豊かなアマモ場再生支援事業jsnfri.fra.affrc.go.jp/pref/yamaguchi/jigyo/2008/219-221...平成20年度...

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平成 20 年度 山口県水産研究センター事業報告 (2009) 豊かなアマモ場再生支援事業 吉松隆司・松野 アマモ場は、多 くの水産重要生物の幼稚仔が成育の場 と しているとともに、栄養塩の循環等干潟の環境保全に重要 な役割を担 っている。山口湾には、かつて大きなアマモ場 (1950 年代 720ha)があったが、1960 年代から衰退を始 め、1980 年代には壊滅状態 とな り、その後 2005 年には 153ha まで回復 している。 平成 18 年度から、里海の再生を目指 して地域住民等が 行 うアマモ場再生活動の支援事業を実施 し、 この中で内海 研究部はアマモ分布調査や水質、底質の調査および一般市 民等を対象にした学習会を担当した。学習会で参加者によ るアマモ花枝採集を実施 し、内海研究部で種子の選別や保 管をお こなった。 また学習会等で参加者が容易に取 り組め る簡易な播種法 として、アマモパ ックの改良を して参加者 によるアマモ播種を支援 した。 方法および結果 1 アマモ分布、環境調査 山口湾のアマモ場分布状況 と、アマモ場造成区域 (平成 16-20 年造成)のアマモ分布密度及び環境(水質、底質) について調査 した。 (1 )山口湾のアマモ場分布 昨年に引き続き 2008 5 7日の最干潮時(潮位 -llcm)にヘ リコプターか ら山口湾のアマモ場を空中撮影 してアマモ場面積を調査した(表1、図 1) 1 山口湾アマモ場面積 (ha) アマモ場位置 1950 年代 1980 年代 2002 2005 2008 阿知須側 335.4 7.5 3.3 25.2 56.6 二 島側 240.0 34.4 25.3 140.3 101.6 575.4 4 1 .9 28.6 165.5 156.5 山口湾アマモ場面積 600 500 一ヽ 震 400 (300 ha ) 200 1 00 0 1曳 、も Nも㌔ I ,戚漂.巴禦=恥W▲ ーYi Jl-.■p t l I + 阿知須側 - 二島側 -- -合計 1 山口湾アマモ場面積 (2)アマモ場造成 区域 に おけるアマモの生育状況および 環境平成 17-20 に造成 した区域の潜水調査を実施 した (図 2) 。アマモの分 布密度について潜水調査 した結果を表 2 に示 した。 また、水質 (水温 、塩分、pH DO COD 栄養塩類、濁度等)の 調査結果を表 3 に、底質(粒度組成、 強熱減量、硫化物、 COD)の調査結果を表 4 に示 した。 アマモ場造成区 域の潜水調査で、平成 17 年に播種 し ST.5 以外の調査 地点では栄養株が激減 していたが実生 株が見られているこ とか ら回復が期待 され る。平成 20 11 月に播種(アマモ種子 3 00 /r d)した ST.9において 多 くの実生株 (50 /ni)が確認され、播種 した種子の 15% 程度が発芽 した と推定 された。 底質調査で、ST5 -9 のシルト (粒度 63〝m以下)の 割合は 6 月が 29%9 69%1 月が 29%3 月が 31 %であ り、9 に最 も高 く 1 月~6 月までは低 く推移 していた。冬期の波浪でアマモ場のシル トが撹拝され減少

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平成 20年度 山口県水産研究センター事業報告 (2009)

豊かなアマモ場再生支援事業

吉松隆司 ・松野 進

アマモ場は、多くの水産重要生物の幼稚仔が成育の場と

しているとともに、栄養塩の循環等干潟の環境保全に重要

な役割を担っている。山口湾には、かつて大きなアマモ場

(1950年代 720ha)があったが、1960年代から衰退を始

め、1980年代には壊滅状態となり、その後 2005年には

153haまで回復している。

平成 18年度から、里海の再生を目指して地域住民等が

行うアマモ場再生活動の支援事業を実施し、この中で内海

研究部はアマモ分布調査や水質、底質の調査および一般市

民等を対象にした学習会を担当した。学習会で参加者によ

るアマモ花枝採集を実施し、内海研究部で種子の選別や保

管をおこなった。また学習会等で参加者が容易に取り組め

る簡易な播種法として、アマモパックの改良をして参加者

によるアマモ播種を支援した。

方法および結果

1 アマモ分布、環境調査

山口湾のアマモ場分布状況と、アマモ場造成区域 (平成

16-20年造成)のアマモ分布密度及び環境 (水質、底質)

について調査した。

(1)山口湾のアマモ場分布

昨年に引き続き2008年 5月 7日の最干潮時 (潮位

-llcm)にヘリコプターから山口湾のアマモ場を空中撮影

してアマモ場面積を調査した (表 1、図 1)。

表1 山口湾アマモ場面積 (ha)

アマモ場位置 1950年代 1980年代 2002年 2005年 2008年

阿知須側 335.4 7.5 3.3 25.2 56.6

二島側 240.0 34.4 25.3 140.3 101.6

合 計 575.4 41.9 28.6 165.5 156.5

山口湾アマモ場面積

600500 ち

一ヽ震 400(300ha)2001000

1曳や

ヽ ㌔八 、もNも㌔ I,戚漂.巴禦=恥 W▲ーYi一 Jl-.■p

t l♂ ♂ ♂ ♂ ♂I+ 阿知須側 - 二島側 -- -合計

図1 山口湾アマモ場面積 (2)アマモ場造成

区域に

おけるアマモの生育状況および環境平成 17-20年

に造成した区域の潜水調査を実施した(図2)。アマモの分

布密度について潜水調査した結果を表2に示した。また、水質 (水温

、塩分、pH、DO、COD、栄養塩類、濁度等)の

調査結果を表3に、底質 (粒度組成、強熱減量、硫化物、

COD)の調査結果を表4に示した。アマモ場造成区

域の潜水調査で、平成 17年に播種したST.5以外の調査

地点では栄養株が激減していたが実生株が見られているこ

とから回復が期待される。平成 20年11月に播種 (アマモ種子 3

00個 /rd)したST.9において多くの実生株 (50株/ni)が確認され、播種した種子の

15%程度が発芽したと推定された。底質調査で、ST5

-9のシル ト (粒度 63〝m以下)の割合は6月が29%、9月

が69%、1月が 29%、3月が31%であり、9月

に最も高く1月~6月までは低く推移していた。冬期の波浪でアマモ場のシルトが撹拝され減少

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表 2 アマモ生育 状況

ST5(H17.ll) ST6(H17.ll)

平成 21年 1月21-22日調査

ST7(H18.ll) ST8(H19.ll) ST9(H20.ll)被度

栄養株密度(秩/m2)草丈 (cm)

アマモの 菓幅 (mm)

生育状況 花枝密度 (秩/m2)

実生密度 (樵/m2)色合い

付着生物

16%

13.4

61.25

8.375

4.2

濃緑

ウズマキゴカイ

R

2.7

50.4

底質 シル ト シル ト シル ト シル ト シル ト

表3 アマモ場水質調査結果

若 月㌔ st・No 採水層 水 温 塩 分 pH DO DO DO COD N町 N NO21N NO3-N ."NOB,-TN DIN PO41P Chl-a 濁 度

ぐC) (ml/L) (mかし) (%) (ppm) (〟mol/1) (FLmOl/I)(FLmOl/l)(LLmOl/1) (FLmOl/I)(FLmOVl) (LLg/I) (NTU)

2008.6.25 5 0

2008.6.25 5 B-1

2008.6.25 6 0

2008.6.25 6 B-1

2008.6.25 7 0

2008.6.25 7 B-1

2008.6.25 8 0

2008.6.25 8 B-1

33622211

22222222

22222222

5.37 7.674.46 6.385.66 8.084.97 7.105.62 8.025.16 7.375.77 8.245.18 7.40

2.99 0.35 0.89

1.92 0.31 3.45

1.97 0.26 0.21

2.58 0.12 tr

2.89 0.08 0.01

2.18 0.65 0.62

1.74 0.36 0.48

4.10 0.41 2.52

1.24 4.23 0.26

3.76 5.68 0.15

0.47 2.44 0.12

0.12 2.70 0.09

0.09 2.98 0.ll

1.27 3.45 0.08

0.84 2.58 0.07

2.93 7.03 0.062008.9.24 5 0

2008.9.24 5 B-1

2008.9.24 6 0

2008.9.24 6 B-1

2008.9.24 7 0

2008.9.24 7 B_1

2008.9.24 8 0

2008.9.24 8 B-1

2008.9.24 9 0

2008.9.24 9 B-1

31.56 7.86631.58 7.86230.89 8.01532.35 7.98531.00 7.98532.43 8.00931.93 8.06732.73 8.00732.22 8.048

32.64 8.065

4.72 6.754.13 5.904.40 6.283.91 5.584.40 6.284.68 6.694.96 7.094.73 6.754.97 7.104.95 7.07

2.39 15.41

3.53 16.97

1.49 9.33

1.48 10.04

1.10 10.35

1.53 8.65

1.00 6.13

1.76 11.39

1.03 10.55

1.02 5.98

0.27 3.02

0.30 6.65

0.22 2.02

0.16 0.85

0.28 2.69

0.11 0.42

0.10 0.46

0.16 0.86

0.07 0.61

0.11 0.50

3.29 18.70 0.ll

6.95 23.92 0.ll

2.24 11.57 0.29

1.01 11.05 0.25

2.97 13.32 0.47

0.53 9.18 0.26

0.56 6.69 0.15

1.02 12.41 0.39

0.68 11.23 0.13

0.61 6.59 0.27

7.5139.375.55ll.27ll.276.684.0330.274.488.36

2009.1.21 5 0

2009.1.21 5 B_1

2009.1.21 6 0

2009.1.21 6 B_1

2(氾9.1.21 7 0

2009.1.21 7 B-1

2009.1.22 8 0

2009.1.22 8 B-1

2009.1.22 9 0

2009.1.22 9 B-1

10.0 32.7010.0 32.909.4 32.569.6 32.949.2 32.679.6 32.949.3 32.889.4 32.969.3 32.899.6 32.90

8.020 7.138.080 7.258.060 6.918.060 7.008.110 7.268.100 7.128.080 6.618.060 6.64

8.090 6.228.110 6.99

10.18 111.210.36 113.39.87 106.310.00 108.410.37 111.210.17 110.29.44 101.79.49 102.38.88 95.79.98 108.2

0.49 8.87

0.94 7.96

0.52 6.37

0,8 7 7.62

0.63 6.82

1.09 10.35

0.34 5.57

1.19 4.78

0 .45 4.89

0.61 6.03

2.00 7.41

2.54 7.96

1.63 3.85

1.75 4.65

1.51 3.63

1.73 3.711.19 3.15

1.48 4.16

1.26 4.00

1.26 5.39

9.41 18.28 0.66

10.50 18.46 0.48

5.48 11.85 0.57

6.40 14.02 0.90

5.14 11.96 0.61

5.44 15.79 0.54

4.34 9.91 0.50

5.64 10.42 0.55

5.26 10.15 0.51

6.65 12.68 0.47

1.93 0.872.32 2.942.87 1.734.04 13.752.30 4.593.18 4.052.88 1.785.11 27.652.83 1.052.21 4.55

2(氾9.3.29 5 0

2009.3.29 5 B-1

2009.3.29 6 0

2009.3.29 6 B-1

2009.3.29 7 0

2009.3.29 7 B.1

2009.3.29 8 0

2009.3.29 8 8-I

2009.3.29 9 0

2009.3.29 9 8-1

12.4 32.5012.8 32.8012.6 32.4312.6 32.6112.1 32.2912.4 33.3112.1 32.5312.1 33.1212.9 32.5112.6 32.75

8.006 6.678.038 6.84

8.074 6.438.053 6.738.077 6.508.067 6.498.067 6.178.067 6.468.106 6.958.058 7.08

9.53 109.39.76 113.49.19 105.99.61 110.99.28 105.99.28 107.18.82 100.79.23 105.79.93 115.310.12 116.8

1.09 7.85

1.94 11.37

0.67 5.80

1.12 6.60

0.86 5.57

1.19 6.03

1.03 5.69

1.11 5.80

0.91 5.00

1.38 7.39

1.29 5.80

1.61 3.76

1,51 2.41

1.26 2.12

1.80 8.07

1.85 3.45

1.31 1.57

1.46 5.63

1.09 1.53

1.26 3.22

7.09 14.94 0.43

5.37 16.74 0.39

3.92 9.72 0.40

3.38 9.98 0.39

9.87 15.44 0.46

5.30 11.33 0.42

2.88 8.57 0.40

7.09 12.89 0.36

2.62 7.62 0.26

4.48 11.87 0.38

表4 アマモ場底質調査結果

月 日 STNo 乾泥率 IL Totaレs

4mm 2mm 1mm 500〃m 250〃m 125〃m 63〃m <63〃m

COD

6

4

3

2

1

2.3 7.2 5.8

0.9 2.4 2.3

0.9 2.3 2.3

17.6

日日

日日

3

0

4

0

8

0

3.1

17.2

17.4

18.0

20.0

3

5

8

5

5

9

5

9

1

1

3

3

9.3 34.8

13.8

37.8

22.9

24.8

47.3

3

6

0

6

7

2

1

1

0.172 17.1

0.149 14.9

0.7 6.3

0.4 0.4

9

6

3

0

1

0.6 1.7 2.1

0.0 1.2 1.4

0.0 0.5 0.5

ll.3

0.5

2.0

1.5

0.5

0

8

5

2

0

3

1 2

7

5

9

0

2

3

9

6

2.0 15.7 78.2

1.5 25.0 72.0

3.2 0.218

9.1 0.834

4.7 0.296

6.4 0.236

4.8 0.461

ll.4

23.2

13.3

16.5

12.9

1.3 10.4 20.0 17.9 11.6 19.0

0.4 11.5 10.7

1.7 10.8 8.6

2.5 12.4 11.4

1.0 12.4 10.9

17.0 10.3 9.7

1

8

6

4

r:

日日

21.2 19.4

15.9 11.5

13.5 15.6 15.2

2.6 0.103 7.3

7.6 0.557 19.5

4.4 0.329

6.3 0.150

4.6 0.403

7

7

2

3

5

4

1

1

1

1.8 14.6 22.7 19.2

0.0 0.8 12.3 20.5

14.5 10.6

4

9

8

47.仏

48.

6

5

7

5

8

0

1

1

1

ll.4 10.1

9.1 13.5

9.1 20.8

8

4

0

5

3

3

0

8

1

1

1

1

7

5

4

8

2

4

7

4

1

1

1

2.1 0.164

7.9 0.670

5.8 0.201

6.5 0.223

5.1 0.366

4

9

9

3

9

5

0

2

6

1

2

1

1

1

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2 アマモ学習会

2008年 6月7日に内海研究部において、30名の参加

者に平成 19年度山口湾アマモ場調査結果と平成20年度

アマモ場造成計画について説明し、山口湾美濃ケ浜でアマ

モ場の生物観察と花枝の採集を行った。

11月8日、内海研究部で参加者 (50名)にアマモ花枝

や種子の採取状況及びアマモパックについて説明し、参加

者はアマモ場造成を行う為のコロイダルシリカ法やアマモ

パックの播種準備作業を行なった後、アマモパックを船上

から投下して播種を行った。

3 アマモ種子の採取と発芽調査

(1)アマモ種子の採取と保存

2008年6月7日、山口湾で参加者が採取したアマモ花

枝 1,800本を屋外3kAコンクリート流水槽に収容して培

養した。8月28日までに種子 180千個を取り上げ、室内

(30ゼ流水槽)に移して室温で保存し、種子 150千個を

11月8日にアマモ場造成の播種に供した。なお一部の種

子は発芽試験等に用いた。

(2)種子の発芽調査

屋内流水槽内で保存していた種子を平成20年 12月 15

日から平成20年2月末日まで砂泥を入れたバット(30cm

x30cmX5cm)に播種 (100個)して発芽率を調査した。

発芽率は30%であった。

4 簡易なアマモ播種方法アマモパックの改良

昨年度試作したアマモパックのガーゼの大きさを30cm

x30cmから15cm X15cm と小型化するとともに、入

れるアマモ種子数を 10個から20個に増やし、より多く

の種子を播けるようにした。またガーゼを閉じるための糸

を針金に変更し、制作を容易にした。

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