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Katsumi Udaka, Den Nakata, Tatsuya Ikarashi 平成26年度 交通ビッグデータを活用した 交通渋滞の新たな分析手法の可能性について 本局 建設部 道路計画課 ○宇髙 勝美 本局 建設部 道路計画課 仲田 田 (株)建設技術研究所 北海道支社 道路室 五十嵐 達哉 北海道の幹線道路では季節、曜日や時間帯など様々な状況で交通需要の偏在による渋滞が発 生する。一方で、現在の交通調査による分析では、ある特定日または平均化されたデータのた め、必ずしも的確に渋滞状況を把握出来ていない状況にある。本報告は、効果的な渋滞対策立 案を目的にIT技術により取得される民間ビッグデータを活用し、的確かつきめ細かく渋滞状 況、要因を把握する新たな分析手法の可能性を検証するものである。 キーワード:渋滞分析、プローブデータ、ビッグデータ 1. はじめに 交通渋滞は道路交通における大きな課題の一つであり、 移動時間の増加だけではなく、物流コストの増大による 競争力低下、環境負荷への影響など様々な問題に繋がっ ている。道路管理者にとって、渋滞を解消することは交 通安全の確保などと同様に重要な課題である。渋滞を緩 和・解消するためには渋滞発生状況、要因をきめ細かく 把握したうえで、対策を立案・実施し、その効果を検証 するなど現地状況に即したマネジメントサイクルを適切 に実施する必要があり、北海道開発局では、平成24 年度 に北海道渋滞対策協議会を設立し、その実践にあたって いる。 現在、渋滞に関する各種の分析・評価は、道路交通セ ンサスやプローブデータを用いて行われている。北海道 のような広大な面積を有する積雪寒冷地域では、季節に よる交通需要変動、道路交通環境の変化が大きいため、 慢性的な渋滞だけでなく季節、曜日や時間帯など様々な 交通需要の偏在をなどの対応を求められる。 近年、プローブデータは情報通信・処理技術の進展、 GPS の精度向上に伴い、走行軌跡データの収集が容易に なり、データの蓄積が進んでいる 1 。これらのビッグデ ータは緯度経度による座標データとしてきめ細かに活用 が可能となってきており、道路交通分析の高度化が期待 されている。渋滞の分析評価にあっても、新たなビッグ データの活用により、より的確かつきめ細かな分析・評 価を行うことにより、効率的かつ効果的な渋滞対策のマ ネジメントに活用できる可能性が考えられる。 このような中、本検討ではきめ細かな交通状況を把握 できる交通ビッグデータを活用した新たな渋滞分析手法 について具体の検討事例を基に、今後の渋滞に関する分 析手法の可能性を報告するものである。 2. 交通ビッグデータの概要 本検討で用いた交通ビッグデータは、携帯カーナビサ ービスのプローブシステムにて取得された札幌市内にお ける国道及び道道のプローブデータ(以下、「携帯カー ナビデータ」という)を用いた。携帯カーナビデータの 概要を以下に述べる。 (1) データの取得方法 携帯カーナビデータは、図-1 に示すようにスマートフ ォン等の携帯端末機に専用の携帯カーナビアプリケーシ ョンがインストールされており、ユーザーからデータ収 集される。データはGPS にて測位した位置情報を1 6 間隔で位置情報データベースに保存する仕組みとなって いる。 (2) データ項目 携帯カーナビデータでは、表-1の項目等のデータを収 図-1 データ取得に用いられる携帯端末 別紙―2

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Page 1: 交通ビッグデータを活用した 交通渋滞の新たな分析 …...Katsumi Udaka, Den Nakata, Tatsuya Ikarashi 平成26年度 交通ビッグデータを活用した 交通渋滞の新たな分析手法の可能性について

Katsumi Udaka, Den Nakata, Tatsuya Ikarashi

平成26年度

交通ビッグデータを活用した

交通渋滞の新たな分析手法の可能性について

本局 建設部 道路計画課 ○宇髙 勝美

本局 建設部 道路計画課 仲田 田

(株)建設技術研究所 北海道支社 道路室 五十嵐 達哉

北海道の幹線道路では季節、曜日や時間帯など様々な状況で交通需要の偏在による渋滞が発

生する。一方で、現在の交通調査による分析では、ある特定日または平均化されたデータのた

め、必ずしも的確に渋滞状況を把握出来ていない状況にある。本報告は、効果的な渋滞対策立

案を目的にIT技術により取得される民間ビッグデータを活用し、的確かつきめ細かく渋滞状

況、要因を把握する新たな分析手法の可能性を検証するものである。

キーワード:渋滞分析、プローブデータ、ビッグデータ

1. はじめに

交通渋滞は道路交通における大きな課題の一つであり、

移動時間の増加だけではなく、物流コストの増大による

競争力低下、環境負荷への影響など様々な問題に繋がっ

ている。道路管理者にとって、渋滞を解消することは交

通安全の確保などと同様に重要な課題である。渋滞を緩

和・解消するためには渋滞発生状況、要因をきめ細かく

把握したうえで、対策を立案・実施し、その効果を検証

するなど現地状況に即したマネジメントサイクルを適切

に実施する必要があり、北海道開発局では、平成24年度

に北海道渋滞対策協議会を設立し、その実践にあたって

いる。

現在、渋滞に関する各種の分析・評価は、道路交通セ

ンサスやプローブデータを用いて行われている。北海道

のような広大な面積を有する積雪寒冷地域では、季節に

よる交通需要変動、道路交通環境の変化が大きいため、

慢性的な渋滞だけでなく季節、曜日や時間帯など様々な

交通需要の偏在をなどの対応を求められる。

近年、プローブデータは情報通信・処理技術の進展、

GPSの精度向上に伴い、走行軌跡データの収集が容易に

なり、データの蓄積が進んでいる1)。これらのビッグデ

ータは緯度経度による座標データとしてきめ細かに活用

が可能となってきており、道路交通分析の高度化が期待

されている。渋滞の分析評価にあっても、新たなビッグ

データの活用により、より的確かつきめ細かな分析・評

価を行うことにより、効率的かつ効果的な渋滞対策のマ

ネジメントに活用できる可能性が考えられる。

このような中、本検討ではきめ細かな交通状況を把握

できる交通ビッグデータを活用した新たな渋滞分析手法

について具体の検討事例を基に、今後の渋滞に関する分

析手法の可能性を報告するものである。

2. 交通ビッグデータの概要

本検討で用いた交通ビッグデータは、携帯カーナビサ

ービスのプローブシステムにて取得された札幌市内にお

ける国道及び道道のプローブデータ(以下、「携帯カー

ナビデータ」という)を用いた。携帯カーナビデータの

概要を以下に述べる。

(1) データの取得方法

携帯カーナビデータは、図-1に示すようにスマートフ

ォン等の携帯端末機に専用の携帯カーナビアプリケーシ

ョンがインストールされており、ユーザーからデータ収

集される。データはGPSにて測位した位置情報を1~6秒

間隔で位置情報データベースに保存する仕組みとなって

いる。

(2) データ項目

携帯カーナビデータでは、表-1の項目等のデータを収

図-1 データ取得に用いられる携帯端末

別紙―2

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Katsumi Udaka, Den Nakata, Tatsuya Ikarashi

集・蓄積している。携帯カーナビは、どのような車両に

も容易に取り付けが可能であるため、乗用車だけでなく、

大型車や商用車での利用など幅広いプローブデータを取

得できることが特徴のひとつである。本検討は、全車両

を対象にしているが、ユーザが車種登録をしている場合、

車種によるデータ選別が可能である。なお、ユーザIDの

匿名化、発着地付近のデータ削除により個人を特定でき

ないように加工されている。

今回分析に使用する平成26年3月の札幌市内の国道にお

けるサンプル数は図-2に示すとおりであり、サンプル数

の多い国道36号では月200~400サンプル程度、サンプル

数の少ない国道453号では月10~200サンプル程度となっ

ている。

表-1 携帯カーナビデータのデータ取得項目

項目 備考

ユーザID

ユーザ別 ID は取得しているが、分析の際には個人が特定されないよう匿名化される。車種区分などユーザが情報を登録している場合は登録情報との関連付けが可能

経路ID カーナビサービスの音声案内開始から終了までを1つの経路とする

測位 日時

1~6秒単位で記録

緯度・経度

ミリ秒単位で記録(日本測地系緯度経度)

図-2 携帯カーナビデータのサンプル数(H26.3)

図-3 携帯カーナビデータと交通データの測定速度の比較

(3) データの特徴

従来、道路交通分析で主に用いられてきた交通データ

は特定の区間毎で平均化し集計されたデータであるのに

対し、携帯カーナビデータは、1~6秒毎に記録される緯

度経度による座標データである。また、通行車両1台毎

の進行状況が把握可能であるため、従来の交通データで

は把握できない進行方向別の分析やODの把握が可能で

ある。なお、携帯カーナビによる速度データは、図-3の

とおり従来の交通データと大きく乖離していないことを

確認している2)。

3. 携帯カーナビデータを活用した新たな渋滞

分析手法

本検討では、携帯カーナビデータを活用した新たな渋

滞分析手法として、①交差点進行方向別の速度状況の把

握、②1台毎の走行特性を踏まえた速度変化状況の把握、

③利用者特性を考慮した渋滞状況評価について検討事例

を報告する。

(1) 交差点進行方向別の速度状況の把握

携帯カーナビデータは1走行毎の経路情報を用いるこ

とが可能なため、進入する交差点に対し左折・直進・右

折などきめ細かい実態を把握することが可能である。

本報告では、携帯カーナビデータより集計した進行方

向別の交差点通過時間を用いて、渋滞箇所の要因分析・

対策検討、効果検証への適用を検討した事例を示す。

なお、本検討で用いる交差点通過時間データは、図-4

に示すとおり流入側の共通区間として200m、流出側の

延長区間として50mの計250mの走行時間の範囲とした。

a) 要因分析・対策検討への適用

渋滞交差点において、対策を検討する場合、現地での

交通調査(交通量・渋滞長)を実施し、渋滞発生状況・

要因を特定することが一般的である。しかし、従来の現

地での交通調査では、調査時間・日数に応じて調査費用

が発生するため全ての交通状況について網羅的に調査す

ることは難しく、ある特定の日、時間でのデータしか取

得できていないのが実情である。

また、交通調査実務の手引き3)では、交通量調査の日

時は、「平均的な交通渋滞が発生している平日もしくは

休日の渋滞長が最大となる時刻を含む3時間程度とし、

図-4 交差点通過時間の定義

凡例:月間通過回数

3~10~30~100~300300~

相関係数全体:0.824うち⼀般国道:0.910

交通データ(㎞/h)

携帯

カー

ナビ

デー

タ(㎞

/h)

230

5 275

453

36

274

12

出典:ナビタイムジャパン

出典:ナビタイムジャパン

0 1 2 3 4 5km

国道36号は サンプル数が多い

国道453号は サンプル数が少ない

交通データとの 相関性は高い

相関係数 1.000

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Katsumi Udaka, Den Nakata, Tatsuya Ikarashi

最大渋滞長の発生時刻が調査時間のほぼ中央値に位置す

るように調査時間帯を設定する」とあるが、実際には平

均的な渋滞発生日がいつであるかを特定することは難し

い。さらに前述のとおり北海道では季節による道路状況

の変化、観光ピーク時等の交通需要変動も大きいため、

交通量調査で平均的な交通状況を的確に把握することが

より困難となっている。

そこで、主要渋滞箇所に特定されている国道36号と道

道西野白石線の交差点を対象に、実際の現地調査による

データと携帯カーナビによるの交差点通過時間データの

質を比較し、渋滞実態・要因分析における携帯カーナビ

データの適用性について検討した。

図-5は対象交差点において現地で実施した交通調査結

果(渋滞長・滞留長)である。調査は平成22年7月30日

(平日)に17~18時台の2時間で実施されており、道道

西野白石線の東側(至清田)の左直車線で最大230m(5

分)、西側(至南平岸)の右折車線で最大20m(3分)

の渋滞が発生している。

ここで、現地調査データとの比較として通常期(3~

11月)の夕ピーク(17~18時台)における携帯カーナビ

データの進行方向別交差点通過時間集計結果を図-6に示

す。携帯カーナビデータの交差点通過時間おいても、現

地調査により渋滞が観測された道道西野白石線東側の左

折・直進の通過時間が多くなっており、現地との整合性

が確認できる。なお、従来の交通データで同条件の旅行

速度を整理した結果を図-7に示すが、交差点全体で速度

図-5 対象交差点の現地交通調査結果(渋滞長・滞留長)

図-6 携帯カーナビデータによる進行方向別の交差点通過時間

(通常期平日:夕ピーク)

低下が発生していることは把握できるものの、現状では

右左折などの進行方向別の渋滞発生状況を把握・推定す

ることはできない状況である。

携帯カーナビによるデータの分析結果では、右折の通

過時間は左折・直進に比べ時間を要しておらず、直左車

線において、左折車両と右折車両を避けた直進車両の走

行速度が低下していることが推測できる。

このように携帯カーナビデータでは車線運用毎による

渋滞発生要因も推定でき、左折車両への歩行者等の影響

や右折車両の滞留状況、直進車両の走行車線などをきめ

細かく把握する事が可能である。

また、現地交通調査はある調査日の1時点の結果であ

るのに対し、携帯カーナビデータは、年間を通したデー

タを有しているため季節別や平休別、時間帯別といった

様々な集計が可能である。図-6に示す通常期・平日の他、

休日や冬期、時間帯別における交通状況を把握するため、

図-8に示す、対象交差点の通常期の休日、冬期(1~2月、

12月)の平日それぞれの夕ピーク時の交差点通過時間や、

図-9に示す、対象交差点において通過時間の大きい道道

西野白石線の東側の直進交通について時間帯別通過時間

帯のデータの分析を行った。

分析の結果、通常期・休日における国道36号南側の右

折の通過時間が長く、混雑が発生していることが推察さ

れる。時間帯別の分析結果では、16~18時台に通過時間

図-7 交通データによる交差点速度(通常期平日:夕ピーク)

図-8 休日・冬期別交差点通過時間(夕ピーク)

右折 直進 左折

84 64 75

左折 83直進 73 108 右折

右折 108 153 直進

143 左折

67 61 130左折 直進 右折

北側(至中央区)

南側(至清田区)

西側

(

至南平岸駅)

(

至南郷

丁目駅)

13

国道

号線

36

道道西野白石線

道道西野白石線

東側

22.2km/h

19.9km/h19.5km/h

18.4km/h

国道

号線

36

道道西野白石線

道道西野白石線

北側(至中央区)

南側(至清田区)

西側

(

至南平岸駅)

(

至南郷

丁目駅)

13東側

国道

号線

36

速度低下が発生していることはわかるが

渋滞状況、発生要因はわからない

旅行速度(km/h)→:~20 →:20~

滞留長:信号が赤から青に変わる瞬間の停止線から最後尾車両までの長さ

渋滞長:信号が青から赤に変わる瞬間の捌け残りの長さ(最後尾の車両の位置)

右折 直進 左折

75 69 80

左折 61直進 113 119 右折

右折 149 142 直進

164 左折

43 64 103左折 直進 右折

北側(至中央区)

南側(至清田区)

西側

(

至南平岸駅)

(

至南郷

丁目駅)

13

国道

号線

36

道道西野白石線

道道西野白石線

国道

号線

36

東側

交差点通過時間(秒)→:~70 →:70~100 →:100~130 →:130~

交差点通過時間(秒)→:~70 →:70~100 →:100~130 →:130~

通常期・休日

冬期・平日

直左車線において混雑が発生

右折のみ

混雑が発生

左直車線において混雑が発生

信号サイクル長:130秒

信号サイクル長:130秒

右折車線において混雑が発生

平成22年7月30日(平日)

17~18時台調査

右折 直進 左折

90 57 54

左折 102直進 75 102 右折

右折 113 138 直進

151 左折

68 55 80左折 直進 右折

(

至南郷

丁目駅)

13

国道

号線

36

道道西野白石線

道道西野白石線

国道

号線

36

北側(至中央区)

南側(至清田区)

西側

(

至南平岸駅)

東側

交差点通過時間(秒) →:~70 →:70~100 →:100~130 →:130~

通常期・平日

直左車線において混雑が発生

信号サイクル長:130秒

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Katsumi Udaka, Den Nakata, Tatsuya Ikarashi

が多くなっているなど、通過時間の時間変動についても

確認できる。

この結果、携帯カーナビデータでは、限定された調査

日・調査時間で実施する現地調査では把握できない、曜

日、時間帯別、季節による変動を網羅的に把握すること

により、きめ細かい渋滞対策を検討することが可能とな

ることがわかる。

b) 交差点改良実施後の効果検証

渋滞対策として実施した交差点改良で、定量的な評価

を行う場合、従来の交通データでは各流入部の上下線別

の旅行速度の比較は評価できるものの、右折車線の設置

などの対策に対応する評価は難しく、現地での交通調査

が必要となる。しかし、現地調査では、ある調査日1日

のデータであるため、渋滞に対する評価をするには不十

分であることが考えられる

ここでは、札幌市の国道12号・国道275号苗穂交差点

を対象に交差点対策実施後の定量的な評価について、携

帯カーナビデータの適用を試みた。対象交差点では図-

10に示すとおり、平成25年11月22日に国道12号南側流入

部における左折専用車線の増設・右折専用車線の新設、

東側流入部における右折車線の新設を行っている。

開通前後の2週間のデータをもとに、国道12号南側流

入部の左折・直進交通の交差点通過時間の変化を集計し

た結果は図-11のとおりである。

図-9 時間帯別交差点通過時間【道道西野白石線_直進】

(通常期平日)

図-10 分析対象交差点(国道12号・国道275号苗穂交差点)

位置図・対策内容

左折車両は開通前47.1秒から開通後33.2秒と約14秒減

少し、それに伴い直進車両も開通前115.4秒から開通後

61.9秒へと約53秒交差点通過時間が減少している事が把

握できる。

また、通過時間のばらつきを見ると左折では代表的な

データ群を表す25%タイル値~75%タイル値(図中青い箱

の示す範囲)が開通前は36秒間あったものが19秒間まで

減少しており、通過時間のかかっていたデータが減少し

通過時間のばらつきが減少した。直進では25%タイル値

~75%タイル値の幅はあまり変化がないものの中央値が

減少しており、全体的に通過時間の短縮が図られ1回の

信号サイクル内で処理されていることがきめ細かく把握

できた。

携帯カーナビデータの進行方向別データを用いること

で、対策内容に対応した定量的な評価が可能となること

がわかる。また、携帯カーナビデータは、継続的に蓄積

されたデータであり、過去のデータに遡って評価するこ

とも可能である。さらに、現地調査では天候や周辺での

交通事故等の特異事象により左右される要素を有するが、

携帯カーナビデータでは特異日のデータを除外すること

も可能であり現地調査に比べ、俯瞰的に評価できること

も可能である。

(2) 1台毎の走行特性を捉える速度変化状況の把握

従来の交通データでは集計区間にデータで平均化され

ているため、渋滞の発生状況や影響範囲の把握といった

図-11 開通前後における交差点通過時間

右折車線の新設

左折専用車線の増設 (1 車線→2 車線)

右折専用車線の増設(0 車線→1 車線)

■交差点通過時間(国道12号南側流⼊部_昼間12時間)

14秒短縮

【開通前】11月8日~11月21日 左折:n=156 直進:n=138【開通後】11月22日~12月5日 左折:n=117 直進:n=115

直進時

0

50

100

150

200

250

開通前 開通後

通過時間

左折

≪平均通過時間≫

≪通過時間のばらつき≫

ばらつきの減少

全体的に減少

53秒短縮

※箱ひげ図:ひげ上端;最大値、箱上端;75%タイル値、箱中央;中央値、箱下端;25%タイル値、ひげ下端;最小値

中央値減少

信号サイクル長140秒

36秒の ばらつき 19秒の

ばらつき 中央値 105秒

中央値

60秒

ばらつきの減少

115 120 116 112104 100

119127

112

133 135142

0

20

40

60

80

100

120

140

160

交差点通過時間(秒)

16~18時台の通過時間が長い

信号サイクル長

130秒

左折 直進

開通前 開通後

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Katsumi Udaka, Den Nakata, Tatsuya Ikarashi

分析精度は集計区間の延長に依存する。ここでは携帯カ

ーナビデータのうち最も詳細な点列データを基に1台単

位の走行状況から速度変化状況を把握した事例を示す。

分析対象区間は、従来の交通データにより速度低下が

確認された国道36号清田周辺とした。交通データの速度

低下状況、携帯カーナビデータで把握した車両1台毎の

速度変化状況は図-12のとおりである。

従来の交通データでは「清田2-2」を先頭に約400m程

度の区間で速度が低下していることが確認できる。同じ

区間における携帯カーナビデータでの複数台の車両の速

度変化状況をみると、「真栄1-1」の信号で停止した車

両の多くが「清田2-2」の信号で停止している現象が確

認できる。そのため、交通データにより速度が低下して

いると判断された「清田2-2」から約400mの区間は、一

律的な速度低下ではなく、「真栄1-1」と「清田2-2」の

信号の連動状況により、多くの車両が「清田2-2」で停

止していることが要因であると推定できる。

本分析箇所では信号交差点を先頭とした渋滞は発生し

ていないことが推定できたものであるが、渋滞による速

度低下が発生している場合、各車両の速度状況を分析す

ることで渋滞影響範囲(渋滞長)を把握することも可能

と考えられる。

(3) 利用者特性を考慮した渋滞状況評価

渋滞の渋滞状況の把握では、各種交通データを基に箇

所毎の旅行速度や渋滞の度合いを示す渋滞損失時間、時

間信頼性等の指標で評価しているが、箇所毎に利用する

交通がどういった特性、質であるかの把握はできていな

図-12 速度変化状況の分析 (上:交通データ、下:携帯カーナビデータ及び交通データ)

い。ここでは、交通データで示される課題箇所について、

携帯カーナビデータを基に利用交通特性を考慮した優先

度評価や対策検討への適用について検討した。

図-13に示す断面A(国道12号豊平川渡河部)、断面B(国

道275号札幌新道交差部)は、札幌市内の放射状路線のう

ち従来の交通データにより走行円滑性の課題が大きいと

評価された箇所である。

ここで、両断面の利用交通について携帯カーナビデー

タの有する経路情報を用いてトリップ長分布を比較した。

各断面の利用交通のトリップ長分布・平均トリップ長は

図-14のとおりであり、都市内に位置する国道12号豊平

川渡河部(断面A)では、短トリップの交通が多く、札

幌新道の外側に位置する国道275号(断面B)では長トリ

ップの交通が多いことがわかる。渋滞による利用者への

影響では、同じ10分の遅れが生じる場合でも移動時間が

1時間を要する中での10分の遅れと移動時間が30分を要

する中での10分の遅れでは、後者のほうが渋滞の影響割

合が大きい。よって、道路利用者の肌感覚としては断面

図-13 交通データによる課題箇所

図-14 分析断面におけるトリップ長分布

トリップ長分布(割合) 累積割合 平均トリップ⻑(km)

1600161516301645170017151730174518001815183018451900191519301945

清田2-2 清田2-3 真栄1-1 真栄1-2 真栄1-2

0

10

20

30

40

50

60

70

80

0 200 400 600 800 1000 1200 1400(m)

速度(㎞

/

h)

清田2―2 清田2―3真栄1―1 真栄1―2 真栄1―2

5km/h以下 10 km/h以下 15 km/h以下 20 km/h以下 20 km/h超

交通データ(DRM単位) 車両A 車両B 車両C 車両D 車両E[携帯カーナビデータ]

携帯カーナビデータ

従来の交通データ

進行方向

進行方向

断面A

断面B

0 1 2 3 4 5km

札幌駅

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

0~10

10~20

20~30

30~40

40~50

50~60

60~70

70~80

80~90

90~100

100~

16.0

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

0~10

10~20

20~30

30~40

40~50

50~60

60~70

70~80

80~90

90~100

100~

30.2

国道12号豊平川渡河部

断面A

国道275号札幌新道交差部

断面B

短距離移動が

多い

長距離移動が

多い

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Katsumi Udaka, Den Nakata, Tatsuya Ikarashi

Bより断面Aの方が時間信頼性低下の影響が大きいことも

想定される。断面Aと断面Bでは、従来の交通データでは、

同じ課題の大きさとなるが、利用交通特性を考慮するこ

とで利用者への影響度合いを考慮した優先度評価が可能

となる。

また、ソフト対策で効率的かつ効果的な対策を検討す

る上では、きめ細かく質を分析する必要がある。従来、

利用交通特性を把握するためには、アンケート調査やナ

ンバープレート調査、交通量推計によるODの把握を行っ

てきたが、調査日のみのデータであり、交通量推計にお

いても5年に1度の調査結果から設定したODデータを用い

ているため、携帯カーナビデータの一定期間の実データ

を用いることで、より精度を高める事が考えられる。

4. 本検討の検証結果と今後の課題

(1) 本検討の検証結果

本検討では、以下のことが明らかとなった。

1)携帯カーナビデータで把握できる進行方向別の交差

点通過時間により、渋滞発生状況・要因の把握、きめ

細かい対策の検討、評価が可能となるとともに、現地

交通調査の補完など調査の効率化・網羅的な質でのデ

ータを把握できることがわかった。

2)1台毎の走行状況を分析することで、従来の集計単位

にとらわれないきめ細かい速度変化状況を確認するこ

とができることがわかった。

3)携帯カーナビデータで把握可能な車両の経路情報を

活用することで、課題箇所の利用交通特性を踏まえた

渋滞状況を把握できることがわかった。

(2) 今後の課題

今後の課題として、以下の3点があげられる。

a) 交通ビッグデータの精度検証

交通ビッグデータは、今回使用した携帯カーナビのデ

ータのほかにも多種多様なデータが存在する。活用にあ

たっては各データの特性を十分に把握するとともに、目

的の検討に対応する精度・サンプル数を有しているか検

証を行う必要がある。また、分析において複数の交通デ

表-2 携帯カーナビデータによる渋滞要因の推測例

携帯カーナビデータの

交差点通過時間 渋滞要因(推定)

全方向において速度が低下 交差点の容量不足

右折車線設置交差点における

右折速度の低下

右折専用現示の設定

右折車線未設置交差点におけ

る直進・左折交通の速度低下

右折車両の滞留(車線占有)に

よる直進・左折車両への影響

交差道路との通過時間差が大

きい

信号現示の青時間比

多車線交差点における直進車

線の流出部速度が低下

先づまりによる速度低下

多車線交差点における左折車

線の速度が低下

歩行者等による左折阻害

ータを扱う場合には各データ間の整合性の検証が必要と

考える。

b) 交通ビッグデータ適用事例の増加

本検討の分析項目において今後適用事例を増やしてい

くことで、課題把握における基準設定やデータ分析結果

の評価方法の確立等の可能性も考えられる。

進行方向別分析については、今後、分析対象箇所を増

やし現地調査結果と照らし合わせていくことで、表-2に

示すように携帯カーナビデータの分析結果のみである程

度渋滞要因を推測することが可能になると考えられる。

c) データ活用費用

交通ビッグデータの活用にあたっては、データ購入費

が必要となる。今後データを活用する場合には、データ

の多目的・広域利用や、データ仕様の標準化等による効

率的な調達・利用方法の確立が期待される。

5. おわりに

本検討では、1台毎の走行状況が把握可能な交通ビッ

グデータについて新たな渋滞の分析手法への適用可能性

を検討したが、従来の交通データでは分析できていない

走行状況を加味した分析が可能となることで、課題把握、

要因分析、きめ細かい対策の立案、効果評価といった

様々なフェーズでの分析精度向上や交通量調査の効率化

を期待できることがわかった。

しかしながら、今回は札幌市内における一部の国道及

び道道に関わるデータでの検討であるため、今後におい

ては、取得地域の拡大を行い、面的な渋滞状況把握や郊

外部における観光期の交通状況を把握を行うなど、本検

討のさらなる検証が必要であると考える。

また、渋滞分析だけではなく、新規道路開通時におけ

る車種分類やODを考慮した交通転換状況の把握や高速道

路通行止め時の経路変更状況の把握、TDMの経路誘導施

策の効果検証等への活用も考えられる。今後も交通ビッ

グデータを活用した道路交通の円滑化の検討を継続し、

「道路を賢く使う」視点での効率的かつ効果的な対策検

討を行う上での分析手法として検討を進めたい。

参考文献

1) 内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室:交通データ利活

用に係るこれまでの取組と最近の動向について(案),2014

2)太田恒平ら:携帯カーナビのプローブ交通情報を活用した

道路交通分析, 2013

3)(社)交通工学研究会:交通量調査実務の手引き,2008