見合った必要十分な電停であるかのように思われる。 一方、空間に余裕のある場所では屋根やベンチ、フェンスやスロープなどを丁寧に設計することもできる。ポートラムやセントラムでは、トータルデザインの考えのもと、各電停に共通の意匠を用いたほか、いくつかの電停では、車道やペイブメントに至るまで、街路を一体として整備するなど周囲と呼応した気配りが見られる(図 3-5-6)。広島市内の電停では、これらに加え近接案内表示も導入されている。

 ここでは、電停が「親近性」の創出に果たす役割を検討する。自動車が中心の現代の都市空間において、島型電停はその基幹に割り入って人が滞在できる安全地帯を作り出している(図3-5-4)。安全地帯は法律で守られた道路上の領域であり、軌道に続くもう一つの「聖域」である。 電停は都市で生活する誰しもが容易に LRT の特権性を感じることのできる場所であり、我々は、この「特権性に簡単にアクセスできる」ということこそが、都市を住みこなす人々にとって重要なのではないかと考える。以下では、このことの意味について順を追って検討しよう。

電停と地面との小さな段差が持つ意味

 電停が安全地帯として機能するためには、段差が重要な意味を持つ。すでに述べたように、低床車両(LRV)の床面は地面から 300~350mmあり、多くのプラットフォームは、車両との間に段差が生じないよう、これに合わせて設計されている。 このような電停と地面との段差は、単に車両に乗り込むためのステップとなるだけでなく、物理的にも車両の侵入を牽制している(図 3-5-7)。 このような段差があるおかげで、自動車が中心の車道中央において、車両が入ることのできない人のための領域を確保でき、電停を利用する人々に少なからぬ安心感をもたらしている(図 3-5-8)。 また、電停の段差は、鉄道駅のそれと比べると小さく、歩行者が簡単に踏み越えられるほどの厚みしかない。視覚的にアクセスの容易さが確認でき、心理的な距離感も近く感じられるほか、たとえば板石舗装といった軌道の仕上げ方によってはさらに親近感を増すことも考えられる。 転落しても大きな事故の心配がなく子連れ客が気負わず利用できることは、鉄道とは大きく異なる印象を与えている(図3-5-9)。

「聖域」に対して唯一優位な存在

 3.3 節において軌道敷が「聖域」であるという見方を示した。電停はこの軌道敷沿いにあって、LRT を含む他のあらゆる交通から守られるという点において、この「聖域」よりも優位な存在と位置付けることができる。 軌道は他の侵入を許さない聖域としてヴィスタを確保しているが、電停からはこのヴィスタを覗き込むことによって、一目で LRT の往来の様子を把握することができる。このような視点からは、レールの消失点に向かって軌道沿いに視点が吸い込まれていくような感覚を得る。まさにこれからLRT に乗車して聖域を移動していくことを予感させる(図 3-5-10)。 LRT が「特権的」であるならば、電停はこの特権へアクセスできる唯一の地点として、電車を待つ利用者に独特の高揚感をもたらしていると言える。 前頁の段差の考察と併せて考えれば、身の安全を確保しながら眺望を得ることのできる電停はG・カレンが「タウンスケープ」で紹介したような、飛び地のような魅力的な場所に映るのではないだろうか。

まちの舞台としての電停

 ここまでは利用客の視点から電停を考察したが、最後に電停を外からの視点で眺めてみよう。 傍目に見れば、車道の中央で道路面から一段上げられた電停はさながら舞台のようであり、この領域において人が主役であるように印象付けている。舞台上に上がった利用客は、まちの風景の一部として視線を集め、その姿が多くの人々の目に触れるところとなる(図 3-5-11、 図 3-5-12)。 頻繁に LRT を使う利用者のみならず、この風景を目にするすべての市民にとって LRT が身近な存在となり、市民に広く受け入れられる一つの要因となっていると考えられる。 このような演出的効果は、電停と軌道が「聖域」であることと関係があるといえよう。この「聖域」上には、視線を遮るものがなく、周囲からの視認性も高い。このことが電停を舞台たらしめていると言えるのではないだろうか(図 3-5-13)。 まちの舞台としての電停は、外部と隔絶され、利用する風景が一切まち行く人々の目に触れない地下鉄の駅とは対照的であることは言うまでもない。実際に LRT が街を走り、それを利用する人を目にすると、それだけで「乗ってみたい」という気分にさせられる。LRT を持っている都市では、電停がある種の文化のようになっており、視覚的な意味においても LRT は生活に深く根ざした交通システムであると言うことができる。

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図 3-5-7 地面から 300mm あまり持ち上げられている 図 3-5-8 電停で待つ乗客のすぐ背後を車が通過するが、フェンスの存在も相まって、車両が乗り上げてこない安心感がある

図 3-5-9 段差が小さいおかげでベビーカーを押す乗客も安心して利用できる(横川駅)

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3 . 5 L R T の「親近性」からみた電停の意義とその「特権性」都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察第3章

周囲と呼応する「軽やか」な電停

 電停の特徴の一つは、そこに求められる機能が限られているということである。改札がいらず、プラットフォームの段差が低いという電停の特徴は、電停のしつらえに対する制約を自由にし、周辺の街並みと呼応する可能性をつくっている。 狭小な街路にある電停(図 3-5-5)は必要最小限の部分からなっているが、街路の幅員から想定される交通量や電停の利用客の量に見合った必要十分な電停であるかのように思われる。 一方、空間に余裕のある場所では屋根やベンチ、フェンスやスロープなどを丁寧に設計することもできる。ポートラムやセントラムでは、トータルデザインの考えのもと、各電停に共通の意匠を用いたほか、いくつかの電停では、車道やペイブメントに至るまで、街路を一体として整備するなど周囲と呼応した気配りが見られる(図 3-5-6)。広島市内の電停では、これらに加え近接案内表示も導入されている。

電停と地面との小さな段差が持つ意味

 電停が安全地帯として機能するためには、段差が重要な意味を持つ。すでに述べたように、低床車両(LRV)の床面は地面から 300~350mmあり、多くのプラットフォームは、車両との間に段差が生じないよう、これに合わせて設計されている。 このような電停と地面との段差は、単に車両に乗り込むためのステップとなるだけでなく、物理的にも車両の侵入を牽制している(図 3-5-7)。 このような段差があるおかげで、自動車が中心の車道中央において、車両が入ることのできない人のための領域を確保でき、電停を利用する人々に少なからぬ安心感をもたらしている(図 3-5-8)。 また、電停の段差は、鉄道駅のそれと比べると小さく、歩行者が簡単に踏み越えられるほどの厚みしかない。視覚的にアクセスの容易さが確認でき、心理的な距離感も近く感じられるほか、たとえば板石舗装といった軌道の仕上げ方によってはさらに親近感を増すことも考えられる。 転落しても大きな事故の心配がなく子連れ客が気負わず利用できることは、鉄道とは大きく異なる印象を与えている(図3-5-9)。

「聖域」に対して唯一優位な存在

 3.3 節において軌道敷が「聖域」であるという見方を示した。電停はこの軌道敷沿いにあって、LRT を含む他のあらゆる交通から守られるという点において、この「聖域」よりも優位な存在と位置付けることができる。 軌道は他の侵入を許さない聖域としてヴィスタを確保しているが、電停からはこのヴィスタを覗き込むことによって、一目で LRT の往来の様子を把握することができる。このような視点からは、レールの消失点に向かって軌道沿いに視点が吸い込まれていくような感覚を得る。まさにこれからLRT に乗車して聖域を移動していくことを予感させる(図 3-5-10)。 LRT が「特権的」であるならば、電停はこの特権へアクセスできる唯一の地点として、電車を待つ利用者に独特の高揚感をもたらしていると言える。 前頁の段差の考察と併せて考えれば、身の安全を確保しながら眺望を得ることのできる電停はG・カレンが「タウンスケープ」で紹介したような、飛び地のような魅力的な場所に映るのではないだろうか。

まちの舞台としての電停

 ここまでは利用客の視点から電停を考察したが、最後に電停を外からの視点で眺めてみよう。 傍目に見れば、車道の中央で道路面から一段上げられた電停はさながら舞台のようであり、この領域において人が主役であるように印象付けている。舞台上に上がった利用客は、まちの風景の一部として視線を集め、その姿が多くの人々の目に触れるところとなる(図 3-5-11、 図 3-5-12)。 頻繁に LRT を使う利用者のみならず、この風景を目にするすべての市民にとって LRT が身近な存在となり、市民に広く受け入れられる一つの要因となっていると考えられる。 このような演出的効果は、電停と軌道が「聖域」であることと関係があるといえよう。この「聖域」上には、視線を遮るものがなく、周囲からの視認性も高い。このことが電停を舞台たらしめていると言えるのではないだろうか(図 3-5-13)。 まちの舞台としての電停は、外部と隔絶され、利用する風景が一切まち行く人々の目に触れない地下鉄の駅とは対照的であることは言うまでもない。実際に LRT が街を走り、それを利用する人を目にすると、それだけで「乗ってみたい」という気分にさせられる。LRT を持っている都市では、電停がある種の文化のようになっており、視覚的な意味においても LRT は生活に深く根ざした交通システムであると言うことができる。

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図 3-5-10 レールの消失点に向かって視線が吸い込まれるような感覚を得る(広島市内)

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3 . 5 L R T の「親近性」からみた電停の意義とその「特権性」都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察第3章

周囲と呼応する「軽やか」な電停

 電停の特徴の一つは、そこに求められる機能が限られているということである。改札がいらず、プラットフォームの段差が低いという電停の特徴は、電停のしつらえに対する制約を自由にし、周辺の街並みと呼応する可能性をつくっている。 狭小な街路にある電停(図 3-5-5)は必要最小限の部分からなっているが、街路の幅員から想定される交通量や電停の利用客の量に見合った必要十分な電停であるかのように思われる。 一方、空間に余裕のある場所では屋根やベンチ、フェンスやスロープなどを丁寧に設計することもできる。ポートラムやセントラムでは、トータルデザインの考えのもと、各電停に共通の意匠を用いたほか、いくつかの電停では、車道やペイブメントに至るまで、街路を一体として整備するなど周囲と呼応した気配りが見られる(図 3-5-6)。広島市内の電停では、これらに加え近接案内表示も導入されている。

電停と地面との小さな段差が持つ意味

 電停が安全地帯として機能するためには、段差が重要な意味を持つ。すでに述べたように、低床車両(LRV)の床面は地面から 300~350mmあり、多くのプラットフォームは、車両との間に段差が生じないよう、これに合わせて設計されている。 このような電停と地面との段差は、単に車両に乗り込むためのステップとなるだけでなく、物理的にも車両の侵入を牽制している(図 3-5-7)。 このような段差があるおかげで、自動車が中心の車道中央において、車両が入ることのできない人のための領域を確保でき、電停を利用する人々に少なからぬ安心感をもたらしている(図 3-5-8)。 また、電停の段差は、鉄道駅のそれと比べると小さく、歩行者が簡単に踏み越えられるほどの厚みしかない。視覚的にアクセスの容易さが確認でき、心理的な距離感も近く感じられるほか、たとえば板石舗装といった軌道の仕上げ方によってはさらに親近感を増すことも考えられる。 転落しても大きな事故の心配がなく子連れ客が気負わず利用できることは、鉄道とは大きく異なる印象を与えている(図3-5-9)。

「聖域」に対して唯一優位な存在

 3.3 節において軌道敷が「聖域」であるという見方を示した。電停はこの軌道敷沿いにあって、LRT を含む他のあらゆる交通から守られるという点において、この「聖域」よりも優位な存在と位置付けることができる。 軌道は他の侵入を許さない聖域としてヴィスタを確保しているが、電停からはこのヴィスタを覗き込むことによって、一目で LRT の往来の様子を把握することができる。このような視点からは、レールの消失点に向かって軌道沿いに視点が吸い込まれていくような感覚を得る。まさにこれからLRT に乗車して聖域を移動していくことを予感させる(図 3-5-10)。 LRT が「特権的」であるならば、電停はこの特権へアクセスできる唯一の地点として、電車を待つ利用者に独特の高揚感をもたらしていると言える。 前頁の段差の考察と併せて考えれば、身の安全を確保しながら眺望を得ることのできる電停はG・カレンが「タウンスケープ」で紹介したような、飛び地のような魅力的な場所に映るのではないだろうか。

まちの舞台としての電停

 ここまでは利用客の視点から電停を考察したが、最後に電停を外からの視点で眺めてみよう。 傍目に見れば、車道の中央で道路面から一段上げられた電停はさながら舞台のようであり、この領域において人が主役であるように印象付けている。舞台上に上がった利用客は、まちの風景の一部として視線を集め、その姿が多くの人々の目に触れるところとなる(図 3-5-11、 図 3-5-12)。 頻繁に LRT を使う利用者のみならず、この風景を目にするすべての市民にとって LRT が身近な存在となり、市民に広く受け入れられる一つの要因となっていると考えられる。 このような演出的効果は、電停と軌道が「聖域」であることと関係があるといえよう。この「聖域」上には、視線を遮るものがなく、周囲からの視認性も高い。このことが電停を舞台たらしめていると言えるのではないだろうか(図 3-5-13)。 まちの舞台としての電停は、外部と隔絶され、利用する風景が一切まち行く人々の目に触れない地下鉄の駅とは対照的であることは言うまでもない。実際に LRT が街を走り、それを利用する人を目にすると、それだけで「乗ってみたい」という気分にさせられる。LRT を持っている都市では、電停がある種の文化のようになっており、視覚的な意味においても LRT は生活に深く根ざした交通システムであると言うことができる。

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図 3-5-11 まちの風景の一部として視線を集め、人々の目に触れる(広島市内)

図 3-5-12 簡素な電停は視線を集めやすい(広島市内) 図 3-5-13 電停周辺は視線を遮るものがなく、利用客に視線が集まりやすい(富山市内)

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3 . 5 L R T の「親近性」からみた電停の意義とその「特権性」都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察第3章

周囲と呼応する「軽やか」な電停

 電停の特徴の一つは、そこに求められる機能が限られているということである。改札がいらず、プラットフォームの段差が低いという電停の特徴は、電停のしつらえに対する制約を自由にし、周辺の街並みと呼応する可能性をつくっている。 狭小な街路にある電停(図 3-5-5)は必要最小限の部分からなっているが、街路の幅員から想定される交通量や電停の利用客の量に見合った必要十分な電停であるかのように思われる。 一方、空間に余裕のある場所では屋根やベンチ、フェンスやスロープなどを丁寧に設計することもできる。ポートラムやセントラムでは、トータルデザインの考えのもと、各電停に共通の意匠を用いたほか、いくつかの電停では、車道やペイブメントに至るまで、街路を一体として整備するなど周囲と呼応した気配りが見られる(図 3-5-6)。広島市内の電停では、これらに加え近接案内表示も導入されている。

電停と地面との小さな段差が持つ意味

 電停が安全地帯として機能するためには、段差が重要な意味を持つ。すでに述べたように、低床車両(LRV)の床面は地面から 300~350mmあり、多くのプラットフォームは、車両との間に段差が生じないよう、これに合わせて設計されている。 このような電停と地面との段差は、単に車両に乗り込むためのステップとなるだけでなく、物理的にも車両の侵入を牽制している(図 3-5-7)。 このような段差があるおかげで、自動車が中心の車道中央において、車両が入ることのできない人のための領域を確保でき、電停を利用する人々に少なからぬ安心感をもたらしている(図 3-5-8)。 また、電停の段差は、鉄道駅のそれと比べると小さく、歩行者が簡単に踏み越えられるほどの厚みしかない。視覚的にアクセスの容易さが確認でき、心理的な距離感も近く感じられるほか、たとえば板石舗装といった軌道の仕上げ方によってはさらに親近感を増すことも考えられる。 転落しても大きな事故の心配がなく子連れ客が気負わず利用できることは、鉄道とは大きく異なる印象を与えている(図3-5-9)。

「聖域」に対して唯一優位な存在

 3.3 節において軌道敷が「聖域」であるという見方を示した。電停はこの軌道敷沿いにあって、LRT を含む他のあらゆる交通から守られるという点において、この「聖域」よりも優位な存在と位置付けることができる。 軌道は他の侵入を許さない聖域としてヴィスタを確保しているが、電停からはこのヴィスタを覗き込むことによって、一目で LRT の往来の様子を把握することができる。このような視点からは、レールの消失点に向かって軌道沿いに視点が吸い込まれていくような感覚を得る。まさにこれからLRT に乗車して聖域を移動していくことを予感させる(図 3-5-10)。 LRT が「特権的」であるならば、電停はこの特権へアクセスできる唯一の地点として、電車を待つ利用者に独特の高揚感をもたらしていると言える。 前頁の段差の考察と併せて考えれば、身の安全を確保しながら眺望を得ることのできる電停はG・カレンが「タウンスケープ」で紹介したような、飛び地のような魅力的な場所に映るのではないだろうか。

まちの舞台としての電停

 ここまでは利用客の視点から電停を考察したが、最後に電停を外からの視点で眺めてみよう。 傍目に見れば、車道の中央で道路面から一段上げられた電停はさながら舞台のようであり、この領域において人が主役であるように印象付けている。舞台上に上がった利用客は、まちの風景の一部として視線を集め、その姿が多くの人々の目に触れるところとなる(図 3-5-11、 図 3-5-12)。 頻繁に LRT を使う利用者のみならず、この風景を目にするすべての市民にとって LRT が身近な存在となり、市民に広く受け入れられる一つの要因となっていると考えられる。 このような演出的効果は、電停と軌道が「聖域」であることと関係があるといえよう。この「聖域」上には、視線を遮るものがなく、周囲からの視認性も高い。このことが電停を舞台たらしめていると言えるのではないだろうか(図 3-5-13)。 まちの舞台としての電停は、外部と隔絶され、利用する風景が一切まち行く人々の目に触れない地下鉄の駅とは対照的であることは言うまでもない。実際に LRT が街を走り、それを利用する人を目にすると、それだけで「乗ってみたい」という気分にさせられる。LRT を持っている都市では、電停がある種の文化のようになっており、視覚的な意味においても LRT は生活に深く根ざした交通システムであると言うことができる。

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3.

 ここでは、交通結節点における空間特性を特に視覚の観点から検討する。前半では結節点

の成り立ちや環境創造上の論点や課題を提示した上で「関係のデザイン」というテーマを設

定する。

 後半では、ターミナル駅を中心に交通結節点における LRT そのもののふるまいを素描した

上で、LRT 以外の交通やまちとの関係性を含めた交通結節点の環境がどのように創造されるこ

とが望ましいかを考察する。本節では今回の調査対象である各地域からそれぞれ富山駅と横

川駅を取り上げる。

3.6 LRT と交通結節点における環境創造と「関係のデザイン」

6

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交通結節点の成り立ちとその課題

第3章 3 . 6 L R T と交通結節点における環境創造と「関係のデザイン」都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察

図 3-6-1 富山駅(南口) 図 3-6-2 横川駅 図 3-6-3 LRT のプラットフォームの目の前にバスの停留所が位置している(廿日市市役所前)

 交通結節点においては他の交通との接続が行われるため、複数の事業主体が関わったり、大きな計画の中に位置付けられていることが多い。ここでは富山駅と横川駅を中心に、結節点における環境創造について、その成り立ちと課題を確認しよう。

富山駅と横川駅の成り立ち

 富山駅は、ポートラムやセントラムをはじめ、北陸新幹線、あいの風とやま鉄道線(旧北陸本線)、地鉄本線などが接続される主要駅である。北陸新幹線の延伸開業に伴って在来線を高架化する連続立体交差化事業が決定された際に、赤字ローカル線であった富山港線を LRT として取り込む形で再整備したものである(図 3-6-1)。 横川駅は、広電横川線、JR 山陽本線および可部線が乗り入れるほか、バスロータリーを併設する。

国道 54 号内に置かれていた従前の広電横川駅電停が横川駅から遠いことや、交通安全上の問題を解決するため、JR と広電が協働する形で国道 54号の横川駅交差点改良と JR 横川駅前広場の再整備が計画された。設計・施工は独立に行われたものの、意匠面においては後発のものが先発の意匠を踏襲する形で一体感のある整備が可能となった(図 3-6-2)。

「関係のデザイン」という課題

 交通結節点においては常に複数の主体が関係し合い、計画から設計段階に至るまでのプロセスが複雑なものになりやすい。このため、関係主体が互いの領域を保ちながらも牽制するような形で空間が作られていくことがしばしば見られる。結節点であるにもかかわらずそれぞれがうまく結びつかないということが起こりうるのである。 ここで重要なのは「関係のデザイン」という観点である。交通結節点では在来線やバス、LRT と

いったそれぞれの交通機関そのものがどのように計画されるかということと同等かそれ以上に、互いがどのように接続され、関係し合っているのかということが重要である。一体的・統一的な視座を持ってそれぞれの要素間の関係をうまくデザインする必要がある(図 3-6-3)。

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交通結節点における「関係のデザイン」

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3 . 6 L R T と交通結節点における環境創造と「関係のデザイン」都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察第3章

図 3-6-4 富山ライトレール・ポートラムの乗客が行き交う富山駅北口。南口側との接続が計画されている

 交通結節点においては複数の交通機関が接続することとなる。利用者に寄り添った環境を創造する観点から交通結節点を考えるには、それぞれの要素間の「関係のデザイン」が重視される必要があろう。 つながりの強いもの同士であっても、ただ隣接してればいいというものではないし、互いに関連がないからと言って遠ざけておく必要もない。むしろ、積極的にそのつながりに介入することができることが、関係のデザインすの重要な点である。 それらの関係を設計する仕方によっては、単に接続がスムーズになるというだけでなく、空間の役割や空間の持つ雰囲気を大きく変える可能性を持っている。 以下では、交通結節点における関係のデザインについて2つの観点から眺めみよう。

交通結節点における屋根の役割

 交通結節点において特徴的なのは、屋根の役割である。圧倒的に人が中心の空間である結節点において、屋根は空間の構成要素として重要な役割を担っている。 たとえば、広電横川駅では非常に高さのあるアーチ状の屋根が結節点全体を覆っている。西広島駅においても同様の造作が見られ、様々な交通を接続する結節点において空間的なまとまりを生み出している(図 3-6-5)。 このように大屋根で覆われた領域では、周囲を囲われてはいないものの、広場のようにゆるやかな一体感を感じることができる。これには天井が高いことも一役買っていると言えそうだ。天井に空間的なゆとりがあることで、単に通過するための空間ではなく、立ち止まって佇んだり、留まることのできるゆったりとした空気が生まれている。

交通結節点における屋根の役割

 一方で、独立した屋根が乗り場を特徴付けている箇所もある(図 3-6-6)。横川駅では LRT 乗り場の屋根が独立しており、それ以外の場所とは異なることが明らかで、案内板以上に視覚的な情報を利用者に与えている。また、少し離れた箇所から見ると、それぞれが独立しつつもゆるやかに連なっており、目的の場所まで屋根伝いに「行ける」ことが一目見てわかる。ある種の臥遊のような体験を可能にしているといえるだろう(図 3-6-7)。 このように屋根を使うことで、交通結節点における要素の関係に変化を加えることができる。

区切られていながら互いがよく見えること

 廿日市や廿日市市役所前駅では、専用軌道の電停とバス停が並列に配され、電車を降りた目の前がバスの停留所となっており、それぞれの入線状況が互いによく確認できるようになっている。それぞれの空間は上屋の支持列柱によって分離されながら、ゆるやかに接続している(図 3-6-8、図3-6-9)。二つをうまく分離することでそれぞれの役割を明示的に示すとともに、空間が引き締まったような印象を得る。二者の関係がよくデザインされた好例と言える。運行頻度を調整するなど、運用面での工夫があれば大変気持ちよく利用できる結節点となろう。 上のような「区切られていながら互いが良く見える」状況を積極的に取り込んだのが、JR 富山駅のコンコースである(次ページ参照)。ふつうの駅では引き込まれることのない LRT のプラットフォームが駅のコンコースに引き込まれ、ガラスで隔てられた屋内空間に停車する。在来線や新幹線の利用者が改札を出る際、正面に車両が入線する。駅の利用者が何気なく入線状況を目にすることができるという配置は、この空間における二者の関係性をよく引き出した設計だと言える。惜しむらくは二階デッキがこのプラットフォームの存在感を削いでしまっているところであろうか。

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3 . 6 L R T と交通結節点における環境創造と「関係のデザイン」都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察第3章

図 3-6-5 高さのある大屋根が一体感を演出する(横川駅)

 交通結節点においては複数の交通機関が接続することとなる。利用者に寄り添った環境を創造する観点から交通結節点を考えるには、それぞれの要素間の「関係のデザイン」が重視される必要があろう。 つながりの強いもの同士であっても、ただ隣接してればいいというものではないし、互いに関連がないからと言って遠ざけておく必要もない。むしろ、積極的にそのつながりに介入することができることが、関係のデザインすの重要な点である。 それらの関係を設計する仕方によっては、単に接続がスムーズになるというだけでなく、空間の役割や空間の持つ雰囲気を大きく変える可能性を持っている。 以下では、交通結節点における関係のデザインについて2つの観点から眺めみよう。

交通結節点における屋根の役割

 交通結節点において特徴的なのは、屋根の役割である。圧倒的に人が中心の空間である結節点において、屋根は空間の構成要素として重要な役割を担っている。 たとえば、広電横川駅では非常に高さのあるアーチ状の屋根が結節点全体を覆っている。西広島駅においても同様の造作が見られ、様々な交通を接続する結節点において空間的なまとまりを生み出している(図 3-6-5)。 このように大屋根で覆われた領域では、周囲を囲われてはいないものの、広場のようにゆるやかな一体感を感じることができる。これには天井が高いことも一役買っていると言えそうだ。天井に空間的なゆとりがあることで、単に通過するための空間ではなく、立ち止まって佇んだり、留まることのできるゆったりとした空気が生まれている。

交通結節点における屋根の役割

 一方で、独立した屋根が乗り場を特徴付けている箇所もある(図 3-6-6)。横川駅では LRT 乗り場の屋根が独立しており、それ以外の場所とは異なることが明らかで、案内板以上に視覚的な情報を利用者に与えている。また、少し離れた箇所から見ると、それぞれが独立しつつもゆるやかに連なっており、目的の場所まで屋根伝いに「行ける」ことが一目見てわかる。ある種の臥遊のような体験を可能にしているといえるだろう(図 3-6-7)。 このように屋根を使うことで、交通結節点における要素の関係に変化を加えることができる。

区切られていながら互いがよく見えること

 廿日市や廿日市市役所前駅では、専用軌道の電停とバス停が並列に配され、電車を降りた目の前がバスの停留所となっており、それぞれの入線状況が互いによく確認できるようになっている。それぞれの空間は上屋の支持列柱によって分離されながら、ゆるやかに接続している(図 3-6-8、図3-6-9)。二つをうまく分離することでそれぞれの役割を明示的に示すとともに、空間が引き締まったような印象を得る。二者の関係がよくデザインされた好例と言える。運行頻度を調整するなど、運用面での工夫があれば大変気持ちよく利用できる結節点となろう。 上のような「区切られていながら互いが良く見える」状況を積極的に取り込んだのが、JR 富山駅のコンコースである(次ページ参照)。ふつうの駅では引き込まれることのない LRT のプラットフォームが駅のコンコースに引き込まれ、ガラスで隔てられた屋内空間に停車する。在来線や新幹線の利用者が改札を出る際、正面に車両が入線する。駅の利用者が何気なく入線状況を目にすることができるという配置は、この空間における二者の関係性をよく引き出した設計だと言える。惜しむらくは二階デッキがこのプラットフォームの存在感を削いでしまっているところであろうか。

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3 . 6 L R T と交通結節点における環境創造と「関係のデザイン」都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察第3章

図 3-6-7 異なる種類の屋根が連なっている(横川駅)

図 3-6-6 バス停留所の屋根が大きくせり出している(広島港)

 交通結節点においては複数の交通機関が接続することとなる。利用者に寄り添った環境を創造する観点から交通結節点を考えるには、それぞれの要素間の「関係のデザイン」が重視される必要があろう。 つながりの強いもの同士であっても、ただ隣接してればいいというものではないし、互いに関連がないからと言って遠ざけておく必要もない。むしろ、積極的にそのつながりに介入することができることが、関係のデザインすの重要な点である。 それらの関係を設計する仕方によっては、単に接続がスムーズになるというだけでなく、空間の役割や空間の持つ雰囲気を大きく変える可能性を持っている。 以下では、交通結節点における関係のデザインについて2つの観点から眺めみよう。

交通結節点における屋根の役割

 交通結節点において特徴的なのは、屋根の役割である。圧倒的に人が中心の空間である結節点において、屋根は空間の構成要素として重要な役割を担っている。 たとえば、広電横川駅では非常に高さのあるアーチ状の屋根が結節点全体を覆っている。西広島駅においても同様の造作が見られ、様々な交通を接続する結節点において空間的なまとまりを生み出している(図 3-6-5)。 このように大屋根で覆われた領域では、周囲を囲われてはいないものの、広場のようにゆるやかな一体感を感じることができる。これには天井が高いことも一役買っていると言えそうだ。天井に空間的なゆとりがあることで、単に通過するための空間ではなく、立ち止まって佇んだり、留まることのできるゆったりとした空気が生まれている。

交通結節点における屋根の役割

 一方で、独立した屋根が乗り場を特徴付けている箇所もある(図 3-6-6)。横川駅では LRT 乗り場の屋根が独立しており、それ以外の場所とは異なることが明らかで、案内板以上に視覚的な情報を利用者に与えている。また、少し離れた箇所から見ると、それぞれが独立しつつもゆるやかに連なっており、目的の場所まで屋根伝いに「行ける」ことが一目見てわかる。ある種の臥遊のような体験を可能にしているといえるだろう(図 3-6-7)。 このように屋根を使うことで、交通結節点における要素の関係に変化を加えることができる。

区切られていながら互いがよく見えること

 廿日市や廿日市市役所前駅では、専用軌道の電停とバス停が並列に配され、電車を降りた目の前がバスの停留所となっており、それぞれの入線状況が互いによく確認できるようになっている。それぞれの空間は上屋の支持列柱によって分離されながら、ゆるやかに接続している(図 3-6-8、図3-6-9)。二つをうまく分離することでそれぞれの役割を明示的に示すとともに、空間が引き締まったような印象を得る。二者の関係がよくデザインされた好例と言える。運行頻度を調整するなど、運用面での工夫があれば大変気持ちよく利用できる結節点となろう。 上のような「区切られていながら互いが良く見える」状況を積極的に取り込んだのが、JR 富山駅のコンコースである(次ページ参照)。ふつうの駅では引き込まれることのない LRT のプラットフォームが駅のコンコースに引き込まれ、ガラスで隔てられた屋内空間に停車する。在来線や新幹線の利用者が改札を出る際、正面に車両が入線する。駅の利用者が何気なく入線状況を目にすることができるという配置は、この空間における二者の関係性をよく引き出した設計だと言える。惜しむらくは二階デッキがこのプラットフォームの存在感を削いでしまっているところであろうか。

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3 . 6 L R T と交通結節点における環境創造と「関係のデザイン」都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察第3章

図 3-6-8 LRT とバスの停留所が向かい合っている(廿日市市役所前)

図 3-6-9 上屋の支持列柱が空間にメリハリをつけている

 交通結節点においては複数の交通機関が接続することとなる。利用者に寄り添った環境を創造する観点から交通結節点を考えるには、それぞれの要素間の「関係のデザイン」が重視される必要があろう。 つながりの強いもの同士であっても、ただ隣接してればいいというものではないし、互いに関連がないからと言って遠ざけておく必要もない。むしろ、積極的にそのつながりに介入することができることが、関係のデザインすの重要な点である。 それらの関係を設計する仕方によっては、単に接続がスムーズになるというだけでなく、空間の役割や空間の持つ雰囲気を大きく変える可能性を持っている。 以下では、交通結節点における関係のデザインについて2つの観点から眺めみよう。

交通結節点における屋根の役割

 交通結節点において特徴的なのは、屋根の役割である。圧倒的に人が中心の空間である結節点において、屋根は空間の構成要素として重要な役割を担っている。 たとえば、広電横川駅では非常に高さのあるアーチ状の屋根が結節点全体を覆っている。西広島駅においても同様の造作が見られ、様々な交通を接続する結節点において空間的なまとまりを生み出している(図 3-6-5)。 このように大屋根で覆われた領域では、周囲を囲われてはいないものの、広場のようにゆるやかな一体感を感じることができる。これには天井が高いことも一役買っていると言えそうだ。天井に空間的なゆとりがあることで、単に通過するための空間ではなく、立ち止まって佇んだり、留まることのできるゆったりとした空気が生まれている。

交通結節点における屋根の役割

 一方で、独立した屋根が乗り場を特徴付けている箇所もある(図 3-6-6)。横川駅では LRT 乗り場の屋根が独立しており、それ以外の場所とは異なることが明らかで、案内板以上に視覚的な情報を利用者に与えている。また、少し離れた箇所から見ると、それぞれが独立しつつもゆるやかに連なっており、目的の場所まで屋根伝いに「行ける」ことが一目見てわかる。ある種の臥遊のような体験を可能にしているといえるだろう(図 3-6-7)。 このように屋根を使うことで、交通結節点における要素の関係に変化を加えることができる。

区切られていながら互いがよく見えること

 廿日市や廿日市市役所前駅では、専用軌道の電停とバス停が並列に配され、電車を降りた目の前がバスの停留所となっており、それぞれの入線状況が互いによく確認できるようになっている。それぞれの空間は上屋の支持列柱によって分離されながら、ゆるやかに接続している(図 3-6-8、図3-6-9)。二つをうまく分離することでそれぞれの役割を明示的に示すとともに、空間が引き締まったような印象を得る。二者の関係がよくデザインされた好例と言える。運行頻度を調整するなど、運用面での工夫があれば大変気持ちよく利用できる結節点となろう。 上のような「区切られていながら互いが良く見える」状況を積極的に取り込んだのが、JR 富山駅のコンコースである(次ページ参照)。ふつうの駅では引き込まれることのない LRT のプラットフォームが駅のコンコースに引き込まれ、ガラスで隔てられた屋内空間に停車する。在来線や新幹線の利用者が改札を出る際、正面に車両が入線する。駅の利用者が何気なく入線状況を目にすることができるという配置は、この空間における二者の関係性をよく引き出した設計だと言える。惜しむらくは二階デッキがこのプラットフォームの存在感を削いでしまっているところであろうか。

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ターミナル駅における人と LRT との関係性

3.6 L R T と交通結節点における環境創造と「関係のデザイン」都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察第3章

図 3-6-10 構内に進入する LRV(横川駅) 図 3-6-11 駅前広場に入線してくる旧型車両(広島駅)

図 3-6-12 コンコースから入線する車両が見える(富山駅)

 交通結節点の中でもとりわけ特徴的なのがターミナル駅である。地域内交通の担い手であるLRTは、新幹線やフェリーといった地域間交通と接続する交通結節点を終着点とする場合が少なくない。 ターミナル駅では、市中の電停や他の交通結節点では見られない人と LRT との関係性を体験することができる。

歩行空間の中の LRT

 歩行者中心に空間が作られている交通結節点においては、改札や大きな段差を持たない LRT のターミナルは、この歩行空間に直接入り込んでいく。 市中の車道では特権的な地位を与えられ、したり顔で走っていた LRT だが、周囲より一段低い軌道上をゆっくりと入線してくる様はどこか遠慮がちでおずおずとして大変愛嬌がある(図 3-6-10)。つまり、結節点においては、人と LRT の力関係が転倒しているように感じられる(図 3-6-11)。 先述の富山駅では、車両がゆっくりと入線する様をコンコースのガラス越しに確認することができる(図 3-6-12)。単に室内空間に車両が置かれているのではなく、実際に市中を走っていた LRT が、われわれ(=歩行者)の空間であるはずのコンコースに直接入線してくる様を見るという体験が、野生の動物を生け捕りにするかのような、独特の昂揚感を生んでいる。

車両の空間的視認性

 ターミナル駅におけるもう一つの面白さは、車両基地に代表される「複数の車両の入線状況が手に取るようにわかる」という感覚を体験できることにある(図 3-6-13)。 ターミナル駅では、軌道敷の延長線上に視点を運ぶことができる。この地点からは、複数の軌道がずらりと並ぶ様子を、車両の真正面から眺めることができる(図 3-6-14)。これは、本来ならば立ち入ることが難しい軌道の延長線上の地点からの眺望であり、入線状況を一挙に俯瞰できる特等席に座っているかのような楽しさを見出すことができる(図 3-6-15)。 この楽しさは、普段は見ることができないという特別感に加え、客観的に全体を眺め掌握できるという優越感のような感覚に由来すると想像できよう。市中の電停においては、一時的にこのような眺望を獲得することができても、その地点に留ま「手に取るように」感じることは難しい。このような眺望点は、ターミナル駅ならではと言える。 ターミナル駅の設計においては、このようなに地点に積極的に人が留まることのできる工夫によって、駅の特性を生かした空間利用が可能となるであろう。

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3 . 6 L R T と交通結節点における環境創造と「関係のデザイン」都市景観創造にかかる L R T の可能性 - 考察第3章

図 3-6-13 車両基地では複数の車両の様子が一望できる

図 3-6-14 複数の車両が並ぶ(広島港駅) 図 3-6-15 入線する車両の様子が手に取るようにわかる

 交通結節点の中でもとりわけ特徴的なのがターミナル駅である。地域内交通の担い手であるLRTは、新幹線やフェリーといった地域間交通と接続する交通結節点を終着点とする場合が少なくない。 ターミナル駅では、市中の電停や他の交通結節点では見られない人と LRT との関係性を体験することができる。

歩行空間の中の LRT

 歩行者中心に空間が作られている交通結節点においては、改札や大きな段差を持たない LRT のターミナルは、この歩行空間に直接入り込んでいく。 市中の車道では特権的な地位を与えられ、したり顔で走っていた LRT だが、周囲より一段低い軌道上をゆっくりと入線してくる様はどこか遠慮がちでおずおずとして大変愛嬌がある(図 3-6-10)。つまり、結節点においては、人と LRT の力関係が転倒しているように感じられる(図 3-6-11)。 先述の富山駅では、車両がゆっくりと入線する様をコンコースのガラス越しに確認することができる(図 3-6-12)。単に室内空間に車両が置かれているのではなく、実際に市中を走っていた LRT が、われわれ(=歩行者)の空間であるはずのコンコースに直接入線してくる様を見るという体験が、野生の動物を生け捕りにするかのような、独特の昂揚感を生んでいる。

車両の空間的視認性

 ターミナル駅におけるもう一つの面白さは、車両基地に代表される「複数の車両の入線状況が手に取るようにわかる」という感覚を体験できることにある(図 3-6-13)。 ターミナル駅では、軌道敷の延長線上に視点を運ぶことができる。この地点からは、複数の軌道がずらりと並ぶ様子を、車両の真正面から眺めることができる(図 3-6-14)。これは、本来ならば立ち入ることが難しい軌道の延長線上の地点からの眺望であり、入線状況を一挙に俯瞰できる特等席に座っているかのような楽しさを見出すことができる(図 3-6-15)。 この楽しさは、普段は見ることができないという特別感に加え、客観的に全体を眺め掌握できるという優越感のような感覚に由来すると想像できよう。市中の電停においては、一時的にこのような眺望を獲得することができても、その地点に留ま「手に取るように」感じることは難しい。このような眺望点は、ターミナル駅ならではと言える。 ターミナル駅の設計においては、このようなに地点に積極的に人が留まることのできる工夫によって、駅の特性を生かした空間利用が可能となるであろう。

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4まとめ

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 LRT の機能上の意義については交通計画分野で

多々論じられてきた。この報告書はあえてそれら

と異なる論点から、LRT の意義を摸索した。その内

容はここに繰り返さない。

 これらの論点からすれば、劣悪な交通環境、と

くに渋滞にともなう排ガスや騒音、無理な割り込

みによる交通事故などによって人間の安全と健康

が脅かされているような事情を抱える都市に、LRT

は、単なる利便性向上をもたらすという以上に人

間的な意味を付与するように思われる。

 もちろん、膨大な量の自転車、バイク利用者数

をかかえ、しかもその交通マナーが必ずしも定着

していないような都市の場合、LRT の併用軌道は無

法な利用を誘発することになるかも知れない。そ

の意味では、舗装高さは路面高さと一体でも、軌

道敷両側に進入防止柵を施すような対策も、ある

いは必要だろう。

 そのような都市で LRT が導入されれば、ドアを

閉めることができないほどの定員超過がおこり、

利用者が乗降口からはみ出したまま走行する事態

が生じることも想像に難くない。その場合の運賃

回収は難問である。しかし、福祉事業として無料

化するか、それとも運賃回収のエキスパート採用

という雇用の道を開くか、検討の余地は残されて

いよう。

まとめ

まとめ第 4 章

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脚注、引用、参考文献等

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脚注、引用、参考文献等

脚注、引用、参考文献等

脚注*1 図 1-2 鹿児島市交通局ホームページ「鹿児島 まち歩き 街案内」より転載 http://kagoshima-city-kotsu.com/category4/entry40.html*2 図 1-3 札幌市ホームページより引用し、一部改編 http://www.city.sapporo.jp/st/shiden/shiden_loop.html*3 図 1-4 毎日新聞ホームページより引用し、一部改編 http://mainichi.jp/articles/20151221/k00/00m/040/058000c*4 図 3-1-6 富山市ホームページより転載 http://www.city.toyama.toyama.jp/toshiseibibu/romendenshasuishin/sharyodezain.html *5 図 3-1-15 富山市ホームページより転載 http://www.city.toyama.toyama.jp/toshiseibibu/romendenshasuishin/sentoramurappingusha.html*6 図 3-2-5 富山ライトレール記録誌編集委員会編『富山ライトレールの誕生』、鹿島出版会、2007、p106 より転載*7 図 3-3-1 岡田幸子・小林一郎・ 仲間浩一「路面電車の敷石の生産と転用事例に関する研究」、土木学会西部支部研究発表会、2012.3 より転載*8 図 3-4-1 前橋栄一「超低床 LRV の駆動・走行メカニズム」、公益財団法人鉄道総合技術研究所『RRR』2008.2、p.27 より転載*9 図 3-5-3 路面電車を考える会ホームページ「日本の最新LRV 画像・諸元」より転載 http://www.urban.ne.jp/home/yaman/lrvshogen7.htm

参考文献、サイト○宇都宮浄人・服部重敬『LRT―次世代型路面電車とまちづくり』、成山道書店、2010○三浦幹男・服部重敬・宇都宮浄人『世界の LRT 環境都市に復権した次世代交通』、JTB パブリッシング、2008○西村幸格『日本の都市と路面公共交通』、学芸出版社、2006○富山ライトレール記録誌編集委員会編『富山ライトレールの誕生-日本初本格的 LRT によるコンパクトなまちづくり』、鹿島出版会、2007○岡田幸子・小林一郎・ 仲間浩一「路面電車の敷石の生産と転用事例に関する研究」、土木学会西部支部研究発表会、2012.3 ○公益財団法人鉄道総合技術研究所『RRR』2008.2○国土交通省中国地方整備局ホームページ、「広島市内の路面電車の電停におけるバリアフリー化の推進」  http://www.cgr.mlit.go.jp/universal/pdf/02_3_11hiroden-densha.pdf○富山市ホームページ、「富山市都市整備事業の概要」、2012、http://www.city.toyama.toyama.jp/data/open/cnt/3/9075/1/s5.pdf○鹿児島市交通局ホームページ http://kagoshima-city-kotsu.com/○札幌市ホームページ http://www.city.sapporo.jp/○毎日新聞デジタル版、2015 年 12 月 20 日付「札幌市電 つながった! 環状運転始まる」http://mainichi.jp/articles/20151221/k00/00m/040/058000c○路面電車を考える会ホームページ「路面電車を考える館」 http://www.urban.ne.jp/home/yaman/index.htm

協力株式会社 ジイケイ設計富山ライトレール 株式会社広島電鉄 株式会社

編集平成 27 年度 東京工業大学 齋藤潮研究室

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平成27年度 東京工業大学 齋藤潮研究室

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都市景観創造にかかる国内のLRTの可能性