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学内向け講義資料 - 1 - 論文・レポート作成と口頭発表の作法 1. はじめに 諸君が卒業するまでには、講義レポート、実験レポート、プロジェクトでの発表用資料や成果報告 書、卒業論文などのいろいろな種類の論文・レポートを書くことが要求されるだろうし、同級生や教 官の前で自分の意見や研究・調査の成果を発表する機会も多いだろう。大学院に進学すれば研 究室会資料、修士論文、博士論文、学術雑誌への投稿論文など書き、学会発表をする必要も生じ よう。さらに社会に出れば、文書作成と口頭発表は極めて重要な表現手段となる。 ここでは論文・レポートを書いたり、口頭発表をしたりする際に知っておかなければならない一般 的注意事項について解説する。 2. 論文・レポート作成の作法 2.1 倫理規定 論文・レポートを書くときに、科学者・技術者として最低限守らなければならないことは、虚偽を書 かないことである。しかし意図しないで虚偽を書くことも起こるので、特につぎの点に注意する必要 がある。 (1) 事実を正確に書くこと。事実をまげて書くことは絶対に許されないのは明らかであるが、無意識 にこの誤りをおかしていることがある。例えば「AはBと反応してCを生成した」というとき、もしこ の反応を 100℃以下で行うとCができなかったり、得られたCに副産物が付随する場合には、た とえば「Aは 100℃以下でBと反応して、約 60%のCを生成した」と書くべきである。このように論 文・レポートでは、範囲を限定したり、種々の条件をつけて始めて正確になる場合が多いので 注意が必要である。 (2) 自分の成果と他人の成果を区別して書くこと。論文・レポートでは他人の成果を引用することが 多いが、注意しないと他人の成果を自分の成果として述べたように受け取られることがある。他 人の成果を引用するときには必ずその出所を明記しなければならない。文献の引用法につい ては後述する。 (3) 事実と意見を区別して書くこと。事実は客観的に認められるべきものであり、意見は著者の創 作である。論文・レポートでは意見をあたかも事実のように書いてしまう誤りがよく起こる。「事象 Aが生起すると必ず事象Bが生起するので、AはBの原因であると推定される」という文では前 半が事実であって後半は意見として書かれているが、これを「事象Aが起きると必ず事象Bが 起きるので、AはBの原因である」と書くと全文が事実を書いたことになり、後半の確認をしてい ないことを確認した事実として述べたことになる。

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  • 学内向け講義資料

    - 1 -

    論文・レポート作成と口頭発表の作法

    1. はじめに

    諸君が卒業するまでには、講義レポート、実験レポート、プロジェクトでの発表用資料や成果報告

    書、卒業論文などのいろいろな種類の論文・レポートを書くことが要求されるだろうし、同級生や教

    官の前で自分の意見や研究・調査の成果を発表する機会も多いだろう。大学院に進学すれば研

    究室会資料、修士論文、博士論文、学術雑誌への投稿論文など書き、学会発表をする必要も生じ

    よう。さらに社会に出れば、文書作成と口頭発表は極めて重要な表現手段となる。

    ここでは論文・レポートを書いたり、口頭発表をしたりする際に知っておかなければならない一般

    的注意事項について解説する。

    2. 論文・レポート作成の作法

    2.1 倫理規定

    論文・レポートを書くときに、科学者・技術者として最低限守らなければならないことは、虚偽を書

    かないことである。しかし意図しないで虚偽を書くことも起こるので、特につぎの点に注意する必要

    がある。

    (1) 事実を正確に書くこと。事実をまげて書くことは絶対に許されないのは明らかであるが、無意識

    にこの誤りをおかしていることがある。例えば「AはBと反応してCを生成した」というとき、もしこ

    の反応を 100℃以下で行うとCができなかったり、得られたCに副産物が付随する場合には、た

    とえば「Aは 100℃以下でBと反応して、約 60%のCを生成した」と書くべきである。このように論

    文・レポートでは、範囲を限定したり、種々の条件をつけて始めて正確になる場合が多いので

    注意が必要である。

    (2) 自分の成果と他人の成果を区別して書くこと。論文・レポートでは他人の成果を引用することが

    多いが、注意しないと他人の成果を自分の成果として述べたように受け取られることがある。他

    人の成果を引用するときには必ずその出所を明記しなければならない。文献の引用法につい

    ては後述する。

    (3) 事実と意見を区別して書くこと。事実は客観的に認められるべきものであり、意見は著者の創

    作である。論文・レポートでは意見をあたかも事実のように書いてしまう誤りがよく起こる。「事象

    Aが生起すると必ず事象Bが生起するので、AはBの原因であると推定される」という文では前

    半が事実であって後半は意見として書かれているが、これを「事象Aが起きると必ず事象Bが

    起きるので、AはBの原因である」と書くと全文が事実を書いたことになり、後半の確認をしてい

    ないことを確認した事実として述べたことになる。

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    2.2 基本的留意事項

    論文・レポートは目的や内容によってその書き方はいろいろであり、また状況によっても異なる。し

    かし、およそ決った形式で書かれるべきものであるから、良い文例を見習って書き、その形式に慣

    れることが大切である。

    良い文書を書くためには、まずつぎの基本事項に留意することが必要である。

    (1) 読み手は誰かを考えること。読み手の知識レベルや立場に配慮して書くことが重要である。

    (2) 順序立ててわかりやすくまとめること。わかりやすい論文・レポートは順序よく書かれている。読

    む人はまず論文・レポートの目的を認識し、ついで方法と結果を理解し、はじめて結論の意義

    を評価する。特に強調したい結論は論理的に矛盾なく説明することが必要である。

    (3) 読みやすい体裁を考えること。長い文章が続くと読みにくいので、箇条書きにしたり、式や図

    表を用いて簡潔に示すことが必要である。当然、誤字や脱字は厳禁である。

    (4) 文中で用いる用語には一貫性を持たせ、同じ意味で異なる用語を用いることはしない。また、

    重要な概念を表す用語、日常的な用法と異なる意味を有する専門用語、人によって異なる意

    味で用いられる可能性のある用語などは、初めて用いる際に定義してから用いるようにする。

    略号や略称も、初出の際に省略しない形と省略形の対応がわかるようにする。

    2.3 全体構成

    論文・レポートは、以下に説明するような部分で全体を構成することが標準的であり、これらの部

    分ごとに章や節を構成する。文書を書く目的に照らして最も主張したい部分や、詳しい記述をしな

    いと理解に支障をきたす部分は十分に、そうでない部分やポイントを目立たせるために反復する部

    分は短く簡潔に記述する。あらかじめ、文書全体の長さに対して各部分がどれだけの割合を占め

    るのが適当か考えてから執筆にとりかかるべきで、特に長さの制限がある場合には各部に費やす

    文字数やページ数などの目安を決めておくとよい。

    標題と著者名

    論文・レポートには文書全体の内容を簡潔に示す標題を必ずつけ、あわせて著者が特定でき

    るように著者の氏名、所属、学籍番号などを記す。

    要 旨

    文書全体の内容を、100 語以内とか 200 語以内に要約した要旨をつけることを要求されること

    がある。さらに、内容を端的に表すキーワードを5つ程度あげることが求められることもある。

    序 論

    文書を書くにいたった背景や動機などを説明するとともに、文書の目的を明示する。研究・調

    査の報告論文であれば、どのような問題意識からそのような研究・調査を行うことを思い立ったの

    か、過去に同様の問題についての研究・調査がどこまで進んでいて何が不十分なのかを説明し

    た後に、今回の研究・調査の具体的目的や特徴を述べる。

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    理論的説明

    文書の内容に関る学説、仮説、理論、モデルなどを解説する。読者が誰でも知っていそうな学

    説などは引用文献をあげ、要点だけを簡潔に述べればよいが、そうでない場合や独自の理論や

    モデルを開発した場合には、十分丁寧に説明する必要がある。

    方法論

    結果を得るために行った計算、実験、調査、分析などの方法を説明する。理論的説明の部分

    とともに、文書の読者が著者が行ったことを再現して同じ結果が得られる程度の詳しさで記述す

    ることが必要である。したがって、研究・調査を計画する上での仮定、計算で用いたパラメータの

    値、シミュレーションプログラムや計算環境、実験機器、測定器などの道具、実験・調査対象の

    試料や被験者、分析対象資料などが特定できるような事項を記述する。

    結果とその考察

    まず、計算、実験、調査、分析などの結果得られた事実を客観的に記述し、続いてその学術

    的・技術的解釈を述べる。

    結 論

    この文書を書くことによって最も主張したい事項を、簡潔にまとめて記述する。結論は序論に書

    いた目的と完全に対応していなければならない。最後に成果の評価や将来への展望などに触

    れて締めくくる。

    参考文献、謝辞、付録など

    参考文献、謝辞、また本文に含めるには詳細に過ぎる理論や方法論の説明、資料などがあれ

    ばそれを付録としたものを最後につけ加える。

    慣れると序論から書き下ろしてゆけるようになるが、当初はまず方法論と結果を書き、考察を練っ

    てまとめる。つぎに序論、理論的説明、結論、参考文献、付録、謝辞などの順で書き加えた後、全

    体を誤りなくわかりやすく、かつできるだけ簡潔になるように訂正を加えてゆくとよい。

    2.4 文体と体裁

    論文・レポートを読み慣れると自然に論文・レポートの文体が身に付くものであるが、当初は以下

    に示す一般の文章と異なる事項について、特に注意をすることが必要である。

    (1) 論文・レポートは「である」調の口語体で書く。論文・レポートはできるだけ平易な「である」調で

    書き、レポートのように教官に提出するものであっても「です・ます」調のていねいな表現は必

    要ではない。

    (2) 受身の文はなるべく避ける。日本語では主語を省略した文がよく書かれる。実験や計算の説

    明では、例えば「空間軸を中心差分で離散化し、時間軸を後退差分で離散化して得た連立

    方程式をガウス・ザイデル法を用いて解いた」というように主語を略す。

    (3) 現在形と過去形を使い分ける。論文・レポートでは普遍的な事実は現在形で書き、実験の結

    果など過去の一事実は過去形で書く。

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    (4) あいまいな表現を避ける。論文・レポートでは、余韻を残したり、読者の判断にまかせたりする

    情緒的な表現は避けるべきである。「Aは近い将来、シミュレーションによって非常に良い精

    度で予測できると考えられる」という文では、状況によりこのように書くこともあるが、一般的に

    は「近い将来」や「非常に良い」というあいまいな表現は用いないほうがよい。また、「考える」、

    「思う」などの語も「結論する」、「判断する」、「推定する」、「推測する」、「予測する」、「予想す

    る」、「想像する」、「仮定する」、などの狭い意味の語に置き換えることが望ましい。

    (5) ページ余白、1段組か2段組か、1ページの行数、1行の文字数、文字のフォントとサイズ、文

    書標題や著者名の書き方、章や節の標題の書き方など、書式が指示されている場合にはそ

    の指示に従う。

    (6) 文書の標題、章や節の標題、箇条書のラベルはフォントを変えるなど、読みやすくするための

    工夫をする。一般的に、本文には明朝体を、標題、ラベルなどにはゴシック体を用い、特に強

    調したい部分は下線を付すことが多い(日本語ではイタリック体はあまり使わない)。

    (7) 章、節、箇条書の番号のふり方は、文書全体で統一する。次のような形式がよく用いられる。

    章 1 2 3 ・・・

    節 1.1 1.2 1.3 ・・・

    小節 1.1.1 1.1.2 1.1.3 ・・・

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    箇条書(第1階層) (1) (2) (3) ・・・

    箇条書(第2階層) 1) 2) 3) ・・・

    箇条書(第3階層) ① ② ③ ・・・

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    (8) 式を書くときは主要な式に番号をふり、文中では式番号を用いて「式(5)」のように引用する。

    式中で用いた全ての変数記号の意味は、初出の際か記号表を用いて説明する。

    2.5 数量表現

    論文・レポートにおいて数量表現は極めて重要な要素である。数値は必ず誤差を伴うので、精

    度を考えて誤りなく書かなければならない。

    2.5.1 誤差評価と有効数字

    実験によって得られた測定値には、測定原理そのもの、測定器や実験装置の製作精度、実験

    条件の理想的状態への統制などに限界があるために必ず誤差が生ずる。またシミュレーションや

    理論計算によって得た結果にも、理論式やモデルが現実と完全に一致していないことや、計算に

    使用したモデルパラメータの持つ誤差、計算機の計算精度、繰返し計算における不十分な収束、

    連続体を離散化して扱うことの限界などの原因から必ず誤差が生ずる。

    数値的情報を扱う際に、真の値として尤もらしい値を最確値、その数値の信頼できるケタ数の範

    囲を有効数字といい、数値表現では有効数字以下の数字を無意味に書いてはいけない。測定の

  • 学内向け講義資料

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    場合、同じ条件の測定を多数繰り返してその算術平均を取ることによって最確値が得られる。計算

    の場合には、計算に用いる全てのモデルパラメータに最確値を用いることによって、最確値を得る

    ことができる。

    誤差が示されていない数値は、最後のケタに±0.5の誤差があるものと考える。例えば 27.3は有

    効数字が 3 ケタで±0.05 の誤差があり、27.30 では有効数字は 4 ケタ、誤差は±0.005 になる。正

    確な誤差評価を行うことは一般的に難しいが、何ケタ目ぐらいに誤差が含まれているのかを検討し、

    正しい有効数字で数値を記載することが最低限必要である。

    2.5.2 単 位

    任意の物理量は数値と単位から成り立っている。単位としては、現在ではSI単位を用いることが

    普通である。SI単位(Système International d'Unités)は、一つの物理量に対して一つの単位を定

    めることを原則とし、厳密に定義した基礎単位と、これらを係数なしに組み合わせて得られる誘導

    単位によって一貫性のある単位系を作ることを目的としたものである。SI単位のシステムは、SI単

    位[基本単位(7)、補助単位(2)、誘導単位(固有記号のある単位(18)と固有記号のない単位)]、

    およびSI接頭語からなっている(表 1参照)。

    SI単位を使用する上で、以下の事項に注意すること。

    (1) 単位記号

    • 単位記号の大文字と小文字を間違えない。

    • 誘導単位の積で、まぎらわしい時は中黒点を入れる(粘度 Pas → Pa・s)。

    • 誘導単位の商は分数形または負のベキ数によって積の形で示す(モル比熱 J/mol・K →

    J/(mol・K) または J・mol-1K-1)。

    (2) 接頭語

    • 接頭語は重ねて用いない(mµm → nm, Mkg → Gg)。

    • 誘導単位には接頭語を前に一つだけつける。

    • 接頭語と基本単位の記号は続けて書き、カッコは不要((µ)s → µs, (km)2 → km2)。

    2.6 図 表

    図(Figure)と表(Table)は本文を説明するためのものであるが、数量的情報、あるいは概念的説

    明をわかりやすく示す上で論文・レポートの重要な表現手段である。これらの書き方によって文書

    の評価もかわるので、特に慎重に書くことが大切である。参考のために、望ましい図表の例を図 1

    に示す。

    2.6.1 図表の描き方

    (1) 図表を作るために、得られた結果や文献にある参考値などを集めて基になるデータ表を作り、

    これらから論旨を説明するのに必要なデータを選んで図表を作る。

    (2) 論旨を説明するために図がよいか表がよいか、さらにどんな形式が最も適しているか検討する。

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    たとえば、数値表は詳細な数値を示すのによいが、グラフは数値間の比較ができるので関係

    がわかりやすい。

    (3) 図表に示すデータは、誤りがなくて論旨を説明するのに必要なものでなければならない。デー

    タの選別は重要で、同じ結論を示すデータが多数ある時は代表的なものに絞るとよい。

    (4) 図表はなるべく一つの内容を示すようにするとわかりやすい。一つの図表に多くの主張を盛り

    込むとわかりにくい。また、図表はその説明によって本文を読まなくてもわかるようにする。

    (5) 図表を描く時の線の太さ、文字フォント、文字の大きさ、色などは、文書中に実際に貼り込む縮

    尺において十分に判別できるように注意する。

    (6) 図表には各々通し番号をつけ、本文中で参照する場合には「図3」「表1」の形式で参照する。

    (7) 図表には内容を簡潔に示す標題(キャプション)をつける。図表番号とキャプションを、図の場

    合は図本体の下に、表の場合は表本体の上に記入する。

    2.6.2 グラフ

    グラフは数値の正確な値を示せないが、数値間の関係を示すのに都合が良い。グラフにはいろ

    いろな種類があるが、グラフは座標の取り方によって問題点をわかりやすく示すことができるので、

    何を目的としているか、そのためにどんなグラフを用いるべきかを考えることが大切である(図2参

    照)。

    (1) 座標軸と単位

    座標は一般に横軸に独立変数、縦軸に従属変数をとる。たとえば、10℃ごとに測定した物質の

    密度は、横軸に温度、縦軸に密度をとる。座標軸には目盛を無名数で示す。目盛線は座標軸の

    内側に入れ、外側に数字を書く。目盛が混みいって書きにくい時は一つおきに書いたり、10 ごとに

    書く。軸の標題に物理量の名称と単位を示すのを忘れないようにする。

    (2) データ点と線(図3参照)

    データ点に意味のある場合は各点を直線で結び、ばらつきのあるデータ点は確からしい線を引

    く。理論値を示すときは線のみを示し、データ点を書かない。データ点の記号は黒点・や×印は不

    明瞭で、○、●、◎、△、▲、▽、▼、□、■、◇、◆などが良い。またばらつきや誤差の範囲を示

    す時はエラーバーを用いる。データ点の変化を代表する線を引く場合、確からしい線を引くにはつ

    ぎの注意が必要である。

    • 理論的にどんな線になるかを考えて、局部的な凸凹のないなだらかな線を引く。同程度のば

    らつきのある点群に確からしい線を引くには、線の上と下に同数の点がくるようにする。

    • 計算機のプロッティングツールを用いる場合、最小二乗法を使って手軽にフィッティングカー

    ブを求めることができるが、フィッティングを忠実にしすぎると無意味な変動が現れるので、フ

    ィッティング関数の選択に注意する。

    • グラフ上にプロットされた点を線で結ぶ場合、その線は何らかの意味を持ったものとなる。例

    えば原点を通るはずのないものが原点と結んであったり、直線で結べるはずのないものを直

  • 学内向け講義資料

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    線で結んだりしたものは、理解が不十分だとみなされる。

    • 予想線から異常にはずれた点については誤りがないかを検討する。異常な原因によると考

    えられる場合はその点を考慮せずに線を引き、その点は抹消しない。

    2.7 参考文献の引用

    他人や自分の過去に公表された学説、理論、研究成果、意見などを引用した場合には、引用の

    対象となった文献を参考文献として明記し、後付けに参考文献のリストをつける。引用方法と参考

    文献の記載方法は専門分野によって若干異なるが、ここでは工学分野で最も一般的な方法を説

    明する。

    まず引用する順に文献に通し番号をつけ、本文中で文献を引用する場合には、引用個所の最後

    にこの文献番号を、多くの場合に括弧つきの上付き文字で記載することにより引用する。たとえば、

    「従来の研究により、人間の記憶は長期記憶と短期記憶の二成分から構成されることがわかってい

    る(4)」のようにする。同時に複数の文献を引用する場合には、(3-5)や(2,5,11)のように記載する。図表を

    引用した場合には、キャプションの最後に同様に文献番号を記載する。

    引用した参考文献のリストを作る場合に、文献の種類に応じて次のようなデータを記載する。

    [書 籍] 著者名、書籍名、出版社名 (出版年)

    [書籍の一部(章など)] 著者名、書籍名、出版社名、開始-終了ページ (出版年)

    [学術論文/雑誌の記事] 著者名、標題、雑誌名、巻(号)、開始‐終了ページ(発行年)

    [報告書] 著者名、標題、発行組織、報告書番号 (発行年)

    [会議録] 著者名、標題、会議名、開催地、開始‐終了ページ (発行年)

    [新聞記事] 新聞社名、発行月日 朝刊/夕刊 (発行年)

    [ホームページ] URL

    各1件ずつ例を示すとつぎのようになる。

    (1) 亀梨和也、治験実践マニュアル、行田書店 (1993).

    (2) 赤西仁、コンピュータによる催眠療法、朝香出版、24-38 (1986).

    (3) 田口淳之介、ニューラルネットによる番組視聴率の予測、映像文化、17(3)、212-217 (1999).

    (4) 田中聖、食品の大量消費による環境破壊の現状、食品経済研究所、FERR-98015 (1995).

    (5) 上田竜也、ポーカーゲームを用いた裁判シミュレーション、第1回ゲーム理論の法政治学への

    応用に関するシンポジウム、熱海、103-108 (2001).

    (6) 毎朝新聞、2月 30日 夕刊 (1999).

    (7) http://www.si.t.u-tokyo.ac.jp/sim/

    2.8 推 敲

    原稿は何度も読み返して訂正をする。つぎの事項にしたがって、ひとりよがりな箇所がないかどう

    か十分に検討する。第三者に読んでもらうことも良い方法である。

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    (1) 必要なことが抜けていないか。論旨の説明に飛躍したところがないか、自明のこととした箇所に

    説明を必要とする場合や、立証すべき根拠が不足していて、主張を後退させたり、補足説明を

    必要とするところがないかを検討する。

    (2) 不必要なところがないか。不必要な説明は論旨をかえってわかりにくくする。自明のことに冗長

    な説明をしたり、目的には関係のない事項まで書き過ぎていることがよくある。

    (3) より短くできないか。論文・レポートは短いほどわかりやすく、また歓迎される。同じ説明の繰り

    返しをまとめて一つにしたり、個々の事例から結論をまとめるかわりに先に結論を書いて個々

    の事例をあげるなど、工夫すると短くてわかりやすくなることも多い。

    (4) 積極的姿勢で訴える文章になっているか。得た成果を正当に評価してもらうために、積極的姿

    勢で強く訴える文章を書くべきである。

    わかりやすい文章を書くためには、文法的に正しく、明確に表現することが必要である。よく犯す

    文法的な誤りと、あいまいな表現について、いくつかの実例をつぎに示す。

    [例1] 主語と述語の不一致

    「この方法で評価した結果は十分正確であり、シミュレーションに用いた。」

    日本語文は主語を書かない場合があるので、文の途中で主語が変わったのに気付かないことが

    多い。上記の文では前半の主語が結果で、後半の略された主語は著者になる。主語の違いの二

    つの文として、「・・・結果は十分正確であるので、これをシミュレーションに用いた」とするとよい。

    [例2] 文頭語句との対応

    「ここで解決しなければならない問題は、低頻度の事象を正確に予測する必要がある。」

    少し長い文になると書き始めた文頭の語句に対応しないしめくくりを書くことがある。文頭で「・・・

    問題は」と始めたので「・・・いかに正確に予測するかということである」とすべきである。

    [例3] 接続詞の誤用

    「Aは出口流速に影響するが、ただし出口温度には影響しない。」

    「ただし」は前文に対する除外例を述べる接続詞であるが、出口温度が出口流速の除外例では

    ないので、「ただし」を「しかし」とすべきである。接続詞にはそれぞれ決まった役割があるので、そ

    れを考えて用法を誤らないことが大切である。

    [例4] 副詞の対応句

    「Aは自由度が大きいので、自由度の小さいBに必ずしも対応するとはいえない。」

    「必ずしも」は「・・・ない」という否定形をとる。上記の文では「必ずしも対応する」と読むと間違い

    になり、「必ずしも・・・いえない」と読む。それで「必ずしも」を繰り下げて「・・・Bに対応するとは必ず

    しもいえない」とするとわかりやすくなる。

    [例5] 助詞の誤用

    「この方程式を中心差分法で離散化を試みた。」

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    日本語文では助詞が文中の名詞の格を表す役を果している。その用法を誤ると正しい文になら

    ない。上の例は「中心差分法でこの方程式の離散化を試みた」とすればよい。

    [例6] 不明確な並列語句

    「モデルAとモデルBのデータ表現を組み合わせる。」

    上記の文では、モデルAのデータ表現とモデルBのデータ表現を組み合わせるのか、モデルA

    全体とモデルBのデータ表現を組み合わせるのかがわからない。「モデルAのデータ表現とモデル

    Bのデータ表現を・・・」とするか、「モデルAとモデルBのデータ表現とを・・・」または「モデルBのデ

    ータ表現とモデルAを・・・」とすべきである。対等に並列した語句を明らかにするためには、「・・・

    と・・・とを」として「と」を一字補うか、語順をかえるか、箇条書きにするとよい。

    [例7] 不明確な否定

    「AはBのように安定でない。」

    上記の文では、AもBも不安定なのか、またはBは安定であるがAは不安定なのかがわからない。

    「AはBと同様に不安定である」とか「AはBのように安定ではない」のように書くべきである。

    2.9 その他のレポート作成におけるポイント

    (1) 自分の頭で考えること。

    データの処理、分析についてはなるべく自分で工夫してみること。指導書やマニュアルに書いて

    ある通りにやってみても、うまくいくとは限らない。また、考察とは文字どおり自分の頭で考えたもの

    でなければならない。また、考察は感想ではない。シミュレーションの結果が理論値等と合っていな

    ければなぜ合っていないのか、一致したら本当に問題はなかったのか、さらに、指導書やマニュア

    ルで指示しているまとめ方以外の方法はないのか等を考えるのが考察である。したがって、研究や

    調査を共同でやったとしても考察は各自で考えるものであり、それぞれ異なる内容になって当然で

    ある。結果の整理、解析をグループで討議して進めることはおおいに結構なことであり、討議の結

    果、考察の内容が似てくるのは止むを得ないとしても、一字一句まで同じレポートではオリジナリテ

    ィの点から好ましくない。

    (2) レポートは厚ければいいというものではない。

    レポートの体裁については、自分で工夫して他人に読みやすくわかりやすものを書くことが大切

    である。例えば分析がいくつかの評価から成り立っているような場合、その評価項目ごとに方法、

    データ、結果、検討をまとめるなど工夫することが望ましい。

    (3) わかっていないことがなにかすら、わかっていないことが最もいけない。

    わからないことがあれば、どんどん教官に聞きにいくこと。レポートを書くことは教官とのコミュニケ

    ーションを持ついい機会である。ただし、なにがわかり、なにがわかっていないかを自分でちゃんと

    整理してから聞きにいくことが大事である。レポートにおいてもわからないことはその旨をはっきり書

    くこと。教官がそれについてコメントしてくれないときには、教官にさらに聞きに行くぐらいの積極性

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    - 10 -

    を持って欲しい。結果の検討は筋道を立てて行うこと。たとえ、誤った結論に達したとしても、なぜ

    そのような結論を出すに至ったのかの道筋が書いてあるものは評価できる。

    (4) 図表をきちんと書くこと。

    原データ(生のデータ)はそれなりに貴重なものであり、きちんと整理して載せるべきである。誤

    差の評価は最も大切なことの一つであり、グラフでも必要に応じて誤差表示をしなければならない。

    グラフも各自書くべきで、他人の書いたグラフをコピーするだけや、測定器などの出力チャートをそ

    のままレポートに綴じ込むというのも好ましくない。グラフは書けばいいというものではなく、ある結論

    に達するにはどのようなグラフが最も適切かを考え、選択して書くことが望ましい。

    (5) 提出期限を厳守すること。

    レポートには提出期限がある。立派なレポートも期限が過ぎれば価値の低いものになる。作業を

    始めるときから期限内にレポートを提出できるよう計画することが必要である。

    3. 口頭発表の作法

    口頭発表(プレゼン)は文書作成と並んで重要な自己表現手段であるが、最近では文書作成以

    上に口頭発表の成否で仕事の成果が評価される傾向がある。さらに、口頭発表では内容の良否

    以上に、聴衆に強い印象を与えたかどうか(いわゆる「ウケた」かどうか)によって成否が左右される

    ことが否めないので、上手い口頭発表のスキルはどんな仕事に就く上でも習得しておく必要があ

    る。

    3.1 倫理規定と基本的留意事項

    口頭発表を行う上での重要事項は文書作成の場合と変らない。詳細は1.1、1.2に説明したとお

    りであるが、次のような事項に注意すればよい。

    (1) 不注意も含めて、虚偽の発言をしない。

    (2) 聴衆の知識レベルや立場に配慮して話す。

    (3) 順序立ててわかりやすく話す工夫をする。

    (4) 提示資料(PowerPoint, Keynote, OHPなどのプレゼン資料)は、読みやすい体裁を考える。

    (5) 用語の用法、特に専門用語や略語の用法に注意する。

    3.2 全体構成と時間管理

    やはり何よりも、発表全体の設計をすることが重要である。標題と発表者の紹介、発表の目的、結

    論は欠くことができない。研究や調査の成果発表の場合、目的と結論の間に、研究・調査の背景・

    動機、理論的説明、方法論の説明、結果とその考察など、基本的には論文・レポートの構成に対

    応する内容を話す必要がある。話す順序は論文・レポートの構成に準じ、通常は結論を最後に持

    ってゆくが、インパクトをつけるためにいきなり最初に結論を言ってしまう方法もいい。

    まず、各部分で何を話したいかを考慮して話すべき内容の項目をあげて標題をつけ、その項目

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    数を基に各部を話すのに何分かかりそうか大体の目安をつける。口頭発表では制限時間がある場

    合が多いので、発表時間をオーバーしないように時間配分を決める。非常に大まかな目安として、

    日本語で 400 字程度の原稿を話すのに1分かかり、提示資料のスライドを1枚説明するのに平均1

    分程度かけるのが適当と考えればよい。

    3.3 提示資料(PowerPoint, Keynote, OHP)の作成

    口頭発表では、多くの場合ノート PC とプロジェクタを用いて、あるいは現在ではまれであるが

    OHP(Over Head Projector)を用いて、聴衆に資料を視覚的に提示しながら話すスタイルが主流で

    ある。聴衆への資料の視覚的提示は、口頭では伝えにくい情報の伝達や、話のポイントを聴衆に

    より印象づけるのにきわめて効果的である。したがって、口頭発表の準備を行う際には提示資料の

    作成に細心の注意を払うべきである。

    全体構成の設計で話す内容の項目が決ったら、各項目に対して必要なスライドの図案を考える。

    提示資料の作成はPowerPointやKeynoteなどのソフトで行うことが多いが、最初は手描きのポンチ

    画で必要なスライドを決めるのがよいであろう。図4に代表的なスライドのレイアウト例を示す。

    提示資料作成上の主な注意事項は以下のとおりである。

    (1) 1枚のスライドにあまり内容を詰め込みすぎない。3つから6つのポイントからなる1つの事柄に

    とどめるのが望ましい。文字だけのスライドでは、32 ポイントのフォントで8行程度が上限であり、

    また図表の場合には1枚あたりになるべく1つの図表とする。

    (2) 表紙(標題と著者名、所属)、目的、結論のスライドはそれだけで各1枚にまとめる。

    (3) 文字で説明するスライドはできるだけ項目だけを箇条書きにする。項目列挙の場合には句読

    点なしの体言止めとし、話す台詞をそのまま書かない。

    (4) スライドには1枚ごとに標題をつけ、上部に本体より大きなフォントで記載する。図表のスライド

    ではキャプションがスライドの標題となるが、図のキャプションも記載する。

    (5) 図表のスライドを作成する際の注意事項は、文書用の図表に対するものと同様である。ただし、

    スライドではより線を太く、フォントを大きくして、遠くからでも視認できるように配慮する。

    (6) テンプレートのデザインが凝りすぎていると、かえって伝えようとする内容のインパクトが弱くなる

    ので注意する。スライドの背景はシンプルかつセンスのあるものになるよう心がける。

    (7) 結論のスライドは3つから5つの項目からなるようにする。主要なポイントをもう一度述べることに

    よって、聴衆に強い印象を与える。

    ノート PC とプロジェクタを使う場合には、静的なスライドばかりでなく動画、3次元グラフィックス、

    シミュレーションのデモなどを聴衆にその場で見せることも可能であり、伝えたい内容によっては、

    見せてしまうことが口頭でのどんなに詳しい説明にも優ることが多い。したがって、ノート PC が使え

    て時間的余裕がある場合には、効果的な発表のためにこれらのマルチモーダルな手段を活用する

    ことを検討すべきである。

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    PowerPointや Keynoteなどのソフトを使いテンプレートに従って作れば、簡単に無難な提示資料

    が誰にでもできるようになっている。しかし、皆が似たようなテンプレートで発表しているので、個性

    の乏しいデザインに陥っていることも確かである。提示資料の作成に慣れてきたら、所属組織のロ

    ゴを入れてみる、配色を工夫してみる、テンプレートを自分で設計してみるなどして、デザインセン

    スの光る提示資料作成に挑戦してほしい。

    3.4 発表原稿の作成と練習

    発表に慣れてくれると、提示資料を見るかキーワードだけのメモを用意すれば自然に台詞が出て

    くるようになるが、初心者のうちはアドリブを避け、読みあげるだけでよいような発表原稿を用意し、

    十分に練習してから本番に臨むことを強く勧める。発表原稿の作成および口頭発表における注意

    事項はつぎのとおりである。

    (1) 文体は「です・ます」調の口語体を用いる。

    (2) 声は聴衆全員に届くような大きさで、文の末尾もはっきりと聞き取れるような話し方をする。

    (3) 複雑で長い文は避け、できるだけ短く簡潔にまとまった文になるように心がける。

    (4) 話題が導入から結論まで一貫して流れるように話し、あちらこちらに飛んだり、行ったり来たりす

    るような話し方をしない。

    (5) 文書であれば章の切れ目に相当するような話題が大きく転換する部分では、それを明示する

    ような台詞、たとえば「では、つぎは・・・について説明します」「最後に結論を述べます」といっ

    た台詞を入れる。

    (6) 図表に対しても何が描いてあるのか、どこに着目して欲しいのかを口頭できちんと説明する。

    たとえば、グラフの横軸と縦軸、表の行と列は何を意味しているのか、複数の線が1枚のグラフ

    に書いてある場合は何が違うのか、線図などで長方形、円、楕円、矢印などの図形は何を表し

    ているのかなどを説明する。図表は見ればわかるだろうといった発想は禁物である。

    (7) 式に対しては、変数記号の定義と式の定性的意味を説明する。式の変形、導出の過程そのも

    のに意味がある場合を除き、変形、導出を長々と説明する必要はない。

    たとえ読みあげるだけでよい原稿を用意したとしても、本番で原稿を棒読みするのは印象が悪い。

    本番までに原稿なしで台詞がすらすら出てくるようになるまで練習する。若い諸君であれば、暗記

    しようと意識しなくても数回も練習すれば台詞は頭に入るであろう。

    4. おわりに

    以上では、論文・レポートの作成と口頭発表の最も基本的なノウハウを説明したが、本当に優れ

    た文書作成や上手い口頭発表はこのようなノウハウを超えた、その人のセンスにかかっていると言

    ってよい。たとえば、抽象的で難解な概念を手描きのマンガひとつで簡単に読者に理解させたり、

    口頭発表の冒頭で軽快なジョークを飛ばして聴衆の注意を一気に集めたりするような「技」は、表

    面的なノウハウの練習を積んでも習得できるものではない。基本をマスターしたらそれに満足せず

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    に、あらゆる機会を利用してこういったセンスを磨いて欲しい。

    参考文献

    (1) 太田恵三、理工系卒業論文作成の手引き、アグネ (1993)

    (2) 泉 美治 ほか、化学のレポートと論文の書き方、化学同人 (1985)

    (3) 富田軍二、新版科学論文のまとめ方と書き方、朝倉書店 (1975)

    (4) 木下是雄、理科系の作文技術、中央公論社 (1981)

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    表1 SI単位と非SI単位

    (1) SI基本単位

    物理量 記号 名 称 定 義

    長さ m メートル (metre)

    クリプトン(86)の 2p10 と 5d5準位間の遷移による輻射光の真空中での波長の 1650763.73倍を 1m とする。

    質量 kg キログラム

    (kilogramme) 国際キログラム原器(白金・イリジウム製、パリ郊外セーブルの国際度量衡局保管)による。

    時間 s 秒

    (second) セシウム(133)の基底状態の超微細準位間の遷移による輻射光の振動周期の 9192631770倍を 1秒とする。

    電流 A アンペア

    (ampere) 断面積が無視できるくらいに小さい無限に長い 2本の直線導体を真空中に1mだけ隔てて並行に張り、定電流を通じたとき、その導体間に働く力が導体の長さ 1mにつき 2×10-7Nになる場合の電流を 1A とする。

    熱力学的温度 K ケルビン

    (kelvin) 水の三重点を表す熱力学的温度の 273.16分の 1を 1Kとする。

    物質の量 mol モル (mole)

    0.012kg の炭素(12)に含まれる原子と同数の単位粒子(原子、分子、イオン、電子その他の粒子またはこれらの特定の組み合わせ)を含む系の物質の量を 1mol とする。

    光度 cd カンデラ

    (candela) 101325N/m2 の圧力下での白金の凝固温度にある黒体の平らな表面 1/600000m2あたりの垂直方向の光度を 1cd とする。

    注 Kは oK と書かないこと

    (2) SI補助単位

    基本単位になっていないが検討中のもの

    物理量 記号 名 称 定 義

    平面角 rad ラジアン (radian)

    2 本の半径が区切る円弧の長さが半径に等しいとき、その半径間の角を 1rad とする。

    立体角 sr ステラジアン

    (steradian)

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    (3) SI誘導単位 基本単位の積または商によって導かれた単位を誘導単位という。

    固有記号のあるSI誘導単位

    物理量 記号 名 称 定 義

    力 N ニュートン(newton) kg m s-2 = J m-1

    圧力 P a パスカル(pascal) kg m-1 s-2 = N m-2 J m-3

    エネルギー J ジュール(joule) kg m2 s-2 = N m

    仕事率 W ワット(watt) kg m2 s-3 = J s-1

    電荷 C クーロン(coulomb) A s

    電位差 V ボルト(volt) kg m2 s-3 A-1 = W A-1 = A Ω

    コンダクタンス S ジーメンス(siemens) kg-1 m-2 s3 A2 = Ω-1

    電気容量 F ファラッド(farad) A2 s4 kg-1 m-2 = A s V-1

    磁束 Wb ウェーバー(weber) kg m2 s-2 A-1 = V s

    インダクタンス H ヘンリー(henry) kg m2 s-2 A-2 = V A-1 s = Wb A-1 磁束密度 (磁気誘導) T テスラー(tesla) kg s

    -2 A-1 = V s m-2 = Wb m-2

    電気抵抗 Ω オーム(ohm) kg m2 s-3 A-2 = V A-1

    温度 ℃ セルシウス度(Celsius) 1.273K−=

    Tt℃

    放射能 Bq ベクレル s-1

    吸収線量 Gy グレイ m2 s-2 = J kg-1

    光束 lm ルーメン(lumen) cd sr

    照度 lx ルックス(lux) m-2 cd sr

    周波数 Hz ヘルツ(hertz) s-1 注 SI単位の温度に℃が認められている。熱容量の J/Kのかわりに J/℃でもよいが、 エントロピーの J/Kは℃を用いない。

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    SI基本単位および固有記号のある誘導単位から導かれた主な誘導単位

    物理量 記号 名称 物理量 記号 名称

    波数 m-1 メートル分の 1 双極子モーメント C m = A s m クーロン・メートル

    面積 m2 平方メートル 磁気モーメント A m2 アンペア・平方メートル

    体積 m3 立方メートル 熱伝導率 W m-1 K-1

    = kg m s-3 K-1 ワット毎メートル・ケルビン

    速度 m s-1 メートル毎秒

    熱容量

    加速度 m s-2 メートル毎秒の2乗 エントロピー

    J K-1 = kg m2 s-2 K-1 ジュール毎ケルビン

    密度 (質量密度) kg m

    -3 キログラム毎立方メートル

    比熱容量

    動粘度 Pas = Ns m

    -2 = kg m-1 s-1 パスカル・秒 比エントロピー

    J kg-1 K-1 = m2 s-2 K-1

    ジュール毎キログラム・ケルビン

    拡散係数 運動粘性率

    m2 s-1 平方メートル毎秒

    モル熱量

    表面張力 Pa m = N m-1

    = kg s-2 パスカル・メートル モルエントロピー

    電場強度 V m-1 = N C-1

    = kg ms-3 A-1 ボルト毎メートル 気体定数

    J K-1 mol-1 = kg m2 s-2 K-1 mol-1 ジュール毎ケルビン・モル

    磁場強度 A m-1 アンペア毎メートル 濃度 mol m-3 モル毎立方メートル

    電気電動率 S m-1

    = kg-1 m-3 s3 A2 ジーメンス毎メートル 重量モル濃度 mol kg-1 モル毎キログラム

    (4) SI接頭語

    記号 大きさ 名 称 記号 大きさ 名 称

    d 10-1 デシ(deci) da 10 デカ(deca)

    c 10-2 センチ(centi) h 102 ヘクト(hecto)

    m 10-3 ミリ(milli) k 103 キロ(kilo)

    µ 10-6 マイクロ(micro) M 106 メガ(mega)

    n 10-9 ナノ(nano) G 109 ギガ(giga)

    p 10-12 ピコ(pico) T 1012 テラ(tera)

    f 10-15 フェムト(femto)

    a 10-18 アット(atto)

    注意 接頭語のついた単位は一つの単位とみなされるので、cm2は(0.01m)2で 0.01m2ではない。

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    (5) 非SI単位

    前記以外の従来の単位はつぎの五つの区分によってその使用がきめられている。

    (i) SI単位と併用してよい単位

    物理量 記号 名 称 SI単位への換算

    時間 min 分 1 min = 60 s

    h 時 1 h = 3600 s

    d 日 1 d = 86400 s

    平面角 ° 度 1 ° = (π / 180) rad

    ’ 分 1 ’ = (π / 180×60) rad

    ” 秒 1 ” = (π / 180×60×60) rad

    体積 l リットル 1 l = 10-3 m3

    質量 t トン 1 t = 1000 kg

    (ii) 特定分野でSI単位と併用してよい単位

    物理量 記号 名 称 SI単位への換算

    流体圧力 bar バール 1 bar = 105 Pa

    エネルギー eV 電子ボルト 1 eV ≒ 1.6022×10-19 J (真空中、1 Vの電位差におい

    て、電子の得る運動エネルギー)

    原子質量 u 原子質量単位 1 u = 1/NA ≒ 1.6606 ×10-27 kg

    (1原子の 12Cの質量の 1/12)

    長さ AU 天文単位 1 AU ≒ 149598 ×106 m

    pc パーセク 1 pc ≒ 30857 ×1012 m

    (iii) 暫定的に使用してよい単位

    物理量 記号 名 称 SI単位への換算

    長さ — 海里 1 海里 = 1852 m

    〃 Å オングストローム 1Å= 0.1 nm = 10-10 m

    面積 a アール 1 a = 100 m2

    圧力 bar バール 1 bar = 105 Pa

    〃 atm 標準大気圧 1 atm = 101325 Pa

    速度 — ノット 1 ノット = 0.51444 m s-1

    重力の加速度 Gal ガル 1 Gal = 1 cm s-2 = 0.01 m s-2

    放射能 Ci キュリー 1 Ci = 3.7×1010 s-1

    放射線強度 R レントゲン 1 R = 2.58×10-4 C kg-1

    吸収線量 rad ラド 1 rad = 10-2 J kg-1

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    (iv) SI単位と併用しないほうが望ましい単位

    物理量 記号 名 称 SI単位への換算

    力 dyn ダイン 1 dyn = 1 g cm s-2 = 10-5 N

    仕事、エネルギー erg エルグ 1 erg = 10-7 J

    粘度 P ポアズ 1 P = 1 g (cm s)-1 = 0.1 Pa s

    動粘度 St ストークス 1 St = 1 cm2 s-1 = 10-4 m2 s-1

    磁束密度 Gs,G ガウス 1 Gs = 10-4 T

    磁界強度 Oe エルステッド 1mA4

    1000Oe1 −=π

    磁束 Mx マックスウェル 1 Mx = 10-8 Wb

    輝度 sb スチルブ 1 sb = 1 cd cm-2 = 10-4 cd m-2

    照度 ph フォト 1 ph = 104 lx

    (v) 使用しないほうがよい単位

    物理量 記号 名 称 SI単位への換算

    長さ µ ミクロン 1µ = 1µm = 10-6

    〃 fermi フェルミ 1 fermi = 1 fm = 10-15 m

    質量 carat カラット 1 carat = 200 mg

    〃 γ ガンマ 1γ = 1µg = 10-9 kg

    力 kgf 重量キログラム 1 kgf = 9.80665 N

    圧力 Torr トル Pa760

    101325mmHg1Torr1 ==

    熱量 cal カロリー 1 cal = 4.1868 J(国際蒸気表)

    1 cal = 4.184 J(熱化学)

    磁束密度 γ ガンマ 1γ = 1 nT = 10-9 T

    化学によく用いられる µ、Torr、calなどはこの区分に入っている。

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    表4 機器中性子放射化分析による定量値

    (単位:質量 ppm) 試料 JSS 002-3 JSS 001-3 元素 定量値 1) 認証値 2) 定量値 1) 認証値 2) Al As Cl Co Cu Ga V W Zn

    5.4 ±1.4 1.42 ±0.07

  • 学内向け講義資料

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    X

    一般線図

    Y

    X

    多重線図 Y

    X

    複合線図

    Y Z W

    X

    片対数線図

    log

    Y

    X

    部分拡大線図

    Y

    X

    併置線図

    Y

    X

    三次元線図

    Y

    log X

    両対数線図

    log

    Y Y

    立体線図 Z

    Y X

    A B C

    W Z

    Y

    A

    B

    Z 10 20 30

    図2 いろいろなグラフ

    異常点

    異常点を考慮せずに確か

    らしい線を引く

    線の上下にほぼ同数の点

    がくるようにする

    直線か曲線かは理論的考

    察による

    図3 グラフのデータ点と線の引き方

  • 論文・レポート作成と口頭発表の作法

    システム創成学科

    シミュレーションコース

    本講義のねらい

     論文・レポート作成、口頭発表を行う際に

    知っておくべき一般的注意事項について解

    説し、論文・レポート作成、口頭発表の必要

    最小限のスキルを習得する。

    数量表現

    • 誤差評価と有効数字– 数値には必ず誤差が伴う– 有効数字 :信頼できるケタ数の範囲– 最確値±誤差

    • 単位– SI単位(7基本単位、2補助単位、誘導単位)– 単位記号と接頭語

    複合発電とコジェネ・プラントの構成

    燃料(100%)

    空気

    圧縮機 ガスタービン

    ボイラ

    ポンプ

    蒸気タービンコンデンサ

    発電機(32%)

    発電機(16%)

    (68%)

    排ガス(19%)

    温排水(33%)

    蒸気利用

    燃料器

    シミュレーションと実験の比較

    100 10001

    10

    20304050

    70

    99

    90

    80

    60

    反応時間 (sec)

    累積頻度

    (%)

             シミュレーション 実験

    シーケンスA

    シーケンスB

    シーケンスC

    機器中性子放射化分析による定量値

    1) : 誤差は試料量を変えて6回分析した際の繰返し精度(σ)2) : ( )内は非認証値

    3643定量下限以下の測定元素数

    (0.2)(0.1)―0.30.4―

    (