恋人のなかにみる親のイメージ...

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恋人のなかにみる親のイメージ ー異性の親と恋人との類似性- 2005HPOOl 荒川由美子 問題および目的 人に対する好意や嫌悪を対人魅力といい、相手の身体的魅力や自分と相 手との類似性や相補性など、さまざまな要因がこの対人魅力を規定しているとされる。こ の中でも、類似性については、態度や性格、知能、社会的特徴、身体的特徴など多くの要 因について検討されてきており、対人魅力における類似性の重要度がうかがえる。これま での研究の多くは、自分と相手との類似性に焦点をあてたものであった。しかし、相手が 恋人である場合、しばしば「自分の異性の親と似ている人を選ぶ」と言われるように、自 分と相手との類似性だけでなく、自分の異性の親と相手の類似性も重視されるのではない だろうか。また、同性の親との関係が子どもの恋愛観に影響を与えているという先行研究 があることから、同性の親との関係が良いものであるほど、その恋愛観も受け入れやすく、 同性の親が好きになった異性の親と似たような異性を好きになることは十分に考えられる。 さらに、両親は結婚して生涯を共にする相手としてお互いを選んでいるため、その影響を 受けているならば、恋人との結婚を考えている人ほど恋人と異性の親との類似性が高くな るのではないだろうかと考え、これらを検討することを目的とした。 方法 大学生151名(男子55名、女子96名)を対象とし、質問紙法により、異性の親と 恋人に対する性格特性評定尺度・相貌評定尺度、同性の親との関係をみる親一青年関係尺 度に回答を求めた。 結果と考察 その結果、実験協力者全体、男女別、結婚したいかしたくないか、 5因子が 抽出された同性の親との関係がどのようなものであるかのいずれも有意な差はみられず、 異性の親と恋人との間に類似性があることは証明されなかった。そこで、どこ違いがある のかを調べたところ、性格特性評定尺度では31項目中19項目、相貌評定尺度では23項 目中15項目について有意差がみられた。男女別では、性格特性評定尺度では女性は19項 目、男性は6項目で、相貌評定尺度では女性は11項目、男性は8項目で有意に高得点を 示しており、いずれも異性の親よりも恋人の方がポジティブな評価をされていた。また、 全体的に男性よりも女性の方が異性の親と恋人により違いがみられるようだった。特に、 男性では異性の親と恋人の差がみられなかった性格特性評定尺度の「外向性」や「しっか りさ」因子において女性では異性の親と恋人との間に差がみられ、より「外向性」や「し っかりさ」の高い恋人をもっていることがわかった。

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恋人のなかにみる親のイメージ ー異性の親と恋人との類似性-

2005HPOOl 荒川由美子

問題および目的 人に対する好意や嫌悪を対人魅力といい、相手の身体的魅力や自分と相

手との類似性や相補性など、さまざまな要因がこの対人魅力を規定しているとされる。こ

の中でも、類似性については、態度や性格、知能、社会的特徴、身体的特徴など多くの要

因について検討されてきており、対人魅力における類似性の重要度がうかがえる。これま

での研究の多くは、自分と相手との類似性に焦点をあてたものであった。しかし、相手が

恋人である場合、しばしば「自分の異性の親と似ている人を選ぶ」と言われるように、自

分と相手との類似性だけでなく、自分の異性の親と相手の類似性も重視されるのではない

だろうか。また、同性の親との関係が子どもの恋愛観に影響を与えているという先行研究

があることから、同性の親との関係が良いものであるほど、その恋愛観も受け入れやすく、

同性の親が好きになった異性の親と似たような異性を好きになることは十分に考えられる。

さらに、両親は結婚して生涯を共にする相手としてお互いを選んでいるため、その影響を

受けているならば、恋人との結婚を考えている人ほど恋人と異性の親との類似性が高くな

るのではないだろうかと考え、これらを検討することを目的とした。

方法 大学生151名(男子55名、女子96名)を対象とし、質問紙法により、異性の親と

恋人に対する性格特性評定尺度・相貌評定尺度、同性の親との関係をみる親一青年関係尺

度に回答を求めた。

結果と考察 その結果、実験協力者全体、男女別、結婚したいかしたくないか、 5因子が

抽出された同性の親との関係がどのようなものであるかのいずれも有意な差はみられず、

異性の親と恋人との間に類似性があることは証明されなかった。そこで、どこ違いがある

のかを調べたところ、性格特性評定尺度では31項目中19項目、相貌評定尺度では23項

目中15項目について有意差がみられた。男女別では、性格特性評定尺度では女性は19項

目、男性は6項目で、相貌評定尺度では女性は11項目、男性は8項目で有意に高得点を

示しており、いずれも異性の親よりも恋人の方がポジティブな評価をされていた。また、

全体的に男性よりも女性の方が異性の親と恋人により違いがみられるようだった。特に、

男性では異性の親と恋人の差がみられなかった性格特性評定尺度の「外向性」や「しっか

りさ」因子において女性では異性の親と恋人との間に差がみられ、より「外向性」や「し

っかりさ」の高い恋人をもっていることがわかった。

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思いやり行動の個人的要因-ソーシャルサポート・自尊心との関連性-

2005HPOO4 江部 千晶

閉居・日的

他者を思いやる心や思いやりにもとづく行動は、多様な個人が共生する社会にとって、今後ま

すます重要となってくるだろう。本研究では、思いやり行動とソーシャルサポート、自尊心との

関係を明らかにすることにより、思いやりの心はどのようにすれば育まれるのかについて考察す

ることを目的とする。

方法

愛知県内の4年制大学に通う大学生を対象として質問紙調査を行った。 120名(男30名、女

90名、平均年齢20.41歳)の有効回答があり、これらを分析対象とした。質問項目は、性別、年

齢の他、思いやり行動尺度、ソーシャルサポート尺度、自尊心尺度の3つの尺度項目を用い

た。

結果

各尺度について検討した結果、思いやり行動尺度は1因子構造、ソーシャルサポート尺度(社

会関係的・情緒的・道具的・情報的)と自尊心尺度(生き方尊重・楽観性・品格重視・プライド)

はそれぞれ4つの下位概念から構成されていることがわかったo思いやり行動の高い群と低い群

の間でソーシャルサポート得点についてt検定を行ったところ、思いやり行動を多くする者は他

者からさまざまなソーシャルサポートを多く受けていることがわかった。思いやり行動の高い群

と低い群の間で自尊心得点についてもt検定を行ったところ、思いやり行動を多くするものは自

尊心の下位尺度である「生き方尊重」と「楽観性」の得点が有意に高く、自尊心全体もやや高い

ことがわかった。また、ソーシャルサポートをより多く受けている者と「楽観性」の高い者の方

が、思いやり行動をよく行っていたo分散分析の結果、 「品格重視」が低く、ソーシャルサポート

を多く受けている者ほど、思いやり行動を多くとることがわかった。

考察

まず、思いやり行動とソーシャルサポートとの関連についての結果は予想と異なっていた。思

いやり行動は人間関係を円滑に進め、他者から肯定的な反応を引き出す社会的スキルの一つであ

るため、多く行うほど他者からソーシャルサポートを得られるのではないかと考えられるoまた、

思いやり行動と自尊心との関連については、思いやり行動を行うことによりソーシャルサポート

を得ることができており、行おうとしてきたことが成功することが多かったために、「生き方尊重」

と「楽観性」得点が高くなったと思われる。さらに、ソーシャルサポートを多く受けたり、 「楽観

性」をもつことは思いやり行動につながることがわかった。分散分析の結果からは、ソーシャル

サポートをあまり受けていなくても、自分の信念や核を強くもっている者は、普段から思いやり

行動をすることが多いことが示唆された。よって、ソーシャルサポートを受けること、自分自身

について柔軟な考え方ができることが思いやり行動の要因になるといえるだろう。以上より、柔

軟に自分自身を捉えられるようになり、周囲と互いに積極的に思いやり行動をとり合うことで、

思いやりの心が育まれ、思いやり行動が促進されることが示唆された0

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青年期の居場所感と自我同一性、職業レディネスの関連性

2005HPO72 大野 徳子

【問題・目的】

従来の自我同一性尺度には、妥当性の検討が十分にされていないなどの問題点のあるこ

とが指摘されている。本研究では、自我同一性の第Ⅴ段階における同一性の感覚を測定す

る精度の高い、谷(2001)の多次元自我同一性尺度を用いて、同一性確立を発達課題とす

る青年期後期の大学生を対象に、居場所が彼らの同一性の感覚とどう関わっているのかを

検討する。また、青年期後期に自分の将来について考えることが重要であると筆者は考え

たため、職業レディネスと居場所の関連性も検討するo

【方法】

東海3県の国立・私立4年制大学学生(男子38名、女子62名)を対象とし、質問紙調

査を行ったo 調査は2008年10月下旬から11月上旬の期間に実施したo調査内容は、背

景情報に関する質問(学年、性別、自宅通学か下宿か)、居場所感、多次元自我同一性、そ

して職業レディネスについての質問から構成した。

【結果・考察】

まず、居場所感と多次元自我同一性の関係について調べたところ、癒し的居場所感は多

次元自我同一性の自己実現因子ならびに自己主張因子とは、正の相関を示したo 内省的居

場所感と信頼的居場所感は、多次元自我同一性の自己実現因子と正の相関関係がみられた。

信頼的居場所感と多次元自我同一性の3因子(自己主張因子、自己理解因子、自己確立因

チ)は相互に独立しており、目.立った相関関係は認められなかった。これらの点を含め両

者の関連性を再検討する必要があるo つぎに、居場所感と職業レディネスの関連性につい

て調べたところ、癒し的居場所感と内省的居場所感、信頼的居場所感すべてにおいて、職

業レディネスの職業選択-の関心因子とは正の相関を示した。内省的居場所感と信頼的居

場所感は、職業レディネスの堅実的な職業意識因子と正の相関が認められた。よって、居

場所感と職業レディネスの関係はおおよそ立証されたと考えられる。居場所感の男女差に

ついて検討した結果、内省的居場所感および信頼的居場所感において、男性のほうが女性

よりも内省し、他者を信頼し悩みを打ちあけるという居場所感が有意に高い結果が得られ

た。

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愛情と友情の違いは何か- 「恋人」と「友人」に抱く役割行動期待とイメージの観点から-

2005HPO95 虎沢弥生

問題および目的

青年期における友人関係はこれまでにも、さまざまな研究により解明されてきたが、異

性の「友人」を取り扱ったものは数少ない。その理由として、和田(1993)は、異性との

友人関係の場合、恋愛との差を見出すのが困難だからとしている。そこで、本研究では「友

人」としての対象を「同性の友人」と「異性の友人」とに区別し検定を行った。交際相手

にどのような関係性を望んでいるか、どのような役割を求めているかは、役割行動期待を

測ることによって明らかにすることができる。水野(2001)は恋人や異性の友人に対する

行動を研究し、それぞれに違いがあることを明らかにしたが、心の内面の違いに焦点をあ

てた研究はまだない。そこで、本研究では、 「恋人」 「同性の友人」 「異性の友人」それぞれ

に対する役割行動期待およびイメージの違いを検討することから、愛情と友情の違いを探

ることとする。

方法

現在交際している恋人がいる大学生を対象に質問紙調査を行い、 105名から有効回答を得

た。調査対象者は、 「恋人」 「同性の友人」 「異性の友人」それぞれを対象として、役割行動

期待尺度・印象評定尺度それぞれの質問項目に回答するように求められた。

結果および考察

役割行動期待尺度の因子分析の結果、ルールから逸脱のないよう自らを律すること、問

題に積極的に関わりこなしていくことを求める「自律力動性」、共行動を介して接触頻度を

維持したり高めたり、相互の類似点を査定し確認しようとすることを求める「近接類似性」、

場の雰囲気を和らげて相互作用の促進を図り易くさせるような「娯楽性」、物心両面での支

持や援助を表す「支援性」の4因子が抽出された。

また、印象評定尺度の因子分析を行った結果、相手との関係を発展・維持したいと思わ

せる印象を表す「親近性」、相手のことを頼りにすることができる印象を示す「力動性」、

社会一般において人として望ましいとされる印象を表す「社会的望ましさ」の3因子が抽

出された。

抽出された役割行動期待尺度4因子、印象評定尺度の3因子について、それぞれ性別と

対象(恋人・同性の友人・異性の友人)との関連を検討した結果、以下のような恋愛と友

情の違いが明らかになった。

自律力動性、社会的望ましさが、それぞれ同性の友人や異性の友人より恋人に対して抱

きやすいことから、恋人とは互いに依存しあう関係ではなく、個別性を重視し、独立した

関係を望んでいることが分かった。近接類似性や支援性を、同性の友人や異性の友人より

も恋人に抱く傾向があることから、同性の友人や異性の友人よりも恋人の方が本人との心

理的距離が近い可能性が示唆される。また、恋人や友人は選択可能な交際相手であるため、

娯楽性や親近性はどの相手に対しても抱きやすく、有意差は認められなかった。

今後は、恋人や友人との交際期間や物理的距離、接触回数などに焦点をあてることで、

青年期後期における恋愛関係および友人関係をさらに解明できるだろう。

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究プロジェクト要旨

青年期後期における時間的展望と愛着スタイルの関連性

2005HPO96  戸塚 あかり

目的

本研究の目的は、青年期後期にあたる大学生について、時間的展望を構成する目標志向性、現

状-の満足感、過去の受容の3側面から愛着スタイルとの関連性を検証していくこととする。ま

た、性差、学年差、生活形態の相違についても検証を行う。

方法

被験者:大学生1年生から4年生までを含む205名(男性60名、女性145名)0

調査時期:2008年10月22日(水) ~11月5日(水)0

調査方法:質問紙調査によって行い、 「多項目式関係尺度」 「時間的展望体験尺度」の

全2尺度を採用。

結果と考察

多項目式関係尺度の因子分析を行い、 「見捨てられ不安」 「親密性の回避」の2因子を抽出し、

続いて時間的展望尺度の因子分析を行い、 「目標志向性」 「現状満足」 「過去拒否」の3因子を抽出

した。

また、時間的展望体験尺度の下位因子である目標志向性、現状満足、過去拒否の3因子が、愛

着スタイルとどのように関連しているのか、かつ、どのような影響及ぼしているのかを検討する

ため、 2要因分散分析を行った。その結果、目標志向性や現状満足、過去拒否のすべてにおいて、

自分自身に対して肯定的な自己評価を下していればいるほど、見捨てられ不安や親密性の回避と

いった対人的コミュニケーションにおける不安要素は少なくなる傾向がうかがえた。このことか

ら、全般的に肯定的な自己評価があればあるほど対人的安定感を感じやすく、またその逆も同様

に、否定的な自己評価が高いほど対人的安定感を感じにくいことが分かった。また、特徴的なこ

ととしては、自分の過去を受容できているかどうかが愛着スタイルの各因子に大きな影響力を持

っていたことである。そもそも、自分の過去を受け入れることができているということは、あり

のままの自分自身を受け入れられているとも言える。だがそれとは逆に、一番身近な存在である

自分自身を受け入れることができないということは、他者を受け入れる準備が整っていない状態

であり、だからこそ「他人に見捨てられてしまうかもしれない」といった不安や、 「嫌われたくな

いから、他人と親しくなりたくない」といった他者と親密になることを回避する傾向が高くなっ

てしまうのかもしれない。

以上の結果から、愛着スタイルに代表される対人的安定感とは、自分自身の現在や未来、過去

にまつわる自己評価や自己受容、理想像によって大きく左右されるものだということが分かった。

今後の課題としては、今回採用した2尺度の項目数が比較的少ない点から、尺度自体の精度を

高めるためにも、より多くの項目を選出した上で、信頼性および妥当性を検討する必要があると

思われる。

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対人ストレスと自尊感情の関連

-あいまいな友人関係状況における検討-

2005HPIO2 海原有紀子

問題 あいまいな状況はさまざまな場面でみられるが、そうした状況においてストレスが生じ

るのは、あいまいさが肯定的にも否定的にも解釈が可能であるために、当該の状況を事実に反

して否定的に捉えることが原因であると想定される。そのため、とくにそのような状況が生じ

やすい対人場面を対象とし、相手の意図があいまいな状況におけるストレスに着目した。相手

の意図に反して否定的に捉えてストレスを抱くことはさまざまな不適応とも関わるであろう。

そこで、本研究においては、あいまいな友人関係状況におけるストレスと自尊感情との関連を

検討するo また、あいまいな状況にうまく対処できる場合には不適応は起こりにくくなると考

えられるので、あいまいな状況-の対処にも焦点を当てる。

目的 本研究の目的は、あいまいな友人関係状況でのストレスの特徴を明らかにすることであ

る。また、あいまいな状況でのストレスとその状況に対する対処効力感によって、対処法に違

いがみられるかを検討するo さらに、不適応感の指標として自尊感情を挙げ、あいまいな状況

でのストレスの感じやすさおよび対処効力感が自尊感情に与える影響について考察する。

方法 調査対象者は、愛知県内の4年制大学に通う学生122名(男性55名,女性67名.)で、

平均年齢20.36歳(男性20.59歳,女性20.18歳)。調査には、あいまいな友人関係状況にお

けるストレス度、対人ストレッサー尺度、対人ストレスコ-ビング尺度・対処効力感尺度、自

尊感情尺度から構成される質問紙を用いた。

尭果・考幕 あいまいな友人関係状況におけるストレスと、他者や自分のネガティブな態度・

行動に対するストレスとの関連がみられた。この結果から、あいまいな状況においてはあいま

いさ自体にストレスを抱くというよりも、その状況を否定的に捉えるためにストレスを抱くと

いう仮説は立証されたo また、あいまいな状況におけるストレス度が高い場合には、ストレス

状況において積極的に肯定的な人間関係を成立・改善・維持するため努力するような対処法が

採択されやすく、対処効力感の高さに比例して自尊感情は高まり不適応がおこりにくくなるこ

とが示唆された0 -方、ストレスを感じにくい場合には、人間関係によって生じるストレスフ

ルな出来事を問題視することなく、むしろ軽視し、問題から回避するという対処法が採択され

やすく、この場合には、自尊感情は対処効力感による影響をあまり受けないという結果が得ら

れ、このような対処があいまいな状況においてはもっとも安定した対処であると示唆された。

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コミュニケーションスタイルからみた友人関係のあり方と自己肯定意識

2005HP106  渡遵 由季子

問題および目的 本研究では、情幸田ヒ社会にともなう青年のコミュニケーションスタイル

の変化を受けて、現代青年のコミュケ-ションスタイルのあり方を、自己開示の際に用い

るコミュケ-ション手段の観点から分類し、その傾向を把握した上で、コミュニケーショ

ンスタイルと友人関係深度の関連、またコミュニケーションスタイルと友人関係深度が自

己肯定意識に与える影響を検討する。

方法 愛知県内の私立大学に通う大学生に質問紙調査を行い、218名から有効回答を得た。

なお、調査には「自己開示尺度」 「友人関係尺度」 「自己肯定意識尺度」の3つの尺度を使

用した。

結果および考察 青年が自己開示をする際のコミュニケーションスタイルについて、その

傾向を検討した結果、現代青年の全般的なコミュニケーション不足の実態が浮き彫りにな

った。また、コミュニケーション手段の用いられかたに関しては、直接的な手段と間接的

な手段をどちらも多く用いているか、どちらも少ない者の割合が高く、現代青年はコミュ

ニケーションを頻繁にするかほとんどしないかの2群に大別されることが明らかとなった。

次に、コミュニケーションスタイルと友人関係深度の関連を分析した結果、どの自己開

示内容においても、間接コミュニケーションの頻度に関わらず、直接コミュニケーション

による自己開示の多い人は、自己開示の少ない人よりも友人とのかかわりが深いことが示

された。

これらの結果から、これまでに数々の先行研究で示されてきた、自己開示が友人との関

係の親密化に深くかかわっていることが本研究でも確認された。さらに、自己開示をする

際の手段として直接的なコミュニケーションを用いることがより一層友人関係を深めるこ

とが示唆された。自己肯定感に関しては、青年が目標に向かって努力する自己実現的な態

度を高めるためには自己開示を行うことが、充実感や自己受容感を高めるためには友人と

深くかかわることが重要で、直接コミュニケーションによって自己開示を行うことがこれ

らを高めることに結びつくことが明らかとなった。

ところで、全体的な傾向として、直接的なコミュニケーションによって自己開示を行う

ことは友人とのかかわりを深め、自己肯定意識も高めるのに対し、直接コミュニケーショ

ンも間接コミュニケーションもあまり行わない青年は友人関係が希薄化し、自己肯定意識

も低くなると考えられる。しかし、本研究のコミュニケーションスタイルの分類において

直接・間接コミュニケーションがともに少ない青年の人数がもっとも多く、全体の約4分

の1にのぼった。つまり、現代青年の友人関係の希薄化の背景には、青年の全般的なコミ

ュニケーション不足があることが予測され、このことが彼らの自己肯定意識にも影響を及

ぼしている可能性が示唆されたといえよう。