観光客ベース・デスティネーション・ ブランド・エ …using the cbbe theory, and...

10
-161- 日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016 《研究ノート》 1.はじめに デスティネーションをブランド・エクイ ティーの視点から進められてきた研究は 2000年半ば以降から表れた。これはデステ ィネーションを一つの製品やサービスのよ うに、その価値を測定しようとする積極的 な研究であるとも言える。その研究の特徴 を見ると、デスティネーション・ブランド・ エクイティーがどのように形成されるのか に関する因果関係を検証する研究(Boo etal.、2009;Pike etal.、2010;Kladou and Kehagias、2014)、そして新たなディメン シ ョ ン の 提 案 す る 研 究(Pike、2007; Konecnik and Gartner、2007)に区別でき る。しかし、デスティネーション・ブラン ドに関する研究は初期段階であり、その歴 史的背景と理論的基盤の確立はまだ不十 分であると研究者たち(Cai、2002;Blain etal.、2005;Sirakaya and Woodside、 2005;Kerr、2006;Hankinson、2007; Pike etal.、2010)は述べている。 デスティネーション・ブランド・エク イティーに関する近年の研究内容を調べ ると、その理論的根幹を多くの研究者が 「顧客基盤のブランド・エクイティー (Customer Based Brand Equity: CBBE)」に置いている。CBBEは製品や サービス、あるいは企業のブランド・エ クイティーを評価するのに、多くの支持 を受けている理論の一つである。しかし、 デスティネーション・ブランド・エクイ ティーを研究するのに、CBBE を適用す るためには限界がある。なぜなら、デス ティネーションは製品やサービスとは異 なり、多くの無形要素(地理的特性・気 候・文化・歴史・言葉・観光資源など) によって複雑に構成されている(Fan、 2006)からである。それにもかかわらず、 デスティネーション・ブランドの重要性 が徐々に増加していることを考慮する と、その理論的欠乏についての指摘 (Park and Petrick、2005)を補完する必 要が提起される。つまり、デスティネー ション・ブランド・エクイティーに関す る研究を一歩前進させるため、先行研究 から提起された研究の限界を一部補完し なければならない。 本稿は CBBE 理論を用いた先行研究か ら提案されている様々なディメンション に関する総合的な検証が必要であるとい う問題意識、そしてこれまでデスティ ネーション・ブランド・エクイティー・ モデルに関する研究で適用されなかった ブランド信頼の可能性に基づいている。 したがって、次のような研究課題を設定 する。 まず、研究課題1はデスティネーショ ンをブランドの視点から研究することに ついての意味である。つまり、デスティ ネーションという範囲が明確ではない無 形の「場所」を1つのブランドとして考 える時、提起される研究課題である。 研究課題1。製品やサービスに対する CBBE 理論の様々なディメンションの 中、既存デスティネーションに関する先 行研究で適用されたディメンションは適 切であるのか。 次に、デスティネーション間の競合が さらに激しくなりつつある今の環境で、 The study of destination from the brand equity point of view has appeared since the middle of 2000. In many cases, its theoretical foundation is based on the “Customer Based Brand Equity:CBBE” . This research is based on the following points, the critical mind that there is a need for comprehensive verification in various dimensions proposed by the previous studies using the CBBE theory, and the possibility of brand trust which has not been applied in the destination brand equity model. Upon examining the CBBE theory and the previous studies, the following six dimensions were proposed, brand awareness, brand image, brand quality, brand value, brand trust and brand loyalty. The possibility of its proposal was also verified by using statistical methods. The data of Japanese tourists, 337 people which had been to Seoul within this one year, was analyzed and the structural validity and reliability between the six dimensions were enough certified. Furthermore, the consequence between the six dimensions was also statistically significant. キーワード:デスティネーション・ブランド、ブランド・エクイティー、CBBE ディメンション Keyword:Destination Brand、Brand Equity、CBBE dimensions サン ジョン 神戸大学経営学研究科博士後期課程 観光客ベース・デスティネーション・ ブランド・エクイティー・モデルの構築 CBBE のディメンションの検討とブランド信頼の適用可能性

Upload: others

Post on 08-Apr-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 観光客ベース・デスティネーション・ ブランド・エ …using the CBBE theory, and the possibility of brand trust which has not been applied in the destination brand

-161-

日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016

《研究ノート》

1.はじめに

 デスティネーションをブランド・エクイ

ティーの視点から進められてきた研究は

2000年半ば以降から表れた。これはデステ

ィネーションを一つの製品やサービスのよ

うに、その価値を測定しようとする積極的

な研究であるとも言える。その研究の特徴

を見ると、デスティネーション・ブランド・

エクイティーがどのように形成されるのか

に関する因果関係を検証する研究(Boo

etal.、2009;Pike etal.、2010;Kladou and

Kehagias、2014)、そして新たなディメン

ションの 提 案 する研 究(Pike、2007;

Konecnik and Gartner、2007)に区別でき

る。しかし、デスティネーション・ブラン

ドに関する研究は初期段階であり、その歴

史的背景と理論的基盤の確立はまだ不十

分であると研究者たち(Cai、2002;Blain

etal.、2005;Sirakaya and Woodside、

2005;Kerr、2006;Hankinson、2007;

Pike etal.、2010)は述べている。

 デスティネーション・ブランド・エク

イティーに関する近年の研究内容を調べ

ると、その理論的根幹を多くの研究者が

「顧客基盤のブランド・エクイティー

(Customer Based Brand Equity:

CBBE)」に置いている。CBBEは製品や

サービス、あるいは企業のブランド・エ

クイティーを評価するのに、多くの支持

を受けている理論の一つである。しかし、

デスティネーション・ブランド・エクイ

ティーを研究するのに、CBBE を適用す

るためには限界がある。なぜなら、デス

ティネーションは製品やサービスとは異

なり、多くの無形要素(地理的特性・気

候・文化・歴史・言葉・観光資源など)

によって複雑に構成されている(Fan、

2006)からである。それにもかかわらず、

デスティネーション・ブランドの重要性

が徐々に増加していることを考慮する

と、その理論的欠乏についての指摘

(Park and Petrick、2005)を補完する必

要が提起される。つまり、デスティネー

ション・ブランド・エクイティーに関す

る研究を一歩前進させるため、先行研究

から提起された研究の限界を一部補完し

なければならない。

 本稿はCBBE理論を用いた先行研究か

ら提案されている様々なディメンション

に関する総合的な検証が必要であるとい

う問題意識、そしてこれまでデスティ

ネーション・ブランド・エクイティー・

モデルに関する研究で適用されなかった

ブランド信頼の可能性に基づいている。

したがって、次のような研究課題を設定

する。

 まず、研究課題1はデスティネーショ

ンをブランドの視点から研究することに

ついての意味である。つまり、デスティ

ネーションという範囲が明確ではない無

形の「場所」を1つのブランドとして考

える時、提起される研究課題である。

 研究課題1。製品やサービスに対する

CBBE 理論の様々なディメンションの

中、既存デスティネーションに関する先

行研究で適用されたディメンションは適

切であるのか。

 次に、デスティネーション間の競合が

さらに激しくなりつつある今の環境で、

The study of destination from the brand equity point of view has appeared since the middle of 2000. In many cases, its

theoretical foundation is based on the “Customer Based Brand Equity:CBBE”. This research is based on the following points,

the critical mind that there is a need for comprehensive verification in various dimensions proposed by the previous studies

using the CBBE theory, and the possibility of brand trust which has not been applied in the destination brand equity model.

Upon examining the CBBE theory and the previous studies, the following six dimensions were proposed, brand awareness, brand

image, brand quality, brand value, brand trust and brand loyalty. The possibility of its proposal was also verified by using

statistical methods. The data of Japanese tourists, 337 people which had been to Seoul within this one year, was analyzed and the

structural validity and reliability between the six dimensions were enough certified. Furthermore, the consequence between the

six dimensions was also statistically significant.

キーワード:デスティネーション・ブランド、ブランド・エクイティー、CBBE ディメンション

Keyword:Destination Brand、Brand Equity、CBBE dimensions

李イ

  相サ ン

典ジョン

神戸大学経営学研究科博士後期課程

観光客ベース・デスティネーション・ブランド・エクイティー・モデルの構築CBBEのディメンションの検討とブランド信頼の適用可能性

Page 2: 観光客ベース・デスティネーション・ ブランド・エ …using the CBBE theory, and the possibility of brand trust which has not been applied in the destination brand

-162-

日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016

デスティネーション・ブランド信頼とい

うディメンションの重要性がいくつかの

研究者によって言及されている。しかし、

これまでデスティネーション・ブランド・

エクイティー・モデルに関する研究では、

このデスティネーション・ブランド信頼

というディメンションはほとんど適用さ

れたことがない。製品やサービスに関す

る研究で、ブランド信頼というディメン

ションは消費者の購買意図や再購買行動

と密接な関係があると認められている。

同じように、今のデスティネーションの

競合でも、観光客の誘致だけではなく、

再訪問客の誘致方案の重要性が徐々に高

くなっている。あるデスティネーション

に対して観光客が感じている信頼のレベ

ルが高ければ高いほどそのデスティネー

ションは競合デスティネーションと比

べ、持続的な観光客の誘致可能性を確保

することができる。したがって、本稿で

はデスティネーション・ブランド信頼と

いうディメンションの重要性に関する研

究課題2を提起する。

 研究課題2。デスティネーション・ブ

ランド信頼というディメンションは「デ

スティネーション・ブランド・エクイテ

ィー」に関する既存の先行研究で適用さ

れてきた様々なディメンションと、有意

な関係を形成するのか。

 この2つの研究課題に対する研究結果

を通じてデスティネーション・ブランド・

エクイティーに関する学術的理論を補完

し、デスティネーション・ブランド・マー

ケティング戦略に必要な情報を提供する

ことを本稿の研究目的とする。

2.文献レビュー

2-1 デスティネーション・ブランド

 Richie and Ritchie(1998)の定義によ

れば、デスティネーション・ブランドと

は「デスティネーションを区別し、識別

するためのネーム、シンボル、ロゴ、文

字又はグラフィックのみならず、デステ

ィネーションに関連して思い出に残され

る特別な旅行経験を約束するものであ

り、また、デスティネーションで楽しか

った思い出や記憶を強化、強固にするも

の(筆者訳)」である。デスティネーショ

ン・ブランドの意味について Aaker

(1996a)は一般消費者向けの製品ブラン

ドのようにデスティネーション・ブラン

ドもポジティブな進展のメッセージを発

信することができるようになり、自らの

識別機能と価値を発見する段階に達した

と述べた。また、D’Hauteserre(2001)

は多くの観光客がデスティネーションに

対する限られた経験(知識)によって、

デスティネーションを明確に選択できな

い状況の場合、デスティネーションを決

定するのに必要な近道の役割を果たすこ

とができると述べた。

2-2 CBBE(Customer Based Brand

Equity)

 Keller(1993)は消費者を満足させる

ため、消費者のニーズや欲求を理解し、

製品やサービスの内容に工夫を加えるの

が有効なマーケティングの核となると述

べながら、「あるブランド・マーケティン

グに対応する消費者の反応に、ブランド

知 識 が 及 ぼ す 効 果 の 違 い」と い う

Customer Based Brand Equity(CBBE)

の概念を提唱した。ここでKeller(1993)

は消費者が有するブランド知識がブラン

ド・エクイティーの核心であり、ブラン

ド連想に関する選好度、強度、そしてユ

ニークさの差異を測定する場合、このブ

ランド知識が重要な役割を持つと述べ

た。これまで、CBBE 理論は顧客の知識

を核心とし、ブランド・エクイティーを

測定する研究モデル又は測定ツールとし

て 活 用 さ れ て き た。Aaker(1991)と

Keller(1993)によって提案されて以来、

多くの研究者から支持されてきた CBBE

理論はブランド視点から研究されている

多くの分野で、多様な視点によって異な

る測定方法が使用されてきた。つまり、

研究分野の研究目的に従って、研究者が

適用するディメンションは多少異なると

いうことが分かる。

2-3 デスティネーションに関する

CBBE ディメンション

 本稿では、これまでデスティネーショ

ン・ブランドに関する研究で適用されて

きたCBBEディメンションを中心に検討

した。また、本稿で新たに適用しようと

するブランド信頼というディメンション

を含めた。

・ ブランド認知(Brand Awareness):

Aaker(1996b)はブランド認知につい

て時々過小評価されている場合がある

が、ブランド・エクイティーの重要な

要素であり、ブランド知覚と購買態度

に影響を与えると述べている。Keller

(1993)はブランドに対する有用な又は

有用ではない多様な記憶、つまりブラ

ンド認知によって、ブランドに対する

評価を効果的に把握することが可能に

なり、さらにブランド回想やブランド

認識に関する実験においても、ブラン

ド認知を適用することによって可能に

なると述べた。デスティネーション・

ブランド・エクイティーに関した研究

でも、ブランド認知は重要な影響変数

として認められている(Boo etal.、

2009)。

・ ブランド・イメージ(Brand Image):

ブランド・イメージは消費者とブラン

ドを連結する感情又は生成された知覚

であり、ブランド・エクイティーの重

要 な 源 泉 と し て 認 め ら れ て き た

(Keller、2003)。製品やサービス分野

のイメージに関する研究については、

製品やサービスと顧客との間のイメー

ジの一致の程度を研究する「自我一致

(Self Congruency)」、製品やサービス

の「全般的イメージ(Overall Image)」

を測定する研究に分けることができ

る。一方、ブランド・イメージはこれ

まで観光分野においても主要な研究課

題の一つであった。デスティネーショ

ンに関する研究では研究対象である場

所のイメージを測定するために観光活

動と関係がある施設やサービス・イン

フラに対する観光イメージ(Tourism

Image)という測定項目が開発されて

Page 3: 観光客ベース・デスティネーション・ ブランド・エ …using the CBBE theory, and the possibility of brand trust which has not been applied in the destination brand

-163-

日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016

きた。

・ ブ ラ ン ド 品 質(Brand Quality):

Aaker(1996b)は知覚品質をブラン

ド・エクイティーを構成する重要なデ

ィメンションの一つであると言いな

がら、このような知覚品質は価格プレ

ミアム(Price Premium)、価格弾力

性(Price Elasticity)、ブランド消費

(Brand Usage)など、ブランド・エ

クイティーを構成する他の重要なデ

ィメンションと高い関連を持ってい

ると述べた。知覚品質は製品やサービ

スに対するディメンションである「知

覚品質(Perceived Quality)」、そして

観光の活動と様々な社会インフラや

安 全 に 関 す る「観 光 環 境 品 質

(Tourism Environment Quality)」に

区別することができる。

・ ブランド価値(Brand Value):ブラン

ド・エクイティーの概念モデルにおけ

るブランド価値(Brand Value)につ

いては、価格に基づいた(Price-based)

見解が一般的である(Tsai、2005)。価

格に基づいたブランド価値とは「製品

の価格とその効用の間で顧客の自分自

身が持っている知覚のバランスに頼っ

て、ブランドを選択すること」を意味

する(Lassar etal.、1995)。ブランド

価値に対して、Tsia(2005)は象徴的

価値(Symbolic Value)、感情的価値

(Affective Value)、交換価値(Tradeoff

Value)に区分している。しかし、一

般的にCBBE理論でのブランド価値と

いう概念は「顧客によって知覚された

価値(Perceived Value)」という意味

に近い。

・ ブ ラ ン ド ・ ロ イ ヤ ル テ ィ(Brand

Loyalty):ブランド・ロイヤルティ

(Brand Loyalty)はブランド・エクイ

ティーのディメンションの中で、従属

変数として最も重要なディメンション

である。Aaker(1991)はブランド・

ロイヤルティを「あるブランドに対し

て顧客が持っている愛着」と定義する。

彼はブランド・エクイティーの独立変

数(例えば、ブランド・イメージ、知

覚された品質など)の失敗(低い評価)

は最終的にブランド・ロイヤルティに

悪影響を与え、この結果が価格プレミ

アムの形成、競争企業の参入障壁、価

格競争の防御壁など、ブランドの役割

に悪影響を及ぼすと述べた(Aaker、

1996b)。

   デスティネーションに関する先行研

究(Lee and Back、2008;Boo etal.、

2009;Pike etal.、2010;Qu etal.、

2011;Kemp etal.、2012など)におい

ても、ブランド・ロイヤルティを従属

変数として適用していることが分か

る。

・ ブランド信頼(Brand Trust):CBBE

を構成するディメンションの中で、ブ

ランド信頼(Brand Trust)は信頼で

きる製品やサービスの提供を受けられ

ると被提供者が信じている「一般的な

期待」又は「信じて頼りたいと思って

いる気持ち」と定義できる(Moorman

etal.、1992;Anderson and Narus、

1990)。このようなブランド信頼はサー

ビス分野において、提供されるサービ

スに対する期待とサービス・ブランド・

エクイティーとの間に密接な関係を形

成させる重要なディメンションとして

認 め ら れ て い る(Lee and Back、

2008)。しかし、これまでデスティネー

ション・ブランドに関する研究ではこ

のブランド信頼はほとんど適用された

ことがない。ただ、一部の研究(Huang

etal.、2006;Hsu and Cai、2009)から、

観光客がデスティネーションを選択す

るプロセスにおいて、デスティネーシ

ョン・ロイヤルティに影響を与える重

要な媒介変数として言及している。し

かし、実際に検証している研究はまだ

見えない。

2-4 先行研究レビュー

・ Konecnik and Gartner(2007):彼 ら

は、Aaker(1991)とKeller(1993)の

CBBE 理 論 に 基 づ き、CBBETD

(Customer Based Brand Equity for a

Tourism Destination)を提案した。彼

らはイメージを核心ディメンションと

し、認知、品質、そしてロイヤルティ

の4つのディメンションによって

CBBETDを構成した。彼らは高次因子

分析(High Order Factor Analysis)を

使 い、4 つ の デ ィ メ ン シ ョ ン が

CBBETD という1つの概念を説明す

る変数であることを証明した。彼らの

研究は、デスティネーションもブラン

ドの視点から定量的に測定するための

スケールを開発したことで意義があ

る。しかし、彼らは自分たちが提案し

た因果関係モデルの検証までは明らか

にしていないという限界を残した。そ

して、ブランド認知とブランド・イメー

ジという2つのディメンションを構成

する測定項目の妥当性のレベルが満た

されなかったという短所も表れた。

・ Boo etal.、(2009):彼らは CBBE 理論

から、認知、イメージ、品質、価値、

そしてロイヤルティの5つのディメン

ションを抽出し、「デスティネーショ

ン・ブランド・エクイティー・モデル」

を構成した。彼らの研究で何より重要

な成果はブランド価値というディメン

ションをデスティネーション・ブラン

ド・エクイティー・モデルに適用して

検証したことである。価値というディ

メンションは製品やサービスのブラン

ド・エクイティー分野では主なディメ

ンションとして認められてきたが、デ

スティネーションに関するブランド・

エクイティー研究ではほとんど検証さ

れたことがなかった。知覚された価値

は経済的な側面で顧客(観光客)の知

覚された効用を測定することであり、

観光分野では観光客が自分で使用した

費用に対してどのように評価している

のかを意味する。したがって、知覚さ

れた価値がデスティネーション・ブラ

ンド・ロイヤルティに影響を与えるデ

ィメンションとして検証されたことは

意義があると考える。

・ Pike etal.、(2010):彼 ら は Konecnik

and Gartner(2007)、Boo etal.、(2009)

の研究から適用されたブランド・イ

Page 4: 観光客ベース・デスティネーション・ ブランド・エ …using the CBBE theory, and the possibility of brand trust which has not been applied in the destination brand

-164-

日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016

メージ、知覚品質、ブランド・ロイヤ

ルティと共に、先行研究のブランド認

知の概念をブランド特徴に名称を変え

て利用した。彼らの研究は Konecnik

and Gartner(2007)の研究から提示さ

れた4つのディメンション間の因果関

係を実証的に検証した研究として意味

がある。一方、彼らの研究はCBBE理

論の基本的な4つのディメンション以

外、多様なディメンションの適用可能

性に対する課題も残した研究であっ

た。

・ Kladou and Kehagias(2014):彼らは

ローマ(Rome)を対象にした研究を

通じて、「カルチュラル・デスティネー

ション・ブランド・エクイティー

(CDBE:Cultural Destination Brand

Equity)」というモデルを提案した。彼

らはCBBE理論から資産、認知、連想、

品質、そしてロイヤルティの5つのデ

ィメンションを適用した。特に、資産

というディメンションはその測定項目

をみると、ローマというデスティネー

ションについてのユニックさを測定し

ている。これはデスティネーションが

他のデスティネーションと比べ、差別

化された特徴を観光客に認められてい

る場合、その差別化されている強度を

資産として見なしたことである。彼ら

の研究は既存の先行研究より一歩進展

した研究であると考えられる。

 以上、CBBE 理論に基づいた4つのデ

スティネーション・ブランド・エクイテ

ィーに関する先行研究を検討した。

 デスティネーション・ブランド・エク

イティーに関する先行研究の内容を見る

と、CBBE 理論に基づき、初期のデステ

ィネーション・ブランド・エクイティー

の構成概念や構造モデルを提案するた

め、理論的検討と主なディメンションや

測定項目に対する探検的な検証研究に留

まっている。また、検討した先行研究で

は共通的にCBBE理論の中で、ブランド

認知、ブランド・イメージ、ブランド品

質、そしてブランド・ロイヤルティとい

う4つのディメンションを核心としてい

る。その4つのディメンション以外に、

ブランド価値、ブランド資産などのディ

メンションが追加的に検証されたが、デ

スティネーションの複雑さを考えると、

まだ検証する必要性は残っている。

 本稿では、検討した4つの先行研究か

ら検証されているブランド認知、ブラン

ド・イメージ、ブランド品質、そしてブ

ランド・ロイヤルティという4つのディ

メンションを核心ディメンションとして

適用する。なぜなら、この4つのディメ

ンションは、デスティネーションだけで

はなく、製品やサービス分野でもブラン

ド・エクイティに関する主なディメンシ

ョンとして十分検証され、これまで認め

られてきたからである。また、4つのデ

ィメンションと共に、Boo etal.、(2009)

の研究で適用されたブランド価値という

ディメンション、そして、本稿で新たに

検証しようとするブランド信頼というデ

ィメンションを含める。特にブランド信

頼というディメンションは全体のモデル

の中で、媒介変数としてどのような役割

を尽くすのかについて検証し、その結果

を解釈しようとする。

3.研究方法

3-1 仮説と研究モデル

 デスティネーションに対するブラン

ド・イメージやブランド品質を構成する

測定項目の妥当性や信頼性がブランド認

知を構成する測定項目に比べ、その統計

的な水準が高く表れている(Konecnik

and Gartner、2007;Boo etal.、2009)。具

体的にデスティネーションを対象にし、

ブランド認知、ブランド・イメージ、ブ

ランド品質の3つのディメンション間の

因果関係について証明した結果では、ブ

ランド認知はブランド・イメージ(Pike

etal.、2010)とブランド品質(Pike etal.、

2010;Kladou and Kehagias、2014)に正

の影響を与えることに表れている。

 仮説1.デスティネーション・ブラン

ド認知はデスティネーション・ブランド・

イメージにプラスの影響を及ぼす。

 仮説2.デスティネーション・ブラン

ド認知はデスティネーション・ブランド

品質にプラスの影響を及ぼす。

 ブランド価値はブランド・イメージや

ブランド品質から有意な影響を受け、ブ

ランド・ロイヤルティに正の影響を与え

ることが検証された(Boo etal.、2009)。

その以外にも、デスティネーションの環

境やインフラストラクチャーによって形

成されたデスティネーションに対する知

覚価値と再訪問間の関係に関する研究

(Murphy etal.、2000)、デスティネーシ

ョンでのセンシティブな観光経験に対す

る 観 光 客 の 価 値 形 成 に 関 す る 研 究

(Gallarza and Saura、2006)、そして、ホ

次 元Konecnik…

and…Gartner(2007)

Boo…etal.,(2009)

Pike…etal.(2010)

Kladou…and…Kehagias(2014)

本 稿

BA ◎ ◎ ◎ ◎ ◎BI(SC) ◎ ◎ ◎BI(OTI) ◎BQ(PQ) ◎ ◎ ◎BQ(TEQ) ◎ ◎BU ◎BV ◎ ◎BT ◎BL ◎ ◎ ◎ ◎ ◎BAS ◎

※ …BA(Brand…Awareness)/BI(Brand…Image)/SC(Self…Congruency)/OTI(Overall…Image…Tourism…Image)/BQ(Brand…Quality)/PQ(Perceived…Quality)/TEQ(Tourism…Environment… Quality)/BU(Brand… Uniqueness)/BT(Brand… Trust)/BV(Brand…Value)/BL(Brand…Loyalty)/BAS(Brand…Association)

※ …Kladou…and…Kehagias(2014)で、Brand…Assetはデスティネーションのユニックさ(Brand…Uniqueness)である。

表-1 デスティネーションに関する先行研究と本稿のディメンション

Page 5: 観光客ベース・デスティネーション・ ブランド・エ …using the CBBE theory, and the possibility of brand trust which has not been applied in the destination brand

-165-

日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016

テルのブランド・エクイティー形成に関

する研究(Kim etal.、2008)などで、主

な媒介変数として顧客満足やロイヤルテ

ィなどの従属変数に影響を与えている。

 仮説3.デスティネーション・ブラン

ド・イメージはデスティネーション・ブ

ランド価値にプラスの影響を及ぼす。

 仮説4.デスティネーション・ブラン

ド品質はデスティネーション・ブランド

価値にプラスの影響を及ぼす。

 仮説5.デスティネーション・ブラン

ド価値はデスティネーション・ブランド・

ロイヤルティにプラスの影響を及ぼす。

 ブランド信頼というディメンションは、

これまでデスティネーションを対象にし

た研究ではほとんど適用されていないが、

ホテルなどサービス分野に関する研究で

はブランド・ロイヤルティに影響を与える

主なディメンションとして検証されてい

る(Lee and Back、2008;Hsu etal.、2012)。

また、Chaudhuri and Holbrook(2001)の

研究によれば、ブランド信頼はブランド感

情(Brand Affect)と共に購買ロイヤルテ

ィ(Purchase Loyalty)や態度ロイヤルテ

ィ(Attitudinal Loyalty)の形成を決定す

る核心的な変数として検証された。デステ

ィネーションに関する研究ではまだ十分

に証明されてはいないが、デスティネーシ

ョン・ブランド・エクイティーに関する研

究でもその重要性が強調されている

(Huang etal.、2006;Hus and Cai、2009)。

従って、ブランド信頼を本稿の研究ではブ

ランド価値と共に主な媒介変数として適

用し、検証する。

 仮説6.デスティネーション・ブラン

ド・イメージはデスティネーション・ブ

ランド信頼に統計的にプラスの影響を及

ぼす。

 仮説7.デスティネーション・ブラン

ド品質はデスティネーション・ブランド

信頼にプラスの影響を及ぼす。

 仮説8.デスティネーション・ブラン

ド信頼はデスティネーション・ブランド・

ロイヤルティにプラスの影響を及ぼす。

 それ以外、ブランド価値とブランド信

頼との因果関係である。デスティネーシ

ョンに関する先行研究ではこの2つのデ

ィメンション間の因果関係を証明してい

る研究はほとんどないが、Lee and Back

(2008)の研究では、国際コンファレンス

の参加者のコンファレンスについてのブ

ランド認知、ブランド・イメージ、サー

ビスなどによって形成された満足はブラ

ンド価値とブランド信頼に影響を及ぼ

し、またブランド価値はブランド信頼に、

そしてブランド信頼がブランド・ロイヤ

ルティに影響を及ぼす因果関係を証明し

た。従って、本稿からその因果関係を改

めて検証することにする。

 仮説9.デスティネーション・ブラン

ド価値はデスティネーション・ブランド

信頼にプラスの影響を及ぼす。

 以上、設定された研究仮説を通じて本

稿は次のように研究モデルを提示した。

3-2 調査設計

 本稿の母集団は「最近1年以内にソウ

ルを旅行した経験がある日本人」と定義

した。

 日本人観光客はこの数十年間にわたっ

て、韓国(特にソウル)に訪問した観光

客の中で一番高い比率を占めているマー

ケットであり、その中では再訪問客の比

率も少なくないという特徴を持ってい

る。また、毎年ソウルに訪問している日

本人観光客の中では、FIT(個人旅行者)

の 比 率 が 7 割 以 上(Korea Culture &

Tourism Institute、2015)である。FIT

の場合、自分の旅行先に関する様々な情

報を事前に調べたり、勉強したりする特

徴があると思われる。そして、FIT が同

じデスティネーションを再訪問する時に

は、以前の経験から得られたデスティ

ネーションに対する信頼に基づいて旅行

のプランを立てる可能性も考えられる。

その意味から、日本人観光客は他の国の

観光客と比べ、韓国(ソウル)に対して

「デスティネーション・ブランド」の視点

から詳しく評価することが可能であると

判断したことである。

 本調査は研究課題に対する意味のある

結果を提示するため、標本を2つの対象

に分けてアンケート調査を実施した。

 第1標本は「旅行が終了した時点で調

査された標本」であり、デスティネーシ

ョン(ソウル)に対する記憶が明らかな

グループである。第2標本は「旅行から

1年以内の時点で調査された標本」であ

り、第1標本に比べ、比較的時間が経過

した状況で、デスティネーションでの旅

行経験を記憶に依存しながら評価したグ

ループである。

 本調査は第1標本と第2標本に対し

て、それぞれの調査方法で進められた。

 まず、第1標本は非確率標本抽出法の

便宜的抽出法を使用して行われた。第1

標本は2014年9月24日から30日まで、そ

して12月21日から2015年1月5日までの

2回にわたって韓国の仁川国際空港のラ

ウンジで待機している日本人観光客を対

象に行われた。計220部が配布され、その

うち198部(回収率90%)が回収された。

回収されたアンケートの中から分析に不

適合の16部を除き、最終的には182部(回

図-1 本稿の研究モデルと仮説

Page 6: 観光客ベース・デスティネーション・ ブランド・エ …using the CBBE theory, and the possibility of brand trust which has not been applied in the destination brand

-166-

日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016

答率92%)が分析に使用された。

 次に、第2標本は非確率標本抽出法の

有意標本抽出法を使用して行われた。第

2標本は2014年10月21日から11月20日ま

で、1ヶ月間行われた。調査は日本の大

阪にある「大阪韓国文化院の世宗学堂」

の受講生の中、最近1年以内に韓国(ソ

ウル)を旅行した経験がある日本人を対

象に行った。調査期間中、計180部が配布

され、このうち162部(回収率90%)が回

収された。回収されたアンケートの中か

ら分析に不適合の7部を除き、最終的に

は155部(回答率95%)が分析に使用され

た。

 最終的に本調査の分析では、計337部が

データとして使用された。

 本稿で、標本を2つのグループに分け

て調査した理由は消費活動が終わった時

点(旅行が終わった時点)から形成され

たブランド・エクイティーの程度と消費

活動が終わってから1年以内の時間が過

ぎた状況で持っているブランド・エクイ

ティーの程度について、時間的差につい

ての幅広いデータを使って分析するため

であった。

 本稿での6つのディメンションに対す

る測定項目は先行研究によって、ブラン

ド認知は Boo etal.、(2009)などの研究

から5つの測定項目、ブランド・イメー

ジは Pike etal.、(2010)などの研究から

5つの測定項目、ブランド品質は Kemp

etal.、(2012)などの研究から5つの測定

項 目、ブ ラ ン ド 価 値 は Lee and Back

(2008)などの研究から5つの測定項目、

ブランド信頼は Hsu etal.、(2012)など

の研究から5つの測定項目、そしてブラ

ンド・ロイヤルティはPike etal.、(2010)

などの研究から5つの測定項目をそれぞ

れ抽出した。6つのディメンションに対

するそれぞれの測定項目はすべて7点リ

ッカート尺度である。

3-3 分析方法

 本稿のそれぞれのディメンションに対

する測定項目の妥当性(Validity)と信頼

性(Reliability)は 確 認 的 因 子 分 析

(Confirmatory Factor Analysis)を 通 じ

て検証した。測定項目の妥当性は標準係

数による構成概念妥当性、そして AVE

(Average Variance Extracted)値による

収斂妥当性(Convergent Validity)及び

判別妥当性(discriminant validity)とい

う2つの妥当性を検証する。一般的に社会

科学での構成概念妥当性は、標準係数が

0.4以上の場合、認められる。また、AVE

値も0.5以上が望ましいと言われている。

一方、測定項目の信頼性(Reliability)は

CR(Construct Reliability)値とChronbach

のアルファ(Chronbach’s Alpha)係数に

よって検証できる。信頼性の水準は社会

科学で、0.5以上であれば、信頼性には問

題ないと判断する。

 確認的因子分析、又は因果関係分析の

場合、最終の結果は全体モデルの構造に

ついて、統計的適合性を考慮しなければ

ならない。というわけで、統計的適合性

が 認 め ら れ る レ ベ ル ま で 修 正 指 数

(Modification Indices)を通じて適切な適

合性を確保した後、分析結果を解釈する

のが望ましい。

 本稿の研究モデルに対する因果関係の

分析(パース分析)を行った。分析には

SPSS22.0と AMOS22.0が使われた。

4.分析結果

4-1 調査対象者の人口統計的特徴

 本稿のアンケート調査に参加した調査

対象者の一般的な特徴は次の通りであ

る。

 旅行のために利用した旅行商品では個

別購入が214人(63.5%)で、旅行会社の

パッケージ商品の123人(36.5%)より高

い頻度を示した。職業では会社員が124人

(36.8%)、主婦が70人(20.8%)、学生が

35人(10.4%)などの順番であった。既

婚と未婚はそれぞれ168人(49.9%)、169

人(50.1%)、そして性別の場合は男性が

56人(16.6%)、女性が281人(83.4%)を

示した。年齢では50代が83人(24.6%)で

一番高い頻度を示し、20代が80人(23.7

%)、40代が77人(22.8%)、30代が46人

(13.6%)の順番に頻度を示した。最終学

歴では大学卒業が154人(45.7%)、高校

卒業が100人(29.7%)、大学在学中が25

人(7.4%)などの順番であった。

4-2 妥当性・信頼性の検証

 妥当性の確認結果、構成概念妥当性は

ブランド認知を構成している測定項目以

外はすべてのディメンションを構成して

いる測定項目で0.5以上であった。また、

収斂妥当性の結果を確認する AVE の値

では、ブランド認知のみ0.5以下(0.306)

を示した。

 信頼性の確認結果では CR(Construct

Reliability)値と Chronbach のアルファ

(Chronbach’s Alpha)係数がブランド・

イメージ、ブランド品質、ブランド価値、

ブランド信頼、ブランド・ロイヤルティ

では0.8レベルを示したが、ブランド認知

のみ0.5レベルを示してその信頼性が確

保できなかった。

 すべてのディメンション間に共分散を

仮定したモデルの適合性を確認する適合

度 指 標 はχ²/df=2.089(421.899/202)、

RMR=0.086、GFI=0.902、AGFI=0.866、

NFI=0.917、CFI=0.954であって、6つ

のディメンションで構成された測定モデ

ルの構造は良好なレベルの適合度指数を

示した。

4-3 研究モデルの因果関係及び仮説検

 パース分析によって研究モデルの因果

関係を分析した結果は次の通りである。

 第一、ブランド認知がブランド・イメー

ジ、ブランド品質に影響を及ぼすことに

対する因果関係では、ブランド・イメー

ジ(β=0.682、p<0.01)、ブランド品質

(β=0.647、p<0.01)に有意な正の因果

関係を示し、仮説1と2は採択された。

 第二、ブランド・イメージ、ブランド

品質がブランド価値に影響を及ぼすこと

に対する因果関係では、ブランド・イメー

ジ(β=0.436、p<0.01)、ブランド品質

(β=0.363、p<0.01)に有意な正の因果

関係を示し、仮説3と4は採択された。

そして、ブランド価値とブランド・ロイ

Page 7: 観光客ベース・デスティネーション・ ブランド・エ …using the CBBE theory, and the possibility of brand trust which has not been applied in the destination brand

-167-

日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016

ヤルティとの因果関係でも、ブランド価

値(β=0.507、p<0.01)に有意な正の因

果関係を及ぼすことが示され、仮説5は

採択された。

 第三、ブランド・イメージ、ブランド

品質がブランド信頼に影響を及ぼすこと

に対する因果関係では、ブランド・イメー

ジ(β=0.252、p<0.01)、ブランド品質

(β=0.609、p<0.01)に有意な正の因果

関係を示し、仮説6と7は採択された。

そして、ブランド信頼とブランド・ロイ

ヤルティとの因果関係でも、ブランド信

頼(β=0.408、p<0.01)に有意な正の因

果関係を及ぼすことが示され、仮説8は

採択された。

 最後に、ブランド価値とブランド信頼

との因果関係では、ブランド価値(β=

0.143、p<0.01)がブランド信頼に有意な

正の因果関係を示し、仮説9は採択され

た。

 モデルの構造に対する適合度指数で

は、研究モデルはχ²/df=18.981、RMR

=0.069、GFI=0.916、AGFI=0.704、NFI

=0.930、CFI=0.933をそれぞれ示した。

 主な因果関係分析結果を見ると、ブラ

ンド・イメージはブランド信頼より、ブ

ランド価値の方に高いレベルの影響を与

えている。一方、ブランド品質はブラン

ド価値と比べ、ブランド信頼の方に高い

レベルの影響を与えている。ここで、ブ

ランド品質がブランド信頼に大きく影響

を与えていることは重要な意味を持つ。

つまり、デスティネーションに対するブ

ランド信頼を適用した本稿では、ブラン

ド信頼を高めることによって、デスティ

ネーション・ブランド・ロイヤルティが

形成されると考えている。というのは、

ブランド信頼というディメンションは本

稿の研究モデルにおいて、ブランド品質

次元 測定変数標準係数

AVE CRクロンバックのα

出処

DBA①ソウルはいいネームバリューまた名声を持っている②ソウルは有名だ ª③ソウルの特徴がすぐ頭に浮かぶ ª④旅行を考えるとソウルが早速頭に浮かぶ⑤他の都市の間でソウルを認識(識別)できる

0.531――

0.6570.452

0.306 0.564 0.553 Lee…and…Back(2008)Boo…etal.、(2009)Pike…etal.、(2010)

DBI①ソウルは私の個性と合っている②私がソウルに行くのを友達は羨ましがる③ソウルのイメージは私のイメージと一致する④ソウルへの旅行は私が誰なのかを反映する ª⑤ソウルでの滞在は私を特別にしてくれる

0.8250.5250.759―

0.715

0.511 0.803 0.778 Boo…etal.、(2009)Pike…etal.、(2010)Nam…etal.、(2011)Hsu…etal.、(2012)

DBQ①ソウルは一貫した質のツアーサービスを提供する ª②ソウルは質のいい経験を提供する③ソウルは他の類似の都市よりも良好な都市だ④ソウルへの旅行は質が高い⑤ソウルは信頼できる観光地だ

―0.7360.7550.8310.658

0.559 0.834 0.837 Boo…etal.、(2009)Kemp…etal.、(2012)Hsu…etal.、(2012)

DBV①ソウルの物価はちょうどよい ª…②旅行費用より旅行から得られる価値のほうが高い③旅行の金額は私に戻って来る利益より高くない④ソウルを旅行するのは経済的だ⑤ソウル旅行は良い選択だ

―0.7830.5840.6400.831

0.559 0.834 0.802 Lassar…etal.、(1995)Lee…and…Back(2008)Boo…etal.、(2009)

DBT①観光客に対して、ソウルは観光客を大切にしている②ソウルは観光客を騙さないと思う ª③ソウルは次の機会にも私の期待に応えてくれる④ソウルは次の機会にも私を失望させない⑤ソウルは真実な都市だ

0.582―

0.8740.8470.602

0.546 0.823 0.815 Lassar…etal.、(1995)Lee…and…Back(2008)Hsu…etal.、(2012)

DBL①休暇を過ごすために、ソウルはいい目的地だ②全般的に私はソウルに好感を持っている③他の人たちにソウルの旅行をアドバイスする ª④ソウルに留まることをよい・ポジティブに感じる⑤ソウルに関して考えると気持ちがよくなる

0.7590.865―

0.8090.843

0.672 0.891 0.887 Konecnik…and…Gartner(2007)Kim…etal.、(2008)Boo…etal.、(2009)Pike…etal.、(2010)

適合度:χ²/df=2.089(421.899/202)/RMR=0.086/GFI=0.902/AGFI=0.866/NFI=0.917/CFI=0.954ª:…標準係数0.4未満、又は信頼性・妥当性の検証の中、全体のモデルの改善のため、削除された。▶ …DBA(Destination… Brand… Awareness)/DBI(Destination… Brand… Image)/DBQ(Destination… Brand… Quality)/DBV(Destination…

Brand…Value)/DBT(Destination…Brand…Trust)/DBL(Destination…Brand…Loyalty)/TBI(Tourist…Behavior…Intention(すべての測定項目は7点リッカート尺度)

表-2 妥当性・信頼性の分析結果

Page 8: 観光客ベース・デスティネーション・ ブランド・エ …using the CBBE theory, and the possibility of brand trust which has not been applied in the destination brand

-168-

日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016

やブランド・イメージから影響を受け、

その後、ブランド・ロイヤルティに影響

を与える媒介変数として位置付けられ

る。結論的にブランド信頼は他の CBBE

ディメンションと組み合わせ、観光客が

デスティネーションに対して評価できる

「デスティネーション・ブランド・エクイ

ティ」モデルの新たなディメンションと

して認められる。

5.結論

 本稿の分析によって、次のような研究

の意義を得られた。

 まず、本稿はこれまでCBBE理論に基

づいて進められてきた様々な研究を検討

の上、デスティネーションの競争力、言

い換えれば、デスティネーション・ブラ

ンド・エクイティーの構築に適用可能な

ディメンションを実証的に検証すること

を研究目的とした。その意味から見ると、

本稿のレビューと検証の過程を通じて、

抽出した6つのディメンションによって

構築した本稿の研究モデルの検証は、今

後の多様な研究方法及び因果関係の設定

に関する可能性を確認したことである。

 次に、ブランド信頼というディメンシ

ョンの意味である。これまでデスティ

ネーションを対象に検証されたことが少

なかったブランド信頼というディメンシ

ョンを本稿の検証プロセスによってその

有意性を明らかにしたことは重要な成果

であると思う。つまり、デスティネーシ

ョン・マーケティングの戦略において、

デスティネーション・ブランド・イメー

ジやブランド品質に対する観光客の評価

を高めると、デスティネーションに関す

るブランド信頼も高くなる可能性を確認

したことである。例えば、ブランド品質

の「質のよい経験」に関しては買い物施

設(デパートなど)の管理やサービスの

質の維持などに通じて、観光客の信頼形

成につながるようにしなければならな

い。そのように一応形成された信頼はデ

スティネーションに対するロイヤルティ

につながる可能性が高くなる。そして、

一度形成されたデスティネーションに対

するブランド信頼とブランド・ロイヤル

ティは観光客の再訪問の可能性にもつな

がるだろう。

 しかし、本稿の研究は次のような限界

を表した。

 まず、ブランド認知の妥当性や信頼性

に関する問題である。このような妥当性

や信頼性の限界が表れた場合、一般的に

分析モデルの中に投入しない方が適切で

ある。しかし、Keller(2003)によれば、

CBBE 理論はブランド認知からプロセス

が始められ、最後に顧客ロイヤルティを

誘発させると言える。というのは、ブラ

ンド認知というディメンションは CBBE

理論において、必要不可欠なディメンシ

ョンであり、それをモデルから外すため

には明確な理由や論拠を提示するべきで

ある。検討した4つの先行研究をみると、

このブランド認知の妥当性や信頼性は認

定できるレベルであったが、他のディメ

ンションと比べ、低く表れた。つまり、

CBBE 理論のブランド認知というディメ

ンションはデスティネーションに適用す

るためには、まだスケールの開発や検証

が必要だと思われる。このブランド認知

の妥当性や信頼性の問題により、本稿で

のモデル検証結果の意味は限界が表れた

ことは明らかである。従って、ブランド

認知については今後の研究を進める際

に、より適合な項目の開発を考慮する必

要があると考える。

 次に、サンプルの問題である。サンプ

ルの場合、男性と女性の違いが多かった。

それによって分析する中で一定のバイア

ス(Bias)が生じたのかもしれない。今

後の研究では、より精密な調査設計や方

法を考えなければならないと思う。

 今後の研究では、前述した研究の限界

を補完し、本稿からの成果や意味に基づ

き、より具体的な実証研究を進めようと

考える。関連の理論をより具体的に検討

し、実務的なアプリケーションのための

多様な調節変数を考えながら、研究を進

めていかなければならない。

参考文献

・ Aaker, D. A.(1991)“Managing Brand

Equity”, New York, The Free Press.

・ Aaker, D. A.(1996a)“Building Strong

Brand Names”, New York: Free

Press.

・ Aaker, D. A.(1996b) “Measuring Brand

Equity Across Products and Markets”,

California Management Review 38(3),

pp.102-120.

・ Anderson, J. C. and Narus, J. A. (1990)

“A model of Distributor Firm and

Manufacturer Firm Working

Partnerships”, Journal of Marketing

54(January), pp.42-58.

・ Blain, C., Levy, S. E., and Ritchie, J. R.

B.(2005) “Destination Branding: Insights

and Practices from Destination

Management Organizations”, Journal of

Travel Research 43(4), pp.328-338.

・ Boo, S. Y., Busser, J., and Baloglu S.(2009)

“A model of customer-based brand

仮説 因果関係 測定値 標準誤差 t-value 仮説1 DBI <--- DBA 0.682 0.040 17.071*** 採択2 DBQ <--- DBA 0.647 0.042 15.560*** 採択3 DBV <--- DBI 0.436 0.043 10.031*** 採択4 DBV <--- DBQ 0.363 0.043 8.359*** 採択5 DBL <--- DBV 0.507 0.04 12.698*** 採択6 DBT <--- DBI 0.252 0.034 7.499*** 採択7 DBT <--- DBQ 0.609 0.032 18.843*** 採択8 DBL <--- DBT 0.408 0.04 10.175*** 採択9 DBT <--- DBV 0.143 0.037 3.870*** 採択

1.…適合度:χ²/df=18.981(113.886/15)/RMR=0.069/GFI=0.916/AGFI=0.704/NFI=0.930/CFI=0.933

2.有意確率:*** p<…0.01

表-3 モデルの因果関係分析の結果

Page 9: 観光客ベース・デスティネーション・ ブランド・エ …using the CBBE theory, and the possibility of brand trust which has not been applied in the destination brand

-169-

日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016

equity and its application to multiple

destinations”, Tourism Management 30,

pp.219-231.

・ Cai, L. A.(2002) “Cooperative Branding

for Rural Destinations”, Annals of

Tourism Research 29(3), pp.720-742.

・ Chaudhuri, A., and Holbrook, M.

B.(2001) “The Chain of Effects from

Brand Trust and Brand Affect to

Brand Performance: The Role of

Brand Loyalty”, Journal of Marketing

65(2), pp.81-93.

・ D’Hauteserre, A. M.(2001) “Destination

Branding in a Hostile Environment”,

Journal of Travel Research 39(Feb),

pp.300-307.

・ Fan, Y.(2006) “Branding the nation:

What is being branded?”, Journal of

Vacation Marketing 12(1), pp.5-14.

・ Gallarza, M. G., and Saura, I. G.(2006)

“Value dimensions, perceived value,

satisfaction and loyalty: an investigation

of university students’ travel behavior”,

Tourism Management 27, pp.437-452.

・ Hankinson, G.(2007) “The management

of destination brands: Five guiding

principles based on recent

developments in corporate branding

theory”, BRAND MANAGEMENT

14(3), pp.240-254.

・ Hsu, C. H. C., Oh, H. M., and Assaf, A.

G.(2012) “A Customer-Based Brand

Equity Model for Upscale Hotels”,

Journal of Travel Research 51(1),

pp.81-93.

・ Hsu, C., and Cai, L. A.(2009) “Brand

Knowledge, Trust and Loyalty: A

Conceptual Model of Destination

Branding”, International CHRIE

Conference-Refereed Track, p.12.

・ Huang, H. H., Chiu, C. K., and Kuo,

C.(2006) “Exploring Customer

Satisfaction, Trust and Destination

Loyalty in Tourism”, The Journal of

American Academy of Business,

Cambridge, 10(1), pp.156-159.

・ Keller, K. L.(1993) “Conceptualizing,

Measuring, and Managing Customer-

Based Brand Equity”, Journal of

Marketing 57(1), pp.1-22.

・ Keller, K. L.(2003) “Strategic brand

management: building, measuring, and

managing brand equity”, Upper

Saddle River, NJ: Prentice-Hall.

・ Kemp, E., Childers, C. Y., and Williams,

K. H.(2012) “Place Branding: creating

self-brand connections and brand

advocacy”, Journal of Product &

Brand Management 21(7), pp.508-515.

・ Kerr, G.(2006) “From destination

brand to location brand”, BRAND

MANAGEMENT 13(4/5), pp.276-283.

・ Kim, W. G., Jin-Sun B., and Kim, H.

J.(2008) “Multidimensional Customer-

Based Brand Equity and Its

Consequences in Midpriced Hotels”,

Journal of Hospitality & Tourism

Research 32(2), pp.235-254.

・ Kladou, S., and Kehagias, J.(2014)

“Assessing destination brand equity:

An intergrated approach”, Journal of

Destination Marketing & Management

3, pp.10-20.

・ Konecnik, M. and Gartner, W. C.(2007)

“Customer-Based Brand Equity for A

Destination”, Annals of Tourism

Research 34(2), pp.400-421.

・ Korea Culture & Tourism Institute.

(2015) International Visitor Survey.

175-177.

・ Lassar, W., Mittal, B., and Sharma,

A.(1995) “Measuring customer-based

brand equity”, The Journal of

Consumer Marketing 12(4), pp.11-19.

・ Lee, S. J., and Back, K. J.(2008)

“Attendee-based brand equity”,

Tourism Management 29, pp.331-344.

・ Moorman, C., Zaltman, G., and

Deshpande, R.(1992) “Relationships

Between Providers and Users of

Marketing Research: The Dynamics

of Trust Within and Between

Organizations”, Journal of Marketing

Research 29(August), pp.314-328.

・ Murphy, P., Pritchard, M. P., and Smith,

B.(2000) “The destination product and

its impact on traveler perceptions”,

Tourism Management 21, pp.43-52.

・ Nam, J., Ekinci, Y., and Whyatt,

G.(2011) “Brand Equity, Brand

Loyalty and Consumer Satisfaction”,

Annals of Tourism Research 38(3),

pp.1009-1030.

・ Park, S. Y., and Petrick, J. F.(2005)

“Destinations’ Perspectives of Branding”,

Annals of Tourism Research 33(1),

pp.262-265.

・ Pike, S.(2007) “Consumer-based brand

equity for destinations: Practical DMO

performance measures”, Journal of

Travel & Tourism Marketing 22(1),

pp.51-61.

・ Pike, S., Bianchi, C., Kerr, G., and Patti,

C.(2010) “Consumer-based brand equity

for Australia as a long-haul tourism

destination in an emerging market”,

International Marketing Review 27(4),

pp.434-449.

・ Qu, H., Kim, L. H., and Im, H. H.(2011)

“A model of destination branding:

Integrating the concepts of the

branding and destination image”,

Tourism Management 32, pp.465-476.

・ Ritchie, J. R. B., and Ritchie, R. J.

B.(1998) “The Branding of Tourism

Destinations: Past Achievements and

Future Challenges. Proceedings of the

1998 Annual Congress of the

International Association of Scientific

Experts in Tourism, Destination

Marketing: Scopes and Limitations”,

edited by Keller P. Marrakech,

Morocco: International Association of

Scientific Experts in Tourism, pp.89-

116.

・ Sirakaya, E., and Woodside, A. G.(2005)

“Building and testing theories of

decision making by travellers”

Page 10: 観光客ベース・デスティネーション・ ブランド・エ …using the CBBE theory, and the possibility of brand trust which has not been applied in the destination brand

-170-

日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016

Tourism Management 26, pp.815-832.

・ Tsai, S. (2005) “Utility, cultural

symbolism & emotion: a comprehensive

model of brand purchase value”,

International Journal of Research in

Marketing 22, pp.277-291.

【本稿は所定の査読制度による審査を経たものである。】